(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177825
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】シェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C11B 1/10 20060101AFI20231207BHJP
C12N 1/20 20060101ALI20231207BHJP
A23L 33/135 20160101ALI20231207BHJP
A23L 33/115 20160101ALI20231207BHJP
A61K 35/74 20150101ALI20231207BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231207BHJP
A61P 9/00 20060101ALI20231207BHJP
A61K 8/99 20170101ALI20231207BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20231207BHJP
A23D 9/02 20060101ALI20231207BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
C11B1/10
C12N1/20 E ZNA
A23L33/135
A23L33/115
A61K35/74 D
A61P25/28
A61P9/00
A61K8/99
A61Q19/00
A23D9/02
C12N15/09 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090720
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000729
【氏名又は名称】弁理士法人ユニアス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】相馬 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】中熊 大英
【テーマコード(参考)】
4B018
4B026
4B065
4C083
4C087
4H059
【Fターム(参考)】
4B018MD14
4B018MD85
4B018MF01
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4B026DX01
4B065AA01X
4B065AC14
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4B065CA43
4B065CA44
4B065CA50
4C083AA031
4C083AA032
4C083AC252
4C083AD572
4C083FF01
4C087AA01
4C087AA03
4C087BC31
4C087NA05
4C087NA14
4C087ZA16
4C087ZA36
4H059CA12
4H059CA18
4H059EA21
(57)【要約】
【課題】魚油に代わるEPA調製原料として、シェワネラ属細菌又はその変異体の脂質画分から、EPAを多く含む脂質を簡便かつ高収率で調製する方法を提供することを課題とする。
【解決手段】シェワネラ(Shewanella)属細菌又はその変異体の脂質画分、水、n-ヘキサン、及び任意でエタノールを含有する混合物から、有機相を回収する工程を含み、
前記混合物の水とn-ヘキサンの含有量が、エタノール100質量部に対して、それぞれ80質量部以上である、シェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェワネラ(Shewanella)属細菌又はその変異体の脂質画分、水、n-ヘキサン、及び任意でエタノールを含有する混合物から、有機相を回収する工程を含み、
前記混合物の水とn-ヘキサンの含有量が、エタノール100質量部に対して、それぞれ80質量部以上である、
シェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【請求項2】
前記混合物のn-ヘキサンの含有量が、前記混合物中の総脂肪酸1質量部に対して、0.5~500質量部である、請求項1に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【請求項3】
前記混合物のエタノールの含有量が、水、n-ヘキサン及びエタノールの合計量に対して、0.5~30質量%である、請求項1に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【請求項4】
シェワネラ属細菌又はその変異体の菌体に抽出溶媒を接触させて、前記脂質画分を抽出する工程をさらに含む、請求項1に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【請求項5】
前記シェワネラ属細菌又はその変異体の菌体が、乾燥物である、請求項4に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【請求項6】
前記抽出溶媒が、含水エタノールである、請求項4に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【請求項7】
前記含水エタノールが、エタノールを50~99質量%含有する、請求項6に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【請求項8】
前記抽出溶媒の量が、前記シェワネラ属細菌又はその変異体の菌体の乾燥質量1質量部に対し、0.5~50質量部である、請求項4に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか一項に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物を含有し、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料、餌料、又はそれらの製造用製剤である、組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法、及び該精製物を含有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エイコサペンタエン酸(EPA;(5Z,8Z,11Z,14Z,17Z)-Eicosapentaenoic acid)は、オメガ3脂肪酸の一つであり、胎児の発育に不可欠であり、血中中性脂肪(トリグリセリド)を低下させ、心血管疾患リスクを低減すること、アルツハイマー病の予防に寄与することなどが報告されている(非特許文献1)。
【0003】
魚油は、EPAをトリグリセリドを構成する脂肪酸として豊富に含む。しかし、魚油からの脂質の抽出では、抽出溶媒として多量のヘキサン等の有機溶媒を使用することが多く(例えば、特許文献1)、製造コストや環境負荷が高いという問題があった。加えて、世界的に漁獲高が減少傾向にあることから、事業の持続可能性の観点からも、魚油に代わるEPA高含有脂質の調製方法が待ち望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Advances in Nutrition, 2012, Vol.3, Issue 1, pp.1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
シェワネラ(Shewanella)属細菌の細胞膜成分は、EPAを多く含有する。そこで、本発明は、シェワネラ属細菌又はその変異体の脂質画分から、EPAを多く含む脂質を簡便かつ高収率で調製する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、鋭意検討の結果、シェワネラ(Shewanella)属細菌又はその変異体の脂質画分、水、n-ヘキサン、及び任意でエタノールを含有する混合物から、有機相を回収する工程を含み、前記混合物の水とn-ヘキサンの含有量が、エタノールの含有量100質量部に対して、それぞれ80質量部以上である方法によって、シェワネラ属細菌又はその変異体の脂質画分から、EPAを多く含む脂質精製物を簡便かつ高収率で調製できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1]
シェワネラ(Shewanella)属細菌又はその変異体の脂質画分、水、n-ヘキサン、及び任意でエタノールを含有する混合物から、有機相を回収する工程を含み、
前記混合物の水とn-ヘキサンの含有量が、エタノール100質量部に対して、それぞれ80質量部以上である、
シェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
[2]
前記混合物のn-ヘキサンの含有量が、前記混合物中の総脂肪酸1質量部に対して、0.5~500質量部である、[1]に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
[3]
前記混合物のエタノールの含有量が、水、n-ヘキサン及びエタノールの合計量に対して、0.5~30質量%である、[1]又は[2]に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
[4]
シェワネラ属細菌又はその変異体の菌体に抽出溶媒を接触させて、前記脂質画分を抽出する工程をさらに含む、[1]~[3]のいずれか1に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
[5]
前記シェワネラ属細菌又はその変異体の菌体が、乾燥物である、[4]に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
[6]
前記抽出溶媒が、含水エタノールである、[4]又は[5]に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
[7]
前記含水エタノールが、エタノールを50~99質量%含有する、[6]に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
[8]
前記抽出溶媒の量が、前記シェワネラ属細菌又はその変異体の菌体の乾燥質量1質量部に対し、0.5~50質量部である、[4]~[7]のいずれか1に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法。
[9]
[1]~[8]のいずれか1に記載のシェワネラ属細菌由来脂質精製物を含有し、飲食品、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料、餌料、又はそれらの製造用製剤である、組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法によれば、シェワネラ属細菌又はその変異体の脂質画分から、EPAを多く含む脂質を簡便かつ高収率で調製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。本明細書において、個別に記載した上限値及び下限値は任意に組み合わせ可能である。
【0011】
本明細書中、「脂肪酸」は、特に断りがない限り、炭素数12~22の脂肪酸を表す。
【0012】
本明細書中、「飽和脂肪酸」は炭素-炭素二重結合を含まない脂肪酸を表す。また、「不飽和脂肪酸」は、少なくとも1つの炭素-炭素二重結合を含む脂肪酸を表す。
【0013】
本明細書中、ある脂質が特定の「脂肪酸を含む」又は「脂肪酸を含有する」とは、当該脂肪酸を当該脂質中に遊離の脂肪酸として含む場合と、構成分子の一部として含む場合の両方を含む。例えば、グリセリンに特定の脂肪酸が結合したトリグリセリド又はリン脂質を含む脂質は、当該特定の脂肪酸を含むものとする。
【0014】
本明細書中、脂質中のある特定の脂肪酸の量は、脂質中に含まれる当該脂肪酸と遊離の当該脂肪酸の合計量を表す。
本明細書中、脂質中の各脂肪酸の量は、実施例の脂肪酸量の定量の項に記載のガスクロマトグラフィー法によって得られる。
【0015】
本明細書中、「リン脂質」は、グリセロリン脂質とスフィンゴリン脂質の総称である。グリセロリン脂質はグリセリンの3つの水酸基のうち、1つの水酸基がリン酸エステル化されたもので、そのうち、残りの水酸基の両方がアシル化されたものはジアシル型グリセロリン脂質、残りの水酸基のうち1つのみがアシル化されたものはリゾリン脂質と呼ばれる。
本明細書中、エタノールアミン型リン脂質(PE)、グリセロール-1-リン酸型リン脂質(PG)は、それぞれエタノールアミンリン酸、グリセロール-1-リン酸が1位の水酸基にリン酸エステル結合しているリン脂質を表す。
本明細書中、リン脂質は、実施例に記載のリン脂質の分画方法によって調製される。
【0016】
本明細書中、疾患、症状又は健康状態の「改善」とは、疾患、症状若しくは健康状態の好転若しくは緩和;疾患、症状若しくは健康状態の悪化の防止若しくは遅延;又は疾患若しくは症状の進行の逆転、防止若しくは遅延を表す。
【0017】
本明細書中、疾患、症状又は健康状態の「予防」とは、疾患、症状若しくは健康状態の発生の遅延若しくは防止;疾患、症状若しくは健康状態の発生のリスクの軽減;又は、疾患、症状若しくは症状の発生の率の低下を表す。
【0018】
〔シェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法〕
本発明のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法は、
シェワネラ(Shewanella)属細菌又はその変異体の脂質画分、水、n-ヘキサン、及び任意でエタノールを含有する混合物から有機相を回収する工程を含み、
前記混合物の水とn-ヘキサンの含有量が、エタノール100質量部に対して、それぞれ80質量部以上であることを特徴とする。
【0019】
本発明のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法は、例えば、下記に示される前記シェワネラ属細菌又はその変異体の脂質画分を調製する工程を含んでもよい。
【0020】
(シェワネラ(Shewanella)属細菌又はその変異体の脂質画分とその調製工程)
本明細書において、前記シェワネラ属細菌又はその変異株の脂質画分は、シェワネラ属細菌又はその変異株のいずれか1種又は2種以上の組み合わせから、抽出溶媒を用いて抽出された脂質を表す。
【0021】
シェワネラ属細菌は、シェワネラ科に属し、海洋環境に主に分布するグラム陰性の非芽胞形成嫌気性桿菌であり、深海等に生息する好圧細菌、高冷菌等が含まれる。
【0022】
本明細書中、特定の生物種の「変異株」とは、生物種の元の菌株の保有するDNAに変異が生じた菌株をいう。変異は特に限定されず、例えばゲノムDNA又は菌株が本来保有するプラスミドにおける塩基の置換、欠失、挿入、重複、転座又は逆位であり得る。また変異は、自然発生的に生じたものであってもよく、人為的に生じたものであってもよい。
【0023】
前記シェワネラ属細菌又はその変異株は、ゲノムDNAの他に、プラスミド、細菌人工染色体(BAC)等の天然由来又は人工のDNAをさらに含んでいてもよい。
【0024】
前記変異株のゲノム配列は、その生物の基準のゲノム配列に対して、例えば90%以上、95%以上、97%以上、98%以上、99%以上、99.5%以上、99.9%以上、99.99%以上又は99.999%以上の配列同一性(identity)を有する。
【0025】
前記シェワネラ属細菌としては、シェワネラ・ウーディイ(Shewanella woodyi)、シェワネラ・エレクトロディフィラ(Shewanella electrodiphila)、シェワネラ・マリニンテスティナ(S. marinintestina)、シェワネラ・シュレーゲリアナ(S. schlegeliana)、シェワネラ・サイラエ(S. sairae)、シェワネラ・ペアレアナ(S. pealeana)、シェワネラ・ハネダイ(S. hanedai)、シェワネラ・ゲリディマリナ(S. gelidimarina)、シェワネラ・ニューマトフォア(S. pneumatophore)、シェワネラ・バルティカ(S. baltica)、シェワネラ・ハリファクセンシス(S. halifaxensis)、シェワネラ・カイレイティカ(S. kaireitica)、シェワネラ・グラシアリピシコーラ(S. glacialipiscicola)、シェワネラ・フィデリス(S. fidelis)、シェワネラ・アクイマリナ(S. aquimarina)、シェワネラ・ワクスマニイ(S. waksmanii)、シェワネラ・マリスフラビ(S. marisflavi)、シェワネラ・アフィニス(S. affinis)、シェワネラ・コルウェリアナ(S. colwelliana)、シェワネラ・ビオラセア(S. violacea)、シェワネラ・ベンティカ(S. benthica)、シェワネラ・セディミニス(S. sediminis)などが挙げられる。中でも、前記シェワネラ属細菌は、好ましくはシェワネラ・ウーディイ(Shewanella woodyi)であり、より好ましくはシェワネラ・ウーディイGS001株である。シェワネラ・ウーディイについての情報は、例えば、Brennerらの文献(The Proteobacteria, 2005, p.480-491)、Zhaoらの文献(Int. J. Syst. Evol Microbiol., 2005, Vol. 55, p.1511-1520)、Makemson, J.C.らの文献(Int. J. Syst. Bacteriol., 1997, Vol.47, Issue 4, p.1034-1039)、Ivanovaらの文献(Int. J. Syst. Evol. Microbiol. 2003, Vol.53, p.577-582)などに記載されている。
【0026】
あるいは、前記シェワネラ属細菌において、その16S rDNA配列の下記のシェワネラ・ウーディイGS001株の16S rDNA配列(配列番号1)に対する配列同一性は、95%以上が好ましく、96%以上がより好ましく、97%以上がさらに好ましく、98%以上がさらにより好ましく、99%以上が特に好ましい。ここで、16S rDNA配列の同一性は、NCBIのBLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/)のblastn(塩基配列の場合)において、Align two or more sequencesを用いて、当該特定の配列をQuery Sequenceに比較する配列を入力し、デフォルトのパラメータでアラインメントを行って得られる「Identities」の百分率である。
【0027】
シェワネラ・ウーディイGS001株(以下、「GS001株」という場合がある)は、深海魚であるニギスの腸管から単離された菌株である。GS001株の16S rDNA配列を配列番号1に示す。
【0028】
GS001株は、グルコースを唯一の炭素源として良好に増殖することができるという特徴を有する。
GS001株は、EPA含有量が高いという特徴を有する。例えば、GS001株を、0.5%(w/v)の酵母エキスを含む改変M9+Glc液体培地を2L入れた3Lジャーファーメンターを用いて、15℃で通気培養(1vvm air、150~750rpm)したとき、乾燥細胞重量当たりのEPA含有量は、0.5g/100g乾燥細胞重量以上に維持され得る。
【0029】
GS001株は、受託番号NITE BP-03460として、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に特許手続き上の微生物の寄託の国際的承認に関するブダペスト条約に基づいて国際寄託されている(国内寄託日2021年4月15日、国際寄託への移管請求日2022年4月4日)。
【0030】
前記シェワネラ属細菌及びその変異株は、従属栄養細菌の培養に通常用いられる培地を用いて培養することができる。培養条件は、シェワネラ属細菌が増殖可能であれば特に限定されないが、例えば、シェワネラ・ウーディイについては上述した文献及びOmeroglu E.E.らの文献(Folia Microbiol., 2014, Vol.59, p.79-92)、シェワネラ・エレクトロディフィラについてはZhang J.らの文献(PLoS One, 2017, Vol.12, No.11:e0188081)などの記載に基づいて設定することができる。
【0031】
前記シェワネラ属細菌又はその変異株の脂質画分の調製工程は、例えば、前記シェワネラ属細菌若しくはその変異株の細菌菌体、細胞破壊物若しくは細胞溶解物、又はそれらの組み合わせから、抽出溶媒を用いて脂質を抽出する工程を含む。
【0032】
前記細菌菌体は、例えば、上記のシェワネラ属細菌又はその変異体の培養物から、適宜遠心分離、膜分離等を用いて菌体を分離し、任意で乾燥等の処理を行って得ることができる。前記細菌菌体の形態としては、例えば、菌体ペースト、菌体乾燥物等が挙げられる。
【0033】
前記細胞破壊物又は細胞溶解物は、前記細菌菌体を物理的処理(例えば、圧搾、せん断、超音波破砕、摩砕、破断、凍結融解等)、化学的処理(例えば酸、アルカリ、酵素、界面活性剤等による処理など)、又はそれらの手段の2種以上の組み合わせによって破壊又は溶解して得られる。前記細胞破壊物又は細胞溶解物の調製には、例えば、フレンチプレス、コールドプレス、超音波破砕器、ホモジナイザー、ポリトロンホモジナイザー、マイクロフルイダイザー、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ブレンダー、ミキサー、凍結乾燥機等を使用することができる。
【0034】
中でも、本発明の効果を顕著に奏する観点から、シェワネラ属細菌又はその変異株の菌体乾燥物が好ましい。抽出原料に菌体乾燥物を使用した場合、次の利点がある:(1)菌体を乾燥することによって簡便に製造することができる;(2)細胞壁及び細胞膜が適度に破壊されており、抽出溶媒の浸透が早く、抽出効率が促進される;(3)不溶性画分が容易に分離除去できる;(4)保存安定性に優れ、また長距離の移送が可能である。とりわけ抽出溶媒として含水エタノールを使用する場合は、菌体乾燥物に抽出溶媒が浸透しやすい点で好ましい。
【0035】
前記菌体乾燥物は、例えば前記細菌菌体を乾燥処理して得られる。前記乾燥処理としては、特に限定されず、例えばドラム乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥、噴霧乾燥等のいずれか1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0036】
前記菌体乾燥物の水分含量は、上記(1)~(4)の効果を顕著に奏する観点から、菌体乾燥物全量に対して、例えば30質量%以下であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下、さらにより好ましくは1質量%以下であり、さらにいっそう好ましくは0.1質量%以下である。ここで、水分含量は、消費者庁通知「食品表示基準について」(平成27年3月30日消食表第139号)別添「栄養成分等の分析方法等」に記載の減圧加熱乾燥法によって測定される。
【0037】
前記抽出溶媒としては、例えば、エタノール、メタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、水、アセトン、エチルメチルケトン、グリセリン、酢酸エチル、酢酸メチル、ジエチルエーテル、シクロヘキサン、ジクロロメタン、食用油脂、1,1,1,2-テトラフルオロエタン、1,1,2-トリクロロエテン、プロピレングリコール、n-ヘキサン、トルエン、キシレン、二酸化炭素、ブタン、プロパン若しくは亜酸化窒素、又はそれらの組み合わせが挙げられる。中でも前記抽出溶媒としては、本発明の効果を顕著に奏する観点から、含水エタノール又はエタノールが好ましく、含水エタノールがより好ましい。含水エタノール又はエタノールで抽出された脂質画分は、後記の有機相を回収する工程において、より容易に夾雑物を減らすことができる。
【0038】
前記含水エタノール中のエタノールの含有量は、抽出効率を高める観点から、含水エタノール全量に対して、例えば50質量%以上、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらにより好ましくは90質量%以上であり、そして、好ましくは99質量%以下、より好ましくは98質量%以下、さらに好ましくは95質量%以下である。
【0039】
前記抽出の方法は特に限定されず、例えば、バッチ式、カラム等による連続処理等を用いることができる。
【0040】
前記抽出溶媒の量は、前記シェワネラ属細菌又はその変異体の菌体の乾燥質量1質量部に対し、抽出効率を高める観点から、好ましくは0.5質量部以上、より好ましくは1質量部以上、さらに好ましくは2質量部以上、さらにより好ましくは3質量部以上であり、そして、溶媒使用量を抑える観点から、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部、さらに好ましくは20質量部以下、さらにより好ましくは10質量部以下である。ここで、菌体の乾燥質量は、上記の「栄養成分等の分析方法等」に記載の減圧加熱乾燥法によって測定される。
【0041】
前記抽出の際の温度は、例えば5℃以上、10℃以上、15℃以上又は20℃以上であり、そして90℃以下、80℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下又は30℃以下であり得る。
【0042】
前記シェワネラ属細菌又はその変異株の脂質画分の調製工程は、さらに前記抽出溶媒を除去する工程を含むことが好ましい。溶媒除去には、溶媒の留去や蒸留等に一般的に使用される方法を使用することができる。
【0043】
(脂質画分、水、n-ヘキサン及び任意でエタノールを含有する混合物から、有機相を回収する工程)
前記シェワネラ(Shewanella)属細菌又はその変異体の脂質画分、水、n-ヘキサン及び任意でエタノールを含有する混合物の調製方法(各成分の混合順序、混合方法等)は、脂質画分が水相と有機相の間で分配平衡に達し得るものであれば、特に限定されない。前記混合物は、高せん断ミキサー等による高いせん断力がなくても、おだやかな攪拌操作で良好に混合し、水相に夾雑物が効率よく分離され得る。
【0044】
前記混合物において、水とn-ヘキサンの含有量は、エタノール100質量部に対して、それぞれ80質量部以上であれば特に限定されない。例えば、前記混合物において、水とn-ヘキサンの含有量は、エタノール100質量部に対して、それぞれ独立に、80質量部以上、90質量部以上、100質量部以上、110質量部以上又は120質量部以上であり得る。
【0045】
前記混合物のエタノールの含有量は、水、n-ヘキサン及びエタノールの合計量に対して、脂質精製物の精製度をより高める観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1質量以上、さらに好ましくは2質量%以上、さらにより好ましくは5質量%以上である。そして、前記混合物のエタノールの含有量は、水、n-ヘキサン及びエタノールの合計量に対して、例えば、30質量%以下、25質量%以下又は21質量%以下であり得る。
【0046】
前記混合物のn-ヘキサンの含有量は、前記混合物中の水100質量部に対して、脂質精製物の精製度をより高める観点から、好ましくは5質量部以上、より好ましくは10質量部以上、さらに好ましくは15質量部以上、さらにより好ましくは20質量部以上、さらにいっそう好ましくは25質量部以上である。そして、前記記混合物のn-ヘキサンの含有量は、前記混合物中の水100質量部に対して、n-ヘキサン使用量を抑える観点から、好ましくは1000質量部以下、より好ましくは500質量部以下、さらに好ましくは200質量部以下であり得る。
【0047】
前記混合物のn-ヘキサンの含有量は、本発明の効果を顕著に奏する観点から、前記混合物中の総脂肪酸1質量部に対して、例えば0.5質量部以上であり、好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは5質量部以上であり、そして、n-ヘキサン使用量を抑える観点から、例えば500質量部以下、好ましくは200質量部以下、より好ましくは100質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
【0048】
前記混合物から有機相を回収する手段は、水相と有機相のうち水相を選択的に除去するか、有機相を選択的に分取することが可能であれば特に限定されない。当該手段として、例えば、前記混合物を静置、遠心分離等によって少なくとも水相と有機相の2層を分離させ、有機相を分液回収する手段を使用することができる。
【0049】
前記混合物を水相と有機相の2層に分離させた場合に、水相の層と有機相の層の間に乳化性物質の存在によって中間層も生じる場合がある。このような場合は、夾雑物を除く観点から、中間層を含まないように有機相の層を回収することが好ましい。前記混合物の組成によれば、前記脂質画分にクロロホルム/メタノールを適用して分液操作を行う場合などに比べて中間層部分の割合が小さく、水相と有機相がよりはっきりと分離する。その結果、脂質精製物の精製効率や回収率が高まるだけでなく、分液操作及びその後の精製処理も簡便となる点において、好ましい。
【0050】
前記混合物の調製及び水相と有機相への分離の際の温度は、それぞれ独立して、例えば5℃以上、10℃以上又は20℃以上であり、そして90℃以下、80℃以下、60℃以下、50℃以下、40℃以下又は30℃以下であり得る。
【0051】
(その他の工程)
本発明のシェワネラ属細菌由来脂質精製物の製造方法は、前記有機相から溶媒を除去する工程、濾過等の別の精製工程、殺菌工程等をさらに含んでもよい。
【0052】
[シェワネラ属細菌由来脂質精製物]
上記の製造方法によって得られるシェワネラ属細菌由来脂質精製物は、例えば、飲食品(飲料又は食品を表し、特定保健用食品、機能性表示食品、病者用食品を含む)、医薬品、医薬部外品、化粧品、飼料若しくは餌料、又はそれらの製造用製剤(例えば、添加物等)などの組成物に含有させて使用することができる。
【0053】
前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物又はそれを含有する組成物は、EPAを多く含むため、EPAが有効と言われる種々の状態の予防又は改善の用途に好適に使用することができる。そのような状態としては、例えば、脂質異常症(例えば、高トリグリセリド血症、高コレステロール血症、高LDLコレステロール血症、高非HDLコレステロール血症、低HDLコレステロール血症等)、動脈硬化、心血管疾患、炎症性疾患、認知症(例えば、アルツハイマー型認知症、脳血管性認知症、混合型認知症等)、脳卒中(例えば、虚血性脳卒中等)、うつ病、関節リウマチ、又はそれらの疾患の前段階の健康状態が挙げられる。
【0054】
また、前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物又はそれを含有する組成物は、EPAの栄養補給が好ましい対象(例えば、小児)に対するEPA補給、脳又は神経の発達促進などの用途にも好適に使用することができる。
【0055】
前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物は、リン脂質を含有することが好ましい。前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物のリン脂質の含有量は、精製物全量に対して、例えば10質量%以上、20質量%以上又は30質量%以上であり、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは60質量%以上であり、そして、例えば99質量%以下、90質量%以下又は80質量%以下である。
【0056】
前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物のエタノールアミン型リン脂質(PE)の含有量は、精製物全量に対して、例えば、10質量%以上であり、好ましくは20質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは40質量%以上であり、そして、例えば90質量%以下、80質量%以下、70質量%以下又は60質量%以下である。
【0057】
前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物のグリセロール-1-リン酸型リン脂質(PG)の含有量は、精製物全量に対して、例えば、1質量%以上であり、好ましくは2質量%以上、より好ましくは5質量%、さらに好ましくは10質量%以上であり、そして、例えば50質量%以下、40質量%以下又は30質量%以下である。
【0058】
前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物は、エイコサペンタエン酸(EPA)を含むことが好ましい。前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物のEPAの含有量は、精製物全量に対して、例えば0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上、さらに好ましくは4質量%以上、さらにより好ましくは10質量%以上であり、そして例えば50質量%以下、40質量%以下又は30質量%以下である。
【0059】
前記シェワネラ属細菌由来脂質精製物において、ドコサヘキサエン酸(DHA)の含有量は、精製物全量に対して、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下、さらにより好ましくは0.1質量%以下であり、DHAを実質的に含有しないことが特に好ましい。
【実施例0060】
以下に実施例を用いて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの範囲に限定されるものではない。各試験例において、試験時の温度は、特に断りがない限り20℃とする。
【0061】
〔共通方法〕
(リン脂質の分画)
下記試験例において、脂質サンプル中のリン脂質の分画は、下記の方法を用いた。
<リン脂質の分画方法>
(1)脂質約20mgを採り、重量を精秤した。脂質を少量のクロロホルムに溶解し、これをSampliQ silica 500mg(アジレントテクノロジー社製、カタログNo.5982-2265)に供した。
(2)上記カートリッジを中性脂質が溶出しなくなるまでクロロホルムを流下し、さらに糖脂質が溶出しなくなるまでアセトンを流下した。
(3)メタノールを用いてリン脂質を溶出し、エバポレーターでメタノールを留去し、リン脂質画分を得た。
(4)脂質50mgを調製用シリカゲルTLCプレート(PLC Silica gel 60 F254、1mm厚;Merck KGaA社製)に帯状に負荷し、クロロホルム:メタノール:水(65:25:4,v/v/v)を展開溶媒として展開した。
(5)ドラフト内で乾燥後、PE及びPG画分をTLCプレートから剥離回収し、ガラスカラム内に移した後、メタノール50mLを用いて各脂質を溶出した。その後、エバポレーターでメタノールを留去し、PE及びPG画分を得た。
【0062】
(脂肪酸量の定量)
下記試験例において、脂質サンプル中の脂肪酸量は、いずれもサンプルの脂質を脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク(株)製)を用いてメチルエステル化処理した後、以下の条件のガスクロマトグラフィーにより定量した。
<分析条件>
装置:7890B GCシステム(アジレントテクノロジー(株))
カラム:Fused Sillica Capillary Column Omegawax320 (30 m×0.32 mm i.d.)(Supelco, Inc.)
キャリアガス:ヘリウム
ヘリウム流量:1.25mL/min
圧力:78.8kPa
線速度:30cm/sec
カラム温度:215℃/18min, 昇温12.5℃/min, 240℃/5min
インジェクション温度:250℃
検出器温度:260℃
検出器:FDI検出器
<脂肪酸量の算出>
得られたクロマトグラムの各脂肪酸ピークを各脂肪酸の標準物質(37成分FAME mix(Supelco製))の保持時間に基づいて帰属し、各標準物質のピーク面積値から得られる検量曲線を用いて、各脂肪酸のピーク面積から各脂肪酸の量を算出した。同定された全てのピークの脂肪酸量を合計したものが、サンプルの総脂肪酸量となる。
【0063】
〔シェワネラ属細菌菌体乾燥物の調製〕
下記の方法により、シェワネラ属細菌菌体乾燥物を調製した。
(1)シェワネラ属細菌として、シェワネラ・ウーディイGS001株を3Lジャーファーメンター中で、15℃で36時間培養した。
(2)培地から遠心によって集菌した。得られた菌体を凍結乾燥法により完全に乾燥させ、菌体乾燥物を調製した。菌体乾燥物の総脂肪酸量は、菌体サンプル中の総脂質を脂肪酸メチル化キット(ナカライテスク(株)社製)を用いて抽出及びメチルエステル化し、得られた総脂質中の脂肪酸量を上記のガスクロマトグラフィー法で定量した。
【0064】
〔シェワネラ属細菌の脂質画分の調製〕
上記シェワネラ属細菌の菌体乾燥物50mgに対し、市販のエタノール(99.5質量%エタノール)、又は90質量%エタノール(エタノール90質量%、水10質量%)10mLを加え、超音波槽にて25℃で1時間超音波処理を行い、脂質画分を抽出した。また、上記シェワネラ属細菌の菌体乾燥物2gに対し、n-ヘキサン150mLを抽出溶媒としてソックスレー抽出を行い、脂質画分を抽出した。ロータリーエバポレーターで溶媒を留去した後の脂質画分の重量を測定した。また、各脂質画分の総脂肪酸量を上記のガスクロマトグラフィー法により定量した。
【0065】
その結果、総脂肪酸回収率(抽出に使用した菌体乾燥物の総脂肪酸量に対する、脂質画分の総脂肪酸量の割合)は、表1に示すように、90質量%エタノールを使用した場合に顕著に高い値となることが明らかとなった。エタノール又はn-ヘキサンを使用した場合は、リン脂質等の極性脂質が抽出されにくく、脂質画分の回収率が低下した。
【0066】
【0067】
〔試験例1.シェワネラ属細菌の脂質画分の精製条件の検討〕
以下の手順に従って、90質量%エタノールを用いて上記シェワネラ属細菌の菌体乾燥物から脂質画分を抽出し、さらにn-ヘキサン、水、エタノールを含有する混合溶媒を用いて、液液分配によって脂質精製物を調製した(実施例1)。
(1)上記シェワネラ属細菌の菌体乾燥物から90質量%エタノール10mLを用いて、2時間攪拌して脂質を抽出した。
(2)濾過により固液分離し、脂質の溶解した溶媒を回収した。抽出残渣に対して、再度90質量%エタノール10mLを添加混合し、濾過により溶媒を回収した。
(3)(1)と(2)で回収した溶媒(計20mL)からロータリーエバポレーターでエタノール及び水を留去し、精製前の脂質画分103.1mgを得た。
(4)得られた脂質画分にn-ヘキサン2.64g、エタノール0.39g及び水1gを加え、攪拌してから遠心を行い、水相と有機相を分離させた。
(5)有機相を回収し、溶剤を留去したたものを、脂質精製物とした。
(6)得られた精製前の脂質画分と脂質精製物の脂肪酸量を、上記ガスクロマトグラフィー法で定量した。また、脂質精製物のリン脂質を上記方法で分画し、各画分の重量に基づいてそれらの含有量を求めた。
【0068】
上記方法により、最終的に61.1mgの脂質精製物が得られた。脂質精製物の組成を表2に示した。精製前の脂質画分はエイコサペンタエン酸(EPA)の含有量が15質量%であったが、精製によりEPA含有量は22.5%に増加した。なお、ドコサヘキサエン酸(DHA)は精製前後いずれにおいても検出されなかった。
【0069】
【0070】
〔試験例2.分液に使用する溶媒の量の検討〕
(1)試験例1と同様の方法により90質量%エタノールで抽出した脂質画分をn-ヘキサンに溶解して、それぞれ約100mgの脂質画分を含有するようにねじ口キャップ付き試験管に分注した。n-ヘキサンを完全に揮発させた後で、表4の組成の混合溶媒を10mL添加した。
(2)各試験管のサンプルを十分に攪拌した後、遠心した。
(3)有機相の層を回収し、溶剤留去後の残留物を脂質精製物とした。
(4)脂質精製物の重量を測定し、脂質の重量基準の回収率(精製前の脂質画分の重量に対する脂質精製物の重量)を求めた。また、精製前後の脂質の脂肪酸量を上記ガスクロマトグラフィー法で定量し、総脂肪酸回収率(精製前の脂質画分の総脂肪酸量に対する精製後の脂質精製物の総脂肪酸量)を求めた。なお、以降の表で、「ヘキサン/精製前総脂肪酸量」は、精製前の脂質画分の総脂肪酸の質量(g)に対するn-ヘキサンの質量(g)を表す。
【0071】
下記の評価基準により脂質精製物の回収率及び精製度を評価した。◎又は〇であればその項目においては実用上問題なく使用することができる。なお、総脂肪酸回収率の値が大きいほど脂質精製物の回収率が高く良好であることを示し、脂質精製物中の総脂肪酸量の値が大きいほど脂質精製物の精製度が高く良好であることを示す。
<回収率の評価基準>
◎:総脂肪酸回収率が90%以上
〇:総脂肪酸回収率が60%以上90%未満
×:総脂肪酸回収率が60%未満、又は精製不可
<精製度の評価基準>
◎:脂質精製物中の総脂肪酸量が40質量%以上
〇:脂質精製物中の総脂肪酸量が5質量%以上40質量%未満
×:脂質精製物中の総脂肪酸量が5質量%未満、又は精製不可
【0072】
結果を表3に示した。混合溶媒のn-ヘキサン及び水がそれぞれエタノールと同量以上である場合に総脂肪酸回収率が高いことが判明した。また、混合溶媒がエタノールを含有する場合には、エタノールを含有しない場合に比べて顕著に脂質精製物中の総脂肪酸量が大きな値であり、精製度が高まることが判明した。
【0073】
【0074】
〔試験例3.分液に使用する溶媒の量の検討〕
下記の手順により、種々の量の混合溶媒を使用した場合の脂質精製物の回収率を比較した。
(1)上記試験例2と同様の方法で抽出した脂質画分に対し、n-ヘキサン:エタノール:水=62.3:10.7:27.0(質量比)の混合溶媒を加え、試験例2と同様に液液分配して、有機相を回収した。
(2)有機相から溶媒を留去して脂質精製物を得た。上記ガスクロマトグラフィー法により脂質精製物の総脂肪酸量の定量を行った。試験例2と同じ評価基準で、脂質精製物の精製度を評価した。
【0075】
結果を表4に示した。脂質精製物の総脂肪酸量は幅広い混合溶媒量で高い値を示し、精製度は良好であった。
【表4】
【0076】
〔試験例4.脂質精製物の調製〕
下記の手順により、種々の量の混合溶媒を使用した場合の脂質精製物の回収率を比較した。
(1)上記シェワネラ属細菌の菌体乾燥物50gに含水エタノール(エタノール88質量%、水12質量%)500mLを添加し、24時間静置抽出した。
(2)吸引濾過により固液分離し、脂質の溶解した溶媒を回収した。抽出残渣に対して、再度含水エタノール500mLを添加混合し、吸引濾過により溶媒を回収した。
(3)(1)と(2)で回収した溶媒(計1L)からロータリーエバポレーターでエタノール及び水を留去し、脂質画分8.94gを得た。
(4)得られた脂質画分を230.7gのn-ヘキサンに分散させ、エタノール138.1g、水262.5g、を加えて混合し、分液ロートに入れて分液操作した。
(5)2層に分離させた後に有機相を回収し、ロータリーエバポレーターで有機溶媒を留去して、脂質精製物を得た。
(6)得られた脂質精製物の総脂肪酸量を上記のガスクロマトグラフィー法により定量した。また、得られた脂質精製物の一部を使用して、上記のシリカカラムクロマトグラフィーによりリン脂質を分画し、リン脂質画分の総脂肪酸量を上記のガスクロマトグラフィーにより定量した。
【0077】
定量の結果、得られた脂質精製物の総脂肪酸量は52.2質量%であり、菌体乾燥物の総脂肪酸の84.3%が回収されていた。また、得られた脂質中の脂肪酸のうち、66.0%がリン脂質に由来することが判明した。以上のように、本発明の製造方法によれば、リン脂質の多いシェワネラ属細菌由来脂質から、効率よく脂質を精製することができる。
シェワネラ・ウーディイGS001株(受託番号NITE BP-03460、国内受託日:2021年4月15日)、寄託先:独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)