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特開2023-176311塗料組成物、およびその硬化物並びにそれを用いた被覆物品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176311
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】塗料組成物、およびその硬化物並びにそれを用いた被覆物品
(51)【国際特許分類】
   C09D 183/04 20060101AFI20231206BHJP
   C09D 5/18 20060101ALI20231206BHJP
   C09D 183/08 20060101ALI20231206BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20231206BHJP
   B27K 3/34 20060101ALI20231206BHJP
   B27K 3/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C09D183/04
C09D5/18
C09D183/08
C09D5/00 Z
B27K3/34 B
B27K3/02 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088526
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003322
【氏名又は名称】大日本塗料株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉井 良介
(72)【発明者】
【氏名】森本 行生
(72)【発明者】
【氏名】若山 恵英
(72)【発明者】
【氏名】梅森 浩
(72)【発明者】
【氏名】櫻田 将至
(72)【発明者】
【氏名】小畑 佑介
【テーマコード(参考)】
2B230
4J038
【Fターム(参考)】
2B230AA07
2B230BA01
2B230BA17
2B230CA14
2B230CA19
2B230CA30
2B230EB01
2B230EB05
2B230EB13
4J038DL031
4J038DL081
4J038GA09
4J038HA406
4J038HA426
4J038HA456
4J038HA486
4J038KA04
4J038KA06
4J038KA08
4J038KA19
4J038MA10
4J038NA01
4J038NA15
4J038PA07
4J038PB05
4J038PC06
(57)【要約】
【課題】 木材等の可燃性基材に難燃性を付与可能であり、塗膜の透明性、耐湿性が良好な塗料組成物を提供すること。
【解決手段】
(A)式(1)で表される単位比で構成されるオルガノポリシロキサン
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
(R1~R3は、水素原子または一つ以上のアミノ基等で置換されていてもよいアルキル基等を表すが、少なくとも一部はアミノ基で置換されたアルキル基等であり、R4は水素原子またはアルキル基を表し、aは0~0.5、bは0~0.5、cは0.2~1.0、dは0~0.5、eは0~3.0、a+b+c+d=1を満たす数である。)
(B)リン系、ホウ素系、マグネシウム系、アルミニウム系、窒素系、アンチモン系およびハロゲン系化合物から選択される一種以上の難燃剤
(C)無機フィラー
を含む塗料組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記式(1)で表される単位比で構成されるオルガノポリシロキサン:100質量部
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環状基で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表すが、上記R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部は、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基であり、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表し、aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0.2~1.0、dは、0~0.5、eは、0~3.0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。)
(B)リン系、ホウ素系、マグネシウム系、アルミニウム系、窒素系、アンチモン系およびハロゲン系化合物から選択される一種以上の難燃剤:50~300質量部、ならびに
(C)無機フィラー:25~150質量部
を含む塗料組成物。
【請求項2】
前記R1、R2およびR3のうち、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基の合計数が、前記式(1)中の全ケイ素原子数に対して50モル%以上である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項3】
前記(B)難燃剤が、リン酸塩およびポリリン酸塩の中から選択される一種以上である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項4】
前記(B)難燃剤が、水溶性のリン酸塩およびポリリン酸塩の中から選択される一種以上と、非水溶性のリン酸塩およびポリリン酸塩の中から選択される一種以上とを含む請求項3記載の塗料組成物。
【請求項5】
前記(C)無機フィラーが、ガラス繊維を含む請求項1記載の塗料組成物。
【請求項6】
前記(C)無機フィラーが、フィロケイ酸塩を含む請求項1記載の塗料組成物。
【請求項7】
前記(C)無機フィラーが、フィロケイ酸塩を含む請求項5記載の塗料組成物。
【請求項8】
前記(A)成分の質量に対する前記(B)成分および前記(C)成分の合計質量の比[(B)+(C)]/(A)が、1.0~4.5である請求項1記載の塗料組成物。
【請求項9】
さらに、(D)シロキサン系レベリング剤を含む請求項1記載の塗料組成物。
【請求項10】
塗料組成物全体に対して、水を20質量%以上含む請求項1記載の塗料組成物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項記載の塗料組成物の硬化物。
【請求項12】
基材の少なくとも一方の面に、直接または1種以上の他の層を介して、請求項1~10のいずれか1項記載の塗料組成物の硬化被膜を被覆してなる被覆物品。
【請求項13】
前記硬化被膜の被覆量が、基材に対して0.1~2.0kg/m2である請求項12記載の被覆物品。
【請求項14】
前記基材が、製材または木質積層材である請求項12記載の被覆物品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料組成物、およびその硬化物並びにそれを用いた被覆物品、さらに詳述すると、木材等の可燃性基材に使用するための難燃塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、炭素固定化や国内資源有効利用の観点から、建築物への木材利用が推進されているが、木材は、可燃性基材であり、難燃性能が求められる用途への使用は大きく制限される。
そういった中、木材に難燃性を付与する技術が種々検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1ではホウ酸等の難燃剤を高濃度に木材に含浸させることで難燃性の付与に成功している。しかし、この系では、木材に吸着した難燃剤が空気中の湿気で溶出又は潮解することで美観が大きく損なわれることが問題となっている。
【0004】
特許文献2では、ホウ素化合物を木材に含浸した後に、木材表面にシロキサン化合物を塗布することで、薬剤の溶脱が抑制可能であることが報告されている。しかし、この手法を用いた場合、木材自身に含まれる水分でホウ素化合物が溶解し、コーティング膜と木材との界面で白華を生じる事例が報告されている。加えて、この手法では、難燃剤の含浸、乾燥、表面塗装と多くの工程が必要であり、製造コストの増加は免れない。
【0005】
特許文献3では、木材表面にシリカを主成分とするプライマー成分を塗工し、その上から水ガラスを塗工することで、難燃剤を木材に含浸することなく木材に難燃性を付与する技術が報告されている。しかし、上記手法は、木材表面にプライマー塗料を塗工した後に水ガラスを塗工しなければならず、製造に多くの時間が必要となる。加えて、水ガラスは、硬化性や耐水性が低く、また、木材と反応して変色するという問題が知られており、実用化への課題は多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3538194号公報
【特許文献2】特許第4367640号公報
【特許文献3】特開2018-115294号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、木材等の可燃性基材に難燃性を付与可能であり、塗膜の透明性、耐湿性が良好な塗料組成物、およびその硬化物並びにそれを用いた被覆物品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、所定のアミノ基変性オルガノポリシロキサン、所定の難燃剤および無機フィラーを含む塗料組成物を用いることで、上記目的を達成できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、
1. (A)下記式(1)で表される単位比で構成されるオルガノポリシロキサン:100質量部
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
(式中、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環状基で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表すが、上記R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部は、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基であり、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表し、aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0.2~1.0、dは、0~0.5、eは、0~3.0、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。)
(B)リン系、ホウ素系、マグネシウム系、アルミニウム系、窒素系、アンチモン系およびハロゲン系化合物から選択される一種以上の難燃剤:50~300質量部、ならびに
(C)無機フィラー:25~150質量部
を含む塗料組成物、
2. 前記R1、R2およびR3のうち、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基の合計数が、前記式(1)中の全ケイ素原子数に対して50モル%以上である1の塗料組成物、
3. 前記(B)難燃剤が、リン酸塩およびポリリン酸塩の中から選択される一種以上である1の塗料組成物、
4. 前記(B)難燃剤が、水溶性のリン酸塩およびポリリン酸塩の中から選択される一種以上と、非水溶性のリン酸塩およびポリリン酸塩の中から選択される一種以上とを含む3の塗料組成物、
5. 前記(C)無機フィラーが、ガラス繊維を含む1の塗料組成物、
6. 前記(C)無機フィラーが、フィロケイ酸塩を含む1の塗料組成物、
7. 前記(C)無機フィラーが、フィロケイ酸塩を含む5の塗料組成物、
8. 前記(A)成分の質量に対する前記(B)成分および前記(C)成分の合計質量の比[(B)+(C)]/(A)が、1.0~4.5である1の塗料組成物、
9. さらに、(D)シロキサン系レベリング剤を含む1の塗料組成物、
10. 塗料組成物全体に対して、水を20質量%以上含む1の塗料組成物、
11. 1~10のいずれかの塗料組成物の硬化物、
12. 基材の少なくとも一方の面に、直接または1種以上の他の層を介して、1~10のいずれかの塗料組成物の硬化被膜を被覆してなる被覆物品、
13. 前記硬化被膜の被覆量が、基材に対して0.1~2.0kg/m2である12の被覆物品、
14. 前記基材が、製材または木質積層材である12の被覆物品
を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗料組成物は、難燃剤との相溶性に優れるアミノ基変性オルガノポリシロキサンを含んでいるため、塗膜化した際の塗膜外観や耐湿性が良好となる。さらに、本発明の塗料組成物から得られた塗膜は、燃焼することで塗膜中に含まれる難燃剤やオルガノポリシロキサン、無機フィラーがセラミクス化して耐火層および/または断熱層を形成し、木材等の可燃性基材の燃焼を防止する。これらの効果によって、本発明の塗料組成物は、従来困難とされてきた耐湿性と難燃性、透明性の両立を可能とする。
また、本発明の塗料組成物は、木材表面に塗工することで木材等の可燃性基材に難燃性を付与可能であり、従来の難燃剤を含浸したタイプの難燃基材と比較して、より簡便に木材等の可燃性基材に難燃性を付与することができる。加えて、現場施工によって難燃化することも可能であり、木造建築の設計、および/または施工の自由度が大きく広がることが期待できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
[1]塗料組成物
本発明の塗料組成物は、下記(A)~(C)成分を含むものである。
【0012】
(A)オルガノポリシロキサン
(A)成分は、下記式(1)で表される単位比で構成されるオルガノポリシロキサンである。なお、下記式(1)において、特に断りのない限り、(R1 3SiO1/2)で表される単位をM単位、(R2 2SiO)で表される単位をD単位、(R3SiO3/2)で表される単位をT単位、(SiO2)で表される単位をQ単位と呼ぶ。
【0013】
(R1 3SiO1/2)a(R2 2SiO)b(R3 1SiO3/2)c(SiO2)d(OR4)e (1)
【0014】
式(1)において、R1、R2およびR3は、それぞれ独立して、水素原子、または一つ以上のアミノ基、エポキシ基、酸無水物基、マレイミド基、ビニル基、アリル基、アクリル基、メタアクリル基、もしくはヘテロ環状基で置換されていてもよい、炭素原子数1~20のアルキル基、炭素原子数6~20のアリール基もしくは炭素原子数7~20のアラルキル基を表すが、これらR1、R2およびR3のうちの少なくとも一部は、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基である。
【0015】
炭素原子数1~20のアルキル基としては、直鎖、分岐、環状のいずれでもよく、その具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル、n-デシル、シクロペンチル、シクロヘキシル基等が挙げられ、塗料組成物の難燃性を高めるという点から、メチル基またはエチル基が好ましい。
炭素原子数6~20のアリール基としては、フェニル、ナフチル等が挙げられる。
炭素原子数7~20のアラルキル基としては、ベンジル、フェネチル基等が挙げられる。
ヘテロ環状基としては、ピペリジニル、ピリジニル、ピロリル、チエニル基等が挙げられる。
【0016】
上述のとおり、式(1)において、R1、R2およびR3のうちの少なくとも一部は、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基であり、このようなアミノ基で置換された基としては、γ-アミノプロピル基、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基が好ましい。
(A)成分の水への溶解性、難燃剤成分および基材との親和性等を考慮すると、R1、R2およびR3のうち、アミノ基で置換された炭素原子数1~20のアルキル基、アミノ基で置換された炭素原子数6~20のアリール基、またはアミノ基で置換された炭素原子数7~20のアラルキル基の合計数は、式(1)中の全ケイ素原子数に対して50モル%以上が好ましく、60モル%以上がより好ましく、65モル%以上がより一層好ましい。
【0017】
なお、R1、R2およびR3のうち、アミノ基で置換された基以外の置換基としては、燃焼性のアルキル鎖の炭素原子数が少ないメチル基、エチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0018】
式(1)において、R4は、それぞれ独立して、水素原子または炭素原子数1~8のアルキル基を表す。
炭素原子数1~8のアルキル基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-オクチル基等が挙げられる。
これらの中でも、塗料組成物の難燃性の点から。R4は水素原子が好ましい。
【0019】
aは、0~0.5、bは、0~0.5、cは、0.2~1.0、dは、0~0.5、かつ、a+b+c+d=1を満たす数である。
eは、0~3.0の数であり、オルガノポリシロキサンの水溶性の観点から0.1~2.0の数が好ましい。eが3.0を超えると、塗料組成物の成膜性や塗膜の耐湿性が悪化する場合がある。
【0020】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、ある程度縮合が進行しているためネットワーク形成が容易となって基材に固定化され易いことに加え、燃焼性ガスの発生源であるアルコキシ基が、シロキサン結合(Si-O-Si結合)を含まないモノマー(シランカップリング剤等)成分に比べて少ないことで、難燃性の低下が少ないという利点を有する。
【0021】
上記シロキサン結合を含まないモノマー成分は、(A)成分のオルガノポリシロキサンに対して50質量%以下が好ましく、30質量%以下がより好ましく、10質量%以下がより一層好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
上記シロキサン結合を含まないモノマー成分とオルガノポリシロキサン成分との比は、29Si-NMR(核磁気共鳴)スペクトルにおけるシグナルと積分比から求めることができる。29Si-NMRでは、例えば、3官能性シロキサン(T単位)の場合、シロキサン結合を形成しているケイ素原子の数は、下記に示す(T0)~(T3)の割合を調べることで求めることができる。検出磁場は、一般的にT3>T2>T1>T0の順で高磁場側となるため、T0成分がシランカップリング剤由来のケイ素原子で、それ以外はシロキサン由来のケイ素原子であるから、各ピークの積分値の比からモノマー(シランカップリング剤)成分とオルガノポリシロキサン成分の割合を求めることができる。
【0022】
【化1】
(式中、Rは、有機基を表し、Xは、水素原子または有機基を表す。)
【0023】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは、各構成単位のモノマー成分を、酸または塩基触媒下での加水分解縮合により製造することができる。
【0024】
Q単位のモノマーとしては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n-プロポキシ)シラン、テトラ(i-プロポキシ)シラン、テトラ(n-ブトキシ)シラン、ケイ酸アルカリやケイ酸アルカリをカチオン交換して得られる活性ケイ酸等が挙げられる。
【0025】
T単位のモノマーとしては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリイソプロポキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、エチルトリイソプロポキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、プロピルトリイソプロポキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、γ-アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ-クロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、パーフルオロオクチルエチルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、得られるシロキサンの水への溶解性や、木材や難燃剤成分との親和性等を考慮すると、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリメトキシシラン、γ-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランが好ましく、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシランがより好ましい。
【0026】
D単位のモノマーとしては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルエチルジメトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、メチルプロピルジメトキシシラン、メチルプロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、フェニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、得られるシロキサンの水への溶解性や、木材や難燃剤成分との親和性を考慮すると、γ-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシランが好ましい。
【0027】
M単位のモノマーとしては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリエチルメトキシシラン、n-プロピルジメチルメトキシシラン、n-プロピルジエチルメトキシシラン、iso-プロピルジメチルメトキシシラン、iso-プロピルジエチルメトキシシラン、プロピルジメチルエトキシシラン、n-ブチルジメチルメトキシシラン、n-ブチルジメチルエトキシシラン、n-ヘキシルジメチルメトキシシラン、n-ヘキシルジメチルエトキシシラン、n-ペンチルジメチルメトキシシラン、n-ペンチルジメチルエトキシシラン、n-ヘキシルジメチルメトキシシラン、n-ヘキシルジメチルエトキシシラン、n-デシルジメチルメトキシシラン、n-デシルジメチルエトキシシラン、トリメチルシラノール、トリエチルシラノール、n-プロピルジメチルシラノール、n-プロピルジエチルシラノール、iso-プロピルジメチルシラノール、iso-プロピルジエチルシラノール、プロピルジメチルシラノール、n-ブチルジメチルシラノール、n-ヘキシルジメチルシラノール、n-ペンチルジメチルシラノール、n-デシルジメチルシラノール、γ-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメチルメトキシシラン等が挙げられる。
これらの中でも、得られるオルガノポリシロキサンの水への溶解性や、基材や難燃剤成分との親和性を考慮すると、γ-アミノプロピルジメチルメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルジメチルメトキシシランが好ましい。
【0028】
M単位およびD単位は、Si-C結合を2つ以上有しており燃焼し易いため、(A)成分のオルガノポリシロキサン中の全構成単位のうち、M単位またはD単位の含有率は、50モル%以下である。すなわち、上記式(1)において、aは、0~0.5の数であり、0~0.2の数が好ましく、0~0.1の数がより好ましい。
また、bは、0~0.5の数であり、0~0.2の数が好ましく、0~0.1の数がより好ましい。
【0029】
T単位は、Si-C結合を一つ有し、D単位やM単位と比較して燃焼性が低いため、(A)成分のオルガノポリシロキサン中の全構成単位のうち、T単位を20モル%以上含むことで難燃性が良好となる。すなわち、上記式(1)において、cは、0.2~1.0の数であり、0.5~1.0の数が好ましく、0.6~1.0の数がより好ましい。
【0030】
Q単位は、Si-C結合を含まず燃焼性が低く、Si-C結合に由来する燃焼によって難燃性が低下するのを抑制する効果がある。一方で、Q単位は、架橋点が多く反応性が高いため、難燃剤成分との相溶性や成膜性の観点から、(A)成分のオルガノポリシロキサン中の全構成単位のうち、Q単位は、0~50モル%の範囲であり、すなわち、dは、0~0.5の数であり、0.1~0.4の数が好ましく、0.3~0.4の数がより好ましい。
【0031】
(A)成分中の各構成単位の比は、例えば、29Si-NMRシグナルのケミカルシフトと積分値の比を用いた公知の方法で確認することができる。
【0032】
(A)成分の含有量は、塗料組成物全体に対して5~40質量%が好ましく、10~20質量%がより好ましい。5質量%以上の場合は、塗膜の成膜性、透明性や耐湿性がより良好となる。また、40質量%以下の場合には、塗膜の難燃性がより良好となる。
(A)成分は、一種単独でも複数の種類を併用してもよい。
【0033】
(B)難燃剤
(B)成分は、リン系、ホウ素系、マグネシウム系、アルミニウム系、窒素系、アンチモン系およびハロゲン系化合物の中から選択される一種以上の難燃剤である。
リン系化合物としては、例えば、有機リン化合物、リン酸、リン酸エステル、リン酸塩等が挙げられ、その具体例としては、リン酸水素二アンモニウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二グアニジン、ポリリン酸アンモニウム、疎水化ポリリン酸アンモニウム、リン酸グアニル尿素、ポリリン酸カルバメート、リン酸メラミン等が挙げられる。
ホウ素系化合物としては、例えば、有機ホウ素化合物、ホウ酸、硼砂、酸化ホウ素、ホウ酸エステル、ホウ酸塩類等が挙げられる。
マグネシウム系化合物としては、例えば、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。
アルミニウム系化合物としては、例えば、水酸化アルミニウム等が挙げられる。
窒素系化合物としては、例えば、硫酸アンモニウム、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、メラミンシアヌレート等が挙げられる。
アンチモン系化合物としては、例えば、三酸化アンチモン等が挙げられる。
ハロゲン系化合物としては、例えば、塩化亜鉛等が挙げられる。
【0034】
これらの中でも、本発明の組成物で用いる難燃剤としては、リン系化合物やホウ素系化合物が好ましく、特に短時間で炭化層を形成し、防炎性能を確保し易いリン酸塩、ポリリン酸塩を用いることがより好ましい。
特に、塗膜の透明性を損なうことなく、塗膜の難燃性と耐湿性がより向上することから、水溶性のリン酸塩および/またはポリリン酸塩と、非水溶性のリン酸塩および/またはポリリン酸塩とを併用することが好ましい。
【0035】
(B)成分の配合量は、上記(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して50~300質量部であり、75~250質量部が好ましい。50質量部未満では塗膜の難燃性が不足する場合があり、300質量部を超えると、塗膜の成膜性、透明性や耐湿性が劣る場合がある。
(B)成分は、一種単独でも複数の種類を併用してもよい。
【0036】
(C)無機フィラー
(C)成分の無機フィラーとしては、公知の一般的な無機フィラーを使用することができ、例えば、13族元素、14族元素(炭素を除く)、第1系列遷移元素、第2系列遷移元素、第3系列遷移元素、ランタノイド等を含む無機フィラーが挙げられる。
13族元素を含む無機フィラーとしては、アルミニウム、ホウ素、インジウム等から誘導される酸化物等が挙げられ、中でもアルミナが好ましい。
14族元素(炭素を除く)を含む無機フィラーとしては、ケイ素、スズ等から誘導される酸化物およびその塩等が挙げられ、シリカが好ましい。
第1系列遷移元素を含む無機フィラーとしては、チタン、マンガン、亜鉛等から誘導される酸化物等が挙げられ、これらの酸化物は、特定波長の光吸収材料としても用いることができる。
第2系列遷移元素を含む無機フィラーとしては、イットリウム、ジルコニウム等から誘導される酸化物等が挙げられ、これらの酸化物は、特定波長の光吸収および蛍光材料としても用いることができる。
第3系列遷移元素を含む無機フィラーとしては、ハフニウム、タンタル等から誘導される酸化物等が挙げられる。
ランタノイドを含む無機フィラーとしては、ランタン、セリウム、プラセオジウム、ネオジウム、テルビウム、ジスプロジウム、イッテルビウム等から誘導される酸化物等が挙げられ、これらの酸化物は、特定波長の光吸収および蛍光材料として用いることもできる。
また、これらの2種以上が化学結合を介して複合化されたものを用いることができる。
【0037】
無機フィラーの形状については特に制限はなく、真球状、中空球状、多孔質状、板状、針状、繊維状等の様々な形状の無機フィラーを使用することができる。これらの中でも、繊維状の無機フィラーが、燃焼後に形成されるセラミクス層の亀裂を抑制する効果が高く、難燃性が特に良好となるため好ましい。
【0038】
特に、本発明で用いる無機フィラーとしては、燃焼することでセラミクス化し、耐火層や断熱層を形成するケイ素、ホウ素、アルミニウム等の元素を含んだ無機酸化物やケイ酸塩を用いることが好ましく、特に、シリカやガラス繊維等の酸化ケイ素含有フィラーとクレイ等のフェロケイ酸塩とを併用することが、難燃性がより良好となるため好ましい。
【0039】
(C)成分の配合量は、上記(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して25~150質量部であり、50~150質量部が好ましい。25質量部未満では、塗膜の難燃性が不足する場合があり、150質量部を超えると、塗膜の成膜性や透明性が劣る場合がある。
(C)成分は、一種単独でも複数の種類を併用してもよい。
【0040】
本発明の塗料組成物全体に対する上記(A)~(C)成分の合計の含有率は30質量%以上が好ましく、40質量%以上がより好ましい。
【0041】
本発明の塗料組成物において、上記(A)成分の質量に対する上記(B)成分および上記(C)成分の合計質量の比[(B)+(C)]/(A)は、1.0~4.5が好ましく、1.2~4.0がより好ましく、1.5~2.5がより一層好ましい。上記比が1.0以上である場合は、難燃性が良好となり、4.5以下である場合には、塗膜の耐湿性、成膜性や透明性が良好となる。
【0042】
(D)レベリング剤
本発明の塗料組成物は、(D)レベリング剤を含んでいてもよい。
レベリング剤としては、例えば、アクリル系、ビニル系、シリコーン系、フッ素系レベリング剤等の公知の一般的なものを使用することができる。これらの中でも、塗料組成物の難燃性を高めるという点から、主鎖にシロキサン構造を有するシリコーン系レベリング剤が好ましい。
【0043】
(D)成分を使用する場合、その配合量は、上記(A)成分のオルガノポリシロキサン100質量部に対して1~10質量部が好ましく、3~5質量部がより好ましい。このような範囲であれば、塗膜の難燃性および透明性を保持しながら成膜性を向上させることができる。
(D)成分は、一種単独でも複数の種類を併用してもよい。
【0044】
(E)溶剤
本発明の塗料組成物は、上記(A)~(D)成分の他に溶剤を含んでいてもよい。
溶剤としては、特に限定されるものではないが、アルコールや水が好ましく、環境保全や入手容易性の観点から水がより好ましい。
【0045】
溶剤として水を用いる場合、具体的には、水道水、工業用水、井戸水、天然水、雨水、蒸留水、イオン交換水等の淡水を用いることができるが、特にイオン交換水が好ましい。イオン交換水は、純水製造器(例えば、オルガノ(株)製、製品名「FW-10」、メルクミリポア(株)製、製品名「Direct-QUV3」等)を用いて製造することができる。
【0046】
溶剤を使用する場合の配合量は、本発明の塗料組成物全体に対して20~80質量%が好ましく、30~60質量%がより好ましい。溶剤が、組成物全体に対して20質量%以上含まれている場合は、塗料の流動性や施工性が良好となり、組成物全体に対して80質量%以下で含まれている場合には、塗料中の有効成分濃度が高くなり塗膜の厚膜化が容易となる。
【0047】
本発明の塗料組成物は、硬化反応の促進を目的として硬化触媒を含んでいてもよい。硬化触媒の種類・混合量・添加方法等は、組成物の種類に応じた公知の方法、条件を採用することができる。
特に、硬化性組成物が、触媒存在下における化学反応によって硬化する成分を含んでいる場合、硬化性組成物は硬化触媒を含んでいることが好ましい。硬化触媒としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、プロピオン酸ナトリウム、プロピオン酸カリウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、ギ酸ナトリウム、ギ酸カリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムアセテート、n-ヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジシアンジアミド等の塩基性化合物類;テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート、チタンアセチルアセトナート、アルミニウムトリイソブトキシド、アルミニウムトリイソプロポキシド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム、過塩素酸アルミニウム、塩化アルミニウム、コバルトオクチレート、コバルトアセチルアセトナート、鉄アセチルアセトナート、スズアセチルアセトナート、ジブチルスズオクチレート、ジブチルスズラウレート等の含金属化合物類;p-トルエンスルホン酸、トリクロル酢酸等の酸性化合物類などが挙げられる。
これらの中でも、特にプロピオン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、ギ酸ナトリウム、トリメチルベンジルアンモニウムヒドロキサイド、テトラメチルアンモニウムヒドロキサイド、トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、ジイソプロポキシ(エチルアセトアセテート)アルミニウム等が挙げられ、特に、有機系配位子を含有したアルミニウム系触媒、チタン系触媒、スズ系触媒等の含金属化合物類が好ましい。
【0048】
本発明の塗料組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲で、付加効果を発揮する添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、例えば、浸透剤が挙げられる。浸透剤は、難燃化の対象物、すなわち木材(竹材を含む)、紙、織布、不織布および樹脂から選択される材料への難燃性付与成分の含浸を促進する効果を有する。
浸透剤の具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール等のモノアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等のジオール;グリセリン等のトリオール;炭素数3~11のアルジトール(グリシトールともいう)、セルロース誘導体、セルロースナノファイバー等ポリオール;ポリフェノール類;界面張力を低下させる作用のある界面活性剤などが挙げられ、これらの中でも、エチレングリコールが好ましい。
浸透剤を使用する場合の添加量は、特に限定されるものではないが、塗料組成物全体に対して好ましくは0.05~20質量%、より好ましくは0.5~2質量%である。
【0049】
また、浸透剤以外の添加剤としては、紫外線吸収剤、防蟻剤、酸化防止剤、染料、顔料等が挙げられ、これらの添加材は、一種単独でも複数の種類を併用してもよい。
【0050】
本発明の塗料組成物は、上記(A)~(C)成分、並びに必要に応じて(D)成分、(E)成分およびその他の成分を混合して製造することができる。各成分の混合手法は、公知の手法から適宜選択すればよく、特に制限されない。混合に用いる装置としては、例えば、ミキサー、振盪装置、超音波ホモジナイザー、高圧ホモジナイザー、ビーズミル、ボールミル等の装置を用いることができる。
なお、各成分の溶解や分散を促進する目的で、本発明の効果を損なわない範囲で加熱して混合操作を行ってもよい。
【0051】
[2]硬化物および被覆物品
本発明の塗料組成物を、硬化させることで硬化物(硬化膜)を得ることができ、例えば、難燃化の対象となる基材に本発明の塗料組成物を塗工し、乾燥させて硬化被膜を形成することにより、難燃性の被覆物品を得ることができる。
【0052】
難燃化の対象となる基材としては、例えば、木材製材品、丸太、合板、LVL(Laminated Veneer Lumber)、集成材、CLT(CrossLaminated Timber)、単板積層材(LVL)、高強度エンジニアードウッド製材(LSL)、単板積層板(LVB)、Laminated Veneer Sandwich(LVS)、パラレル ストランド ランバー(PSL)、中密度繊維板(MDF)、構造用パネル(配向ストランドボード(OSB))、パーティクルボード、ファイバーボード等の木質材料;和紙、ふすま紙、洋紙等の紙;綿布、ポリエステル織布、PET繊維製の布等の織布;ポリエステル不織布等の不織布;SBR(スチレンブタジエンゴム)ラテックス、NBR(アクリロニトリルブタジエンゴム)ラテックス、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ABS(アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂、EAA(エチレン・アクリル酸共重合体)樹脂、ポリエチレンフィルム、ポリウレタン樹脂、PET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリエチレンシート等の樹脂などが挙げられる。
特に、本発明の塗料組成物は、木材に対して塗工することで難燃性を大きく改善することが可能であり、製材、木質積層材やCLT等の建築用部材に用いることが好適である。
【0053】
この際、上記被覆層は、基材の1つの面のみに形成しても、全ての面に形成してもよく、例えば、板状基材では、その少なくとも一方の面に、被覆層を形成すればよい。
さらに、これらの基材の表面が処理されたもの、具体的には、化成処理、コロナ放電処理、プラズマ処理、酸やアルカリ液で処理されている基材や、基材本体と表層が異なる種類の塗料で被覆されている化粧合板等も用いることもできる。
【0054】
また、予めその他の機能層が形成された基材表面に、本発明の塗料組成物による被覆を施してもよい。
その他の機能層としては、プライマー層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層等が挙げられ、これらのいずれか一層または複数層が基材上に予め形成されていてもよい。
【0055】
なお、本発明の被覆物品は、上記塗料組成物からなる硬化被膜が形成された表面やその反対側の面に、ハードコート層、防錆層、ガスバリア層、防水層、熱線遮蔽層、防汚層、光触媒層、帯電防止層等の1層または複数層によって被覆されていてもよい。これらの層を構成する材料としては、アルキド樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、塩化ビニリデン共重合樹脂、塩化ビニル系樹脂等(水系、溶剤系を問わない)が挙げられる。上記層は、塗液として塗布するか、予め成膜したフィルムとして粘着剤等を介して貼り合わせることで積層できる。
【0056】
本発明の塗料組成物を基材に塗工・乾燥させる条件は、対象となる基材の種類や形状などにより適宜設定すればよい、具体的な条件は公知の条件から適宜選択することができる。
【0057】
塗料組成物の塗布方法としては、公知の手法から適宜選択すればよく、例えば、刷毛塗り、スプレー、浸漬、フローコート、ロールコート、カーテンコート、スピンコート、ナイフコート等の各種塗布方法を用いることができる。
本発明の塗料組成物は、0~40℃程度、好ましくは5~35℃程度で硬化可能な組成物であるが、25℃で24時間後に硬化被膜を形成し得るものがより好ましい。
なお、硬化時間を短縮する目的で、基材等に悪影響を及ぼさない温度範囲で加熱してもよい。
【0058】
硬化被膜の被覆量は特に限定されるものではないが、基材に対して0.1~2.0kg/m2となるように被覆することが好ましく、0.5~1.5kg/m2となる様に被覆することがより好ましい。この範囲であれば難燃性や塗膜外観がより良好となる。なお、被膜の被覆量を上記範囲とするためには、塗料組成物の固形分の塗布量が基材に対して上記範囲となるように塗工すればよい。
【実施例0059】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記の例において%は質量%、部は質量部を示す。
【0060】
[実施例1~6、比較例1~10]
[1]塗料組成物の調製
下記表1および表2に記載の配合量で下記各成分を混合し塗料組成物を調製した。なお、表1,2における有効成分濃度とは、塗料組成物100質量部に占める(A)成分、比較成分および(B-1)成分の配合量のうちの固形分量、(B-2)成分の配合量、(B-3)成分の配合量、(C)成分の配合量および(D)成分の配合量の総和を意味し、例えば、実施例1において、30質量%水溶液である(A-1)成分の有効成分量は65.4×0.3=19.6質量部、50質量%水溶液である(B-1)成分の有効成分量は19.6×0.5=9.8質量部であり、実施例1の有効成分濃度は、19.6+9.8+5+10=44.4≒44質量%となる。
また、表1,2における有効成分質量比は、各成分の固形分基準の質量比であり、例えば、実施例1では、(A-1)成分の固形分量19.6質量部を100として換算した値である。
【0061】
(A)成分
A-1:アミノ基含有オルガノポリシロキサンの30質量%水溶液(上記式(1)におけるa=0、b=0、c=0.7、d=0.3、e=0.7、R3=メチル基、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピル基、R4=水素原子、アミン置換量(対全ケイ素原子)=61モル%)
【0062】
〔比較成分〕
A’-2:下記比較合成例1で製造したアクリル樹脂の水分散液
A’-3:珪酸ソーダ3号(ケイ酸ナトリウムの40質量%水溶液、日本化学工業(株)製)
A’-4:アルキル基含有オルガノポリシロキサンの30質量%水溶液(上記式(1)におけるa=0、b=0、c=1、d=0、e=1.0、R3=メチル基、R4=水素原子、アミン置換量(対全ケイ素原子)=0モル%)
【0063】
[比較合成例1]
撹拌機、還流冷却管、温度計、滴下装置、および窒素導入管を備えた5つ口フラスコに、イオン交換水200質量部および非反応性乳化剤(第一工業製薬(株)製:ハイテノールNF0825:アニオン性)6.0質量部を加え、フラスコ内を窒素で置換しながら、80℃まで昇温した後、過硫酸カリウムを1.0質量部加え、次いで予め別容器にて撹拌混合しておいた、メチルメタクリレート190質量部、ブチルアクリレート250質量部、アクリル酸10質量部、イオン交換水220質量部、および上記非反応性乳化剤30.0質量部の混合物を3.5時間かけて連続滴下した。その後、撹拌を続けながら80℃で2時間熟成した後、イオン交換水2.7質量部とtert-ブチルヒドロペルオキシドの70%水溶液0.3質量部の混合物を反応器に添加し、次いでイオン交換水9.7質量部とエリソルビン酸ナトリウム0.3質量部の混合物を5分にわたって連続滴下した。その後、撹拌を続けながら80℃で2時間熟成し、室温まで冷却後、25質量%アンモニア水溶液を4.0質量部添加してpHを9.0に調整し、アクリル樹脂の水分散液A’-2を得た。分散液中のアクリル樹脂の含有量は49.8質量%、エマルションの体積平均粒子径は144nmであった。
【0064】
(B)成分
B-1:ノンネンW2-50(リン・チッソ系難燃剤の50質量%水溶液、丸善油化工業(株)製)
B-2:タイエンK(非水溶性ポリリン酸アンモニウム粉体、太平洋工業(株)製)
B-3:タイエンE(非水溶性ポリリン酸アンモニウム粉体、太平洋工業(株)製)
【0065】
(C)成分
C-1:EPH80M-01N(ガラス繊維、日本電気硝子(株)製)
C-2:SYLOID W 500(シリカ、ダブリュー・アール・グレースジャパン(株)製)
C-3:BENTONE-EW NA(ヘクトライトクレイ、Elementis Specialties, Inc.製)
【0066】
(D)成分
D-1:BYK3450(ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン、ビックケミー・ジャパン(株)製)
【0067】
[塗料安定性の評価]
下記の基準により塗料の安定性を評価した。その際、元々固体である非水溶性の難燃剤成分やフィラー成分の経時沈降に関して、振盪すれば問題無く使用できる範囲においては、塗料安定性の悪化とは判断しない。結果を表1に併せて示す。
〇:各成分を配合した際にゲル化や固体析出が発生せず液状を保っている場合
×:各成分を配合した際にゲル化や固体析出が発生した場合
【0068】
[2]被覆木材の作製およびその評価
115℃で24時間乾燥させた100mm×100mm×20mmに裁断した杉材(気乾比重0.27~0.49)に対して、実施例および比較例の各塗料組成物を、固形分の塗布量が約1kg/m2となるように塗工し、温度23±2℃、相対湿度50±5%で一定質量になるように養生した。作製した塗工済み杉材(被覆木材)について、以下の各試験を行った。
【0069】
(1)塗膜透明性
下記の基準により塗膜の透明性を評価した。結果を表1に併せて示す。
◎:濁りが無く、基材の木目が塗膜を介して確認できる
〇:僅かに濁りが有るが、基材の木目が塗膜を介して確認できる
×:基材の木目が塗膜を介して確認できない
(2)耐湿性
各木材を40℃,90%RH(24時間)→60℃送風乾燥(24時間)を1サイクルとする湿乾繰り返しの操作を5サイクル行い、その後、20℃,60%RHで24時間放冷後、塗膜表面の状態観察を行い、下記の基準により評価した。結果を表1に併せて示す。
〇:白化、潮解、変色等が見られない
×:白化、潮解、変色等が見られる
(3)難燃性
各木材について輻射熱強度50kW/m2を与えたコーンカロリーメータ試験(ISO-5660-1)を行い、下記の基準により難燃性を評価した。
◎:10分加熱時の発熱量が8(MJ/m2)以下である場合
〇:5分加熱時の発熱量が8(MJ/m2)以下である場合
×:5分加熱時の発熱量が8(MJ/m2)より大きい場合
(4)表面亀裂
各木材について輻射熱強度50kW/m2を与えたコーンカロリーメータ試験(ISO-5660-1)を行い、加熱表面を目視で観察した際の亀裂の有無を下記の基準により評価した。
〇:加熱表面に明らかな亀裂が無い場合
×:加熱表面に明らかな亀裂が有る場合
【0070】
【表1】
【0071】
【表2】
【0072】
表1に示されるように、本発明の要件を満たす塗料組成物を木材に塗工した実施例1~6では、塗膜の耐湿性や透明性が良好で、かつ、燃焼時の発熱量が小さく難燃~準不燃木材の規格を満たす難燃性を示していることがわかる。また、本発明の要件を満たす実施例1~6では、燃焼面に亀裂の発生は見られなかった。
以上のことから、本発明の要件を満たす塗料組成物では、シロキサン化合物と難燃剤、無機フィラーとを組み合わせることで、燃焼時に頑丈なセラミクス層を形成することが可能となり、その耐火効果や断熱効果によって木材の難燃性が大きく改善したと考えられる。
一方で、表2に示されるように、本発明の(A)成分を含まず、かつ、難燃剤および無機フィラーを含む比較例1、3、5では、液の安定性や塗膜外観が大きく悪化していることがわかる。加えて、比較例4のように水ガラスを単独で塗工した際には難燃性や透明性は良好であるが、耐湿性が悪く、耐湿試験後に杉材が変色し、塗膜が潮解したことがわかる。
比較例2のようにシロキサン構造を含まない塗料を使用した場合や、比較例6~9のように難燃剤や無機フィラーの量が少ない塗料を使用した場合では、激しく燃焼し難燃性が悪化していることがわかる。また、比較例10のように難燃剤や無機フィラーの量が多すぎる塗料を使用した場合には、成膜性や塗膜の透明性が大きく悪化していることがわかる。