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特開2023-176078セメント組成物、及びセメント組成物の強度発現性推定方法
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  • 特開-セメント組成物、及びセメント組成物の強度発現性推定方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176078
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】セメント組成物、及びセメント組成物の強度発現性推定方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 28/02 20060101AFI20231206BHJP
   C04B 18/16 20230101ALI20231206BHJP
   G01N 33/38 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C04B28/02
C04B18/16
G01N33/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088166
(22)【出願日】2022-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和4年4月20日 「第76回セメント技術大会講演要旨」 一般社団法人セメント協会において公開 令和4年5月18日 「第76回セメント技術大会」において公開
(71)【出願人】
【識別番号】521297587
【氏名又は名称】UBE三菱セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091904
【弁理士】
【氏名又は名称】成瀬 重雄
(72)【発明者】
【氏名】須山 裕介
(72)【発明者】
【氏名】山下 牧生
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA30
(57)【要約】
【課題】セメント硬化体を含んでおり、高い強度発現性を有するセメント組成物を提供する。
【解決手段】セメントに対するセメント硬化体の質量比は、1質量%以上25質量%以下とされている。セメント硬化体の製造に使用されたセメントに含まれる酸化カルシウム量をA〔質量%〕、セメント硬化体中の炭酸カルシウム量をB〔質量%〕、セメント硬化体の強熱減量をC〔%〕、セメント硬化体の製造に使用されたセメントの強熱減量をD〔%〕とした場合における[(B/A)×(酸化カルシウムの分子量/炭酸カルシウムの分子量)×{(100-D)/(100-C)}]の値が0.40以上であり、あるいは/かつ、セメント硬化体のシリカゲル含有率が3.0質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セメントとセメント硬化体とを含んでおり、前記セメントに対する前記セメント硬化体の質量比が1質量%以上25質量%以下であるセメント組成物であって、
前記セメント硬化体の製造に使用されたセメントに含まれる酸化カルシウム量をA〔質量%〕、前記セメント硬化体中の炭酸カルシウム量をB〔質量%〕、前記セメント硬化体の強熱減量をC〔%〕、前記セメント硬化体の製造に使用されたセメントの強熱減量をD〔%〕とした場合における[(B/A)×(酸化カルシウムの分子量/炭酸カルシウムの分子量)×{(100-D)/(100-C)}]の値が0.40以上であり、
あるいは/かつ、
前記セメント硬化体のシリカゲル含有率が3.0質量%以上であることを特徴とするセメント組成物。
【請求項2】
セメントとセメント硬化体と水とを混練することにより製造されるセメント混練物の圧縮強さを、下記の指標に基づいて推定する方法であって、
前記指標は、前記セメント硬化体の製造に使用されたセメントに含まれる酸化カルシウム量をA〔質量%〕、前記セメント硬化体中の炭酸カルシウム量をB〔質量%〕、前記セメント硬化体の強熱減量をC〔%〕、前記セメント硬化体の製造に使用されたセメントの強熱減量をD〔%〕とした場合における[(B/A)×(酸化カルシウムの分子量/炭酸カルシウムの分子量)×{(100-D)/(100-C)}]の値であることを特徴とするセメント混練物の圧縮強さ推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セメント組成物、及びセメント組成物の強度発現性推定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1に記載のように、加熱処理したコンクリート廃棄物に対してすりもみ処理を行うことにより、このコンクリート廃棄物から再生骨材を製造する技術が知られている。このすりもみ処理の工程では、コンクリート廃棄物から、副産物としての粉末状のセメント硬化体が発生する。このセメント硬化体を有効に利用するために、下記特許文献2では、ポルトランドセメントとセメント硬化体とを含むセメント組成物が提案されている。
【0003】
ところで、このセメント硬化体の組成と、このセメント硬化体を用いて製造したセメント組成物の強度発現性との関係については、未だ十分な研究がなされていない。現状では、このようなセメント組成物を用いて製造されたモルタル又はコンクリートの圧縮強さが所望の程度に到達するかは、そのモルタル又はコンクリートの圧縮強さを実際に測定するまで不明である。
【0004】
そして、測定した圧縮強さが所望の程度を下回っている場合、製造したセメント組成物、あるいは、そのセメント組成物を用いて製造したモルタル又はコンクリートを廃棄せざるを得なくなるため、これらの製造に要した時間及び費用が無駄になってしまう。このようなリスクがあると、すりもみ処理の副産物である粉末状のセメント硬化体の有効利用が十分に進まないおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-26459号公報
【特許文献2】特開平5-238790号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明者は、セメント硬化体の組成と、このセメント硬化体を含むセメント組成物の強度発現性との関係について研究を行った。その結果、セメント硬化体の組成を示す所定の指標と、このセメント硬化体を含むセメント組成物の強度発現性とが正の相関を有するとの知見を得た。本発明は、この知見に基づいてなされたものであって、セメント硬化体を含んでおり、高い強度発現性を有するセメント組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、セメント硬化体を含むセメント組成物の強度発現性を推定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るセメント組成物は、セメントとセメント硬化体とを含んでいる。前記セメントとしては、例えば、JIS R 5210に規定されるポルトランドセメント、あるいは、混合セメントを使用することができる。ポルトランドセメントとしては、例えば、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメントを使用することができる。また、混合セメントとしては、例えば、JIS R 5211に規定される高炉セメント、あるいは、JIS R 5213に規定されるフライアッシュセメントを使用することができる。
【0008】
前記セメントに対する前記セメント硬化体の質量比は、1質量%以上25質量%以下とされている。前記セメント硬化体の製造に使用されたセメントに含まれる酸化カルシウム量をA〔質量%〕、前記セメント硬化体中の炭酸カルシウム量をB〔質量%〕、前記セメント硬化体の強熱減量をC〔%〕、前記セメント硬化体の製造に使用されたセメントの強熱減量をD〔%〕とした場合における[(B/A)×(酸化カルシウムの分子量/炭酸カルシウムの分子量)×{(100-D)/(100-C)}]の値が0.40以上とされており、あるいは/かつ、前記セメント硬化体のシリカゲル含有率が3.0質量%以上とされている。
【0009】
本発明に係る方法は、セメントとセメント硬化体とを含むセメント組成物の強度発現性を推定するものである。具体的には、この方法は、セメントとセメント硬化体と水とを混練することにより製造されるセメント混練物の圧縮強さを、下記の指標に基づいて推定するものである。この指標は、前記セメント硬化体の製造に使用されたセメントに含まれる酸化カルシウム量をA〔質量%〕、前記セメント硬化体中の炭酸カルシウム量をB〔質量%〕、前記セメント硬化体の強熱減量をC〔%〕、前記セメント硬化体の製造に使用されたセメントの強熱減量をD〔%〕とした場合における[(B/A)×(酸化カルシウムの分子量/炭酸カルシウムの分子量)×{(100-D)/(100-C)}]の値とされている。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係るセメント組成物によれば、セメント硬化体を含むセメント組成物の強度発現性を高めることができる。本発明に係る方法によれば、セメント硬化体を含むセメント組成物の強度発現性を推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るセメント混練物の圧縮強さ推定方法の手順を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
まず、本発明の一実施形態に係るセメント組成物について説明する。このセメント組成物は、セメントとセメント硬化体とを含んでいる。ここで、このセメント組成物に含まれるセメント、及びセメント硬化体の製造に使用されたセメントとしては、例えば、「JIS R 5210:2009」に規定されるポルトランドセメント(一例としては普通ポルトランドセメント)が挙げられる。セメント硬化体とは、セメントと水とを混練することにより製造されるセメント混練物の硬化体を意味している。セメント混練物としては、例えば、セメントペースト、モルタル又はコンクリートが挙げられる。
【0013】
セメント硬化体の粉末度は、本実施形態に係るセメント組成物に含まれるセメントと同等以上であることが好ましい。具体的には、セメント硬化体のブレーン比表面積が2500cm2/g以上であり、セメント硬化体の最大粒径が300μm以下であることが好ましい。
【0014】
本実施形態に係るセメント組成物において、セメントに対するセメント硬化体の質量比は、1質量%以上25質量%以下(好ましくは、1質量%以上20質量%以下)とされている。このセメント組成物は、下記の条件1又は条件2の少なくともいずれかを満たしている。
【0015】
条件1:セメント硬化体の炭酸化度が0.40以上とされている。セメント硬化体の炭酸化度とは、セメント硬化体の製造に使用されたセメントに含まれる酸化カルシウム量をA〔質量%〕、セメント硬化体中の炭酸カルシウム量をB〔質量%〕、セメント硬化体の強熱減量をC〔%〕、セメント硬化体の製造に使用されたセメントの強熱減量をD〔%〕とした場合における[(B/A)×(酸化カルシウムの分子量/炭酸カルシウムの分子量)×{(100-D)/(100-C)}]の値である。
条件2:セメント硬化体のシリカゲル含有率が3.0質量%以上とされている。
【0016】
セメント硬化体の炭酸化度の具体的な範囲としては、例えば、0.40以上0.85以下である。また、セメント硬化体のシリカゲル含有率の具体的な範囲としては、例えば、3.0質量%以上9.0質量%以下である。
【0017】
本実施形態に係るセメント組成物を製造する方法の一例を以下に説明する。まず、コンクリート廃棄物から再生骨材を製造する工程(例えば、特許文献1参照)において、コンクリート廃棄物から発生する粉末状のセメント硬化体を回収する。次に、回収したセメント硬化体を、このセメント硬化体の質量の2倍以上20倍以下の質量の水と混合する。さらに、これにより得られた水中のセメント硬化体に対し、120分以上480分以下の間(好ましくは240分以上480分以下の間)、二酸化炭素ガス(例えば、二酸化炭素濃度20%)を供給する。ここで、二酸化炭素ガスの供給量については、例えば、セメント硬化体の質量1gに対し、16mL/分の流量となるように調整する。
【0018】
次に、本発明の一実施形態に係るセメント混練物の圧縮強さ推定方法について説明する。この方法は、図1に示すように、算出工程S1と、推定工程S2とを備えている。
【0019】
算出工程S1においては、対象とするセメント硬化体の炭酸化度を算出する。ここで、セメント硬化体の炭酸化度とは、上述したように、セメント硬化体の製造に使用されたセメントに含まれる酸化カルシウム量をA〔質量%〕、セメント硬化体中の炭酸カルシウム量をB〔質量%〕、セメント硬化体の強熱減量をC〔%〕、セメント硬化体の製造に使用されたセメントの強熱減量をD〔%〕とした場合における[(B/A)×(酸化カルシウムの分子量/炭酸カルシウムの分子量)×{(100-D)/(100-C)}]の値である。
【0020】
算出工程S1において、上記の変数A~Dについては、例えば、次のように取得する。
A:セメントをセメント硬化体の製造に使用する前に、JIS A 5204「蛍光X線によるセメントの化学分析方法」に準拠して、このセメントに含まれる酸化カルシウムの質量比を蛍光X線分析により取得する。
B:セメント硬化体に含まれる炭酸カルシウムの質量をTG-DTA(熱重量・示差熱同時測定)により取得する。さらに、この炭酸カルシウムの質量比に、炭酸カルシウムに対する酸化カルシウムの分子量比を掛ける。
C:上記Bを取得するためのTG-DTAにより、セメント硬化体の強熱減量を併せて取得する。
D:セメントをセメント硬化体の製造に使用する前に、このセメントの強熱減量をJIS R 5202:2015「セメントの化学分析方法」に基づいて取得する。
【0021】
推定工程S2においては、算出工程S1において対象としたセメント硬化体と、セメントと、水とを混練することにより製造されるセメント混練物の圧縮強さを推定する。本明細書において、圧縮強さとは、例えば、材齢7日以上のセメント混練物の圧縮強さであり、JIS R 5201「セメントの物理試験方法」に拠り測定されるものである。セメント硬化体の炭酸化度とセメント混練物の圧縮強さとは正の相関を有している。このため、推定工程S2においては、セメント硬化体の炭酸化度(指標)に基づいてセメント混練物の圧縮強さを推定する。
【0022】
具体的に、推定工程S2においては、例えば、次のような推定を行うことができる。2種類のセメント硬化体の炭酸化度を比較し、炭酸化度の高いセメント硬化体を含むセメント混練物の圧縮強さは、炭酸化度の低いセメント硬化体を含むセメント混練物の圧縮強さよりも高いと推定する。あるいは、セメント硬化体の炭酸化度について基準値(例えば0.40)を設定し、この基準値以上の炭酸化度を有するセメント硬化体を含むセメント混練物の圧縮強さを高いと推定し、この基準値未満の炭酸化度を有するセメント硬化体を含むセメント混練物の圧縮強さを低いと推定する。
【0023】
セメント硬化体を含むセメント混練物の圧縮強さを推定工程S2において高いと推定した場合にのみ、このセメント硬化体とセメントと水とを推定工程S2の実施後に混練すれば、これにより得られるセメント混練物の圧縮強さ(材齢7日及び28日)を高めることができる。
【0024】
次に、下記の表1を参照しながら、セメント硬化体の炭酸化度を高める手段に関する試験例A1~A9について説明する。試験例A1~A9の目的は、セメント硬化体への二酸化炭素の供給手段と、この供給手段により二酸化炭素を供給されたセメント硬化体の炭酸化度との関係を明らかにすることである。
【0025】
【表1】
【0026】
(準備工程:セメント硬化体の作製)
上記の試験例A1~A9の前段階で本準備工程を実施した。具体的には、普通ポルトランドセメント100質量部と水30質量部とを混合することによりセメントペーストを作製した。次に、このセメントペーストを湿度60%温度20℃の環境で28日間養生した。さらに、これによって得られたセメント硬化体を粉砕することにより、粉末状のセメント硬化体(粒径300μm以下)を作製した。
【0027】
(試験例A1~A9の概要)
試験例A1においては、上記の準備工程において作製したセメント硬化体の炭酸化度を算出した。また、試験例A2~A9においては、上記の準備工程で作製したセメント硬化体に種々の手段により二酸化炭素を供給した後、これにより得られたセメント硬化体の炭酸化度を算出した。
【0028】
(試験例A1~A9の具体的手順)
試験例A1においては、準備工程で作製したセメント硬化体の一部を採取した。そして、採取したセメント硬化体に含まれる炭酸カルシウムの質量と、このセメント硬化体の強熱減量とをTG-DTA(熱重量・示差熱同時測定)により測定した。測定範囲は、セメント硬化体の温度を500℃から800℃まで上昇させた時間帯である。これらのデータを用いて、このセメント硬化体の炭酸化度を算出した。TG-DTAについては、準備工程におけるセメント硬化体の作製直後に実施した。
【0029】
試験例A2においては、二酸化炭素の供給手段として、室内での放置(空気中の二酸化炭素との接触)を採用した。具体的には、試験例A2においては、準備工程で作製したセメント硬化体の一部を採取し、採取したセメント硬化体を室内(湿度55%、温度20℃)で42週間放置してから、TG-DTAを実施した。ただし、この42週間の放置期間においては、採取したセメント硬化体の水比を0.2に維持するために、このセメント硬化体に定期的に蒸留水を散布しつつ、このセメント硬化体をかき混ぜた。その他の点については試験例A1と同様である。
【0030】
試験例A3においては、二酸化炭素の供給手段として、空気中での二酸化炭素ガスの供給を採用した。具体的には、試験例A3においては、準備工程で作製したセメント硬化体の一部を採取し、採取したセメント硬化体に二酸化炭素ガス(CO2含有率:20%、N2含有率:80%)を480分間供給してから、TG-DTAを実施した。二酸化炭素ガスの供給量については、セメント硬化体250gに対して4L/分の流量となるように調整した。その他の点については試験例A1と同様である。
【0031】
試験例A4~A9においては、二酸化炭素の供給手段として、水中での二酸化炭素ガスの供給を採用した。具体的には、試験例A4~A9においては、準備工程で作製したセメント硬化体の一部を採取し、採取したセメント硬化体と所定量の水とを容器内に投入し、これにより得られた水中のセメント硬化体に上記二酸化炭素ガスを所定時間供給した後、このセメント硬化体を水中から取り出し、取り出したセメント硬化体を乾燥炉において110℃の環境で24時間放置した。その後、乾燥炉から取り出したセメント硬化体についてTG-DTAを実施した。なお、二酸化炭素ガスの供給量は、試験例A3と同様である。その他の点については試験例A1と同様である。
【0032】
(試験例A1~A9の条件及び結果)
表1は、試験例A1~A9の条件及び結果を示している。表1に示す「水比(-)」の項目においては、試験例A4~A9それぞれについて、容器内に投入したセメント硬化体に対する水の質量比を示している。表1に示す「二酸化炭素の供給時間」の項目においては、試験例A2についてはセメント硬化体を室内で放置した時間、試験例A3~A9それぞれについてはセメント硬化体に上記二酸化炭素ガスを供給した時間を示している。表1に示す「炭酸化度(-)」の項目においては、試験例A1~A9において算出したセメント硬化体の炭酸化度(-)を示している。
【0033】
(考察)
表1において、二酸化炭素ガスの供給時間が480分である試験例A3~A5及びA9を比較すると、水比が2である試験例A5と、水比が20である試験例A9とにおいては、セメント硬化体に水を供給していない試験例A3と、水比が1である試験例A4とに比較して、セメント硬化体の炭酸化度が大きくなっている。
【0034】
表1において、水比が20である試験例A6~A9を比較すると、二酸化炭素ガスの供給時間が240分以上である試験例A7~A9においては、二酸化炭素ガスの供給時間が240分未満である試験例A6よりも、セメント硬化体の炭酸化度が大きくなっている。
【0035】
つまり、セメント硬化体の炭酸化度を高めるには、このセメント硬化体に対し、このセメント硬化体の質量の2倍以上20倍以下の質量の水を供給し、さらに、これにより得られる水中のセメント硬化体に対し、240分以上480分以下の間、二酸化炭素ガスを供給することが好ましい。
【0036】
次に、下記の表2を参照しながら、本発明の一実施形態に係るセメント組成物の試験例B1~B9について説明する。試験例B1~B9の目的は、セメント組成物に含まれるセメント硬化体のシリカゲル含有率及び炭酸化度と、このセメント組成物の強度発現性との関係を明らかにすることである。
【0037】
【表2】
【0038】
(試験例B1~B9の概要)
試験例B1~B9においては、種々のシリカゲル含有率及び炭酸化度を有するセメント硬化体を種々の混合率で普通ポルトランドセメントと混合し、これにより得られたセメント組成物から製造したモルタルの圧縮強さ(材齢3日、7日及び28日)を測定した。
【0039】
(試験例B1~B9の具体的手順)
1.シリカゲル含有率の測定
試験例B1~B3においては、試験例A9において乾燥炉から取り出したセメント硬化体の一部を採取し、採取したセメント硬化体に含まれるシリカゲルをサリチル酸メタノール、塩酸及び水酸化カリウムにより溶出させ、シリカゲルを溶出させた液体のシリカゲル含有量をICP発光分析(RFパワー:1KW、測定波長:251.611nm)により測定した。さらに、この測定値に基づいて、このセメント硬化体のシリカゲル含有率を算出した。
【0040】
2.圧縮強さの測定
また、試験例B1~B3においては、試験例A9において乾燥炉から取り出したセメント硬化体の一部を採取し、採取したセメント硬化体と普通ポルトランドセメントとを内割で所定の割合で混合した。さらに、これにより得られた混合物(セメント組成物)について、JIS R 5201:2015「セメントの物理試験方法」に準じてモルタル(セメント混練物)を成型し、材齢3日、7日及び28日におけるモルタルの圧縮強さ(セメント組成物の強度発現性)を測定した。
【0041】
試験例B4~B6においては、試験例A2において室内で放置した後のセメント硬化体の一部を採取し、採取したセメント硬化体を用いて、上記シリカゲル含有率と上記圧縮強さとを測定した。その他の点については試験例B1~B3と同様である。
【0042】
試験例B7~B9においては、準備工程で作製したセメント硬化体の一部を採取し、採取したセメント硬化体を用いて、上記シリカゲル含有率と上記圧縮強さとを測定した。その他の点については試験例B1~B3と同様である。
【0043】
(試験例B1~B9の条件及び結果)
表2は、試験例B1~B9の条件及び結果を示している。表2に示す「シリカゲル含有率(%)」の項目においては、試験例B1~B9において測定したセメント硬化体のシリカゲル含有率を示している。表2に示す「混合率(%)」の項目においては、試験例B1~B9における、普通ポルトランドセメントに対するセメント硬化体の質量比を示している。表2に示す「圧縮強さ(N/mm2)」の項目においては、試験例B1~B9における、材齢3日、7日及び28日のモルタルの圧縮強さを示している。
【0044】
(考察)
表2において、セメント硬化体の混合率が5%である試験例B1、B4及びB7を比較すると、セメント硬化体のシリカゲル含有率が3.0%以上であり、セメント硬化体の炭酸化度が0.40以上である試験例B1及びB4においては、セメント硬化体のシリカゲル含有率が3.0%未満であり、セメント硬化体の炭酸化度が0.40未満である試験例B7よりも、モルタルの圧縮強さ(材齢7日及び28日)が高くなっている。さらに、セメント硬化体の混合率が10%である試験例B2、B5及びB8を比較しても、あるいは、セメント硬化体の混合率が20%である試験例B3、B6及びB9を比較しても、同様の傾向が見られる。
【0045】
つまり、セメント(例えば、普通ポルトランドセメント)とセメント硬化体とを含んでおり、セメントに対するセメント硬化体の質量比が1質量%以上25質量%以下(好ましくは、1質量%以上20質量%以下)であるセメント組成物において、このセメント硬化体の炭酸化度が0.40以上であるか、または、このセメント硬化体のシリカゲル含有率が3.0質量%以上であれば、このセメント組成物の強度発現性を高めることができる。
【0046】
表2において、セメント硬化体の混合率が5%である試験例B1、B4及びB7を比較すると、セメント硬化体の炭酸化度が増加するにつれて、モルタルの圧縮強さ(材齢7日及び28日)が増加している。さらに、セメント硬化体の混合率が10%である試験例B2、B5及びB8を比較しても、あるいは、セメント硬化体の混合率が20%である試験例B3、B6及びB9を比較しても、同様の傾向が見られる。
【0047】
つまり、セメント硬化体の炭酸化度を算出すれば、このセメント硬化体を用いて実際にモルタル(セメント混練物)を製造して7日間又は28日間待機しなくても、このモルタルの圧縮強さ(材齢7日及び28日)の強弱を上記炭酸化度に基づいて推定することができる。例えば、炭酸化度0.30のセメント硬化体を用いて製造するモルタルの圧縮強さ(材齢28日)と、炭酸化度0.50のセメント硬化体を用いて製造するモルタルの圧縮強さ(材齢28日)とでは、後者の圧縮強さの方が高いと推定することができる。
図1