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特開2023-176194荷電粒子ビーム装置、荷電粒子ビームシステム、調整方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176194
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】荷電粒子ビーム装置、荷電粒子ビームシステム、調整方法
(51)【国際特許分類】
   H01J 37/244 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
H01J37/244
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088354
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】趙 金雨
(72)【発明者】
【氏名】土肥 歩未
(72)【発明者】
【氏名】山内 葵
(72)【発明者】
【氏名】高橋 秀一郎
【テーマコード(参考)】
5C101
【Fターム(参考)】
5C101AA03
5C101GG03
5C101GG49
5C101HH25
5C101HH26
5C101HH63
(57)【要約】
【課題】ハードウェアの違い、例えば同一装置のハードウェアの経時的劣化による信号強度の変化、または、異なる装置間における信号強度の違いを補正する。
【解決手段】本開示に係る調整方法は、同じ荷電粒子ビーム装置における異なる時点間の、または、異なる荷電粒子ビーム装置間の、検出信号強度と増幅ゲインとの間の対応関係を比較することにより、比較対象と同じ検出信号強度が得られるような増幅ゲインを特定する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対して荷電粒子ビームを照射する荷電粒子ビーム装置が備える増幅部の増幅ゲインを調整する調整方法であって、
前記荷電粒子ビーム装置は、
前記荷電粒子ビームを照射する照射部、
前記試料に対して前記荷電粒子ビームを照射することにより前記試料から生じる2次粒子を検出してその強度を表す検出信号を出力する検出器、
前記検出信号を増幅する増幅部、
前記増幅部による増幅ゲインを調整するゲイン調整部、
を備え、
前記調整方法は、
第1の前記荷電粒子ビーム装置における前記検出信号の強度と前記増幅ゲインとの間の第1時点の第1対応関係を取得するステップ、
前記第1の荷電粒子ビーム装置における前記検出信号の強度と前記増幅ゲインとの間の前記第1時点よりも後の第2時点の、または、第2の前記荷電粒子ビーム装置における前記検出信号の強度と前記増幅ゲインとの間の前記第2時点の、第2対応関係を取得するステップ、
前記第1対応関係と前記第2対応関係を比較することにより、前記第1時点における前記第1の荷電粒子ビーム装置の、または、前記第2時点における前記第2の荷電粒子ビーム装置の、前記検出信号と同等の計測精度または感度が得られる検出信号強度が前記第1の荷電粒子ビーム装置上で前記第2時点において得られるような、前記第1荷電粒子ビーム装置における前記増幅ゲインを特定してその結果を出力するステップ、
を有する
ことを特徴とする調整方法。
【請求項2】
前記荷電粒子ビーム装置はさらに、前記検出信号のオフセットを調整するオフセット調整部を備え、
前記調整方法はさらに、前記第1の荷電粒子ビーム装置上で前記第1時点において、または、前記第2の荷電粒子ビーム装置上で前記第2時点において、
前記試料に対して前記荷電粒子ビームが照射されない状態において、前記オフセットを変化させながら前記検出信号の最小値を取得するステップ、
前記最小値がゼロ以上の規定値よりも大きくなる前記オフセットを特定するステップ、
前記特定した前記オフセットを用いて前記第1対応関係を参照することにより、前記増幅ゲインに対応する前記検出信号の第1強度を取得するステップ、
を実施することによって取得した前記第1強度を取得するステップを有し、
前記増幅ゲインを特定するステップにおいては、前記第1強度が前記第2時点において得られるような前記第1荷電粒子ビーム装置における前記増幅ゲインを特定する
ことを特徴とする請求項1記載の調整方法。
【請求項3】
前記第1強度を取得するステップは、前記第1の荷電粒子ビーム装置上で前記第1時点において、または、前記第2の荷電粒子ビーム装置上で前記第2時点において、
前記第1強度が検出信号上限値以上である場合は、前記オフセットを再変化させて前記第1強度を再取得することにより、前記検出信号上限値未満の前記検出信号が得られる前記増幅ゲインを特定するステップ、
を実施した結果を取得する
ことを特徴とする請求項2記載の調整方法。
【請求項4】
前記調整方法はさらに、前記第1の荷電粒子ビーム装置上で前記第1時点において、または、前記第2の荷電粒子ビーム装置上で前記第2時点において、
前記試料に対して前記荷電粒子ビームを照射している状態において、前記増幅ゲインを変化させながら前記検出信号の最大値を取得するステップ、
前記最大値が目標値の前後の所定範囲内となる前記増幅ゲインを取得するステップ、
前記取得した前記増幅ゲインを用いて前記第1対応関係を参照することにより、前記取得した増幅ゲインに対応する前記検出信号の第1強度を取得するステップ、
を実施することによって取得した前記第1強度を取得するステップを有し、
前記増幅ゲインを特定するステップにおいては、前記第1強度が前記第2時点において得られるような前記第1荷電粒子ビーム装置における前記増幅ゲインを特定する
ことを特徴とする請求項1記載の調整方法。
【請求項5】
前記第1強度を取得するステップは、前記第1の荷電粒子ビーム装置上で前記第1時点において、または、前記第2の荷電粒子ビーム装置上で前記第2時点において、
前記第1強度が検出信号上限値以上である場合は、前記増幅ゲインを再変化させて前記第1強度を再取得することにより、前記検出信号上限値未満の前記検出信号が得られる前記増幅ゲインを特定するステップ、
を実施した結果を取得する
ことを特徴とする請求項4記載の調整方法。
【請求項6】
前記荷電粒子ビーム装置はさらに、前記検出信号のオフセットを調整するオフセット調整部を備え、
前記調整方法はさらに、
前記試料に対して前記荷電粒子ビームが照射されない状態において、前記オフセットを変化させながら前記検出信号の最小値を取得するステップ、
前記最小値がゼロ以上の規定値よりも大きくなる前記オフセットを特定するステップ、
前記特定した前記オフセットおよび前記特定した前記増幅ゲインを用いて前記試料の観察画像を生成するステップ、
を有する
ことを特徴とする請求項1記載の調整方法。
【請求項7】
前記調整方法はさらに、
前記第1の荷電粒子ビーム装置における前記検出信号の第1最大値を取得するステップ、
前記第2の荷電粒子ビーム装置における前記検出信号の第2最大値を取得するステップ、
を有し、
前記増幅ゲインを特定するステップにおいては、前記第1最大値と前記第2最大値のうち小さい方が前記第1の荷電粒子ビーム装置において得られるように、前記増幅ゲインを特定する
ことを特徴とする請求項1記載の調整方法。
【請求項8】
前記調整方法はさらに、
前記第1対応関係が閾値以上変化した時点または前記第1対応関係を取得してから所定時間が経過した時点のうち少なくともいずれかにおいて前記第1対応関係を再取得するステップ、
前記第2対応関係が閾値以上変化した時点または前記第2対応関係を取得してから所定時間が経過した時点のうち少なくともいずれかにおいて前記第2対応関係を再取得するステップ、
を有する
ことを特徴とする請求項1記載の調整方法。
【請求項9】
前記第1対応関係を取得するステップにおいては、第1校正用試料または前記試料に対して前記荷電粒子ビームを当てることなる前記検出器が取得するミラー2次粒子を前記試料として用いて前記第1対応関係を取得し、
前記第2対応関係を取得するステップにおいては、前記第2の荷電粒子ビーム装置が第2校正用試料または前記試料に対して前記荷電粒子ビームを当てることなる前記検出器が取得するミラー2次粒子を前記試料として用いて取得した前記第2対応関係を取得する
ことを特徴とする請求項1記載の調整方法。
【請求項10】
前記調整方法はさらに、前記第1の荷電粒子ビーム装置における前記増幅ゲインを特定することにより、前記第1の荷電粒子ビーム装置が取得する前記試料の観察画像の輝度値と、前記第2の荷電粒子ビーム装置が取得する前記試料の観察画像の輝度値を、互いに同程度の観察精度が得られる範囲内に揃えるステップを有する
ことを特徴とする請求項1記載の調整方法。
【請求項11】
前記調整方法はさらに、前記取得した前記第1強度を、前記第1の荷電粒子ビーム装置と前記第2の荷電粒子ビーム装置との間で共有することができるデータ内に保存するステップを有する
ことを特徴とする請求項2記載の調整方法。
【請求項12】
前記調整方法はさらに、前記第1強度を記録した前記データを前記第1の荷電粒子ビーム装置と前記第2の荷電粒子ビーム装置との間で共有することにより、前記第1強度を前記第1の荷電粒子ビーム装置と前記第2の荷電粒子ビーム装置との間で共有するステップを有する
ことを特徴とする請求項11記載の調整方法。
【請求項13】
前記調整方法はさらに、前記特定した前記増幅ゲインを用いて前記試料の観察画像を生成するステップを有する
ことを特徴とする請求項1記載の調整方法。
【請求項14】
請求項1記載の調整方法を実行するコンピュータシステムを備えたことを特徴とする荷電粒子ビーム装置。
【請求項15】
請求項1記載の調整方法を実行するコンピュータシステム、
前記第1の荷電粒子ビーム装置、
前記第2の荷電粒子ビーム装置、
を備えることを特徴とする荷電粒子ビームシステム。
【請求項16】
前記コンピュータシステムは、
前記第1の荷電粒子ビーム装置における前記検出信号の第1最大値を取得するステップ、
前記第2の荷電粒子ビーム装置における前記検出信号の第2最大値を取得するステップ、
前記第1最大値と前記第2最大値のうち小さい方を前記第1の荷電粒子ビーム装置と前記第2の荷電粒子ビーム装置との間で共有させるステップ、
を実施し、
前記コンピュータシステムは、前記増幅ゲインを特定するステップにおいては、前記第1最大値と前記第2最大値のうち小さい方が前記第1の荷電粒子ビーム装置において得られるように、前記増幅ゲインを特定する
ことを特徴とする請求項15記載の荷電粒子ビームシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、試料に対して荷電粒子ビームを照射する荷電粒子ビーム装置に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウェハ上に形成された半導体パターンの形状や寸法を計測するために、電子顕微鏡技術が広く用いられている。電子線を半導体パターン試料に対して照射することにより得られる信号は、画像の形態で可視化される場合が一般的である。この画像はその輝度分布が画像深度を効果的に使用するように、オートブライトネス&コントラストコントロール(ABCC)によって取得することが、広く実施されている。しかし、信号強度自体が半導体パターンの形状や寸法などの情報を有する場合があり、この場合は、画像化にあたってその信号強度を一定に維持しておく必要がある。
【0003】
特許文献1は、加速電圧およびプローブ電流値が変わる場合および/または異なる装置で観察する場合においても、原子番号差が同じであれば信号量とコントラストが同じになるような方法を、記載している。特許文献2は、画像処理によって画像信号量とコントラストを調整する方法を記載している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】US7569819
【特許文献2】特許第5798099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、基準試料を特定の加速電圧およびプローブ電流によって計測した信号強度を基準とし、加速電圧、プローブ電流および試料の平均原子番号を変える際に光電子倍増管の動作電圧を調整することにより、信号強度を揃える。特許文献2においては、画像調整部に対して指令を与え、画像の輝度とコントラストを揃える。
【0006】
このように、従来技術においては、計測条件を変更する際や、異なる装置によって取得する信号量間の違いを低減する技術が提案されている。しかし、ハードウェア(例えば検出器や信号増幅器)の劣化により、同じ設定を用いて同じ計測を実施しても同じ信号強度を得ることができない場合がある。
【0007】
本開示は、上記のような課題に鑑みてなされたものであり、ハードウェアの違い、例えば同一装置のハードウェアの経時的劣化による信号強度の変化、または、異なる装置間における信号強度の違いを補正することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る調整方法は、同じ荷電粒子ビーム装置における異なる時点間の、または、異なる荷電粒子ビーム装置間の、検出信号強度と増幅ゲインとの間の対応関係を比較することにより、比較対象と同じ検出信号強度が得られるような増幅ゲインを特定する。
【発明の効果】
【0009】
本開示に係る調整方法によれば、ハードウェアの変更(時間の経過または装置の変更)による影響を補正することにより、同一パターンについて同じ検出信号量を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態1に係る電子顕微鏡1の概略構成を示すブロック図である。
図2】検出信号量と増幅ゲイン指令値との間の関係を表す特性曲線の例である。
図3図2で説明した装置Aにおいて曲線201を取得する手順を説明するフローチャートである。
図4図2で説明した装置Bにおいて試料を観察する手順を説明するフローチャートである。
図5】S305の詳細を説明するフローチャートである。
図6図2と同様のゲイン指令値と検出信号量との間の関係を示す。
図7図6のX_maxを取得する手順を説明するフローチャートである。
図8】実施形態3に係る荷電粒子ビームシステムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<実施の形態1>
図1は、本開示の実施形態1に係る電子顕微鏡1の概略構成を示すブロック図である。電子顕微鏡1は、試料に対して電子ビームを照射することにより観察画像を生成する装置である。電子顕微鏡1は、鏡筒部1000、画像形成システム1100、コンピュータシステム1200、制御システム1300、入力装置1401、出力装置1402、を備える。
【0012】
鏡筒部1000内には、電子ビーム1001を発生する電子銃1002が配置されている。電子ビーム1001はコンデンサレンズ1003によって収束され、対物レンズ1007によって試料1008上にフォーカスされる。電子ビーム1001は偏向器1006によって試料1008上を走査され、信号電子1004が放出され、検出器1005によって検出される。検出器1005は、信号電子1004の強度を表す検出信号を出力する。ステージ1009は、試料1008を保持するとともに、試料1008内の被観察領域を、電子ビーム1001の下に移動させる役割を持つ。鏡筒部1000内には遮断器1010が設置され、電子ビーム1001が試料1008に照射されないようにすることができる。遮断器1010は、電子ビーム1001経路上に障害物を挿入することによって電子ビーム1001を遮断してもよいし、電場ないし磁場を印加することによって電子ビーム1001を偏向して試料1008から退避させることにより遮断してもよい。
【0013】
画像形成システム1100は、信号電子1004を電気信号等に変換する信号変換部材1101、変換された信号を増幅する信号増幅部1102、を備える。信号増幅部1102の増幅ゲインは、増幅ゲイン指示部1103が指定する指示値に基づき、増幅ゲイン調整部の作用によって調節される。信号増幅部1102のオフセットはオフセット調整部1105によって調整される。信号変換部材1101としては、シンチレータ、半導体検出器、固体電子増倍素子(Silicon Photo Multiplier)、Micro Channel Plateなどが代表的な例であるが、これに限らない。信号増幅部1102は、信号変換部材1101の選択によって定まる。シンチレータに対しては光電子増倍管が用いられ、半導体検出器に対してはプリアンプ回路が用いられる。固体電子増倍管とMicro Channel Plateついては、信号変換部材1101が信号増幅部1102を含む場合がある。増幅ゲイン指示部1103が指定する指示値は、必ずしも増幅ゲインと一致するものではない。例えば光電子増倍管について、指示値は光電子増倍管に印加する電圧値を用いるのであって、増幅ゲインは、印加電圧に対して指数的に増大する特性を有する。
【0014】
コンピュータシステム1200は、ストレージ1201、プロセッサ1202、メモリ1203、を備える。ストレージ1201とメモリ1203は、プロセッサ1202が用いるデータを格納する。プロセッサ1202は、画像形成システム1100から検出器1005の検出信号を取得し、これを用いて試料1008の観察画像を生成する。
【0015】
制御システム1300は、鏡筒部1000を制御する電子光学系制御部1301、ステージ1009の動作を制御するステージ制御部1302、を備える。
【0016】
図2は、検出信号量と増幅ゲイン指令値との間の関係を表す特性曲線の例である。ある電子顕微鏡(装置A)において、試料1008から発生した信号電子1004は、検出器1005により検出され、信号変換部材1101を経由して信号増幅部1102により増幅されて信号強度が得られる。この時、増幅ゲイン指示部1103の指定する指示値を変化させながら信号強度を取得することにより、横軸を指示値、縦軸を信号量にとった信号量特性曲線を取得することができる。図2の実線201はその例を示す。
【0017】
装置Aと同じ構成を有する別の電子顕微鏡(装置B)において同じく信号量特性曲線を取得する場合、一般に信号変換部材1101と信号増幅部1102の特性ばらつきによって、同一の試料1008を使用した場合であっても、その曲線は曲線201とは一致せず、例えば破線202のようになる。これは、同一の増幅ゲイン指示値を与えたとしても、装置Bの信号量は装置Aの信号量よりも低くなることに対応する。装置Aにおいて指令値aに対して信号強度Xを得る場合、装置Bにおいては指令値bを用いれば、同一の信号量を得ることができる。ただし必ずしも厳密に同じ信号量でなくともよく、必要な計測精度や感度が得られる範囲内の信号量を各装置において得られればよい。
【0018】
コンピュータシステム1200は、この原理にしたがって、装置AB間において同じ検出信号強度が得られるように、各装置における増幅ゲインを指定する。例えば装置Bにおいて増幅ゲインを調整する場合は、装置Bのコンピュータシステム1200が画像形成システム1100に対してゲインbを指示し、増幅ゲイン指示部1103および増幅ゲイン調整部1104はその指示にしたがってゲインを調整すればよい。装置Aにおいて調整する場合も同様である。
【0019】
このように、複数の装置の信号特性曲線と得るべき信号強度Xをストレージ1201にあらかじめ記憶することにより、それぞれの装置で設定すべき指令値が与えられ、全ての装置において同一の信号強度を得ることができる。装置間において共通して用いる信号量X(またはゲインaとゲインb)をどのように選択すべきかについては、図5において後述する。
【0020】
図3は、図2で説明した装置Aにおいて曲線201を取得する手順を説明するフローチャートである。同様の手順は装置Bにおいて実施してもよい。装置Bにおける信号量特性曲線を他の電子顕微鏡(装置Aを含む)が使用する場合もあるからである。以下図3の各ステップについて説明する。
【0021】
図3:ステップS301~S302)
第1試料(サンプルウエハ)を鏡筒部1000内にロードする(S301)。コンピュータシステム1200は、増幅ゲインを変化させながら検出信号強度を取得することにより、第1基準試料の信号量特性曲線(第1基準信号量特性曲線)を取得する(S302)。第1試料は、観察しようとしている試料である。第1基準試料は、第1試料とは別に、例えば校正用試料としてあらかじめ準備された試料である。
【0022】
図3:ステップS303~S304)
コンピュータシステム1200は、第1試料を計測するために構成されたレシピが指定する関心領域へ、電子ビーム1001の照射位置を移動させる(S303)。具体的には、制御システム1300がステージ位置を照射位置またはその近傍へ移動させるとともに、必要に応じて偏向器1006による偏向量を調整する。コンピュータシステム1200は、電子ビーム1001をスキャンする条件を決定し、ストレージ1201へ格納する(S304)。
【0023】
図3:ステップS305)
コンピュータシステム1200は、増幅ゲイン調整部1104による増幅ゲインおよびオフセット調整部1105によるオフセットを決定する。本ステップは、検出信号のゼロ点調整(オフセット)を実施するとともに、第1試料を観察するために適したゲイン(第1ゲイン)を決定するためのものである。本ステップの詳細は後述する。
【0024】
図3:ステップS306)
コンピュータシステム1200は、S305における第1ゲインを用いて第1基準信号量特性曲線を参照することにより、第1ゲインに対応する第1基準信号値を取得する。コンピュータシステム1200はさらに、第1基準信号量特性曲線上における最大信号量X1_maxを取得する。X1_maxの意義については、複数装置間の最小信号値と関連して後述する。
【0025】
図3:ステップS307)
コンピュータシステム1200は、S306において取得した第1基準信号値がX_max未満であるか否かをチェックする。この条件を充足しない場合は、S305に戻ってオフセットとゲインを再セットする。X_maxの意義については、複数装置間の最小信号値と関連して後述する。
【0026】
図3:ステップS308~S309)
コンピュータシステム1200は、確定した第1基準信号値をストレージ1201へ格納する(S308)。全ての関心領域について、S303~S308を実施する(S309)。
【0027】
図3:ステップS310)
コンピュータシステム1200は、本フローチャートを実施する以前に取得した特性曲線を、後述のS403において新たに取得した特性曲線によって更新するか否かを、例えばユーザによる選択に基づき決定する。
【0028】
図4は、図2で説明した装置Bにおいて試料を観察する手順を説明するフローチャートである。装置Aで試料を観察する場合、図4と同様の手順を用いて実施する。以下図4の各ステップについて説明する。
【0029】
図4:ステップS401~S403)
第2試料(第2サンプルウエハ)を鏡筒部1000内にロードする(S401)。コンピュータシステム1200は、第2試料の観察画像を取得するための撮像条件を読み込み、その条件を各部へセットする(S402)。コンピュータシステム1200は、増幅ゲインを変化させながら検出信号強度を取得することにより、第2基準試料の信号量特性曲線(第2基準信号量特性曲線)を取得する(S403)。第2試料は装置Bにおいて観察しようとしている試料である。第2基準試料は装置Bにおいて第1基準試料と同様の役割を有する試料である。
【0030】
図4:ステップS404~S405)
コンピュータシステム1200は、第2試料を計測するために構成されたレシピが指定する関心領域へ、電子ビーム1001の照射位置を移動させる(S404)。コンピュータシステム1200は、電子ビーム1001をスキャンする条件を読み込み、その条件を各部へセットする(S405)。
【0031】
図4:ステップS406~S407)
コンピュータシステム1200は、図3において確定した第1基準信号値を用いて第2基準信号量特性を参照することにより、第2基準信号量特性において第1基準信号値と同程度の信号強度が得られる第2ゲインを特定する(S407)。コンピュータシステム1200は併せて、第2基準信号量特性曲線上における最大信号量X2_maxを取得する(S406)。
【0032】
図4:ステップS406~S407:補足その1)
装置Aは、図3のフローチャートにより、各装置の最大信号量のうち最も小さいものを得ることができるように(詳細は後述)、増幅ゲイン(第2ゲイン)をセットする。したがってS406において装置Bが取得するX2_maxは、原則としてX_max以下となっている。ただし何らかの原因によりX2_maxがX_maxを超えている場合も考えられる。この場合は図3のフローチャートを改めて実施した後に、図4のフローチャートを再実施すればよい。そのための準備として、S406においてX2_maxを念のため取得しておくこととした。
【0033】
図4:ステップS406~S407:補足その2)
第2ゲインは、装置Bにおいて最初に電子ビーム1001を照射する照射点についてセットすれば足りる。したがってS406~S407は、最初の1回のみ実施すればよく、以後の照射点についてはスキップしてよい。
【0034】
図4:ステップS408)
コンピュータシステム1200は、S407において特定した第2ゲインを画像形成システム1100に対してセットする。さらにコンピュータシステム1200は、S305における第1オフセットと同様の手順により、信号量のゼロ点を調整する。
【0035】
図4:ステップS409~S411)
コンピュータシステム1200は、第2試料の観察画像を取得する(S409)。コンピュータシステム1200は、取得した観察画像を用いて、例えば欠陥の有無などを計測する(S410)。コンピュータシステム1200は、全てのウエハパターンについてS404~S410を実施する(S411)。
【0036】
図5は、S305の詳細を説明するフローチャートである。S305は、図2における信号強度Xとして、計測パターンに適した値をセットするためのステップである。試料信号の信号量を計測する前提として、試料信号(信号電子1004)を遮断した状態で信号量が0に十分近くなるように、オフセットを調整する必要がある。オフセット量が大きすぎると、計測可能な範囲が狭まってしまうし、オフセット量が小さすぎると、信号量の一部が検出されない可能性がある。より適切には、試料信号が検出されないとき、信号量が0よりもわずかに大きいことが望ましい。以下図5の各ステップを説明する。
【0037】
図5:ステップS501~S502)
コンピュータシステム1200は、電子ビーム1001を遮断器1010によって遮断し(S501)、スキャンフレーム数を最小にセットする(S502)。
【0038】
図5:ステップS503~S506)
コンピュータシステム1200は、オフセット調整部1105のオフセットを変化させながら(S503)、検出信号の最小値を特定する(S504)。最小値が規定値以下であればS503に戻ってオフセットを再変化させる(S505:No)。最小値が規定値よりも大きければ(S505:Yes)S506へ進む。ここでいう規定値は、0よりもわずかに大きい値である。コンピュータシステム1200は、オフセット調整部1105のオフセットを設定するとともに、ストレージ1201へ格納する(S506)。
【0039】
図5:ステップS507~S510)
コンピュータシステム1200は、遮断器1010による遮断を解除し(S507)、増幅ゲインを変化させながら(S508)、検出信号の最大値を特定する(S509)。最大値が目標値(または目標値前後の許容範囲±α%以内)である場合は、そのときの増幅ゲインを装置Aにおける第1ゲインとしてセットするとともに、ストレージ1201へ格納する(S511)。目標値を満たさない場合はS508に戻ってゲインを再変化させる。
【0040】
図5:ステップS510:補足)
本ステップにおける目標値は、試料上の観察したい部位の検出信号がピーク時において飽和しないようにセットされたものである。S302において取得する特性曲線のなかに含まれるゲイン値のうちどの値を用いるかによって、検出信号のピークが異なる。観察したい部位の検出信号ピークが飽和しないように、本ステップの目標値をセットする。これにより、第1基準信号量特性曲線のうち、観察したい試料(第1試料)を観察するのに適したゲインを、第1ゲインとして選択することができる。
【0041】
<実施の形態2>
実施形態1では、装置Aと装置Bとの間において同じ検出信号量が得られるような増幅ゲインを特定することを説明した。装置台数がさらに増えると、例えばいずれかの装置において検出信号の最大値が他装置よりも小さいことにより、装置間で同じ検出信号レベルを得る際に制約が生じる場合がある。本開示の実施形態2では、そのような場合においても装置間で検出信号レベルを合わせることができる手法を説明する。各装置の構成は実施形態1と同様である。
【0042】
図6は、図2と同様のゲイン指令値と検出信号量との間の関係を示す。図6においては4つの装置それぞれの特性曲線を併記した。図6における4つ目の特性曲線の最大信号量は、他の装置における特性曲線の最大信号量よりも小さい。したがって他の3つの装置は、4つ目の装置の最大信号量以下の検出信号レベルを得るようにゲイン調整することが望ましい。4つ目の装置はそれ以上の検出信号レベルを得ることができない(それ以上の検出信号レベルを得るようなゲイン調整ができない)からである。そこで各特性曲線の最大信号値のうち最も小さいものをX_maxとしたとき、各装置はX_max以下の検出信号レベルを得るようにゲインをセットする必要がある。S307におけるX_maxとしてこの値を用いることにより、多数装置間においても実施形態1と同様に同じ検出信号レベルを得ることができる。
【0043】
図7は、図6のX_maxを取得する手順を説明するフローチャートである。本フローチャートは、例えば図3のフローチャートを実施する装置(装置間の基準となる信号量を提供する装置)によって実施することができる。あるいは任意の電子顕微鏡装置が実施してその結果を装置間で共有してもよい。
【0044】
コンピュータシステム1200は、各装置における検出信号の最大値(i番目の装置の最大値をXi_maxとする)をそれぞれ取得する(S701~S702)。コンピュータシステム1200は、取得した最大値のうち最も小さいものをX_maxとして特定するとともに、これをストレージ1201へ格納する(S1203)。コンピュータシステム1200は、X_maxを他の電子顕微鏡装置のコンピュータシステム1200に対して送信し、各装置はこれを同様にストレージ1201へ格納する。以後の動作は実施形態1と同様である。
【0045】
<実施の形態3>
図8は、本開示の実施形態3に係る荷電粒子ビームシステムの構成図である。本システムは、実施形態1~2で説明した電子顕微鏡1を複数備える。図3のフローチャートを実施する装置を基準装置1Aと呼び、基準装置1Aの信号量と同じ信号量が得られるようにゲインを調整する装置を補正対象装置(図8における1B、1Cなど)と呼ぶ。本システムはさらに管理コンピュータ800を備える。
【0046】
管理コンピュータ800は、各装置から図2で説明した特性曲線を取得し、さらに実施形態2で説明したXi_maxおよびX_maxを取得する。管理コンピュータ800は例えば各装置において試料を検査する手順を指定するデータ(計測レシピ)を作成し、これを各装置に対して配布する際に、図6で説明したXおよびX_maxを併せて各装置に対して配布することができる。これによりXおよびX_maxを装置間で共有することができる。管理コンピュータ800と同様の役割は、いずれかの電子顕微鏡装置におけるコンピュータシステム1200が実施してもよい。
【0047】
各装置におけるコンピュータシステム1200は、図8右側に示すユーザインターフェースを提示してもよい。全装置信号量上限はX_maxを示す。本装置信号量上限は当該装置における最大信号量を示す。各装置はX_max以下の信号量を得るようにゲインを調整し、これにより信号量設定値はX_max以下となる。X_maxよりも大きい検出信号レベルを用いる計測レシピが設定されたような場合は、その旨の警告を表示してもよい。
【0048】
<実施の形態4>
以上の実施形態においては、装置間で同じ検出信号レベルを得るためにゲインを調整することを説明した。同様のゲイン調整は、同じ装置の異なる時点における検出信号レベルの経時変動を調整するために用いてもよい。すなわち、図2における特性曲線201をある時点(第1時点)において取得し、それ以後の同装置の異なる時点(第2時点)において特性曲線202を取得する。同装置の第1時点におけるゲイン指令値aを、第2時点においてゲイン指令値bへ変更する。これにより、同じ装置の異なる時点における検出信号レベルを、実施形態1~2と同様に維持することができる。各フローチャートを実施する主体については、装置Aを第1時点に読み替えるとともに、装置Bを第2時点に読み替えればよい。
【0049】
コンピュータシステム1200が特性曲線202を取得するタイミングについては、例えば特性曲線の経時変動を生じる典型的な時間間隔ごとに自動取得してもよいし、再取得を促すメッセージを発信することによってこれを促してもよい。
【0050】
コンピュータシステム1200が特性曲線202を取得するタイミングの別例として、検出信号量の変動が所定範囲を超えた場合に特性曲線202の再取得をユーザに促してもよいし、自動で取得してもよい。信号量の変動が所定範囲を超えているかの判定は、特定の増幅ゲインを設定した場合の信号量の変化をモニタすることにより判定してもよいし、特性曲線202上の複数のサンプリング点の変化をモニタすることにより判定してもよいし、ユーザが特性曲線202を取得してこれを特性曲線202と比較することにより判断してもよい。判定基準は、ユーザが任意に決定してもよいし、装置パラメータとしてあらかじめストレージ1201に記憶していてもよい。
【0051】
コンピュータシステム1200は、所定時間間隔で信号量特性曲線を再取得するタイマによって特性曲線202を再取得してもよい。あるいは信号量変化が所定範囲を超えたとき発動するトリガを設けることにより、特性曲線202を再取得してもよい。
【0052】
<本開示の変形例について>
本開示は、上述した実施形態に限定されるものでなく、様々な変形例を含んでいる。例えば、上述した実施形態は、本開示を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備える必要はない。また、ある実施形態の一部を他の実施形態の構成に置き換えることができる。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることもできる。また、各実施形態の構成の一部について、他の実施形態の構成の一部を追加、削除または置換することもできる。
【0053】
以上の実施形態において、画像形成システム1100、コンピュータシステム1200、制御システム1300のうちいずれかまたは全てを単一のコンピュータシステム上に集約してもよい。
【0054】
以上の実施形態において、基準試料(信号量特性曲線を取得するために用いる試料)としては、例えば校正用試料を用いてもよいし、これと同等の標準信号が得られる手段を用いてもよい。例えば試料対して電子ビーム1001を当てることなく(例:試料に対して印加する電界によって電子ビーム1001を反射する)検出器1005が検出するミラー電子は、試料の特性を反映しているので、これを基準試料として代用してもよい。
【0055】
以上の実施形態において、装置Aを基準装置として構成し、装置Bを補正対象装置として構成することを説明した。これらの役割は経時的に入れ替えることもできる。例えば装置Bはある時点においては図4を実施し、別時点においては図3および図5を実施してもよい。あるいは、管理コンピュータ800が全装置について図3図7の動作手順を実施してもよい。
【0056】
以上の実施形態において、荷電粒子ビーム装置の例として電子顕微鏡を説明したが、本開示は電子顕微鏡以外の荷電粒子ビーム装置において用いることもできる。
【0057】
以上の実施形態において、検出信号レベルを装置間において揃えることを説明した。検出信号レベルを揃えることにより、その検出信号を用いて生成する試料観察画像の輝度値を、装置間で揃えることもできる。すなわち、装置間において同程度の観察精度が得られるように、装置間で輝度値を揃えることができる。
【0058】
以上の実施形態において、基準装置(実施形態における装置A)が取得した基準値は、各装置が共有することができるデータ上に保存しておき、これを各装置が共有してもよい。例えば図3において特定する第1ゲインを、各装置が共有可能な計測レシピ上に記録しておき、これを各装置が共有してもよい。
【符号の説明】
【0059】
1:電子顕微鏡
1000:鏡筒部
1001:電子ビーム
1002:電子銃
1003:コンデンサレンズ
1004:信号電子
1005:検出器
1006:偏向器
1007:対物レンズ
1008:試料
1009:ステージ
1010:遮断器
1200:コンピュータシステム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8