(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023176981
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】メタン発酵消化液及び貝殻を利用した栄養分供給資材
(51)【国際特許分類】
C05F 3/00 20060101AFI20231206BHJP
C05F 5/00 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C05F3/00
C05F5/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089626
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(71)【出願人】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100183461
【弁理士】
【氏名又は名称】福島 芳隆
(72)【発明者】
【氏名】浅岡 聡
(72)【発明者】
【氏名】美野 雄也
(72)【発明者】
【氏名】井原 一高
(72)【発明者】
【氏名】吉田 弦
【テーマコード(参考)】
4H061
【Fターム(参考)】
4H061AA01
4H061BB03
4H061BB29
4H061CC11
4H061CC32
4H061CC36
4H061EE02
4H061FF02
4H061FF30
4H061GG48
4H061KK10
4H061LL03
(57)【要約】
【課題】本発明は、メタン発酵消化液と貝殻とを有効利用できる栄養分供給資材を提供すること、さらに、貧栄養化された水域に、必要十分な強度を確保しながら安定的に栄養分を溶出でき、かつ、その溶出強度を制御することができる栄養分供給資材を提供することを目的とする。
【解決手段】メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び、貝殻を含有する栄養分供給資材。さらに、前記栄養分が、窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、栄養分供給資材。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び、貝殻を含有する栄養分供給資材。
【請求項2】
前記栄養分が、窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1に記載の栄養分供給資材。
【請求項3】
前記栄養分が窒素であり、前記窒素の溶出が、アンモニア態窒素として0.02~50mg-N/gに制御された、請求項1に記載の栄養分供給資材。
【請求項4】
前記栄養分がリンであり、前記リンの溶出が、リン酸態リンとして0.0085~7.7mg-P/gに制御された、請求項1に記載の栄養分供給資材。
【請求項5】
前記栄養分がケイ素であり、前記ケイ素の溶出が、ケイ酸態ケイ素として0.01~225mg-Si/gに制御された、請求項1に記載の栄養分供給資材。
【請求項6】
圧縮強度が、15~90mN/mm2である、請求項1に記載の栄養分供給資材。
【請求項7】
前記メタン発酵消化液に対する前記貝殻の添加量が、7.5~33.5%である、請求項1に記載の栄養分供給資材。
【請求項8】
前記貝殻が、カキ殻である、請求項1に記載の栄養分供給資材。
【請求項9】
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含有する栄養分供給資材を含む、藻類増殖促進材。
【請求項10】
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含有する栄養分供給資材を含む、藻類の増殖速度制御材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メタン発酵消化液及び貝殻を利用した栄養分供給資材に関する。
【背景技術】
【0002】
日本国内で1年間に発生する畜産廃棄物の量は約8000万トン(2020年、農林水産省)であり、食品廃棄物の量は約2500万トン(2018年度、環境省)である。これら畜産廃棄物及び食品廃棄物は、両方ともに非常に発生量が大きいことが問題となっている。具体的には、近年、カーボンニュートラル及びSDGs(Sustainable Development Goals)の観点からバイオマスの資源循環が重要視され、例えば、畜産廃棄物又は食品廃棄物から、バイオ燃料(メタン等のバイオガス)及び消化液(液肥)の両方が得られ、かつ、臭気も低減できることからメタン発酵によるバイオガス発電が脚光を浴びている。
【0003】
メタン発酵プラントで副生する消化液(以下、メタン発酵消化液という。)は、これまで畑に散布して液肥として農地還元することが行われてきた。
しかしながら、メタン発酵消化液が農地に施用されるのは、主に栽培が開始される前の春だけであり、また、近年の農地面積の縮小により、農地が受け入れ可能な消化液量にも限界があった。春以外の季節はメタン発酵消化液の供給過剰が生じ、排水処理されてきた。
また、メタン発酵消化液の排水処理の方法として、例えば、メタン発酵消化液に凝集剤を添加して固液分離し、生じた液体分について活性汚泥処理等を行う方法が挙げられる(特許文献1)。このような排水処理を行うためには、余分な設備及びコストがかかり、さらに排水処理にかかる電力消費が大きく、エネルギー収支が合わないという問題があった。
したがって、メタン発酵によるバイオガス発電と陸域バイオマスの安定的な処理とを両立させるためには、一年を通して有効利用が可能な新たなメタン発酵消化液の利活用先の開拓が求められている。
【0004】
また、カキ養殖に伴って発生するカキ殻は、全国で年間約16万トンと推定される(1998年度、国土交通省)。カキ殻は、以前はニワトリの飼料等に利活用されていたが、近年ではカルシウム系の化学合成飼料に置き換わっている。よって、カキ殻等の貝殻の処理もまた、世界各国において喫緊の課題となっている。
【0005】
さらに、高度経済成長期以降、沿岸域において富栄養化による赤潮の発生件数が増加していたが、排水規制が強化されたことで、近年ではその件数は減少し、水質は改善された。
その一方で、ダム建設による河川からの栄養塩負荷量の減少、沿岸地開発による地形変化等によって、貧栄養化(海水中の栄養塩が減少)が進行し、かえって漁業生産の低下、藻場の減少等の問題が発生している。沿岸域への栄養塩を供給する技術として、下水処理場の緩和運転、海洋へ栄養塩を添加した後に周囲を囲い込む等が検討されているが、栄養塩が拡散するため十分な効果が得られていない。
そこで、貧栄養化が進行した沿岸域等に、栄養塩を安定的に供給できる栄養分供給資材の開発が切望されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、メタン発酵消化液と、貝殻とを有効利用できる栄養分供給資材を提供することを目的とする。
また、本発明は、貧栄養化された水域に、必要十分な強度を確保しながら安定的に栄養分を溶出でき、かつ、その溶出速度を制御することができる栄養分供給資材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、メタン発酵消化液又はその濃縮物と貝殻粉とを原料として用い、これらを混合して固化させた栄養分供給資材を海水中に浸漬すると、微細藻類の生育に必要な栄養塩を徐放的に溶出させることを見出した。本発明は、このような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
項1.
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び、貝殻を含有する栄養分供給資材。
項2.
前記栄養分が、窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む、項1に記載の栄養分供給資材。
項3.
前記栄養分が窒素であり、前記窒素の溶出が、アンモニア態窒素として0.02~50mg-N/gに制御された、項1又は2に記載の栄養分供給資材。
項4.
前記栄養分が窒素であり、前記窒素の溶出が、亜硝酸態窒素として0.00001~50mg-N/gに制御された、項1~3のいずれか一項に記載の栄養分供給資材。
項5.
前記栄養分が窒素であり、前記窒素の溶出が、硝酸態窒素として0.02~50mg-N/gに制御された、項1~4のいずれか一項に記載の栄養分供給資材。
項6.
前記栄養分がリンであり、前記リンの溶出が、リン酸態リンとして0.0085~7.7mg-P/gに制御された、項1~5のいずれか一項に記載の栄養分供給資材。
項7.
前記栄養分がケイ素であり、前記ケイ素の溶出が、ケイ酸態ケイ素として0.01~225mg-Si/gに制御された、項1~6のいずれか一項に記載の栄養分供給資材。
項8.
圧縮強度が、15~90mN/mm2である、項1~7のいずれか一項に記載の栄養分供給資材。
項9.
前記メタン発酵消化液に対する前記貝殻の添加量が、7.5~33.5%である、項1~8のいずれか一項に記載の栄養分供給資材。
項10.
前記貝殻が、カキ殻である、項1~9のいずれか一項に記載の栄養分供給資材。
項11.
原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を配合してなる栄養分供給資材。
項12.
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含有する栄養分供給資材を含む、藻類増殖促進材。
項13.
原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を配合してなる栄養分供給資材を含む、藻類増殖促進材。
項14.
メタン発酵消化液又はその濃縮物及び貝殻を混合し、混合物を得る工程、並びに
前記混合物を乾燥する工程を備える、メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含有する栄養分供給資材の製造方法。
項15.
項14に記載の製造方法によって得られた栄養分供給資材。
項16.
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含有する栄養分供給資材を含む、藻類の増殖速度制御材。
項17.
原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を配合してなる栄養分供給資材を含む、藻類の増殖速度制御材。
項18.
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び、貝殻を混合する工程、及び
得られた混合物を乾燥する工程を備える、メタン発酵消化液及び貝殻の有効利用方法。
項19.
原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を配合してなる栄養分供給資材を養殖生け簀に配置する工程を備える、魚介類の生育方法。
項20.
原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を配合してなる栄養分供給資材を養殖筏に配置する工程を備える、貝類の養殖方法。
項21.
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含有する栄養分供給資材を、植物に施用する方法。
項22.
原料として少なくともメタン発酵消化液及び貝殻を配合してなる栄養分供給資材を、植物に施用する方法。
項23.
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含有する栄養分供給資材を、植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用する工程を備える、植物の生育方法。
項24.
原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を配合してなる栄養分供給資材を、植物若しくは植物の生育する土壌又は培養液に使用する工程を備える、植物の生育方法。
項25.
メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含有する栄養分供給資材を植物工場に配置する工程を備える、農作物の生育方法。
項26.
原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を配合してなる栄養分供給資材を植物工場に配置する工程を備える、農作物の生育方法。
【0010】
なお、本発明のうち、製造工程で規定された栄養分供給資材は、現時点で、どのような成分までが含まれているか、又は、その構造がどのようなものであるか、その全てを特定することが不可能又はおよそ実際的ではない程度に困難であるため、プロダクトバイプロセスクレームによって記載している。
【発明の効果】
【0011】
本発明の栄養分供給資材によれば、メタン発酵消化液と貝殻とを有効利用できる上、貧栄養化された水域に、必要十分な強度を確保しながら安定的に栄養分を溶出でき、かつ、その溶出速度を制御することができる。よって、本発明の栄養分供給資材を海水中に浸漬させることで、藻類の増殖が促進されて貧栄養化海域が肥沃化され、ひいては漁業生産量の回復を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、栄養分供給資材の圧縮強度との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、貝殻由来の炭酸カルシウム(カルサイト)(記号□)と、栄養分供給資材のケイ酸カルシウム(記号●)との関係を示すグラフである。
【
図3】
図3は、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、栄養分供給資材のリン酸態リン溶出量との関係を示すグラフである。
【
図4】
図4は、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、栄養分供給資材のアンモニア態窒素溶出量との関係を示すグラフである。
【
図5】
図5は、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、栄養分供給資材の亜硝酸態窒素溶出量との関係を示すグラフである。
【
図6】
図6は、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、栄養分供給資材の硝酸態窒素溶出量との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、栄養分供給資材のケイ酸態ケイ素溶出量との関係を示すグラフである。
【
図8】
図8は、貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材から溶出するリン酸態リンの溶出量の経日変化を示すグラフである。
【
図9】
図9は、貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材から溶出するアンモニア態窒素の溶出量の経日変化を示すグラフである。
【
図10】
図10は、貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材から溶出する亜硝酸態窒素の溶出量の経日変化を示すグラフである。
【
図11】
図11は、貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材から溶出する硝酸態窒素の溶出量の経日変化を示すグラフである。
【
図12】
図12は、貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材から溶出するケイ酸態ケイ素の溶出量の経日変化を示すグラフである。
【
図13】
図13は、貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材を添加した自然海水、及び無添加の自然海水におけるクロロフィルa濃度の経日変化を示すグラフである。
【
図14】
図14は、栄養分供給資材の貝殻の添加量とスケレトネマの比増殖速度との関係を示すグラフである。
【
図15】
図15は、栄養分供給資材の海水への添加量とリン酸態リン濃度とスケレトネマの比増殖速度との関係を示すグラフである。
【
図16】
図16は、各試験区のアンモニア態窒素濃度の経日変化を示すグラフである。
【
図17】
図17は、各試験区のリン酸態リン濃度の経日変化を示すグラフである。
【
図18】
図18は、各試験区のケイ酸態ケイ素濃度の経日変化を示すグラフである。
【
図19】
図19は、各試験区のクロロフィルa濃度の経日変化を示すグラフである。
【
図20】
図20は、実施例区2及び比較例区2のカキ重量ベースの相対成長率を示すグラフである。
【
図21】
図21は、実施例区2及び比較例区2のカキ殻の高さの相対成長率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
栄養分供給資材
本発明の栄養分供給資材は、メタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を含んでいる。なお、本発明の栄養分供給資材は、原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物、及び貝殻を配合することができる。
本発明の栄養分供給資材は、栄養分を供給(放出)する材料を意味する。前記栄養分は、窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含む。
本発明の栄養分供給資材は、天然素材であるメタン発酵消化液と、天然素材である貝殻とを原料として使用しており、環境に優しい栄養分供給資材といえる。これにより、従来大部分が廃棄処理されていたメタン発酵消化液、及び貝殻を、有効利用することができる。
【0014】
メタン発酵消化液又はその濃縮物
本発明の栄養分供給資材には、原料としてメタン発酵消化液又はその濃縮物が使用される。本発明において、「メタン発酵消化液」とは、家畜排泄物、食品加工残渣、食品の製造過程で生じる不良品、残飯、廃食用油、生ごみ、規格外タマネギ、トマト茎等の農産物非食部、し尿、家庭用浄化槽汚泥等を原料として、バイオガスプラント(BGP:Bio Gas Plant)でメタン発酵処理された後に得られた残渣をいう。メタン発酵消化液は、メタン発酵汚泥等ともいい、単に消化液と呼ばれることもある。
ここで、メタン発酵は、空気(酸素)に触れない状態で活動する微生物の働きで有機物を分解する方法であり、発酵によりメタンガスを発生するため、嫌気性発酵ともいう。例えば、家畜排泄物のメタン発酵では、嫌気性雰囲気下、嫌気性微生物(酸生成菌及びメタン生成菌)の作用により、家畜排泄物を含む被処理物中の有機物を分解し、メタンガスを含むバイオガスを生成させる。バイオガスは回収され、燃料等に利用される。バイオガスを回収した後に残る残渣が消化液である。
【0015】
その濃縮物(メタン発酵消化液の濃縮物)とは、上記メタン発酵消化液を濃縮させて得られたものを意味する。ここでいう濃縮物には、メタン発酵消化液を濃縮させたものであって、水分(水)が含まれるものだけでなく、水分を完全に蒸発させた乾燥物も含まれる。ここで、濃縮は、例えば、メタン発酵消化液を固体と液体とに分離し、液体分を減圧蒸留処理により濃縮する方法、メタン発酵消化液を膜で濃縮する方法(例えば、膜分離活性汚泥法(MBR)で濃縮する方法等)、肥料としての成分が変わらないように低温で水分を蒸発させて濃縮する方法等で行うことができる。乾燥させる場合は、自然乾燥、又は、装置を用いて強制的に乾燥させる強制乾燥であってもよい。強制乾燥の方法としては、例えば、加熱、凍結乾燥、送風、熱風等による乾燥方法が挙げられる。
【0016】
メタン発酵消化液は、原料の大量確保が容易である観点から、家畜排泄物(例えば、牛ふん、豚ふん、鶏ふん、馬ふん等)由来のものが好ましい。
【0017】
メタン発酵消化液は、固形分を2~15%程度含むスラリーを用いることができる。なお、固形分の量は、使用する原料によって多少変動する。メタン発酵消化液には、栄養分、メタン生成菌、メタン生成菌以外の菌、セルロース繊維等の不溶性有機物(Suspended Solid(SS))等が含まれている。
【0018】
「栄養分」とは、海水中であれば、藻類、例えば、大型藻類又は微細藻類、特に植物プランクトン又は付着性の微細藻類(以下、単に「藻類」という。)が増殖するために必要な栄養分(栄養塩、栄養塩類、栄養源、又は栄養素ともいう。)を意味しており、陸上であれば、農作物の生育に要求される肥料成分を意味している。
栄養分は、窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含んでいればよく、窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)の3元素が含まれることが好ましい。
【0019】
栄養分は、海水中であれば、上記窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)に加えて、鉄(Fe)等を含むことができる。
ここで、窒素(N)として、具体的には、アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、硝酸態窒素、有機態窒素、アンモニウムイオン、アンモニア、亜硝酸イオン、硝酸イオン等が挙げられる。
リン(P)として、具体的には、リン酸、リン酸態リン(オルトリン酸)、リン酸イオン、有機態リン等が挙げられる。
ケイ素(Si)として、具体的には、ケイ酸塩、ケイ酸態ケイ素、ケイ酸イオン等が挙げられる。
陸上であれば、上記窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)に加えて、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)等の成分を含むことができる。
【0020】
メタン生成菌は、メタン菌とも呼ばれ、有機性廃棄物から中間生成物を経てメタンを生成する能力を有する微生物を含むものであれば特に限定されない。
【0021】
また、本発明において「メタン生成菌以外の菌」は、酸生成菌を意味しているが、酸生成能力をもたない菌を含んでいてもよい。
各微生物の一例として、酸生成菌群はクロストリジウム・ビフェルメンタス(Clostridium bifermentas)等のクロストリジウム(Clostridium)属等が挙げられ、メタン生成菌はメタノサルキナ・バルケリ(Methanosarcina barkeri)等のメタノサルキナ(メタノサルシナ)(Methanosarcina)属、メタノトリクス(Methanothrix)(メタノサエタ(Methanosaeta))属等が挙げられる。
【0022】
セルロース繊維は、家畜が植物(例えば、稲わら、麦わら、おがくずの乾燥有機物;草等)を食べて、糞として得られたものを由来としている。
【0023】
貝殻
本発明の栄養分供給資材には、原料として貝殻が使用される。貝殻は、カルシウムを含むものであれば特に制限はなく、例えば、カキ、ホタテ、アサリ、シジミ、ハマグリ、赤貝、アワビ、ムール貝、アコヤガイ等の二枚貝の貝殻;サザエ等の巻貝の貝殻が挙げられる。
貝殻は、メタン発酵消化液又はその濃縮物を含む栄養分供給資材の形態を固体にするためのバインダーとしての機能を有している。また、貝殻は、メタン発酵消化液又はその濃縮物の悪臭を低減させる効果も有している。
中でも、カキ殻及びホタテの貝殻は、大量に、かつ安価に得られることから好ましい。また、貝殻を有効利用することで、貝殻の廃棄量を減らすことができる。
特に、カキ殻は、多孔質性が高く、かつ、調湿性が高く、カルシウム及びマグネシウムを含むことから、メタン発酵消化液又はその濃縮物中に含まれるケイ素成分と反応させてセメント水和反応を誘発させて固化しやすくなることから好ましい。
【0024】
貝殻は、海中で炭酸ガスとカルシウムイオンとで合成された高純度の炭酸カルシウムが含まれている。例えば、カキは、水中でタンパク質と石灰との結合したものを体外に分泌すると、そのうち石灰分が水中の炭酸ガスと化合して、炭酸石灰の結晶からなるカキ殻が合成されることから、カキ殻には、炭酸カルシウム、タンパク質等が含まれている。
【0025】
本発明の栄養分供給資材は、原料として貝殻を含んでいればよい。貝殻を使用する際、その形状は特に限定されず、天然の貝殻をそのまま使用してもよく、又は、貝殻を破砕若しくは粉砕し、貝殻片、粉末状、粒状等の形態で使用してもよい。貝殻は、様々な形状のものを混合して使用することができ、少なくとも粉末状のもの(貝殻粉末)を含むことが、固まりやすさの点で好ましい。
また、本発明の栄養分供給資材は、原料として貝殻を含んでいればよいため、貝殻由来のカルシウム化合物(例えば、貝殻焼成カルシウム等)を用いることもできる。
【0026】
例えば、粉末状の貝殻(貝殻粉末)を使用する場合、その平均粒子径としては、例えば、10mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下が挙げられ、下限としては、例えば、1nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは100nm以上が挙げられる。なお、10mmを超える平均粒子径のものを使用する場合には、貝殻片、又は粒状の貝殻を使用すればよい。
【0027】
貝殻の配合量は、メタン発酵消化液又はその濃縮物を固化させることができる量であれば、特に限定されない。
【0028】
例えば、メタン発酵消化液と貝殻とを配合する場合、前記メタン発酵消化液と前記貝殻とを、体積:質量で1:0.075~0.33の比率で配合することが好ましい。すなわち、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量を下記式(1)で表す。
式(1):メタン発酵消化液の体積に対する貝殻の添加量を百分率で表した数値(%)=[貝殻の質量(g)/メタン発酵消化液の体積(mL)]×100
上記メタン発酵消化液の体積に対する貝殻の添加量を百分率で表した数値(%)を、以下、貝殻の「添加量(%)」ということもある。
貝殻の添加量は、通常7.5~33.5%であり、8~25%が好ましく、9~11%がより好ましい。
貝殻の添加量が7.5~33.5%とは、具体的には、メタン発酵消化液1mLに対して、貝殻を0.075~0.33g使用することを意味する。
【0029】
例えば、メタン発酵消化液の濃縮物と貝殻とを配合する場合、前記メタン発酵消化液の濃縮液と前記貝殻とを、体積:質量で1:0.075~3.3の比率で配合することが好ましい。メタン発酵消化液の濃縮物の体積に対する貝殻の添加量を百分率で表した数値(%)(貝殻の添加量(%))は、7.5~330%であり、8~250%が好ましく、10~100%がより好ましい。
貝殻の添加量が7.5~330%とは、具体的には、メタン発酵消化液の濃縮液1mLに対して、貝殻を0.075~3.3g使用することを意味する。
【0030】
本発明の栄養分供給資材は、メタン発酵消化液又はその濃縮物及び貝殻以外の他の原料を配合することができる。このような他の原料として、例えば、リグニン、石英砂、セルロース、ベントナイト等が挙げられる。これらの他の原料を配合することで、より強度の高い栄養分供給資材を得ることができる。
【0031】
本発明の栄養分供給資材の製造方法
本発明の栄養分供給資材の製造方法としては、特に限定はなく、例えば、貝殻と、メタン発酵消化液又はその濃縮物とを混合する工程(以下、「混合工程」という。)、得られた混合物を乾燥する工程(以下、「乾燥工程」という。)等を備えている。メタン発酵消化液の濃縮物に含まれる水分が少なく、乾燥物に近い又は乾燥物である場合には、さらに、水分付与工程等を備えていてもよい。水の量としては、貝殻の質量と同程度の量であればよい。
【0032】
混合工程としては、特に限定はなく、(1)貝殻の全量とメタン発酵消化液又はその濃縮物の全量とを最初から一気に撹拌混合する方法、(2)貝殻にメタン発酵消化液又はその濃縮物を徐々に加えて撹拌混合する方法、(3)メタン発酵消化液又はその濃縮物に貝殻を徐々に加えて撹拌混合する方法、(4)貝殻と、メタン発酵消化液を半乾燥させたペースト状の濃縮物とを撹拌混合する方法等が挙げられる。
メタン発酵消化液又はその濃縮物と貝殻とを混合することにより、メタン発酵消化液又はその濃縮物中のケイ酸と貝殻中のカルシウムが反応してケイ酸カルシウムが生成することで固化する。
貝殻としては、少なくとも粉末状のもの(貝殻粉末)を使用することが、固まりやすさの点で好ましい。なお、混合工程中に、貝殻を粉砕することも可能である。
また、混合工程中に、栄養分、貝殻又は貝殻粉等を追加してもよい。
【0033】
乾燥工程としては、特に限定はなく、例えば、加熱乾燥、真空乾燥等が挙げられる。
【0034】
加熱乾燥の温度としては、通常、30℃~100℃であり、好ましくは35℃~70℃、より好ましくは40℃~50℃である。
加熱乾燥の時間としては、水分が蒸発すれば特に限定はなく、通常、1~168時間であり、好ましくは1~120時間、より好ましくは24~72時間である。
【0035】
真空乾燥の方法としては、特に限定はなく、例えば、真空赤外線(IR)乾燥、凍結乾燥、真空乾燥機等を用いることができる。
真空度としては、特に限定はなく、例えば、0~90kPaの減圧条件下が挙げられる。
真空乾燥の温度としては、通常、0℃~100℃であり、好ましくは35℃~70℃、より好ましくは40℃~50℃である。凍結乾燥では通常-80℃~-30℃であり、好ましくは-60℃~-30℃、より好ましくは-50℃~-40℃である。
真空乾燥の時間としては、水分が蒸発すれば特に限定はなく、通常、1~168時間であり、好ましくは1~120時間、より好ましくは24~72時間である。
【0036】
水分付与工程は、メタン発酵消化液の濃縮物を製剤化する際に、つまり、固体状の製剤にするために採用することができる。本発明の栄養分供給資材の製造方法のうち、水分付与工程を備える製造方法としては、例えば、(1)原料として、固体状であるメタン発酵消化液の濃縮物と貝殻とを撹拌混合する工程、得られた混合物に水分を付与する工程、及び乾燥する工程を経て、固体状の製剤にする製法、(2)原料として、固体状であるメタン発酵消化液の濃縮物に水分を付与する工程、得られたメタン発酵消化液の水懸濁液と、貝殻を撹拌混合する工程、及び乾燥する工程を経て、固体状の製剤にする製法等が挙げられる。
【0037】
メタン発酵消化液又はその濃縮物と貝殻とを混合すると、後述するように、メタン発酵消化液又はその濃縮物中のケイ酸と貝殻中のカルシウムが反応してケイ酸カルシウムが生成することで固化して栄養分供給資材が得られる。このように、メタン発酵消化液又はその濃縮物及び貝殻の2種類だけを用いれば、他の原料を添加しなくても、ある程度の圧縮強度を有する固形の栄養分供給資材を得ることができる。よって、原料としてメタン発酵消化液又はその濃縮物及び貝殻のみを配合してなる栄養分供給資材は、低コストで簡便に製造することが可能である。
【0038】
本発明の栄養分供給資材の形状、大きさ等は、栄養分供給資材を使用する目的、配置する場所等に応じて適宜設定することができる。形状として、タブレット、ペレット等が挙げられる。大きさとして、例えば、タブレットであれば、直径として50~80mm程度、高さとして35~45mm程度が挙げられる。
【0039】
本発明の栄養分供給資材は、原料として少なくともメタン発酵消化液又はその濃縮物と貝殻とを配合してなり、これらを混合して固化させて固体の形態をとることにより、メタン発酵消化液又はその濃縮物中の栄養分を栄養分供給資材の中に安定的に保持することができる。
【0040】
本発明の栄養分供給資材は、栄養分の溶出量を制御することができる。
【0041】
アンモニア態窒素の溶出量は、大きい方が好ましい。一般的なアンモニア態窒素の溶出量は、0.02~50mg-N/g程度であり、好ましくは0.04~25mg-N/g程度であり、より好ましくは0.1~20mg-N/g程度である。アンモニア態窒素は、例えば、微細藻類(植物プランクトン等)、大型藻類の栄養分となり、微細藻類(植物プランクトン等)、大型藻類の成長に必要と言われている。
【0042】
亜硝酸態窒素の溶出量は、大きい方が好ましい。一般的な亜硝酸態窒素の溶出量は、0.00001~50mg-N/g程度であり、好ましくは0.01~25mg-N/g程度であり、より好ましくは0.1~20mg-N/g程度である。
【0043】
硝酸態窒素の溶出量は、大きい方が好ましい。一般的な硝酸態窒素の溶出量は、0.02~50mg-N/g程度であり、好ましくは0.04~25mg-N/g程度であり、より好ましくは0.1~20mg-N/g程度である。硝酸態窒素は、微細藻類(植物プランクトン等)、大型藻類の栄養分となり、微細藻類(植物プランクトン等)、大型藻類の成長に必要と言われている。
【0044】
リン酸態リンの溶出量は、大きい方が好ましい。一般的なリン酸態リンの溶出量は、0.0085~7.7mg-P/g程度であり、好ましくは0.01~4.1mg-P/g程度であり、より好ましくは0.05~3.6mg-P/g程度である。
【0045】
ケイ酸態ケイ素の溶出量は、大きい方が好ましい。一般的なケイ酸態ケイ素の溶出量は、0.01~225mg-Si/g程度であり、好ましくは0.02~120mg-Si/g程度であり、より好ましくは0.03~100mg-Si/g程度である。
【0046】
本発明の栄養分供給資材の圧縮強度は、通常15~90mN/mm2程度であり、好ましくは17~75mN/mm2程度であり、より好ましくは20~65mN/mm2程度である。このような圧縮強度を有することにより、水中に浸漬した際に壊れることなく、栄養分を少しずつ溶出することができる。なお、上記栄養分の供給量が大きくなるのであれば、これらの範囲を外れてもかまわない。
【0047】
本発明の栄養分供給資材は、貝殻の作用により、メタン発酵消化液又はその濃縮物の臭い(悪臭)を低減することができる。
メタン発酵消化液又はその濃縮物の臭いとしては、アンモニア臭、微生物臭、硫化水素臭、脂肪酸臭等が挙げられる。
【0048】
栄養分供給資材を配置する場所としては、特に限定はなく、例えば、海域、淡水域(川、池、湖等)、汽水域(河口域)、陸上等が挙げられる。
海域、淡水域、及び汽水域で用いる場合の栄養分供給資材は、水中に浸漬させることにより、窒素(N)、リン(P)、ケイ素(Si)等の栄養分を徐放的に溶出することができる。海域等で用いられる場合、前記栄養分は、栄養塩又は栄養塩類と言い換えることができる。海域等で用いられる栄養分供給資材は、施肥材又は肥沃化材と言い換えることができる。
【0049】
本発明の栄養分供給資材を海水中に浸漬させることにより、栄養分を徐放的に溶出させることができる。その結果、藻類、特に、魚介類の餌となる微細藻類(植物プランクトン)の増殖速度を促進することができ、ひいては海洋生物における貧栄養化の問題、例えば、魚介類の減少等が解消され、漁業生産量が増えることが期待される。また、栄養分が海水中へ供給されることで、ノリ、ワカメ等の色落ちが防止され、大型藻類の増殖が促進されることによって、魚類の蝟集(いしゅう)効果が期待できる。
【0050】
栄養分は、窒素(N)、リン(P)及びケイ素(Si)からなる群より選ばれる少なくとも1種を含み、具体的には、アンモニア態窒素、硝酸態窒素、亜硝酸態窒素、リン酸態リン、ケイ酸態ケイ素等が挙げられる。
【0051】
藻類には、微細藻類、及び大型藻類が含まれる。
微細藻類とは、淡水、海水、堆積物等の水中にみられる植物プランクトンである。
植物プランクトンとしては、特に限定はなく、例えば、アンフィプロラ(Amphiprora)、アンフォラ(Amphora)、キートケロス(Chaetoceros)、シクロテラ(Cyclotella)、フラギラリア(Fragilaria)、フラギラロプシス(Fragilaropsis)、ハンチア(Hantzschia)、ナビキュラ(Navicula)、ニッチア(Nitzschia)、フェオダクチラム(Phaeodactylum)、スケレトネマ(Skeletonema)、タラシオシーラ(Thalassiosira)等の珪藻類が挙げられる。
大型藻類として、例えば、コンブ、ワカメ、ノリ等の海藻が挙げられる。
【0052】
本発明の栄養分供給資材の用途
本発明の栄養分供給資材は、微細藻類、大型藻類等の藻類の増殖を促進することができるので、藻類増殖促進材として機能する。その結果、微細藻類を餌とする魚介類の生育を促進することができる。
また、本発明の栄養分供給資材は、微細藻類、大型藻類等の藻類の増殖速度を制御することができるので、藻類の増殖速度制御材として機能する。
本発明の栄養分供給資材は、海域であれば、例えば、カキ、ホタテ、アサリ等の二枚貝;サザエ等の巻貝などの貝類;植物プランクトンを捕食する魚類の生育を促進させることができる。
また、淡水又は汽水域であれば、シジミ等の二枚貝;植物プランクトンを捕食する魚類の生育を促進させることができる。すなわち、本発明の栄養分供給資材は、上記藻類、貝類の生育材として用いることができる。生育は、飼育と言い換えることもできる。
【0053】
本発明の栄養分供給資材の海での施用方法として、魚の養殖生け簀に吊るす;貝の養殖筏に吊るす;海底に設置する等が挙げられる。
本発明の栄養分供給資材は、栄養塩の溶出を制御することができるので、本発明の栄養分供給資材を養殖生け簀に設置することで、養殖生け簀の中の栄養塩を制御することが可能となる。これより、スマート漁業等の水産分野のICT(Information and Communication Technology:情報技術)化を促進することができる。
【0054】
本発明の栄養分供給資材の陸上での施用方法として、陸上養殖場に添加する等が挙げられる。
このように、本発明の栄養分供給資材は、魚介類の養殖に利用することができる。
【0055】
また、本発明の栄養分供給資材は、例えば、コンクリートブロックからなる人工漁礁に設置して使用することもできる。人工漁礁に設置された栄養分供給資材から栄養分(栄養塩)が溶出し、水域で滞留することで、海水中の微細藻類(植物プランクトン)等の藻類を増殖させることができる。さらには、水域底部に大型藻類が繁茂し、この大型藻類を食べに小魚が集まり、この小魚を食べに大型の魚が集まる等、魚類の住処又はえさ場の創出も期待できる。
【0056】
陸上(土壌)で用いる栄養分供給資材は、通常の肥料と同様に、栽培に用いることができる。陸上で用いられる場合、前記栄養分は、肥料成分と言い換えることができる。陸上で用いられる栄養分供給資材は、肥料組成物と言い換えることができる。
【0057】
本発明の栄養分供給資材は、陸上の農業において、肥料、特に緩効性肥料として利用することができる。これは、従来、即効性肥料としてしか利用できなかったメタン発酵消化液と貝殻とを混合して固化することで達成されたものである。また、本発明の栄養分供給資材を用いれば、植物工場に栄養分を供給することも可能である。
【0058】
メタン発酵消化液及び貝殻の有効利用方法
本発明の栄養分供給資材は、その利用方法が問題となっていたメタン発酵消化液及び貝殻を有効利用することができる。
本発明のメタン発酵消化液及び貝殻の有効利用方法は、メタン発酵消化液又はその濃縮物及び貝殻を混合する工程、及び得られた混合物を乾燥する工程を備えている。
【実施例0059】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【0060】
実施例1
畜産系メタン発酵施設から得られた消化液2mLに対して、カキ殻粉(サンライム(登録商標)(粒子径1.6mm未満):丸栄株式会社製)を0.67g(カキ殻粉(w):消化液(v)=1:3、カキ殻粉の添加量:33.5%)、0.5g(カキ殻粉(w):消化液(v)=1:4、カキ殻粉の添加量:25%)、0.4g(カキ殻粉(w):消化液(v)=1:5、カキ殻粉の添加量:20%)、0.2g(カキ殻粉(w):消化液(v)=1:10、カキ殻粉の添加量:10%)、0.15g(カキ殻粉(w):消化液(v)=1:13、カキ殻粉の添加量:7.5%)、0.1g(カキ殻粉(w):消化液(v)=1:20、カキ殻粉の添加量:5%)、及び0.05g(カキ殻粉(w):消化液(v)=1:40、カキ殻粉の添加量:2.5%)添加して混合し、又は、カキ殻粉添加なし(カキ殻粉の添加量:0%)で、シリコン製の型枠(縦16mm、横16mm、高さ16mm)に流し込み、50℃の乾燥機内で水分が蒸発して固化するまで乾燥させ、栄養分供給資材を作製した(試料A~H)。作製した栄養分供給材の大きさは、縦16mm、横16mm、高さ1.3~4.3mmであった。
【0061】
なお、原料に用いる上記の畜産系メタン発酵施設から得られた消化液の全窒素、及び、溶存態全窒素は、加熱分解処理(DRB200: HACH製)後、ポータブル吸光光度計(DR1900 HACH製)によるクロモトロプ法で測定した。全リン、及び、溶存態全リンは、加熱分解処理(DRB200: HACH製)後、ポータブル吸光光度計(DR1900 HACH製)によるモリブデンブルー法で測定した。アンモニア態窒素は、ポータブル吸光光度計(DR1900 HACH製)によるサリチル酸インドフェノール吸光光度法で測定した。硝酸態窒素は、流れ分析装置(共立理化学研究所)によるナフチルエチレンジアミン吸光光度法)、亜硝酸態窒素は、流れ分析装置(共立理化学研究所)によるナフチルエチレンジアミン吸光光度法)、リン酸態リンは流れ分析装置(共立理化学研究所)によるモリブデンブルー吸光光度法でそれぞれ測定した。
その結果、消化液には、全窒素(2650mg/L)、全リン(717mg/L)溶存態全窒素(1100mg/L)、溶存態全リン(380mg/L)、アンモニア態窒素:1029mg/L)、亜硝酸態窒素(0.89mg/L)、硝酸態窒素(1.3mg/L未満)、及びリン酸態リン(157mg/L)が含まれていた。
【0062】
試験例1(メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、栄養分供給資材の圧縮強度との関係)
得られた試料A~H(厚みはいずれも1.3~4.3mmの範囲内)について、デシタルフォースゲージ(DST-500N:イマダ製)にA-2平型アタッチメントを取付け、簡易的に圧縮強度を測定した。それぞれ4回測定した数値の平均値を圧縮強度とし、以下の表1に示す。また、メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、栄養分供給資材の圧縮強度との関係を示すグラフを
図1に示す。SDは、標準偏差を意味している。
【0063】
【0064】
<考察>
表1及び
図1より、貝殻の添加量が増加するとともに圧縮強度が増加することがわかった。この結果から、貝殻からのカルシウムと、メタン発酵消化液からのケイ素とが反応したこと、及び、貝殻粉そのものが骨材として機能したことがわかる。
【0065】
また、上記試料のうち、例えば、上記試料Dの成分濃度(%)について、窒素以外の元素については、波長分散型蛍光X線分析装置(Supermini200:Rigaku製)で定量した。窒素濃度は、カキ殻及びメタン発酵消化液の全窒素濃度から算出した。
その結果、試料Dには、窒素(2.6%)、ナトリウム(0.632%)、マグネシウム(0.48%)、アルミニウム(0.195%)、ケイ素(1.05%)、リン(0.435%)、硫黄(0.36%)、塩素(1.56%)、カリウム(1.78%)、カルシウム(28.5%)、マンガン(0.0304%)、鉄(0.147%)、亜鉛(0.0174%)等が含まれていた。
【0066】
実施例2
50mL容量のディスポーザブルカップ内で、カキ殻粉(サンライム(登録商標)(粒子径1.6mm未満):丸栄株式会社製)1gに対して、メタン発酵施設(兵庫県神戸市畜産廃棄物等を利用した施設)から得られた消化液を4mL(カキ殻粉の添加量:25%)、6mL(カキ殻粉の添加量:約17%)、8mL(カキ殻粉の添加量:約13%)、又は10mL(カキ殻粉の添加量:10%)加えて混合した。
その後、それぞれのカップを、45~50℃の乾燥機内で水分が蒸発して固化するまで7~14日間程度乾燥させて、試料1~4を作製した(水分量:75~90%)。
【0067】
試験例2(メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、貝殻由来の炭酸カルシウム(カルサイト)と、栄養分供給資材のケイ酸カルシウムとの関係)
貝殻の添加量が異なる試料1~4、及びメタン発酵消化液を添加しない貝殻(試料5)について、X線吸収微細構造分析で化学形態分析を行った。その結果を表2及び
図2に示す。
【0068】
【0069】
表2及び
図2より、貝殻の添加量を増やすと、栄養分供給資材中のケイ酸カルシウムの組成比が増加した。これより、メタン発酵消化液由来のケイ酸と貝殻由来のカルシウムが反応して、ケイ酸カルシウムが生成し、固化していることがわかった。
【0070】
試験例3(メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と栄養塩の溶出量の関係)
上記実施例2で作製した試料1~4をそれぞれ0.4gずつ100mLのポリビンに入れ、人工海水(マリンアート SF-1:大阪薬研製、30psu、pH8.4)100mLを分注し、100rpm、25℃で7日間、振とうした。
7日後、人工海水のpHをコンパクトpHメーター(LAQUA twin:堀場製作所製)で測定し、及び人工海水を0.45μmのシリンジフィルターでろ過した後、ろ液中のアンモニア態窒素(サリチル酸インドフェノール吸光光度法)、硝酸態窒素(流れ分析装置によるナフチルエチレンジアミン吸光光度法)、亜硝酸態窒素(流れ分析装置によるナフチルエチレンジアミン吸光光度法)、リン酸態リン(流れ分析装置によるモリブデンブルー吸光光度法)、及び、ケイ酸態ケイ素(モリブデンブルー吸光光度法)を測定した。貝殻の添加量と栄養分供給資材からの各種栄養塩の溶出量との関係を下記表3~7及び
図3~7に示す。
【0071】
【0072】
【0073】
【0074】
【0075】
【0076】
<考察>
表3、
図3、表4、
図4、表7、及び
図7より、リン酸、アンモニア態窒素、及びケイ酸は、貝殻の添加量が少ないほど、すなわちメタン発酵消化液の含有量が多いほど溶出量が多かった。これは、リン酸、アンモニア態窒素、及びケイ酸は、メタン発酵消化液に多く含まれるためである。
一方、表5、
図5、表6、及び
図6より、亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素は、貝殻の添加量が多いほど、栄養分供給資材からの溶出量が多かった。これは、亜硝酸態窒素及び硝酸態窒素の起源が、貝殻(カキ殻)のタンパク質(コンキオリン)由来の窒素が硝化されたものと考えられるからである。
しかし、溶存無機窒素(アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素の和)の溶出量は、試料4(貝殻添加量:10%)が最も大きかった。
また、試験終了後のpHは、いずれの試料においてもpHは7.8~7.9の範囲であり、海水のpHと変わらなかった。このように、本発明の栄養分供給資材を海に投入しても、海水のpHに変化がないことから、環境に優しい材料といえる。
【0077】
試験例3の結果より、貝殻の添加量が10%である試料4が、リン酸、アンモニア態窒素、及びケイ酸態ケイ素の溶出量が最も多かった。よって、以降の試験は、貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材を用いて行った。
【0078】
試験例4(貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材からの栄養塩の経日溶出変化量)
実施例2で作製した試料4(貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材)2gを500mLのポリカーボネート製フラスコに入れ、人工海水(マリンアートSF-1:大阪薬研製を予め、30psu、pH8.4に調製)500mLを分注し、100rpm、25℃で振とうした。
経日的に人工海水をサンプリングし、0.45μmのシリンジフィルターでろ過した後、ろ液中のアンモニア態窒素(サリチル酸インドフェノール吸光光度法)、硝酸態窒素(流れ分析装置によるナフチルエチレンジアミン吸光光度法)、亜硝酸態窒素(流れ分析装置によるナフチルエチレンジアミン吸光光度法)、リン酸態リン(流れ分析装置によるモリブデンブルー吸光光度法)、及び、ケイ酸態ケイ素(モリブデンブルー吸光光度法)を測定した。
7日後の人工海水のpHをコンパクトpHメーター(LAQUA twin:堀場製作所製)で測定した。
また、栄養分供給資材を添加しない区を比較例区として、同様に試験を行った。栄養分供給資材からの各種栄養塩の溶出挙動を表8及び
図8~12に示す。
【0079】
【0080】
<考察>
表8、
図8、
図9、及び
図12より、リン酸、アンモニア態窒素、及びケイ酸は、試験開始から7日間で顕著に溶出し、リン酸及びアンモニア態窒素は、試験開始から14日で平衡に達した。
一方、
図9、
図10、及び
図11より、溶存態無機窒素(アンモニア態窒素、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素)の溶出量を比較すると、アンモニア態窒素に比べて、亜硝酸態窒素、及び硝酸態窒素の溶出量が少なかった。アンモニア態窒素は、植物プランクトンに取り込まれてから直接利用できるため、溶存態無機窒素の主たる組成がアンモニア態窒素であることは、貧栄養海域の肥沃化の観点から好ましいといえる。また、通常メタン発酵消化液中で不安定なアンモニア態窒素が、栄養分供給資材から溶出したことから、アンモニア態窒素が安定的に栄養分供給資材中に保持できていることがわかった。
【0081】
試験例5(貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材による微細藻類増殖試験)
実施例2で作製した試料4(貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材)0.6gを300mLのポリスチレン製細胞培養用フラスコに入れ、広島県東広島市安芸津町で採取した自然海水150mLを分注し、人工気象器内で、光強度100μmol・s/m
2、25℃で培養した。
光学顕微鏡による観察により、自然海水中の植物プランクトンの優占種は、スケレトネマ、ニッチア、及び、ナビキュラであった。
経日的に自然海水をサンプリングし、蛍光強度を蛍光光度計(Trilogy: TURNER製)で測定し、in vivoクロロフィルa濃度を求めた。
また、最大の細胞数を、予め作製した蛍光強度と顕微鏡下で計数した細胞数の関係を示す検量線から求めた。なお、本発明の栄養分供給資材を添加しない試験区を比較例区として、同様に試験を行った。自然海水中のクロロフィルa濃度の経日変化の結果を表9及び
図13に示す。
【0082】
【0083】
<考察>
試験開始時の自然海水中のクロロフィルa濃度は、0.35μg/Lであったが、本発明の栄養分供給資材添加区では、6日後に42.91μg/Lまで上昇した。一方、比較例区(本発明の栄養分供給資材無添加区)では、6日後にクロロフィルa濃度は最大の12.98μg/Lに達した。
また、本発明の栄養分供給資材添加区の植物プランクトンの最大の細胞密度は3.8×107cells/Lであり、比較例区の植物プランクトンの最大の細胞密度は1.7×106cells/Lであった。これより、本発明の栄養分供給資材を添加すると、栄養分供給資材を添加しない比較例区に比べて植物プランクトンの細胞数が22倍になったことがわかる。
これらの結果より、本発明の栄養分供給資材から溶出する栄養塩を利用して植物プランクトンの増殖が促進されたことが明らかになった。なお、本発明の栄養分供給資材添加区では8日目以降で、比較例区では6日目以降で、クロロフィルa濃度が減少した。これは、試験に自然海水を用いたため、植物プランクトンを捕食する動物プランクトンも培養器内に入っており、動物プランクトンの増殖によって、植物プランクトンが捕食されたことが原因であると考えられた。
【0084】
試験例6(本発明の栄養分供給資材による微細藻類増殖の制御)
(1)メタン発酵消化液に対する貝殻の添加量と、微細藻類の増殖速度との関係
試験例3における栄養分供給資材からの栄養塩溶出試験で得られた7日目のリン酸態リンの濃度を用いて、沿岸域に生息する一般的な珪藻類であるスケレトネマの比増殖速度を、参考文献1(西島ら(1990)水質汚濁研究13、 173-179.)の栄養塩要求試験の結果に基づき、下記式(2)で表されるミカエリス・メンテン式より計算した。
式(2):μ=μmax×C/(Ks+C)
(式中:
μ:比増殖速度(d-1);
Ks:半飽和定数(mg-PL-1)=0.03;
μmax:最大比増殖速度(d-1)=0.78;
C:リン酸態リン濃度 (mg-PL-1))
【0085】
また、貝殻の添加量が10%の本発明の栄養分供給資材について、海水に対して、本発明の栄養分供給資材の添加量を変化させた場合の7日後の液相中のリン酸態リンの理論的な濃度を試験例3から見積もり、それらの濃度について、式(2)に基づいて、スケレトネマの比増殖速度を計算した。その結果を表10に示す。貝殻の添加量を変化させた栄養分供給資材から溶出する栄養塩によるスケレトネマの比増殖速度の理論的な計算値を表10及び
図14に示す。
【0086】
【0087】
<考察>
試験例3では、貝殻の添加量が少ない方が栄養塩の溶出量が多いという結果であったが、微細藻類の増殖速度に関しては、貝殻の添加量が10~25%である栄養分供給資材(試料1~4)は、いずれもスケレトネマの比増殖速度が0.74~0.77d-1で、ほぼ最大の増殖速度が得られた。この結果から、貝殻の添加量が10~25%である栄養分供給資材は、栄養分供給資材の海水への添加量が4g/Lの条件では、いずれもスケレトネマが増殖するために必要な栄養塩を溶出することができることがわかった。
【0088】
(2)栄養分供給資材の添加量と、微細藻類の増殖速度との関係
微細藻類の増殖速度を制御するために、海水に添加する栄養分供給資材の量を変化させることが考えられる。
貝殻添加量10%の栄養分供給資材について、海水への添加量を変化させた場合の理論的なリン酸態リンの溶出量から、スケレトネマの比増殖速度を計算した。その結果を
図15に示す。
【0089】
<考察>
栄養分供給資材を海水に添加しない場合、スケレトネマの比増殖速度は0.062d-1であり、微細藻類はほとんど生育しない。貝殻添加量10%の栄養分供給資材を0.4g/Lの割合で添加すると、比増殖速度が0.65d-1へ上昇した(栄養分供給資材無添加の場合の約10倍)。さらに、貝殻添加量10%の栄養分供給資材を4g/Lの割合で添加すると、比増殖速度が0.76d-1へと上昇し、ほぼ最大増殖速度に達した。
これらの結果より、海水に添加する栄養分供給資材の量を変化させることによって、微細藻類の増殖速度を制御することができることがわかった。
【0090】
実施例3
神戸市内の畜産系廃棄物のメタン発酵消化液600mL、及びカキ殻粉(サンライム(登録商標)(粒子径1.6mm未満):丸栄株式会社製)60gを、700mLの円形のディスポーザブルカップ内で混合し、50℃の乾燥機で水分を蒸発させ、栄養分供給資材を作製した。
また、比較例区用の比較試料として、純水600mL及び高炉セメントB種60gを、700mLの円形のディスポーザブルカップ内で混合し、50℃の乾燥機で水分を蒸発させ、比較例区用の比較試料を作製した。
【0091】
試験例6(本発明の栄養分供給資材によるカキの生育試験)
栄養分供給資材から溶出する栄養塩でカキが生育するかを検証した。
40cm×30cm×20cm(24L)の水槽に、広島県竹原市地先の自然海水を砂ろ過し、海水交換率が2回転/日となるように常時かけ流した。実施例区には、水槽の底に実施例3で製造した栄養分供給資材を3個設置した。比較例区には、水槽の底に比較試料を3個設置した。また、実施例区及び比較例区について、広島県産の1齢カキを10個体投入した試験区と、カキを投入しない試験区をそれぞれ設けた。試験区の詳細は以下の通りである。
【0092】
・実施例区1:栄養分供給資材
・実施例区2:栄養分供給資材+カキ
・比較例区1:比較試料
・比較例区2:比較試料+カキ
【0093】
それぞれの実験は3連で行った。実験開始から3週間目以降からは、気温上昇に伴う水槽内の溶存酸素濃度の不足が予測されたことから、エアーストーンを用いてエアレーションを行った。さらに、実験開始から5週間目にそれぞれの水槽に栄養分供給資材又は比較試料を3個追加した。
定期的に、直上水の塩分、及び水温を測定し、0.45μmのシリンジフィルターでろ過した後、溶存態のリン酸イオン及び硝酸イオンをフローインジェクション分析(流れ分析装置:共立理化学研究所)で、アンモニウムイオンをサリチル酸変法を用いた吸光光度法(DR 1900:HACH)で、及び、亜硝酸イオンをナフチルエチレンジアミン吸光光度法(UV-2600:島津製作所)でそれぞれ測定した。また、直上水500mLをガラス繊維ろ紙(GF/F:Whatman)でろ過し、クロロフィルを捕捉し、冷暗所でアセトン抽出した後、クロロフィルa濃度(Trilogy: Turner designs)を測定した。カキの殻の長さ及びカキの殻の高さをノギスで測定した。また、カキの質量を、カキ殻に付着している藻類をたわしで除去した後に測定した。
【0094】
各試験区のアンモニア態窒素濃度の経日変化を表11及び
図16に示す。
【0095】
【0096】
表11及び
図16より、実施例区1及び2では、比較例区1及び2に比べて、アンモニア態窒素濃度が高かった。34日目において、水槽内に藻類が繁茂し、アンモニア態窒素が藻類の増殖に使用され、枯渇したと考えられた。以降、栄養分供給資材を追加すると、48日目では、再び、実施例区1及び2では、比較例区1及び2に比べてアンモニア態窒素濃度が高かった。以上より、栄養分供給資材からアンモニア態窒素が溶出し、水槽内の海水のアンモニア態窒素濃度を上昇させたと考えられる。
なお、データは示さないが、実施例区1及び2においては、栄養分供給資材から硝酸態窒素及び亜硝酸態窒素が溶出したことが確認された。
【0097】
次に、各試験区のリン酸態リン濃度の経日変化を表12及び
図17に示す。
【0098】
【0099】
表12及び
図17より、試験期間を通して、実施例区1及び2では、比較例区1及び2に比べて、リン酸態リンの濃度が高かった。以上より、栄養分供給資材からリン酸態リンが溶出し、水槽内の海水のリン酸態リン濃度を上昇させたと考えられる。
【0100】
次に、各試験区のケイ酸態ケイ素濃度の経日変化を表13及び
図18に示す。
【0101】
【0102】
表13及び
図18より、試験期間を通して、実施例区1及び2では、比較例区1及び2に比べて、ケイ酸態ケイ素の濃度が高かった。以上より、栄養分供給資材からケイ酸態ケイ素が溶出し、水槽内の海水のケイ酸態ケイ素濃度を上昇させたと考えられる。
【0103】
各試験区のクロロフィルa濃度の経日変化を、表14及び
図19に示す。
【0104】
【0105】
表14及び
図19より、試験期間を通して、実施例区1及び2では、比較例区1及び2に比べて、クロロフィルa濃度が高かった。これは、栄養分供給資材から溶出した栄養塩を利用して、植物プランクトンが増殖したことを示している。
【0106】
実験開始から91日間のカキの重量ベースの相対成長率を表15及び
図20に示し、カキ殻の高さの相対成長率を表16及び
図21に示す。
【0107】
【0108】
【0109】
表15~16及び
図20~21より、実施例区2では、比較例区2に比べて、カキの重量及びカキ殻の高さの増加が認められた。これより、カキの成長が示唆された。
【0110】
試験例7(本発明の栄養分供給資材による悪臭ガスの脱臭試験)
メタン発酵消化液及び栄養分供給資材から発生する悪臭ガスを代表して、硫化水素、アンモニア、アミン類、メルカプタン類、プロピオンアルデヒド及びメチルエチルケトンの脱臭試験を以下の方法で行った。
メタン発酵消化液の液面付近に、硫化水素検知管(No.4LK:株式会社ガステック製)アンモニア検知管(No.3L:株式会社ガステック製)、アミン類検知管(No.180:株式会社ガステック製)、メルカプタン類検知管(No.70L:株式会社ガステック製)、プロピオンアルデヒド(No.151L:株式会社ガステック製)及びメチルエチルケトン(No.151L:株式会社ガステック製)を近づけ、それぞれの濃度を測定した。
メタン発酵消化液から発生する硫化水素の濃度は4ppmであり、アンモニアの濃度は15ppmであり、アミン類の濃度は200ppmであり、メルカプタン類の濃度は0.05ppm未満であり、プロピオンアルデヒドの濃度は2.4ppm未満であり、メチルエチルケトンの濃度は2.1ppm未満であった。なお、これらの悪臭ガスの濃度は、メタン発酵消化液の種類、メタン発酵条件、メタン発酵の基質等によって変動する。
同様に、実施例2で作製した試料4(貝殻の添加量が10%である栄養分供給資材)の表面に、それぞれの検知管を近づけ、悪臭ガス濃度を測定したところ、硫化水素の濃度は0.25ppm未満であり、アンモニアの濃度は0.2ppm未満であり、アミン類の濃度は0.5ppm未満であり、メルカプタン類の濃度は0.05ppm未満であり、プロピオンアルデヒドの濃度は2.4ppm未満であり、メチルエチルケトンの濃度は2.1ppm未満であった。
これらの結果より、メタン発酵消化液を栄養分供給資材とすることで、硫化水素等の悪臭ガス等の発生が抑制されることがわかった。