(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177239
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】SiC基板及びSiCエピタキシャルウェハ
(51)【国際特許分類】
C30B 29/36 20060101AFI20231206BHJP
【FI】
C30B29/36 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023050979
(22)【出願日】2023-03-28
(62)【分割の表示】P 2022089091の分割
【原出願日】2022-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】西原 禎孝
(72)【発明者】
【氏名】周防 裕政
【テーマコード(参考)】
4G077
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB09
4G077AB10
4G077BE08
4G077DA02
4G077FG12
4G077FG13
(57)【要約】
【課題】不良が生じにくいSiC基板及びSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【解決手段】本実施形態にかかるSiC基板は、中心から半径17.5mmの円周と重なる位置にある内周支持面で内周支持した際に、上面のうち厚み方向から見て前記内周支持面と重なる第1点を繋ぐ面を第1基準面とし、前記第1基準面より上方を正とした際に、BOWが40μm未満である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
中心から半径17.5mmの円周と重なる位置にある内周支持面で内周支持した際に、
上面のうち厚み方向から見て前記内周支持面と重なる第1点を繋ぐ面を第1基準面とし、前記第1基準面より上方を正とした際に、BOWが40μm未満であり、
直径が195mm以上であり、単結晶からなる、SiC基板。
【請求項2】
前記内周支持面で支持した際のBOWが20μm以下である、請求項1に記載のSiC基板。
【請求項3】
前記内周支持面で支持した際のBOWが10μm以下である、請求項1に記載のSiC基板。
【請求項4】
前記内周支持面で支持した際のWARPが60μm以下である、請求項1に記載のSiC基板。
【請求項5】
前記内周支持面で支持した際のWARPが30μm以下である、請求項1に記載のSiC基板。
【請求項6】
前記内周支持面で支持した際のWARPが20μm以下である、請求項1に記載のSiC基板。
【請求項7】
前記内周支持面で支持した際のWARPが20μm以下である、請求項3に記載のSiC基板。
【請求項8】
最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある外周支持面で外周支持した際に、
上面のうち厚み方向から見て前記外周支持面と重なる第2点を繋ぐ面を第2基準面とし、前記第2基準面より上方を正とした際に、BOWが-40μmより大きい、請求項1~7のいずれか一項に記載のSiC基板。
【請求項9】
最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある外周支持面で外周支持した際に、
上面のうち厚み方向から見て前記外周支持面と重なる第2点を繋ぐ面を第2基準面とし、前記第2基準面より上方を正とした際に、BOWが0以下である、請求項8に記載のSiC基板。
【請求項10】
最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある外周支持面で外周支持した際に、
上面のうち厚み方向から見て前記外周支持面と重なる第2点を繋ぐ面を第2基準面とし、前記第2基準面より上方を正とした際に、BOWが-20μm以上-5μm以下である、請求項9に記載のSiC基板。
【請求項11】
最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある外周支持面で支持した際のWARPが60μm未満である、請求項1~7のいずれか一項に記載のSiC基板。
【請求項12】
請求項1~7のいずれか一項に記載のSiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有する、SiCエピタキシャルウェハ。
【請求項13】
請求項8に記載のSiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有する、SiCエピタキシャルウェハ。
【請求項14】
請求項9に記載のSiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有する、SiCエピタキシャルウェハ。
【請求項15】
請求項10に記載のSiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有する、SiCエピタキシャルウェハ。
【請求項16】
請求項11に記載のSiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有する、SiCエピタキシャルウェハ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC基板及びSiCエピタキシャルウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiCインゴットから切り出されたSiC基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層することで得られる。以下、SiCエピタキシャル層を積層前の基板をSiC基板と称し、SiCエピタキシャル層を積層後の基板をSiCエピタキシャルウェハと称する。
【0004】
SiC基板やSiCエピタキシャルウェハは、搬送等のプロセスにおいてたわむ場合がある。たわみは、センサーの検出不良や吸着不良等の不良の原因となる場合がある。例えば、特許文献1には、中心が外側より上方となるように反ったSiC基板を外周支持することで、搬送時のたわみを抑制することが記載されている。また特許文献2には、熱処理時のムラを抑制するために、ウェハを支持体で平面支持し、たわみを発生させないようにすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2021/0198804号
【特許文献2】特開2012-182234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウェハの支持方法は様々あり、他の構成との関係で制約がある場合もある。特許文献1及び2に記載の方法は、特定のウェハの支持方法の場合に不良の発生を抑制できるが、例えば内周支持でウェハを支持する場合に、十分不良を低減することができなかった。
【0007】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、不良が生じにくいSiC基板及びSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ウェハの形状やたわみを規定するBOWやWARPが所定の範囲内となるSiC基板を作製し、そのSiC基板を用いることで、搬送時の不良を低減できることを見出した。すなわち、本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0009】
(1)第1の態様にかかるSiC基板は、中心から半径17.5mmの円周と重なる位置にある内周支持面で内周支持した際に、上面のうち厚み方向から見て前記内周支持面と重なる第1点を繋ぐ面を第1基準面とし、前記第1基準面より上方を正とした際に、BOWが40μm未満である。
【0010】
(2)上記態様にかかるSiC基板は、前記内周支持面で支持した際のWARPが60μm未満でもよい。
【0011】
(3)上記態様にかかるSiC基板は、最外周から7.5mm内側の円周と重なる位置にある外周支持面で外周支持した際に、上面のうち厚み方向から見て前記外周支持面と重なる第2点を繋ぐ面を第2基準面とし、前記第2基準面より上方を正とした際に、BOWが-40μmより大きくてもよい。
【0012】
(4)上記態様にかかるSiC基板は、前記外周支持面で外周支持した際に、前記第2基準面に対するBOWが0μm以下でもよい。
【0013】
(5)上記態様にかかるSiC基板は、前記外周支持面で支持した際のWARPが60μm未満でもよい。
【0014】
(6)上記態様にかかるSiC基板は、直径が145mm以上でもよい。
【0015】
(7)上記態様にかかるSiC基板は、直径が195mm以上でもよい。
【0016】
(8)第2の態様にかかるSiCエピタキシャルウェハは、上記態様にかかるSiC基板と、前記SiC基板の一面に積層されたSiCエピタキシャル層とを有する。
【発明の効果】
【0017】
上記態様にかかるSiC基板及びSiCエピタキシャルウェハは、不良が生じにくい。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本実施形態にかかるSiC基板の平面図である。
【
図2】本実施形態にかかるSiC基板を内周支持した場合のBOWの評価方法を説明するための断面図である。
【
図3】本実施形態にかかるSiC基板を内周支持した場合のWARPの評価方法を説明するための断面図である。
【
図4】本実施形態にかかるSiC基板を外周支持した場合のBOWの評価方法を説明するための断面図である。
【
図5】本実施形態にかかるSiC基板を外周支持した場合のWARPの評価方法を説明するための断面図である。
【
図6】SiCインゴットの製造装置の一例である昇華法を説明するための模式図である。
【
図7】本実施形態にかかるSiCエピタキシャルウェハの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本実施形態にかかるSiC基板等について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本実施形態の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材質、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0020】
「第1実施形態」
図1は、本実施形態に係るSiC基板10をSiC基板10の厚み方向から平面視した平面図である。SiC基板10は、SiCからなる。SiC基板10のポリタイプは、特に問わず、2H、3C、4H、6Hのいずれでもよい。SiC基板10は、例えば、4H-SiCである。
【0021】
SiC基板10の平面視形状は略円形である。SiC基板10は、結晶軸の方向を把握するためのオリエンテーションフラットOFもしくはノッチを有してもよい。SiC基板10の直径は、例えば、145mm以上であり、好ましくは195mm以上である。SiC基板10の直径が大きいほど、同じ曲率でもたわみの絶対量が大きくなる。たわみの大きなSiCエピタキシャルウェハは、後工程のプロセスに与える影響が大きく、たわみの抑制が求められる。換言すると、本発明の構成を満たすSiC基板10は、直径が大きいほど有用性が高い。
【0022】
SiC基板10は、例えば搬送等のプロセスにおいて、内周支持される場合や外周支持される場合がある。内周支持は、SiC基板10をSiC基板10の中心C近傍の内周支持面1で支持する方法であり、外周支持は、SiC基板10をSiC基板10の最外周E近傍の外周支持面2で支持する方法である。
【0023】
内周支持面1の位置は、一つに規定されるものではないが、例えば、中心Cから半径17.5mmの円周と重なる位置にある。内周支持面1は、中心Cから半径17.5mmの円周と重なる位置にある円環状の支持面でもよいし、当該円に沿って点在する複数の支持面でもよい。内周支持面1は、支持体の上面である。
【0024】
外周支持面2の位置は、一つに規定されるものではないが、例えば、最外周Eから7.5mm内側の円周と重なる位置にある。外周支持面2は、最外周Eから7.5mm内側の円周と重なる位置にある円環状の支持面でもよいし、当該円に沿って点在する複数の支持面でもよい。外周支持面2は、支持体の上面である。例えば、SiC基板10の直径が150mmの場合は、外周支持面2は、中心Cから半径67.5mmの円周と重なる位置にある。例えば、SiC基板10の直径が200mmの場合は、外周支持面2は、中心Cから半径92.5mmの円周と重なる位置にある。例えば、SiC基板10の直径が300mmの場合は、外周支持面2は、中心Cから半径142.5mmの円周と重なる位置にある。例えば、SiC基板10の直径が450mmの場合は、外周支持面2は、中心Cから半径217.5mmの円周と重なる位置にある。
【0025】
本実施形態に係るSiC基板10は、中心Cから半径17.5mmの円周と重なる位置にある内周支持面1で内周支持した際に、BOWが40μm未満であり、好ましくは20μm以下であり、より好ましくは10μm以下である。内周支持のBOWが上記範囲を満たすと、搬送エラーを低減できる。搬送エラーは、例えば、センサーの検出不良、吸着不良、他部材との接触等である。
【0026】
図2は、本実施形態にかかるSiC基板10を内周支持した場合のBOWの評価方法を説明するための断面図である。
図2に示すように、SiC基板10を内周支持面1で内周支持すると、SiC基板10の中心Cは最外周より平坦面Fから離れた位置にある。すなわち、SiC基板10は、内周支持時に上に凸にたわむ。
【0027】
BOWは、ウェハの中心Cの高さを測定しており、この高さは3点基準平面に対する符号付き距離で規定される。3点基準平面より上の場合はプラス、下の場合はマイナスとなる。内周支持の際の基準面を第1基準面Sr1と称する。第1基準面Sr1は、上面10aのうち厚み方向から見て内周支持面1と重なる第1点p1を繋ぐ面である。第1点p1は、例えば、厚み方向から見て、内周支持面1と重なる部分である。第1点p1は、内周支持面1が複数の場合は複数ある。例えば、第1基準面Sr1は、複数の第1点p1を繋ぐ面である。内周支持の場合のBOWは、上面10aの中心Cの第1基準面Sr1に対する高さ方向の位置として求められる。内周支持の場合のBOWの絶対値は、中心Cを通り第1基準面Sr1(平坦面F)と平行な第1面S1と3点基準平面(第1基準面Sr1)との距離として求められる。
【0028】
本実施形態に係るSiC基板10は、内周支持の場合のWARPが60μm以下であることが好ましく、WARPが30μm以下であることがより好ましく、WARPが20μm以下であることがさらに好ましい。
【0029】
図3は、本実施形態にかかるSiC基板10を内周支持した場合のWARPの評価方法を説明するための断面図である。
【0030】
WARPは、3点基準平面から上面10aの最高点hpと最低点lpまでの距離の合計であり、常に正の値となる。WARPは、例えば、最高点hpを通り3点基準平面(第1基準面Sr1)(平坦面F)と平行な第2面S2と、最低点lpを通り3点基準平面(第1基準面Sr1)(平坦面F)と平行な第3面S3と、の距離として求められる。内周支持の場合、最高点hpは中心Cと一致する場合があり、この場合、第1面S1と第2面S2とは一致する。WARPが大きいほど、SiC基板10は変形していると判断される。
【0031】
また本実施形態に係るSiC基板10は、外周支持の場合のBOWが-40μmより大きいことが好ましく、0μm以下であることがより好ましく、-20μm以上-5μm以下であることがさらに好ましい。BOWが-40μmより大きいとは、絶対値が40μmより小さいことを意味する。
【0032】
外周支持の場合のBOWが上記範囲であれば、SiC基板10を内周支持した場合及び外周支持した場合のいずれにおいても、搬送エラーを抑えることができる。すなわち、内周支持の場合及び外周支持の場合のいずれにおいてもBOWが所定の範囲内にあるSiC基板は、例えば、搬送途中に支持方法を変えざるを得ないような搬送プロセスを通過する場合でも搬送エラーを生じにくく、汎用性が高い。また、自動搬送付き装置では、ステージ上のウェハを搬送する際に突き上げピンなどでウェハを浮かせ、ロボットハンドがその隙間に入って持ち上げることで搬送している。BOWが所定の範囲内に無い場合、ロボットハンドとウェハが衝突することや、ロボットハンドのストローク範囲内にウェハ無く、搬送不良を引き起こすことがある。
【0033】
図4は、本実施形態にかかるSiC基板10を外周支持した場合のBOWの評価方法を説明するための断面図である。
図4に示すように、SiC基板10を外周支持面2で外周支持すると、SiC基板10の中心Cは、例えば、最外周より平坦面Fの近くに位置する。すなわち、SiC基板10は、例えば、外周支持時に下に凸にたわむ。
【0034】
外周支持の際の基準面を第2基準面Sr2と称する。第2基準面Sr2は、上面10aのうち厚み方向から見て外周支持面2と重なる第2点p2を繋ぐ面である。第2点p2は、例えば、外周支持面2の径方向の中心と厚み方向から見て重なる部分である。第2点p2は、外周支持面2が複数の場合は複数ある。第2基準面Sr2は、例えば、複数の第2点p2を繋ぐ面である。外周支持の場合のBOWは、上面10aの中心Cの3点基準平面(第2基準面Sr2)に対する高さ方向の位置として求められる。外周支持の場合のBOWの絶対値は、中心Cを通り第2基準面Sr2(平坦面F)と平行な第1面S1と3点基準平面(第2基準面Sr2)との距離として求められる。
【0035】
図5は、本実施形態にかかるSiC基板10を外周支持した場合のWARPの評価方法を説明するための断面図である。
【0036】
WARPは、上述のように、3点基準平面から上面10aの最高点hpと最低点lpまでの距離の合計である。WARPは、例えば、最高点hpを通り3点基準平面(第2基準面Sr2)(平坦面F)と平行な第2面S2と、最低点lpを通り3点基準平面(第2基準面Sr2)(平坦面F)と平行な第3面S3と、の距離として求められる。外周支持の場合、最低点lpは中心Cと一致する場合があり、この場合、第1面S1と第3面S3とは一致する。
【0037】
内周支持の場合及び外周支持の場合のSiC基板10のBOW及びWARPは、SiC基板10自体に生じる歪と、重力によりSiC基板10に生じるたわみと、の影響を受ける。SiC基板10自体に生じる歪は、例えば、内部応力によって生じる。SiC基板10自体に生じる歪は、製造過程で制御できる。
【0038】
次いで、本実施形態に係るSiC基板10の製造方法の一例について説明する。SiC基板10は、SiCインゴットをスライスして得られる。SiCインゴットは、例えば、昇華法によって得られる。
【0039】
図6は、SiCインゴットの製造装置30の一例である昇華法を説明するための模式図である。
図6において台座32の表面と直交する方向をz方向、z方向と直交する一方向をx方向、z方向及びx方向と直交する方向をy方向とする。
【0040】
昇華法は、黒鉛製の坩堝31内に配置した台座32にSiC単結晶からなる種結晶33を配置し、坩堝31を加熱することで坩堝31内の原料粉末34から昇華した昇華ガスを種結晶33に供給し、種結晶33をより大きなSiCインゴット35へ成長させる方法である。坩堝31の加熱は、例えば、コイル36で行う。
【0041】
昇華法での結晶成長条件を制御することで、SiCインゴット35から得られるSiC基板10のBOW及びWARPを制御できる。
【0042】
例えば、SiCインゴット35をc面成長させる際に、結晶成長面の中心部の温度と、外周部の温度と、を制御する。結晶成長面は、結晶の成長過程における表面である。例えば、SiCインゴット35をc面成長させる際に、結晶成長面の中心部の温度より外周部の温度を低くする。またxy面内の中央と外周の成長速度差が0.001mm/h以上、0.05mm/h以下となるように、結晶成長を行う。ここで、xy面内の中央の成長速度は、外周の成長速度より遅くする。成長速度は、結晶成長面の温度を変えることで変化する。
【0043】
結晶成長面の温度は、コイル36による坩堝31の加熱中心のz方向の位置を制御することで調整できる。坩堝31の加熱中心のz方向の位置は、コイル36のz方向の位置を変えることで変更できる。坩堝31の加熱中心のz方向の位置と結晶成長面のz方向の位置とが、0.5mm/hで離れるように制御する。ここで、坩堝31の加熱中心のz方向の位置が、結晶成長面のz方向の位置に対し、下側(原料粉末34側)にくるように制御する。
【0044】
次いで、このような条件で作製したSiCインゴット35をSiC基板10へ加工する。一般的な加工方法では、SiCインゴット35の状態とSiC基板10の状態とで、単結晶にかかる応力が変わってしまう。例えば、成型工程では、直径180mmのSiCインゴット35から、直径150mmのSiC基板10に加工する際には直径を小さくする必要がある。また、例えば、マルチワイヤー切断工程では表面のうねりが発生し、うねりを除去する必要がある。このような工程を経ることで、例えば、SiCインゴット35の応力が大きい部分が除去されることや結晶格子面の形状が変わることがあり、SiCインゴット35の状態の応力が、SiC基板10の状態では開放される場合がある。SiCインゴット35の状態の単結晶にかかる応力を、SiC基板10が引き継ぐように加工する。SiC基板10に係る応力は、SiC基板10のたわみの要因の一つであり、応力を調整することでSiC基板のたわみを調整できる。その結果、SiC基板10に引き継がれた応力を利用してSiC基板10のたわみを抑制することが可能となる。
【0045】
例えば、SiCインゴット35の片面へダメージフリー加工を施したのち、シングルワイヤーソーで切断し、ダメージフリー加工を施した面を吸着して切断面に対してさらにダメージフリー加工を行う。SiC基板10の両面に対してダメージフリー加工を行うことで、SiCインゴットの状態で生じた応力の一部が、SiC基板10にも引き継がれる。ダメージフリー加工は、例えばCMP加工である。このようにSiCインゴット35の状態の格子面形状を残すように基板加工を行うことで、SiCインゴット35の持つ応力がSiC基板10に引き継がれる。その後、直径を調整する成型工程を行うことで、SiC基板10のたわみを調整できる。
【0046】
このように、上記製造方法を用いてSiC基板10を作製することで、内周支持の場合のBOW及びWARPを小さくできる。また上記製造方法を用いてSiC基板10を作製することで、外周支持の場合のBOWおよびWARPも小さくすることが可能となる。
【0047】
本実施形態に係るSiC基板10は、所定の条件を満たすように製造されているため、内周支持の場合のBOW及びWARPが小さい。そのため、内部支持の場合でも、搬送エラーが生じにくい。また外周支持の場合におけるBOW及びWARPも小さいSiC基板10は、内周支持と外周支持のいずれの場合でも搬送エラーが生じにくく、プロセスに対する汎用性が高い。
【0048】
「第2実施形態」
図7は、第2実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ20の断面図である。SiCエピタキシャルウェハ20は、SiC基板10とSiCエピタキシャル層11とを備える。SiCエピタキシャル層11は、SiC基板10の一面に積層される。SiCエピタキシャル層11は、例えば、SiC基板10の上面10aに積層される。
【0049】
デバイスが動作できる高品質のSiCを得るために、SiC基板10にはSiCエピタキシャル層11が積層される。またSiCエピタキシャル層11を積層する前には、研磨等の機械的な加工が施される場合が多い。この場合、SiC基板10の上面10aに加工変質層が形成される。SiC基板10の一面に、SiCエピタキシャル層11が積層されたり、加工変質層が形成されるとSiCエピタキシャルウェハ20が反る場合がある。
【0050】
SiC基板10の表面は研削されることが多い。SiC基板10の上面10aの表面粗さ(Ra)は、例えば、1nm以下であることが好ましい。上面10aは、例えば、SiCエピタキシャル層11が積層される側の面である。
【0051】
SiC基板10の上面10a及び下面10bは、いずれも研削されていてもよい。上面10aは例えばSi面で、下面10bは例えばC面である。上面10aと下面10bの関係はこの逆でもよい。上面10aと下面10bは、いずれもスクラッチ等の残留した鏡面加工された鏡面でも、いずれもCMP(Chemical mechanical polish)されたCMP処理面でもよく、研磨の程度が上面10aと下面10bとで異なってもよい。スクラッチ等の残留した鏡面には加工変質層が形成され、CMP処理面にはほとんど加工変質層が形成されない。加工変質層は、加工によりダメージを受けた部分であり、結晶構造が崩れている部分である。
【0052】
例えば、上面10aが鏡面研削面で下面10bがCMP処理面の場合は、両面の表面状態の違いにより、SiC基板10にトワイマン効果が生じる。トワイマン効果は、基板の両面にある残留応力に差が生じた場合に、両面の応力の差を補おうとする力が働く現象である。トワイマン効果は、SiCエピタキシャルウェハ20の反りの原因となりうる。
【0053】
またSiCエピタキシャル層11を積層後のSiCエピタキシャルウェハ20は、WARPが50μm以下であることが好ましく、WARPが30μm以下であることがより好ましい。またSiCエピタキシャル層11を積層後のSiCエピタキシャルウェハ20は、内周支持の場合のBOWが30μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましい。また、外周支持の場合のBOWは-30μm以上であることが好ましい。
【0054】
第2実施形態に係るSiCエピタキシャルウェハ20は、SiC基板10のWARP及びBOWが所定の範囲内であるため、SiCエピタキシャル層11が積層された後でもたわみにくい。したがって、SiCエピタキシャルウェハ20も搬送エラーが生じにくい。
【0055】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明は特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【実施例0056】
(実施例1)
SiCインゴット35を昇華法で作製した。SiCインゴット35を作製の際に、坩堝31の加熱中心のz方向の位置と結晶成長面のz方向の位置とが、0.5mm/hで離れるように制御した。結晶成長面の中心部の温度より外周部の温度を低くし、xy面内の中央と外周の成長速度差が0.001mm/h以上0.05mm/h以下となるように、結晶成長を行った。
【0057】
そして作製したSiCインゴット35をマルチワイヤーソーで切断し、両面をCMP研磨した。上記工程を経て、板厚が348.15μmで直径が150mmのSiC基板10を準備した。
【0058】
作製したSiC基板10を中心Cから半径17.5mmの円周上に配置された複数の内周支持面1で支持し、BOWとWARPを測定した。BOWは、9.468μmであった。WARPは、18.416μmであった。
【0059】
そして、このSiC基板10を所定の搬送経路を搬送した。搬送経路の高さは、2mmとした。また搬送経路のロボットハンドの厚みは1.5mm、ストローク幅は50μm、搬送されるウェハの厚みの上限は375μm、とした。この条件で、実施例1のSiC基板10を複数搬送した際に、実施例1のSiC基板10の搬送エラー率は、0%であった。
【0060】
(実施例2)
実施例2は、SiCインゴット35を作製の成長条件は同条件であるが、切り出したSiC基板10の厚みが実施例1と異なる。実施例2におけるSiC基板10を作製時にも、結晶成長面の中心部の温度より外周部の温度を低くし、xy面内の中央と外周の成長速度差が0.001mm/h以上、0.05mm/h以下となるようにし、坩堝31の加熱中心のz方向の位置と結晶成長面のz方向の位置とが、0.5mm/hで離れるように制御した。
【0061】
また実施例1と同様に、実施例2のSiC基板10を内周支持面1で支持し、BOWとWARPを測定した。内周支持面1で支持した場合のBOWは、35.744μmで、WARPは、51.174μmであった。そして、実施例1と同様の条件で、実施例2のSiC基板10を搬送した際の搬送エラー率は、20%であった。
【0062】
(比較例1、比較例2)
比較例1及び比較例2は、SiCインゴット35を作製の成長条件を変更した点が実施例1と異なる。比較例1及び比較例2では、結晶成長時の温度条件を特に制御しなかった。
【0063】
また実施例1と同様に、比較例1及び比較例2のSiC基板10を内周支持面1で支持した場合のBOWとWARPを測定した。
【0064】
比較例1のSiC基板10を内周支持面1で支持した場合のBOWは、74.027μmで、WARPは、103.705μmであった。そして、実施例1と同様の条件で、比較例1のSiC基板10を搬送した際の搬送エラー率は、100%であった。
【0065】
比較例2のSiC基板10を内周支持面1で支持した場合のBOWは、-30.164μmで、WARPは、282.608μmであった。そして、実施例1と同様の条件で、比較例2のSiC基板10を搬送した際の搬送エラー率は、100%であった。
【0066】
実施例1,2及び比較例1,2の結果を以下の表1にまとめた。
【0067】
【0068】
製造時の温度を精密に制御した実施例1及び2は、内周支持の場合でもBOW及びWARPが小さかった。またBOW及びWARPが小さい実施例1及び2のSiC基板は、比較例1及び2のSiC基板と比較して搬送エラー率が低かった。また実施例1のBOWとWARPのそれぞれは、実施例2のBOWとWARPのそれぞれより小さかった。実施例1は、実施例2よりSiC基板10の板厚が厚い。板厚を厚くすることで、BOW及びWARPを小さくすることができる。
1…内周支持面、2…外周支持面、10…SiC基板、10a…上面、10b…下面、11…SiCエピタキシャル層、20…SiCエピタキシャルウェハ、30…製造装置、31…坩堝、32…台座、33…種結晶、34…原料粉末、35…SiCインゴット、36…コイル、C…中心、F…平坦面、hp…最高点、lp…最低点、p1…第1点、p2…第2点、S1…第1面、S2…第2面、S3…第3面、Sr1…第1基準面、Sr2…第2基準面