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特開2023-176738積層体、フィルム、カード、パスポート、これらの製造方法、及びレーザー印字方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176738
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】積層体、フィルム、カード、パスポート、これらの製造方法、及びレーザー印字方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20231206BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231206BHJP
   G11B 7/24038 20130101ALI20231206BHJP
   G11B 7/2542 20130101ALI20231206BHJP
   B42D 25/24 20140101ALI20231206BHJP
【FI】
B32B27/36 102
B32B27/18 Z
G11B7/24038
G11B7/2542
B42D25/24
【審査請求】未請求
【請求項の数】22
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089174
(22)【出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(72)【発明者】
【氏名】重富 清恵
【テーマコード(参考)】
2C005
4F100
【Fターム(参考)】
2C005HA13
2C005HB02
2C005HB08
2C005HB09
2C005KA02
2C005LB07
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4F100JN28H
(57)【要約】
【課題】透明性とレーザー印字性の両方を良好にできる、積層体を提供する。
【解決手段】本発明の積層体は、それぞれが樹脂とレーザー発色剤とを含む樹脂層(a)及び樹脂層(b)を連続して有する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが樹脂とレーザー発色剤とを含む樹脂層(a)及び樹脂層(b)を連続して有する、積層体。
【請求項2】
前記樹脂層(a)及び前記樹脂層(b)それぞれにおける、前記レーザー発色剤の樹脂100質量部に対する含有割合が互いに異なる、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記樹脂層(b)に対して、レーザー光が入射する側の層となる前記樹脂層(a)におけるレーザー発色剤の前記含有割合が、前記樹脂層(b)におけるレーザー発色剤の前記含有割合より低い、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂が、いずれもポリカーボネート系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項5】
前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂が、いずれも共重合ポリカーボネート系樹脂を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項6】
前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂が、いずれも質量平均分子量54000以上の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項7】
前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂が、いずれもガラス転移温度146℃以下の樹脂を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項8】
前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂それぞれが、ビスフェノール系ポリカーボネート及びポリエステルカーボネート共重合樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項9】
樹脂層(b)に含有される樹脂のガラス転移温度が、前記樹脂層(a)に含有される樹脂のガラス転移温度よりも高い、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項10】
前記樹脂層(a)における前記レーザー発色剤の含有割合が樹脂100質量部に対して0.005質量部以上3質量部以下であり、かつ前記樹脂層(b)における前記レーザー発色剤の含有割合が樹脂100質量部に対して0.01質量部以上3質量部以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項11】
前記樹脂層(a)における前記レーザー発色剤の樹脂100質量部に対する含有割合を含有割合(a)、前記樹脂層(b)における前記レーザー発色剤の樹脂100質量部に対する含有割合を含有割合(b)とすると、前記含有割合(a)の前記含有割合(b)に対する質量比(a/b)が1/10以上5/1以下である、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項12】
前記樹脂層(a)が、前記樹脂層(b)よりも積層体の両面側それぞれに設けられる、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項13】
前記樹脂層(b)の厚みが、前記樹脂層(a)の厚みよりも大きい、請求項1又は2に記載の積層体。
【請求項14】
樹脂とレーザー発色剤とを含むフィルムであって、前記フィルムの一方の表面から他方の表面に向かって前記レーザー発色剤の含有割合が高くなる濃度勾配を有する、フィルム。
【請求項15】
前記一方の表面からレーザー光が入射される、請求項14に記載のフィルム。
【請求項16】
前記樹脂が、ポリカーボネート系樹脂を含む、請求項14又は15に記載のフィルム。
【請求項17】
前記濃度勾配が、前記一方の表面から他方の表面に向かって、一旦高くなった後、再度低くなる、請求項14又は15に記載のフィルム。
【請求項18】
請求項1又は2に記載の積層体、又は請求項14又は15に記載のフィルムを含むカード。
【請求項19】
請求項1又は2に記載の積層体、又は請求項14又は15に記載のフィルムを含むパスポート。
【請求項20】
請求項1又は2に記載の積層体、又は請求項14又は15に記載のフィルムの製造方法であって、前記樹脂と前記レーザー発色剤とを少なくとも含む樹脂組成物を溶融混練する工程と、溶融した前記樹脂組成物をフィルム状に成形する工程とを少なくとも備える、製造方法。
【請求項21】
請求項1又は2に記載の積層体、又は請求項14又は15の記載のフィルムを用いてレーザー印字する方法。
【請求項22】
前記レーザー発色剤の含有割合が低い、前記積層体又は前記フィルムの一方の表面側からレーザー光を照射する、請求項21に記載のレーザー印字方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、フィルム、カード、及びパスポートに関し、例えば、レーザーマーキングに使用可能な積層体及びフィルム、並びに、積層体及びフィルムを有するカード及びパスポートに関する。
【背景技術】
【0002】
クレジットカード、キャッシュカード、IDカード、タグカード、保険証などのカードは、複数枚のカード用シートを重ねて真空プレス機により各シート間を加熱融着した後、打ち抜き機にて打ち抜きカード状に製造される。また、パスポートも同様に、複数枚のカード用シートを重ねて加熱融着するなどして製造される。
これらカードやパスポートには、レーザーを照射して、文字、バーコード等を印字することが行われる。例えば、YAGレーザー等を用いて、カードの個別番号やロット番号、あるいは個人情報、顔写真等をカードに書き込むことが行われている。このように、レーザー等により各種の情報をカードやパスポートに書き込めば、磨耗や経時劣化で個人情報が消失するのを防ぐことができる。また、レーザーを用いた印字は、簡単な工程で行うことができるので、工業的にも価値が高く、注目されている。
【0003】
上記のようにレーザー印字が行われるレーザーマーキングシートは、レーザー発色剤を有する発色層を備えるものが知られている(例えば、特許文献1参照)また、レーザーマーキングシートは、レーザー照射やレーザー印字によるシート表面の膨れや発泡等の問題を回避するため、通常、レーザー発色剤を含む層と含まない層との積層シートにされる。一般的には、レーザー発色剤を含む中層とレーザー発色剤を含まない表裏層との2種3層の積層構成とされることが多い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010-194757号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、積層構成を有するレーザーマーキングシートは、本発明者の検討によると、樹脂とレーザー発色剤との屈折率差の影響で散乱又は反射などが生じて、透明性が不足することが分かった。また、カードやパスポートのデータシート等は、通常複数のシートを積層し熱プレスして作製され、熱プレス後のカード等の実製品においても透明性が高いことが求められるが、上記した積層構成を有するレーザーマーキングシートは、実製品においても透明性が不足する場合があることも分かった。
一方で、レーザー発色剤の含有量を少なくすると、透明性の不足を防止することができるが、レーザーによる発色が薄くなり、レーザー印字性が不十分となる。
【0006】
そこで、本発明では、透明性とレーザー印字性の両方を良好にできる、積層体又はフィルムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、積層体の少なくとも2つの層にレーザー発色剤を分散して存在させ、又はフィルムに濃度勾配を持たせてレーザー発色剤を分散して存在させることにより、透明性の低下を防止しつつ、レーザー印字性を良好に維持できることを見出し、以下の本発明を完成させた。すなわち、本発明は、以下の[1]~[22]を提供する。
【0008】
[1]それぞれが樹脂とレーザー発色剤とを含む樹脂層(a)及び樹脂層(b)を連続して有する、積層体。
[2]前記樹脂層(a)及び前記樹脂層(b)それぞれにおける、前記レーザー発色剤の樹脂100質量部に対する含有割合が互いに異なる、上記[1]に記載の積層体。
[3]前記樹脂層(b)に対して、レーザー光が入射する側の層となる前記樹脂層(a)におけるレーザー発色剤の前記含有割合が、前記樹脂層(b)におけるレーザー発色剤の前記含有割合より低い、上記[2]に記載の積層体。
[4]前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂が、いずれもポリカーボネート系樹脂を含む、上記[1]~[3]のいずれかに記載の積層体。
[5]前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂が、いずれも共重合ポリカーボネート系樹脂を含む、上記[1]~[4]のいずれかに記載の積層体。
[6]前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂が、いずれも質量平均分子量54000以上の樹脂を含む、上記[1]~[5]のいずれかに記載の積層体。
[7]前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂が、いずれもガラス転移温度146℃以下の樹脂を含む、上記[1]~[6]のいずれかに記載の積層体。
[8]前記樹脂層(a)、及び樹脂層(b)における樹脂それぞれが、ビスフェノール系ポリカーボネート及びポリエステルカーボネート共重合樹脂からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の積層体。
[9]樹脂層(b)に含有される樹脂のガラス転移温度が、前記樹脂層(a)に含有される樹脂のガラス転移温度よりも高い、上記[1]~[8]のいずれかに記載の積層体。
[10]前記樹脂層(a)における前記レーザー発色剤の含有割合が樹脂100質量部に対して0.005質量部以上3質量部以下であり、かつ前記樹脂層(b)における前記レーザー発色剤の含有割合が樹脂100質量部に対して0.01質量部以上3質量部以下である、上記[1]~[9]のいずれかに記載の積層体。
[11]前記樹脂層(a)における前記レーザー発色剤の樹脂100質量部に対する含有割合を含有割合(a)、前記樹脂層(b)における前記レーザー発色剤の樹脂100質量部に対する含有割合を含有割合(b)とすると、前記含有割合(a)の前記含有割合(b)に対する質量比(a/b)が1/10以上5/1以下である、上記[1]~[10]のいずれかに記載の積層体。
[12]前記樹脂層(a)が、前記樹脂層(b)よりも積層体の両面側それぞれに設けられる、上記[1]~[11]のいずれかに記載の積層体。
[13]前記樹脂層(b)の厚みが、前記樹脂層(a)の厚みよりも大きい、上記[1]~[12]のいずれかに記載の積層体。
[14]樹脂とレーザー発色剤とを含むフィルムであって、前記フィルムの一方の表面から他方の表面に向かって前記レーザー発色剤の含有割合が高くなる濃度勾配を有する、フィルム。
[15]前記一方の表面からレーザー光が入射される、上記[14]に記載のフィルム。
[16]前記樹脂が、ポリカーボネート系樹脂を含む、上記[14]又は[15]に記載のフィルム。
[17]前記濃度勾配が、前記一方の表面から他方の表面に向かって、一旦高くなった後、再度低くなる上記[14]~[16]のいずれかに記載のフィルム。
[18]上記[1]~[13]のいずれかに記載の積層体、又は上記[14]~[17]のいずれか一項に記載のフィルムを含むカード。
[19]上記[1]~[13]のいずれかに記載の積層体、又は上記[14]~[17]のいずれか一項に記載のフィルムを含むパスポート。
[20]上記[1]~[13]のいずれかに記載の積層体、又は上記[14]~[17]のいずれかに記載のフィルムの製造方法であって、前記樹脂と前記レーザー発色剤とを少なくとも含む樹脂組成物を溶融混練する工程と、溶融した前記樹脂組成物をフィルム状に成形する工程とを少なくとも備える、製造方法。
[21]上記[1]~[13]のいずれかに記載の積層体、又は上記[14]~[17]のいずれか一項の記載のフィルムを用いてレーザー印字する方法。
[22]前記レーザー発色剤の含有割合が低い、前記積層体又は前記フィルムの一方の表面側からレーザー光を照射する、上記[21]に記載のレーザー印字方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、透明性とレーザー印字性の両方を良好にできる、積層体又はフィルムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】カードにおける層構成を示す模式図である。
図2】パスポートにおける層構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について実施形態を参考に詳細に説明する。但し、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。また、以下の説明において使用される用語「フィルム」と用語「シート」は明確に区別されるものではなく、「フィルム」と称する場合でも「シート」を含むものとし、「シート」と称する場合でも「フィルム」を含むものとする。「レーザーマーキング」と「レーザー印字」は同義である。
【0012】
<積層体>
本発明の積層体(以下、「本積層体」ということがある)は、それぞれ樹脂とレーザー発色剤とを含む2層以上の樹脂層(以下、「発色層」ということがある)を連続して有するものである。したがって、本積層体は、発色層として、樹脂とレーザー発色剤を含有する樹脂層(a)と、樹脂とレーザー発色剤を含有する樹脂層(b)とを少なくとも備え、これら樹脂層(a)及び樹脂層(b)が、連続して積層される。
本積層体は、連続して設けられる樹脂層(a)及び樹脂層(b)の両方にレーザー発色剤を含有させることで、屈折率差に基づく反射、散乱などが生じにくくなり、透明性を向上させることができるとともに、一定のレーザー印字性を確保することができる。
【0013】
上記の通り、積層体において樹脂層(a)、(b)は、いずれも樹脂とレーザー発色剤とを含有する。なお、以下の説明においては、樹脂層(a)に含有される樹脂を樹脂(A)、樹脂層(b)に含有される樹脂を樹脂(B)として説明することがある。
各発色層に含有される樹脂は、熱硬化性樹脂や光硬化性樹脂などの硬化性樹脂であってもよいし、熱可塑性樹脂であってもよいが、熱可塑性樹脂であることが好ましい。
したがって、連続する少なくとも2つの発色層を構成する樹脂(例えば、樹脂(A)、及び樹脂(B))は、いずれも熱可塑性樹脂であることが好ましい。連続する少なくとも2つの発色層に熱可塑性樹脂を使用することで、溶融製膜などにより発色層を容易に成形でき、また、積層体も共押出やプレス成形などにより容易に製造できるようになり、成形性、生産性を高められる。
【0014】
(熱可塑性樹脂)
各発色層(例えば、樹脂(A)及び樹脂(B))に使用される熱可塑性樹脂としては特に限定されないが、例えばポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレン-ビニルアルコール樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレン(メタ)アクリレート共重合樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合樹脂、ポリアリールエテルケトン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、フッ素樹脂などが挙げられる。
これらの中でも、各発色層における樹脂として、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂のいずれかを使用することが好ましく、ポリカーボネート系樹脂を使用することがより好ましい。これら樹脂を使用することで透明性、耐熱性の高い積層体としやすくなる。
したがって、樹脂(A)及び樹脂(B)として、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂のいずれかを使用することが好ましく、ポリカーボネート系樹脂を使用することがより好ましい。
上記した各発色層(例えば、樹脂層(a)又は樹脂層(b))において樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0015】
<ポリカーボネート系樹脂>
ポリカーボネート系樹脂は、ジヒドロキシ化合物由来の構造単位と、カーボネート結合を有する化合物である。ポリカーボネート系樹脂は、ホモポリカーボネートであってもよいし、共重合ポリカーボネート系樹脂であってもよい。
【0016】
共重合ポリカーボネート系樹脂は、複数のカーボネートユニットからなるポリカーボネートにおいて、ジヒドロキシ化合物を2種以上使用して、共重合体(以下、共重合ポリカーボネート樹脂(X)ともいう)としてもよい。
また、共重合ポリカーボネート系樹脂は、カーボネートユニット以外のユニットを分子中に有することで、共重合体(以下、共重合ポリカーボネート樹脂(Y)ということがある)としてもよい。ただし、共重合ポリカーボネート樹脂(Y)においても、ジヒドロキシ化合物を2種以上使用してもよい。
【0017】
共重合ポリカーボネート樹脂(Y)としては、カーボネートユニットに加えてカーボネートユニット以外のユニットを有するとよく、シロキサン構造を有するユニット、リン原子を有するユニット、アントラキノン構造を有するユニット、ポリスチレン等のオレフィン系構造を有するユニット、エステルユニットを有する共重合体が挙げられる。
共重合ポリカーボネート樹脂(Y)としては、シロキサン構造を有するユニット、エステルユニットを有する共重合体が好ましく、中でもカーボネートユニットと、エステルユニットを有するポリエステルカーボネート共重合樹脂がより好ましい。
なお、ここでいうカーボネートユニットは、カーボネート結合とジヒドロキシ化合物由来の構造単位からなり、具体的には、以下の式(1)で表される構造であり、カーボネート結合以外のエステル結合を含有しないユニットである。エステルユニットは、後述する通りである。
【0018】
【化1】

(ただし、Rはジヒドロキシ化合物由来の構造単位である。)
【0019】
ポリカーボネート系樹脂に使用されるジヒドロキシ化合物としては、芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物が挙げられるが、ポリカーボネート系樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構造単位を有することが好ましい。ポリカーボネート系樹脂は、芳香族ジヒドロキシ化合物由来の構造単位を有することで、ポリカーボネート系樹脂の耐熱性を高めやすくなる。そのため、積層体に高出力レーザー光を照射しても積層体に発泡、すなわち膨れが生じにくくなり、レーザー印字性も良好となる。
【0020】
ポリカーボネート系樹脂は、例えば、ホスゲン法、エステル交換法およびピリジン法などの公知のいずれの方法を用いてもよいが、ホスゲン法、エステル交換法が好ましい。ホスゲン法は、ジヒドロキシ化合物とホスゲンとを反応させた後、重合触媒の存在下で界面重合を行うことによってポリカーボネート系樹脂を得る方法である。エステル交換法は、ジヒドロキシ化合物と炭酸ジエステルとを塩基性触媒、さらにはこの塩基性触媒を中和する酸性物質を添加し、溶融エステル交換縮重合を行う製造方法である。
【0021】
なお、炭酸ジエステルとしては、ジフェニルカーボネート、ジトリールカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m-クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ビフェニル)カーボネート、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネート等が例示でき、中でもジフェニルカーボネートが好適に用いられる。
【0022】
ポリカーボネート系樹脂において、ポリエステルカーボネート共重合樹脂のように、カーボネートユニット以外のユニットを分子中に含有させる場合には、上記各製造方法の反応系に、カーボネートユニット以外のユニットを得るための成分を混合させるとよい。例えば、ポリエステルカーボネート共重合樹脂の場合には、ポリエステルプレポリマーを上記反応系に加えればよい。
ポリエステルプレポリマーとしては、後述する式(2)、又は式(3)で表されるユニットを有するものが挙げられる。ポリエステルプレポリマーとしては、具体的には、ポリラクトンプレポリマー、ジカルボン酸とジヒドロキシ化合物とを重縮合させて得られるポリエステルなどが挙げられる。
また、ポリエステルカーボネート共重合樹脂の場合には、ジヒドロキシ化合物とジカルボン酸又はその誘導体(ジカルボン酸エステルなど)と炭酸ジエステルの組み合わせで重合を行うことによっても製造できる。
【0023】
ポリカーボネート系樹脂に使用される芳香族ジヒドロキシ化合物としては、ビスフェノールが好ましく使用される。ビスフェノールの具体例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン(ビスフェノールAP)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン(ビスフェノールAF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン(ビスフェノールB)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン(ビスフェノールBP)、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールC)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールE)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-イソプロピルフェニル)プロパン(ビスフェノールG)、1,3-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールM)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(ビスフェノールS)、1,4-ビス(2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-プロピル)ベンゼン(ビスフェノールP)、5,5’-(1-メチルエチリデン)-ビス[1,1’-(ビスフェニル)-2-オール]プロパン(ビスフェノールPH)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)3,3,5-トリメチルシクロヘキサン(ビスフェノールTMC)、及び、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン(ビスフェノールZ)などが挙げられる。ポリカーボネート系樹脂において、ビスフェノールは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0024】
ポリカーボネート系樹脂に使用される脂肪族ジヒドロキシ化合物としては、その炭素原子数に関して特に限定されないが、好ましくは炭素原子数2~12程度、より好ましくは炭素原子数2~6の脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。具体的には例えば、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、2-エチル-1,6-ヘキサンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、水素化ジリノレイルグリコール,水素化ジオレイルグリコール等が挙げられる。好ましくはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオールから選択される少なくとも1種が挙げられ、より好ましくはエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、及び1,6-ヘキサンジオールから選択される少なくとも1種が挙げられる。
【0025】
脂環式ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位は、5員環構造又6員環構造の少なくともいずれかを含むことが好ましく、特に6員環構造は共有結合によって椅子型又は舟型に固定されていてもよい。脂環式ジヒドロキシ化合物に含まれる炭素原子数は、例えば5~70、好ましくは6~50、さらに好ましくは8~30である。
脂環式ジヒドロキシ化合物としては、好ましくは、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロデカンジメタノール、アダマンタンジオール及びペンタシクロペンタデカンジメタノールから選択される少なくとも1種が挙げられ、経済性や耐熱性の観点から、シクロヘキサンジメタノール又はトリシクロデカンジメタノールがさらに好ましく、シクロヘキサンジメタノールがよりさらに好ましい。シクロヘキサンジメタノールは、工業的に入手が容易である点から、1,4-シクロヘキサンジメタノールが特に好ましい。
【0026】
〈ビスフェノール系ポリカーボネート〉
ポリカーボネート系樹脂としては、ビスフェノール由来の構造単位を、ジヒドロキシ化合物由来の構造単位中50モル%以上含むビスフェノール系ポリカーボネートが好ましい。本発明では、発色層を構成する樹脂、具体的には、樹脂(A)、樹脂(B)、又はこれらの両方として、ビスフェノール系ポリカーボネートを使用することで、耐熱性を向上させやすくなり、レーザーマーキング時の膨れなどを防止しやすくなる。
ビスフェノール系ポリカーボネートは、ジヒドロキシ化合物由来の構造単位中70モル%以上がビスフェノールであることが好ましく、90モル%以上がビスフェノールであることがより好ましい。また、ビスフェノール系ポリカーボネートは、ホモポリカーボネートであってもよいし、共重合ポリカーボネート系樹脂であってもよい。また、ビスフェノール系ポリカーボネートは、分岐構造を有してもよいし、直鎖構造であってもよいし、さらに分岐構造を有する樹脂と直鎖構造のみの樹脂との混合物であってもよい。
【0027】
ビスフェノールの代表例としては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、すなわちビスフェノールAが好ましく用いられる。したがって、ビスフェノール系ポリカーボネートは、ジヒドロキシ化合物由来の構造単位中50モル%以上がビスフェノールAであることが好ましく、70モル%以上がビスフェノールAであることが好ましく、90モル%以上がビスフェノールAであることがより好ましい。
また、ホモポリカーボネートとしては、ビスフェノールAホモポリカーボネートが好ましい。ただし、ビスフェノール系ポリカーボネートにおいて、ビスフェノールAの一部又は全部を他のビスフェノールに置き換えてもよい。
【0028】
ビスフェノール系ポリカーボネートは、共重合ポリカーボネート系樹脂である場合、カーボネートユニットからなる共重合ポリカーボネート樹脂(X)でもよいし、後述するポリエステルカーボネート共重合樹脂のように、カーボネートユニット以外のユニットを分子中に有する共重合ポリカーボネート樹脂(Y)であってもよい。
【0029】
〈ポリエステルカーボネート共重合樹脂〉
共重合ポリカーボネート樹脂(Y)として好ましく使用できるポリエステルカーボネート共重合樹脂は、上記の通り、カーボネートユニットと、エステルユニットを有する。エステルユニットとしては、以下の式(2)、又は式(3)で表されるユニットが挙げられる。
【化2】

(ただし、式(2)、(3)において、R、R、Rは、炭素原子数1~40のヘテロ原子を有してもよい炭化水素基である。R、R、Rは、同一分子中において、同一であってもよいし、異なっていてもよい。)
【0030】
式(2)におけるRは、プロピオラクトン、ポリカプロラクトン、ポリバレロラクトンなどのラクトン由来の構造単位が挙げられ、これらの中でもポリカプロラクトンが好ましい。
式(3)におけるRとしては、ジヒドロキシ化合物由来の構造単位が挙げられ、Rとしては、ジカルボン酸由来の構造単位が挙げられる。したがって、式(3)で示すエステルユニットは、ジヒドロキシ化合物とジカルボン酸の縮合物由来のユニットである。
エステルユニットで使用されるジヒドロキシ化合物としては、上記した芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物のいずれでもよい。これらの中では、芳香族ジヒドロキシ化合物及び脂肪族ジヒドロキシ化合物のいずれかが好ましく、中でも芳香族ジヒドロキシ化合物、特にビスフェノールがより好ましく、ビスフェノールAが最も好ましい。
また、ジカルボン酸としては、炭素原子数3~42のジカルボン酸が挙げられ、具体的には、マロン酸、シュウ酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、セバシン酸、デカン二酸、ドデカン二酸、C36酸などのアルケン又はアルカンジカルボン酸などで代表される脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸などが挙げられる。また、ジカルボン酸としては、9,9-ビス(2-カルボキシエチル)フルオレンなどフルオレン骨格を有するジカルボン酸なども挙げられる。これら中では、炭素原子数4~18の脂肪族ジカルボン酸が好ましく、炭素原子数6~16の脂肪族ジカルボン酸がより好ましく、中でも炭素原子数8~14の脂肪族ジカルボン酸がより好ましい。
【0031】
ポリエステルカーボネート共重合樹脂は、ブロック共重合体であることが好ましく、したがって、ポリカーボネートブロックと、ポリエステルブロックとを有する共重合体であることが好ましい。ポリエステルブロックは、上記の通り、ポリラクトンエステルであってもよいし、ジヒドロキシ化合物とジカルボン酸の重縮合物であってもよいが、後者であることが好ましい。なお、前者は、式(2)の構造を繰り返し単位として有するものであり、後者は、式(3)の構造を繰り返し単位として有するものである。
カーボネートユニットにおけるジヒドロキシ化合物は、上記の通り、芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂環式ジヒドロキシ化合物のいずれでもよいが、これらの中では、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましく、中でもビスフェノールがより好ましく、ビスフェノールAがさらに好ましい。
また、ポリエステルカーボネート共重合体樹脂としては、フルオレン骨格を有するジカルボン酸由来の構造単位や、フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物由来の構造単位を有するものなども使用できる。フルオレン骨格を有するジヒドロキシ化合物としては、後述する下記式(4)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物として例示されるフルオレン骨格を有する化合物が挙げられる。
【0032】
ポリエステルカーボネート共重合樹脂において、カーボネートユニットとエステルユニットの合計量100質量%に対するエステルユニットの含有量は、例えば2質量%以上40質量%以下、好ましくは5質量%以上30質量%以下、さらに好ましくは8質量%以上20質量%以下、よりさらに好ましくは10質量%以上17質量%以下である。
【0033】
ポリエステルカーボネート共重合樹脂は、ビスフェノール系ポリカーボネートであってもよい。すなわち、ポリエステルカーボネート共重合樹脂は、ジヒドロキシ化合物由来の構造単位中50モル%以上がビスフェノールであるとよく、中でも70モル%以上がビスフェノールであることが好ましく、90モル%以上がビスフェノールであることがより好ましく、100モル%であってもよい。なお、含有量の基準となるジヒドロキシ化合物由来の構造単位とは、ポリエステルユニットを構成するジヒドロキシ化合物由来の構造単位も含むものとする。
【0034】
共重合ポリカーボネート樹脂(Y)は、上記の通り、カーボネートユニットと、シロキサン構造を有するユニットを有する共重合体樹脂であってもよい。シロキサン構造を有するユニットとしては、ポリオルガノシロキサン構造を有するユニットが好ましく、共重合ポリカーボネート樹脂(Y)は、具体的には、ポリカーボネートブロックと、ポリオルガノシロキサンブロックとを有するポリカーボネート-ポリオルガノシロキサン共重合体(PC-POS共重合体)が好ましい。
PC-POS共重合体におけるポリカーボネートブロックを構成するカーボネートユニットは上記の通りである。また、ポリオルガノシロキサンブロックとしては、一部のアルキル基が水素原子又はアリール基で置換されてもよいポリジアルキルシロキサンブロックを有する構造が挙げられ、より具体的には、アリルフェノール両末端変性ポリジメチルシロキサンなどの両末端フェノール変性ポリオルガノシロキサン由来の構造単位などが挙げられる。
【0035】
(ポリカーボネート樹脂(Z))
発色層を構成する樹脂、例えば、樹脂(A)及び樹脂(B)の一方又は両方において使用されるポリカーボネート樹脂は、構造の一部に下記式(4)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、構造単位(Z1)ということがある)を含むポリカーボネート樹脂(以下、ポリカーボネート樹脂(Z)ということがある)であってもよい。
【化3】

但し、前記式(4)で表される部位が-CH-O-Hの一部である場合を除く。すなわち、前記ジヒドロキシ化合物は、二つのヒドロキシル基と、さらに前記式(4)の部位を少なくとも含むものをいう。
本発明においては、上記構造を有するポリカーボネート系樹脂(Z)を使用することで、低温熱融着性を良好にしやすくなる。ポリカーボネート系樹脂(Z)は、植物由来原料により製造でき、環境負荷も低減できる。
【0036】
構造の一部に式(4)で表される部位を有するジヒドロキシ化合物としては、分子内に式(4)で表される構造を有していれば特に限定されるものではないが、フルオレン骨格を有する化合物、具体的には、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソプロピルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-イソブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3,5-ジメチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-tert-ブチル-6-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(3-ヒドロキシ-2,2-ジメチルプロポキシ)フェニル)フルオレン等、側鎖に芳香族基を有し、主鎖に芳香族基に結合したエーテル基を有する化合物や、下記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物および下記式(6)で表されるスピログリコール等で代表される環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0037】
上記のなかでも環状エーテル構造を有するジヒドロキシ化合物が好ましく、特に式(5)で表されるような無水糖アルコールが好ましい。より具体的には、式(5)で表されるジヒドロキシ化合物としては、立体異性体の関係にある、イソソルビド、イソマンニド、イソイデットが挙げられる。また、下記式(6)で表されるジヒドロキシ化合物としては、3,9-ビス(1,1-ジメチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン(慣用名:スピログリコール)、3,9-ビス(1,1-ジエチル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカン、3,9-ビス(1,1-ジプロピル-2-ヒドロキシエチル)-2,4,8,10-テトラオキサスピロ(5.5)ウンデカンなどが挙げられる。
これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0038】
【化4】

【化5】

式(6)において、R11~R14はそれぞれ独立に、炭素原子数1~3のアルキル基である。
【0039】
前記式(5)で表されるジヒドロキシ化合物は、植物起源物質を原料として糖質から製造可能なエーテルジオールである。とりわけイソソルビドは澱粉から得られるD-グルコースを水添してから脱水することにより安価に製造可能であって、資源として豊富に入手することが可能である。これら事情によりイソソルビドが最も好適に用いられる。
【0040】
ポリカーボネート系樹脂(Z)は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位として、上記した構造単位(Z1)以外の構造単位をさらに含むことができ、例えば、脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物から選択される少なくとも1種のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位(以下、構造単位(Z2)ということがある)を含有することが好ましい。
【0041】
脂肪族ジヒドロキシ化合物及び脂環式ジヒドロキシ化合物の説明は、上記のとおりであるが、脂肪族ジヒドロキシ化合物としては例えば国際公開第2004/111106号パンフレットに記載のものも使用できる。また、脂環式ジヒドロキシ化合物としては、国際公開第2007/148604号パンフレットに記載のものも使用できる。
【0042】
ポリカーボネート系樹脂(Z)における構造単位(Z1)の含有割合は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは40モル%以上、よりさらに好ましくは45モル%以上であり、また好ましくは75モル%以下、より好ましくは70モル%以下、さらに好ましくは65モル%以下である。かかる範囲とすることで、カーボネート構造に起因する着色、植物資源物質を用いる故に微量含有する不純物に起因する着色等を効果的に抑制することができ、積層体の透明性を高めやすくなる。また、構造単位(Z1)のみで構成されるポリカーボネート系樹脂では達成が困難な、適当な成形加工性や機械強度、耐熱性等の物性バランスを取ることができる傾向となる。
一方で、ポリカーボネート系樹脂(Z)における構造単位(Z2)の含有割合は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位中、好ましくは25モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは35モル%以上であり、また、好ましくは70モル%以下、より好ましくは60モル%以下、さらに好ましくは55モル%以下である。
【0043】
ポリカーボネート系樹脂(Z)は、ジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が、構造単位(Z1)と、構造単位(Z2)とからなることが好ましいが、本発明の目的を損なわない範囲で、その他のジヒドロキシ化合物に由来する構造単位が含まれていてもよい。具体的には2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)などのビスフェノールで代表される芳香族ジヒドロキシ化合物を、少量共重合させたりすることが挙げられる。芳香族ジヒドロキシ化合物を使用すると、耐熱性や成形加工性を効率よく改善できることが期待できるが、多く配合すると耐候性に不具合が生じる傾向があるため、耐候性に不具合が生じない程度の量で使用するとよい。
【0044】
各発色層を構成する樹脂(例えば、樹脂(A)、(B)、又はこれらの両方)は、ポリカーボネート系樹脂を主成分として含有するとよいが、ポリカーボネート系樹脂からなることが好ましい。なお、各発色層において主成分として含有するとは、各発色層に含有される樹脂全量に対して、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%であることを意味し、以下同様である。
【0045】
本発明においては、各発色層に共重合ポリカーボネート系樹脂を使用してもよいし、発色層の少なくとも1つが共重合ポリカーボネート系樹脂を使用することが好ましい。
より具体的に説明すると、樹脂(A)、(B)の両方に共重合ポリカーボネート系樹脂を使用してもよいし、樹脂(A)、(B)の一方に共重合ポリカーボネート系樹脂を使用し、他方にホモポリカーボネートを使用してもよい。
これらの中では、樹脂(A)として共重合ポリカーボネート系樹脂を使用することが好ましい。共重合ポリカーボネート系樹脂は、一般的にガラス転移温度(Tg)を低くできる。したがって、樹脂(A)に共重合ポリカーボネート系樹脂を使用することで、他のフィルムに対して、比較的低い温度で融着できる低温熱融着性を確保しやすくなる。低温熱融着性が確保できると、カードやパスポードを成形する際に行うプレス成形を低温にでき、樹脂の染み出しなどを防止できる。
また、樹脂(A)に共重合ポリカーボネート系樹脂を使用する場合、樹脂(B)にホモポリカーボネートを使用する態様も好ましい。このような態様によれば、樹脂層(a)により低温熱融着性を確保しつつ、樹脂層(b)により機械強度や耐熱性を付与しやすくなる。そして、樹脂層(b)は、耐熱性を有することで、高出力レーザー光が照射されても、発泡、すなわち膨れなどが発生しにくくなり、レーザー印字性や外観が良好となる。
【0046】
各発色層を構成する樹脂(例えば、樹脂(A)、(B))それぞれに使用されるポリカーボネート系樹脂としては、上記の中では、ビスフェノール系カーボネート及びポリエステルカーボネート共重合樹脂のいずれかを使用することが好ましい。
中でも、樹脂(A)としてポリエステルカーボネート共重合樹脂を使用することが好ましい。樹脂(A)としてポリエステルカーボネート共重合樹脂を使用することで、樹脂層(a)により低温熱融着性を確保しやすくなる。
【0047】
また、樹脂(A)としてポリエステルカーボネート共重合樹脂を使用する場合、樹脂(B)としては、ポリエステルカーボネート共重合樹脂を使用してもよいし、ビスフェノール系カーボネートを使用してもよいが、ビスフェノール系ポリカーボネートを使用することが好ましく、中でもビスフェノール系ホモポリカーボネートを使用することがより好ましい。樹脂(A)としてポリエステルカーボネート共重合樹脂を使用しつつ、樹脂(B)としてビスフェノール系ポリカーボネート、特にビスフェノール系ホモポリカーボネートを使用することで、積層体の低温熱融着性、機械強度などを良好にしやすくなる。また、樹脂層(b)の耐熱性も良好になり、例えば後述する通り、樹脂層(a)のレーザー発色剤の含有割合を、樹脂層(b)のレーザー発色剤の含有割合を低くすることで、膨れを防止しつつレーザー発色性なども向上しやすくなる。
【0048】
各発色層を構成する樹脂、例えば、樹脂(A)及び樹脂(B)は、それぞれ、質量平均分子量が好ましく10000以上、より好ましくは30000以上、さらに好ましくは40000以上、よりさらに好ましくは50000以上、最も好ましくは54000以上である。樹脂(A)及び樹脂(B)は、一定以上の質量平均分子量を有することで、本積層体に機械強度、耐熱性などを付与しやすくなる。
樹脂(A)及び樹脂(B)は、いずれか一方が上記下限値以上の質量平均分子量を有すればよいが、両方が上記下限値以上の質量平均分子量を有していたほうがよい。樹脂(A)及び樹脂(B)はそれぞれ好ましくは100000以下、より好ましくは90000以下、さらに好ましくは80000以下である。樹脂(A)及び樹脂(B)は、いずれか一方が上記上限値以下の質量平均分子量を有すればよいが、両方が上記上限値以下の質量平均分子量を有していたほうがよい。
【0049】
なお、上記質量平均分子量を有する樹脂は、ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。また、樹脂層(a)において樹脂(A)は、上記質量平均分子量を有する樹脂以外の樹脂を含有してもよいが、上記質量平均分子量を有する樹脂を主成分として含有することが好ましく、中でも樹脂(A)は、上記質量平均分子量を有する樹脂よりなることより好ましい。
同様に、樹脂層(b)において樹脂(B)は、上記質量平均分子量を有する樹脂以外の樹脂を含有してもよいが、上記質量平均分子量を有する樹脂を主成分として含有することが好ましく、中でも上記質量平均分子量を有する樹脂よりなることがより好ましい。
【0050】
樹脂(A)のガラス転移温度は、例えば95℃以上、好ましくは110℃以上であり、より好ましくは120℃以上、さらに好ましくは125℃以上、よりさらに好ましくは130℃以上である。
また、樹脂(B)のガラス転移温度は、樹脂(A)のガラス転移温度と同一であってもよいが、樹脂(A)のガラス転移温度よりも高いことが好ましい。樹脂(B)のガラス転移温度は、例えば100℃以上、好ましくは115℃以上であり、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは135℃以上である。
樹脂(A)、(B)のガラス転移温度が一定値以上であると、積層体は適切な耐熱性を有し、例えば高出力レーザー光が照射されても膨れが発生しにくくなり、レーザー印字性や外観が良好となる。
また、樹脂(B)のガラス転移温度を樹脂(A)のガラス転移温度より高くすることで、レーザー印字性をより高めやすくなり、また、レーザー照射時の膨れも効果的に防止しやすくなる。特に、後述するとおり樹脂層(a)におけるレーザー発色剤の含有割合(a)が、樹脂層(b)におけるレーザー発色剤の含有割合(b)より低い場合に効果的である。
樹脂(B)のガラス転移温度は、樹脂(A)のガラス転移温度より高い場合、レーザー印字性をより高めやすくする観点から、その差は、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましい。
【0051】
樹脂(A)のガラス転移温度は、好ましくは170℃以下、より好ましくは155℃、さらに好ましくは146℃以下であり、よりさらに好ましくは140℃以下であり、よりさらに好ましくは136℃以下である。樹脂(A)のガラス転移温度が一定値以下とすることで成形性、低温熱融着性を良好にしやすくなる。
また、樹脂(B)のガラス転移温度は、好ましくは200℃以下、より好ましくは175℃、さらに好ましくは160℃以下であり、よりさらに好ましくは155℃以下であり、よりさらに好ましくは150℃以下であり、よりさらに好ましくは146℃以下である。樹脂(B)のガラス転移温度を一定値以下とすることで、樹脂層(b)や積層体の成形性などを良好にしやすくなる。
なお、上記ガラス転移温度を有する樹脂(A)、(B)は、典型的には、単一のガラス転移温度を有するとよいが、2つ以上のガラス転移温度が測定された場合には、低温側を上記ガラス転移温度とする。
【0052】
なお、上記ガラス転移温度を有する樹脂は、ポリカーボネート系樹脂であることが好ましい。また、樹脂層(a)において、樹脂(A)は、上記ガラス転移温度を有する樹脂以外の樹脂を含有してもよいが、上記ガラス転移温度を有する樹脂を主成分として含有することが好ましく、中でも樹脂(A)は、上記ガラス転移温度を有する樹脂よりなることがより好ましい。
同様に、樹脂層(b)において、樹脂(B)は、上記ガラス転移温度を有する樹脂以外の樹脂を含有してもよいが、上記ガラス転移温度を有する樹脂を主成分として含有することが好ましく、中でも上記ガラス転移温度を有する樹脂よりなることより好ましい。
【0053】
[レーザー発色剤]
レーザー発色剤は、樹脂層(a)及び樹脂層(b)などの各発色層において、各発色層を構成する樹脂中に分散されて含有される。各発色層、例えば、樹脂層(a)及び樹脂層(b)に含有されるレーザー発色剤は、レーザー光線の照射によって発熱する機能を有するものであれば特に限定されず、レーザー光の照射によってそれ自身が発色するいわゆる自己発色型発色剤でもよいし、或いは、それ自身は発色しないものであってもよい。レーザー発色剤が発熱することにより、少なくともその周辺の形成材料が炭化し、各発色層に所望の印字が表れる。さらに自己発色するレーザー発色剤を用いると、レーザー発色剤の発色と、積層体の形成材料が炭化することによって生じる炭化物による発色とが相乗して、色が濃く、視認性に優れた印字を表すことができる。レーザー発色剤が発色する場合、その色彩は特に限定されるものではないが、視認性の観点から、黒、紺、茶を含む濃色に発色し得るレーザー発色剤を用いることが好ましい。
【0054】
レーザー発色剤は、金属酸化物であってもよいし、金属酸化物以外の化合物であってもよい。金属酸化物としてはレーザー発色効果を有するものであれば限定されず、例えば、酸化鉄、酸化銅、酸化亜鉛、酸化錫、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化ビスマス、酸化インジウム、酸化アンチモン、酸化タングステン、酸化ネオジウム、マイカ、ハイドロタルサイト、モンモリロナイト、スメクタイトなどが挙げられる。
また、金属酸化物以外のレーザー発色剤としては、例えば、鉄、銅、亜鉛、錫、金、銀、コバルト、ニッケル、ビスマス、アンチモン、アルミニウムなどの金属、それらの塩である塩化鉄、硝酸鉄、リン酸鉄、塩化銅、硝酸銅、リン酸銅、塩化亜鉛、硝酸亜鉛、リン酸亜鉛、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、次炭酸ビスマス、硝酸ビスマスなどの金属塩が挙げられる。また、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化ランタン、水酸化ニッケル、水酸化ビスマスなどの金属水酸化物、例えば、ホウ化ジルコニウム、ホウ化チタン、ランタンホウ化物などの金属ホウ化物なども使用できる。なお、金属ホウ化物は、六ホウ化物が近赤外吸収能を有しており、中でも六ホウ化ランタンはレーザー光の吸収効率に優れているため好ましい。また、例えば、フルオラン系、フェノチアジン系、スピロピラン系、トリフェニルメタフタリド系、ローダミンラクタム系などのロイコ染料などで代表される染料系や、カーボンブラックなども使用できる。
各発色層、例えば、樹脂層(a)、(b)においてレーザー発色剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。また、各発色層におけるレーザー発色剤は、別の発色層におけるレーザー発色剤と同種のものを使用することが好ましいが、異なる種類のものを使用してもよい。
【0055】
各発色層、例えば、樹脂層(a)、及び樹脂層(b)に使用されるレーザー発色剤としては、レーザー印字性の観点から金属酸化物を使用することが好ましい。中でも、レーザー発色効果とコストの観点から、酸化ビスマスや、ビスマスとZn、Ti、Al、Zr、Sr、NdおよびNbから選択される少なくとも1種の金属を含んだ金属酸化物等のビスマス系の金属酸化物を用いることが好ましく、中でも酸化ビスマスを用いることがより好ましい。酸化ビスマスは、比較的少量であっても、良好に発色するため、樹脂層(a)及び樹脂層(b)の透明性を損なうことなく、レーザー発色性を優れたものにできる。
【0056】
レーザー発色剤の平均粒径は、10μm以下であることが好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下がさらに好ましく、2μm以下が特に好ましい。粒径が10μm以下であれば、透明性が大幅に低下するおそれがない。ここで、粒子径とは、レーザー回折・散乱法によって求めたメディアン径(d50)を意味する。レーザー発色剤の平均粒径は、下限に関しては限定されないが、印字性能や生産性の観点から0.05μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.3μm以上であることがさらに好ましい。
金属酸化物の市販品としては、例えば、TOMATEC株式会社製の商品名「42-903A」、「42-920A」やメルクパフォーマンスマテリアルズ株式会社製の商品名「イリオテック8820」、「イリオテック8825」などが挙げられる。
レーザー発色剤として、金属酸化物を使用する場合、金属酸化物のみを使用してもよいが、金属酸化物と金属酸化物以外の化合物を併用してもよい。
【0057】
各発色層におけるレーザー発色剤の含有割合は、レーザー印字性が良好となるように適宜設定されるとよい。
例えば、樹脂層(a)におけるレーザー発色剤の含有割合は、樹脂(A)100質量部に対して0.005質量部以上3質量部以下であることが好ましい。なお、樹脂(A)100質量部に対する樹脂層(a)におけるレーザー発色剤の含有割合は、以下、含有割合(a)ということがある。
レーザー発色剤の含有割合(a)を0.005質量部以上とすることで、レーザー発色性を良好にしやすくなる。また、3質量部以下とすることで、レーザー発色剤によって透明性や機械強度などが低下することを抑制できる。さらに、含有割合(a)を上記範囲内とすることで、樹脂層(b)との屈折率差を小さくして、樹脂層(b)との層間で反射などすることを防止して、積層体のヘイズ値を小さくしやすくなる。
含有割合(a)は、0.01質量部以上であることがより好ましく、0.02質量部以上であることがさらに好ましい。含有割合(a)は、2質量部以下であることがより好ましく、1質量部以下であることがさらに好ましく、0.7質量部以下であることがよりさらに好ましく、0.4質量部以下であることがよりさらに好ましい。
【0058】
また、樹脂層(b)におけるレーザー発色剤の含有割合は、樹脂(B)100質量部に対して0.01質量部以上3質量部以下であることが好ましい。なお、以下、樹脂層(b)における樹脂(B)100質量部に対するレーザー発色剤の含有割合は、含有割合(b)ということがある。
本発明の積層体において、含有割合(b)を0.01質量部以上とすることでレーザー発色性を良好にしやすくなる。また、3質量部以下とすることで、レーザー発色剤によって透明性や機械強度などが低下することを抑制できる。さらに、含有割合(b)を上記範囲内とすることで、樹脂層(a)との屈折率差を小さくして、樹脂層(a)との層間で反射などすることを防止して、積層体のヘイズ値を小さくしやすくなる。
樹脂層(b)において、含有割合(b)は、特に限定されないが、0.02質量部以上がより好ましく、0.04質量部以上がさらに好ましく、0.08質量部以上がよりさらに好ましく、また、2質量部以下がより好ましく、1質量部以下がさらに好ましく、0.7質量部以下がよりさらに好ましく、0.5質量部以下がよりさらに好ましい。
上記含有割合(a)と含有割合(b)は、互いに異なることが好ましい。上記含有割合(a)と含有割合(b)が異なることで、樹脂層(a)と樹脂層(b)を複数層設けた効果を発揮しやすくなり、透明性を向上させつつレーザー発色性を良好に維持しやすくなる。
【0059】
含有割合(a)の含有割合(b)に対する質量比(a/b)は、1/10以上5/1以下であることが好ましい。質量比(a/b)を上記範囲内とすることで、レーザー発色性を良好にしつつ、樹脂層(a)と樹脂層(b)との層間で反射などすることを防止して、本積層体のヘイズ値を小さくしやすくなる。
質量比(a/b)は、1/8以上であることがより好ましく、1/6以上であることがさらに好ましい。また、含有割合(a)は、含有割合(b)以下であることがより好ましく、含有割合(b)よりも低いことがさらに好ましい。具体的には、質量比(a/b)は、3/4以下がさらに好ましく、1/2以下がよりさらに好ましい。
含有割合(a)が含有割合(b)以下であると、その原理が定かではないが、積層体の樹脂層(a)側の表面からレーザー光を入射した際に、レーザー発色性が優れたものとなる。また、樹脂層(a)における含有割合(a)を、樹脂層(b)の含有割合(b)より低くすることで、ヘイズ(特に後述する初期ヘイズ)が低くなる傾向にある。
さらに、レーザーが入射される表面側の樹脂層(a)は、レーザー発色剤の含有割合(a)が樹脂層(b)の含有割合(b)よりも低いことで、レーザー発色時に膨れにくくなり、かつ樹脂層(b)の膨れも抑制できるので、結果として、積層体全体の膨れを防止しやすくなる。
【0060】
積層体におけるレーザー発色剤の含有量合計は、単位面積当たりの含有量として0.5μg/cm以上が好ましい。レーザー発色剤の含有量合計を上記下限値以上とすることにより、レーザーマーキング性を良好にすることができる。レーザーマーキング性の観点から、上記レーザー発色剤の含有量は、3μg/cm以上がより好ましく、7μg/cm以上がさらに好ましく、10μg/cm以上がよりさらに好ましく、30μg/cm以上が特に好ましく、50μg/cm以上が殊に好ましい。
また、樹脂層(b)におけるレーザー発色剤の上記含有量合計は、350μg/cm以下が好ましい。含有量を上記上限値以下とすることにより、積層体の透明性、機械物性を良好にできる。これら観点から、上記レーザー発色剤の含有量合計は、320μg/cm以下がより好ましく、300μg/cm以下がさらに好ましく、280μg/cm以下が特に好ましく、260μg/cm以下が最も好ましい。
【0061】
(その他の添加剤)
本積層体における各樹脂層、例えば、樹脂層(a)、(b)それぞれは、その性質を損なわない範囲において、あるいは本発明の目的以外の物性をさらに向上させるために、上記以外にも、各種添加剤を含有してもよい。
【0062】
添加剤としては、例えば、耐衝撃改良剤が挙げられる。耐衝撃改良剤は、樹脂層(b)に含有させてもよいが、樹脂層(a)に含有させることが好ましい。樹脂層(a)が耐衝撃改良剤を含有することで、実使用での折り曲げ、衝撃等の外的衝撃から生ずる影響を緩和して、積層体の曲げ耐久性を向上させやすくなる。また、加熱時の軟化性や流動性の低下を防止して、加工性を良好に維持しやすくなる。
【0063】
耐衝撃改良剤としては、軟質スチレン系樹脂、エラストマーなどが挙げられる。エラストマーは、コア・シェル型エラストマーであってもよい。耐衝撃改良剤は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。耐衝撃改良剤としては、上記の中でもコア・シェル型エラストマーが好ましい。コア・シェル型エラストマーを使用することで、耐衝撃性が一層向上して、曲げ耐久性がより一層良好となる。
【0064】
軟質スチレン系樹脂は、スチレン重合体ブロックと共役ジエン系重合体ブロックを含むブロック共重合体や、スチレン重合体ブロックとアクリロニトリルブロックを含むブロック共重合体などが挙げられる。軟質スチレン系樹脂中に占めるスチレン含有量は、例えば5質量%以上80質量%以下であるが、好ましくは10質量%以上50質量%以下、より好ましくは15質量%以上30質量%以下である。スチレン含有量が上記範囲にあることにより、耐衝撃性の付与効果がより向上する。
【0065】
軟質スチレン系樹脂に用いる共役ジエン系重合体ブロックとしては、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等の単独重合体、それらの共重合体、または、共役ジエン系モノマーと共重合可能なモノマーをブロック内に含む共重合体等を用いることができる。
具体的な軟質スチレン系樹脂としては、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SIS)、シリコーン-アクリル複合ゴム・アクリロニトリル・スチレン共重合体(SAS)、メタクリル酸メチル・無水マレイン酸・スチレン共重合体(SMM)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、アクリロニトリル-スチレン-アクリルゴム共重合体(ASA)、アクリロニトリル-エチレンプロピレン系ゴム-スチレン共重合体(AES)等が挙げられる。
【0066】
なお、ブロック共重合体はピュアブロック、ランダムブロック、テーパードブロック等を含み、共重合の形態については特に限定されない。また、そのブロック単位も繰り返し単位がいくつも重なっても構わない。具体的にはスチレン・ブタジエンブロック共重合体の場合、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体、スチレン・ブタジエン・スチレン・ブタジエンブロック共重合体のようにブロック単位がいくつも繰り返されても構わない。
また、SBSやSISの共役ジエン系重合体ブロックの二重結合の一部、または、全部を水素添加した水素添加スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体(SEBS)、水素添加スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SEPS)を用いることもできる。
【0067】
軟質スチレン系樹脂には、極性を有する官能基を付与することも可能である。極性を有する官能基を付与した軟質スチレン系樹脂としては、SEBS、SEPSの変性体が好ましく用いられる。具体的には、無水マレイン酸変性SEBS、無水マレイン酸変性SEPS、エポキシ変性SEBS、エポキシ変性SEPSなどが挙げられる。
また、軟質スチレン系樹脂は、エラストマー成分を含むスチレン系エラストマーであってもよい。具体的には、上記したものの中では、スチレン成分と、ブタジエン、イソプレン、1,3-ペンタジエン等のブロック共重合体が挙げられ、これらの変性物や、水素添加物などであってもよい。より具体的には、SBS、SIS、SEBS、SEPSなどが挙げられる。
【0068】
エラストマーとしては、スチレン系エラストマー以外であってもよく、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ジエン系エラストマー、アクリル系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、フッ素系エラストマー、シリコーン系エラストマー等公知のものが挙げられる。エラストマーは、一般的に熱可塑性エラストマーである。エラストマーは、好ましくは、ポリエステル系エラストマー、又は上記したスチレン系エラストマーである。
【0069】
コア・シェル型エラストマーは、最内層(すなわち、コア)とそれを覆う1層以上の外層(すなわち、シェル)とから構成される。コア・シェル型エラストマーとしては、コアに対してグラフト共重合可能な単量体成分がシェルとしてグラフト共重合されたコア・シェル型グラフト共重合体であることが好ましい。
【0070】
コア・シェル型グラフト共重合体は、通常、ゴム成分と呼ばれる重合体成分をコアとする。コア・シェル型グラフト共重合体においては、コアを構成する重合体成分と、この重合体成分と共重合可能な単量体成分がシェルとしてグラフト共重合されていることが好ましい。
コア・シェル型グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。但し、通常、市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーをそのまま使用することができる。市販で入手可能なコア・シェル型エラストマーは後に例示する。
【0071】
コアを形成する重合体成分の具体例としては、ポリブタジエン、スチレン-ブタジエン共重合体などのブタジエン系ゴム、イソプレン系ゴム、ポリブチルアクリレート、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのアクリル系ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン・アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴムなどのシリコーン・アクリル複合ゴム、、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン共重合体、エチレン-オクテン共重合体などのエチレン-αオレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、及びシリコーン・アクリル複合ゴムから選ばれる少なくとも1種が好ましく、中でもブタジエン系ゴム及びシリコーン・アクリル複合ゴムから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0072】
シェルを構成する、コアの重合体成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物;シアン化ビニル化合物;(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物などの(メタ)アクリル系化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル系化合物が好ましく、より好ましくは、芳香族ビニル化合物、(メタ)アクリル系化合物、中でも(メタ)アクリル酸エステル化合物である。
芳香族ビニル化合物の具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、1-ビニルナフタレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレンまたはハロゲン化スチレンなどが挙げられ、なかでも、スチレンまたはα-メチルスチレンがより好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等が挙げられ、これらの中でも比較的入手しやすい(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが好ましく、(メタ)アクリル酸メチルがより好ましい。なお、「(メタ)アクリル」とは「アクリル」と「メタクリル」とを総称するものである。
【0073】
コア・シェル型エラストマーとしては、ブタジエン系ゴム、アクリル系ゴム、シリコーン系ゴム、及びシリコーン・アクリル複合ゴムから選ばれる少なくとも1種の重合体成分をコアとし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルなどの(メタ)アクリル系化合物や芳香族ビニル化合物をグラフト共重合して形成されたシェルからなる、コア・シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。コア・シェル型グラフト共重合体におけるコアの重合体成分の含有量は、40質量%以上であることが好ましく、60質量%以上であることがよい好ましく、70質量%以上であることがさらに好ましく、80質量%以上であることがよりさらに好ましい。
また、コア・シェル型グラフト共重合体のシェルにおける、(メタ)アクリル系化合物(中でも、(メタ)アクリル酸エステル)成分及び芳香族ビニル化合物成分の合計含有量は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましく、70質量%以上であることがよりさらに好ましい。シェルでは、(メタ)アクリル系化合物及び芳香族ビニル化合物のいずれかが単独で使用されてもよいし、これらは併用されてもよい。
【0074】
コア・シェル型エラストマーの好ましい具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーン複合ゴム)共重合体等が挙げられる。
耐衝撃改良剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0075】
各樹脂層(a)における耐衝撃改良剤の含有量は、各樹脂層(a)全量基準で、2質量%以上であることが好ましく、4質量%以上がより好ましく、6質量%以上がさらに好ましく、8質量%以上がよりさらに好ましく、また、40質量%以下であることが好ましく、30質量%以下であることがより好ましく、25質量%以下であることがさらに好ましく、20質量%以下であることがよりさらに好ましく、15質量%以下であることが特に好ましい。
【0076】
本積層体は、帯電防止剤を含有してもよい。本積層体は、帯電防止剤を含有することで、搬送時や他のフィルムに重ね合わせた際の帯電を抑制し、また、熱プレス等の際のプレス板への付着が起こりにくい等、ハンドリング性が向上する傾向となる。また、フィルムの表面抵抗率が低くなるため、取扱い性、加工性、防塵性なども良好となる。
帯電防止剤としては、例えば、低分子型帯電防止剤、高分子型帯電防止剤等を挙げることができる。これらはイオン伝導型でもよいし電子伝導型でもよい。
【0077】
低分子型帯電防止剤としては、例えば、アニオン系帯電防止剤;カチオン系帯電防止剤;非イオン系帯電防止剤;両性系帯電防止剤;錯化合物;アルコキシシラン、アルコキシチタン、アルコキシジルコニウム等の金属アルコキシド、その誘導体;コーテッドシリカなどを挙げることができる。
両性系帯電防止剤は、ベタイン型であってもよいが、ベタイン型以外であってもよく、カチオンとアニオンにより構成される帯電防止剤であればよく、イオン液体であってもよい。
高分子型帯電防止剤は、例えば、分子内にアルキルスルホン酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩などのスルホン酸金属塩を有するビニル共重合体などの各種ポリマーであってもよいし、ベタイン型であってもよい。また、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等を用いることもできる。
帯電防止剤は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0078】
帯電防止剤は、上記の中では、カチオンとアニオンにより構成される帯電防止剤が好ましく、具体的には、フッ素原子を含むスルホンイミドアニオン及びフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンと、ホスホニウムカチオン、アンモニウムカチオン、イミダゾリウムカチオン及びピリジニウムカチオンから選択されるカチオンとから構成される帯電防止剤が挙げられる。
カチオンとアニオンから構成される帯電防止剤は、イオン液体であることが好ましい。イオン液体は、物質そのものが高い導電度を有しており、かつ、室温付近で液体であるため、分散性に優れ、より高い帯電防止性能を発揮する。また、耐熱性に優れ、帯電防止剤の熱分解による物性低下を抑えつつ、優れた帯電防止性能を付与することが可能となる。なお、イオン液体とは、イオンのみからなり、融点が100℃以下である化合物をいう。
【0079】
上記したフッ素原子を含むスルホンイミドアニオン及びフッ素原子を含むスルホネートアニオンから選択されるアニオンは、パーフルオロアルキルスルホンイミドアニオン及びパーフルオロアルキルスルホネートアニオンから選択されるアニオンを含むことが好ましい。アニオンは、フッ素原子、特にパーフルオロアルキル基を含むことにより、フィルムにおけるイオン液体の表面への移行性が向上する傾向となる。従って、より低い添加量で高い帯電防止性能を付与することが可能となる。
また、本積層体は、ポリアルキレングリコール、脂肪酸エステル、脂肪族基を有する金属塩、フッ素系ポリマー、脂肪酸アミド、脂肪族アルコール、脂肪酸、脂肪族炭化水素系化合物等の滑剤を含有してもよい。
【0080】
積層体において、滑剤や帯電防止剤は、樹脂層(a)に含有させるとよい。滑剤又は帯電防止剤は、上記したものから1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。滑剤又は帯電防止剤の含有量は、樹脂層(a)において、好ましくは0.01質量%以上5質量%以下、より好ましくは0.1質量%以上3質量%以下である。
【0081】
本積層体は、熱安定剤、酸化防止剤、又はこれらの両方を含有してもよい。熱安定剤、酸化防止剤、又はこれらの両方は、いずれの発色層に含有されてもよく、樹脂層(a)に含有されてもよいし、樹脂層(b)に含有されてもよいし、樹脂層(a)及び樹脂層(b)の両方に含有されてもよい。
熱安定剤としては、例えばリン系化合物が挙げられる。リン系化合物としては、公知のものを使用できる。具体例を挙げると、リン酸、ホスホン酸、亜燐酸、ホスフィン酸、ポリリン酸などのリンのオキソ酸、酸性ピロリン酸ナトリウム、酸性ピロリン酸カリウム、酸性ピロリン酸カルシウムなどの酸性ピロリン酸金属塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム、リン酸セシウム、リン酸亜鉛など第1族または第2B族金属のリン酸塩、有機ホスファイト化合物、有機ホスフェート化合物、有機ホスホナイト化合物などが挙げられる。また、有機ホスフェート化合物、有機ホスファイト化合物、有機ホスホナイト化合物などは、金属塩を使用してもよい。
【0082】
酸化防止剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などを用いることができる。中でも、フェノール系酸化防止剤が好ましい。フェノール系酸化防止剤としては、α-トコフェロール、4-メトキシフェノール、4-ヒドロキシフェニル(メタ)アクリレート、β-トコフェロール、2,6-ジ-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-4-メトキシフェノール、2-tert-ブチル-4-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-tert-ブチルフェノール、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン、BHT)、プロピオン酸ステアリル-β-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)等が挙げられる。中でも、2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェノール(ジブチルヒドロキシトルエン、BHT)が好ましい。
熱安定剤及び酸化防止剤の含有量合計は、各発色層(例えば、樹脂層(a)、(b)それぞれ)において、0.01質量%以上3質量%以下であることが好ましく、0.05質量%以上2質量%以下がより好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。
【0083】
本積層体において、樹脂層(a)、樹脂層(b)などの各発色層は、上記以外にも、プロセス安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、艶消し剤、加工助剤、金属不活化剤、残留重合触媒不活化剤、抗菌・防かび剤、抗ウィルス剤、難燃剤、充填材等の広汎な樹脂材料に一般的に用いられているものを挙げることができる。これらに関しても使用される目的に応じて、通常使用される量を添加すればよい。
【0084】
[層構成]
本積層体において、複数の発色層は、連続して配置されればよく、例えば樹脂層(a)と樹脂層(b)が連続して配置されればよい。また、本積層体において連続して配置される2つの発色層(すなわち、樹脂層(a)、(b))は、互いに同一の組成を有してもよい。ただし、樹脂層(a)と樹脂層(b)は、互いに異なる組成を有することが好ましい。なお、連続する発色層間の界面は、例えばSEM、TEMなどの顕微鏡観察により確認することができるが、界面は必ずしも顕微鏡観察により確認できなくてもよい。
積層体において、樹脂層(a)は、樹脂層(b)よりも、積層体の少なくとも一方の表面側に設けられる層である。本積層体は、レーザーマーキングのために、一方の表面からレーザーが入射される。すなわち、上記樹脂層(a)は、樹脂層(b)に対して、レーザー光が入射する側の層となり、本積層体において、レーザー光は、樹脂層(a)及び樹脂層(b)の順に入射されることになる。このようにレーザー光が入射されると、上記の通り、樹脂層(a)のレーザー発色剤の含有割合(a)を、樹脂層(b)の含有割合(b)以下とすることで、上記の通り、レーザー印字性がより一層良好になる。また、含有割合(a)を含有割合(b)より小さくすることで、積層体の膨れも防止しやすくなり、また、積層体のヘイズも低くなる傾向にある。
【0085】
樹脂層(a)は、樹脂層(b)よりも、積層体の一方の表面側に設けられればよいが、両表面側に設けられてもよい。したがって、樹脂層(a)及び樹脂層(b)の積層構造としては、例えば、樹脂層(a)/樹脂層(b)の2層構成、樹脂層(a)/樹脂層(b)/樹脂層(a)の3層構成を挙げることができる。
樹脂層(a)は、樹脂層(b)よりも、積層体の両表面側それぞれに設けられることが好ましく、したがって、積層構造としては、樹脂層(a)/樹脂層(b)/樹脂層(a)の層構成が好ましい。樹脂層(a)が両面側に設けられることで、上記の通り、樹脂層(a)のレーザー発色剤の含有割合(a)を、樹脂層(b)の含有割合(b)以下、又は含有割合(b)よりも低くすることで、積層体のいずれの表面からレーザー光を入射させても、レーザー印字性が良好になり、また、レーザー照射による膨れも防止できる。
また、積層体において、樹脂層(a)は、樹脂層(b)に連続して設けられる層であり、樹脂層(a)は、樹脂層(b)に直接積層される。樹脂層(a)が樹脂層(b)に直接積層されることで、樹脂層(a)と樹脂層(b)における反射を有効に防止することができる。
また、本積層体は、レーザー発色剤を含有しない樹脂層を含有してもよい。そのような樹脂層は、例えば、樹脂層(a)/樹脂層(b)の2層構成、又は樹脂層(a)/樹脂層(b)/樹脂層(a)の3層構成の外側に積層されるとよい。
【0086】
(層厚み)
本積層体において、各樹脂層の厚みは、5μm以上200μm以下程度に設定されればよい。具体的には、各樹脂層(a)の厚みは5μm以上であることが好ましい。5μm以上であることで、樹脂層(a)の機能を十分に果たすことができ、例えば、積層体のレーザー発色性を良好にすることができる。また、上記の通り、含有割合(a)を適宜調整し、また、樹脂(A)に使用する樹脂を適宜選択することで、積層体の膨れを防止し、また、積層体の低温熱融着性なども良好にしやすくなる。以上の観点から各樹脂層(a)の厚みは、6μm以上がより好ましく、8μm以上がさらに好ましく、11μm以上がよりさらに好ましい。
本積層体において、各樹脂層(a)の厚みは、50μm以下であることが好ましい。各樹脂層(a)の厚みを上記上限値以下とすることで、本積層体を必要以上に厚くすることなく、上記した各種性能を良好にしやすくなる。各樹脂層(a)の厚みは、45μm以下がより好ましく、40μm以下がさらに好ましく、30μm以下がよりさらに好ましい。
【0087】
また、樹脂層(b)の厚みは、特に限定されないが、10μm以上であることが好ましい。厚みを上記下限値以上とすることで、レーザー印字性を向上させやすくなる。また、樹脂(B)として特定の樹脂を使用することによって、積層体の耐熱性、機械強度などを適切に向上させることができる。樹脂層(b)の厚みは20μm以上がより好ましく、30μm以上がさらに好ましく、40μm以上がよりさらに好ましく、45μm以上が特に好ましい。
また、樹脂層(b)の厚みは、特に限定されないが、200μm以下であることが好ましい。樹脂層(b)の厚みを上記上限値以下とすることで、必要以上に積層体を厚くしなくても、印字性に優れたレーザーマーキングを行うことができる。樹脂層(b)の厚みは、180m以下がより好ましく、160μm以下がさらに好ましく、140μm以下がよりさらに好ましく、120μm以下がよりさらに好ましく、100μm以下がよりさらに好ましく、80μm以下が特に好ましい。
【0088】
本積層体は、シート状となるものであり、その総厚みは、15μm以上であることが好ましく、30μm以上がより好ましく、40μm以上がさらに好ましく、また、300μm以下であることが好ましく、250μm以下がより好ましく、200μm以下がさらに好ましく、160μm以下がよりさらに好ましく、130μm以下がよりさらに好ましく、100μm以下がよりさらに好ましい。
【0089】
積層体において、樹脂層(a)の厚みに対する、各樹脂層(b)の厚みの比(b/a)は、好ましくは1より大きい。すなわち、樹脂層(b)の厚みは、各樹脂層(a)の厚みより大きい。樹脂層(b)の厚みを各樹脂層(a)の厚みより大きくすると、含有割合(a)、(b)を上記の通りに調整することで、レーザー発色性を良好にしやすくなる。また、厚みの比(b/a)は、より好ましくは1.5以上、さらに好ましくは2以上、よりさらに好ましくは2.5以上、特に好ましくは3以上であり、また、好ましくは10以下、より好ましくは9以下、さらに好ましくは8以下、よりさらに好ましくは7以下、特に好ましくは6以下である。厚みの比(b/a)を上記上限値以下とすることで、必要以上に積層体を厚くしなくても、発色性に優れたレーザー印字を行うことができ、また、樹脂層(a)によって適切に膨れを防止しやすくなる。
【0090】
(ヘイズ)
積層体のヘイズは、例えば70%以下であるとよく、好ましくは65%以下、より好ましくは62%以下である。積層体のヘイズを上記上限値以下することで、積層体の透明性が良好となる。なお、積層体のヘイズの下限は、特に限定されないが、例えば5%以上である。
【0091】
上記積層体のヘイズは、得られた積層体を熱プレスせずに測定した値(初期ヘイズともいう)である。積層体のヘイズは、積層体(フィルム)の表面の凹凸により一般的に大きくなる傾向にあり、上記初期ヘイズは、パスポートやカードにおいて積層体が示すヘイズとは一般的には異なる。一方で、積層体は、熱プレスすることにより表面の凹凸が平滑化され、熱プレス後の積層体のヘイズ値は、一般的にプレス成形によって成形されるパスポートやカードにおけるヘイズ値と同等又は近似するものとなる。
【0092】
したがって、積層体のヘイズは、熱プレス後のヘイズによっても評価できる。具体的には、本積層体は、160℃において熱プレスしてその後23℃に冷却して、23℃にて測定したヘイズ(熱プレス後のヘイズ)が、例えば12%以下であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくは8%以下であり、さらに好ましくは7%以下である。熱プレス後のヘイズをこれら上限値以下とすることで、カード又はパスポートに成形されたときの積層体の透明性を確保できる。また、熱プレス後のヘイズは、低ければ低いほどよく、特に限定されないが、例えば1%以上である。
【0093】
(積層体の大きさ)
本積層体の大きさは、用途によって異なるが、例えばパスポートに用いる場合は、積層体の面積は400cm以下であることが好ましく、350cm以下であることがより好ましく、300cm以下であることがさらに好ましく、250cm以下であることがよりさらに好ましく、200cm以下であることがよりさらに好ましく、150cm以下であることが特に好ましく、また、好ましくは50cm以上、より好ましくは65cm以上、さらに好ましくは80cm以上である。
例えばパスポートに用いる場合は、形状は矩形などの四角形であることが好ましく、その一辺の長さが20cm以下であることが好ましく、18cm以下であることがより好ましく、16cm以下であることがさらに好ましく、14cm以下であることが特に好ましく、また、8cm以上であることが好ましく、10cm以上であることがより好ましく、11cm以上であることがさらに好ましい。他の一辺の長さは、15cm以下であることが好ましく、13cm以下であることがより好ましく、11cm以下であることがさらに好ましく、10cm以下であることがよりさらに好ましく、また、6cm以上であることが好ましく、7cm以上であることがより好ましく、8cm以上であることがさらに好ましい。このような大きさ、形状の積層体とすることにより、パスポート、さらには電子パスポート、特にこれらのデータページとして好適に使用することができる。
【0094】
積層体の面積は、例えばカードに用いる場合は、200cm以下であることが好ましく、150cm以下であることがより好ましく、100cm以下であることがさらに好ましく、80cm以下であることがよりさらに好ましく、60cm以下であることが特に好ましく、また、好ましくは20cm以上、より好ましくは30cm以上である。
また、例えばカードに用いる場合、形状は矩形などの四角形であることが好ましく、その一辺の長さが17cm以下であることが好ましく、15cm以下であることがより好ましく、13cm以下であることがさらに好ましく、11cm以下であることがよりさらに好ましく、また、6cm以上であることが好ましく、7.5cm以上であることがより好ましい。他の一辺の長さは、14cm以下であることが好ましく、12cm以下であることがより好ましく、10cm以下であることがさらに好ましく、8cm以下であることがよりさらに好ましく、また、4cm以上であることが好ましく、4.5cm以上であることがより好ましい。
このような大きさ、形状の積層体とすることにより、カードとして好適に使用することができる。
【0095】
<フィルム>
本発明は、別の一側面においてフィルムを提供する。別の側面におけるフィルム(以下、本フィルムともいう)は、レーザー発色剤と樹脂を含むフィルムであり、本フィルムの一方の表面側から他方の表面側に向かってレーザー発色剤の含有割合が高くなる濃度勾配を有するものである。すなわち、フィルムの一方の表面から他方の表面に向かって、レーザー発色剤の含有割合が低い領域(第1の領域)、及び第1の領域よりも上記含有割合が高い領域(第2の領域)がこの順に少なくとも設けられることが好ましい。
このようなフィルムは、レーザー印字のために、上記一方の表面からレーザー光が入射されるとよい。フィルムは、上記のような濃度勾配を有し、かつ上記一方の表面からレーザーが入射されると、その原理は定かではないが、レーザー発色性が良好となる。また、透明性が良好になり、ヘイズ(特に、初期ヘイズ)が低くなる傾向にある。さらに、レーザーが入射される一方の表面側のレーザー発色剤の含有割合が低いことで、一方の表面側の領域(第1の領域)においてレーザー発色しても膨れにくくなり、かつ他方の表面側の領域(第2の領域)における膨れが第1の領域により抑制されるので、結果として、積層体全体の膨れを防止しやすくなる。
【0096】
また、レーザー発色剤の含有割合に関する上記濃度勾配は、上記一方の表面から他方の表面に向かって、一旦高くなった後、再度低くなることが好ましい。すなわち、一方の表面から他方の表面に向かって、レーザー発色剤の含有割合が低い領域(第1領域)、高い領域(第2領域)、及び低い領域(第1領域)の順に設けられることが好ましい。このような態様によれば、フィルムのいずれの表面からレーザーが入射されても、レーザー発色性を良好にでき、かつ膨れも防止しやすくなる。
【0097】
本フィルムは、積層体(積層フィルム)からなるものでもよいし、単層フィルムからなるものでもよい。本フィルムが積層体からなる場合には、積層体は、上記の通り、樹脂層(a)及び樹脂層(b)を有し、樹脂層(a)における含有割合(a)が、樹脂層(b)における含有割合(b)より低くなるとよく、その場合の質量比(a/b)が上述の通りとされるとよい。なお、本フィルムが積層体の場合、積層体の詳細は、上記で述べたとおりであるので、その説明は、省略する。
【0098】
また、本フィルムは、単層フィルムである場合には、単層フィルムにおいて、レーザー発色剤が上記した濃度勾配を有するように調整されるとよい。単層フィルムにおける濃度勾配は、積層体のときのように段階的に変化させてもよいが、連続的に変化させてもよい。
本フィルムの厚みは、単層フィルムである場合も、本積層体の総厚みと同様であり、具体的には上記で述べたとおりである。また、単層フィルムにおけるレーザー発色剤の含有量合計は、単位面積当たりの含有量として、上記した積層体における含有量合計と同様であるとよい。
【0099】
単層フィルムは、フィルム全体がレーザー発色剤を含有する領域であってもよいが、レーザー発色剤を含有する領域とレーザー発色剤を含有しない領域とを有してもよい。また、単層フィルムにおいても、レーザー発色剤を含有する領域において、厚み方向に沿って見たときに、最もレーザー発色剤の含有割合が多い部分に対する、最もレーザー発色剤の含有割合が少ない部分のレーザー発色剤の含有割合の質量比は、1未満であればよく、上記の質量比(a/b)と同様に、好ましくは1/10以上、より好ましくは1/8以上、更に好ましくは1/6以上であり、また、好ましくは3/4以下、さらに好ましくは1/2以下である。
【0100】
単層フィルムにおいて使用される樹脂は、上記本積層体で述べたとおりであり、熱可塑性樹脂であることが好ましい。熱可塑性樹脂の具体例は、本積層体で述べたとおりであるが、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂のいずれかを使用することが好ましく、ポリカーボネート系樹脂を使用することがより好ましい。ポリカーボネート系樹脂の詳細は、上記の通りであり、ホモポリカーボネートであってもよいし、共重合ポリカーボネート系樹脂であってもよいが、共重合ポリカーボネート系樹脂が好ましい。また、共重合ポリカーボネート系樹脂は、ポリエステルカーボネート共重合樹脂及びビスフェノール系ポリカーボネートの少なくともいずれかを使用することが好ましい。
なお、単層フィルムにおいて使用される樹脂は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0101】
<積層体及びフィルムの製造方法>
上記した本積層体又は本フィルムの製造方法としては、まず、各発色層(例えば、樹脂層(a)、樹脂層(b))又は単層フィルムを形成するための樹脂組成物を用意し、樹脂組成物を溶融混練するとよい。
具体的には、まず、レーザー発色剤と、樹脂と、必要に応じて配合されるその他の添加剤を含む樹脂組成物を混練溶融するとよい。溶融混練する混練装置としては、押出機、プラストミルなどが挙げられるが、押出機が好ましい。
【0102】
積層体は、混練溶融した各樹脂組成物をフィルム状に成形し、積層することで得ることができる。具体的には、押出成形などによりフィルム状に成形した各発色層(例えば、樹脂層(A)と樹脂層(B))を公知のラミネート法により積層してもよい。ラミネート法では、例えばロールtоロールで搬送しながら、1対のロール間で複数の発色層を積層してもよいし、プレス機などにより複数の発色層をプレスして積層してもよい。
また、積層体は、押出機を用いた押出法により成形してもよく、フィルム状に成形した発色層の上に、別の発色層を形成するためにフィルム状に樹脂組成物を溶融押し出して積層してもよい。また、押出法においては、共押出法でもよい。具体的には、上記と同様に各樹脂層を形成するための樹脂組成物を溶融混練して得て、溶融混練された樹脂組成物をフィードブロック方式又はマルチマニホールド方式等により溶融共押出することで、積層体を得てもよい。これらの中でも、生産性、コストの面から押出法が好ましく、共押出法がより好ましい。なお、共押出した積層体は、冷却ロール(キャスティングロール)等で冷却固化すとよい。
【0103】
また、本フィルムが単層フィルムである場合には、混練溶融した樹脂組成物をフィルム状に成形して得ることができ、好ましくは樹脂組成物をフィルム状に押出成形して得ることが好ましい。本フィルムが単層フィルムの場合、単層フィルムに含有されるレーザー発色剤は、上記の通り厚さ方向に沿って濃度勾配を有する。このような単層フィルムを得るために、樹脂組成物において、レーザー発色剤は、公知の方法で、偏在するように調整するとよい。具体的には、レーザー発色剤は、樹脂組成物において均一に分散させずに、例えば、自重や樹脂との相溶性などにより、部分的に沈降した状態にして押出成形などにすればよい。また、単層フィルム製造時の条件を適宜調整することによっても可能である。例えば、樹脂組成物を溶融混錬してフィルム状に押出成形する場合は、フィルム状に押し出された溶融樹脂を冷却する際の速度を遅くすればよい。具体的には、キャスティングロール等の冷却ロールでの冷却を段階的に行ったり生産速度を遅くしたりするなどして、冷却速度を遅くすればよい。また、口金の温度を押出温度よりも低くすることでも、濃度勾配を調整することが可能である。
【0104】
<積層体及びフィルムの使用方法>
本積層体及び本フィルムは、パスポート、又は、ICカード、磁気カード、運転免許証、在留カード、資格証明書、社員証、学生証、マイナンバーカード、印鑑登録証明書、車検証、タグカード、プリペイドカード、キャッシュカード、銀行カード、クレジットカード、SIMカード、ETCカード、識別カード、情報担持カード、スマートカード、B-CASカード、メモリーカードなどの各種のカードに用いることができる。本積層体及び本フィルムは、パスポートにおいてはデータページに使用される。
【0105】
本積層体及び本フィルムは、上記の通り、レーザーマーキングシートとして使用するとよい。したがって、本積層体及び本フィルムは、各種のカード、パスポートにおいて、各種情報が印刷される記録層として使用される。
本積層体及び本フィルムは、レーザーマーキングシートとして使用される場合、本積層体又は本フィルムの一方の表面からレーザー光が照射されてレーザー印字が行われるとよい。この際、上記のとおり、レーザー発色剤の含有割合が低い、本積層体又は本フィルムの一方の表面側からレーザーを照射することが好ましい。
【0106】
カード及びパスポートは、本積層体又は本フィルムと、本積層体又は本フィルムに融着された他のフィルムとを有し、レーザーマーキングによりマーキングされたものであることが好ましい。このようなカード、又はパスポートは、例えば以下の方法により製造される。
具体的には、まず、本積層体又は本フィルムを他のフィルムに重ね、熱プレス成形やラミネート成形等により熱融着し、パスポート用又はカード用の積層物(以下、二次成形体ということもある)を得る。他のフィルムに重ねる際、一方の表面のみ樹脂層(a)が設けられる場合、樹脂層(a)が設けられる側とは反対側の表面を、他のフィルムに重ねるとよい。
二次成形体を得る際、本積層体(又は本フィルム)及び他のフィルムの一方又は両方を2以上使用して、重ねてもよい。次いで、得られた二次成形体、好ましく二次成形体のうち積層体又は本フィルムにより構成される部分にレーザー光を照射しレーザーマーキングすることにより、個人名、記号、文字、写真等をマーキングして、個人情報等が印字されたパスポート、電子パスポートやカードとすることができる。
【0107】
本積層体又は本フィルムは、上記の通りレーザーマーキングシートとして使用されるとよい。そして、上記した他のフィルムは、樹脂シートなどであり、コアシート、保護層を形成するためのオーバーシートなどが挙げられる。また、他のフィルムは、ヒンジシート、インレットシートなどであってもよい。また、上記した二次成形体は、例えば、レーザーマーキングする前に打ち抜き加工等され、カード又はパスポートに適した大きさに加工されてもよい。また、熱融着の代わりに適宜接着剤などを使用して、シート同士を接着させてもよい。
【0108】
(カード)
例えば、カードは、レーザーマーキングシート及びコアシートを備え、コアシートの一方又は両方の面にレーザーマーキングシートを積層するとよい。また、カードは、保護層を備え、レーザーマーキングシートの表面にレーザーマーキングシートを保護するために、オーバーシートからなる保護層がさらに積層されてもよい。
カードは、好ましくはコアシートの両方の面にレーザーマーキングシートを積層する。具体的には、図1(a)に示した、レーザーマーキングシート1/コアシート2/レーザーマーキングシート1からなるカード20A、または、図1(b)に示した、保護層4/レーザーマーキングシート1/コアシート2/レーザーマーキングシート1/保護層4からなるカード20Bが好ましい。
本発明のカードは、上記したレーザーマーキングシートの少なくとも1つが、本積層体又は本フィルムであるとよい。
【0109】
コアシートとしては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂、又はこれらの混合物などを樹脂材料として用いる樹脂シートであることが好ましく、また、着色剤を適宜含有させた着色シートであることが好ましい。コアシートの厚さは例えば400~700μm程度である。コアシートは、複数のコアシートが積層されてなるものでもよい。
コアシートに使用される着色剤としては、白色顔料として酸化チタン、酸化バリウム、酸化亜鉛、黄色顔料として酸化鉄、チタンイエロー、赤色顔料として、酸化鉄、青色顔料としてコバルトブルー群青等が挙げられる。また、白色系染料などの染料を使用してもよい。ただし、コントラスト性を高めるため、薄い色付、淡彩色系となるものが好ましい。上記した着色剤の中でも、コントラスト性の際立つ、白色系染料、白色顔料がより好ましい。
保護層は、オーバーシートにより形成される。保護層は、例えば、レーザー光照射によってレーザー印字部分が発泡する膨れを抑制するために使用されるとよい。保護層に用いる樹脂としては、特に制限はないが、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル樹脂、又はこれらの混合物などが挙げられる。
【0110】
(パスポート)
パスポートは、特に電子パスポートの場合は、上記積層体に加えて、ヒンジシートと、ヒンジシートの両面それぞれに設けられたコアシートとを備え、そのコアシートの表面に本発明のレーザーマーキングシートが積層されるとよい。また、パスポートは、保護層を備え、レーザーマーキングシートの表面にはレーザーマーキングシートを保護するために、オーバーシートから形成される保護層がさらに積層されてもよい。
具体的には、図2(a)に示した、レーザーマーキングシート1/コアシート2/ヒンジシート3/コアシート2/レーザーマーキングシート1からなるパスポート10A、または、図2(b)に示した、保護層4/レーザーマーキングシート1/コアシート2/ヒンジシート3/コアシート2/レーザーマーキングシート1/保護層4からなるパスポート10Bが好ましい。
本発明のパスポートは、上記したレーザーマーキングシートの少なくとも1つが、本積層体又は本フィルムであるとよい。
【0111】
また、パスポートは、ICチップ等の記憶媒体に各種の情報を記憶させて配設したシート、いわゆるインレットシートを有してもよい。インレットシートは、例えばヒンジシートと、コアシートの間に設けるとよい。
ヒンジシートは、記録層、コアシート、インレットシートなどを保持し、パスポートの表紙と他のビザシート等と一体に堅固に綴じるための役割を担うシートである。そのため、堅固な加熱融着性、適度な柔軟性、加熱融着工程での耐熱性等を有するものが好ましい。
【0112】
ヒンジシートは、公知のものが使用可能であり、熱可塑性ポリエステル樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミド樹脂、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタン樹脂、熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどの熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどにより構成される樹脂シートであってもよいし、織物、編物、または不織布などで構成されてもよいし、織物、編物、または不織布と、熱可塑性樹脂や熱可塑性エラスマーなどとの複合材料であってもよい。また、パスポートにおけるコアシートは、厚さ50~200μmであることが好ましい以外は、上記と同様である。また、パスポートにおける保護層は上記で説明したとおりである。
【実施例0113】
以下、実施例および比較例を示すが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものでは無い。
【0114】
評価方法及び測定方法は、以下のとおりである。
ガラス転移温度
示差走査熱量計「Pyris1 DSC」(パーキンエルマー社製)を用い、JIS K7121:2012に準拠して、10℃/分の速度で30℃から200℃まで昇温し、速度20℃/分で30℃まで降温し、再度10℃/分の速度で200℃まで昇温した際にガラス転移温度を測定した。なお、ガラス転移温度の求め方は、中間点ガラス転移温度(Tmg)による。
【0115】
質量平均分子量(Mw)
原料樹脂ペレットについて、ゲル浸透クロマトグラフィー「HLC-8320GPC」(東ソー社製)を用いて、下記条件で測定した。
・カラム:Shim-Pack GPC-806(30cm×8.0mmφ)+ Shim-Pack GPC-804C(30cm×8.0mmφ)+ Shim-Pack GPC-8025C(30cm×8.0mmφ)+ Shim-Pack GPC-801C(30cm×8.0mmφ)(島津製作所社製)
・溶離液:クロロホルム
・検出器:示差屈折率検出器
・流速:1.0mL/分
・カラム温度:40℃
・試料濃度:5mg/mL
・試料注入量:20μL
・検量線:標準ポリスチレン(東ソー社製)を使用した検1次近似曲線)
【0116】
(3)レーザー印字性
各実施例、比較例の積層体を用いて作製したカードについて、日本電産コパル株式会社製「CLM-20」を用いて、51μm/Step×50%でレーザー印字を行って、X-Rite社製「eXact」によりPCS値を測定した。
各実施例、比較例のカードは、積層体とコアシート(質量比で表2記載のベース樹脂:酸化チタン=88:12からなるシート)を積層体/コアシート/積層体の順に重ねた後、熱プレス機(熱プレス温度は表2に記載の温度、時間は300秒、シート圧力は1 .4MPa))のプレスによって得た二次成形体をカード形状(54cm×86cm)に打ち抜かれたものである。
【0117】
(4)膨れ評価
上記レーザー印字性の試験において、印字条件を51μm/Step×30%に変更した以外は同様にしてレーザー印字がされた積層体における膨れを評価した。なお、発泡は目視で、膨れは表面を手で触った際の段差有無により確認し、以下の評価基準にて評価した。
A:発泡がなく、膨れもなかった
B:発泡がややあり、膨れもややあった(表面を手で触った際段差が少し感じられた)が、実製品としては問題ないレベルと判断できる
C:発泡があり、膨れもあった
【0118】
(5)ヘイズ
各実施例、比較例で得られた積層体のヘイズを、ヘーズメーター(型式:TC-HIIIDPK、東京電色社製)を用いて、JIS K7136:2000に準拠して初期ヘイズとして測定した。
また、各実施例、比較例で得られた積層体を圧縮成形機「NF-37」(神藤金属工業所社製)を用いて、160℃、圧力1.4MPaで5分間熱プレスし、その後23℃に戻した際のヘイズをプレス後のヘイズとして測定した。
【0119】
(6)プレス熱融着性
圧縮成形機「NF-37」(神藤金属工業所社製)を用いて、各実施例、比較例で得られた積層シート(大きさ100mm×300mm)同士を重ねてステンレス板で挟んで、プレス圧力1.4MPa、プレス時間5分、その後の冷却を室温に下がるまで約5分間行い、熱融着させた。その後、ステンレス板から融着した積層シートを取り出し、積層シート同士を引き剥がして、フィルムが剥離不可であるかどうか(材料破壊するかどうか)を確認した。プレス時の加熱温度は10℃刻みで上げていき、剥離不可のもの(材料破壊したもの)を融着していると判断し、融着した最低温度(材料破壊温度)を求めた。この材料破壊温度は、フィルムが適切に融着する温度であり、低いほど低温熱融着性に優れていることを示す。
【0120】
(7)単位面積当たりのレーザー発色剤量
単位面積当たりのレーザー発色剤量は、以下の式に従って求めた。
各層における単位面積当たりのレーザー発色剤の量(μg/cm)を求めて、その合計量を積層体におけるレーザー発色剤の含有量合計とした。
各層における単位面積当たりのレーザー発色剤の量(μg/cm)=レーザー発色剤の比重(μg/cm)×各層におけるレーザー発色剤の質量割合×各層の厚み(cm)
【0121】
実施例、比較例で使用した原料は、以下の通りである。
PC1:ポリエステルカーボネート共重合樹脂(ジヒドロキシ化合物:ビスフェノールA、ジカルボン酸成分:脂肪族ジカルボン酸、カーボネートユニットとエステルユニットの合計量100質量%に対する前記式(3)で表されるエステルユニットの含有量13.5質量%)、質量平均分子量:78000、ガラス転移温度(Tg)=131℃
PC2:ビスフェノールAホモポリカーボネート、質量平均分子量:53200、ガラス転移温度:147℃
レーザー発色剤:ビスマス・ネオジウム系金属酸化物(平均粒子径:0.8μm、比重:8.9g/cm
PC3:ビスフェノールAホモポリカーボネート、質量平均分子量:72000、ガラス転移温度:151℃
【0122】
[実施例1]
樹脂層(a)として表1に示す所定の配合にドライブレンドして、押出機を用いて2種3層のマルチマニホールド式の口金より、第1層および第3層(両外層)として240℃で押出した。また、樹脂層(b)として、表1に示す所定の配合にドライブレンドして、押出機を用いて上記口金より、第2層(中間層)として、240℃で押出した。押出したフィルムを、約120℃のキャスティングロールにて冷却して、厚み比が1/4/1で総厚みが75μmである、樹脂層(a)/樹脂層(b)/樹脂層(a)からなる積層体(積層シート)を得た。
【0123】
[実施例2~4、6]
各樹脂層(a)、(b)の配合を表1に示す所定の配合に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0124】
[実施例5]
各樹脂層(a)、(b)の配合を表1に示す所定の配合に変更して、第1層および第3層(両外層)を押し出す際の温度を235℃、第2層(中間層)を押し出す際の温度を235℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0125】
[比較例1]
各樹脂層(a)、(b)の配合を表1に示す所定の配合に変更し、かつ第1層および第3層(両外層)を押し出す際の温度を250℃に変更した以外は、実施例1と同様に実施した。
【0126】
【表1】

【表2】
【0127】
以上のとおり、実施例1~6の積層体では、連続して設けられる樹脂層(a)と樹脂層(b)のいずれにもレーザー発色剤を含有させることで、レーザー印字性を良好に維持しつつ、ヘイズを低くすることでき、積層体の透明性が良好になった。
それに対して、比較例1では、連続して設けられる樹脂層(a)と樹脂層(b)において、樹脂層(b)にしかレーザー発色剤を含有させなかったため、ヘイズが高くなり、積層体の透明性を良好にできなかった。
【0128】
また、実施例1~3に示すとおり、レーザーが入射される側の層である樹脂層(a)のレーザー発色剤の含有割合(a)が、樹脂層(b)のレーザー発色剤の含有割合(b)以下であることで、印字部と非印字部の反射濃度値比であるPCS値が高くレーザー印字性がより良好となった。さらに、実施例2、3に示すとおり、レーザー入射側の樹脂層(a)のレーザー発色剤の含有割合(a)が樹脂層(b)のレーザー発色剤の含有割合(b)より低い方が、初期ヘイズが低く透明性により優れ、かつ膨れも抑制することができた。
加えて、樹脂層(a)に特定の構造を有する共重合ポリカーボネート系樹脂(ポリエステルカーボネート共重合樹脂)を使用することで、レーザー印字性を良好に維持しつつ、低温熱融着性も優れるものとなった。
【符号の説明】
【0129】
1 レーザーマーキングシート
2 コアシート
3 ヒンジシート
4 保護層
20A、20B カード
10A、10B パスポート
図1
図2