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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176067
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】光電変換素子材料
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/08 20060101AFI20231206BHJP
   B82Y 20/00 20110101ALI20231206BHJP
   C01G 29/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01L31/08 N
B82Y20/00
C01G29/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088147
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】仲沢 達也
(72)【発明者】
【氏名】加藤 伸一
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 優輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘規
【テーマコード(参考)】
4G048
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB04
4G048AC08
4G048AD02
4G048AD04
5F149AB01
5F149BA01
5F149BA30
5F149BB03
5F149BB07
5F149CB05
5F149CB11
5F149CB18
5F149CB20
5F149DA34
5F149FA05
5F149GA01
5F149GA04
5F149HA15
5F149LA01
5F149XB20
5F149XB24
5F849AB01
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5F849BB03
5F849BB07
5F849CB05
5F849CB11
5F849CB18
5F849CB20
5F849DA34
5F849FA05
5F849GA01
5F849GA04
5F849HA15
5F849LA01
5F849XB20
5F849XB24
(57)【要約】
【課題】半導体薄膜を備える光電変換素子材料について、近赤外線領域の波長の光に対して良好な感度を発揮し得るものを提供する。
【解決手段】本発明は、基材と基材上に形成された半導体薄膜とからなる光電変換素子材料に関する。本発明において、半導体薄膜は、Ag2-xBix+1(xは0又は1の整数である)で構成される。そして、本発明では、近赤外線領域の波長の応答性を向上させるため、半導薄膜の表面が、AuからなるAuナノロッド粒子及びAgからなるAgナノロッド粒子の少なくともいずれかのナノロッド粒子により修飾されている。ナノロッド粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)は、Auナノロッド粒子で3.0以上9.0以下、Agナノロッド粒子で3.0以上10.0以下とするのが好ましい。
【選択図】図2


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の上に形成された半導体薄膜とからなる光電変換素子材料において、
前記半導体薄膜は、Ag2-xBix+1(xは0又は1の整数である)からなり、
前記半導薄膜の表面が、AuからなるAuナノロッド粒子及びAgからなるAgナノロッド粒子の少なくともいずれかのナノロッド粒子により修飾されていることを特徴とする光電変換素子材料。
【請求項2】
Auナノロッド粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が3.0以上9.0以下であり、Agナノロッド粒子の平均アスペクト比(長軸/短軸)が3.0以上10.0以下である請求項1記載の光電変換素子材料。
【請求項3】
ナノロッド粒子の短軸の平均径は、10nm以上60nm以下である請求項1又は請求項2記載の光電変換素子材料。
【請求項4】
半導体薄膜の表面を修飾するナノロッド粒子の平均粒子間距離が60nm以上である請求項1又は請求項2記載の光電変換素子材料。
【請求項5】
半導体薄膜の表面を修飾するナノロッド粒子の平均粒子間距離が60nm以上である請求項3記載の光電変換素子材料。
【請求項6】
700nm以上1200nm以下の波長の光に対して応答性を有する請求項1又は請求項2記載の光電変換素子材料。
【請求項7】
基材は、ガラス、石英、シリコン、炭素、セラミックス又は金属のいずれかよりなる請求項1又は請求項2記載の光電変換素子材料。
【請求項8】
請求項1又は請求項2記載の光電変換素子材料を含む受光素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光センサ等の受光素子等に用いられる光電変換素子材料に関する。詳しくは、基材と半導体薄膜とからなる光電変換素子材料であって、半導体薄膜としてAg系カルコゲナイドの薄膜を適用すると共に、半導体薄膜を所定金属のナノロッド粒子で修飾した光電変換素子材料に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池、光センサ、発光デバイス(LED)等の各種の光半導体デバイスに搭載される受光素子・光電変換素子や発光素子の構成材料として、量子ドット(QD:Quantum Dot)と称される半導体ナノ粒子の利用が期待されている。半導体は、ナノスケールの微小粒子とすることで量子閉じ込め効果を発現し、粒径に応じたバンドギャップを示す。そのため、半導体ナノ粒子には、その組成と粒径を制御してバンドギャップを調節することで発光波長や吸収波長を任意に設定することができるというメリットがある。
【0003】
半導体ナノ粒子を構成する半導体材料としては、遷移金属等の1種又は2種の金属(Pb、Cd、Zn等)と、酸素を除くカルコゲン元素(S、Se、Te等)との2元系又は3元系化合物である金属カルコゲナイドが知られている(特許文献1、2)。金属カルコゲナイドは、粒子の形態のものの他に、2次元材料の形態を有するものが半導体材料として好適であることが知られている。しかし、2次元材料のバンドギャップは、その層数で決定されるために微調整が困難である。これに対し、半導体ナノ粒子は、粒径によりバンドギャップを設定できるので微調整も可能であるのでより広範な応用が期待できる。
【0004】
また、半導体ナノ粒子は、光電変換素子材料を受光素子として備える半導体デバイスの小型化・薄型化に寄与し得る。例えば、ビデオカメラ・携帯電話カメラ等に従来から搭載されているCMOSイメージセンサの光電変換部にはシリコンフォトダイオードが用いられている。この種のCMOSイメージセンサにおいては、センサ駆動に必要な光吸収のため、ある程度の厚さ(2~3μm)のシリコン薄膜を形成することが求められる。一方、半導体ナノ粒子は、高い量子効率を有し吸光係数が高いという特性も有する。これにより、CMOSイメージセンタの受光素子の厚さを既存技術より薄く(1μm以下)することが可能となる。
【0005】
そして、粒径調整による発光・吸収波長の調節を可能とする半導体ナノ粒子は、従来の半導体材料では対応が困難であった波長域の光を対象とした光電変換素子の開発の起点となり得る。特に最近においては、近赤外領域の光に対して応答性を有する光電変換素子の開発が求められている。
【0006】
近赤外領域の光を利用する光電変換素子としては、LIDAR(Light Detection and Ranging)や近赤外線(SWIR)イメージセンサに適用される受光素子が挙げられる。LIDARとは、自動車自動運転・ドローン・船舶等におけるリモートセンシングシステムである。また、最近では、スマートフォンやタブレット等における顔認証技術や拡張現実(AR)技術へも応用されている。LIDARは、レーザー光を対象物に照射し、その反射光を受光素子で感知して対象物との距離・角度を検出する測定システムである。LIDARは、近年の自動運転技術の発展において重要なデバイスといえる。また、SWIRイメージセンサも、食品検査、農業分野、ドローン等の分野において、今後需要が高まることが予測されるデバイスである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2020-40847号公報
【特許文献2】特開2020-15802号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記で例示したLIDARやSWIRイメージセンサ等の光電変換素子は近赤外領域の光に対して良好な応答特性が要求される。この点、従来の半導体材料は、この要求に応えることが困難であった。上記したCMOSイメージセンサで使用されるシリコンは、そのバンドギャップ値から近赤外光への対応は困難である。よって、この近赤外光への対応という観点からも半導体ナノ粒子の有効性が期待される。
【0009】
現在のところ、近赤外光領域の光への応答性に優れる半導体ナノ粒子についての報告例はさほど多くはない。半導体ナノ粒子は、粒径制御によりバンドギャップが調節できるとしても、その調節可能な範囲はナノ粒子を構成する半導体のバンドギャップが基準となる。ここで、光子エネルギーの式(E=hc/λ(h:プランク定数、c:光速度、λ:波長))に基づけば、近赤外光領域(波長域を700nm~2500nmとする)における応答性を獲得するには、半導体ナノ粒子のバンドギャップは約1.77eV以下であることが必要となる。しかし、かかる低バンドギャップの半導体材料はさほど多くはない。
【0010】
上記した金属カルコゲナイドからなる半導体ナノ粒子についてみると、近赤外光領域での応答性を有し且つ実用化まで図られている金属カルコゲナイドとしてPbSが知られている。しかしながら、PbSはPbを含むため、最近の環境問題等から好適な半導体材料とは言い難い。そのため、この要求を満たす半導体の構成・組成の検討が必要となる。
【0011】
そして、近赤外光に対する応答特性を有する金属カルコゲナイド及びそのナノ粒子を見出したとき、その利用態様と実用性を考慮した素子材料を検討することも重要である。半導体ナノ粒子を光電変換素子材料等とするときの利用態様としては、半導体ナノ粒子を含むインク(分散液)を基材に塗布して半導体薄膜とする。光電変換素子材料の光応答特性の向上のためには、半導体ナノ粒子を半導体薄膜としたときの特性向上を図ることが好ましい。
【0012】
本発明は、上記のような背景のもとになされたものであり、近赤外領域に光応答性を有する金属カルコゲナイドからなる半導体ナノ粒子で構成される光電変換素子材料を提案する。その上で、この半導体ナノ粒子より構成される半導体薄膜についての光応答性を向上させる手法についても明らかにする。特に、近赤外線領域の波長の光に対する増感作用を有するものを提供することを目的とする。尚、本発明において、感度改善の対象となる近赤外線領域の光とは、700nm~1200nmの波長の光とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者等は、上記課題の解決のため、まず、好適なバンドギャップを有し、半導体ナノ粒子としたときに近赤外線領域における応答性を発揮し得る金属カルコゲナイドの組成について検討した。そして、本発明者等は、Ag系カルコゲナイドであるAgBiSとAgSに着目した。これらのAg系カルコゲナイドのバンドギャップは、バルク状態で1eV以下であることから、これらを半導体ナノ粒子とすることで近赤外線光の応答性を発揮できると考えられる。
【0014】
更に、本発明者等は、上記Ag系カルコゲナイドの半導体ナノ粒子を半導体薄膜としたとき、当該半導体薄膜の光応答性を向上させる手段として、Au及び/又はAgからなるロッド状のナノ粒子で薄膜を修飾することを見出した。本発明者等は、このようにして形成される光電変換素子材料の構造について、好適な薄膜の構成と検討を行い本発明に想到した。
【0015】
即ち、上記課題解決する本発明は、基材と、前記基材の上に形成された半導体薄膜とからなる光電変換素子材料において、前記半導体薄膜は、Ag2-xBix+1(xは0又は1の整数である)からなり、前記半導薄膜の表面が、AuからなるAuナノロッド粒子及びAgからなるAgナノロッド粒子の少なくともいずれかのナノロッド粒子により修飾されていることを特徴とする光電変換素子材料である。
【0016】
上記のとおり本発明は、光電変換素子材料としての主要構成となる半導体薄膜をAg2-xBix+1(xは0又は1の整数である)で構成し、更に、当該半導体薄膜をAu又はAgからなるナノロッド粒子の少なくともいずれかで修飾することで、半導体薄膜の近赤外領域における光感度の向上を図るものである。詳細には、本発明は、カルコゲナイド半導体薄膜が有する光電効果を、ナノロッド粒子が発現する局在表面プラズモン共鳴(LSPR)によって増感させている。
【0017】
プラズモン共鳴(LSPR)とは、光照射等の外部電場により励起された金属表面の自由電子が集団的に振動し、当該外部電場と共鳴する現象である。そして、AuやAg等の所定の金属のナノ粒子において発生する表面自由電子の振動の外部電場との共鳴は局在プラズモン共鳴と称される。また、AuやAg等のナノ粒子で局在プラズモン共鳴が発生する光の波長は、ナノ粒子のアスペクト比によって変化する。本発明は、Au又はAgからなり、所定のアスペクト比を有するロッド状の金属ナノ粒子(以下、ナノロッド粒子と称する)でAg2-xBix+1薄膜を修飾することで、近赤外線領域に対する応答特性を向上させたものである。
【0018】
以下、本発明に係る光電変換素子材料について、構成の詳細と製造方法について説明する。
【0019】
A.本発明に係る光電変換素子材料の構成
A-1 基材
基材は、Ag2-xBix+1(xは0又は1である)からなる半導体薄膜を支持するための部材である。この目的を果たすことができる材質であれば、どのような材質でも良い。基材材質は、例えば、ガラス、石英、シリコン、炭素、セラミックスもしくは金属等が例示される。また、基材の形状及び寸法は、特に限定されない。
【0020】
A-2 半導体薄膜
(a)半導体薄膜の構成
本発明に係る光電変換素子材料の半導体薄膜は、Ag系の金属カルコゲナイドであるAg2-xBix+1(xは0又は1である)、即ち、AgBiS又はAgSからなる薄膜である。これらの金属カルコゲナイドのバンドギャップは、バルク状態において0.8eV(AgBiS)、0.9eV(AgS)と1eV未満であることから、これら金属カルコゲナイドの半導体ナノ粒子は、近赤外線領域で有効な応答性を有すると考えられる。
【0021】
本発明におけるAg2-xBix+1(xは0又は1である)の薄膜を構成する半導体ナノ粒子は、結晶子径が10nm以上40nm以下であることが好ましい。結晶子径とは、半導体ナノ粒子内で単結晶とみなすことのできる最大領域である。Ag2-xBix+1(xは0又は1である)の半導体ナノ粒子は、多結晶体又は単結晶体であり、結晶子径は半導体ナノ粒子の粒径よりも小さいか又は等しい。Ag2-xBix+1(xは0又は1である)の結晶子径については、10nm以上25nm以下がより好ましい。尚、結晶子径は、半導体薄膜のX線回折分析(XRD)によって測定でき、回折ピークの半価幅とScherrerの式に基づき算出することができる。
【0022】
本発明におけるAg2-xBix+1(xは0又は1である)からなる半導体薄膜の膜厚は、10nm以上10μm以下のものが好ましい。10nm未満では1粒子層で薄膜を形成する必要があり、均一な成膜が困難であり、10μmを超えるとデバイスに占める半導体層の割合が大きくなるためである。尚、本発明は、デバイス受光層の薄型化のために設定されることがある厚さ1μm以下の半導体薄膜にも対応できる。
【0023】
(b)ナノロッド粒子
本発明でAg2-xBix+1(xは0又は1である)からなる半導体薄膜を修飾するのは、Au(金)からなるナノロッド粒子及び/又はAg(銀)からなるナノロッド粒子である。AuとAgの貴金属は、ナノ粒子化することで局在表面プラズモン共鳴を優位に発現する金属である。本発明において、Auナノロッド粒子はAuのみからなる粒子であり、Agナノロッド粒子はAgのみからなる粒子である。また、本発明では、Auナノロッド粒子とAgナノロッド粒子の少なくともいずれかで半導体薄膜を修飾する。Auナノロッド粒子又はAgナノロッド粒子のいずれかのみで修飾しても良いし、Auナノロッド粒子とAgナノロッド粒子の双方で修飾しても良い。尚、本発明において修飾とは、物理吸着・化学吸着等の吸着力や、金属結合・イオン結合・共有結合等の結合力によって、半導体薄膜表面に1個又は複数個のナノロッド粒子が結合した状態を意味する。この場合において、独立したナノロッド粒子が個々に分散した状態にあっても良いし、一部又は全部のナノロッド粒子が連結した状態にあっても良い。
【0024】
Au又はAgからなるナノロッド粒子の局在表面プラズモン共鳴による半導体薄膜の増感作用のメカニズムは、以下のように説明される。即ち、ナノロッド粒子に照射された光は0.1フェムト秒程度で通過してしまうが、それによって生じる近接場は数~数十フェムト秒後の位相緩和まで存在し続ける。つまり、ナノロッド粒子が生成する近接場によって光が空間的、時間的に閉じ込められることによって、照射された光と比較して強力な光強度が隣接するナノ空間に展開されることになる。
【0025】
ナノロッド粒子が局在表面プラズモン共鳴を発現するときの光の波長は、ナノロッド粒子のアスペクト比(長軸/短軸)によって変化する。本発明が目的とする近赤外領域の波長範囲、特に700nm~1200nmの波長範囲でAuナノロッド粒子及びAgナノロッド粒子が局在表面プラズモン共鳴を発現するためには、それぞれについて好適なアスペクト比を設定することが好ましい。具体的には、Auナノロッド粒子のアスペクト比は3.0以上9.0以下が好ましく、Agナノロッド粒子おアスペクト比は3.0以上10.0以下が好ましい。局在表面プラズモン共鳴による増感作用は、低アスペクト比側で短波長側の光に、高アスペクト比側で長波長側の光で発現する。例えば、アスペクト比が5.0~7.0のAuナノロッド粒子は、850nm~1050nmの波長範囲で有効となる。尚、本発明では、複数のナノロッド粒子が半導体薄膜を修飾することができるが、上記したアスペクト比の値はそれらの平均値とする。
【0026】
また、ナノロッド粒子が局在表面プラズモン共鳴を発現するための波長依存性は、上述のアスペクト比のみに依拠する。即ち、ナノロッド粒子の短軸及び長軸の個々の長さ自体は、局在表面プラズモン共鳴の波長依存性に関与しない。よって本発明において、ナノロッド粒子の寸法は特段に制限する必要はない。但し、好ましくは、短軸が10nm以上60nmのナノロッド粒子の適用が好ましい。後述する表面修飾するナノロッド粒子間の間隔を好ましいものとするとき、過度に大きいナノロッド粒子では間隔の調整が困難となる。尚、ナノロッド粒子の長軸の長さは、ナノロッド粒子の成長速度等を決定する合成条件によって制御が可能であるので特に限定はされない。
【0027】
上記したAuナノロッド粒子及び/又はAgナノロッド粒子が半導体薄膜表面を修飾するとき、ナノロッド粒子の平均粒子間間隔は60nm以上とすることが好ましい。ナノロッド粒子の平均粒子間距離が60nm未満であると、プラズモン状態で生成するホットエレクトロンの平均自由行程を下回ることとなり、半導体薄膜中でのリーク電流の発生による電気的特性の低下が生じるおそれがある。尚、粒子間距離とは、近接するナノロッド粒子間の最短の間隔である。
【0028】
また、本発明に係る光電変換素子材料の半導体薄膜の表面粗さは、RMS(二乗平均粗さ)換算で 2nm以上15nm以下であることが好ましい。表面粗さの増大は、粒子間距離およびナノロッド粒子の分散状態に影響を及ぼすと考えられる。上記のとおり、光電変換素子材料における粒子間距離は、粒子間の電子の授受の効率に作用することから、表面粗さを前記範囲にすることが好ましい。
【0029】
A-3 本発明に係る光電変換素子材料の特性・用途
本発明に係る光電変換素子材料は、近赤外領域の光に対する吸収性・応答性を有する。好ましくは、700nm以上1200nm以下の波長の近赤外光領域の光に対して応答性を有する。この特性は、半導体薄膜を形成するAgBiS又はAgSのバンドギャップに起因する。
【0030】
そのため、本発明に係る光電変換素子材料は、近赤外領域の波長の光を取り扱う半導体デバイスに適用され、用途は特に限定されない。例えば、受光素子、光学センサ、光検出器等の幅広い用途の半導体材料として利用できる。特に、近赤外線領域における優れた受光感度を有するため、LIDAR、SWIRイメージセンサ等の受光素子に好適である。
【0031】
B.本発明に係る光電変換素子材料の製造方法
本発明に係る光電変換素子材料は、上記した基材に半導体薄膜(AgBiS薄膜又はAgS薄膜)を形成した後、半導体薄膜にAuナノロッド粒子及び/又はAgナノロッド粒子を修飾することで製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0032】
B-1 半導体薄膜の形成工程
半導体薄膜は、AgBiS又はAgSの半導体ナノ粒子が適宜の分散媒に分散したインクを塗布することで形成できる。インク中で分散するこれらの半導体ナノ粒子は、粒径が3nm以上20nm以下であり、且つ、結晶子径が3nm以上20nm以下であるものが好ましい。
【0033】
インク中の半導体ナノ粒子は、保護剤により保護された状態で分散している。保護剤とは、半導体ナノ粒子の凝集・粗大化を抑制し、分散状態を安定させるための添加物である。保護剤としては、長鎖アルキルアミン、長鎖カルボン酸、チオール類の少なくともいずれかが好ましい。具体的には、長鎖アルキルアミンとは、炭素数6以上の直鎖又は分枝を有するアルキルアミンである。具体的に好ましいアルキルアミンとしては、オクチルアミン(炭素数8)、デシルアミン(炭素数10)、ドデシルアミン(炭素数12)、テトラデシルアミン(炭素数14)、オレイルアミン(炭素数18)等が挙げられる。また、カルボン酸は、炭素数6以上の直鎖又は分枝を有するカルボン酸である。具体的に好ましいカルボン酸としては、オクタン酸(炭素数8)、ラウリン酸(炭素数12)、ミスチリン酸(炭素数14)、オレイン酸(炭素数18)等が挙げられる。そして、チオール類は、炭素数6以上の直鎖又は分枝を有するチオール類である。具体的に好ましいチオール類としては、オクタンチオール(炭素数8)、ドデカンチオール(炭素数12)、オクタデカンチオール(炭素数18)等が挙げられる。以上の長鎖アルキルアミンとカルボン酸とチオール類は、1種以上を組み合わせて保護剤とすることが適用できる。
【0034】
尚、インクの分散媒は、低極性の有機溶媒を使用することが好ましい。具体的には、トルエン、ヘキサン、クロロホルム、ジクロロメタン、シクロヘキサン、オクタノール等を単独又はこれらの混合溶媒が好ましい。
【0035】
半導体ナノ粒子のインクは、予めAgBiS、AgSのナノ粒子を合成し、ナノ粒子を分散媒に分散させることで製造することができる。AgBiSナノ粒子については、Ag塩(例えば、酢酸銀、シュウ酸銀、硝酸銀、炭酸銀、ジエチルジチオカルバミン酸銀等)とBi塩(酢酸ビスマス、硝酸ビスマス等)とを保護剤と共に混合した混合溶液に硫黄又は硫黄化合物を添加して反応させることで、保護剤が結合したAgBiSナノ粒子が合成される。また、AgSナノ粒子については、上記と同様のAg塩に保護剤と共に硫黄化合物(チオ尿素、硫黄)を混合・反応させることで合成可能である。いずれのナノ粒子も合成後に反応液から分離し、適宜に洗浄を行った後に分散媒に添加することでインクとすることができる。
【0036】
基材へのインクの塗布方法は、特に限定されない。但し、半導体ナノ粒子を均一に基材上に堆積させるため、スピンコート法が好ましい。このインクの塗布は、2回以上繰り返し行うことが好ましい。塗布の条件については、回転数を500~5000rpm、回転時間を10~300秒で行うことが好ましい。
【0037】
半導体薄膜の形成は、塗布後の半導体ナノ粒子層を200℃以上350℃で焼成することが好ましい。焼成処理により基材上の半導体ナノ粒子(AgBiSナノ粒子、AgSナノ粒子)の結晶性が向上し、結晶子径を上述した好適範囲にすることができる。焼成処理の加熱温度は、200℃以上350℃以下とするのが好ましい。200℃未満では、粒子表面に吸着した保護剤が十分に揮発しないため粒子周囲の電荷に偏りが生じ、量子閉じ込め効果が阻害されるおそれがある。一方、350℃を超えると、過剰な結晶化により結晶子径が大きくなる。また、半導体化合物の分解によるAgの析出や、所望の化学組成から乖離した化合物の生成のおそれがある。この焼成処理は、不活性ガス(窒素、アルゴン等)で行うことが好ましく、処理時間としては0.5時間以上とするのが好ましい。
【0038】
B-2 ナノロッド粒子の修飾工程
上記のようにして基板上に半導体薄膜を形成した後、半導体薄膜表面にAu、Agナノロッド粒子を修飾する。これらのナノロッド粒子の生成方法については、既に公知であり、逆ミセル法、電気化学的成長法、コロイド成長法(シード媒介成長法等のいくつかの製造プロセスが知られている。ナノロッド粒子の製造方法として好ましい方法としては、コロイド成長法である。コロイド成長法は、比較的簡易な装置でナノロッド粒子を生成することでき、生成条件を適切に管理することで、アスペクト比の調整が可能な方法である。
【0039】
コロイド成長法によるナノロッド粒子の製造方法について、一例としてAuのナノロッド粒子の製造法を説明する。Auナノロッド粒子のコロイド成長法では、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、硝酸銀(AgNO)、塩化金酸(HAuCl)、水からなる成長溶液と称される溶液が使用される。成長液には前記成分の他に界面活性剤を添加することもある。そして、成長液にシード(種子)となるコロイド粒子を加えると共に、アスコルビン酸やヒドロキノン等の還元剤を添加し、成長液中のAuイオン(Au3+)の還元を行いつつAu粒子を成長させる。シードとなるコロイド粒子としては、AuコロイドやAgコロイドが適用される。シードであるコロイド粒子は、塩化白金酸又は硝酸銀等の金属塩とCTABとの水溶液に還元剤(水素化ホウ素ナトリウム等)を添加することで生成可能である。成長液にシードを加えるのは、還元されたAuイオンを速やかに金属Au(0価)にし、ロッド粒子の成長を促進するためである。コロイド成長法におけるナノロッド粒子の製造では、シードの添加量や成長液の組成や還元剤添加後の反応時間等を調整することでアスペクト比を調節することが可能である。
【0040】
また、コロイド成長法によりナノロッド粒子が生成した後の合成系(合成溶液)には、目的となるアスペクト比のナノロッド粒子以外に、球形・矩形・不定形の粒子が含まれることがある。よって、ナノロッド粒子生成後の合成系については、精製を行い所望のナノロッド粒子を分離回収することが好ましい。この精製方法としては、遠心分離が好ましく、アスペクト比に応じた回転速度(rpm)又は遠心力(xg)と処理時間を設定することで所望のナノロッド粒子を回収することができる。そして、このようにして生成・回収したナノロッド粒子のアスペクト比が、半導体薄膜を修飾するナノロッド粒子のアスペクト比となる。
【0041】
ナノロッド粒子の半導体薄膜への修飾は、ナノロッド粒子を適宜の分散媒に分散させて、分散液を薄膜へ塗布することで可能である。このときの分散媒としては、水、アルコール、カルボン酸溶液、アミン塩溶液、テトラヒドロフラン、クロロホルム等の水系・有機系分散媒が使用できる。ナノロッド粒子の分散液を塗布する方法としては、特に限定されることはなく、滴下・噴霧・浸漬等の方法でも良いが、スピンコート法により均一塗布することが好ましい。尚、Auナノロッド粒子とAgナノロッド粒子の双方を同時に修飾する場合、半導体薄膜への修飾前に、Auナノロッド粒子の分散液とAgナノロッド粒子の分散液とを混合した混合分散液を塗布しても良い。また、いずれか一方のナノロッド粒子の分散液を塗布し、その後に他方のナノロッド粒子の分散液を塗布する段階的な方法であっても良い。
【0042】
以上の焼成工程を経ることでナノロッド粒子により修飾された半導体薄膜が形成される。そして、半導体薄膜と電気的接続を可能とする配線を適宜に形成することで光電変換素子材料とすることができる。
【発明の効果】
【0043】
以上説明したように、本発明は、Au及び/又はAgのナノロッド粒子で修飾され、金属カルコゲナイドであるAg2-xBix+1(xは0又は1の整数)で構成された半導体薄膜を備える光電変換素子材料に関する。この半導体薄膜は、前記金属カルコゲナイドの半導体ナノ粒子により構成されており、近赤外領域における光応答性を有する。そして、その表面がナノロッド粒子で修飾されたことで、ナノロッド粒子の局在表面プラズモン共鳴により、近赤外領域の波長における光応答性が向上している。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】第1実施形態で製造した各光電変換素子材料のPL測定結果を対比するグラフ。
図2】第1実施形態で製造した各光電変換素子材料の光応答性の評価試験の結果を示すグラフ。
図3】第2実施形態で製造した各光電変換素子材料のPL測定結果を対比するグラフ。
図4】第2実施形態で製造した各光電変換素子材料の光応答性の評価試験の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0045】
第1実施形態:以下、本発明の実施形態について説明する。本実施形態では、基材にAgBiSからなる半導体薄膜を形成し、この半導体薄膜をAuナノロッド粒子(実施例1)、Agナノロッド粒子(実施例2)で修飾して光電変換素子材料を製造した。そして、これら光電変換素子材料の光応答特性の評価を行った。
【0046】
[AgBiS半導体薄膜の形成]
AgBiSナノ粒子のインクを基材に塗布・焼成して半導体薄膜を形成することで光電変換素子材料を製造した。
【0047】
インクを構成するAgBiSナノ粒子の製造は、まず、酢酸銀(Ag(OAc))133.5mgと酢酸ビスマス(Bi(OAc))386mgとオレイン酸5.5mLとを混合して100℃で1時間攪拌した。そして、この混合液にオレイルアミン5mLに硫黄33mgを溶解させたものを添加して反応させることでAgBiSナノ粒子を合成した。その後、反応液を分離抽出・遠心分離してAgBiSナノ粒子を回収し、分散媒であるトルエンに添加してインクとした(ナノ粒子濃度0.04M)。
【0048】
基材として、シリコンウエハー(寸法:25×25厚さ0.6mm)を用意して上記のAgBiSナノ粒子インクを塗布した。インクの塗布はスピンコート法により行い、基材上にインクを滴下して回転数2000rpm(30秒)で塗布して半導体層を形成した。本実施形態では、この塗布工程を3回繰り返し、1回の塗布量を0.1mL(ナノ粒子の質量2.8mg)とした。
【0049】
AgBiSインク塗布後、焼成処理により半導体薄膜を形成した。焼成処理は、窒素雰囲気中、300℃で0.5時間の加熱を行った。
【0050】
AgBiS 薄膜へのAu、Agナノロッド粒子の修飾と光電変換素子材料の作製
次に、上記で成膜したAgBiS薄膜の表面をAuナノロッド粒子(実施例1)、Agナノロッド粒子(実施例2)で修飾した。
【0051】
Auナノロッド粒子は、コロイド粒子成長法にて製造した。本実施形態では、極大吸収波長940nm(アスペクト比5.9)のAuナノロッド粒子を製造目標とした。まず、0.5mMの塩化金酸塩水溶液0.5mLと200mMのCTAB水溶液0.5mLとの混合溶液に、還元剤である10mMの水素化ホウ素ナトリウムを60μL添加し、ボルテックスで2分間激しく攪拌して種粒子となるAuコロイド粒子の溶液(種粒子溶液)を製造した。
【0052】
次に、1mMの塩化金酸塩水溶液0.5mL及び100mMの硝酸銀水溶液7μLと200mMのCTAB水溶液0.5mLとの混合溶液を成長液として調整した。この水溶液に100mMのヒドロキノン50μLを添加し、更に上記で製造したAuコロイド粒子溶液(種粒子溶液)を32μL添加し混合した。その後、30℃にて一晩(16時間)静置しAuナノロッド粒子を生成させた。その後、Auナノロッド粒子を含む分散液を遠心分離してペレッティングして回収し精製水に分散させた。このAuナノロッド粒子の水溶液を0.1容、100mMのCTAB溶液を0.01容、500mMのベンジルジメチルアンモニウムクロリド(BDAC)溶液を0.4容とし、ここに精製水を加えて全体で1容となるようにした。この溶液を30℃で一晩(16時間)静置した後、副生成物を含む上澄みを除去し、底面に沈殿したAuナノロッド粒子を回収した。
【0053】
Agナノロッド粒子もコロイド粒子成長法で製造した。本実施形態では、極大吸収波長940nm(アスペクト比5.3)のAgナノロッド粒子を製造目標とした。まず、50mMのクエン酸ナトリウム50μLと0.5mM ポリビニルピロリドンを3μL、5mM L-アルギニンを5μL,20μLの硝酸銀を700μLの水に加えよく混合した。この混合溶液に、還元剤である100mMの水素化ホウ素ナトリウムを8uL添加し、ボルテックスで2分間激しく攪拌してAgコロイド粒子の溶液(種粒子溶液)を製造した。
【0054】
次に、上記の種粒子溶液に青色ダイオードアレイランプを16時間照射して正十面体銀ナノ粒子を生成した。その後、生成した正十面体銀ナノ粒子溶液1mLを遠心分離して上澄みを除去し、500μLの水に分散させて精製した。
【0055】
そして、水1mL、クエン酸ナトリウム200μL、33μLの0.5mMポリビニルピロリドンを20mLのガラスバイアルに入れ、電子レンジで100Wの出力で1分間予熱して成長液を作製した。この水溶液に上記で精製した正十面体銀ナノ粒子溶液500μLと10mMの硝酸銀200μLを加えて混合し、更に15分加熱しAgナノロッド粒子を得た。
【0056】
ナノロッド粒子による修飾は、上記で製造したAu、Agナノロッド粒子を分散媒に分散させた分散液を半導体薄膜に塗布することで行った。本実施形態では、分散媒を精製水とし、分散液中のAuナノロッド粒子およびAgナノロッド粒子の濃度(質量基準)を5.0nMに調整した分散液を作製した。このナノロッド粒子の分散液を塗布して、被修飾AgBiS薄膜を製造した。各ナノロッド粒子分散液の塗布はスピンコーターにより、塗布条件として、1μLのナノロッド溶液を30秒間2000rpmで塗布した。
【0057】
AgBiS薄膜に各ナノロッド粒子の分散液を塗布し、乾燥した後には、薄膜表面にくし形電極を形成して光電変換素子(受光素子)を製造した。くし形電極は、各ナノロッド粒子で修飾されたAgBiS薄膜の表面に対して、Ti膜(膜厚5nm)、Au膜(膜厚40nm)の順にくし形へパターニングして形成した。
【0058】
[フォトルミネッセンス測定]
本実施形態で製造した光電変換素子材料(実施例1:Auナノロッド+AgBiS、実施例2:Agナノロッド+AgBiS)について、光半導体特性の予備的評価としてフォトルミネッセンス(PL)測定を行った。PL測定は、測定装置として株式会社堀場製作所LabRam Aramisを用い、測定条件として500~1000nmの範囲を測定とした。
【0059】
図1に各光電変換素子材料のPL測定結果を示す。AuおよびAgナノロッド粒子のプラズモンピークである950nm前後においてPLが増大することが確認された。
【0060】
[光応答特性の評価]
本実施形態で製造した光電変換素子材料について、光応答特性を評価した。この評価試験では、実施例1(Auナノロッド+AgBiS)及び実施例2(Agナノロッ+AgBiS)に加え、ナノロッド粒子による修飾をしていない比較例1(AgBiSのみ)の3種類の光電変換素子材料を作製した。上記と同様に、それぞれの半導体薄膜の表面に、Ti膜(膜厚5nm)、Au膜(膜厚40nm)の順にくし形へ熱蒸着法にてパターニングして電極を形成してサンプルを作製した。
【0061】
そして、各サンプルについて、電極に接続したマルチメーターで0.5Vのバイアス電圧を負荷し、近赤外線光源のパルス照射に伴う光電流を測定した。近赤外線の波長は、940nmとし、近赤外線のパルス照射は、20秒ON/40秒OFFとした。
【0062】
この光電流測定結果を図2に示す。Au、Agナノロッド粒子で修飾したAgBiS薄膜は、修飾の無いAgBiS薄膜に対して、有為に光応答性の向上が見られることが分かる。Auナノロッド粒子とAgナノロッド粒子の修飾の効果について比較すると、Auナノロッド粒子合の方が増感効果は高くノイズも少ない。但し、この差異に関しては、Agナノロッド粒子の分散をより均一にすることで改善されると考えられるので、Agナノロッド粒子による増感効果を否定するものではない。
【0063】
第2実施形態:本実施形態では、AgSからなる半導体薄膜を備え、半導体薄膜をAuナノロッド粒子(実施例3:Auナノロッド+AgS)及びAgナノロッド粒子(実施例4:Agナノロッド+AgS)で修飾して光電変換素子材料を製造し、評価した。
【0064】
[AgS半導体薄膜の形成]
AgSナノ粒子のインクを基材に塗布して半導体薄膜を形成し光電変換素子材料を製造した。
【0065】
インクを構成するAgSナノ粒子は、酢酸銀134mgとチオ尿素30.5mgとオレイルアミン11.8mLとドデカンチオール0.2mLを混合し混合液を200℃で10分間攪拌し反応させることで製造した。合成反応後、混合液を放置して冷却した後、分離抽出・遠心分離してAgSナノ粒子を回収した。これを分散媒であるトルエンに添加してAgSナノ粒子インクとした(ナノ粒子濃度0.04M)。
【0066】
そして、第1実施形態と同様に、基材であるシリコンウエハーにインクを塗布した。インクの塗布方法は、第1実施形態と同様にした。AgSインク塗布後は第1実施形態と同様に、焼成処理を行って半導体薄膜を形成した。焼成処理は、窒素雰囲気中、300℃の処理温度とした。
【0067】
Ag S薄膜へのAu、Agナノロッド粒子の修飾と光電変換素子材料の作製
上記で成膜したAgS半導体薄膜について、第1実施形態と同様に、半導体薄膜表面をAuナノロッド粒子(実施例3)及びAgナノロッド粒子(実施例4)で修飾した。各ナノロッド粒子分散液の塗布はスピンコーターにより、塗布条件として、1μLのナノロッド溶液を30秒間2000rpmで塗布した。
【0068】
[フォトルミネッセンス測定]
本実施形態で製造したAgS薄膜を備える光電変換素子材料のPL測定結果を図3に示す。本実施形態でもAu、Agナノロッド粒子の修飾によって、PLが増大することわかる。
【0069】
[光応答特性の評価]
そして、本実施形態で製造したAgSからなる半導体薄膜を備える光電変換素子材料について、光応答特性を評価した。ここでは、第1実施形態におけるバイアス条件下(0.5V)での光電流測定と同様のサンプル及び測定条件にて、実施例3(Auナノロッド+AgS)及び実施例4(Agナノロッド+AgS)に加え、ナノロッド粒子による修飾をしていない比較例2(AgS薄膜のみ)の3種類の光電変換素子材料について光電流を測定した。
【0070】
本実施形態で製造した光電変換素子材料の光電流測定結果を図4に示す。本実施形態でもナノロッド粒子修飾を実施した光電変換素子材料において特に良好な光電流の増幅が見られた。第1実施形態(AgBiS半導体薄膜)と同様に、Auナノロッド粒子による修飾によって、AgS半導体薄膜は強い光応答性を示すことが確認された。Agナノロッド粒子を修飾したAgS半導体薄膜でも修飾無しのAgS半導体薄膜と比較して強い光応答を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0071】
以上説明したように、本発明に係る光電変換素子材料では、金属カルコゲナイドであるAg2-xBix+1(xは0又は1の整数)からなる半導体薄膜を適用すると共に、この半導体薄膜をAuナノロッド粒子及び/又はAgナノロッド粒子で表面修飾している。本発明の半導体薄膜は、目的の波長に対して発現する局在表面プラズモン共鳴を利用して応答特性が向上されている。本発明は、各種光半導体デバイスの受光素子用の光電変換薄膜として特に有用であり、LIDARやイメージセンサ用途の受光素子として、それらの小型化や性能向上に寄与することが期待できる。
図1
図2
図3
図4