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特開2023-176321非水系二次電池用電極スラリーの製造方法、及び非水系二次電池電極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176321
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】非水系二次電池用電極スラリーの製造方法、及び非水系二次電池電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/139 20100101AFI20231206BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231206BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 4/62 20060101ALI20231206BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20231206BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20231206BHJP
   H01M 4/1393 20100101ALI20231206BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20231206BHJP
   C08L 39/00 20060101ALI20231206BHJP
   C08F 220/06 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/48
H01M4/62 Z
H01M4/587
H01M4/36 E
H01M4/1393
C08L33/02
C08L39/00
C08F220/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088547
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100137017
【弁理士】
【氏名又は名称】眞島 竜一郎
(72)【発明者】
【氏名】中山 景斗
(72)【発明者】
【氏名】深▲瀬▼ 一成
【テーマコード(参考)】
4J002
4J100
5H050
【Fターム(参考)】
4J002BG011
4J002BJ001
4J002CE00X
4J002DA016
4J002DE186
4J002DJ016
4J002FD206
4J002FD20X
4J002GQ00
4J100AK03P
4J100AK08P
4J100AL08R
4J100AN04Q
4J100BA04R
4J100BA08R
4J100BC43R
4J100CA04
4J100CA05
4J100CA06
4J100FA03
4J100FA19
4J100FA28
4J100JA43
5H050AA07
5H050BA15
5H050BA17
5H050CB02
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB29
5H050DA11
5H050EA28
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA22
5H050HA01
5H050HA02
(57)【要約】
【課題】本発明は、集電体上に形成された電極活物質層の剥離強度を向上しつつ、充放電サイクル後の放電容量維持率を大きく向上できる非水系二次電池電極スラリーの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法は、電極活物質と、第1バインダーと、分散媒と、を含む第1混合物を混練して、第1電極スラリーを調製する第1工程と、少なくとも、前記第1工程で調製した前記第1電極スラリーと、前記第2バインダーと、を含む第2混合物を混練して、第2電極スラリーを調製する第2工程と、を備える。前記非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、前記第1バインダーの含有量Xは、0.5質量%以上であり、前記第2バインダーの含有量Yは、0.2質量%以上であり、前記含有量X及び含有量Yは、下記式(I)に示す条件(1)を満たす
0.067≦X/Y≦4.0 (I)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質と、第1バインダーと、第2バインダーと、分散媒と、を含む非水系二次電池用電極スラリーの製造方法であって、
前記電極活物質と、前記第1バインダーと、前記分散媒と、を含む第1混合物を混練して、第1電極スラリーを調製する第1工程と、
少なくとも、前記第1工程で調製した前記第1電極スラリーと、前記第2バインダーと、を含む第2混合物を混練して、第2電極スラリーを調製する第2工程と、
を備え、
前記非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、前記第1バインダーの含有量Xは、0.5質量%以上であり、
前記非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、前記第2バインダーの含有量Yは、0.2質量%以上であり、
前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yは、下記式(I)に示す条件を満たす、非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
0.067≦X/Y≦4.0 (I)
【請求項2】
前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yは、下記式(II)に示す条件を満たす、請求項1に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
1.0質量%≦X+Y (II)
【請求項3】
前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yの比X/Yは、下記式(III)に示す条件を満たす、請求項1または2に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
X/Y≦1.5 (III)
【請求項4】
前記第1バインダー及び前記第2バインダーの少なくともいずれかは、共重合体(P)を含み、
前記共重合体(P)は、以下の一般式(1)で表される単量体(A)に由来する構造単位、及び
以下の一般式(2)で表される単量体(B)に由来する構造単位を含む、請求項1または2に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【化1】
(一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【化2】
(一般式(2)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、Zは水素原子、アルカリ金属及びNHからなる群から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【請求項5】
前記共重合体(P)における、前記単量体(A)に由来する構造単位の含有率は、0.5mol%以上20mol%以下である、請求項4に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【請求項6】
前記共重合体(P)における、前記単量体(B)に由来する構造単位の含有率は、50mol%以上98mol%以下である、請求項4に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【請求項7】
前記共重合体(P)における、前記単量体(A)に由来する構造単位の含有率は、0.5mol%以上20mol%以下であり、
前記共重合体(P)における、前記単量体(B)に由来する構造単位の含有率は、50mol%以上98mol%以下である、請求項4に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【請求項8】
前記第1バインダー及び前記第2バインダーの両方が、前記共重合体(P)を含む、請求項4に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【請求項9】
前記電極活物質が、炭素材料と、シリコン化合物と、を含む請求項1または2に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【請求項10】
前記シリコン化合物の含有量は、前記電極活物質100質量%に対して、5質量%以上60質量%以下である、請求項9に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【請求項11】
前記第1混合物は、更に導電助剤を含む、請求項1または2に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【請求項12】
集電体と、前記集電体の少なくとも一方面に設けられた電極活物質層、とを備える非水系二次電池電極を製造する方法であって、
請求項1または2に記載の製造方法により得られた非水系二次電池用電極スラリーを、前記集電体に塗布し、乾燥して前記電極活物質層を得る工程を含む、非水系二次電池電極の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系二次電池用電極スラリーの製造方法、及び非水系二次電池電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
非水系電解質を用いる二次電池(非水系二次電池)は高電圧化、小型化、軽量化の面において水系電解質を用いる二次電池よりも優れている。そのため、非水系二次電池は、ノート型パソコン、携帯電話、電動工具、電子・通信機器の電源として広く使用されている。また、最近では環境車両適用の観点から電気自動車やハイブリッド自動車用にも非水系電池が使用されているが、高出力化、高容量化、長寿命化等が強く求められてきている。非水系二次電池としてリチウムイオン二次電池が代表例として挙げられる。
【0003】
非水系二次電池は、金属酸化物などを活物質とした正極と、黒鉛等の炭素材料を活物質とした負極と、カーボネート類または難燃性のイオン液体を中心した非水系電解液溶剤とを備える。非水系二次電池は、イオンが正極と負極との間を移動することにより電池の充放電が行われる二次電池である。詳細には、正極は、金属酸化物とバインダーから成るスラリーをアルミニウム箔などの正極集電体表面に塗布し、乾燥させた後に、適当な大きさに切断することにより得られる。負極は、炭素材料とバインダーから成るスラリーを銅箔などの負極集電体表面に塗布し、乾燥させた後に、適当な大きさに切断することにより得られる。バインダーは、正極及び負極において活物質同士及び活物質と集電体を結着させ、集電体からの活物質の剥離を防止させる役割がある。
【0004】
バインダーとしては、有機溶剤系のN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を溶剤としたポリフッ化ビニリデン(PVDF)系バインダーがよく知られている。しかしながら、このバインダーは活物質同士及び活物質と集電体との結着性が低く、実際に使用するには多量のバインダーを必要とする。そのため、非水系二次電池の容量が低下する欠点がある。また、バインダーに高価な有機溶剤であるNMPを使用しているため、製造コストを抑えることが困難であった。
【0005】
これらの問題を解決する方法として、水分散系バインダーの開発が進められている。水分散系バインダーとして、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)を増粘剤とし、(メタ)アクリル酸エステル系またはスチレン-ブタジエンゴム(SBR)系の水分散体を併用することが知られている。
【0006】
例えば、特許文献1では、電極スラリー作製時に第1バインダーを添加し混合・混練したのちに第2バインダーを添加してスラリーを作製・製造する場合、電極スラリーの物性を改善して、パターンコーティング時にドラッグライン(DRAG LINE)の発生を抑制することができると開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第6645705号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1には、記載の電極スラリー製造方法で得られたスラリーを用いて作製した活物質層の剥離強度及び最終的に作製した非水系二次電池の放電容量維持率について開示がない。本発明では、特許文献1と異なる技術思想に基づいて、電極スラリー製造方法で得られたスラリーを用いて作製した活物質層の剥離強度及び最終的に作製した非水系二次電池の放電容量維持率に着目し、さらに広範囲で剥離強度と放電容量維持率を向上させる製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
そこで、本発明は、集電体上に形成された電極活物質層の剥離強度を向上しつつ、非水系二次電池の充放電サイクル後の放電容量維持率を大きく向上できる非水系二次電池電極スラリーの製造方法を提供することを目的とする。
また、本発明は、集電体上に形成された電極活物質層の剥離強度が高く、充放電サイクル後の放電容量維持率が高い非水系二次電池電極を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、集電体上に形成された電極活物質層の剥離強度が高く、充放電サイクル後の放電容量維持率が高い電極を備えた非水系二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は以下の態様を含む。
〔1〕 電極活物質と、第1バインダーと、第2バインダーと、分散媒と、を含む非水系二次電池用電極スラリーの製造方法であって、
前記電極活物質と、前記第1バインダーと、前記分散媒と、を含む第1混合物を混練して、第1電極スラリーを調製する第1工程と、
少なくとも、前記第1工程で調製した前記第1電極スラリーと、前記第2バインダーと、を含む第2混合物を混練して、第2電極スラリーを調製する第2工程と、
を備え、
前記非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、前記第1バインダーの含有量Xは、0.5質量%以上であり、
前記非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、前記第2バインダーの含有量Yは、0.2質量%以上であり、
前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yは、下記式(I)に示す条件を満たす、非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
0.067≦X/Y≦4.0 (I)
〔2〕 前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yは、下記式(II)に示す条件を満たす、〔1〕に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
1.0質量%≦X+Y (II)
〔3〕 前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yの比X/Yは、下記式(III)に示す条件を満たす、請求項1または2に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
X/Y≦1.5 (III)
〔4〕 前記第1バインダー及び前記第2バインダーの少なくともいずれかは、共重合体(P)を含み、
前記共重合体(P)は、以下の一般式(1)で表される単量体(A)に由来する構造単位、及び
以下の一般式(2)で表される単量体(B)に由来する構造単位を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
【化1】
(一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【化2】
(一般式(2)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、Zは水素原子、アルカリ金属及びNHからなる群から選ばれる少なくとも1種を表す。)
〔5〕 前記共重合体(P)における、前記単量体(A)に由来する構造単位の含有率は、0.5mol%以上20mol%以下である、〔4〕に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
〔6〕 前記共重合体(P)における、前記単量体(B)に由来する構造単位の含有率は、50mol%以上98mol%以下である、〔4〕又は〔5〕に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
〔7〕 前記第1バインダー及び前記第2バインダーの両方が、前記共重合体(P)を含む、〔4〕~〔6〕の何れかに記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
〔8〕 前記電極活物質が、炭素材料と、シリコン化合物と、を含む〔1〕~〔7〕の何れかに記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
〔9〕 前記シリコン化合物の含有量は、前記電極活物質100質量%に対して、5質量%以上60質量%以下である、〔8〕に記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
〔10〕 前記第1混合物は、更に導電助剤を含む、〔1〕~〔9〕の何れかに記載の非水系二次電池用電極スラリーの製造方法。
〔11〕 集電体と、前記集電体の少なくとも一方面に設けられた電極活物質層、とを備える非水系二次電池電極を製造する方法であって、
〔1〕~〔10〕の何れかに記載の製造方法により得られた非水系二次電池用電極スラリーを、前記集電体に塗布し、乾燥して前記電極活物質層を得る工程を含む、非水系二次電池電極の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、集電体上に形成された電極活物質層の剥離強度を向上しつつ、充放電サイクル後の放電容量維持率を大きく向上できる非水系二次電池電極スラリーの製造方法を提供することができる。
また、本発明は、集電体上に形成された電極活物質層の剥離強度が高く、充放電サイクル後の放電容量維持率が高い非水系二次電池電極を提供することができる。
さらに、本発明は、集電体上に形成された電極活物質層の剥離強度が高く、充放電サイクル後の放電容量維持率が高い電極を備えた非水系二次電池を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(非水系二次電池用電極スラリーの製造方法)
本発明の一実施形態の、非水系二次電池用電極スラリーの製造方法(「本実施形態の、非水系二次電池用電極スラリーの製造方法」あるいは、「本実施形態の電極スラリーの製造方法」ということもある。)は、電極活物質と、第1バインダーと、第2バインダーと、分散媒と、を含む非水系二次電池用電極スラリーを製造する方法である。本実施形態の電極スラリーの製造方法は、以下の第1工程と第2工程を備える。
第1工程:前記電極活物質と、前記第1バインダーと、前記分散媒と、を含む第1混合物を混練して、第1電極スラリーを調製する工程。
第2工程:少なくとも、前記第1工程で調製した前記第1電極スラリーと、前記第2バインダーと、を含む第2混合物を混練して、第2電極スラリーを調製する工程。
前記非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、前記第1バインダーの含有量Xは、0.5質量%以上である。前記非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、前記第2バインダーの含有量Yは、0.2質量%以上である。前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yは、下記式(I)に示す条件を満たす。
【0013】
0.067≦X/Y≦4.0 (I)
【0014】
上記製造方法によって得られた電極スラリーを用いて電極を作製することで、電極活物質層の剥離強度が向上しつつ、電極を用いた非水系二次電池では充放電サイクル後の放電容量維持率が向上する。
このような効果を奏する理由については定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本実施形態の製造方法を用いることで、第1バインダーは活物質近傍に配置され、第2バインダーはスラリー中に遍在することが推測される。この作用により、バインダーを一括で添加した際には電極活物質層中でバインダーは活物質近傍に多く配置される一方、分添した際にはバインダーは活物質近傍だけでなく電極活物質層中にまんべんなく配置されると考えられる。したがって電極活物質層の強度が増加することで、上記効果を奏すると考える。
【0015】
前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yは、下記式(II)に示す条件を満たすことが好ましい。
1.0質量%≦X+Y (II)
【0016】
前記第1バインダーの含有量X及び前記第2バインダーの含有量Yは、下記式(III)に示す条件を満たすことが、作製された電極活物質層の剥離強度の向上及び充放電サイクル後の放電容量維持率の向上の観点からより好ましい。
X/Y≦1.5 (III)
【0017】
[第1工程]
本実施形態にかかる第1工程は、前記第1混合物の各成分を先に混合してから、第1混合物を混練する工程であっても良く、前記第1混合物の各成分を添加・混合しながら、混練する工程であってもよい。
本実施形態にかかる第1工程は、第1混合物を調製する工程と、第1電極スラリーを調製する工程とを含むことが好ましい。
【0018】
<第1混合物を調製する工程>
本実施形態にかかる第1混合物を調製する工程では、第1混合物に含まれる上記各成分を適宜混合することで第1混合物を調製する。必要に応じて導電助剤を添加してもよい。
混合の方法は限定されないが、例えば、攪拌式、回転式、または振とう式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。第1混合物を調製する工程における混合装置として、下記第1電極スラリーを調製する工程で混練に用いる装置を用いてもよい。
【0019】
第1混合物の固形分濃度は、適宜調製することができる。混練時における電極活物質や導電助剤といった粉体の分散を効果的に行う観点で、第1混合物における固形分濃度を50質量%以上95質量%以下にすることが好ましく、55質量%以上90質量%以下にすることがより好ましく、60質量%以上88質量%以下にすることがさらに好ましい。
【0020】
<第1電極スラリーを調製する工程>
本実施形態にかかる第1電極スラリーを調製する工程では、上記で得られた第1混合物を自転公転式撹拌機やプラネタリーミキサー等の装置を用いて混練する。
混練する際には、混練時に十分な外力を加えることができるといった観点から、自転公転式撹拌機を用いることが好ましい。
混練条件は、電極活物質の分散性を確保する観点で、2000回転/分で2分間混練が好ましく、2000回転/分で3分間混練がより好ましく、2000回転/分で4分間混練がさらに好ましい。
【0021】
混練する際には、第1混合物を一度混練し、その後、固形分濃度を変化させて第1電極スラリーを得てもよい。この場合、第1混合物と第1電極スラリーの組成は異なることになる。
例えば自転公転式撹拌機を用いた際には、65質量%以上95質量%以下の固形分濃度に調製した第1混合物を、1000~3000回転/分で2~10分間混練を行ったのちに、分散媒を加え55質量%以上90質量%以下の固形分濃度に調製し1000~3000回転/分で2~10分間混練して第1電極スラリーとすることが好ましい。
【0022】
具体例としては、自転公転式撹拌機を用いた際には、80質量%以上95質量%以下の固形分濃度に調製した第1混合物を、2000回転/分で4分間混練を行ったのちに、分散媒を加え65質量%以上80質量%以下の固形分濃度に調製し2000回転/分で2分間混練することが好ましい。
別の具体例としては、プラネタリーミキサーを用いた際には、70質量%以上80質量%以下の固形分濃度に調整した第1混合物を、20回転/分で4分間混練を行ったのちに、分散媒を加え60質量%以上70質量%以下の固形分濃度に調整し60回転/分で2時間混練することが好ましい。
【0023】
第1電極スラリーの固形分濃度は、適宜調製することができる。混練時における電極活物質や導電助剤といった粉体の分散を効果的に行う観点で、第1混合物における固形分濃度を50質量%以上85質量%以下にすることが好ましく、55質量%以上80質量%以下にすることがより好ましく、60質量%以上75質量%以下にすることがさらに好ましい。
【0024】
[第2工程]
本実施形態にかかる第2工程は、前記第2混合物の各成分を先に混合してから、第2混合物を混練する工程であってもよく、前記第1工程で調製した前記第1電極スラリーに、少なくとも前記第2バインダーを添加しながら、その混合物を混練する工程であってもよい。
本実施形態にかかる第2工程は、第2混合物を調製する工程と、第2電極スラリーを調製する工程とを含むことが好ましい。
【0025】
<第2混合物を調製する工程>
本実施形態にかかる第2混合物を調製する工程において、前記第2バインダーのほかに必要に応じてさらに分散媒を追加してもよい。また第2混合物を調製する工程において、さらに電極活物質を添加してもよいが、電極活物質は添加しないことが好ましい。すなわち、本実施形態にかかる第2工程においては、電極活物質は添加しないことが好ましい。
混合の方法は問わないが、例えば、攪拌式、回転式、または振とう式などの混合装置を使用した方法が挙げられる。第2混合物を調製する混合装置として、下記第2電極スラリーを調製する工程で混練に用いる装置を用いてもよい。
第2混合物の固形分濃度は、適宜調整することができる。塗工性確保の観点で、第2混合物における固形分濃度を30質量%以上70質量%以下にすることが好ましく、35質量%以上65質量%以下にすることがより好ましく、40質量%以上60質量%以下にすることがさらに好ましい。第2混合物での固形分が上記範囲にあることによって、塗工時のスラリー粘度が好適になり塗工後のタレやハジキを抑えることができる。加えて乾燥時の加熱時間を抑えることができ工程上の優位性をもたせることができるからである。
【0026】
<第2電極スラリーを調製する工程>
本実施形態にかかる第2電極スラリーを調製する工程において、上記で得られた第2混合物を自転公転式撹拌機やプラネタリーミキサー等の装置を用いて混練する。
例えば自転公転式撹拌機を用いた際には、分散媒を用いて30質量%以上80質量%以下の固形分濃度に調整し、300~800回転/分で7~15分間混練することが好ましい。
具体例としては、例えば自転公転式撹拌機を用いた際には、分散媒を用いて30質量%以上70質量%以下の固形分濃度に調整し、500回転/分で10分間混練することが好ましい。
別の具体例としては、プラネタリーミキサーを用いた際には、分散媒を用いて30質量%以上65質量%以下の固形分濃度に調整し30回転/分で1時間混練することが好ましい。
【0027】
製造された第2電極スラリー、つまり本実施形態における電極スラリーの固形分濃度は特に限定されないが、30質量%以上70質量%以下であることが好ましく、35質量%以上65質量%以下であることがより好ましく、40質量%以上60質量%以下であることがさらに好ましい。塗工後のタレやハジキを抑えることができ、なおかつ乾燥時の加熱時間を抑えることができる点で好適であるためである。また、第1工程での固形分濃度が第2工程の固形分濃度より高いとより効果的に混練を行うことができる。
【0028】
(非水系二次電池用電極スラリー)
本実施形態の、水系二次電池用電極スラリーの製造方法にかかる水系二次電池用電極スラリー(「本実施形態にかかる電極スラリー」ともいうことがある)は、電極活物質と、第1バインダーと、第2バインダーと、分散媒と、を含む。本実施形態にかかる電極スラリーは、さらに、導電助剤、または添加剤を含んでもよい。
【0029】
[第1バインダー及び第2バインダー]
本実施形態にかかる第1バインダー及び第2バインダーは、後述の非水系二次電池電極用バインダーであることが好ましい。
本実施形態にかかる第1バインダー及び第2バインダーは、同じ種類でも、異なる種類でもよい。スラリー作製における工程の簡略化の観点から、本実施形態にかかる第1バインダー及び第2バインダーは、同じ種類であることが好ましい。「同じ種類」とは、バインダーに含まれている樹脂の種類が同じ意味である。例えば、前記樹脂が同じ単量体の重合体若しくは共重合体である場合、同じ種類の樹脂である。スラリー作製における工程の簡略化の観点から、本実施形態にかかる第1バインダー及び第2バインダーは、同じバインダーであることがより好ましい。
電極スラリーの製造においては、第1バインダー及び、第2バインダーは異なっていてもよい。
第1バインダー及び第2バインダーの少なくともいずれかは、上述した共重合体(P)が好ましく、第1バインダー及び第2バインダーの両方が共重合体(P)を含むことがより好ましく、第1バインダー及び第2バインダーが共重合体(P)のみからなることがより好ましい。
【0030】
<電極スラリー中の第1バインダー及び第2バインダーの含有量>
以下、電極スラリー中の第1バインダー及び第2バインダーの含有量に関する説明において、非水系二次電池用電極スラリーの全固形分における含有率、すなわち、質量%を用いる。
なお、本実施形態において、非水系二次電池用電極スラリーの全固形分とは、該電極スラリーを直径5cmのアルミ皿に1g秤量し、大気圧下の乾燥器内で空気を循環させながら、110℃で5時間乾燥させた後に残る成分のことを意味する。
電極スラリー中の全固形分に対する第1バインダーの含有量Xは0.5質量%以上であり、0.7質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。第1工程において第1バインダーが電極活物質を分散させ、均一なスラリーを得ることが可能になるからである。電極スラリー中の全固形分に対する第1バインダーの含有量Xは7.0質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることがさらに好ましい。
電極スラリー中の全固形分に対する第2バインダーの含有量Yは0.2質量%以上であり、0.5質量%以上であることが好ましく、1.0質量%以上であることがより好ましい。第2工程において電極活物質近傍に配置されない第2バインダーが存在することで電極合材層の強度を向上させるからである。電極スラリー中の全固形分に対する第2バインダーの含有量Yは7.0質量%以下であることが好ましく、6.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以下であることがさらに好ましい。
【0031】
第1バインダーの含有量Xと第2バインダーの含有量Yの比X/Yは0.067以上であり、0.1以上であることが好ましく、0.3以上であることがより好ましく、0.5以上であることがさらに好ましい。第1工程で電極活物質の混練が効果的に行われ電極の性能が向上するからである。
第1バインダーの含有量Xと第2バインダーの含有量Yの比X/Yは4.0以下であり、3.5以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.0以下であることがさらに好ましく、1.5以下であることが特に好ましく、1.2以下であることが最も好ましい。電極活物質近傍に配置されない第2バインダーが好適量存在することで電極合材層の強度を向上させるからである。すなわち、電極活物質層の剥離強度を向上しつつ、電極を用いた非水系二次電池では充放電サイクル後の放電容量維持率を向上しやすい。
【0032】
また、バインダー総含有量(X+Y)は、0.7質量%以上であり、1.2質量%以上であることが好ましく、1.5質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることが更に好ましい。電極中のバインダー含有量が前記範囲であることによって、電極活物質間、及び電極活物質と集電体との結着性を確保することができ、なおかつ、電極活物質層の充放電容量を大きくすることができ、電池としたときの内部抵抗も低くすることができるためである。
バインダー総含有量(X+Y)は14質量%以下であることが好ましく、12質量%以下であることがより好ましく、10質量%以下であることがさらに好ましい。また、バインダー総含有量は、8.0質量%以下であってもよく、6.0質量%以下であってもよい。電極中のバインダー含有量が前記範囲であることによって、電極中の非活性物質が抑えられ電気抵抗の増加や容量の低下を抑えることができるからである。
【0033】
〔非水系二次電池電極用バインダー〕
本実施形態にかかる非水系二次電池電極用バインダー(または、非水系二次電池電極バインダー。以下、「電極バインダー」とすることがある)は、以下に説明する共重合体(P)を含むことが好ましい。電極バインダーは、その他の成分を含んでもよく、例えば、共重合体(P)以外の重合体、界面活性剤等を含んでもよい。
【0034】
ここで電極バインダーは、後述する電池の製造工程における加熱を伴う工程において揮発せずに残る成分である。より具体的には、電極バインダーを直径5cmのアルミ皿に1g秤量し、大気圧下の乾燥器内で空気を循環させながら、110℃で5時間乾燥させた後に残る成分である。電極バインダーの不揮発分には、例えば共重合体(P)等が含まれる。
【0035】
電極バインダー中の共重合体(P)の含有率は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、98質量%以上であることがさらに好ましい。共重合体(P)による本発明の目的とする効果への寄与を大きくするためである。
【0036】
共重合体(P)は、後述する式(1)で表す単量体(A)に由来する構造単位及び、式(2)で表す単量体(B)に由来する構造単位を含む。また、共重合体(P)は、後述する単量体(C)に由来する構造単位、単量体(D)に由来する構造単位を含んでもよい。
【0037】
以下、共重合体(P)の製造に好適に用いられる単量体として、単量体(A)~(D)を挙げるが、単量体としてはこれらに限定されるわけではなく、その他の単量体も用いることができる。
【0038】
<単量体(A)>
本実施形態にかかる単量体(A)は、以下の式(1)で表される化合物である。単量体(A)は、式(1)で表される複数の種類の化合物を含んでいてもよい。
【0039】
【化3】
(一般式(1)において、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基を表す。)
【0040】
一般式(1)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、R、Rはそれぞれ独立に水素原子またはメチル基であることがより好ましい。
【0041】
単量体(A)としては、具体的には、以下に示す化合物(括弧内に記載のR、Rは、それぞれ式(1)中のR、Rに対応する。)が挙げられる。N-ビニルホルムアミド(R:水素原子、R:水素原子))、N-ビニルアセトアミド(R:水素原子、R:メチル基)などが挙げられる。これらの中でも、単量体(A)としては、共重合体(P)を含む電極バインダーを含む非水系二次電池電極用スラリーにおいて、電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性が良好となるため、N-ビニルアセトアミドが好ましい。
【0042】
<単量体(B)>
本実施形態にかかる単量体(B)は、以下の一般式(2)で表される化合物である。単量体(B)は、一般式(2)で表される複数の種類の化合物を含んでいてもよい。
【0043】
【化4】
【0044】
(一般式(2)において、Rは水素原子またはメチル基を表し、Zは水素原子、アルカリ金属及びNHからなる群から選ばれる少なくとも1種を表す。)
【0045】
一般式(2)中、Rは水素原子であることが好ましい。Zは水素原子、アルカリ金属またはNHであり、アルカリ金属またはNHであることが好ましい。Zがアルカリ金属である場合におけるアルカリ金属としては、例えば、リチウム、ナトリウム、カリウムなどが挙げられる。Zに対応する好ましい1価のカチオンを具体的に示すと、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウムイオンが挙げられる。
本実施形態にかかる単量体(B)は、具体的には、以下に示す化合物(括弧内に記載のR、Zは、それぞれ式(2)中のR、Zに対応する。)が挙げられる。
アクリル酸(R:水素原子、Z:水素原子)、メタクリル酸(R:メチル基、Z:水素原子)、及びそれらの塩(式(2)中のZがアルカリ金属またはNHである化合物)である。
これらの中でも単量体(B)として、(メタ)アクリル酸ナトリウム、(メタ)アクリル酸リチウム、(メタ)アクリル酸カリウム、(メタ)アクリル酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種を含むことがより好ましい。充放電サイクル後の放電容量維持率が、より高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。
単量体(B)として、(メタ)アクリル酸ナトリウムを含むことがさらに好ましく、アクリル酸ナトリウムを含むことが特に好ましい。充放電サイクル後の放電容量維持率が、より一層高い非水系二次電池が得られる非水系二次電池電極の材料となるためである。
(メタ)アクリル酸塩は、例えば、(メタ)アクリル酸を水酸化物、及びアンモニア水等で中和して得られるが、中でも入手容易性の点から、水酸化ナトリウムで中和することが好ましい。
【0046】
pH調整のため、単量体(B)は、(メタ)アクリル酸塩を60質量%以上含むことが好ましく、80質量%以上含むことがより好ましく、95質量%以上含むことがさらに好ましい。
【0047】
ここで、単量体(B)として(メタ)アクリル酸を用いて、重合後に中和剤を用いて中和した場合、(メタ)アクリル酸由来の構造単位は、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)だけ塩を形成したものとして考える。中和剤に含まれるカチオンの当量が、重合に用いた(メタ)アクリル酸のモル数より多い場合、(メタ)アクリル酸は全て塩を形成していると考える。一方、中和剤に含まれるカチオンの当量が、重合に用いた(メタ)アクリル酸のモル数より少ない場合、カチオンは全て(メタ)アクリル酸と塩を形成していると考える。なお、中和剤に含まれるカチオンが2価以上である場合、1つのカチオンにその価数と同数の(メタ)アクリル酸由来の構造単位に結合したものとして考える。
【0048】
<単量体(C)>
単量体(C)は、以下の一般式(3)で表される化合物である。単量体(C)は、一般式(3)で表される複数の種類の化合物を含んでもよい。
【0049】
【化5】
(一般式(3)において、R、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上5以下のアルキル基である。Rは、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、Rよりも炭素数が多い。nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、n+m≧20である。)
【0050】
一般式(3)中、R、R、Rは各々独立に水素原子または炭素数1以上3以下のアルキル基であることが好ましく、R、R、Rは各々独立に水素原子またはメチル基であることがより好ましい。Rはメチル基であることが更に好ましい。
【0051】
一般式(3)中、nは1以上の整数、mは0以上の整数であり、n+m≧20である。共重合体(P)を電極活物質のためのバインダーとして電極を作製した場合、電極の可撓性が向上し、クラックの発生を抑制されるためである。この観点から、n+m≧30であることが好ましく、n+m≧40であることがより好ましい。また、n+m≦500であることが好ましく、n+m≦200であることがより好ましく、n+m≦150であることがさらに好ましい。バインダーの結着力がより高くなるためである。
【0052】
なお、一般式(3)では、Rを含む構造単位n個及びRを含む構造単位m個が含まれるということを限定しているが、これらの構造単位の配列について限定はしていない。すなわち、m≧1の場合、一般式(3)では、それぞれの構造単位が全てまたは一部が連続したブロック構造を有していてもよく、2つの構造単位が交互に配列した構造等の周期的な規則性をもって配列した構造でもよく、2つの構造単位がランダムに配列した構造でもよい。一般式(3)の共重合体の好ましい形態としては、周期的な規則性をもって配列した構造、またはランダムに配列した構造である。一般式(3)を形成する分子鎖内での各構造単位の分布の偏りを抑制するためである。一般式(3)の共重合体のより好ましい形態としては、ランダムに配列した構造である。特殊な触媒を用いずにラジカル重合開始剤により重合可能であり、製造コストを低減できるためである。
【0053】
一般式(3)において、R、R、R、R、n、mの組み合わせとして好ましい例としては、以下の表1の例が挙げられる。
【0054】
【表1】
【0055】
一般式(3)においてm=0であることがより好ましい。m=0の単量体(D)の例として、ポリエチレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、より具体的には、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、表1の単量体d1、d2)等を挙げることができる。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートの一例としては、EVONIK INDUSTRIES製のVISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA Wが挙げられる。この製品においてはR=CH、R=H、R=CH、n=45、m=0である。メトキシポリエチレングリコールメタクリレートの他の例としては、EVONIK INDUSTRIES製のVISIOMER(登録商標)MPEG5005 MA Wが挙げられる。この製品においては、R=CH、R=H、R=CH、n=113、m=0である。
【0056】
m=0の単量体(C)の別の例として、ポリプロピレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられ、より具体的には、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート(例えば、表1の単量体d3、d4)等を挙げることができる。
【0057】
<単量体(D)>
単量体(D)は、芳香族アルコールのエチレン性不飽和カルボン酸エステル化合物である。単量体(D)は、1種類の化合物のみを含んでもよく、2種類以上の化合物を含んでもよい。単量体(D)は、芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル(芳香族アルコールの(メタ)アクリレート)を含むことが好ましく、芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル(芳香族アルコールの(メタ)アクリレート)からなることがより好ましい。
【0058】
芳香族アルコールの(メタ)アクリル酸エステル(芳香族アルコールの(メタ)アクリレート)としては、例えば、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、フェノキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシ化-o-フェニルフェノール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート等が挙げられる。単量体(D)は、これらの化合物のうち、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルの少なくともいずれかを含むことがより好ましく、(メタ)アクリル酸ベンジルを含むことがさらに好ましい。
【0059】
共重合体(P)の製造に好適に用いられる単量体として、上記単量体(A)~(D)を挙げるが、単量体としてはこれらに限定されるわけではなく、その他の単量体も用いることができる。その他の単量体としては、例えば、アクリルアミド、アクリロニトリル、ブチルアクリレート等が挙げられる。
【0060】
<共重合体(P)における構造単位の含有率>
以下、共重合体(P)における各構造単位の含有率について説明する。ここで、単量体(B)として(メタ)アクリル酸を単量体として用いて、重合後に中和剤を用いて中和した場合、(メタ)アクリル酸由来の構造単位は、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)だけ塩を形成したものとして考える。詳細は<単量体(B)>の項にて説明した通りである。
【0061】
本実施形態における、共重合体(P)における各単量体に由来する構造単位の含有量は、共重合体(P)の製造のために添加する各単量体の配合量を用いることで、算出することができる。以下、共重合体(P)における各単量体に由来する構造単位の含有量について、共重合体における構造単位の由来となる単量体の合計100モル%として換算したときの各単量体の含有率、すなわちmol%の値を用いて説明する。なお、共重合体(P)の重合に連鎖移動剤等の単量体以外の化合物を用いた場合、その化合物由来の構造単位も共重合体の構造と考える。
【0062】
本実施形態にかかる単量体(A)に由来する構造単位(a)の含有率は、共重合体(P)において0.5mol%以上であることが好ましく、1mol%以上であることがより好ましく、3mol%以上であることがさらに好ましく、5mol%以上であることが特に好ましい。後述する電極スラリー作製時の電極活物質、導電助剤等の分散性に優れ、塗工性良好な電極スラリーを作製することができるためである。単量体(A)に由来する構造単位(a)の含有率は、7mol%以上であってもよい。
本実施形態にかかる単量体(A)に由来する構造単位の含有率は、共重合体(P)において20mol%以下であることが好ましく、15mol%以下であることがより好ましく、13mol%以下であることがさらに好ましい。後述する電極のクラックの発生が抑制され、電極の生産性が向上するためである。単量体(A)に由来する構造単位の含有率は10mol%以下であってもよい。
【0063】
本実施形態にかかる単量体(B)に由来する構造単位の含有率((メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩との合計量)は、共重合体(P)において50mol%以上であることが好ましく、70mol%以上であることがより好ましく、80mol%以上であることがさらに好ましい。集電体に対する剥離強度の高い電極活物質層を得ることができるためである。
本実施形態にかかる単量体(B)に由来する構造単位の含有率((メタ)アクリル酸と(メタ)アクリル酸塩との合計量)は、共重合体(P)において98mol%以下であることが好ましく、95mol%以下であることがより好ましく、92mol%以下であることがさらに好ましい。後述する電極スラリー作製時の電極活物質、導電助剤等の固形分の分散性がより向上するためである。
【0064】
本実施形態にかかる単量体(C)に由来する構造単位の含有率は、共重合体(P)において0.05mol%以上であることが好ましく、0.1mol%以上であることがより好ましく、0.15mol%以上であることがさらに好ましい。単量体(C)に由来する構造単位の含有率は、0.25mol%以上であってもよい。
本実施形態にかかる単量体(C)に由来する構造単位の含有率は、共重合体(P)において5mol%以下であることが好ましく、3mol%以下であることがより好ましく、1mol%以下であることがさらに好ましい。後述する電極の、クラック発生を抑制するため、電極活物質層の剥離強度を向上させるため、及び電極活物質層の膨れを抑制するためである。また、後述する非水系二次電池において、サイクル特性(放電容量維持率)を向上させるためである。
【0065】
本実施形態にかかる単量体(D)に由来する構造単位の含有率は、共重合体(P)において1mol%以上であることが好ましく、2mol%以上であることがより好ましく、2.5mol%以上であることがさらに好ましい。後述する電極のクラックの発生が抑制され、電極の生産性が向上するためである。
本実施形態にかかる単量体(D)に由来する構造単位の含有率は、共重合体(P)において20mol%以下であることが好ましく、15mol%以下であることがより好ましく、10mol%以下であることがさらに好ましい。後述する電極において、電極活物質層の剥離強度を向上させるため、及び電極活物質層の膨れを抑制するためである。また、後述する非水系二次電池において、サイクル特性(放電容量維持率)を向上させるためである。
【0066】
<共重合体(P)の製造方法>
共重合体(P)の合成は、水性媒体中におけるラジカル重合で行うことが好ましい。重合法としては、例えば、重合に使用する単量体を全て一括して仕込んで重合する方法、重合に使用する単量体を連続供給しながら重合する方法等が適用できる。共重合体(P)の合成に用いる全単量体中の各単量体の含有率は、共重合体(P)中のその単量体対応する構造単位の含有率である。例えば、共重合体(P)の合成に用いる全単量体中の単量体(A)の含有率は、合成しようとする共重合体(P)中の構造単位(a)の含有率である。ただし、単量体(B)として(メタ)アクリル酸を用いて、重合後に中和剤を用いて中和した場合、(メタ)アクリル酸由来の構造単位は、中和剤に含まれるカチオンの当量(カチオンの価数×カチオンのモル数、以下同様)だけ塩を形成したものとして考える。中和剤に含まれるカチオンの当量が、重合に用いた(メタ)アクリル酸のモル数より多い場合、(メタ)アクリル酸は全て塩を形成していると考える。一方、中和剤に含まれるカチオンの当量が、重合に用いた(メタ)アクリル酸のモル数より少ない場合、カチオンは全て(メタ)アクリル酸と塩を形成していると考える(すなわち、(メタ)アクリル酸は中和剤に含まれるカチオンの量だけ塩を形成している)。ラジカル重合は、30~90℃の温度で行うことが好ましい。なお、共重合体(P)の重合方法の具体的な例は、後述の実施例において詳しく説明する。
【0067】
ラジカル重合開始剤としては、例えば、過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過酸化水素、t-ブチルハイドロパーオキサイド、アゾ化合物等が挙げられるが、これに限られない。アゾ化合物としては、例えば、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩が挙げられる。重合を水中で行う場合は、水溶性の重合開始剤を用いることが好ましい。また、必要に応じて、重合の際にラジカル重合開始剤と、還元剤とを併用して、レドックス重合してもよい。還元剤としては、重亜硫酸ナトリウム、ロンガリット、アスコルビン酸等が挙げられる。
【0068】
〔非水系二次電池電極バインダーの製造方法〕
非水系二次電池電極バインダーの製造方法は、共重合体(P)の製造方法と同じであってもよく、さらに工程を加えてもよい。共重合体(P)の製造方法は上記の通りである。さらに加えられる工程は、例えば、精製工程、添加剤の混合工程等が挙げられる。
【0069】
[電極活物質]
本実施形態の非水系二次電池電極バインダーが適用される非水系二次電池は、特に限定されない。非水系二次電池がリチウムイオン二次電池である場合、電極活物質として、例えば、以下に示す負極活物質を用いることができる。負極活物質は、1種のみであってもよいし、2種以上用いてもよい。
負極活物質の例として、導電性ポリマー、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン化合物等が挙げられる。これらの負極活物質の中でも、体積当たりのエネルギー密度が大きいリチウムイオン二次電池が得られるため、炭素材料、チタン酸リチウム、シリコン化合物から選ばれるいずれか1種または2種以上を用いることが好ましい。
導電性ポリマーとして、ポリアセチレン、ポリピロール等が挙げられる。
炭素材料としては、石油コークス、ピッチコークス、石炭コークス等のコークス;人造黒鉛、天然黒鉛等の黒鉛などが挙げられる。人造黒鉛としては、例えば、SCMG(登録商標)-XRs(昭和電工株式会社製)が挙げられる。これらの中でも、容量の観点から黒鉛が好ましい。
シリコン化合物としては、シリコン(Si)、シリコン酸化物等が挙げられる。シリコン酸化物としては具体的には、SiO(0.1≦x≦2.0)等が挙げられる。
これらの中でも、容量とサイクル特性を両立する観点から、SiOx(0.1≦x≦2.0)が好ましい。
【0070】
また、負極活物質は、炭素材料及びシリコン化合物を含むことが好ましい。本実施形態の非水系二次電池用電極スラリーを用いて形成される非水系二次電池電極において、剥離強度を向上させる効果がより顕著となるためである。特に、体積当たりのエネルギー密度が大きく、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いリチウムイオン二次電池が得られるため、負極活物質は、シリコン化合物と、黒鉛とを含むことが好ましく、シリコン化合物としてSiO(0.1≦x≦2.0)と、黒鉛とを含むことがより好ましい。
【0071】
前記シリコン化合物の含有量は、前記電極活物質100質量%に対して、5質量%以上含むことが好ましく、10質量%以上含むことがより好ましく、15質量%以上含むことがさらに好ましい。高容量の電極が得られるためである。
なお、電極スラリーに含まれる負極活物質がシリコン化合物を5質量%以上含む場合、電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させることにより、シリコン化合物を5質量%以上含む負極活物質を含む負極活物質層が得られる。
また、負極活物質中のシリコン化合物は、負前記電極活物質100質量%に対して、60質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましい。負極活物質中のシリコン化合物が60質量%以下であると、高容量化を実現しつつ、より一層、充放電サイクル後の放電容量維持率が高いリチウムイオン二次電池が得られる場合があるためである。
シリコン化合物の含有量は、前記電極活物質100質量%に対して、5質量%以上60質量%以下である負極活物質層は、本実施形態の非水系二次電池用電極スラリーを用いて形成した場合、電極活物質層の剥離強度を向上しつつ、電極を用いた非水系二次電池では充放電サイクル後の放電容量維持率を向上する効果を得やすい。
【0072】
リチウムイオン二次電池の正極活物質の例として、コバルト酸リチウム(LiCoO2)、ニッケルを含むリチウム複合酸化物、スピネル型マンガン酸リチウム(LiMn2O4)、オリビン型燐酸鉄リチウム、TiS2、MnO2、MoO3、V2O5等のカルコゲン化合物が挙げられる。正極活物質は、これらの化合物のいずれかを単独で含んでもよく、あるいは複数種を含んでもよい。また、その他のアルカリ金属の酸化物も使用することができる。ニッケルを含むリチウム複合酸化物として、Ni-Co-Mn系のリチウム複合酸化物、Ni-Mn-Al系のリチウム複合酸化物、Ni-Co-Al系のリチウム複合酸化物などが挙げられる。正極活物質の具体例として、LiNi1/3Mn1/3Co1/3O2やLiNi3/5Mn1/5Co1/5など挙げられる。
【0073】
[分散媒]
電極スラリー中の分散媒については、特に限定はされないが、環境適性や作業環境の面から水性媒体が好ましい。水性媒体の一例としては、水が挙げられる。電極スラリーの水性媒体は、親水性の溶媒を含んでもよい。親水性の溶媒としては、メタノール、エタノール及びN-メチルピロリドン等が挙げられる。負極スラリーの場合は、分散媒として水を含むことが好ましい。正極スラリーの場合は、分散媒として、N-メチルピロリドンを含むことが好ましい。
水性媒体中の水の含有率は80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましい。電極スラリーの水性媒体の組成は、電極バインダー組成物に含まれる水性媒体と同じでもよく、異なっていてもよい。
【0074】
[導電助剤]
電極スラリーは、導電助剤として、カーボンブラック、気相法炭素繊維等を含んでもよい。気相法炭素繊維の具体例としては、VGCF(登録商標)-H(昭和電工(株))が挙げられる。
【0075】
[添加剤]
電極スラリーには上記以外の成分として、発明の効果を奏する範囲で適宜添加剤を使用することができる。
【0076】
(非水系二次電池電極の製造方法)
本実施形態の、非水系二次電池電極の製造方法は、集電体と、前記集電体の少なくとも一方面に設けられた電極活物質層、とを備える非水系二次電池電極を製造する方法である。前述の本実施形態の、非水系二次電池用電極スラリーの製造方法により得られた非水系二次電池用電極スラリーを、前記集電体に塗布し、乾燥して前記電極活物質層を得る工程を含む。
【0077】
<非水系二次電池電極>
本実施形態の非水系二次電池電極(「本実施形態の電極」ともいうことがある)は、集電体と、集電体の表面に形成された電極活物質層とを有する。電極活物質層は、電極活物質、及び本実施形態の電極バインダーを含む。電極の形状としては、例えば、積層体や捲回体が挙げられるが、特に限定されない。集電体は、厚さ0.001~0.5mmの金属シートであることが好ましく、金属としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス等が挙げられ、非水系二次電池がリチウムイオン二次電池の場合、正極としてはアルミニウム、負極としては銅が好ましいが、特に限定されない。
【0078】
本実施形態の電極は、例えば、電極スラリーを集電体上に塗布し、乾燥させることにより製造できるが、この方法に限られない。
【0079】
電極スラリーを集電体上に塗布する方法としては、例えば、リバースロール法、ダイレクトロール法、ドクターブレード法、ナイフ法、エクストルージョン法、カーテン法、グラビア法、バー法、ディップ法およびスクイーズ法等が挙げられる。これらの中でも、ドクターブレード法、ナイフ法、またはエクストルージョン法が好ましく、ドクターブレードを用いて塗布することがより好ましい。電極スラリーの粘性等の諸物性及び乾燥性に対して好適であり、良好な表面状態の塗布膜を得られるためである。
【0080】
電極スラリーは、集電体の片面にのみ塗布してもよいし、両面に塗布してもよい。電極スラリーを集電体の両面に塗布する場合は、片面ずつ塗布してもよく、両面同時に塗布してもよい。また、電極スラリーは、集電体の表面に連続して塗布してもよいし、間欠的に塗布してもよい。電極スラリーの塗布量、塗布範囲は、電池の大きさなどに応じて、適宜決定できる。乾燥後の電極活物質層の目付量は、4~25mg/cmであることが好ましく、6~16mg/cmであることがより好ましい。
【0081】
集電体に塗布された電極スラリーを乾燥することにより電極シートが得られる。乾燥方法は、特に限定されないが、例えば、熱風、真空、(遠)赤外線、電子線、マイクロ波および低温風を単独あるいは組み合わせて用いることができる。乾燥温度は、40℃以上180℃以下であることが好ましく、乾燥時間は、1分以上30分以下であることが好ましい。
【0082】
電極シートはそのまま電極として用いてもよいが、電極として適当な大きさや形状にするために切断してもよい。電極シートの切断方法は特に限定されないが、例えば、スリット、レーザー、ワイヤーカット、カッター、トムソン等を用いることができる。
【0083】
電極シートを切断する前または後に、必要に応じてそれをプレスしてもよい。それによって電極活物質を電極により強固に結着させ、さらに電極を薄くすることによる非水系電池のコンパクト化が可能になる。プレスの方法としては、一般的な方法を用いることができ、特に金型プレス法またはロールプレス法を用いることが好ましい。プレス圧は、特に限定されないが、プレスによる電極活物質へのリチウムイオン等のドープ/脱ドープに影響を及ぼさない範囲である0.5~5t/cmとすることが好ましい。
【0084】
<非水系二次電池>
本実施形態にかかる非水系二次電池(「本実施形態にかかる電池」ということがある)の好ましい一例として、リチウムイオン二次電池について説明するが、電池の構成は以下に説明する構成に限られない。ここで説明する例にかかるリチウムイオン二次電池は、正極、負極、電解液、及び必要に応じてセパレータ等の部品が外装体に収容されている。
【0085】
「電解液」
電解液としては、イオン伝導性を有する非水系の液体を使用する。電解液としては、電解質を有機溶媒に溶解させた溶液、イオン液体等が挙げられるが、製造コストが低く、内部抵抗の低い電池が得られるため、前者が好ましい。
【0086】
電解質としては、アルカリ金属塩を用いることができ、電極活物質の種類等に応じ適宜選択できる。電解質としては、例えば、LiClO、LiBF、LiPF、LiCFSO、LiCFCO、LiAsF、LiSbF、LiB10Cl10、LiAlCl、LiCl、LiBr、LiB(C、CFSOLi、CHSOLi、LiCFSO、LiCSO、Li(CFSON、脂肪族カルボン酸リチウム等が挙げられる。また、電解質として、その他のアルカリ金属塩を用いることもできる。
【0087】
電解質を溶解する有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、ビニレンカーボネート(VC)等の炭酸エステル化合物、アセトニトリル等のニトリル化合物、酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピルなどのカルボン酸エステルが挙げられる。これらの有機溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0088】
「外装体」
外装体としては、金属やアルミラミネート材などを適宜使用できる。電池の形状は、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角型、扁平型等、いずれの形状であってもよい。
【実施例0089】
以下に、リチウムイオン二次電池の電極バインダー、負極スラリー、負極、リチウムイオン二次電池についての実施例および比較例を示して本発明をさらに詳細に説明する。なお、本発明はこれらに実施例によって限定されるものではない。
【0090】
(調製例1~3)
<電極バインダー(共重合体(P))の作製>
調製例1~3で用いた単量体の構成を表2に示した。単量体の構成以外は調製例1~3における電極バインダーの製造方法は同様である。単量体及び試薬の詳細は以下の通りである。単量体が溶液として用いられる場合、表中の単量体の使用量は、溶媒を含まないその単量体自体の量を示す。
【0091】
【表2】
【0092】
単量体(A):N-ビニルアセトアミド(NVA)(昭和電工(株)製)
単量体(B):アクリル酸ナトリウム(AaNa)(28.5質量%水溶液)
単量体(C):メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(EVONIK INDUSTRIES製;VISIOMER(登録商標)MPEG2005 MA W)(式(2)中のR=CH、R=H、R=CH、n=45、m=0、m+n=45)の50.0質量%水溶液
単量体(D):アクリル酸ベンジル
重合開始剤:2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩(和光純薬工業社製;V-50)及び過硫酸アンモニウム(和光純薬工業社製)
【0093】
冷却管、温度計、攪拌機が組みつけられたセパラブルフラスコに、表2に示される組成の単量体を合計で100質量部と、重合開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)2塩酸塩を0.2質量部と、過硫酸アンモニウムを0.05質量部と、水693質量部とを30℃で仕込んだ。これを、窒素気流下にて80℃に昇温し、4時間重合を行った。調製例1~3の電極バインダーとして、それぞれ共重合体P1~P3を得た。共重合体を反応溶液から単離せず、それぞれ共重合体P1~P3の水溶液をそのまま、下記の実施例で用いた。
【0094】
(実施例1~8、比較例1~8)
<負極スラリーの作製>
「第1工程」
本実施形態の電極スラリーに関する一例である負極スラリーについて以下に説明する。負極活物質として炭素材料、すなわち黒鉛としてSCMG(登録商標)-XRs(昭和電工(株)製)を76.8質量部と、シリコン化合物として一酸化ケイ素(SiO)(Sigma-Aldrich製)を19.2質量部と、導電助剤としてVGCF(登録商標)-H(昭和電工(株))を1質量部と、表3に示す各実施例と比較例のバインダー(調製例で得た共重合体P1~P3)と、及び水を15質量部と、を混合し第1混合物を得た。
第1工程におけるバインダー添加量は、表3に示す通り非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、X質量%となるように調整した。なお、調製例1~3の共重合体P1~P3の水溶液をそのまま用いて、固形分の共重合体P1~P3を表3に示すバインダー添加量になるように添加した。下記第2工程も同様である。調製例1~3の共重合体P1~P3の水溶液に含まれている水は、上記15質量部の水に含まれている。
その後、攪拌式混合装置(自転公転撹拌機)を用いて2000回転/分で4分間混練しさらに水を30質量部加え、攪拌式混合装置(自転公転撹拌機)を用いて2000回転/分で2分間混練し第1電極スラリーを得た。
【0095】
「第2工程」
得られた第1電極スラリーに、第1工程と同じバインダーを表3に示す第2工程のバインダーと、及び水を55質量部加え混合し第2混合物を得た。
第2工程におけるバインダーの添加量は、非水系二次電池用電極スラリーの全固形分において、Y質量%となるように調整した。
上記混合装置で、得られた第2混合物を攪拌式混合装置(自転公転撹拌ミキサー)を用いて500回転/分で10分間混練し、各実施例及び比較例の電極スラリーとして、第2電極スラリーを得た。
なお、比較例において、第2工程のバインダー添加量が0質量部である場合、すなわちY=0質量%である場合は、第1電極スラリーに対して水を55質量部のみ加え同様の条件で混練した。
各実施例及び比較例において、電極スラリー固形分中、バインダー添加量Xとバインダー添加量Yの総添加量(X+Y、質量%)及び両者の比(X/Y)は、表3に示す。
【0096】
【表3】
【0097】
<負極及び電池の作製>
<負極の作製>
各実施例及び比較例で調製した電極スラリー、すなわち負極スラリーを、厚さ10μmの銅箔(集電体)の片面に、乾燥後の目付量が8mg/cmとなるようにドクターブレードを用いて塗布した。負極スラリーが塗布された銅箔を、60℃で10分乾燥後、さらに100℃で5分乾燥して負極活物質層が形成された負極シートを作製した。この負極シートを、金型プレスを用いてプレス圧1t/cmでプレスした。プレスされた負極シートを22mm×22mmに切り出し、導電タブを取り付けて負極を作製した。
【0098】
<正極の作製>
LiNi1/3Mn1/3Co1/3を90質量部、アセチレンブラックを5質量部、及びポリフッ化ビニリデン5質量部を混合し、その後、N-メチルピロリドン100質量部を混合して正極スラリーを調製した(固形分中のLiNi1/3Mn1/3Co1/3の割合は0.90)。
【0099】
調製した正極スラリーを、ドクターブレード法により厚さ20μmのアルミニウム箔(集電体)の片面に、乾燥後の目付量が22.5mg/cm(22.5×10-3g/cm2)となるようにドクターブレードを用いて塗布した。正極スラリーが塗布されたアルミニウム箔を、120℃で5分乾燥後、ロールプレスによりプレスして、厚さ100μmの正極活物質層が形成された正極シートを作製した。得られた正極シートを20mm×20mm(2.0cm×2.0cm)に切り出し、導電タブを取り付けて正極を作製した。
【0100】
作製した正極の理論容量は、正極スラリーの乾燥後の目付量(22.5×10-3g/cm)×正極スラリーの塗布面積(2.0cm×2.0cm)×LiNi1/3Mn1/3Co1/3の正極活物質としての容量(160mAh/g)×固形分中のLiNi1/3Mn1/3Co1/3の割合(0.90)で求められ、算出される値は、13mAhである。
【0101】
<電解液の調製>
エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とフルオロエチレンカーボネート(FEC)とを体積比30:60:10で混合した混合溶媒を調整した。この混合溶媒に、LiPFを1.0mol/Lの濃度になるように溶解し、ビニレンカーボネート(VC)を1.0質量%の濃度になるように溶解して、電解液を調製した。
【0102】
<電池の組み立て>
ポリオレフィン多孔性フィルムからなるセパレータを介して、正極と負極とを、それぞれの活物質層が互いに対向するように配して、アルミラミネート外装体(電池パック)の中に収納した。この外装体の中に電解液を注入し、真空ヒートシーラーでパッキングし、ラミネート型電池を得た。
【0103】
<負極及び電池の評価>
各実施例及び比較例の負極及び電池の評価をした。評価方法は以下の通りで、評価結果は表3に示した通りである。
【0104】
<負極活物質層の剥離強度>
23℃において、負極シート上に形成された負極活物質層と、SUS板とを両面テープ(NITTOTAPE(登録商標) No5、日東電工(株)製)を用いて貼り合わせて剥離強度評価用サンプルを作製した。このサンプルを用いて、負極シートから負極活物質層を、剥離幅25mm、剥離速度100mm/minで180°剥離して得られた剥離力の値を剥離幅25mmで割った数値を剥離強度とした。
【0105】
<電池の放電容量維持率(100サイクル)>
電池の放電容量維持率の測定(電池の充放電サイクル試験)は、25℃の条件下、以下の手順で行った。まず、電圧4.2Vになるまで1Cの電流で充電し(CC充電)、次に、電流0.05Cになるまで4.2Vの電圧で充電した(CV充電)。30分放置後、電圧2.75Vになるまで1Cの電流で放電した(CC放電)。CC充電、CV充電、及びCC放電の一連の操作を1サイクルとする。nサイクル目のCC充電及びCV充電における電流の時間積分値の和をnサイクル目の充電容量(mAh)、nサイクル目のCC放電における電流の時間積分値をnサイクル目の放電容量(mAh)とする。電池のnサイクル目の放電容量維持率は、1サイクル目の放電容量に対するnサイクル目の放電容量の割合(%)である。本実施例及び比較例では、100サイクル目の放電容量維持率を評価した。
【0106】
<評価結果>
表3からわかるように、本実施形態に係る非水系二次電池用電極スラリーの製造方法を用いた実施例1から8では、比較例1から8と比べ、任意のバインダー総量、バインダー共重合体に用いられる単量体組成において剥離強度と放電容量維持率が向上した。
比較例1、比較例2、比較例5、比較例7及び比較例8では、第1工程のみでバインダーを添加し第2工程でバインダーを加えない処方を用いた。比較例3では、式(I)に示す条件を満たさない処方を用いた。比較例4ではXが過小であり条件を満たさない処方を用いた。比較例6ではXが過小であり、かつ式(I)に示す条件を満たさない処方を用いた。
実施例2~8は、実施例1と比べて、剥離強度と放電容量維持率が向上した。実施例1では第1工程のバインダー添加量Xが第2工程バインダー添加量Yより多い。実施例1と比較して、より効果を奏した実施例2、4、6、7、8は、添加量Xと添加量Yとが同じであり、実施例3と5では、添加量Xが添加量Yより少ない。