(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177340
(43)【公開日】2023-12-13
(54)【発明の名称】排水予測計画作成システム、排水処理方法及び排水処理システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20231206BHJP
C02F 3/12 20230101ALI20231206BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20231206BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20231206BHJP
【FI】
C02F1/00 S
C02F3/12 B
C02F3/28 Z
G06Q50/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090104
(22)【出願日】2023-05-31
(31)【優先権主張番号】P 2022089715
(32)【優先日】2022-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】西村 総介
(72)【発明者】
【氏名】小野 雄壱
(72)【発明者】
【氏名】大月 孝之
【テーマコード(参考)】
4D028
4D040
5L049
【Fターム(参考)】
4D028BC18
4D028BD01
4D028BD11
4D028CA01
4D028CE03
4D040AA01
4D040AA31
4D040AA61
5L049CC03
(57)【要約】
【課題】排水原水槽における負荷量の推移を予測し、製造工程排水の排出の予測計画を作成することができる排水予測計画作成システムを提供する。
【解決手段】製造工程排水の排水予測計画作成システムは、CIP(Cleaning
In Place)排水を含む製造工程排水の発生パターンが製造品目の属性に基づいて分類され、個々の発生パターン分類に対応する予測負荷量に関する情報を記録媒体に登録し、個々の発生パターン分類において発生する製造工程排水が、排水路を経由して原水槽に流入する時の原水槽入口における負荷量の推移を予測する計算式を記録媒体に登録し、製造設備から個々に発生する製造工程排水毎に、前記発生パターン分類及び開始日時を対応付けた排水計画を作成する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
CIP(Cleaning In Place)排水を含む製造工程排水の発生パターンが製造品目の属性に基づいて分類され、個々の発生パターン分類に対応する予測負荷量に関する情報を記録媒体に登録し、
個々の発生パターン分類において発生する製造工程排水が、排水路を経由して原水槽に流入する時の原水槽入口における負荷量の推移を予測する計算式を記録媒体に登録し、
製造設備から個々に発生する製造工程排水毎に、前記発生パターン分類及び開始日時を対応付けた排水計画を作成する、製造工程排水の排水予測計画作成システム。
【請求項2】
前記計算式から求まる前記原水槽への流入予測と、前記原水槽からの吐出水量の計画に基づいて、前記原水槽の貯水量と前記原水槽内の排水濃度の推移を予測する、請求項1に記載の排水予測計画作成システム。
【請求項3】
請求項1に記載の排水予測計画作成システムが前記計算式から求めた原水槽への流入の予測負荷量に基づき排水流路を切り替え、
流入の予測負荷量が所定値以上の場合は排水を第1原水槽に貯留し、流入の予測負荷量が前記所定値未満の場合は排水を第2原水槽に貯留する流入振り分けを行い、
前記第1原水槽から送水する第1の排水処理設備は前記第2原水槽から送水する第2の排水処理設備に対して相対的に経済上または環境負荷低減上の利点を有することを特徴とする排水処理方法。
【請求項4】
請求項3に記載の排水処理方法において、前記原水槽への流入の予測負荷量が流入BOD負荷の予測値であり、前記第1の排水処理設備が嫌気処理設備であることを特徴とする排水処理方法。
【請求項5】
請求項3又は請求項4に記載の排水処理方法において、第1の排水処理設備への送水量の目標値を設定し、目標の条件を満たさない場合、以下のいずれかの排水計画の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
・製造工程排水の発生日時の変更を促す表示を行う
・CIP工程の開始を制止する
・CIP工程の開始を自動的に変更設定する
【請求項6】
原水槽からの吐出水を排水処理設備で処理する排水処理方法であって、前記排水処理設備の処理能力情報を設定し、請求項1に記載の排水予測計画作成システムが前記計算式から求めた原水槽への流入の予測負荷量に基づいて、前記排水処理設備の処理能力情報を超えないように、前記原水槽からの吐出水量の計画を修正することを特徴とする排水処理方法。
【請求項7】
請求項6に記載の排水処理方法において、前記処理能力情報が予測負荷量の増加速度であることを特徴とする排水処理方法。
【請求項8】
請求項6に記載の排水処理方法において、前記排水予測計画作成システムが前記計算式から求めた原水槽への流入の予測負荷量を参照して、前記排水処理設備の生物反応槽内の汚泥濃度とF/M比の予測値が処理能力情報の条件を満たすように、前記原水槽からの吐出水量の計画を修正することを特徴とする排水処理方法。
【請求項9】
請求項6に記載の排水処理方法において、前記排水予測計画作成システムが前記計算式から求めた原水槽への流入の予測負荷量を参照して、前記排水処理設備の生物反応槽内の汚泥保持量を、処理能力情報の条件を満たすように維持するように余剰汚泥の引抜き量の計画を決定することを特徴とする排水処理方法。
【請求項10】
請求項6~8のいずれかに記載の排水処理方法において、前記原水槽が複数であり、ある原水槽からの吐出水量の計画の修正を所定回数行っても処理能力情報の条件を満たさない場合、原水槽への排水の流入振り分け条件の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
【請求項11】
請求項9に記載の排水処理方法において、前記原水槽が複数であり、ある処理設備の余剰汚泥の引抜き量の計画の修正を所定回数行っても生物反応槽の汚泥保持量が処理能力情報の条件を維持できない場合、原水槽への流入振り分け条件の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
【請求項12】
請求項6~8のいずれかに記載の排水処理方法において、ある排水処理設備への吐出水量の計画の修正を所定回数行っても処理能力情報の条件を満たさない場合、以下のいずれかの排水計画の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
・製造工程排水の発生日時の変更を促す表示を行う
・CIP工程の開始を制止する
・CIP工程の開始を自動的に変更設定する
【請求項13】
請求項9に記載の排水処理方法において、ある排水処理設備の余剰汚泥の引抜き量の計画の修正を所定回数行っても生物反応槽の汚泥保持量が処理能力情報の条件を維持できない場合、以下のいずれかの排水計画の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
・製造工程排水の発生日時の変更を促す表示を行う
・CIP工程の開始を制止する
・CIP工程の開始を自動的に変更設定する
【請求項14】
請求項10に記載の排水処理方法において、前記原水槽への流入振り分け条件の修正を所定回数行っても目的の条件を満たさない場合、以下のいずれかの排水計画の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
・製造工程排水の発生日時の変更を促す表示を行う
・CIP工程の開始を制止する
・CIP工程の開始を自動的に変更設定する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲料、食品、発酵品、化学品などの製造工程から回分的に発生する排水(CIP排水)の排出タイミングと、排水処理の運転操作及び処理能力に関する情報とを連携させて、排水処理における運転コストや環境負荷、故障リスク等を改善する排水予測計画作成システム、排水処理方法及び排水処理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
飲料、食品、発酵品、化学品などの製造工程からの排水は、製造設備を洗浄する時に回分的に発生することが多い。以下では、そのような洗浄排水と、製造工程で不要となった糖液など原材料成分の排水路への回分的な排水とを合わせて、「CIP排水」と呼ぶ。CIPは、原位置洗浄(Cleaning In Place)を意味する。
【0003】
CIP排水のうち、汚濁成分が希薄なものは、工場内で分別され再利用されることがある。一方、工場内で再利用できない部分は、排水管を通して排水処理設備に送られ、汚濁物質を分解、無害化、あるいは分離除去した後に、工場外に放流されたり、排水再生利用の原水とされたりする。
【0004】
排水処理場においてCIP排水を浄化処理する際に、処理設備に固有の能力上限値が設定されることが多い。例えば、沈殿槽やろ過器においては、適切な処理を行うための線速度(LV)が設定される。同様に、活性炭処理や触媒処理では、空間速度(SV)が設定される。また、生物処理では、質量負荷速度(反応槽単位容量当たりの時間当たりに処理する対象物質の質量)の上限が設定されることが多い。これらの速度の制約を守るために、処理する排水について、それぞれの処理設備に固有の最大流量と濃度範囲が設定される。
【0005】
CIP排水は、製造工程の都合を優先したタイミングで排出されることが多く、従来はCIP排水の流量と濃度の時間変動を、排水処理場の原水槽(調整槽とも呼ばれる)で均一化してから、処理設備の能力上限値を守って処理することが行われてきた。流入する時間変動が大きい場合、原水槽を大きく作る必要があるが、用地の制約や建設費用の制約により困難なことがあった。
【0006】
比較的高濃度の排水を得意として高い省エネルギー性能を発揮する嫌気処理のような処理設備が知られている。このような処理設備を、大容量の原水槽に排水原水を大量に貯留してから処理する手法に適用した場合、原水槽に貯留した排水が薄まってしまい、処理設備を十分に活用できないことがあった。
【0007】
複数の原水槽を設けて、濃厚排水と希薄排水を分けて貯留できるようにし、排水濃度を随時測定して振り分けることも考えられるが、排水濃度の測定器が高価であったり、測定器の閉塞や誤動作を防止するための維持管理に手間がかかったりすることが多かった。また、製造工程で排出される排水を受動的に濃度測定するに留まり、排水処理の効率化を意図して排水の負荷量とタイミングに関わる製造工程のスケジュールを調整する機能を持つシステムは、これまで見出されていない。
【0008】
微生物の働きを利用した排水処理設備では、排水処理に必要な微生物量を維持管理することが重要である。例えば、標準活性汚泥法では、流入排水のBOD(生物化学的酸素要求量)負荷量と、曝気槽の汚泥保持量との比率(F/M比、または汚泥負荷)が指標として用いられる。
【0009】
F/M比が高すぎると、処理水質の悪化や活性汚泥の沈降性悪化の原因となる。一方、F/M比が低すぎると、余剰な汚泥がもたらす悪影響がある。F/M比を適正に維持するために、BOD負荷量と汚泥保持量の両方を管理することが行われる。汚泥保持量は曝気槽容量(m3)にMLSS濃度(kg-SS/m3)を掛けた値(単位:kg)などが指標として使用され、BOD負荷量をkg/dの単位で表して、汚泥保持量(単位:kg)で除して求めたF/M比の管理値を、0.2kg-BOD/kg-SS/dなどの値とする。
【0010】
同様の考え方は、あらゆる生物処理方式に適用でき、例えば、UASB(Upflow
Anaerobic Sludge Blanket)方式などの嫌気性処理では、UASB水槽内のグラニュール汚泥界面高さと底面積とを掛けた容積に、グラニュール床の汚泥濃度を掛けた値を汚泥保持量(単位:kg)とし、嫌気処理のF/M比の管理値を0.3kg-BOD/kg-SS/dとしたり、USB脱窒方式の窒素除去装置のF/M比(この場合は汚泥窒素負荷と呼ぶ方が適切である)の管理値を、0.15kg-N/kg-SS/dとしたりする。
【0011】
F/M比の分母となる汚泥保持量を増加させるためには、排水負荷成分を栄養源として微生物が増殖するのを待つ必要がある。活性のある微生物を種汚泥として系外から供給する方法も考えられるが、コストがかかる。逆に、汚泥保持量を減少させるためには、余剰汚泥の引抜き処分が行われる。
【0012】
このように、F/M比を適切に維持するには、流入原水の変動を予測し、将来の負荷上昇に備えて、必要な汚泥量を維持しておくことが求められる。汚泥の増殖には時間がかかるためである。一方で、必要以上の汚泥が保持されると、好気処理においては曝気槽内に汚泥を余剰に維持しておくための曝気動力が無駄になったり、汚泥齢の延長による汚泥の自己分解代謝産物の増加により処理水の濁度が上がったり、処理水を膜処理する場合に膜の閉塞の原因となったりするなどの問題が知られている。
【0013】
嫌気処理においては曝気が不要であり、汚泥の自己分解速度も遅いため、余剰汚泥の維持による問題は好気処理の場合よりは程度が低いものの、やはり汚泥の活性度の低下や処理水へのSSリークのリスクが高まる。また、必要以上に嫌気汚泥を維持することで、結果として嫌気汚泥を他の装置の種汚泥として活用する機会を失う恐れがある。
【0014】
従来、生物反応槽からの余剰汚泥の引抜き判断は、製造設備(排水の排出源)の管理者が排水発生に関する情報を提供し、排水処理設備の管理者が排水処理設備能力に関する情報を提供し、双方の管理者が連絡をとることで、おおよその計画に基づいて汚泥の引抜き量が経験的に決められていた。しかし、情報連携の不足による過負荷や処理水質悪化の発生のおそれがあった。また、排水処理の管理者(運転員)が、将来の排水流入負荷に耐えられなくなる事態を恐れて、生物反応槽の汚泥を余剰気味に維持することが多くなるという懸念があった。
【0015】
曝気槽の曝気風量を、流入する排水負荷に応じて増減させ、曝気動力の無駄をなくす運転方法が知られている。例えば、特許文献1には、複数のブロワによって処理水槽に流入された処理水を処理するプロセスを有する水処理プラントにおいて、処理水槽の処理水の汚濁負荷量の予測値から算出される要求曝気風量に基づいて、各ブロワの運転制御を実行する制御手段と、各ブロワの中で稼動可能なブロワによる曝気風量の合計値と、現時点から予測される要求曝気風量とを比較し、曝気風量の合計値が要求曝気風量に満たない場合には、アラーム出力を実行する警報手段とを具備した水処理プラントの運転支援システムが開示されている。
【0016】
しかし、特許文献1には原水槽の数について言及がなく、複数の原水槽を設けて濃厚排水と希薄排水とを分けて貯留できるようにし、原水槽に供給された排水の濃度及び水量に応じて曝気を調整したり、曝気動力の効率化を意図して排水の負荷量とタイミングに関わる製造工程のスケジュールを調整したりするシステムは、これまで見出されていない。
【0017】
複数の水処理設備を並列ないし直列に備える排水処理場において、その運転効率を高める技術が知られている。例えば、特許文献2には、シミュレーション技術を用いて個々の排水処理装置の能力を数値で示し、それら能力に関する情報を踏まえて排水配分などの運転方案を決定する方法が開示されている。特許文献3には、排水シミュレーション技術の具体的な手段に関する発明が記載されている。また、特許文献4には、雨水を含む下水を複数の処理系列で処理し、個々の処理水を合流させて必要な放流水と中水を得る目的を念頭に、個々の処理水質を予測し、運転費用と汚泥発生量の少なくとも一方を最小化するシステムが開示されている。
【0018】
しかし、特許文献2~4にはCIP排水への適用可能性に関する言及はなく、また、発明の対象は下水というそれ自体は変更不可能なものが前提とされており、発生源への能動的な情報連携による制御という視点はなかった。
【0019】
排水が高濃度か低濃度かで処理系列を切り替えるか又は流量比を調整することは、特許文献5~8などに記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0020】
【特許文献1】特開2013-099742号公報
【特許文献2】特開2004-73988号公報
【特許文献3】特開2014-188457号公報
【特許文献4】特開2006-281159号公報
【特許文献5】特開2004-167328号公報
【特許文献6】特開2003-275742号公報
【特許文献7】特開2002-282889号公報
【特許文献8】特開2017-113722号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
CIP排水を効率的に無害化処理して放流ないし再利用するために、CIP排水が発生する日時と負荷量(水量と濃度)に関する情報に基づいて排水原水槽における貯留量と濃度範囲を予測し、排水処理設備の得意とする処理水量と濃度範囲に合わせて原水槽から処理設備に送水を行うことができるシステムを構築する必要があった。
【0022】
本発明は、排水原水槽における負荷量の推移を予測し、製造工程排水の排出の予測計画を作成することができる排水予測計画作成システムを提供することを課題とする。また、本発明は、作成した予測計画に基づいて製造工程排水の処理を行い、処理コストを削減できる排水処理方法及び排水処理システムを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0023】
[1] CIP(Cleaning In Place)排水を含む製造工程排水の発生パターンが製造品目の属性に基づいて分類され、個々の発生パターン分類に対応する予測負荷量に関する情報を記録媒体に登録し、
個々の発生パターン分類において発生する製造工程排水が、排水路を経由して原水槽に流入する時の原水槽入口における負荷量の推移を予測する計算式を記録媒体に登録し、
製造設備から個々に発生する製造工程排水毎に、前記発生パターン分類及び開始日時を対応付けた排水計画を作成する、製造工程排水の排水予測計画作成システム。
【0024】
[2] 前記計算式から求まる前記原水槽への流入予測と、前記原水槽からの吐出水量の計画に基づいて、前記原水槽の貯水量と前記原水槽内の排水濃度の推移を予測する、[1]に記載の排水予測計画作成システム。
【0025】
[3] [1]に記載の排水予測計画作成システムが前記計算式から求めた原水槽への流入の予測負荷量に基づき排水流路を切り替え、
流入の予測負荷量が所定値以上の場合は排水を第1原水槽に貯留し、流入の予測負荷量が前記所定値未満の場合は排水を第2原水槽に貯留する流入振り分けを行い、
前記第1原水槽から送水する第1の排水処理設備は前記第2原水槽から送水する第2の排水処理設備に対して相対的に経済上または環境負荷低減上の利点を有することを特徴とする排水処理方法。
【0026】
[4] [3]に記載の排水処理方法において、前記原水槽への流入の予測負荷量が流入BOD負荷の予測値であり、前記第1の排水処理設備が嫌気処理設備であることを特徴とする排水処理方法。
【0027】
[5] [3]又は[4]に記載の排水処理方法において、第1の排水処理設備への送水量の目標値を設定し、目標の条件を満たさない場合、以下のいずれかの排水計画の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
・製造工程排水の発生日時の変更を促す表示を行う
・CIP工程の開始を制止する
・CIP工程の開始を自動的に変更設定する
【0028】
[6] 原水槽からの吐出水を排水処理設備で処理する排水処理方法であって、前記排水処理設備の処理能力情報を設定し、[1]に記載の排水予測計画作成システムが前記計算式から求めた原水槽への流入の予測負荷量に基づいて、前記排水処理設備の処理能力情報を超えないように、前記原水槽からの吐出水量の計画を修正することを特徴とする排水処理方法。
【0029】
[7] [6]に記載の排水処理方法において、前記処理能力情報が予測負荷量の増加速度であることを特徴とする排水処理方法。
【0030】
[8] [6]に記載の排水処理方法において、前記排水予測計画作成システムが前記計算式から求めた原水槽への流入の予測負荷量を参照して、前記排水処理設備の生物反応槽内の汚泥濃度とF/M比の予測値が処理能力情報の条件を満たすように、前記原水槽からの吐出水量の計画を修正することを特徴とする排水処理方法。
【0031】
[9] [6]に記載の排水処理方法において、前記排水予測計画作成システムが前記計算式から求めた原水槽への流入の予測負荷量を参照して、前記排水処理設備の生物反応槽内の汚泥保持量を、処理能力情報の条件を満たすように維持するように余剰汚泥の引抜き量の計画を決定することを特徴とする排水処理方法。
【0032】
[10] [6]~[8]のいずれかに記載の排水処理方法において、前記原水槽が複数であり、ある原水槽からの吐出水量の計画の修正を所定回数行っても処理能力情報の条件を満たさない場合、原水槽への排水の流入振り分け条件の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
【0033】
[11] [9]に記載の排水処理方法において、前記原水槽が複数であり、ある処理設備の余剰汚泥の引抜き量の計画の修正を所定回数行っても生物反応槽の汚泥保持量が処理能力情報の条件を維持できない場合、原水槽への流入振り分け条件の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
【0034】
[12] [6]~[8]のいずれかに記載の排水処理方法において、ある排水処理設備への吐出水量の計画の修正を所定回数行っても処理能力情報の条件を満たさない場合、以下のいずれかの排水計画の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
・製造工程排水の発生日時の変更を促す表示を行う
・CIP工程の開始を制止する
・CIP工程の開始を自動的に変更設定する
【0035】
[13] [9]に記載の排水処理方法において、ある排水処理設備の余剰汚泥の引抜き量の計画の修正を所定回数行っても生物反応槽の汚泥保持量が処理能力情報の条件を維持できない場合、以下のいずれかの排水計画の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
・製造工程排水の発生日時の変更を促す表示を行う
・CIP工程の開始を制止する
・CIP工程の開始を自動的に変更設定する
【0036】
[14] [10]又は[11]に記載の排水処理方法において、前記原水槽への流入振り分け条件の修正を所定回数行っても目的の条件を満たさない場合、以下のいずれかの排水計画の修正を行うことを特徴とする排水処理方法。
・製造工程排水の発生日時の変更を促す表示を行う
・CIP工程の開始を制止する
・CIP工程の開始を自動的に変更設定する
【発明の効果】
【0037】
本発明によれば、排水原水槽における負荷量の推移を予測し、製造工程排水の排出の予測計画を作成することができる。また、本発明によれば、製造工程排水の処理コストを削減できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【
図1】本発明の実施形態に係る排水予測計画作成方法を説明するフローチャートである。
【
図3】流入予測パターンの合算結果を示す図である。
【
図8】曝気槽MLSS濃度とF/M比の推移を示す図である。
【
図9】曝気槽MLSS濃度とF/M比の推移を示す図である。
【
図10】CIP排水の流入予測パターンを示す図である。
【
図11】流入TOC濃度の予測値と実測値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、図面を参照して実施の形態について説明する。なお、以降の説明では、CIP(Cleaning
In Place)排水を含む製造工程排水の排水計画を単にCIP排水計画と称する。
【0040】
図1は、本発明の実施形態に係るCIP排水計画作成方法を説明するフローチャートである。
【0041】
ステップS1:CIP発生パターンデータを取得する。CIP発生パターンデータは、CIP排水のBOD負荷、アルカリ度、その他の水質、排出水量、継続時間、流下経路等の予測負荷量に関する情報を含む。CIP発生パターンデータは、製造品目等の属性毎に事前に分類・準備されたものであり、記録媒体に登録されている。
【0042】
ステップS2:CIP発生パターン毎に、CIP排水が流下経路を経由して原水槽に流入するときの、原水槽入口における予測負荷量の推移を示す流入予測パターンを取得する。例えば、負荷量は、流量及び濃度である。流入予測パターンは、1つ又は複数のピークを持つ流量と濃度の時系列データであり、定数、直線式、指数関数式、確率分布関数式など任意の関数とそれらの組み合わせを用いて表現することができる。使用する関数(計算式)は、必要な精度及び利便性を考慮して選択できる。流入予測パターンは、下記のいずれか又はこれらを組み合わせた方法によって取得し、記録媒体に登録する。
【0043】
(#1-1)運転員へのヒヤリングにより推定する。
(#1-2)CIP発生個所からの流路や配管径などの情報に基づき推定計算を行う。
(#1-3)CIP発生個所における排水量と濃度の情報から自動的な試行錯誤計算などにより推定する。
(#1-4)排水処理場において流量と水質を測定し実測データにフィットする流入定数ないし回帰式を自動的な試行錯誤計算などにより得る。
(#1-5)CIP発生パターンデータと排水処理場原水槽の貯水量(水位)および濃度のモニタリングデータの相関を解析して、内在する流入予測パターンを推定する。
【0044】
ステップS3、S4:製造設備から個々に発生するCIP排水に識別番号(発生バッチID)を付与する。発生バッチIDに、CIP排水の開始日時、及びCIP発生パターンの番号が関連付けられる。発生バッチIDを関連付けたCIP発生パターンからなるCIP排水計画を作成し、記録媒体に登録する。
【0045】
ステップS5:発生バッチID毎に、対応する流入予測パターンを取得する。
【0046】
ステップS6、S7:ステップS5で取得した流入予測パターンを時系列に合算合成して、CIP排水計画に基づくCIP排水の流入予測を行う。例えば、CIP排水の流入量及びBOD濃度の時系列推移の予測を行う。
【0047】
ステップS8、S9:複数の原水槽へのCIP排水の流入振り分けを行う。任意のデフォルト値で計算を開始する。
【0048】
原水槽としては、嫌気性生物処理系列に供給される第1原水槽と、好気性生物処理など有機物処理系列に供給される第2原水槽とを含む複数種類の原水槽が設けられており、排水の流入BOD濃度予測値に基づいて排水流路が切り替え可能になっている。排水の流入BOD濃度予測値が第1基準値(400~600mg/Lの範囲で予め設定)以上の時は第1原水槽に受けて嫌気処理の原水とし、流入BOD濃度予測値が第1基準値未満の時は第2原水槽に受けて有機物処理の原水とする。
【0049】
希薄排水を受けて再利用水(雑用水)として貯留する第3原水槽をさらに設けることもできる。この場合、流入BOD濃度予測値が第2基準値(5~20mg/Lの範囲で予め設定)以上で、かつ、第1基準値未満の時は第2原水槽に受けて有機物処理の原水とし、流入BOD濃度予測値が第2基準値未満の時は第3原水槽に受けて再利用水(雑用水)とする。
【0050】
上記は高い原水BOD濃度の領域で高い省エネルギー性能を有する嫌気処理を優先的に使用する事例であるが、嫌気処理以外の省エネルギー性能を有する、あるいは負荷変動に強い、処理水質が良い、廃棄物の発生が少ない、薬品使用量が少ないなどの経済上または環境負荷低減上の利点を有する排水処理設備に優先的に負荷をかけることができる。
【0051】
ステップS10、S11:各原水槽の混合状態モデルを用いて、各原水槽への流入から、各原水槽内の貯水量と濃度の時系列推移を予測する。この混合状態モデルは、原水の流入および排水処理設備に向けた吐出水量と濃度、および原水槽内の攪拌状態に基づき、原水槽内の貯水量と濃度の時系列推移を予測する計算モデルであり、完全混合モデル、分割完全混合モデル、非定常流体解析モデルなどが使用できる。排水処理設備に向けた吐出水量と濃度(負荷配分計画)は、任意のデフォルト値を用いて計算を開始する。
【0052】
混合状態モデルを用いて、各原水槽内の貯水量と濃度の時系列推移の予測値の収束解が得られない場合、排水処理設備の負荷配分計画を修正する。収束解が得られないとは、原水槽内の貯水量と濃度の時系列推移の予測値が、所定範囲を逸脱することがある場合をいう。
【0053】
ステップS12、S13:各原水槽から各処理設備への吐出水量を、予め定めたステップで増減させて、排水処理設備の負荷配分計画を修正する。どの吐出水量を増減させるかについて、目的に応じて予め決めたシナリオを登録しておくことができる。修正後の吐出水量で、各原水槽内の貯水量と濃度の時系列推移を予測する(ステップS10、S11)。
【0054】
混合状態モデルを用いて、各原水槽内の貯水量と排水濃度の時系列推移の予測値の収束解が得られた場合は、排水処理設備の処理能力条件を満たすか否か判定する。
【0055】
ステップS14:排水処理設備の処理能力情報を、以下のいずれかの方法で設定する。
(#5-1)生物反応槽の汚泥保持量や汚泥活性度に関する測定値、各単位操作出口における水質測定値、生物反応槽、沈殿槽、ろ過器、活性炭塔等の状態観察ないし測定値に基づき、各処理系列への受け入れ可能水量を運転員が設定する。
(#5-2)生物反応槽の汚泥保持量や汚泥活性度に関する測定値、各単位操作出口における水質測定値、生物反応槽、沈殿槽、ろ過器、活性炭塔等の状態観察ないし測定値に基づき、各処理系列への受け入れ可能水量を、予め登録した関数ないしシミュレーションモデル(特許文献2、特許文献3)を用いて設定する。使用する観察結果や測定値は、オンライン測定値を用いても良いし、観察結果を観察者が入力してもよい。
【0056】
排水処理設備の処理能力条件を満たす場合は、最適化モデルの推奨値を満たすか否か判定する。
【0057】
ステップS15:最適化モデルを設定する。最適化モデルは、排水処理における運転コストや環境負荷、故障リスク等の改善を意図して、望ましい排水負荷配分計画を提示する計算モデルである。具体的な改善対象に応じて優先する処理系列や、最低負荷量、最大負荷量、負荷上昇の幅や比率などを提示することができる。最適化モデルの形態としては予め登録した関数ないしシミュレーションモデル(特許文献2、特許文献3)を用いて設定する。使用する観察結果や測定値は、オンライン測定値を用いても良いし、観察結果を観察者が入力してもよい。最適化モデルの中で異なる利点が相反する場合には、それらのメリットやコストを金額化するモデルを用いて合計値を比較するなどの手段を用いて、最適な配分を意図して調整することが望ましい。
【0058】
最適化モデルの推奨値を満たす場合、又は現状案を許容する場合は、処理を実行する。モデル最適値を満たさない計算途中の負荷配分計画であっても、運転員の判断によって許容し実行する場合がある。また後述するCIP排水計画の修正が製造側の都合で不可能な場合も、現状案を許容してモデル最適値を満たさない負荷配分計画を実行することがありうる。なお、排水処理設備の能力条件を満たさない負荷配分計画であっても、一時的に実行するケースはありうるが、そのような可能性があるのであれば、継続時間などの判断基準を明確にすることが望ましい。
【0059】
最適化モデルの推奨値を満たさず、かつ現状案が許容できない場合、又は、排水処理設備の能力条件を満たさない場合は、負荷配分計画を修正する(ステップS12,S13)。
【0060】
負荷配分計画の修正、各原水槽内の貯水量と濃度の時系列推移の予測値の収束解が得られるか否かの判定、排水処理設備の能力条件を満たすか否かの判定、及び最適化モデルの推奨値を満たすか否かの判定を、最適解が得られるまで繰り返す。最適解が得られることなく、繰り返し計算回数が所定の上限値(循環計算カウンタ1)に達した場合は、原水槽への流入振り分けを修正する(ステップS16)。
【0061】
原水槽への流入振り分けの修正では、各原水槽への振り分け水量を予め定めたステップで増減させるものとし、どの振り分け水量を増減させるかについて、目的に応じて予め決めたシナリオを登録しておくことができる。流入振り分けの修正後、再度、排水処理設備負荷配分計画が、排水処理設備の能力(各原水槽貯水量の上限値や各処理設備の能力値)、および最適化モデルの推奨値を満たすまで繰り返し(カウンタ1の回数)計算を行う。
【0062】
原水槽への流入振り分けの修正回数が所定の上限値(循環計算カウンタ2)に達した場合は、CIP排水計画の修正を行う(ステップS17)。例えば、CIP制御の運転員に対してCIP排水計画の変更を促す、あるいは自動的に再計画を行う。より具体的には、製造工程排水の発生日時の遅延を促す表示を行う、またはCIP工程の開始を制止する、またはCIP工程の開始を自動的に延期設定するプログラムによって再計画を行う。
【0063】
図1のフローチャートに示す各種データは、コンピュータの記憶部に登録される。コンピュータのCPUが記憶部に格納されたプログラムを実行することで、CIP排水計画作成の機能が実現され、フローチャートに示す各ステップの処理が行われる。
【0064】
上記実施形態において、各原水槽への流入振り分けや排水処理設備の負荷配分計画の作成は、自動的に行うのではなく、原水槽内の貯水量と濃度の現在値と予測値(ステップS11)、排水処理設備の能力情報(ステップS14)および最適化モデルによる推奨値(ステップS15)に基づいて運転員が行ってもよい。
【0065】
本発明の実施の形態には、原水の振り分け先である原水槽の容量が実質的にゼロであってそれぞれの処理設備に直接送水する場合も含まれる。
【0066】
本発明の実施の形態には、原水槽への流入振り分けの修正工程を省略し、あるいは単一の原水槽から単一の排水処理設備に送水する場合においても、ある排水処理設備がその能力条件を満たすか否かの判定、及び最適化モデルの推奨値を満たすか否かの判定を、最適解が得られるまで繰り返し、最適解が得られることなく、繰り返し計算回数が所定の上限値(循環計算カウンタ2)に達した時にCIP排水計画の修正を行う(ステップS17)場合も含まれる。
【0067】
[実験例]
飲料工場のCIP工程発生源における排水量と濃度の情報、および排水処理場までの流路の長さから推定して、
図2に示した4つの流入予測パターンを得た(
図1のステップS2に対応)。流入BOD濃度は排水のTOC分析値に基づき、個々の排水種類について予め取得した換算係数を用いて推定した。流入パターンは式1a~2cに示した関数式のパラメータを調整することで表現し、パーソナルコンピュータ(PC)に登録した。
【0068】
【0069】
製品生産計画からの要請に基づいて作成したある1日のCIP排水計画を表1に示した。CIP発生バッチID-1~4に対してそれぞれ
図2の排水流入パターン-1~4を対応させ、それらの開始時間(ID-1の開始を基準時刻とした経過時間)を設定した。実験例1は、比較例1と同じCIP排水計画に対して、後述する方法で嫌気処理の有効利用を図ったケースであり、実験例2はさらなる有効利用を意図して後述する方法でCIP排水計画の修正を行ったものである。
【0070】
【0071】
表1に示したCIP排水計画に対する流入予測パターンの合算結果、すなわちCIP排水計画に基づく流入予測(
図1のステップS7に対応)を
図3に示した。
【0072】
シミュレーション
図4に示す構成の排水処理系列の3つの原水槽(原水槽1~原水槽3)を想定したシミュレーション計算を行った。原水槽1は嫌気処理系列に、原水槽2は好気処理系列に、それぞれ最大30m
3/hの流量で送り処理するものとした。原水槽3は希薄排水を受けて再利用水(雑用水)として貯留するものとした。原水槽1と原水槽2の初期の貯水量とBOD濃度をそれぞれ100m
3と100mg/L、原水槽3(雑用水)の初期貯水量とBOD濃度をそれぞれ10m
3と10mg/Lとした。
【0073】
表1に示したように、比較例1の流入振り分けは、流入BOD濃度予測値に関わらず原水槽1と原水槽2に常時1:1の比率で振り分けたものであり、流入予測を行わない従来の処理方法と同じ結果が想定される振り分け方法である。
【0074】
実験例1および実験例2は、流入BOD濃度予測値が500mg/L以上の時は原水槽1に受けて嫌気処理の原水とし、流入BOD濃度予測値が10mg/Lを超え500mg/L未満の時は原水槽2に受けて好気処理の原水とし、流入BOD濃度予測値が10mg/L以下の時は原水槽3に貯留して雑用水として再利用するものである。
【0075】
各原水槽への原水の流入および排水処理設備に送る吐出の流量とBOD濃度から水量とBODの物質収支計算に基づいて原水槽内の貯水量とBOD濃度の時系列推移を計算し、原水槽内の貯水量と濃度の現在値と予測値(
図1のステップS11)とした。原水槽の混合は完全混合モデルとして、実質的に十分短い時間で水槽全体にBOD成分が行き渡る想定とした。
【0076】
原水槽内の貯水量と濃度の現在値と予測値(
図1のステップS11)、排水処理設備の能力情報(
図1のステップS14)および最適化モデルによる推奨値(
図1のステップS15)に基づいて、負荷分配計画を作成した(
図1のステップS12)。原水槽1は処理系列A(嫌気処理+活性汚泥)に、原水槽2は処理系列B(好気流動床担体法)に、ポンプを用いてそれぞれ30m
3/hの一定流量で送るものとし、ポンプの空引きを起こさないように原水槽の貯水量が10m
3まで低下した時に送水を停止した。
【0077】
各原水槽の最大容量を600m3とした。嫌気処理系列および好気処理系列それぞれの排水処理設備固有の設計値と、運転管理上の参照値により、処理水不良などの故障を起こすことなく良好に処理できる負荷量として嫌気処理系列の最大流量を30m3/h、BOD最大負荷量を90kg/h、(前日からのBOD負荷上昇幅を350kg-BOD/d2)、処理系列Bの最大流量を30m3/h、BOD最大負荷量を90kg/h、(前日からのBOD負荷上昇幅を1,000kg-BOD/d2)とした。
【0078】
各処理系列の運転管理上の参照値として、嫌気処理系列(嫌気処理+活性汚泥)においては嫌気グラニュール汚泥の界面高さを運転員が実測して入力したデータおよび活性汚泥曝気槽において連続的に計測されるMLSS濃度を用い、好気処理系列(好気流動床担体法)においては流動床槽内液を30分静置して得られる担体充填率を運転員が実測して入力したデータ、および担体に付着した生物量を定期的に分析した値を入力したデータを用いた。
【0079】
嫌気処理系列と好気処理系列へのBOD負荷配分について、嫌気処理系列の能力を超えない範囲で、なるべく嫌気処理への負荷配分を多くしてメタンガスの発生量を増やすとともに、好気処理系列での曝気動力と余剰汚泥発生量の削減を図るモデルを最適化モデル(
図1のステップS15)とした。
【0080】
比較例1と比較して、実験例1により嫌気処理系列へのBOD負荷配分を多くすることに成功したが、さらに効果を高めるには、例えば嫌気処理によるBOD処理量について600kg-BOD/d以上を目指す等の高い目標値を掲げ、原水槽1にBOD濃度500mg/L以上の排水を多く流入させる必要があった。実験例1で得られた流入予測(
図3a)において、ID-3の濃厚排水がID-4の希薄排水に希釈されて500mg/L未満になっていることに着目し、ID-3の開始時間を変更してID-3の排水が嫌気処理系列の原水として活用できるように、CIP排水計画を修正した(
図1のステップS17)。
【0081】
比較例1、実験例1および実験例2における負荷配分の実行案を
図5~7にそれぞれ示した。
【0082】
負荷配分計画とCIP排水計画を修正した結果として、原水貯槽の貯水量のピーク値と、当日処理されたBOD負荷のうち何%が嫌気処理に分配されたかについて評価を行い、上述の表1の「嫌気処理への振り分け比率」にCIP排水計画の諸元とともに示した。
【0083】
表1に示したように、嫌気処理への分配率が比較例1の50%から実験例1では76%、実験例2では91%に上昇した。嫌気処理されたこの日のBOD負荷量は、それぞれ355kg/d、520kg/d、および667kg/dであった。
【0084】
嫌気処理の分配比率を高めたことによる改善効果を試算して表2に示した。電力は34~47%、汚泥発生量は32~44%の削減が期待できた。
【0085】
【0086】
BOD1kgあたりの消費電力と余剰汚泥発生量の原単位は非特許文献1の表5に示されたCODcrあたりの値からBOD=CODcr×0.7としてBODあたりの値に変換したものを用いた。
[非特許文献1] 北川ら(1990)高効率型嫌気処理の開発と応用事例、紙パ技協誌第44巻第6号pp.672-685
【0087】
表1に示したように、実験例1の原水槽のピーク値は、566m3(原水槽2)であり、原水槽2の大きさ600m3に対して余裕のない運転であった。嫌気処理の更なる活用を意図してCIP排水計画の修正を行って実験例2を得たが、原水槽容量の余裕という意味でも実験例2の原水槽ピーク貯水量が385m3となり、改善される結果となった。
【0088】
余剰汚泥の引抜きに関するシミュレーション
排水処理設備は
図4に示した構成とし、処理系列A(嫌気処理+活性汚泥)における余剰活性汚泥の引抜きに関するシミュレーションを行った。比較例2、3および実験例3、4のシミュレーション条件を表3に示す。処理系列Aは
図4の原水槽1で受けた原水を処理するものとし、嫌気処理のBOD除去モデルとして、流入BOD負荷の80%がメタン発酵により除去され、残りの20%が嫌気処理水のBOD(SS性のBODも含む)として、活性汚泥の原水となる想定とした。
【0089】
【0090】
シミュレーションの検討期間を30日間として、比較例2、3および実験例3、4における活性汚泥への流入負荷を表4に示した。
【0091】
表4において、比較例2および比較例3では、CIP排水計画を排水処理の運転管理と共有することなく、当日までに受け入れた排水負荷に関する情報と曝気槽のMLSS濃度を指標として余剰汚泥の引抜きを行った。
【0092】
一日当たりのBOD流入パターンは、実験例2で示したパターン(
図7の原水槽1)とし、一日の累計BOD負荷量は、嫌気処理への流入BOD負荷667kg/dの20%に相当する133kg/dであった。このようなCIP排水が、Day1~Day10まで連続して排出され、Day11は機器の維持点検のために負荷休止、Day12~19までは糖分などを含まずBOD排出を伴わない品目を製造したため無負荷水が排出され、Day20~30に再び実験例2のパターンで排水が排出された。Day25は維持点検により無負荷であった。
【0093】
表4において、実験例3では、比較例2、3と同じ排水負荷であるが、CIP排水計画が排水処理の運転管理と共有され、曝気槽への流入負荷を予測しながら余剰汚泥の引抜きを行った。実験例4では、曝気槽での汚泥量維持にかかるコストとリスクの低減を意図して、CIP排水計画の修正(
図1のステップS17)を行った。実験例3および実験例4では、MLSS濃度については5,000~6,000mg/Lを望ましい目標範囲とし、またF/M比については0.20を目標値として、目標範囲内に収まるまで、あるいは目標値に近づくまで、計画の修正を行った。
【0094】
比較例2、3および実験例3、4では、次に示す各係数を用いたシミュレーションにより、表4に示したBOD流入負荷に対する曝気槽汚泥の増殖と自己分解による日々の増減を計算した。
【0095】
余剰汚泥引抜きシミュレーション計算に用いた係数
・嫌気処理におけるBOD除去率:0.8
(SS込みの嫌気処理水BOD÷嫌気処理流入BOD)
・活性汚泥の汚泥転換率:0.4 kgSS/kgBOD
・汚泥自己分解速度:0.05 1/d
【0096】
【0097】
シミュレーション結果
比較例2および比較例3における曝気槽MLSS濃度とF/M比(汚泥負荷)の推移を
図8に示した。
【0098】
比較例2は、当該期間のCIP排水計画を排水処理の運転管理と共有することなく、当日までに受け入れた排水負荷に関する情報と曝気槽のMLSS濃度を指標として余剰汚泥の引抜きを行った事例である。10日間の負荷運転におけるMLSS濃度5,000mg/L維持するための余剰汚泥の引抜き量は18kg-SS/d(濃度1%の沈殿汚泥液として1.8m3/d)であった。その後、1日の点検日と8日の無負荷水(糖分などを含まない製品の製造)の排出があったため、その間は余剰汚泥の引抜きを停止したものの、汚泥の自己分解によりMLSS濃度が3,200mg/Lまで低下し、Day20からの負荷上昇に耐えられず処理水質が悪化した。Day20におけるF/M比は0.30であった。
【0099】
比較例3は、汚泥の引抜き過ぎによる問題を回避するため、余剰汚泥の引抜き量を半分にした結果である。10日間の負荷運転においてMLSS濃度が上昇し、Day11において5,500mg/Lに到達し、その後の負荷上昇への備えができたが、結果的にDay20の負荷上昇に対してF/M比は0.27となり、比較例2よりは緩和されたものの管理値0.20は守れなかった。また、次の負荷上昇がいつ来るかはわからない状態であるため、もし次の負荷の到来が遅ければ負荷超過、早ければ曝気槽での汚泥量維持にかかるコストとリスクが発生する。
【0100】
実験例3および実験例4における曝気槽MLSS濃度とF/M比(汚泥負荷)の推移を
図9に示した。
【0101】
実験例3では、CIP排水計画と曝気槽への流入予測に基づいて余剰汚泥の引抜き量を決定したため、F/M比(汚泥負荷)が改善され処理水質の悪化を回避することができた。実験例3における余剰汚泥の引抜き量は、Day1~30の運転期間においてゼロであり、汚泥の増殖と自己分解が均衡していた。ただしDay20におけるF/M比は0.25であり、比較例3より改善されたものの、さらなる低減が望まれた。また、Day11におけるMLSS濃度が6,100mg/Lに達し、MLSS濃度が高いことによる沈殿槽内の汚泥界面上昇とそれに起因する上澄水へのSSリークや、沈殿槽内の汚泥層の嫌気化に起因する汚泥性状の悪化などが懸念された。
【0102】
実験例4では、CIP排水計画が修正されたことにより、最大のMLSS濃度とF/M比はそれぞれ5,600mg/Lと0.24となり、実験例3よりも、さらなる改善が得られた。これにより、F/M比の上昇による処理水質の悪化を回避しつつ、MLSS濃度を必要最小限に保持し、ブロワ電力の無駄や水質悪化リスクを低減できた。
【0103】
モデル予測値の目的に対する有効性を検証するため、
図4に示す構成において、飲料工場において排水処理場の流入口に連続計測可能なTOC測定機と流量測定器を仮設し、モデル予測値との比較調査を行った。モデルの作成方法は先の実験例と同様である。調査を実施した日には4か所の製造ラインでそれぞれ1回のCIPが実施され、その開始時刻の情報と、予備調査で定めた個々の流入パターンを合成して
図10に示す流入予測パターンを得た(濃度指標はTOCとした)。
【0104】
この流入予測パターンと、実際の流入TOC濃度の測定結果を比較したところ、CIPのタイミング以外でもTOC濃度が検知された。その原因は製造工程で発生した原料ないし半製品の非定常なブローであると推定し、CIP排水と同様の手順で非定常ブローの流入パターンを予測し、CIP排水と合わせて
図11に示した。
【0105】
図11には仮設の計器による流入TOC濃度の実測値も併せて示した。この例では、非定常ブローの発生時刻をTOC濃度の実測値から逆算したが、本発明の本来の目的からすると、非定常ブローの発生時刻を予め予測計画することが重要である。ただし、非定常ブローの予測と削減は本発明とは独立の課題であって、今後その解決に取り組むことは本発明の価値を高めるものであっても毀損するものではないので、ここでは非定常ブローの発生が予測可能ないしは非定常ブロー自体をなくしていくことが可能という前提で検証を進める。
【0106】
[実験例5]
図11に示した流入TOC濃度の予測値に従って、濃厚排水(BODとして500mg/L以上、TOCとして240mg/L以上)を分別して嫌気処理の原水とし、残りを並列する好気処理で処理する負荷配分の運転を想定した。計算モデルによるTOC濃度の予測値が240mg/L以上となった時間帯の実際の水量とTOC濃度の実測値に基づいて、嫌気処理に供するBOD負荷の割合(%-kg/kg)を計算して表5に示した。
【0107】
[比較例4]
従来の運転方法による実績値を表5に示した。
【0108】
[比較例5]
TOC濃度の連続計測の実測値に従って、濃厚排水(BODとして500mg/L以上、TOCとして240mg/L以上)を分別して嫌気処理の原水とし、残りを並列する好気処理で処理する負荷配分の運転を行った場合の嫌気処理に供するBOD負荷の割合(%-kg/kg)を計算して表5に示した。
【0109】
【0110】
比較例4は調査当日の実績値(54%)であり、これは調査現場における従来慣例的な負荷配分方法である。
【0111】
比較例5(71%)は排水流入部の実際のTOC濃度の実測値に基づいて負荷配分を行った場合であり、嫌気処理への負荷比率を大幅に高めることが可能であったが、TOC測定機の購入設置と維持管理のコストや設置場所が必要である。
【0112】
実験例5(61%)は、計算モデルによる予測値に基づいて高濃度が予測される時間帯の排水を分別した運転を想定し、実際のTOC濃度測定の実測データを用いて検証計算した結果である。
【0113】
本発明の予測計算を行えば、嫌気処理への負荷配分を、TOC濃度の連続測定を行うことなく相応の値まで増やせることが示された。また、本発明の効果は、モデルパラメータのさらなる調整や、製造ラインからの排水信号の発信、排水予測結果の製造計画への反映などを通じて更に高めうるものと期待できた。
【0114】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。