(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177134
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】負極活物質、負極、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池及び負極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/587 20100101AFI20231206BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20231206BHJP
【FI】
H01M4/587
H01M10/054
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089895
(22)【出願日】2022-06-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)2017年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業研究成果最適展開支援プログラム 戦略テーマ重点タイプ「カリウムイオン電池およびカリウムイオンキャパシタの基本技術開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 圭
(72)【発明者】
【氏名】多々良 涼一
(72)【発明者】
【氏名】保坂 知宙
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 大輔
(72)【発明者】
【氏名】田中 陽子
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ03
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL07
5H029AM03
5H029AM05
5H029AM07
5H029BJ03
5H029BJ12
5H029CJ02
5H029HJ00
5H029HJ06
5H029HJ11
5H029HJ14
5H050AA08
5H050BA15
5H050CA01
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB08
5H050EA10
5H050EA23
5H050GA02
5H050HA00
5H050HA06
5H050HA11
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】放電容量が高い二次電池が得られる負極活物質及びその製造方法、負極活物質を含む負極、並びに、負極を備えたナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池の提供。
【解決手段】グラフェンを含有する炭素材料を含み、前記グラフェンの積層数が3.10~3.90であり、小角X線散乱法で測定した内部細孔直径が、1.25nm~1.60nmである負極活物質。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
グラフェンを含有する炭素材料を含み、
前記グラフェンの積層数が3.10~3.90であり、
小角X線散乱法で測定した内部細孔直径が、1.25nm~1.60nmである負極活物質。
【請求項2】
前記グラフェンの積層数が3.20~3.50である請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の負極活物質を含む負極。
【請求項4】
請求項3に記載の負極を備えたナトリウムイオン電池。
【請求項5】
請求項3に記載の負極を備えたカリウムイオン電池。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の負極活物質を製造する負極活物質の製造方法であり、
有機酸亜鉛を含む粉体を準備する工程と、
1350℃~1700℃で焼成して炭素材料を得る工程と、を含む負極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記有機酸亜鉛が式量400~600の有機酸亜鉛A及び式量180~220の有機酸亜鉛Bを含む請求項6に記載の負極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記有機酸亜鉛Aがグルコン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記有機酸亜鉛Bが酢酸亜鉛及び酢酸亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも1種である請求項7に記載の負極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、負極活物質、負極、ナトリウムイオン電池、カリウムイオン電池及び負極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、高エネルギー密度の二次電池として、例えばリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等を正極と負極との間で移動させて充放電が行われる二次電池が知られている。
【0003】
このような二次電池において、一般に正極としてコバルト酸リチウム(LiCoO2)、コバルト酸ナトリウム(NaCoO2)等の層状構造を有する遷移金属複合酸化物等が用いられ、負極としてリチウムイオン等の吸蔵及び放出が可能な炭素材料等が用いられている。
【0004】
例えば、特許文献1には、「蓄電デバイスの電極材料に用いられる炭素材料であって、前記炭素材料が、グラフェン積層構造を有し、前記炭素材料の小角X線散乱スペクトルにおいて、散乱ベクトルの自然対数LN(q)が-1.5のときの散乱強度の自然対数を示す点と、散乱ベクトルの自然対数LN(q)が1.4のときの散乱強度の自然対数を示す点とを結ぶ直線の傾きが、-1.5以下である、炭素材料。」が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
二次電池において、さらなる高容量化が要求されている。
【0007】
本開示が解決しようとする課題は、放電容量が高い二次電池が得られる負極活物質及びその製造方法、負極活物質を含む負極、並びに、負極を備えたナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための手段には、以下の手段が含まれる。
<1> グラフェンを含有する炭素材料を含み、
前記グラフェンの積層数が3.10~3.90であり、
小角X線散乱法で測定した内部細孔直径が、1.25nm~1.60nmである負極活物質。
<2> 前記グラフェンの積層数が3.20~3.50である<1>に記載の負極活物質。
<3> <1>又は<2>に記載の負極活物質を含む負極。
<4> <3>に記載の負極を備えたナトリウムイオン電池。
<5> <3>に記載の負極を備えたカリウムイオン電池。
<6> <1>又は<2>に記載の負極活物質を製造する負極活物質の製造方法であり、
有機酸亜鉛を含む粉体を準備する工程と、
1350℃~1700℃で焼成して炭素材料を得る工程と、を含む負極活物質の製造方法。
<7> 前記有機酸亜鉛が式量400~600の有機酸亜鉛A及び式量180~220の有機酸亜鉛Bを含む<6>に記載の負極活物質の製造方法。
<8> 前記有機酸亜鉛Aがグルコン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも1種であり、前記有機酸亜鉛Bが酢酸亜鉛及び酢酸亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも1種である<7>に記載の負極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本開示が解決しようとする課題は、放電容量が高い二次電池が得られる負極活物質及びその製造方法、負極活物質を含む負極、並びに、負極を備えたナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池10の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の一例である実施形態について説明する。これらの説明および実施例は、実施形態を例示するものであり、発明の範囲を制限するものではない。
本明細書中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
なお、本願明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0012】
各成分は該当する物質を複数種含んでいてもよい。
組成物中の各成分の量について言及する場合、組成物中に各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計量を意味する。
【0013】
<負極活物質>
本開示に係る負極活物質は、グラフェンを含有する炭素材料を含み、グラフェンの積層数が3.10~3.90であり、小角X線散乱法で測定した内部細孔直径が、1.25nm~1.60nmである。
【0014】
本開示に係る負極活物質は、上記構成により、放電容量が高い二次電池が得られる負極活物質となる。その理由は、次の通り推測される。
【0015】
本開示に係る負極活物質は、グラフェンを含有する炭素材料を含み、グラフェンの積層数が3.10~3.90であり、小角X線散乱法で測定した内部細孔直径が、1.25nm以上であることにより、より多くのイオン(リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等)を収容することが可能であるためと考えられる。
また、内部細孔直径が1.60nmを超えるものは製造が困難であることから、内部細孔直径は1.60nm以下である。
【0016】
以下、負極活物質について詳細に説明する。
【0017】
(炭素材料)
本開示に係る負極活物質は、グラフェンを含有する。
そして、グラフェンの積層数は3.10~3.90である。
ここで、グラフェンとは、sp2混成軌道を有する炭素原子同士が結合することで形成される炭素原子の直径と同一の厚さを有する単層のシートを指す。
【0018】
本開示に係る負極活物質が、グラフェンを含有し、グラフェンの積層数を3.10以上とすることで、グラフェンの積層部分により多くのイオンが貯蔵可能となる。またグラフェンの積層数を3.90以下とすることで、グラフェンによって囲まれた細孔のサイズがフレキシブルに変化し、より多くのイオンが貯蔵可能となる。このため、放電容量が高い二次電池が得られる負極活物質となる。
【0019】
放電容量の観点から、グラフェンの積層数は、3.20~3.50であることが好ましく、3.30~3.40であることがより好ましい。
【0020】
グラフェンの積層数は粉末X線回折装置により測定される値である。
グラフェンの積層数の具体的な測定手順は下記の通りである。
積層数は、炭素材料の結晶子サイズ及びグラフェンの層間距離を後述の手順(「・炭素材料の結晶子サイズの測定手順」及び「・グラフェンの層間距離の測定手順」を参照。)により測定し、下記式に代入することによって求められる。
式:(積層数)={(炭素材料の結晶子サイズ)/(グラフェンの層間距離)}+1
【0021】
放電容量の観点から、炭素材料中のグラフェンの層間距離は、0.37nm~0.39nmであることが好ましく、0.375nm~0.385nmであることがより好ましく、0.377nm~0.38nmであることが更に好ましい。
【0022】
・グラフェンの層間距離の測定手順
グラフェンの層間距離は、粉末X線回折装置によって測定される値である。
粉末X線回折装置としては、例えば、製品名「SmartLab(登録商標)」、リガク社製が使用可能である。具体的な測定方法は、以下の通りである。
試料をガラス製試料ホルダーに充填し、X線源にCu管球を用い、NiフィルターでKβ線を減衰させ、管電圧40kV、管電流45mAとし、検出器として高速一次元検出器(製品名「D/teX Ultra250」、リガク社製)を用い、ブラッグ・ブレンターノ型光学系で、測定範囲5°~100°、ステップ幅0.02°の条件で測定する。測定した回折線はカーブフィッティングプログラムfitykを用いてピークフィッティングを行う。具体的には、まず、回折線における2つの極小点を結んだ直線をバックグラウンドとする。次に、002回折線のみを選択しピークフィッティングを行うことで、回折線の位置を調べる。このとき用いる関数はPseudoVoigtである。層間距離は002のピーク位置からブラッグの式を用いて算出する。
【0023】
放電容量の観点から、炭素材料の結晶子サイズは、0.75nm以上1.00nm以下であることが好ましく0.80nm以上0.95nm以下であることがより好ましく0.85nm以上0.90nm以下であることが更に好ましい。
【0024】
・炭素材料の結晶子サイズの測定手順
炭素材料の結晶子サイズは粉末X線回折装置により測定される値である。
炭素材料の結晶子サイズの具体的な測定手順は下記の通りである。
結晶子サイズは、粉末X線回折装置(製品名「SmartLab(登録商標)」、リガク社製)を用いて測定する。測定方法は、以下の通りである。
試料をガラス製試料ホルダーに充填し、X線源にCu管球を用い、NiフィルターでKβ線を減衰させ、管電圧40kV、管電流45mAとし、検出器として高速一次元検出器(製品名「D/teX Ultra250」、リガク社製)を用い、ブラッグ・ブレンターノ型光学系で、測定範囲5°~100°、ステップ幅0.02°の条件で測定し、回折線を得る。測定した回折線はカーブフィッティングプログラム(例えば、fityk)を用いてピークフィッティングを行う。具体的には、まず、回折線における2つの極小点を結んだ直線をバックグラウンドとする。次に、002回折線のみを選択しピークフィッティングを行うことで、002回折線の位置を調べる。このとき用いる関数はPseudoVoigtである。その後、002回折線の位置からScherrerの式によって算出する。
【0025】
(負極活物質の物性値)
-内部細孔直径-
本開示に係る負極活物質は、小角X線散乱法で測定した内部細孔直径(以下、単に「特定内部細孔直径」とも称する)が、1.25nm~1.60nmである。
【0026】
特定内部細孔直径を1.25nm以上とすることで、より多くのイオンを収容するために十分な容量が確保される。このため、放電容量が高い二次電池が得られる負極活物質となる。
製造の観点から内部細孔直径は1.60nm以下である。
【0027】
放電容量の観点及び製造の観点から、特定内部細孔直径は、1.35nm~1.55nmであることが好ましく、1.40nm~1.50nmであることがより好ましい。
【0028】
特定内部細孔直径は、小角X線散乱法により粉末X線回折装置によって測定される値である。
粉末X線回折装置としては、例えば、製品名「SmartLab(登録商標)」、リガク社製が使用可能である。具体的な測定方法は、以下の通りである。
試料をボロシリケートガラスキャピラリに詰めて、X線源にCu管球を用い、管電圧40kV、管電流45mAとし、検出器としてシンチレーションカウンタ(製品名「SC-70」、リガク社製)を用い、角度範囲0.06°~9.98°、スキャンスピード0.33°min-1の条件で測定する。得られたスペクトルは、粒径・空孔径解析ソフトウェア(製品名「NANO-Solver3.7」、リガク社製)を用いてフィッティングを行い、細孔の形状が球状であると仮定し細孔直径の算出を行う。
【0029】
<負極活物質の製造方法>
本開示に係る負極活物質の製造方法は、有機酸亜鉛を含む粉体を準備する工程(準備工程)と、
1350℃~1700℃で焼成して炭素材料を得る工程(焼成工程)と、を含むことが好ましい。
【0030】
(準備工程)
準備工程は有機酸亜鉛を含む粉体を準備する工程である。
有機酸亜鉛は、亜鉛と有機酸との塩である。
有機酸とは、アレニウス酸である有機化合物を意味する。
有機酸は、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基、及びチオール基からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましく、カルボキシ基を含むことがより好ましい。
【0031】
有機酸亜鉛としては、例えば、グルコン酸亜鉛、オロチン酸亜鉛、グリシン酸亜鉛、グルタミン酸亜鉛、酢酸亜鉛、クエン酸亜鉛、リンゴ酸亜鉛、安息香酸亜鉛、ステアリン酸亜鉛及びこれらの水和物が挙げられる。
【0032】
有機酸亜鉛は式量400~600の有機酸亜鉛A及び式量180~220の有機酸亜鉛Bを含むことが好ましい。
有機酸亜鉛が有機酸亜鉛A及び有機酸亜鉛Bを含むことで、有機酸亜鉛を含む粉体中に含まれる亜鉛の量が増加しやすい。亜鉛は負極活物質の孔を形成するため、亜鉛の量が増加することにより、負極活物質の孔が形成されやすくなる。そのため、有機酸亜鉛が有機酸亜鉛A及び有機酸亜鉛Bを含むことで、負極活性物質の特定内部細孔直径が1.25nm~1.60nmとなりやすくなる。
【0033】
放電容量の観点から、有機酸亜鉛Aの式量は400~650であることがより好ましく、450~500であることが更に好ましい。
放電容量の観点から、有機酸亜鉛Bの式量は180~210であることがより好ましく、180~200であることが更に好ましい。
【0034】
ここで、有機酸亜鉛A及び有機酸亜鉛Bの式量は、有機酸亜鉛A及び有機酸亜鉛Bが水和物として存在する場合は、水分子の式量は含まないこととする。
具体的には、有機酸亜鉛Aがグルコン酸亜鉛(II)水和物(組成式:C12H22014Zn・2H2O、式量492)である場合、有機酸亜鉛Aの式量は、グルコン酸亜鉛(II)水和物の式量(すなわち、式量492)から、2つの水分子の式量の合計値(すなわち、式量18×2=36)を減じた値であり、式量456とする。
【0035】
有機酸亜鉛Aは、例えば、グルコン酸亜鉛、クエン酸亜鉛及びこれらの水和物が挙げられる。
有機酸亜鉛Bは、例えば、グリシン酸亜鉛、グルタミン酸亜鉛、酢酸亜鉛、アクリル酸亜鉛及びこれらの水和物が挙げられる。
放電容量の観点及び溶解性の観点から、有機酸亜鉛Aがグルコン酸亜鉛及びグルコン酸亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも1種であり、有機酸亜鉛Bが酢酸亜鉛及び酢酸亜鉛水和物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0036】
有機酸亜鉛A及び有機酸亜鉛Bのモル比(有機酸亜鉛A/有機酸亜鉛B)は、1以上5以下であることが好ましく、2以上4以下であることがより好ましく、3であることが更に好ましい。
【0037】
有機酸亜鉛を含む粉体を準備する方法は特に限定されないが、例えば、有機酸亜鉛と水とを混合して水溶液を得た後、この水溶液を凍結させた後に減圧下で水を昇華させる、すなわち凍結乾燥させ、凍結乾燥によって得られた凍結乾燥物を粉砕する方法であることが好ましい。
【0038】
凍結乾燥は、例えば、東京理科器械社製の凍結乾燥装置(製品名「FDU-1100型」)を用いて、103Pa~104Paの圧力で行われる。
凍結乾燥物を粉砕する方法は特に限定されず、公知の粉砕方法を用いることができる。
【0039】
(焼成工程)
焼成工程は、準備工程で得た有機酸亜鉛を含む粉体又は後述のその他の工程によって得た前駆体を1350℃~1700℃で焼成して炭素材料を得る工程である。
【0040】
本工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス及びアルゴンガスが挙げられる。不活性ガスの流量は50mL/分~300mL/分であることが好ましい。
【0041】
焼成方法は特に限定されず、例えば、管状炉を用いて行われる。焼成温度は、1350℃~1700℃であることが好ましく、より好ましくは1400℃~1600℃である。焼成温度を1350℃~1700℃とすることにより、炭素材料の構造がイオンの貯蔵により適した構造になると考えられる。
最終到達温度までの温度上昇速度は、5℃/分~20℃/分であることが好ましい。最終到達温度に達した後の焼成時間は、30分~2時間であることが好ましい。
【0042】
焼成後、室温まで放冷し、焼成によって得られた焼成物を粉砕することが好ましい。粉砕された焼成物をそのまま負極活物質として用いてもよく、焼成物に添加剤を混合したものを負極活物質として用いてもよい。粉砕方法は特に限定されず、公知の粉砕方法を用いることができる。
【0043】
(その他の工程)
本開示に係る負極活物質の製造方法は、上記準備工程と上記焼成工程以外の工程を含んでいてもよい。
【0044】
具体的には、上記準備工程と、上記焼成工程との間に、500℃~800℃で熱処理する熱処理工程と、熱処理によって得られた熱処理物を酸で洗浄する洗浄工程と、洗浄によって得られた酸処理物を乾燥させて前駆体を得る乾燥工程と、をさらに有することが好ましい。
【0045】
熱処理工程は、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。不活性ガスとしては、窒素ガス及びアルゴンガスが挙げられる。不活性ガスの流量は50mL/分~300mL/分であることが好ましい。
【0046】
熱処理方法は特に限定されず、例えば、管状炉を用いて行われる。熱処理温度は、500℃~800℃であることが好ましく、より好ましくは500℃~700℃であり、さらに好ましくは550℃~650℃である。有機酸亜鉛を含む粉体をあらかじめ熱処理し、その後焼成を行うことにより、炭素材料の構造がイオンの貯蔵にさらに適した構造になると考えられる。最終到達温度までの温度上昇速度は、5℃/分~20℃/分であることが好ましい。最終到達温度に達した後の熱処理時間は、30分~2時間であることが好ましい。
【0047】
熱処理後、室温まで放冷し、熱処理によって得られた熱処理物を粉砕することが好ましい。粉砕方法は特に限定されず、公知の粉砕方法を用いることができる。
【0048】
洗浄工程において、酸の種類は特に限定されないが、取り扱いやすさの観点から、塩酸であることが好ましい。塩酸の濃度は、洗浄効率の観点から、0.5mol/L~2mol/Lであることが好ましい。
【0049】
洗浄方法は特に限定されず、公知の方法を用いることができる。洗浄効率の観点から、洗浄液である酸溶液に超音波振動を与えながら洗浄することが好ましい。
【0050】
洗浄時間は特に限定されず、例えば30分~2時間である。
【0051】
酸での洗浄後、酸洗浄された混合物をイオン交換水で洗浄することが好ましい。イオン交換水での洗浄は、洗浄によって排出される水の電気伝導度が0.2mS/m以下になるまで行われることが好ましい。
【0052】
イオン交換水での洗浄後、洗浄によって得られた酸処理物を乾燥させて前駆体を得ることが好ましい。乾燥は減圧下、例えば、1000Pa~20000Paの圧力で行われる。乾燥温度は、例えば、80℃~120℃である。
【0053】
<負極>
本開示に係る負極は、本開示に係る負極活物質を含む。負極としては、例えば、負極活物質からなるもの、及び、集電体とその集電体の表面に形成された負極活物質層とを有し、負極活物質層が負極活物質及び添加剤を含むものが挙げられる。
添加剤としては、導電剤及び結着剤が挙げられる。
【0054】
集電体とその集電体の表面に形成された負極活物質層とを有し、負極活物質層が負極活物質及び添加剤を含む負極について以下に説明する。
【0055】
-集電体-
集電体としては、ニッケル、アルミニウム、ステンレス(SUS)等の導電性の材料を用いた箔、メッシュ、エキスパンドグリッド(エキスパンドメタル)及びパンチドメタルが挙げられる。メッシュの目開き、線径、及びメッシュ数は特に限定されない。集電体としては、アルミニウム集電体が好ましい。
【0056】
-導電剤-
導電剤としては、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ(CNT)、気相成長炭素繊維(VGCF)等の炭素が挙げられる。
【0057】
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、オイルファーネス及びケッチェンブラックが挙げられる。中でも、導電性の観点から、アセチレンブラック及びケッチェンブラックよりなる群から選ばれた少なくとも1種であることが好ましく、アセチレンブラック又はケッチェンブラックであることがより好ましい。
【0058】
導電剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。負極活物質層における導電剤の含有量は特に限定されないが、負極活物質層の全質量に対し、1質量%~30質量%であることが好ましく、2質量%~20質量%であることがより好ましく、3質量%~10質量%であることがさらに好ましい。上記範囲であると、より高出力の負極が得られ、また、負極の耐久性に優れる。
【0059】
-結着剤-
結着剤としては特に限定されず、公知の結着剤を用いることができ、例えば、高分子化合物が挙げられる。高分子化合物としては、具体的には、フッ素樹脂、ポリオレフィン樹脂、ゴム状重合体、ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、グルタミン酸、デンプン、セルロース系化合物、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸ナトリウム及びポリアクリロニトリルが挙げられる。
【0060】
フッ素樹脂としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン系フッ素ゴム(VDF-HFP系フッ素ゴム)、及びビニリデンフルオライド-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン系フッ素ゴム(VDF-HFP-TFE系フッ素ゴム)が挙げられる。
【0061】
ポリオレフィン樹脂としては、ポリエチレン、シンジオタクチック-1,2-ポリブタジエン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、及びプロピレン-α-オレフィン(炭素数2~12)共重合体が挙げられる。
【0062】
ゴム状重合体としては、スチレン-ブタジエンゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴム、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体及びその水素添加物、スチレン-エチレン-ブタジエン-スチレン共重合体、並びに、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体及びその水素添加物が挙げられる。
【0063】
セルロース系化合物としては、セルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルヒドロキシエチルセルロース、及びニトロセルロースが挙げられる。
【0064】
中でも、結着剤は、分散媒として水が使用可能であり結着力に優れるという観点から、ポリアクリル酸ナトリウムであることが好ましい。
【0065】
結着剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。負極活物質層における結着剤の含有量は特に限定されないが、負極活物質層の全質量に対し、1質量%~30質量%であることが好ましく、2質量%~20質量%であることがより好ましく、5質量%~15質量%であることがさらに好ましい。上記範囲であると、負極の成形性及び耐久性に優れる。
【0066】
-負極の製造方法-
集電体とその集電体の表面に形成された負極活物質層とを有する負極の製造方法としては、特に限定されず、例えば、負極活物質と導電助剤と結着剤とを混合して加圧成形を行う方法であってもよいし、後述するスラリーを調製した後に、集電体上に塗工し、乾燥させる方法であってもよい。
【0067】
集電体とその集電体の表面に形成された負極活物質層とを有する負極の製造方法が、スラリーを調製した後に、集電体上に塗工し、乾燥させる方法である場合、スラリーは、負極活物質、導電助剤、結着剤及び溶剤を含むことが好ましい。
溶剤としては、N,N-ジメチルアミノプロピリアミン、ジエチルトリアミン等のアミン;エチレンオキシド、テトラヒドロフラン等のエーテル;メチルエチルケトン等のケトン;酢酸メチル等のエステル、ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等の非プロトン性極性溶媒、及び水が挙げられる。
【0068】
スラリーを集電体上に塗工する方法としては、例えば、スリットダイ塗工法、スクリーン塗工法、カーテン塗工法、ナイフ塗工法、グラビア塗工法、及び静電スプレー法が挙げられる。
【0069】
本開示に係る負極の形状及び大きさは、特に限定されず、使用する電池の形状及び大きさに合わせればよい。
【0070】
本開示に係る負極は、負極活物質を1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。負極活物質層中の負極活物質の含有量は特に限定されないが、80質量%~95質量%であることが好ましい。
【0071】
<ナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池>
本開示に係るナトリウムイオン電池は、本開示に係る負極を備えたナトリウムイオン電池である。
本開示に係るカリウムイオン電池は、本開示に係る負極を備えたカリウムイオン電池である。
本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池は、ナトリウムイオン二次電池及びカリウムイオン二次電池として好適に用いることができる。
【0072】
本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池は、負極以外に、正極及び電解液を備えることが好ましく、負極以外に、正極、電解液及びセパレータを備えることがより好ましい。
【0073】
本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池は、電池ケース、スペーサー、ガスケット、スプリング等のリチウムイオン電池で使用される公知の各種材料を備えていてもよい。
【0074】
本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池を作製する方法は特に限定されず、公知の方法に従って実施することができる。作製される電池の形状は特に限定されず、例えば、円筒状、角型、コイン型等の種々の形状が挙げられる。
【0075】
(正極)
本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池は、正極を備えることが好ましい。正極は、正極活物質を含むことが好ましい。また、正極は、正極活物質以外の他の化合物を含んでいてもよい。
【0076】
他の化合物としては、特に限定されず、電池の正極の作製に用いられる公知の添加剤を用いることができる。添加剤としては、導電剤、結着剤、及び集電体が挙げられる。導電剤、結着剤、及び集電体としては、上述したものを用いることができる。
【0077】
本開示に係る正極の形状及び大きさは、特に限定されず、使用する電池の形状及び大きさに合わせ、所望の形状及び大きさとすることができる。
【0078】
正極活物質としては、特に制限はなく、公知のナトリウムイオン電池用正極活物質又は公知のカリウムイオン電池用正極活物質を用いることができる。
ナトリウムイオン電池用正極活物質は、充放電容量及び出力特性の観点から、ナトリウム含有化合物であることが好ましく、ナトリウム-遷移金属複合酸化物であることがより好ましい。ナトリウム-遷移金属複合酸化物としては、例えば、NaMn2O4、NaNiO2、NaCoO2、NaFeO2,NaNi0.5Mn0.5O2、及びNaNi0.5Ti0.5O2が挙げられる。
カリウムイオン電池用正極活物質は、KxMy[Fe(CN)6]zのカリウム塩(M=Fe、Mn、Co、Ni、Cr又はCuを表し、xは0以上2以下の数を表し、yは0.5以上1.5以下の数を表し、zは0.5以上1.5以下の数を表す。)、KFeSO4F、リン酸鉄カリウム化合物、リン酸バナジウムカリウム化合物、活性炭、α-FePO4、K0.3MnO2、無水ペリレン等が挙げられる。
【0079】
(電解液)
本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池に用いられる電解質としては、電解液、及び、固体電解質のいずれも使用することができる。
【0080】
ナトリウムイオン電池の場合、電解液は、ナトリウム塩を主電解質とするものであれば特に限定されない。ナトリウム塩としては、水系電解液の場合には、例えば、NaClO4、NaPF6、NaNO3、NaOH、NaCl、Na2SO4、及び、Na2Sが挙げられる。
【0081】
また、ナトリウム塩としては、非水系電解液の場合には、例えば、NaPF6、NaBF4、CF3SO3Na、NaAsF6、NaB(C6H5)4、CH3SO3Na、NaN(SO2CF3)2、NaN(SO2C2F5)2、NaC(SO2CF3)3、及びNaN(SO3CF3)2)が挙げられる。これらのナトリウム塩は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ナトリウム塩は、NaPF6であることが好ましい。
【0082】
カリウムイオン電池の場合、電解液は、カリウム塩を主電解質とするものであれば特に限定されない。
カリウム塩としては、水系電解液の場合には、例えば、KClO4、KPF6、KNO3、KOH、KCl、K2SO4、及び、K2S等が挙げられる。これらのカリウム塩は、1種単独で用いることもできるが、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
カリウム塩としては、非水系電解液の場合には、例えば、電解質(例えば、KPF6、KBF4、CF3SO3K、KAsF6、KB(C6H5)4、CH3SO3K、KN(SO2CF3)2、KN(SO2C2F5)2、KC(SO2CF3)3、KN(SO3CF3)2等)を、溶媒、例えば、プロピレンカーボネート(PC)を含む電解液として使用することができるが、この他にも、エチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)との混合溶媒に溶解させたものや、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合溶媒に溶解させたもの等を電解液として使用することができる。
これらの中でも、カリウム塩としては、KPF6が好ましい。
【0083】
電解液は、ナトリウム塩又はカリウム塩と溶媒とを含むことが好ましい。溶媒としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、イソプロピルメチルカーボネート、ビニレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート、4-トリフルオロメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン、1,2-ジ(メトキシカルボニルオキシ)エタン等のカーボネート;
1,2-ジメトキシエタン、1,3-ジメトキシプロパン、ペンタフルオロプロピルメチルエーテル、2,2,3,3-テトラフルオロプロピルジフルオロメチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン等のエーテル;
ギ酸メチル、酢酸メチル、γ-ブチロラクトン等のエステル;
アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル;
N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド;
3-メチル-2-オキサゾリドン等のカーバメート;
スルホラン、ジメチルスルホキシド、1,3-プロパンサルトン等の含硫黄化合物;及び上記化合物において水素原子をフッ素原子に置換した化合物が挙げられる。
【0084】
溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよいが、2種以上を混合して用いることが好ましい。
【0085】
中でも、溶媒は、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種の溶媒であることが好ましく、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート及びジエチルカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも2種の混合溶媒であることがより好ましい。
【0086】
ナトリウムイオン電池の場合、電解液中のナトリウム塩の濃度は、特に限定されないが、0.1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。
カリウムイオン電池の場合、電解液中のカリウム塩の濃度は、特に限定されないが、0.1mol/L以上2mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上1.5mol/L以下であることがより好ましい。
【0087】
固体電解質としては、公知の固体電解質を用いることができる。例えばポリエチレンオキサイド系の高分子化合物、ポリオルガノシロキサン鎖又はポリオキシアルキレン鎖の少なくとも一種以上を含む高分子化合物等の有機系固体電解質を用いることができる。また、高分子化合物に非水電解質溶液を保持させた、いわゆるゲルタイプのものも用いることもできる。
【0088】
(セパレータ)
本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池は、セパレータを備えることが好ましい。
【0089】
セパレータは、正極と負極とを物理的に隔絶して、内部短絡を防止する役割を果たす。
セパレータは、多孔質材料からなり、その空隙には電解液が含浸され、電池反応を確保するために、イオン透過性(特に、少なくともナトリウムイオン透過性又はカリウムイオン透過性)を有する。
【0090】
セパレータとしては、例えば、樹脂製の多孔膜、及び不織布が挙げられる。セパレータは、多孔膜の層又は不織布の層からなる単層であってもよく、複数の層で構成される積層体であってもよい。積層体としては、組成の異なる複数の多孔膜の層を有する積層体、及び、多孔膜の層と不織布の層とを有する積層体が挙げられる。
【0091】
セパレータの材質は、電池の使用温度、電解液の組成等の条件を考慮して選択できる。多孔膜及び不織布を形成する繊維に含まれる樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン樹脂;ポリフェニレンサルファイド、ポリフェニレンサルファイドケトン等のポリフェニレンサルファイド樹脂;芳香族ポリアミド樹脂等のポリアミド樹脂;及びポリイミド樹脂が挙げられる。これらの樹脂は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、不織布を形成する繊維は、ガラス繊維等の無機繊維であってもよい。
【0092】
セパレータは、ガラス、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂及びポリフェニレンサルファイド樹脂よりなる群から選択される少なくとも一種の材質を含むセパレータであることが好ましい。中でも、セパレータとしては、ガラス繊維製のフィルターが好ましい。
【0093】
セパレータは、無機フィラーを含んでもよい。無機フィラーとしては、セラミックス(例えば、シリカ、アルミナ、ゼオライト及びチタニア)、タルク、マイカ、及びウォラストナイトが挙げられる。無機フィラーは、粒子状又は繊維状であることが好ましい。
【0094】
セパレータ中の無機フィラーの含有量は、10質量%~90質量%であることが好ましく、20質量%~80質量%であることがより好ましい。
【0095】
セパレータの形状や大きさは、特に限定されず、所望の電池の形状に合わせて適宜選択すればよい。
【0096】
図1は、本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池10の構成の一例を示す模式図である。ただし、本開示に係るナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池が、これに限定されない。
図1に示すナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池10は、コイン型電池であり、電池ケース12、ガスケット14、負極16、セパレータ18、正極20、スペーサー22、スプリング24、及び、正極側の電池ケース26を備えている。セパレータ18には、電解液(不図示)が含浸されている。
【実施例0097】
以下に実施例によりさらに具体的に説明するが、本開示はその主旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0098】
<負極活物質の調製>
(実施例1)
-準備工程-
フラスコに、有機酸亜鉛Aとしてグルコン酸亜鉛(II)二水和物(東京化成工業社製、式量456)7.1mmolと、有機酸亜鉛Bとして酢酸亜鉛(II)二水和物(富士フイルム和光純薬社製、式量183)2.4mmolと、60mLの水を加え、10分間撹拌し、混合した。次に、凍結乾燥装置(製品名「FDU-1100型」、東京理科器械社製)を用いて、6Paの圧力下で12時間凍結乾燥させた。凍結乾燥物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、有機酸亜鉛を含む粉体を得た。
【0099】
-熱処理工程(その他の工程)-
準備工程で得られた粉体を、管状炉でアルゴンガス雰囲気下、600℃で1時間熱処理を行った。ガスの流量は200mL/分とし、最終到達温度(600℃)までの温度上昇速度は、10℃/分とした。熱処理後、室温まで放冷した。得られた熱処理物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕した。
【0100】
-洗浄工程(その他の工程)-
熱処理工程で得られた粉砕物を、1mol/Lの塩酸で、超音波洗浄装置(製品名「ASU CLEANER ASU-3M」、アズワン社製)を用いて、超音波振動を与えながら洗浄した。酸洗浄物をイオン交換水で洗浄し、洗浄によって排出される水の電気伝導度が0.2mS/m以下になったことを確認した。
【0101】
-乾燥工程(その他の工程)-
洗浄工程で得られた酸処理物を2000Paの圧力下、110℃で24時間以上乾燥させ、前駆体を得た。
【0102】
-焼成工程-
乾燥工程で得られた前駆体を、管状炉でアルゴンガス雰囲気下、1400℃で1時間熱処理を行った。ガスの流量は200mL/分とし、最終到達温度(1400℃)までの温度上昇速度は、10℃/分とした。焼成後、室温まで放冷した。得られた焼成物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、負極活物質を得た。
【0103】
(実施例2)
準備工程を下記手順としたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質を得た。
-準備工程-
フラスコに、グルコン酸亜鉛(II)二水和物(東京化成工業社製、式量456)8.1mmolと、60mLの水を加え、10分間撹拌し、混合した。次に、凍結乾燥装置(製品名「FDU-1100型」、東京理科器械社製)を用いて、6Paの圧力下で12時間凍結乾燥させた。凍結乾燥物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、有機酸亜鉛を含む粉体を得た。
【0104】
(比較例1)
準備工程を下記手順としたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質を得た。
-準備工程-
フラスコに、グルコン酸マグネシウム(II)二水和物(東京化成工業社製、式量414.6)8.9mmolと、60mLの水を加え、10分間撹拌し、混合した。次に、凍結乾燥装置(製品名「FDU-1100型」、東京理科器械社製)を用いて、6Paの圧力下で24時間凍結乾燥させた。凍結乾燥物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、有機酸マグネシウムを含む粉体を得た。
【0105】
(比較例2)
-準備工程-
フラスコに、D-グルコース(関東化学社製、分子量180.16)10mmolと、100mLの水を加え、10分間撹拌し、混合した。次に、凍結乾燥装置(製品名「FDU-1100型」、東京理科器械社製)を用いて、6Paの圧力下で12時間凍結乾燥させた。凍結乾燥物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、粉体を得た。
【0106】
-洗浄工程(その他の工程)-
準備工程で得られた粉体を、1mol/Lの塩酸で、超音波洗浄装置(製品名「ASU CLEANER ASU-3M」、アズワン社製)を用いて、超音波振動を与えながら洗浄した。酸洗浄物をイオン交換水で洗浄し、洗浄によって排出される水の電気伝導度が0.2mS/m以下になったことを確認した。
【0107】
-乾燥工程(その他の工程)-
洗浄工程で得られた酸処理物を2000Paの圧力下、110℃で24時間以上乾燥させ、前駆体を得た。
【0108】
-焼成工程-
乾燥工程で得られた前駆体を、管状炉でアルゴンガス雰囲気下、1500℃で1時間熱処理を行った。ガスの流量は200mL/分とし、最終到達温度(1500℃)までの温度上昇速度は、10℃/分とした。焼成後、室温まで放冷した。得られた焼成物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、負極活物質を得た。
【0109】
(比較例3)
準備工程を下記手順としたこと以外は、実施例1と同様の方法で負極活物質を得た。
-準備工程-
グルコン酸カルシウム(II)一水和物(東京化成工業社製、式量430.39)4.5mmolを、管状炉でアルゴンガス雰囲気下、600℃で1時間熱処理を行った。ガスの流量は200mL/分とし、最終到達温度(600℃)までの温度上昇速度は、10℃/分とした。焼成後、室温まで放冷した。得られた焼成物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、有機酸カルシウムを含む粉体を得た。
【0110】
(比較例4)
-準備工程-
原料である液体Resol型フェノール樹脂に気孔生成剤(PFA(テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル))を8.2質量%添加した。次に架橋剤としてホルマリン、触媒としてマレイン酸を加えた。この混合液を合成樹脂製のブロック状型枠に注ぎ込み、60℃で16時間硬化させ硬化物を得た。硬化物を型枠から取り出し、水で洗浄してPFAおよび未反応物を除去し、乾燥させた。この製法により、連通したマクロ孔が三次元網目状に形成された黄色の多孔質フェノール樹脂のブロックを得た。
【0111】
-熱処理工程(その他の工程)-
出発物質である多孔質フェノール樹脂をアルミナボートに入れ、管状炉を用いてアルゴン雰囲気下、800℃で1時間炭素化した。この時ガスの流速は100℃/分、昇温速度は5℃/分で行った。得られた炭素化物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕した。
【0112】
-洗浄工程(その他の工程)-
熱処理工程で得られた粉砕物を、1mol/Lの塩酸で、超音波洗浄装置(製品名「ASU CLEANER ASU-3M」、アズワン社製)を用いて、超音波振動を与えながら洗浄した。酸洗浄物をイオン交換水で洗浄し、洗浄によって排出される水の電気伝導度が0.2mS/m以下になったことを確認した。
【0113】
-乾燥工程(その他の工程)-
洗浄工程で得られた酸処理物を2000Paの圧力下、110℃で24時間以上乾燥させ、前駆体を得た。
【0114】
-焼成工程-
乾燥工程で得られた前駆体を、管状炉でアルゴンガス雰囲気下、1500℃で1時間熱処理を行った。ガスの流量は100mL/分とし、最終到達温度(1500℃)までの温度上昇速度は、5℃/分とした。焼成後、室温まで放冷した。得られた焼成物を、メノウ乳鉢を用いて粉砕し、負極活物質を得た。
【0115】
<負極の作製>
調製した負極活物質と、導電剤であるアセチレンブラック(製品名「Li-400」、 デンカ社製)、結着剤であるポリアクリル酸ナトリウム(キシダ化学社製)とを、重量比85:5:10となるように秤量し、溶媒である水と混合してスラリーを得た。得られたスラリーを集電体(アルミニウム箔、宝泉株式会社製、厚さ0.017mm)上にドクターブレードを用いて塗工した。塗工物を乾燥機中で、80℃で2時間乾燥した後、150℃で12時間真空乾燥を行い、電極シートを得た。電極シートを電極打ち抜き機で直径10mmの円形に打ち抜いたものを負極とした。
【0116】
<ナトリウムイオン電池の作製>
(正極の作製)
ナトリウム金属(関東化学社製)を電極打ち抜き機で直径10~12mmの円形に打ち抜いたものを正極とした。
【0117】
(電解液の調製)
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比で1:1となるように混合した溶液に、1モル濃度の六フッ化リン酸ナトリウム(キシダ化学社製)を溶解させることにより、電解液を調製した。
【0118】
(ナトリウムイオン電池の作製)
本実施例では、負極活物質を用いて負極を作製し、正極にナトリウム金属を用いてナトリウムイオン電池の負極特性を半電池として評価した。
ナトリムイオン電池の作製は、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で行った。作製した負極、セパレータ(製品名「GB-100R」、厚さ380μm、直径1.8cmの円形のガラス繊維ろ紙)、作製した正極を、この順に重ね合わせた。これをSUS電池ケースに入れ、調製した電解液を注入した。ポリプロピレン製ガスケット(製品名「CR2032」、宝泉社製)、スペーサー(材質:SUS、直径16mm×高さ0.5mm、宝泉社製)、及び板ばね(材質:SUS、内径10mm、高さ2.0mm、厚さ0.25mm、宝泉社製ワッシャー)を用いて封をしてナトリムイオン電池(半電池)を得た。なお、電解液の注入量は、セパレータが電解液で十分満たされる量(200μl)とした。
【0119】
<カリウムイオン電池の作製>
(正極の作製)
カリウム金属(関東化学社製)を電極打ち抜き機で直径10~12mmの円形に打ち抜いたものを正極とした。
【0120】
(電解液の調製)
エチレンカーボネートとジエチルカーボネートとを体積比で1:1となるように混合した溶液に、1モル濃度のカリウムビス(フルオロスルホニル)アミド(KFSA)(SOLVIONIC SA社製)を溶解させることにより、電解液を調製した。
【0121】
(カリウムイオン電池の作製)
本実施例では、負極活物質を用いて負極を作製し、正極にカリウム金属を用いてカリウムイオン電池の負極特性を半電池として評価した。
カリムイオン電池の作製は、アルゴンガス雰囲気のグローブボックス内で行った。作製した負極、セパレータ(製品名「GB-100R」、厚さ380μm、直径1.8cmの円形のガラス繊維ろ紙)、作製した正極を、この順に重ね合わせた。これをSUS電池ケースに入れ、調製した電解液を注入した。ポリプロピレン製ガスケット(製品名「CR2032」、宝泉社製)、スペーサー(材質:SUS、直径16mm×高さ0.5mm、宝泉社製)、及び板ばね(材質:SUS、内径10mm、高さ2.0mm、厚さ0.25mm、宝泉社製ワッシャー)を用いて封をしてカリムイオン電池(半電池)を得た。なお、電解液の注入量は、セパレータが電解液で十分満たされる量(200μl)とした。
【0122】
なお、カリウムイオン電池の作製は、実施例1で得た負極活性物質を含む負極を備えたカリウムイオン電池、実施例2で得た負極活性物質を含む負極を備えたカリウムイオン電池、比較例1で得た負極活性物質を含む負極を備えたカリウムイオン電池及び比較例3で得た負極活性物質を含む負極を備えたカリウムイオン電池のみを作製した。
【0123】
<放充電試験>
作製したナトリムイオン電池及びカリウムイオン電池を用いて、電流密度25mA/g、充電終止電圧0.002V(終止電圧に到達した後、終止電圧で8時間保持(比較例4のみ終止電圧で14時間保持))、充電後休止時間5分間、放電終止電圧2V及び放電後の休止時間5分間の条件にて充放電試験を行い、充電容量及び放電容量を測定した。充放電試験には充放電試験装置(製品名「TOSCAT-3100」、東洋システム社製)を用いた。
また、測定した充電容量及び放電容量の値から初回充放電効率(放電容量÷充電容量×100)を算出した。
【0124】
【0125】
以下、表1中の記載について説明する。
・「有機酸亜鉛A」及び「有機酸亜鉛B」
各例の準備工程において使用した有機酸亜鉛A及び有機酸亜鉛Bの具体的な化合物を示す。化合物名の略称は以下の通りである。また、化合物名の略称の下に記載されたカッコ内の数値は、各例の準備工程において使用した有機酸亜鉛A及び有機酸亜鉛Bの式量を意味する。
Zn Glu:グルコン酸亜鉛(II)二水和物を意味する。
Zn Ace:酢酸亜鉛(II)二水和物を意味する。
・「その他」
各例の負極活物質の製造において有機酸亜鉛の代わりに他の化合物を使用した場合、その化合物を示す。Mg Gluはグルコン酸マグネシウム(II)二水和物を意味する。GlcはD-グルコースを意味する。Ca Gluはグルコン酸カルシウム(II)一水和物を意味する。
【0126】
・「積層数」
グラフェンの積層数を意味する。
・「層間距離」
炭素材料中のグラフェンの平均層間距離を意味する。
・「結晶子サイズ」
炭素材料の結晶子サイズを意味する。
【0127】
上記結果から、本実施例の負極活物質は、放電容量が高い二次電池が得られる負極活物質であることがわかる。
10:ナトリウムイオン電池及びカリウムイオン電池、12:電池ケース(負極側)、14:ガスケット、16:負極、18:セパレータ、20:正極、22:スペーサー、24:板ばね、26:電池ケース(正極側)