(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176318
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】潤滑油組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 171/00 20060101AFI20231206BHJP
C10N 30/00 20060101ALN20231206BHJP
C10N 30/04 20060101ALN20231206BHJP
C10N 40/25 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
C10M171/00
C10N30:00 Z
C10N30:04
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088544
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100114409
【弁理士】
【氏名又は名称】古橋 伸茂
(74)【代理人】
【識別番号】100128761
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 恭子
(74)【代理人】
【識別番号】100194423
【弁理士】
【氏名又は名称】植竹 友紀子
(72)【発明者】
【氏名】石川 元治
(72)【発明者】
【氏名】清水 保典
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA02A
4H104BA04A
4H104BA07A
4H104BA08A
4H104BB08A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB41A
4H104BH03A
4H104CB14A
4H104DA02A
4H104EB05
4H104LA02
4H104LA20
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】例えば、コーキングの発生の抑制効果が高く、内燃機関に好適に使用し得る、潤滑油組成物が求められている。
【解決手段】ASTM D5800に準拠して、250℃、1時間の条件にて行ったNOACK試験により測定されるNOACK値が6質量%以下の基油(A)を含有し、-25℃におけるCCS粘度が7000mPa・s以下であり、150℃におけるHTHS粘度が2.9mPa・s以上である、潤滑油組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ASTM D5800に準拠して、250℃、1時間の条件にて行ったNOACK試験により測定されるNOACK値が6質量%以下の基油(A)を含有し、
-25℃におけるCCS粘度が7000mPa・s以下であり、
150℃におけるHTHS粘度が2.9mPa・s以上である、
潤滑油組成物。
【請求項2】
さらに粘度指数向上剤(B)を含有し、
粘度指数向上剤(B)の樹脂分換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.40質量%以下である、請求項1に記載の潤滑油組成物。
【請求項3】
ターボタージャーを備え、水素を燃料として作動する内燃機関に用いられる、請求項1又は2に記載の潤滑油組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の潤滑油組成物を、内燃機関の潤滑に適用する、内燃機関の潤滑方法。
【請求項5】
前記内燃機関が、ターボタージャーを備え、水素を燃料として作動する内燃機関である、請求項4に記載の内燃機関の潤滑方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油組成物、及び内燃機関の潤滑方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等に使用される内燃機関には、小型高出力化、省燃費化、排ガス規制対応等、様々な要求がされており、内燃機関に用いる潤滑油組成物に対しても、このような要求に対応し得る開発が行われている。
例えば、特許文献1には、塩基価の低下を抑えつつ、コーキング及び銅溶出の発生を抑制し得る内燃機関用潤滑油組成物の提供を目的として、潤滑油基油と、ホウ素換算で所定量のホウ素含有アルケニルコハク酸イミド及び/又はホウ素含有アルキルコハク酸イミドと、重量平均分子量及びアルキル基の平均炭素数を所定の範囲としたポリ(メタ)アクリレートとを含有する内燃機関用潤滑油組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような状況において、例えば、高温環境下でのコーキングの発生の抑制効果が高く、内燃機関に好適に使用し得る、潤滑油組成物が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、NOACK値が所定値の基油を用いると共に、-25℃におけるCCS粘度及び150℃におけるHTHS粘度を所定の範囲に調整した潤滑油組成物とすることで、上記課題を解決し得ることを見出した。具体的には、本発明は、以下の態様を開示する。
[1]ASTM D5800に準拠して、250℃、1時間の条件にて行ったNOACK試験により測定されるNOACK値が6質量%以下の基油(A)を含有し、
-25℃におけるCCS粘度が7000mPa・s以下であり、
150℃におけるHTHS粘度が2.9mPa・s以上である、
潤滑油組成物。
[2]上記[1]に記載の潤滑油組成物を、内燃機関の潤滑に適用する、内燃機関の潤滑方法。
【発明の効果】
【0006】
本発明の好適な一態様の潤滑油組成物は、高温環境下でのコーキングの発生の抑制効果が高い。そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、例えば、内燃機関の潤滑に好適に使用し得る。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本明細書に記載された数値範囲については、上限値及び下限値を任意に組み合わせることができる。例えば、数値範囲として「好ましくは30~100、より好ましくは40~80」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。
また、例えば、数値範囲として「好ましくは30以上、より好ましくは40以上であり、また、好ましくは100以下、より好ましくは80以下である」と記載されている場合、「30~80」との範囲や「40~100」との範囲も、本明細書に記載された数値範囲に含まれる。つまり、本明細書に記載された上限値及び下限値の規定において、それぞれの選択肢の中から適宜選択して、任意に組み合わせて、下限値~上限値の数値範囲を規定することができる。
さらに、本明細書に記載された数値範囲として、例えば「60~100」との記載は、「60以上、100以下」という範囲であることを意味する。
加えて、本明細書に記載された好ましい態様として記載の各種要件は複数組み合わせることができる。
【0008】
〔潤滑油組成物の構成〕
本発明の一態様の潤滑油組成物は、NOACK値が6質量%以下の基油(A)を含有し、下記要件(I)及び(II)を満たす。
・要件(I):-25℃におけるCCS粘度が7000mPa・s以下である。
・要件(II):150℃におけるHTHS粘度が2.9mPa・s以上である。
【0009】
要件(I)を満たす潤滑油組成物とすることで、低温におけるエンジンの始動性が良好となる。-25℃におけるCCS粘度が7000mPa・s超である潤滑油組成物は、低温環境下でのエンジンの始動性が不十分となる傾向にある。
なお、本明細書において、-25℃におけるCCS粘度は、ASTM D5293に準拠して、-25℃で測定した値を意味する。
【0010】
要件(II)を満たす潤滑油組成物とすることで、高温でも油膜を保持し易く、耐摩耗性が良好となる。150℃におけるHTHS粘度が2.9mPa・s未満である潤滑油組成物は、耐摩耗性が劣る傾向にある。
高温環境下での油膜保持性を向上させ、耐摩耗性に優れた潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、好ましくは3.0mPa・s以上、より好ましくは3.2mPa・s以上である。
本明細書において、150℃におけるHTHS粘度は、ASTM D4683に準拠して、150℃で測定した値を意味する。
【0011】
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに、粘度指数向上剤(B)を含有してもよい。
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、さらに、上記成分(B)以外の他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
【0012】
以下、本発明の一態様の潤滑油組成物に含まれる各成分の詳細について説明する。
【0013】
<成分(A):基油>
本発明の一態様で用いる基油(A)は、鉱油及び合成油から選ばれる1種以上が挙げられる。
鉱油としては、例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油、ナフテン基系原油等の原油を常圧蒸留して得られる常圧残油;これらの常圧残油を減圧蒸留して得られる留出油;当該留出油を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、及び水素化精製等の精製処理を1つ以上施して得られる精製油;等が挙げられる。
【0014】
合成油としては、例えば、α-オレフィン単独重合体、α-オレフィン共重合体(例えば、エチレン-α-オレフィン共重合体等の炭素数8~14のα-オレフィン共重合体)等のポリα-オレフィン;イソパラフィン;ポリアルキレングリコール;ポリオールエステル、二塩基酸エステル、リン酸エステル等のエステル系油;ポリフェニルエーテル等のエーテル系油;アルキルベンゼン;アルキルナフタレン;天然ガスからフィッシャー・トロプシュ法等により製造されるワックス(GTLワックス(Gas To Liquids WAX))を異性化することで得られる合成油(GTL)等が挙げられる。
【0015】
本発明の一態様で用いる基油(A)のNOACK値は、6質量%以下である。NOACK値が6質量%以下の基油(A)を用いることで、高温環境下で使用しても、ミスト化し難く、ミスト化した成分に由来したコーキング量を抑制することができる。その結果、高温環境下でのコーキングの発生の抑制効果が高い潤滑油組成物となり得る。一方で、用いる基油(A)のNOACK値が6質量%超であると、調製される潤滑油組成物は、高温環境下でミスト化し易く、コーキングが発生し易くなる傾向にある。
耐ミスト性をより向上させて、コーキングの発生の抑制効果がより高い潤滑油組成物とする観点から、本発明の一態様で用いる基油(A)のNOACK値は、5質量%以下、5質量%未満、4質量%以下、4質量%未満、3質量%以下、又は3質量%未満としてもよい。
【0016】
なお、基油(A)のNOACK値は、例えば、蒸留によって軽質留分を除去する等により調整することができる。
また、本明細書において、NOACK値は、ASTM D5800に準拠して、250℃、1時間で測定した値を意味する。
【0017】
本発明の一態様で用いる基油(A)の40℃における動粘度は、好ましくは32~120mm2/s、より好ましくは34~100mm2/s、より好ましくは35~80mm2/s、更に好ましくは35~60mm2/sである。
本明細書において、動粘度は、ASTM D445に準拠して測定した値を意味する。
【0018】
本発明の一態様で用いる基油(A)の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは100以上、更に好ましくは110以上、より更に好ましくは120以上である。
本明細書において、粘度指数は、ASTM D2270に準拠して算出した値を意味する。
【0019】
なお、本発明の一態様で用いる基油(A)は、1種単独の基油でもよく、2種以上の基油を組み合わせた混合油でもよい。混合油を用いる場合、混合油のNOACK値が上記範囲であればよい。そのため、当該混合物は、NOACK値が6質量%以下の基油同士の組み合わせであってもよく、NOACK値が6質量%以下の基油とNOACK値は6質量%超の基油との組み合わせであってもよい。
また、当該混合油の動粘度、粘度指数が上記範囲であることが好ましい。
【0020】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、基油(A)の含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、60質量%以上、65質量%以上、70質量%以上、75質量%以上、又は80質量%以上としてもよく、また、99.9質量%以下、99.5質量%以下、99.0質量%以下、97.0質量%以下、95.0質量%以下、92.0質量%以下、又は90.0質量%以下としてもよい。
【0021】
<成分(B):粘度指数向上剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、粘度指数向上剤(B)を含有してもよい。粘度指数向上剤を含有することで、省燃費性が良好な潤滑油組成物とすることができる。
なお、本発明の一態様で用いる粘度指数向上剤(B)は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
本発明の一態様で用いる粘度指数向上剤(B)としては、例えば、非分散型ポリメタクリレート、分散型ポリメタクリレート、オレフィン系共重合体(例えば、エチレン-プロピレン共重合体等)、分散型オレフィン系共重合体、スチレン系共重合体(例えば、スチレン-ジエン共重合体、スチレン-イソプレン共重合体等)等の重合体が挙げられる。
本発明の一態様で用いる粘度指数向上剤(B)は、高分子量の側鎖が出ている三叉分岐点を主鎖に数多くもつ構造を有する櫛形ポリマーであってもよく、炭素原子等の一つの原子が3本以上の鎖状高分子が結合している構造を有する星形ポリマーであってもよい。
【0023】
本発明の一態様の潤滑油組成物において、コーキングの発生量を抑制し得る潤滑油組成物とする観点から、粘度指数向上剤(B)の樹脂分換算での含有量は、当該潤滑油組成物の全量(100質量%)基準で、好ましくは0.40質量%以下、より好ましくは0.35質量%以下、更に好ましくは0.30質量%以下であり、また、0.01質量%以上、0.03質量%以上、又は0.05質量%以上としてもよい。
【0024】
なお、本発明の一態様で用いる粘度指数向上剤や後述の流動点降下剤及び消泡剤は、通常はハンドリング性や基油(A)との溶解性を考慮し、鉱油や合成油等の希釈油により溶解された溶液の形態で市販されていることが多い。ただし、上記の粘度指数向上剤(B)の含有量は、希釈油を除外した樹脂分(固形分)換算での含有量を意味する。
【0025】
<潤滑油用添加剤>
本発明の一態様の潤滑油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、更に成分(B)以外の他の潤滑油用添加剤を含有してもよい。
このような潤滑油用添加剤としては、例えば、金属系清浄剤、流動点降下剤、酸化防止剤、摩擦調整剤、耐摩耗剤、金属不活性化剤、無灰分散剤、金属不活性化剤、消泡剤等が挙げられる。
これらの潤滑油用添加剤は、それぞれ、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0026】
[金属系清浄剤]
本発明の一様態の潤滑油組成物は、さらに金属系清浄剤を含有してもよい。
金属系清浄剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる金属系清浄剤としては、金属スルホネート、金属サリシレート、及び金属フェネート等の金属塩が挙げられる。また、当該金属塩を構成する金属原子としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選ばれる金属原子が好ましく、ナトリウム、カルシウム、又はマグネシウムがより好ましい。
なお、本発明の一態様で用いる金属系清浄剤としては、中性金属系清浄剤であってもよく、過塩基性金属系清浄剤であってもよい。
【0027】
[流動点降下剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに流動点降下剤を含有してもよい。流動点降下剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いられる流動点降下剤としては、例えば、ポリメタクリレート、アルキル化芳香族化合物、フマレートと酢酸ビニルの共重合体、エチレンと酢酸ビニルの共重合体が挙げられ、重量平均分子量が40,000~200,000のポリメタクリレートが好ましい。
【0028】
[酸化防止剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに酸化防止剤を含有してもよい。酸化防止剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる酸化防止剤としては、例えば、アルキル化ジフェニルアミン、フェニルナフチルアミン、アルキル化フェニルナフチルアミン等のアミン系酸化防止剤;2、6-ジ-t-ブチルフェノール、4,4’-メチレンビス(2,6ージーtーブチルフェノール)、イソオクチル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、n-オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート等のフェノール系酸化防止剤;フェノチアジン、ジオクタデシルサルファイド、ジラウリル-3,3'-チオジプロピオネート、2-メルカプトベンゾイミダゾール等の硫黄系酸化防止剤;等が挙げられる。
【0029】
[摩擦調整剤及び耐摩耗剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに摩擦調整剤又は耐摩耗剤を含有してもよい。摩擦調整剤又は耐摩耗剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる摩擦調整剤及び耐摩耗剤としては、例えば、摩擦調整剤及び耐摩耗剤としては、例えば、硫化オレフィン、ジアルキルポリスルフィド、ジアリールアルキルポリスルフィド、ジアリールポリスルフィド等の硫黄系化合物;リン酸エステル、チオリン酸エステル、亜リン酸エステル、アルキルハイドロゲンホスファイト、リン酸エステルアミン塩、亜リン酸エステルアミン塩等のリン系化合物;ジチオカルバミン酸モリブデン(MoDTC)、ジチオリン酸モリブデン(MoDTP)、モリブテン酸のアミン塩等の有機モリブデン系化合物;ジチオリン酸亜鉛(ZnDTP)、ジチオカルバミン酸亜鉛(ZnDTC)等の有機亜鉛系化合物;アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル、ウレア系化合物、ヒドラジド系化合物等の無灰系摩擦調整剤;等が挙げられる。
【0030】
[金属不活性化剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに金属不活性化剤を含有してもよい。金属不活性化剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる金属不活性化剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリアゾール誘導体、ベンゾトリアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体等が挙げられる。
【0031】
[無灰系分散剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、分散性を良好とする観点から、さらに無灰系分散剤を含有してもよい。無灰系分散剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる無灰系分散剤としては、アルケニルコハク酸イミドが好ましく、例えば、下記一般式(f-1)で表されるアルケニルコハク酸ビスイミド、下記一般式(f-2)で表されるアルケニルコハク酸モノイミド等が挙げられる。
【0032】
【0033】
上記一般式(f-1)及び(f-2)中、Rf1、Rf2及びRf3は、それぞれ独立に、数平均分子量(Mn)が900~2500のアルケニル基である。
Rf1、Rf2及びRf3として選択し得る、前記アルケニル基としては、例えば、ポリブテニル基、ポリイソブテニル基等が挙げられる。
Af1、Af2及びAf3は、それぞれ独立に、炭素数2~5のアルキレン基である。
x1は2~6の整数である。
x2は2~6の整数である。
【0034】
なお、前記一般式(f-1)又は(f-2)で表される化合物は、ホウ素化合物、アルコール、アルデヒド、ケトン、アルキルフェノール、環状カーボネート、エポキシ化合物、及び有機酸等から選ばれる1種以上と反応させた、変性アルケニルコハク酸イミドであってもよい。
【0035】
[消泡剤]
本発明の一態様の潤滑油組成物は、さらに消泡剤を含有してもよい。消泡剤は、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本発明の一態様で用いる消泡剤としては、例えば、アルキルシリコーン系消泡剤、フルオロシリコーン系消泡剤、フルオロアルキルエーテル系消泡剤等が挙げられる。
【0036】
〔潤滑油組成物の性状〕
本発明の一態様の潤滑油組成物の40℃における動粘度は、好ましくは10~150mm2/s、より好ましくは20~120mm2/s、より好ましくは30~110mm2/s、更に好ましくは40~100mm2/s、より更に好ましくは50~90mm2/s、特に好ましくは55~85mm2/sである。
【0037】
本発明の一態様の潤滑油組成物の100℃における動粘度は、好ましくは9.5mm2/s以上であり、また、上限値は特に限定されないが、例えば、16.3mm2/s未満であってもよい。
【0038】
本発明の一態様の潤滑油組成物の粘度指数は、好ましくは80以上、より好ましくは100以上、より好ましくは110以上、更に好ましくは120以上、より更に好ましくは130以上である。
【0039】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、後述の実施例に記載の方法に基づいて測定及び算出したミスト化率は、好ましくは0.90質量%以下、より好ましくは0.80質量%以下、更に好ましくは0.70質量%以下、よりさら好ましくは0.65質量%以下、特に好ましくは0.60質量%以下である。
【0040】
本発明の一態様の潤滑油組成物に対して、Fed.TestMethodStd.791-3462に準拠して実施例に記載の方法に基づいて、油温90℃、パネル温度300℃の条件下で24時間のパネルコーキング試験を行った際に、パネルに付着したコーキング物の付着量は、好ましくは150mg以下、更に好ましくは110mg以下、より更に好ましくは100mg以下、特に好ましくは80mg以下である。
【0041】
〔潤滑油組成物の用途〕
本発明の一態様の潤滑油組成物は、高温環境下での耐ミスト性が優れており、コーキングの抑制効果が高い。
そのため、本発明の一態様の潤滑油組成物は、上記特性を発揮し得る各種装置に適用することができるが、内燃機関における各部品間の潤滑に好適に使用し得る。そして、内燃機関の中でも、特に、ターボタージャーを備え、水素を燃料として作動する内燃機関(以下、「水素燃料エンジン」ともいう)における各部品間の潤滑により好適に使用し得る。ターボタージャーを備える水素燃料エンジンは、燃料が水素であるため燃焼室内が非常に高温となり、潤滑油組成物がミスト化し易い環境にある。ミスト化した潤滑油組成物は、排気通路側に設置されたターボチャージャーのタービンホイールに排出されるが、タービンホイールに粘着してコーキング発生の要因となる。これに対して、本発明の一態様の潤滑油組成物は、高温環境下での耐ミスト性に優れているため、ターボタージャーを備える水素燃料エンジンに用いても、タービンホイールに粘着する潤滑油組成物の量を抑制し、コーキングの発生を効果的に抑制することができる。
【0042】
また、本発明の一態様の潤滑油組成物の上述の特性を考慮すると、本発明は、以下の[I]も提供し得る。
[I]上述の本発明の一態様の潤滑油組成物を内燃機関の潤滑に適用する、内燃機関の潤滑方法。
上記[I]に記載の内燃機関としては、例えば、ターボタージャーを備える水素燃料エンジンが挙げられ、特に、ターボタージャーの排気通路側に設置されたタービンホイールを備えた水素燃料エンジンにおいて、コーキングの発生を効果的に抑制することができる。
【0043】
以上のとおり、本発明は、以下の態様を開示する。
[1]ASTM D5800に準拠して、250℃、1時間の条件にて行ったNOACK試験により測定されるNOACK値が6質量%以下の基油(A)を含有し、
-25℃におけるCCS粘度が7000mPa・s以下であり、
150℃におけるHTHS粘度が2.9mPa・s以上である、
潤滑油組成物。
[2]さらに粘度指数向上剤(B)を含有し、
粘度指数向上剤(B)の樹脂分換算での含有量が、前記潤滑油組成物の全量基準で、0.40質量%以下である、上記[1]に記載の潤滑油組成物。
[3]ターボタージャーを備え、水素を燃料として作動する内燃機関に用いられる、上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物。
[4]上記[1]又は[2]に記載の潤滑油組成物を、内燃機関の潤滑に適用する、内燃機関の潤滑方法。
[5]前記内燃機関が、ターボタージャーを備え、水素を燃料として作動する内燃機関である、上記[4]に記載の内燃機関の潤滑方法。
【実施例0044】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、各種物性の測定法は、下記のとおりである。
【0045】
(1)動粘度
ASTM D445に準拠して測定した。
(2)40℃及び100℃における粘度指数
ASTM D2270に準拠して算出した。
(3)NOACK値
ASTM D5800に準拠して、250℃、1時間で測定した。
(4)CCS粘度
ASTM D5293に準拠して、-25℃で測定した。
(5)HTHS粘度(150℃)
ASTM D4683に準拠して、150℃で測定した。
【0046】
以下の実施例及び比較例で用いた基油及び各種添加剤は以下のとおりである。
<基油(A)>
実施例及び比較例で用いた基油(a1-1)~(a1-5)及び基油(a2-1)~(a2-5)のAPI(米国石油協会)基油カテゴリーの分類及び性状を表1に示す。
【表1】
【0047】
<各種添加剤>
・粘度指数向上剤(1):水素化スチレン-ジエンコポリマーをAPI基油カテゴリーのグループIIIに分類される希釈油で希釈した溶液、樹脂分濃度=6.5質量%。
・粘度指数向上剤(2):水素化スチレン-ジエンコポリマーをAPI基油カテゴリーのグループIに分類される希釈油で希釈した溶液、樹脂分濃度=10.7質量%。
・流動点降下剤:ポリメタクリレート(VISCOPLEX 1-500(EVONIK社製))
・添加剤混合物:酸化防止剤、金属系清浄剤、分散剤、耐摩耗剤、及び消泡剤を含むJASO DH-2 添加剤パッケージ。
【0048】
実施例1~6、比較例1~2
上述の基油及び各種添加剤を、表2に示す配合量にて添加し、十分に混合して潤滑油組成物をそれぞれ調製した。使用した基油(混合基油)の性状、及び、調製した潤滑油組成物の性状を表2に示す。
また、調製した潤滑油組成物を用いて以下の試験を行った。これらの結果も表2に示す。
【0049】
(1)耐ミスト性試験
下記測定条件にて、調製した潤滑油組成物である各試料油と圧縮空気とを混合してミスト化し、浮遊ミスト化した油量(ミスト化質量、単位:g)を測定した。
(測定条件)
・試験装置:TACOミスト測定装置(型式番号:C3-0807)
・空気圧力:0.2MPa
・試料油量:40g
そして、下記式(i)より、ミスト化率を測定した。
・式(i):ミスト化率(質量%)=[ミスト化質量(g)/試料油の質量(=40g)]×100
上記ミスト化率が低いほど、浮遊ミストが少なく耐ミスト性に優れていることを意味し、コーキング発生が抑制された潤滑油組成物であるといえる。本実施例においては、当該ミスト化率が0.90質量%以下である場合、耐ミスト性が良好な潤滑油組成物であると判断した。
【0050】
(2)パネルコーキング試験
Fed.TestMethodStd.791-3462に準拠して測定した。
具体的には、スプラッシャーを備えた試験容器に試料油300mLを入れ、アルミ製パネルを上部に取り付け、試料油を90℃、パネルを300℃に加熱し、スプラッシャーを回転させ連続してパネルに油を跳ねかけて、24時間の試験を行った。試験終了後に、パネルに付着したコーキング物の付着量を秤量(単位:mg)した。
当該付着量が少ないほど、耐コーキング性に優れた潤滑油組成物であるといえる。本実施例においては、当該付着量が150mg以下である場合、耐コーキング性が良好な潤滑油組成物であると判断した。
【0051】
【0052】
表2より、実施例1~6で調製した潤滑油組成物は、比較例1~2の潤滑油組成物に比べて、耐ミスト性が優れており、コーキングの発生が効果的に抑制された結果となった。