IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱レイヨン株式会社の特許一覧

特開2023-177034電子写真感光体保護層形成用塗布液及び電子写真感光体
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177034
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】電子写真感光体保護層形成用塗布液及び電子写真感光体
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/147 20060101AFI20231206BHJP
   G03G 5/05 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G03G5/147 503
G03G5/147 502
G03G5/05 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089714
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】安藤 明
【テーマコード(参考)】
2H068
【Fターム(参考)】
2H068AA03
2H068AA04
2H068AA08
2H068BA60
2H068BB07
2H068BB08
2H068CA06
2H068CA22
2H068CA29
2H068CA37
2H068EA14
2H068FA03
(57)【要約】
【課題】連鎖重合性化合物、フィラー及び溶媒を含有する電子写真感光体保護層形成用塗布液におけるフィラーの分散性を高め、この電子写真感光体保護層形成用塗布液を用いて製造された電子写真感光体の優れた電気特性と像流れ抑制の両立を図ることができる電子写真感光体保護層形成用塗布液を提供する。
【解決手段】連鎖重合性化合物、フィラー及び溶媒を含有し、かつ、酸価が0.25mgKOH/g以下であることを特徴とする電子写真感光体保護層形成用塗布液。導電性支持体上に少なくとも感光層と保護層とを順次有し、前記保護層が、この電子写真感光体保護層形成用塗布液から形成された層であることを特徴とする電子写真感光体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
連鎖重合性化合物、フィラー及び溶媒を含有し、かつ、酸価が0.25mgKOH/g以下であることを特徴とする電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【請求項2】
前記連鎖重合性化合物が、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有することを特徴とする、請求項1に記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【請求項3】
前記フィラーが、シリカ、酸化チタン、酸化スズ及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【請求項4】
前記溶媒がアルコール類を含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【請求項5】
前記酸価が0.01mgKOH/g以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【請求項6】
導電性支持体上に少なくとも感光層と保護層とを順次有し、前記保護層が、請求項1又は2に記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液から形成された層であることを特徴とする電子写真感光体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複写機やプリンター等に用いられる電子写真感光体の保護層形成用塗布液に関する。本発明はまた、この電子写真感光体保護層形成用塗布液を用いた電子写真感光体に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術は、高速で高品質な画像が得られること等から、複写機、プリンター、複合機、デジタル印刷等の分野で広く使われている。電子写真技術の中核となる電子写真感光体(以下、単に「感光体」ともいう)については、無公害で成膜が容易、製造が容易である等の利点を有する有機系の光導電物質を使用した感光体が主に使用されている。
【0003】
電子写真感光体は、電子写真プロセス、即ち、帯電・露光・現像・転写・クリーニング・除電等のサイクルで繰返し使用されるため、その間に様々なストレスを受けて劣化する。特に、クリーニングブレード、磁気ブラシ等の摺擦、現像剤、紙との接触等による感光層表面の摩耗、傷の発生、膜の剥がれ等の機械的劣化による損傷は、画像上に現れやすく直接画像品質を損なうため、感光体の寿命を低下させる大きな要因となっている。
【0004】
感光体表面の機械的強度ないし耐摩耗性を改良する技術としては、感光体の最表層にバインダー樹脂として連鎖重合性官能基を有する化合物(連鎖重合性化合物)を含有する保護層形成用塗布液を塗布し、これに熱や光、放射線などのエネルギーを与えることで連鎖重合性化合物を重合させて保護層を形成することが行われている。
また、保護層の耐摩耗性向上効果をさらに高めるために保護層にフィラー(金属酸化物粒子など)を含有させることも行われている。
【0005】
従来、電子写真感光体の保護層又は保護層形成用塗布液については、種々提案がなされており、例えば、特許文献1には、繰り返し使用時の耐摩耗性、電気特性等を高めるために、電子写真感光体の最表面層として、芳香環を有する電荷輸送性化合物の芳香環にメチロール基を3個以上有する化合物と、特定の電荷輸送性化合物とを酸触媒により重合した3次元架橋膜であって、無機フィラーと酸性分散剤を含有する膜を形成することが提案されている。
特許文献2には、耐摩耗性及び電気特性の両立を目的として、電子写真感光体の感光層の表面に、ラジカル重合性化合物を含む、酸価が0.2(mgKOH/g)以下の塗工液を塗工して光硬化させることが提案されている。
特許文献3には、長期間の繰り返し使用に対しても高耐久性を有し、高画質画像が安定に得られる電子写真感光体を提供することを目的として、感光層上に、フィラーと酸価が10~400(mgKOH/g)の有機化合物と、特定のジアミン化合物を含有する表面保護層を形成することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2013-54088号公報
【特許文献2】特開2008-51852号公報
【特許文献3】特開2011-65067号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
電子写真感光体の保護層にフィラーを含有させる場合、保護層形成用塗布液の状態においてフィラーの分散性が悪いと、塗布液の安定性が低下してしまう問題があった。また、感光体自体の特性としても、優れた電気特性と像流れ抑制の両立が難しいという問題があった。
像流れとは、未露光部から露光部へ電荷が動くことにより、像を形成している露光部と未露光部のコントラストが低下して像がボケる現象である。
【0008】
本発明者の検討により、塗布液中でのフィラー分散性の悪化の原因は、次のように推察された。
塗布液中に含まれる連鎖重合性化合物から遊離した酸性化合物(例えば、アクリレート化合物またはメタクリレート化合物から遊離したアクリル酸またはメタクリル酸)とフィラー表面の塩基性部位とが反応し、フィラー表面の電荷が中和される。その結果、フィラー同士の静電反発力が弱くなり、フィラーが凝集したり沈降したりすることでフィラー分散性が悪化する。
即ち、保護層形成用塗布液のフィラーの分散性の悪さは、連鎖重合性化合物とフィラーとを含む塗布液に特有の課題であるが、特許文献1,3では連鎖重合性化合物を用いておらず、特許文献2ではフィラーを用いておらず、いずれも本発明における課題の認識はない。
【0009】
本発明は、連鎖重合性化合物、フィラー及び溶媒を含有する電子写真感光体保護層形成用塗布液におけるフィラーの分散性を高め、この電子写真感光体保護層形成用塗布液を用いて製造された電子写真感光体の優れた電気特性と像流れ抑制の両立を図ることができる電子写真感光体保護層形成用塗布液を提供することを目的とする。本発明はまた、この電子写真感光体保護層形成用塗布液を用いて保護層を形成することで、優れた電気特性と像流れ抑制の両立を図ることができる電子写真感光体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ね、電子写真感光体保護層形成用塗布液の酸価を所定値以下に調整することで、塗布液中のフィラーの分散性を高め、得られる電子写真感光体の優れた電気特性と像流れ抑制の両立を図ることができることを見出し、本発明に至った。
【0011】
本発明の要旨は、以下の[1]~[6]に存する。
【0012】
[1] 連鎖重合性化合物、フィラー及び溶媒を含有し、かつ、酸価が0.25mgKOH/g以下であることを特徴とする電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【0013】
[2] 前記連鎖重合性化合物が、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有することを特徴とする、[1]に記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【0014】
[3] 前記フィラーが、シリカ、酸化チタン、酸化スズ及び酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含むことを特徴とする、[1]又は[2]に記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【0015】
[4] 前記溶媒がアルコール類を含むことを特徴とする、[1]~[3]のいずれかに記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【0016】
[5] 前記酸価が0.01mgKOH/g以上であることを特徴とする、[1]~[4]のいずれかに記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液。
【0017】
[6] 導電性支持体上に少なくとも感光層と保護層とを順次有し、前記保護層が、[1]~[5]のいずれかに記載の電子写真感光体保護層形成用塗布液から形成された層であることを特徴とする電子写真感光体。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、連鎖重合性化合物、フィラー及び溶媒を含有する電子写真感光体保護層形成用塗布液の酸価を所定値以下とすることにより、この塗布液中のフィラーの分散性を高め、この電子写真感光体保護層形成用塗布液を用いて製造される電子写真感光体の優れた電気特性と像流れ抑制の両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を実施するための形態(以下、発明の実施の形態)について詳細に説明する。尚、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することが出来る。
【0020】
本発明において「X~Y」(X,Yは任意の数字)と表現する場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含する。
また、「X以上」(Xは任意の数字)或いは「Y以下」(Yは任意の数字)と表現した場合、「Xより大きいことが好ましい」或いは「Y未満であることが好ましい」旨の意図も包含する。
【0021】
[電子写真感光体保護層形成用塗布液]
本発明の実施形態の一例に係る電子写真感光体保護層形成用塗布液(「本保護層形成用塗布液」又は「本塗布液」とも称する)は、連鎖重合性化合物、フィラー及び溶媒を含有し、かつ酸価が0.25mgKOH/g以下であることを特徴とする。
【0022】
<メカニズム>
前述の通り、保護層形成用塗布液中でのフィラー分散性の悪化の原因は、塗布液中に含まれる連鎖重合性化合物から遊離した酸性化合物(例えば、アクリレート化合物またはメタクリレート化合物から遊離したアクリル酸またはメタクリル酸)とフィラー表面の塩基性部位とが反応し、フィラー表面の電荷が中和される結果、フィラー同士の静電反発力が弱くなり、フィラーが凝集したり沈降したりすることによる。
本発明によれば、保護層形成用塗布液の酸価を所定値以下に調整することで、上記のフィラー表面の電荷の中和が抑制され、フィラー同士の静電反発力を維持して、フィラーの凝集、沈降を防止し、良好なフィラー分散状態を維持することができる。
このため、本塗布液を用いて保護層を形成した電子写真感光体は、優れた電気特性と像流れ抑制の両立が可能となる。
【0023】
<酸価>
一実施形態に係る本塗布液の酸価は0.25mgKOH/g以下であることを特徴とする。
酸価が0.25mgKOH/gを超えると塗布液中のフィラーの凝集、沈殿を抑制することができず、本発明の目的(塗布液中のフィラーの分散性の向上)を達成し得ない。フィラーの分散性の向上の観点から、本塗布液の酸価は0.15mgKOH/g以下であることが好ましく、0.70mgKOH/g以下であることがより好ましい。
一方、本塗布液の酸価の下限には特に制限はないが、精製が困難であることから、通常0.01mgKOH/g以上である。
【0024】
なお、塗布液の酸価は、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される。
【0025】
本塗布液の酸価を上記上限以下とするためには、塗布液の調製に用いる材料として酸価の低いものを用いる;調製された塗布液の保管時に、連鎖重合性化合物からの酸性化合物の遊離を防止するように、低温(例えば-50~15℃)で保管する;酸成分を中和する;塩基性化合物を添加する;などの工夫を採用することが挙げられる。
【0026】
<連鎖重合性化合物>
本塗布液に含まれる連鎖重合性化合物としては連鎖重合性官能基を有するものであればよく、例えば、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基、エポキシ基、オキセタン基を有する化合物等が挙げられる。
これらのうち、硬化性の観点から、アクリロイル基またはメタクリロイル基を有する化合物が好ましく、硬化性の観点から、多官能アクリレート又は多官能メタクリレートがより好ましい。
中でも、酸性ガス等に対する耐性が高く、印刷回数を重ねた場合の像流れの発生も抑制できる観点から、多官能メタクリレートが特に好ましい。
即ち、多官能メタクリレートは、多官能アクリレートに比べて酸性ガスなどに対する耐性が高い。連鎖重合性化合物として、多官能アクリレートを用いた場合、形成される保護層は、印刷回数を重ねるうちに、帯電器等から発生する酸性ガスなどによって劣化して像流れが発生し易い。これに対して、多官能メタクリレートを使用すると、印刷回数を重ねた場合でも像流れの発生を抑制することができる。
【0027】
多官能アクリレートとしては、例えば、ウレタンアクリレート、アルキルアクリレート、ヒドロキシル基含有アルキルアクリレート、ポリエチレングリコールアクリレート、ポリプロピレングリコールアクリレート、ポリテトラメチレングリコールアクリレート、ジオキサンアクリレート、トリシクロデカノールアクリレート、フルオレンアクリレート、アルコキシ化ビスフェノールAアクリレート、(アルコキシ化)トリメチロールプロパンアクリレート、(アルコキシ化)グリセリンアクリレート、(カプロラクトン変性)イソシアヌレートアクリレート、(アルコキシ化)ペンタエリスリトールアクリレート、(アルコキシ化)ジトリメチロールプロパンメタクリレート、(アルコキシ化)ジペンタエリスリトールメタクリレート、ポリペンタエリスリトールポリアクリレート、デンドリチックポリマーアクリレート等を挙げることができる。この中でも、ウレタンアクリレート、(アルコキシ化)トリメチロールプロパンアクリレート、(アルコキシ化)ペンタエリスリトールアクリレート、(アルコキシ化)ジペンタエリスリトールアクリレートが好ましく、ウレタンアクリレート、(アルコキシ化)ペンタエリスリトールアクリレートがより好ましい。
【0028】
多官能メタクリレートとしては、例えば、ウレタンメタクリレート、アルキルメタクリレート、ヒドロキシル基含有メタクリレート、ポリエチレングリコールメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート、トリシクロデカノールメタクリレート、エトキシ化ビスフェノールAメタクリレート、(アルコキシ化)トリメチロールプロパンメタクリレート、エトキシ化グリセリンメタクリレート、(アルコキシ化)ペンタエリスリトールメタクリレート、(アルコキシ化)ジトリメチロールプロパンメタクリレート、(アルコキシ化)ジペンタエリスリトールメタクリレートなどを挙げることができる。この中でも、ウレタンメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレート、(アルコキシ化)ペンタエリスリトールメタクリレート、(アルコキシ化)ジペンタエリスリトールメタクリレートが好ましく、ウレタンメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレートがより好ましい。
【0029】
多官能メタクリレートの官能基数は、硬度の観点から2官能以上であるのが好ましく、弾性変形率の観点から3官能以上がより好ましい。一方、10官能以下であるのが好ましく、硬化度の観点から8官能以下であるのがより好ましく、硬化度の観点から6官能以下であるのがより好ましい。
【0030】
これらの連鎖重合性化合物は1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0031】
<フィラー>
本塗布液が含有するフィラーとしては、金属酸化物粒子、樹脂粒子が挙げられる。電気特性の観点から、これらのうち金属酸化物粒子が好ましい。金属酸化物粒子であれば、形成される保護層中の電荷輸送性、すなわち、保護層と感光層の界面から保護層表面への電荷輸送性(垂直方向の電荷輸送性)を高めることができ、電子写真感光体の電気特性を高めることができる。
【0032】
金属酸化物粒子としては、通常、電子写真感光体に使用可能な如何なる金属酸化物粒子も使用することができる。
金属酸化物粒子としては、例えばシリカ、酸化チタン、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、酸化インジウムスズ、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の金属酸化物の粒子を挙げることができる。これら金属酸化物粒子は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの金属酸化物粒子の中でも、電子輸送性の観点から、シリカ、酸化チタン、酸化スズ、酸化インジウムスズ、酸化亜鉛が好ましく、より好ましくはシリカ、酸化チタン、酸化スズ、酸化亜鉛であり、さらに好ましくは酸化チタン及び酸化スズである。中でも、像流れ抑制及び電気特性のバランスを取りやすい観点から、特に酸化チタンが好ましい。
【0033】
樹脂粒子としては、例えばポリスチレン粒子、アクリル樹脂粒子、メタクリル樹脂粒子、スチレン-アクリル樹脂粒子、メラミン樹脂粒子、シリコーン樹脂粒子、ポリシルセスキオキサン粒子、ポリアミドイミド粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子、および、これらを核として金属酸化物粒子で表面を修飾したコア-シェル型粒子を挙げることができる。これら樹脂粒子は、1種のみを用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
これらの樹脂粒子の中でも、耐摩耗性の観点から、シリコーン粒子、ポリシルセスキオキサン粒子、ポリテトラフルオロエチレン粒子が好ましい。
【0034】
前記酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また、これらの結晶状態の異なるものから、複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
【0035】
前記フィラーは、その表面に種々の表面処理を行ってもよい。例えば、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、またはステアリン酸、ポリオール、有機金属化合物等の有機物による処理を施していてもよい。その中でも、有機金属化合物により表面処理されていることが好ましい。
かかる有機金属化合物としては、有機珪素化合物、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、有機アルミニウム化合物などを挙げることができる。中でも、有機珪素化合物が好ましい。
有機珪素化合物としては、例えばジメチルポリシロキサン、末端に反応基を有するジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン等のシリコーンオイル、メチルジメトキシシラン、ジフェニルジジメトキシシラン等のオルガノシラン、ヘキサメチルジシラザン等のシラザン、3-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン等のシランカップリング剤、フェニル基含有シランカップリング剤等を挙げることができる。
特に、疎水性を付与しやすい観点から、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルジメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン、末端に反応基を有するジメチルポリシロキサンが好ましく、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルジメトキシシランがより好ましく、メチルジメトキシシランがさらに好ましい。
【0036】
フィラーの平均一次粒子径は、本塗布液の安定性の観点から250nm以下、特に20nm以上100nm以下、とりわけ20nm以上70nm以下であることが好ましい。
ここで、フィラーの平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(Scanning electron microscope 以下、SEMとも称する)や透過型電子顕微鏡(Transmission electron microscope 以下、TEMとも称する)により直接観察される粒子の径の算術平均値によって求めることが可能である。この際、少なくとも5個以上の粒子の平均であるのが好ましい。また、粒子が非球形の場合は、最長径と最短径を測定し、その平均値を当該粒子の粒子径とする。
【0037】
<溶媒>
本塗布液に用いる溶媒としては、有機溶媒を用いることができる。
前記有機溶媒としては、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類;ギ酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール等の芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類;n-ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類;アセトニトリル、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等を挙げることができる。これらの中から任意の組み合わせ及び任意の割合の混合溶媒を用いることもできる。その中でも、溶解性及び塗布性の観点から、アルコール類、エーテル類、芳香族炭化水素類、非プロトン性極性溶剤類が好ましく、アルコール類、エーテル類、芳香族炭化水素類がより好ましく、アルコール類、エーテル類がさらに好ましく、アルコール類が最も好ましい。
【0038】
溶媒は、単独では、本塗布液に含まれる物質を溶解しない有機溶媒であっても、例えば、上記の有機溶媒との混合溶媒とすることで溶解可能であれば使用することができる。一般に、混合溶媒を用いた方が塗布ムラを少なくすることができる。特に後述の塗布方法において浸漬塗布法を用いる場合、下層を溶解しない溶媒を選択することが好ましい。この観点から、溶媒は、アルコール類を含有することが好ましい。
【0039】
混合溶媒の一例として、メタノール、プロパノール等のアルコールとトルエン等の芳香族炭化水素系溶媒との混合溶媒が挙げられる。このような混合溶媒において、その混合比は質量比で、アルコール/芳香族炭化水素系溶媒=60~40/100~0とすることが感光層の溶解を抑制する観点から好ましい。
【0040】
<その他の材料>
本塗布液は、上記材料の他に、必要に応じてその他の材料を含んでいてもよい。その他の材料としては、例えば、電荷輸送能を高める観点から、電荷輸送物質を含有してもよいし、また、重合反応を促進するため、重合開始剤を含有してもよい。さらに必要に応じて、例えば安定剤(熱安定剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤など)、分散剤、帯電防止剤、着色剤、潤滑剤などを挙げることができる。これらは適宜1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
【0041】
(電荷輸送物質)
本塗布液に含有させることができる電荷輸送物質は、後述する本感光層に用いられる電荷輸送物質と同様のものを用いることができる。
【0042】
また、感光体表面のマルテンス硬さを向上させる観点から、本塗布液には、連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質を用い、これを重合させてなる構造を保護層に含有させるようにしてもよい。
連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質の連鎖重合性官能基としては、アクリロイル基、メタクリロイル基、ビニル基及びエポキシ基を挙げることができる。この中でも硬化性の観点から、アクリロイル基またはメタクリロイル基が好ましい。連鎖重合性官能基を有する電荷輸送物質の電荷輸送物質部分の構造としては、カルバゾール誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びエナミン誘導体並びにこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましい。
【0043】
前記電荷輸送物質は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0044】
(重合開始剤)
重合開始剤としては、熱重合開始剤、光重合開始剤等が挙げられる。
【0045】
熱重合開始剤としては、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロパーオキサイドなどの過酸化物系化合物、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)などのアゾ系化合物を挙げることができる。
【0046】
光重合開始剤は、ラジカル発生機構の違いにより、直接開裂型と水素引き抜き型に分類できる。
【0047】
直接開裂型の光重合開始剤としては、アセトフェノン、2-ベンゾイル-2-プロパノール、1-ベンゾイルシクロヘキサノール、2,2-ジエトキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、2-メチル-4’-(メチルチオ)-2-モルフォリノプロピオフェノン、などのアセトフェノン系またはケタール系化合物、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、O-トシルベンゾイン、などのベンゾインエーテル系化合物、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、フェニルビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフィンオキサイド、リチウムフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フォスフォネート、などのアシルフォスフィンオキサイド系化合物を挙げることができる。
【0048】
水素引き抜き型の光重合開始剤としては、ベンゾフェノン、4-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸、2-ベンゾイル安息香酸メチル、ベンゾイルぎ酸メチル、ベンジル、p-アニシル、2-ベンゾイルナフタレン、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、1,4-ジベンゾイルベンゼン、などのベンゾフェノン系化合物、2-エチルアントラキノン、2-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、などのアントラキノン系またはチオキサントン系化合物等を挙げることができる。その他の光重合開始剤としては、カンファーキノン、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(o-エトキシカルボニル)オキシム、アクリジン系化合物、トリアジン系化合物、イミダゾール系化合物等を挙げることができる。
【0049】
光重合開始剤は、効率的に光エネルギーを吸収してラジカルを発生させるために、光照射に用いられる光源の波長領域に、吸収波長を有することが好ましい。
【0050】
ラジカル発生効率の低下を防止する観点から、光重合開始剤の中でも比較的長波長側に吸収波長を有する、アシルフォスフィンオキサイド系化合物を含有することが好ましい。
この場合、形成される保護層の硬化性を補う観点から、アシルフォスフィンオキサイド系化合物と水素引き抜き型開始剤とを併用することがさらに好ましい。アシルフォスフィンオキサイド系化合物に対する水素引き抜き型開始剤の含有割合は特に限定されるものではないが、表面硬化性を補う観点から、アシルフォスフィンオキサイド系化合物1質量部に対し、水素引き抜き型開始剤を0.1質量部以上含有するのが好ましく、内部硬化性を維持する観点から、5質量部以下の割合で含有するのが好ましい。
【0051】
また、光重合促進効果を有するものを単独または上記光重合開始剤と併用して用いることもできる。光重合促進効果を有するものとしては、例えばトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミン、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、安息香酸(2-ジメチルアミノ)エチル、4,4’-ジメチルアミノベンゾフェノンなどを挙げることができる。
【0052】
前記重合開始剤は1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0053】
<各成分の含有割合>
本塗布液における連鎖重合性化合物の含有量は、形成される保護層の膜均一性の観点から、溶媒100質量部に対して1質量部以上が好ましく、2質量部以上がより好ましく、4質量部以上がさらに好ましい。一方、溶解性の観点から、溶媒100質量部に対して30質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、15質量部以下がさらに好ましい。
【0054】
本塗布液におけるフィラーの含有量は、形成される保護層の耐摩耗性および電気特性の観点から、連鎖重合性化合物100質量部に対して10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。一方、分散の安定性の観点から、連鎖重合性化合物100質量部に対して300質量部以下が好ましく、200質量部以下がより好ましく、150質量部以下がさらに好ましい。
【0055】
本塗布液が重合開始剤を含有する場合、その含有量は、形成される保護層の膜均一性の観点から、連鎖重合性化合物100質量部に対して0.3質量部以上が好ましく、1質量部以上がより好ましく、3質量部以上がさらに好ましい。一方、溶解性の観点から、連鎖重合性化合物100質量部に対して20質量部以下が好ましく、10質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。
【0056】
本塗布液が電荷輸送物質を含有する場合、その含有量は、電気特性の観点から、連鎖重合性化合物100質量部に対して10質量部以上が好ましく、20質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましい。一方、硬化性の観点から、連鎖重合性化合物100質量部に対して90質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましい。
【0057】
本塗布液の固形分濃度は、本塗布液の塗布方法により異なり、適用する塗布方法において均一な塗膜が形成されるように適宜変更して用いればよいが、通常、5~40質量%程度である。ここで、固形分とは、本塗布液中の溶媒以外の全成分の合計をさす。
【0058】
<本塗布液の調製方法>
本塗布液は、前述の溶媒に、連鎖重合性化合物、フィラー、必要に応じて用いられる重合開始剤や電荷輸送物質を添加混合することで調製することができる。
この際、フィラーについては別途表面処理及び分散処理を施したフィラー分散液として他の成分と混合することもできる。
【0059】
[保護層の形成方法]
本塗布液を用いて保護層を形成する方法について説明する。
本塗布液による保護層(「本保護層」と称する。)は、本塗布液を保護層の下層となる層(通常は感光層)上に本塗布液を塗布し、形成された塗膜を硬化させることにより形成することができる。ただし、この方法に何ら限定されるものではない。
【0060】
<塗布方法>
塗布液の塗布方法は特に限定されず、例えば、スプレー塗布法、スパイラル塗布法、リング塗布法、浸漬塗布法等を挙げることができる。
【0061】
上記塗布法により塗膜を形成した後、塗膜を乾燥させる。この際、必要且つ充分な乾燥が得られれば、乾燥の温度、時間は問わない。ただし、感光層形成後に風乾のみで保護層の塗布を行った場合は、後述の感光層の<塗布方法>に記載の方法で、充分な乾燥を行うことが好ましい。
【0062】
<硬化方法>
本塗布液塗布後の硬化は、外部からエネルギーを与えることにより行うことができる。このとき用いられる外部エネルギーとしては熱、光、放射線がある。
【0063】
熱エネルギーを加える方法としては、空気、窒素などの気体、蒸気、あるいは各種熱媒体、赤外線、電磁波を用いて塗膜表面側あるいは支持体側から加熱する方法が挙げられる。加熱温度は100℃以上、170℃以下が好ましい。
【0064】
光エネルギーとしては、主に紫外光(UV)に発光波長をもつ高圧水銀灯やメタルハライドランプ、無電極ランプバルブ、発光ダイオードなどのUV照射光源が利用できるが、本塗布液中の連鎖重合性化合物や光重合開始剤の吸収波長に合わせ可視光光源の選択も可能である。
光照射量は、硬化性の観点から10J/cm以上が好ましく、30J/cm以上がさらに好ましく、100J/cm以上が特に好ましい。また、電気特性の観点から、500J/cm以下が好ましく、300J/cm以下がさらに好ましく、200J/cm以下が特に好ましい。
【0065】
放射線エネルギーとしては、電子線(EB)を用いることができる。
【0066】
これらのエネルギーの中で、反応速度制御の容易さ、装置の簡便さ、ポッドライフの長さの観点から、光エネルギーが好ましい。
【0067】
上記エネルギーによる硬化後、残留応力の緩和、残留ラジカルの緩和、電気特性改良の観点から、加熱工程を加えてもよい。加熱温度としては、好ましくは60℃以上、より好ましくは100℃以上であり、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下である。
【0068】
<層厚>
本保護層の厚さは、耐摩耗性の観点から、0.5μm以上であるのが好ましく、中でも1μm以上であるのがさらに好ましい。他方、電気特性の観点から、5μm以下であるのが好ましく、中でも3μm以下であるのがさらに好ましい。
また、同様の観点から、本保護層の厚さは、後述の本感光層の厚さに対して1/50以上であるのが好ましく、中でも1/40以上であるのがより好ましく、その中でも1/30以上であるのがさらに好ましい。他方、1/5以下であるのが好ましく、中でも1/10以下であるのがより好ましく、その中でも1/20以下であるのがさらに好ましい。
【0069】
[電子写真感光体]
以下に、本保護層形成用塗布液が適用される本発明の電子写真感光体(「本電子写真感光体」又は「本感光体」とも称する)について説明する。本感光体は、導電性支持体上に、感光層と、本保護層とを順次備える。
【0070】
本電子写真感光体は、感光層及び保護層以外の層を有することは任意に可能である。
また、本電子写真感光体の帯電方式は、感光体表面を負電荷に帯電させる負帯電方式、感光体表面を正電荷に帯電させる正帯電方式のいずれであってもよい。
【0071】
本電子写真感光体においては、導電性支持体とは反対側が、上側又は表面側となり、導電性支持体側が、下側又は裏面側となる。
【0072】
<感光層>
本電子写真感光体における感光層(「本感光層」とも称する)は、少なくとも電荷発生物質(CGM)及び電荷輸送物質を含有する層であればよい。
【0073】
本感光層は、少なくとも電荷発生物質(CGM)、正孔輸送物質(HTM)及び電子輸送物質(ETM)と、バインダー樹脂とを同一層内に含有する単層型感光層であってもよいし、また、電荷発生層と電荷輸送層とに分離された積層型感光層であってもよい。
【0074】
中でも、本感光層は、本発明の効果をより享受できる点で、単層型感光層であるのが好ましい。本感光層が、単層型感光層である場合、本保護層との界面付近に存在する正孔輸送物質の影響を受けて、本保護層表面の面方向(水平方向とも言う)に電荷が移動し易くなり、像流れがより一層生じ易いからである。
【0075】
<単層型感光層>
本感光層が、単層型感光層の場合、少なくとも、電荷発生物質(CGM)、正孔輸送物質(HTM)及び電子輸送物質(ETM)と、バインダー樹脂とを含有する。
【0076】
(電荷発生物質)
本感光層に用いる電荷発生物質としては、例えば、無機系光導電材料や有機顔料などの各種光導電材料が使用できる。中でも、特に有機顔料が好ましく、更に、フタロシアニン顔料、アゾ顔料がより好ましい。
【0077】
特に、電荷発生物質としてフタロシアニン顔料を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、またはその酸化物、ハロゲン化物等の配位したフタロシアニン類などが使用される。中でも、特に感度の高いX型、τ型無金属フタロシアニン、A型、B型、D型等のチタニルフタロシアニン、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン等が好適である。
【0078】
またアゾ顔料を使用する場合には、各種公知のビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。
【0079】
また、電荷発生物質は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。さらに、電荷発生物質を2種以上併用する場合、併用する電荷発生物質の混合方法としては、それぞれの電荷発生物質を後から混合して用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等の電荷発生物質の製造・処理工程において混合して用いてもよい。
【0080】
電気特性の観点から、電荷発生物質の粒子径は小さいことが望ましい。具体的には、電荷発生物質の粒子径は1μm以下が好ましく、より好ましくは0.5μm以下である。下限は0.01μmである。ここで電荷発生物質の粒子径とは、感光層に含有された状態での粒子径を意味する。
【0081】
さらに、単層型感光層内の電荷発生物質の量は、感度の観点から、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましい。また、感度及び帯電性の観点から、50質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましい。
【0082】
(電荷輸送物質)
電荷輸送物質は、主に正孔輸送能を有する正孔輸送物質と、主に電子輸送能を有する電子輸送物質に分類される。本発明に用いられる単層型感光層は、少なくとも正孔輸送物質及び電子輸送物質を含有する。
【0083】
<正孔輸送物質>
正孔輸送物質(HTM)は、公知の材料の中から選択して用いることができる。例えば、カルバゾール誘導体、インドール誘導体、イミダゾール誘導体、オキサゾール誘導体、ピラゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、ベンゾフラン誘導体等の複素環化合物、アニリン誘導体、ヒドラゾン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びエナミン誘導体並びにこれらの化合物の複数種が結合したもの、及びこれらの化合物からなる基を主鎖若しくは側鎖に有する重合体等の電子供与性物質等を挙げることができる。
【0084】
これらの中でも、カルバゾール誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びエナミン誘導体並びにこれらの化合物の複数種が結合したものが好ましく、アリールアミン誘導体、エナミン誘導体がより好ましい。
【0085】
正孔輸送物質の分子量は、電気特性の観点から600以上が好ましく、650以上がより好ましく、700以上がさらに好ましく、750以上が特に好ましい。他方、合成の容易さ及び化合物の安定性の観点から1200以下が好ましく、1000以下がより好ましく、900以下がさらに好ましい。
【0086】
正孔輸送物質は、1種のみを単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0087】
<電子輸送物質>
電子輸送物質(ETM)は、公知の材料の中から選択して用いることができる。例えば、2,4,7-トリニトロフルオレノン等の芳香族ニトロ化合物、テトラシアノキノジメタン等のシアノ化合物、ジフェノキノン等のキノン化合物等の電子吸引性物質や、公知の環状ケトン化合物やペリレン顔料(ペリレン誘導体)などを挙げることができる。これらの中でも、電気特性の観点から、キノン化合物、ペリレン顔料(ペリレン誘導体)が好ましく、キノン化合物がより好ましい。
前記キノン化合物の中でも、電気特性の観点から、ジフェノキノン又はジナフチルキノンが好ましい。その中でも、ジナフチルキノンがより好ましい。
【0088】
電子輸送物質の分子量は、電気特性の観点から400以上が好ましく、410以上がより好ましく、420以上がさらに好ましい。他方、1000以下が好ましく、800以下がより好ましく、600以下がさらに好ましい。
【0089】
電子輸送物質は、1種のみを単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いてもよい。
【0090】
(バインダー樹脂)
次に、本感光層に用いるバインダー樹脂について説明する。
本感光層に用いるバインダー樹脂としては、例えば、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル等のビニル重合体またはその共重合体;ビニルアルコール樹脂;ポリビニルブチラール樹脂;ポリビニルホルマール樹脂;部分変性ポリビニルアセタール樹脂;ポリアリレート樹脂;ポリアミド樹脂;ポリウレタン樹脂;ポリカーボネート樹脂;ポリエステル樹脂;ポリエステルカーボネート樹脂;ポリイミド樹脂;フェノキシ樹脂;エポキシ樹脂;シリコーン樹脂;及びこれらの部分的架橋硬化物を挙げることができる。また上記樹脂は珪素試薬等で修飾されていてもよい。またこれらは1種を単独で用いてもよく、また2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることもできる。
【0091】
また、本感光層に用いるバインダー樹脂としては、界面重合で得られた1種、または2種類以上のポリマーを含有することが好ましい。
【0092】
(その他の物質)
上記材料以外にも、本感光層中には、成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させるために周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤などの添加物を含有させてもよい。また、本感光層には、必要に応じて増感剤、染料、顔料(但し、前記した電荷発生物質、正孔輸送物質、電子輸送物質であるものを除く)、界面活性剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。界面活性剤の例としては、シリコ-ンオイル、フッ素系化合物などを挙げることができる。本発明では、これらを適宜、1種単独で、または2種以上を任意の比率及び組み合わせで用いることができる。
【0093】
また、感光層表面の摩擦抵抗を軽減する目的で、感光層にフッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含んでもよく、これらの樹脂からなる粒子や酸化アルミニウム等の無機化合物の粒子を含有させてもよい。
【0094】
(層厚)
本感光層が単層型感光層の場合、本感光層の厚さは、耐絶縁破壊性の観点から、25μm以上であるのが好ましく、中でも30μm以上であるのが好ましい。他方、電気特性の観点から、50μm以下であるのが好ましく、中でも40μm以下であるのが好ましい。
【0095】
<積層型感光層>
本感光層が積層型感光層である場合、例えば電荷発生物質(CGM)を含有する電荷発生層(CGL)上に、電荷輸送物質を含有する電荷輸送層(CTL)を積層してなる構成を挙げることができる。この際、電荷発生層(CGL)及び電荷輸送層(CTL)以外の他の層を備えることも可能である。
【0096】
(電荷発生層(CGL))
電荷発生層は、通常、電荷発生物質(CGM)とバインダー樹脂を含有する。
電荷発生物質(CGM)及びバインダー樹脂は、上記単層型感光層で説明したものと同様である。
【0097】
<その他の成分>
電荷発生層は、電荷発生物質及びバインダー樹脂のほかに、必要に応じて、他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、公知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0098】
<配合比>
電荷発生層において、電荷発生物質の比率が高過ぎると、電荷発生物質の凝集等により塗布液の安定性が低下するおそれがある。一方、電荷発生物質の比率が低過ぎると、感光層としての感度の低下を招くおそれがあるため、電荷発生物質の配合比(質量)は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上とするのが好ましく、中でも30質量部以上とするのが好ましく、他方、1000質量部以下とするのが好ましく、中でも500質量部以下とするのが好ましく、膜強度の観点からは、特に300質量部以下とするのが好ましく、とりわけ200質量部以下とするのが好ましい。
【0099】
<層厚>
電荷発生層の厚さは、0.1μm以上であるのが好ましく、中でも0.15μm以上であるのが好ましい。他方、10μm以下であるのが好ましく、中でも0.6μm以下であるのが好ましい。
【0100】
(電荷輸送層(CTL))
電荷輸送層(CTL)は、通常、電荷輸送物質と、バインダー樹脂とを含有する。
電荷輸送物質(電子輸送物質(ETM)、正孔輸送物質(HTM))及びバインダー樹脂は、上記単層型感光層で説明したものと同様である。
【0101】
電荷輸送層(CTL)において、バインダー樹脂と前記正孔輸送物質(HTM)との配合割合は、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送物質(HTM)を20質量部以上の比率で配合するのが好ましく、中でも、残留電位低減の観点から、30質量部以上の割合で配合することがより好ましく、更に繰り返し使用した際の安定性や電荷移動度の観点から、40質量部以上の割合で配合することがさらに好ましい。一方、感光層の熱安定性の観点からは、バインダー樹脂100質量部に対して正孔輸送物質(HTM)を200質量部以下の割合で配合することが好ましく、更に正孔輸送物質(HTM)とバインダー樹脂との相溶性の観点から、150質量部以下の割合で配合することがより好ましく、ガラス転移温度の観点から、120質量部以下の割合で配合することが特に好ましい。
【0102】
<その他の成分>
電荷輸送層は、電荷輸送物質及びバインダー樹脂のほかに、必要に応じて他の成分を含有することができる。例えば成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させる目的で、公知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤、可視光遮光剤、充填剤等の添加物を含有させてもよい。
【0103】
<層厚>
電荷輸送層の層厚は、特に制限するものではない。電気特性、画像安定性の観点、更には高解像度の観点から、5μm以上50μm以下であるのが好ましく、中でも10μm以上35μm以下であるのが好ましく、その中でも15μm以上25μm以下であるのが好ましい。
【0104】
<感光層の形成方法>
積層型及び単層型のいずれにおいても、上記各層は次のように形成することができる。
含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、導電性支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により、各層ごとに順次塗布・乾燥工程を繰り返すことにより形成することができる。
但し、このような形成方法に限定するものではない。
【0105】
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒は、特に制限は無い。具体例としては、メタノール、エタノール、プロパノール、2-メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン、1,1,2-トリクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2-ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類等を挙げることができる。また、これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び種類で併用してもよい。
【0106】
溶媒又は分散媒の使用量は特に制限されない。各層の目的や選択した溶媒・分散媒の性質を考慮して、塗布液の固形分濃度や粘度等の物性が所望の範囲となるように適宜調整するのが好ましい。
【0107】
塗布膜の乾燥は、室温における指触乾燥後、通常30℃以上、200℃以下の温度範囲で、1分から2時間の間、静止又は送風下で加熱乾燥させることが好ましい。また、加熱温度は一定であってもよく、乾燥時に温度を変更させながら加熱を行ってもよい。
【0108】
<導電性支持体>
本電子写真感光体の導電性支持体(「本導電性支持体」とも称する)としては、その上に形成される層を支持し、導電性を示すものであれば、特に限定されない。
本導電性支持体としては、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を共存させて導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫合金)等の導電性材料をその表面に蒸着または塗布した樹脂、ガラス、紙等を主として使用することができる。
本導電性支持体の形態としては、ドラム状、シリンダー状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。
本導電性支持体は、金属材料からなる導電性支持体の上に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでもよい。
【0109】
本導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いる場合、金属材料に陽極酸化被膜を施してから用いてもよい。
陽極酸化被膜の平均膜厚は、20μm以下であるのが好ましく、特に7μm以下であるのが好ましい。
金属材料に陽極酸化被膜を施す場合、封孔処理を行うことが好ましい。封孔処理は、公知の方法で行うことができる。
【0110】
本導電性支持体の表面は、平滑であってもよく、また特別な切削方法を用いたり、研磨処理を施したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。
なお、本導電性支持体と本感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のために、後述する下引き層を設けてもよい。
【0111】
<下引き層>
本電子写真感光体は、本感光層と本導電性支持体との間に下引き層(「本下引き層」とも称する)を有していてもよい。
【0112】
本下引き層としては、例えば、樹脂、樹脂に有機顔料や金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。下引き層に用いる有機顔料の例としては、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ペリレン顔料などを挙げることができる。中でも、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、具体的には、前述した電荷発生物質として用いる場合のフタロシアニン顔料やアゾ顔料を挙げることができる。
【0113】
本下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子を挙げることができる。下引き層には、上記1種類の粒子のみを用いてもよく、複数の種類の粒子を任意の比率及び組み合わせで混合して用いてもよい。
【0114】
上記金属酸化物粒子の中でも、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。なお、酸化チタン粒子は、例えば、その表面が任意の無機物または有機物等によって処理されていてもよい。また酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスのいずれも用いることができる。また複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
【0115】
本下引き層に用いられる金属酸化物粒子の粒径としては、特に限定されない。下引き層の特性の安定性の面から、平均一次粒径として10nm以上であることが好ましく、また100nm以下、より好ましくは50nm以下である。
【0116】
本下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、例えば、ポリビニルブチラール樹脂、ポリビニルホルマール樹脂、ブチラールの一部がホルマールや、アセタール等で変性された部分アセタール化ポリビニルブチラール樹脂等のポリビニルアセタール系樹脂;ポリアリレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、スチレン-アルキッド樹脂、シリコーン-アルキッド樹脂、フェノール-ホルミアルデヒド樹脂等の絶縁性樹脂等の中から選択し、用いることができる。但し、これらポリマーに限定されるものではない。また、これらバインダー樹脂は単独で用いても、2種類以上を混合して用いてもよく、硬化剤とともに硬化した形でも使用してもよい。
中でも、ポリビニルアセタール系樹脂や、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等が良好な分散性及び塗布性を示すことから好ましい。その中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミドが特に好ましい。
【0117】
上記バインダー樹脂に対する前記粒子の混合比は、任意に選ぶことができるが、10質量%から500質量%の範囲で使用することが、下引き層形成用塗布液の安定性及び塗布性の面で好ましい。
【0118】
本下引き層の膜厚は、任意に選ぶことができる。電子写真感光体の特性及び上記分散液の塗布性から、本下引き層の膜厚は、0.1μm以上、20μm以下が好ましい。
また本下引き層は、公知の酸化防止剤等を含んでいてもよい。
【0119】
<その他の層>
本電子写真感光体は、上述した本導電性支持体、本感光層、本保護層及び本下引き層以外に、必要に応じて適宜他の層を有していてもよい。
【0120】
[画像形成装置]
本電子写真感光体を用いて画像形成装置(「本画像形成装置」)を構成することができる。
【0121】
[電子写真カートリッジ]
本電子写真感光体を、帯電装置、露光装置、現像装置、転写装置、クリーニング装置及び定着装置のうち1つ又は2つ以上と組み合わせて、一体型のカートリッジ(「本電子写真カートリッジ」と称する)として構成することができる。
【0122】
本電子写真カートリッジは、複写機やレーザービームプリンタ等の電子写真装置本体に対して着脱可能な構成とすることができる。その場合、例えば本電子写真感光体やその他の部材が劣化した場合に、この電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい電子写真感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することにより、画像形成装置の保守・管理が容易となる。
【実施例0123】
以下、実施例を示して本発明の実施の形態をさらに具体的に説明する。ただし、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下に示した実施例に限定されるものではなく任意に変形して実施することができる。また、以下の実施例、及び比較例中の「部」の記載は、特に指定しない限り「質量部」を示す。
【0124】
[実施例1]
<保護層形成用塗布液S1の調製>
(フィラーAの表面処理)
平均一次粒子径35nmのルチル型白色酸化チタン(石原産業(株)製、製品名 TTO55N)と、該酸化チタン100質量部に対して、メチルジメトキシシラン3質量部を、せん断力により、ミキサー内の温度が150℃に達するまでスーパーミキサーで攪拌して、表面処理を行うことによって、フィラーAを得た。
【0125】
(フィラーA分散スラリーの調製)
フィラーA 250gと、メタノール750gとを混合してなる原料スラリー1000gを、直径約50μmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製 YTZ)を分散メディアとして、ミル容積約0.15Lのウルトラアペックスミル(寿工業株式会社製 UAM-015型)を用い、ロータ周速10m/秒、液流量2.8g/秒の循環状態で、30分間分散処理し、フィラーA分散スラリーを調製した。
【0126】
(保護層形成用塗布液S1の調製)
フィラーA分散スラリーと、予めメタノール/1-プロパノールの混合溶媒に溶解した下記構造で表されるM-DPH-6E(新中村化学工業(株)製)と、重合開始剤としてオキシムエステル系光重合開始剤IrgacureOXE03(BASFジャパン株式会社製)とを混合して、M-DPH-6E/フィラーA/OXE03=100/100/3であり、溶媒組成がメタノール/1-プロパノール=8/2である保護層形成用塗布液S1を得た。
下記構造式のXは-O-CH-CH-で表されるオキシアルキレン基であり、その数を示すa+b+c+d+e+fは6である。
【0127】
【化1】
【0128】
<酸価の測定>
保護層形成用塗布液S1について、以下の方法で酸価を測定し、結果を表1に示した。
ブロモチモールブルー50mgをエタノール100mlに完全に溶解させ、続いて脱塩水400mlで希釈し、ブロモチモールブルー指示薬を作製した。保護層形成用塗布液S1を1g秤量し、50mlのアセトンに溶解し、前述したブロモチモールブルー指示薬を5ml添加した。1/100規定の水酸化カリウム・エタノール溶液をビュレットから滴下し、溶液の色が黄色から緑色に変化した点を滴定の終点と、その時の水酸化カリウム・エタノール溶液の使用量をVとした。
同様の滴定を、保護層形成用塗布液S1を含まないアセトン50mlに対して行い、その時の水酸化カリウム・エタノール溶液の使用量をVBとした。以下、計算式により、保護層形成用塗布液S1の酸価を算出した。
酸価(mgKOH/g)=56.11(V-VB)・F・N/S
N:水酸化カリウム・エタノール溶液の規定度 1/100
F:水酸化カリウム・エタノール溶液のファクター 0.997
S:試料量1g
【0129】
<フィラーの平均粒子径の測定>
保護層形成用塗布液S1について、以下の方法で液中のフィラーの平均粒子径(凝集粒子の粒子径)を測定し、結果を表1に示した。
保護層形成用塗布液S1を1g秤量し、メタノール49gと混合して希釈液を作成した。作成した希釈液について、粒度分布測定装置UPA-EX150(マイクロトラック製)を用いて、粒度分布測定を実施した。得られた体積平均粒径の積算値が50%となる粒子径を、平均粒子径とした。
【0130】
<単層型感光体の作製>
以下の手順により、単層型感光体を作製した。
【0131】
(下引き層形成用塗布液P1の作製)
CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ±0.2°が27.3°に明瞭なピークを示すD型チタニルフタロシアニン20部と、1,2-ジメトキシエタン280部を混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行った。ここにさらにポリビニルブチラール(電気化学工業(株)製、商品名「デンカブチラール」#6000C)の2.5%1,2-ジメトキシエタン溶液400部と、170部の1,2-ジメトキシエタンとを加えて混合して下引き層形成用塗布液P1を作製した。
【0132】
(単層型感光層形成用塗布液Q1の作製)
CuKα線を用いた粉末X線回折において、回折角2θ±0.2°が27.3°に明瞭なピークを示すD型チタニルフタロシアニンを2.6部、下記構造のペリレン顔料1を1.3部、ポリビニルブチラール樹脂を0.5部、下記構造の正孔輸送物質(HTM48、分子量748)を100部、下記構造の電子輸送物質(ET-2、分子量424.2)を60部、ビフェニル構造を有するポリカーボネート樹脂を100部、レベリング剤としてシリコーンオイル(信越シリコーン社製:商品名KF-96)0.05部を、テトラヒドロフラン(以下適宜THFと略)とトルエン(以下適宜TLと略)の混合溶媒(THF80質量%、TL20質量%)793.35部を混合し、固形分濃度25質量%の単層型感光層形成用塗布液Q1を作製した。
【0133】
【化2】
【0134】
(感光体A1の作製)
表面が切削加工された30mmφ、長さ244mmのアルミニウム製シリンダーに下引き層形成用塗布液P1を浸漬塗布し、乾燥後の膜厚が0.3μmとなるように下引き層を設けた。下引き層上に単層型感光層形成用塗布液Q1を浸漬塗布し、125℃で24分間乾燥し、乾燥後の膜厚が32μmになるように単層型感光層を設けた。単層型感光層上に保護層形成用塗布液S1をリング塗布し、室温下で1分間乾燥させた後、窒素雰囲気下で感光体を60rpmで回転させながら、365nmのLED光を1.3W/cmの強度で2分間照射することにより、硬化後の膜厚が2.0μmになるように保護層を設け、感光体A1を作製した。
【0135】
<電気特性の評価>
前記感光体A1を、温度25℃、相対湿度50%の環境下で、電子写真学会測定標準に従って作製された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404~405頁 記載)に装着し、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性を以下のように測定した。
初めに、グリッド電圧を調整して、感光体の初期表面電位(V0)が+700Vとなるように帯電させた。次に、露光光を0.7μJ/cm照射し、照射してから60ミリ秒後の表面電位(VL)を測定した。なお、露光光は、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを用いた。
測定した表面電位(VL)を表1に示す。表面電位(VL)の絶対値が小さいほど、十分に電荷が輸送されて電位が下がったことになるため、良い結果といえる。本発明では、表面電位(VL)が40V以下の場合を「合格」と評価した。
【0136】
<像流れの評価(初期HH環境)>
前記感光体A1を、温度32℃、相対湿度80%の環境(HH環境)下に16時間放置後、電子写真方式のプリンターに装着し、温度32℃、相対湿度80%の環境(HH環境)下で印刷して、常温常湿下で印刷画像を目視で観察した。
像流れは次の4段階で評価した。結果を表1に示す。
◎:像流れが全く確認されなかった。
〇:像流れがごくわずかに確認できる。
△:像流れが確認できるが、実用上問題ないレベル。
×:像流れが確認され、実用上問題がある。
××:像流れが激しく、実用不可。
【0137】
[実施例2]
M-DPH-6Eの含有量に対し、0.05質量%のメタクリル酸をさらに加えた以外は、実施例1の保護層形成用塗布液S1の調製と同様にして保護層形成用塗布液S2を調製し、この保護層形成用塗布液S2について、酸価、フィラーの平均粒子径の測定を行った。
また、保護層形成用塗布液S1の代りに保護層形成用塗布液S2を用いたこと以外は実施例1と同様にして感光体A2を作製し、電気特性と像流れの評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0138】
[実施例3]
M-DPH-6Eの含有量に対し、0.1質量%のメタクリル酸をさらに加えた以外は、実施例1の保護層形成用塗布液S1の調製と同様にして保護層形成用塗布液S3を調製し、この保護層形成用塗布液S3について、酸価、フィラーの平均粒子径の測定を行った。
また、保護層形成用塗布液S1の代りに保護層形成用塗布液S3を用いたこと以外は実施例1と同様にして感光体A3を作製し、電気特性と像流れの評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0139】
[実施例4]
M-DPH-6Eの含有量に対し、0.2質量%のメタクリル酸をさらに加えた以外は、実施例1の保護層形成用塗布液S1の調製と同様にして保護層形成用塗布液S4を調製し、この保護層形成用塗布液S4について、酸価、フィラーの平均粒子径の測定を行った。
また、保護層形成用塗布液S1の代りに保護層形成用塗布液S4を用いたこと以外は実施例1と同様にして感光体A4を作製し、電気特性と像流れの評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0140】
[実施例5]
M-DPH-6Eの含有量に対し、0.3質量%のメタクリル酸をさらに加えた以外は、実施例1の保護層形成用塗布液S1の調製と同様にして保護層形成用塗布液S5を調製し、この保護層形成用塗布液S5について、酸価、フィラーの平均粒子径の測定を行った。
また、保護層形成用塗布液S1の代りに保護層形成用塗布液S5を用いたこと以外は実施例1と同様にして感光体A5を作製し、電気特性と像流れの評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0141】
[比較例1]
M-DPH-6Eの含有量に対し、0.4質量%のメタクリル酸をさらに加えた以外は、実施例1の保護層形成用塗布液S1の調製と同様にして保護層形成用塗布液S6を調製し、この保護層形成用塗布液S6について、酸価、フィラーの平均粒子径の測定を行った。
また、保護層形成用塗布液S1の代りに保護層形成用塗布液S6を用いたこと以外は実施例1と同様にして感光体A6を作製し、電気特性と像流れの評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0142】
[比較例2]
M-DPH-6Eの含有量に対し、0.5質量%のメタクリル酸をさらに加えた以外は、実施例1の保護層形成用塗布液S1の調製と同様にして保護層形成用塗布液S7を調製し、この保護層形成用塗布液S7について、酸価、フィラーの平均粒子径の測定を行った。
また、保護層形成用塗布液S1の代りに保護層形成用塗布液S7を用いたこと以外は実施例1と同様にして感光体A7を作製し、電気特性と像流れの評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0143】
[比較例3]
M-DPH-6Eの含有量に対し、0.6質量%のメタクリル酸をさらに加えた以外は、実施例1の保護層形成用塗布液S1の調製と同様にして保護層形成用塗布液S8を調製し、この保護層形成用塗布液S8について、酸価、フィラーの平均粒子径の測定を行った。
また、保護層形成用塗布液S1の代りに保護層形成用塗布液S8を用いたこと以外は実施例1と同様にして感光体A8を作製し、電気特性と像流れの評価を行った。
これらの結果を表1に示す。
【0144】
【表1】
【0145】
表1より、酸価が0.25mgKOH/g以下の本発明の電子写真感光体保護層形成用塗布液によれば、塗布液中のフィラーの凝集が抑制され、フィラーの分散性が向上し、電気特性、像流れ抑制に優れた電子写真感光体を作製できることが分かる。
これに対して、酸価が0.25mgKOH/gを超える比較例1~3の塗布液では、塗布液中のフィラーが凝集し、その分散性が悪く、前記塗布液を用いて作製した電子写真感光体では、像流れの問題がある。