(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176116
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】溶湯湯面の皮膜評価装置、および、溶湯湯面の皮膜評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
G01N3/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088223
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100142424
【弁理士】
【氏名又は名称】細川 文広
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】坂本 敏夫
(72)【発明者】
【氏名】谷口 兼一
(72)【発明者】
【氏名】徳永 仁史
(72)【発明者】
【氏名】本山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】岡根 利光
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA02
2G061AB03
2G061AC01
2G061AC03
2G061BA04
2G061CA01
2G061DA01
2G061DA05
2G061EA01
2G061EB03
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】溶湯の表面に形成される皮膜の性状を、比較的容易に評価することができ、湯流れ性を評価することが可能な溶湯湯面の皮膜評価装置を提供する。
【解決手段】長手方向が上下を向くように配設された透明石英管11と、透明石英管11の内部に配設され、溶湯1を保持する坩堝20と、透明石英管11の外側に配設され、坩堝20内の溶湯1を加熱可能な高周波加熱コイル30と、坩堝20の上方に配設され、剛体棒41に支持された測定子40と、坩堝20と測定子40との相対位置を調整する相対位置調整手段50と、測定子40に負荷された荷重を測定する荷重測定手段60と、を有し、相対位置調整手段50によって坩堝20と測定子40とを近接離反させることにより、坩堝20内に保持された溶湯1に測定子40を挿入および離脱するとともに、測定子40の挿入および離脱時において測定子40に負荷される荷重を測定し、皮膜の性状を評価する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯の湯面に形成される皮膜の性状を評価する溶湯湯面の皮膜評価装置であって、
長手方向が上下を向くように配設された透明石英管と、
前記透明石英管の内部に配設され、前記溶湯を保持する坩堝と、
前記透明石英管の外側に配設され、前記坩堝内の前記溶湯を加熱可能な高周波加熱コイルと、
前記坩堝の上方に配設され、剛体棒に支持された測定子と、
前記坩堝と前記測定子との相対位置を調整する相対位置調整手段と、
前記測定子に負荷された荷重を測定する荷重測定手段と、
を有し、
前記相対位置調整手段によって前記坩堝と前記測定子とを近接離反させることにより、前記坩堝内に保持された前記溶湯に前記測定子を挿入および離脱するとともに、前記測定子の挿入および離脱時に前記測定子に負荷される荷重を測定し、前記皮膜の性状を評価することを特徴とする溶湯湯面の皮膜評価装置。
【請求項2】
前記透明石英管内部のガス雰囲気を調整するガス雰囲気調整手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の溶湯湯面の皮膜評価装置。
【請求項3】
前記坩堝内の前記溶湯の温度を測定する温度測定手段を備えていることを特徴とする請求項1に記載の溶湯湯面の皮膜評価装置。
【請求項4】
前記相対位置調整手段は、前記坩堝が載置されたステージを昇降させる昇降手段であることを特徴とする請求項1に記載の溶湯湯面の皮膜評価装置。
【請求項5】
前記坩堝が載置されるステージに、前記坩堝の位置を案内する位置決めガイド部が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の溶湯湯面の皮膜評価装置。
【請求項6】
前記測定子の前記溶湯に挿入される端面の面積が1mm2以上300mm2以下の範囲内とされていることを特徴とする請求項1に記載の溶湯湯面の皮膜評価装置。
【請求項7】
溶湯湯面に形成される皮膜の性状を評価する溶湯湯面の皮膜評価方法であって、
請求項1から請求項6のいずれか一項に記載の溶湯湯面の皮膜評価装置を用いて、前記坩堝内に収容された前記溶湯内に前記測定子を挿入および離脱するとともに、前記測定子の挿入および離脱時に前記測定子に負荷される荷重を測定し、前記皮膜の性状を評価することを特徴とする溶湯湯面の皮膜評価方法。
【請求項8】
測定された前記測定子に負荷される荷重から、前記皮膜の強度を算出することを特徴とする請求項7に記載の溶湯湯面の皮膜評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶湯の表面に形成される皮膜の性状を評価する溶湯湯面の皮膜評価装置、および、溶湯湯面の皮膜評価方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
型鋳造、連続鋳造、ダイカスト等の金属溶湯を用いた各種製造プロセスにおいては、溶湯の湯流れ性が重要となる。溶湯の湯流れ性が悪くなると、溶湯が型の内部に十分に行き渡らず、製品不良が生じるおそれがあった。
従来、溶湯の湯流れ性については、溶湯の粘性によって評価されていた。しかしながら、溶湯の表面に形成される酸化膜等の皮膜の性状によって、湯流れ性が大きく影響を受けることが指摘されている。すなわち、溶湯の表面に形成される皮膜が厚く、強度(剛性や破断強度)が高いと、湯流れ性が低下することになる。
【0003】
そこで、例えば、非特許文献1,2には、金属溶湯の表面に形成された皮膜の性状を評価した結果が開示されている。
非特許文献1においては、
図1に示すように、電気炉内に配置された坩堝内に金属溶湯を保持し、この金属溶湯の表面に、白金ワイヤーで支持した測定子を挿入し、測定子に係る荷重を測定することにより、皮膜の強度を評価している。
非特許文献2においては、金属溶湯の表面に回転ディスクを当接し、皮膜の性状を評価している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】S.A.Impey et ; Materiaks Science and Technology ; December 1988 Vol.4 ; 1126-1132
【非特許文献2】MARTIN SYVERTSEN ; METALLURGICAL AND MATERIALS B ; VOLUME37B.JUNE 2006 ; 495-504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、非特許文献1においては、加熱手段として電気炉を用いていることから、原料を溶解して金属溶湯を形成するとともに金属溶湯を所定温度にまで加熱して保持するために長い時間を要することになる。また、比較的融点の低い金属材料しか評価できなかった。さらに、金属溶湯が収容された坩堝が電気炉内に配置されているので、金属溶湯の湯面を観察することが困難であった。また、白金ワイヤーで支持した測定子を用いているので、振動によって測定子に掛かる荷重の測定値が大きく変動するおそれがあった。
また、非特許文献2においては、構造が複雑であり、容易に皮膜の評価を行うことができなかった。
【0006】
本発明は、以上のような事情を背景としてなされたものであって、溶湯の表面に形成される皮膜の性状を、比較的容易に評価することができ、溶湯の湯流れ性を的確に評価することが可能な溶湯湯面の皮膜評価装置、および、溶湯湯面の皮膜評価方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この課題を解決するために、本発明の態様1は、溶湯の湯面に形成される皮膜の性状を評価する溶湯湯面の皮膜評価装置であって、長手方向が上下を向くように配設された透明石英管と、前記透明石英管の内部に配設され、前記溶湯を保持する坩堝と、前記透明石英管の外側に配設され、前記坩堝内の前記溶湯を加熱可能な高周波加熱コイルと、前記坩堝の上方に配設され、剛体棒に支持された測定子と、前記坩堝と前記測定子との相対位置を調整する相対位置調整手段と、前記測定子に負荷された荷重を測定する荷重測定手段と、を有し、前記相対位置調整手段によって前記坩堝と前記測定子とを近接離反させることにより、前記坩堝内に保持された前記溶湯に前記測定子を挿入および離脱するとともに、前記測定子の挿入および離脱時に前記測定子に負荷される荷重を測定し、前記皮膜の性状を評価することを特徴としている。
【0008】
この態様の溶湯湯面の皮膜評価装置においては、剛体棒によって支持された測定子を溶湯内に挿入および離脱するとともに、前記測定子の挿入および離脱時に前記測定子に負荷される荷重を測定することで、前記皮膜の性状を評価する構成とされているので、測定子における荷重測定において振動の影響を小さく抑えることができ、測定子に掛かる荷重を精度良く測定することが可能となる。
また、高周波加熱コイルを備えているので、前記坩堝内の前記溶湯を短時間で局所的に加熱することができるとともに、高融点の金属であっても溶融して皮膜の評価を行うことができる。
さらに、透明石英管の内部に坩堝が配設されているので、坩堝内の溶湯を観察することができる。
【0009】
本発明の態様2は、態様1の溶湯湯面の皮膜評価装置において、前記透明石英管内部のガス雰囲気を調整するガス雰囲気調整手段を備えていることを特徴としている。
この態様の溶湯湯面の皮膜評価装置においては、前記透明石英管内部の雰囲気制御を行うことができ、皮膜の評価を精度良く行うことができる。
【0010】
本発明の態様3は、態様1または態様2の溶湯湯面の皮膜評価装置において、前記坩堝内の前記溶湯の温度を測定する温度測定手段を備えていることを特徴としている。
この態様の溶湯湯面の皮膜評価装置においては、温度測定手段を備えているので、溶湯の温度を考慮して皮膜の性状を評価することが可能となる。
【0011】
本発明の態様4は、態様1から態様3のいずれか一つの溶湯湯面の皮膜評価装置において、前記相対位置調整手段は、前記坩堝が載置されたステージを昇降させる昇降手段であることを特徴としている。
この態様の溶湯湯面の皮膜評価装置においては、測定子を固定した状態で、前記坩堝が載置されたステージを昇降させることにより、前記坩堝内に保持された前記溶湯内に前記測定子を挿入および離脱することができ、測定子に振動が加わることをさらに抑制でき、測定子に掛かる荷重をさらに精度良く測定することが可能となる。
【0012】
本発明の態様5は、態様1から態様4のいずれか一つの溶湯湯面の皮膜評価装置において、前記坩堝が載置されるステージに、前記坩堝の位置を案内する位置決めガイド部が形成されていることを特徴としている。
この態様の溶湯湯面の皮膜評価装置においては、位置決めガイド部によって坩堝の位置が案内されることから、測定子を溶湯表面に確実に挿入することができ、測定子に掛かる荷重をさらに精度良く測定することが可能となる。
【0013】
本発明の態様6は、態様1から態様5のいずれか一つの溶湯湯面の皮膜評価装置において、前記測定子の前記溶湯に挿入される端面の面積が1mm2以上300mm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
この態様の溶湯湯面の皮膜評価装置においては、前記測定子の前記溶湯に挿入される端面の面積が1mm2以上300mm2以下の範囲内とされていることから、測定子を溶湯表面に挿入した際に、測定子に掛かる荷重をさらに精度良く測定することが可能となる。
【0014】
本発明の態様7は、溶湯湯面に形成される皮膜の性状を評価する溶湯湯面の皮膜評価方法であって、態様1から態様6のいずれか一つの溶湯湯面の皮膜評価装置を用いて、前記坩堝内に収容された前記溶湯内に前記測定子を挿入および離脱するとともに、前記測定子の挿入および離脱時に前記測定子に負荷される荷重を測定し、前記皮膜の性状を評価することを特徴としている。
【0015】
この態様の溶湯湯面の皮膜評価方法によれば、態様1から態様6のいずれか一つの溶湯湯面の皮膜評価装置を用いているので、前記坩堝内に収容された前記溶湯内に前記測定子を挿入および離脱する際に、前記測定子に負荷される荷重を精度良く測定することが可能となる。
また、高周波加熱コイルを備えているので、前記坩堝内の前記溶湯を短時間で局所的に加熱することができるとともに、高融点の金属であっても溶融して皮膜の評価を行うことができる。
さらに、透明石英管の内部に坩堝が配設されているので、坩堝内の溶湯を観察することができる。
【0016】
本発明の態様8は、態様7の溶湯湯面の皮膜評価方法において、測定された前記測定子に負荷される荷重から、前記皮膜の強度を算出することを特徴としている。
この態様の溶湯湯面の皮膜評価方法によれば、溶湯湯面に形成された前記皮膜の強度を算出することにより、溶湯の湯流れ性を十分に評価することが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶湯の表面に形成される皮膜の性状を、比較的容易に評価することができ、溶湯の湯流れ性を的確に評価することが可能な溶湯湯面の皮膜評価装置、および、溶湯湯面の皮膜評価方法を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置の概略説明図である。
【
図2】測定子を湯面に挿入および離脱させた際の湯面の状態と測定荷重との関係を示す説明図である。(a)が測定子の湯面挿入および離脱時の模式図であり、(b)が測定子の湯面挿入および離脱時の荷重変化の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明の一実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置、および、溶湯湯面の皮膜評価方法について説明する。
【0020】
本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置、および、溶湯湯面の皮膜評価方法は、金属溶湯の湯面に形成される皮膜の状態を評価するものである。
【0021】
本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置10は、
図1に示すように、長手方向が上下を向くように配設された透明石英管11と、透明石英管11の内部に配設された坩堝20と、透明石英管11の外側に配設され、坩堝20を加熱可能な高周波加熱コイル30と、坩堝20の上方に配設され、剛体棒からなる支持部材41に支持された測定子40と、坩堝20と測定子40との相対位置を調整する相対位置調整手段50と、測定子40に負荷された荷重を測定する荷重測定手段60と、を備えている。
【0022】
透明石英管11は、透明性を有するものとされており、透明石英管11の内部を観察可能な構造とされている。そして、この透明石英管11は、上述のように、長手方向が上下を向くように配設されており、上端開口部および下端開口部が、それぞれ上端封止部材12および下端封止部材13によって封止されている。
また、透明石英管11には、内部にガスを導入するガス導入口15と、内部のガスを排出するガス排出口16とが設けられている。
【0023】
透明石英管11の内部には、上下動可能なステージ51が配設されており、このステージ51の上に、溶湯1を保持する坩堝20が配設されている。
このステージ51には、載置された坩堝20の位置を案内する位置決めガイド部52が形成されており、ステージ51を上下動させた際の坩堝20の位置ずれを抑制可能な構造とされている。
【0024】
透明石英管11の外側に配設された高周波加熱コイル30は、坩堝20内に保持された溶湯1を加熱可能な構成とされている。本実施形態においては、上述のように、ステージ51上に載置された坩堝20が上下動することから、坩堝20の移動可能域を考慮して、高周波加熱コイル30が配設されている。
【0025】
なお、本実施形態においては、高周波加熱コイル30によって坩堝20内に保持された溶湯1を加熱する構成とされていることから、坩堝20の構造は、保持する溶湯1の材質に応じて適宜設計することになる。例えば、溶湯1が銅溶湯などの高周波によって直接加熱することができないものである場合には、坩堝20をアルミナ坩堝とカーボン坩堝の2重構造とし、高周波加熱コイル30でカーボン坩堝を加熱し、坩堝20内に保持された銅溶湯を加熱する構成とする。
【0026】
坩堝20の上方に配設され、坩堝20内に保持された溶湯1の湯面に挿入される測定子40は、溶湯1に対して耐性を有する材質で構成されていることが好ましく、本実施形態では、耐熱性に優れたモリブデンで構成されている。
この測定子40は、剛体棒からなる支持部材41によって支持されている。本実施形態では、透明石英管11の上端封止部材12に固定されたアルミナ管が、測定子40を支持する支持部材41とされている。
【0027】
また、本実施形態においては、測定子40の溶湯に挿入される端面の面積が1mm2以上300mm2以下の範囲内とされていることが好ましい。
さらに、測定子40は、測定子40に負荷された荷重を測定する荷重測定手段60が接続されている。本実施形態では、荷重測定手段60は、測定子40の重さを測定する電子秤とされている。
【0028】
そして、本実施形態の溶湯湯面の皮膜評価装置10においては、坩堝20と測定子40との相対位置を調整する相対位置調整手段50を有しており、この相対位置調整手段50によって坩堝20と測定子40とを近接離反させることにより、坩堝20内に保持された溶湯1に測定子40を挿入および離脱する構成とされている。
ここで、本実施形態においては、相対位置調整手段50は、坩堝20が載置されたステージ51を上下動させる昇降手段とされている。
【0029】
また、本実施形態においては、坩堝20内に保持された溶湯1の温度を測定する温度測定手段70として熱電対が配設されている。
さらに、本実施形態においては、透明石英管11の内部のガス雰囲気を調整するガス雰囲気調整手段80を備えている。このガス雰囲気調整手段80は、透明石英管11に設けられたガス導入口15から透明石英管11の内部に雰囲気ガスを導入することで、透明石英管11の内部のガス雰囲気を調整する構成とされている。
【0030】
以下に、本実施形態の溶湯湯面の皮膜評価装置10を用いた溶湯湯面の皮膜評価方法について説明する。
【0031】
まず、溶湯1となる原料を装入した坩堝20を、透明石英管11の内部に配設されたステージ51の上に載置する。また、坩堝20の上方に測定子40を配設する。
次に、透明石英管11の上端開口部および下端開口部を上端封止部材12および下端封止部材13によって封止し、ガス雰囲気調整手段80によって、透明石英管11の内部のガス雰囲気を調整する。
次に、高周波加熱コイル30を用いて坩堝20内の原料を溶解して溶湯1を得る。温度測定手段70によって、溶湯1の温度を測定し、所定温度にまで加熱して保持する。
【0032】
そして、相対位置調整手段50によって、坩堝20と測定子40とを近接離反させることにより、坩堝20内に保持された溶湯1に測定子40を挿入および離脱する。本実施形態では、昇降手段によってステージ51を上昇および下降させることにより、測定子40を溶湯1に挿入および離脱する構成とされている。
荷重測定手段60によって、測定子40を溶湯1に挿入および離脱時に、測定子40に負荷される荷重を測定し、皮膜3の性状を評価する。
なお、本実施形態においては、測定された測定子40に負荷される荷重から、皮膜3の強度を算出する構成とされている。
【0033】
ここで、坩堝20内に保持された溶湯1に測定子40を挿入および離脱した際の湯面の性状と測定荷重との関係を、
図2を用いて説明する。
図2(a)が模式図、
図2(b)が模式図に対応した測定子40に掛かる荷重の変化を示すグラフである。このグラフは、横軸が時間、縦軸が荷重である。
なお、測定子40を溶湯1の湯面に挿入する前の状態においては、
図2(b)に示すように、荷重測定手段60における測定値は、測定子40の自重によって測定される荷重を0Nとしている。
【0034】
まず、相対位置調整手段50(昇降手段)によって坩堝20を上昇させて、溶湯1の湯面に測定子40を挿入する。すると、
図2(a)の(1),(2)に示すように、溶湯表面に形成された皮膜3が下方に押し込まれる。このとき、皮膜3によって測定子40が支持されることになり、
図2(b)の(1),(2)に示すように、測定子40に掛かる荷重が大きく低下する。
【0035】
さらに、相対位置調整手段50(昇降手段)によって坩堝20を上昇させて、溶湯1の湯面に測定子40をさらに深く挿入していく。すると、
図2(a)の(3)に示すように、皮膜3が破れ、溶湯1内に測定子40が挿入される。皮膜3が破れた際には、
図2(b)の(3)に示すように、測定子40が皮膜3によって支持されなくなるため、荷重が大きく上昇する。
【0036】
さらに、相対位置調整手段50(昇降手段)によって坩堝20を上昇させて、溶湯1内に測定子40をさらに深く挿入していく。すると、
図2(a)の(4)に示すように、溶湯1内に挿入された測定子40には浮力が作用する。これにより、
図2(b)の(4)に示すように、荷重が0Nにまでには戻らずに一定の荷重で保持されることになる。
【0037】
次に、相対位置調整手段50(昇降手段)によって坩堝20を下降させて、溶湯1内から測定子40を引き抜く。すると、
図2(b)の(5)に示すように、測定子40に作用する浮力が減少し、荷重が上昇していく。また、測定子40を溶湯1から完全に引き抜くと、測定子40に溶湯が付着するため、荷重は0Nよりも大きくなる。
そして、
図2(a)の(6)に示すように、付着した溶湯が落下し、荷重測定手段60で測定される荷重が0Nに戻る。
【0038】
ここで、
図3に、測定された測定子40に負荷される荷重から皮膜3の強度を算出する方法について説明する。
図2(a)の(1),(2)に示すように、皮膜3が下方に押し込まれると、皮膜3が破断する前には、
図3に示すように、皮膜3によって溶湯1が押し下げられる。測定子40には、押し下げられた分の浮力が働くことになる。
【0039】
よって、
図3の式(非特許文献1参照)に示すように、測定子40に掛かる荷重の測定値F
1は、皮膜抵抗力(右辺の第1項)と、浮力(右辺の第2項)とにより表すことができる。
そして、
図3の式により、測定子40の浸漬深さxと、測定子40に掛かる荷重の測定値F
1から、皮膜3の破断強度σを算出することが可能となる。
【0040】
このように、本実施形態における溶湯湯面の皮膜評価装置10および溶湯湯面の皮膜評価方法においては、上述のように、坩堝20内に保持された溶湯1に測定子40を挿入および離脱するとともに、測定子40の挿入および離脱時に、測定子40に負荷される荷重を測定することにより、皮膜3の性状を評価することが可能となる。
【0041】
以上のような構成とされた本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置10によれば、剛体棒からなる支持部材41によって支持された測定子40を溶湯1内に挿入および離脱するとともに、測定子40の挿入および離脱時において測定子40に負荷される荷重を測定することで、皮膜3の性状を評価する構成とされているので、測定子40における荷重測定において振動の影響を小さくすることができ、測定子40に掛かる荷重を精度良く測定することが可能となる。
【0042】
また、溶湯1の加熱手段として高周波加熱コイル30を備えているので、短時間で溶湯1を局所的に加熱することができるとともに、高融点の金属であっても溶融して皮膜3の評価を行うことができる。
さらに、透明石英管11の内部に坩堝20が配設されているので、坩堝20内の溶湯1の状態を観察することができる。
【0043】
また、本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置10において、透明石英管11内部のガス雰囲気を調整するガス雰囲気調整手段80を備えている場合には、坩堝20が配置される透明石英管11内部の雰囲気制御を容易に行うことができ、溶湯湯面に形成された皮膜3の評価を精度良く行うことができる。
【0044】
さらに、本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置10において、坩堝20内の溶湯の温度を測定する温度測定手段70を備えている場合には、溶湯1の温度を考慮して皮膜3の性状(破断強度)を評価することが可能となる。
【0045】
また、本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置10において、相対位置調整手段50が、坩堝20が載置されたステージ51を昇降させる昇降手段である場合には、測定子40を固定した状態で、坩堝20が載置されたステージ51を昇降させることにより、坩堝20内に収容された溶湯1内に測定子40を挿入および離脱することができ、測定子40に振動が加わることをさらに抑制でき、測定子40に掛かる荷重をさらに精度良く測定することが可能となる。
【0046】
さらに、本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置10において、坩堝20が載置されるステージ51に、坩堝20の位置を案内する位置決めガイド部52が形成されている場合には、位置決めガイド部52によって坩堝20の位置が案内されることから、測定子40を溶湯表面に確実に挿入することができ、測定子40に掛かる荷重をさらに精度良く測定することが可能となる。
【0047】
また、本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置10において、測定子40の溶湯1に挿入される端面の面積が1mm2以上300mm2以下の範囲内とされている場合には、測定子40を溶湯表面に挿入した際に、測定子40に掛かる荷重をさらに精度良く測定することが可能となる。
【0048】
本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価方法においては、上述の溶湯湯面の皮膜評価装置10を用いているので、坩堝20内に収容された溶湯1内に測定子40を挿入および離脱する際に、測定子40に負荷される荷重を精度良く測定することが可能となる。
また、高周波加熱コイル30を備えているので、短時間で局所的に加熱することができるとともに、高融点の金属であっても溶融して皮膜3の評価を行うことができる。
さらに、透明石英管11の内部に坩堝20が配設されているので、坩堝20内の溶湯1を観察することができる。
【0049】
本実施形態である溶湯湯面の皮膜評価方法において、測定された測定子40に負荷される荷重から、
図3に示す式を用いて皮膜3の強度を算出する構成とした場合には、皮膜3の強度を精度良く測定することができ、この皮膜3の強度から、湯の湯流れ性を十分に評価することが可能となる。
【0050】
以上、本発明の実施形態である溶湯湯面の皮膜評価装置および溶湯湯面の皮膜評価方法について説明したが、本発明はこれに限定されることはなく、その発明の技術的思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 溶湯
3 皮膜
10 溶湯湯面の皮膜評価装置
11 透明石英管
20 坩堝
30 高周波加熱コイル
40 測定子
41 支持部材
50 相対位置調整手段
51 ステージ
52 位置決めガイド部
60 荷重測定手段
70 温度測定手段
80 ガス雰囲気調整手段