(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023175661
(43)【公開日】2023-12-12
(54)【発明の名称】繊維含有樹脂組成物(I)の製造方法、及び繊維含有樹脂組成物(I)におけるリサイクル材(X)の割合を決定する方法
(51)【国際特許分類】
C08L 101/00 20060101AFI20231205BHJP
B29B 17/04 20060101ALI20231205BHJP
C08K 7/14 20060101ALI20231205BHJP
【FI】
C08L101/00
B29B17/04 ZAB
C08K7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087176
(22)【出願日】2023-05-26
(31)【優先権主張番号】P 2022087723
(32)【優先日】2022-05-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】板倉 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】高坂 繁行
【テーマコード(参考)】
4F401
4J002
【Fターム(参考)】
4F401AA28
4F401AD08
4F401BA13
4F401CA14
4F401DC04
4F401FA11Z
4F401FA20X
4F401FA20Y
4F401FA20Z
4J002AA011
4J002BB031
4J002BB121
4J002BC031
4J002CB001
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4J002CH071
4J002CH091
4J002CL011
4J002CL031
4J002CN011
4J002CN031
4J002DL006
4J002FA046
4J002FD016
(57)【要約】
【課題】リサイクル材の配合割合を高くしても、バージン材と同等の機械強度を有する成形品を製造できる、繊維含有樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】リサイクル材(X)と、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)とを含む繊維含有樹脂組成物(I)を製造する方法であって、リサイクル材(X)は、熱可塑性樹脂(A1)及びガラス繊維(B1)を含む樹脂組成物(C)の成形品(L)の粉砕物を含み、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)は、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)を含み、熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)は、同じ種類の熱可塑性樹脂であり、前記製造方法は、特定の工程(i)~(vi)により算出した割合で、リサイクル材(X)と樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)とを混合して、繊維含有樹脂組成物(I)を得ることを含む、繊維含有樹脂組成物(I)の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維含有樹脂組成物(I)を製造する方法であって、
リサイクル材(X)に、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)を配合して混合物(Z)を得ること、及び
混合物(Z)を含む繊維含有樹脂組成物(I)を得ることを含み、
リサイクル材(X)は、熱可塑性樹脂(A1)及びガラス繊維(B1)を含む樹脂組成物(C)の成形品(L)の粉砕物を含み、
樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)は、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)を含み、
熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)は、同じ種類の熱可塑性樹脂であり、
混合物(Z)を得ることが、以下の工程(i)~(iv):
工程(i):リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)を、ISO 527に準拠した引張試験より求めること、
工程(ii)各引張強さの値を以下の式(1)に代入して、V1を算出すること、
V1=(Ty-Ts)/(Ty-Tx) ・・・(1)
(式(1)において、Txはリサイクル材(X)の引張強さ(MPa)であり、Tyは樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(MPa)であり、Tsは最終的に得られる繊維含有樹脂組成物(I)の引張強さの目標値(MPa)であり、ただし、(Ty>Ts>Tx)である)、
工程(iii):式(1)におけるV1が0.2以上であるときに、V1を以下の式(2)に代入して、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を求めること、
x1=α1×V1 ・・・(2)
(式(2)において、x1は混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(質量%)であり、α1はx1を算出するための係数であって、80~145の整数であり、ただし、x1は小数点第一位を四捨五入した整数であり、かつx1の上限は90を超えない)、
工程(iv):割合(x1)を、以下の式(3)に代入して、混合物(Z)中の樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の割合(y1)を求めること、
y1=100-x1 ・・・(3)
(式(3)において、y1は混合物(Z)中の樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の割合(質量%)である)、
より算出した割合で、リサイクル材(X)と樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)とを混合することを含む、繊維含有樹脂組成物(I)の製造方法。
【請求項2】
リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の重量平均繊維長が0.1~1.5mmであり、
樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の平均長さが3~30mmである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
リサイクル材(X)が、成形品(L)を粉砕したのちリペレット化したものを含む、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
混合物(Z)の総質量に対する、リサイクル材(X)の含有量が40~90質量%であり、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の含有量が10~60質量%である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項5】
繊維含有樹脂組成物(I)の総質量に対する、ガラス繊維(B1)及び(B2)の合計量が10~50質量%である、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項6】
樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)が、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)、又は、
前記(Y1)及び熱可塑性樹脂(A3)を含む組成物(Y2)からなる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項7】
熱可塑性樹脂(A1)、(A2)及び(A3)が同じ種類の熱可塑性樹脂である、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
熱可塑性樹脂(A1)、(A2)及び(A3)が、ポリオレフィン樹脂及びポリアミド樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む、請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
熱可塑性樹脂(A2)、及び(A3)のうち少なくとも1つが、リサイクル樹脂を含む、請求項6に記載の製造方法。
【請求項10】
リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の割合(GF1)と、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)中のガラス繊維(B2)の割合(GF2)が、下記式(4)を満たす、請求項1または2に記載の製造方法。
-40≦(GF1-GF2)≦20 ・・・(4)
(式(4)中、GF1はリサイクル材(X)の総質量に対するガラス繊維(B1)の割合(質量%)を表し、GF2は樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の総質量に対するガラス繊維(B2)の割合(質量%)を表す。)
【請求項11】
リサイクル材(X)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の混合物(Z)を含む、繊維含有樹脂組成物(I)を製造するために、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を決定する方法であって、
以下の工程(i)~(iii):
工程(i):リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)を、ISO 527に準拠した引張試験より求めること、
工程(ii)各引張強さの値を以下の式(1)に代入して、V1を算出すること、
V1=(Ty-Ts)/(Ty-Tx) ・・・(1)
(式(1)において、Txはリサイクル材(X)の引張強さ(MPa)であり、Tyは樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(MPa)であり、Tsは最終的に得られる繊維含有樹脂組成物(I)の引張強さの目標値(MPa)であり、ただし、(Ty>Ts>Tx)である)、
工程(iii):式(1)におけるV1が0.2以上であるときに、V1を以下の式(2)に代入して、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を決定すること、
x1=α1×V1 ・・・(2)
(式(2)において、x1は混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(質量%)であり、α1はx1を算出するための係数であって、80~145の整数であり、ただし、x1は小数点第一位を四捨五入した整数であり、かつx1の上限は90を超えない)、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、繊維含有樹脂組成物(I)の製造方法、及び繊維含有樹脂組成物(I)におけるリサイクル材(X)の割合を決定する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、プラスチックスゴミの処理方法としては、埋め立て及び焼却(サーマルリサイクル)が主流であった。しかし、近年の環境意識の高まりにより、プラスチックゴミ、例えば、熱可塑性樹脂の成形品を回収して再利用することが望まれている。
【0003】
熱可塑性樹脂の成形品の再利用法としては、回収された成形品を粉砕してクラッシュ片(リサイクル樹脂)としたのち、再度成形加工して成形品を得る方法や、バージン材に一定量のリサイクル樹脂を添加して、新たな成形品を得る方法等が知られている。例えば、特許文献1~2には、リサイクル樹脂を一定量配合して成形した、自動車車体前部構造体や自動車用外装構造体が提案されている。
【0004】
ところで、熱可塑性樹脂にガラス繊維を配合した、ガラス繊維強化樹脂組成物の成形品も様々な産業分野で応用されている。これらガラス繊維強化樹脂組成物の成形品を廃棄する場合、無機繊維であるガラス繊維が燃えにくいことから焼却処理は難しく、一般に、埋め立て処理等が行われている。廃棄物削減や二酸化炭素排出量削減の観点からも、使用後のガラス繊維強化樹脂組成物の成形品を有効に再利用することが望まれている。近年、地球温暖化が地球環境に深刻な影響を与えていることが明らかになってきており、地球温暖化対策のため、特に二酸化炭素を中心とした温室効果ガス排出量の削減が喫緊の課題となってきている。前述の成形品をリサイクル材として使用することは、二酸化炭素排出量削減のための有効な手段の一つとして注目されている。新たに樹脂を製造(重合)するのではなく、リサイクル材を使用することで、重合時に排出される二酸化炭素量を削減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005-324733号広報
【特許文献2】特開2006-082275号広報
【特許文献3】特開平11-166054号広報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、ガラス繊維強化樹脂組成物の成形品を粉砕してクラッシュ片(リサイクル材)としたのち、再度成形加工して得られた、リサイクル材100%の成形品は、バージン材の成形品よりも機械強度が大幅に低下するという問題がある。そこでバージン材にリサイクル材を添加して再成形することも検討されているが(例えば、特許文献3等)、成形品の機械強度の低下を抑える観点から、リサイクル材の配合割合を低く抑える必要がある。この場合、リサイクル材の再利用率を高くできず、廃棄物削減や二酸化炭素排出量削減効果も小さい。そのため、リサイクル材の配合割合が高くとも、バージン材と同程度の機械強度を達成できる、繊維含有樹脂組成物の製造方法が求められている。
【0007】
また、バージン材にリサイクル材を配合して再利用する場合、リサイクル材の割合によって成形品の機械強度が変化することから、リサイクル材の割合を変更した樹脂組成物のサンプルを事前に準備し、それぞれの樹脂組成物から得られた成形品の機械強度を測定したうえで、所望の機械強度を達成できる樹脂組成物を選定する方法が一般的に行われる。この方法でリサイクル材の割合を決定する場合、リサイクル材の種類や、リサイクル材と組み合わせるバージン材の種類が変更するたびに、複数のサンプルを準備し、都度成形品の機械強度を測定する必要があるため、非常に煩雑である。そのため、所望の機械強度を達成できる樹脂組成物を調製するために、より簡易な方法で樹脂組成物中のリサイクル材の割合を決定できる方法も求められている。
【0008】
そこで本発明は、リサイクル材の配合割合を高くしても、バージン材と同等の機械強度を有する成形品を製造できる、繊維含有樹脂組成物の製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、所望の機械強度を有する成形品を製造可能な繊維含有樹脂組成物を調製するために、前記組成物中のリサイクル材の割合を、より簡易なステップによって決定する方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは鋭意検討した結果、リサイクル材に、樹脂含浸ガラス長繊維束を配合して、繊維含有樹脂組成物を製造すること、またリサイクル材、樹脂含浸ガラス長繊維束、及び最終的に得られる繊維含有樹脂組成物の機械強度(引張強さ)の目標値に基づき、特定の数式からリサイクル材の配合割合を決定することにより、リサイクル材の配合割合が高い組成物でありながら、バージン材と同等の機械強度を達成できる、繊維含有樹脂組成物を製造できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は以下の態様を有する。
[1]繊維含有樹脂組成物(I)を製造する方法であって、
リサイクル材(X)に、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)を配合して混合物(Z)を得ること、及び
混合物(Z)を含む繊維含有樹脂組成物(I)を得ることを含み、
リサイクル材(X)は、熱可塑性樹脂(A1)及びガラス繊維(B1)を含む樹脂組成物(C)の成形品(L)の粉砕物を含み、
樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)は、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)を含み、
熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)は、同じ種類の熱可塑性樹脂であり、
混合物(Z)を得ることが、以下の工程(i)~(iv):
工程(i):リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)を、ISO 527に準拠した引張試験より求めること、
工程(ii)各引張強さの値を以下の式(1)に代入して、V1を算出すること、
V1=(Ty-Ts)/(Ty-Tx) ・・・(1)
(式(1)において、Txはリサイクル材(X)の引張強さ(MPa)であり、Tyは樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(MPa)であり、Tsは最終的に得られる繊維含有樹脂組成物(I)の引張強さの目標値(MPa)であり、ただし、(Ty>Ts>Tx)である)、
工程(iii):式(1)におけるV1が0.2以上であるときに、V1を以下の式(2)に代入して、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を求めること、
x1=α1×V1 ・・・(2)
(式(2)において、x1は混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(質量%)であり、α1はx1を算出するための係数であって、80~145の整数であり、ただし、x1は小数点第一位を四捨五入した整数であり、かつx1の上限は90を超えない)、
工程(iv):割合(x1)を、以下の式(3)に代入して、混合物(Z)中の樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の割合(y1)を求めること、
y1=100-x1 ・・・(3)
(式(3)において、y1は混合物(Z)中の樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の割合(質量%)である)、
より算出した割合で、リサイクル材(X)と樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)とを混合することを含む、繊維含有樹脂組成物(I)の製造方法。
[2]リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の重量平均繊維長が0.1~1.5mmであり、
樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の平均長さが3~30mmである、[1]に記載の製造方法。
[3]リサイクル材(X)が、成形品(L)を粉砕したのちリペレット化したものを含む、[1]または[2]に記載の製造方法。
[4]混合物(Z)の総質量に対する、リサイクル材(X)の含有量が40~90質量%であり、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の含有量が10~60質量%である、[1]から[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5]繊維含有樹脂組成物(I)の総質量に対する、ガラス繊維(B1)及び(B2)の合計量が10~50質量%である、[1]から[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6]樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)が、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)、又は、
前記(Y1)及び熱可塑性樹脂(A3)を含む組成物(Y2)からなる、[1]から[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7]熱可塑性樹脂(A1)、(A2)、及び(A3)が同じ種類の熱可塑性樹脂である、[6]に記載の製造方法。
[8]熱可塑性樹脂(A1)、(A2)及び(A3)が、ポリオレフィン樹脂及びポリアミド樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含む、[7]に記載の製造方法。
[9]熱可塑性樹脂(A2)、及び(A3)のうち少なくとも1つが、リサイクル樹脂を含む、[6]に記載の製造方法。
[10]リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の割合(GF1)と、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)中のガラス繊維(B2)の割合(GF2)が、下記式(4)を満たす、[1]または[2]に記載の製造方法。
-40≦(GF1-GF2)≦20 ・・・(4)
(式(4)中、GF1はリサイクル材(X)の総質量に対するガラス繊維(B1)の割合(質量%)を表し、GF2は樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の総質量に対するガラス繊維(B2)の割合(質量%)を表す。)
[11]リサイクル材(X)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の混合物(Z)を含む、繊維含有樹脂組成物(I)を製造するために、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を決定する方法であって、
以下の工程(i)~(iii):
工程(i):リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)を、ISO 527に準拠した引張試験より求めること、
工程(ii)各引張強さの値を以下の式(1)に代入して、V1を算出すること、
V1=(Ty-Ts)/(Ty-Tx) ・・・(1)
(式(1)において、Txはリサイクル材(X)の引張強さ(MPa)であり、Tyは樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(MPa)であり、Tsは最終的に得られる繊維含有樹脂組成物(I)の引張強さの目標値(MPa)であり、ただし、(Ty>Ts>Tx)である)、
工程(iii):式(1)におけるV1が0.2以上であるときに、V1を以下の式(2)に代入して、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を決定すること、
x1=α1×V1 ・・・(2)
(式(2)において、x1は混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(質量%)であり、α1はx1を算出するための係数であって、80~145の整数であり、ただし、x1は小数点第一位を四捨五入した整数であり、かつx1の上限は90を超えない)、
を含む、方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、リサイクル材の配合割合を高くしても、バージン材と同等の機械強度を有する成形品を製造できる、繊維含有樹脂組成物の製造方法を提供できる。また本発明は、所望の機械強度を有する成形品を製造可能な繊維含有樹脂組成物を調製するために、前記組成物中のリサイクル材の割合を、より簡易なステップによって決定する方法を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】引張強さ(Tx)、(Ty)及び(Ts)と、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)との関係を表すグラフの一例である。
【
図2】引張強さ(Tx)、(Ty)及び(Ts)と、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)との関係を表すグラフのその他の例である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。一実施形態について記載した特定の説明が他の実施形態についても当てはまる場合には、他の実施形態においてはその説明を省略している場合がある。本明細書において数値範囲を示す「O~P」との表現は、「O以上P以下」であることを意味している。また、本明細書において、熱可塑性樹脂(A1)~(A3)は、ガラス繊維等の無機繊維を含まない、非強化の樹脂を指す。
【0013】
[繊維含有樹脂組成物(I)の製造方法]
本発明の第一の実施形態は、繊維含有樹脂組成物(I)を製造する方法であって、リサイクル材(X)に、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)を配合して混合物(Z)を得ること、及び混合物(Z)を含む繊維含有樹脂組成物(I)を得ることを含み、リサイクル材(X)は、熱可塑性樹脂(A1)及びガラス繊維(B1)を含む樹脂組成物(C)の成形品(L)の粉砕物を含み、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)は、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)を含み、熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)は、同じ種類の熱可塑性樹脂であり、混合物(Z)を得ることが、以下の工程(i)~(iv):
工程(i):リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)を、ISO 527に準拠した引張試験より求めること、
工程(ii)各引張強さの値を以下の式(1)に代入して、V1を算出すること、
V1=(Ty-Ts)/(Ty-Tx) ・・・(1)
(式(1)において、Txはリサイクル材(X)の引張強さ(MPa)であり、Tyは樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(MPa)であり、Tsは最終的に得られる繊維含有樹脂組成物(I)の引張強さの目標値(MPa)であり、ただし、(Ty>Ts>Tx)である)、
工程(iii):式(1)におけるV1が0.2以上であるときに、V1を以下の式(2)に代入して、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を求めること、
x1=α1×V1 ・・・(2)
(式(2)において、x1は混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(質量%)であり、α1はx1を算出するための係数であって、80~145の整数であり、ただし、x1は小数点第一位を四捨五入した整数であり、かつx1の上限は90を超えない)、
工程(iv):割合(x1)を、以下の式(3)に代入して、混合物(Z)中の樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の割合(y1)を求めること、
y1=100-x1 ・・・(3)
(式(3)において、y1は混合物(Z)中の樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の割合(質量%)である)、
より算出した割合で、リサイクル材(X)と樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)とを混合することを含む、繊維含有樹脂組成物(I)の製造方法に関する。
【0014】
第一の実施形態にかかる製造方法によれば、リサイクル材の配合割合を高くしても、バージン材と同等の機械強度を有する成形品を製造できる、繊維含有樹脂組成物の製造方法を提供することができる。なお、「バージン材」とは、リサイクル材やリサイクル樹脂を含まない、繊維含有樹脂組成物のことを指す。本明細書において、「バージン材と同等の機械強度を有する」とは、バージン材100%の機械強度に対して、85%以上の機械強度を有することを意味する。本実施形態に係る製造方法は、例えば、バージン材100%の引張強さ(ISO 527に準拠した引張試験により測定した値)が80MPaである場合、前記引張強さの85%以上、すなわち、68MPa以上を達成できる繊維含有樹脂組成物を得る方法を提供するものである。
【0015】
第一の実施形態に係る繊維含有樹脂組成物(I)の製造方法は、リサイクル材(X)に、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)を配合して混合物(Z)を得ること、及び混合物(Z)を含む繊維含有樹脂組成物(I)(以下、「組成物(I)」と記載することもある)を得ることを含む。混合物(Z)は、リサイクル材(X)と樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)とを混合して得られるものである。以下、混合物(Z)を得るための、各工程について詳細に説明する。
【0016】
<工程(i)>
工程(i)は、リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)、及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)を、ISO 527に準拠した引張試験より求めることである。
リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)、及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)(以下、「長繊維束(Y)」と記載することもある)の引張強さ(Ty)は、ISO 527に準拠した引張試験に基づき、以下の条件で測定することができる。なお、第一の実施形態に係る製造方法において、長繊維束(Y)は、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)を含むが、必要に応じて、前記(Y1)及び熱可塑性樹脂(A3)を含む組成物(Y2)を用いてもよい。よって、長繊維束(Y)が前記(Y1)のみで構成されている場合、工程(i)における引張強さ(Ty)は、前記(Y1)の値を指す。一方、長繊維束(Y)として組成物(Y2)を採用する場合、工程(i)における引張強さ(Ty)は、組成物(Y2)の引張強さを指す。なお、最終的に得られる組成物(I)の引張強さも(Ty)及び(Tx)と同じ方法で測定することができる。また、熱可塑性樹脂(A1)と(A2)は、同じ種類の熱可塑性樹脂である。
<引張強さ(Tx)及び(Ty)の測定方法>
リサイクル材(X)又は樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)を射出成形して、ISOテストピース(ダンベル状タイプ1Aテストピース、全長:170mm、平行部長さ:80mm、厚み:4mm)を作成する。前記ISOテストピースを用いて、ISO 527に準拠し、23℃、湿度50%、引張速度5mm/min、チャック間距離115mmの条件で、引張試験機(例えば、(株)島津製作所製、製品名「オートグラフAG-X plus」)を用いて、引張強さ(Tx)(MPa)、又は(Ty)(MPa)を求める。
【0017】
リサイクル材(X)は後述の通り、種々の成形品(L)の粉砕物を含んでいる。成形品(L)は、熱可塑性樹脂(A1)とガラス繊維(B1)を含む樹脂組成物(C)を含むが、リサイクル材とする際にガラス繊維(B1)が粉砕されて、元の成形品(L)から機械強度が大幅に低下している場合が多い。工程(i)では、リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)を測定して正確な機械強度を特定する。また、リサイクル材(X)と組み合わせる長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)も算出する。工程(i)により算出された引張強さ(Tx)及び(Ty)を、以下の工程(ii)で数式(1)に代入することで、リサイクル材(X)の配合率を決定する指標である「V1」を求めることができる。
【0018】
<工程(ii)>
工程(ii)は、各引張強さの値を以下の式(1)に代入して、V1を算出することである。
V1=(Ty-Ts)/(Ty-Tx) ・・・(1)
(式(1)において、Txはリサイクル材(X)の引張強さ(MPa)であり、Tyは樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(MPa)であり、Tsは最終的に得られる繊維含有樹脂組成物(I)の引張強さの目標値(MPa)であり、ただし、(Ty>Ts>Tx)である。)
【0019】
工程(ii)は、工程(i)で測定した引張強さ(Tx)及び(Ty)、並びに最終的に得られる組成物(I)の引張強さの目標値(Ts)を数式(1)に代入して、V1を求めることである。引張強さ(Ts)は、バージン材100%の機械強度(引張強さ)の80~100%の範囲で設定できる。ただし、Ty>Ts>Txとなるように設定する必要がある。なお、引張強さの目標値(Ts)は、所望の機械強度を有する組成物(I)を得るという観点からは、任意に設定可能な値である。そのため、所望の組成物(I)を得るための引張強さの目標値(Ts)が、Ty>Ts>Txを満たさない場合、Ty>Ts>Txを満たすリサイクル材(X)及び長繊維束(Y)を新たに選定したうえで、工程(i)から再度やり直すことが望ましい。
【0020】
一実施形態において、リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)は、25~120MPaであってもよく、30~100MPaであってもよい。(Tx)が25~120MPaであれば、V1が0.2以上となりやすい。また、目標物性(Ts)を有する組成物(I)を得るという効果を達成しやすい。このような(Tx)を有するリサイクル材(X)は、ガラス繊維(B1)の破砕が少ない場合に得られやすい。なお、リサイクル材(X)の詳細については後述する。
【0021】
一実施形態において、長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)は、70~150MPaであってもよく、80~150MPaであってもよい。引張強さ(Ty)が70~150MPaであれば、V1が0.2以上となりやすい。また、目標物性(Ts)を有する組成物(I)を得るという効果を達成しやすい。このような引張強さ(Ty)を有する長繊維束(Y)は、繊維束の平均長さが3~30mmの時に得られやすい。長繊維束(Y)の詳細についても後述する。
【0022】
一実施形態において、目標物性を達成しやすいという観点からは、引張強さ(Ts)は50~120MPaに設定されてもよく、60~100MPaに設定されてもよい。
【0023】
<工程(iii)>
工程(iii)は、式(1)におけるV1が0.2以上であるときに、V1を以下の式(2)に代入して、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を求めることである。
x1=α1×V1 ・・・(2)
(式(2)において、x1は混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(質量%)であり、α1はx1を算出するための係数であって、80~145の整数であり、ただし、x1は小数点第一位を四捨五入した整数であり、かつx1の上限は90を超えない。)
【0024】
工程(ii)で求めたV1は、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)の指標となる値である。一実施形態において、V1が0.2以上であれば、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を20質量%以上に設定できる。なお、式(1)におけるV1が0.2未満の場合は、V1が0.2以上となるリサイクル材(X)及び/又は長繊維束(Y)を選択しなおす、あるいは組成物(I)の目標値(Ts)を設定しなおすことが望ましい。
【0025】
一実施形態において、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)をより高く設定しうる観点から、V1は0.3~0.9が好ましく、0.4~0.9がより好ましく、0.5~0.9がさらに好ましい。
【0026】
前述の通り、工程(iii)は、引張強さ(Tx)、(Ty)及び(Ts)に基づいて、式(1)から算出されたV1より、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合を決定する工程である。好ましい実施形態においては、式(1)から算出されたV1の値を、そのままリサイクル材(X)の割合(x1)(すなわち、V1×100(質量%))としてもよい。なお、式(2)では、式(1)から算出されたV1に、α1(80~145の整数)を掛け、小数点第一位を四捨五入した整数の範囲であり、かつ90を超えない範囲を、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)とすることができる。例えば、V1が0.5の場合、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)は、45~73質量%の範囲で調整できる。一実施形態において、α1は、90~135であってもよく、95~130であってもよく、100~130であってもよい。
【0027】
なお、工程(iii)において、リサイクル材(X)の割合(x1)を、V1の80~145%の範囲とする理由は以下のとおりである。
第一の実施形態に係る製造方法は、リサイクル材(X)及び長繊維束(Y)の引張強さ(Tx)、(Ty)と、最終的に得られる繊維含有樹脂組成物(I)の引張強さの目標値(Ts)に基づいて、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の配合割合を決定することを含む製造方法である。本願発明者らは、リサイクル材(X)の配合割合と、得られる成形品の機械強度(特に引張強さ)との関係を精査し、リサイクル材(X)と組み合わせる樹脂材料として、樹脂含浸ガラス長繊維束を選択することで、リサイクル材(X)の配合割合を高くしても、得られる成形品の機械強度が低下しにくいことを見出した。さらに、本願発明者らは鋭意検討した結果、リサイクル材(X)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の機械強度、特に、引張強さに着目し、横軸をリサイクル材(X)の割合(x1)として、割合(x1)が0質量%の時の引張強さを(Ty)(長繊維束(Y)100%の引張強さ)、割合(x1)が100質量%の時の引張強さを(Tx)(リサイクル材(X)100%の引張強さ)として、それぞれの縦軸にプロットした場合、(Tx)と(Ty)を結んだ直線と、リサイクル材(X)と長繊維束(Y)の混合物の引張強さとの間に相関があることを見出した。すなわち、
図1のグラフに示すように、工程(i)で測定した(Tx)が50MPaであり、(Ty)が100MPaである場合、(Tx)と(Ty)を直線で結び、リサイクル材(X)の割合(x1)(横軸)が所望の値であるとき、前記直線と交差する値が混合物(Z)の引張強さ(MPa)と近似しやすいことを見出した。この特性を利用し、例えば、組成物(I)の引張強さの目標値(Ts)を80MPaとした場合(
図1の点線)、(Ts)と前記直線の交わる位置の横軸の値を、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)として、リサイクル材(X)及び長繊維束(Y)を混合して混合物(Z)を得ることにより、引張強さの目標値(Ts)の85%以上の値を達成できる組成物(I)が得られやすくなる。
【0028】
また本願発明者らは、リサイクル材(X)と長繊維束(Y)の種類によっては、これらの引張強さの関係が直線的ではなく、
図2のグラフに示すように、緩やかな上に凸の曲線を示す場合もあることを見出した。本願発明者らは、
図1~2の観点から、工程(i)の式(1)から算出されたV1の近辺、すなわち、80~145%の範囲でリサイクル材(X)の割合(x1)を調整することで、より引張強さの目標値(Ts)を達成しやすい組成物(I)が得られることを見出した。第一の実施形態に係る製造方法によれば、リサイクル材の配合割合を高くしても、所望の機械強度を有する組成物(I)を製造することができる。
【0029】
<工程(iv)>
工程(iv)は、割合(x1)を、以下の式(3)に代入して、混合物(Z)中の樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の割合(y1)を求めることである。
y1=100-x1 ・・・(3)
(式(3)において、y1は混合物(Z)中の樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の割合(質量%)である。)
【0030】
なお、第一の実施形態における工程(i)~(iv)は、混合物(Z)中のリサイクル材(X)と長繊維束(Y)の合計量を100質量%とした際に、リサイクル材(X)の割合(x1)と、長繊維束(Y)の割合(y1)を算出する工程である。工程(i)~(iv)によって算出された割合でリサイクル材(X)と長繊維束(Y)を混合して混合物(Z)を得ることにより、所望の機械強度を達成できる組成物(I)を調製することができる。
【0031】
第一の実施形態において、リサイクル材(X)と長繊維束(Y)を混合する方法としては特に限定されず、例えば、V型ブレンダーやリボブレンダーを用いて混合すること等が挙げられる。
【0032】
なお、第一の実施形態において、混合物(Z)を得ることは、工程(i)~(iv)以外の工程を含んでいてもよい。例えば、工程(i)の前に、前述の組成物(Y2)を得ること(工程(i’))を含んでいてもよい。
【0033】
<工程(i’)>
第一の実施形態に係る製造方法は、工程(i)の前に、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)に、熱可塑性樹脂(A3)を添加して、組成物(Y2)を得ることを含んでいてもよい。工程(i’)は、例えば、ガラス繊維(B2)の割合(GF2)が高い(Y1)に、熱可塑性樹脂(A3)を添加して、(GF2)の割合を調整することであってもよい。具体的には、(GF2)が50質量%の(Y1)100質量部に、熱可塑性樹脂(A3)を100質量部添加して、(GF2)が25質量%の組成物(Y2)を調整することができる。
【0034】
長繊維束(Y)が(Y1)のみを含む場合、分級等による物性のバラツキが少ないというメリットがある。一方で、ガラス繊維(B2)の割合(GF2)の高い(Y1)を準備しておいて、所望の機械物性に合わせて、前記(Y1)に熱可塑性樹脂(A3)を混合し、種々のガラス含有量(GF2)を有する長繊維束(Y)を調整することで、生産効率が向上しやすい。
【0035】
第一の実施形態に係る製造方法は、前述の工程(i)~(iv)により(必要に応じて工程(i’)を含む)算出した割合で、リサイクル材(X)と長繊維束(Y)とを混合して混合物(Z)を得たのち、後述する添加剤等を混合物(Z)にさらに配合して、組成物(I)とすることを含んでいてもよい。または、混合物(Z)をそのまま組成物(I)として採用することもできる。
【0036】
一実施形態において、前述の製造方法は、リサイクル材(X)を20質量%以上、好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは45質量%以上含む混合物(Z)を含む組成物(I)を製造する方法であってもよい。
【0037】
一実施形態において、前述の製造方法は、バージン材100%の引張強さ(ISO 527)の85%以上を有する組成物(I)を製造する方法であってもよい。
【0038】
[繊維含有樹脂組成物(I)]
本実施形態に係る繊維含有樹脂組成物(I)は、前述の第一の実施形態に係る製造方法により製造されたものである。すなわち、組成物(I)は、リサイクル材(X)と、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)との混合物(Z)を含む。
【0039】
<混合物(Z)>
本実施形態に係る繊維含有樹脂組成物(I)は混合物(Z)を含む。一実施形態において、組成物(I)中の混合物(Z)の割合は、組成物(I)の総質量に対して、90質量%以上であってもよく、95質量%以上であってもよく、98質量%以上であってもよい。また、一実施形態においては、組成物(I)中の混合物(Z)の割合は100質量%であってもよい。
【0040】
混合物(Z)はリサイクル材(X)と長繊維束(Y)とからなる。一実施形態において、混合物(Z)の総質量に対するリサイクル材(X)の含有量は、40~90質量%であることが好ましく、50~90質量%であることが好ましい。また、混合物(Z)の総質量に対する長繊維束(Y)の含有量は、10~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましい。リサイクル材(X)及び長繊維束(Y)の含有量がそれぞれ前記範囲内であれば、リサイクル材(X)の配合率が高くとも、得られる組成物(I)の成形品の機械強度が低下しにくい。
【0041】
(リサイクル材(X))
本実施形態において、リサイクル材(X)は、熱可塑性樹脂(A1)及びガラス繊維(B1)を含む樹脂組成物(C)の成形品(L)の粉砕物を含む。一実施形態において、リサイクル材(X)は、成形品(L)の粉砕物のみで構成されていてもよい。
【0042】
<成形品(L)>
本実施形態において、リサイクル材(X)に含まれる成形品(L)は、目的の用途に使用された後回収された、ガラス繊維(B1)を含む樹脂組成物(C)の成形品を意味するが、成形後未使用のものも含まれる。成形品(L)の元の用途は特に限定されず、例えば、自動車車体前部構造体や自動車用外装構造体等の自動車部品;コンピュータ、電話、スマートフォン、携帯等の情報機器、通信機器、音響機器;テレビ、冷蔵庫、エアコン、洗濯機等の家庭電化製品;机、椅子、棚等の事務用品;パッケージング等の包装用品等があげられる。また、成形品(L)は、物性測定用試験片として成形されたものを含むことができる。
【0043】
(熱可塑性樹脂(A1))
成形品(L)を構成する樹脂組成物(C)に含まれる熱可塑性樹脂(A1)としても特に限定されず、例えば、上述の用途で好ましく使用される熱可塑性樹脂が挙げられる。例えば、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂等のポリオレフィン樹脂;ポリアミド6樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂等のポリアミド樹脂;ポリスチレン樹脂;ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂等のポリエステル樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリアセタールコポリマー等のポリアセタール樹脂;ポリフェニレンエーテル樹脂等のポリアリーレンエーテル樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂等のポリアリーレンスルフィド樹脂;ポリエーテルスルホン樹脂等のポリスルホン樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等のポリアリーレンエーテルケトン樹脂;液晶性ポリエステル樹脂、液晶性ポリエステルアミド樹脂等の液晶性樹脂等が挙げられる。熱可塑性樹脂(A1)は、後述の熱可塑性樹脂(A2)及び熱可塑性樹脂(A3)と同じ熱可塑性樹脂であることが好ましい。また、熱可塑性樹脂(A1)は、これらの混合物であってもよい。
【0044】
(ガラス繊維(B1))
成形品(L)を構成する樹脂組成物(C)に含まれるガラス繊維(B1)としても特に限定されず、上述の用途で好ましく用いられる樹脂組成物で採用される、長繊維、及び/又は短繊維のガラス繊維を含むことができる。また、成形品(L)中のガラス繊維(B1)の割合も特に限定されない。ガラス繊維(B1)は1種類のガラス繊維であってもよく、2種類以上のガラス繊維の混合物であってもよい。
【0045】
また、成形品(L)には、熱可塑性樹脂(A1)及びガラス繊維(B1)以外の成分が含まれていてもよい。例えば、マイカ、タルク、アルミニウム、その他あらゆる公知の素材で、長繊維、短繊維、ウィスカ、粉末等のあらゆる形状をした強化材が1種または2種以上含まれていてもよい。また、安定剤、可塑剤、着色剤、難燃化剤等の各種添加物、顔料等の粉末状の無機充填材、各種の塗料、蒸着物等の外観装飾材料を含んでいても構わない。本実施形態に係るリサイクル材(X)には、上述の熱可塑性樹脂(A1)、及びガラス繊維(B1)以外に、上述の添加剤や充填材等が含まれていてもよい。
【0046】
リサイクル材(X)は、成形品(L)の粉砕物を含む。成形品(L)を粉砕して、リサイクル材(X)を得る方法としては特に限定されず、例えば、一軸粉砕機等によって粉砕することができる。
一実施形態において、リサイクル材(X)は、リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の重量平均繊維長が1.5mm以下となるように、成形品(L)を粉砕して得られたものであってもよい。本明細書において「重量平均繊維長」とは、灰分量測定により算出した繊維の平均長さのことを指す。具体的には、リサイクル材を燃焼させて、樹脂成分を除去してガラス繊維だけを取り出す。その後、その繊維を光学顕微鏡や電子顕微鏡で観察して、画像処理装置を用いてガラス繊維500本の長さを測定し、その重量平均値を「重量平均繊維長」とする。リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の重量平均繊維長は0.1~1.5mmであってもよく、0.2~1.0mmであってもよい。リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の重量平均繊維長が0.1~1.5mmであれば、目標物性達成の効果が得られやすくなる。
【0047】
一実施形態において、リサイクル材(X)は、成形品(L)を粉砕したのちリペレット化したものを含んでいてもよい。またより好ましい実施形態においては、リサイクル材(X)は、成形品(L)を粉砕してリペレット化したもののみで構成されていてもよい。成形品(L)のリペレットを含むことにより、射出成形等の成型加工時の材料の成型加工機への供給安定性が良好となりやすい。
成形品(L)をリペレットする方法としては特に限定されず、従来公知の方法を採用できる。例えば、成形品(L)の粉砕物を1軸押出機で押出してリペレットすること等を採用できる。
【0048】
一実施形態において、リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の割合(GF1)は、5~50質量%であってもよく、10~40質量%であってもよい。
【0049】
(樹脂含浸ガラス長繊維束(Y))
本実施形態に係る組成物(I)は、樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)を含む。樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)は、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)を含む。組成物(I)が長繊維束(Y)を含むことにより、組成物(I)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を高くしても、成形品の機械強度が低下しにくく、所望の機械強度を達成できる。一実施形態において、長繊維束(Y)は、前記(Y1)と熱可塑性樹脂(A3)を含む組成物(Y2)であってもよい。
【0050】
<ガラス繊維(B2)と熱可塑性樹脂(A2)の一体化物(Y1)>
本実施形態に係る長繊維束(Y)は、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)を含浸させて一体化させた(Y1)を含む。長繊維束(Y)は、(Y1)のみで構成されていてもよく、後述の(Y1)と熱可塑性樹脂(A3)を含む組成物(Y2)であってもよい。
【0051】
(熱可塑性樹脂(A2))
本実施形態において、長繊維束(Y)に含まれる熱可塑性樹脂(A2)としては、前述の熱可塑性樹脂(A1)と同じものが例示できる。一実施形態において、熱可塑性樹脂(A2)としては、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアリーレンエーテル樹脂、ポリアリーレンスルフィド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリアリーレンエーテルケトン樹脂及び液晶性樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリオレフィン樹脂及びポリアミド樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含むことがより好ましい。
【0052】
熱可塑性樹脂(A2)として好適に利用できるポリオレフィン樹脂としては、例えば、炭素数2~6のオレフィンの単独重合体、又は炭素数2~6のオレフィンの共重合体が好ましく、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂がより好ましい。ポリプロピレン樹脂は、ホモポリプロピレン樹脂であってもよく、ブロックポリプロピレン樹脂であってもよく、ランダムポリプロピレン樹脂であってもよく、またはこれらの混合物であってもよい。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。このうち、リサイクル性の観点からは、ポリプロピレン樹脂が好ましい。
【0053】
熱可塑性樹脂(A2)としてポリオレフィン樹脂を用いる場合、ガラス繊維(B2)に含浸しやすい観点から、酸変性ポリオレフィンを併用してもよい。酸変性ポリオレフィンとしては、マレイン酸変性ポリオレフィン(マレイン酸変性ポリプロピレン等)、無水マレイン酸変性ポリオレフィン(無水マレイン酸変性ポリプロピレン等)が好ましい。
一実施形態において、熱可塑性樹脂(A2)として、ポリオレフィン樹脂と酸変性ポリオレフィンを併用する場合、長繊維束(Y)中の酸量(酸変性ポリオレフィンに含まれる酸成分の量)が、無水マレイン酸換算で平均0.05~0.5質量%の範囲となるように、酸変性ポリオレフィンを併用することが好ましい。
【0054】
熱可塑性樹脂(A2)として好適に利用できるポリアミド樹脂としては、例えば、脂肪族ポリアミド樹脂(ポリアミド46樹脂、ポリアミド6樹脂、ポリアミド11樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド610樹脂、ポリアミド612樹脂、ポリアミド1010樹脂等);芳香族ポリアミド樹脂[芳香族ジカルボン酸(テレフタル酸等)と脂肪族ジアミン(ヘキサメチレンジアミン等)との反応で得られるポリアミド樹脂、脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸等)と芳香族ジアミン(メタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミン等)との反応で得られるポリアミド樹脂等。例えば、ポリアミド6T樹脂、ポリアミド9T樹脂等];ラクタム(ε-カプロラクタム等)の単独又は共重合体等が挙げられる。これらは1種単独で用いられてもよく、2種以上を併用してもよい。また、ポリアミド樹脂は、ホモポリアミド樹脂に限らずコポリアミド樹脂であってもよい。
このうち、リサイクル性の観点からは、ポリアミド6樹脂、ポリアミド12樹脂、ポリアミド66樹脂、ポリアミド6T樹脂、又はポリアミド9T樹脂が好ましく、ポリアミド6樹脂、ポリアミド66樹脂がより好ましい。
【0055】
好ましい実施形態においては、熱可塑性樹脂(A2)として、ISO 1133に従って測定されるメルトフローレート(MFR)(230℃、2.16kg荷重)の物性が20~200g/10min.のポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂(A2)が前述のポリプロピレン樹脂を含む場合、繊維の樹脂への含侵性がより良好となりやすい。
【0056】
熱可塑性樹脂(A2)は熱可塑性樹脂(A1)と同じ種類の熱可塑性樹脂である。ここで、「同じ種類の熱可塑性樹脂」とは、熱可塑性樹脂を構成する単量体単位が同じであることを意味する。例えば、熱可塑性樹脂(A1)がポリスチレン樹脂である場合、熱可塑性樹脂(A2)もポリスチレン樹脂であってもよい。ただし、これらポリスチレン樹脂の平均分子量(Mw及び/又はMn)は、異なっていてもよく、同じであってもよい。好ましい実施形態において、熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)は、ポリオレフィン樹脂及びポリアミド樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン樹脂を含むことがより好ましい。熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)に含まれるポリプロピレン樹脂の平均分子量は異なっていてもよく、同じであってもよい。
【0057】
一実施形態において、熱可塑性樹脂(A2)は、リサイクル樹脂を含んでいても良い。リサイクル樹脂とは、目的の用途に使用された後に回収された成形品(ただし未使用品を含む)から得られる熱可塑性樹脂である。リサイクル樹脂の元の用途は特に限定されず、前述の成形品(L)と同じ例が挙げられる。またリサイクル樹脂の組成も特に限定されず、例えば前述の熱可塑性樹脂(A1)と同じ例が挙げられる。このうち、リサイクル性の観点からは、リサイクル樹脂はポリプロピレン樹脂であってよい。熱可塑性樹脂(A2)がリサイクル樹脂を含む場合、二酸化炭素排出量削減の観点からは、熱可塑性樹脂(A2)の総量に対して、20質量%以上とすることが好ましい。
【0058】
(ガラス繊維(B2))
本実施形態において、長繊維束(Y)に含まれるガラス繊維(B2)は、ガラス長繊維である。ここで、「ガラス長繊維」とは、ガラスロービングのことを指す。一実施形態において、ガラス繊維(B2)の平均繊維径は、樹脂の機械物性と成形加工性の観点からは、5~30μmが好ましく、10~20μmがより好ましい。なお、前記平均繊維径は電子顕微鏡観察等の方法でガラス繊維(B2)300本の繊維径を測定し、その平均値を指す。
【0059】
長繊維束(Y)中のガラス繊維(B2)の本数は、長繊維束(Y)の外径(長軸長さ及び短軸長さ)を考慮して調整することができる。例えば、ガラス繊維(B2)の本数は、100~30,000本であってもよく、1,000~24,000本であってもよく、2,000~12,000本であってもよい。
【0060】
一実施形態において、長繊維束(Y)中の熱可塑性樹脂(A2)と、ガラス繊維(B2)の含有割合は、熱可塑性樹脂(A2)とガラス繊維(B2)の合計量(100質量%)に対して、熱可塑性樹脂(A2)が30~80質量%であってもよく、ガラス繊維(B2)が20~70質量%であってもよい。また、熱可塑性樹脂(A2)を40~75質量%とし、ガラス繊維(B2)を25~60質量%としてもよく、熱可塑性樹脂(A2)を50~70質量%とし、ガラス繊維(B2)を30~50質量%としてもよい。一実施形態において、長繊維束(Y)の総質量に対する、ガラス繊維(B2)の割合(GF2)は、10~50質量%であってもよく、20~50質量%であってもよい。
【0061】
長繊維束(Y)には、熱可塑性樹脂(A2)及びガラス繊維(B2)以外の公知の樹脂用添加剤が含まれていてもよい。樹脂用添加剤としては、例えば、難燃剤、熱安定剤、光安定剤、着色剤、酸化防止剤、帯電防止剤などを挙げることができる。これらは1種単独で含まれていてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
一実施形態において、長繊維束(Y)の平均長さは、物性と成形性の観点から、3~30mmが好ましく、5~20mmがより好ましい。長繊維束(Y)の平均長さは、長繊維束(Y)100個の長軸の長さを測定し、その平均値を指す。
【0063】
一実施形態において、リサイクル材(X)中のガラス繊維(B1)の割合(GF1)と、長繊維束(Y)中のガラス繊維(B2)の割合(GF2)が、下記式(4)を満たすことが好ましい。
-40≦(GF1-GF2)≦20 ・・・(4)
(式(4)中、GF1はリサイクル材(X)の総質量に対するガラス繊維(B1)の割合(質量%)を表し、GF2は樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の総質量に対するガラス繊維(B2)の割合(質量%)を表す。)
(GF1)と(GF2)が前記式(4)を満たす場合、ガラス繊維の分散性が良好となりやすい。
(GF1)と(GF2)の差は、-30~10であることがより好ましく、-20~0であることがさらに好ましい。なお、(GF1)及び(GF2)は、例えば、前述の灰分量測定の方法によって求めることができる。
【0064】
<(Y1)と熱可塑性樹脂(A3)を含む組成物(Y2)>
一実施形態において、長繊維束(Y)は組成物(Y2)であってもよい。長繊維束(Y)が組成物(Y2)である場合、組成物(Y2)中の(Y1)及び熱可塑性樹脂(A3)の割合は、所望のガラス含有量の範囲で適宜調整できる。なお、長繊維束(Y)が組成物(Y2)である場合、前述の式(4)における(GF2)は、組成物(Y2)の総質量に対するガラス繊維(B2)の割合を表す。
【0065】
(熱可塑性樹脂(A3))
熱可塑性樹脂(A3)としては、前述の熱可塑性樹脂(A1)及び(A2)と同じ熱可塑性樹脂が挙げられる。好ましい実施形態においては、熱可塑性樹脂(A3)は、熱可塑性樹脂(A1)及び熱可塑性樹脂(A2)と同じ種類の熱可塑性樹脂であってもよい。熱可塑性樹脂(A3)が、熱可塑性樹脂(A1)及び熱可塑性樹脂(A2)と同じ種類の熱可塑性樹脂であれば、樹脂が均一に混ざりやすく、樹脂物性の安定性が良くなりやすい。好ましい実施形態において、熱可塑性樹脂(A1)、(A2)及び(A3)が、ポリオレフィン樹脂及びポリアミド樹脂から選択される少なくとも1つの熱可塑性樹脂を含むことが好ましく、ポリプロピレン樹脂を含むことがより好ましい。
【0066】
一実施形態において、熱可塑性樹脂(A3)はリサイクル樹脂を含んでいてもよい。リサイクル樹脂とは、目的の用途に使用された後に回収された成形品(ただし、未使用品を含む)から得られる熱可塑性樹脂である。リサイクル樹脂の元の用途は特に限定されず、前述の成形品(L)と同じ例が挙げられる。また、リサイクル樹脂の組成も特に限定されず、例えば、前述の熱可塑性樹脂(A1)、(A2)と同じ例が挙げられる。このうち、リサイクル性の観点からは、リサイクル樹脂はポリプロピレン樹脂であってもよい。
熱可塑性樹脂(A3)がリサイクル樹脂を含む場合、二酸化炭素排出量削減の観点からは、熱可塑性樹脂(A3)の総質量に対して、20質量%以上とすることが好ましい。
【0067】
長繊維束(Y)の製造方法としては、従来公知の、クロスヘッドダイを使用した方法等を採用できる。例えば、特開2013-107979号公報(製造例1の樹脂含浸ガラス長繊維束の製造)、特開2013-121988号公報(製造例1の樹脂含浸ガラス長繊維束の製造)等に記載の方法に準じて製造することができる。
【0068】
<その他の成分>
本実施形態に係る組成物(I)には、混合物(Z)以外のその他の成分が含まれていてもよい。その他の成分としては、例えば、前述のガラス繊維(B1)及び(B2)以外の強化材(例えば、カーボン繊維、アラミド繊維等の無機繊維);ガラスビーズ、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、タルク、マイカ、ゼオライト、フェライト等の無機充填材;カーボンブラック、チタンホワイト、ベンガラ等の着色剤;水酸化物系、臭素化ビスフェノールA(TBA系)、デカブロムビフェニルエーテル系、酸化アンチモン、酸化モリブデン、リン酸エステル類等の難燃化剤;その他機能性添加剤として周知の添加材を、添加してもよい。また、ステアリン酸マグネシウムやステアリン酸カルシウム等を外部滑剤としてリサイクル材(X)や長繊維束(Y)の表面にまぶしていても良い。なお、本実施形態に係る組成物(I)は、組成物(I)の引張強さ(Ts)に基づいて、前述の工程(i)~(iv)により算出された割合でリサイクル材(X)と長繊維束(Y)とを混合した混合物(Z)を含んでいる。そのため、組成物(I)の引張強さを含む機械強度に影響を与える添加剤(例えば、前述の強化材等)は配合しないことが好ましい。
【0069】
一実施形態において、組成物(I)の総質量に対する、ガラス繊維(B1)及びガラス繊維(B2)の合計量は、10~50質量%であってもよく、15~40質量%であってもよい。
【0070】
一実施形態において、組成物(I)は、リサイクル材(X)のペレットと、長繊維束(Y)のペレットとの混合物であってもよい。すなわち、組成物(I)は、第一の実施形態に係る製造方法により、リサイクル材(X)のペレット及び長繊維束(Y)のペレットを混合して、パッケージングとして製造されたものであってもよい。
【0071】
[混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を決定する方法]
本発明の第二の実施形態は、リサイクル材(X)及び樹脂含浸ガラス繊維束(Y)の混合物(Z)を含む、繊維含有樹脂組成物(I)を製造するために、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を決定する方法であって、以下の工程(i)~(iii):
工程(i):リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)及び樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)を、ISO 527に準拠した引張試験より求めること、
工程(ii)各引張強さの値を以下の式(1)に代入して、V1を算出すること、
V1=(Ty-Ts)/(Ty-Tx) ・・・(1)
(式(1)において、Txはリサイクル材(X)の引張強さ(MPa)であり、Tyは樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)の引張強さ(MPa)であり、Tsは最終的に得られる繊維含有樹脂組成物(I)の引張強さの目標値(MPa)であり、ただし、(Ty>Ts>Tx)である)、
工程(iii):式(1)におけるV1が0.2以上であるときに、V1を以下の式(2)に代入して、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を決定すること、
x1=α1×V1 ・・・(2)
(式(2)において、x1は混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(質量%)であり、α1はx1を算出するための係数であって、80~145の整数であり、ただし、x1は小数点第一位を四捨五入した整数であり、かつx1の上限は90を超えない)、
を含む、方法に関する。
【0072】
第二の実施形態によれば、より簡易なステップによって、リサイクル材(X)と樹脂含浸ガラス繊維束(Y)を含む、繊維含有樹脂組成物(I)を製造するために、混合物(Z)中のリサイクル材(X)の割合(x1)を決定することができる。また、第二の実施形態に係る方法によってリサイクル材(X)の割合(x1)を決定し、かつ前記割合(x1)でリサイクル材(X)を長繊維束(Y)と混合して得られた混合物(Z)を含む、本実施形態に係る組成物(I)は、バージン材と同等の機械強度を達成できる。なお、第二の実施形態における、工程(i)~(iii)の態様は、第一の実施形態と同じであり、好ましい例もまた同じである。
【実施例0073】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0074】
[製造例1:組成物(Y2-1)の調製]
樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)として、組成物(Y2)を採用し、以下の条件で組成物(Y2-1)を調製した。
ガラス繊維(日東紡(株)製、製品名「RS240QR-489」、繊維径:17.4μm)の連続繊維を、クロスヘッドダイに通して引きながら、ポリプロピレン(サンアロマー(株)製、製品名「PMB60A」)と無水マレイン酸変性ポリプロピレン(MAH-PP、アルケマ(株)製、製品名「OREVAC(登録商標) CA100」)とを250℃に設定した押出機から溶融状態でクロスヘッドダイに供給して、前記連続繊維に含侵させ、賦形ダイを通してストランドを作成した。ストランドを冷却した後、引き抜き方向に対して垂直に切断して樹脂含浸ガラス長繊維束(Y)のペレットを得た。得られたペレットの平均長さは11mmであった。得られた長繊維束(Y)は、ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に、熱可塑性樹脂(A2)としてポリプロピレンを含浸させて一体化させた(Y1)である。得られた(Y1)中のガラス繊維(B2)の割合は50質量%であった。
【0075】
次に、上記で得られた(Y1)のペレットと、熱可塑性樹脂(A3)として、ポリプロピレンのペレット(サンアロマー(株)製、製品名「PMB60A」)とを、質量比で50:50となるようにドライブレンドして組成物(Y2-1)を得た。得られた組成物(Y2-1)のガラス繊維(B2)の割合(GF2)は、25質量%であった。
【0076】
[製造例2:リサイクル材(X-1)の調製]
製造例1で得られた組成物(Y2-1)を下記条件で射出成形して、ISOテストピース成形品(L)を得た。
<射出成形条件>
射出成形機:(株)日本製鋼所製、製品名「J150EII」
スクリュー:長繊維専用スクリュー
シリンダー温度:240℃
【0077】
ISOテストピース成形品(L)を、一軸粉砕機で粉砕し、粉砕物を30mm一軸押出機にて、シリンダー温度240℃でリペレット化して、リサイクル材(X-1)を得た。得られたリサイクル材(X-1)は、熱可塑性樹脂(A1)としてポリプロピレンを含む。また、リサイクル材(X-1)中のガラス繊維(B1)の割合(GF1)は、25質量%であった。また、リサイクル材(X-1)中のガラス繊維(B1)の重量平均繊維長は0.8mmであった。
製造例1~2、及び後述する製造例3~4により得られたリサイクル材(X)及び組成物(Y2)の詳細を、表1に示す。
【0078】
[実施例1]
製造例2で得られたリサイクル材(X-1)と、製造例1で得られた組成物(Y2-1)とを用いて、以下の条件で繊維含有樹脂組成物(I-1)を製造した。
工程(i):ISO 527に準拠した引張試験により、リサイクル材(X)及び長繊維束(Y)の引張強さ(Tx)及び(Ty)を測定した。その結果、リサイクル材(X)の引張強さ(Tx)は63MPaであり、長繊維束(Y)の引張強さ(Ty)は102MPaであった。
<引張強さ(Tx)及び(Ty)の測定方法>
射出成形により得られたISOテストピース(ダンベル状タイプ1Aテストピース、全長:170mm、平行部長さ:80mm、厚み:4mm)を用いて、ISO 527に準拠して引張強さ(Tx)及び(Ty)を測定した。具体的には、23℃、湿度50%、引張速度5mm/min、チャック間距離115mmの条件で、引張試験機((株)島津製作所製、製品名「オートグラフ(登録商標)AG-X plus」)を用いて、引張強さ(Tx)(MPa)、及び引張強さ(Ty)(MPa)を求めた。
【0079】
組成物(I-1)の引張強さの目標値(Ts)を、Ty>Ts>Txの観点から、77MPaに設定した。また、以下の工程(ii)~(iv)を実施した。
工程(ii):引張強さ(Tx)、(Ty)及び(Ts)を以下の式(1)に代入して、V1を算出したところ、V1=0.64であった。
V1=(Ty-Ts)/(Ty-Tx) ・・・(1)
工程(iii):V1が0.2以上であったため、V1をさらに以下の式(2)に代入し、リサイクル材(X)の割合(x1)を求めた。なお、本実施例1では、V1×100を採用し、割合(x1)を64質量%に設定した。
x1=α1×V1 ・・・(2)
工程(iv):割合(x1)を以下の式(3)に代入して、長繊維束(Y)の割合(y1)を算出した。結果、割合(y1)は36質量%となった。
y1=100-x1 ・・・(3)
【0080】
前記工程(i)~(iv)より算出した割合(x1/y1=64/36)で、リサイクル材(X)と長繊維束(Y)を混合して、混合物(Z)を得た。この混合物(Z)100質量%の組成物(I-1)を調製した。得られた組成物(I-1)について、引張強さ、曲げ弾性率、曲げ強さ、及びシャルピー衝撃強度を測定した。なお、曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度は、ISO 178に準拠した曲げ試験により測定した。以下に詳細な測定条件を示す。またそれぞれの結果を表2に示す。
<曲げ強さ、曲げ弾性率、シャルピー衝撃強度の測定方法>
射出成形により得られたISOテストピース(ダンベル状タイプ1Aテストピースを、80mm×10mm×4mmに切り出したもの)を用いて、ISO 178に準拠して曲げ強さと曲げ弾性率を、ISO 179/1eAに準拠してノッチ付きシャルピー衝撃強さを測定した。具体的には、23℃、湿度50%、支点間距離64mmの条件で、曲げ試験測定装置((株)島津製作所製、製品名「島津オートグラフ AG-X/R」)を用いて曲げ強さと曲げ弾性率を測定した。ノッチ付きシャルピー衝撃強さは、デジタル衝撃試験機((株)安田精機製作所製、型式:258D)を用いて23℃、湿度50%、ハンマー:4Jの条件で測定した。
【0081】
[実施例2~3及び比較例1~3]
組成物(I)の引張強さの目標値(Ts)を、表2に示す値に設定した以外は、実施例1と同じ方法で組成物(I-2)~(I-6)を調製した。また実施例1と同じ条件で、引張強さ、曲げ弾性率、曲げ強さ、及びシャルピー衝撃強度を測定した。結果を表2に示す。
【0082】
[製造例3:組成物(Y2-2)の調製]
樹脂含侵ガラス長繊維束(Y)として、組成物(Y2)を採用し、以下の条件で組成物(Y2-2)を調整した。
長繊維ガラス強化ポリアミド66樹脂のペレット(ポリプラスチックス(株)製、製品名「プラストロン(登録商標)PA66-GF60-01(L9)F06L2」。ガラス繊維(B2)を長さ方向に揃えた繊維束に熱可塑性樹脂(A2)としてポリアミド66を含浸させて一体化させた(Y1)。(Y1)中のガラス繊維(B2)の割合は60質量%)と、熱可塑性樹脂(A3)として、ポリアミド66のペレット(INVISTA社製、製品名「U3600」)とを、質量比で55:45となるようにドライブレンドして組成物(Y2-2)を得た。得られた組成物(Y2-2)のガラス繊維(B2)の割合は、33質量%(GF2)であった。
【0083】
[製造例4:リサイクル材(X-2)の調製]
短繊維ガラス強化ポリアミド66樹脂(DuPont社製、製品名「Zytel(登録商標) 70G33L」)を下記条件で射出成形して、ISOテストピース成形品(L)を得た。
<射出成形条件>
射出成形機:(株)日本製鋼所製、製品名「NEX220」
スクリュー:標準スクリュー
シリンダー温度:290℃
ISOテストピース成形品(L)を、一軸粉砕機で粉砕して、リサイクル材(X-2)を得た。得られたリサイクル材(X-2)は、熱可塑性樹脂(A1)としてポリアミド66を含む。また、リサイクル材(X-2)中のガラス繊維(B1)の割合(GF1)は、33質量%であった。また、リサイクル材(X-2)中のガラス繊維(B1)の重量平均繊維長は0.36mmであった。
【0084】
[実施例4]
製造例4で得られたリサイクル材(X-2)と、製造例3で得られた組成物(Y2-2)とを用いて、組成物(I)の引張強さの目標値(Ts)を、表2に示す値に設定した以外は、実施例1と同じ方法で組成物(I-7)を調製した。また実施例1と同じ条件で、引張強さ、曲げ弾性率、曲げ強さ、及びシャルピー衝撃強度を測定した。結果を表2に示す。
【0085】
【0086】
【0087】
実施例1~3及び比較例1~3の引張強さ(Ts)は、それぞれ、Ty>Ts>Txの条件を満たしている。なお、実施例1で設定した引張強さの目標値(Ts)は、ガラス繊維含有量が25質量%である短繊維ガラス強化ポリプロピレン樹脂(バージン材)の引張強さの100%に相当する値である。同様に、実施例2、3及び比較例2、3の(Ts)は短繊維ガラス強化ポリプロピレン樹脂(ガラス繊維含有量30質量%)の引張強さの100%に相当する。また、比較例1の(Ts)は、短繊維ガラス強化ポリプロピレン樹脂(ガラス繊維含有量40質量%)の引張強さの100%に相当する。
【0088】
実施例4の引張強さ(Ts)は、Ty>Ts>Txの条件を満たしている。なお、実施例4で設定した引張強さの目標値(Ts)は、ガラス繊維含有量が33質量%である短繊維ガラス強化ポリアミド66樹脂(バージン材)の引張強さ及び曲げ弾性率の100%に相当する値である。
【0089】
表2に示す通り、第一の実施形態に係る製造方法(第二の実施形態に係る方法を含む)によって製造された、実施例1~3の繊維含有樹脂組成物(I-1)~(I-3)は、リサイクル材の配合割合を64質量%、44質量%、60質量%と高くしても、引張強さの目標値(Ts)に対して、85%以上の引張強さを達成できた。また、熱可塑性樹脂(A1)~(A3)としてポリアミド樹脂を用いた実施例4の繊維含有樹脂組成物(I-7)でも、引張強さの目標値(Ts)に対して、85%以上の引張強さを達成できた。すなわち、これら実施例の組成物(I-1)~(I-3)及び(I-7)は、バージン材と同等の機械強度を有していた。
【0090】
比較例1の組成物(I-4)は、工程(ii)における式(1)のV1が0.2未満となる条件で製造したものである。組成物(I-4)は、引張強さの目標値(Ts)に対して、99%の引張強さを達成できたが、リサイクル材(X)の割合(x1)が5質量%と低かった。そのため比較例1の組成物(I-4)は本発明の課題を解決できなかった。また、リサイクル材(X)の割合(x1)を、工程(iii)の式(2)で算出される範囲よりも大きな値に設定して製造した、比較例2の組成物(I-5)、比較例3の組成物(I-6)は、引張強さの目標値(Ts)に対して、85%未満の引張強さとなり、本発明の課題を解決できなかった。以上の結果より、第一の実施形態に係る製造方法によれば、リサイクル材の配合割合を高くしても、バージン材と同等の機械強度を有する成形品を製造できることが分かった。また、第二の実施形態に係る方法によれば、所望の機械強度を有する成形品を製造可能な繊維含有樹脂組成物を調製するために、リサイクル材及び長繊維束の混合物中のリサイクル材の割合を、より簡易なステップによって決定できることが分かった。