IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大陽日酸株式会社の特許一覧

特開2023-17687積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法
<>
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図1
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図2
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図3
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図4
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図5
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図6
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図7
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図8
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図9
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図10
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図11
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図12
  • 特開-積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017687
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 10/368 20210101AFI20230131BHJP
   B22F 10/28 20210101ALI20230131BHJP
   B22F 12/90 20210101ALI20230131BHJP
   B22F 10/85 20210101ALI20230131BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20230131BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20230131BHJP
   B22F 12/70 20210101ALI20230131BHJP
【FI】
B22F10/368
B22F10/28
B22F12/90
B22F10/85
B33Y30/00
B33Y10/00
B22F12/70
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022048838
(22)【出願日】2022-03-24
(62)【分割の表示】P 2021121440の分割
【原出願日】2021-07-26
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-10-20
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】天野 宏紀
(72)【発明者】
【氏名】尾山 朋宏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 智章
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018AA03
4K018AA06
4K018AA07
4K018AA13
4K018AA14
4K018AA21
4K018AA24
4K018AA40
4K018BA02
4K018BA03
4K018BA04
4K018BA07
4K018BA08
4K018BA09
4K018BA13
4K018BB04
(57)【要約】
【課題】任意の積層領域において冷却速度を促進する制御が可能となり、冷却速度の制御によって所望の金属組織を発現させやすい積層構造物の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】レーザ発振機と、金属粉末Msの噴射口と、チャンバーと、チャンバー内に位置する造形ステージと、金属層または製造途中の積層構造物の温度を測定する複数の測温プローブ5と、金属層または製造途中の積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブ6と、を備える、積層構造物の製造装置。
【選択図】図11
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エネルギー線を照射した部分に金属粉末を噴射して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る、指向性エネルギー堆積方式の製造装置であって、
エネルギー線の照射源と、
金属粉末の噴射口と、
チャンバーと、
前記チャンバー内に位置する造形ステージと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと、
を備え、
前記温度調整プローブが、ジュール・トムソン効果を利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整し、
前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、積層構造物の製造装置。
【請求項2】
エネルギー線を照射した部分に金属粉末を噴射して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る、指向性エネルギー堆積方式の製造装置であって、
エネルギー線の照射源と、
金属粉末の噴射口と、
チャンバーと、
前記チャンバー内に位置する造形ステージと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと、
を備え、
前記温度調整プローブが、液化ガスを利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物を冷却し、
前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、積層構造物の製造装置。
【請求項3】
エネルギー線が照射される前の金属粉末を貯留する貯留部をさらに有し、
前記貯留部の内部、及び前記貯留部から前記噴射口への金属粉末の供給経路の少なくとも一方に、前記温度調整プローブの少なくとも1つが埋め込まれている、請求項1または2に記載の積層構造物の製造装置。
【請求項4】
アークを発生させた部分に金属ワイヤーを供給して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る、ワイヤーアーク積層造形方式の製造装置であって、
アークを発生させるトーチと、
金属ワイヤーの供給装置と、
チャンバーと、
前記チャンバー内に位置する造形ステージと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと、
を備え、
前記温度調整プローブが、ジュール・トムソン効果を利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整し、
前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、積層構造物の製造装置。
【請求項5】
アークを発生させた部分に金属ワイヤーを供給して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る、ワイヤーアーク積層造形方式の製造装置であって、
アークを発生させるトーチと、
金属ワイヤーの供給装置と、
チャンバーと、
前記チャンバー内に位置する造形ステージと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと、
を備え、
前記温度調整プローブが、液化ガスを利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物を冷却し、
前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、積層構造物の製造装置。
【請求項6】
前記供給装置の内部、及び前記供給装置から金属ワイヤーの供給経路の少なくとも一方に、前記温度調整プローブの少なくとも1つが埋め込まれている、請求項4または5に記載の積層構造物の製造装置。
【請求項7】
前記温度調整プローブの少なくとも1つが、その先端が前記チャンバー内に配置されるように伸縮自在に設置されている、請求項1~6のいずれか一項に記載の積層構造物の製造装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の積層構造物の製造装置を用いて積層構造物を製造する方法であり、
前記測温プローブおよび前記温度調整プローブを用いることで、前記金属層または製造途中の前記積層構造物の冷却速度を制御する、積層構造物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層構造物の製造装置、積層構造物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Additive Manufacturingと称される付加製造技術がある。付加製造技術の一例として、樹脂、金属等の層を造形し、造形された層を積層して三次元造形物を作製する積層構造物の製造方法が知られている。例えば、任意のCAD(Computer Aided Design)データに基づいてエネルギー線の照射により得られる金属層を順次積層し、三次元構造物として任意の形状の積層構造物を製造できる。付加製造技術は、航空機関連部材を含む産業機器分野や医療機器分野等に適用され、有望な技術として注目されている。
【0003】
近年では、三次元構造物の任意形状を制御するだけではなく、三次元構造物の結晶組織を制御することが提案されている。三次元構造物の結晶組織は、機械的特性を制御する点で重要である。優先的な結晶方位を持つ結晶組織によれば、ヤング率、降伏応力、耐疲労性等の異方性を積層構造物に付与できる。また、結晶の微細化によれば、降伏応力、硬度等の異方性を付与できる。
【0004】
一例として、結晶組織の制御のために製造途中の積層構造物の冷却速度を制御することが提案されている。付加製造技術の分野において、冷却速度を制御する積層構造物の製造装置として下記の(1)~(4)のものが提案されている。
(1)外部熱制御装置として誘導コイルを使用して、製造途中の積層構造物の温度および加熱速度を制御することで、方向性凝固または単結晶ミクロ組織を有する積層構造物を得る装置(例えば、特許文献1)。
(2)積層構造物の各層を積層する前の予熱または各層を積層した後の再加熱のために、エネルギー線の照射源を制御し、積層構造物中の任意の層領域の温度勾配を制御する装置(例えば、特許文献2)。
(3)エネルギー線によって形成されるメルトプールの実凝固速度に基づいて処理パラメータ(エネルギー線のパワーレベル、メルトプール内に粉体を堆積させる速度、エネルギー線の処理速度、滞留時間の導入、基板の温度等)を調整し、溶融金属の凝固速度を制御する装置(例えば、特許文献3)。メルトプールの実凝固速度は、メルトプールの温度をカメラで測定し、メルトプールの遷移領域の物理パラメータを定量化し、その物理パラメータとエネルギー線の処理速度との比較に基づいて決定される。
(4)トーチで形成される溶着ビードの温度を監視する温度監視処理と、溶着ビードの温度に基づいた第1の間隔をあけてトーチに対して打撃ツールを追従させ、溶着ビードを打撃するピーニング処理とを行う装置(例えば、特許文献4)。溶着ビードを打撃するピーニング処理を行う際に、冷却機構を備えた打撃ツールによって冷却速度を制御できる。
【0005】
しかし、(1)の装置は、積層構造物全体の冷却速度を制御するものである。そのため、積層構造物内の任意の箇所において冷却速度を調整できない。
(2)の装置は、エネルギー線の照射源を制御して各層に与える熱量を制御するものである。そのため、温度勾配の制御の対象となる層領域の目標温度が低い場合、冷却能力が不足する。この場合、冷却によって目標温度に到達する時間が相対的に長くなり、より短時間で目標温度に到達させないと発現しないような金属組織を得るための制御ができない。
(3)の装置のようなプロセスパラメータの制御では、冷却速度を促進できず、自然冷却に近い冷却速度が限界となる。そのため、より高い冷却速度でしか発現しないような金属組織を得るための制御ができない。
(4)の装置において粉末床溶融(Powder Bed Fusion:PBF)方式を採用した場合、打撃ツールの使用によって溶融部以外の金属の粉末層が打撃の衝撃により乱れ、レーザ照射前の粉末層の形成および積層構造物の造形の妨げになる。また、指向性エネルギー堆積(Directed Energy Deposition:DED)方式を採用した場合には、打撃の衝撃により、供給される粉末が乱れ、金属層の形成および積層構造物の造形の妨げになる。
【0006】
一方で、金属溶接の分野においては、特許文献5に示すように、ジュール・トムソン効果により空気を冷却し、溶接部に吹き付けて冷却する方法が知られてはいる。しかし、この方法をPBF方式の金属3Dプリンターに適用すると、冷媒を吹き付けることで溶融部以外の金属粉末が飛散し、レーザ照射前の粉末層の形成および積層構造物の造形の妨げになる。また、DED方式の金属3Dプリンターに適用すると、冷媒を吹き付けることで供給される粉末が乱れ、金属層の形成および積層構造物の造形の妨げになる。
【0007】
以上説明したように、従来、製造途中の積層構造物の冷却速度を制御することは提案されているものの、従来の手法では、任意の積層領域において冷却速度を促進できず、結果として所望の金属組織を発現させにくい、という問題がある。また、金属溶接の分野において充分な冷却速度を実現するための冷却手法は、金属3Dプリンターへの適用が困難である、という問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許第6216881号公報
【特許文献2】特表2019-518873号公報
【特許文献3】特表2020-523476号公報
【特許文献4】特開2019-141854号公報
【特許文献5】特公昭61-3595号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、任意の積層領域において冷却速度を促進する制御が可能となり、冷却速度の制御によって所望の金属組織を発現させやすい積層構造物の製造装置および製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は下記の態様を有する。
[1] エネルギー線を照射した部分に金属粉末を噴射して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る、指向性エネルギー堆積方式の製造装置であって、
エネルギー線の照射源と、
金属粉末の噴射口と、
チャンバーと、
前記チャンバー内に位置する造形ステージと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと、
を備え、
前記温度調整プローブが、ジュール・トムソン効果を利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整し、
前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、積層構造物の製造装置。
[2] エネルギー線を照射した部分に金属粉末を噴射して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る、指向性エネルギー堆積方式の製造装置であって、
エネルギー線の照射源と、
金属粉末の噴射口と、
チャンバーと、
前記チャンバー内に位置する造形ステージと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと、
を備え、
前記温度調整プローブが、液化ガスを利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物を冷却し、
前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、積層構造物の製造装置。
[3] エネルギー線が照射される前の金属粉末を貯留する貯留部をさらに有し、
前記貯留部の内部、及び前記貯留部から前記噴射口への金属粉末の供給経路の少なくとも一方に、前記温度調整プローブの少なくとも1つが埋め込まれている、[1]または[2]に記載の積層構造物の製造装置。
[4] アークを発生させた部分に金属ワイヤーを供給して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る、ワイヤーアーク積層造形方式の製造装置であって、
アークを発生させるトーチと、
金属ワイヤーの供給装置と、
チャンバーと、
前記チャンバー内に位置する造形ステージと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと、
を備え、
前記温度調整プローブが、ジュール・トムソン効果を利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整し、
前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、積層構造物の製造装置。
[5] アークを発生させた部分に金属ワイヤーを供給して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る、ワイヤーアーク積層造形方式の製造装置であって、
アークを発生させるトーチと、
金属ワイヤーの供給装置と、
チャンバーと、
前記チャンバー内に位置する造形ステージと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと、
前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと、
を備え、
前記温度調整プローブが、液化ガスを利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物を冷却し、
前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、積層構造物の製造装置。
[6] 前記供給装置の内部、及び前記供給装置から金属ワイヤーの供給経路の少なくとも一方に、前記温度調整プローブの少なくとも1つが埋め込まれている、[4]または[5]に記載の積層構造物の製造装置。
[7] 前記温度調整プローブの少なくとも1つが、その先端が前記チャンバー内に配置されるように伸縮自在に設置されている、[1]~[6]のいずれかに記載の積層構造物の製造装置。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の積層構造物の製造装置を用いて積層構造物を製造する方法であり、
前記測温プローブおよび前記温度調整プローブを用いることで、前記金属層または製造途中の前記積層構造物の冷却速度を制御する、積層構造物の製造方法。
また、本発明は下記の態様を有する。
[11] 金属粉末にエネルギー線を照射して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得る製造装置であって;エネルギー線の照射源と;チャンバーと;前記チャンバー内で上下方向に移動可能な金属粉末のパウダーベッドを有する造形ステージと;前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブと;前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブと;を備え;前記測温プローブの少なくとも1つおよび前記温度調整プローブの少なくとも1つが、前記造形ステージの前記パウダーベッドを構成する部分の内部に埋め込まれている、積層構造物の製造装置。
[12] 前記造形ステージが、エネルギー線が照射される前の金属粉末を貯留する貯留部をさらに有し;前記造形ステージの前記貯留部を構成する部分の内部に、前記温度調整プローブの少なくとも1つが埋め込まれている、[11]の積層構造物の製造装置。
[13] 前記温度調整プローブが、ジュール・トムソン効果を利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する、[11]または[12]の積層構造物の製造装置。
[14] 前記温度調整プローブが、液化ガスを利用して前記金属層または製造途中の前記積層構造物を冷却する、[11]~[13]のいずれかの積層構造物の製造装置。
[15] 前記温度調整プローブから排出されるガスが流れる排出ラインと、前記チャンバー内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインとが接続されている、[13]または[14]の積層構造物の製造装置。
[16] 前記温度調整プローブの少なくとも1つが、その先端が前記チャンバー内に配置されるように伸縮自在に設置されている、[11]~[15]のいずれかの積層構造物の製造装置。
[17] [11]~[16]のいずれかの積層構造物の製造装置を用いて積層構造物を製造する方法であり;前記造形ステージの前記パウダーベッドを構成する部分の内部に埋め込まれた前記測温プローブおよび前記温度調整プローブを用いることで、前記金属層または製造途中の前記積層構造物の冷却速度を制御する、積層構造物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、任意の積層領域において冷却速度を促進する制御が可能となり、冷却速度の制御によって所望の金属組織を発現させやすい積層構造物の製造装置および製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】積層構造物の製造装置の一例の概略を示す模式図である。
図2図1の積層構造物の製造装置の動作を説明するための示す模式図である。
図3】温度調整プローブ、測温プローブの一例を説明するための模式図である。
図4】温度調整プローブの一例の概略を示す模式図である。
図5】温度調整プローブの一例の概略を示す模式図である。
図6】積層構造物の製造装置の他の一例の概略を示す模式図である。
図7】積層構造物の製造装置の他の一例の概略を示す模式図である。
図8図7の製造装置の造形ステージの貯留部を説明するための示す模式図である。
図9】積層構造物の製造装置の他の一例の概略を示す模式図である。
図10】DED方式の製造装置における温度調整プローブ、測温プローブの動作を説明するための示す模式図である。
図11】DED方式の製造装置における温度調整プローブ、測温プローブの動作を説明するための示す模式図である。
図12】WAAM方式の製造装置における温度調整プローブ、測温プローブの動作を説明するための示す模式図である。
図13】WAAM方式の製造装置における温度調整プローブ、測温プローブの動作を説明するための示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、数値範囲を示す「~」は、その前後に記載された数値を下限値および上限値として含むことを意味する。
【0014】
以下、一実施形態例を挙げて本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0015】
図1は、一実施形態に係る積層構造物の製造装置の概略を示す模式図である。
図1に示す積層構造物の製造装置1Aは、エネルギー線の照射源を含む照射部2と、チャンバー3と、造形ステージ4と、複数の測温プローブ5A、5Bと、複数の温度調整プローブ6A、6Bと、図示略の制御部とを備える。
【0016】
照射部2はレーザ発振機14(エネルギー線の照射源)と光学系15とを有する。光学系15はレーザ発振機14からのレーザを反射し、造形ステージ4の金属粉末Mにレーザを走査しながら照射する。
光学系15はレーザ発振機14から金属粉体に照射されるレーザの反射位置をあらかじめ入力されたデータにしたがって制御できる形態であれば特に限定されない。光学系15は、例えば一以上の反射鏡で構成できる。
【0017】
レーザ発振機14、光学系15はいずれも図示略の制御部と電気的に接続されているため、照射部2は、図示略の制御部の指示にしたがって光学系15によるレーザの反射方向を制御できる。そして、照射部2はレーザの反射方向を光学系15によって制御し、レーザを走査して照射する。
【0018】
金属粉末は特に限定されない。例えば、カーボン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、モリブテン、コバルト、ニッケル、ハフニウム、ニオブ、チタン、アルミニウム等の各種の金属およびこれらの合金の粉末が挙げられる。
金属粉末の粒径も特に限定されない。例えば10~200μm程度とすることができる。
【0019】
チャンバー3は、積層構造物の造形が行われる筐体である。チャンバー3の上方の側面は、図示略のシールドガス供給管が接続されている。シールドガス供給管はチャンバー3内にシールドガスを導入する。
シールドガスはレーザの照射の際にチャンバー3内の金属粉末の周囲に供給される気体である。シールドガスとしては不活性ガスが好ましく、アルゴンガスがより好ましい。
【0020】
造形ステージ4は、任意形状の金属層の形成と、形成した金属層の積層とを繰り返すための場である。造形ステージ4は、チャンバー3内に設けられている。造形ステージ4は、貯留部7とパウダーベッド8と回収部9とブレード10とを有する。ブレード10は、図中の水平方向に沿って往復移動する。
【0021】
貯留部7は、エネルギー線(レーザ)が照射される前の金属粉末Mを貯留する。貯留部7は、パウダーベッド8に供給するための金属粉末Mと、金属粉末Mが載置される第1の昇降台11とを有する。第1の昇降台11の上昇によって金属粉末Mが造形ステージ4の上面より上側に堆積する。堆積した金属粉末Mは、ブレード10によって図中の水平方向に沿って移動してパウダーベッド8に供給される。パウダーベッド8の金属粉末Mの表面はブレード10によって平坦に整えられる。
【0022】
パウダーベッド8は、金属粉末Mと、金属粉末Mが載置された第2の昇降台12と、第2の昇降台12の表面に載置された図示略のベースプレートとを有する。ベースプレートは、積層構造物を載置するための板である。
ブレード10、第1の昇降台11および第2の昇降台12は図示略の制御部と電気的に接続されている。そのためブレード10、第1の昇降台11は、制御部の指示にしたがって貯留部7の金属粉末をパウダーベッド8に供給できる。
【0023】
第2の昇降台12は、図中の鉛直方向に沿って移動可能である。そのため、金属粉末のパウダーベッド8はチャンバー3内で上下方向に移動可能である。第2の昇降台12が上下方向に△h下降すると、厚さ△hの金属粉末Mの粉末層がパウダーベッド8に形成される。この第2の昇降台12の上下方向の下降距離△hは、積層構造物の各金属層のためのパウダーベッドの積層厚さ△hに対応する。
第2の昇降台12は図示略の制御部と電気的に接続されている。そのため第2の昇降台12は、制御部の指示にしたがってパウダーベッドの積層厚さ△hを制御できる。
【0024】
回収部9は、第3の昇降台13を有する。第3の昇降台13はz軸方向に沿って移動可能である。積層構造物の製造装置1Aにおいては、ブレード10によってパウダーベッド8を形成した際に、余剰な金属粉末を回収部9に回収できる。また、造形終了後の積層構造物を回収する際にも、造形ステージ4に残留した金属粉末をブレード10によって回収部9に移動させて回収できる。
【0025】
複数の測温プローブ5A、5Bは、金属層または製造途中の積層構造物20の温度を測定するためのものである。複数の測温プローブ5A、5Bは、その先端が金属層または製造途中の積層構造物20と接触することで、任意の金属層または製造途中の積層構造物20の任意領域の温度を測定できる。
【0026】
複数の測温プローブ5A、5Bのうち、一部の測温プローブ5Aは造形ステージ4のパウダーベッド8を構成する部分の内部に埋め込まれ、パウダーベッド8内で伸縮自在に設置されている。そのため、測温プローブ5Aによって金属層または製造途中の積層構造物20の温度を測定したときに、レーザ照射前の粉末層の形成、金属層の形成および積層構造物20の造形の妨げになりにくい。
複数の測温プローブ5A、5Bのうち、測温プローブ5Bはチャンバー3内で伸縮自在に設置されている。測温プローブ5Bはチャンバー3内の雰囲気ガスの温度を測定できる。
各測温プローブは金属層または製造途中の積層構造物20の温度を測定できるものであれば特に限定されない。
【0027】
複数の温度調整プローブ6A、6Bは、金属層または製造途中の積層構造物20の温度を調整するためのものである。複数の温度調整プローブ6A、6Bは、その先端が金属層または製造途中の積層構造物20と接触することで、任意の金属層または製造途中の積層構造物20の任意領域の温度を調整できる。温度調整プローブ6A、6Bは、金属層または製造途中の積層構造物20を加温してその温度を調整するものでもよく、金属層または製造途中の積層構造物20を冷却してその温度を調整するものでもよい。
【0028】
複数の温度調整プローブ6A、6Bのうち、一部の温度調整プローブ6Aは造形ステージ4のパウダーベッド8を構成する部分の内部に埋め込まれ、パウダーベッド8内で伸縮自在に設置されている。そのため、温度調整プローブ6Aによって金属層または製造途中の積層構造物20の温度を調整したときに、レーザ照射前の粉末層の形成、金属層の形成および積層構造物20の造形の妨げになりにくい。
複数の温度調整プローブ6A、6Bのうち、温度調整プローブ6Bはチャンバー3内で伸縮自在に設置されている。温度調整プローブ6Bはチャンバー3内の雰囲気ガスの温度を加温または冷却して調整できる。
各温度調整プローブは、金属層または製造途中の積層構造物20を加温または冷却できるものであれば特に限定されない。
【0029】
複数の測温プローブ5A、5Bおよび複数の温度調整プローブ6A、6Bは、図示略の制御部と電気的に接続されている。そのため、複数の測温プローブ5A、5Bと、複数の温度調整プローブ6A、6Bの動作と組み合わせることで、任意の金属層または製造途中の積層構造物20の任意領域の冷却速度を制御できる。つまり、レーザ照射後の金属層や製造途中の積層構造物20の任意領域に対し、複数の測温プローブ5A、5Bと、複数の温度調整プローブ6A、6Bが接触し、測温プローブで測定した温度に基づいて、温度調整プローブによって金属層や積層構造物20の冷却速度を制御できる。
【0030】
図示略の制御部は、例えば、中央演算処理装置(CPU)とメモリとハードディスクドライブとを備えてもよい。ハードディスクドライブは、CADアプリケーションとCAMアプリケーションとを備えてもよい。この場合、制御部において所望の形状の積層構造物の三次元構造データを作成できる。CAMはComputer Aided Manufacturingの略語である。
【0031】
図示略の制御部は三次元構造データに基づいて加工条件データを作成する。加工条件データは、各金属層についてそれぞれ作成可能である。図示略の制御部は、加工条件データに基づいて照射部2(レーザ発振機14および光学系15)を制御し、レーザの出力、走査速度、走査間隔および照射位置を調整できる。
【0032】
エネルギー線を照射して形成した金属層を複数重ねて積層構造物を得るときの製造装置1Aの動作について、図1を参照して説明する。
レーザの照射前においては、図示略のシールドガス供給管からチャンバー3内にシールドガスを供給する。第1の昇降台11、第2の昇降台12、第3の昇降台13の下側の空洞部にもシールドガスを供給するとよい。これによりシールドガスが良好に充満する。
【0033】
製造装置1Aにおいては、金属粉末にエネルギー線を照射して形成した金属層を複数重ねて積層構造物が製造される。積層構造物のCADデータに基づいて、パウダーベッドの形成、金属層の形成、金属層の積層が任意の回数繰り返される。
以下、一例として、パウダーベッドの形成、金属層の形成、金属層の積層をn回繰り返してn層の金属層を有する積層構造物を製造する場合を一例として説明する。ここでnは自然数である。
【0034】
製造装置1Aにおいては、照射部2がレーザをパウダーベッド8の金属粉末に照射して照射位置の金属粉末Mを焼結または溶融固化する。そのため、金属粉末の焼結物の金属層または金属粉末の溶融固化物の金属層をパウダーベッド8に任意の形状に形成できる。
最初に照射されるレーザによって形成される1層目の層、すなわち最下層の金属層は、第2の昇降台12の表面のベースプレート(図示略)と接触する。次いで、1層目の金属層の上側に金属層が順次積層される。
【0035】
k層目のパウダーベッドの形成においては、貯留部7の金属粉末がブレード10によってk-1層目の金属層の表面に供給され、積層厚さ△hのパウダーベッドがk-1層目の金属層の上側に形成される。ここで、kは2以上n以下の自然数である。
この積層厚さ△hのパウダーベッドにレーザを照射し、k層目の金属層を形成する。k層目の金属層の形成においては、レーザ走査によって粉末層が焼結または溶融固化する。
その結果、k-1層目の金属層の上側にk層目の金属層が積層される。
【0036】
このようにパウダーベッドの形成、金属層の形成および積層を繰り返すことで、金属層を複数重ねて積層構造物を製造できる。n層目の金属層の形成および積層が終わると、n層の金属層を有する積層構造物がベースプレートに載置された状態でチャンバー2内から回収される。
【0037】
次に、積層構造物の冷却速度の制御をするときの製造装置1Aの動作について、図2図3を参照して説明する。図2において、説明の簡略化のために照射部20の図示を省略する。
図2図3に示すように、複数の測温プローブ5A、5Bが伸長し、それぞれのプローブの先端が製造途中の積層構造物20と接触している。また、複数の温度調整プローブ6A、6Bが伸長し、それぞれのプローブの先端が製造途中の積層構造物20と接触している。
図3に示すように、温度調整プローブ6A、6Bは、管路6aおよび管路6bからなる二重管構造を有し、内側の管路6aにガスが供給され、プローブの先端部分で内側の管路6aと外側の管路6bとが連通している。内側の管路6a内に供給されたガスは、プローブの先端で金属層等を加温または冷却し、外側の管路6b内に流れ、プローブ外に排出される。ここで、この排出ガスがシールドガスとして利用可能であるなら、当該排出ガスは図示略のシールドガス供給管を経由してチャンバー3内に供給されてもよい。
【0038】
製造装置1Aは、制御部の指示にしたがい、測温プローブで測定した温度に基いて温度調整プローブを制御する。温度調整プローブは制御部の指示にしたがい、金属層または製造途中の積層構造物20を加温または冷却し、任意の金属層または製造途中の積層構造物20の任意領域の冷却速度を制御する。
測温プローブ5Aおよび温度調整プローブ6Aは、造形ステージ4のパウダーベッド8を構成する部分の内部に埋め込まれている。そのため、測温プローブ5Aおよび温度調整プローブ6Aによって、金属層または製造途中の積層構造物20の冷却速度を制御したとき、レーザ照射前の粉末層の形成、金属層の形成および積層構造物20の造形の妨げになりにくい。
【0039】
(作用効果)
以上説明した積層構造物の製造装置1Aは、金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を測定する1以上の測温プローブ5A、5Bと、金属層または製造途中の前記積層構造物の温度を調整する1以上の温度調整プローブ6A、6Bとを備える。そのため、測温プローブ5A、5Bおよび温度調整プローブ6A、6Bを組み合わせることで、任意の金属層または製造途中の積層構造物の任意領域において冷却速度を促進する制御が可能となる。
加えて、積層構造物の製造装置1Aにおいては、複数の測温プローブ5A、5Bのうちの測温プローブ5Aが造形ステージ4のパウダーベッド8を構成する部分の内部に埋め込まれ、また、複数の温度調整プローブ6A、6Bのうち温度調整プローブ6Aが造形ステージ4のパウダーベッド8を構成する部分の内部に埋め込まれている。そのため、測温プローブ5Aおよび温度調整プローブ6Aによって冷却速度を制御すれば、レーザ照射前の粉末層の形成、金属層の形成および積層構造物の造形の妨げとならない。
【0040】
また、製造装置1Aを用いる積層構造物の製造方法によれば、造形ステージ4のパウダーベッド8を構成する部分の内部に埋め込まれた測温プローブ5Aおよび温度調整プローブ6Aを用いることで、任意領域の金属層または製造途中の積層構造物20の冷却速度を制御できる。そのため、粉末層の形成、金属層の形成および積層構造物の造形を妨げることなく、任意の積層領域において冷却速度を促進する制御が可能となり、冷却速度の制御によって所望の金属組織を発現させやすくなる。
【0041】
次に、温度調整プローブの一例について、図4、5を参照して説明する。
温度調整プローブは、充分な冷却速度を実現する点から、図4に一例を示すようなジュール・トムソン効果を利用して金属層または製造途中の積層構造物の温度を調整するものや、液化ガスを利用して金属層または製造途中の積層構造物を冷却するものが好ましい。
これらの温度調整プローブの使用により、冷却によって目標温度に到達する時間が相対的に短くなり、より短時間で目標温度に到達させないと発現しないような金属組織を得るための制御ができる。また、冷却速度を促進することでより高い冷却速度でしか発現しないような金属組織を得るための制御もできる。
【0042】
図4に示す温度調整プローブ6は、アルゴンの供給源21およびヘリウムの供給源22と接続されている。温度調整プローブ6内には、図示略のノズルが設けられており、ジュール・トムソン効果を用いてプローブの先端の温度を加温または冷却して制御する。
例えば、冷却処理をするためには、アルゴンガスを大気圧よりも高圧状態とし、高圧のアルゴンガスを図示略のノズルによって大気圧まで減圧し、ジュール・トムソン効果によってアルゴンガスを瞬時に冷却できる。また、加温処理をする場合には、アルゴンガスの供給を停止し、かつ、ヘリウムガスを大気圧よりも高圧状態とし、高圧のヘリウムガスを図示略のノズルによって大気圧まで減圧し、ジュール・トムソン効果によってヘリウムガスを瞬時に加熱できる。
このように、図4に示す温度調整プローブ6によれば、ジュール・トムソン効果によるガスの温度変化を利用することで、急速な加温処理や急速な冷却処理が可能である。ただし、ジュール・トムソン効果を利用できるものであればよく、図4の形態に特に限定されない。また、ジュール・トムソン効果を得るためのガスも特に限定されない。
【0043】
図5に示す温度調整プローブ6は、液化ガスの供給源23と接続されている。図5に示す温度調整プローブ6によれば、液化ガスの低温特性を利用してプローブ自体を冷却することで急速な冷却処理が可能である。
図4図5に一例を示したようなガスを利用した温度調整6によれば、ジュール・トムソン効果または液化ガスの低温特性を利用でき、電力を利用する冷却機構を比べて消費電力を削減できるという利点もある。
【0044】
図6は、積層構造物の製造装置の他の一例の概略を示す模式図である。図6において、説明の簡略化のために照射部20の図示を省略している。
図6に示す製造装置1Bは、温度調整プローブ6から排出されるガスが流れる排出ラインL1と、チャンバー3内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインL2とが接続されている点で製造装置1Aと異なる。
図6に示す製造装置1Bによれば、積層構造物の冷却速度制御の目的に加えて、温度調整プローブにガスを供給してチャンバー3に導入するガスの温度を調整し、チャンバー3内の雰囲気ガスGを加温または冷却できる。そのため、チャンバー3内の雰囲気ガスGを介して積層構造物の冷却速度を制御できる。この場合、シールドガスをチャンバー3外に排出するための排気ラインL3をチャンバー3に接続する。
加えて、図6に示す製造装置1Bによれば、ラインL4から温度調整プローブ6内に供給されたガスは温度調整プローブ6内を通過した後、チャンバー3内に戻すことができ、効率的にガスを利用できる。
【0045】
図7は、積層構造物の製造装置の他の一例の概略を示す模式図である。
図7に示す製造装置1Cは、造形ステージ4の貯留部7を構成する部分の内部に、複数の測温プローブ5Aおよび複数の温度調整プローブ6Aが埋め込まれている点で製造装置1Aと異なる。
図8は、図7の製造装置1Cの造形ステージ4の貯留部7を説明するための示す模式図である。図8に示すように、造形ステージ4の貯留部7を構成する部分の内部に測温プローブ5Aおよび温度調整プローブ6Aが複数埋め込まれている。各測温プローブ5Aおよび各温度調整プローブ6Aの形状は、何ら限定されず、造形ステージ4や貯留部7を構成する部材(例えば、第1の昇降台11)や壁面の形状に合わせて変更可能である。
【0046】
製造装置1Cによれば、貯留部7のレーザの照射前の金属粉末M’を加温または冷却してその温度を調整できる。このように温度が調整された金属粉末M’をブレード10でパウダーベッド8に供給することで、任意の金属層の温度を調整して冷却速度を制御できる。この場合においても、測温プローブ5Aおよび温度調整プローブ6Aによって金属層または製造途中の積層構造物の冷却速度を制御したとき、レーザ照射前の粉末層の形成、金属層の形成および積層構造物の造形の妨げになりにくい。
【0047】
図9は、積層構造物の製造装置の他の一例の概略を示す模式図である。図9において、説明の簡略化のために照射部20の図示を省略している。
図9に示す製造装置1Dは、貯留部7に埋め込まれた温度調整プローブ6Aから排出されるガスが流れる排出ラインL1と、チャンバー3内に供給されるシールドガスが流れるシールドガス供給ラインL2とが接続されている点で製造装置1Cと異なる。
【0048】
製造装置1Dによれば、貯留部7のレーザの照射前の金属粉末M’を加温または冷却してその温度を調整できる。このように温度が調整された金属粉末M’をブレード10でパウダーベッド8に供給することで、任意の金属層の温度を調整して冷却速度を制御できる。
また、温度調整プローブ6Aから排出されるガスと、チャンバー3に供給されるシールドガスとを混合できる。そのため、温度調整プローブ6Aにガスを供給してチャンバー3に導入するガスの温度を調整し、チャンバー3内の雰囲気ガスを加温または冷却できる。
そのため、チャンバー3内の雰囲気ガスを介して積層構造物の冷却速度を制御できる。
製造装置1Dにおいても、ラインL4から温度調整プローブ6Aに供給されたガスは、プローブ内を通過した後、チャンバー3内に戻すことができ、効率的にガスを利用できる。
【0049】
本実施形態に係る積層構造物の製造装置においては、PBF方式、DED方式、WAAM(Wire Arc Additive Manufacturing)方式のいずれも採用可能である。これらの方式のいずれを採用した場合であっても、本実施形態においては、複数の測温プローブの少なくとも1つおよび複数の温度調整プローブの少なくとも1つが、造形ステージのパウダーベッドを構成する部分の内部に埋め込まれている。そのため、冷却速度の制御が粉末層の形成、金属層の形成および積層構造物の造形の妨げとなりにくい。
【0050】
図10図11は、DED方式の製造装置における温度調整プローブ、測温プローブの動作を説明するための示す模式図である。
DED方式においては、レーザLを照射した部分に金属粉末MSを噴射し、金属層を形成する。例えば、図10に示すように金属層の形成および積層を行った後、図11に示すように測温プローブ5および温度調整プローブ6を伸長させ、任意の金属層または製造途中の積層構造物20の任意領域の冷却速度を制御してもよい。
図10、11に示す一例のように測温プローブ5および温度調整プローブ6は一つの装置30に一体的に装着してもよい。
【0051】
図12図13は、WAAM方式の製造装置における温度調整プローブ、測温プローブの動作を説明するための示す模式図である。
WAAM方式においては、金属ワイヤーフィーダー25によって金属ワイヤーMwを供給しながら、トーチ26によってアーク溶接する。例えば、図12に示すように、金属層の形成および積層を行った後、図13に示すように測温プローブ5および温度調整プローブ6を伸長させ、任意の金属層または製造途中の積層構造物20の任意領域の冷却速度を制御してもよい。
【0052】
本実施形態においては、金属の冷却方法としてチャンバー3内の雰囲気ガスにより溶融前の金属を冷却することも可能である。
DED方式の場合、供給する金属粉末のストリーム状の経路内や金属粉末のタンク内に温度調整プローブのような温度調整機構を設けることで、供給する金属粉末を加温または冷却することができる。例えば、冷却後の金属粉末を溶融部に吹き付けることで、製造途中の積層構造物の最表面の金属層を冷却することが可能である。
WAAM方式の場合、供給する金属ワイヤーの経路内に温度調整プローブのような温度調整機構を設けることで、供給する金属ワイヤーを加温または冷却することができる。例えば、冷却後の金属ワイヤーを使用することで、製造途中の積層構造物の最表面の金属層を冷却することが可能である。
このようにして製造途中の積層構造物の最表面の金属層の温度を調整することで、任意の金属層または製造途中の積層構造物の任意領域の冷却速度を制御できる。
【0053】
本実施形態に係る積層構造物の製造装置によれば、従来技術では実現できなかったような急速な冷却速度を実現できる。したがって、より短時間(瞬時)の冷却や高い冷却速度でしか発現しないような金属組織を得るための制御ができる。
例えばチタン合金系の金属を用いたとき、急速な冷却効果による結晶組織の微細化による降伏応力、硬度等の異方性を付与できる。他にも、ステンレス系の金属を用いたとき、冷却速度を増加させて結晶組織の析出物の生成を促進し、優れた耐食性を付与し得る。また、金属材料の酸化反応を抑制することもできる。
【符号の説明】
【0054】
1…積層構造物の製造装置、2…照射部、3…チャンバー、4…造形ステージ、5…ガスフロー発生部、6…温度調整プローブ、7…貯留部、8…パウダーベッド、9…回収部、10…ブレード、11…第1の昇降台、12…第2の昇降台、13…第3の昇降台、14…レーザ発振機、15…光学系、M…金属粉末。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13