(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177986
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】金属張積層板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 14/56 20060101AFI20231207BHJP
H05K 3/18 20060101ALI20231207BHJP
H05K 3/00 20060101ALI20231207BHJP
B65H 23/08 20060101ALI20231207BHJP
B32B 15/08 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
C23C14/56 A
H05K3/18 G
H05K3/00 R
B65H23/08
B32B15/08 J
B32B15/08 K
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090985
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】弁理士法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西山 芳英
【テーマコード(参考)】
3F104
4F100
4K029
5E343
【Fターム(参考)】
3F104AA04
3F104AA05
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3F104KA18
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5E343GG20
(57)【要約】
【課題】ピンホールが少ない金属張積層板の製造方法を提供する。
【解決手段】金属張積層板の製造方法は、ロールツーロールによりベースフィルムを搬送しつつ、真空成膜法によりベースフィルムの表面に金属薄膜層を成膜し、合紙40を挟み込みながら成膜品D2をロールに巻き取る真空成膜工程を有する。ロールにおける成膜品D2の巻取点P1と合紙40の巻取点P2とが異なる。成膜品D2の巻取張力から合紙40の巻取張力を差し引いた張力差が0~130N/mである。ロールに巻き取る際の成膜品D2と合紙40とのズレを抑制でき、ズレに起因する金属薄膜層の部分的な剥がれを抑制できる。そのため、ピンホールが少ない金属張積層板を得ることができる。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロールツーロールによりベースフィルムを搬送しつつ、真空成膜法により前記ベースフィルムの表面に金属薄膜層を成膜し、合紙を挟み込みながら成膜品をロールに巻き取る真空成膜工程を備え、
前記ロールにおける前記成膜品の巻取点と前記合紙の巻取点とが異なり、
前記成膜品の巻取張力から前記合紙の巻取張力を差し引いた張力差が0~130N/mである
ことを特徴とする金属張積層板の製造方法。
【請求項2】
前記成膜品の巻取張力が140~230N/mである
ことを特徴とする請求項1記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項3】
前記合紙の巻取張力が70~130N/mである
ことを特徴とする請求項1記載の金属張積層板の製造方法。
【請求項4】
電解めっきにより前記金属薄膜層の表面にめっき被膜を成膜する電解めっき工程を、さらに備える
ことを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の金属張積層板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属張積層板の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、フレキシブルプリント配線板(FPC)などの製造に用いられる金属張積層板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話などの電子機器には、樹脂フィルムの表面に配線パターンが形成されたフレキシブルプリント配線板が用いられる。フレキシブルプリント配線板は樹脂フィルムの表面を金属層で覆った金属張積層板から製造される。
【0003】
金属張積層板の製造方法としてメタライジング法が知られている。メタライジング法による金属張積層板の製造は、例えば、つぎの手順で行われる。まず、真空成膜法により樹脂フィルムの表面に金属薄膜層を成膜する。つぎに、電解めっき法により金属薄膜層の上にめっき被膜を成膜する。電解めっきにより、配線パターンを形成するのに適した膜厚となるまで金属層を厚膜化する。メタライジング法により、樹脂フィルム上に直接金属層が成膜された、いわゆる2層基板と称されるタイプの金属張積層板が得られる。
【0004】
メタライジング法による金属張積層板の製造は、使用する装置が異なる2段階の工程で行われる。すなわち、真空成膜装置内において、樹脂フィルムの表面に金属薄膜層を成膜し、得られた中間品をロール状に巻回する。真空成膜装置から取り出した中間品ロールを電解めっき装置にセットし、中間品ロールから中間品を繰り出しながらめっき被膜を成膜する。
【0005】
成膜直後の金属薄膜層は表面が酸化されておらず活性も高い。そのため、真空成膜装置内において空気の介在なしで中間品をロール状に巻回すると、金属薄膜層が張り付くブロッキング現象を引き起こす。そうすると、中間品ロールから中間品を巻き出したときに金属薄膜層が局所的に引き剥がされることがある。
【0006】
この現象を回避するため、真空成膜装置内で中間品をロール状に巻回する際に、樹脂フィルムなどからなる合紙を中間品の間に挟み込みながら巻き取る方法が採用されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
金属張積層板にピンホールが存在すると、フレキシブルプリント配線板を製造する際に、配線の厚さが部分的に薄くなる「窪み」、配線の幅が部分的に狭くなる「欠け」と称される外観不良が生じる。また、ひどい場合には、配線が断線する。そのため、金属張積層板のピンホールは、フレキシブルプリント配線板の収率低下の原因となる。特に、近年の電子機器の高機能化にともない、フレキシブルプリント配線板は配線微細化の傾向があり、ピンホールの影響が顕著に現れる。そのため、ピンホールが少ない金属張積層板が求められている。
【0009】
本発明は上記事情に鑑み、ピンホールが少ない金属張積層板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の金属張積層板の製造方法は、ロールツーロールによりベースフィルムを搬送しつつ、真空成膜法により前記ベースフィルムの表面に金属薄膜層を成膜し、合紙を挟み込みながら成膜品をロールに巻き取る真空成膜工程を備え、前記ロールにおける前記成膜品の巻取点と前記合紙の巻取点とが異なり、前記成膜品の巻取張力から前記合紙の巻取張力を差し引いた張力差が0~130N/mであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ロールに巻き取る際の成膜品と合紙とのズレを抑制でき、ズレに起因する金属薄膜層の部分的な剥がれを抑制できる。そのため、ピンホールが少ない金属張積層板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】一実施形態に係る銅張積層板の断面図である。
【
図2】一実施形態に係る真空成膜装置の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
(金属張積層板)
図1に示すように、金属張積層板1は、ベースフィルム10と、ベースフィルム10の表面に形成された金属層20とからなる。
図1に示すようにベースフィルム10の片面のみに金属層20が形成されてもよいし、ベースフィルム10の両面に金属層20が形成されてもよい。金属層20の組成が主に銅である金属張積層板1は銅張積層板と称される。
【0014】
ベースフィルム10としてポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。
【0015】
金属層20は真空成膜法により成膜される金属薄膜層21を有する。金属薄膜層21は一種類の金属または合金からなる単一の層でもよいし、異なる種類の金属または合金からなる複数の層を積層したものでもよい。銅張積層板の場合、金属薄膜層21は下地金属層22と銅薄膜層23とからなる。下地金属層22と銅薄膜層23とはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。一般に、下地金属層22はニッケル、クロム、またはニッケルクロム合金からなる。下地金属層22はなくてもよい。銅薄膜層23はベースフィルム10の表面に下地金属層22を介して成膜されてもよいし、下地金属層22を介さずベースフィルム10の表面に直接成膜されてもよい。
【0016】
金属層20は電解めっきにより成膜されるめっき被膜24を有してもよい。銅張積層板の場合、めっき被膜24は銅めっき被膜である。金属薄膜層21とめっき被膜24とはベースフィルム10の表面にこの順に積層されている。なお、金属層20は、めっき被膜24を有さず、金属薄膜層21のみで構成されてもよい。
【0017】
特に限定されないが、ベースフィルム10の厚さは10~100μmが一般的である。下地金属層22の厚さは5~50nmが一般的であり、銅薄膜層23の厚さは50~400nmが一般的である。めっき被膜24の厚さは、サブトラクティブ法により加工される金属張積層板1の場合8~12μmが一般的であり、セミアディティブ法により加工される金属張積層板1の場合0.1~5μmが一般的である。
【0018】
(製造方法)
つぎに、本発明の一実施形態に係る金属張積層板1の製造方法を説明する。
本実施形態の製造方法は、(1)真空成膜工程と、必要に応じて(2)電解めっき工程とを有する。以下、各工程を説明する。
【0019】
(1)真空成膜工程
真空成膜工程では、真空成膜法によりベースフィルム10の表面に金属薄膜層21を成膜する。真空成膜法は物理的気相成長法と化学的気相成長法とに分けられる。また、物理的気相成長法は蒸着法とスパッタリング法とに分けられる。これらの中でも、スパッタリング法が好適に用いられる。
【0020】
真空成膜工程はロールツーロールにより長尺帯状のベースフィルム10を搬送しつつ行われる。真空成膜工程は、例えば、
図2に示す真空成膜装置2を用いて行われる。なお、
図2はスパッタリング装置の構成を例示している。
【0021】
真空成膜装置2は、ロールツーロールにより長尺帯状の被成膜品D1を搬送しつつ、被成膜品D1に対して真空成膜を行い、成膜品D2を製造する装置である。
【0022】
真空成膜装置2は真空チャンバー30を有する。真空チャンバー30の内部には、巻出部31と、巻取部33とが配置されている。巻出部31は被成膜品D1をロール状に巻回した被成膜品ロールR1から被成膜品D1を巻き出す。巻取部33は成膜品D2を巻き取って成膜品ロールR2を形成する。被成膜品D1は巻出部31から巻取部33に向かって搬送される。
【0023】
真空チャンバー30の内部には、被成膜品D1の搬送経路を画定する各種のロールが設けられている。この種のロールとして、フリーロール、張力センサロール、フィードロールなどが挙げられる。被成膜品D1はこれらのロールに巻きつけられ、搬送される。
【0024】
被成膜品D1の搬送経路には成膜部32が配置されている。成膜部32は被成膜品D1の表面に金属薄膜層21を成膜する。スパッタリング装置の場合、成膜部32は、被成膜品D1を冷却するキャンロールと、キャンロールの周囲に設けられた複数のスパッタリングカソードとからなる。各スパッタリングカソードには、キャンロールに対向する面にターゲットが取り付けられている。ターゲットから叩き出されたスパッタ粒子が被成膜品D1の表面上に堆積することで成膜が行われる。したがって、通常、ターゲットとして、金属薄膜層21と同一組成の金属または合金が選択される。
【0025】
真空チャンバー30の内部には合紙巻出部34が配置されている。合紙巻出部34は長尺帯状の合紙をロール状に巻回した合紙ロール40Rから合紙40を巻き出す。巻取部33は成膜品D2と合紙40とを重ね合わせて巻き取る。すなわち、成膜品D2の間に合紙40を挟み込みながらロールに巻き取る。合紙40としてポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリイミドフィルム、液晶ポリマー(LCP)フィルムなどの樹脂フィルムを用いることができる。
【0026】
成膜直後の金属薄膜層21は表面が酸化されておらず活性も高い。そのため、真空成膜装置2内において空気の介在なしで成膜品D2をロール状に巻回すると、金属薄膜層21が張り付くブロッキング現象を引き起こす。そうすると、成膜品ロールR2から成膜品D2を巻き出したときに金属薄膜層21が局所的に引き剥がされることがある。成膜品D2の間に合紙40を挟み込みながら巻き取ることで、ブロッキング現象の発生を防止できる。
【0027】
図2に示す真空成膜装置2は、一回の搬送で被成膜品D1の片面に成膜を行う片面成膜方式の装置である。被成膜品ロールR1として長尺帯状のベースフィルム10を巻回したロールを巻出部31にセットすれば、ベースフィルム10の片面に金属薄膜層21のみが成膜された金属張積層板1が成膜品D2として得られる。
【0028】
必要に応じて、巻取部33から成膜品ロールR2を取り出し、成膜面を反転させて巻出部31に再度セットする。そうすると、ベースフィルム10のもう一方の片面に金属薄膜層21が成膜された金属張積層板1が得られる。なお、この場合、被成膜品ロールR1から巻き出された被成膜品D1(ベースフィルム10の片面に金属薄膜層21のみが成膜された金属張積層板1)および合紙40の搬送経路は、
図2において破線で示すとおりとなる。被成膜品ロールR1から巻き出された合紙40は合紙巻取部35で巻き取られる。
【0029】
このように、片面成膜方式の真空成膜装置2を用いた場合、真空成膜工程を二段階で行うことにより、ベースフィルム10の両面に金属薄膜層21を成膜できる。
【0030】
一回の搬送で被成膜品D1の両面に成膜を行う両面成膜方式の真空成膜装置を用いてもよい。両面成膜方式の真空成膜装置は、被成膜品D1の搬送経路に2つの成膜部を有する。すなわち、被成膜品D1の搬送経路に、被成膜品D1の第1面に金属薄膜層21を成膜する第1成膜部と、被成膜品D1の第2面に金属薄膜層21を成膜する第2成膜部とが配置される。両面成膜方式の真空成膜装置を用いれば、一回の真空成膜工程でベースフィルム10の両面に金属薄膜層21を成膜した金属張積層板1が得られる。
【0031】
図3に示すように、成膜品ロールR2における成膜品D2の巻取点P1と合紙40の巻取点P2とは異なることが好ましい。ここで、巻取点P1とは成膜品D2が成膜品ロールR2に巻かれ始める位置である。また、巻取点P2とは合紙40が成膜品ロールR2に巻かれ始める位置である。成膜品D2と合紙40とは、別々のロールでそれぞれの搬送経路が画定されており、成膜品ロールR2に達するまで重なり合わない。成膜品D2と合紙40とは、成膜品ロールR2に巻かれてから初めて重なり合う。
【0032】
図4に示すように、成膜品D2と合紙40とを予め重ねて成膜品ロールR2に巻き取ることも考えられる。この場合、成膜品D2の巻取点P1と合紙40の巻取点P2とが同一となる。このようにすると、成膜品D2と合紙40との巻取半径の差異から、巻き取り直後に成膜品D2と合紙40との間でズレが生じる。例えば、成膜品D2の厚さを35μm、合紙40の厚さを25μmと仮定すると、30°の巻き取りで約15μmのズレが生じる。
【0033】
一般に、ベースフィルム10または合紙40として用いられる樹脂フィルムにはフィラーが含まれており、フィラーにより樹脂フィルムの表面には凹凸が形成されている。成膜品D2と合紙40との間でズレが生じると、金属薄膜層21のうちベースフィルム10の凸部に成膜された部分、あるいは合紙40の凸部と接触する部分が擦られて剥がれることがある。これにより、金属薄膜層21にピンホールが生じることがある。
【0034】
これに対して、
図3に示すように、成膜品D2の巻取点P1と合紙40の巻取点P2とが異なるようにすれば、成膜品D2と合紙40とのズレを抑制でき、ズレに起因する金属薄膜層21の部分的な剥がれを抑制できる。そのため、ピンホールを少なくできる。
【0035】
ロールに巻き取る際に成膜品D2と合紙40と間に生じるズレは、成膜品D2および合紙40の巻取張力にも影響される。成膜品D2の巻取張力から合紙40の巻取張力を差し引いた張力差が大きいと、すなわち、成膜品D2に巻取張力に対して合紙40の巻取張力が弱すぎると、合紙40の上に成膜品D2を重ねて巻き取る際に合紙40が伸びることから、成膜品D2と合紙40との間にズレが生じやすいと考えれられる。また、張力差が大きいと、巻き締まりが生じた際に、成膜品D2と合紙40と間にズレが生じやすいと考えれられる。そのため、張力差は小さい方が好ましい。
【0036】
具体的には、張力差は0~130N/mが好ましい。また、成膜品D2の巻取張力は140~230N/mが好ましく、合紙40の巻取張力は70~130N/mが好ましい。
【0037】
このように、張力差を小さくすれば、ロールに巻き取る際の成膜品D2と合紙40とのズレを少なくでき、ズレに起因する金属薄膜層21の部分的な剥がれを抑制できる。そのため、ピンホールが少ない金属張積層板1を得ることができる。
【0038】
なお、特に限定されないが、成膜品D2および合紙40の巻取張力は、例えば、以下の方法で個別に調整できる。成膜品ロールR2を成膜品D2の設定巻取張力および合紙40の設定巻取張力の合計値(例えば260N/m)で巻き取る。ここで、成膜品D2および合紙40の合計巻取張力は、成膜品ロールR2の巻取ローラと駆動モータとの間に設けられたパウダークラッチで制御する。この張力制御には成膜品D2に搬送経路に設けられた張力センサロール35で検出された成膜品D2の張力がフィードバックされる。また、トルク制御により合紙ロール40Rにバックテンションを掛けて、合紙40を成膜品ロールR2に対して引っ張った状態とする。ここで、合紙40の厚さ、巻径、長さに基づくトルク制御により、合紙40のバックテンションを合紙40の設定巻取張力(例えば70N/m)とする。そうすると、成膜品D2の巻取張力は、成膜品ロールR2の巻取張力から合紙40の巻取張力を差し引いた張力(例えば190N/m)となる。
【0039】
(2)電解めっき工程
電解めっき工程は必要に応じて行われる。電解めっき工程では、電解めっきにより金属薄膜層21の表面にめっき被膜24を成膜する。電解めっきにより金属層20が厚膜化された金属張積層板1が得られる。
【0040】
電解めっきはロールツーロールにより中間品(ベースフィルム10の片面または両面に金属薄膜層21のみが成膜された金属張積層板1)を搬送しつつ行われる。ロールツーロール方式のめっき装置は、長尺帯状の中間品を搬送しつつ、中間品に対して電解めっきを行う装置である。電解めっき装置は中間品ロールから中間品を繰り出す供給装置を有する。中間品は長尺帯状の合紙40を挟み込みながら巻回されている。合紙40は中間品を繰り出すときに中間品から分離され合紙巻取装置で巻き取られる。電解めっき装置は電解めっき後の金属張積層板1をロール状に巻き取る巻取装置を有する。
【0041】
供給装置と巻取装置との間には種々のローラが配置されており、中間品の搬送経路が画定されている。中間品の搬送経路には、前処理槽、めっき槽、および後処理槽が配置されている。
【0042】
また、中間品の搬送経路に、大気圧プラズマ処理装置を配置することが好ましい。中間品の表面(金属薄膜層21)には合紙40の成分が局所的に転移することがある。合紙40の成分が局所的に転移した金属薄膜層21の表面にめっき被膜24を成膜すると、合紙40の成分に起因して金属層20にピンホールなどの欠陥が生じることがある。そこで、中間品の表面に大気圧プラズマを照射して合紙40の成分を除去した後、電解めっきを行うことが好ましい。中間品は大気圧プラズマ処理装置で表面洗浄された後に、めっき槽において電解めっきが施される。
【0043】
めっき槽の内部にはめっき液が貯留されている。銅めっき被膜を成膜する場合、銅めっき液が用いられる。銅めっき液は水溶性銅塩を含む。銅めっき液に一般的に用いられる水溶性銅塩であれば特に限定されず用いられる。銅めっき液は硫酸を含んでもよい。硫酸の添加量を調整することで、銅めっき液のpHおよび硫酸イオン濃度を調整できる。銅めっき液は一般的にめっき液に添加される添加剤を含んでもよい。添加剤として、ブライトナー成分、レベラー成分、ポリマー成分、塩素成分などから選択された1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0044】
めっき槽の内部にはアノードが設けられている。アノードと中間品との間に電流を流すことで電解めっきが行われる。電解めっきにより中間品の表面にめっき被膜24が成膜され、金属張積層板1が得られる。
【0045】
ベースフィルム10の片面のみに金属薄膜層21が成膜された中間品に電解めっきを施せば、ベースフィルム10の片面のみに金属薄膜層21およびめっき被膜24からなる金属層20が形成された金属張積層板1が得られる。ベースフィルム10の両面に金属薄膜層21が成膜された中間品に電解めっきを施せば、ベースフィルム10の両面に金属薄膜層21およびめっき被膜24からなる金属層20が形成された金属張積層板1が得られる。
【実施例0046】
(共通の条件)
ベースフィルムとして、幅570mm、厚さ37.5μmのポリイミドフィルム(東レ・デュポン株式会社製 150EN)を用意した。ベースフィルムをマグネトロンスパッタリング装置にセットした。マグネトロンスパッタリング装置内にはニッケルクロム合金ターゲットと銅ターゲットとが設置されている。ニッケルクロム合金ターゲットの組成はCrが20質量%、Niが80質量%である。真空雰囲気下で、ベースフィルムの片面に、厚さ25nmのニッケルクロム合金からなる下地金属層を形成し、その上に厚さ150nmの銅薄膜層を形成した。マグネトロンスパッタリング装置内において合紙を挟み込みながら中間品を巻き取り、中間品ロールを得た。
【0047】
つぎに、中間品ロールをロールツーロール方式の電解めっき装置にセットした。中間品ロールから中間品を繰り出し、合紙を分離した後、中間品の片面に厚さ2.1μmの銅めっき被膜を成膜した。
【0048】
ここで、銅めっき液は硫酸銅を120g/L、硫酸を70g/L、ブライトナー成分を16mg/L、レベラー成分を20mg/L、ポリマー成分を1,100mg/L、塩素成分を50mg/L含有する。ブライトナー成分としてビス(3-スルホプロピル)ジスルフィド(RASCHIG GmbH社製の試薬)を用いた。レベラー成分としてジアリルジメチルアンモニウムクロライド-二酸化硫黄共重合体(ニットーボーメディカル株式会社製 PAS-A―5)を用いた。ポリマー成分としてポリエチレングリコール-ポリプロピレングリコール共重合体(日油株式会社製 ユニルーブ50MB-11)を用いた。塩素成分として塩酸(和光純薬工業株式会社製の35%塩酸)を用いた。
【0049】
電解めっきにおいて、銅めっき液の温度を31℃とした。また、電解めっきの間、ノズルから噴出させた銅めっき液を中間品の表面に対して略垂直に吹き付けることで、銅めっき液を撹拌した。
【0050】
(実施例1)
図3に示すように、マグネトロンスパッタリング装置内において成膜品(中間品)を巻き取る際に、成膜品の巻取点と合紙の巻取点とが異なるようにした。また、成膜品の巻取張力を110N、合紙の巻取張力を40Nとした。
【0051】
中間品の表面に銅めっき被膜を成膜した後、ピンホール数を評価した。ピンホール数の評価は、暗室において蛍光灯のバックライト(輝度2300cd/m2)上に300×170mmの試料(銅張積層板)を置き、目視にて透過した光の数をカウントした。その結果、ピンホール数は2個であった。
【0052】
(比較例1)
図4に示すように、マグネトロンスパッタリング装置内において成膜品(中間品)を巻き取る際に、成膜品の巻取点と合紙の巻取点とが一致するようにした。また、成膜品の巻取張力を110N、合紙の巻取張力を40Nとした。
【0053】
中間品の表面に銅めっき被膜を成膜した後、ピンホール数を評価した。その結果、ピンホール数は42個であった。
【0054】
以上より、マグネトロンスパッタリング装置において、成膜品を巻き取る際に、成膜品の巻取点と合紙の巻取点とが異なるようにすれば、ピンホールを少なくできることが確認された。
【0055】
(巻取張力評価)
つぎに、マグネトロンスパッタリング装置内における成膜品および合紙の巻取張力とピンホール数との関係を評価した。
図3に示すように、マグネトロンスパッタリング装置内において成膜品を巻き取る際に、成膜品の巻取点と合紙の巻取点とが異なるようにした。成膜品の巻取張力および合紙の巻取張力を種々の張力に設定し試料を作製した。それぞれの試料について銅めっき被膜を成膜した後、ピンホール数を評価した。
【0056】
各試料の巻取張力およびピンホール数は表1に示すとおりである。なお、表1において巻取張力は成膜品および合紙の単位幅あたりの張力に換算している。また、張力差は成膜品の巻取張力から合紙の巻取張力を差し引いた値である。
【0057】
【0058】
表1より、張力差が正の範囲において、すなわち、成膜品の巻取張力が合紙の巻取張力よりも大きい場合において、張力差が小さいほど、ピンホール数が少ない傾向が見られる。具体的には、張力差を0~130N/mとすれば、ピンホール数を10個以下にできるといえる。
【0059】
成膜品の巻取張力のピンホール数への直接的な影響は必ずしも定かではないが、試料1と試料2とを比較すると、成膜品の巻取張力が小さいほうが、ピンホール数が少なくなる傾向があるようにも考えられる。表1の結果からすると、ピンホール数を少なくするためには、成膜品の巻取張力は140~230N/mが好ましいと考えられる。
【0060】
表1の結果からは、合紙の巻取張力のピンホール数への直接的な影響は読み取れない。表1からすると、少なくとも合紙の巻取張力が70~130N/mの範囲で、ピンホール数を抑制できている。