(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177916
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】重水素化アンモニアの製造装置
(51)【国際特許分類】
C01B 4/00 20060101AFI20231207BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C01B4/00 C
B01D53/22
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090887
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土橋 祐太
(72)【発明者】
【氏名】中山 栄希
(72)【発明者】
【氏名】讃井 香純
【テーマコード(参考)】
4D006
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA01
4D006KA12
4D006MC03
4D006MC58
4D006PA02
4D006PB20
4D006PB63
4D006PB70
(57)【要約】
【課題】簡易な構成、及び簡便な操作によって、低コスト且つ高効率で重水素化アンモニアの製造が可能な重水素化アンモニアの製造装置を提供する。
【解決手段】内部に重水素化溶媒を貯留し、アンモニアと重水素化溶媒とを混合して軽水素-重水素同位体交換反応を行う、1以上の反応容器2と、反応容器2にアンモニアを供給するアンモニア供給経路32と、反応容器2にキャリアガスを供給するキャリアガス供給経路4と、反応容器2から導出される粗重水素化アンモニアガスを、重水素化アンモニアガスと溶媒成分とに分離する分離膜を有する溶媒分離モジュール71と、溶媒分離モジュール71の二次側に位置し、溶媒分離モジュール71から導出される重水素化アンモニアガス中に含まれる溶媒成分を除去する吸着剤を有する溶媒除去カラム72,72と、を備える、重水素化アンモニアの製造装置1を選択する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に重水素化溶媒を貯留し、アンモニアと前記重水素化溶媒とを混合して軽水素-重水素同位体交換反応を行う、1以上の反応容器と、
前記反応容器に前記アンモニアを供給するアンモニア供給経路と、
前記反応容器にキャリアガスを供給するキャリアガス供給経路と、
前記反応容器の二次側に位置し、前記反応容器から導出される粗重水素化アンモニアガスを、重水素化アンモニアガスと溶媒成分とに分離する分離膜を有する溶媒分離モジュールと、
前記溶媒分離モジュールの二次側に位置し、前記溶媒分離モジュールから導出される重水素化アンモニアガス中に含まれる溶媒成分を除去する吸着剤を有する溶媒除去カラムと、を備える、重水素化アンモニアの製造装置。
【請求項2】
前記溶媒分離モジュールと前記反応容器との間に位置し、前記溶媒分離モジュールで分離した溶媒成分を前記反応容器に返送する、溶媒成分返送経路をさらに備える、請求項1に記載の重水素化アンモニアの製造装置。
【請求項3】
前記溶媒除去カラム内に再生ガスとして加熱した不活性ガスを導入する、再生ガス導入経路と、
前記溶媒除去カラムと前記反応容器との間に位置し、前記溶媒除去カラムから導出される、前記吸着剤から脱離した重水素化アンモニアを含む不活性ガスを前記反応容器に返送する、ガス成分返送経路と、をさらに備える、請求項1に記載の重水素化アンモニアの製造装置。
【請求項4】
複数の前記反応容器と、
複数の前記反応容器の各々の間を直列で接続し、前記反応容器内で生成された前記重水素化アンモニア及び前記キャリアガスの混合ガスを、それぞれ後段の前記反応容器に移送する、1以上の混合ガス移送経路と、
前記混合ガス移送経路に位置し、前段の反応容器内を減圧する、1以上の減圧手段と、をさらに備える、請求項1に記載の重水素化アンモニアの製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重水素化アンモニアの製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、重水素化アンモニアは、種々の化学反応における反応機構の解明、並びに、医薬農薬分野におけるトレーサー・プローブ等の試薬や、農薬、医薬の合成ビルディングブロックとしての用途があることから、各分野において注目されている。
【0003】
上記のような重水素化アンモニアを製造する方法の一つとして、ハーバー・ボッシュ法(HB法)が挙げられる。このHB法は、鉄を主体とした触媒上で重水素と窒素とを反応させることで、重水素化アンモニアを製造する方法であり、重水素化されていないアンモニア(NH3)を用いた工業的な製造方法である。
【0004】
また、例えば、窒化マグネシウム(Mg3N2)、窒化リチウム(Li3N)、又は石灰窒素(CaCN2)等のような金属窒化物を重水で加水分解することで重水素化アンモニアを得る方法もある。
【0005】
上記のような背景下、従来、重水素化アンモニアを製造する方法として、例えば、酸化鉄と酸化アルミニウムからなる触媒上で重水素と窒素を反応させることで、重水素化アンモニアを得る技術が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。
また、窒化マグネシウムや窒化リチウムを重水で加水分解することにより、重水素化アンモニアを得る技術も提案されている(例えば、特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国特許出願公開第103950952号明細書
【特許文献2】特公昭50-11879号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般に、上記のHB法は、重水素と窒素との反応条件として、厳しい高温条件(400~600℃)、並びに高圧条件(20~100MPaG)が必要であり、非常に高いエネルギー負荷が掛かるという課題がある。
例えば、特許文献1に記載された技術では、重水素と窒素との反応に、温度:400~600℃、圧力:10~30MPaGという非常に厳しい反応条件が必要となる。
このため、反応装置には耐熱性や耐圧性が要求されるため、装置構成が複雑になるという課題がある。
【0008】
また、特許文献2に記載されたような、金属窒化物を重水で加水分解する技術においては、窒素源である金属窒化物が非常に高価であることから製造コストが増大するという課題がある。また、市販されている金属窒化物は低純度であるが、低純度の金属窒化物の純度を精製して高めようとする場合には、その精製処理における条件や手順が難しいという課題がある。さらに、特許文献2に記載された技術では、加水分解の副生成物である金属水酸化物の生成に伴って重水素原子が無駄に消費されてしまい、生産性に課題がある。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、簡易な構成、及び簡便な操作によって、低コスト且つ高効率で重水素化アンモニアの製造が可能な重水素化アンモニアの製造装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明者等が鋭意検討した結果、アンモニアと重水素化溶媒とを混合して軽水素-重水素同位体交換反応(交換反応)を行うことで、高温や高圧の厳しい条件を必要とすることなく重水素化アンモニアを製造できることを知見した。より具体的には、ヒドロキシ基、アミノ基等のようなプロトン交換性官能基を有する重水素化溶媒と、重水素化されていないアンモニアとを混合・溶解して交換反応を行い、その後、キャリアガスの供給により、重水素化溶媒に溶解した重水素化アンモニアをガスの形で取り出す方法により、高温や高圧の厳しい条件を必要とすることなく重水素化アンモニアが得られることを見いだし、本発明を完成させた。
【0011】
即ち、本発明は、以下の態様を包含する。
[1] 内部に重水素化溶媒を貯留し、アンモニアと前記重水素化溶媒とを混合して軽水素-重水素同位体交換反応を行う、1以上の反応容器と、
前記反応容器に前記アンモニアを供給するアンモニア供給経路と、
前記反応容器にキャリアガスを供給するキャリアガス供給経路と、
前記反応容器の二次側に位置し、前記反応容器から導出される粗重水素化アンモニアガスを、重水素化アンモニアガスと溶媒成分とに分離する分離膜を有する溶媒分離モジュールと、
前記溶媒分離モジュールの二次側に位置し、前記溶媒分離モジュールから導出される重水素化アンモニアガス中に含まれる溶媒成分を除去する吸着剤を有する溶媒除去カラムと、を備える、重水素化アンモニアの製造装置。
[2] 前記溶媒分離モジュールと前記反応容器との間に位置し、前記溶媒分離モジュールで分離した溶媒成分を前記反応容器に返送する、溶媒成分返送経路をさらに備える、[1]に記載の重水素化アンモニアの製造装置。
[3] 前記溶媒除去カラム内に再生ガスとして加熱した不活性ガスを導入する、再生ガス導入経路と、
前記溶媒除去カラムと前記反応容器との間に位置し、前記溶媒除去カラムから導出される、前記吸着剤から脱離した重水素化アンモニアを含む不活性ガスを前記反応容器に返送する、ガス成分返送経路と、をさらに備える、[1]又は[2]に記載の重水素化アンモニアの製造装置。
[4] 複数の前記反応容器と、
複数の前記反応容器の各々の間を直列で接続し、前記反応容器内で生成された前記重水素化アンモニア及び前記キャリアガスの混合ガスを、それぞれ後段の前記反応容器に移送する、1以上の混合ガス移送経路と、
前記混合ガス移送経路に位置し、前段の反応容器内を減圧する、1以上の減圧手段と、をさらに備える、[1]乃至[3]のいずれかに記載の重水素化アンモニアの製造装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明の重水素化アンモニアの製造装置によれば、簡易な構成、及び簡便な操作によって、低コスト且つ高効率で重水素化アンモニアの製造が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置の構成を説明するための模式図である。
【
図2】本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置を構成する反応容器を示す拡大図である。
【
図3】本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置を構成する複数の反応容器の間の重水素化溶媒の流れを示す概略図である。
【
図4】本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置を構成する溶媒分離モジュールを示す断面図である。
【
図5】本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置を構成する溶媒除去カラムを示す模式図である。
【
図6】本発明の実施例で得られた重水素化アンモニアのスペクトルを示す図である。
【
図7】本発明の実施例における、比較例の重水素化アンモニアの製造装置の構成を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下の説明において例示される図の寸法等は一例であって、本発明はそれらに必ずしも限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0015】
なお、本発明で説明する、重水素化アンモニア及びキャリアガスの混合ガスとは、軽水素-重水素同位体交換反応で得られる重水素化アンモニア及びキャリアガスの他、残余の原料、即ち、アンモニアや重水素化溶媒の一部も含むものである。
【0016】
<重水素化アンモニアの製造装置>
まず、本発明を適用した重水素化アンモニアの製造装置(以下、単に製造装置と称する場合がある。)について、
図1~
図5を適宜参照しながら以下に詳述する。
図1は、本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置1を模式的に説明する図であり、複数の反応容器2を備えた製造装置1の全体構成を示す装置系統図であり、
図2は、反応容器2の詳細な構成を示す拡大図である。
図3は、製造装置1に備えられる複数の反応容器2の間の重水素化溶媒Lの流れを示す概略図である。
【0017】
本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置1は、アンモニアAと重水素化溶媒Lとを反応容器2内で混合して軽水素-重水素同位体交換反応を行うことにより、重水素化アンモニアHを得るものである。
図1に示すように、本実施形態の製造装置1は、反応容器2に向けてアンモニアAを供給するアンモニア供給ライン(アンモニア供給経路)32を含むアンモニア供給部3と、反応容器2に向けてキャリアガスCを供給するキャリアガス供給ライン(キャリアガス供給経路)4を含むキャリアガス供給部と、内部に重水素化溶媒Lが貯留され、アンモニアAと重水素化溶媒Lとで軽水素-重水素同位体交換反応を行う反応容器2と、を備え、概略構成される。
【0018】
また、
図1(
図2及び
図3も参照)に示す例の製造装置1は、3台の反応容器2(2A,2B,2C)が直列で接続されており、これら反応容器2A,2B,2Cの各々の間を接続することで、反応容器2(2A又は2B)内で生成された重水素化アンモニアH及びキャリアガスCの混合ガスRを、それぞれ後段の反応容器2(2B又は2C)に向けて移送するための2本の混合ガス移送ライン(混合ガス移送経路)51,52が設けられている。さらに、図示例の製造装置1は、反応容器2A,2B,2Cの各々の間を直列で接続し、反応容器2(2B又は2C)内に残存する重水素化溶媒Lの一部又は全部を、それぞれ前段の反応容器2(2A又は2B)に向けて移送するための2本の溶媒移送ライン61,62が設けられている。
【0019】
図1に示す例の製造装置1は、上記構成により、複数で直列に反応容器2A,2B,2Cが、順次、軽水素-重水素同位体交換反応を行うことで、重水素化アンモニアHを得ることが可能なものである。
【0020】
さらに、
図1に示す例の製造装置1においては、最後段となる反応容器2Cの下流側に、軽水素-重水素同位体交換反応で得られる重水素化アンモニアHとキャリアガスCとの混合ガスRから、この混合ガスRに不純物として含まれる重水素化溶媒Lを除去するための溶媒除去部7が接続されている。そして、溶媒除去部7の下流側には、この溶媒除去部7によって重水素化溶媒Lが除去された後の混合ガスRを、目的生成物である重水素化アンモニアHと、不要となるキャリアガスCとに分離するための分離回収器8が接続されている。
【0021】
(アンモニア供給部)
アンモニア供給部3は、軽水素-重水素同位体交換反応を行う反応容器2内にアンモニアAを供給するものである。
図1中に例示するアンモニア供給部3は、アンモニアAが充填されるアンモニア容器31と、このアンモニア容器31から反応容器2に向けてアンモニアAを供給するアンモニア供給ライン32とを含んで構成される。
【0022】
図示例のアンモニア供給部3は、アンモニア供給ライン32が、複数で設けられる反応容器2A,2B,2Cのうち、最前段に配置される反応容器2Aに備えられたガス導入口21に接続されている。また、図示例においては、アンモニア供給ライン32の経路中に、後述するキャリアガス供給ライン4が接続されている。
【0023】
アンモニア容器31は、上記のように、アンモニアAが充填されるタンク状の容器である。
アンモニア容器31の材質としては、アンモニアAに対する耐食性や耐圧強度を有した材質であれば、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。
【0024】
アンモニア供給ライン32は、上記のように、アンモニア容器31に充填されたアンモニアAを反応容器2に向けて供給するものであり、例えば、配管状の部材から構成される。
アンモニア供給ライン32の材質としても、原料であるアンモニアAや重水素化溶媒L、生成物である重水素化アンモニアHに対する耐食性等を有した材質であれば、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼(SUS)等の金属配管や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂配管を用いることができる。
【0025】
アンモニア供給ライン32に用いる配管の径としても、反応容器2に対してアンモニアAを不足無く供給できる径であれば特に限定されず、例えば、外径が9~10mm、内径が7~8mmの配管を用いることができる。
【0026】
なお、アンモニア供給ライン32の経路中には、アンモニアA及び後述のキャリアガスCの供給圧力及び流量を調節するために、例えば、図視略の圧力調整弁や流量コントローラー(MFC)を設置することも可能である。
【0027】
(キャリアガス供給部)
キャリアガス供給部は、軽水素-重水素同位体交換反応を行う反応容器2内にキャリアガスCを供給するものである。キャリアガス供給部は、キャリアガスCが充填される図視略のキャリアガス容器と、このキャリアガス容器から反応容器2に向けてキャリアガスCを供給するキャリアガス供給ライン4とを含んで構成される。
【0028】
キャリアガス容器は、上述のようにキャリアガスCが充填される容器であることから、その材質としては、内部に充填するキャリアガスCのガス種に対する耐食性や耐圧強度を有した材質であれば特に限定されず、アンモニア容器31と同様、例えば、ステンレス鋼(SUS)等が挙げられる。
【0029】
キャリアガス供給ライン4は、上記のように、キャリアガス容器に充填されたキャリアガスCを反応容器2に向けて供給するものであり、アンモニア供給ライン32と同様、例えば、配管状の部材から構成される。
キャリアガス供給ライン4の材質としても、キャリアガスCのガス種に対する耐食性の他、アンモニアAや重水素化溶媒L、生成物である重水素化アンモニアHに対する耐食性等を有した材質であれば、特に限定されない。即ち、キャリアガス供給ライン4の材質としては、アンモニア供給ライン32と同様、例えば、ステンレス鋼(SUS)等の金属配管や、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の樹脂配管を用いることができる。
【0030】
ここで、
図1中に示す例のキャリアガス供給部は、キャリアガス供給ライン4から、上述したアンモニア供給ライン32にキャリアガスCを供給することにより、反応容器2に向けて、アンモニアAと同じ配管でキャリアガスCを供給できる構成とされている。本実施形態においては、上記のように、アンモニアA及びキャリアガスCを同じ配管で反応容器2に供給する構成とすることが、装置を簡便にできる点からより好ましい。
【0031】
なお、キャリアガス供給部によって供給されるキャリアガスCとしては、原料であるアンモニアAや重水素化溶媒L、生成物である重水素化アンモニアHと反応せず、且つ、重水素化溶媒Lに溶解しないガスであれば、特に限定されない。即ち、キャリアガスCとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムといった不活性なガスの中から適宜選択して用いることができる。但し、キャリアガス中に微量で含まれる水等、交換性軽水素を持つ不純物は、重水素化溶媒L及び生成される重水素化アンモニアHの重水素濃縮度を低下させるおそれがあることから、事前にドライカラム等で不純物を除去しておくことが好ましい。
【0032】
(反応容器)
反応容器2は、上述したように、内部に重水素化溶媒Lが貯留され、アンモニア供給部3によって供給されるアンモニアAと重水素化溶媒Lとで軽水素-重水素同位体交換反応を行うことにより、重水素化アンモニアHを生成させる。より詳細に説明すると、反応容器2は、内部に一定量の重水素化溶媒Lを貯留させた状態でアンモニアAを供給することで、アンモニアAと重水素化溶媒Lとの混合及び交換反応を行い、その後、キャリアガスCを供給することで重水素化アンモニアHをガス化させて取り出すものであり、本実施形態の製造装置1における重要な構成機器である。
【0033】
反応容器2は、密閉構造であって、且つ、負圧ないし加圧状態に耐えうる強度を有した使用である必要がある。
このような観点から、反応容器2の材質としては、アンモニアA及び重水素化溶媒Lに対する耐食性を有し、且つ、上記の耐圧強度を有したものであれば、特に限定されず、例えば、-0.1~0.3MPaGの範囲の圧力に耐えうるステンレス鋼(SUS)を用いることができる。
【0034】
反応容器2の容積としては、内部に供給されるアンモニアAに対して十分な交換反応を行うことが可能な量の重水素化溶媒Lを収容できる大きさが必要となるが、容積が大きすぎると装置が大型化してしまうため、適宜、最適な大きさを判断することが求められる。
また、反応容器2の内径は、大きすぎると内部に供給されるガスの均一な拡散が難しくなり、小さすぎると液面の比表面積が小さくなって重水素化アンモニアHのガス化効率が低下することから、最適な内径を選択する必要がある。
上記の観点から、反応容器2の大きさとしては、例えば、
図2中に示す内径dと高さhとの比が{d:h=1:2~3}の範囲となるように設計することが好ましい。
【0035】
上記のアンモニア供給ライン32によって供給されるアンモニアAは、反応容器2に設けられるガス導入口21から、ガス供給配管23を介して反応容器2内に導入される。ここで、反応容器2の上部に備えられるガス導入口21から、容器内下方に向けて延設されるガス供給配管23の出口23aは、重水素化溶媒Lの液面よりも下方に配置されている必要がある。これは、アンモニアAの供給時、アンモニアAと重水素化溶媒Lが混合・溶解しやすくするためであり、また、キャリアガスCの供給時は、重水素化溶媒LをキャリアガスCによる吹き込みでバブリングすることで、液中に溶解している重水素化アンモニアHのガス化を促進するためである。
【0036】
また、
図2中に示すように、ガス供給配管23の出口23a近傍には、散気管23Aが設置されていることが好ましい。散気管23Aを設置することにより、ガス供給配管23から供給されるアンモニアA及びキャリアガスCの気泡が細かく分割され、気泡の比表面積が増加する。これにより、アンモニアAの供給時は、重水素化溶媒Lへの溶解効率(反応効率)をさらに向上させることができ、また、キャリアガスCの供給時は、バブリングによる重水素化アンモニアHのガス化効率をより向上させることが可能になる。
【0037】
上記のような散気管23Aとしては、例えば、濾過径が50μmのSUS製焼結金属フィルター等のような多孔質材料を用いることができる。散気管23Aの濾過径は、特に限定されないが、濾過径が小さすぎると圧力損失が大きくなって装置の運転に支障をきたす可能性があり、また、濾過径が大きすぎると、アンモニアA及びキャリアガスCの気泡が細かく分割され難くなり、散気管としての作用が得られ難くなる可能性がある。上記の観点から、散気管23Aの濾過径は、2~120μmの範囲であることが好ましい。
【0038】
図2に示すように、反応容器2の上面側には溶媒導入口25が設けられており、この溶媒導入口25から反応容器2の内部に重水素化溶媒Lを供給することができる。溶媒導入口25の内径は、特に限定されず、重水素化溶媒Lの供給効率等を考慮しながら決定すればよく、例えば、7~8mm程度、もしくはそれ以上の内径とすることができる。
なお、溶媒導入口25は、例えば、バルブやキャップ等により、反応容器2内の気密を確保できる構造とする必要がある。
【0039】
反応容器2の下面側には溶媒出口26が設けられており、この溶媒出口26から使用済みの重水素化溶媒Lを反応容器2の外部に排出することができる。溶媒出口26の内径は、特に限定されず、重水素化溶媒Lを排出する際の排出効率等を考慮しながら決定すればよく、例えば、7~8mm程度、もしくはそれ以上の内径とすることができる。
また、溶媒出口26は、溶媒導入口25と同様、例えば、バルブやキャップ等により、反応容器2内の気密を確保できる構造とする必要がある。
【0040】
また、反応容器2の上部には、生成された重水素化アンモニアHを、複数で設けられる反応容器2の内の後段側に配置される反応容器2や、後述する溶媒除去部7に向けて、ガスの状態で移送するためのガス導出口22が設けられている。このガス導出口22には、後段側の反応容器2と直列で接続するための混合ガス移送ライン51,52、あるいは、後述の溶媒除去部7に接続するための第1生成ガス送出ライン91が接続されている。
【0041】
さらに、反応容器2の上部には、内部に加圧用ガスを導入するための加圧用ガス導入口27が設けられている。この加圧用ガス導入口27は、例えば、反応容器2内の気密を確保可能なバルブ等と接続されている必要がある。
加圧用ガスとしては、キャリアガスCと同じガス種であることが好ましいが、アンモニアA、重水素化アンモニアH及び重水素化溶媒Lと反応することが無く、且つ、重水素化溶媒Lに溶解しないガスであれば、特に限定されない。
【0042】
反応容器2は、アンモニアA及びキャリアガスCの供給時において、アンモニアAと交換反応中の重水素化溶媒Lを攪拌できるような構造、即ち、
図2中に示すような攪拌機構24を備えていることがより好ましい。このように、反応容器2内の重水素化溶媒Lを攪拌する攪拌機構24を備えることにより、内部に供給されるアンモニアA及びキャリアガスCの気泡が重水素化溶媒L内に均一に拡散する作用が得られる。これにより、アンモニアAの供給時は、重水素化溶媒Lに対してアンモニアAを均一に溶解させやすくなり、キャリアガスCの供給時は、バブリングによる重水素化アンモニアHのガス化効率が向上する効果が得られる。
【0043】
反応容器2内の重水素化溶媒Lを攪拌する攪拌機構24の構造としては、特に限定されないが、例えば、磁気攪拌子とマグネチックスターラーとからなる機構、あるいは、メカニカルスターラーと攪拌棒とからなる機構等が例示できる。
【0044】
ガス冷却部10は、ガス導出口22に直接取り付けられるか、あるいは、図示例のように、混合ガス移送ライン51,52又は第1生成ガス送出ライン91の経路中に設けられることで、ガス導出口22から導出されるガス状の重水素化アンモニアH及びキャリアガスCの混合ガスを冷却するものである。ガス冷却部10によって上記の混合ガスを冷却することにより、不純物として含まれる重水素化溶媒L分を凝縮して取り除く効果が得られる。
このようなガス冷却部10としては、例えば、スパイラル式熱交換器、二重管式熱交換器等の一般的な熱交換器を何ら制限無く採用することができる。
また、ガス冷却部10で用いる冷媒としては、例えばエチレングリコール等の一般的な冷媒を何ら制限無く採用することができる。
【0045】
また、混合ガス移送ライン51,52又は第1生成ガス送出ライン91の経路中には、ガス冷却部10と、その後段の設備との間、即ち、後段側の反応容器2(2B,2C)又は溶媒除去部7との間には、減圧手段として減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aを設置することがより好ましい。この減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aにより、キャリアガスCの供給時に反応容器2内を減圧状態にすることで、重水素化アンモニアHのガス化をより促進することが可能になる。
【0046】
上記のような減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aとしては、特に限定されないが、例えば、接ガス部に油や液体を用いておらず、装置内部への不純物混入が少ない構造を有するドライポンプやダイヤフラムポンプ等が好ましい。
【0047】
減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aの内部及び後段配管内で溶媒成分等が凝集するのを防ぐため、減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aはガスバラスト機能付きであることが望ましい。ガスバラストとして用いるガスは、重水素化アンモニア、および重水素化溶媒と反応しないものであれば、特に限定されない。例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムといったガスを用いることができるが、そのまま重水素化アンモニア合成プロセス内部に流入するため、キャリアガスと同一ガスを用いることが好ましい。
【0048】
減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aのガスバラストは任意の流量に設定できるが、低すぎると溶媒成分等の凝集を防ぐ効果が低減することと、高すぎると後段の精製部での滞留時間が短くなり過ぎて、溶媒不純物除去などに悪影響を与える恐れがあることから、1~20L/minに設定することが望ましい。
【0049】
上述したように、
図1に例示した製造装置1は、3台の反応容器2A,2B,2Cが直列で接続されている。このように、反応容器2を複数台で備え、これら反応容器2A,2B,2Cの各々の間を混合ガス移送ライン51,52で直列接続することにより、複数回で連続して軽水素-重水素同位体交換反応を行うことが可能になる。この交換反応を行う回数が多くなるほど、交換反応に使用する重水素化溶媒Lの総量を少なくすることができるが、その一方で、反応容器2の台数が増えることは装置の大型化を招く懸念もある。このため、交換反応の回数は3回程度、即ち、反応容器2の台数は3台程度とすることが好ましい。なお、交換反応の回数を3回とすると、交換反応が1回である場合と比べて、交換反応で消費される重水素化溶媒Lの総量を10分の1以下程度に減量することができるので、製造コストを大幅に低減することが可能になるとともに、ほぼ平衡反応に達することで反応効率をより高めることが可能になる。
【0050】
複数の反応容器2A,2B,2Cが多段構成で直列に備えられる場合、例えば、前段側の反応容器2(2A又は2B)において、適宜、加圧用ガス導入口27から加圧用ガスを導入して増圧することにより、全後段の反応容器2の間、即ち、反応容器2Aと反応容器2Bとの間、又は、反応容器2Bと反応容器2Cとの間で圧力差が生じる。この圧力差により、例えば、後段側となる反応容器2Bから前段側となる反応容器2Aに向けて、溶媒移送ライン61を介して重水素化溶媒Lを移送させ、また、後段側となる反応容器2Cから前段側となる反応容器2Bに向けて、溶媒移送ライン62を介して重水素化溶媒Lを移送させることが可能になる。
【0051】
混合ガス移送ライン51,52は、上記のように、複数の反応容器2の各々の間を直列で接続し、反応容器2(2A又は2B)内で生成された重水素化アンモニアH及びキャリアガスCの混合ガスRを、それぞれ後段の反応容器2(2B又は2C)に向けてする配管である。
図3中に示す例では、反応容器2Aの後段側に配置される反応容器2Bにおいては、混合ガス移送ライン51から供給される混合ガスRが、ガス導入口21からガス供給配管23を介して内部に導入される。また、最後段に配置される反応容器2Cにおいては、混合ガス移送ライン52から供給される混合ガスRが、ガス導入口21からガス供給配管23を介して内部に導入される。
【0052】
混合ガス移送ライン51,52の材質としては、特に限定されないが、接続される反応容器2と同様、アンモニアA及び重水素化溶媒Lに対する耐食性を有し、且つ、上記の耐圧強度を有した金属であれば、特に限定されず、反応容器2と同様のSUSからなる配管を採用できる。また、混合ガス移送ライン51,52の径も特に限定されず、例えば、外径が9~10mmかそれ以上、内径が7~8mmかそれ以上のサイズとすることができる。
【0053】
溶媒移送ライン61,62は、上記のように、複数の反応容器2の各々の間を直列で接続し、反応容器2(2B又は2C)内に残存した重水素化溶媒Lの一部又は全部を、それぞれ前段の反応容器2(2A又は2B)に向けて移送する配管である。溶媒移送ライン61,62は、例えば、
図1,3に示すように、後段の反応容器2(2B又は2C)の液相と、前段の反応容器2(2A又は2B)とを接続する。
【0054】
溶媒移送ライン61,62の材質としても、特に限定されないが、例えば、外径が9~10mmかそれ以上、内径が7~8mmかそれ以上である透明樹脂は移管等を採用することができる。
【0055】
なお、図示例の溶媒移送ライン61,62は、複数の反応容器2の各々の気密を確保するため、出口側及び入口側の両端に、開閉バルブ60a,60bが設けられており、必要に応じて開閉が可能な構成とされている。
【0056】
(溶媒除去部)
溶媒除去部7は、
図1に示す例では、最後段となる反応容器2Cの下流側に位置し、第1生成ガス送出ライン91を介して接続されている。溶媒除去部7は、上述したように、反応容器2内における交換反応で得られる重水素化アンモニアHとキャリアガスCとの混合ガスRから、この混合ガスR中に不純物として含まれる重水素化溶媒Lを除去する。
【0057】
図1に示すように、溶媒除去部7は、反応容器2の二次側に位置する溶媒分離モジュール71と、溶媒分離モジュール71の二次側に位置する、一対の溶媒除去カラム72,72と、溶媒分離モジュール71と反応容器2との間に位置する溶媒成分返送ライン(溶媒成分返送経路)73と、溶媒除去カラム72,72内に再生ガスとして不活性ガスを導入する再生ガス導入ライン(再生ガス導入経路)74と、再生ガス導入ライン74に位置し、不活性ガスを加熱する加熱器75と、溶媒分離モジュール71と一対の溶媒除去カラム72,72との間に位置する混合気体Rの導入ライン76と、溶媒除去カラム72,72と反応容器2との間に位置するガス成分返送ライン(ガス成分返送経路)77と、溶媒除去カラム72,72から回収した重水素化アンモニアHを回収する第2生成ガス送出ライン92と、を備えて概略構成される。
【0058】
(溶媒分離モジュール)
溶媒分離モジュール71は、反応容器2で生成された重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体Rが導入され、重水素化溶媒不純物が除去される。
図4に示すように、溶媒分離モジュール71は、中空状の分離膜71Aと、分離膜71Aを内側の空間に収容するとともにガス導入口71a及びガス導出口71bを有するカラム本体71Bと、を備える。
【0059】
溶媒成分返送ライン73は、溶媒分離モジュール71で分離した溶媒成分を反応容器2に返送する。
また、溶媒成分返送ライン73には、分離膜71Aの中空内部を真空パージする真空ポンプ(減圧手段)73Aが位置する。この真空ポンプ73Aにより、分離膜71Aの中空内部は常時真空排気されている。
【0060】
溶媒分離モジュール71では、重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体Rが、カラム本体71Bのガス導入口71aから導入され、カラム本体71Bと分離膜71Aとの間隙を流通しながら、ガス成分の膜に対する透過速度差に応じた分離が行われ、溶媒不純物が低減された重水素化アンモニアガスがカラム本体71Bのガス導出口71bから溶媒除去カラム72,72への導入ライン76に導出される。
【0061】
カラム本体71Bは密閉構造であり、負圧ないし加圧状態に耐えられるものが好ましい。カラム本体71Bの材質としては、アンモニア及び重水素化溶媒によって腐食しないものであれば特に限定されない。
このようなカラム本体71Bとしては、例えば、-0.1~0.3MPaGまでの圧力に耐えうるSUS製容器を使用することができる。
溶媒分離モジュール71に接続される、第1生成ガス送出ライン91、導入ライン76、及び溶媒成分返送ライン73を構成する配管、および付属装置の材質は、上記同様特に限定されるものではない。
【0062】
カラム本体71Bのカラム内径は、分離膜71Aを挿入できる大きさであれば特に限定されない。ただし、分離膜71Aの外径に対してカラム内径が大きいと、ガスの流路幅となるカラム本体71Bと分離膜71Aとの間隙が大きくなり、流通ガスの体積に対して分離膜71Aへ接する比表面積が小さくなって分離効率が低下するため好ましくない。また、ガス流路幅は小さすぎても圧力損失の増加を招くため好ましくない。ガス流路幅が0.1~3mmとなるように、分離膜71Aおよびカラム本体71Bのカラム内径を調整することが好ましい。
【0063】
分離膜71Aは、反応容器2から導出される粗重水素化アンモニアガスを、重水素化アンモニアガスと溶媒成分とに分離する。
分離膜71Aの形状は、一端が開放され、他端が閉止された中空状であれば特に限定されない。分離膜71Aの径や膜厚も特に限定されない。分離膜71Aとしては、例えば、径5~30mm、膜厚0.1~10mmの膜を用いることができる。ただし、分離膜71Aは、負圧ないし加圧に耐えられる機械的強度を有することが好ましい。また、分離膜71Aは、カラム本体71Bに接続、固定し、分離膜71Aの内外で気密が取れるような継手を有していることが好ましい。
【0064】
分離膜71Aの材料としては、重水素化アンモニアを吸着ないしは反応しないものであれば、特に限定されない。このような材料としては、ポリイミドなどの高分子有機膜、ゼオライト、シリカゲルなどの無機膜といった一般的な膜材料が挙げられる。
【0065】
本実施形態の製造装置1によれば、大流量の処理を行う場合、必要に応じて複数本の溶媒分離モジュール71を用いることができる。この場合、分離膜71Aが1本挿入された溶媒分離モジュール71を複数台並列に並べてもよいし、複数本の分離膜71Aが挿入された溶媒分離モジュール71を用いてもよい。
【0066】
分離膜71Aの中空内部の真空度は、特に限定されないが、高真空であるほど膜内外の圧力差が大きくなり、ガス成分の膜に対する透過を駆動することができる。
【0067】
溶媒分離モジュール71では、溶媒不純物が真空ポンプ73Aによって分離膜71Aの内側に除去されるとともに、少量の重水素化アンモニアも分離、除去される。そこで、本実施形態の製造装置1によれば、真空ポンプ73Aの排気側を反応容器2のいずれか一つに接続することで、溶媒分離モジュール71で除去される溶媒不純物と重水素化アンモニアとを、再度反応系内に返送することができ、ロスなく合成を行うことができる。これにより、本実施形態の製造装置1によれば、重水素化アンモニアの収率を向上させることができる。
【0068】
なお、本実施形態の製造装置1では、真空ポンプ73Aの内部、及び後段の配管内で溶媒成分等が凝集することを防ぐため、真空ポンプ73Aはガスバラスト機能付きであることが好ましい。ガスバラストとして用いるガスは、重水素化アンモニア、および重水素化溶媒と反応しないものであれば、特に限定されない。このようなガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムといった不活性ガスが挙げられるが、そのまま重水素化アンモニアの合成プロセス内部に流入するため、キャリアガスと同一ガスを用いることが好ましい。
【0069】
真空ポンプ73Aのガスバラストは、任意の流量に設定できるが、低すぎると溶媒成分等の凝集を防ぐ効果が低減すること、高すぎると後段の分離回収器8での滞留時間が短くなり過ぎて、不純物除去などに悪影響を与える恐れなどがあることから、1~20L/minに設定することが好ましい。
【0070】
(溶媒除去カラム)
溶媒除去カラム72,72は、密閉構造であり、負圧ないし加圧状態に耐えられるものであれば、特に限定されない。また、溶媒除去カラム72,72の材質としては、アンモニアと重水素化溶媒とによって腐食しないものであれば、特に限定されない。このような溶媒除去カラム72,72としては、例えば、-0.1~0.3MPaGまでの圧力に耐えうるSUS製容器を使用することができる。
溶媒除去カラム72,72に接続される、導入ライン76、ガス成分返送ライン(ガス成分返送経路)77及び第2生成ガス送出ライン92を構成する配管、および付属装置の材質は、上記同様特に限定されるものではない。
【0071】
溶媒除去カラム72,72の容積としては、十分量の吸着剤が入る大きさが必要であるが、容積が大きすぎると製造装置1が大型化してしまうため、適宜その大きさを選択することができる。
また、溶媒除去カラム72,72の径は、大きすぎると製造装置1が大型化してしまい、小さすぎると流通ガスの線速度が大きくなりすぎ、吸着剤の性能が発揮されないおそれがあることから、適切な大きさを選択する必要がある。このような径としては、流通ガスの線速度が1~10cm/secとなるような径を選択することが好ましい。
【0072】
溶媒除去カラム72,72への吸着剤の充填高さは、製造装置1が大型化することなく、吸着剤の性能が発揮される必要があるため、吸着剤の溶媒不純物に対する平衡吸着量と物質移動帯長さとのデータから、適切な充填高さを設定することが好ましい。
【0073】
吸着剤は、溶媒分離モジュール71から導出される重水素化アンモニアガス中に含まれる溶媒成分を吸着して除去する。
吸着剤としては、重水素化アンモニアと化学反応するもの(硫酸銅無水物などが例示できる)でなければ、除去対象の溶媒分の物性に応じて適宜選択することができる。吸着剤としては、例えば、モレキュラーシーブ、活性アルミナなどが挙げられる。
【0074】
本実施形態の製造装置1では、複数本が並列に接続されている溶媒除去カラム72,72のうち、溶媒成分の吸着除去が行われた方のカラムに対して加熱された不活性ガスを流通させることで、内部に充填されている吸着剤の再生が行われる。
再生が行われる溶媒除去カラム72を通過した不活性ガスには、吸着剤から脱離した重水素化アンモニアが含まれており、ガス成分返送ライン(ガス成分返送経路)77を介してガス導入口21から反応容器2(2A)に返送され、反応容器2(2A)に回収される。
【0075】
ここで、反応容器2では、不活性ガス中の重水素化アンモニアが重水素化溶媒に溶解して回収されるが、同時に不活性ガスがキャリアガスとして機能し、重水素化アンモニアの発生が生じる。発生した重水素化アンモニアは、溶媒分離モジュール71を通過後、別の溶媒除去カラム72を通過して溶媒不純物の除去が行われる。
このように複数本が並列に接続された溶媒除去カラム72,72により、吸着剤の再生、重水素化アンモニアの回収、及び重水素化アンモニアの発生を同時に行うことができる。
【0076】
溶媒除去カラム72,72によれば、吸着剤に吸着された重水素化アンモニアの回収に専用の設備が不要であるため、設備費用や設置面積の面で好ましく、重水素化アンモニアの発生も同時に行うことができることから、スループットの面でも好ましい。
また、溶媒除去カラム72,72は、複数本必要であるが、多すぎると設備が大型化するため、2本であることが好ましい。
【0077】
再生ガス導入ライン(再生ガス導入経路)74を介して、溶媒除去カラム72,72内に再生ガスとして導入する不活性ガスは、重水素化アンモニア、および重水素化溶媒と反応しないものであれば、特に限定されない。このような不活性ガスとしては、例えば、窒素、アルゴン、ヘリウムが挙げられるが、反応容器2へと回収された後はキャリアガスとして機能するため、キャリアガスおよび真空ポンプのバラストガスと同一ガスを用いることが好ましい。なお、不活性ガスに微量含まれる、水などの交換性軽水素を持つ不純物は、回収する重水素化アンモニアの重水素濃縮度を低下させるため、事前にドライカラム等で除去しておくことが好ましい。
【0078】
不活性ガスの流量は、特に限定されないが、流量が低すぎると溶媒吸着剤の再生効率が低下し、流量が高すぎると重水素化アンモニア発生後の分離・回収部での滞留時間が短くなり過ぎて、不純物除去などに悪影響を与える恐れがあることから、10~50L/minとすることが好ましい。
【0079】
加熱器75は、再生ガス導入ライン74に位置し、再生ガスとして用いる不活性ガスを加熱する。加熱器75の温度は、特に限定されず、用いる吸着剤の特性と不活性ガス流量とに応じて適宜設定することができる。例えば、溶媒の吸着剤として活性アルミナを用いる場合、一般的に活性アルミナを再生するのに必要とされる温度である200℃以上に活性アルミナが加熱されるように設定することが好ましい。
【0080】
溶媒除去カラム72,72によれば、吸着剤で溶媒不純物を吸着することで、溶媒不純物量を最終的に数ppm以下に低減できる。
【0081】
(分離回収器)
分離回収器8は、溶媒除去部7の二次側に位置し、溶媒除去カラム72,72の出口側に第2生成ガス送出ライン92を介して接続される。分離回収器8は、上述したように、溶媒除去部7によって重水素化溶媒Lが除去された後の混合ガスRを、目的生成物である重水素化アンモニアHと、目的生成物に対する不純物となるキャリアガスCとに分離するものである。これにより、分離回収器8は、生成物出口81から高純度の重水素化アンモニアHを導出するとともに、不純物排出口82からキャリアガスCを排出する。
【0082】
分離回収器8には、例えば、一般的な固化精製装置や蒸留装置等を採用することができる。
分離回収器8に用いられる固化精製装置としては、特に限定されないが、例えば、液体窒素等の寒剤で冷却された重水素化アンモニアHとキャリアガスCとの混合気体中において、重水素化アンモニアHのみを固化・トラップし、固化しないキャリアガスC等の不純物をポンプで排気して除去することで、高純度の重水素化アンモニアHが得られる装置等を採用できる。
【0083】
(重水素化溶媒)
溶媒導入口25から反応容器2に導入し、反応容器2内に貯留させて使用する重水素化溶媒Lとしては、特に限定されないが、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基等のプロトン交換性官能基を有し、さらに、プロトン交換性官能基が重水素化されたものである必要がある。このような重水素化溶媒Lとしては、例えば、最も好ましくは重水が挙げられ、その他、重メタノール、重エタノール、重ジエチルアミン等を採用することができる。また、重水素化溶媒Lとしては、例えば、重酢酸等のような、アンモニアAと化学反応することで重水素化アンモニアH以外の生成物を与える溶媒でない限り、上記の例示に限定されるものではない。
【0084】
<重水素化アンモニアの製造方法>
次に、本実施形態の製造装置1を用いた重水素化アンモニアの製造方法(以下、単に製造方法と称する場合がある。)について詳述する。
本実施形態においては、
図1~
図5に示した本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置1を用いて重水素化アンモニアを製造する方法について、各手順及び条件、並びに、各ガス(液体)の流れを説明する。また、本実施形態では、重水素化溶媒Lとして重水を用い、キャリアガスCとして窒素を用いた場合の一例を説明する。
なお、以下の説明では、上記の重水素化アンモニアの製造装置1の説明と重複する構成については、その詳細な説明を省略する。
【0085】
本実施形態の重水素化アンモニアの製造方法は、アンモニアAと重水素化溶媒Lとを反応容器内で混合して軽水素-重水素同位体交換反応を行うことにより、重水素化アンモニアHを得る方法である。即ち、本実施形態の製造方法は、以下の(1)~(6)に示す各ステップを備える方法である。
(1)反応容器2に向けて重水素化溶媒Lを供給する重水素化溶媒供給ステップ。
(2)反応容器2に向けてアンモニアAを供給するアンモニア供給ステップ。
(3)反応容器2の内部において、アンモニアAと、反応容器2内に貯留された重水素化溶媒Lとで軽水素-重水素同位体交換反応を行う交換反応ステップ。
(4)反応容器2に向けてキャリアガスCを供給するキャリアガス供給・バブリングステップ。
(5)反応容器2から導出される重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体Rから、溶媒不純物を除去する溶媒不純物除去ステップ。
(6)重水素化アンモニアHを単離して回収する単離回収ステップ。
【0086】
また、本実施形態では、上記(3)の交換反応ステップとして、反応容器2を計3台で用いるとともに、複数の反応容器2A,2B,2Cの各々の間を直列で接続する2本の混合ガス移送ライン51,52を用い、この混合ガス移送ライン51,52が、反応容器2(2A又は2B)内で生成された重水素化アンモニアH及びキャリアガスCの混合ガスRを、それぞれ後段の反応容器(2B又は2C)に向けて移送することにより、複数の反応容器2A,2B,2C内において、順次、軽水素-重水素同位体交換反応を行う方法について説明する。
【0087】
さらに、本実施形態では、複数の反応容器2A,2B,2Cの各々の間を直列で接続する2本の溶媒移送ライン61,62を用い、反応容器2(2B又は2C)内に残存する重水素化溶媒Lの一部又は全部を、それぞれ前段の反応容器2(2A又は2B)に向けて移送する方法について説明する。
【0088】
なお、本実施形態では、上記の(1)に示した重水素化溶媒供給ステップについては、工業的に独立した工程として実施する一方、上記の(2)~(6)に示した各ステップは、必ずしも時系列で完全に分離して実施する工程とは限らないため、以下においては、各ステップを併せた総合的な内容で説明する。
【0089】
まず、重水素化溶媒供給ステップにおいて、反応容器2の溶媒導入口25から重水素化溶媒Lとして重水を供給する。
次いで、アンモニア供給ステップ及び交換反応ステップにおいて、反応容器2A内部を攪拌機構24で攪拌しながら、アンモニア供給ライン32を介して、反応容器2Aに備えられたガス導入口21からアンモニアAを供給することで軽水素-重水素同位体交換反応を行う。
【0090】
このときの条件は、特に限定されるものではなく、工程における種々の状況に応じて適宜選択することができ、例えば、重水素化溶媒Lの供給量:1~10kg、アンモニアAの供給量:0.01~10kg、アンモニアAの供給流量:1~20L/min、攪拌速度:600~1000rpmの範囲の各条件を組み合わせて選択することができる。なお、攪拌速度が大きいほど、反応容器2内に供給されるガスの気泡が重水素化溶媒L内に均一に拡散しやすくなるため、上記のように600rpm以上であることが好ましい。
【0091】
次いで、キャリアガス供給・バブリングステップにおいて、反応容器2A内に、キャリアガス供給ライン4及びアンモニア供給ライン32を介して、キャリアガスCとして窒素を供給することで、重水素化溶媒Lに溶解している反応後の重水素化アンモニアHをガス化させて抽出する。
【0092】
また、本実施形態のキャリアガス供給・バブリングステップにおいては、上記(3)の交換反応ステップにおける重水素化溶媒LをキャリアガスCでバブリングすることにより、重水素化溶媒L中から重水素化アンモニアHを抽出する。
このときの条件も、特に限定されるものではなく、工程における種々の状況に応じて適宜選択することができ、例えば、キャリアガスCの流量:5~50L/min、供給圧力:0.01~0.9MPaGの範囲の各条件を組み合わせて選択することができる。
【0093】
キャリアガスCを供給している間は、反応容器2を加熱することが好ましい。これは、キャリアガスCの供給によって重水素化アンモニアHが気化する際に、蒸発潜熱によって重水素化溶媒Lが常温以下に冷却されてガス溶解度が大きくなり、重水素化アンモニアHのガス化効率が大きく低下することを防止するためである。この際の加熱温度としては、反応容器2の内部が常温~60℃となる程度が好ましく、例えば、60℃程度であることがより好ましい。これは、加熱温度が高いほどガス化効率は向上するものの、重水素化溶媒Lが蒸発しやすくなり、不純物として後続の装置に混入しやすくなるのを防止するためである。
【0094】
また、キャリアガス供給・バブリングステップにおいては、減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aにより、キャリアガスCの供給時に反応容器2内を減圧状態にすることが好ましい。これにより、重水素化アンモニアHのガス化をより促進することが可能となり、重水素化アンモニアHの回収量および回収スピードを向上させることができる。
【0095】
次いで、ガス化された重水素化アンモニアH及びキャリアガスCの混合ガスRは、ガス導出口22から導出され、混合ガス移送ライン51に設けられたガス冷却部10によって冷却される。
ガス冷却部10による冷却温度は、低いほど重水素化溶媒Lを凝縮して取り除く効果が向上するものの、凝縮した重水素化溶媒Lに対する重水素化アンモニアHの溶解度も高められることで歩留まりが低下してしまうこと、並びに、重水素化溶媒Lに用いる重水の融点である4℃以下に冷却すると、ガス冷却部10の内部で重水素化溶媒Lが固化して流路閉塞を招くおそれがあること等を考慮し、5℃~10℃の範囲に設定することが好ましい。
【0096】
次いで、冷却後の重水素化アンモニアH及びキャリアガスCの混合ガスRを、混合ガス移送ライン51を介して2段目の反応容器2Bに導入し、上記同様のアンモニア供給ステップ、キャリアガス供給・バブリングステップ、交換反応ステップを実施する。
次いで、上記の混合ガスRを、混合ガス移送ライン52を介して3段目の反応容器2Cに導入し、上記同様の各ステップを実施する。
【0097】
次いで、3段目の反応容器2Cから導出された重水素化アンモニアH及びキャリアガスCの混合ガスRは、ガス冷却部10による冷却処理を経て、第1生成ガス送出ライン91を介して後段の溶媒除去部7に導入され、不純物となる重水素化溶媒Lが除去される。
次いで、溶媒除去部7で精製された重水素化アンモニアH及びキャリアガスCの混合ガスRは、後段の分離回収器8に導入され、重水素化アンモニアHとキャリアガスCとに分離することで、不純物となるキャリアガスCを除去する。
次いで、反応容器2中の重水素化アンモニアHの回収が終了した後、キャリアガスCの反応容器2内への供給を停止する。
以上により、3台の反応容器2A,2B,2Cを用いた1バッチの重水素化アンモニアHの合成手順が終了する。
【0098】
次に、本実施形態における、複数の反応容器2A,2B,2Cを用いて交換反応ステップを行う方法について詳述する。
通常、2バッチ目以降の軽水素-重水素同位体交換反応を行う場合、交換反応によって重水素化率が低下した重水素化溶媒Lを未使用のものに入れ換える必要がある。このとき、
図1に示す製造装置1のように、複数(図示例では3台)の反応容器2(2A,2B,2C)を用いる場合には、全ての重水素化溶媒Lを未使用のものに入れ換える必要はない。これは、反応容器2Aよりも後段側の反応容器2(反応容器2B)に収容された重水素化溶媒Lは、重水素化率の低下が小さいことから、2バッチ目の交換反応においても再利用することが可能なためである。
【0099】
例えば、重水素化溶媒Lとして99.8atom%Dの重水を用い、1バッチ目が終了した後の重水素化率が、1段目:80.0atom%D、2段目:95.0atom%D、3段目:99.0atom%Dとなった場合には、
図3中に示すように、まず、1段目の反応容器2A内の重水素化溶媒Lのみを溶媒出口26から排出する。そして、2段目の反応容器2B内の重水素化溶媒Lを、溶媒移送ライン61を介して1段目の反応容器2A内に移送させ、3段目の反応容器2C内の重水素化溶媒Lを、溶媒移送ライン62を介して2段目の反応容器2B内に移送させた後、3段目の反応容器2C内にのみ、未使用の重水素化溶媒Lを補給する。このとき、2バッチ目の交換反応開始前の重水素化率は、1段目:95.0atom%D、2段目:99.0atom%D、3段目:99.8atom%Dとなる。このような条件で、2バッチ目の交換反応を実施することで得られる重水素化アンモニアHの重水素化率は、1バッチ目と比較してほとんど変化しない。即ち、毎バッチにおいて全ての重水素化溶媒Lを未使用のものに入れ換える必要は無く、重水素化溶媒Lの一部を再利用することで、重水素化溶媒Lとして用いる高価な重水の使用量や廃棄量を削減することが可能になる。また、例えば、重水素化溶媒Lの再利用が、上記のうちの一部のみに留まった場合や、重水素化溶媒Lを2段以上前段で配置された反応容器2に移送させた場合であっても、重水素化溶媒L使用量や廃棄量の削減に一定の効果が得られる。
【0100】
本実施形態の製造方法では、以上の手順により、高温・高圧条件を用いることなく、目的物質である重水素化アンモニアHを得ることができる。また、反応容器2を複数用いることで、使用する重水素化溶媒Lの総量を低減できる。さらに、反応容器2A,2B,2Cの各々の間を溶媒移送ライン61,62で接続し、重水素化溶媒Lを再利用することで、バッチ単位での重水素化溶媒Lの排出量を低減し、効率よく交換反応を行うことができる。
【0101】
また、本実施形態においては、上記(2)のアンモニア供給ステップ及び上記(3)の交換反応ステップの後に、キャリアガスCを供給する上記(4)のキャリアガス供給・バブリングステップを実施する例について説明しているが、これには限定されない。例えば、上記(2)のアンモニア供給ステップにおいてアンモニアAを供給するのと平行して、上記(4)のキャリアガス供給・バブリングステップを実施することにより、アンモニアA及びキャリアガスCを反応容器2内に同時供給することも可能である。
【0102】
また、上記の説明においては、
図1や
図3に示したような、3台の反応容器2A,2B,2Cが直列で接続された製造装置1を用いた場合について説明しているが、交換反応の回数(段数)、即ち、複数の反応容器2の台数や、これらを接続する各ラインの本数等は、これには限定されない。例えば、交換反応の回数は3回よりも多くすることも可能であるが、上述したように、反応容器2の台数が増えることは装置の大型化を招く懸念もあるため、3回程度とすることが好ましい。
【0103】
次に、本実施形態における、溶媒除去部7により、反応容器2から導出される重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体Rから、溶媒不純物を除去する溶媒不純物除去ステップを行う方法について詳述する。
【0104】
先ず、最後段に位置する反応容器2Cから、第1生成ガス送出ライン91を介して、重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体Rを溶媒分離モジュール71に導入する。溶媒分離モジュール71では、重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体(粗ガス)Rが、カラム本体71Bのガス導入口71aから導入され、カラム本体71Bと分離膜71Aとの間隙を流通しながら、ガス成分の膜に対する透過速度差に応じた分離が行われる。溶媒分離モジュール71では、粗ガス中に飽和量含まれる溶媒不純物を約1/10の数千ppmに低減できる。
【0105】
溶媒不純物が低減された重水素化アンモニアガスは、カラム本体71Bのガス導出口71bから導出され、導入ライン76を介して溶媒除去カラム72,72に導入される。
一方、溶媒分離モジュール71で除去される溶媒不純物と重水素化アンモニアとは、溶媒成分返送ライン(溶媒成分返送経路)73を介して、反応容器2Cに返送される。
【0106】
このように、本実施形態の製造装置1及び製造方法によれば、溶媒分離モジュール71において分離除去した溶媒不純物と重水素化アンモニアとを再度反応系内に返送するため、重水素化アンモニアの収率を向上させることができる。
【0107】
次いで、一対の溶媒除去カラム72,72には、溶媒不純物を約1/10の数千ppmに低減された重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体Rが導入される。
一対の溶媒除去カラム72,72のうち、一方の溶媒除去カラム72では、吸着剤が、溶媒分離モジュール71から導出される重水素化アンモニアガス中に含まれる溶媒成分を吸着して除去する。これにより、溶媒不純物が数ppm以下に低減された重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体Rが得られる。
そして、一対の溶媒除去カラム72,72のうち、他方の溶媒除去カラム72では、加熱された不活性ガスを流通させることで、内部に充填されている吸着剤の再生が行われる。再生が行われる溶媒除去カラム72を通過した不活性ガスには、回収された重水素化アンモニアが含まれており、ガス成分返送ライン(ガス成分返送経路)77を介してガス吹き込み口21から反応容器2(2A)へと回収される。これにより、重水素化アンモニアの収率が向上する。
【0108】
本実施形態の製造装置1を用いた製造方法によれば、溶媒除去部7が溶媒分離モジュール71及び一対の溶媒除去カラム72,72を備えているため、溶媒分離モジュール71において、粗ガス中に飽和量含まれる溶媒不純物を約1/10の数千ppmに低減でき、後段の溶媒除去カラム72,72において溶媒不純物量を最終的に数ppm以下に低減できる。
【0109】
また、本実施形態の製造装置1を用いた製造方法によれば、一対の溶媒除去カラム72,72の一次側(前段)に溶媒分離モジュール71を備えているため、溶媒不純物が約1/10の数千ppmに低減された粗ガスが後段の溶媒除去カラム72,72に導入される。これにより、溶媒除去カラム72,72に充填された吸着剤の負荷を低減できるため、吸着剤の寿命が延び、メンテナンスの頻度や吸着剤の交換頻度を少なくでき、生産性が向上する。
【0110】
次に、本実施形態における、分離回収器8により、重水素化アンモニアHを単離して回収する単離回収ステップを行う方法について詳述する。
具体的には、分離回収器8として固化精製装置を用い、液体窒素等の寒剤で冷却された重水素化アンモニアHとキャリアガスCとの混合気体R中において、重水素化アンモニアHのみを固化・トラップし、固化しないキャリアガスC等の不純物をポンプで排気して除去することで、高純度の重水素化アンモニアHを端子して回収する。
【0111】
以上説明したように、本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置1によれば、上記のように、反応容器2に向けてアンモニアAを供給するアンモニア供給ライン32を含むアンモニア供給部3と、反応容器2に向けてキャリアガスCを供給するキャリアガス供給ライン4を含むキャリアガス供給部とを備え、反応容器2が、供給されたアンモニアAと、内部に貯留された重水素化溶媒Lとで軽水素-重水素同位体交換反応を行う構成を採用している。
【0112】
これにより、重水素化溶媒Lと、重水素化されていないアンモニアAとで交換反応を行い、キャリアガスCの供給により、重水素化溶媒Lに溶解した重水素化アンモニアHをガスの形で取り出すことで、高温や高圧の条件を必要とすることなく、重水素化アンモニアHが簡便に得られる。
【0113】
従って、製造工程におけるエネルギー負荷が抑制され、簡易な構成、及び簡便な操作によって、低コスト且つ高効率で重水素化アンモニアの製造が可能である。
【0114】
また、本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置1によれば、溶媒除去部7が、一対の溶媒除去カラム72,72の一次側(前段)に溶媒分離モジュール71を備えているため、溶媒不純物が約1/10の数千ppmに低減された粗ガスを後段の溶媒除去カラム72,72に導入することができる。これにより、溶媒除去カラム72,72に充填された吸着剤の負荷を低減できるため、吸着剤の寿命が延び、メンテナンスの頻度や吸着剤の交換頻度を少なくでき、簡単な運用が可能となり、生産性が向上する。
【0115】
また、本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置1によれば、溶媒分離モジュール71で除去される溶媒不純物と重水素化アンモニアとを、溶媒成分返送ライン73を介して反応容器2Cに返送するため、重水素化アンモニアの収率を向上させることができる。
【0116】
また、本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置1によれば、再生が行われる溶媒除去カラム72を通過した不活性ガスを回収し、ガス成分返送ライン77を介してガス吹き込み口21から反応容器2(2A)に返送するため、重水素化アンモニアの収率を向上させることができる。
【0117】
さらに、本実施形態の重水素化アンモニアの製造装置1によれば、混合ガス移送ライン51,52又は第1生成ガス送出ライン91の経路に、減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aが設けられており、この減圧ポンプ51A,52A、及び減圧ポンプ91Aにより、キャリアガスCの供給時に反応容器2内を減圧状態にできるため、重水素化アンモニアHのガス化をより促進し、生産量および生産スピードを向上させることができる。
【0118】
また、本実施形態の重水素化アンモニアの製造方法によれば、反応容器2に向けてアンモニアAを供給するアンモニア供給ステップと、反応容器2の内部において、アンモニアAと重水素化溶媒Lとで軽水素-重水素同位体交換反応を行う交換反応ステップと、反応容器2に向けてキャリアガスCを供給するキャリアガス供給・バブリングステップとを備えた方法を採用している。
【0119】
このように、例えば、ヒドロキシ基、アミノ基等のようなプロトン交換性官能基を有する重水素化溶媒Lと、重水素化されていないアンモニアAとを混合・溶解して交換反応を行い、その後、キャリアガスCの供給により、重水素化溶媒Lに溶解した重水素化アンモニアHをガスの形で取り出すことで、高温や高圧の条件を必要とすることなく、重水素化アンモニアHを得ることができる。
従って、製造工程におけるエネルギー負荷が抑制され、低コスト且つ優れた生産効率で重水素化アンモニアHを製造することが可能になる。
【0120】
<その他の形態>
以上、本発明の実施形態について、図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明には、発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【実施例0121】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0122】
(実施例1)
実施例1においては、
図1に示すような、本発明の重水素化アンモニアの製造装置1を使用し、以下に示す条件により、重水素化アンモニアHを合成するステップを実施した。
そして、合成・精製した重水素化アンモニアHを図視略の封入容器で回収した後、FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光法)により、定性純度分析を行った。
また、合成・精製した重水素化アンモニアHについて、GC(ガスクロマトグラフィ)、及び、1H-NMR(Proton Nuclear Magnetic Resonance:プロトン核磁気共鳴)により、定量純度分析を行った。
【0123】
以下、実施例1における重水素化アンモニアHの合成条件を示す。
(1)反応容器2:内径160mm、高さ400mm(計3台を直列接続で使用)
(2)重水素化溶媒L:重水
(3)重水素化溶媒Lの重水素化率:99.8atom%D
(4)重水素化溶媒Lの使用量:8kg×3台(反応容器2)
(5)アンモニアAの供給流量:10L/min
(6)キャリアガスC:窒素
(7)キャリアガスCの供給流量:15L/min
(8)バラストガス流量:一台当たり2.5L/min
(9)プロセス内部のキャリアガス総量:25L/min
(10)反応容器2内の圧力:-60kPaG
(11)反応容器2の加熱温度:60℃
(12)混合ガスの冷却温度:5℃
(13)溶媒分離モジュール71の分離膜:ゼオライト製中空糸膜
(14)溶媒除去カラム72の吸着剤:モレキュラーシーブ
【0124】
上記条件で合成した重水素化アンモニアHのFT-IRスペクトルを
図6に示すとともに、GC及び
1H-NMRによる分析結果を下記表1に示す。
また、溶媒分離モジュール71に導入する、重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体(粗ガス)Rに含まれる溶媒不純物(重水)濃度と、溶媒分離モジュール71から導出される粗ガスRに含まれる溶媒不純物(重水)濃度と、の分析結果を下表2に示す。
【0125】
【0126】
【0127】
図6のスペクトルに示すように、実施例1で合成した重水素化アンモニアHから得られたピークは、原料であるアンモニアから短波長側にシフトしており、さらに、目標生成物である重水素化アンモニアと一致したことから、重水素化アンモニアが得られたと推察される。
また、表1に示すように、実施例1で合成した重水素化アンモニアHは、化学純度が高く、また、高重水素化率であることが確認できた。
【0128】
さらに、表2に示すように、実施例1において、溶媒分離モジュール71に導入する粗ガス中の重水素化アンモニア濃度は8%、重水濃度は1360ppmであり、溶媒分離モジュール71で90%の重水を分離できていることが確認できた。
【0129】
(比較例1)
比較例1においては、
図7に示すような、重水素化アンモニアの製造装置101を使用し、以下に示す条件により、重水素化アンモニアHを合成するステップを実施した。
なお、重水素化アンモニアの製造装置101は、反応容器2に減圧ポンプ51A,52A及び91Aを備えない点、及び溶媒除去部107が溶媒分離モジュール71を備えずに溶媒除去カラム72のみを備える点で、
図1に示す本発明の製造装置1と構成が異なる。
そして、合成・精製した重水素化アンモニアHを図視略の封入容器で回収した後、FT-IR(Fourier Transform Infrared Spectroscopy:フーリエ変換赤外分光法)により、粗ガス中の組成分析を行った。
【0130】
以下、比較例1における重水素化アンモニアHの合成条件を示す。
(1)反応容器2:内径160mm、高さ400mm(計3台を直列接続で使用)
(2)重水素化溶媒L:重水
(3)重水素化溶媒Lの重水素化率:99.8atom%D
(4)重水素化溶媒Lの使用量:8kg×3台(反応容器2)
(5)アンモニアAの供給流量:10L/min
(6)キャリアガスC:窒素
(7)キャリアガスCの供給流量:25L/min
(8)反応容器2内の圧力:50~100kPaG
(9)反応容器2の加熱温度:60℃
(10)混合ガスの冷却温度:5℃
(11)その他条件(溶媒除去部107及び分離回収器8の容量、圧力、温度):適宜調整
【0131】
溶媒除去部107に導入する、重水素化アンモニアH/キャリアガスCの混合気体(粗ガス)Rに含まれる溶媒不純物(重水)濃度の分析結果を下表3に示す。
また、実施例1と比較例1との結果の比較を下表4に示す。
【0132】
【0133】
【0134】
表3に示すように、粗ガス中の重水素化アンモニア濃度は4%であり、重水濃度は12300ppmであった。
【0135】
表4に示すように、粗ガス中の溶媒不純物濃度は実施例1の方が0.11倍となるため、処理できる粗ガス量は1/0.11≒9倍であった。
また、粗ガス中の重水素化アンモニア濃度は2倍であるため、吸着剤を1回再生するまでに処理可能な重水素化アンモニア量は18倍であった。そのため、必要な吸着剤再生回数は1/30に低減でき、再生操作のたびに必要な加熱エネルギーも削減できることを確認できた。
【0136】
(実施例2)
実施例1と同様に、重水及びアンモニアを反応容器に仕込んだうえで、吸着剤の再生を行い、再生ガスを反応容器に回収し、同時に重水素化アンモニアの発生を行った。
合成・精製後の重水素化アンモニアは、封入容器に回収した後、FT-IRで定性純度分析を、GCおよび1H NMRで定量純度分析を行ったところ、実施例1と同様の高純度重水素化アンモニアを得ることができた。
また、得られた重水素化アンモニアの物質量は、仕込んだアンモニアと溶媒吸着剤に吸着されていたアンモニアの物質量の和に等しかったことから、溶媒吸着剤から定量的に重水素化アンモニアを回収できることを確認できた。