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特開2023-177333ガラス、ガラスの製造方法、及びガラスを含む外装部材又は容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177333
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】ガラス、ガラスの製造方法、及びガラスを含む外装部材又は容器
(51)【国際特許分類】
   C03C 17/06 20060101AFI20231206BHJP
   C03B 8/02 20060101ALI20231206BHJP
【FI】
C03C17/06 Z
C03B8/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089751
(22)【出願日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2022088462
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】新規性喪失の例外適用申請有り
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、令和4年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 個人型研究(さきがけ)「ナノスケールの組成ゆらぎ設計による超低脆性ガラスの創製」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】篠崎 健二
(72)【発明者】
【氏名】劉 磊
【テーマコード(参考)】
4G014
4G059
【Fターム(参考)】
4G014AH01
4G059AA01
4G059AB03
4G059AC16
4G059DA05
4G059DA06
4G059DA09
4G059DB02
4G059DB04
(57)【要約】
【課題】高い硬度と高い靱性とを兼ね備えた、新規なガラスを提供する。
【解決手段】平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、ガラス。
【請求項2】
平均粒径が10nm以上のニッケル粒子、平均粒径が10nm以上のアルミニウム粒子、及び平均粒径が10nm以上のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
前記ニッケル粒子、前記アルミニウム粒子、又は前記インジウム粒子の含有率が、0.1体積%以上である、請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項4】
前記ニッケル粒子、前記アルミニウム粒子、又は前記インジウム粒子の含有率が、50体積%以下である、請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項5】
JIS Z 2244:2009の規定に準拠し、荷重0.98Nの条件で測定されるビッカース硬さが、6GPa以上である、請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項6】
JIS R 1607:2015の規定されたIF法に準拠し、荷重9.8Nの条件で測定される破壊靱性が、1.0MPam1/2以上である、請求項1又は2に記載のガラス。
【請求項7】
ニッケル塩水溶液、アルミニウム塩水溶液、及びインジウム塩水溶液からなる群より選択される少なくとも1種と、ガラスナノ粒子とを混合して混合溶液を調製する工程と、
前記混合溶液を乾燥させて粉末を得る工程と、
前記粉末を600℃以上1000℃以下の温度環境で加熱する工程と、
前記加熱後の粉末を焼結させてガラスを製造する工程と、
を備える、ガラスの製造方法。
【請求項8】
ニッケル、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選択される少なくとも1種のナノ粒子とガラスナノ粒子を混合し、焼成する工程を備える、ガラスの製造方法。
【請求項9】
ニッケル塩水溶液、アルミニウム塩水溶液、及びインジウム塩溶液からなる群より選択される少なくとも1種に多孔構造を有するガラスを浸漬し、乾燥させ、焼成する工程を備える、ガラスの製造方法。
【請求項10】
スパッタ法によりニッケル、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選択される少なくとも1種によりガラス粒子をコーティングする工程と、
前記工程で得られた粉末を焼結させてガラスを製造する工程を備える、ガラスの製造方法。
【請求項11】
請求項1又は2記載のガラスが表面層に形成された、積層ガラス。
【請求項12】
請求項1又は2に記載のガラスを含む、外装部材。
【請求項13】
請求項1又は2に記載のガラスを含む容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス、ガラスの製造方法、及びガラスを含む外装部材又は容器に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスは、例えばスマートフォンのカバー、窓、ディスプレイ、食器、機器の封着など、幅広い分野で使用されている。しかしながら、ガラスは、いずれの用途においても、その脆性に起因する割れが問題視されている。
【0003】
ガラスの強度を高めて割れにくくした、強化ガラスが知られている。ガラスを割れにくくするための強化手法として、風冷強化などの物理強化法、化学強化法(特許文献1参照)、結晶化法(特許文献2参照)が提案されている。
【0004】
例えば風冷強化法では、ガラスを軟化点近傍に加熱した後に空冷することで、表面に圧縮応力を残留させている。また、化学強化法では、例えばガラスを溶融塩に浸漬し、ナトリウムイオンとカリウムイオンをイオン交換させることで表面に圧縮応力層を作製している。また、結晶化法では、ガラス中に結晶や金属を析出させコンポジットを形成して高強度化を図っている。
【0005】
物理強化法や化学強化法では、ガラスの表面近傍に残留圧縮応力層を形成することによって、亀裂を進展させる開口応力を打ち消し、ガラスが破壊されにくくしている。これらの強化法では、ガラス内部に引張応力が残存するため、一度亀裂が残留引張応力層に到達すると、この引張応力によってガラスが自発的に破壊されるという欠点がある。また、ガラス内部に引張応力が残留しているため、強化後のガラスの加工が困難になる。また、封着ガラスなどの用途で用いられるガラスを融着させるプロセスでは均一な応力分布の制御が難しいという欠点もある。
【0006】
一方、結晶化法では、結晶や金属とのコンポジットを形成してガラスの強化を図るため、高強度でありながら透明なガラスを得ることが困難という欠点がある。また、ガラスを再加熱することで結晶化させるため、プロセスが煩雑になるという欠点もある。さらに、異材と接合させた場合、再加熱により接合された材料が劣化する場合もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2018-104285号公報
【特許文献2】特開2017-071545号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ガラス工学ハンドブック、朝倉書店、編集:山根 正之ら、ISBN-10: 4254252382、ページ189-194 (1999/7/1出版)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、高い硬度と高い靱性とを兼ね備えた、新規なガラスを提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該ガラスの製造方法及び当該ガラスを利用した外装部材又は容器を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、ガラス中に所定サイズのニッケル粒子、アルミニウム粒子及びインジウム粒子の少なくとも1種を存在させると、ガラスの硬度と靱性とが高められることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、ガラス。
項2. 平均粒径が10nm以上のニッケル粒子、平均粒径が10nm以上のアルミニウム粒子、及び平均粒径が10nm以上のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む、項1に記載のガラス。
項3. 前記ニッケル粒子、前記アルミニウム粒子、又は前記インジウム粒子の含有率が、0.1体積%以上である、項1又は2に記載のガラス。
項4. 前記ニッケル粒子、前記アルミニウム粒子、又は前記インジウム粒子の含有率が、50体積%以下である、項1~3のいずれか1項に記載のガラス。
項5. JIS Z 2244:2009の規定に準拠し、荷重0.98Nの条件で測定されるビッカース硬さが、6GPa以上である、項1~4のいずれか1項に記載のガラス。
項6. JIS R 1607:2015の規定されたIF法に準拠し、荷重9.8Nの条件で測定される破壊靱性が、1.0MPam1/2以上である、項1~5のいずれか1項に記載のガラス。
項7. ニッケル塩水溶液、アルミニウム塩水溶液、及びインジウム塩水溶液からなる群より選択される少なくとも1種と、ガラスナノ粒子とを混合して混合溶液を調製する工程と、
前記混合溶液を乾燥させて粉末を得る工程と、
前記粉末を600℃以上1000℃以下の温度環境で加熱する工程と、
前記加熱後の粉末を焼結させてガラスを製造する工程と、
を備える、ガラスの製造方法。
項8. ニッケル、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選択される少なくとも1種のナノ粒子とガラスナノ粒子を混合し、焼成する工程を備える、ガラスの製造方法。
項9. ニッケル塩水溶液、アルミニウム塩水溶液、及びインジウム塩溶液からなる群より選択される少なくとも1種に多孔構造を有するガラスを浸漬し、乾燥させ、焼成する工程を備える、ガラスの製造方法。
項10. スパッタ法によりニッケル、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選択される少なくとも1種によりガラス粒子をコーティングする工程と、
前記工程で得られた粉末を焼結させてガラスを製造する工程を備える、ガラスの製造方法。
項11. 項1又は2記載のガラスが表面層に形成された、積層ガラス。
項12. 項1~6のいずれか1項に記載のガラスを含む、外装部材。
項13. 項1~6のいずれか1項に記載のガラスを含む容器。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、高い硬度と高い靱性とを兼ね備えた、新規なガラスを提供することができる。さらに、本発明によれば、当該ガラスの製造方法及び当該ガラスを利用した外装部材又は容器を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1及び実施例2で得られた各サンプルのXRD分析結果を示すグラフである。
図2】実施例1で得られたサンプル(SN-1000-SPS)のHAADF像とEDSマッピング像である。
図3】実施例2で得られたサンプル(SN-600-SPS)のTEM像と観察されたNi粒子の粒径(nm)と頻度(%)を示す図である。
図4】実施例1で得られたサンプル(SN-1000-SPS)のTEM像と観察されたNi粒子の粒径(nm)と頻度(%)を示す図である。
図5】実施例3のガラスにおける金属ニッケル含有量(体積%)と破壊靱性(MPam1/2)との関係を示すグラフである。
図6】実施例1,2,比較例2,3のガラス中の金属ニッケル粒径(nm)と破壊靭性の関係を示すグラフである。
図7】実施例6のサンプル合成に用いた表面ナノ多孔化したガラスの断面SEM像である。
図8】実施例6及び比較例6の亀裂発生確率と荷重との関係を示すグラフである。
図9】実施例7で得られたサンプルのXRDパターン(下から混合乾燥粉末、熱処理後、SPS焼結後のXRDパターン)である。
図10】実施例8で得られたサンプルのXRDパターン(下からスパッタ後の粉末、SPS焼結後のXRDパターン)である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のガラスは、平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含むことを特徴としている。本発明のガラスは、このような構成を備えることにより、高い硬度と高い靱性とを兼ね備えている。以下、本発明のガラス、当該ガラスの製造方法及び当該ガラスを利用した筐体について詳述する。
【0015】
なお、本明細書において、「~」で結ばれた数値は、「~」の前後の数値を下限値及び上限値として含む数値範囲を意味する。複数の下限値と複数の上限値が別個に記載されている場合、任意の下限値と上限値を選択し、「~」で結ぶことができるものとする。
【0016】
本発明のガラスは、平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含むガラスであればよいが、より具体的には、ケイ酸塩を主成分とするガラスであって、ニッケル粒子平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含むものであることが好ましい。また、ニッケル粒子、アルミニウム粒子、及びインジウム粒子の平均粒径は、それぞれ、5nm以上であることが好ましい。なお、主成分とは、ガラス中の含有率が50モル%以上である成分を意味しており、本発明のガラス中のケイ酸塩の含有率は、例えば、50モル%以上、60モル%以上、70モル%以上、80モル%以上、90モル%以上、99モル%以上などである。本発明のガラスは、例えば、ケイ酸塩を母材とし、さらに平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含むガラスということもできる。
【0017】
本発明のガラスは、好ましくは、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、カリガラス、アルミノケイ酸塩ガラスなどである。また、本発明のガラスは、低熱膨張結晶化ガラスなどの結晶相を析出した結晶化ガラスであってもよい。この場合、結晶化ガラス相をガラス相とみなす。例えば、本発明のガラスのガラス相が80体積%以上であって、平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種を含む。
【0018】
本発明の効果をより好適に発揮する観点から、ニッケル粒子、アルミニウム粒子、及びインジウム粒子の平均粒径は、それぞれ、好ましくは1000nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下であり、また、好ましくは10nm以上、より好ましくは30nm以上であり、好ましい範囲としては、30~300nmなどが挙げられる。ガラス中のニッケル粒子、アルミニウム粒子、及びインジウム粒子の平均粒径の具体的な測定方法は、実施例の記載による。
【0019】
本発明の効果をより好適に発揮する観点から、本発明のガラス中における、平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種の含有率(2種類以上の金属粒子を含む場合には合計含有率)は、好ましくは0.1体積%以上、より好ましくは0.15体積%以上、さらに好ましくは0.18体積%以上であり、また、好ましくは50体積%以下、より好ましくは33体積%以下、さらに好ましくは20体積%以下であり、好ましい範囲としては、0.1~33体積%、0.18~20体積%などが挙げられる。
【0020】
本発明の効果をより好適に発揮する観点から、本発明のガラスは、JIS Z 2244:2009の規定に準拠し、荷重0.98Nの条件で測定されるビッカース硬さが、好ましくは4GPa以上、より好ましくは5GPa以上、さらに好ましくは6GPa以上であり、上限については、例えば20GPa以下であり、好ましい範囲としては、4~20GPa、5~15GPaなどが挙げられる。ビッカース硬さの具体的な測定方法は、実施例の記載による。本発明において、このビッカース硬さの値を硬度の指標とする。
【0021】
また、本発明の効果をより好適に発揮する観点から、本発明のガラスは、JIS R 1607:2015の規定されたIF法に準拠し、荷重9.8Nの条件で測定される破壊靱性が、好ましくは0.75MPam1/2以上、より好ましくは0.9MPam1/2以上、さらに好ましくは1.0MPam1/2以上であり、上限については、例えば10.0MPam1/2以下であり、好ましい範囲としては、0.75~10.0MPam1/2、0.9~8.0MPam1/2などが挙げられる。破壊靱性の具体的な測定方法は、実施例の記載による。
【0022】
本発明のガラスは、高い硬度と高い靱性とを兼ね備えており、またガラスならではの耐候性と光沢や手触りのから、各種の外装部材として好適に利用することができる。外装部材の具体的な用途としては、例えば、スマートフォンやPCのカバー、ディスプレイ、ケース、車のダッシュボード、家具の全面パネルなどが特に好適である。
【0023】
本発明のガラスは、高い硬度と高い靱性とを兼ね備えており、高い靭性により微細加工にも優れること、ガラス本来の高い化学的耐久性を備えること、金属粒子の光吸収による遮光性を備えることから、各種の容器として好適に利用することができる。容器の具体的な形態としては、ビン、リアクター容器などが特に好適である。
【0024】
従来の強化ガラスにおいて、成形後に強化させたものは、その後に加熱して再成形することはできない。一方、本発明のガラスは、加熱溶融させることで成形できるという利点も有している。すなわち、本発明のガラスは、加熱溶融による成形も可能である。
【0025】
従来の強化ガラスにおいて、イオン交換による強化可能なあるカリ含有ガラスに限定される。一方、本発明のガラスは、石英ガラスや無アルカリガラスなどどのようなガラスにおいても適応可能性がある。アルカリを含有しないためアルカリ溶出がなく、化学反応容器としても好適である。
【0026】
また、例えば、論文:On the viscosity of glass composites containing rigid inclusions (Materials Letters, Volume 34, Issues 3-6 March 1998, Pages 285-289)から分かるように、ガラス中の添加物量が十分少なければ、ガラスの粘性への影響が小さいことが知られている。ガラスは加熱して粘性を下げた状態で成形加工するため、粘性への影響が小さいことから再加工性を損なわないことが分かる。本発明のガラスは、添加量が少なくてもガラスの破壊靭性を高めることが可能であることから、好適に再成形し得る。
【0027】
また、本発明は、本発明のガラスが表面層に形成された積層ガラスを提供することもできる。すなわち、本発明の積層ガラスは、本発明のガラスにより形成された表面層と、基材ガラス層とを備える。基材ガラスは、例えば、石英ガラス、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸ガラス、カリガラス、アルミノケイ酸塩ガラスなどにより形成することができる。
【0028】
本発明の積層ガラスにおいて、表面層の厚みは、例えば0.1μm以上10μm以下程度、好ましくは0.5μm以上5μm以下程度である。
【0029】
本発明のガラスの製造方法は、平均粒径が1μm以下のニッケル粒子、平均粒径が1μm以下のアルミニウム粒子、及び平均粒径が1μm以下のインジウム粒子からなる群より選択される少なくとも1種をガラス中に含ませることができるものであれば、特に制限されない。本発明のガラスの好ましい製造方法の一例を以下に示す。
【0030】
本発明のガラスの製造方法は、以下の工程を順に備えること(製造方法1)が好ましい。
(製造方法1)
ニッケル塩水溶液、アルミニウム塩水溶液、及びインジウム塩水溶液からなる群より選択される少なくとも1種と、ガラスナノ粒子とを混合して混合溶液を調製する工程
前記混合溶液を乾燥させて粉末を得る工程
前記粉末を600℃以上1400℃以下の温度環境で加熱する工程
前記加熱後の粉末を焼結させてガラスを製造する工程
【0031】
ニッケル塩水溶液とガラスナノ粒子とを混合して混合溶液を調製する工程において、ニッケル塩水溶液としては、後の工程にて、ガラス中にニッケル粒子を析出させることができるものであれば、特に制限されないが、好ましくは、Ni(NO32、NiCl2、それらの水和物などが挙げられる。当該工程において用いるニッケル塩水溶液は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。また、アルミニウム塩水溶液とガラスナノ粒子とを混合して混合溶液を調製する工程において、アルミニウム塩水溶液としては、後の工程にて、ガラス中にアルミニウム粒子を析出させることができるものであれば、特に制限されないが、好ましくは、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどが挙げられる。当該工程において用いるアルミニウム塩水溶液は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。また、インジウム塩水溶液とガラスナノ粒子とを混合して混合溶液を調製する工程において、インジウム塩水溶液としては、後の工程にて、ガラス中にインジウム粒子を析出させることができるものであれば、特に制限されないが、好ましくは、塩化インジウム、硝酸インジウムなどが挙げられる。当該工程において用いるインジウム塩水溶液は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
出発物質とするニッケル化合物、アルミニウム化合物、及びインジウム化合物と、ガラスナノ粒子の割合は、本発明のガラス中に含ませるニッケル粒子、アルミニウム粒子、及びインジウム粒子の含有率に応じて適宜調整する。
【0032】
また、ガラスナノ粒子としては、後の工程にて、ガラス中にニッケル粒子、アルミニウム粒子、又はインジウム粒子を析出させることができるものであれば、特に制限されないが、好ましくは、SiO2ナノ粒子、ソーダ石灰ガラス、ホウケイ酸塩ガラス、アルミノケイ酸塩ガラス、低熱膨張結晶化ガラスなどが挙げられる。当該工程において用いるガラスナノ粒子は、1種類のみであってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0033】
ガラスナノ粒子の平均粒径としては、例えば5~1000nm程度が挙げられる。ガラスナノ粒子としては、公知のものが使用でき、例えば市販品を使用することができる。
【0034】
混合溶液を調製する工程では、ニッケル塩水溶液、アルミニウム塩水溶液、及びインジウム塩水溶液からなる群より選択される少なくとも1種と、ガラスナノ粒子とが均一に混合されるようにして混合することが好ましく、混合温度は例えば70~90℃程度、混合時間は例えば1~72時間とすることが好ましい。
【0035】
次に、得られた混合溶液を乾燥させて粉末を得る工程(乾燥工程)を行う。混合溶液から水分が除去された粉末が得られれば、乾燥条件については特に制限されず、例えば乾燥温度は例えば90~120℃程度、乾燥時間は例えば1~72時間とすることができる。
【0036】
なお、本発明のガラスの製造方法においては、得ようとするガラスの種類に応じて、他の成分を混合することができる。例えば、ソーダ石灰ガラスを得る場合には、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどを混合することができる。また、ホウケイ酸ガラスを得る場合には、ホウ酸、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウムなどを混合することができる。カリガラスを得る場合には、炭酸カリウム、炭酸カルシウムなどを混合することができる。また、バルク状のガラスをボールミルなどにより1000nm以下の平均粒径に微粉砕してもよい。
【0037】
次に、得られた粉末を600℃以上1000℃以下の温度環境で加熱する工程(加熱工程)を行う。加熱工程における加熱温度としては、好ましくは200~1200℃程度、より好ましくは600~1000℃程度が挙げられる。また、加熱時間としては、好ましくは1~12時間程度、より好ましくは1~3時間程度が挙げられる。加熱工程は、粉末が焼結してガラスに変化しない程度の加熱条件とする。加熱環境は、不活性ガス中または還元雰囲気中であることが望ましい。
【0038】
次に、加熱後の粉末を焼結させてガラスを製造する工程を行う。焼結温度は、好ましくは500~1200℃程度、より好ましくは600~1100℃程度が挙げられる。また、焼結時間としては、好ましくは1~300分程度、より好ましくは5~20分程度が挙げられる。焼結環境は、真空中(3Pa以下)または不活性ガス中であることが望ましい。
【0039】
また、本発明のガラスは、以下の製造方法2、製造方法3、又は製造方法4によって製造することもできる。
【0040】
(製造方法2)
ニッケル、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選択される少なくとも1種のナノ粒子とガラスナノ粒子を混合し、焼成する工程を備える、ガラスの製造方法。
【0041】
製造方法2において、ニッケル、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選択される少なくとも1種のナノ粒子が使用できる。ガラスナノ粒子は、製造方法1と同様である。焼成温度は、好ましくは400~1500℃程度、より好ましくは600~1200℃程度が挙げられる。また、焼成時間としては、好ましくは5~60分程度、より好ましくは20~40分程度が挙げられる。焼成環境は、真空中(10Pa以下)または不活性ガス中であることが望ましい。
【0042】
(製造方法3)
ニッケル塩水溶液、アルミニウム塩水溶液、及びインジウム塩溶液からなる群より選択される少なくとも1種に多孔構造を有するガラスを浸漬し、乾燥させ、焼成する工程を備える、ガラスの製造方法。
【0043】
製造方法3において、ニッケル塩水溶液、アルミニウム塩水溶液、及びインジウム塩溶液については、製造方法1と同様である。多孔構造を有するガラスとしては、公知のものが使用でき、例えば、Corning社Vycor 7930に代表されるナノ多孔を有するガラスや、特開2013-189351号公報(P2013-189351A)記載の表面網目構造体などが挙げられる。乾燥条件については特に制限されず、例えば乾燥温度は例えば90~120℃程度、乾燥時間は例えば1~72時間とすることができる。焼成温度は、好ましくは40~120℃程度、より好ましくは80~100℃程度が挙げられる。また、焼成時間としては、好ましくは1~120分程度、より好ましくは5~30分程度が挙げられる。焼成環境は、真空中(10Pa以下)または不活性ガス中または還元雰囲気下であることが望ましい。
【0044】
(製造方法4)
スパッタ法などによりニッケル、アルミニウム、及びインジウムからなる群より選択される少なくとも1種によりガラス粒子をコーティングする工程と、
前記工程で得られた粉末を焼結させてガラスを製造する工程を備える、ガラスの製造方法。
【0045】
製造方法4において、スパッタ法については、公知の方法が採用できる。ターゲット材料としては、アルミニウム、ニッケル、インジウムなどが挙げられる。ガラス粒子としては、公知のものが使用でき、例えば、気相法(ヒュームドシリカなど)、液相法(ゾルゲルシリカ)、バルクガラスの微粉砕などにより得られるガラス粒子が挙げられる。焼結温度及び焼結環境は、製造方法1と同様である。
【実施例0046】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0047】
(実施例1,2)
<ガラスの製造>
0.5gのNi(NO32・6H2Oを20mLの水に溶解してニッケル塩水溶液を得た。得られたニッケル塩水溶液に、5gの親水性のSiO2ナノ粒子(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL(R)50、比表面積50m2/g、平均粒径約40nm)を加え、70℃で3日間攪拌した。その後、90℃のオーブンで1日乾燥させて粉末を得た。得られた粉末をよく混合し、環状炉で3vol%H2-97vol%Arガス雰囲気で600℃(実施例1)、または1000℃(実施例2)で1時間加熱し、それぞれ、加熱後の粉末(実施例1の粉末サンプル:SN-600と、実施例2の粉末サンプル:SN-1000)を得た。次に、得られた加熱後の粉末を、それぞれ、黒鉛製の内径10mmのダイセット金型(富士電波工機製、HP-01とHD-01)に0.2g詰めた。次に、ダイセットを放電プラズマ焼結装置(富士電波工機製、212Lx)で真空中(3Pa以下)、室温(25℃)から昇温速度100℃/分で1100℃まで昇温し、1100℃で20分間保持して粉末を焼結させた。次に、冷却速度100℃/分で室温(25℃)まで冷却し、ダイセット金型から取り出すことでガラスサンプル(実施例1のガラスサンプル:SN-600-SPSと、実施例2のガラスサンプル:SN-1000-SPS)を得た。なお、得られたガラスサンプルは、それぞれ研磨し、コロイダルシリカにより鏡面仕上げを行ってから、後述する測定試料とした。
【0048】
(比較例1)
ニッケル塩水溶液を用いないこと以外は、実施例2と同様にして、ガラスサンプル(石英ガラス:SiO2)を製造した。
【0049】
<各サンプルのXRD分析>
上記で得られた各サンプル(実施例1の粉末サンプル:SN-600、実施例1のガラスサンプル:SN-600-SPS、実施例2の粉末サンプル:SN-1000、実施例2のガラスサンプル:SN-1000-SPS)について、X線回折法による分析(XRD分析)を行った。結晶の存在確認及び評価には、粉末エックス線回折(XRD;UltimaIV,Rigaku)を用いた。線源はCu-Kαを用い、0.01(2θ)のステップで10°から80°まで測定した。得られたグラフを図1に示す。図1のグラフに示すように、各サンプルには立方晶の金属ニッケル粒子が含まれていることが分かる。
【0050】
<HAADF像とEDSマッピング像の取得>
上記で得られた実施例2のガラスサンプル:SN-1000-SPS)について、HAADF-STEM像(高角散乱環状暗視野走査透過顕微鏡法)及びSEMによるEDS元素マッピング像を取得した。図2に示すように、得られた各像から、ガラスサンプル中にNiナノ粒子が析出していることが分かる。また、Niイオンはガラス相中に存在せず、全て金属ニッケルとして析出したことが分かる。実施例及び比較例において、析出物のサイズはFIBにより薄片化したサンプルを200kVの走査透過電子顕微鏡(JEM-ARM200F,JEOL,Japan)のHAADFモードにより評価し、500粒子のサイズを平均することで、ガラスサンプル中のニッケル粒子の平均粒径を求めた。実施例1のガラスサンプル:SN-600-SPSに含まれるニッケル粒子の平均粒径は約119nm、実施例2のガラスサンプル:SN-1000-SPSに含まれるニッケル粒子の平均粒径は約30nmであった。
【0051】
<体積分率の計算>
上記のようにすべてのニッケルイオンは金属ニッケルとして析出するから、体積分率は以下の式から計算できる。
【数1】
ここで、
【数2】
である。dNiは立方晶金属ニッケルの密度、dGlassはガラス相の密度、MWNiはニッケルの原子量、MWNipreは原料に用いたニッケル化合物の分子量、WNipreは原料に用いたニッケル化合物の質量、MWGlassはガラスの分子量、MWGlasspreは原料に用いたガラスの分子量、MWGlasspreは原料に用いたガラスの質量である。例えば実施例1ではニッケルの密度8.908g/cm3、ガラスの密度2.21g/cm3、ニッケルの原子量58.6939g/atom、ニッケル化合物としてNi(NO32・6H2Oの分子量290.79g/mol、ガラス相及び原料に用いたガラスの分子量60.08g/molとすることで0.5体積パーセントの体積分率の金属ニッケルが析出していることが求められる。
【0052】
<TEM像の取得>
上記で得られた実施例1のガラスサンプル:SN-600-SPS、実施例2のガラスサンプル:SN-1000-SPSについて、それぞれ、透過型電子顕微鏡をもちいてTEM像を取得した。図3,4に、それぞれ、得られたTEM像と、観察されたNi粒子の粒径(nm)と頻度(%)を示す。
【0053】
<ビッカース硬さの測定>
実施例1,2及び比較例1のガラスサンプルについて、それぞれ、JIS Z 2244:2009の規定に準拠し、荷重0.98Nの条件でビッカース硬さを測定した。各サンプルについて10回の測定を行い、平均値をビッカース硬さとして採用した。結果を表1に示す。
【0054】
<破壊靱性の測定>
実施例1,2及び比較例1のガラスサンプルについて、それぞれ、JIS R 1607:2015の規定されたIF法に準拠し、荷重9.8Nの条件で破壊靱性を測定した。各サンプルについて10回の測定を行い、平均値を破壊靱性として採用した。結果を表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1,2のガラスは、平均粒径が1μm以下のニッケル粒子を含んでおり、含まないものと同等の硬さと高い靱性とを兼ね備えていた。
【0057】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で、ニッケル化合物の量だけを変えることで析出する金属ニッケルの体積分率を0.1体積パーセント、0.5体積パーセント、5.0体積パーセント、9.7体積パーセント、18.4体積パーセント、33.6体積パーセントのサンプルをそれぞれ作製した。なお、0.5体積パーセントのサンプルは上記実施例1のサンプルと同一である。上記の方法で破壊靭性を計測した結果を図5のグラフに示す。図5のグラフから明らかなとおり、0.1体積パーセント以上の含有量で破壊靭性は向上し、特に0.5体積パーセント以上の含有量で破壊靭性は大幅に向上したことがわかる。破壊靭性値は33.6体積パーセントでは破壊靭性が減少に転じたことから、これ以下の含有量がさらに好ましいことが分かる。
【0058】
(比較例2)
<ガラスの製造>
金属ニッケル粉末(150μm、富士フイルム和光純薬製)を20mLの水に分散した溶液に、5gの親水性のSiO2ナノ粒子(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL(R)50、比表面積50m2/g、平均粒径約40nm)を加えた。その後の操作は実施例1と同一である。
【0059】
(比較例3)
<ガラスの製造>
金属ニッケル粉末(2.2μm、Alfa Aesar製)を20mLの水に分散した溶液に、5gの親水性のSiO2ナノ粒子(日本アエロジル株式会社製、AEROSIL(R)50、比表面積50m2/g、平均粒径約40nm)を加えた。その後の操作は実施例1と同一である。
【0060】
実施例1,2,比較例2,3は、ガラスに含まれる金属ニッケルの量は同一であり、金属ニッケル粒径(nm)が異なる。ガラス中の金属ニッケル粒径(nm)と破壊靭性の関係を図6にプロットした。ガラス中の金属ニッケル粒径が1μm以下のとき効果があり、さらに10nm以上のとき特に効果が高いことが分かる。
【0061】
(実施例4)
<ガラス粉末原料の作製>
市販のソーダ石灰ガラスビーズ(ユニチカ製、SPL-30)を3次元ボールミル(ナガオシステム製3DB-80)で水平軸300rpm、垂直軸300rpmで1時間粉砕して第1のガラス粉末および第2のガラス粉末とした。得られた粉末を走査電子顕微鏡にて観察した結果、いずれのガラス粉末も粒径は100~200nmであった。
【0062】
この粉砕したソーダ石灰ガラス粉末をガラス相として用い、焼結温度を580℃にする以外は実施例1と同一の操作でガラスを作製した。
【0063】
(比較例4)
実施例6と同じソーダ石灰ガラス粉末をガラス相として用い、焼結温度を580℃にする以外は比較例1と同一の操作でガラスを作製した。
【0064】
(実施例5)
<ガラス粉末原料の作製>
市販のホウケイ酸ガラスビーズ(ユニチカ製、MB-30)を3次元ボールミル(ナガオシステム製3DB-80)で水平軸300rpm、垂直軸300rpmで1時間粉砕して第1のガラス粉末および第2のガラス粉末とした。得られた粉末を走査電子顕微鏡にて観察した結果、いずれのガラス粉末も粒径は100~200nmであった。
【0065】
この粉砕したホウケイ酸ガラス粉末をガラス相として用い、焼結温度を650℃にする以外は実施例1と同一の操作でガラスを作製した。
【0066】
(比較例5)
実施例7と同じホウケイ酸ガラス粉末をガラス相として用い、焼結温度を650℃にする以外は比較例1と同一の操作でガラスを作製した。
【0067】
実施例4,5,比較例4,5について実施例1と同様の評価を行った結果を表2に示す。ソーダ石灰ガラスやホウケイ酸塩ガラスでも石英ガラスと同様に大幅な破壊靭性向上の効果が得られることがわかる。
【0068】
【表2】
【0069】
(比較例6)
81SiO2-13B23-2Al23-3Na2O-1K2O(mol%)の組成のガラスを用意した。
【0070】
(実施例6)
81SiO2-13B23-2Al23-3Na2O-1K2O(mol%)の組成のガラスを0.5M-NaHCO3水溶液に入れ、オートクレープ中120℃で24時間酸処理した。得られたガラスは、ガラスの表面をナノ多孔質構造とし、金属粒子の前駆体溶液を含浸することで、図7に示されるように、ガラス表面から1.5μmの領域で多孔質化したガラスである。硝酸ニッケル六水和物(99.9%、関東科学)を水に溶解させ、1M-Ni(NO32水溶液を調整した。この水溶液に多孔質ガラスを浸漬し、60℃で1日保持し乾燥したものを3%-H2/Ar雰囲気下で600℃で熱処理することでこのガラスの細孔をテンプレートとして、表面近傍の多孔内部にニッケルナノ粒子を析出させた。
【0071】
[亀裂発生確率]
以下の手順にて、実施例6及び比較例6で得られたガラスの亀裂発生確率を測定した。種々の荷重でビッカース試験を行い、ビッカース圧痕の4隅全部から明確な亀裂が発生する場合の亀裂発生確率を100%として、各隅から亀裂が発生する確率を計測した。例えば、亀裂が2隅から発生すれば50%である。この計測を20回行い、平均を求めた。
【0072】
図8に示す亀裂発生確率の結果を見ると、ニッケルナノ粒子を析出させた実施例6のガラス(図8のグラフ中の記号は白丸)は、比較例6のガラス(81SiO2-13B23-2Al23-3Na2O-1K2O(mol%)の処理前のガラス 図8のグラフ中の記号は黒丸)よりも、亀裂発生確率が低い。実施例6において、亀裂が発生しなかったときの4.9Nのときの圧痕の対角線長さは50.3μmであった。圧痕の深さは対角線長さdに対して、0.143dで与えられるので、圧痕の深さは7.15μmである。すなわち、金属析出領域の厚さ1.5μmに比べ4.8倍の深さまで傷が到達しているにもかかわらず、亀裂の発生を抑制することが分かる。すなわち、内部では金属粒子を含まないガラスのままであっても、表面近傍にだけ金属ナノ粒子が析出するだけでも析出領域を超える深さのキズに対してまで亀裂発生を抑制できることが分かる。また、上記の方法で破壊靭性を計測した結果、比較例6において0.87MPa・m1/2を示したのに対し、実施例6において2.77MPa・m1/2を示した。比較例の未処理のガラスに比べて破壊靭性は大幅に向上したことがわかる。すなわち、内部では金属粒子を含まないガラスのままであっても、表面近傍にだけ金属ナノ粒子が析出するだけでも破壊靭性が向上することが分かる。
【0073】
(実施例7)
実施例7では、実施例1と同様の方法で、ガラス中に分散析出させる金属ナノ粒子をインジウムとした。20mLの水にInCl3・4H2O(富士フィルム和光純薬株式会社、99.9%)を溶解して、塩化インジウム塩水溶液を得た。1.0体積パーセントのインジウム析出サンプルをそれぞれ作製した。得られたサンプルのXRDパターンを図9に示す(図9において、下から混合乾燥粉末、熱処理後、SPS焼結後のXRDパターンである。)。焼結前はピークがなく結晶性の低いナノサイズのインジウム化合物が示唆されるが、焼結後、インジウムが析出したことが分かる。また、シェラー式から求めた粒子径は120nmであった。上記の方法で破壊靭性を計測した結果、2.66MPa・m1/2を示し、SiO2ガラスに比べて破壊靭性は大幅に向上したことがわかる。インジウムナノ粒子も好適に破壊靭性を向上させることがわかる。
【0074】
(実施例8)
SiO2ナノ粒子(シーホスターKE-P10)1.0gを、揺動攪拌機構を備えたスパッタ装置(E-1030 日立イオンスパッターを改造)でAlターゲットをもちいて2分間Arスパッタを行った。試料にエタノールを加え自動乳鉢で30分混合させ、1時間以上乾燥させ、SPS焼結を行った。得られたサンプルのXRDパターンを図10に示す(図10において、下からスパッタ後の粉末、SPS焼結後のXRDパターンである。)。焼結前はピークがなく結晶性の低いナノサイズのアルミニウムとして存在していることが示唆されるが、焼結後、Alが析出したことが分かる。また、シェラー式から求めた粒子径は200nmであった。上記の方法で破壊靭性を計測した結果、2.28MPa・m1/2を示し、SiO2ガラスに比べて破壊靭性は大幅に向上したことがわかる。アルミニウムナノ粒子も好適に破壊靭性を向上させることがわかる。
図1
図2
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図10