(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023177990
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】アゾール系化合物の消耗抑制方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20231207BHJP
C02F 1/38 20230101ALI20231207BHJP
【FI】
C02F1/44 D
C02F1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022090990
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】飯村 晶
(72)【発明者】
【氏名】種子野 真明
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 匠
【テーマコード(参考)】
4D006
4D037
【Fターム(参考)】
4D006GA03
4D006GA06
4D006GA07
4D006MA21
4D006PA01
4D006PB07
4D006PB22
4D037AA08
4D037AB02
4D037BA28
(57)【要約】
【課題】水系に金属防食剤としてアゾール系化合物を添加する水処理において、添加されたアゾール系化合物の消耗を効果的に抑制する。
【解決手段】水系にアゾール系化合物を添加する水処理において、該水系へのアゾール系化合物添加の前又は後の工程で、該水系内の粒径0.45μm以上の粒子を取り除く。アゾール系化合物の添加の前後の工程で、水系内の粒径0.45μm以上の粒子を取り除くという簡易な作業で、新たな薬剤の添加を必要とすることなく、水系に添加されたアゾール系化合物の消耗を効果的に抑制することができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系にアゾール系化合物を添加する水処理において、該水系内の該アゾール系化合物の消耗を抑制する方法であって、該水系へのアゾール系化合物添加の前又は後の工程で、該水系内の粒径0.45μm以上の粒子を取り除くことを特徴とするアゾール系化合物の消耗抑制方法。
【請求項2】
前記水系が循環冷却水系、開放冷温水系、または密閉冷温水系である、請求項1に記載のアゾール系化合物の消耗抑制方法。
【請求項3】
前記粒子をろ過又は遠心分離により取り除く、請求項1又は2に記載のアゾール系化合物の消耗抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水系に金属防食剤としてアゾール系化合物を添加する水処理において、添加されたアゾール系化合物の消耗を効果的に抑制する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
循環冷却水系、密閉冷温水系、開放冷温水系において、金属防食剤としてアゾール系化合物が広く用いられている。
一般的なアゾール系化合物としては、ベンゾトリアゾール(BT)、トリルトリアゾール(TT)が具体的に挙げられる。
通常、アゾール系化合物は水系中で消耗するため、防食のために必要な濃度を維持出来ない場合がある。
従来、この水系中のアゾール系化合物の消耗を抑制する有効な方法は提案されておらず、そのため従来は、BT、TT濃度を維持するために、消耗した量のBT、TTを追加投入することが一般的に行われていた。
例えば、特許文献1には、トリアゾール化合物を含む腐食防止剤が記載されている。また、特許文献2には、アゾール類の水中残留濃度を蛍光分析により測定するアゾール類の濃度管理方法が提案され、この方法により水中濃度を測定し、濃度不足である場合にはアゾール類を追加投入することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭53-146942号公報
【特許文献2】特開平5-72131号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
金属防食剤として添加したアゾール系化合物の濃度を維持するために、アゾール系化合物を頻繁に追加投入する従来法では、追加投入のための薬剤コストがかかる上に、そのための人手や、薬剤管理が必要となる。水系におけるアゾール系化合物の消耗自体を抑制することができるならば、追加投入する薬剤量を大幅に削減することができ、薬剤コスト、水処理コストを低減することができる。
【0005】
本発明は、水系に添加されたアゾール系化合物の消耗を効果的に抑制する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、アゾール系化合物の添加の前後の工程で水系中の粒径0.45μm以上の粒子を取り除くことによって、アゾール系化合物の消耗を抑制することができることを見出した。
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0007】
[1] 水系にアゾール系化合物を添加する水処理において、該水系内の該アゾール系化合物の消耗を抑制する方法であって、該水系へのアゾール系化合物添加の前又は後の工程で、該水系内の粒径0.45μm以上の粒子を取り除くことを特徴とするアゾール系化合物の消耗抑制方法。
【0008】
[2] 前記水系が循環冷却水系、開放冷温水系、または密閉冷温水系である、[1]に記載のアゾール系化合物の消耗抑制方法。
【0009】
[3] 前記粒子をろ過又は遠心分離により取り除く、[1]又は[2]に記載のアゾール系化合物の消耗抑制方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、アゾール系化合物の添加の前後の工程で、水系内の粒径0.45μm以上の粒子を取り除くという簡易な作業で、新たな薬剤の添加を必要とすることなく、水系に添加されたアゾール系化合物の消耗を効果的に抑制することができる。
このため、本発明によれば、水系におけるアゾール系化合物の必要濃度を長期間安定に維持することができ、追加投入する薬剤量を大幅に削減して、薬剤コスト、水処理コストの低減を図ることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0013】
本発明のアゾール系化合物の消耗抑制方法は、水系に金属防食剤としてアゾール系化合物を添加する水処理において、該水系内の該アゾール系化合物の消耗(水中濃度低下)を抑制する方法であって、該水系へのアゾール系化合物添加の前又は後の工程で、該水系内の粒径0.45μm以上の粒子を取り除くことを特徴とする。
【0014】
粒径0.45μm以上の粒子を除去することにより、アゾール系化合物の消耗を抑制することができるメカニズムについては不明であるが、粒径1μm以上の粒子を除去してもアゾール系化合物の消耗抑制効果は殆どないものの、本発明に従って、粒径0.45μm以上の粒子を除去することにより、アゾール系化合物の消耗を抑制して水系内のアゾール系化合物濃度を長期間維持することができ、アゾール系化合物の追加投入を不要ないしは追加投入する場合でもその追加量を大幅に低減することができる。
【0015】
粒径0.45μm以上の粒子を取り除く方法としては特に制限はないが、精密濾過(MF)膜、限外濾過(SF)膜、又は逆浸透(RO)膜などを用いるろ過や遠心分離による方法が挙げられる。特にろ過処理であれば、実機水系にろ過フィルターを設けるのみで容易に本発明を実施でき好ましい。
【0016】
取り除く粒子は粒径0.45μm以上の粒子であればよく、粒径0.30μm以上の粒子を取り除くようにしてもよく、粒径0.20μm以上の粒子を取り除くようにしてもよく、粒径0.1μm以上の粒子を取り除くようにしてもよい。粒径の小さい粒子まで取り除くことによりアゾール系化合物の消耗をより確実に抑制することができるようになるが、過度に小さい粒子まで取り除くようにしてもアゾール系化合物の消耗抑制効果に大差はなく、一方で、粒子除去のための処理効率が悪くなる。
通常は、粒径0.45μm以上の粒子を取り除くことで十分な効果を得ることができる。
【0017】
具体的には、孔径0.45μm以下のフィルターでろ過したり、或いは、孔径0.30μm以下のフィルター、或いは孔径0.20μm以下のフィルター、更には孔径0.1μm以下のフィルターを用いて対象水系の水を処理する方法が挙げられる。
【0018】
本発明において、粒径0.45μm以上の粒子の除去処理はアゾール系化合物の添加後であってもよく、添加前であってもよい。通常、除去期間中においてもアゾール系化合物の濃度を維持するために、アゾール系化合物添加後に粒径0.45μm以上の粒子の除去処理を行うことが好ましい。
【0019】
本発明が適用される水系としては、金属防食剤としてアゾール系化合物が添加されている水系であればよく、特に制限はなく、循環冷却水系、開放冷温水系、または密閉冷温水系などが挙げられる。
【0020】
また、アゾール系化合物としても、特に制限はなく、一般的に金属防食剤として水系に添加されるものが挙げられる。例えば、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、セレナゾール、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、1,2,5-オキサジアゾール、1,3,4-オキサジアゾール、1,2,3-チアジアゾール、1,2,4-チアジアゾール、1,3,4-チアジアゾール、テトラゾール、1,2,3,4-チアトリアゾール、これらの誘導体、これらのアミン塩、これらの金属塩などを挙げることができる。アゾール類の誘導体としては、例えば、アゾール環とベンゼン環などとの縮合環を有する化合物、例えば、インダゾール、ベンゾイミダゾール、ベンゾトリアゾール、ベンゾチアゾールや、さらにこれらの誘導体であるアルキルベンゾトリアゾール(例えば、ベンゾトリアゾール、o-トリルトリアゾール、m-トリルトリアゾール、p-トリルトリアゾール、5-エチルベンゾトリアゾール、5-n-プロピルベンゾトリアゾール、5-イソブチルベンゾトリアゾール、4-メチルベンゾトリアゾール)、アルコキシベンゾトリアゾール(例えば5-メトキシベンゾトリアゾール)、アルキルアミノベンゾトリアゾール、アルキルアミノスルホニルベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、ヒドロキシベンゾトリアゾール、ニトロベンゾトリアゾール(例えば、4-ニトロベンゾトリアゾール)、ハロベンゾトリアゾール(例えば5-クロロベンゾトリアゾール)、ヒドロキシアルキルベンゾトリアゾール、ハイドロベンゾトリアゾール、アミノベンゾトリアゾール、(置換アミノメチル)-トリルトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N-アルキルベンゾトリアゾール、ビスベンゾトリアゾール、ナフトトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、アミノベンゾチアゾールなど、これらのアミン塩、これらの金属塩などを挙げることができる。
【0021】
これらのうち、1,2,3-トリアゾール、1,2,4-トリアゾール、トリルトリアゾール(TT)、ベンゾトリアゾール(BT)などが好適である。
【0022】
本発明によれば、このようなアゾール系化合物が添加される水系において、粒径0.45μm以上の粒子を除去するという簡易な操作でアゾール系化合物の消耗を効果的に抑制して、水中のアゾール系化合物濃度を長期に亘り維持することができる。
【実施例0023】
以下に実施例に代わる実験例を挙げて本発明の効果を具体的に示す。
【0024】
[実験例1]
以下の手順で水系に添加したBTの残存率を調べる実験を行った。
(1) 1Lビーカーに実機冷却水を1L入れた。
(2) 0.1重量%BT水溶液を水中のBT濃度が約10mg/Lとなるように添加した。
(3) マグネチックスターラーによる撹拌を開始した。
(4) 開始から14日後にろ過を実施した。
ろ過フィルターとしては、孔径1μm、0.45μm、0.22μm、0.1μm、0.02μmのものを用い、それぞれろ過を行った。
(5) ろ過直後、ろ過後7日後、ろ過後14日後に、それぞれBT濃度を測定し、下記式でBT残存率を算出した。
比較のためろ過を行わないものについても、同様にBT残存率を算出した。
BT残存率(%)
=経過後のBT濃度(mg/L)÷試験開始時のBT濃度(mg/L)×100
結果を表1及び
図1に示す。
【0025】
【0026】
[実験例2]
BT水溶液の代りにTT水溶液を用いて、実験例1と同様にTT残存率を調べる実験を行い、結果を表2及び
図2に示した。
【0027】
【0028】
[参考実験例1]
BT水溶液の代りに亜硝酸ナトリウム水溶液を用い、フィルターとしては孔径0.1μmのもののみを用いて、実験例1と同様に亜硝酸イオン残存率を調べる実験を行い、結果を表3及び
図3に示した。
【0029】
【0030】
実験例1,2より明らかなように、ろ過を行わないと、BT、TTが経時により消耗して濃度が低下する。ろ過を行っても、孔径1μmのフィルターでは、効果が殆どないが、孔径0.45以下のフィルターを用い、粒径0.45μm以上の粒子を取り除くことにより、BT、TTの消耗を抑制することができ、14日後でも80%以上の残存率を達成できている。なお、参考例実験例1より、亜硝酸イオンでは消耗の問題がないことが分かる。