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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177273
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20231206BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20231206BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023082923
(22)【出願日】2023-05-19
(31)【優先権主張番号】P 2022088944
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】八巻 太郎
(72)【発明者】
【氏名】清野 美勝
(72)【発明者】
【氏名】戸塚 翔太
(72)【発明者】
【氏名】田中 学
(72)【発明者】
【氏名】金原 弘成
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ14
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ08
5H029CJ28
5H029HJ01
5H029HJ14
5H029HJ15
(57)【要約】
【課題】生産性に優れ、また粒径が特に小さい硫化物固体電解質を製造する方法を提供する。
【解決手段】リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物を混合して、電解質前駆体を得ること、及び前記電解質前駆体を、溶媒と、分子中の炭素数が8以上である分散剤との存在下で、耐圧容器内に密閉した状態で加熱すること、を含む、硫化物固体電解質の製造方法、である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物を混合して、電解質前駆体を得ること、及び
前記電解質前駆体を、炭素数8以上の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する分散剤を含有する溶媒の存在下で、耐圧容器内に密閉した状態で加熱すること、
を含む、硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記分散剤の沸点が170℃以上である請求項1に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記分散剤が、炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するアニオン系分散剤、炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するカチオン系分散剤及び炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する非イオン系分散剤から選択される1種以上である請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記分散剤が、スルホン酸塩である請求項1~3のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記電解質前駆体を加熱する際の温度が、250℃以上500℃以下である請求項1~4のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記電解質前駆体を加熱する際の耐圧容器内の内圧が、0.35MPa以上2.0MPa以下である請求項1~5のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記耐圧容器がオートクレーブ装置である請求項1~6のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記原料含有物が、前記ハロゲン原子として少なくとも塩素を含む請求項1~7のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記溶媒の沸点が190℃以上である請求項1~8のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記溶媒が、さらに芳香族炭化水素溶媒及びエーテル系溶媒から選択される1種以上を含む請求項1~9のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項11】
前記加熱を行う際における、前記電解質前駆体の量に対する、前記分散剤の量が0.1~20質量%である請求項1~10のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項12】
前記加熱を行う際における、前記電解質前駆体と、溶媒との合計量に対する、電解質前駆体の量の割合が0.50~50質量%である請求項1~11のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたが、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0003】
固体電解質層に用いられる固体電解質の製造方法として、オートクレーブを用いた方法が知られている。例えば特許文献1には、原料混合物をオートクレーブ中で仮焼した後、電気炉内にて高温で加熱してアルジロダイト型固体電解質を得て、さらに界面活性剤と溶媒を添加して撹拌した後に、溶媒を除去する方法が開示されている。また、特許文献2には、オートクレーブ中かつ高沸点溶媒の存在下で原料混合物を加熱して、アルジロダイト型固体電解質を得る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2021/029315号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2021/054412号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載されている方法では、耐水性のコーティングを目的として、一旦アルジロダイト型固体電解質を製造した後に界面活性剤等を添加して撹拌している。また、特許文献2に記載されている方法では、錯化剤を用いているものの、界面活性剤等の存在下において電解質前駆体を焼成してはいない。
これら、従来の焼成工程を含む製造方法では、粒子が大きく成長するため、例えば粒子径がサブミクロンオーダーの固体電解質層に適した微粒の固体電解質を得ることは困難であった。粒子が大きく成長した場合には、さらに微粒化処理が必要になってしまい、生産効率が低下してしまう。また、前工程で用いた低沸点の錯化剤や溶媒は、高温下で加熱が困難であり、さらに前工程で生じた不純物が粒子を成長させてしまう虞があるため、一度取り除く必要があった。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、生産性に優れ、また粒径が特に小さい硫化物固体電解質を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物を混合して、電解質前駆体を得ること、及び
前記電解質前駆体を、溶媒と、分子中の炭素数が8以上である分散剤との存在下で、耐圧容器内に密閉した状態で加熱すること、
を含む、硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生産性に優れ、また粒径が特に小さい硫化物固体電解質を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で得られた固体電解質のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図2】実施例2で得られた固体電解質のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
図3】比較例1で得られた固体電解質のSEM(走査型電子顕微鏡)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「~」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。また、好ましいとされている規定は任意に採用することができる。即ち、好ましいとされている一の規定を、好ましいとされている他の一又は複数の規定と組み合わせて採用することができる。好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。
【0011】
(本発明に至るために本発明者らが得た知見)
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の事項を見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
全固体電池に用いられる固体電解質としては、アルジロダイト型結晶構造を有するものと、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有するものとが知られており、アルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法において、特許文献1及び2には、リチウム原子、硫黄原子、リン原子等を含む原料含有物に対して炭化水素系有機溶媒を加えた状態で原料を接触させて電解質前駆体を調製し、これを焼成することでアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質を製造し、その後、溶媒を添加して撹拌する微粒子化工程を設けた製造方法が開示されている。
【0013】
本発明者らは、工業的には製造工程が少ないほど有利である点に鑑み、電解質前駆体を、分散剤の存在下において、オートクレーブ等を用いて密閉状態にて加熱することで、粒子状の電解質前駆体の凝集を抑止し得るのではないかと考え、本発明を完成させるに至った。
【0014】
(硫化物固体電解質)
まず、本明細書で用いる用語について説明する。
本明細書において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。本実施形態における硫化物固体電解質は、少なくともリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子も含むものである。
【0015】
「固体電解質」には、非晶性固体電解質と、結晶性固体電解質と、の両方が含まれる。
本明細書において、結晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。すなわち、結晶性固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい。そして、結晶性固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性固体電解質が含まれていてもよい。したがって、結晶性固体電解質には、非晶質固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
また、本明細書において、非晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、材料由来のピーク以外のピークが実質的に観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。
【0016】
(本実施形態の各種形態について)
本実施形態の第一の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物を混合して、電解質前駆体を得ること、及び
前記電解質前駆体を、炭素数8以上の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する分散剤を含有する溶媒の存在下で、耐圧容器内に密閉した状態で加熱すること、
を含む、硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0017】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法においては、電解質前駆体を、特定の分散剤の存在下において、耐圧容器内に密閉した状態で加熱することで、電解質前駆体の粒子が互いに凝集することを抑止したまま硫化物固体電解質が製造される。
このため、本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、凝集に起因する粒子成長が見られず、事後的にあらためて微粒化処理を行う必要が無い程度に粒径の小さいものとなる。
【0018】
本実施形態の製造方法において使用可能な分散剤としては、一般的に分散剤として知られている、親水基と疎水基とを有するもののうち、電解質前駆体粒子同士の粒子間距離をより大きくする観点から、炭素数8以上の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するものを用いることを要する。一般的な炭化水素溶媒のみを用いた場合には、電解質前駆体粒子同士の凝集が生じてしまい、得られる硫化物固体電解質は粒子径が大きなものとなってしまう。
【0019】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、事後的に微粒化処理を行う必要が無い程度に粒子径の小さな硫化物固体電解質が得られるため、工業的に極めて有用である。
【0020】
本実施形態の第二の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一の形態において、
前記分散剤の沸点が170℃以上である、
というものである。
【0021】
本実施形態の製造方法において用いられる分散剤は、電解質前駆体を耐圧容器内に密閉した状態で加熱する際の高温に晒されるため、沸点が高いものを用いることが好ましい。
【0022】
本実施形態の第三の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一又は第二の形態において、
前記分散剤が、炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するアニオン系分散剤、炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するカチオン系分散剤及び炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する非イオン系分散剤から選択される1種以上である
というものである。
また、本実施形態の第四の形態に係る結晶性硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第三のいずれかの形態において、
前記分散剤が、スルホン酸塩である、
というものである。
【0023】
本実施形態の製造方法において用いられる分散剤としては、上述のように一般的に分散剤として知られているものであって炭素数8以上の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するものを用いることができるが、具体的には上記の炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するアニオン系分散剤、炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するカチオン系分散剤及び炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する非イオン系分散剤から選択されるものを用いることが好ましく、当該アニオン系分散剤の中でもとりわけスルホン酸塩が好ましく用いられる。
【0024】
本実施形態の第五の形態に係る結晶性硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第四のいずれかの形態において、
前記電解質前駆体を加熱する際の温度が、250℃以上500℃以下である、
というものである。
【0025】
本実施形態の製造方法により結晶性硫化物固体電解質を得る際には、加熱温度は上記範囲内とすることが好ましい。
【0026】
本実施形態の第六の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第五の形態において、
前記電解質前駆体を加熱する際の耐圧容器内の内圧が、0.35MPa以上2.0MPa以下である、
というものである。
また、本実施形態の第七の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第六の形態において、
前記耐圧容器がオートクレーブ装置である、
というものである。
【0027】
本実施形態の製造方法においては、電解質前駆体を耐圧容器内に密閉して加熱する際の圧力条件を上記範囲内としたり、耐圧容器としてオートクレーブ装置を用いることで、効率よく電解質前駆体の加熱を行うことができる。
【0028】
本実施形態の第八の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第七の形態において、
前記原料含有物が、前記ハロゲン原子として少なくとも塩素を含む、
というものである。
【0029】
アルジロダイト型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造する際の具体的な態様としては、原料含有物としてのハロゲン原子が塩素を含有することが好ましい。
【0030】
本実施形態の第九の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第八の形態において、
前記溶媒の沸点が190℃以上である、
というものである。
【0031】
上述の分散剤と同様に、本実施形態の製造方法において用いられる溶媒は、電解質前駆体を耐圧容器内に密閉した状態で加熱する際の高温に晒されるため、沸点が高いものを用いることが好ましい。
【0032】
本実施形態の第十の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第九の形態において、
前記溶媒が、さらに芳香族炭化水素溶媒及びエーテル系溶媒から選択される1種以上を含む、
というものである。
【0033】
本実施形態の製造方法において用いられる溶媒としては、耐熱性に優れ、かつ硫化物固体電解質の品質に悪影響を与えにくいものを用いることが好ましく、具体的には芳香族炭化水素溶媒及びエーテル系溶媒が好ましく用いられる。
【0034】
本実施形態の第十一の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第十の形態において、
前記加熱を行う際における、前記電解質前駆体の量に対する、前記分散剤の量が0.1~20質量%である、
というものである。
【0035】
本実施形態の製造方法において用いられる分散剤の量は、粒子状の電解質前駆体の粒子間距離を確保しつつ、製造される硫化物固体電解質への残留を低減する観点から、上記範囲内とすることが好ましい。
【0036】
本実施形態の第十二の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第十一の形態において、
前記加熱を行う際における、前記電解質前駆体と、溶媒との合計量に対する、電解質前駆体の量の割合が0.50~50質量%である、
というものである。
【0037】
本実施形態の製造方法においては、加熱時における電解質前駆体の凝集を抑止しつつ、生産性を良好とする観点から、電解質前駆体の量を上記範囲内とすることが好ましい。
【0038】
[硫化物固体電解質の製造方法]
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物を混合して、電解質前駆体を得ること、及び
前記電解質前駆体を、溶媒と、分子中の炭素数が8以上である分散剤との存在下で、耐圧容器内に密閉した状態で加熱すること、
を含む硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0039】
〔リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物を混合して、電解質前駆体を得ること〕
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法においては、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物を混合して、電解質前駆体を得る。
【0040】
(原料含有物)
本実施形態で用いられる原料含有物に含まれる固体電解質原料としては、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む硫化物固体電解質を得る観点から、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子から選ばれる一種の原子を含む原料が好ましく用いられ、一種又は複数種の原料を組み合わせることで、原料含有物全体としてリチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含むものとなっていればよい。
このようなリチウム原子、硫黄原子、リン原子を含む固体電解質原料としては、硫化リチウム(LiS)や、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン等が挙げられる。
【0041】
硫化リチウムは、粒子状であることが好ましい。
硫化リチウム粒子の平均粒径(D50)は、0.1μm以上300μm以下であることが好ましく、1μm以上100μm以下であることがより好ましく、3μm以上50μm以下であることがさらに好ましく、5μm以上30μm以下であることが特に好ましい。本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。また、本実施形態で用いられる他の固体の原料については、上記硫化リチウム粒子と同じ程度の平均粒径を有するものが好ましい、すなわち上記硫化リチウム粒子の平均粒径と同じ範囲内にあるものが好ましい。
【0042】
また、固体電解質原料としては、イオン伝導度の向上の観点から、ハロゲン原子を含む固体電解質原料が用いられる。
ハロゲン原子を含む原料としては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;各種フッ化リン(PF、PF)、各種塩化リン(PCl、PCl、PCl)、各種臭化リン(PBr、PBr)、各種ヨウ化リン(PI、P)等のハロゲン化リン;フッ化チオホスホリル(PSF)、塩化チオホスホリル(PSCl)、臭化チオホスホリル(PSBr)、ヨウ化チオホスホリル(PSI)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSClF)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBrF)等のハロゲン化チオホスホリル;などの上記四種の原子、すなわちリチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも二種の元素からなる化合物や、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、好ましくは塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が代表的に挙げられる。
【0043】
上記以外の原料として用い得るものとしては、例えば、上記リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子から選ばれる少なくとも一種の原子を含み、かつ該四種の原子以外の原子を含む原料、より具体的には、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の硫化アルカリ金属;硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化ガリウム、硫化スズ(SnS、SnS)、硫化アルミニウム、硫化亜鉛等の硫化金属;リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物;ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム等のリチウム以外のアルカリ金属のハロゲン化物;ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属;オキシ塩化リン(POCl)、オキシ臭化リン(POBr)等のオキシハロゲン化リン;などが挙げられる。
【0044】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法における「リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物を混合して、電解質前駆体を得ること」とは、より具体的には、下記工程(i)及び(ii)を有することが好ましい。
(i)リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む原料含有物を混合してLiPS構造を有する第一前駆体を得る混合工程。
(ii)上記工程(i)で得られた第一前駆体とハロゲン原子を含有する固体電解質原料とを混合して電解質前駆体を得る工程。
【0045】
(工程(i))
上記工程(i)において得られる第一前駆体は、イオン伝導度の向上の観点から、LiPS構造を有するものである。また第一前駆体は、上記LiPS構造体の他、未反応の固体電解質原料等を含んでいてもよい。
工程(i)において用いられる原料としては、上記の中でも、硫化リチウム(LiS)と、三硫化二リン(P)や五硫化二リン(P)等の硫化リンとを用いることが好ましい。
この場合、硫化リチウムと硫化リンとの配合比は、LiPS構造を形成し得る比率の範囲内であれば特に制限はなく、PS 3-構造を効率よく形成させる観点から、硫化リンとして五硫化二リンを用いる場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの合計モル数に対する、硫化リチウムのモル数の割合は、60~90%の範囲内であることが好ましく、65~85%の範囲内であることがより好ましく、70~80%の範囲内であることが更に好ましく、72~78%の範囲内であることがより更に好ましく、73~77%の範囲内であることが特に好ましい。
【0046】
工程(i)は、錯化剤の存在下で行うことが好ましい。
上記錯化剤とは、リチウム原子と錯体を形成することが可能な物質であり、上記固体電解質原料に含まれるリチウム原子を含む硫化物と作用して、リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む前駆体、好ましくはPS 3-構造体の形成を促進させる性状を有するものである。上記のリチウム原子と錯体形成して得られる錯体は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及び錯化剤を含む錯体であり、好ましくは当該錯体から錯化剤を除去すること(単に「錯分解」とも称する。)によりPS 3-構造体のうち、非晶性LiPS、結晶性LiPSが得られるものである。
【0047】
錯化剤としては、上記性状を有するものであれば特に制限なく用いることができ、特にリチウム原子との親和性が高い原子、例えば窒素原子、酸素原子、塩素原子等のヘテロ原子を含む化合物が好ましく、これらのヘテロ原子を含む基を有する化合物がより好ましく挙げられる。これは、これらのへテロ原子を含む基は、リチウムと配位結合を形成し得るからである。
ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、塩素原子等のハロゲン原子等が好ましく挙げられる。
【0048】
錯化剤の具体例としては、例えば酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ジメチルホルムアミド等のアルデヒド系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタン、シクロペンチルメチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、アニソール等のエーテル系溶媒;トリフルオロメチルベンゼン、ニトロベンゼン、クロロベンゼン、クロロトルエン、ブロモベンゼン等のハロゲン元素含有芳香族炭化水素溶媒;テトラメチルエチレンジアミン、テトラエチルエチレンジアミン、テトラメチルジアミノプロパン、テトラエチルジアミノプロパン、シクロプロパンジアミン、トリレンジアミン、テトラエチレンペンタミン等のアミン系溶媒;アセトニトリル、メトキシアセトニトリル、プロピオニトリル、メトキシプロピオニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル系溶媒;ジメチルスルホキシド、二硫化炭素等の炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等が挙げられる。
これらの中でも、錯化剤としては、アミン系溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒が好ましく、エーテル系溶媒がより好ましく、中でもジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランが好ましく、テトラヒドロフランがより好ましい。また、錯化剤としては、固体電解質原料が溶解しない又はしにくい性状を有するものが好ましく、このような観点からもアミン系溶媒、エーテル系溶媒が好ましい。
【0049】
また、上記錯化剤に加えて、例えば、ヘキサン、ペンタン、2-エチルヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン等の脂肪族炭化水素溶媒;シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン等の芳香族炭化水素溶媒;ノルマルブテン、ノルマルプロピレン等のノルマルパラフィンの少なくとも一種を重合度3~10程度で重合したオリゴマー及びその水素添加体であるノルマルパラフィン系溶媒、イソブテン、ノルマルブテン、ノルマルプロピレン、イソプロピレン等のパラフィンのうち少なくともイソパラフィンを含む少なくとも一種を重合度3~10程度で重合したオリゴマー及び、その水素添加体であるイソパラフィン系溶媒等のパラフィン系溶媒;等の各種溶媒を用いることができる。
【0050】
液相中で固体電解質原料及び錯化剤を混合する場合、固体電解質原料に対する錯化剤の使用量は、固体電解質原料と錯化剤との合計量に対する固体電解質原料の含有量で好ましくは1~50質量%、より好ましくは2~30質量%、更に好ましくは3~20質量%、より更に好ましくは5~15質量%である。
【0051】
LiPS構造体を含む前駆体(LiPS構造体等)は、上記固体電解質原料及び錯化剤を混合して合成することができるが、さらに粉砕、混練、又はこれらを組み合わせた処理により合成することもできる。混合、粉砕、混練等の処理は、互いに同時に生じ得る事象であるため明確に区別することはできない場合がある。上記固体電解質原料に含まれ得る原料として例示した固体状、粉体状の原料を混合すれば混練が生じる場合があるし、同時に固体電解質原料同士が衝突して互いに粉砕し合う、あるいは混練され得る場合もあり、また、粉砕自体が混合や混錬を兼ねることもあるからである。本混合工程における前駆体の合成は、固体電解質原料に含まれる各種原料に回転、振動等による力を付与することで、原料同士の接触等を繰り返すことにより行われるものといえ、当該接触は、少なくとも混合による処理が含まれていれば、他の処理、すなわち粉砕、混練等のいずれの処理が伴って行われてもよい。
【0052】
本実施形態において、混合、粉砕、混練又はこれらを組み合わせた処理は、例えば、槽内に撹拌翼を備える機械撹拌式混合機により行うことができる。
機械撹拌式混合機は、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられ、原料含有物に含まれる各種原料同士のより均一な接触による反応を促進し、より高いイオン伝導度を得る観点から、高速撹拌型混合機が好ましく用いられる。また、高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられ、どちらのタイプの混合機を用いてもよい。
機械撹拌式混合機において用いられる撹拌翼の形状としては、ブレード型、アーム型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ショベル型、二軸羽型、フラット羽根型、C型羽根型等が挙げられ、原料含有物に含まれる各種原料同士のより均一な接触による反応を促進し、より高いイオン伝導度を得る観点から、ショベル型、フラット羽根型、C型羽根型等が好ましい。
【0053】
また、上記処理は、例えば媒体式粉砕機を用いて行うこともできる。
媒体式粉砕機には、容器駆動式粉砕機、媒体撹拌式粉砕機に大別される。容器駆動式粉砕機としては、撹拌槽、粉砕槽、あるいはこれらを組み合わせたボールミル、ビーズミル等が挙げられる。ボールミル、ビーズミルとしては、回転型、転動型、振動型、遊星型等の各種形式のいずれも採用することができる。
【0054】
媒体撹拌式粉砕機としては、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃式粉砕機;タワーミルなどの塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機;などの各種粉砕機が挙げられる。
また、例えば一軸又は多軸混練機等によって行うこともできる。
【0055】
工程(i)において、より効率的にLiPS構造体を含む前駆体(LiPS構造体等)、中でもリチウム元素、硫黄元素、リン元素及び前記錯化剤を含む錯体を合成する観点から、機械撹拌式混合機を用いた処理を採用することが好ましい。
【0056】
工程(i)において錯体を合成する際の温度は、特に制限はないが、例えば20~100℃の範囲で調整できる。室温(23℃)程度でもよいが、短時間で合成反応を進めるために加熱してもよく、還流等の乾燥しない条件であれば、高い温度が好ましい。例えば、50~90℃、より好ましくは80℃程度とすることができる。
また、合成の時間としては、0.5~100時間程度とすればよく、製造効率を考慮すると、好ましくは1~90時間、より好ましくは3~75時間である。
【0057】
上記合成により得られるものは、リチウム原子、硫黄原子及びリン原子を含む第一前駆体であって、より具体的には、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及び前記錯化剤より形成される錯体を含有するものである。
【0058】
(乾燥工程)
本実施形態の製造方法は、工程(i)において錯化剤や溶媒を用いた際には、得られたスラリーより錯化剤や溶媒を除去するため、乾燥工程を有していてもよい。上記工程(i)において、既述のように非晶性及び結晶性LiPSが得られる錯体を含むスラリーを得た場合、乾燥工程にて乾燥することで、スラリーから錯化剤、溶媒を除去して錯体結晶を得ることができる。
錯化剤、溶媒を除去することにより、不純物が少なくなり、イオン伝導度の向上が期待できる。一方、上記工程(i)を液相中で行った場合、得られるものは第一前駆体を含むスラリーとなるが、これらのスラリーを乾燥すると凝集体が形成しやすくなる場合があり、また当該凝集体を後述する必要に応じて採用される加熱に供すると、より大きな焼成体となるため、粒径が小さい固体電解質が得られなくなる場合がある。このような場合には、粉砕処理を行うことが好ましい。
【0059】
乾燥は、錯化剤や溶媒を伴う前駆体を、残存する錯化剤や溶媒の種類に応じた温度で行うことができ、例えば、残存する錯化剤や溶媒の沸点以上の温度で行うことができる。乾燥温度は、例えば、通常5~100℃、好ましくは10~90℃、より好ましくは20~85℃とすればよい。また、真空ポンプ等を用いて減圧下(真空下)において、乾燥することもできる。
乾燥時間は、特に制限はないが、例えば1分間以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、1時間以上がより更に好ましい。また、乾燥時間の上限は特に制限されるものではないが、24時間以下が好ましく、12時間以下がより好ましく、6時間以下が更に好ましく、3時間以下がより更に好ましい。
【0060】
また、乾燥は、錯化剤、溶媒を伴う第一前駆体を、ガラスフィルター等を用いたろ過、デカンテーションによる固液分離、また遠心分離機等を用いた固液分離により行ってもよい。本実施形態においては、固液分離を行った後、上記の温度条件による乾燥を行ってもよい。
固液分離は、具体的には、錯化剤、溶媒を伴う第一前駆体を容器に移し、第一前駆体が沈殿した後に、上澄みとなる溶媒を除去するデカンテーション、また例えばポアサイズが10~200μm程度、好ましくは20~150μmのガラスフィルターを用いたろ過が容易である。
【0061】
(加熱工程)
本実施形態の製造方法は、後述する工程(iii)とは別に、上記工程(i)により得られた第一前駆体や、さらに乾燥工程を経た第一前駆体を加熱する加熱工程を有することが好ましい。
具体的には、上記の工程(i)及び乾燥工程を経て、スラリーから錯化剤、溶媒を除去した後、さらに加熱温度を調整しながら加熱することで結晶性LiPSを得ることもできる。
通常、固体電解質を加熱すると、その粒径が大きくなる焼け太りが生じる場合がある。本実施形態においては、後述する工程(ii)の前に、上記第一前駆体を生成することにより、得られる固体電解質の粒径をより小さくすることができるので、粒径を小さくするとともに、イオン伝導度の向上を同時に図ることが可能となる。
【0062】
加熱工程における加熱温度は、LiPS構造を有する第一前駆体が得られれば特に制限はないが、例えば140℃以上が好ましく、145℃以上がより好ましく、150℃以上が更に好ましく、170℃以上がより更に好ましく、上限としては特に制限はないが、好ましくは300℃以下、より好ましくは275℃以下、更に好ましくは225℃以下、より更に好ましくは200℃以下である。上記温度範囲であれば、より効率的にLiPS構造を有する第一前駆体を製造することができ、主に結晶性LiPSを得ることができる。
また、主に非晶性LiPSを得る場合には、上限として150℃以下としておけばよく、好ましくは140℃以下、より好ましくは135℃以下であり、下限としては特に制限はないが、100℃以上程度とすればよく、好ましくは105℃以上である。
【0063】
加熱工程の処理時間は、LiPS構造を有する第一前駆体が得られれば特に制限はないが、例えば10分間以上が好ましく、30分以上がより好ましく、1時間以上が更に好ましく、4時間以上がより更に好ましい。また、加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、24時間以下が好ましく、18時間以下がより好ましく、12時間以下が更に好ましく、10時間以下がより更に好ましい。
【0064】
加熱工程は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、または減圧雰囲気(特に真空中)で行なってもよい。上記合成、混合により得られる前駆体の劣化(例えば、酸化)を防止できるからである。
また加熱の方法は、特に制限されるものではないが、例えば、ホットプレート、オートクレーブ、真空加熱装置、アルゴンガス雰囲気炉、焼成炉を用いる方法等を挙げることができる。また、工業的には、加熱手段と送り機構を有する横型乾燥機、横型振動流動乾燥機等を用いることもでき、加熱する処理量に応じて選択すればよい。
【0065】
このようにして得られるLiPS構造を有する第一前駆体は、代表的には錯分解することで前記非晶性及び結晶性LiPSが得られる錯体、非晶性LiPS、結晶性LiPS(β-LiPS)等が挙げられる。また、LiPS構造を有する第一前駆体には、これらのPS 3-構造体が単一種で含まれる場合もあるし、複数種が混在して含まれる場合もある。
本実施形態においては、LiPS構造体を一度形成させて、該構造体をその後の工程に供することにより、粒径が小さく、かつイオン伝導度が高い固体電解質が得られる。
【0066】
このようにして得られる第一前駆体に含まれるLiPS構造は、固体31P-NMR測定により観察することができ、PS 3-構造に起因するピークが発現するものである。イオン伝導度の観点から、リン原子と硫黄原子から構成される結晶構造としては、PS 3-構造以外の構造、例えばP 4-構造、P 4-構造(P a-構造)等の結晶構造は含まないことが好ましい。上記の合成方法によれば、このようなPS 3-構造体を含む前駆体が得られやすくなる。
【0067】
(工程(ii))
工程(ii)は、上記工程(i)で得られた第一前駆体とハロゲン原子を含有する固体電解質原料とを混合して電解質前駆体を得る工程である。
【0068】
ハロゲン原子を含有する固体電解質原料の具体例としては、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウムや、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体が好ましく用いられる。
上記ハロゲン化リチウムの中でも、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、塩化リチウム、臭化リチウムがより好ましく、またハロゲン単体の中でも塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)が好ましく、塩素(Cl)、臭素(Br)がより好ましい。
ハロゲン原子を含有する固体電解質原料の組み合わせとしては、塩化リチウムと臭化リチウムの組合せや、塩素(Cl)と臭素(Br)との組合せが好ましい。
【0069】
本実施形態の製造方法においては、ハロゲン原子を含有する固体電解質原料は、上記工程(i)において他の固体電解質原料とともに添加してもよいが、LiPS構造をより確実に形成し、イオン伝導度の向上を図るとともに、より確実に粒径を小さくする観点から、上記工程(i)の後に配合することが好ましい。
【0070】
本実施形態における固体電解質原料に用いる各種固体電解質原料の配合比については、所望の結晶構造に応じて適宜決定すればよい。その一例として、本実施形態の製造方法により得られる結晶性固体電解質として好ましいものの一つである、アルジロダイト型結晶構造を有する結晶性固体電解質における各種原料の配合比について以下説明する。なお、アルジロダイト型結晶構造については、後述する。
【0071】
例えば、工程(i)で得られる結晶性LiPS(β-LiPS)と、硫化リチウムとハロゲン化リチウムとを配合する場合、これらの原料のモル比(LiPS:LiS:ハロゲン化リチウム)は、好ましくは15~55:3~25:20~80、より好ましくは20~45:5~20:30~70であり、更に好ましくは25~40:8~18:40~60であり、より更に好ましくは30~35:10~15:50~55である。
【0072】
また、ハロゲン化リチウムとして塩化リチウムと臭化リチウムとを併用する場合、塩化リチウムと臭化リチウムの合計モル数に対する臭化リチウムのモル数の割合は、1~70%が好ましく、10~60%がより好ましく、20~50%が更に好ましく、30~40%がより更に好ましい。
【0073】
(粉砕工程)
本実施形態の製造方法は、上記工程(ii)で得られた電解質前駆体に対して粉砕処理を施す粉砕工程を有していることが好ましい。本粉砕工程で粉砕した粉砕物を、後述する工程(iii)において加熱することで、より低い加熱温度においても結晶性固体電解質が得られやすくなる。また、本粉砕工程を行うことで、粒径が小さく、かつイオン伝導度が高い固体電解質が効率よく得られる。
【0074】
粉砕工程における具体的な粉砕処理の方法は特に制限されないが、より効率的に粉砕する観点から、メカニカルミリングであると、イオン伝導度が高い固体電解質が得られやすくなるため好ましい。
メカニカルミリングは、上記工程(i)において第一前駆体を合成する方法として例示した、媒体式粉砕機を用いた処理のことであり、媒体式粉砕機には、容器駆動式粉砕機、媒体撹拌式粉砕機に大別されるが、ボールミル、ビーズミル等の容器駆動式粉砕機が好ましい。ボールミル、ビーズミルの形式としては、回転型、転動型、振動型、遊星型等の各種形式が挙げられるが、いずれを採用してもよい。
【0075】
上記粉砕工程は液相中で行うことが好ましい。液相中で粉砕を行うことで、粉砕が促進されることがある。よって、本実施形態の製造方法においては、上記工程(i)で用いた錯化剤、溶媒をそのまま除去せずに粉砕工程を行ってもよいし、上記工程(i)を終了した後、錯化剤、溶媒を除去してから、新たに溶媒を加えて、液相中で粉砕を行ってもよい。
上記粉砕工程において用いられる溶媒としては、例えば上記工程(i)において第一前駆体の合成に際して行い得る錯化剤、溶媒として例示したものを用いることができる。好ましい溶媒は、芳香族炭化水素溶媒、エーテル系溶媒、ニトリル系溶媒であり、芳香族炭化水素溶媒、ニトリル系溶媒がより好ましく、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、tert-ブチルベンゼン、イソブチロニトリルが更に好ましく、トルエン、イソブチロニトリルがより更に好ましい。
また、この場合の固体電解質原料に対する溶媒の使用量は、上記工程(i)における錯化剤の使用量と同様である。
【0076】
本粉砕工程で得られる粉砕された粉砕物の平均粒径(D50)は、好ましくは0.01μm以上100μm以下、より好ましくは0.03μm以上50μm以下、更に好ましくは0.05μm以上10μm以下、より更に好ましくは0.1μm以上3μm以下である。粉砕物の平均粒径を上記範囲内とすると、工程(iii)において、加熱温度をより低くしても所望の結晶性固体電解質が得られやすくなり、また、粒成長の進行を抑制し、粒径を小さく維持することができる。結果として、粒径の小さい結晶性固体電解質をより効率的に得ることができる。
【0077】
本実施形態においては、粉砕処理の条件を調整することにより、粉砕物の平均粒径を上記範囲内とすることができる。例えば、粉砕処理において、媒体式粉砕機を用いたメカニカルミリング処理を採用する場合、当該粉砕機に用いられるジルコニアボール、ジルコニアビーズ等の粒径、形状、使用量、粉砕機の運転条件(回転数等)、また前駆体に対する溶媒の使用量等により調整可能である。
【0078】
〔電解質前駆体を、溶媒と、分子中の炭素数が8以上である分散剤との存在下で、耐圧容器内に密閉した状態で加熱すること〕
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法における上記「電解質前駆体を、溶媒と、分子中の炭素数が8以上である分散剤との存在下で、耐圧容器内に密閉した状態で加熱すること」とは、より具体的には、下記工程(iii)を有することが好ましい。
(iii)上記工程(ii)で得られた電解質前駆体を、炭素数8以上の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する分散剤を含有する溶媒の存在下で、耐圧容器に密閉した状態で加熱する工程。
【0079】
(工程(iii))
本実施形態の結晶性固体電解質の製造方法は、上記工程(ii)で得られた電解質前駆体を、必要に応じて上記粉砕工程により粉砕した上で、炭素数8以上の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する分散剤を含有する溶媒の存在下で、耐圧容器に密閉した状態で加熱する工程を有することが好ましい。上記電解質前駆体としては、LiPS構造体を含む前駆体が好ましいことは既述の通りである。また、電解質前駆体が、上記粉砕工程を経た粉砕物であることが好ましいことも既述の通りである。
本実施形態の製造方法において、工程(iii)を経ることにより、電解質前駆体、好ましくはLiPS構造体を含む電解質前駆体に含まれるLiPS構造体とハロゲン元素を含む原料との反応により、当該LiPS構造体にハロゲン元素が取り込まれ、かつ結晶化することにより、リチウム元素、硫黄元素、リン元素及びハロゲン元素を含む結晶性固体電解質が得られる。
【0080】
工程(iii)において加熱することで、粒子中の各元素の拡散距離が短縮されるため、所望の結晶性固体電解質が得られやすくなる。本実施形態の製造方法では、上記分散剤を含む溶媒の存在下において、耐圧容器を用いて加熱して固体電解質を得る本工程を採用することにより、分散剤が電解質前駆体粒子同士の粒子間距離を維持した状態で固体電解質の形成を促進することができるため、粒子径の増大を抑制することが可能となる。
【0081】
工程(iii)において用いられる溶媒は、上述のように炭素数8以上の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有する分散剤を含有することを要する。
上記分散剤としては、一般的に分散剤として知られている、親水基と疎水基とを有するもののうち、電解質前駆体粒子同士の粒子間距離を比較的広く維持する観点や、電解質前駆体を耐圧容器内に密閉した状態で加熱するために、ある程度沸点の高いものであることを要するといった観点から、炭素数8以上の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するものを用いることを要し、また、伝導度の高い硫化物固体電解質を得るためには不純物を極力除去することが好ましく、従って分散剤としては上記加熱後に除去しやすいものが好ましいといった観点や、炭素数を一定以下として溶解性を確保することで、分散剤が析出しにくくなり、電解質前駆体を分散させる効果を高めるといった観点から、炭素数30以下の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するものが好ましく、炭素数8~30の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するものがより好ましく、炭素数8~24の直鎖状又は分岐状炭化水素基を有するものがさらに好ましい。
また、上記分散剤の分子全体の炭素数は、好ましくは8~40であり、より好ましくは10~32であり、さらに好ましくは12~24である。
【0082】
上記分散剤としては、アニオン系分散剤、カチオン系分散剤及び非イオン系分散剤から選択される1種以上を用いることが好ましい。
上記アニオン系分散剤の具体例としては、カルボン酸塩、スルホン酸塩、硫酸エステル塩、リン酸エステル塩等が挙げられる。ここで、分散剤としてスルホン酸塩を用いると、硫化物固体電解質中に含まれるカチオンのうち特にリチウムイオンと、アニオンであるスルホン酸イオンが相互作用しやすいため、硫化物固体電解質粒子の表面に分散剤が吸着し、その立体障害により分散性が向上するため、好ましい。さらに、上記分散剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩が特に好ましく用いられる。尚、当該アルキルベンゼンスルホン酸塩中のアルキル基としては、上述と同様の理由により、炭素数30以下の直鎖状又は分岐状アルキル基が好ましく、炭素数8~30の直鎖状又は分岐状アルキル基がより好ましく、炭素数8~24の直鎖状又は分岐状アルキル基がさらに好ましい。
上記カチオン系分散剤の具体例としては、アミン塩やアンモニウム塩等が挙げられる。
上記非イオン系分散剤の具体例としては、エステル、エーテル、アミド、アミン等が挙げられ、オレイルアミン等の脂肪族アミンが特に好ましく用いられる。
また、上記分散剤としては、沸点が170℃以上のものが好ましく、250℃以上のものがより好ましく、300℃以上のものがさらに好ましい。
【0083】
前記加熱を行う際における、前記電解質前駆体の量に対する、前記分散剤の量は、粒子状の電解質前駆体の粒子間距離を確保しつつ、製造される硫化物固体電解質への残留を低減する観点から、好ましくは0.1~20質量%、より好ましくは0.5~15質量%、さらに好ましくは1.0~10質量%である。
【0084】
上記工程(iii)において所望の結晶構造を有する結晶性固体電解質を製造した後、粉砕工程を設けると、当該結晶構造の破壊等が生じることで、イオン伝導度が低下する場合がある。このような観点から、本実施形態の製造方法においては、本工程(iii)の後に粉砕する工程を備えないことが好ましい。
【0085】
工程(ii)で得られた電解質前駆体、好ましくは粉砕工程で得られた粉砕物を加熱する方法としては、耐圧容器内に密閉して行う方法であれば特に制限されず、いかなる方法を採用することができ、例えば、オートクレーブ等の耐圧容器を用いる方法が挙げられる。中でも、工程(iii)における粒子径の増大を抑制する観点からオートクレーブが好ましい。
本実施形態の製造方法においては、電解質前駆体は耐圧容器内に密閉した状態で加熱されることで、耐圧容器内の圧力が上昇し、固体電解質を効率よく製造することができる。ここで、耐圧容器が安全弁を備えていたとしても、通常の加熱条件下においては、電解質前駆体は耐圧容器内に密閉された状態であると言える。
【0086】
工程(iii)における加熱温度は、所望の固体電解質に応じて適宜調整すればよく、例えばアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質を製造する場合、好ましくは250℃以上500℃以下、より好ましくは280℃以上470℃以下、更に好ましくは320℃以上450℃以下、より更に好ましくは360℃以上430℃以下である。
【0087】
工程(iii)における加熱時間は、所望の固体電解質に応じて適宜調整すればよく、例えば、1分間以上が好ましく、5分以上がより好ましく、10分以上が更に好ましく、15分以上がより更に好ましい。また、加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましく、3時間以下が更に好ましく、2時間以下がより更に好ましい。
【0088】
工程(iii)における耐圧容器内の内圧は、好ましくは0.35MPa以上2.0MPa以下、より好ましくは0.50MPa以上1.5MPa以下、さらに好ましくは0.80MPa以上1.2MPa以下である。
【0089】
また、加熱は、不活性ガス雰囲気(例えば、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気)、または減圧雰囲気(特に真空中)で行なうことで、得られる固体電解質の劣化(例えば、酸化)を防止することができる。
【0090】
工程(iii)の加熱にあたり、予め乾燥すること、また結晶化と同時に乾燥することは好ましくない。乾燥すると、平均粒径が大きくなる場合があるためであり、本実施形態の製造方法においては、乾燥は極力行わないことが好ましいからである。
【0091】
工程(iii)の加熱にあたり、上記工程(i)、工程(ii)で用いた錯化剤や溶媒を除去せず、これらの工程で得られた錯化剤、溶媒を伴う電解質前駆体をそのまま加熱してもよいし、また電解質前駆体に伴う錯化剤、溶媒を、事前に高沸点溶媒への溶媒置換を行ってもよいが、生産効率の観点からは、溶媒置換操作を行うことは好ましくないため、上記粉砕工程で得られた粉砕処理物を、そのまま工程(iii)の加熱に供することが好ましい。
工程(iii)において用い得る溶媒としては、上記分散剤以外の溶媒成分としては、上記工程(i)で用いられ得る溶媒として説明したものを用いることができ、錯化工程で用いられた錯化剤、溶媒よりも高い沸点を有するものを用いることが好ましく、中でも芳香族炭化水素溶媒と、芳香族エーテル溶媒との混合物のような、一般に高沸点溶媒として扱われる溶媒を用いることが好ましい。
【0092】
本実施形態の製造方法においては、上記工程(iii)の後に、デカンテーション等の固液分離を行ったり、さらに前述の乾燥工程と同様にして、分散剤を含めた溶媒を除去することが好ましい。当該溶媒の乾燥工程における乾燥温度、乾燥時間等の条件は、前述の乾燥工程におけるものと同様である。
【0093】
(固体電解質の結晶構造)
本実施形態の製造方法により得られる固体電解質としては、例えば、LiPSX、Li7-xPS6-x(X=Cl,Br,I、x=0.0~1.8)等のアルジロダイト型結晶構造(特開2011-096630号公報、特開2013-211171号公報等)が挙げられる。これらのアルジロダイト系結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=15.3°、17.7°、31.1°、44.9°、47.7°付近に現れる。
【0094】
また、アルジロダイト系結晶構造として、以下のものも挙げられる。
上記のLiPSの構造骨格を有し、Pの一部をSiで置換してなる組成式Li7-x1-ySi及びLi7+x1-ySi(xは-0.6~0.6、yは0.1~0.6)で示される結晶構造は、立方晶又は斜方晶、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
上記の組成式Li7-x-2yPS6-x-yCl(0.8≦x≦1.7、0<y≦-0.25x+0.5)で示される結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
上記の組成式Li7-xPS6-xHa(HaはClもしくはBr、xが好ましくは0.2~1.8)で示される結晶構造は、好ましくは立方晶で、CuKα線を用いたX線回折測定において、主に2θ=15.5°、18.0°、25.0°、30.0°、31.4°、45.3°、47.0°、及び52.0°の位置に現れるピークを有する。
なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0095】
本実施形態の製造方法により得られる固体電解質の結晶構造は、より高いイオン伝導度が得られる点で、アルジロダイト型結晶構造であることが好ましい。
本実施形態の製造方法で得られる固体電解質は、上記アルジロダイト型結晶構造を有するものであってもよいし、主結晶として有するものであってもよいが、より高いイオン伝導度を得る観点から、主結晶として有するものであることが好ましい。本明細書において、「主結晶として有する」とは、結晶構造のうち対象となる結晶構造の割合が80%以上であることを意味し、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。
【0096】
また、本実施形態の製造方法により得られる固体電解質は、より高いイオン伝導度を得る観点から、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであるか否かは、結晶性LiPSに見られる2θ=17.5°、26.1°の回折ピークの有無により確認でき、本明細書では、当該回折ピークを有しないか、有している場合であってもアルジロダイト型結晶構造の回折ピークに比べて極めて小さいピークが検出される程度であれば、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであるとする。
【0097】
本実施形態の製造方法により得られる固体電解質は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法において測定される平均粒径(D50)が、好ましくは0.01μm以上100μm以下、より好ましくは0.03μm以上50μm以下、更に好ましくは0.05μm以上10μm以下、より更に好ましくは0.1μm以上3.0μm以下である。
また、本実施形態の製造方法により得られる固体電解質は、レーザー回折散乱式粒度分布測定法において測定される累積体積90%の粒径(D90)が、好ましくは0.10μm以上20.0μm以下であり、より好ましくは0.40μm以上15.0μm以下であり、さらに好ましくは0.60μm以上9.0μm以下である。
【実施例0098】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0099】
(実施例1)
6リットルの撹拌機付き反応容器に、窒素雰囲気下で、硫化リチウムと五硫化二リンとをモル比で75:25となるように秤量して添加した。トルエンを加えたのち、撹拌翼を作動させ、20℃にてテトラヒドロフラン(THF)を滴下していった。72時間撹拌後に反応を停止し、PS43-構造を有するLi3PS4の3THF付加錯体を得た。
次いで、上記Li3PS4の3THF付加物に対し、80℃にて2時間の減圧乾燥処理を行った後、180℃にて6時間の加熱処理を行い、PS43-構造を有する結晶性Li3PS4(β-Li3PS4)を得た。なお、結晶性Li3PS4であることは、X線回折(XRD)装置(SmartLab装置、(株)リガク製)を用いて粉末X線回折測定を行い、回折ピークが17.5°、25.7°に発現していることにより確認した。
得られた結晶性Li3PS4(β-Li3PS4)に、更に硫化リチウム(Li2S)、塩化リチウム(LiCl)、臭化リチウム(LiBr)を、上記硫化リチウムと五硫化二リンとのモル比75:25を基準に、それぞれ40、100、60の比率となるよう秤量して添加し、これらの原料の合計量が10質量%となる量のDowthermA溶媒(ダウ社製、ビフェニル30質量%、ジフェニルエーテル70質量%)を添加し、さらに上記原料の合計量に対して5質量%となる量の分散剤であるドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(沸点:444℃)を添加し、ビーズミル(ラボスターミニLMZ015、アシザワファインテック株式会社製)を用いて2時間の粉砕処理を行い、電解質前駆体の粉砕物を含むスラリーを得た。また、本粉砕処理においては、直径0.3mmジルコニアビーズを使用した。粉砕後の電解質前駆体の粒度分布を測定したところ、平均粒径(D50)は0.2μmであった。
上述のようにして得られたスラリーを、オートクレーブ装置内に密閉した上で395℃で30分間の加熱を行った。その際、オートクレーブの内圧は0.90MPaであった。
その後、キャヌラーを用いて溶媒を除去し、さらに脱水トルエンを加えて撹拌し、デカンテーションにより溶媒を除去し、更に180℃で2時間加熱乾燥を行うことで、アルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質を得た。得られた固体電解質がアルジロダイト型結晶構造であることは、粉末X線回折測定を行い、回折ピークが15.3°、17.7°、31.1°、44.9°、47.7°に発現していることにより確認した。
得られた固体電解質の粒度分布を測定したところ、平均粒径(D50)は0.82μmであり、また累積体積90%の粒径(D90)は1.7μmであった。
さらに、実施例1において得られた固体電解質のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を図1に示す。
【0100】
(実施例2)
実施例1と同様の方法にて得られた結晶性Li3PS4(β-Li3PS4)及びLi2S、LiCl、LiBr、DowthermA溶媒を加えた混合物に対して、分散剤として、原料の合計量に対して10質量%となる量のオレイルアミン(沸点:350℃)を添加した以外は、実施例1と同様にして固体電解質を得た。
得られた固体電解質の粒度分布を測定したところ、平均粒径(D50)は1.4μmであり、また累積体積90%の粒径(D90)は3.6μmであった。
さらに、実施例2において得られた固体電解質のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を図2に示す。
【0101】
(実施例3)
実施例1と同様の方法にて得られた結晶性Li3PS4(β-Li3PS4)及びLi2S、LiCl、LiBr、DowthermA溶媒を加えた混合物に対して、分散剤として、原料の合計量に対して3質量%となる量のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを添加した以外は、実施例1と同様にして固体電解質を得た。
得られた固体電解質の粒度分布を測定したところ、平均粒径(D50)は1.2μmであり、また累積体積90%の粒径(D90)は4.4μmであった。
【0102】
(実施例4)
ピンミル(ホソカワミクロン株式会社製 100UPZ)にてあらかじめ粉砕した硫化リチウム(Li2S)、五硫化二リン(P)、塩化リチウム(LiCl)及び臭化リチウム(LiBr)を47.5:12.5:25.0:15.0のモル比で混合したものを、ガラス容器に投入し、容器を振盪することにより粗混合した。得られた粗混合物を、窒素雰囲気下で脱水トルエン(和光純薬製)と脱水イソブチロニトリル(キシダ化学製)との混合溶媒中に分散させ、約10質量%のスラリーとした。
得られたスラリーを窒素雰囲気に保ったまま、ビーズミルを用いて混合粉砕した。具体的には、粉砕媒体には直径0.5mmのジルコニアビーズ456gを使用し、周速12m/s、流量500ml/分の条件でビーズミルを稼働させ、スラリーをミル内に投入し、1時間循環運転した。処理後のスラリーを窒素置換したシュレンク瓶に入れた後、減圧乾燥して原料混合物を調製した。
上記工程で得た原料混合物を、エチルベンゼン(和光純薬社製)300mlに分散させてスラリーとした。このスラリーを、撹拌機及び加熱用オイルバスを具備したオートクレーブ(容量1000ml、SUS316製)に投入し、回転数200rpmで撹拌しながら、200℃で2時間熱処理した。処理後、減圧乾燥して溶媒を留去して、処理物を得た。
上記工程で得た仮焼物に対し、合計量が10質量%となる量のDowthermA溶媒を添加し、更に分散剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5質量%を添加して、実施例1同様にミル粉砕し、得られたスラリーをそのままオートクレーブ装置を用いて395℃で30分加熱を行った。その後キャヌラーを用いて溶媒を除去して加熱乾燥する作業は実施例1と同様に行った。
得られた固体電解質の粒度分布を測定したところ、平均粒径(D50)は1.4μmであり、また累積体積90%の粒径(D90)は4.7μmであった。
【0103】
(比較例1)
実施例1と同様の方法にて得られた結晶性Li3PS4(β-Li3PS4)及びLi2S、LiCl、LiBr、DowthermA溶媒を加えた混合物に対して、分散剤を添加しなかった以外は、実施例1と同様にして固体電解質を得た。
得られた固体電解質の粒度分布を測定したところ、平均粒径(D50)は4.3μmであり、また累積体積90%の粒径(D90)は7.6μmであった。
さらに、比較例1において得られた固体電解質のSEM(走査型電子顕微鏡)写真を図3に示す。
【0104】
実施例1~4及び比較例1において得られた固体電解質の平均粒径(D50)及び累積体積90%の粒径(D90)を以下に示す。
【0105】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0106】
本実施形態の結晶性固体電解質の製造方法によれば、粒径が小さく、かつイオン伝導度が高い固体電解質を製造することができ、特にアルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造に好適に用いられる。
また、本実施形態の製造方法により得られる固体電解質は、電池に、とりわけ、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等に用いられる電池に好適に用いられる。
図1
図2
図3