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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177942
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】MEMSトランスデューサ
(51)【国際特許分類】
   H04R 17/00 20060101AFI20231207BHJP
   H10N 30/20 20230101ALI20231207BHJP
   H10N 30/30 20230101ALI20231207BHJP
【FI】
H04R17/00
H01L41/09
H01L41/113
H04R17/00 330F
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090915
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】520124752
【氏名又は名称】株式会社ミライズテクノロジーズ
(71)【出願人】
【識別番号】000191238
【氏名又は名称】日清紡マイクロデバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】星野 雄斗
(72)【発明者】
【氏名】榎本 哲也
(72)【発明者】
【氏名】山田 英雄
(72)【発明者】
【氏名】川合 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】片上 崇治
(72)【発明者】
【氏名】臼井 孝英
【テーマコード(参考)】
5D004
5D019
【Fターム(参考)】
5D004AA00
5D004BB00
5D004CC03
5D004CC04
5D004CC10
5D004DD03
5D019AA00
5D019BB01
5D019BB08
5D019BB13
5D019BB14
(57)【要約】
【課題】残留応力の面内方向におけるバラツキに起因する反りが良好に抑制されたMEMSトランスデューサを提供すること。
【解決手段】MEMSトランスデューサ(1)は、支持部(2)と振動部(32)とを備える。振動部は、指向軸(CA)に沿った厚さ方向を有する平板状に形成され、振動の腹が指向軸に沿って移動する態様で撓み振動する。支持部は、振動部における振動の節を構成する固定端部(32a)を固定的に支持する。振動部は、固定端部から指向軸に向かって延設されている。振動部は、応力調整層(36)を備える。応力調整層は、指向軸と交差する面内方向における残留応力のバラツキを調整可能に、面内方向に沿って設けられている。応力調整層は、振動部の厚さ方向における最外層側に設けられるとともに、面内方向について複数に分割されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMSトランスデューサ(1)であって、
指向軸(DA)に沿った厚さ方向を有する平板状に形成され、振動の腹が前記指向軸に沿って移動する態様で撓み振動するように構成された、振動部(32)と、
前記振動部における振動の節を構成する固定端部(32a)を固定的に支持するように設けられた、支持部(2)と、
を備え、
前記振動部は、
前記固定端部から前記指向軸に向かって延設され、
前記指向軸と交差する面内方向における残留応力のバラツキを調整可能に、前記面内方向に沿って設けられた、応力調整層(36)を備え、
前記応力調整層は、前記振動部の前記厚さ方向における最外層側に設けられるとともに、前記面内方向について複数に分割された、
MEMSトランスデューサ。
【請求項2】
前記応力調整層は、前記面内方向について複数に分割された各部において、個別に応力調整可能に設けられた、
請求項1に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項3】
前記応力調整層は、前記固定端部から前記指向軸に向かう方向について複数に分割された、
請求項1に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項4】
前記応力調整層は、前記面内方向である幅方向について複数に分割され、
前記幅方向は、前記固定端部から前記指向軸に向かう前記面内方向である延設方向と交差する、
請求項1に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項5】
前記応力調整層は、前記幅方向について、圧縮残留応力と引張残留応力とが交互に生じるように設けられた、
請求項4に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項6】
前記応力調整層は、前記固定端部から前記指向軸に向かう前記面内方向である延設方向、および、前記延設方向と交差する前記面内方向である幅方向について、複数に分割された、
請求項2に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項7】
前記応力調整層は、熱により残留応力を調整可能な構成を有する、
請求項1に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項8】
前記振動部は、圧電層(34)と、電極層(35)と、前記応力調整層とを、前記厚さ方向に積層した構成を有し、
前記応力調整層は、前記圧電層および前記電極層よりも低温で応力変動可能な材料により形成された、
請求項1に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項9】
前記応力調整層は、前記圧電層および前記電極層よりも低融点の金属材料により形成された、
請求項8に記載のMEMSトランスデューサ。
【請求項10】
前記応力調整層は、非晶質である、
請求項9に記載のMEMSトランスデューサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、MEMSトランスデューサに関するものである。MEMSは、Micro Electro Mechanical Systemsの略である。
【背景技術】
【0002】
特許第5936154号公報に記載のMEMSトランスデューサは、基板と、複数の先細トランスデューサ梁とを備える。かかるMEMSトランスデューサにおいて、各先細トランスデューサ梁は、加えられた圧力を電圧に変換する圧電層と、圧電層を間に挟む一対の電極層とを備える。各先細トランスデューサ梁は、梁基端部と、梁先端部と、梁本体部とを有する。先細トランスデューサ梁は、梁基端部を基板に取り付けることにより、片持ち梁構成で基板上に連結されている。
【0003】
ここで、この種のMEMSトランスデューサにおいて、残留応力により生じる反り等の変形が問題となることがある。この点、特許文献1は、第一の圧電層と、かかる第一の圧電層の上に設けられた第二の圧電層とを備えたトランスデューサにおいて、第一の圧電層と第二の圧電層との間に平均残留応力の差を設けることで、片持ち梁構造の変形を抑制して平坦化する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2018/0159021号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、この種の構成において、製造時におけるスパッタリング等の成膜工程に起因して、トランスデューサの厚さ方向と直交する面内方向にて応力のバラツキが生じ得る。このため、特許文献1に記載されているような平坦化技術を用いても、変形すなわち反りの抑制が充分とはならない可能性がある。本発明は、上記に例示した事情等に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、例えば、残留応力の面内方向におけるバラツキに起因する反りが良好に抑制されたMEMSトランスデューサを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載のMEMSトランスデューサ(1)は、
指向軸(DA)に沿った厚さ方向を有する平板状に形成され、振動の腹が前記指向軸に沿って移動する態様で撓み振動するように構成された、振動部(32)と、
前記振動部における振動の節を構成する固定端部(32a)を固定的に支持するように設けられた、支持部(2)と、
を備え、
前記振動部は、
前記固定端部から前記指向軸に向かって延設され、
前記指向軸と交差する面内方向における残留応力のバラツキを調整可能に、前記面内方向に沿って設けられた、応力調整層(36)を備え、
前記応力調整層は、前記振動部の前記厚さ方向における最外層側に設けられるとともに、前記面内方向について複数に分割されている。
【0007】
なお、出願書類中の各欄において、各要素に括弧付きの参照符号が付されている場合がある。この場合、参照符号は、同要素と後述する実施形態に記載の具体的構成との対応関係の単なる一例を示すものである。よって、本発明は、参照符号の記載によって、何ら限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第一実施形態に係るMEMSトランスデューサの概略的な構成を示す側断面図である。
図2図1に示された振動部に設けられた応力調整層の概略的な構成を示す平面図である。
図3】本発明の第二実施形態に係るMEMSトランスデューサの概略的な構成を示す側断面図である。
図4図3に示された振動部に設けられた応力調整層の概略的な構成を示す平面図である。
図5】本発明の第三実施形態に係るMEMSトランスデューサの概略的な構成を示す側断面図である。
図6図5に示された振動部に設けられた応力調整層の概略的な構成を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
(実施形態)
以下、本発明の実施形態を、図面に基づいて説明する。なお、一つの実施形態に対して適用可能な各種の変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中に挿入されると、当該実施形態の理解が妨げられるおそれがある。このため、変形例については、当該実施形態に関する一連の説明の途中には挿入せず、その後にまとめて説明する。また、各図面の記載や、これに対応して以下に説明する装置構成やその機能あるいは動作の記載は、本発明の内容を簡潔に説明するために簡略化されたものであって、本発明の内容を何ら限定するものではない。このため、各図に示された例示的な構成と、実際に製造販売される具体的な構成とは、必ずしも一致するとは限らないということは、云うまでもない。すなわち、出願人が本願の出願経過により明示的に限定しない限りにおいて、本発明は、各図面の記載や、これに対応して以下に説明する装置構成やその機能あるいは動作の記載によって限定的に解釈されてはならないことは、云うまでもない。
【0010】
(第一実施形態)
図1および図2を参照しつつ、第一実施形態に係るMEMSトランスデューサ1について説明する。なお、説明の便宜上、図示の如く、Z軸が指向軸DAと平行となるように、右手系XYZ直交座標系を設定する。指向軸DAは、音波または超音波を送信または受信するMEMSトランスデューサ1における指向性の基準となる仮想直線であり、「指向中心軸」とも称され得る。指向軸DAは、典型的には、指向性の範囲、例えば、所定利得あるいは所定音響レベルが得られる範囲を、略円錐形状や略紡錘形状等の立体形状で表した場合の、当該立体形状の軸中心を示す仮想直線に相当するものである。具体的には、例えば、指向軸DAは、音圧半減角の中心軸である。以下、指向軸DAに沿った方向、すなわち、指向軸DAと平行な方向を、「軸方向」と称する。よって、軸方向は、図中Z軸と平行な方向である。また、軸方向と交差する方向、典型的には、軸方向と直交する任意の方向を、「面内方向」と称する。「面内方向」は、図中XY平面と平行な方向である。「面内方向」は、場合によっては、「径方向」とも称され得る。「径方向」は、指向軸DAと直交しつつ当該指向軸DAから離隔する方向である。すなわち、「径方向」は、指向軸DAと直交する仮想平面と指向軸DAとの交点を起点として当該仮想平面内に半直線を描いた場合に、当該半直線が延びる方向である。換言すれば、「径方向」は、指向軸DAと直交する仮想平面と指向軸DAとの交点を中心として当該仮想平面内に円を描いた場合の、当該円の半径方向である。また、「面内方向」は、場合によっては、「周方向」とも称され得る。「周方向」は、指向軸DAと直交する仮想平面と指向軸DAとの交点を中心として当該仮想平面内に円を描いた場合の、当該円の円周方向である。さらに、Z軸負方向と平行な方向の視線で図1における上方からMEMSトランスデューサ1やその構成要素を見ることを、「平面視」と称する。すなわち、「平面視」における、或る構成要素の形状は、同構成要素を図中XY平面に写像した場合の形状に相当するものである。
【0011】
電気音響変換器としてのMEMSトランスデューサ1は、電気信号と音波振動あるいは超音波振動との変換機能を奏するように構成されている。本実施形態においては、MEMSトランスデューサ1は、いわゆる圧電型のMEMSマイクとして構成を有している。具体的には、図1に示されているように、MEMSトランスデューサ1は、支持部2と圧電素子部3とを備えている。
【0012】
支持部2は、指向軸DAを囲む筒状あるいは環状の部材であって、例えば、アルミナ等のセラミックスやシリコン系の半導体基板等により形成されている。本実施形態においては、支持部2は、指向軸DAを中心軸とする四角筒状あるいは四角環状の形状を有している。具体的には、支持部2は、軸方向および径方向について所定寸法を有し指向軸DAと平行に配設された4枚の平板状あるいは4本の角棒状の壁材を継ぎ目なく一体に結合した構造を有している。また、支持部2は、平面視における外形形状が正方形状に形成されている。
【0013】
支持部2は、指向軸DAと平行で径方向外側に向けて露出する外壁面21と、指向軸DAと平行で当該指向軸DAを囲む内壁面22とを有している。内壁面22によって囲まれた空間である空洞部23は、平面視における形状が正方形状となる四角柱状に形成されている。また、支持部2は、軸方向における一方側すなわち図中Z軸正方向側の端面である上端面24と、軸方向における他方側すなわち図中Z軸負方向側の端面である下端面25とを有している。上端面24および下端面25は、軸方向を法線方向とする平坦な平面状に形成されている。上端面24は、酸化膜4を介して圧電素子部3と接合されている。
【0014】
圧電素子部3は、軸方向に厚さ方向を有する薄板状に形成されている。本実施形態においては、支持部2の平面視における正方形状の外形形状に対応して、圧電素子部3は、平面視にて正方形状に形成されている。圧電素子部3は、固定部31と振動部32とを有している。固定部31は、圧電素子部3の周縁部すなわち径方向における外縁部であって、酸化膜4を介して支持部2における上端面24に接合されることで支持部2に固定されている。振動部32は、固定部31よりも径方向における内側に設けられている。振動部32は、指向軸DAに沿った厚さ方向を有する平板状に形成され、振動の腹が指向軸DAに沿って移動する態様で撓み振動するように構成されている。
【0015】
本実施形態においては、振動部32は、固定部31から指向軸DAに向かって延設された片持ち梁状に形成されている。具体的には、振動部32は、固定端部32aと自由端部32bとを有している。固定端部32aは、振動部32における振動の節を構成する部分であって、平面視にて支持部2における内壁面22に対応する位置に設けられている。すなわち、振動部32は、指向軸DAと平行な軸方向について支持部2に隣接しないように、固定端部32aから指向軸DAに向かって延設されている。換言すれば、振動部32は、軸方向について空洞部23に隣接するように配置されている。振動部32における振動の腹を構成する自由端部32bは、振動部32における指向軸DAに最も近接する端部であって、指向軸DAよりも僅かに固定端部32a側に設けられている。すなわち、指向軸DAは、振動部32における自由端部32b側の端部である先端部を通らず、径方向について隣接する一対の振動部32の間に設けられたスリット33を通るようになっている。そして、圧電素子部3における振動領域である振動部32は、固定端部32aが支持部2により固定的に支持されつつ自由端部32bが指向軸DAに沿って移動する態様で振動可能に設けられている。また、図2に示されているように、振動部32は、固定端部32aから自由端部32bに向かうにつれて幅が狭くなるように形成されている。具体的には、振動部32は、平面視にて、固定端部32aを底辺とし自由端部32bを頂点とする略二等辺三角形状の平面形状を有している。図2に示されている延設線LEは、振動部32の延設方向すなわち図中X軸正方向と平行な仮想直線である。また、図2に示されている幅方向線LWは、振動部32の幅方向すなわち図中Y軸方向と平行な仮想直線である。
【0016】
本実施形態においては、圧電素子部3は、複数の振動部32を有している。複数の振動部32は、周方向について等間隔に配置されている。図1は、複数の振動部32のうちの、X軸正方向に延設されたものの周辺を拡大して示している。複数の振動部32の各々は、圧電素子部3を厚さ方向について貫通するように設けられたスリット33によって、面内方向について区分されている。
【0017】
圧電素子部3は、圧電層34と、電極層35と、応力調整層36とを備え、圧電層34と電極層35と応力調整層36とを厚さ方向に積層した構成を有している。圧電層34は、窒化スカンジウムアルミニウム等の圧電材料により薄膜状に形成されている。電極層35は、金属等の導電性材料により形成されていて、圧電層34の両面に設けられている。
【0018】
本実施形態においては、圧電素子部3は、複数の圧電層34を軸方向に積層した多層構造を有している。具体的には、圧電素子部3は、第一圧電層341と、第二圧電層342と、上部電極351と、中間電極352と、下部電極353とを、厚さ方向に積層することにより構成されている。第一圧電層341および第二圧電層342は、それぞれ、軸方向を法線方向とする平坦な平面状の一対の主面を有している。「主面」は、板状、層状、あるいは膜状の部分または部材における、厚さ方向と直交する表面である。第二圧電層342は、軸方向について、支持部2と第一圧電層341との間に配置されている。上部電極351は、第一圧電層341における上面上すなわちZ軸正方向を向く主面上に形成されている。中間電極352は、第一圧電層341と第二圧電層342との間に配置されている。すなわち、中間電極352は、図1に示されているように、側断面視にて、振動部32の厚さ方向における中央を通り振動部32の延設方向に沿って延びる中立軸LAと重なるように設けられている。下部電極353は、第二圧電層342における底面上すなわち空洞部23に対向する主面上に形成されている。
【0019】
上部電極351は、振動部32の延設方向について、固定部31と固定端部32aとに跨るように設けられている。すなわち、上部電極351は、平面視にて、支持部2における内壁面22から振動部32の延設方向についてはみ出すように設けられている。具体的には、上部電極351は、固定端部32aから、固定端部32aと自由端部32bとの間の突出長さである梁長さの1/6~2/5程度(より好ましくは1/4~1/3程度)の長さ分、自由端部32bに向かって振動部32側に延設されている。中間電極352および下部電極353は、基端電極部354と可動電極部355とを有している。基端電極部354は、平面視にて上部電極351と重なる位置に配置されている。すなわち、基端電極部354は、XY平面に投影した外形形状が上部電極351における同外形形状とほぼ一致するように設けられている。可動電極部355は、振動部32の延設方向について基端電極部354から僅かに離れた位置から自由端部32bにわたって設けられている。すなわち、可動電極部355は、振動部32に配置されている。
【0020】
応力調整層36は、振動部32に設けられている。応力調整層36は、面内方向における振動部32の残留応力のバラツキを調整可能に、面内方向に沿って設けられている。応力調整層36は、振動部32の厚さ方向における最外層側に設けられている。具体的には、応力調整層36は、第一圧電層341におけるZ軸正方向を向く主面上に形成されている。すなわち、応力調整層36は、厚さ方向について上部電極351と同一の層に設けられている。
【0021】
応力調整層36は、熱により残留応力を調整可能な構成を有していて、中間電極352や下部電極353とは異なる材料によって形成されている。具体的には、応力調整層36は、圧電層34および電極層35よりも低温で応力変動可能な材料により形成されている。より詳細には、応力調整層36は、圧電層34および電極層35よりも低融点の金属材料、より好ましくは非晶質の金属材料により形成されている。
【0022】
応力調整層36は、面内方向について複数に分割されている。すなわち、応力調整層36は、面内方向に配列された複数の単位調整部361を有している。面内方向について互いに隣り合う単位調整部361の間には、溝部362が形成されている。本実施形態においては、図1および図2に示されているように、応力調整層36は、固定端部32aから指向軸DAすなわち自由端部32bに向かう延設方向について、複数に分割されている。具体的には、単位調整部361は、図2に示されているように、平面視にて、幅方向線LWと平行な底辺を有する台形状あるいは二等辺三角形状に形成されている。複数の単位調整部361の各々は、延設方向における寸法が略等しくなるように形成されている。面内方向について互いに隣り合う単位調整部361の間を区分する溝部362は、幅方向線LWと平行に形成されている。複数の単位調整部361および溝部362の各々は、延設線LEと平行な方向について略均一幅に形成されている。また、複数の単位調整部361および溝部362の各々は、延設線LEと平行な方向について略均等間隔で配列されている。そして、応力調整層36は、面内方向について複数に分割された各部すなわち複数の単位調整部361の各々において、個別に応力調整可能に設けられている。換言すれば、応力調整層36は、複数の単位調整部361の各々における加熱あるいは発熱状態を個別に調整することで、振動部32における残留応力の面内方向における分布を調整可能に構成されている。
【0023】
(効果)
以下、本実施形態の構成による動作概要を、同構成により奏される効果とともに、各図面を参照しつつ説明する。
【0024】
本実施形態に係るMEMSトランスデューサ1は、振動部32における自由端部32bが指向軸DAに沿って移動する態様での撓み変形による歪みと、圧電層34の両面に設けられた一対の電極層35の間の電圧との変換機能を有する。すなわち、例えば、音波あるいは超音波の受信による振動部32の撓み振動が、電極間電圧として取り出される。あるいは、例えば、外部からの電極間電圧の印加により、振動部32が撓み振動することで、音波あるいは超音波を発信する。
【0025】
ところで、上記のような、平板状の振動部32における撓み振動と電気信号との変換構造において、厚さ方向について残留応力に分布が生じると、モーメントのバランスが崩れることで反りが発生する。特に、本実施形態に係るMEMSトランスデューサ1のように、振動部32が片持ち梁構造を有している場合、反りが発生することで、指向軸DAを中心とする開口部における開口幅が広がる。すると、低周波音の抜けにより低周波数領域における感度が低下する。この点、特許文献1は、厚さ方向における応力を調整することで、片持ち梁構造における反りを抑制する技術を提案している。しかしながら、製造時におけるスパッタリング等の成膜工程に起因して、厚さ方向と直交する面内方向にて応力のバラツキが生じ得る。このため、特許文献1に記載されているような平坦化技術を用いても、反りの抑制が充分とはならない可能性がある。
【0026】
そこで、本実施形態においては、振動部32は、応力調整層36を備えている。応力調整層36は、振動部32の厚さ方向における最外層側に設けられるとともに、面内方向について複数に分割されている。そして、応力調整層36は、面内方向について複数に分割された各部、すなわち、複数の単位調整部361の各々において、個別に応力調整可能に設けられている。応力調整層36は、熱により残留応力を調整可能な構成を有している。具体的には、応力調整層36は、圧電層34および電極層35よりも低温で応力変動可能な材料により形成されている。すなわち、応力調整層36は、中間電極352や下部電極353とは異なる材料によって形成されている。より詳細には、応力調整層36は、圧電層34および電極層35よりも低融点の金属材料により形成されている。例えば、中間電極352および下部電極353をモリブデンにより形成した場合、応力調整層36はアルミニウムにより形成され得る。
【0027】
かかる構成によれば、面内方向について配列された複数の単位調整部361の各々における加熱あるいは発熱状態を個別に調整することで、振動部32における残留応力の面内方向における分布を調整することが可能となる。具体的には、例えば、複数の単位調整部361の各々に対する、レーザ光等の電磁波の照射状態や通電状態を、個別に制御することが可能となる。これにより、アニールに対する応力変動量を、中立軸LAの上側と下側とで変化させることができる。このため、出来ばえを見てからモーメントを低減して反り量を抑制することが可能となる。応力調整層36を面内方向について細分化することで、反りを細かく調整することが可能となる。
【0028】
応力調整層36を、圧電層34および電極層35よりも低温で応力変動可能な材料により形成することで、アニール時に他の膜応力が動かないため、反りの制御を良好に行うことが可能となる。また、応力調整層36を、圧電層34および電極層35よりも低融点の金属材料により形成することで、応力調整層36における大きな熱膨張係数を用いて大きな範囲での反り調整が可能となる。さらに、応力調整層36を、非晶質の金属材料により形成することで、加熱時の酸化を良好に抑制することが可能となる。
【0029】
(第二実施形態)
以下、第二実施形態について、図3および図4を参照しつつ説明する。なお、以下の第二実施形態の説明においては、主として、上記第一実施形態と異なる部分について説明する。また、第一実施形態と第二実施形態とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の第二実施形態の説明において、第一実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記第一実施形態における説明が適宜援用され得る。後述する第三実施形態についても同様である。
【0030】
上記第一実施形態においては、図1および図2に示されているように、応力調整層36は、固定端部32aから自由端部32bすなわち指向軸DAに向かう方向について複数に分割されている。これに対し、本実施形態においては、図4に示されているように、応力調整層36は、振動部32の延設方向と交差する面内方向である幅方向について複数に分割されている。具体的には、図4に示された具体例においては、複数の直線状の溝部362は、自由端部32bから放射状に形成されている。複数の溝部362は、幅方向について等間隔に設けられている。
【0031】
かかる構成によれば、上記第一実施形態と同様の効果が奏され得る。また、幅方向線LWに沿って矩形波状あるいは余弦波状の応力分布が生じるように、具体的には、幅方向について圧縮残留応力と引張残留応力とが交互に生じるように、複数の単位調整部361の各々における加熱あるいは発熱状態を個別に調整することが可能となる。これにより、断面2次モーメントを増大させることで振動部32の片持ち梁構造を実効的に硬くしつつ、反りを低減して平坦化することが可能となる。
【0032】
(第三実施形態)
以下、第三実施形態について、図5および図6を参照しつつ説明する。本実施形態においては、応力調整層36は、振動部32の延設方向および幅方向について、複数に分割されている。かかる構成によれば、上記第一実施形態および第二実施形態と同様の効果が奏される他、面内方向におけるより緻密な応力調整が可能となる。具体的には、例えば、加熱あるいは発熱の領域を、延設方向における先端側に留めることで、振動部32の片持ち梁構造が実効的に固くなる。すると、図5にて二点鎖線で囲まれた検出領域付近すなわち固定端部32a付近が変形しないため、感度低下を抑制することができる。また、固定端部32a付近では振動部32の片持ち梁構造全体の反りを低減するように加熱することで、感度を改善することができる。
【0033】
(変形例)
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。故に、上記実施形態に対しては、適宜変更が可能である。以下、代表的な変形例について説明する。以下の変形例の説明においては、上記実施形態との相違点を主として説明する。また、上記実施形態と変形例とにおいて、互いに同一または均等である部分には、同一符号が付されている。したがって、以下の変形例の説明において、上記実施形態と同一の符号を有する構成要素に関しては、技術的矛盾または特段の追加説明なき限り、上記実施形態における説明が適宜援用され得る。
【0034】
本発明は、上記実施形態に記載された具体的な装置構成に限定されない。すなわち、上述した通り、上記実施形態の記載は、本発明の内容を簡潔に説明するために簡略化されたものである。このため、各図に示された例示的な構成と、実際に製造販売される具体的な構成とは、必ずしも一致するとは限らないということは、云うまでもない。具体的には、例えば、実際に製造販売される製品に通常設けられる構成要素、例えば、ケーシングや接合材や端子や配線等は、上記実施形態やこれに対応する図面において、図示や説明が適宜省略されている。
【0035】
支持部2は、指向軸DAを囲む円筒状、楕円筒状、三角筒状、五角筒状、六角筒状、八角筒状、等の形状を有していてもよい。あるいは、支持部2は、指向軸DAを囲む円環状、楕円環状、三角環状、五角環状、六角環状、八角環状、等の形状を有していてもよい。同様に、圧電素子部3は、平面視にて円状、楕円状、三角形状、五角形状、六角形状、八角形状、等の形状を有していてもよい。
【0036】
上記実施形態においては、圧電素子部3は、支持部2における上端面24に固定されているが、本発明は、かかる態様に限定されない。例えば、固定端部32aを構成する、圧電素子部3の面内方向あるいは径方向における外端縁が、支持部2における内壁面22に設けられた溝や接着層等により固定されていてもよい。すなわち、圧電素子部3における、撓み振動しない固定部31は、省略され得る。この場合、圧電素子部3の全体が、撓み振動する振動部32を構成する。
【0037】
圧電素子部3に設けられる片持ち梁状の振動部32の個数についても、特段の限定はない。すなわち、例えば、圧電素子部3は、国際公開第2007/060768号に記載の構成と同様に、互いに向き合う一対の振動部32を備えていてもよい。あるいは、例えば、圧電素子部3は、3個あるいは5個以上の振動部32を備えていてもよい。
【0038】
振動部32は、片持ち梁構造に限定されない。すなわち、例えば、振動部32は、両持ち梁構造であってもよい。あるいは、例えば、振動部32は、周方向について全体的に支持部2に固定的に支持されたダイアフラム構造あるいはメンブレン構造であってもよい。
【0039】
圧電層34や電極層35の層数についても、特段の限定はない。すなわち、例えば、圧電層34は、3層以上設けられていてもよい。この場合、中間電極352も、複数層設けられる。
【0040】
応力調整層36の構造や配置についても、適宜変容が可能である。具体的には、例えば、上部電極351および応力調整層36を覆うコーティング層等の保護層が設けられ得る。この場合、応力調整層36は、振動部32の厚さ方向における「最表層」あるいは「最外層」とはならないが、振動部32の厚さ方向における最表層「側」あるいは最外層「側」に設けられていると評価することが可能である。また、応力調整層36は、面内方向について、固定部31にかかるように設けられていてもよい。また、応力調整層36は、圧電素子部3の厚さ方向について下部電極353と同一の層、すなわち、圧電素子部3における、支持部2や空洞部23に近接する方の最外層「側」に設けられていてもよい。この場合、上部電極351は、自由端部32bにまで達するように設けられ得る。
【0041】
図2において、溝部362は、幅方向線LWと平行な直線状に形成されている。しかしながら、本発明は、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、例えば、溝部362は、同心円状等の曲線状に形成されていてもよい。
【0042】
図4において、複数の直線状の溝部362は、自由端部32bから放射状に形成されている。しかしながら、本発明は、かかる態様に限定されるものではない。すなわち、例えば、複数の直線状の溝部362は、延設線LEと平行に形成されていてもよい。あるいは、平面視にて延設線LEと重なる溝部362は直線状に形成される一方で、他の溝部362は、かかる直線状の溝部362を漸近線とする双曲線状等の曲線状に形成され得る。
【0043】
上記の説明において、互いに継ぎ目無く一体に形成されていた複数の構成要素は、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されてもよい。同様に、互いに別体の部材を貼り合わせることによって形成されていた複数の構成要素は、互いに継ぎ目無く一体に形成されてもよい。
【0044】
上記の説明において、互いに同一の材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに異なる材料によって形成されてもよい。同様に、互いに異なる材料によって形成されていた複数の構成要素は、互いに同一の材料によって形成されてもよい。
【0045】
上記実施形態を構成する要素は、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに必須であると考えられる場合等を除き、必ずしも必須のものではないことは言うまでもない。また、構成要素の個数、数値、量、範囲等の数値が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に明らかに特定の数に限定される場合等を除き、その特定の数に本発明が限定されることはない。同様に、構成要素等の形状、方向、位置関係等が言及されている場合、特に必須であると明示した場合および原理的に特定の形状、方向、位置関係等に限定される場合等を除き、その形状、方向、位置関係等に本発明が限定されることはない。
【0046】
変形例も、上記の例示に限定されない。すなわち、例えば、複数の実施形態が複合的に適用され得る。換言すれば、一の実施形態の一部と、他の一の実施形態の一部とが、組み合わされ得る。複数の実施形態の組み合わせの際の個数や態様についても特段の限定はない。また、複数の実施形態のうちの任意の1つと、複数の変形例のうちの任意の1つとが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。同様に、複数の変形例のうちの1つと他の1つとが、技術的に矛盾しない限り、互いに組み合わされ得る。
【0047】
(開示内容)
上記の通りの実施形態および変形例についての説明から明らかなように、本明細書には、少なくとも以下の開示事項が開示されている。
<観点1>
MEMSトランスデューサ(1)は、
指向軸(DA)に沿った厚さ方向を有する平板状に形成され、振動の腹が前記指向軸に沿って移動する態様で撓み振動するように構成された、振動部(32)と、
前記振動部における振動の節を構成する固定端部(32a)を固定的に支持するように設けられた、支持部(2)と、
を備え、
前記振動部は、
前記固定端部から前記指向軸に向かって延設され、
前記指向軸と交差する面内方向における残留応力のバラツキを調整可能に、前記面内方向に沿って設けられた、応力調整層(36)を備え、
前記応力調整層は、前記振動部の前記厚さ方向における最外層側に設けられるとともに、前記面内方向について複数に分割されている。
<観点2>
観点1において、前記応力調整層は、前記面内方向について複数に分割された各部において、個別に応力調整可能に設けられている。
<観点3>
観点1、2において、前記応力調整層は、前記固定端部から前記指向軸に向かう方向について複数に分割されている。
<観点4>
観点1~3において、
前記応力調整層は、前記面内方向である幅方向について複数に分割され、
前記幅方向は、前記固定端部から前記指向軸に向かう前記面内方向である延設方向と交差する。
<観点5>
観点4において、前記応力調整層は、前記幅方向について、圧縮残留応力と引張残留応力とが交互に生じるように設けられている。
<観点6>
観点2において、前記応力調整層は、前記固定端部から前記指向軸に向かう前記面内方向である延設方向、および、前記延設方向と交差する前記面内方向である幅方向について、複数に分割されている。
<観点7>
観点1~6において前記応力調整層は、熱により残留応力を調整可能な構成を有する。
<観点8>
観点1~7において、
前記振動部は、圧電層(34)と、電極層(35)と、前記応力調整層とを、前記厚さ方向に積層した構成を有し、
前記応力調整層は、前記圧電層および前記電極層よりも低温で応力変動可能な材料により形成されている。
<観点9>
観点8において、前記応力調整層は、前記圧電層および前記電極層よりも低融点の金属材料により形成されている。
<観点10>
観点9において、前記応力調整層は、非晶質である。
【符号の説明】
【0048】
1 MEMSトランスデューサ
2 支持部
3 圧電素子部
32 振動部
32a 固定端部
32b 自由端部
34 圧電層
35 電極層
36 応力調整層
DA 指向軸
図1
図2
図3
図4
図5
図6