(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178035
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】メチルメルカプタン臭の抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61L 9/01 20060101AFI20231207BHJP
C11B 9/00 20060101ALI20231207BHJP
A61K 8/35 20060101ALI20231207BHJP
A61K 8/49 20060101ALI20231207BHJP
A61K 8/34 20060101ALI20231207BHJP
A61K 8/37 20060101ALI20231207BHJP
A61K 8/33 20060101ALI20231207BHJP
A61Q 13/00 20060101ALI20231207BHJP
A61Q 11/00 20060101ALN20231207BHJP
【FI】
A61L9/01 H
A61L9/01 J
C11B9/00 S
C11B9/00 L
C11B9/00 C
A61K8/35
A61K8/49
A61K8/34
A61K8/37
A61K8/33
A61Q13/00 101
A61Q11/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091078
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(74)【代理人】
【識別番号】100175651
【弁理士】
【氏名又は名称】迫田 恭子
(72)【発明者】
【氏名】中 裕規
(72)【発明者】
【氏名】肖 可敬
(72)【発明者】
【氏名】浅野 良太
(72)【発明者】
【氏名】田之畑 瞳
(72)【発明者】
【氏名】中村 綾沙
【テーマコード(参考)】
4C083
4C180
4H059
【Fターム(参考)】
4C083AC081
4C083AC082
4C083AC211
4C083AC212
4C083AC341
4C083AC342
4C083AC841
4C083AC842
4C083AD531
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4C180AA03
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4C180MM01
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4C180MM10
4H059BA12
4H059BA23
4H059BA36
4H059BA83
4H059BB03
4H059BB04
4H059BB13
4H059BB15
4H059BB18
4H059BB19
4H059BB22
4H059BB23
4H059BB44
4H059BB45
4H059BC10
4H059DA09
4H059EA32
(57)【要約】
【課題】本開示の目的は、認知閾値程度の強さの香りであっても、メチルメルカプタン臭を抑制できるメチルメルカプタン臭の抑制剤を提供することである。
【解決手段】β-ダマセノン、ローズオキシド、γ-ウンデカラクトン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ウンデカベルトール、ジヒドロミルセノール、cis-3-ヘキセノール、ゲラニオール、オキサン、α-ダマスコン、シトロネロール、酢酸ヘキシル、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、γ-デカラクトン、フロロパール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料を含む、メチルメルカプタン臭の抑制剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
β-ダマセノン、ローズオキシド、γ-ウンデカラクトン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ウンデカベルトール、ジヒドロミルセノール、cis-3-ヘキセノール、ゲラニオール、オキサン、α-ダマスコン、シトロネロール、酢酸ヘキシル、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、γ-デカラクトン、フロロパール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料を含む、メチルメルカプタン臭の抑制剤。
【請求項2】
請求項1に記載のメチルメルカプタン臭の抑制剤を含む、メチルメルカプタン臭抑制用組成物。
【請求項3】
更に、前記メチルメルカプタン臭の抑制剤以外の香料を含む、請求項2に記載のメチルメルカプタン臭抑制用組成物。
【請求項4】
前記メチルメルカプタン臭の抑制剤が、β-ダマセノン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、α-ダマスコン、シトロネロール、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料である、請求項2又は3に記載のメチルメルカプタン臭抑制用組成物。
【請求項5】
前記メチルメルカプタン臭の抑制剤が、β-ダマセノン、β-ダマスコン、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、α-ダマスコン、シトロネロール、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料である、請求項2又は3に記載のメチルメルカプタン臭抑制用組成物。
【請求項6】
前記メチルメルカプタン臭の抑制剤が、β-ダマセノン、β-ダマスコン、ゲラニオール、α-ダマスコン、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料である、請求項2又は3に記載のメチルメルカプタン臭抑制用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、メチルメルカプタン臭の抑制剤及びメチルメルカプタン臭抑制用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
メチルメルカプタンは、便臭、生ごみ臭、口臭等の代表的な原因物質であり、生活の快適性を損ねる一因になっている。従来、メチルメルカプタンに対する臭い対策に有効な製品について種々報告されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、セイタカミロバラン抽出物をメチルメルカプタンの消臭剤として使用できることが記載されている。また、特許文献2には、ウラジロガシ抽出物とタイム抽出物を含有する消臭剤組成物が、メチルメルカプタンに対して優れた消臭効果を示すことが記載されている。更に、特許文献3には、1,2-ベンゼンジカルブアルデヒドと2-ブロモ-2-ニトロプロパン-1,3-ジイル=ジアセテートとを有効成分として含有する消臭剤が、メチルメルカプタンに対して優れた消臭効果を示すことが記載されている。
【0004】
しかしながら、特許文献1~3の技術では、化学的、生物的、又は物理的作用等によってメチルメルカプタンを除去又は緩和するため、メチルメルカプタン臭の抑制効果の発現には時間を要し、即効性に欠けるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010-280591号公報
【特許文献2】特開2013-103905号公報
【特許文献3】特開2007-111457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
香りが強い香料を使用してメチルメルカプタン臭をマスキングすることによりメチルメルカプタン臭を抑制することができるが、香りが強い香料の使用では、不快感が生じることがある。一方、認知閾値程度の強さの香りでメチルメルカプタン臭を抑制できれば、香りによる不快感を抑制できる。
【0007】
そこで、本発明の目的は、認知閾値程度の強さの香りであっても、メチルメルカプタン臭を抑制できるメチルメルカプタン臭の抑制剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、β-ダマセノン、ローズオキシド、γ-ウンデカラクトン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ウンデカベルトール、ジヒドロミルセノール、cis-3-ヘキセノール、ゲラニオール、オキサン、α-ダマスコン、シトロネロール、酢酸ヘキシル、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、γ-デカラクトン、フロロパール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランは、認知閾値程度の香り(何のにおいであるかわかる弱いにおい)であっても、嗅知されるメチルメルカプタン臭を抑制できることを見出した。
【0009】
また、本発明者は、前記香料の内、β-ダマセノン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、α-ダマスコン、シトロネロール、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランは、他の香料(例えば、「ほのかな香り」の印象が強い香料等)と混合して使用しても、他の香料の香りの印象に影響を及ぼすことなく、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果を奏し得ることを見出した。
【0010】
本開示は、これらの知見に基づいて、更に検討を重ねることにより完成したものである。
【0011】
即ち、本開示は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. β-ダマセノン、ローズオキシド、γ-ウンデカラクトン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ウンデカベルトール、ジヒドロミルセノール、cis-3-ヘキセノール、ゲラニオール、オキサン、α-ダマスコン、シトロネロール、酢酸ヘキシル、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、γ-デカラクトン、フロロパール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料を含む、メチルメルカプタン臭の抑制剤。
項2. 項1に記載のメチルメルカプタン臭の抑制剤を含む、メチルメルカプタン臭抑制用組成物。
項3. 更に、前記メチルメルカプタン臭の抑制剤以外の香料を含む、項2に記載のメチルメルカプタン臭抑制用組成物。
項4. 前記メチルメルカプタン臭の抑制剤が、β-ダマセノン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、α-ダマスコン、シトロネロール、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料である、項2又は3に記載のメチルメルカプタン臭抑制用組成物。
項5. 前記メチルメルカプタン臭の抑制剤が、β-ダマセノン、β-ダマスコン、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、α-ダマスコン、シトロネロール、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料である、項2又は3に記載のメチルメルカプタン臭抑制用組成物。
項6. 前記メチルメルカプタン臭の抑制剤が、β-ダマセノン、β-ダマスコン、ゲラニオール、α-ダマスコン、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料である、項2又は3に記載のメチルメルカプタン臭抑制用組成物。
【発明の効果】
【0012】
本開示のメチルメルカプタン臭の抑制剤は、認知閾値程度の強さの香り(何のにおいであるかわかる弱いにおい)であっても、嗅知されるメチルメルカプタン臭を抑制できる。また、本開示のメチルメルカプタン臭の抑制剤の一態様では、他の香料と混合して使用しても、他の香料の香りの印象に影響を及ぼすことなく、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果を奏することができるので、例えば「ほのかな香り」の印象が強い香料と混合して使用することにより、ほのかな香りを呈させつつ、メチルメルカプタン臭を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】参考試験例1において、各香料の香りの印象を評価した結果を示す図である。
【
図2】参考試験例3において使用した評価用紙を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
1.メチルメルカプタン臭の抑制剤
本開示の一実施形態では、β-ダマセノン、ローズオキシド、γ-ウンデカラクトン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ウンデカベルトール、ジヒドロミルセノール、cis-3-ヘキセノール、ゲラニオール、オキサン、α-ダマスコン、シトロネロール、酢酸ヘキシル、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、γ-デカラクトン、フロロパール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料を含むメチルメルカプタン臭の抑制剤(以下、「抑制剤」と略記することもある)が提供される。
【0015】
β-ダマセノン(damascenone beta)、ローズオキシド(rose oxide)、γ-ウンデカラクトン(undecalactone gamma)、β-ダマスコン(damascone beta)、1,8-シネオール(1,8-cineol)、ウンデカベルトール(undecavertol)、ジヒドロミルセノール(dihydro myrcenol)、cis-3-ヘキセノール(cis-3-hexenol)、ゲラニオール(geraniol)、オキサン(oxane)、α-ダマスコン(damascone alpha)、シトロネロール(citronellol)、酢酸ヘキシル(hexyl acetate)、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール(2-phenylpropionaldehyde、商品名「Floralozone」等として市販されている)、γ-デカラクトン(decalactone gamma)、フロロパール(floropal)、ネロール(nerol)、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル(O-tert-butylcyclohexyl acetate、verdox)、アンブロキシド(ambroxide、商品名「Ambroxan」等として市販されている)、及びカシュメラン(cashmeran)は、認知閾値程度の強さの香り(何のにおいであるかわかる弱いにおい)であっても、メチルメルカプタン臭を抑制できるので、本開示の抑制剤の有効成分として使用される。
【0016】
本開示の抑制剤では、前記香料の中から1種の香料を単独で使用してもよく、また2種以上の香料を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
本開示の抑制剤の内、β-ダマセノン、β-ダマスコン、1,8-シネオール、ジヒドロミルセノール、ゲラニオール、α-ダマスコン、シトロネロール、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、ネロール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料(以下、「香料α」と表記することもある)については、後述する「ほのかな香り」の印象が強い香料と混合して使用しても、「ほのかな香り」の印象の変化を抑制しつつ、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果を奏させることができる。
【0018】
また、前記香料αの内、1,8-シネオール(以下、「香料α1」と表記することもある)については、香料α1と「ほのかな香り」の印象が強い香料の合計量100重量部当たり、10重量部以下の比率を満たすように「ほのかな香り」の印象が強い香料と混合して使用すると、「ほのかな香り」の印象の変化を抑制しつつ、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果を奏させることができる。
【0019】
また、前記香料αの内、ジヒドロミルセノール、シトロネロール、及びネロールよりなる群から選択される少なくとも1種の香料(以下、「香料α2」と表記することもある)については、香料α2と「ほのかな香り」の印象が強い香料の合計量100重量部当たり、15重量部以下の比率を満たすように「ほのかな香り」の印象が強い香料と混合して使用すると、「ほのかな香り」の印象の変化を抑制しつつ、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果を奏させることができる。
【0020】
また、前記香料αの内、β-ダマセノン、β-ダマスコン、ゲラニオール、α-ダマスコン、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、アンブロキシド、及びカシュメランよりなる群から選択される少なくとも1種の香料(以下、「香料α3」と表記することもある)については、香料α3と「ほのかな香り」の印象が強い香料の合計量100重量部当たり、20重量部以下の比率を満たすように「ほのかな香り」の印象が強い香料と混合して使用すると、「ほのかな香り」の印象の変化を抑制しつつ、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果を奏させることができる。
【0021】
本開示の抑制剤は、揮散した状態で、嗅覚に作用することにより、メチルメルカプタン臭を抑制する効果を奏する。従って、本開示の抑制剤は、例えば、メチルメルカプタン臭対策が求められる空間で揮散させることにより使用することができる。メチルメルカプタン臭対策が求められる空間とは、メチルメルカプタンが存在する空間又はメチルメルカプタンが発生する可能性がある空間であり、具体的には、トイレ、台所、ごみ箱周辺、廃棄物処理場、その他のメチルメルカプタン臭が生じる施設等が挙げられる。
【0022】
また、本開示の抑制剤は、メチルメルカプタン臭対策が求められる者に適用することもできる。メチルメルカプタン臭対策が求められる者としては、具体的には、チルメルカプタン臭に曝される者、メチルメルカプタン臭に曝される可能性がある者、又は口臭(メルカプタン臭)がある者等が挙げられる。本開示の抑制剤をメチルメルカプタン臭対策が求められる者に適用する方法については、特に限定されないが、例えば、当該者の身体や衣類に本開示の抑制剤を付着させる方法、当該者に本開示の抑制剤を揮散可能な状態で携行させる方法、本開示の抑制剤を口腔内に適用する方法等が挙げられる。
【0023】
本開示の抑制剤をメチルメルカプタン臭の抑制用途に使用するに際し、前記有効成分となる香料単独で使用してもよいが、後述するメチルメルカプタン臭抑制用組成物に製剤化して使用することが好ましい。
【0024】
2.メチルメルカプタン臭抑制用組成物
本開示の他の一実施形態では、前記抑制剤を含むメチルメルカプタン臭抑制用組成物が提供される。なお、メチルメルカプタン臭抑制用組成物は、前記抑制剤のみで構成されてもよい。
【0025】
本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物における前記抑制剤(前記香料)の含有量については、当該組成物の製品形態等に応じて適宜設定すればよいが、例えば、5~20重量%、好ましくは10~15重量%が挙げられる。
【0026】
本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物は、必要に応じて、前記抑制剤以外の香料(「他の香料」と表記することもある)が含まれていてもよい。本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物に含有させる他の香料は、天然香料、天然香料から分離された単品香料、合成された単品香料、これらの調合香料等のいずれであってもよく、呈させる香りの印象に応じて適宜選定すればよい。
【0027】
本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物に他の香料を含有させる場合、前記抑制剤と他の香料の比率については、特に制限されないが、例えば、前記抑制剤と他の香料の合計量100重量部当たり、前記抑制剤が10~40重量部、好ましくは10~20重量部が挙げられる。
【0028】
前記抑制剤として前記香料αを使用する場合であれば、他の香料の好適な一例として、「ほのかな香り」の印象が強い香料が挙げられる。「ほのかな香り」の印象が強い香料は、強い香りが苦手な人に好まれる香りを創る際に有用である。しかし、「ほのかな香り」の印象が強い香料は、それ以外の香料と混合すると、「ほのかな香り」の印象が損なわれ易いうえに、メチルメルカプタン臭の抑制効果が低い傾向がある。前記香料αと「ほのかな香り」の印象が強い香料が混合された抑制剤は、「ほのかな香り」の印象の変化を抑制しつつ、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果を備える。
【0029】
本開示において、「ほのかな香り」の印象が強い香料とは、香料を揮散させた際に、「ほのかな香り」、「やさしい香り」、及び「やわらかい香り」の3種の印象の内、「ほのかな香り」が最も当てはまると判定される香料である。具体的には、「ほのかな香り」の印象が強い香料であることについては、以下の手順で確認することができる。
<「ほのかな香り」の印象が強い香料であることを確認するための試験方法>
(1)香料を1.5重量%となるように界面活性剤共に水で希釈し、香料希釈液を調製する。
(2)香料希釈液400mlを、ろ紙を揮散部材として含む揮散器に充填し、約3.3畳の部屋に静置して、15分間揮散させる。
(3)官能試験によるに香りの測定について訓練された評価者20名によって、香料希釈液を揮散させた部屋の香りの印象を評価させる。部屋の香りの印象の評価は、「ほのかな香り」、「やさしい香り」、及び「やわらかい香り」の3種の印象のそれぞれについて、以下に示す6段階評価法で点数をつける。
(6段階評価法(香りの印象評価))
1:全く当てはまらない
2:当てはまらない
3:やや当てはまらない
4:やや当てはまる
5:当てはまる
6:非常に当てはまる
(4)20名の評価者が付けた各香りの印象ののうち最大の点数と最小の点数を除いた点数の平均値とする。「ほのかな香り」、「やさしい香り」、及び「やわらかい香り」の各点数の平均値の内、「ほのかな香り」の点数の平均値が最も高い香料を、「ほのかな香り」の印象が強い香料であると判定する。
【0030】
「ほのかな香り」の印象が強い香料としては、具体的には、アンブロキサン(Ambroxan)、ガラクソリド(Galaxolide)、リリアール(Lilial)、ジヒドロジャスモン酸メチル(Methyl dihydrojasmonate)、イソEスーパー(Iso E Super)、ヘリオトロピン(Heliotropin)、及びクマリン(Coumarin)等が挙げられる。
【0031】
本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物において、前記抑制剤として香料α1を含有させ、且つ他の香料として「ほのかな香り」の印象が強い香料を含有させる場合、「ほのかな香り」の印象の変化を抑制しつつ、メチルメルカプタン臭の抑制効果を好適に備えさせるという観点から、香料α1と「ほのかな香り」の印象が強い香料の合計量100重量部当たり、香料α1が1~10重量部、好ましくは5~10重量部が挙げられる。
【0032】
また、本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物において、前記抑制剤として香料α2を含有させ、且つ他の香料として「ほのかな香り」の印象が強い香料を含有させる場合、「ほのかな香り」の印象の変化を抑制しつつ、メチルメルカプタン臭の抑制効果を好適に備えさせるという観点から、香料α2と「ほのかな香り」の印象が強い香料の合計量100重量部当たり、香料α2が1~15重量部、好ましくは5~15重量部が挙げられる。
【0033】
また、本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物において、前記抑制剤として香料α3を含有させ、且つ他の香料として「ほのかな香り」の印象が強い香料を含有させる場合、「ほのかな香り」の印象の変化を抑制しつつ、メチルメルカプタン臭の抑制効果を好適に備えさせるという観点から、香料α3と「ほのかな香り」の印象が強い香料の合計量100重量部当たり、香料α3が1~20重量部、好ましくは5~20重量部が挙げられる。
【0034】
本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物は、必要に応じて、前述する成分以外に、消臭成分、脱臭成分、抗菌成分、除菌成分等が含まれていてもよい。
【0035】
本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物は、当該組成物の製品形態等に応じた基剤、添加剤、その他の成分を含有させることにより製剤化すればよい。本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物の形状については、特に限定されず、例えば、液状、半固形状、固形状等のいずれであってもよい。また、本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物の製品形態については、特に限定されず、使用態様に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
例えば、メチルメルカプタン臭対策が求められる空間で前記抑制剤を揮散させる製品、又はメチルメルカプタン臭対策が求められる者に前記抑制剤を揮散可能な状態で携行させる製品の場合であれば、本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物の製品形態として、例えば、芳香剤、消臭剤、芳香消臭剤、防臭剤等の製品が挙げられる。メチルメルカプタン臭対策が求められる空間で揮散させる場合には、前記製品は据置タイプ、スプレータイプ、エアゾールタイプ等のいずれであってもよい。また、メチルメルカプタン臭対策が求められる者に揮散可能な状態で携行させる場合には、前記製品は、クリップタイプ、貼付タイプ、吊り下げタイプ等の携行可能なタイプであればよい。
【0037】
また、例えば、メチルメルカプタン臭対策が求められる者の身体や衣類に前記抑制剤を付着させる場合であれば、本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物の製品形態として、例えば、デオドラント、制汗剤、貼付剤等の皮膚外用剤;洗濯用洗剤、柔軟剤等の洗濯用製品;衣類用スプレー製品等が挙げられる。
【0038】
また、例えば、口臭(メルカプタン臭)対策が求められる者に使用する場合であれば、本開示のメチルメルカプタン臭抑制用組成物の製品形態として、例えば、液状歯磨剤、練歯磨剤、洗口液、口腔用スプレー、含嗽剤、口中清涼剤、口腔用パスタ剤、歯肉マッサージクリーム等の口腔ケア製品;ガム、飴、グミ、飲料等の飲食品;トローチ等の医薬品等が挙げられる。
【0039】
3.メチルメルカプタン臭の抑制方法
本開示のメチルメルカプタン臭の抑制方法は、メルカプタン臭が存在する環境において前記抑制剤を揮散させることを特徴とする。本開示のメチルメルカプタン臭の抑制方法において、前記抑制剤の種類、前記抑制剤を揮散させる方法等については、前記「1.メチルメルカプタン臭の抑制剤」及び「2.メチルメルカプタン臭抑制用組成物」の欄に記載の通りである。
【実施例0040】
以下、実施例を挙げて、本開示の発明を説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
試験例1:メチルメルカプタン臭の抑制効果の検証
表1に示す香料1mlをろ紙(面積25cm2)に添加し、10L容のコック付きエアバックに入れて、更に5Lの無臭空気を注入して1時間放置した。その後、エアバック内の芳香空気を3L容のコック付きエアバック(以下、芳香エアバッグという)に移し、無臭空気で希釈して、6段階臭気強度表示法において香りの強度が2になるように調整した。即ち、表1に示す香料の数(22個)の芳香エアバッグを作成した。また、芳香エアバッグとは別に、コントロールとして、無臭空気で満たされた3L容のコック付きエアバック(以下、ブランクエアバッグ)を作成した。以下に、6段階臭気強度表示法の評価基準を示す。
<6段階臭気強度表示法(香りの強度の評価基準)>
0:無臭
1:やっと感知できるにおい(検知閾値)
2:何のにおいであるかわかる弱いにおい(認知閾値)
3:楽に感知出来るにおい
4:強いにおい
5:強烈なにおい
【0042】
ブランクエアバッグの中に、メチルメルカプタンを注入した。注入したメチルメルカプタンの量は、ブランクエアバッグのメチルメルカプタン臭の6段階臭気強度表示法での臭気強度が3~4になるように調整した。具体的には、注入したメチルメルカプタンの量は0.03~0.05ppmである。また、芳香エアバッグの中に、ブランクエアバッグに注入したメチルメルカプタンと同量のメチルメルカプタンを注入した。即ち、芳香エアバッグにおいて、表2に示す香料の臭気強度が2の空気と、メチルメルカプタンの臭気強度が3~4の空気を混合した。
【0043】
複数の芳香エアバッグ及びブランクエアバッグについて、エアバック内のメチルメルカプタン臭を官能評価した。官能評価は、訓練された8名で行い、以下の判定基準に従って、メチルメルカプタン臭の改善度を評点化した。即ち、複数の芳香エアバッグ及びブランクエアバッグに対して、前記6段階臭気強度表示法に基づき、8名の評価者が点数を付けた。8名の評価者が付けた点数に基づき、各エアバッグの点数を算出した。各エアバッグの点数は、8名の評価者が付けた点数のうち最大の点数と最小の点数を除いた点数の平均値である。表1に示すメチルメルカプタン臭の改善度は、ブランクエアバッグの点数から、各香料に対応する芳香エアバッグの点数を減じた値である。メチルメルカプタン臭の改善度が1ポイント以上である場合、メチルメルカプタン臭を抑制できているといえる。
【0044】
結果を表1に示す。表2に示す香料は、6段階臭気強度表示法において香りの強度が2と弱くても、メチルメルカプタン臭を効果的に抑制できることが分かった。
【0045】
【0046】
参考試験例1:香料の香りの印象評価
表2に示す香料について、香りの特徴を評価した。具体的には、表2に示す香料を1.5重量%となるように界面活性剤と共に水で希釈し、香料希釈液を調製した。
【0047】
【0048】
各香料希釈液400mlを、ろ紙を揮散部材として含む揮散器に充填し、約3.3畳の部屋に静置して、15分間揮散させた。その後、香料希釈液を揮散させた部屋の香りについて、訓練された評価者(20~40代の男女20名)が、部屋の香りの印象について評価した。部屋の香りの印象の評価は、「ほのかな香り」、「やさしい香り」、及び「やわらかい香り」の3種の印象のそれぞれについて、以下に示す6段階評価法で点数をつけた。各香りの印象の点数は、20名の評価者が付けた点数のうち最大の点数と最小の点数を除いた点数の平均値とした。
<6段階評価法(香りの印象評価)>
1:全く当てはまらない
2:当てはまらない
3:やや当てはまらない
4:やや当てはまる
5:当てはまる
6:非常に当てはまる
【0049】
結果を
図1に示す。この結果、香料Aは、「ほのかな香り」の印象が最も強く、香料B及び香料Cは、「やさしい香り」又は「やわらかい香り」の印象が強いことが確認された。
【0050】
参考試験例2:メチルメルカプタン臭の抑制効果の検証
表2に示す各香料及びラベンダー香料を使用して、メチルメルカプタン臭の抑制効果の検証を行った。具体的には、芳香エアバッグに導入する各香料を、ラベンダー香料の場合は6段階臭気強度表示法における香りの強度が2、香料A~Cの場合は6段階臭気強度表示法における香りの強度が3~4となるように変更したこと以外は、前記試験例1と同条件でメチルメルカプタン臭の抑制効果を評価した。即ち、香料A~Cについては、前記試験例1よりも、香りの強度を高く設定した条件で、メチルメルカプタン臭の抑制効果を評価した。
【0051】
結果を表3に示す。この結果、「ほのかな香り」の印象が強い香料Aでは、強い香りの代表であるラベンダー香料、並びに「やさしい香り」又は「やわらかい香り」の印象が強い香料B及びCに比べて、メチルメルカプタン臭の抑制効果が低いことが確認された。即ち、「強い香り」、「やさしい香り」又は「やわらかい香り」の印象が強い香料では、メチルメルカプタン臭の抑制効果が認められ得るが、「ほのかな香り」の印象が強い香料では、メチルメルカプタン臭の抑制効果が弱いことが明らかとなった。
【0052】
【0053】
参考試験例3:試験例1でメチルメルカプタン臭の抑制効果が認められた香料と、「ほのかな香り」の印象が強い香料を混合した際の香調の印象の評価
表4に示す香料が10重量%、15重量%又は20重量%となるように、参考試験例1及び2で使用した香料A(「ほのかな香り」の印象が強い香料)と混合し、混合香料を調製した。得られた混合香料0.5gを13.5mL容のスクリュー管に入れ、サンプルとした。なお、サンプルには、香料A0.5gのみを13.5mL容のスクリュー管に入れたもの(下記コントロールと同じ)をダミーサンプルとして含ませておいた。また、別途、香料A0.5gのみを13.5mL容のスクリュー管に入れ、コントロールとした。訓練された評価者15名に、コントロールの香りを嗅がせた後に、各サンプルの香りを嗅がせ、ビジュアルアナログスケールによりサンプルとコントロールの香調の類似度合いを評価した。ビジュアルアナログスケールの評価では、
図2に示す評価用紙(評価用紙の直線の長さは127mm)を使用して、評価用紙の線上に、コントロールの香調と比較してサンプルの香調が該当すると判断した点にマークさせ、左端(「違う」との印象の点)からの当該マークまでの距離(以下、「距離A」と表記する)を記録させた。評価者15名によって記録された当該距離Aの平均値を算出し、以下の算出式に従って、香料Aとの香調の類似度合い(%)を算出した。
【数1】
【0054】
結果を表4に示す。この結果、表4に示す香料と「ほのかな香り」の印象が強い香料Aと共に調合しても、香料Aとの香調の類似度合いが80~120%であり、表4に示す香料は、香料Aの香調に影響を与えにくいことが確認された。即ち、表4に示す香料は、「ほのかな香り」の印象が強い香料と調合しても、「ほのかな香り」の印象に影響を与えにくいことが明らかとなった。
【0055】
【0056】
試験例2:試験例1でメチルメルカプタン臭の抑制効果が認められた香料と、「ほのかな香り」の印象が強い香料を混合した際の香調の印象の評価
表5に示す香料と、参考試験例1及び2で使用した香料A(「ほのかな香り」の印象が強い香料)とを混合し、混合香料を調製した。得られた混合香料を使用して、メチルメルカプタン臭の抑制効果の検証を行った。具体的には、芳香エアバッグに導入する各混合香料を6段階臭気強度表示法における香りの強度が3~4となるように変更したこと以外は、前記試験例1と同条件でメチルメルカプタン臭の抑制効果を評価した。
【0057】
結果を表5に示す。参考試験例2に示すように、「ほのかな香り」の印象が強い香料A単独では、メチルメルカプタン臭の抑制効果が低かったが、表5に示す混合香料では、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果が認められた。即ち、参考試験例2及び3、並びに本試験例の結果から、「ほのかな香り」の印象が強い香料は、メチルメルカプタン臭の抑制効果が低いが、ジヒドロミルセノール、1,8-シネオール、シトロネロール、ネロール、アンブロキシド、ゲラニオール、カシュメラン、酢酸2-(tert-ブチル)シクロヘキシル、α-ダマスコン、2-エチル-α,α-ジメチルベンゼンプロパナール、β-ダマセノン、又はβ-ダマスコンと混合して使用することにより、「ほのかな香り」の印象に影響を与えることなく、優れたメチルメルカプタン臭の抑制効果を備えさせ得ることが明らかとなった。
【0058】