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特開2023-177655イミド基を有するエポキシ樹脂及びその製造方法、硬化性樹脂組成物、硬化物、並びに、プリント配線板用絶縁材料
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177655
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】イミド基を有するエポキシ樹脂及びその製造方法、硬化性樹脂組成物、硬化物、並びに、プリント配線板用絶縁材料
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/02 20060101AFI20231207BHJP
   C08G 59/20 20060101ALI20231207BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08G59/02
C08G59/20
H05K1/03 610L
H05K1/03 610N
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090440
(22)【出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177426
【弁理士】
【氏名又は名称】粟野 晴夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141601
【弁理士】
【氏名又は名称】貴志 浩充
(74)【代理人】
【識別番号】100119530
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】山田 駿介
(72)【発明者】
【氏名】桑田 康介
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AJ09
4J036DA01
4J036DB06
4J036DB11
4J036DB14
4J036DB15
4J036DC02
4J036DC03
4J036DC04
4J036DC05
4J036DC06
4J036DC09
4J036DC10
4J036DC11
4J036DC21
4J036DC22
4J036DC31
4J036JA08
(57)【要約】
【課題】耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い硬化物を得ることが可能なエポキシ樹脂及びその製造方法を提供する。
【解決手段】不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化してなることを特徴とする、イミド基を有するエポキシ樹脂、並びに、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化して、イミド基を有するエポキシ樹脂を生成させる工程を含むことを特徴とする、イミド基を有するエポキシ樹脂の製造方法である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化してなることを特徴とする、イミド基を有するエポキシ樹脂。
【請求項2】
前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)が、不飽和基を有する酸無水物(a1)を、イソシアネート基を有する化合物(a2)でイミド化してなる、請求項1に記載のイミド基を有するエポキシ樹脂。
【請求項3】
不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化して、イミド基を有するエポキシ樹脂を生成させる工程を含むことを特徴とする、イミド基を有するエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項4】
不飽和基を有する酸無水物(a1)を、イソシアネート基を有する化合物(a2)でイミド化して、前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を生成させる、請求項3に記載のイミド基を有するエポキシ樹脂の製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載のイミド基を有するエポキシ樹脂を含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
更に硬化剤を含む、請求項5に記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とする、硬化物。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする、プリント配線板用絶縁材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イミド基を有するエポキシ樹脂及びその製造方法、硬化性樹脂組成物、硬化物、並びに、プリント配線板用絶縁材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エポキシ樹脂は、例えば、フェノール樹脂等の硬化剤と組み合わせて硬化性樹脂組成物とし、接着剤、成形材料、塗料等に用いられる他、得られる硬化物の優れた耐熱性や耐湿性等の点から、半導体封止材、プリント配線板用絶縁材料等の電気・電子分野で幅広く用いられている。また、電気・電子分野では、薄型化、軽量化、高密度化の要求が強く、使用材料には、高Tg(高耐熱性)、高信頼性の要求が高まっており、高信頼性を実現する上では、隣接部材(銅箔等)との密着性や、弾性率に優れることも求められる。
【0003】
電子材料用、特には、半導体封止材や積層板用途において好適に使用できるエポキシ樹脂としては、例えば、耐湿、耐熱性に優れるビフェニル型のエポキシ樹脂が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、ナフチレンエーテル骨格含有エポキシ樹脂が、半導体封止材として好適に用いられることも知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、前記電子材料に利用可能なエポキシ樹脂として、下記特許文献3には、ジヒドロキシナフタレンとエピクロロヒドリンとを縮合させて得られるエポキシ樹脂が開示されている。また、前記エポキシ樹脂の原料となるエポキシ化合物として、下記特許文献4には、少なくとも1つのアルコキシシリル基及び少なくとも2つのエポキシ基を有するアルコキシシリル系エポキシ化合物が記載されており、下記特許文献5には、ビフェニル骨格を有するモノアリルモノグリシジルエーテル化合物が記載されており、下記特許文献6には、オレフィン置換イソシアヌレートをエポキシ化して得たエポキシ置換イソシアヌレートが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-108562号公報
【特許文献2】特開2016-089096号公報
【特許文献3】特許第3062822号公報
【特許文献4】特表2014-531473号公報
【特許文献5】国際公開第2011/078060号
【特許文献6】特開2012-25688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献等に記載の従来のエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物からなる硬化物は、耐熱性、隣接部材(銅箔等)との密着性、弾性率に改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決し、耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い硬化物を得ることが可能なエポキシ樹脂及びその製造方法、かかるエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物を提供することを課題とする。
また、本発明は、耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い硬化物及びプリント配線板用絶縁材料を提供することを更なる課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化して得られるイミド基を有するエポキシ樹脂を硬化性樹脂組成物に配合することで、かかる硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の耐熱性、密着性、弾性率が向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、上記課題を解決する本発明の要旨構成は、以下の通りである。
【0009】
[1] 不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化してなることを特徴とする、イミド基を有するエポキシ樹脂。
【0010】
[2] 前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)が、不飽和基を有する酸無水物(a1)を、イソシアネート基を有する化合物(a2)でイミド化してなる、[1]に記載のイミド基を有するエポキシ樹脂。
【0011】
[3] 不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化して、イミド基を有するエポキシ樹脂を生成させる工程を含むことを特徴とする、イミド基を有するエポキシ樹脂の製造方法。
【0012】
[4] 不飽和基を有する酸無水物(a1)を、イソシアネート基を有する化合物(a2)でイミド化して、前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を生成させる、[3]に記載のイミド基を有するエポキシ樹脂の製造方法。
【0013】
[5] [1]又は[2]に記載のイミド基を有するエポキシ樹脂を含むことを特徴とする、硬化性樹脂組成物。
【0014】
[6] 更に硬化剤を含む、[5]に記載の硬化性樹脂組成物。
【0015】
[7] [5]又は[6]に記載の硬化性樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とする、硬化物。
【0016】
[8] [5]又は[6]に記載の硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする、プリント配線板用絶縁材料。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い硬化物を得ることが可能なイミド基を有するエポキシ樹脂及びその製造方法、かかるイミド基を有するエポキシ樹脂を含む硬化性樹脂組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い硬化物及びプリント配線板用絶縁材料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明のイミド基を有するエポキシ樹脂及びその製造方法、硬化性樹脂組成物、硬化物、並びに、プリント配線板用絶縁材料を、その実施形態に基づき、詳細に例示説明する。
【0019】
(用語の説明)
本明細書において特段の記載が無い限り、以下の用語の説明を適用できる。
【0020】
本明細書において、「アルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、ネオペンチル基、1,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、(n-)ヘプチル基、(n-)オクチル基、(n-)ノニル基、(n-)デシル基、(n-)ウンデシル基、(n-)ドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、又はシクロノニル基が挙げられる。
【0021】
本明細書において、「アルコキシ基(アルキルオキシ基)」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ノニルオキシ基等が挙げられる。
【0022】
本明細書において、「ハロゲン原子」としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
【0023】
本明細書において、「一価の炭化水素基」としては、例えば、上記アルキル基が挙げられ、また、当該アルキル基中の1以上の-CH-が、互いに隣接しないよう、-O-又は-S-に置換されてもよく、あるいは当該アルキル基中の1以上の-CH-CH-が、互いに隣接しないよう、-CH=CH-に置換されてもよい。
【0024】
<イミド基を有するエポキシ樹脂及びその製造方法>
本実施形態のイミド基を有するエポキシ樹脂は、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化してなることを特徴とする。また、本実施形態のイミド基を有するエポキシ樹脂の製造方法は、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を酸化剤(B)でエポキシ化して、イミド基を有するエポキシ樹脂を生成させる工程を含むことを特徴とする。
かかる本実施形態のイミド基を有するエポキシ樹脂を硬化性樹脂組成物に配合し、該硬化性樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物は、耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い。また、本実施形態のイミド基を有するエポキシ樹脂の製造方法によれば、かかるイミド基を有するエポキシ樹脂を得ることができる。
【0025】
前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)は、不飽和基とイミド基とを有している限り特に限定されない。なお、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)の不飽和基は、酸化剤(B)でエポキシ化されることとなる。ここで、不飽和基としては、炭素-炭素二重結合を含む基(エチレン性不飽和基等)が好ましい。
【0026】
本実施形態のイミド基を有するエポキシ樹脂においては、前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)が、不飽和基を有する酸無水物(a1)を、イソシアネート基を有する化合物(a2)でイミド化してなることが好ましい。また、本実施形態のイミド基を有するエポキシ樹脂の製造方法においては、不飽和基を有する酸無水物(a1)を、イソシアネート基を有する化合物(a2)でイミド化して、前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を生成させることが好ましい。
【0027】
(イミド化)
前記不飽和基を有する酸無水物(a1)は、酸無水物基(-CO-O-CO-)と、該酸無水物基以外の不飽和基と、を有する。該不飽和基としては、炭素-炭素二重結合を含む基(エチレン性不飽和基等)が好ましい。該不飽和基を有する酸無水物(a1)の不飽和基は、前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)の不飽和基を構成することができる。
【0028】
前記不飽和基を有する酸無水物(a1)としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロイソベンゾフラン-1,3-ジオン(「メチルテトラヒドロ無水フタル酸」とも呼ばれる。)等が挙げられる。これらの中でも、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロイソベンゾフラン-1,3-ジオンが好ましい。
【0029】
前記イソシアネート基を有する化合物(a2)は、イソシアネート基(-NCO)を1個以上有し、イソシアネート基を2個以上有すること(即ち、ポリイソシアネート化合物であること)が好ましい。
【0030】
前記イソシアネート基を有する化合物(a2)としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアナトメチルエステル、リジントリイソシアネート、m-キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’-テトラメチルキシリレンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)ナフタリン、メシチリレントリイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)スルフィド、ビス(イソシアナトエチル)スルフィド、ビス(イソシアナトメチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトエチル)ジスルフィド、ビス(イソシアナトメチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)メタン、ビス(イソシアナトエチルチオ)エタン、ビス(イソシアナトメチルチオ)エタン等の脂肪族ポリイソシアネート化合物;イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルジメチルメタンイソシアネート、2,5-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、2,6-ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ-[2.2.1]-ヘプタン、3,8-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、3,9-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,8-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン、4,9-ビス(イソシアナトメチル)トリシクロデカン等の脂環族ポリイソシアネート化合物;ジフェニルスルフィド-4,4-ジイソシアネート等の芳香族ポリイソシアネート化合物;2,5-ジイソシアナトチオフェン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)チオフェン、2,5-ジイソシアナトテトラヒドロチオフェン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、3,4-ビス(イソシアナトメチル)テトラヒドロチオフェン、2,5-ジイソシアナト-1,4-ジチアン、2,5-ビス(イソシアナトメチル)-1,4-ジチアン、4,5-ジイソシアナト-1,3-ジチオラン、4,5-ビス(イソシアナトメチル)-1,3-ジチオラン等の複素環ポリイソシアネート化合物;下記一般式(1):
【化1】
[上記一般式(1)中、R12及びR13はそれぞれ独立して、水素原子又は炭素原子数1~6の一価の炭化水素基のいずれかを表し、R11はそれぞれ独立して、炭素原子数1~4のアルキル基を表し、k11は0又は1~3の整数であり、n11は1以上の整数である。]で表される繰返し構造を有するポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート;及びこれらイソシアネート化合物の誘導体であるビウレット体、イソシアヌレート体、アロファネート体、ポリオールアダクト体等を挙げることができる。前記イソシアネート基を有する化合物(a2)は、1種単独でも、2種以上を併用してもよい。
これらの中でも、イソシアネート基を有する化合物(a2)としては、イソホロンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート体を用いることが好ましい。
【0031】
前記イミド化は、前記不飽和基を有する酸無水物(a1)の酸無水物基(-CO-O-CO-)と、前記イソシアネート基を有する化合物(a2)のイソシアネート基(-NCO)との間で起こる。例えば、イソシアネート基を有する化合物(a2)がR-NCOで表される場合、生成するイミド基は-CO-NR-CO-で表すことができる。
【0032】
前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)は、上述の不飽和基を有する酸無水物(a1)と上述のイソシアネート基を有する化合物(a2)から直接イミド結合を形成させることにより、安定性等に問題のあるポリアミック酸中間体を経ずに、再現性良く製造できる。また、得られる不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)は、溶解性が良好で、透明性に優れる。
【0033】
前記不飽和基を有する酸無水物(a1)の酸無水物基とイソシアネート基を有する化合物(a2)中のイソシアネート基とが反応すると、イミド基が形成されるが、該不飽和基を有する酸無水物(a1)とイソシアネート基を有する化合物(a2)との反応においては、一部アミド基が形成されてもよい。
【0034】
前記不飽和基を有する酸無水物(a1)と、前記イソシアネート基を有する化合物(a2)とを反応させて、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を得る際には、ジメチルアセトアミド(DMAC)等の窒素原子を含む溶媒(極性溶媒)中で反応させることも可能ではあるが、石油系溶剤や、窒素原子及び硫黄原子のいずれも含まない極性溶剤中で反応させることが好ましい。窒素原子又は硫黄原子を含有した極性溶剤が存在すると、環境上の問題が生じ易く、また、不飽和基を有する酸無水物(a1)とイソシアネート基を有する化合物(a2)との反応に於いて、分子の成長が妨げられ易くなる。かかる分子の切断は、組成物とした場合に物性が低下し易く、更に「はじき」等の塗膜欠陥が生じ易くなる。
【0035】
前記石油系溶剤としては、トルエン、キシレンやその他高沸点の芳香族溶剤等や、ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族及び脂環族溶剤を使用することも可能である。
【0036】
前記窒素原子及び硫黄原子のいずれも含まない極性溶剤は、非プロトン性溶剤であることがより好ましい。例えばクレゾール系溶剤は、プロトンを有するフェノール性溶剤であるが、環境面でやや好ましくなく、イソシアネート基を有する化合物(a2)と反応して分子成長を阻害し易い。また、クレゾール溶剤は、イソシアネート基との反応を起こしブロック化剤となり易い。さらにブロック化剤がはずれる場合、使用機器や他の材料の汚染を起こしやすい。また、アルコール系溶剤については、不飽和基を有する酸無水物(a1)やイソシアネート基を有する化合物(a2)と反応するため好ましくない。非プロトン性溶剤としては、例えば、水酸基を有しないエーテル系、水酸基を有しないエステル系、水酸基を有しないケトン系等の溶剤が挙げられる。水酸基を有しないエステル系の溶剤としては、例えば、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル等が挙げられる。水酸基を有しないケトン系の溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等が挙げられる。このうち水酸基を有しないエーテル系溶剤が特に好ましい。
【0037】
前記水酸基を有しないエーテル系溶剤は、弱い極性を有し、上述の不飽和基を有する酸無水物(a1)とイソシアネート基を有する化合物(a2)との反応において優れた反応場を提供する。かかるエーテル系溶剤としては、公知慣用のものが使用可能であるが、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル等のエチレングリコールジアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル等のポリエチレングリコールジアルキルエーテル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のポリエチレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジブチルエーテル等のプロピレングリコールジアルキルエーテル類;ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールジエチルエーテル、トリプロピレングリコールジブチルエーテル等のポリプロピレングリコールジアルキルエーテル類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、トリプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート等のポリプロピレングリコールモノアルキルエーテルアセテート類;あるいは低分子のエチレン-プロピレン共重合体の如き共重合ポリエーテルグリコールのジアルキルエーテルや、共重合ポリエーテルグリコールのモノアセテートモノアルキルエーテル類;あるいはこうしたポリエーテルグリコールのアルキルエステル類;ポリエーテルグリコールのモノアルキルエステルモノアルキルエーテル類等である。
【0038】
前記イミド化反応の反応温度は、好ましくは50℃~250℃の範囲、特に好ましくは70℃~180℃の範囲である。このような反応温度にすることにより、反応速度が速くなり、且つ、副反応や分解等が起こり難い効果を奏する。
【0039】
前記イミド化反応の進行は、赤外スベクトルや、酸価、イソシアネート基の定量等の分析手段により追跡することができる。例えば、赤外スペクトルでは、イソシアネート基の特性吸収である2270cm-1が反応とともに減少し、さらに1860cm-1と850cm-1に特性吸収を有する酸無水物基が減少する。一方、1780cm-1と1720cm-1にイミド基の吸収が増加する。反応は、目的とする酸価、粘度、分子量等を確認しながら、温度を下げて終了させても良い。しかしながら、経時の安定性等の面からイソシアネート基が消失するまで反応を続行させることがより好ましい。また、反応中や反応後は、合成される樹脂の物性を損なわない範囲で、触媒、酸化防止剤、界面活性剤、その他溶剤等を添加してもよい。ここで、触媒としては、トリエチルアミン等の脂肪族第3級アミン、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド等の4級アンモニウム塩等が挙げられる。また、酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系の酸化防止剤や、ヒンダードアミン系の酸化防止剤等が挙げられる。また、界面活性剤としては、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等が挙げられる。
【0040】
前記イミド化反応に供される前記不飽和基を有する酸無水物(a1)の量と、前記イソシアネート基を有する化合物(a2)の量との割合は、前記不飽和基を有する酸無水物(a1)の酸無水物基のモル数(M)と、前記イソシアネート基を有する化合物(a2)のイソシアネート基のモル数(N)との比〔(M)/(N)〕が0.5~3となるように反応させるのが、反応系中の極性が高くなり反応が潤滑に進行する、イソシアネート基が残存せず、得られる不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)の安定性が良好である、不飽和基を有する酸無水物(a1)の残存量も少なく再結晶等の分離の問題も起こりにくい等の理由により好ましい。中でも0.8~2がより好ましく、1.0~1.5がさらに好ましい。なお、酸無水物基とは、カルボン酸2分子が分子内脱水縮合して得られた-CO-O-CO-基を指す。
【0041】
また、前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)は、分子量分布が3.0以下の範囲であることが好ましく、1.5~2.5の範囲であることが更に好ましく、1.5~2.0の範囲であることが特に好ましい。
【0042】
(エポキシ化)
前記エポキシ化(エポキシ化工程)は、原料化合物としての不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)を、酸化剤(B)が添加された反応液中で行うことが好ましく、酸化剤(B)、タングステン化合物、含窒素化合物、リン化合物が添加された反応液中で行うことが更に好ましい。
【0043】
前記酸化剤(B)は、前記不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A)の不飽和基をエポキシ化できる限り特に限定されない。かかる酸化剤(B)としては、過酸化水素、過ギ酸、過酢酸、過プロピオン酸、トリフルオロ過酢酸、過安息香酸、m-クロロ過安息香酸、モノペルオキシフタル酸、過マンガン酸等が挙げられる。これらの中でも、過酸化水素が好ましい。
【0044】
前記過酸化水素は、過酸化水素水溶液(過酸化水素水)として反応液中に添加されることが好ましい。過酸化水素水における過酸化水素濃度は、特に限定されず、例えば、1質量%以上であってよく、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上である。また、過酸化水素水における過酸化水素濃度は、例えば、80質量%以下であってよく、好ましくは70質量%以下、より好ましくは60質量%以下である。工業的な生産性の観点、及び分離の際のエネルギーコストの観点からは、過酸化水素濃度は高いほうが好ましいが、一方で過度に高濃度の過酸化水素水を用いないほうが経済性、安全性等の観点では好ましい。
【0045】
前記過酸化水素の添加量は、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))が有する不飽和基の合計に対して、例えば0.5当量以上であってよく、好ましは0.8当量以上である。また、過酸化水素の添加量は、原料化合物が有する不飽和基の合計に対して、例えば10当量以下であってよく、好ましくは2当量以下である。
【0046】
前記タングステン化合物としては、反応液中で、タングステン酸アニオン及びタングステン系ヘテロポリ酸アニオンからなる群より選択される少なくとも一種を生成できる化合物であることが好ましい。即ち、反応液は、タングステン化合物の添加により、タングステン酸アニオン及びタングステン系ヘテロポリ酸アニオンからなる群より選択される少なくとも一種を含んでいることが好ましい。
【0047】
前記タングステン化合物としては、例えば、タングステン酸、三酸化タングステン、三硫化タングステン、六塩化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム二水和物、タングステン酸ナトリウム二水和物等が挙げられ、タングステン酸、三酸化タングステン、リンタングステン酸、タングステン酸ナトリウム二水和物等が好ましい。タングステン化合物は、一種を単独で使用しても、二種以上を混合使用してもよい。
【0048】
前記タングステン化合物の添加量は、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))が有する不飽和基の合計に対して、例えば0.0001mol%以上であってよく、好ましくは0.01mol%以上である。タングステン化合物の添加量を多くすることでエポキシ化反応の反応性が高くなる傾向がある。また、タングステン化合物の添加量は、原料化合物が有する不飽和基の合計に対して、例えば20mol%以下であってよく、好ましくは10mol%以下である。タングステン化合物の添加量をこの範囲とすることで、経済性良くイミド基を有するエポキシ樹脂が得られる。
【0049】
前記含窒素化合物としては、反応液中でアンモニウムカチオンを生成できる化合物であることが好ましい。即ち、反応液は、含窒素化合物の添加により、アンモニウムカチオンを含んでいることが好ましい。含窒素化合物は、一種を単独で使用しても、二種以上を混合使用してもよい。
【0050】
一態様において、前記含窒素化合物は、第四級アンモニウム塩であってよい。第四級アンモニウム塩としては、窒素原子に結合する基の炭素数の合計が8以上(より好ましくは15以上)であるものが好ましく、当該合計は、例えば36以下であってよい。
【0051】
前記第四級アンモニウム塩としては、例えば、テトラへキシルアンモニウム塩、テトラ-n-オクチルアンモニウム塩、メチルトリ-n-オクチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、エチルトリ-n-オクチルアンモニウム塩、セチルピリジニウムアンモニウム塩等が挙げられ、メチルトリ-n-オクチルアンモニウム塩が好ましい。また、第四級アンモニウム塩の対アニオンは特に限定されず、例えば、第四級アンモニウム塩は、硫酸水素塩、硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩等であってよく、好ましくは硫酸水素塩である。
【0052】
他の一態様において、前記含窒素化合物は、第三級アミンであってよい。第三級アミンは、反応液中でプロトン(H)と結合してアンモニウムカチオンを生成できる。第三級アミンと結合するプロトンは、例えばリン化合物由来のプロトンであってよい。また、本態様では、例えば、反応液に酸性物質が更に添加されていてよく、当該酸性物質由来のプロトンと第三級アミンとが結合してアンモニウムカチオンが生成されていてもよい。
【0053】
前記第三級アミンとしては、窒素原子に結合する基の炭素数の合計が6以上(より好ましくは9以上)であるものが好ましく、当該合計は、例えば48以下であってよい。
【0054】
前記第三級アミンとしては、例えば、トリアルキルアミン、トリベンジルアミン等が挙げられ、トリアルキルアミンが好ましい。
【0055】
前記第三級アミンの具体例としては、トリオクチルアミン、トリベンジルアミン等が挙げられる。
【0056】
前記酸性物質は、有機酸又は無機酸であってよく、無機酸が好ましい。酸性物質としては、例えば、硫酸、硝酸、酢酸等が挙げられ、これらのうち硫酸を特に好適に用いることができる。酸性物質は、一種を単独で使用しても、二種以上を混合使用してもよい。
【0057】
酸性物質の添加量は、第三級アミンに対して、例えば0.1mol%以上であってよく、0.5mol%以上であることが好ましい。
【0058】
前記含窒素化合物の添加量は、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))が有する不飽和基の合計に対して、例えば0.0001mol%以上であってよく、好ましくは0.01mol%以上である。また、含窒素化合物の添加量は、原料化合物が有する不飽和基の合計に対して、例えば20mol%以下であってよく、好ましくは10mol%以下である。
【0059】
前記リン化合物としては、P(=O)(OH)で表される部分構造を有する化合物、又は、反応液中でP(=O)(OH)で表される部分構造を有する化合物に変換される化合物が好ましい。リン化合物は、一種を単独で使用しても、二種以上を混合使用してもよい。
【0060】
前記リン化合物としては、例えば、リン酸、亜リン酸、及び-P(=O)(OH)で表される基を有する有機ホスホン酸等が挙げられる。
【0061】
前記有機ホスホン酸としては、例えば、下記一般式(2):
【化2】
[一般式(2)中、zは1~5の整数を示し、Rはz価の有機基を表す。]で表される化合物が挙げられる。
【0062】
における有機基は、例えば、炭化水素基であってよく、当該炭化水素基は置換基を有していてもよい。炭化水素基としては、飽和炭化水素基、不飽和炭化水素基が挙げられる。飽和炭化水素基及び不飽和炭化水素基は、それぞれ直鎖状、分岐状又は環状であってよい。炭化水素基の炭素数は、例えば1~10であってよい。炭化水素基が有していてよい置換基としては、例えば、アミノ基が挙げられる。
【0063】
前記有機ホスホン酸の具体例としては、フェニルホスホン酸、メチルホスホン酸、α-アミノメチルホスホン酸、メチレンジホスホン酸、エチレンジホスホン酸等が挙げられ、これらのうち、メチレンジホスホン酸、エチレンジホスホン酸が好ましい。
【0064】
前記リン化合物の添加量は、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))が有する不飽和基の合計に対して、例えば0.0001mol%以上であってよく、好ましくは0.01mol%以上である。また、リン化合物の添加量は、原料化合物が有す不飽和基の合計に対して、例えば20mol%以下であってよく、好ましくは10mol%以下である。
【0065】
前記エポキシ化工程では、反応液中に上記以外の成分が更に添加されていてもよい。例えば、本実施形態では、反応液中に硫酸塩が更に添加されていてもよい。硫酸塩としては、例えば、硫酸リチウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アンモニウム等が挙げられ、これらのうち、硫酸アンモニウムが好ましい。硫酸塩は、一種を単独で使用しても、二種以上を混合使用してもよい。
【0066】
前記硫酸塩の添加量は、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))が有する不飽和基の合計に対して、例えば1mol%以上であってよく、好ましくは10mol%以上である。また、硫酸塩の添加量は、原料化合物が有する不飽和基の合計に対して、例えば50mol%以下であってよく、好ましくは20mol%以下である。
【0067】
前記反応液の溶媒は、特に限定されず、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))を溶解可能であり、且つ、エポキシ化工程におけるエポキシ化反応を阻害しない溶媒であればよい。溶媒は、一種を単独で使用しても、二種以上を混合使用してもよい。
【0068】
前記溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、2,6-ジメチルシクロオクタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、クメン等の芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)等のエーテル系溶媒;アセトン、2-ブタノン、シクロヘキサノン等のケトン系溶媒;γ-ブチロラクタム、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;酢酸エチル等のエステル系溶媒が挙げられる。この中でも、芳香族炭化水素系溶媒を好適に使用でき、トルエン、キシレンを特に好適に使用できる。
【0069】
前記溶媒の使用量は、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))1質量部に対して、例えば0.01質量部以上であってよく、0.1質量部以上であることが好ましい。また、溶媒の使用量は、原料化合物1質量部に対して、例えば200質量部以下であってよく、30質量部以下であることが好ましい。
【0070】
前記エポキシ化工程では、エポキシ化反応により、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))中の不飽和基の一部又は全部がエポキシ化される。
【0071】
前記エポキシ化反応の反応温度は、例えば5℃以上であってよく、好ましくは30℃以上である。また、エポキシ化反応の反応温度は、例えば100℃以下であってよく、好ましくは90℃以下、より好ましくは80℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
【0072】
前記エポキシ化反応の反応圧力は、常圧、加圧、減圧のいずれでもよいが、常圧であることが好ましい。
【0073】
前記エポキシ化反応の反応時間は、エポキシの加水分解反応等の副反応を抑制する観点から、例えば40時間以内であることが好ましく、20時間以内であることがより好ましい。また、エポキシ化反応の反応時間の下限は特に限定されず、所望の反応進行度に応じて適宜設定してよく、例えば0.5時間以上であってよく、3.0時間以上であることが好ましい。
【0074】
前記エポキシ化工程では、過剰な過酸化水素をクエンチさせるため、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム等の還元剤、水素化ナトリウム、水素化カリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム等の塩基などで、エポキシ化反応後の反応液を処理してよい。
【0075】
また、前記エポキシ化工程では、エポキシ化反応後の反応液からイミド基を有するエポキシ樹脂を回収し、精製してよい。精製方法は特に限定されず、一般的な精製方法を採用できる。精製方法としては、例えば、含窒素化合物、イミド基を有するエポキシ樹脂の加水分解生成物、着色成分等の不純物を除去できる方法が好ましい。精製方法の具体例としては、例えば、吸着材により不純物を吸着除去する方法が挙げられ、吸着材としては活性炭、シリカゲル等の金属酸化物等が挙げられる。不純物の吸着除去は、例えば、イミド基を有するエポキシ樹脂を含有する溶液中に吸着材を分散させた後にろ過する方法、カラム等に吸着材を敷き詰めて、イミド基を有するエポキシ樹脂を含有する溶液を通液させる方法、等が挙げられる。
【0076】
前記エポキシ化工程では、例えば、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))中の不飽和基を全てエポキシ化して、イミド基を有するエポキシ樹脂を得ることができる。
【0077】
また、前記エポキシ化工程では、例えば、原料化合物(不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A))中の不飽和基の一部をエポキシ化して、不飽和基が残存したイミド基を有するエポキシ樹脂を得てもよい。このとき、イミド基を有するエポキシ樹脂は、一種の化合物(樹脂)であってよく、エポキシ化率の異なる複数の化合物(樹脂)の混合物であってもよい。
【0078】
前記エポキシ化工程では、例えば、過酸化水素の添加量、タングステン化合物の添加量、反応条件(反応温度、反応圧力、反応時間等)等を適宜変更することで、エポキシ化率を制御できる。
【0079】
前記エポキシ化工程において、不飽和基の転化率は、例えば10%以上であってよく、好ましくは20%以上、より好ましくは30%以上である。また、不飽和基の転化率は、例えば100%であってよく、不飽和基が残存したイミド基を有するエポキシ樹脂を得る観点からは、90%以下であることが好ましく、80%以下であることが好ましい。なお、不飽和基の転化率は、以下の計算式で求められる。
不飽和基の転化率(%)=(1-未反応の不飽和基の合計量(mol)/原料化合物の不飽和基の合計量(mol))×100
【0080】
本実施形態に係る製造方法で得られるイミド基を有するエポキシ樹脂は、上述の実施形態に係るイミド基を有するエポキシ樹脂であってよい。
【0081】
本実施形態に係る製造方法では、エピクロロヒドリン等の含塩素化合物を用いずにイミド基を有するエポキシ樹脂を製造できる。このため、本実施形態に係る製造方法で得られるイミド基を有するエポキシ樹脂は、含塩素量をゼロ又は極少量にできる。イミド基を有するエポキシ樹脂の含塩素量は、例えば300ppm以下であることが好ましく、100ppm以下であることがより好ましく、0であってもよい。
【0082】
本実施形態のイミド基を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量は、120~800g/eqであることが好ましく、300~700g/eqであることがより好ましい。イミド基を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量が120g/eq以上であると、得られる硬化物の誘電特性により優れることから好ましく、一方、イミド基を有するエポキシ樹脂のエポキシ当量が800g/eq以下であると、得られる硬化物の耐熱性と誘電正接のバランスに優れることから好ましい。
【0083】
<硬化性樹脂組成物>
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上述のイミド基を有するエポキシ樹脂を含むことを特徴とする。本実施形態の硬化性樹脂組成物は、硬化させることで、耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い硬化物を得ることが可能である。
【0084】
(他のエポキシ樹脂)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上述のイミド基を有するエポキシ樹脂に加えて、他のエポキシ樹脂を含んでもよい。かかる他のエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、テトラメチルビフェニル型エポキシ樹脂、ポリヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、トリフェニルメタン型エポキシ樹脂、テトラフェニルエタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂、フェノールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトールノボラック型エポキシ樹脂、ナフトールアラルキル型エポキシ樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック型エポキシ樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂型エポキシ樹脂、ビフェニル変性ノボラック型エポキシ樹脂等が挙げられる。これらのエポキシ樹脂の中でも、特に難燃性に優れる硬化物が得られる点においては、テトラメチルビフェノール型エポキシ樹脂、ビフェニルアラルキル型エポキシ樹脂、ポリヒドロキシナフタレン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂を用いることが好ましく、誘電特性に優れる硬化物が得られる点においては、ジシクロペンタジエン-フェノール付加反応型エポキシ樹脂が好ましい。また、その他のエポキシ樹脂(C)を併用する場合、本発明のエポキシ樹脂とエポキシ樹脂(C)との合計100質量部に対し、本発明のエポキシ樹脂を50~98質量部で含むことが、本発明の効果を容易に発現することができる観点から好ましいものである。
【0085】
(硬化剤)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、更に硬化剤を含むことが好ましい。硬化性樹脂組成物が硬化剤を含むことで、硬化性樹脂組成物の硬化性が向上する。
前記硬化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、アミン系化合物、酸無水物系化合物、フェノール性水酸基含有化合物、アミド系化合物、カルボン酸系化合物等が挙げられる。
【0086】
前記アミン系化合物としては、例えば、トリメチレンジアミン、エチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、トリエチレンジアミン、ジプロピレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルプロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジブチルアミノプロピルアミン、1,4-ジアザビシクロ(2,2,2)オクタン(トリエチレンジアミン)、ポリオキシエチレンジアミン、ポリオキシプロピレンジアミン、ビス(2-ジメチルアミノエチル)エーテル、ジメチルアミノエトキシエトキシエタノール、トリエタノールアミン、ジメチルアミノヘキサノール等の脂肪族アミン化合物;ピペリジン、ピペラジン、メンタンジアミン、イソホロンジアミン、メチルモルホリン、エチルモルホリン、N,N’,N’’-トリス(ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ-s-トリアジン、3,9-ビス(3-アミノプロピル)-2,4,8,10-テトラオキシスピロ(5,5)ウンデカンアダクト、N-アミノエチルピペラジン、トリメチルアミノエチルピペラジン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、N,N’-ジメチルピペラジン、1,8-ジアザビシクロ-[5.4.0]-ウンデセン(DBU)等の脂環式及び複素環式アミン化合物;o-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、p-フェニレンジアミン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホン、ベンジルメチルアミン、ジメチルベンジルアミン、m-キシレンジアミン、ピリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン、ピコリン、α-メチルベンジルメチルアミン等の芳香族アミン化合物;エポキシ化合物付加ポリアミン、マイケル付加ポリアミン、マンニッヒ付加ポリアミン、チオ尿素付加ポリアミン、ケトン封鎖ポリアミン、ジシアンジアミド、グアニジン、有機酸ヒドラジド、ジアミノマレオニトリル、アミンイミド、三フッ化ホウ素-ピペリジン錯体、三フッ化ホウ素-モノエチルアミン錯体等の変性アミン化合物等が挙げられる。
【0087】
前記酸無水物系化合物としては、無水フタル酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸、無水マレイン酸、無水マレイン酸ポリプロピレングリコール、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、無水メチルナジック酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸等が挙げられる。
【0088】
前記フェノール性水酸基含有化合物としては、フェノールノボラック樹脂、クレゾールノボラック樹脂、芳香族炭化水素ホルムアルデヒド樹脂変性フェノール樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール付加型樹脂、フェノールアラルキル樹脂(ザイロック樹脂)、ナフトールアラルキル樹脂、トリメチロールメタン樹脂、テトラフェニロールエタン樹脂、ナフトールノボラック樹脂、ナフトール-フェノール共縮ノボラック樹脂、ナフトール-クレゾール共縮ノボラック樹脂、ビフェニル変性フェノール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価フェノール化合物)、ビフェニル変性ナフトール樹脂(ビスメチレン基でフェノール核が連結された多価ナフトール化合物)、アミノトリアジン変性フェノール樹脂(メラミン、ベンゾグアナミンなどでフェノール核が連結された多価フェノール化合物)やアルコキシ基含有芳香環変性ノボラック樹脂(ホルムアルデヒドでフェノール核及びアルコキシ基含有芳香環が連結された多価フェノール化合物)等の多価フェノール化合物が挙げられる。
【0089】
前記アミド系化合物としては、例えばジシアンジアミドやポリアミドアミン等が挙げられる。前記ポリアミドアミンは、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸等の脂肪族ジカルボン酸や、脂肪酸、ダイマー酸等のカルボン酸化合物と、脂肪族ポリアミンやポリオキシアルキレン鎖を有するポリアミン等を反応させて得られるものが挙げられる。
【0090】
前記カルボン酸系化合物としては、カルボン酸末端ポリエステル、ポリアクリル酸、マレイン酸変性ポリプロピレングリコール等のカルボン酸ポリマー等が挙げられる。
【0091】
前記硬化剤を用いる場合、硬化剤は1種類のみで用いてもよく、2種以上を混合してもよい。尚、アンダーフィル材等の用途や一般塗料用途においては、前記アミン系化合物、カルボン酸系化合物、及びまたは酸無水物系化合物を用いることが好ましい。また、接着剤やフレキシブル配線基板用途においては、アミン系化合物、特にジシアンジアミドが作業性、硬化性、長期安定性の点から好ましい。また、半導体封止材料用途においては、硬化物の耐熱性の点から固形タイプのフェノール性水酸基含有化合物が好ましい。
【0092】
前記エポキシ樹脂(他のエポキシ樹脂を含む場合は、イミド基を有するエポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計)と硬化剤との配合割合は、特に限定されるものではないが、硬化性に優れる観点より、エポキシ樹脂中のエポキシ基の合計1当量に対して、前記硬化剤中の活性基の合計が0.8~1.2当量となる割合であることが好ましい。
【0093】
(他の熱硬化性樹脂)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上述のイミド基を有するエポキシ樹脂に加えて、他の熱硬化性樹脂を含んでもよい。かかる他の熱硬化性樹脂としては、例えば、シアネートエステル樹脂、ベンゾオキサジン構造を有する樹脂、マレイミド化合物、活性エステル樹脂、ビニルベンジル化合物、アクリル化合物、スチレンとマレイン酸無水物の共重合物等が挙げられる。前記した他の熱硬化性樹脂を併用する場合、その使用量は、硬化性樹脂組成物100質量部中1~50質量部の範囲であることが好ましい。
【0094】
(硬化促進剤)
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上述のイミド基を有するエポキシ樹脂のみでも硬化し得るが、硬化促進剤を併用してもよい。該硬化促進剤としては、特に制限されないが、リン系硬化促進剤、アミン系硬化促進剤、イミダゾール系硬化促進剤、グアニジン系硬化促進剤、尿素系硬化促進剤等が挙げられる。硬化促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0095】
前記リン系硬化促進剤としては、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリパラトリルホスフィン、ジフェニルシクロヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等の有機ホスフィン化合物;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の有機ホスファイト化合物;エチルトリフェニルホスホニウムブロミド、ベンジルトリフェニルホスホニウムクロリド、ブチルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラフェニルボレート、テトラフェニルホスホニウムテトラ-p-トリルボレート、トリフェニルホスフィントリフェニルボラン、テトラフェニルホスホニウムチオシアネート、テトラフェニルホスホニウムジシアナミド、ブチルフェニルホスホニウムジシアナミド、テトラブチルホスホニウムデカン酸塩等のホスホニウム塩等が挙げられる。
【0096】
前記アミン系硬化促進剤としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-ウンデセン-7(DBU)、1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]-ノネン-5(DBN)等が挙げられる。
【0097】
前記イミダゾール系硬化促進剤としては、2-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾリウムトリメリテート、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾリウムトリメリテート、2-フェニルイミダゾールイソシアヌル酸付加物、2-フェニル-4,5-ジヒドロキシメチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチル-5ヒドロキシメチルイミダゾール、2,3-ジヒドロ-1H-ピロロ[1,2-a]ベンズイミダゾール、1-ドデシル-2-メチル-3-ベンジルイミダゾリウムクロライド、2-メチルイミダゾリン等が挙げられる。
【0098】
前記グアニジン系硬化促進剤としては、ジシアンジアミド、1-メチルグアニジン、1-エチルグアニジン、1-シクロヘキシルグアニジン、1-フェニルグアニジン、ジメチルグアニジン、ジフェニルグアニジン、トリメチルグアニジン、テトラメチルグアニジン、ペンタメチルグアニジン、1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、7-メチル-1,5,7-トリアザビシクロ[4.4.0]デカ-5-エン、1-メチルビグアニド、1-エチルビグアニド、1-ブチルビグアニド、1-シクロヘキシルビグアニド、1-アリルビグアニド、1-フェニルビグアニド等が挙げられる。
【0099】
前記尿素系硬化促進剤としては、3-フェニル-1,1-ジメチル尿素、3-(4-メチルフェニル)-1,1-ジメチル尿素、クロロフェニル尿素、3-(4-クロロフェニル)-1,1-ジメチル尿素、3-(3,4-ジクロルフェニル)-1,1-ジメチル尿素等が挙げられる。
【0100】
上述の硬化促進剤のうち、2-エチル-4-メチルイミダゾール、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)を用いることが好ましい。
【0101】
前記硬化促進剤を用いる場合、本実施形態の硬化性樹脂組成物における硬化促進剤の含有量は、前記エポキシ樹脂(他のエポキシ樹脂を含む場合は、イミド基を有するエポキシ樹脂と他のエポキシ樹脂の合計)100質量部に対して、0.01~5質量部であることが好ましい。硬化促進剤の含有量が0.01質量部以上であると、より確実に硬化性を高めることができる。一方、硬化促進剤の含有量が5質量部以下であると、絶縁信頼性を十分良好に保持することができる。同様の観点から、硬化促進剤の含有量は、前記エポキシ樹脂100質量部に対して、0.1質量部以上であることがより好ましく、また、5質量部以下であることがより好ましい。
【0102】
(難燃剤)
また、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、高い難燃性が求められる用途に用いる場合には、難燃剤を含んでもよい。該難燃剤としては、実質的にハロゲン原子を含有しない非ハロゲン系難燃剤が好ましい。
【0103】
前記非ハロゲン系難燃剤としては、例えば、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、シリコーン系難燃剤、無機系難燃剤、有機金属塩系難燃剤等が挙げられ、それらの使用に際しても何等制限されるものではなく、単独で使用しても、同一系の難燃剤を複数用いても良く、また、異なる系の難燃剤を組み合わせて用いることも可能である。
【0104】
前記リン系難燃剤は、無機系、有機系のいずれも使用することができる。無機系化合物としては、例えば、赤リン、リン酸一アンモニウム、リン酸二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ポリリン酸アンモニウム等のリン酸アンモニウム類、リン酸アミド等の無機系含窒素リン化合物が挙げられる。
【0105】
また、前記赤リンは、加水分解等の防止を目的として表面処理が施されていることが好ましく、表面処理方法としては、例えば、(i)水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化チタン、酸化ビスマス、水酸化ビスマス、硝酸ビスマス又はこれらの混合物等の無機化合物で被覆処理する方法、(ii)水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化チタン等の無機化合物、及びフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂の混合物で被覆処理する方法、(iii)水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、水酸化亜鉛、水酸化チタン等の無機化合物の被膜の上にフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂で二重に被覆処理する方法等が挙げられる。
【0106】
前記有機リン系化合物は、例えば、リン酸エステル化合物、ホスホン酸化合物、ホスフィン酸化合物、ホスフィンオキシド化合物、ホスホラン化合物、有機系含窒素リン化合物等の汎用有機リン系化合物の他、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,5-ジヒドロオキシフェニル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド、10-(2,7-ジヒドロオキシナフチル)-10H-9-オキサ-10-ホスファフェナントレン-10-オキシド等の環状有機リン化合物及びそれをエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の化合物と反応させた誘導体等が挙げられる。
【0107】
前記リン系難燃剤の配合量としては、リン系難燃剤の種類、樹脂組成物の他の成分、所望の難燃性の程度によって適宜選択されるものであるが、例えば、非ハロゲン系難燃剤及びその他の充填材や添加剤等全てを配合した樹脂組成物100質量部中、赤リンを非ハロゲン系難燃剤として使用する場合には0.1質量部~2.0質量部の範囲で配合することが好ましく、有機リン化合物を用いる場合には同様に0.1質量部~10.0質量部の範囲で配合することが好ましく、0.5質量部~6.0質量部の範囲で配合することがより好ましい。
【0108】
また、前記リン系難燃剤を使用する場合、該リン系難燃剤にハイドロタルサイト、水酸化マグネシウム、ホウ素化合物、酸化ジルコニウム、黒色染料、炭酸カルシウム、ゼオライト、モリブデン酸亜鉛、活性炭等を併用してもよい。
【0109】
前記窒素系難燃剤は、例えば、トリアジン化合物、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物、フェノチアジン等が挙げられ、トリアジン化合物、シアヌル酸化合物、イソシアヌル酸化合物が好ましい。
【0110】
前記トリアジン化合物は、例えば、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、メロン、メラム、サクシノグアナミン、エチレンジメラミン、ポリリン酸メラミン、トリグアナミン等の他、例えば、(1)硫酸グアニルメラミン、硫酸メレム、硫酸メラム等の硫酸アミノトリアジン化合物、(2)フェノール、クレゾール、キシレノール、ブチルフェノール、ノニルフェノール等のフェノール類と、メラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、ホルムグアナミン等のメラミン類及びホルムアルデヒドとの共縮合物、(3)前記(2)の共縮合物とフェノールホルムアルデヒド縮合物等のフェノール樹脂類との混合物、(4)前記(2)、(3)を更に桐油、異性化アマニ油等で変性したもの等が挙げられる。
【0111】
前記シアヌル酸化合物は、例えば、シアヌル酸、シアヌル酸メラミン等を挙げることができる。
【0112】
前記窒素系難燃剤の配合量としては、窒素系難燃剤の種類、樹脂組成物の他の成分、所望の難燃性の程度によって適宜選択されるものであるが、例えば、非ハロゲン系難燃剤及びその他の充填材や添加剤等全てを配合した樹脂組成物100質量部中、0.05~10質量部の範囲で配合することが好ましく、0.1質量部~5質量部の範囲で配合することがより好ましい。
【0113】
また、前記窒素系難燃剤を使用する際、金属水酸化物、モリブデン化合物等を併用してもよい。
【0114】
前記シリコーン系難燃剤は、ケイ素原子を含有する有機化合物であれば特に制限がなく使用でき、例えば、シリコーンオイル、シリコーンゴム、シリコーン樹脂等が挙げられる。前記シリコーン系難燃剤の配合量としては、シリコーン系難燃剤の種類、樹脂組成物の他の成分、所望の難燃性の程度によって適宜選択されるものであるが、例えば、非ハロゲン系難燃剤及びその他の充填材や添加剤等全てを配合した樹脂組成物100質量部中、0.05~20質量部の範囲で配合することが好ましい。また前記シリコーン系難燃剤を使用する際、モリブデン化合物、アルミナ等を併用してもよい。
【0115】
前記無機系難燃剤は、例えば、金属水酸化物、金属酸化物、金属炭酸塩化合物、金属粉、ホウ素化合物、低融点ガラス等が挙げられる。
【0116】
前記金属水酸化物は、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、ドロマイト、ハイドロタルサイト、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化ジルコニウム等を挙げることができる。
【0117】
前記金属酸化物は、例えば、モリブデン酸亜鉛、三酸化モリブデン、スズ酸亜鉛、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化鉄、酸化チタン、酸化マンガン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化コバルト、酸化ビスマス、酸化クロム、酸化ニッケル、酸化銅、酸化タングステン等を挙げることができる。
【0118】
前記金属炭酸塩化合物は、例えば、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、塩基性炭酸マグネシウム、炭酸アルミニウム、炭酸鉄、炭酸コバルト、炭酸チタン等を挙げることができる。
【0119】
前記金属粉は、例えば、アルミニウム、鉄、チタン、マンガン、亜鉛、モリブデン、コバルト、ビスマス、クロム、ニッケル、銅、タングステン、スズ等を挙げることができる。
【0120】
前記ホウ素化合物は、例えば、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、ホウ酸、ホウ砂等を挙げることができる。
【0121】
前記低融点ガラスは、例えば、シープリー(ボクスイ・ブラウン社)、水和ガラスSiO-MgO-HO、PbO-B系、ZnO-P-MgO系、P-B-PbO-MgO系、P-Sn-O-F系、PbO-V-TeO系、Al-HO系、ホウ珪酸鉛系等のガラス状化合物を挙げることができる。
【0122】
前記無機系難燃剤の配合量としては、無機系難燃剤の種類、樹脂組成物の他の成分、所望の難燃性の程度によって適宜選択されるものであるが、例えば、非ハロゲン系難燃剤及びその他の充填剤や添加剤等全てを配合した樹脂組成物100質量部中、0.05質量部~20質量部の範囲で配合することが好ましく、0.5質量部~15質量部の範囲で配合することがより好ましい。
【0123】
前記有機金属塩系難燃剤は、例えば、フェロセン、アセチルアセトナート金属錯体、有機金属カルボニル化合物、有機コバルト塩化合物、有機スルホン酸金属塩、金属原子と芳香族化合物又は複素環化合物がイオン結合又は配位結合した化合物等が挙げられる。
【0124】
前記有機金属塩系難燃剤の配合量としては、有機金属塩系難燃剤の種類、樹脂組成物の他の成分、所望の難燃性の程度によって適宜選択されるものであるが、例えば、非ハロゲン系難燃剤及びその他の充填材や添加剤等全てを配合した樹脂組成物100質量部中、0.005質量部~10質量部の範囲で配合することが好ましい。
【0125】
(無機充填剤)
本実施形態の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて無機充填剤を配合することができる。前記無機充填剤は、例えば、溶融シリカ、結晶シリカ、アルミナ、窒化珪素、水酸化アルミ等が挙げられる。前記無機充填剤の配合量を特に大きくする場合は、溶融シリカを用いることが好ましい。前記溶融シリカは破砕状、球状のいずれでも使用可能であるが、溶融シリカの配合量を高め且つ成形材料の溶融粘度の上昇を抑制するためには、球状のものを主に用いる方が好ましい。更に球状シリカの配合量を高めるためには、球状シリカの粒度分布を適当に調整することが好ましい。その充填率は、難燃性を考慮して、高い方が好ましく、エポキシ樹脂組成物の全質量に対して20質量%以上が特に好ましい。また、導電ペースト等の用途に使用する場合は、銀粉や銅粉等の導電性充填剤を用いることができる。
【0126】
本実施形態の硬化性樹脂組成物には、この他、必要に応じて、シランカップリング剤、離型剤、顔料、乳化剤等の種々の配合剤を添加することができる。
【0127】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の製造方法は、特に制限されず、上述した種々の成分を、ロール等の混練機を用いて混練することで製造することができる。
【0128】
<硬化物>
本実施形態の硬化物は、上述の硬化性樹脂組成物を硬化させてなることを特徴とする。本実施形態の硬化物は、耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い。
本実施形態の硬化物は、例えば、上述の硬化性樹脂組成物を加熱硬化することにより得ることができる。加熱硬化する際の加熱温度は、特に制限されないが、100~300℃であることが好ましく、加熱時間としては、1~24時間であることが好ましい。
【0129】
<プリント配線板用絶縁材料>
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、プリント配線板用絶縁材料として好適に利用でき、換言すると、本実施形態のプリント配線板用絶縁材料は、上述の硬化性樹脂組成物からなることを特徴とする。本実施形態のプリント配線板用絶縁材料は、耐熱性が高く、密着性が高く、弾性率が高い。
【0130】
前記プリント配線板用絶縁材料としては、ビルドアップ基板用層間絶縁材料等が挙げられる。例えば、前記硬化性樹脂組成物からビルドアップ基板を製造する方法としては、以下に示す3つの工程からなる方法が挙げられる。第1の工程は、ゴム、充填剤などを適宜配合した前記硬化性樹脂組成物を、回路を形成した回路基板にスプレーコーティング法、カーテンコーティング法等を用いて塗布した後、硬化させる工程である。また、第2の工程は、その後、必要に応じて所定のスルーホール部等の穴あけを行った後、粗化剤により処理し、その表面を湯洗することによって、凹凸を形成させ、銅などの金属をメッキ処理する工程である。また、第3の工程は、このような操作を所望に応じて順次繰り返し、樹脂絶縁層及び所定の回路パターンの導体層を交互にビルドアップして形成する工程である。なお、スルーホール部の穴あけは、最外層の樹脂絶縁層の形成後に行うことが好ましい。また、第一の工程は、溶液塗布によるもの以外にも、予め所望の厚みに塗工して乾燥したビルドアップフィルムのラミネートによる方法でも行うことができる。また、前記ビルドアップ基板は、銅箔上で当該硬化性樹脂組成物を半硬化させた樹脂付き銅箔を、回路を形成した配線基板上に、170~250℃で加熱圧着することで、粗化面を形成、メッキ処理の工程を省き、ビルドアップ基板を製造することも可能である。
【0131】
<その他の用途>
本実施形態の硬化性樹脂組成物は、プリント配線板用絶縁材料以外にも、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム等にも好適に利用できる。
【0132】
本実施形態の硬化性樹脂組成物から半導体封止材料を得る方法としては、前記硬化性樹脂組成物、前記硬化促進剤、及び無機充填剤等の配合剤とを必要に応じて押出機、ニーダ、ロール等を用いて均一になるまで充分に溶融混合する方法が挙げられる。その際、無機充填剤としては、通常、溶融シリカが用いられるが、パワートランジスタ、パワーIC用高熱伝導半導体封止材として用いる場合は、溶融シリカよりも熱伝導率の高い結晶シリカ、アルミナ、窒化ケイ素等の高充填化、または溶融シリカ、結晶性シリカ、アルミナ、窒化ケイ素等を用いるとよい。その充填率は、硬化性樹脂組成物100質量部当たり、無機充填剤を30質量部~95質量部の範囲で用いることが好ましく、中でも、難燃性や耐湿性や耐半田クラック性の向上、線膨張係数の低下を図るためには、70質量部以上がより好ましく、80質量部以上であることがさらに好ましい。
【0133】
本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いた半導体装置は、前記半導体封止材料を加熱硬化した硬化物を含むことが好ましい。本実施形態の硬化性樹脂組成物から半導体装置を得る方法としては、前記半導体封止材料を注型、或いはトランスファー成形機、射出成形機等を用いて成形し、さらに50~200℃で2~10時間の間、加熱する方法が挙げられる。
【0134】
本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いたプリプレグは、補強基材、及び、該補強基材に含浸した硬化性樹脂組成物の半硬化物を有することが好ましい。本実施形態の硬化性樹脂組成物からプリプレグを得る方法としては、有機溶剤を配合してワニス化した硬化性樹脂組成物を、補強基材(紙、ガラス布、ガラス不織布、アラミド紙、アラミド布、ガラスマット、ガラスロービング布等)に含浸したのち、用いた溶剤種に応じた加熱温度、好ましくは50~170℃で加熱することによって、得る方法が挙げられる。この時用いる硬化性樹脂組成物と補強基材の質量割合としては、特に限定されないが、通常、プリプレグ中の樹脂分が20質量%~60質量%となるように調整することが好ましい。
【0135】
ここで用いる有機溶剤としては、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド、メチルイソブチルケトン、メトキシプロパノール、シクロヘキサノン、メチルセロソルブ、エチルジグリコールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート等が挙げられ、その選択や適正な使用量は用途によって適宜選択し得るが、例えば、下記のようにプリプレグからプリント回路基板をさらに製造する場合には、メチルエチルケトン、アセトン、ジメチルホルムアミド等の沸点が160℃以下の極性溶剤を用いることが好ましく、また、不揮発分が40質量%~80質量%となる割合で用いることが好ましい。
【0136】
本実施形態の硬化性樹脂組成物を用いた回路基板は、前記プリプレグ、及び、銅箔を積層し、加熱圧着成型して得られることが好ましい。本実施形態の硬化性樹脂組成物から回路基板を得る方法としては、前記プリプレグを、常法により積層し、適宜銅箔を重ねて、1~10MPaの加圧下に170~300℃で10分~3時間、加熱圧着させる方法が挙げられる。
【0137】
本実施形態の硬化性樹脂組成物からビルドアップフィルムを得る方法としては、例えば、支持フィルム上に硬化性樹脂組成物を塗布したのち、乾燥させて、支持フィルムの上に樹脂組成物層を形成する方法が挙げられる。本実施形態の硬化性樹脂組成物をビルドアップフィルムに用いる場合、該フィルムは、真空ラミネート法におけるラミネートの温度条件(通常70℃~140℃)で軟化し、回路基板のラミネートと同時に、回路基板に存在するビアホール或いはスルーホール内の樹脂充填が可能な流動性(樹脂流れ)を示すことが肝要であり、このような特性を発現するよう前記各成分を配合することが好ましい。
【0138】
ここで、回路基板のスルーホールの直径は通常0.1~0.5mm、深さは通常0.1~1.2mmであり、通常この範囲で樹脂充填を可能とするのが好ましい。なお回路基板の両面をラミネートする場合はスルーホールの1/2程度充填されることが望ましい。
【0139】
前記したビルドアップフィルムを製造する具体的な方法としては、有機溶剤を配合してワニス化した硬化性樹脂組成物を調製した後、支持フィルム(Y)の表面に、前記硬化性樹脂組成物を塗布し、更に加熱、あるいは熱風吹きつけ等により有機溶剤を乾燥して硬化性樹脂組成物の層(X)を形成する方法が挙げられる。
【0140】
ここで用いる有機溶剤としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチル、セロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、カルビトールアセテート等の酢酸エステル類、セロソルブ、ブチルカルビトール等のカルビトール類、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等を用いることが好ましく、また、不揮発分30質量%~60質量%となる割合で使用することが好ましい。
【0141】
なお、形成される前記硬化性樹脂組成物の層(X)の厚さは、通常、導体層の厚さ以上とする必要がある。回路基板が有する導体層の厚さは通常5~70μmの範囲であるので、硬化性樹脂組成物層の厚さは10~100μmの厚みを有するのが好ましい。なお、本発明における前記硬化性樹脂組成物の層(X)は、後述する保護フィルムで保護されていてもよい。保護フィルムで保護することにより、硬化性樹脂組成物層表面へのゴミ等の付着やキズを防止することができる。
【0142】
前記した支持フィルム及び保護フィルムは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等のポリオレフィン、ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略称することがある。)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、更には離型紙や銅箔、アルミニウム箔等の金属箔などを挙げることができる。なお、支持フィルム及び保護フィルムは、マッド処理、コロナ処理の他、離型処理を施してあってもよい。支持フィルムの厚さは特に限定されないが、通常10~150μmであり、好ましくは25~50μmの範囲で用いられる。また、保護フィルムの厚さは1~40μmとするのが好ましい。
【0143】
前記した支持フィルム(Y)は、回路基板にラミネートした後に、或いは加熱硬化することにより絶縁層を形成した後に、剥離される。ビルドアップフィルムを構成する硬化性樹脂組成物層が加熱硬化した後に支持フィルム(Y)を剥離すれば、硬化工程でのゴミ等の付着を防ぐことができる。硬化後に剥離する場合、通常、支持フィルムには予め離型処理が施される。
【0144】
なお、前記のようにして得られたビルドアップフィルムから多層プリント回路基板を製造することができる。例えば、前記硬化性樹脂組成物の層(X)が保護フィルムで保護されている場合はこれらを剥離した後、前記硬化性樹脂組成物の層(X)を回路基板に直接接するように回路基板の片面又は両面に、例えば真空ラミネート法によりラミネートする。ラミネートの方法はバッチ式であってもロールでの連続式であってもよい。また必要により、ラミネートを行う前にビルドアップフィルム及び回路基板を必要により加熱(プレヒート)しておいてもよい。ラミネートの条件は、圧着温度(ラミネート温度)を70~140℃とすることが好ましく、圧着圧力を1~11kgf/cm(9.8×10~107.9×10N/m)とすることが好ましく、空気圧を20mmHg(26.7hPa)以下の減圧下でラミネートすることが好ましい。
【0145】
また、本実施形態の硬化性樹脂組成物は、上述の用途の他にも、樹脂注型材料、接着剤、導電ペースト、ビルドアップ基板、繊維強化複合材料等にも利用できる。
【実施例0146】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0147】
(合成例1:不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-1)の製造)
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えたフラスコにキシレン1057質量部、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(EVONIK社製「VESTANAT T-1890/100」、イソシアネート基含有量17.2質量%)733質量部、テトラヒドロ無水フタル酸456質量部、及びトリオクチルメチルアンモニウムアセテート5質量部を加え、140℃で40時間反応させ、イソシアネート基含有量が0.1質量%以下となっていることを確認し、目的とする不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-1)を得た。
【0148】
(合成例2:不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-2)の製造)
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えたフラスコにキシレン1109質量部、イソホロンジイソシアネートのイソシアヌレート変性体(EVONIK社製「VESTANAT T-1890/100」、イソシアネート基含有量17.2質量%)733質量部、メチルテトラヒドロイソベンゾフラン-1,3-ジオン539.5質量部、及びトリオクチルメチルアンモニウムアセテート6質量部を加え、140℃で45時間反応させ、イソシアネート基含有量が0.1質量%以下となっていることを確認し、目的とする不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-2)を得た。
【0149】
(合成例3:不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-3)の製造)
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えたフラスコにキシレン438質量部、イソホロンジイソシアネート222質量部、テトラヒドロ無水フタル酸304質量部、及びトリオクチルメチルアンモニウムアセテート4質量部を加え、140℃で35時間反応させ、イソシアネート基含有量が0.1質量%以下となっていることを確認し、目的とする不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-3)を得た。
【0150】
(実施例1:イミド基を有するエポキシ樹脂(1)の製造)
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えたフラスコにキシレン216質量部、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-1)869.5質量部、タングステン酸ナトリウム2水和物32.4質量部、リン酸4.8質量部、トリ-n-オクチルアミン26質量部、硫酸7.2質量部を添加し、撹拌した。次いで、35%過酸化水素水溶液178.6質量部を添加し、40℃で15時間反応させた。次いで、硫酸ナトリウムを添加し、中和した後、分液し、水層を除去した。ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを添加し、キシレンを脱溶剤し、不揮発分50%のイミド基を有するエポキシ樹脂(1)を得た。得られたイミド基を有するエポキシ樹脂(1)の固形分のエポキシ当量は、580g/eqであった。
【0151】
(実施例2:イミド基を有するエポキシ樹脂(2)の製造)
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えたフラスコにキシレン246質量部、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-2)925.3質量部、タングステン酸ナトリウム2水和物35.1質量部、リン酸5.2質量部、トリ-n-オクチルアミン28質量部、硫酸7.8質量部を添加し、撹拌した。次いで、35%過酸化水素水溶液193.5質量部を添加し、40℃で20時間反応させた。次いで、硫酸ナトリウムを添加し、中和した後、分液し、水層を除去した。ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを添加し、キシレンを脱溶剤し、不揮発分50%のイミド基を有するエポキシ樹脂(2)を得た。得られたイミド基を有するエポキシ樹脂(2)の固形分のエポキシ当量は、608g/eqであった。
【0152】
(実施例3:イミド基を有するエポキシ樹脂(3)の製造)
温度計、攪拌器、及び還流冷却器を備えたフラスコにキシレン219質量部、不飽和基とイミド基とを有する樹脂(A-3)880.4質量部、タングステン酸ナトリウム2水和物52.8質量部、リン酸7.8質量部、トリ-n-オクチルアミン42.4質量部、硫酸11.8質量部を添加し、撹拌した。次いで、35%過酸化水素水溶液291質量部を添加し、40℃で25時間反応させた。次いで、硫酸ナトリウムを添加し、中和した後、分液し、水層を除去した。ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートを添加し、キシレンを脱溶剤し、不揮発分50%のイミド基を有するエポキシ樹脂(3)を得た。得られたイミド基を有するエポキシ樹脂(3)の固形分のエポキシ当量は、410g/eqであった。
【0153】
(実施例4~6、比較例1)
下記表1の成分を混合し、硬化性樹脂組成物(1)、(2)、(3)及び(C1)を得た。該硬化性樹脂組成物に対して、以下の試験を行った。
【0154】
なお、硬化性樹脂組成物を硬化させる際の硬化条件は、特に断りが無い限り、以下の通りである。
50μmのアプリケーターで塗布
80℃、30minで仮乾燥
175℃、5h硬化
【0155】
また、各試験において、基材としては、ガラスを使用した。
【0156】
[Tgの測定方法]
ガラス転移温度(Tg)は、DMA測定(動的粘弾性測定)で行った。測定条件は、以下の通りである。
測定機器:Rheometrics製「SOLIDS ANALYZER RSA II」
条件:引っ張り
周波数:1 Hz
昇温速度:3℃/min
試料の大きさ:6×40mm
【0157】
[弾性率の測定方法]
弾性率の測定は、引張試験に基づいて行った。
【0158】
<試験片1の作製>
ガラス上に実施例及び比較例で得られた硬化性樹脂組成物を50μmのアプリケーターで塗布し、その後、80℃/30min乾燥後、175℃で5h加熱した。銅箔から硬化物を剥離し、試験片1(硬化物)を得た。
【0159】
引張試験の測定条件は、以下の通りである。
測定機器:島津製作所製「精密万能試験機オートグラフAG-IS」
条件:温度23℃、湿度50%、標線間20mm、支点間20mm、試験速度10mm/min
試料の大きさ:10×80mm
【0160】
[密着性の評価方法]
密着性の評価は、ピール強度の測定により行った。
【0161】
<試験片2の作製>
ガラス上に実施例及び比較例で得られた硬化性樹脂組成物を50μmのアプリケーターで塗布し、その後80℃/30min乾燥後、175℃で5h加熱し、試験片2を得た。
【0162】
<ピール強度の測定方法>
前記試験片2を幅1cm、長さ12cmの大きさに切り出し、剥離試験機(株式会社A&D製「A&Dテンシロン」、剥離速度50mm/min)を用いて、90°ピール強度を測定した。
【0163】
ピール強度の測定条件は、以下の通りである。
測定機器:株式会社A&D社製「A&Dテンシロン」
試験片:幅1cm、長さ12cm剥離試験機
試験速度:50mm/min
条件:温度23℃、湿度50%
【0164】
【表1】
【0165】
*1 イミド基を有するエポキシ樹脂(1):実施例1で合成した樹脂
*2 イミド基を有するエポキシ樹脂(2):実施例2で合成した樹脂
*3 イミド基を有するエポキシ樹脂(3):実施例3で合成した樹脂
*4 エポキシ樹脂(N-680):DIC株式会社製、商品名「EPICLON N-680」、イミド基を有しないエポキシ樹脂
*5 フェノール樹脂(TD-2093Y):DIC株式会社製、商品名「PHENOLITE TD-2093Y」
*6 有機溶剤:ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート
*7 熱硬化触媒(DMAP):N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)
【0166】
表1から、本発明に従う実施例4~6の硬化物は、従来のエポキシ樹脂を用いた比較例1の硬化物に比べて、耐熱性(Tg)が高く、また、弾性率及び密着性が高いことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0167】
本発明のイミド基を有するエポキシ樹脂、硬化性樹脂組成物及び硬化物は、プリント配線板用絶縁材料を始めとして、半導体封止材料、半導体装置、プリプレグ、回路基板、ビルドアップフィルム、樹脂注型材料、接着剤、導電ペースト、ビルドアップ基板、繊維強化複合材料等に利用できる。