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特開2023-176446多層フィルム、深絞り成形用多層フィルム及び深絞り成形体
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  • 特開-多層フィルム、深絞り成形用多層フィルム及び深絞り成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176446
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】多層フィルム、深絞り成形用多層フィルム及び深絞り成形体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20231206BHJP
   B29C 48/08 20190101ALI20231206BHJP
   B29C 48/21 20190101ALI20231206BHJP
   B29C 51/08 20060101ALI20231206BHJP
   B65D 77/10 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
B32B27/36
B29C48/08
B29C48/21
B29C51/08
B65D77/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022088726
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】唐桶 賢
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 崇
(72)【発明者】
【氏名】垣谷 啓太
【テーマコード(参考)】
3E067
4F100
4F207
4F208
【Fターム(参考)】
3E067AA11
3E067AB05
3E067AB06
3E067AB81
3E067BA07A
3E067BA10A
3E067BB14A
3E067BC02A
3E067CA07
3E067CA24
3E067EA06
3E067EB27
3E067FA01
3E067FC01
4F100AK03C
4F100AK21B
4F100AK41A
4F100AK46B
4F100AK69B
4F100BA02
4F100BA03
4F100CB03C
4F100GB16
4F100JA13
4F100JC00
4F100JK07
4F100JL12C
4F100YY00A
4F207AA03
4F207AA19
4F207AA24
4F207AA29
4F207AG01
4F207AG03
4F207AH58
4F207AR12
4F207KA01
4F207KA17
4F207KB26
4F207KW41
4F208AA03
4F208AA24
4F208AC03
4F208AG03
4F208MA06
4F208MB01
4F208MC01
4F208MC04
4F208MG04
4F208MH06
(57)【要約】
【課題】環境負荷低減にも貢献でき、しかも、バリア性を備えた多層フィルムを提供すると共に、深絞り成形用多層フィルムを提供する。
【解決手段】ポリエステル系樹脂層(I)と、シール層(II)の少なくとも2層を備えた多層フィルムであって、ポリエステル系樹脂層(I)はフランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂を含む、多層フィルムである。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル系樹脂層(I)と、シール層(II)の少なくとも2層を備えた多層フィルムであって、ポリエステル系樹脂層(I)はフランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂を含む、多層フィルム。
【請求項2】
前記ポリエステル樹脂層(I)が、フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂を主成分樹脂として含む、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記シール層(II)が、ポリオレフィン系樹脂を主成分樹脂として含む、請求項2に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記ポリエステル系樹脂層(I)と前記シール層(II)との間に、中間層(III)を備えた、請求項3に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記中間層(III)が、ポリアミド系樹脂及び/又はポリビニルアルコール系樹脂を主成分樹脂として含む、請求項4に記載の多層フィルム。
【請求項6】
厚みが100~500μmである、請求項5に記載の多層フィルム。
【請求項7】
ポリエステル系樹脂層(I)の層厚みが、多層フィルム全体厚みの50%以上を占める、請求項6に記載の多層フィルム。
【請求項8】
請求項1~7の何れか一項に記載の多層フィルムを用いてなる深絞り成形用多層フィルム。
【請求項9】
請求項1~7の何れか一項に記載の多層フィルムを用いた深絞り成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリア性を有し、環境負荷低減にも貢献できる多層フィルム、この多層フィルムを用いた深絞り成形用フィルム、さらには、該多層フィルムを用いた深絞り成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
各種機能を有する樹脂層を備えた多層フィルムを深絞り成形して、収容凹部を有する底材を作製し、該収容凹部内に、例えばハムやソーセージ等の食肉加工製品、或いは医薬品などの収容物を充填し、蓋材となるフィルムを前記底材にヒートシールして作製した深絞り包装体が広く使用されている。
【0003】
従来、このような深絞り包装体の底材には、蓋材とのヒートシール性を付与するシール層、ガスバリア性を付与するエチレンビニルアルコール系樹脂層、耐衝撃性、深絞り成形性を付与するポリエステル樹脂層やポリアミド樹脂層など、様々な機能を有する樹脂層を積層してなる多層フィルムが用いられている。
【0004】
例えば特許文献1には、深絞り成形性を付与するポリエステル層が含まれる多層フィルムが開示されている。ポリエステル層に用いられているポリエステル系樹脂は、ポリエチレンテレフタレート(PET)系樹脂である。
また、特許文献2には、ポリエチレンフラノエート系樹を含む多層容器が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-224470号公報
【特許文献2】特開2018-199258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
持続可能な開発目標(SDGs)の実現に向けて、環境負荷を低減するために、プラスチックを石油由来素材から植物由来素材への転換(バイオマス化)を促進することは必要不可欠な課題である。その意味で、特許文献2に開示されているポリエチレンフラノエートのように、非可食バイオマス原料から作製可能なバイオマス由来材料は成形体の原料として特に注目すべき材料である。
しかしながら、このようなバイオマス由来材料を、食品や医薬品などの深絞り成形用途に使用することは従来想定されておらず、そのような用途に適したバイオマス由来材料を使用した多層フィルムは開示されていなかった。
【0007】
そこで本発明の目的は、環境負荷低減にも貢献でき、しかも、バリア性を備えた多層フィルムを提供すると共に、深絞り成形用多層フィルム、並びに、これを用いた深絞り成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために、次の構成を有する態様の多層フィルムを提案する。
【0009】
[1]本発明の第1の態様は、ポリエステル系樹脂層(I)と、シール層(II)の少なくとも2層を備えた多層フィルムであって、ポリエステル系樹脂層(I)はフランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂を含む、多層フィルムである。
【0010】
[2]本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記ポリエステル樹脂層(I)が、フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂を主成分樹脂として含む多層フィルムである。
【0011】
[3]本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様において、前記シール層(II)が、ポリオレフィン系樹脂を主成分樹脂として含む多層フィルムである。
【0012】
[4]本発明の第4の態様は、前記第1~3のいずれか1つの態様において、前記ポリエステル系樹脂層(I)と前記シール層(II)との間に、中間層(III)を備えた多層フィルムである。
【0013】
[5]本発明の第5の態様は、前記第4の態様において、前記中間層(III)が、ポリアミド系樹脂及び/又はポリビニルアルコール系樹脂を主成分樹脂として含む多層フィルムである。
【0014】
[6]本発明の第6の態様は、前記第1~5のいずれか1つの態様において、厚みが100~500μmである多層フィルムである。
【0015】
[7]本発明の第7の態様は、前記第1~6のいずれか1つの態様において、ポリエステル系樹脂層(I)の層厚みが、多層フィルム全体厚みの50%以上を占める多層フィルムである。
【0016】
[8]本発明の第8の態様は、前記第1~7のいずれか1つの態様における多層フィルムを用いてなる深絞り成形用多層フィルムである。
【0017】
[9]本発明の第9の態様は、前記第8の態様における深絞り成形用多層フィルムを用いた深絞り成形体である。
【発明の効果】
【0018】
本発明が提案する多層フィルムは、特定のポリエステル系樹脂を使用することで、環境負荷低減に貢献することができ、しかも、従来のポリエステル系樹脂を用いた多層フィルムよりも優れたバリア性を備えることができ、例えば深絞り成形用としても好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例の深絞り成形性の評価において作製した深絞り成形体を示した図であり、(A)はその断面図、(B)はその斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。但し、本発明の内容が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0021】
<<多層フィルム>>
本発明の実施形態の一例に係る多層フィルム(「本多層フィルム」と称する)は、ポリエステル系樹脂層(I)とシール層(II)の少なくとも2層を備えた多層フィルムである。
【0022】
<ポリエステル系樹脂層(I)>
ポリエステル系樹脂層(I)は、フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aを含む層であるのが好ましく、当該ポリエステル系樹脂aを主成分樹脂として含む層であることがより好ましい。
【0023】
ここで、本発明において「各層の主成分樹脂」とは、各層を構成する樹脂成分のうち、最も質量割合の高い樹脂を意味し、例えば各層を構成する樹脂成分100質量%のうち、50質量%以上、中でも60質量%以上、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上、中でも90質量%以上、中でも100質量%を占める樹脂を想定することができる。他の層の主成分樹脂についても同様である。
【0024】
[フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂a]
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aは、ジカルボン酸成分としてフランジカルボン酸単位を主たる構造単位として有するポリエステル系樹脂である。フランジカルボン酸としては、具体的には1,4-フランジカルボン酸や2,4-フランジカルボン酸や2,5-フランジカルボン酸などが例示されるが、中でも2,5-フランジカルボン酸であることが好ましい。
ここで、「主たる構造単位」とは、ジカルボン酸成分を構成する単位の中で最もモル割の高い単位の意味であり、全ジカルボン酸単位100モル%のうち50モル%以上を占める単位を想定することができる。
前記フランジカルボン酸単位は、酸素原子により極性を持つ上に回転運動が起こり難いため、フラン環の平面性が高く、フラン環がパッキング構造を取り易くなることで高いバリア性をもつ。また、エチレン-ビニルアルコール共重合体のように多数のヒドロキシ基を持たない為吸水性が低く、ガスバリア性だけではなく水蒸気バリア性も高い。
【0025】
前記フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aは、ジカルボン酸成分として、フランジカルボン酸単位以外の「他のジカルボン酸単位」を含んでいてもよい。また、カルボン酸以外の置換基を有してもかわない。
当該「他のジカルボン酸単位」としては、例えばシュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、ドデカン二酸等の脂肪族ジカルボン酸;1,6-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸及びテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸等を挙げることができる。
前記ポリエステル系樹脂aが含有するフランジカルボン酸以外の他のジカルボン酸単位は、1種類であっても、任意の組み合わせと比率の2種類以上であってもよい。
【0026】
前記フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aのジカルボン酸単位におけるフランジカルボン酸単位の割合は、バリア性の観点から多いほど好ましい。そこで、ポリエステル系樹脂aの全ジカルボン酸単位100モル%のうち、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上(100モル%を含む)が、フランジカルボン酸単位であることがよい。そして、全ジカルボン酸単位がフランジカルボン酸単位であることが最も好ましい。
【0027】
前記フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aは、ジオール単位を有する。前記ポリエステル系樹脂aを構成するジオール単位としては、例えば1,2-エタンジオール、2,2-オキシジエタノール、2,2-(エチレンジオキシ)ジエタノール、1,3-プロパンジオール、1,2-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオールなどの脂肪族ジオール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノールなどの脂環式ジオール、及びキシリレングリコール、4,4-ジヒドロキシビフェニル等の芳香族ジオール等を挙げることができる。
前記ポリエステル系樹脂aが有するジオール単位は、1種類であっても、任意の組み合わせと比率の2種類以上であってもよい。
【0028】
前記フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aのジオール単位は、1,2-エタンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール等の脂肪族ジオールが好ましく、1,4-ブタンジオール及び1,2-エタンジオールがより好ましく、1,2-エタンジオールがさらに好ましい。上記ジオール単位を含むポリエステル系樹脂aを用いることで、分子運動が抑えられるため、本多層フィルムのバリア性をさらに向上させることができる。よって、バリア性の観点から、1,2-エタンジオール単位の含有割合が多いことが好ましい。中でも、全ジオール単位100モル%のうち、通常50モル%以上、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは90モル%以上(100モル%を含む)が、1,2-エタンジオール単位であることがよい。そして、全ジオール単位が1,2-エタンジオール単位であることが最も好ましい。
【0029】
前記フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの具体例としては、例えばポリエチレンフラノエート(PEF)、ポリブチレンフラノエート(PBF)或いはこれらの共重合体などを挙げることができる。
ポリエチレンフラノエート(PEF)の製造方法としては、例えば、2,5-フランジカルボン酸又はその誘導体と、1,2-エタンジオールなどのジオール成分とを混合し、混合物をエステル化反応させ、得られたエステルを縮重合反応させて合成する方法を挙げることができる。但し、かかる製造方法に限定するものではない。
ポリブチレンフラノエート(PBF)の製造方法としては、2,5-フランジカルボン酸又はその誘導体と1,4-ブタンジオールなどのジオール成分とを混合し、混合物をエステル化反応させ、得られたエステルを縮重合反応させて合成する方法を挙げることができる。但し、かかる製造方法に限定するものではない。
【0030】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの振動周波数10Hz、5℃、引張法(JIS K7244-10(2005))で測定される貯蔵弾性率E’(5℃)は、本多層フィルムの引張特性、耐衝撃性及び耐ピンホール性を高める点から、2500MPa以上5000MPa以下であることが好ましく、中でも2700MPa以上或いは4800MPa以下であることがより好ましく、中でも3000MPa以上或いは4500MPa以下であることがさらに好ましく、中でも3500MPa以上或いは4000MPa以下であることが特に好ましい。
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの貯蔵弾性率E’(5℃)を上記範囲とすることで、内容物を包装し、例えば冷蔵保存等の低温保管をした場合にもフィルムや内容物の変形が生じにくい傾向がある。
【0031】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの振動周波数10Hz、23℃、引張法(JIS K7244-10(2005))で測定される貯蔵弾性率E’(23℃)は、本多層フィルムの引張特性、耐衝撃性などの機械物性及び耐ピンホール性を高める点から、2500MPa以上5000MPa以下であることが好ましく、中でも2700MPa以上或いは4800MPa以下であることがより好ましく、中でも3000MPa以上或いは4500MPa以下であることがさらに好ましく、中でも3500MPa以上或いは4000MPa以下であることが特に好ましい。
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの貯蔵弾性率E’(23℃)を上記範囲とすることで、内容物を包装し、例えば輸送の際に生じる衝撃によっても、フィルムや内容物の変形が生じにくい傾向がある。
【0032】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの振動周波数10Hz、40℃、引張法(JIS K7244-10(2005))で測定される貯蔵弾性率E’(40℃)は、本多層フィルムの引張特性、耐衝撃性などの機械物性及び耐ピンホール性を高める点から、2200MPa以上4700MPa以下であることが好ましく、中でも2400MPa以上或いは4500MPa以下であることがより好ましく、中でも2700MPa以上或いは4200MPa以下であることがさらに好ましく、中でも3200MPa以上或いは3800MPa以下であることが特に好ましい。
ポリエステル系樹脂aの貯蔵弾性率E’(40℃)を上記範囲とすることで、常温常湿の環境下はもちろん、それよりも過酷な使用環境下でも、フィルムや内容物の変形などを防ぐことができる。
【0033】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの振動周波数10Hz、105℃、引張法(JIS K7244-10(2005))で測定される貯蔵弾性率E’(105℃)は、本多層フィルムの深絞り成形性を高める点から、6MPa以上20MPa以下であることが好ましく、中でも7MPa以上或いは17MPa以下であることがさらに好ましく、中でも8MPa以上或いは15MPa以下であることが特に好ましい。
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの貯蔵弾性率E’(105℃)を上記範囲とすることで、深絞り成形した際に、適度な成形性と剛性を付与することができ、成形ムラによる局所的な薄膜化などを防ぐことができる。
【0034】
なお、上記貯蔵弾性率E’ (5℃、23℃、40℃、105℃)は、実施例記載の方法及び条件で測定すればよい。
また、上記貯蔵弾性率E’ (5℃、23℃、40℃、105℃)を上記範囲に調整する方法としては、例えば、ポリエステル系樹脂aを構成するジカルボン酸単位の種類及びその量、並びに、ジオール成分の種類及びその量を変更することにより調整することができる。但し、それらの手段に限定するものではない。
【0035】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの結晶化エネルギー(ΔHc)は、本多層フィルムの成形加工性を高める点から、30J/g以下であることが好ましく、中でも20J/g以下であることがさらに好ましく、中でも10J/g以下であることが特に好ましく、結晶化エネルギーが検出されないことが最も好ましい。
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの結晶化エネルギー(ΔHc)を上記範囲とすることで、フィルム化した際に結晶性が低く、成形加工性に優れたフィルムとなる傾向がある。
なお、結晶化エネルギー(ΔHc)は、実施例記載の条件で測定すればよい。
【0036】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aのガラス転移温度(Tg)は、耐熱性の観点から、80℃以上であるのが好ましく、中でも82℃以上、その中でも84℃以上であるのがさらに好ましい。他方、成形加工性(熱成形性)の観点から、110℃以下であるのが好ましく、中でも105℃以下、その中でも100℃以下であるのがさらに好ましい。
【0037】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの固有粘度は、機械物性を高める観点から、0.5dL/g以上であるのが好ましく、中でも0.6dL/g以上、その中でも0.7dL/g以上であるのがさらに好ましい。他方、成形加工性の観点から、1.2dL/g以下であるのが好ましく、中でも1.0dL/g以下、その中でも0.9dL/g以下であるのがさらに好ましい。
【0038】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの密度は、通常の観点から、1.35g/cm以上1.45g/cm以下であるのが好ましい。
【0039】
フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aのバイオマス度は、30%以上とすることができ、中でも40%以上、中でも50%以上(100%含む)とすることができる。環境負荷の観点から多いほど好ましい。
【0040】
(ポリエステル系樹脂層(I)の成分構成)
前記ポリエステル系樹脂層(I)におけるフランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂aの含有割合は、前記ポリエステル系樹脂層(I)を構成する全樹脂成分100質量%に対して、50質量%~100質量%であるのが好ましく、中でも下限は60質量%以上、その中でも70質量%以上であり、含有割合が多いほど好ましい。
【0041】
前記ポリエステル系樹脂層(I)は、フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂a以外の「他の樹脂」を含んでいてもよい。
当該「他の樹脂」としては、熱可塑性樹脂であることが好ましく、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。相溶性などの観点からポリエステル系樹脂であることがより好ましい。環境負荷の観点からは、例えば、ポリ乳酸樹脂やポリブチレンサクシネート樹脂などの脂肪族ポリエステル系樹脂や芳香族ポリエステル系樹脂等が挙げられる。但し、これらに限定するものではない。
【0042】
また、前記ポリエステル系樹脂層(I)は、本発明の効果を損なわない範囲で樹脂成分以外の「他の成分」を配合することもできる。
当該「他の成分」としては、例えば帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤、着色剤および顔料などを挙げることができる。但し、これらに限定するものではない。
【0043】
(ポリエステル系樹脂層(I)の積層構成)
ポリエステル系樹脂層(I)は、単層からなるものであっても、二種以上の複数層からなるものであってもよい。
【0044】
(ポリエステル系樹脂層(I)の厚み)
ポリエステル系樹脂層(I)の厚みは、10μm以上600μm以下が好ましく、中でも100μm以上或いは500μm以下がより好ましい。
ポリエステル系樹脂層(I)の厚みを上記範囲とすることで、本多層フィルムに製膜安定性と、耐衝撃性、耐ピンホール性及び深絞り成形性を付与することができる。
【0045】
ポリエステル系樹脂層(I)の層厚み(2層以上からなる場合は合計厚み)は、本多層フィルムのリサイクル率を高めて環境負荷低減により貢献する観点、並びに、本多層フィルムの引張特性、耐衝撃性及び耐ピンホール性などの観点から、本多層フィルム全体厚みの50%以上を占めるのが好ましく、中でも55%以上、その中でも60%以上を占めるのがさらに好ましい。他方、その他の機能層による柔軟性やバリア性、シール性などの観点からは、本多層フィルム全体厚みの90%以下であるのが好ましく、中でも85%以下、その中でも80%以下であるのがさらに好ましい。
【0046】
<シール層(II)>
本多層フィルムのシール層(II)は、表裏一側の最外層を構成する層である。本多層フィルムから成形容器を形成した際は、容器の最内層となり、収容物と接する層とするのが好ましい。また、シール性を有する層であり、シール層として機能させることも可能な層である。よって、例えば、本多層フィルムを深絞り成形して、収容凹部を有する底材を作製した際、底材のシール層(II)を蓋材に当接してヒートシールするのが好ましい。
【0047】
(ポリオレフィン系樹脂)
シール層(II)は、ヒートシール性の観点から、ポリオレフィン系樹脂を主成分樹脂として含むことが好ましい。
【0048】
シール層(II)に用いるポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-アクリル酸メチル共重合体(EMA)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体(EEA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)、エチレン-メタクリル酸メチル共重合体(EMMA)、アイオノマー樹脂、酢酸ビニル含有率が8モル%以上40モル%以下のエチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、ホットメルト樹脂(HM)や、これらのポリオレフィン系樹脂を変性させた樹脂等を挙げることができる。これらは単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
これらのポリオレフィン系樹脂は、成形体の形状、内容物の形状、種類に合わせて適宜選択するのが好ましい。また、前記ポリオレフィン系樹脂は、イージーピール性を付与するため、公知の配合でブレンドしてもよい。前記イージーピール性を付与するための公知の配合としては、例えば、低密度ポリエチレンとポリブテン樹脂とを混合させた混合物を挙げることができる。
【0049】
前記ポリオレフィン系樹脂の融点は、100℃以上175℃以下であるのが好ましく、中でも110℃以上或いは170℃以下がより好ましく、その中でも115℃以上或いは168℃以下がさらに好ましい。
ポリオレフィン系樹脂の融点が上記範囲内であることで、より優れたヒートシール性を付与することができる。
なお、融点は、実施例記載の条件で測定すればよい。
【0050】
シール層(II)の厚みは、1μm以上100μm以下が好ましく、中でも2μm以上或いは80μm以下がより好ましく、その中でも5μm以上或いは60μm以下がさらに好ましい。
シール層(II)の厚みを上記範囲にすることで、製膜安定性および充分なシール性を付与することができる。
【0051】
<中間層(III)>
本多層フィルムは、前記ポリエステル系樹脂層(I)と前記シール層(II)との間に中間層(III)を備えてもよい。
【0052】
中間層(III)は、酸素バリア性、水蒸気バリア性などのガスバリア性を発揮し得るバリア層として機能する層であるのが好ましい。
【0053】
前記中間層(III)は、前記のようなバリア性を有する観点から、ポリアミド系樹脂又はポリビニルアルコール系樹脂又はこれらの混合樹脂を主成分樹脂として含む層であるのが好ましい。
前記中間層(III)が、ポリアミド系樹脂を含むことで、本多層フィルムのバリア性と共に耐ピンホール性を高めることができ、本多層フィルムを深絞り用途に特に適したものとすることができる。
他方、中間層(III)が、ポリビニルアルコール系樹脂を含むことで、本多層フィルムのガスバリア性、例えば酸素バリア性を高めることができる。
【0054】
本多層フィルムを深絞り用途に特に適したものとする観点から、前記中間層(III)全体を100質量%としたとき、ポリアミド系樹脂を40質量%以上含有するのが好ましく、中でも50質量%以上、その中でも60質量%以上含有するのがより好ましく、多いほど好ましい。
【0055】
同じく本多層フィルムを深絞り用途に特に適したものとする観点から、本多層フィルムに含まれるポリエステル系樹脂aの含有量100質量部に対して、本多層フィルムに含まれるポリアミド系樹脂の含有量を5質量部以上とするのが好ましく、中でも10質量部以上、その中でも15質量部以上とするのがより好ましい。他方、吸湿を防止する観点から、80質量部以下とするのが好ましく、中でも70質量部以下、その中でも60質量部以下とするのがより好ましい。
【0056】
中間層(III)は、ポリアミド系樹脂及びポリビニルアルコール系樹脂以外のその他の樹脂を含んでいてもよい。
【0057】
中間層(III)は単層からなるものであっても、2層以上からなるものであってもよい。例えば、ポリアミド系樹脂及び/又はポリビニルアルコール系樹脂を主成分樹脂として含む単層からなるものであっても、ポリアミド系樹脂及び/又はポリビニルアルコール系樹脂を主成分樹脂として含む複数の層からなるものであってもよい。例えば、ポリアミド系樹脂を主成分樹脂として含む層と、ポリビニルアルコール系樹脂を主成分樹脂として含む層とを備えた複数の層からなるものであってもよい。
【0058】
[ポリアミド系樹脂]
中間層(III)に用いられる前記ポリアミド系樹脂としては、例えばポリアミド4、ポリアミド6、ポリアミド7、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド46、ポリアミド66、ポリアミド69、ポリアミド610、ポリアミド611、ポリアミド6T、ポリアミド6I、ポリアミドMXD6、ポリアミド6-66、ポリアミド6-610、ポリアミド6-611、ポリアミド6-12、ポリアミド6-612、ポリアミド6-6T、ポリアミド6-6I、ポリアミド6-66-610、ポリアミド6-66-12、ポリアミド6-66-612、ポリアミド66-6T、ポリアミド66-6I、ポリアミド6T-6I、ポリアミド66-6T-6I等を挙げることができる。
中でも、耐ピンホール性の観点から、ポリアミド6やポリアミド6-66を用いることが好ましい。また、中間層(III)は2層以上設けることもでき、その場合、各層が異なる種類のポリアミド系樹脂で形成されていてもよい。
【0059】
中間層(III)がポリアミド系樹脂を含む場合、2層以上配する場合を含めて、本多層フィルムを深絞り用途に特に適したものとする観点から、本多層フィルム中に配される中間層の合計厚みが、フィルム総厚に対して、1%以上であるのが好ましく、中でも1.5%以上、その中でも2.0%以上、2.5%以上であるのがより好ましい。また、柔軟性を保持する観点から、70%以下であるのが好ましく、60%以下、その中でも60%以下、50%以下であるのがより好ましい。
【0060】
[ポリビニルアルコール系樹脂]
中間層(III)に用いられる前記ポリビニルアルコール系樹脂(以下、「EVOH」と記載することがある)は、側鎖に一級水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂であるのが好ましい。
側鎖に一級水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂は、ビニルアルコール構造単位を主体とする樹脂であり、ケン化度相当のビニルアルコール構造単位と未ケン化部分の酢酸ビニル構造単位と、側鎖に一級水酸基と有する構造単位を少なくとも有するものである。
【0061】
側鎖に一級水酸基を有するポリビニルアルコール系樹脂のケン化度(JIS K6726(1994)に準拠して測定)は、60~100モル%であることが好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、熱安定性の観点から90モル%以上であることが好ましく、ガスバリア性の観点から95モル%以上であることがより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。
ポリビニルアルコール系樹脂中のエチレン含有量およびケン化度を上記範囲に保つことにより、良好なガスバリア性を維持できる。なお、EVOHは、化学構造が同様なものである限り、ケン化によって製造されたものに限定されるものではない。
【0062】
前記ポリビニルアルコール系樹脂の融点は、特に限定されるものではない。例えば深絞り成形性の点からは、150℃以上210℃以下であるのが好ましく、中でも152℃以上或いは205℃以下であるのがより好ましく、その中でも155℃以上或いは200℃以下であるのがさらに好ましい。
【0063】
<接着層(IV)>
本多層フィルムは、前述したポリエステル系樹脂層(I)、シール層(II)及び中間層(III)のほかに、例えば各層の間の接着性を向上させる目的で接着層(IV)を備えてもよい。例えば、ポリエステル系樹脂層(I)と中間層(III)との間、又は、中間層(III)とシール層(II)との間、又は、これら両方にそれぞれ、接着層(IV)を設けてもよい。
【0064】
接着層(IV)は、接着性樹脂を主成分樹脂として含む樹脂組成物から形成するのが好ましい。
ここで、前記接着性樹脂としては、例えば低密度ポリエチレン、線形低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン等のポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-メチルアクリレート共重合体、エチレン-メタアクリル酸共重合体、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体、エチレン系アイオノマー等のエチレン共重合体系樹脂が例示でき、その他、変性ポリオレフィン系樹脂、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体若しくはエチレン系エラストマーに、アクリル酸若しくはメタアクリル酸などの一塩基性不飽和脂肪酸、またはマレイン酸、フマール酸若しくはイタコン酸等の二塩基性脂肪酸の無水物を化学的に結合させたものを例示できる。中でも、シール層と中間層との間に設ける場合は、シール層との接着性の点からポリエチレンをベースとした接着性樹脂を用いることが好ましい。但し、前記接着性樹脂は単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。
【0065】
接着層(IV)の厚み(複数層である場合は合計厚み)は、3μm以上30μm以下であるのが好ましく、中でも4μm以上或いは25μm以下がより好ましく、その中でも5μm以上或いは20μm以下が特に好ましい。接着層(IV)の厚みを前記範囲にすることで、製膜安定性および充分な接着性を付与することができる。
【0066】
<その他の層>
本多層フィルムは、必要に応じて、前述した以外の層を設けてもよい。
例えばフィルム強度、耐熱性向上や、厚みの調整のために、ポリオレフィン系樹脂を主成分樹脂として含む樹脂組成物層を設けてもよい。当該樹脂組成物層は、例えば中間層(III)とシール層(II)との間に設けてもよい。
【0067】
その他の層の主成分樹脂としてポリオレフィン系樹脂を含有させる場合、シール層(II)で例示したポリオレフィン系樹脂などを用いることができ、当該ポリオレフィン系樹脂は、単独でもしくは2種以上を併せて用いてもよい。また、シール層(II)で用いるポリオレフィン系樹脂と同じであっても、異なっていてもよい。
【0068】
その他の層の厚みは、特に限定するものではなく、用途等により適宜設定すればよい。通常3μm以上30μm以下であり、中でも4μm以上或いは25μm以下であるのが好ましく、その中でも5μm以上或いは20μm以下であるのが特に好ましい。
その他の層の厚みを上記範囲にすることで、本多層フィルムの製膜安定性などを高めることができる。
【0069】
<多層フィルムの層構成例>
本多層フィルムの層構成例として、次の例を挙げることができる。但し、これらの例に限定されるものではない。
【0070】
(1) ポリエステル系樹脂層(I)/シール層(II)
(2) ポリエステル系樹脂層(I)/中間層(III)/シール層(II)
(3) ポリエステル系樹脂層(I)/接着層(IV)/中間層(III)/シール層(II)
(4) ポリエステル系樹脂層(I)/中間層(III)/接着層(IV)/シール層(II)
(5) ポリエステル系樹脂層(I)/接着層(IV)/中間層(III)/接着層(IV)/シール層(II)
(6) ポリエステル系樹脂層(I)/接着層(IV)/中間層(III)/接着層(IV)/その他の層/シール層(II)
(7) ポリエステル系樹脂層(I)/その他の層/接着層(IV)/中間層(III)/接着層(IV)/シール層(II)
【0071】
上記各構成において、ポリエステル系樹脂層(I)の外側に、最表層を設けることも可能である。例えば、触感や見た目を高めるため、共重合ポリエステル(例えばPETG)を主成分樹脂として含有する表面層を設けることも可能である。
【0072】
<その他の添加剤>
本多層フィルムを構成する各層には、本発明の効果を著しく阻害しない範囲内で、成形加工性、生産性、意匠性等の諸性質を改良・調整する目的で、顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤などの添加剤を、必要とする層に適宜添加できる。
【0073】
<本多層フィルムの厚み>
本多層フィルムは、例えば50μm~500μmに調整することができ、用途によって適宜調整するのが好ましい。
例えば深絞り成形などの成形用途に用いる場合には、120μm~500μmとするのが好ましく、中でも130μm以上或いは450μm以下、その中でも140μm以上或いは400μm以下とするのがさらに好ましい。
また、ピロー成形などの成形しない用途に用いる場合には、50μm~250μmとするのが好ましく、中でも80μm以上或いは220μm以下、その中でも100μm以上或いは200μm以下とするのがさらに好ましい。
【0074】
<多層フィルムの製造方法>
本多層フィルムは、各層を形成する樹脂組成物を用いて公知の方法、例えば、押出ラミネーション法、共押出インフレーション法、共押出Tダイ法等を用いることにより製造することができる。特に、フィルムの層数が多い場合でも製膜工程は変わらない点や厚み制御が比較的容易である点で、共押出Tダイ法を用いることが好ましい。
また、ドライラミネート法等で積層してもよい。
【0075】
本多層フィルムは、無延伸フィルムであっても、延伸フィルムであってもよい。深絞り成形性の観点からは、無延伸フィルムであることが好ましい。
【0076】
より具体的な一例としては、フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂を主成分樹脂として含む樹脂組成物と、ポリオレフィン系樹脂を主成分樹脂として含む樹脂組成物とを、例えば共押出Tダイ法などにより共押出して、ポリエステル系樹脂層(I)及びシール層(II)を備えた多層フィルムを得ることができる。
【0077】
<多層フィルムの物性>
本多層フィルムは、次のような物性を備えることができる。
【0078】
(バリア性)
本多層フィルムは、JIS K7126-1(2006)B法に準じて測定した温度23℃、0RH%における水蒸気透過率が、6.0g/m/day以下であることが好ましく、5.0g/m/day以下であることがより好ましく、4.0g/m/day以下であることがさらに好ましく3.5g/m/day以下であることが最も好ましい。
水蒸気透過率を上記範囲とすることで、水蒸気の透過を抑制できるので、収容物の腐食腐敗を防ぎ長期間保管を可能とする。
【0079】
本多層フィルムは、JIS K7129(2008)B法に準じて測定した40℃、90RH%の条件下における酸素透過率が、10.0cc/m・24h・atm以下であることが好ましく、6.0cc/m・24h・atm以下であることがより好ましく、5.0cc/m・24h・atm以下であることがさらに好ましく、3.5cc/m・24h・atm以下であることが最もこのましい。
酸素透過率を上記範囲とすることで、酸素ガス等の透過を抑制できるので、収容物の腐食腐敗を防ぎ長期間保管を可能とすることができる。
【0080】
本多層フィルムは、水蒸気透過率および、酸素透過率が、いずれも上記の範囲内であることが好ましい。
水蒸気透過率および酸素透過率を上記範囲とすることで、収容物の腐食腐敗をバランスよく防ぎ長期間保管を可能とする。
【0081】
(バイオマス度)
本多層フィルムは、バイオマス度を30%以上とすることができ、中でも40%以上、中でも50%以上(100%含む)とすることができる。
【0082】
<本多層フィルムの用途>
本多層フィルムは、前述のように深絞り包装体や、その他、例えばパウチ包装体、ピロー包装体、真空包装体などの各種包装体を作製するのに好適に使用できる。中でも、深絞り包装体が好ましく使用され、前記深絞り包装体に使用される深絞り成形された底材を作製するのに特に好ましい。
【0083】
本多層フィルムから深絞り包装体の底材を作製する場合において、絞り加工を行う際に成形性を高めるために、本多層フィルムは無延伸で製造することが好ましい。パウチ包装、ピロー包装および真空包装には、無延伸にて製造した後、強度およびガスバリア性の付与の観点から、例えば、二軸延伸ポリプロピレンフィルム等の延伸フィルムを用いて、ドライラミネート法等で積層することが好ましい。
本多層フィルムから深絞り包装体の底材を作製する場合、シール層(II)を容器の最内層とし、収容物と接する層とするのが好ましい。例えば、本多層フィルムを深絞り成形して、収容凹部を有する底材を作製し、該底材のシール層(II)を蓋材に当接してヒートシールするのが好ましい。
【0084】
<用語の説明>
本発明において、「フィルム」とは、厚いシートから薄いフィルムまでを包括した意を有する。
本発明において、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意とともに、「好ましくはXより大きい」および「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
さらにまた、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【0085】
本発明で規定する数値範囲の上限値および下限値は、本発明が特定する数値範囲内から僅かに外れる場合であっても、当該数値範囲内と同様の作用効果を備えている限り本発明の均等範囲に包含するものとする。
【0086】
本発明において「主成分樹脂」とは、対象物に含まれる樹脂成分のうち最も多い質量%を占める樹脂成分であることを意味する。主成分樹脂の含有量については、対象物に含まれる樹脂成分の含有量を100質量%したとき、その成分が占める質量が50質量%以上である場合、60質量%以上である場合、70質量%以上である場合、80質量%以上である場合、90質量%以上である場合、100質量%である場合を想定することができる。
【実施例0087】
以下、本発明の効果を明確にするために実施した実施例に基づいて本発明をより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施例および比較例によって何ら限定されるものではない。
【0088】
<フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂の製造>
(溶融重合)
攪拌装置、窒素導入口、加熱装置、温度計、精留塔を備えた反応容器に、原料として、2,5-フランジカルボン酸(V&V PHARMA INDUSTRIES製、バイオマス度100%)42.85kg、1,2-エタンジオール(三菱ケミカル株式会社製、バイオマス度0%)30.6L、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド35質量%水溶液を14.3g仕込み、反応容器内を窒素雰囲気にした。
次に、撹拌しながら2時間かけて200℃まで昇温し、200℃で2時間30分間保持して留出液を回収し、エステル化反応を進行させた(加熱時間は合計4時間30分)。
続いて、この反応液を、減圧口と撹拌装置を備えた反応器に移送し、テトラブチルチタネートを2.0質量%溶解させた1,2-エタンジオール溶液888.5gを添加して撹拌を開始した(Tiの2,5-フランジカルボン酸に対するモル比は0.00019モル、生成したポリエステルに対するTi濃度は50ppm)。2時間かけて260℃まで昇温すると共に、圧力を常圧から1.5時間かけて130Pa程度になるように徐々に減圧し、その後130Paを保持した。減圧開始から3時間50分経過したところで撹拌を停止し、復圧して重縮合反応を終了し、反応槽下部より製造されたポリエステルをストランド状に抜き出し、冷却水槽を通して冷却した後、ペレタイザーによって切断し、2~3mm角程度のペレット状のポリエステル樹脂を得た。ポリエステル樹脂の固有粘度は0.74dL/gであった。
【0089】
(固相重合)
得られたポリエステル樹脂に対して、窒素ガスを30L/minの流量で導入しながら加熱することにより、予備結晶化を行った。具体的には、ポリエステル樹脂10kgをイナートオーブン(ヤマト科学株式会社製「DN411I」)に入れ、120℃で3時間加熱後、常温(25℃)に冷却してから融着したペレット同士をほぐした。更にもう1回、このペレットを150℃で3時間加熱した後に常温(25℃)に冷却してから融着したペレット同士をほぐした。
さらに、予備結晶化させたポリエステル樹脂10kgを前述のイナートオーブンに入れ、窒素ガスを30L/minの流量で導入させた状態で、120℃で1時間、150℃で1時間、180℃で3時間、200℃で7時間の順に加熱することにより固相重合を行い、2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエチレンフラノエート(PEF)を得た。
該ポリエチレンフラノエート(PEF)は、全ジカルボン酸単位が2,5-フランジカルボン酸であり、全ジオール単位が1,2-エタンジオールであり、ガラス転移温度(Tg)は84.5℃、固有粘度は0.83dL/g、密度は1.41g/cmであり、結晶化エネルギー(ΔHc)は検出されなかった。
上記の方法で製造された2,5-フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂、すなわちポリエチレンフラノエート(PEF)のバイオマス度は72%であった。
【0090】
<各層の原料>
ポリエステル系樹脂層(I)、シール層(II)、中間層(III)、接着層(IV)の各層を形成するのに用いた各原料を下記に示す。
【0091】
(ポリエステル系樹脂層(I)形成原料)
PEF:上記で製造したポリエチレンフラノエート。ジカルボン酸成分100モル%のうち2,5-フランジカルボン酸が100モル%、ジオール成分100モル%のうち1,2-エタンジオールが100モル%。
PET:ポリエチレンテレフタレート樹脂。ジカルボン酸成分100モル%のうちテレフタル酸100モル%、グリコール成分100モル%のうち1,2-エタンジオールが100モル%。
PETG:SKYGREEN S2008(SK Chemical社製、ジカルボン酸成分100モル%のうちテレフタル酸100モル%、グリコール成分100モル%のうち1,2-エタンジオールが68モル%。1、4-シクロヘキサンジメタノールが32モル%)
上記各ポリエステル系樹脂の物性を下記表1に示す。
【0092】
【表1】
【0093】
表1に示した各ポリエステル系樹脂の貯蔵弾性率E’(5℃、23℃、40℃、105℃)は、JIS K7244-10(2005)に準拠して、レオメータ(TAInstruments社製、「DiscoveryHR2」)を用いて、振動周波数10Hz、引張法で5℃、23℃、40℃、105℃における貯蔵弾性率E’を測定した。
【0094】
(シール層(II)形成原料)
PE:低密度ポリエチレン系樹脂、ノバテックLD LF580(日本ポリエチレン社製)、融点116℃
MB:低密度ポリエチレン系樹脂(防曇マスターバッチ、高級脂肪酸グリセノール5質量%含有)、融点116℃
【0095】
(中間層(III)形成原料)
PA:UBE1022B(宇部興産製、ポリアミド6)、融点220℃
EVOH:ソアノールSG929B(三菱ケミカル社製、ポリビニルアルコール系樹脂 エチレン含有率32モル%)、融点183℃
【0096】
(接着層(IV)形成原料(接着性樹脂))
AD1:ポリエチレン系接着性樹脂、アドマーNF567(三井化学社製)
AD2:ポリエチレン系接着性樹脂、アドマーSF719(三井化学社製)
【0097】
<実施例1>
表2に示す、ポリエステル系樹脂層(I)について、原料を単軸スクリュー押出機に投入し、各原料を220℃で溶融混練して、表2に示す厚みになるように溶融樹脂の吐出量を調整して、230℃の口金より押出して、単層フィルムを得た。
表2に示す、中間層(III)、接着層(IV)lシール層(II)については、原料をそれぞれ別の単軸スクリュー押出機に投入し、各原料を融点に応じて160℃~265℃で溶融混練して、各層が表2に示す厚みになるように溶融樹脂の吐出量を調整して、各層を240℃の積層口金より押出して、中間層(III)[EVOH]/中間層(III)[PA]/接着層(IV)/シール層(II)からなる多層フィルムを得た。
得られた単層フィルムと多層フィルムをドライラミネート法によって積層し、ポリエステル系樹脂層(I)/中間層(III)[EVOH]/中間層(III)[PA]/接着層(IV)/シール層(II)からなり、各層の厚み100μm/10μm/20μm/5μm/25μmからなる全体厚み160μmの多層フィルム(サンプル)を製造した。
なお、表2において、AD1/AD2=70/30は、AD1を70質量%、AD2を30質量%の比率で混合したことを意味する。
【0098】
<実施例2>
表2に示す、ポリエステル系樹脂層(I)および、シール層(II)について、それぞれ原料を単軸スクリュー押出機に投入し、各原料を220℃で溶融混練して、各層が表2に示す厚みになるように溶融樹脂の吐出量を調整して、230℃の口金より押出して、それぞれの単層フィルムを得た。
それらをドライラミネート法によって積層し、ポリエステル系樹脂層(I)/シール層(II)からなり、各層の厚み100μm/30μmからなる全体厚み130μmの多層フィルム(サンプル)を製造した。
【0099】
<比較例1>
表2に示す原料をそれぞれ別の単軸スクリュー押出機に投入し、各原料を融点に応じて180℃~280℃で溶融混練して、各層が表2に示す厚みになるように溶融樹脂の吐出量を調整して、各層を260℃の積層口金より押出して、ポリエステル系樹脂層(I)[PETG]/ポリエステル系樹脂層(I)[PET]/接着層(IV)/中間層(III)[PA]/中間層(III)[EVOH]/中間層(III)[PA]/接着層(IV)/シール層(II)からなり、各層の厚み10μm/140.5μm/15μm//3μm/3.5μm/3μm/9μm/22μmからなる全体厚み200μmの多層フィルム(サンプル)を製造した。
なお、表2において、AD1/AD2=70/30は、AD1を70質量%、AD2を30質量%の比率で混合したことを意味し、PE/MB=82/18は、PEを82質量%、MBを18質量%の比率で混合したことを意味する。
【0100】
〔評価〕
実施例1、実施例2および比較例1の多層フィルム(サンプル)について、深絞り成形性、バリア性、シール性、バイオマス度を評価した。結果を後記の表2に示す。
【0101】
(深絞り成形性)
深絞り包装機(大森機械製FV-6300)を使用して、実施例・比較例で得られた多層フィルム(サンプル)を成形温度105℃、加熱時間・成形時間1.5秒で深絞り成形を行い、図1(A)(B)に示すように、上面視縦16cm×横11cmの長方形形状の収容凹部(深さ4cm、コーナーR2.5cm)を有する深絞り成形体を作製し評価を行った。
深絞り成形体の対角線上の4隅の立ち上がりコーナー部(4カ所)の厚みを測定し、コーナー部(4カ所)の平均厚みlを算出し、その平均厚みlの、深絞り成形前の多層フィルム(サンプル)の厚さに対する割合を算出して、以下の基準により深絞り成形性を評価した。
【0102】
[深絞り成形性の評価基準]
◎:コーナー部(4カ所)の平均厚みlが、深絞り成形前の多層フィルム(サンプル)の厚さの45%以上
〇:コーナー部(4カ所)の平均厚みlが、深絞り成形前の多層フィルム(サンプル)の厚さの35%以上45%未満
×:コーナー部(4カ所)の平均厚みlが、深絞り成形前の多層フィルム(サンプル)の厚さの35%未満
【0103】
(バリア性)
実施例・比較例で得られた多層フィルム(サンプル)の水蒸気透過率を、JIS K7126-1(2006)B法に準拠して23℃、0%RHでの水蒸気透過率(単位:g/m/day)を測定した。
実施例・比較例で得られた多層フィルム(サンプル)の酸素透過率を、JIS K7129(2008)B法に準拠して40℃、90%RHでの酸素透過率(単位:cc/m・24h・atm)を測定した。
バリア性について以下の基準により評価した。
【0104】
[バリア性の評価基準]
◎:水蒸気透過率が3.2g/m/day以下、かつ、酸素透過率が3.5g/m/day以下
〇:水蒸気透過率が3.2g/m/dayを超え6.0g/m/day以下、かつ、酸素透過率が3.5cc/m/day/atmを超え10.0cc/m/day/atm以下
×:水蒸気透過率が6.0g/m/dayを超えるか、酸素透過率が10.0cc/m/day/atmを超える
【0105】
(シール性)
実施例・比較例で得られた多層フィルム(サンプル)のシール性を、包装機(ムルチパック社製R530)を用いて140℃、1.5secシールを行った。シール箇所を15mm幅に切った短冊試験片を、JIS K6854-2に準拠して引張試験機(A&D社製MCT2150)を用いて引張試験(試験温度23℃、引張速度300mm/min、剥離角度180度)を行って、フィルムの流れ方向(縦方向、MD)とこれに直角な幅方向(横方向、TD)について、剥離強度(g・f/15mm)を測定し評価した。なお、短冊試験片は、PA6/LDPEラミネートフィルム(総厚み75μm、PA6:15μm、LDPE:60μm)を使用し、実施例・比較例のシール層(II)とLDPE層を貼り合わせてシールした。
フィルムの流れ方向(縦方向、MD)とこれに直角な幅方向(横方向、TD)共に、剥離強度が1500(g・f/15mm)以上あれば、シール性は良好と評価した。
【0106】
(バイオマス度)
実施例・比較例で得られた多層フィルム(サンプル)のバイオマス度は、「バイオマス度」(%)=「バイオマス資源を原料とする樹脂のバイオマス度」(%)×「バイオマス資源を原料とする樹脂のポリエステル樹脂層(I)の質量割合または、バイオマス資源を原料とする樹脂の多層フィルムの質量割合」から算出した。
【0107】
【表2】
【0108】
実施例1及び実施例2の多層フィルムは、比較例1の多層フィルムに比べ、酸素バリア性と水蒸気バリア性をバランスよく備えていることが分かった。また、深絞り性及びシール性も良好で、深絞り成形用に好適に用いることができることが分かった。
【0109】
上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、フランジカルボン酸に由来する構造単位を有するポリエステル系樹脂を含むポリエステル系樹脂層(I)を形成し、シール層(II)などと積層して多層フィルムを作製することで、バリア性を向上しつつ深絞り成形用に好適に用いることができることが分かった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の多層フィルムによれば、環境負荷低減に貢献することができ、優れた成形性を備え、しかも、従来のポリエステル系樹脂を用いた多層フィルムよりも優れたバリア性を備えた、低温でのヒートシールが可能な多層フィルム、及び該多層フィルムを成形してなる深絞り成形体を提供することができる。
図1