(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177046
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】炭化水素系溶剤
(51)【国際特許分類】
C09D 201/00 20060101AFI20231206BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20231206BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20231206BHJP
C09J 201/00 20060101ALI20231206BHJP
C09D 11/033 20140101ALI20231206BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/20
C09J11/06
C09J201/00
C09D11/033
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089736
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100112335
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 英介
(74)【代理人】
【識別番号】100101144
【弁理士】
【氏名又は名称】神田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100101694
【弁理士】
【氏名又は名称】宮尾 明茂
(74)【代理人】
【識別番号】100124774
【弁理士】
【氏名又は名称】馬場 信幸
(72)【発明者】
【氏名】倉富 格
(72)【発明者】
【氏名】川辺 正直
(72)【発明者】
【氏名】永井 宗仁
【テーマコード(参考)】
4J038
4J039
4J040
【Fターム(参考)】
4J038JA01
4J038KA06
4J038NA27
4J039BC01
4J039BE12
4J040HB01
4J040KA23
(57)【要約】
【課題】 取扱う上での安全性が高く、かつ溶剤としての特性に優れている炭化水素系溶剤を提供する。
【解決手段】 単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素を95%以上含み、
前記脂環式炭化水素の92%以上が単環の炭素数10の脂環式炭化水素と単環の炭素数12の脂環式炭化水素の和で構成され、
前記炭素数10の脂環式炭化水素の含有量及び前記炭素数12の脂環式炭化水素の含有量の和を100%としたとき、炭素数12の脂環式炭化水素の含有量が2.5~9.0%であり、
JIS K 2265-1のタグ密閉法により測定される引火点が40℃以上であることを特徴とする、炭化水素系溶剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素を95%以上含み、
前記脂環式炭化水素の92%以上が単環の炭素数10の脂環式炭化水素と単環の炭素数12の脂環式炭化水素の和で構成され、
前記炭素数10の脂環式炭化水素の含有量及び前記炭素数12の脂環式炭化水素の含有量の和を100%としたとき、炭素数12の脂環式炭化水素の含有量が2.5~9.0%であり、
JIS K 2265-1のタグ密閉法により測定される引火点が40℃以上であることを特徴とする、炭化水素系溶剤。
【請求項2】
さらに、単環の炭素数10の脂環式炭化水素の含有量及び単環の炭素数12の脂環式炭化水素の含有量の和に対して、単環の炭素数8の脂環式炭化水素の含有量が0.5~8.0%である請求項1に記載の炭化水素系溶剤。
【請求項3】
前記炭素数10の脂環式炭化水素のうち90%以上がジエチルシクロヘキサン、前記炭素数12の脂環式炭化水素のうち90%以上がトリエチルシクロヘキサンである、請求項1に記載の炭化水素系溶剤。
【請求項4】
前記炭素数8の脂環式炭化水素のうち90%以上がエチルシクロヘキサンである、請求項2に記載の炭化水素系溶剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭化水素系溶剤の塗料用溶剤への使用。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭化水素系溶剤の接着剤用溶剤への使用。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭化水素系溶剤の粘着剤用溶剤への使用。
【請求項8】
請求項1~4のいずれか一項に記載の炭化水素系溶剤のインク用溶剤への使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非芳香族系有機溶剤(アルキルシクロヘキサン系溶剤)に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素系溶剤の中でも非芳香族系炭化水素系溶剤はトルエン、キシレンなどの芳香族系炭化水素系溶剤に比べ作業環境、自然環境に対し低負荷である安全性が高い溶剤として需要が拡大している。なかでも脂環式炭化水素系溶剤は鎖状脂肪族炭化水素系溶剤より環状構造を持つ事に起因する極性を有し、環状化合物の溶解性に優れており、適用範囲がより広い溶剤である。
一方で日本における危険物運搬時の規制強化、貯蔵可能量の観点から、引火点21℃以上、日本の消防法で危険物第四類第二石油類に該当する溶剤の需要が高まっている。中でも夏季の作業環境でも安全性が担保できる、引火点40℃以上の溶剤がより好ましいとされている。
【0003】
このような要望に適する脂環炭化水素系溶剤の技術として、特許文献1では炭素数が7~10のアルキルシクロヘキサンを用いる溶剤が提案されている。
また、特許文献2には、沸点が190~280℃で、炭素数10~13の芳香族成分を80容量%以上、かつ2環以上の環状炭化水素を10容量%以上含有する石油留分を水素化して得られるナフテン系溶剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-282900号公報(段落番号0008~0088)
【特許文献2】特開2006-96786号公報(段落番号0006~0015)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案されている化合物のうち、炭素数が7、8のアルキルシクロヘキサンは引火点が21℃未満であり、日本の消防法における危険物第四類第一石油類に該当し、引火点の面で安全性を十分考慮している技術とはいいがたい。
【0006】
また、2環芳香族炭化水素を水素化して得られるナフテン系溶剤には、揮発性の大きく異なるものがあり、組成物とした際、使用性に課題を有する場合がある。特に、複数の成分からなる溶剤を塗料に使用した場合、溶剤成分の揮発により溶剤の組成比が変化して、溶解性(溶解性パラメータ)や粘性が当初から大きく変化し、当初は溶解していた材料成分の予期せぬ析出や凝集が起こることがある。特許文献2に記載の発明においては、このような使用性に関する考慮はなされていない。
【0007】
本発明は、斯かる実情に鑑み、引火点が高く、取扱う上での安全性が高く、かつ溶剤としての特性に優れている炭化水素系溶剤を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記の課題を達成するために鋭意検討した結果、脂環式炭化水素の割合が特定範囲にある混合物が上記の課題を達成することを見いだし、本発明を完成するに至った。
すなわち、第1の本発明は、単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素を95%以上含み、
前記脂環式炭化水素の92%以上が単環の炭素数10の脂環式炭化水素と単環の炭素数12の脂環式炭化水素の和で構成され、
前記炭素数10の脂環式炭化水素の含有量及び前記炭素数12の脂環式炭化水素の含有量の和を100%としたとき、炭素数12の脂環式炭化水素の含有量が2.5~9.0%であり、
JIS K 2265-1のタグ密閉法により測定される引火点が40℃以上であることを特徴とする、炭化水素系溶剤にかかるものである。
【0009】
また、第2の本発明は、前記炭化水素系溶剤において、さらに、単環の炭素数10の脂環式炭化水素の含有量及び単環の炭素数12の脂環式炭化水素の含有量の和に対して、単環の炭素数8の脂環式炭化水素の含有量が0.5~8.0%である炭化水素系溶剤にかかるものである。
上記手段によれば、以下のような効果が得られる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、地上のほとんどの屋外環境温度で引火しない高い安全性を有する炭化水素系溶剤が提供される。本発明の炭化水素系溶剤は、揮発操作に対し安定した溶解度パラメータを有し、また、高い引火点と優れた溶剤特性を兼ね備えた炭化水素系溶剤である。本発明の炭化水素系溶剤は、特に、塗料用溶剤、接着剤用溶剤、粘着剤用溶剤、インク用溶剤として良好に使用できるという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の炭化水素系溶剤は、特定の成分を特定の比率で含有する炭化水素の組成物からなる。
本発明において、単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素とは、芳香族性を有せず、縮合していない飽和または不飽和の炭素環を1個有する飽和または不飽和の炭化水素を指し、好ましくは、縮合していない飽和の炭素環を1個有する飽和の炭化水素である。単環の脂環骨格として、縮合していない飽和の炭素環の例は、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環であり、より好ましくは、化合物の安定性、安価入手性という理由からシクロヘキサン環である。
【0012】
本発明の脂環式炭化水素においては、単環の脂環骨格に脂肪族の分枝が一つ又は複数置換されていても差支えない。例えば、本発明において、「単環の炭素数10の脂環式炭化水素」とは、前記単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素であって、かつ当該脂環式炭化水素を構成する炭素原子の数が全部で10である化合物を意味する。
以下、炭化水素系溶剤に含まれる炭素数8,10又は12の単環の脂環式炭化水素を、それぞれC8成分、C10成分又はC12成分と略称することがある。
【0013】
本発明における脂環式炭化水素を構成する成分比は、ガスクロマトグラフィー法により求められる。ガスクロマトグラフィー法としては、脂環式炭化水素の各成分のピークを良好に分離し、内部標準法により定量する方法が採用される。具体的には、無極性カラム及びFID検知器を用いて、カラム温度を100℃から300℃に昇温する方法が採用できる。無極性カラムとしては、TC-1(ヒューレットパッカード社製)、SH-I-1MS(島津製作所(株)製)、DB-1(アジレントテクノロジー社製)が例示される。
【0014】
本発明においては、脂環式炭化水素の92%以上が単環の炭素数10の脂環式炭化水素(C10成分)と単環の炭素数12の脂環式炭化水素(C12成分)とで構成され、かつ、C10成分含有量とC12成分含有量の和を100%としたとき、C12成分含有量が2.5~9.0%で、C10成分が残部である。本発明の炭化水素系溶剤において、単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素の含有量並びに脂環式炭化水素中のC10成分及びC12成分の含有量が重要である。
【0015】
本発明における炭化水素系溶剤において、単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素は95%以上含まれる。炭化水素系溶剤全体に対する単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素の含有量は、ガスクロマトグラフィーにおいて検出される、脂環式炭化水素含有量の総和として求めることができる。例えば、ガスクロマトグラフィーに現れる各ピークについてGC-MSと前駆体の構造からの推定等にて構造を同定し、その結果を元に内部標準物質を用いて定量することによって求めることができる。
【0016】
当該脂環式炭化水素の含有率は、炭化水素系溶剤全体に対し97%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上が最も好ましい。脂環式炭化水素の含有量がこの範囲にあることにより、本発明の炭化水素系溶剤が揮発した際、成分組成の変化に伴う溶解度パラメータや粘性の差異を比較的小さくすることを担保できる。
【0017】
本発明を構成する単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素のうち、その92%以上が、単環の炭素数10の脂環式炭化水素と単環の炭素数12の脂環式炭化水素の和で構成される。単環の脂環骨格を有する脂環式炭化水素に対する、炭素数10の単環の脂環式炭化水素と炭素数12の単環の脂環式炭化水素の含有量の和は、ガスクロマトグラフィーにおいて、例えば、各ピークについてGC-MSと前駆体の構造からの推定等にて構造を同定し、炭素数10の単環の脂環式炭化水素の含有量と炭素数12の単環の脂環式炭化水素の含有量を内部標準物質を用いて定量し、両者を合算し、前記脂環式炭化水素の含有量と比較することによって求めることができる。後述する炭素数8の単環の脂環式炭化水素の含有量についても、同様の方法で求めることができる。
【0018】
本発明においては、前記炭素数10の脂環式炭化水素の含有量及び前記炭素数12の脂環式炭化水素の含有量の和を100%としたとき、炭素数12の脂環式炭化水素の含有量が2.5~9.0%である。炭素数10の単環の脂環式炭化水素及び炭素数12の単環の脂環式炭化水素の和に対する、炭素数12の単環の脂環式炭化水素の比率は、ガスクロマトグラフィーにおいて、前記した方法によって求めることができる。
【0019】
C12成分は、C10成分含有量とC12成分含有量の和に対して、2.5~9.0%含まれる。C12成分は沸点が高く、炭化水素系溶剤が揮発した際、少量残留することにより、例えば接着用溶剤として使用時の被接着物との密着性向上に寄与する。C12成分の含有量が2.5%未満であると前記密着性の効果が十分でなく、9.0%を超えると高沸点成分が過多となるため炭化水素系溶剤としての揮発性が損なわれるため、好ましくない。C12成分は、より好ましくは、脂環式炭化水素中、下限値として3.0%、上限値として8.0%含有される。C12成分は、具体的には、トリエチルシクロヘキサン、ブチルエチルシクロヘキサン、イソブチルエチルシクロヘキサン、SEC-ブチルエチルシクロヘキサンが例示され、トリエチルシクロヘキサンであることが好ましい。
【0020】
C10成分は、C10成分含有量とC12成分含有量の和に対して、C12成分含有量の残部であり、91.0~97.5%含まれる。C10成分は、高い引火点及び優れた溶剤特性を両立させる主成分に相当する。C12成分の含有量が、C10成分含有量とC12成分含有量の和に対して91.0%に満たない場合、又は、97.5%を超える場合、上記特性を両立させることが困難になる。より好ましくは、C10成分は、具体的には、ジエチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、SEC-ブチルシクロヘキサン、メチルイソプロピルシクロヘキサンが例示され、ジエチルシクロヘキサンであることが好ましい。
【0021】
本発明の炭化水素系溶剤は、特定の組成からなる炭化水素混合物であることによって、成分組成の変化に伴う溶解度パラメータや粘性の差異を比較的小さくして揮発し、JIS K 2265-1のタグ密閉法により測定される引火点を40℃以上、すなわち、40℃又はこれを超える温度とすることができる。一方、単一成分からなると、溶剤として使用する際、かえって不都合を生じることがある。
なお、JIS K 2265-1のタグ密閉法による引火点は、市販のタグ密閉式引火点試験器を用いて測定することができる。
【0022】
本発明の好ましい態様は、さらに、単環の炭素数10の脂環式炭化水素の含有量及び単環の炭素数12の脂環式炭化水素の含有量の和に対して、単環の炭素数8の脂環式炭化水素の含有量が0.5~8.0%である炭化水素系溶剤である。C8成分を一定量含むことで、より良好な揮発性やより良好な塗膜特性を付与することができる。C8成分は、具体的にはエチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサンが例示され、エチルシクロヘキサンであることが好ましい。
【0023】
C8成分の含有量が前記範囲より低いと前記改良効果が比較的出にくい。例えば、塗料の溶剤に使用した場合、塗膜としての被塗布物の密着性が低下する傾向にある。一方、C8成分は低引火点成分に相当するため、前記範囲より高いと炭化水素系溶剤としての引火点が比較的低くなる傾向にある。また、共存する成分とともに溶剤が一度に揮発してしまい、塗膜の表面がみかんの皮肌のように凹凸が生じる現象(「オレンジピール」又は「ゆず肌」ともいう。)を生じやすくなる傾向にある。
【0024】
また、本発明の炭化水素系溶剤は、25℃における溶解度パラメータが15.7~16.3MPA0.5での範囲にあることが好ましい。この範囲にある脂環式炭化水素溶剤はポリエチレン、ポリプロピレンなどの鎖状炭化水素系樹脂、石油樹脂、シクロオレフィン系樹脂、テルペン系樹脂、天然ゴム、ブチルゴム、ポリブタジエンなどのゴム類など幅広い材料を溶解しうる。ここで、本発明における溶解度パラメータは、公知の測定方法を適用できるが、具体例としては、コンピュータソフトウェアHANSEN SOLUBILITY PARAMETERS IN PRACTICE (HSPIP)VER5.2.06にてDIY(溶媒の分子構造からハンセンの溶解度パラメータを推算する機能)のSMILESによる、25℃におけるハンセン溶解度パラメータ推算値が挙げられる。
【0025】
本発明の炭化水素系溶剤は以上に述べてきた脂環式炭化水素が特定の組成範囲にあることで、望む効果が発揮されるが、溶解度パラメータがより近くなることが期待できる、構造がより類似している化合物で構成されているとより好ましい。具体的には、炭化水素系溶剤の90%以上、好ましくは94%以上がエチルシクロヘキサン、ジエチルシクロヘキサン、トリエチルシクロヘキサンから選ばれる2種類以上で占められることが好ましく、炭化水素系溶剤の90%以上、好ましくは94%以上が前記3種類で占められることが最も好ましい。
【0026】
本発明の好ましい炭化水素系溶剤の製造方法について、以下に例示する。
本発明の炭化水素系溶剤は、芳香族炭化水素混合物の芳香環水素化反応(「核水素添加反応」、「核水添反応」ともいう)により製造することができる。芳香族炭化水素混合物が、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼンの混合物である場合、主に、C8成分がエチルシクロヘキサン、C10成分がジエチルシクロヘキサン、C12成分がトリエチルシクロヘキサンの混合物からなる炭化水素系溶剤を得ることができる。本発明では、脂環式炭化水素に対応する芳香族炭化水素を前駆体と称する。
【0027】
芳香環水素化反応は、芳香族炭化水素の核水素添加(核水添)反応条件を採用できる。すなわち、核水添用触媒の存在下に、温度100~300℃、水素圧1~10MPAから適宜選定された条件で行うことが可能である。触媒量、反応時間等は、残存芳香族成分が1容量%以下となるよう、前記反応温度、水素圧等を考慮して決定される。この反応方式は、バッチ式、流通式等いずれでも行うことができる。核水添用触媒には、例えば、ニッケル、酸化ニッケル、ニッケル/けいそう土、ラネーニッケル、ニッケル/銅、白金、酸化白金、白金/活性炭、又は白金/ロジウムが使用でき、製造コストを考慮した場合、白金/アルミナニッケル系触媒を使用するのが好適である。
【0028】
本発明の炭化水素系溶剤を構成する、C8成分、C10成分、C12成分比率は、その前駆体の成分比が反映される。そのため、これら前駆体(以下、「前駆体混合物」という。)を適切な成分比に制御することが重要である。前駆体混合物は、例えば、エチレンとベンゼンを反応させてエチルベンゼン及びその副生成物から構成されるエチルベンゼン反応混合物を製造し、このエチルベンゼン反応混合物から、エチルベンゼンを留去して得ることができる。ここでエチルベンゼンの留去条件(留去温度、圧力、蒸留塔の理論段数等)を最適化することで、本発明の炭化水素系溶剤の前駆体混合物を得ることができる。
【0029】
具体的には、エチルベンゼン反応混合物からエチルベンゼンを完全に留去させるのではなく、0.5~10%が残存させるようにすることが好ましい。また、併せて、前記前駆体混合物に単環の芳香族化合物を95%以上含み、かつ、前記芳香族化合物の92%以上がC10成分の前駆体とC12成分の前駆体の和で構成され、かつ、前記C10成分の前駆体とC12成分の前駆体の和を100%としたとき、C12成分の前駆体の含有量が2.5~9.0%を前駆体混合物に残存させるようにする。また、前駆体における硫黄分は、水素化反応の触媒被毒となるため10PPM以下が好ましく、さらに好ましくは3PPM以下である。
【0030】
本発明の炭化水素系溶剤は、塗料用溶剤、接着剤用溶剤、粘着剤用溶剤、インク用溶剤として好適に使用される。
【0031】
塗料用溶剤としては、アクリル系樹脂塗料、アルキッド樹脂塗料等のエステル系樹脂塗料、シリコン系塗料、ウレタン系樹脂塗料、エポキシ系樹脂塗料、などに例示される樹脂を含有する油性塗料に配合される溶剤として使用される。例えば、アルキッド樹脂塗料は主成分であるアルキッド樹脂を、本発明の炭化水素系溶剤を含む塗料用溶剤に溶解させてなる。本発明の炭化水素系溶剤を含む溶剤は、中でもエステル系樹脂塗料、シリコン系塗料用溶剤用として、樹脂溶解性の高さで好適である。例えば、塗料用溶剤は、塗料全体の1~99質量%配合される。
塗料用溶剤には、さらに、乾燥剤、分散剤、沈降防止剤、消泡剤、防カビ剤、防錆剤、色分れ防止剤、紫外線吸収剤等、塗料用の添加剤を加えてもよい。
【0032】
一般的に塗料は顔料、樹脂、溶剤、添加剤で構成される。そのため、溶剤は顔料の分散と樹脂の溶解が要求される。そこで、前記要求を満足させるために、塗料用溶剤には、本発明の炭化水素系溶剤以外の塗料用の溶剤を併用してもよい。すなわち、塗料用溶剤は、本発明の炭化水素系溶剤以外の塗料用の溶剤を溶剤全体の40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下含んでいてもよい。
【0033】
接着剤用溶剤としては、ゴム系接着剤、スチレン系接着剤、ビニル系共重合系接着剤などに例示される樹脂を主材料として含有する樹脂系接着剤に配合される溶剤として使用される。例えば、ゴム系接着剤は主成分であるクロロプレンゴムやSBRを、本発明の炭化水素系溶剤を含む接着剤用溶剤に溶解させてなる。スチレン系接着剤は主材がポリスチレンであり、ビニル共重合系接着剤は主材が酢酸ビニルとエチレンの共重合樹脂である他は、上記クロロプレンゴム系接着剤と同様の組成である。例えば、接着剤用溶剤は、接着剤全体の1~99質量%配合される。
【0034】
接着剤用溶剤には、さらに、テルペン樹脂等の粘着付与剤や、硬化剤、可塑剤、充てん剤等、接着剤用の添加剤を加えてもよい。
接着剤用溶剤は、本発明の炭化水素系溶剤以外の接着剤用溶剤を溶剤全体の40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下含んでいてもよい。
【0035】
粘着剤用溶剤としては、ゴム系粘着剤、シリコン系粘着剤などに例示される樹脂を主材料として含有する樹脂系粘着剤に配合される溶剤として使用される。例えば、ゴム系粘着剤は、主成分である天然ゴムを、粘着剤用溶剤に溶解させてなる。シリコン系粘着剤は主剤がシリコーンコム、粘着付与剤がシリコーンレジンである他は、上記ゴム系粘着剤と同様である。例えば、粘着剤用溶剤は、粘着剤全体の1~99質量%配合される。
【0036】
さらに、テルペン樹脂等の粘着付与剤や、充てん剤、架橋剤、老化防止剤等、粘着剤用の添加剤を加えてもよい。
粘着剤用溶剤は、本発明の炭化水素系溶剤以外の粘着剤用溶剤を溶剤全体の40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下含んでいてもよい。
【0037】
インク用溶剤としては、アクリル系材料、シリコン系材料、などに例示される樹脂を主材料として含有する油性インクに配合される溶剤として使用される。中でもシリコン系材料を用いたインク用として、樹脂溶解性の高さの観点で好適である。例えば、アクリル系インクは、主成分であるアクリル樹脂を、インク用溶剤に溶解させてなる。例えば、インク用溶剤は、インク全体の1~99質量%配合される。さらに、乾燥剤、分散剤、沈降防止剤、消泡剤、防カビ剤、防錆剤、色分れ防止剤、紫外線吸収剤等、公知の添加剤を加えてもよい。
【0038】
一般的にインクは顔料、染料、樹脂、溶剤、油等で構成されるビヒクル、及び、各種調整剤等の助剤で構成される。そのため、溶剤は顔料の分散、染料や樹脂の溶解が要求される。そこで、前記要求を満足させるために、本発明の炭化水素系溶剤以外の公知の溶剤を併用してもよい。すなわち、インク用溶剤は、本発明の炭化水素系溶剤以外のインク用溶剤を溶剤全体の40質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下含んでいてもよい。
【0039】
本発明の炭化水素系溶剤は、用途や溶解させる対象に応じ、公知の溶剤と組み合わせ、最適化して使用することができる。組み合わせる溶剤の具体例として、水、脂肪族炭化水素類、脂環式炭化水素類、芳香族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素類、エーテル類、エステル類、エーテルエステル類、アルコール類、グリコール類、エーテルアルコール類、フェノール系化合物などが挙げられる。
【実施例0040】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
前駆体および水素化物の成分は、構成成分について各ピークをGCマススペクトルにて定性した。次いで前駆体および本発明成分の試薬や、前駆体および本発明成分を蒸留分画し濃縮した留分などの高濃度成分、前駆体の高濃度成分を水素化したものを試料として使用し、内部標準物質にN-プロピルベンゼンを用い、内部標準法を用いて下記のガスクロマトグラフィー分析条件にて定量した。それらの定量結果を使用して前駆体、および実施例と比較例記載の溶剤成分を定量した。
また異性体の沸点について、データベース、ジメチルシクロヘキサン等の類似した多置換アルキルシクロヘキサンの沸点順等からの推測等で補足した。
【0041】
ガスクロマトグラフィー分析は、試料をアセトンで10重量パーセントに希釈し、内部標準物質にN-プロピルベンゼンを用い、内部標準法にて下記条件のガスクロマトグラフィー分析によって得られたクロマトグラフをもって組成とした。以上のガスクロマトグラフィー分析条件は下記条件にて実施した。
【0042】
GC装置: 7890A GC SYSTEM(AGILENT TECHNOLOGIES社製)
カラム:TC-1(ジーエルサイエンス社製、無極性) Φ0.25MM×60M 膜厚0.25ΜM
スプリット比:100
注入部温度:250℃
カラム内ガス線速度:20CM/秒
検出方法:FID(水素炎イオン化型検出器)
検出部温度:250℃
オーブン温度:40℃にて10分保持後、一分間あたり4℃で220℃まで昇温、到達後、220℃を5分保持
【0043】
また、各化合物の溶解度パラメータは、コンピュータソフトウェアHANSEN SOLUBILITY PARAMETERS IN PRACTICE (HSPIP)VER5.2.06にて、DIY(溶媒の分子構造からハンセンの溶解度パラメータを推算する機能)のSMILESによる、25℃におけるハンセン溶解度パラメータを各成分について求め、(各成分のハンセン溶解度パラメータ)×(各成分割合)の総和とした。
【0044】
実施例1
酸触媒を用いたエチレンとベンゼンのアルキル化反応にてエチルベンゼンを合成した反応液からエチルベンゼンを留去し、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、トリエチルベンゼンを主成分として含む前駆体混合物を得た。1リットル容オートクレーブにこの前駆体混合物600G、触媒としてNI系触媒(堺化学工業株式会社製、SN-750)0.8Gを入れ、温度170℃、圧力3MPA、撹拌翼回転数600回転/分で28時間水素化反応を行った。水素ボンベ圧力による水素吸収量は理論量の99%であった。水素化中の前駆体混合物の組成変化をガスクロマトグラフィー分析にて追跡し、前駆体混合物中の芳香族化合物が、水素化によりシクロヘキサン等の脂環式炭化水素に転化されたのを確認した。
【0045】
反応終了後、表1記載の組成からなる炭化水素系組成物を取得した。得られた炭化水素系組成物は、残存芳香族成分の含有量は1%未満、溶解度パラメータは16.0MPA0.5、アニリン点は52℃であった。
この炭化水素系組成物を使用し、以下の溶剤特性評価を実施した。
【0046】
引火点
タグ密閉式引火点試験器「ATG-8」(田中科学機器製作所(株)製)を使用して、JIS K 2265-1:タグ密閉法による引火点の求め方により測定した。
【0047】
塗膜評価
得られた炭化水素系溶剤100G、酢酸ブチル70G、アルキッド樹脂200G、顔料20Gを混合しアルキッド塗料を作成した。この塗料をSUS304製の平板に塗布後、約20℃で18時間乾燥させ、塗膜を形成した。
この塗膜について、(1)目視による平滑性を確認し、表面が平滑である場合を○、表面に凹凸がある場合を×として表面平滑性を評価した。また、(2)JIS K 5600-5-6記載のクロスカット法にて塗膜の剥がれ具合を表1の分類0~5に当て嵌めることにより、塗膜の剥がれ性を評価した。数値が小さいほどはがれにくく、塗膜付着性が良好である。
【0048】
【0049】
粘着性評価
天然ゴム100重量部に対して、テルペン系粘着付与樹脂80重量部をオープンロールにて混練して得られる天然ゴム-粘着付与樹脂混合物を、得られた炭化水素系溶剤720重量部に溶解し、天然ゴム系溶剤型粘着剤を得た。これをコーターで試験板に乾燥後の膜厚が0.25ΜMにて塗布し、100℃で一晩乾燥させ、さらに一日室温で安定させて、長さ100MMの粘着性試験板を作成し、JIS Z 0237 傾斜式ボールタックによる粘着性評価を「NO.183-BT ボールタックテスター」((株)安田精機製作所)にて行った。傾斜角30°で、測定部でボールが5秒以上制止する最大ボールNO.にて評価した。ボールNO.が大きいほど呼び径の大きなボールを制止可能で、粘着性が高い。
【0050】
インク希釈性評価
シリコン系材料を使用した油性インクを得られた炭化水素系溶剤で2倍に希釈した場合と、市販の希釈剤(「インク用シンナー」東洋石油化学(株)製)を用いて2倍に希釈した場合の希釈性について目視評価し、さらに希釈した液を-5度で24時間保存後の分離、沈殿の有無を目視評価した。この2つの目視評価とも問題ない場合を○、1つ以上問題がある場合を×と評価した。
【0051】
実施例2
実施例1における条件を変えて取得した、組成を変化させた表2記載の組成の混合物を使用し、合成例1と同一条件にて水素化反応を行った。水素化反応停止後得られた炭化水素系組成物は、残存芳香族成分の含有量は1%未満、溶解度パラメータ16.0MPA0.5、アニリン点は51℃であった。
この炭化水素系組成物を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
【0052】
実施例3
実施例1における条件を変えて取得した、組成を変化させた表2記載の組成の混合物を使用し、合成例1と同一条件にて水素化反応を行った。水素化反応停止後得られた炭化水素系組成物は、残存芳香族成分の含有量は1%未満、溶解度パラメータ16.0MPA0.5、アニリン点は53℃であった。
この炭化水素系組成物を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
【0053】
比較例1
実施例1における条件を変え組成を変化させた表2記載の組成の混合物を使用し、合成例1と同一条件にて水素化反応を行った。水素化反応停止後得られた炭化水素系組成物は、残存芳香族成分の含有量は1%未満、C10成分の脂環式炭化水素(1)とC12成分の脂環式炭化水素(3)の合計含有量は78%であり、溶解度パラメータ16.0MPA0.5、アニリン点は49℃であった。この炭化水素系組成物を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
【0054】
比較例2
実施例1における条件を変え組成を変化させた表2記載の組成の混合物を使用し、合成例1と同一条件にて水素化反応を行った。水素化反応停止後得られた炭化水素系組成物は、残存芳香族成分の含有量は1%未満、炭素数10の単環の脂環式炭化水素の含有量及び前記炭素数12の単環の脂環式炭化水素の含有量の和を100%としたとき炭素数12の単環の脂環式炭化水素が11%であり、溶解度パラメータ16.0MPA0.5、アニリン点は55℃であった。この炭化水素系組成物を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
【0055】
比較例3
実施例1における条件を変え組成を変化させた表2記載の組成の混合物を使用し、合成例1と同一条件にて水素化反応を行った。水素化反応停止後得られた炭化水素系組成物は、残存芳香族成分の含有量は1%未満、C10成分の脂環式炭化水素(1)とC12成分の脂環式炭化水素(3)の合計含有量は84%であり、炭素数10の単環の脂環式炭化水素の含有量及び前記炭素数12の単環の脂環式炭化水素の含有量の和を100%としたとき炭素数12の単環の脂環式炭化水素が1%であり、溶解度パラメータ16.0MPA0.5、アニリン点は48℃であった。この炭化水素系組成物を使用して、実施例1と同様の溶剤特性評価を実施した。
【0056】
以上の実施例、比較例の結果を表2に示す。
表2記載の評価結果より明らかなように、本発明の組成からなる実施例の炭化水素系溶剤は、優れた溶剤特性を示した。
【0057】