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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177167
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】イムノセンサ、抗体の再生方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/543 20060101AFI20231206BHJP
   G01N 27/327 20060101ALI20231206BHJP
   G01N 27/26 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
G01N33/543 531
G01N27/327 357
G01N27/26 361F
G01N33/543 501A
G01N33/543 595
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022089954
(22)【出願日】2022-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 渉
(72)【発明者】
【氏名】芦葉 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】平間 宏忠
(72)【発明者】
【氏名】千賀 由佳子
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 真宏
(57)【要約】
【課題】繰り返し、かつ連続的に使用することができ、さらに小型化できるイムノセンサ、およびイムノセンサにおける抗体の再生方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1つの流路21と、少なくとも1つの液体収容部22と、流路21と液体収容部22の間に介在する電解膜23と、流路21内に配置される第1電極24と、液体収容部22内に配置される第2電極25とを有する再生部2と、前記2つの電極に電圧を印加する電圧印加手段3と、流路21内に配置される抗体4と、抗体4が捕捉した抗原110を検出する検出手段5とを備え、流路21と液体収容部22は互いに隣接する領域7において電解膜23を介して接合し、流路21は抗原110を含む試料溶液120を流す流路であり、液体収容部22は液体130を収容する容器または流路である、イムノセンサ1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの流路と、少なくとも1つの液体収容部と、前記流路と前記液体収容部の間に介在する電解膜と、前記流路内に配置される第1電極と、前記液体収容部内に配置される第2電極と、を有する再生部と、
前記第1電極と前記第2電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記流路内に配置される抗体と、
前記抗体が捕捉した抗原を検出する検出手段と、を備え、
前記流路と前記液体収容部は、互いに隣接する領域において、前記電解膜を介して接合し、
前記流路は抗原を含む試料溶液を流す流路であり、前記液体収容部は液体を収容する容器または流路である、イムノセンサ。
【請求項2】
前記流路の長手方向に沿って、前記再生部を2つ以上備える、請求項1に記載のイムノセンサ。
【請求項3】
前記第1電極およびその周辺を含む領域に存在する前記試料溶液のpHを検出するpH検出部を備える、請求項1に記載のイムノセンサ。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載のイムノセンサにおける抗体の再生方法であって、
前記電圧印加手段により、前記第1電極と前記第2電極に電圧を印加し、前記電解膜を介して、前記液体収容部内の液体に含まれる水素イオンまたは水酸化物イオンを前記流路内の試料溶液へ移動させるか、または、前記流路内の試料溶液に含まれる水素イオンまたは水酸化物イオンを前記液体収容部内の液体へ移動させて、前記流路内において、前記第1電極およびその周辺を含む領域に存在する前記試料溶液のpHを制御する、抗体の再生方法。
【請求項5】
前記第1電極およびその周辺を含む領域に存在する前記試料溶液のpHを1以上3.5以下に制御する、請求項4に記載の抗体の再生方法。
【請求項6】
前記第1電極およびその周辺を含む領域に存在する前記試料溶液のpHを10以上に制御する、請求項4に記載の抗体の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イムノセンサ、およびイムノセンサにおける抗体の再生方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高度予防医療を実現するためのウェアラブル端末として、イムノセンサを内蔵したスマートウォッチ等の開発が進められている。イムノセンサとは、特定のバイオマーカー(抗原)と特異的に結合するタンパク質(抗体)を用いたバイオセンサーのことである。イムノセンサは、血液中等の特定のタンパク質を、抗原抗体反応を用いて検出するものである。イムノセンサでは、基板に1次抗体を予め固定化する。その後、抗原を含む液体等の検体を流して、1次抗体で抗原を捕捉する。さらに、標識となる物質である2次抗体を抗原に結合させて、1次抗体と2次抗体で抗原を挟み込む。この状態で、2次抗体(標識)の吸光度、蛍光強度、質量変化、標識物質(酵素)と基質の反応生成物の吸光度や酸化還元電流等を測定することにより、検体中の特定のタンパク質(抗原)を定量する。
【0003】
イムノセンサを内蔵したウェアラブル端末で検出する抗原としては、例えば、生活習慣病マーカーが挙げられる。癌の存在を示唆する腫瘍マーカーとしては、例えば、CEA、AFP(α-フェトプロテイン)等が挙げられる。心疾患を示唆するバイオマーカーとしては、例えば、酸化LDL、C反応性プロテイン(CRP)等が挙げられる。認知症を示唆するバイオマーカーとしては、例えば、アミロイドβ等が挙げられる。
【0004】
現在、超高齢社会となった日本では、対処療法的医療体制が限界となっている。そこで、健康長寿社会の構築、生活習慣病の予防、対処療法的医療からの脱却が望まれている。このような課題を解決する手段としては、日常的に使用者(装着者)の健康管理を行うことができる、イムノセンサを内蔵したウェアラブル端末が有効であると考えられる。
【0005】
代表的なイムノセンサとしては、例えば、ELISA(抗原抗体反応を利用して微量生体物質を定量する方法)を用いたセンサ、妊娠検査薬等のイムノクロマトグラフィーを用いたセンサ、表面プラズモン共鳴法(SPR)を用いたセンサ(例えば、非特許文献1参照)等が挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mazher-Iqbal Mohammed,Marc P.Y Desmulliez,“Lab-on-a-chip based immunosensor principles and technologies for the detection of cardiac biomarkers: a review”,Lab on a chip 2011,11,569-595.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来のイムノセンサは、基本的に使い捨てであり、連続して使用することができない。なぜならば、抗原を検出した後に、抗体から抗原を解離させて、イムノセンサを再生するためには、送液ポンプやバルブを用いて、イムノセンサ内に、再生液(酸やアルカリ等)を送液する必要があった。このような抗原を解離させる方法は、イムノセンサの複雑化や大型化を助長すると共に、試薬の消耗(交換の必要性)を生じていた。すなわち、従来の再生方法は、イムノセンサの小型化を阻害していた。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、繰り返し、かつ連続的に使用することができ、さらに小型化できるイムノセンサ、およびイムノセンサにおける抗体の再生方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を有する。
[1]少なくとも1つの流路と、少なくとも1つの液体収容部と、前記流路と前記液体収容部の間に介在する電解膜と、前記流路内に配置される第1電極と、前記液体収容部内に配置される第2電極と、を有する再生部と、
前記第1電極と前記第2電極に電圧を印加する電圧印加手段と、
前記流路内に配置される抗体と、
前記抗体が捕捉した抗原を検出する検出手段と、を備え、
前記流路と前記液体収容部は、互いに隣接する領域において、前記電解膜を介して接合し、
前記流路は抗原を含む試料溶液を流す流路であり、前記液体収容部は液体を収容する容器または流路である、イムノセンサ。
[2]前記流路の長手方向に沿って、前記再生部を2つ以上備える、[1]に記載のイムノセンサ。
[3]前記第1電極およびその周辺を含む領域に存在する前記試料溶液のpHを検出するpH検出部を備える、[1]に記載のイムノセンサ。
[4][1]~[3]のいずれかに記載のイムノセンサにおける抗体の再生方法であって、
前記電圧印加手段により、前記第1電極と前記第2電極に電圧を印加し、前記電解膜を介して、前記液体収容部内の液体に含まれる水素イオンまたは水酸化物イオンを前記流路内の試料溶液へ移動させるか、または、前記流路内の試料溶液に含まれる水素イオンまたは水酸化物イオンを前記液体収容部内の液体へ移動させて、前記流路内において、前記第1電極およびその周辺を含む領域に存在する前記試料溶液のpHを制御する、抗体の再生方法。
[5]前記第1電極およびその周辺を含む領域に存在する前記試料溶液のpHを1以上3.5以下に制御する、[4]に記載の抗体の再生方法。
[6]前記第1電極およびその周辺を含む領域に存在する前記試料溶液のpHを10以上に制御する、[4]に記載の抗体の再生方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、繰り返し、かつ連続的に使用することができ、さらに小型化できるイムノセンサ、およびイムノセンサにおける抗体の再生方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るイムノセンサの概略構成を示し、イムノセンサの高さ方向に沿う断面を示す模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るイムノセンサの第1変形例の概略構成を示し、イムノセンサの断面を示す模式図である。
図3】本発明の一実施形態に係るイムノセンサの第2変形例の概略構成を示し、イムノセンサの断面を示す模式図である。
図4】本発明の一実施形態に係るイムノセンサの第3変形例の概略構成を示し、イムノセンサの断面を示す模式図である。
図5】本発明の一実施形態に係るイムノセンサの第4変形例の概略構成を示し、イムノセンサの断面を示す模式図である。
図6】本発明の一実施形態に係るイムノセンサの第5変形例の概略構成を示し、イムノセンサの断面を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明のイムノセンサ、およびイムノセンサにおける抗体の再生方法の実施の形態について説明する。
なお、本実施の形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0013】
[イムノセンサ]
図1は、本発明の一実施形態に係るイムノセンサの概略構成を示し、イムノセンサの高さ方向に沿う断面を示す模式図である。
図1に示すように、本実施形態のイムノセンサ1は、再生部2と、電圧印加手段3と、抗体4と、検出手段5と、を備える。
再生部2は、流路21と、液体収容部22と、電解膜23と、第1電極24と、第2電極25と、を有する。また、本実施形態のイムノセンサ1は、再生部2を支持する基板6を備えていてもよい。
【0014】
本実施形態では、流路21と液体収容部22が隣接して配置されている。
流路21は、抗原110を含む試料溶液120を流す流路である。
液体収容部22は、液体130を収容する容器または流路である。
【0015】
電解膜23は、流路21と液体収容部22の間に介在している。詳細には、図1に示すように、流路21と液体収容部22は、互いに隣接する領域7において、電解膜23を介して接合している。言い換えれば、流路21と液体収容部22は、それぞれの一部同士が、領域7において電解膜23を介して互いに接合していればよく、その他の部分では接合していなくてもよく、その他の部分では隣接していなくてもよい。
【0016】
第1電極24は、流路21内に配置されている。第1電極24は、流路21内において、電解膜23と対向する位置に配置されていることが好ましい。
第2電極25は、液体収容部22内に配置されている。液体収容部22内における第2電極25の位置は特に限定されないが、第2電極25は、電解膜23と対向する位置に配置されていることが好ましく、第1電極24と対向する位置に配置されていることがより好ましい。
第1電極24と第2電極25が、互いに対向する位置に配置されている場合と、互いに対向する位置に配置されていない場合も、イムノセンサ1による、抗体4の再生能力にはほとんど差異がない。
【0017】
電圧印加手段3は、第1電極24と第2電極25に接続され、これら2つの電極に電圧を印加して、第2電極25(液体収容部22)から第1電極24(流路21)に向かう電界E、または、第1電極24(流路21)から第2電極25(液体収容部22)に向かう電界Eを発生させる。
【0018】
本実施形態では、抗体4は、第1電極24の第1部位の表面24aに固定化されている。
【0019】
検出手段5は、抗体4が捕捉した抗原110を検出する。
【0020】
[流路]
流路21は、抗原110を含む試料溶液120を流すことができれば特に限定されないが、例えば、ハイドロゲルモールディング法や、フォトリソグラフィー、ソフトリソグラフィー、切削加工、接合等の微細加工法、または、これらの微細加工法を組み合わせた方法によって、流路基材8に形成されたマイクロ流路であることが好ましい。言い換えれば、流路21は、基板6の一方の面6aに設けられた流路基材8に形成されたマイクロ流路であることが好ましい。マイクロ流路は、内径(最大径)がナノメートルからミリメートルのオーダーの流路である。流路21がマイクロ流路であることにより、イムノセンサ1により抗原110を高感度に検出することができる。また、後述する再生方法により、抗体4に結合した抗原110を容易に解離させることができる。
流路基材8としては、例えば、シリコーンゴム、シリコーンゴム以外の種々の樹脂、ガラス等が挙げられる。
【0021】
[液体収容部]
液体収容部22は、流路21と同様に、ハイドロゲルモールディング法や、フォトリソグラフィー、ソフトリソグラフィー、切削加工、接合等の微細加工法、または、これらの微細加工法を組み合わせた方法によって、流路基材8に形成された容器または流路である。言い換えれば、液体収容部22は、基板6の一方の面6aに設けられた流路基材8に形成された容器または流路である。
【0022】
[電解膜]
電解膜23は、内径(最大径)がナノメートルのオーダーの細孔を多数有する多孔質膜であり、液体収容部22中の液体130に含まれる水素イオン(H)または水酸化物イオン(OH)を透過することができ、試料溶液120に含まれる水素イオン(H)または水酸化物イオン(OH)を透過することができるイオン交換膜である。
電解膜23の材質は、液体収容部22中の液体130に含まれる水素イオン(H)または水酸化物イオン(OH)を透過することができ、試料溶液120に含まれる水素イオン(H)または水酸化物イオン(OH)を透過することができるものであれば特に限定されないが、例えば、ナフィオン(登録商標)、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリウレタン、ポリアミドイミド、ポリイミド等が挙げられる。
【0023】
[第1電極]
第1電極24としては、その表面24aに抗体4を固定化することができると共に、試料溶液120、および水素イオン、水酸化物イオン等のイオンによって劣化しないものであれば、特に限定されない。第1電極24としては、例えば、金、白金等の金属からなる金属電極、炭素電極等、が挙げられる。
【0024】
[第2電極]
第2電極25としては、液体130、および水素イオン、水酸化物イオン等のイオンによって劣化しないものであれば、特に限定されない。第2電極25としては、例えば、金、白金等の金属からなる金属電極、炭素電極等が挙げられる。
【0025】
[電圧印加手段]
電圧印加手段3は、第1電極24と第2電極25に電圧を印加することができるものであれば、特に限定されない。電圧印加手段3としては、例えば、電圧発生器、電圧電流発生器等が挙げられる。
【0026】
[抗体]
抗体4は、試料溶液120に含まれる抗原110を捕捉することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、抗CEA抗体、抗AFP(α-フェトプロテイン)抗体、抗酸化LDL抗体、抗C反応性プロテイン(CRP)抗体、抗アミロイドβ抗体等が挙げられる。
【0027】
[検出手段]
検出手段5は、イムノセンサ1の用途、すなわち、イムノセンサ1によって検出する抗原110の種類に応じたものが用いられる。抗原110を検出するには、抗体(1次抗体)4によって捕捉された抗原110に、標識となる物質である2次抗体を結合させる方法や、標識となる物質である2次抗体を用いない方法が用いられる。
2次抗体を用いる方法では、検出手段5としては、その2次抗体に応じた検出方法を行うことができるものが用いられる。検出手段5としては、例えば、2次抗体(標識)が発する蛍光を測定する装置、2次抗体(標識)と基質の反応により生成する物質の吸光度を測定する装置、2次抗体(標識)と基質の反応により生成する物質の酸化還元電流を測定する装置等が挙げられる。
2次抗体を用いない方法、すなわち、抗体4への抗原110の結合量を直接測定する方法としては、例えば、表面プラズモン共鳴法、水晶振動子マイクロバランス法、電気化学インピーダンス測定法、表面弾性波測定法等が挙げられる。図1では、表面プラズモン共鳴法によって、抗体4への抗原110の結合量を直接測定する場合を例示する。この場合、検出手段5は、第1電極24に白色光を照射する光源51と、表面プラズモン共鳴により減衰する光の波長が、抗原110と抗体4の結合により変化する量を検出する検出器52とを有する。
【0028】
[基板]
基板6は、その一方の面6aに流路基材8を設けることができるものであれば、特に限定されないが、例えば、ガラス基板、樹脂基板等が挙げられる。
【0029】
[抗原]
抗原110としては、特に限定されないが、例えば、CEA、AFP(α-フェトプロテイン)等の癌の存在を示唆する腫瘍マーカー、酸化LDL、C反応性プロテイン(CRP)等の心疾患を示唆するバイオマーカー、アミロイドβ等の認知症を示唆するバイオマーカー等が挙げられる。
【0030】
[試料溶液]
試料溶液120は、抗原110を含む溶液である。試料溶液120としては、具体的には、血液、間質液、汗、唾液等の体液やリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝生理食塩水等の生理食塩水等が挙げられる。
【0031】
[液体]
液体130は、電圧印加手段3により、第1電極24と第2電極25に電圧を印加した際に水素イオン(H)または水酸化物イオン(OH)が発生するものであれば、特に限定されないが、例えば、水、塩化ナトリウム水溶液、硫酸銅水溶液、エタノール等が挙げられる。
【0032】
[イムノセンサの使用方法]
本実施形態のイムノセンサ1の使用方法を説明する。
【0033】
「第1の使用方法」
流路21内に抗原110を含む試料溶液120を流す。流路21内に試料溶液120を流すと、第1電極24に固定化された抗体4に、試料溶液120に含まれる抗原110が捕捉される。
次いで、検出手段5により、抗原110を定性または定量する。具体的には、光源51から白色光を第1電極24に照射し、表面プラズモン共鳴により減衰する光の波長が、抗原110と抗体4の結合により変化する量を検出器52で検出し、抗原110を定性または定量する。
抗原110の検出が終了した後、液体収容部22内に液体130を注入する。なお、流路21内に抗原110を含む試料溶液120を流すと同時に、液体収容部22内に液体130を注入してもよい。
次いで、電圧印加手段3により、第1電極24と第2電極25に電圧を印加し、第2電極25から第1電極24に向かう電界Eを発生させると、電解膜23を介して、液体収容部22内の液体130に含まれる水素イオン(H)が流路21内の試料溶液120へ移動するか、または、流路21内の試料溶液120に含まれる水酸化物イオン(OH)が液体収容部22内の液体130へ移動する。これにより、流路21内において、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHが7未満(酸性)になる。その結果、酸性の試料溶液120によって、抗体4に捕捉された抗原110が解離して、抗体4は抗原110が結合されていない状態に再生される。これにより、再び、抗体4に、試料溶液120に含まれる抗原110を捕捉することが可能となる。
【0034】
「第2の使用方法」
第1の使用方法と同様に、流路21内に抗原110を含む試料溶液120を流すと、第1電極24に固定化された抗体4に、試料溶液120に含まれる抗原110が捕捉される。
次いで、第1の使用方法と同様に、検出手段5により、抗原110を定性または定量する。
抗原110の検出が終了した後、第1の使用方法と同様に、液体収容部22内に液体130を注入する。
次いで、電圧印加手段3により、第1電極24と第2電極25に電圧を印加し、第1電極24から第2電極25に向かう電界Eを発生させると、電解膜23を介して、液体収容部22内の液体130に含まれる水酸化物イオン(OH)が流路21内の試料溶液120へ移動するか、または流路21内の試料溶液120に含まれる水素イオン(H)が液体収容部22内の液体130へ移動する。これにより、流路21内において、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHが7超(アルカリ性)になる。その結果、酸性の試料溶液120によって、抗体4に捕捉された抗原110が解離して、抗体4は抗原110が結合されていない状態に再生される。これにより、再び、抗体4に、試料溶液120に含まれる抗原110を捕捉することが可能となる。
【0035】
本実施形態のイムノセンサ1によれば、上述の第1の方法のように、電圧印加手段3により、第1電極24と第2電極25に電圧を印加し、第2電極25から第1電極24に向かう電界Eを発生させて、流路21内において、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを7未満とすることができる。その結果、酸性の試料溶液120によって、抗体4に捕捉された抗原110を解離して、抗体4を抗原110が結合されていない状態に再生することができる。また、本実施形態のイムノセンサ1によれば、上述の第2の方法のように、電圧印加手段3により、第1電極24と第2電極25に電圧を印加し、第1電極24から第2電極25に向かう電界Eを発生させて、流路21内において、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを7超とすることができる。その結果、アルカリ性の試料溶液120によって、抗体4に捕捉された抗原110を解離して、抗体4を抗原110が結合されていない状態に再生することができる。また、従来のように、抗体4を再生するために、送液ポンプやバルブを用いて、抗体4が配置された流路21内に、酸やアルカリ等の再生液を送液する必要がないため、抗体4の再生を簡便に行うことができる。従って、イムノセンサ1を使い捨てにすることなく、繰り返し、かつ連続的に使用することができる。また、大規模な設備を用いることなく、抗体4の再生を行うことができるため、イムノセンサ1を小型化することができる。
【0036】
[他の実施形態]
なお、本発明は、上記の実施形態に限定するものではない。本発明のイムノセンサは、例えば、図2図5に示すような変形例を採用してもよい。なお、各変形例を示す図では、上記の実施形態における構成要素と同一の部分については同一の符号を付し、その説明を省略し、異なる点についてのみ説明する。
【0037】
[第1変形例]
図2に示すように、第1変形例のイムノセンサ200では、抗体4が、流路21内における第1電極24とは別の領域に設けられている。また、第1電極24の表面24aには、抗体4が固定化されていない。
イムノセンサ300では、抗体4が、流路21内における第1電極24とは別の領域に設けられているため、抗原110の検出に、導波モード検出法を適用することができる。
【0038】
[第2変形例]
図3に示すように、第3変形例のイムノセンサ300は、流路21(流路21A)と液体収容部22と流路21(流路21B)とがこの順に隣接して配置された構成であってもよい。第2変形例のイムノセンサ300では、液体収容部22が流路21Aと流路21Bで挟まれている。また、流路21Aと液体収容部22が、電解膜23を介して接合している。さらに、流路21Bと液体収容部22が、電解膜23を介して接合している。第2変形例のイムノセンサ300によれば、流路21A内の抗体と流路21B内の抗体を、液体収容部22内の液体130を用いて再生することができる。従って、より効率的に、抗体の再生を行うことができる。なお、流路21A内の抗体の再生と流路21B内の抗体の再生は、同時に行ってもよく、個別に行ってもよい。また、第2変形例のイムノセンサ300においても、第1電極24が、抗体4を固定化する第1部位24Aと、試料溶液120のpHを制御する際に機能する第2部位24Bと、を有していてもよい。また、第2変形例のイムノセンサ300においても、抗体4が、流路21内における第1電極24とは別の領域に設けられ、第1電極24の表面24aには、抗体4が固定化されていなくてもよい。
【0039】
[第3変形例]
図4に示すように、第4変形例のイムノセンサ400は、1つの流路21と1つの液体収容部22から構成される流路の組み410を2組み備えていてもよい。第3変形例のイムノセンサ400では、電解膜23を介して接合している流路21Aと液体収容部22Aから構成される第1組み410Aと、電解膜23を介して接合している流路21Bと液体収容部22Bから構成される第2組み410Bとを備える。また、互いに隣接する第1組み410Aの液体収容部22Aと、第2組み410Bの流路21Bとが、電解膜23を介して接合している。すなわち、第3変形例のイムノセンサ400では、流路21Aと液体収容部22Aと流路21Bと液体収容部22Bとがこの順に隣接して配置されている。本実施形態によれば、流路21A内の抗体と流路21B内の抗体を、液体収容部22A内の液体130を用いて再生することができる。従って、より効率的に、抗体の再生を行うことができる。なお、流路21A内の抗体の再生と流路21B内の抗体の再生は、同時に行ってもよく、個別に行ってもよい。また、流路21B内の抗体を、液体収容部22A内の液体130Aおよび液体収容部22B内の液体130Bの少なくとも一方を用いて再生することができる。従って、液体収容部22A内の液体130Aおよび液体収容部22B内の液体130Bとして、異なる種類のものを用いれば、流路21B内の抗体の再生を段階的に行うことができる。また、第3変形例のイムノセンサ400においても、第1電極24が、抗体4を固定化する第1部位24Aと、試料溶液120のpHを制御する際に機能する第2部位24Bと、を有していてもよい。また、第3変形例のイムノセンサ400においても、抗体4が、流路21内における第1電極24とは別の領域に設けられ、第1電極24の表面24aには、抗体4が固定化されていなくてもよい。
【0040】
[第4変形例]
図5に示すように、第4変形例のイムノセンサ500は、流路21の長手方向に沿って、再生部2を2つ以上備えていてもよい。流路21の長手方向とは、流路21内において、試料溶液120が流れる方向である。第4変形例のイムノセンサ500では、例えば、試料溶液120をイムノセンサ500の高さ方向と垂直な方向に、図5に示す矢印方向に向かって流す。この場合、試料溶液120は、まず、第1電極24に固定化された抗体4に接触し、次いで、第1電極24に固定化された抗体4に接触する。ここで、第1電極24に固定化された抗体4と第1電極24に固定化された抗体4として異なるものを用いれば、それぞれの抗体4において、試料溶液120に含まれる異なる抗原を捕捉することができる。また、第1電極24を有する再生部2Aにおける抗体4の再生と第1電極24を有する再生部2Bにおける抗体4の再生を個別に行うことができる。従って、1つのイムノセンサ500により、2種以上の抗原を、繰り返し、かつ連続的に検出することができる。また、第4変形例のイムノセンサ500においても、第1電極24が、抗体4を固定化する第1部位24Aと、試料溶液120のpHを制御する際に機能する第2部位24Bと、を有していてもよい。また、第4変形例のイムノセンサ500においても、抗体4が、流路21内における第1電極24とは別の領域に設けられ、第1電極24の表面24aには、抗体4が固定化されていなくてもよい。
【0041】
[第5変形例]
図6に示すように、第5変形例のイムノセンサ600は、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを検出するpH検出部610を備えていてもよい。pH検出部610は、電圧印加手段3に接続されている。pH検出部610としては、例えば、pHメータ等が挙げられる。pH検出部610を備えることにより、試料溶液120のpHを検出するためにpH指示薬を用いる必要がない。また、pH検出部610を備えることにより、即時に試料溶液120のpHを検出することができ、電圧印加手段3による第1電極24と第2電極25への電圧の印加を調節して、試料溶液120のpHの制御をより容易に行うことができる。なお、第1の変形例~第4の変形例においても、pH検出部を備えていてもよい。
【0042】
[抗体の再生方法]
本発明の一実施形態に係る抗体の再生方法は、上述の本発明の一実施形態に係るイムノセンサにおける抗体の再生方法である。
【0043】
「第1の再生方法」
本実施形態の抗体の再生方法は、例えば、イムノセンサ1において、電圧印加手段3により、第1電極24と第2電極25に電圧を印加し、第2電極25から第1電極24に向かう電界Eを発生させて、電解膜23を介して、液体収容部22内の液体130に含まれる水素イオンを流路21内の試料溶液120へ移動させるか、または、流路21内の試料溶液120に含まれる水酸化物イオンを液体収容部22内の液体130へ移動させて、流路21内において、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを7未満に制御する。
【0044】
第1電極24と第2電極25に印加する電圧は、特に限定されないが、例えば、1V以上5V以下であることが好ましく、2V以上4V以下であることがより好ましい。電圧が1V未満では、イオンの移動量が少なく、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120に対して十分なpHの操作が難しくなる。電圧が5V以上を超えると、第1電極24近傍からのガス発生量が増え、抗体4が損傷するリスクが高くなる。
【0045】
第1電極24と第2電極25に電圧を印加する時間は、特に限定されないが、例えば、1分以上10分以下であることが好ましく、1分以上5分以下であることがより好ましい。
【0046】
流路21内において、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを1~3.5に制御することが好ましく、2~3に制御することがより好ましい。試料溶液120のpHを1~3.5に制御することにより、抗体4から抗原110を解離することをより促進できる。
【0047】
試料溶液120は、pH指示薬を含んでいてもよい。pH指示薬としては、アルカリ性(pH14)から酸性(pH1)の範囲を指示することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、チモールブルー、メチルレッド、フェノールフタレイン等が挙げられる。チモールブルーは、中性では黄色を示し、酸性では赤色に変色する。チモールブルーは、pHが3では黄色を示し、赤色に近い程、pHが小さく、酸性度が高いことを示す。試料溶液120がpH指示薬を含んでいれば、第1電極24と第2電極25への電圧の印加によって、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを確認することができる。pH指示薬により、第1電極24と第2電極25への電圧の印加を継続するか、または第1電極24と第2電極25への電圧の印加を停止するかについて判断することができる。
【0048】
また、イムノセンサ1は、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを検出するpHメータ等のpH検出部を備えていてもよい。pH検出部を備えていれば、第1電極24と第2電極25への電圧の印加によって、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを確認することができる。pH検出部により、第1電極24と第2電極25への電圧の印加を継続するか、または第1電極24と第2電極25への電圧の印加を停止するかについて即時に判断することができる。
【0049】
本実施形態の抗体の再生方法によれば、第1電極24と第2電極25に電圧を印加して、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを7未満に制御することにより、抗体4に捕捉された抗原110を解離して、抗体4を抗原110が結合されていない状態に再生することができる。また、従来のように、抗体4を再生するために、送液ポンプやバルブを用いて、抗体4が配置された流路21内に、酸やアルカリ等の再生液を送液する必要がないため、抗体4の再生を簡便に行うことができる。従って、イムノセンサ1を繰り返し、かつ連続的に使用することができる。また、大規模な設備を用いることなく、抗体4の再生を行うことができる。
【0050】
「第2の再生方法」
本実施形態の抗体の再生方法は、電圧印加手段3により、第1電極24と第2電極25に電圧を印加し、第1電極24から第2電極25に向かう電界Eを発生させて、電解膜23を介して、液体収容部22内の液体130に含まれる水酸化物イオンを流路21内の試料溶液120へ移動させるか、または、流路21内の試料溶液120に含まれる水素イオンを液体収容部22内の液体130へ移動させて、流路21内において、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを7超に制御する。
【0051】
第1電極24と第2電極25に印加する電圧は、特に限定されないが、例えば、1V以上5V以下であることが好ましく、2V以上4V以下であることがより好ましい。電圧が1V未満では、イオンの移動量が少なく、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120に対して十分なpHの操作が難しくなる。電圧が5V以上を超えると、第1電極24近傍からのガス発生量が増え、抗体4が損傷するリスクが高くなる。
【0052】
第1電極24と第2電極25に電圧を印加する時間は、特に限定されないが、例えば、1分以上10分以下であることが好ましく、1分以上5分以下であることがより好ましい。
【0053】
流路21内において、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを10以上に制御することがこのましく、10~12に制御することがより好ましく、11~12に制御することがさらに好ましい。試料溶液120のpHを10以上12に制御することにより、抗体4から抗原110を解離することをより促進できる。
【0054】
試料溶液120は、pH指示薬を含んでいてもよい。pH指示薬としては、アルカリ性(pH14)から酸性(pH1)の範囲を指示することができるものであれば、特に限定されないが、例えば、アリザリンイエロー、チモールブルー、メチルレッド、フェノールフタレイン等が挙げられる。アリザリンイエローは、中性では黄色を示し、アルカリ性では橙色に変色する。アリザリンイエローは、pHが10では黄色を示し、橙色に近い程、pHが大きく、アルカリ性度が高いことを示す。試料溶液120がpH指示薬を含んでいれば、第1電極24と第2電極25への電圧の印加によって、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを確認することができる。pH指示薬により、第1電極24と第2電極25への電圧の印加を継続するか、または第1電極24と第2電極25への電圧の印加を停止するかについて判断することができる。
【0055】
第2の再生方法においても、第2の再生方法と同様に、イムノセンサ1は、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを検出するpHメータ等のpH検出部を備えていてもよい。
【0056】
本実施形態の抗体の再生方法によれば、第1電極24と第2電極25に電圧を印加して、第1電極24およびその周辺を含む領域αに存在する試料溶液120のpHを7超に制御することにより、抗体4に捕捉された抗原110を解離して、抗体4を抗原110が結合されていない状態に再生することができる。また、従来のように、抗体4を再生するために、送液ポンプやバルブを用いて、抗体4が配置された流路21内に、酸やアルカリ等の再生液を送液する必要がないため、抗体4の再生を簡便に行うことができる。従って、イムノセンサ1を繰り返し、かつ連続的に使用することができる。また、大規模な設備を用いることなく、抗体4の再生を行うことができる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のイムノセンサは、繰り返し、かつ連続的に使用することができるため、イムノセンサを小型化することができ、イムノセンサを内蔵したウェアラブル端末を実現することができる。
【符号の説明】
【0058】
1,200,300,400,500,600 イムノセンサ
2 再生部
3 電圧印加手段
4 抗体
5 検出手段
6 基板
7 領域
8 流路基材
21 流路
22 液体収容部
23 電解膜
24 第1電極
24A 第1部位
24B 第2部位
25 第2電極
110 抗原
120 試料溶液
130 液体
図1
図2
図3
図4
図5
図6