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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177773
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】固定部材、流体噴射ノズル機構
(51)【国際特許分類】
   B23Q 11/10 20060101AFI20231207BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20231207BHJP
   B24B 55/06 20060101ALI20231207BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
B23Q11/10 A
H01L21/78 F
B24B55/06
B23Q11/00 L
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090630
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】新田 秀次
【テーマコード(参考)】
3C011
3C047
5F063
【Fターム(参考)】
3C011EE02
3C047FF06
3C047HH15
5F063AA15
5F063AA21
5F063CA04
5F063FF22
(57)【要約】
【課題】エアー等の流体を噴射するパイプノズルが抜け落ちることを防止する。
【解決手段】パイプノズルが挿入され該パイプノズルを固定する固定部材であって、円柱状の支持部と、該支持部の上面に設けられ傾斜した側面を有する円錐台状の押圧保持部と、を備え、該パイプノズルが挿入されて該パイプノズルを収容可能であり、該支持部及び該押圧保持部を貫く貫通孔を備え、流体を該押圧保持部の該傾斜した側面で受けるときに該押圧保持部の径方向内側に成分を有する力が該流体から該押圧保持部に印加され、該押圧保持部が変形して該貫通孔に挿入されていた該パイプノズルを該径方向内側に押圧して固定する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
パイプノズルが挿入され該パイプノズルを固定する固定部材であって、
円柱状の支持部と、該支持部の上面に設けられ傾斜した側面を有する円錐台状の押圧保持部と、を備え、
該パイプノズルが挿入されて該パイプノズルを収容可能であり、該支持部及び該押圧保持部を貫く貫通孔を備え、
流体を該押圧保持部の該傾斜した側面で受けるときに該押圧保持部の径方向内側に成分を有する力が該流体から該押圧保持部に印加され、該押圧保持部が変形して該貫通孔に挿入されていた該パイプノズルを該径方向内側に押圧して固定することを特徴とする固定部材。
【請求項2】
流体噴射ノズル機構であって、
パイプノズルと、
一端が流体供給源に接続され、他端が該パイプノズルに接続された流体供給路と、
該流体供給路内に配設され、該パイプノズルを固定する固定部材と、を含み、
該固定部材は、
円柱状の支持部と、該支持部の上面に設けられ傾斜した側面を有する円錐台状の押圧保持部と、を備え、
該パイプノズルが挿入されて該パイプノズルを収容可能であり、該支持部及び該押圧保持部を貫く貫通孔を備え、
該流体供給源から供給され該流体供給路を進行する流体を該押圧保持部の該傾斜した側面で受けるときに該押圧保持部の径方向内側に成分を有する力が該流体から該押圧保持部に印加され、該押圧保持部が変形して該貫通孔に挿入されていた該パイプノズルを該径方向内側に押圧して固定することを特徴とする流体噴射ノズル機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切削装置等の加工装置において、半導体ウェーハ等の被加工物を観察する顕微鏡に付随して配設される流体噴射ノズル機構のノズルを固定する固定部材と、該固定部材でノズルが固定された流体噴射ノズル機構と、に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話やパソコン等の電子機器に使用されるデバイスチップの製造工程では、まず、半導体等の材料からなるウェーハの表面に複数の交差する分割予定ライン(ストリート)を設定する。そして、該分割予定ラインで区画される各領域にIC(Integrated Circuit)、LSI(Large-scale Integrated circuit)等のデバイスを形成する。その後、ウェーハを裏面側から研削して薄化し、ウェーハを分割予定ラインに沿って分割すると、個々の薄型のデバイスチップが形成される。
【0003】
被加工物の分割には、分割予定ラインに沿って環状の切削ブレードで被加工物を切削する切削装置が使用される。切削装置は、切削される被加工物を保持するチャックテーブルと、切削ブレードを備える切削ユニットと、を備える。さらに、切削ユニットは、切削ブレードが被加工物を切削する間に発生する切削屑や熱を除去するために純水等の切削液を切削ブレード等に供給する切削水供給ノズルを備える。
【0004】
また、切削装置は、切削により被加工物に形成された加工溝の状態を評価するために被加工物の観察に使用される顕微鏡ユニットを備える。そして、切削装置では、顕微鏡ユニットで被加工物を観察する際に被加工物に残留する切削水を吹き飛ばすための流体噴射ノズル機構が顕微鏡ユニットに固定されている。流体噴射ノズル機構は、例えば、被加工物にエアーを噴射することで被加工物の加工溝に滞留した切削水を除去する(特許文献1参照)。
【0005】
流体噴射ノズル機構は、顕微鏡ユニットが昇降する際に顕微鏡ユニットとともに昇降する。このときに流体噴射ノズル機構の流体の噴出口を備えるパイプノズルがチャックテーブルに保持された被加工物に接触しないように、切削装置ではパイプノズルの高さ調整が予め実施される。そして、所定の高さに位置付けられたパイプノズルが固定ネジ等の固定具により流体噴射ノズル機構の筐体に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-9175号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
流体噴射ノズル機構において、パイプノズルを固定する固定具が緩むことがある。そして、固定具が緩んだ状態でパイプノズルからエアー等の流体を被加工物に噴射すると、パイプノズルが勢いよく抜け落ちてチャックテーブルに保持された被加工物に衝突し、被加工物を破損するとの問題が生じる。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エアー等の流体を噴射するパイプノズルが抜け落ちることを防止しつつパイプノズルを固定する固定部材と、該固定部材でパイプノズルが固定された流体噴射ノズル機構と、を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、パイプノズルが挿入され該パイプノズルを固定する固定部材であって、円柱状の支持部と、該支持部の上面に設けられ傾斜した側面を有する円錐台状の押圧保持部と、を備え、該パイプノズルが挿入されて該パイプノズルを収容可能であり、該支持部及び該押圧保持部を貫く貫通孔を備え、流体を該押圧保持部の該傾斜した側面で受けるときに該押圧保持部の径方向内側に成分を有する力が該流体から該押圧保持部に印加され、該押圧保持部が変形して該貫通孔に挿入されていた該パイプノズルを該径方向内側に押圧して固定することを特徴とする固定部材が提供される。
【0010】
また、本発明の他の一態様によれば、流体噴射ノズル機構であって、パイプノズルと、一端が流体供給源に接続され、他端が該パイプノズルに接続された流体供給路と、該流体供給路内に配設され、該パイプノズルを固定する固定部材と、を含み、該固定部材は、円柱状の支持部と、該支持部の上面に設けられ傾斜した側面を有する円錐台状の押圧保持部と、を備え、該パイプノズルが挿入されて該パイプノズルを収容可能であり、該支持部及び該押圧保持部を貫く貫通孔を備え、該流体供給源から供給され該流体供給路を進行する該流体を該押圧保持部の該傾斜した側面で受けるときに該押圧保持部の径方向内側に成分を有する力が該流体から該押圧保持部に印加され、該押圧保持部が変形して該貫通孔に挿入されていた該パイプノズルを該径方向内側に押圧して固定することを特徴とする流体噴射ノズル機構が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様に係る固定部材、及び、流体噴射ノズル機構では、固定部材に形成された貫通孔にパイプノズルが挿入される。そして、固定部材は、円柱状の支持部の上面に円錐台状の押圧保持部を有する。パイプノズルに通される流体が固定部材に衝突するとき、固定部材は押圧保持部の傾斜した側面でこの流体を受ける。このとき、径方向内側に成分を有する力がこの傾斜した側面から押圧保持部に印加され、押圧保持部は変形しつつ貫通孔に挿入されていたパイプノズルを押圧して固定する。
【0012】
パイプノズルに通されようとする流体の勢いが増すと、パイプノズルが押圧される力も大きくなるため、固定部材がパイプノズルに作用させる固定力も増す。そのため、流体の勢いに関わらずパイプノズルが固定部材に必要な固定力で固定され、パイプノズルの抜け落ちが防止される。
【0013】
したがって、本発明の一態様によると、エアー等の流体を噴射するパイプノズルが抜け落ちることを防止しつつパイプノズルを固定する固定部材と、該固定部材でパイプノズルが固定された流体噴射ノズル機構と、が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】流体噴射ノズル機構が使用される加工装置を模式的に示す斜視図である。
図2】加工ユニットで加工される被加工物を模式的に示す斜視図である。
図3】顕微鏡ユニットに固定された流体噴射ノズル機構を模式的に示す断面図である。
図4】固定部材を模式的に示す斜視図である。
図5】流体噴射ノズル機構に組み込まれた固定部材を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。まず、本実施形態に係る固定部材及び流体噴射ノズル機構は、半導体ウェーハ等の被加工物を加工する加工装置に組み込まれて使用される。図1は被加工物を加工する加工装置を模式的に示す斜視図であり、図2は、加工装置の加工ユニットで加工されている被加工物を模式的に示す斜視図である。まず、被加工物1について説明する。
【0016】
被加工物1は、例えば、Si(シリコン)、SiC(シリコンカーバイド)、GaN(ガリウムナイトライド)、GaAs(ヒ化ガリウム)、若しくは、その他の半導体等の材料から形成されるウェーハである。または、LT(タンタル酸リチウム)、若しくは、LN(ニオブ酸リチウム)等の複酸化物から形成されるウェーハである。
【0017】
または、被加工物1は、サファイア、ガラス、石英等の材料からなる略円板状の基板等である。該ガラスは、例えば、アルカリガラス、無アルカリガラス、ソーダ石灰ガラス、鉛ガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等である。または、被加工物1は、複数のデバイスチップが縦横に配置されて樹脂で封止されて形成されたパッケージ基板でもよい。以下、被加工物1が半導体ウェーハである場合を例に説明するが、被加工物1はこれに限定されない。
【0018】
被加工物1の表面1aは、互いに交差する複数の分割予定ライン3により区画される。そして、被加工物1の表面1aの分割予定ライン3で区画された各領域には、それぞれ、IC、LSI等のデバイス5が形成されている。なお、デバイス5の種類、数量、配置等にも制限はない。
【0019】
被加工物1を分割予定ライン3に沿って加工し、分割溝等の加工痕13を形成して被加工物1を分割すると、それぞれデバイス5を含む個々のデバイスチップを形成できる。被加工物1が分割される前に、被加工物1は裏面1b側から研削されて薄化され、裏面1b側がさらに研磨されて平坦化される。その後に被加工物1を分割すると、薄型のデバイスチップを製造できる。このように、表面1a側に複数のデバイス5を備える被加工物1は、様々な加工装置により加工される。
【0020】
以下、本実施形態に係る流体噴射ノズル機構等が組み込まれて使用される加工装置2として、被加工物1を切削する加工装置2を説明する。すなわち、加工装置2が切削装置である場合を例に加工装置2について以下に説明する。ただし、本実施形態に係る流体噴射ノズル機構等が組み込まれて使用される加工装置2は、切削装置に限定されない。
【0021】
加工装置2に被加工物1を搬入する際には、予め、金属等により形成されたリングフレーム7の開口を塞ぐように貼られた粘着テープ9が被加工物1の裏面1b側に貼着される。そして、被加工物1と、粘着テープ9と、リングフレーム7と、が一体化されたフレームユニット11の状態で被加工物1が加工装置2に搬入され、加工される。被加工物1が分割されて形成される個々のデバイスチップは粘着テープ9により支持され、その後、粘着テープ9からピックアップされる。
【0022】
次に、加工装置2について説明する。図1に示す通り、加工装置2は、各構成要素を支持する基台4を備える。基台4の前方の角部6には開口8が形成されており、この開口8内には昇降機構(不図示)によって昇降するカセット支持台10が設けられている。カセット支持台10の上面には、複数の被加工物1を収容するカセット12が搭載される。なお、図1では説明の便宜のため、二点鎖線でカセット12の輪郭のみを示している。
【0023】
カセット支持台10の側方には、長手方向がX軸方向(前後方向、加工送り方向)に沿うように矩形の開口14が形成されている。開口14内には、ボールネジ式のX軸移動機構(不図示)と、X軸移動機構の上部を覆うテーブルカバー16及び防塵防滴カバー18
と、が配置されている。X軸移動機構は、テーブルカバー16によって覆われたX軸移動テーブル(不図示)を備えており、このX軸移動テーブルをX軸方向に移動させる。
【0024】
X軸移動テーブルの上面には、被加工物1を吸引保持するチャックテーブル20がテーブルカバー16から露出するように設けられている。このチャックテーブル20はモータ等の回転駆動源(不図示)に連結されており、Z軸方向(鉛直方向)に概ね平行な回転軸の周りに回転する。また、チャックテーブル20はX軸移動機構によってX軸移動テーブルとともにX軸方向に移動する。このとき、チャックテーブル20の移動に追従して防塵防滴カバー18が伸縮する。
【0025】
チャックテーブル20の上面は、被加工物1を吸引保持する保持面22となっている。保持面22は、X軸方向及びY軸方向に対して概ね平行に形成されており、チャックテーブル20の内部に設けられた吸引路(不図示)等を介してエジェクタ等の吸引源(不図示)に接続されている。チャックテーブル20の周囲には、被加工物1を支持するリングフレーム7を四方から把持するための複数のクランプ24が設けられている。
【0026】
また、開口14に隣接する領域には、被加工物1をチャックテーブル20等へと搬送する搬送ユニット(不図示)が配置されている。カセット12に収容された被加工物1は、搬送ユニットによりカセット12から引き出されてチャックテーブル20に搬送される。
【0027】
そして、粘着テープ9を介して被加工物1を支持するリングフレーム7をクランプ24で把持する。さらに、チャックテーブル20に接続された吸引源を作動させて保持面22から粘着テープ9を介して被加工物1に負圧を作用させる。すると、被加工物1がチャックテーブル20で吸引保持される。
【0028】
基台4の上面には、被加工物1を切削する加工ユニット(切削ユニット)26を支持する支持構造28が、開口14の上方に張り出すように配置されている。支持構造28の前面上部には、加工ユニット26を割り出し送り方向(Y軸方向)に沿って移動させる割り出し送りユニット30aと、加工ユニット26をZ軸方向に沿って昇降させる昇降ユニット30bと、が設けられている。
【0029】
割り出し送りユニット30aは、支持構造28の前面に配置されY軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール32を備えている。Y軸ガイドレール32には、Y軸移動プレート34がスライド可能に取り付けられている。Y軸移動プレート34の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸ガイドレール32に平行なY軸ボールねじ36が螺合されている。
【0030】
Y軸ボールねじ36の一端部には、Y軸パルスモータ(不図示)が連結されている。Y軸パルスモータでY軸ボールねじ36を回転させると、Y軸移動プレート34は、Y軸ガイドレール32に沿ってY軸方向に移動する。
【0031】
Y軸移動プレート34の表面(前面)には、昇降ユニット30bが設けられている。昇降ユニット30bは、Y軸移動プレート34の表面に固定されたZ軸方向に平行な一対のZ軸ガイドレール38を備える。Z軸ガイドレール38には、Z軸移動プレート40がスライド可能に取り付けられている。
【0032】
Z軸移動プレート40の裏面側(後面側)には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Z軸ガイドレール38に平行なZ軸ボールねじ42が螺合されている。Z軸ボールねじ42の一端部には、Z軸パルスモータ44が連結されている。Z軸パルスモータ44でZ軸ボールねじ42を回転させれば、Z軸移動プレート40は、Z軸ガイドレール38に沿ってZ軸方向に移動する。
【0033】
Z軸移動プレート40の下部には、チャックテーブル20で保持された被加工物1を切削する加工ユニット(切削ユニット)26と、チャックテーブル20で保持された被加工物1の上面を撮像する顕微鏡ユニット46と、が固定されている。割り出し送りユニット30aでY軸移動プレート34をY軸方向に移動させると、加工ユニット26及び顕微鏡ユニット46は割り出し送りされる。また、昇降ユニット30bでZ軸移動プレート40をZ軸方向に移動させると、加工ユニット26及び顕微鏡ユニット46は昇降する。
【0034】
図2には、加工ユニット(切削ユニット)26を模式的に示す斜視図が含まれている。加工ユニット26は、円環状の切削ブレード48を備え、切削ブレード48で被加工物1を切削する。加工ユニット26は、Y軸方向に平行な回転軸を構成するスピンドル(不図示)の基端側を回転可能に収容するスピンドルハウジング50を備える。
【0035】
スピンドルハウジング50の内部には、スピンドルを回転させるモータ等の回転駆動源が収容されており、この回転駆動源を作動させるとスピンドルが回転する。スピンドルの先端には、円環状の切削ブレード(加工具)48が固定される。スピンドルを回転させると切削ブレード48を回転できる。切削ブレード48は、金属材料または樹脂材料等で円環状に形成された結合材と、ダイヤモンド等で形成され結合材中に分散固定された砥粒と、を含む砥石部を備える。
【0036】
Z軸移動プレート40を移動させ切削ブレード48を所定の高さまで下降させ、加工送りユニット(X軸移動機構)を作動させてチャックテーブル20を加工送りして回転する切削ブレード48の砥石部を被加工物1に接触させると、被加工物1が切削される。被加工物1が分割予定ライン3に沿って切削されると、被加工物1に加工痕(分割溝)13が形成される。被加工物1の全て分割予定ライン3に沿って加工痕13が形成されると、被加工物1が個々のデバイスチップに分割される。
【0037】
切削ブレード48で被加工物1を切削すると、砥石部及び被加工物1から切削屑と加工熱が生じる。そこで、切削ブレード48で被加工物1を切削する間、切削ブレード48及び被加工物1に純水等で構成される加工水(切削水)が供給される。切削水は、切削屑及び加工熱を除去する。
【0038】
図2に示す通り、加工ユニット26は、切削ブレード48を覆うブレードカバー52と、ブレードカバー52に接続された加工水供給ノズル54と、をさらに備える。また、ブレードカバー52の内側には、切削ブレード48に加工水を噴射する加工水噴射ノズル(不図示)が設けられている。加工水は、加工水供給ノズル54等から切削ブレードに供給される。ブレードカバー52は、末端が加工水供給ノズル54等に通じた送液路を内蔵しており、送液路の始点に接続部62を備える。接続部62には、加工水が供給される。
【0039】
図1に示す通り、基台4の開口14よりも後方側には、加工後の被加工物1を洗浄する洗浄ユニット56が設けられている。加工後の被加工物1は、図示しない搬送ユニットによってチャックテーブル20から洗浄ユニット56へと搬送される。
【0040】
洗浄ユニット56は、筒状の洗浄空間内で被加工物1を吸引保持するスピンナテーブル58を備えている。また、スピンナテーブル58の上方には、被加工物1に向けて洗浄用の流体(代表的には、水とエアーとを混合した二流体)を噴射する噴射ノズル60が配置されている。被加工物1を保持したスピンナテーブル58を回転させて、噴射ノズル60から洗浄用の流体を噴射すると、被加工物1を洗浄できる。洗浄ユニット56で洗浄された被加工物1は、例えば、搬送ユニット(不図示)でカセット12に収容される。
【0041】
図3には、顕微鏡ユニット46の下端部を模式的に示す側面図が含まれている。顕微鏡ユニット46は、チャックテーブル20で保持された被加工物1の上面に対面した対物レンズユニット64を備える。対物レンズユニット64は、被加工物1で反射された光を受ける対物レンズ(不図示)と、対物レンズを囲むように配置されたLED等の複数の光源(不図示)と、を含む。光源を作動させて被加工物1を照らすと、被加工物1で乱反射された光が対物レンズに到達し、顕微鏡ユニット46の光学系66を進行する。
【0042】
光学系66の一端には、CCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子(不図示)が配設され、光学系66を進む光がこの撮像素子により受光される。顕微鏡ユニット46は、撮像素子で受光した光に基づいて形成された撮像画像を加工装置2の制御ユニットに送信する。
【0043】
顕微鏡ユニット46により得られた撮像画像は、例えば、所定の箇所を加工するよう加工ユニット26等を位置付ける際に用いられる。すなわち、顕微鏡ユニット46で加工前の被加工物1の表面1aを撮像すると、得られた撮像画像から被加工物1の表面1aに設定された分割予定ライン3を検出できる。
【0044】
また、顕微鏡ユニット46により得られた撮像画像は、例えば、加工により被加工物1に形成された加工痕13の品質を評価する際に用いられる。すなわち、顕微鏡ユニット46で加工後の被加工物1の表面1aを撮像すると、加工痕13が写る撮像画像から加工痕13の状態や、加工の品質の良否を評価できる。加工が所定の品質で実施されていないことが判明した場合、問題となる加工痕13の近傍で形成されたデバイスチップが不良品と認定されるとともに、加工装置2の各構成要素に必要な調整が実施される。
【0045】
ここで、被加工物1の加工痕13には、被加工物1の切削の際に加工具(切削ブレード)48等に供給された切削水が滞留する。そのため、このまま顕微鏡ユニット46で被加工物1を撮像しても、形成された加工痕13の品質を精密に評価できない。そこで、顕微鏡ユニット46で被加工物1を撮像する直前に、被加工物1の表面に高圧の流体(気体、エアー)が噴射されて切削水が加工痕13から除去される。
【0046】
図3には、切削水を除去するために高圧の流体(気体、エアー)を被加工物1に噴射する本実施形態に係る流体噴射ノズル機構68を模式的に示す断面図が含まれている。流体噴射ノズル機構68は、顕微鏡ユニット46に固定された筐体72を有する。筐体72の内部には、流体の進行経路となる流体供給路74が形成されている。
【0047】
流体噴射ノズル機構68は、配管71が接続される接続部70を筐体72の上端に備え、この接続部70には、流体供給源(不図示)に接続されたチューブ等の配管71が接続される。流体供給源は、例えば、加工装置2が設置された工場等の設備やガスボンベであり、乾燥空気、乾燥窒素等の高圧の流体を配管71を通じて流体噴射ノズル機構68に供給する機能を有する。換言すると、流体供給路74の一端には、配管71を通して流体供給源が接続されている。
【0048】
ただし、流体供給源が流体噴射ノズル機構68に供給する流体は、気体に限定されない。すなわち、流体供給源は、市水や純水、有機溶媒等の液体を流体噴射ノズル機構68に供給してもよい。この場合、流体供給源は、工場等の設備やタンクである。また、流体供給源は、気体と液体の混合流体を流体噴射ノズル機構68に供給してもよい。この場合、流体噴射ノズル機構68に至る過程において気体と液体が混合される。以下、流体供給源が供給する流体が気体である場合を例に説明するが、流体はこれに限定されない。
【0049】
流体噴射ノズル機構68の筐体72には、チャックテーブル20に保持された被加工物1に流体を噴射するパイプノズル76の基端側が固定される。すなわち、流体供給路74の他端側には、パイプノズル76の基端側が接続される。パイプノズル76の末端には噴出口76aが形成されており、流体供給路74及びパイプノズル76を進行して噴出口76aに到達した流体76bは、噴出口76aから外部に噴射される。なお、筐体72及びパイプノズルには、ステンレス鋼(SUS)やアルミニウム等の金属が用いられる。
【0050】
筐体72には、流体供給路74から筐体72の下端に通じパイプノズル76が挿入される挿通孔72aと、筐体72の側面から挿通孔72aに通じたネジ穴78と、が形成されている。ネジ穴78には、固定ネジ等の固定具80が締め込まれる。パイプノズル76を筐体72に固定する際には、パイプノズル76の基端部を筐体72の挿通孔72aに挿し入れ、固定具80をネジ穴78に締め込み、固定具80でパイプノズル76を側方から押圧する。これにより、パイプノズル76が筐体72に固定される。
【0051】
なお、パイプノズル76の高さが高すぎる場合、流体76bを実効的に被加工物1に供給できない。パイプノズル76の高さが低すぎる場合、顕微鏡ユニット46が被加工物1の表面1a側の撮像に適した高さ位置に位置付けられたときにパイプノズル76が被加工物1に衝突してしまう。そこで、パイプノズル76が筐体72に固定される際、パイプノズル76が適切な高さに調整される。
【0052】
しかしながら、加工装置2の稼働を繰り返すうち、流体噴射ノズル機構68において、パイプノズル76を固定する固定具80が緩むことがある。そして、固定具80が緩んだ状態でパイプノズル76からエアー等の流体76bを被加工物1に噴射しようとすると、パイプノズル76が勢いよく抜け落ちてチャックテーブル20に保持された被加工物1に衝突し、被加工物1を破損するとの問題が生じる。
【0053】
そこで、本実施形態に係る流体噴射ノズル機構68では、流体供給路74内にパイプノズル76を固定する固定部材82が配設される。次に、固定部材82の構造及び機能について説明する。
【0054】
図3には、流体噴射ノズル機構68に組み込まれた固定部材82の側面図が模式的に示されている。図4は、固定部材82を模式的に示す斜視図である。図4では、一部の見えない要素を破線で示している。図5には、流体供給路74に配設された固定部材82を模式的に示す断面図が含まれている。固定部材82は、流体噴射ノズル機構68の筐体72の挿通孔72aに通され流体供給路74に到達したパイプノズル76の上端を固定する機能を有する。
【0055】
固定部材82には、天然ゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、エチレンプロピレンゴム、スチレンブタジエンゴム、イソプレンゴム、ニトリルゴム等の比較的容易に弾性変形できる樹脂材料が好適に使用される。固定部材82には、少なくとも筐体72及びパイプノズル76よりも柔らかく変形しやすい材料が使用される。固定部材82は、射出成型または削り出し等の手法により下記に説明する形状に整形される。
【0056】
固定部材82は、円柱状の支持部84と、該支持部84の上面に設けられ傾斜した側面88を有する円錐台状の押圧保持部86と、を備える。固定部材82では、支持部84及び押圧保持部86は一体化されており、両者の間に他の要素が配設されておらず両者が直接的に接続されていてもよい。この場合、支持部84及び押圧保持部86の境界は、必ずしも明確であるとは限らない。または、支持部84及び押圧保持部86の間には、他の要素が配設されていてもよい。
【0057】
固定部材82には、支持部84及び押圧保持部86を貫く貫通孔90が中央に形成されている。貫通孔90は、図5に示す通り、パイプノズル76の径(外径)と概ね一致する径に形成され、パイプノズル76が挿入されてパイプノズル76を収容可能である。パイプノズル76が固定部材82の貫通孔90に通されている状態において配管71に接続された流体供給源を作動させると、流体76bが流体供給路74に到達し、パイプノズル76の基端側からパイプノズル76に進行する。
【0058】
ここで、流体供給源から流体供給路74に到達し進行する流体76bの一部は、固定部材82の押圧保持部86の傾斜した側面88に衝突する。そして、固定部材82では、押圧保持部86の傾斜した側面88で受けるときに押圧保持部86の径方向内側に成分を有する力92が流体76bから押圧保持部86に印加される。
【0059】
この力92が作用すると、固定部材82の押圧保持部86が変形して、固定部材82が貫通孔90に挿入されたパイプノズル76を径方向内側に押圧する。パイプノズル76は、この押圧力94により外周面が周囲から押圧され固定部材82に対して固定される。したがって、固定具80がネジ穴78に対して緩む場合においても、流体供給源から流体供給路74に供給される流体76bの勢いがパイプノズル76を固定するための押圧力94に変換されるため、パイプノズル76が筐体72から外れなくなる。
【0060】
そして、パイプノズル76に通されようとする流体76bの勢いが増すと、固定部材82がパイプノズル76に作用させる押圧力94も増す。そのため、固定対象となるパイプノズル76に通されようとする流体76bの勢いに関わらず、パイプノズル76が固定部材82に強力に固定され、パイプノズル76の抜け落ちが防止される。
【0061】
なお、円柱状の支持部84は、押圧保持部86を支えて固定部材82に強度を与える機能を有する。押圧保持部86が支持部84に接続されていない場合、押圧保持部86に力92が作用したときに押圧保持部86の底部は径方向の外向きに広がるように変形しようとするため、パイプノズル76に作用させる押圧力94が低下する場合がある。支持部84は、押圧保持部86の径方向外向きへの変形を抑制し、押圧力94の低下を防ぐ機能を有する。
【0062】
なお、固定部材82の押圧保持部86がパイプノズル76に作用させる押圧力94の大きさは、押圧保持部86の傾斜した側面88の勾配に依存する。勾配が小さくなるほど、すなわち、押圧保持部86の傾斜した側面88が貫通孔90に垂直な面に平行に近づくほど、押圧力94が小さくなる。
【0063】
ここで、貫通孔90の伸長方向を含む面で固定部材82を切断したときに現れる断面における貫通孔90の伸長方向に垂直な面と、押圧保持部86の傾斜した側面88と、のなす角度の好ましい範囲を説明する。この角度は、40°以上であることが好ましく、45°以上であることがさらに好ましい。この角度が40°を下回ると、押圧保持部86の傾斜した側面88が流体76bから受ける力92に起因して発生する押圧力94が十分に大きくならない。
【0064】
その一方で、この角度は、75°以下であることが好ましく、60°以下であることがさらに好ましい。この角度が大きくなりすぎると、十分な大きさの押圧力94を発現するために必要になる押圧保持部86の高さが大きくなりすぎて、固定部材82が収容される流体供給路74の形状に制約が生じるようになる。また、押圧保持部86の体積も増大し、傾斜した側面88が流体76bから受ける力92に抗する押圧保持部86の復元力が大きくなるため、大きな押圧力94が生じにくくなる。
【0065】
流体76bが乾燥空気であり、流体76bの供給圧力が0.3MPa程度であり、パイプノズル76の重量が0.47g程度である場合を例により具体的に説明する。この場合、貫通孔90の伸長方向に垂直な面と、押圧保持部86の傾斜した側面88と、のなす角度が45°であると、固定具80が緩む場合においても固定部材82の作用によりパイプノズル76の脱落が生じなくなる。
【0066】
以上に説明する通り、本実施形態に係る固定部材82と、固定部材82でパイプノズル76が固定された流体噴射ノズル機構68と、においてはエアー等の流体76bを噴射するパイプノズル76が抜け落ちることが防止される。
【0067】
なお、本発明は上記実施形態の記載に限定されず、種々変更して実施可能である。例えば、上記実施形態では、固定部材82が、一つの支持部84及び一つの押圧保持部86により構成される場合を例に説明してきた。しかしながら、固定部材82はこれに限定されず、複数の押圧保持部86を有しても良い。例えば、固定部材82は、貫通孔90の伸長方向に沿って連なって配設された複数の押圧保持部86を備えてもよい。すなわち、固定部材82が備える押圧保持部86の数は一つに限定されない。
【0068】
また、上記実施形態では、加工装置(切削装置)2の顕微鏡ユニット46の近傍に組み込まれて流体噴射ノズル機構68が使用され、流体噴射ノズル機構68で固定部材82が使用される場合について説明したが、本発明の一態様はこれに限定されない。流体噴射ノズル機構68は、切削装置以外の加工装置で使用されもよく、加工装置以外の場所で使用されてもよい。流体噴射ノズル機構68の用途に限定はない。
【0069】
その他、上記実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。
【符号の説明】
【0070】
1 被加工物
1a 表面
1b 裏面
3 分割予定ライン
5 デバイス
7 リングフレーム
9 粘着テープ
11 フレームユニット
13 加工痕
2 加工装置
4 基台
6 角部
8 開口
10 カセット支持台
12 カセット
14 開口
16 テーブルカバー
18 防塵防滴カバー
20 チャックテーブル
22 保持面
24 クランプ
26 加工ユニット
28 支持構造
30a 割り出し送りユニット
30b 昇降ユニット
32,38 ガイドレール
34,40 移動プレート
36,42 ボールねじ
44 パルスモータ
46 顕微鏡ユニット
48 切削ブレード
50 スピンドルハウジング
52 ブレードカバー
54 加工水供給ノズル
56 洗浄ユニット
58 スピンナテーブル
60 噴射ノズル
62 接続部
64 対物レンズユニット
66 光学系
68 流体噴射ノズル機構
70 接続部
71 配管
72 筐体
72a 挿通孔
74 流体供給路
76 パイプノズル
76a 噴出口
76b 流体
78 ネジ穴
80 固定具
82 固定部材
84 支持部
86 押圧保持部
88 側面
90 貫通孔
92 力
94 押圧力
図1
図2
図3
図4
図5