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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177280
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】硫化物固体電解質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 13/00 20060101AFI20231206BHJP
   H01B 1/06 20060101ALN20231206BHJP
【FI】
H01B13/00 Z
H01B1/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023084495
(22)【出願日】2023-05-23
(31)【優先権主張番号】P 2022088936
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 健一郎
【テーマコード(参考)】
5G301
【Fターム(参考)】
5G301CA05
5G301CA08
5G301CA16
5G301CA19
5G301CD01
5G301CE02
(57)【要約】
【課題】良好なリチウムイオン伝導度と粒径を有する硫化物固体電解質を製造する、生産効率に優れた方法を提供する。
【解決手段】リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物に対し、溶媒中で粉砕処理を行って粉砕処理物を得ること、前記粉砕処理物を、溶媒の存在下かつ耐圧容器内に密閉した状態で加熱して熱処理物を得ること、前記熱処理物より溶媒を除去すること、とを含むチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質の製造方法、である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物に対し、溶媒中で粉砕処理を行って粉砕処理物を得ること、
前記粉砕処理物を、溶媒の存在下かつ耐圧容器内に密閉した状態で加熱して熱処理物を得ること、
前記熱処理物より溶媒を除去すること、
とを含むチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項2】
前記原料含有物が塩素を含有しない請求項1に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項3】
前記粉砕処理物を加熱する際の温度が、160~240℃である請求項1又は2に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項4】
前記粉砕処理物の平均粒子径(D50)が0.01~1.0μmである請求項1~3のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕処理物を加熱する際の溶媒が、芳香族炭化水素溶媒である請求項1~4のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記粉砕処理物の加熱が、さらにハロゲン化アリールの存在下で行われる請求項1~5のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記粉砕処理物を加熱する際の溶媒とハロゲン化アリールの合計量に対する、ハロゲン化アリールの量が10~60質量%である請求項6に記載の硫化固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記加熱を行う際の、粉砕処理物と溶媒とハロゲン化アリールとの合計量に対する粉砕処理物の比率が1.0~5.0質量%である請求項1~7のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項9】
前記原料含有物が、ハロゲン化リチウム、臭素分子及びヨウ素分子から選ばれる少なくとも一種を含む請求項1~8のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【請求項10】
前記熱処理を行った後に、粉砕処理を行わない請求項1~9のいずれか1項に記載の硫化物固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫化物固体電解質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年におけるパソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等の急速な普及に伴い、その電源として利用される電池の開発が重要視されている。従来、このような用途に用いられる電池において可燃性の有機溶媒を含む電解液が用いられていたが、電池を全固体化することで、電池内に可燃性の有機溶媒を用いず、安全装置の簡素化が図れ、製造コスト、生産性に優れることから、電解液を固体電解質層に換えた電池の開発が行われている。
【0003】
固体電解質層に用いられる固体電解質の製造方法として、炭化水素系有機溶媒を加えた状態で、原料を接触させる、あるいはメカニカルミリング処理する方法が提案されている(特許文献1、2参照)。
また、簡便かつ大量に合成できる方法として液相法が注目されている。しかし液相法では、固体電解質を構成する原子の分散状態を保持したまま析出することが困難であるため、更に錯化剤を用い、電解質前駆体を経て、固体電解質を製造する方法が開示されている(例えば、特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2009/047977号パンフレット
【特許文献2】特開2017-112100号
【特許文献3】国際公開第2020/105736号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、良好なリチウムイオン伝導度と粒径を有する硫化物固体電解質を製造する、生産効率に優れた方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物に対し、溶媒中で粉砕処理を行って粉砕処理物を得ること、
前記粉砕処理物を、溶媒の存在下かつ耐圧容器内に密閉した状態で加熱して熱処理物を得ること、
前記熱処理物より溶媒を除去すること、
とを含むチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、良好なリチウムイオン伝導度と粒径を有する硫化物固体電解質を製造する、生産効率に優れた方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
図2】実施例2で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
図3】実施例3で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
図4】実施例4で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
図5】実施例5で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
図6】実施例6で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
図7】実施例7で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
図8】比較例1で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
図9】比較例2で得られた粉末のX線回折スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態(以下、「本実施形態」と称することがある。)について説明する。なお、本明細書において、「以上」、「以下」、「~」の数値範囲に係る上限及び下限の数値は任意に組み合わせできる数値であり、また実施例の数値を上限及び下限の数値として用いることもできる。また、好ましいとされている規定は任意に採用することができる。即ち、好ましいとされている一の規定を、好ましいとされている他の一又は複数の規定と組み合わせて採用することができる。好ましいもの同士の組み合わせはより好ましいといえる。
【0010】
(本発明に至るために本発明者らが得た知見)
本発明者は、上記の課題を解決するべく鋭意検討した結果、下記の事項を見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
全固体電池に用いられる固体電解質としては、アルジロダイト型結晶構造を有するものと、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有するものとが知られている。
【0012】
このうち、アルジロダイト型結晶構造を有する固体電解質の製造方法において、特許文献1及び2には、リチウム原子、硫黄原子、リン原子等を含む原料含有物に対して炭化水素系有機溶媒を加えた状態で、原料を接触させる方法が知られていた。
【0013】
一方、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する固体電解質の製造方法として、特許文献3にはアミン等の錯化剤を用いてイオン伝導度に優れる固体電解質を製造する方法が知られているが、一旦形成してしまった錯体から錯化剤を除去する工程が必要となり、製造工程が全体として煩雑となる点には課題があった。
【0014】
本発明者は、工業的には製造工程が少ないほど有利である点に鑑み、錯化剤を用いずに、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する固体電解質の製造方法において、オートクレーブ等を用いて密閉状態にて加熱することで、加圧された原料同士の反応が促進されるのではないかと考えた。しかしながら、固体電解質原料を混合して耐圧容器内に密閉して加熱するだけではチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する固体電解質は得られなかった。
そこで本発明者は、混合した固体電解質原料に対して粉砕処理を行った上で、密閉状態で加熱することで、固体電解質原料同士の反応が促進するのではないかと考えた。
【0015】
以上の知見に基づき、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質の製造方法において、原料含有物に対して溶媒中で粉砕処理を行った上で、耐圧容器内に密閉した状態で加熱することにより、製造工程を煩雑にすることなく、良好なリチウムイオン伝導度と粒径とを有する硫化物固体電解質が製造できることを見出すに至った。
【0016】
(硫化物固体電解質)
まず、本明細書で用いる用語について説明する。
本明細書において、「固体電解質」とは、窒素雰囲気下25℃で固体を維持する電解質を意味する。本実施形態における硫化物固体電解質は、少なくともリチウム原子及び硫黄原子を含み、リチウム原子に起因するイオン伝導度を有する固体電解質であり、またリン原子及びハロゲン原子も含むものである。
【0017】
「固体電解質」には、非晶性固体電解質と、結晶性固体電解質と、の両方が含まれる。
本明細書において、結晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、固体電解質由来のピークが観測される固体電解質であって、これらにおいての固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。すなわち、結晶性固体電解質は、固体電解質に由来する結晶構造を含み、その一部が該固体電解質に由来する結晶構造であっても、その全部が該固体電解質に由来する結晶構造であってもよい。そして、結晶性固体電解質は、上記のようなX線回折パターンを有していれば、その一部に非晶性固体電解質が含まれていてもよい。したがって、結晶性固体電解質には、非晶質固体電解質を結晶化温度以上に加熱して得られる、いわゆるガラスセラミックスが含まれる。
また、本明細書において、非晶性固体電解質とは、X線回折測定におけるX線回折パターンにおいて、材料由来のピーク以外のピークが実質的に観測されないハローパターンであるもののことであり、固体電解質の原料由来のピークの有無は問わないものである。
【0018】
(本実施形態の各種形態について)
本実施形態の第一の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物に対し、溶媒中で粉砕処理を行って粉砕処理物を得ること、
前記粉砕処理物を、溶媒の存在下かつ耐圧容器内に密閉した状態で加熱して熱処理物を得ること、
前記熱処理物より溶媒を除去すること、
とを含むチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0019】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、原料含有物に含まれる固体電解質原料が、溶媒中で粉砕処理を行って接触させられた上で、耐圧容器内に密閉した状態で加圧されることで、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有するに至ったものであり、上述の結晶性固体電解質に相当する。
【0020】
後述の実施例と比較例との対比より明らかなように、本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法においては、原料含有物に対して溶媒中で粉砕処理を行った上で、得られた粉砕処理物を溶媒の存在下かつ耐圧容器内に密閉した状態で加熱することが重要である。溶媒の存在下かつ耐圧容器内で密閉した上で加熱することで、耐圧容器内の温度上昇に伴って溶媒の蒸気圧が上昇し、それによって微粒化した固体電解質原料同士の反応が促進され、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質が得られるものである。原料含有物に対して粉砕処理を行わなかった場合や、耐圧容器内に密閉した状態で加熱しなかった場合には、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質は得られなかった。
【0021】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法においては、錯化剤を用いることなくチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質が得られるため、煩雑な錯化剤の除去工程が不要であり、工業的に極めて有用である。
【0022】
本実施形態の第二の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一の形態において、
前記原料含有物が塩素を含有しない、
というものである。
【0023】
本実施形態の製造方法においては、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造するため、原料含有物は、アルジロダイト型結晶構造を誘導しやすい塩素を含有しないことが好ましい。
【0024】
本実施形態の第三の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一又は第二の形態において、
前記粉砕処理物を加熱する際の温度が、160~240℃である、
というものである。
【0025】
既述のように、粉砕処理物中の固体電解質原料は、耐圧容器内に密閉された状態で加熱されるが、その際の温度条件は上記範囲内であることが、チオリシコンリージョンII型結晶構造を効率的に生成させる観点から好適である。
【0026】
本実施形態の第四の形態に係る結晶性硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第三のいずれかの形態において、
前記粉砕処理物の平均粒子径(D50)が0.01~1.0μmである
というものである。
【0027】
本実施形態の製造方法において、粉砕処理物の平均粒子径(D50)が上記範囲内であることで、固体電解質原料同士の反応が促進されてチオリシコンリージョンII型結晶構造が誘導されやすくなり、また、最終的に得られる硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導度と粒径がより好適となる。
【0028】
本実施形態の第五の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第四のいずれかの形態において、
前記粉砕処理物を加熱する際の溶媒が、芳香族炭化水素溶媒である、
というものである。
【0029】
本実施形態の製造方法においては、固体電解質原料としてハロゲン化リチウムを用いることができるが、一方で単体ハロゲンを用いることもでき、その場合には原料同士の反応によりハロゲン化リチウムが生成する場合がある。イオン伝導度が高い硫化物固体電解質を得るためには、ハロゲン原子を硫化物固体電解質中になるべく多く分散させることが肝要である。これを考慮すると、粉砕処理物を加熱する際の溶媒としてはハロゲン化リチウムの溶解性が低いものを選択することが好ましく、典型的には芳香族炭化水素溶媒が好ましく用いられる。
【0030】
本実施形態の第六の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第五の形態において、
前記粉砕処理物の加熱が、さらにハロゲン化アリールの存在下で行われる、
というものである。
また、本実施形態の第七の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第六の形態において、
前記粉砕処理物を加熱する際の溶媒とハロゲン化アリールの合計量に対する、ハロゲン化アリールの量が10~60質量%である、
というものである。
さらに、本実施形態の第八の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第七の形態において、前記加熱を行う際の、粉砕処理物と溶媒とハロゲン化アリールとの合計量に対する粉砕処理物の比率が1.0~5.0質量%である、
というものである。
【0031】
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、CuKα線を用いたX線回折測定において、2θ=25°近傍に何らかのピークが発現することがあるが、リチウムイオン伝導度を改善する観点からは、当該2θ=25°近傍のピークの発現を抑制することが好ましい。
粉砕処理物の加熱をハロゲン化アリールの存在下で行うことで、上記2θ=25°近傍のピーク伸長を抑制するとともに、リチウムイオン伝導度をさらに改善することが可能となる。
また、粉砕処理物の比率を上記範囲内とすることでも、上記2θ=25°近傍のピーク伸長を抑制するとともに、リチウムイオン伝導度をさらに改善することが可能となる。
【0032】
本実施形態の第九の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第八の形態において、
前記原料含有物が、ハロゲン化リチウム、臭素分子及びヨウ素分子から選ばれる少なくとも一種を含む
というものである。
【0033】
チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質を製造する具体的な態様としては、原料含有物に導入されるハロゲン原子は、ハロゲン化リチウム等の化合物として添加したり、単体の臭素分子やヨウ素分子として添加する方法が好適に用いられる。
【0034】
本実施形態の第十の形態に係る硫化物固体電解質の製造方法は、上記第一~第九の形態において、
前記加熱を行った後に、粉砕処理を行わない、
というものである。
【0035】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法においては、前記原料含有物を粉砕処理することと、粉砕処理物を耐圧容器内に密閉した状態で加熱することによって良好なリチウムイオン伝導度と粒径を有する硫化物固体電解質を製造することができるため、加熱後に別途粉砕処理を行わないことが、製造工程全体の効率化の観点から好ましい。
【0036】
[硫化物固体電解質の製造方法]
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法は、
リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含む原料含有物に対し、溶媒中で粉砕処理を行って粉砕処理物を得ること、
前記粉砕処理物を、溶媒の存在下かつ耐圧容器内に密閉した状態で加熱して熱処理物を得ること、
とを含むチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質の製造方法、
である。
【0037】
〔粉砕処理物を得ること〕
本実施形態の製造方法は、リチウム原子、リン原子、硫黄原子及びハロゲン原子を含む原料含有物に対し、溶媒中で粉砕処理を行って粉砕処理物を得ること、を含み、原料含有物に対して粉砕処理を行わない場合、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質は得られない。
(原料含有物)
本実施形態で用いられる原料含有物は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含むものであり、より具体的にはこれらの原子からなる群より選ばれる1種以上を含む物質(以下、「固体電解質原料」とも称する。)を含むものである。本実施形態で用いられる原料含有物は、固体電解質原料を2種以上含有するものであることが好ましい。
【0038】
原料含有物に含まれる固体電解質原料としては、例えば硫化リチウム;フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウム;三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン;各種フッ化リン(PF、PF)、各種塩化リン(PCl、PCl、PCl)、各種臭化リン(PBr、PBr)、各種ヨウ化リン(PI、P)等のハロゲン化リン;フッ化チオホスホリル(PSF)、塩化チオホスホリル(PSCl)、臭化チオホスホリル(PSBr)、ヨウ化チオホスホリル(PSI)、二塩化フッ化チオホスホリル(PSClF)、二臭化フッ化チオホスホリル(PSBrF)等のハロゲン化チオホスホリル;などの上記四種の原子から選ばれる少なくとも二種の原子からなる原料、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、好ましくは臭素(Br)、ヨウ素(I)が代表的に挙げられる。
【0039】
上記以外の固体電解質原料として用い得るものとしては、例えば、上記四種の原子から選ばれる少なくとも一種の原子を含み、かつ該四種の原子以外の原子を含む固体電解質原料、より具体的には、酸化リチウム、水酸化リチウム、炭酸リチウム等のリチウム化合物;硫化ナトリウム、硫化カリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム等の硫化アルカリ金属;硫化ケイ素、硫化ゲルマニウム、硫化ホウ素、硫化ガリウム、硫化スズ(SnS、SnS)、硫化アルミニウム、硫化亜鉛等の硫化金属;リン酸ナトリウム、リン酸リチウム等のリン酸化合物;ヨウ化ナトリウム、フッ化ナトリウム、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム等のハロゲン化ナトリウム等のリチウム以外のアルカリ金属のハロゲン化物;ハロゲン化アルミニウム、ハロゲン化ケイ素、ハロゲン化ゲルマニウム、ハロゲン化ヒ素、ハロゲン化セレン、ハロゲン化スズ、ハロゲン化アンチモン、ハロゲン化テルル、ハロゲン化ビスマス等のハロゲン化金属;オキシ塩化リン(POCl)、オキシ臭化リン(POBr)等のオキシハロゲン化リン;などが挙げられる。
【0040】
上記の中でも、硫化リチウム、三硫化二リン(P)、五硫化二リン(P)等の硫化リン、フッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等のハロゲン単体、フッ化リチウム、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム等のハロゲン化リチウムが好ましい。また、酸素原子を固体電解質に導入する場合、酸化リチウム、水酸化リチウム及びリン酸リチウム等のリン酸化合物が好ましい。固体電解質原料の組み合わせとしては、例えば、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムの組み合わせ、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン単体の組み合わせが好ましく挙げられ、ハロゲン化リチウムとしては臭化リチウム、ヨウ化リチウムが好ましく、ハロゲン単体としては臭素及びヨウ素が好ましい。
また、本実施形態においては、ハロゲン単体、特に臭素及びヨウ素から選択されるものを用いると、得られる硫化物固体電解質のイオン伝導度がより向上するため好ましい。
【0041】
本実施形態においては、PS構造を含むLiPSを原料の一部として用いることもできる。具体的には、先にLiPSを製造する等して用意し、これを原料として使用する。
原料の合計に対するLiPSの含有量は、60~100mol%が好ましく、65~90mol%がより好ましく、70~80mol%が更に好ましい
【0042】
また、LiPSとハロゲン単体とを用いる場合、LiPSに対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、10~40mol%がより好ましく、20~30mol%が更に好ましく、22~28mol%が更により好ましい。
【0043】
本実施形態で用いられる硫化リチウムは、粒子状であることが好ましい。
硫化リチウム粒子の平均粒径(D50)は、0.1μm以上1000μm以下であることが好ましく、0.5μm以上100μm以下であることがより好ましく、1μm以上20μm以下であることがさらに好ましい。本明細書において、平均粒径(D50)は、粒子径分布積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%(体積基準)に達するところの粒子径であり、体積分布は、例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定することができる平均粒径のことである。また、上記の原料として例示したもののうち固体の原料については、上記硫化リチウム粒子と同じ程度の平均粒径を有するものが好ましい、すなわち上記硫化リチウム粒子の平均粒径と同じ範囲内にあるものが好ましい。
【0044】
固体電解質原料として、硫化リチウム、五硫化二リン及びハロゲン化リチウムを用いる場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの合計に対する硫化リチウムの割合は、より高い化学的安定性及びより高いイオン伝導度を得る観点から、70~80mol%が好ましく、72~78mol%がより好ましく、74~78mol%が更に好ましい。
硫化リチウム、五硫化二リン、ハロゲン化リチウム及び必要に応じて用いられる他の固体電解質原料を用いる場合、これらの合計に対する硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量は、50~100mol%が好ましく、55~90mol%がより好ましく、60~85mol%が更に好ましい。
また、ハロゲン化リチウムとして、臭化リチウムとヨウ化リチウムとを組み合わせて用いる場合、イオン伝導度を向上させる観点から、臭化リチウム及びヨウ化リチウムの合計に対する臭化リチウムの割合は、1~99mol%が好ましく、20~80mol%がより好ましく、30~70mol%が更に好ましく、40~60mol%が特に好ましい。
【0045】
固体電解質原料としてハロゲン単体を用いる場合であって、硫化リチウム、五硫化二リンを用いる場合、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムを除いた硫化リチウム及び五硫化二リンの合計モル数に対する、ハロゲン単体のモル数と同モル数の硫化リチウムとを除いた硫化リチウムのモル数の割合は、60~90%の範囲内であることが好ましく、65~85%の範囲内であることがより好ましく、68~82%の範囲内であることが更に好ましく、72~78%の範囲内であることが更により好ましく、73~77%の範囲内であることが特に好ましい。これらの割合であれば、より高いイオン伝導度が得られるからである。
また、これと同様の観点から、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とを用いる場合、硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体との合計量に対するハロゲン単体の含有量は、1~50mol%が好ましく、2~40mol%がより好ましく、3~25mol%が更に好ましく、3~15mol%が更により好ましい。
【0046】
硫化リチウムと五硫化二リンとハロゲン単体とハロゲン化リチウムとを用いる場合には、これらの合計量に対するハロゲン単体の含有量(αmol%)、及びハロゲン化リチウムの含有量(βmol%)は、下記式(2)を満たすことが好ましく、下記式(3)を満たすことがより好ましく、下記式(4)を満たすことが更に好ましく、下記式(5)を満たすことが更により好ましい。
2≦2α+β≦100…(2)
4≦2α+β≦80 …(3)
6≦2α+β≦50 …(4)
6≦2α+β≦30 …(5)
【0047】
二種のハロゲンを単体として用いる場合には、一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA1とし、もう一方のハロゲン原子の物質中のモル数をA2とすると、A1:A2が1~99:99~1が好ましく、10:90~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20が更に好ましく、30:70~70:30が更により好ましい。
【0048】
また、二種のハロゲン単体が、臭素とヨウ素である場合、臭素のモル数をB1とし、ヨウ素のモル数をB2とすると、B1:B2が1~99:99~1が好ましく、15:85~90:10であることがより好ましく、20:80~80:20が更に好ましく、30:70~75:25が更により好ましく、35:65~75:25が特に好ましい。
また、原料含有物は、アルジロダイト型結晶構造を誘導しやすい塩素を含有しないものであることが好ましい。
【0049】
(粉砕機)
粉砕処理物を得る際には、上記原料含有物に対し、溶媒中で粉砕機を用いて粉砕処理を行う。
粉砕機は、文字通り粉砕を行う際に用いられる機器であるが、粉砕と同時に、撹拌、混合も生じ得る。
【0050】
本実施形態の製造方法において用いられ得る粉砕機としては、固体電解質原料を混合できるものであれば特に制限なく用いることが可能であり、例えば、例えば、粉砕媒体を用いた媒体式粉砕機を用いることができる。
【0051】
媒体式粉砕機は、容器駆動式粉砕機、媒体撹拌式粉砕機に大別される。容器駆動式粉砕機としては、撹拌槽、粉砕槽、あるいはこれらを組合せたボールミル、ビーズミル等が挙げられる。また、媒体撹拌式粉砕機としては、カッターミル、ハンマーミル、ピンミル等の衝撃式粉砕機;タワーミルなどの塔型粉砕機;アトライター、アクアマイザー、サンドグラインダー等の撹拌槽型粉砕機;ビスコミル、パールミル等の流通槽型粉砕機;流通管型粉砕機;コボールミル等のアニュラー型粉砕機;連続式のダイナミック型粉砕機;一軸又は多軸混練機などの各種粉砕機が挙げられる。
得られる粉砕処理物の粒径の調整のしやすさ等を考慮すると、容器駆動式粉砕機として例示したボールミル、ビーズミルを用いることが好ましく、中でも遊星型のものが好ましい。
【0052】
これらの粉砕機は、所望の規模等に応じて適宜選択することができ、比較的小規模であれば、ボールミル、ビーズミル等の容器駆動式粉砕機を用いることができ、また大規模、又は量産化の場合には、他の形式の粉砕機を用いてもよい。
【0053】
また、本実施形態の製造方法においては、原料含有物に対し溶媒中で粉砕処理を行うものであり、粉砕の対象物がスラリー状態であるため、湿式粉砕に対応できる湿式粉砕機であることが好ましい。
湿式粉砕機としては、湿式ビーズミル、湿式ボールミル、湿式振動ミル等が代表的に挙げられ、粉砕操作の条件を自由に調整でき、より小さい粒径のものに対応しやすい点で、ビーズを粉砕メディアとして用いる湿式ビーズミルが好ましい。
【0054】
また、必要に応じて粉砕対象となるスラリーを循環させる循環運転が可能である、流通式の粉砕機を用いることもできる。具体的には、スラリーを粉砕する粉砕機(粉砕混合機)と、温度保持槽(反応容器)との間で循環させるような形態の粉砕機が挙げられる。
【0055】
上記ボールミル、ビーズミルで用いられるビーズ、ボールのサイズは、所望の粒径、処理量等に応じて適宜選択すればよく、例えばビーズの直径として、通常0.05mmφ以上、好ましくは0.1mmφ以上、より好ましくは0.3mmφ以上、上限として通常5.0mmφ以下、好ましくは3.0mmφ以下、より好ましくは2.0mmφ以下である。またボールの直径として、通常2.0mmφ以上、好ましくは2.5mmφ以上、より好ましくは3.0mmφ以上、上限として通常20.0mmφ以下、好ましくは15.0mmφ以下、より好ましくは10.0mmφ以下である。
また、ビーズやボールの材質としては、例えば、ステンレス、クローム鋼、タングステンカーバイド等の金属;ジルコニア、窒化ケイ素等のセラミックス;メノウ等の鉱物が挙げられる。
【0056】
ボールミル、ビーズミルを用いる場合、回転数としては、その処理する規模に応じてかわるため一概にはいえないが、通常10rpm以上、好ましくは20rpm以上、より好ましくは50rpm以上であり、上限としては通常1,000rpm以下、好ましくは900rpm以下、より好ましくは800rpm以下、更に好ましくは700rpm以下である。
また、この場合の粉砕時間としては、その処理する規模に応じてかわるため一概にはいえないが、通常0.5時間以上、好ましくは1時間以上、より好ましくは2時間以上であり、上限としては通常100時間以下、好ましくは72時間以下、より好ましくは48時間以下、更に好ましくは24時間以下、より更に好ましくは10時間以下である。
【0057】
(溶媒)
前記溶媒としては、固体電解質の製造において従来用いられてきた溶媒を広く採用することが可能である。
【0058】
このような溶媒としては、例えば、脂肪族炭化水素溶媒、脂環族炭化水素溶媒、芳香族炭化水素溶媒等の炭化水素溶媒;アルコール系溶媒、エステル系溶媒、アルデヒド系溶媒、ケトン系溶媒、片側の炭素数が4以上のエーテル系溶媒、炭素原子とヘテロ原子を含む溶媒等の炭素原子含む溶媒;等が挙げられる。この溶媒としては、固体電解質原料の反応により生成するハロゲン化リチウムの溶解性が低い炭化水素溶媒が好ましく、芳香族炭化水素溶媒がより好ましく、具体的には、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、ノナン、エチルシクロヘキサン及びtert-ブチルベンゼンから選択される1種以上を用いることが特に好ましい。
【0059】
(混合)
本実施形態の製造方法においては、上記原料含有物に対し、溶媒中で粉砕処理を行うが、具体的には、事前に原料含有物と溶媒とを混合した上で粉砕処理に供する方法が挙げられる。
【0060】
本実施形態において、原料含有物と溶媒との混合物の形態は固体状、液状のいずれであってもよいが、原料含有物は固体を含んでおり、溶媒は液状であるため、通常液状の溶媒中に固体の原料含有物が存在する分散体の形態である。
【0061】
原料含有物と溶媒とを混合する方法については特段の制限はなく、原料含有物と溶媒とを混合できる装置に、原料含有物及び溶媒を投入して混合すればよい。例えば、溶媒を槽内に供給し、撹拌翼を作動させた後に、原料含有物を徐々に加えていくと、良好な混合状態が得られ、固体電解質原料の分散性が向上するため、好ましい。
ただし、固体電解質原料としてハロゲン単体を用いる場合、固体電解質原料が固体ではない場合があり、具体的には常温常圧下において、フッ素及び塩素は気体、臭素は液体となる。このような場合、例えば固体電解質原料が液体の場合は、他の固体の固体電解質原料とは別に溶媒とともに槽内に供給すればよく、また固体電解質原料が気体の場合は、溶媒に固体の固体電解質原料を加えたものに吹き込むように供給すればよい。
【0062】
原料含有物と溶媒とを混合する装置としては、例えば槽内に撹拌翼を備える機械撹拌式混合機が挙げられる。機械撹拌式混合機は、高速撹拌型混合機、双腕型混合機等が挙げられ、原料含有物と溶媒との混合物中の固体電解質原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、高速撹拌型混合機が好ましく用いられる。また、高速撹拌型混合機としては、垂直軸回転型混合機、水平軸回転型混合機等が挙げられ、どちらのタイプの混合機を用いてもよい。
【0063】
機械撹拌式混合機において用いられる撹拌翼の形状としては、アンカー型、ブレード型、アーム型、リボン型、多段ブレード型、二連アーム型、ショベル型、二軸羽型、フラット羽根型、C型羽根型等が挙げられ、固体電解質原料の均一性を高め、より高いイオン伝導度を得る観点から、ショベル型、フラット羽根型、C型羽根型等が好ましい。また、機械撹拌式混合機においては攪拌対象を混合機外部に排出してから再び混合機内部に戻す循環ラインを設置することが好ましい。これにより、ハロゲン化リチウム等の比重が重い原料が沈降、また滞留することなく撹拌され、より均一な混合が可能となる。
【0064】
循環ラインの設置個所は特に限定されないが、混合機の底から排出して混合機の上部に戻すような箇所に設置されることが好ましい。こうすることで、沈降しやすい固体電解質原料を循環による対流に乗せて均一に撹拌しやすくなる。さらに、戻り口が撹拌対象の液面下に位置していることが好ましい。こうすることで、撹拌対象が液跳ねして混合機内部の壁面に付着することを抑制することができる。
【0065】
原料含有物と溶媒とを混合する際の温度条件としては、特に制限はなく、例えば-30~100℃、好ましくは-10~50℃、より好ましくは室温(23℃)程度(例えば室温±5℃程度)である。また混合時間は、0.1~150時間程度、より均一に混合し、より高いイオン伝導度を得る観点から、好ましくは1~120時間、より好ましくは4~100時間、更に好ましくは8~80時間である。
【0066】
上記のようにして得られた粉砕処理物は、その平均粒子径(D50)が、好ましくは0.01~1.0μm、より好ましくは0.05~0.70μm、さらに好ましくは0.08~0.50μmであると、最終的に得られる硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導度と粒径がより好適となる。
【0067】
尚、上記粉砕処理により得られる粉砕処理物とは、溶媒を除いた固形分を示すものである。
粉砕処理によって得られるスラリーからは、後述する加熱を行う際の固形分量を確定させる観点等から固液分離や乾燥処理などによって一旦溶媒を除去してもよく、また、生産性を良好とすべく、溶媒を含むスラリーをそのまま後述の加熱に供してもよい。
また、粉砕処理物をさらに下記一般式(1)で表されるエーテル化合物と混合し、当該エーテル化合物を除去した上で、後述の加熱に供してもよい。
-O-R (1)
(一般式(1)中、Rは炭素数1又は2の脂肪族炭化水素基であり、Rは炭素数1~6の脂肪族炭化水素基である。)
【0068】
(熱処理物を得ること)
本実施形態においては、上記粉砕処理により得られた粉砕処理物を、溶媒の存在下かつ密閉可能な耐圧容器内に密閉した状態で加熱して熱処理物を得ることを含む。粉砕処理物を、耐圧容器内に密閉した状態で加熱しない場合、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質が得られない。
ここで用いられる溶媒は、上記粉砕処理によって得られるスラリー中に含まれるものをそのまま流用してもよいし、当該スラリー中に含まれる溶媒の一部又は全部を新たな溶媒に入れ替えてもよい。ここで用いられる溶媒の詳細は、上記粉砕処理において説明したものと同様である。
【0069】
このようにして得られる熱処理物は、CuKα線を用いたX線回折測定において2θ=25°近傍にピークが現れることがあるが、その場合には得られる硫化物固体電解質のリチウムイオン伝導度をさらに向上する観点から、ハロゲン化アリールの存在下で粉砕処理物に対して上で上記熱処理を行うことで、上述の2θ=25°近傍のピークを低減させ、またリチウムイオン伝導度を改善することができる。
上記ハロゲン化アリールとしては、具体的には、クロロベンゼン及び1,2-クロロトルエンの少なくとも一方を用いることが特に好ましい。
【0070】
上記溶媒とハロゲン化アリールとの比率としては、溶媒とハロゲン化アリールの合計量に対する、ハロゲン化アリールの量が10~60質量%であることが好ましく、20~60質量%であることがより好ましく、30~60質量%であることがさらに好ましい。
【0071】
上記加熱を行う際の粉砕処理物の比率は、特に限定されないが、後述するX線回折測定における2θ=25°近傍に発現するピークを抑制する観点からは、粉砕処理物と溶媒とハロゲン化アリールとの合計量に対する粉砕処理物の比率が1.0~5.0質量%であることが好ましい。
【0072】
上記粉砕処理物を加熱する際の加熱温度としては、固体電解質原料同士の反応が十分に進行する温度、すなわちチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質が得られる温度であれば特に制限なく、例えば160~240℃であることが好ましく、180~220℃であることがより好ましく、190~210℃であることが特に好ましい。加熱温度が上記範囲内であると、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質が効率よく得られる。
【0073】
上記粉砕処理物を加熱する際の加熱時間は、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質が得られる時間であれば特に制限されるものではないが、例えば、1分間以上が好ましく、10分以上がより好ましく、30分以上が更に好ましく、1時間以上がより更に好ましく、また、加熱時間の上限は特に制限されるものではないが、24時間以下が好ましく、10時間以下がより好ましく、5時間以下が更に好ましく、3時間以下がより更に好ましい。
【0074】
(溶媒を除去すること)
本実施形態の製造方法において、上述のようにして得られた熱処理物中には溶媒が存在するため、これを除去し硫化物固体電解質を得る。
溶媒を除去する方法としては、乾燥によるものと、固液分離によるものが挙げられる。
【0075】
乾燥は、熱処理物が含有する溶媒の種類に応じ、溶媒の沸点以上の温度で行ったり、あるいは真空ポンプ等を用いて減圧下とした上で加熱することで行うことができる。
【0076】
上記固液分離は、ガラスフィルター等を用いたろ過、デカンテーションによる固液分離、また遠心分離機等を用いた固液分離により行ってもよい。また、例えば固液分離を行った後、上記の温度条件による乾燥を行ってもよい。
【0077】
固液分離は、具体的には、熱処理物を容器に移し、硫化物固体電解質が沈殿した後に、上澄みとなる溶媒等を除去するデカンテーション、また例えばポアサイズが10~200μm程度、好ましくは20~150μmのガラスフィルターを用いたろ過により行うことが好適である。
【0078】
(硫化物固体電解質)
上記溶媒を除去することにより得られる硫化物固体電解質は、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有する硫化物固体電解質である。
硫化物固体電解質は、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子を含んでおり、代表的なものとしては、例えば、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質;更に酸素原子、珪素原子等の他の原子を含む、例えば、LiS-P-LiO-LiI、LiS-SiS-P-LiI等の固体電解質が好ましく挙げられる。より高いイオン伝導度を得る観点から、LiS-P-LiI、LiS-P-LiCl、LiS-P-LiBr、LiS-P-LiI-LiBr等の、硫化リチウムと硫化リンとハロゲン化リチウムとから構成される固体電解質が好ましく挙げられる。
硫化物固体電解質を構成する原子の種類は、例えば、ICP発光分光分析装置により確認することができる。
【0079】
硫化物固体電解質が、少なくともLiS-Pを有するものである場合、LiSとPとのモル比は、より高いイオン伝導度を得る観点から、65~85:15~35が好ましく、70~80:20~30がより好ましく、72~78:22~28が更に好ましい。
【0080】
硫化物固体電解質が、例えば、LiS-P-LiI-LiBrである場合、硫化リチウム及び五硫化二リンの含有量の合計は、60~95モル%が好ましく、65~90モル%がより好ましく、70~85モル%が更に好ましい。また、臭化リチウムとヨウ化リチウムとの合計に対する臭化リチウムの割合は、1~99モル%が好ましく、20~90モル%がより好ましく、40~80モル%が更に好ましく、50~70モル%が特に好ましい。
【0081】
硫化物固体電解質における、リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)は、1.0~1.8:1.0~2.0:0.1~0.8:0.01~0.6が好ましく、1.1~1.7:1.2~1.8:0.2~0.6:0.05~0.5がより好ましく、1.2~1.6:1.3~1.7:0.25~0.5:0.08~0.4が更に好ましい。また、ハロゲン原子として、臭素及びヨウ素を併用する場合、リチウム原子、硫黄原子、リン原子、臭素、及びヨウ素の配合比(モル比)は、1.0~1.8:1.0~2.0:0.1~0.8:0.01~0.3:0.01~0.3が好ましく、1.1~1.7:1.2~1.8:0.2~0.6:0.02~0.25:0.02~0.25がより好ましく、1.2~1.6:1.3~1.7:0.25~0.5:0.03~0.2:0.03~0.2がより好ましく、1.35~1.45:1.4~1.7:0.3~0.45:0.04~0.18:0.04~0.18が更に好ましい。リチウム原子、硫黄原子、リン原子及びハロゲン原子の配合比(モル比)を上記範囲内とすることにより、後述するチオリシコンリージョンII型結晶構造を有する、より高いイオン伝導度を有する結晶性固体電解質が得られやすくなる。
【0082】
硫化物固体電解質が有する結晶構造としては、LiPS結晶構造、Li結晶構造、LiPS結晶構造、Li11結晶構造、2θ=20.2°近傍及び23.6°近傍にピークを有する結晶構造(例えば、特開2013-16423号公報)等が挙げられる。
【0083】
硫化物固体電解質が有する結晶構造としては、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造(Kannoら、Journal of The Electrochemical Society,148(7)A742-746(2001)参照)、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造(Solid State Ionics,177(2006),2721-2725参照)等も挙げられる。
【0084】
硫化物固体電解質が有する結晶構造は、より高いイオン伝導度が得られる点で、チオリシコンリージョンII型結晶構造であることを要する。ここで、「チオリシコンリージョンII型結晶構造」は、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造のいずれかであることを示す。
【0085】
硫化物固体電解質は、上記チオリシコンリージョンII型結晶構造を含むものであってもよいし、主結晶として含むものであってもよいが、より高いイオン伝導度を得る観点から、主結晶として含むものであることが好ましい。本明細書において、「主結晶として含む」とは、結晶構造のうち対象となる結晶構造の割合が80%以上であることを意味し、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。また、硫化物固体電解質は、より高いイオン伝導度を得る観点から、結晶性LiPS(β-LiPS)を含まないものであることが好ましい。
【0086】
CuKα線を用いたX線回折測定において、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.1°、23.9°、29.5°付近に現れ、Li4-xGe1-x系チオリシコンリージョンII(thio-LISICON Region II)型と類似の結晶構造の回折ピークは、例えば2θ=20.2、23.6°付近に現れる。なお、これらのピーク位置については、±0.5°の範囲内で前後していてもよい。
【0087】
硫化物固体電解質の平均粒径(D50)としては、例えば、0.01μm以上、さらには0.03μm以上、0.05μm以上、0.10μm以上であり、上限としては5.0μm以下、さらには4.0μm以下、3.00μm以下、2.40μm以下、1.00μm以下である。
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質の平均粒径は、電極合材、リチウムイオン電池等の用途においても十分使用できる程度に小さいものである。
【0088】
本実施形態の製造方法で得られる結晶性固体電解質のイオン伝導度は、0.5mS/cm以上であることが好ましく、1.0mS/cm以上であることがより好ましく、1.8mS/cm以上であることがさらに好ましい。
ここで、本明細書におけるイオン伝導度とは、実施例に記載される方法により測定されるものである。
【0089】
(用途)
本実施形態の製造方法により得られる硫化物固体電解質は、粒径が小さく良好なリチウムイオン伝導度を有するものであるため、電極合材、リチウムイオン電池等に好適に用いられる。
リチウムイオン電池に用いられる場合、リチウムイオン電池の正極層に用いてもよく、負極層に用いてもよく、電解質層に用いてもよい。なお、これら各層は、公知の方法により製造することができる。
【0090】
また、上記リチウムイオン電池は、正極層、電解質層及び負極層の他に集電体を使用することが好ましく、集電体は公知のものを用いることができる。例えば、Au、Pt、Al、Ti、又は、Cu等のように、上記の固体電解質と反応するものをAu等で被覆した層が使用できる。
【実施例0091】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら制限されるものではない。
【0092】
(粉末XRD回折の測定)
粉末X線回折(XRD)測定は以下のようにして実施した。
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質の粉末を、直径20mm、深さ0.2mmの溝に充填し、ガラスで均して試料とした。この試料を、XRD用カプトンフィルムで密閉し、空気に触れさせずに、以下の条件で測定した。
測定装置:D2 PHASER、ブルカー(株)製
管電圧:30kV
管電流:10mA
X線波長:Cu-Kα線(1.5418Å)
光学系:集中法
スリット構成:ソーラースリット4°、発散スリット1mm、Kβフィルター(Ni板)使用
検出器:半導体検出器
測定範囲:2θ=10-60deg
ステップ幅、スキャンスピード:0.05deg、0.05deg/秒
【0093】
(イオン伝導度の測定)
本実施例において、イオン伝導度の測定は、以下のようにして行った。
実施例及び比較例で得られた硫化物固体電解質から、直径10mm(断面積S:0.785cm)、高さ(L)0.1~0.3cmの円形ペレットを成形して試料とした。その試料の上下から電極端子を取り、25℃において交流インピーダンス法により測定し(周波数範囲:5MHz~0.5Hz、振幅:10mV)、Cole-Coleプロットを得た。高周波側領域に観測される円弧の右端付近で、-Z’’(Ω)が最小となる点での実数部Z’(Ω)を電解質のバルク抵抗R(Ω)とし、以下式に従い、イオン伝導度σ(S/cm)を計算した。
R=ρ(L/S)
σ=1/ρ
【0094】
(平均粒径の測定)
レーザー回折/散乱式粒径分布測定装置(「Partica LA-950(型番)」、株式会社堀場製作所製)を用いて測定して粒径分布を得た。得られた粒径分布の積算曲線を描いた時に粒子径の最も小さい粒子から順次積算して全体の50%(体積基準)に達するところの粒径を平均粒径(D50)とした。
【0095】
(実施例1)
2.0リットルの撹拌翼付き反応槽に、窒素雰囲気下、固体電解質原料として、硫化リチウム33.06g、溶媒としてエチルベンゼン(以下EB)868gを加え、撹拌翼を回転させた後、ヨウ素13.04gを導入し室温で4時間混合した。その後、五硫化二リン45.69gを添加後、臭素8.21gを滴下しながら、循環運転可能なビーズミル(「スターミルLMZ015(商品名)」、アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いて所定条件(ビーズ材質:ジルコニア、ビーズ直径:0.5mmφ、ビーズ使用量:456g、ポンプ流量:600mL/min、周速:8m/s、ミルジャケット温度:30℃)で2時間の粉砕処理を行い、スラリーを得た。得られたスラリーより、真空下の乾燥(温度:60℃、乾燥時間:1時間)によりエチルベンゼンを除去して、粉末状の粉砕処理物を得た。得られた粉砕処理物について、平均粒径(D50)を測定したところ、0.129μmであった。
得られた粉砕処理物2.0gをグローブボックス中で、撹拌子を入れたテフロン(登録商標)容器の中にエチルベンゼン15.7g(粉砕処理物の比率:11.3質量%)と共に仕込んだ。テフロン(登録商標)容器を密閉し、金属製耐圧容器(HU-50、三愛科学株式会社製)の中に入れた。その後、200℃に上げたオイルバスに耐圧容器ごと入れて2時間程度撹拌・加熱した。加熱熱処理後、容器を冷却し、グローブボックス中で、スラリー状の熱処理物を100mlシュレンク瓶で回収した。グローブボックスからシュレンク瓶を取り出し、80℃で1時間減圧乾燥することで溶媒を留去して、粉末状の硫化物固体電解質を得た。
【0096】
得られた硫化物固体電解質の粉末について、平均粒径(D50)を測定したところ、2.03μmであった。また、硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、1.1mS/cmであった。
【0097】
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図1に示す。
【0098】
(実施例2)
エチルベンゼン15.7gに代えて、エチルベンゼン14.1gとクロロベンゼン1.6g(粉砕処理物の比率:11.3質量%)との混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、1.2mS/cmであった。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図2に示す。
【0099】
(実施例3)
エチルベンゼン15.7gに代えて、エチルベンゼン7.9gとクロロベンゼン7.9g(粉砕処理物の比率:11.3質量%)との混合物を用いた以外は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、平均粒径(D50)を測定したところ、2.06μmであった。また、硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、2.13mS/cmであった。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図3に示す。
【0100】
(実施例4)
エチルベンゼン15.7gに、さらにエチルベンゼン124g(粉砕処理物の比率:1.4質量%)を加えた以外は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、平均粒径(D50)を測定したところ、1.86μmであった。また、硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、2.26mS/cmであった。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図4に示す。
【0101】
(実施例5)
撹拌子入りシュレンク(容量:100mL)に、窒素雰囲気下、硫化リチウム1.322g、溶媒としてシクロヘキサン25mLを導入し、撹拌子を回転させた後、ヨウ素0.522gを導入した。3時間の撹拌を継続して混合した後、臭素0.328gを滴下し24時間撹拌してスラリーを得た。得られたスラリーを真空下の乾燥(室温:80℃、乾燥時間:1時間)によりシクロヘキサンを除去して粉末を得た。得られた粉末1.00g、五硫化二リン0.896g、溶媒としてトルエン19.5gを窒素雰囲気下で、直径0.5mmのジルコニア製ボールとともに遊星型ボールミル(フリッチェ社製:型番P-7)のジルコニア製ポットに入れ、完全密封し、ポット内を不活性雰囲気下(窒素雰囲気)とした。加熱冷却することなく(室温23℃)、遊星ボールミルで回転数を500rpmとし、2時間の粉砕処理を行った。得られたスラリーを、真空下の乾燥(温度:80℃、乾燥時間:1時間)によりトルエンを除去して、微粒化した原料含有物の粉末を得た。その他は実施例4と同様にして加熱を行い、硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、2.0mS/cmであった。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図5に示す。
【0102】
(実施例6)
五硫化二リン0.945g、硫化リチウム0.586g、ヨウ化リチウム0.285g、臭化リチウム0.185g、溶媒としてトルエン14.6gを、窒素雰囲気下で、直径0.5mmのジルコニア製ボールとともに遊星型ボールミル(フリッチェ社製:型番P-7)のジルコニア製ポットに入れ、完全密封し、ポット内を不活性雰囲気下(窒素雰囲気)とした。加熱冷却することなく(室温23℃)、遊星ボールミルで回転数を500rpmとし、2時間の粉砕処理を行った。得られたスラリーを、真空下の乾燥(温度:80℃、乾燥時間:1時間)によりトルエンを除去して、微粒化した原料含有物の粉末を得た。その他は、実施例4と同様にして加熱を行い、硫化物固体電解質を得た。得られた粉砕処理物について、平均粒径(D50)を測定したところ、0.18μmであった。
得られた硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、0.96mS/cmであった。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図6に示す。
【0103】
(実施例7)
2.0リットルの撹拌翼付き反応槽に、窒素雰囲気下、固体電解質原料として硫化リチウム33.06g、溶媒としてエチルベンゼン(EB)868gを加え、撹拌翼を回転させた後、ヨウ素13.04gを導入し室温で4時間混合した。その後、五硫化二リン45.69gを添加後、臭素8.21gを滴下しながら、循環運転可能なビーズミル(「スターミルLMZ015(商品名)」、アシザワ・ファインテック株式会社製)を用いて所定条件(ビーズ材質:ジルコニア、ビーズ直径:0.5mmφ、ビーズ使用量:456g、ポンプ流量:600mL/min、周速:8m/s、ミルジャケット温度:30℃)で2時間の粉砕処理を行い、スラリーを得た。得られたスラリーより、真空下の乾燥(室温:60℃、乾燥時間:1時間)によりエチルベンゼンを除去して、粉末状の粉砕処理物を得た。
【0104】
撹拌子入りシュレンク(容量:100mL)に、窒素雰囲気下、得られた粉砕処理物を、0.50gを導入した。撹拌子を回転させた後、エーテル溶媒としてメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)40mLを加え、1時間の撹拌を継続して混合した。続けて、真空下の乾燥(室温:60℃、乾燥時間:1時間)によりメチルtert-ブチルエーテル(MTBE)を除去して、粉末を得た。得られた粉末2.0gをグローブボックス中で、撹拌子を入れたテフロン(登録商標)容器の中にエチルベンゼン15.7g(粉砕処理物の比率:11.3質量%)と共に仕込んだ。テフロン(登録商標)容器を密閉し、金属製耐圧容器(HU-50、三愛科学株式会社製)の中に入れた。その後、200℃に上げたオイルバスに耐圧容器ごと入れて2時間程度撹拌・加熱した。加熱熱処理後、容器を冷却し、グローブボックス中で、スラリー状の熱処理物を100mlシュレンク瓶で回収した。グローブボックスからシュレンク瓶を取り出し、80℃で1時間減圧乾燥することで溶媒を留去して、粉末状の硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、0.5mS/cmであった。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図7に示す。
【0105】
(比較例1)
粉砕処理物に対して熱処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、0.02mS/cmであった。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図8に示す。
【0106】
(比較例2)
粉砕処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にして硫化物固体電解質を得た。
得られた硫化物固体電解質のイオン伝導度を測定したところ、イオン伝導度は、0.01mS/cmであった。
得られた硫化物固体電解質の粉末について、XRD測定を行った。その結果を図9に示す。
【0107】
【表1】
【0108】
上記のように実施例1~7で得られた硫化物固体電解質は、XRD測定において2θ=20°近傍にピークを有することからチオリシコンリージョンII型結晶構造を有するものであったことが確認でき、さらに、良好なリチウムイオン伝導度を有し、かつ粒径が小さいものであったことが確認できる。
これに対し、比較例1~2で得られた硫化物固体電解質は、XRD測定において2θ=20°近傍にピークを有するものではなく、チオリシコンリージョンII型結晶構造を有するものではない事が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本実施形態の硫化物固体電解質の製造方法によれば、良好なリチウムイオン伝導度と粒径を有する硫化物固体電解質を、生産効率に優れた方法により提供することができる。
本実施形態の製造方法により得られる、本実施形態の硫化物固体電解質は、電極合材、またリチウムイオン電池に、とりわけ、パソコン、ビデオカメラ、及び携帯電話等の情報関連機器や通信機器等に用いられるリチウムイオン電池に好適に用いられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9