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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178091
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】着色焼結体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/488 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
C04B35/488 500
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091154
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】永山 仁士
(72)【発明者】
【氏名】船越 肇
(72)【発明者】
【氏名】土屋 聡
(57)【要約】
【課題】
ジルコニアをマトリックスとして含み、鮮明な緑色の色調を呈する焼結体であって、退色が生じにくいもの及びその製造方法の少なくともいずれか、を提供する。
【解決手段】
140℃で24時間の水熱処理後の単斜晶ジルコニアの割合が25%未満であり、なおかつ、アルミニウム及び着色元素を含むスピネル化合物、並びに、アルミニウム酸化物を含み、安定化元素と、該安定化元素及びジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素と、を固溶するジルコニアの焼結体。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
140℃で24時間の水熱処理後の単斜晶ジルコニアの割合が25%未満であり、なおかつ、アルミニウム及び着色元素を含むスピネル化合物、並びに、アルミニウム酸化物を含み、安定化元素と、該安定化元素及びジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素と、を固溶するジルコニアの焼結体。
【請求項2】
前記安定化元素がイットリウム、セリウム、マグネシウム及びカルシウムの群から選ばれる1以上である請求項1に記載の焼結体。
【請求項3】
前記ランタノイド元素がプラセオジム、ネオジム、ユーロピウム、テルビウム、ホロニウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上である請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項4】
前記着色元素が、マンガン、ニッケル、コバルト及び鉄の群から選ばれる1以上である請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項5】
前記アルミニウム酸化物の含有量が0.5質量%以上25質量%以下である請求項1又は2に記載の焼結体。
【請求項6】
表色系における明度L、色相a及び色相bが、以下を満たす請求項1又は2に記載の焼結体。
明度L:50以上90以下
色相a:-20≦a≦2、及び、
色相b:-20≦b≦30
【請求項7】
140℃、24時間の水熱処理前後の色調差△Eが0以上2.0以下である請求項1又は2のいずれかに記載の焼結体。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の焼結体を含む部材。
【請求項9】
ジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素源を0.2質量%以上5質量%以下、アルミニウム源を0.5質量%以上25質量%以下、着色元素源を0.03質量%以上8質量%以下含み、安定化元素含有ジルコニア源を含む粉末組成物を成形する成形工程、及び、該成形工程で得られる成形体を1380℃以上1580℃以下で焼結する焼結工程、を有する、請求項1又は2に記載の焼結体の製造方法。
【請求項10】
ジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素源を0.2質量%以上5質量%以下、アルミニウム源を0.5質量%以上25質量%以下、着色元素源を0.03質量%以上8質量%以下含み、安定化元素含有ジルコニア源を含む粉末組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ジルコニアをマトリックスとし、着色された焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニアをマトリックスとする焼結体は、ランタノイド系希土類元素や遷移金属元素を含むことで任意の呈色を示す。焼結体が着色元素を含むことで、ジルコニア本来の高級感及び機械的強度に加え、その呈色により意匠性が高くなる。そのため、ジルコニアをマトリックスとし、着色された焼結体は、従来からの用途である光学用途、医療用途、機械用途に加え、装飾部材及び外装部材等、審美性が必要とされる用途にも適用されている。近年の適用用途の広がりに伴い、長期間の使用において安定した審美性を示す焼結体の需要が高まってきている。
【0003】
着色されたジルコニアの焼結体として緑系統の色調を呈する焼結体が知られている(例えば、特許文献1乃至4)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭62-59571号公報
【特許文献2】特開平01-157462号公報
【特許文献3】特開2011-20874号公報
【特許文献4】特開2017-165599号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1乃至4で開示された焼結体は、いずれも緑系統の色調を呈色するが、水熱処理等の劣化の加速試験により色調の変化、いわゆる退色、が顕著に生じる。そのため、使用中に審美性が大きく変化するものであった。
【0006】
本開示は、ジルコニアをマトリックスとして含み、鮮明な緑色の色調を呈する焼結体であって、退色が生じにくいもの及びその製造方法の少なくともいずれか、を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、緑色を呈するジルコニアの焼結体に固溶させる着色元素とその固溶状態に着目し、検討した。その結果、ある特定の化合物を含むジルコニア焼結体が、鮮明な緑色の色調を呈し、なおかつ、さらには従来の緑色を呈する焼結体と比べ、長期間の使用においける色調の変化が抑制されることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明は特許請求の範囲に記載の通りであり、また、本開示の要旨は以下の通りである。
[1] 140℃で24時間の水熱処理後の単斜晶ジルコニアの割合が25%未満であり、なおかつ、アルミニウム及び着色元素を含むスピネル化合物、並びに、アルミニウム酸化物を含み、安定化元素と、該安定化元素及びジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素と、を固溶するジルコニアの焼結体。
[2] 前記安定化元素がイットリウム、セリウム、マグネシウム及びカルシウムの群から選ばれる1以上である上記[1]の焼結体。
[3] 前記ランタノイド元素がプラセオジム、ネオジム、ユーロピウム、テルビウム、ホロニウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上である上記[1]又は[2]に記載の焼結体。
[4] 前記着色元素が、マンガン、ニッケル、コバルト及び鉄の群から選ばれる1以上である上記[1]乃至[3]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[5] 前記アルミニウム酸化物の含有量が0.5質量%以上25質量%以下である上記[1]乃至[4]のいずれかひとつに記載の焼結体。
[6] L表色系における明度L、色相a及び色相bが、以下を満たす上記[1]乃至[5]のいずれかひとつに記載の焼結体。
【0009】
明度L:50以上90以下
色相a:-20≦a≦2、及び、
色相b:-20≦b≦30
[7] 140℃、24時間の水熱処理前後の色調差△Eが0以上2.0以下である上記[1]乃至[6]のいずれかに記載の焼結体。
[8] 上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載の焼結体を含む部材。
[9] ジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素源を0.2質量%以上5質量%以下、アルミニウム源を0.5質量%以上25質量%以下、着色元素源を0.03質量%以上8質量%以下含み、安定化元素含有ジルコニア源を含む粉末組成物を成形する成形工程、及び、該成形工程で得られる成形体を1380℃以上1580℃以下で焼結する焼結工程、を有する、上記[1]乃至[7]のいずれかひとつに記載の焼結体の製造方法。
[10] ジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素源を0.2質量%以上5質量%以下、アルミニウム源を0.5質量%以上25質量%以下、着色元素源を0.03質量%以上8質量%以下含み、安定化元素含有ジルコニア源を含む粉末組成物。
【発明の効果】
【0010】
本開示によって、ジルコニアをマトリックスとして含み、鮮明な緑色の色調を呈する焼結体であって、劣化による退色が生じにくいもの及びその製造方法の少なくともいずれかを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の焼結体について、実施形態の一例を示して説明する。本実施形態における用語は以下に示すとおりである。
【0012】
「組成物」とは、一定の組成を有する物質であり、例えば、粉末、顆粒、成形体、仮焼体及び焼結体の群から選ばれる1以上が挙げられる。「ジルコニア組成物」とは、本質的にジルコニアからなる組成物、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする組成物である。
【0013】
「粉末」とは、粉末粒子の集合体で、なおかつ、流動性を有する組成物である。「ジルコニア粉末」とは、本質的にジルコニアからなる粉末、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする粉末である。また、「粉末組成物」とは、特徴の異なる粉末から構成される組成物であり、特に、組成の異なる粉末を含む組成物である。
【0014】
「成形体」とは、物理的な力で凝集した粉末粒子から構成された一定の形状を有する組成物であり、特に、該形状の付与後(例えば成形後)に熱処理が施されていない状態の組成物である。「ジルコニア成形体」とは、本質的にジルコニアからなる成形体、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする成形体である。
【0015】
「焼結体」とは、結晶粒子から構成された一定の形状を有する組成物であり、焼結温度以上の温度で熱処理された状態の組成物である。「ジルコニア焼結体」とは、本質的にジルコニアからなる焼結体、更にはジルコニアをマトリックス(母材)とする焼結体である。
【0016】
「安定化元素」とは、ジルコニアに固溶することでジルコニアの結晶相を安定化する機能を有する元素である。
【0017】
組成物における安定化元素の含有量(mol%;以下、「安定化元素量」ともいう)は、組成物中のZrO換算したジルコニウム及び酸化物換算した安定化元素の合計に対する、酸化物換算した安定化元素のモル割合である。
【0018】
「BET比表面積」は、JIS R 1626に準じ、吸着ガスに窒素を使用したBET多点法(5点)により測定すればよい。BET比表面積の具体的な測定条件として以下の条件が例示できる。
【0019】
吸着媒体 :N
吸着温度 :-196℃
前処理条件 :大気雰囲気、250℃で1時間以上の脱気処理
BET比表面積は、一般的な装置(例えば、トライスターII 3202、島津製作所製)を使用して測定することができる。
【0020】
本実施形態の焼結体は、140℃で24時間の水熱処理後の単斜晶ジルコニアの割合が25%未満であり、なおかつ、アルミニウム及び着色元素を含むスピネル化合物、並びに、アルミニウム酸化物を含み、安定化元素と、該安定化元素及びジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素と、を固溶するジルコニアの焼結体である。
【0021】
本実施形態の焼結体は、安定化元素と、該安定化元素及びジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素と、を固溶するジルコニア(以下、「着色安定化ジルコニア」ともいう。)の焼結体、更には着色安定化ジルコニアをマトリックス(母相、主相)とする焼結体、また更には着色安定化ジルコニア焼結体である。
【0022】
安定化元素は、ジルコニアを安定化する機能を有する元素、特にジルコニアを着色することなくジルコニアの結晶相を安定化する機能を有する元素であればよく、イットリウム(Y)、マグネシウム(Mg)、セリウム(Ce)及びカルシウム(Ca)の群から選ばれる1以上、更にはイットリウムが好ましい。
【0023】
着色安定化ジルコニアの安定化元素の含有量は、ジルコニアの結晶相が安定化する量であればよいが、2mol%以上、2.5mol%以上又は2.9mol%以上であり、また、15mol%以下、6mol%以下、又は5.8mol%以下であることが好ましい。安定化元素の含有量が当該範囲であれば、製造時や水熱条件下で焼結体の破壊が生じにくくなる。着色安定化ジルコニアの安定化元素の含有量の上限及び下限は、上述のいずれの組合せであってもよい。
【0024】
本実施形態の焼結体において、着色安定化ジルコニアは、安定化元素と、安定化元素及びジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素(以下、「固溶ランタノイド元素」ともいう。)と、を固溶する。安定化元素が固溶するジルコニアと、固溶ランタノイド元素、及び、他の相が共存する混相組織を有する焼結体は、その製造過程(焼結過程)において、固溶ランタノイド元素が、優先的にジルコニアに固溶しながら焼結が進行すると考えられる。その結果、着色成分等の固溶ランタノイド元素以外の相のジルコニアへの混入が抑制され、鮮明な緑色の色調の呈色が可能となると考えられる。
【0025】
固溶ランタノイド元素は、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、ユーロビウム(Eu)、テルビウム(Tb)、ホロニウム(Ho)及びエルビウム(Er)の群から選ばれる1以上、更にはプラセオジム、ネオジム及びテルビウムの群から選ばれる1以上、また更にはテルビウムが好ましい。
【0026】
本実施形態において、8配位のイオン半径をもって固溶ランタノイド元素のイオン半径とみなせばよい。固溶ランタノイド元素のイオン半径として、プラセオジムが0.96Å(Pr4+)、ネオジムが1.11Å(Nd3+)、ユーロピウムが1.07Å(Eu3+)、テルビウムが0.88Å(Tb4+)、ホロニウムが1.02Å(Ho3+)、及び、エルビウムが1.00Å(Er3+)であることが挙げられる。
【0027】
本実施形態において、原子半径は、ジルコニウムが0.84Å(Zr4+)、イットリウムが1.01Å(Y3+)、マグネシウムが0.89Å(Mg2+)、セリウムが0.97Å(Ce4+)及びカルシウムが1.12Å(Ca2+)であることが挙げられる。
【0028】
本実施形態の焼結体は、アルミニウム及び着色元素を含むスピネル化合物、並びに、アルミニウム酸化物、を含む。
【0029】
アルミニウム酸化物はスピネル化合物及び着色安定化ジルコニアとは異なる結晶粒子として焼結体に含まれる。アルミニウム酸化物が含まれることで、焼結体の色調、特に白色度が安定化する。アルミニウム酸化物は、アルミナ(Al)であることが好ましい。
【0030】
アルミニウム酸化物の含有量は、焼結体の質量に対するアルミニウム酸化物の質量の割合として0.5質量%以上又は1質量%以上であり、また、25質量%以下又は20質量%以下であることが好ましい。アルミニウム酸化物の含有量が25質量%以下であることで、比較的低い焼成温度で密度が高い焼結体が得られやすくなる。これにより、スピネル化合物がより安定化しやすくなり、スピネル化合物の変化に由来する色調変化が抑制される。アルミニウム酸化物の含有量の上限及び下限は、上述のいずれの組合せであってもよい。
【0031】
アルミニウム及び着色元素を含むスピネル化合物(以下、「着色スピネル化合物」ともいう。)は、アルミニウム酸化物及び着色安定化ジルコニアとは異なる結晶粒子として焼結体に含まれる。着色安定化ジルコニアからなる結晶粒子をマトリックスとし、これと着色スピネル化合物からなる結晶粒子とがそれぞれ存在することで鮮明な緑色の色調の呈色が可能となる。
【0032】
着色元素は、アルミニウムとスピネル化合物を形成する着色元素であればよく、ジルコニウムの原子半径より小さいイオン半径を有する元素であることが好ましく、ジルコニウムの原子半径より小さいイオン半径を有し、なおかつ、アルミニウム原子のイオン半径より大きいイオン半径を有する元素であることがより好ましい。これにより、本実施形態の焼結体の製造過程(焼結過程)において、該着色元素とアルミニウムとの反応が優先して進行しやしくなり、スピネル化合物がより効率よく生成する。これに加え、着色元素のジルコニアへの固溶が生じにくくなる。これにより、着色元素とランタノイド元素とが混合することによる呈色が抑制される。なお、アルミニウム原子のイオン半径は、6配位におけるイオン半径をもって、そのイオン半径とすればよい。アルミニウム原子のイオン半径として、0.54Å(Al3+)であることが挙げられる。
【0033】
具体的な着色元素として、ハフニウム及びジルコニウム以外の遷移金属元素、更には3d遷移金属元素、また更にはマンガン(Mn)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)及びコバルト(Co)の群から選ばれる1以上が挙げられる。なお、着色元素のイオン半径は、6配位におけるイオン半径をもって、そのイオン半径とすればよい。着色元素のイオン半径として、それぞれ、マンガンが0.65Å(Mn3+)、ニッケルが0.69Å(Ni2+)、コバルトが0.61Å(Co3+)、及び、鉄が0.65Å(Fe3+)であることが挙げられる。
【0034】
焼結過程におけるスピネル化合物の生成を促進するため、本実施形態の焼結体の着色元素の含有量は0.03質量%以上又は0.1質量%以上であることが好ましく、また、8質量%以下又は5質量%以下であることが好ましい着色元素の含有量の上限及び下限は、上述のいずれの組合せであってもよい。
【0035】
本実施形態の焼結体は、着色安定化ジルコニアの結晶粒子をマトリックスとし、これと着色スピネル化合物の結晶粒子を兼備した構造を有することにより、劣化による退色が生じにくくなる。
【0036】
本実施形態の焼結体はその色調に影響を与えない程度であれば不純物を含んでいてもよい。不純物として、例えば、ジルコニアの不可避不純物である、ハフニア(HfO)が挙げられる。焼結体におけるハフニアの含有量はジルコニアの原料の産地等により異なる。なお、本実施形態では、密度等の組成に基づく値の算出においてハフニアはジルコニアとみなせばよい。
【0037】
本実施形態の焼結体の実測密度は、5.45g/cm以上又は5.50g/cm以上であることが挙げられる。これは相対密度95%以上に相当する。これにより、焼結体表面の気孔が小さくなり、表面に気孔を有する場合であっても、視認される色調への影響が小さくなる。また、本実施形態の実測密度は6.10g/cm以下又は6.08g/cm以下であることが挙げられる。本実施形態の焼結体は理論密度が高いが、95%以上又は97%以上であり、かつ、100%以下又は99.9%以下であることが挙げられる。実測密度及び相対密度の上限及び下限は、それぞれ、上述のいずれの組合せであってもよい。
【0038】
実測密度は、JIS R1634に準じた方法で測定される体積に対する、質量測定により得られる焼結体質量[g]の割合[g/cm]である。
【0039】
本実施形態における相対密度は、理論密度に対する実測密度の割合(%)で求めることができる。
【0040】
本実施形態の着色ジルコニア焼結体は、140℃で24時間の水熱処理後の単斜晶ジルコニアの割合が25%未満である。140℃で24時間の水熱処理後の単斜晶ジルコニアの割合が25%以上であると、審美性の経時変化が大きくなりやすい。
【0041】
本実施形態における単斜晶ジルコニアの割合は、ジルコニアの結晶相に占める、単斜晶ジルコニアの割合(以下、「単斜晶率」ともいう。)である。
【0042】
単斜晶率は、鏡面研磨後の焼結体の表面のX線回折(以下、「XRD」ともいう。)パターンを使用し、以下の式から求めることができる。
【0043】
単斜晶率(%)=[I(111)+I(11-1)]×100/[I(111)+I(11-1)+I(111)+I(111)
上記式において、Iは各反射の面積強度、添字m、t及びcはそれぞれ単斜晶、正方晶及び立方晶を示す。
【0044】
XRDパターンの測定の条件として、以下の条件を挙げることができる。
【0045】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
上述のXRDパターン測定において、好ましくは、ジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークは、以下の2θにピークトップを有するピークとして測定される。
【0046】
単斜晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶ジルコニアの(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピークは重複して測定され、そのピークトップの2θは、2θ=30±0.5°である。
【0047】
各結晶面のXRDピークの面積強度は、SmartLab Studio II(リガク)上で求めることができる。
【0048】
本実施形態の焼結体の結晶構造は正方晶を含むことが好ましい。結晶構造に正方晶を含むことによって入射光を反射しやすくなるため、焼結体の透明感が抑制できる。さらに、本実施形態の焼結体の結晶構造は、結晶構造の主相が正方晶であることがより好ましく、正方晶及び立方晶の混晶であってもよい。焼結体の結晶構造の主相が正方晶であることによって、本実施形態の焼結体の強度がより高くなる。
【0049】
焼結体の結晶構造に占める正方晶の割合は75%以上、更には90%以上であることが好ましく、また100%以下又は100%未満であればよい。正方晶の割合の上限及び下限は、それぞれ、上述のいずれの組合せであってもよい。
【0050】
本実施形態における正方晶率は、単斜晶率と同様な方法で得られるXRDパターンから下式を用いて求めればよい。
【0051】
正方晶率(%)=I(111)×100/[I(111)+I(11-1)+I(111)+I(111)
本実施形態の焼結体の、ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径は2μm以下又は1μm以下であり、また、0.05μm以上又は0.1μm以上であることが好ましい。ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径が2μm以下であることで、焼結体の強度が高くなりやすい。ジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径の上限及び下限は、それぞれ、上述のいずれの組合せであってもよい。
【0052】
本実施形態において、ジルコニアの平均結晶粒径は、本実施形態の焼結体の走査型顕微鏡(以下、「SEM」ともいう。)観察図で観察されるジルコニアの結晶粒子を200個以上(250±10個)を抽出し、抽出した結晶粒子の結晶径をインターセプト法で求め、その平均値として求めることができる。
【0053】
本実施形態の焼結体は着色安定化ジルコニア以外に、アルミニウム酸化物及び着色スピネル化合物、を含む焼結体、であり、着色安定化ジルコニアの結晶粒子、アルミウム酸化物の結晶粒子及び着色スピネル化合物の結晶粒子から構成される焼結体である。着色安定化ジルコニアと独立した結晶粒子としてアルミニウム酸化物及び着色スピネル化合物を含有することにより、焼結体が、鮮明な緑色の色調を呈し、かつ焼結体で劣化による退色が生じにくい焼結体、となる。
【0054】
本実施形態の焼結体は、鮮明な緑色の色調を呈するジルコニア焼結体である。鮮明な緑色の色調として、L表色系における、明度Lが50以上90以下であり、かつ、色相aが-20≦a≦2及び色相bが-20≦b*≦30であることが挙げられる。
【0055】
本実施形態において、色調はJIS Z8722の方法に準じた方法により測定することができ、一般的な分光測色計(例えば、CM-700d、コニカミノルタ社製)を使用した以下の条件により測定することができる。
【0056】
光源 : D65光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCI
背景 : 黒バック
本実施形態の焼結体は、140℃、24時間の水熱処理前後の色調の差△Eが、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、更に好ましくは1.0以下である。これにより、過酷な環境下にさらされても、視認される色調変化が非常に小さく、目視による色調の変化として認識されにくくなる。色調差△Eは以下の式で求めることができる。△Eは低いことが好ましいが、0以上又は0.1以上であることが例示できる。また、色調差△Eの上限及び下限は、それぞれ、上述のいずれの組合せであってもよい。
【0057】
△E={(L -L +(a -a
+(b -b 0.5
上記式において、L 、a 及びb 、並びに、L 、a 及びb は、それぞれ、140℃で24時間水熱処理前後の焼結体表面の明度L、色相a及びbである。
【0058】
本実施形態の焼結体は、外装部材等、用途毎で要求される強度を有していればよく、例えば、三点曲げ強度が800MPa以上又は1000MPa以上であることが挙げられる。強度は高いことが好ましいが、2000MPa以下又は1800MPa以下であることが例示できる。三点曲げ強度の上限及び下限は、それぞれ、上述のいずれの組合せであってもよい。
【0059】
本実施形態における三点曲げ強度は、JIS R 1601に準じた方法により測定することができる。
【0060】
次に、本実施形態の焼結体の製造方法について説明する。
【0061】
上記の構成を満たす焼結体が得られれば、本実施形態の焼結体の製造方法は任意である。好ましい製造方法として、ジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素源を0.2質量%以上5質量%以下、アルミニウム源を0.5質量%以上25質量%以下、着色元素源を0.03質量%以上8質量%以下含み、安定化元素含有ジルコニア源を含む粉末組成物を成形する成形工程、及び、該成形工程で得られる成形体を1380℃以上1580℃以下で焼結する焼結工程、を有する焼結体の製造方法が挙げられる。
【0062】
成形工程に供する粉末組成物は、ジルコニウムの原子半径を超えるイオン半径を有するランタノイド元素源(以下、「固溶ランタノイド元素源」という。)を0.2質量%以上5質量%以下、アルミニウム源を0.5質量%以上25質量%以下、着色元素源を0.03質量%以上8質量%以下含み、安定化元素含有ジルコニア源を含む粉末組成物、である。
【0063】
粉末組成物が含む、固溶ランタノイド元素源等の各原料は、目的とする焼結体の組成と同様な種類及び組成であればよく、また、粉末として含まれていればよい。
【0064】
固溶ランタノイド元素源として、固溶ランタノイド元素を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、酢酸塩及び硝酸塩の群から選ばれる1以上であればよく、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び塩化物の群から選ばれる1以上であることが好ましく、酸化物、水酸化物及び塩化物の群から選ばれる1以上であることがより好ましく、酸化物であることが更に好ましい。
【0065】
固溶ランタノイド元素源に含まれる固溶ランタノイド元素は、プラセオジム、ネオジム、ユーロビウム、テルビウム、ホロニウム及びエルビウムの群から選ばれる1以上、更にはプラセオジム、ネオジム及びテルビウムの群から選ばれる1以上、また更にはテルビウムが挙げられる。
【0066】
アルミニウム源は、アルミナ(Al)又はその前駆体となるアルミニウム化合物末であればよく、アルミナ、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム及び塩化アルミニウムからなる群の少なくとも1種を挙げることができ、アルミナであることが好ましく、α-アルミナであることがより好ましい。
【0067】
アルミニウム酸化物粉末のBET比表面積は5m/g以上20m/g以下であることが好ましい。
【0068】
着色元素源として、着色元素を含む酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物、ハロゲン化物、硫酸塩、酢酸塩及び硝酸塩の群から選ばれる1以上であればよく、酸化物、水酸化物、オキシ水酸化物及び塩化物の群から選ばれる1以上であることが好ましく、酸化物、水酸化物及び塩化物の群から選ばれる1以上であることがより好ましく、酸化物であることが更に好ましい。
【0069】
着測元素源に含まれる着色元素は、アルミニウムとスピネル化合物を形成する着色元素であればよく、ジルコニウムの原子半径より小さいイオン半径を有する元素であることが好ましく、ジルコニウムの原子半径より小さいイオン半径を有し、なおかつ、アルミニウム原子のイオン半径より大きいイオン半径を有する元素であることがより好ましく、ハフニウム及びジルコニウム以外の遷移金属元素であることが更に好ましく、3d遷移金属元素であることが更により好ましく、マンガン、鉄、ニッケル及びコバルトの群から選ばれる1以上であることが特に好ましい。
【0070】
安定化元素含有ジルコニア源は、2mol%以上15mol%未満のイットリウムを含有するジルコニアであることが好ましい。
【0071】
安定化元素含有ジルコニア粉末のBET比表面積は5m/g以上20m/g以下であることが好ましい。また、安定化元素含有ジルコニア粉末のジルコニアの結晶相は、ジルコニアの結晶相に対して正方晶ジルコニアの割合が50%以上であることが好ましい。
【0072】
安定化元素含有ジルコニア源は、安定化元素含有ジルコニアに加え、又は、安定化元素含有ジルコニアに代わり、安定化元素含有ジルコニア、並びに、安定化元素源及びジルコニア源の少なくともいずれかを含む混合粉末であればよい。
【0073】
安定化元素源としてイットリアが挙げられる。
【0074】
粉末組成物は、上述の各原料を均一な状態で含むことが好ましい。
【0075】
焼結工程に供する成形体は目的とする焼結体の形状及び焼結による熱収縮を考慮した任意の形状であればよい。成形体の形状として、例えば、円板状、柱状、板状、球状及び略球状の群から選ばれる1種以上が挙げられる。
【0076】
成形工程における成形方法は、粉末組成物を所望の形状に成形できる方法であればよい。成形方法として例えば、一軸プレス、冷間静水圧プレス、スリップキャスティング及びインジェクションモールディングの群から選ばれる1種以上、更には一軸プレス及び冷間静水圧プレスの少なくともいずれかが挙げられる。
【0077】
焼結工程では、成形体を1380℃以上1580℃以下で焼結する。固溶ランタノイド元素が安定化元素含有ジルコニアに安定的に固溶し、かつアルミニウム酸化物粉末を核とし、これにジルコニウム原子よりイオン半径が小さい着色元素の酸化物が反応し着色スピネル化合物が生成する。
【0078】
焼結温度は1400℃以上1550℃以下であることが好ましい。
【0079】
着色スピネル化合物が安定して得られれば焼結方法は任意であり、例えば、常圧焼結、ホットプレス法及び熱間静水圧プレス(以下、「HIP」ともいう。)法の群から選ばれる1以上を挙げることができる。好ましい焼結方法として、常圧焼結、更には大気雰囲気の常圧焼結が挙げられる。なお、常圧焼結とは焼結時に成形体に対して外的な力を加えず単に加熱することにより焼結する方法である。
【0080】
焼結時間は、焼結方法及び焼結温度に合わせて任意の範囲とすることができ、例えば、1時間以上5時間以下、更には2時間以上4時間以下を挙げることができる。
【0081】
焼結工程において、常圧焼結後の焼結体にHIPを施してもよく、常圧焼結後のHIP条件として、アルゴン又は窒素雰囲気下、50MPa以上200MPa以下で1400℃以上1550℃以下、30分以上4時間以下が挙げられる。
【0082】
本実施形態の製造方法は、焼結体を研磨する研磨工程及び形状を加工する加工工程の少なくともいずれかを含んでいてもよい。研磨工程は、焼結後の焼結体の表面を研磨する。研磨により、表面に光沢感を付与する等、目的とする用途に適した表面状態を有する焼結体とすることができる。加工工程は、焼結体を任意の形状に加工する。これにより、焼結体を用途に応じた形状とすることができる。研磨工程及び加工工程は、いずれを先に行ってもよい。
【実施例0083】
以下、実施例により本実施形態を具体的に説明する。しかしながら、本実施形態はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0084】
(色調の測定)
JIS Z8722に準じた方法により、焼結体試料の色調を測定した。測定には、一般的な分光測色計(装置名:CM-700d、コニカミノルタ社製)を用いた。測定条件は以下のとおりである。
【0085】
光源 : D65光源
視野角 : 10°
測定方式 : SCI
背景 : 黒バック
焼結体試料は、直径20mm×厚さ2.7mmの円板形状のもの使用した。焼結体試料の表面を両面から研削し、1.0mmの厚みにした上で鏡面研磨処理を行った表面を評価面とし、色調を評価した。色調評価有効面積は直径10mmを採用した。 (曲げ強度)
曲げ試験は、JIS R 1601『ファインセラミックスの曲げ強さ試験方法』に基づき3点曲げ試験により測定した。測定は10回行い、その平均値をもって3点曲げ強度とした。測定は、幅4mm、厚さ3mmの柱形状の焼結体試料を用い、支点間距離30mmとして実施した。
【0086】
(焼結体密度)
JIS R 1634(ファインセラミックスの焼結体密度・開気孔率の測定方法)に準拠した測定法により焼結体の実測密度を測定し、焼結体密度とした。
【0087】
(平均結晶粒径)
焼結体試料のジルコニアの結晶粒子の平均結晶粒径はインターセプト法により測定した。鏡面研磨した後の焼結体試料を熱エッチングし、その表面を走査型顕微鏡にて20,000倍で観察した。得られたSEM観察図からインターセプト法(k=1.78)によりジルコニアの結晶粒子の平均粒子径を測定した。測定したジルコニアの結晶粒子の粒子数は200個以上とした。
【0088】
(水熱処理)
140℃、24hrの条件で水熱処理を行ったこと以外は、ISO 13356に準拠し、焼結体の水熱処理を実施した。単斜晶率は、水熱処理した焼結体についてXRD測定を行い、以下の式を用いて求めた。
単斜晶率(%)=[I(111)+I(11-1)]×100/[I(111)+I
(11-1)+I(111)+I(111)
ただし、上記式において、Iは各結晶面に相当するXRDピークの面積強度、添字m、t及びcはそれぞれ単斜晶、正方晶及び立方晶を示す。
【0089】
XRD測定は一般的なX線回折装置(商品名:UltimaIIV、リガク社製)を使用して行い、水熱処理した焼結体のXRDパターンを得た。XRD測定の条件は以下のとおりである。
【0090】
線源 : CuKα線(λ=0.15418nm)
測定モード : 連続スキャン
スキャンスピード : 4°/分
ステップ幅 : 0.02°
測定範囲 : 2θ=26°~33°
上述のXRDパターン測定において、ジルコニアの各結晶面に相当するXRDピークは、以下の2θにピークトップを有するピークとした。
【0091】
単斜晶ジルコニアの(111)面に相当するXRDピーク : 2θ=31±0.5°
単斜晶ジルコニアの(11-1)面に相当するXRDピーク: 2θ=28±0.5°
正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアの(111)面に相当するRDピークは重複して測定され、そのピークトップの2θは、2θ=30±0.5°である。
【0092】
各結晶面のXRDピークの面積強度は、SmartLab Studio II(リガク)上で求めた。
【0093】
また水熱処理した焼結体に対し、上記と同様の方法で色調を測定し、得られた水熱処理前後の焼結体の色調を基に、以下の式を用いて水熱処理前後の色調差△E求めた。
【0094】
色調差△E={(L -L +(a -a
+(b -b 0.5
ただし、上記式において、L 、a 及びb は、140℃で24時間水熱処理前の焼結体表面の、L 、a 及びb は、140℃で24時間水熱処理後の焼結体表面の、明度L、色相a及びbである。
【0095】
実施例1
3mol%イットリウム含有ジルコニア粉末(BET比表面積:6.8m/g、東ソー社製)、高純度アルミナ粉末(BET比表面積:7.0m/g、住友化学製)、酸化ニッケル(NiO)粉末(和光純薬製)、及び酸化テルビウム(高純度化学製)を混合し、以下の組成を有する混合粉末を得た。混合はボールミルによる湿式混合とした。混合後した後、大気中、115±15℃で、乾燥して混合粉末を得た。
【0096】
Al : 5.0質量%
NiO : 3.0質量%
Tb : 0.2質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
混合粉末を一軸成形圧1000kg/cmで圧縮成形し成形体とし、当該成形体を焼結することで本実施例の焼結体を得た。焼結は、電気炉を使用し、大気中、昇温速度100℃/時間、焼結温度1450℃、焼結時間2時間で行った。これにより、イットリウム安定化ジルコニアに酸化テルビウムを固溶させ、かつ、スピネル構造を有したニッケルアルミニウム複合酸化物を生成させた。
【0097】
得られたテルビウム及びイットリウム固溶ジルコニア(着色ジルコニア相)をマトリックスとし、ニッケルアルミニウム複合酸化物(着色スピネル化合物)を含む焼結体を本実施例の焼結体とした。本実施例の焼結体は、アルミニウム含有量が5.0質量%、ニッケル含有量が3.0質量%であり、なおかつ、ジルコニアのテルビウム含有量は0.14mol%、及び、イットリア含有量は3.0mol%であった。
【0098】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、鮮明な緑色を呈しており、3点曲げ強度は1117MPaであった。
【0099】
実施例2
以下の組成を有する混合粉末を得たこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、テルビウム及びイットリウム固溶ジルコニア(着色ジルコニア相)をマトリックスとし、ニッケルアルミニウム複合酸化物(着色スピネル化合物)を含む焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
【0100】
Al : 5.0質量%
NiO : 0.2質量%
Tb : 2.0質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
本実施例の焼結体は、アルミニウム含有量が5.0質量%、ニッケル含有量が0.2質量%であり、なおかつ、ジルコニアのテルビウム含有量は1.4mol%、及び、イットリア含有量は3.0mol%であった。
【0101】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、鮮明な緑色を呈しており、3点曲げ強度は1229MPaであった。
【0102】
実施例3
以下の組成を有する混合粉末を得たこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、テルビウム及びイットリウム固溶ジルコニア(着色ジルコニア相)をマトリックスとし、ニッケルアルミニウム複合酸化物(着色スピネル化合物)を含む焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
【0103】
Al : 5.0質量%
NiO : 3.0質量%
Tb : 2.0質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
本実施例の焼結体は、アルミニウム含有量が5.0質量%、ニッケル含有量が3.0質量%であり、なおかつ、ジルコニアのテルビウム含有量は1.4mol%、及び、イットリウム含有量は3.0mol%であった。
【0104】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、鮮明な緑色を呈してしており、3点曲げ強度は1003MPaであった。
【0105】
実施例4
以下の組成を有する混合粉末を得たこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、テルビウム及びイットリウム固溶ジルコニア(着色ジルコニア相)をマトリックスとし、ニッケルアルミニウム複合酸化物(着色スピネル化合物)を含む焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
【0106】
Al : 0.5質量%
NiO : 1.0質量%
Tb : 1.0質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
本実施例の焼結体は、アルミニウム含有量が0.5質量%、ニッケル含有量が1.0質量%であり、なおかつ、ジルコニアのテルビウム含有量は0.7mol%、及び、イットリア含有量は3.0mol%であった。
【0107】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、鮮明な緑色を呈していることを確認した。
【0108】
実施例5
以下の組成を有する混合粉末を得たこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、テルビウム及びイットリウム固溶ジルコニア(着色ジルコニア相)をマトリックスとし、ニッケルアルミニウム複合酸化物(着色スピネル化合物)を含む焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
【0109】
Al : 2.0質量%
NiO : 0.5質量%
Tb : 1.5質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
本実施例の焼結体は、アルミニウム含有量が2.0質量%、ニッケル含有量が0.5質量%であり、なおかつ、ジルコニアのテルビウム含有量は1.0mol%、及び、イットリア含有量は3.0mol%であった。
【0110】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、鮮明な緑色を呈していることを確認した。
【0111】
実施例6
以下の組成を有する混合粉末を得たこと、及び、焼結温度を1450℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、テルビウム及びイットリウム固溶ジルコニア(着色ジルコニア相)をマトリックスとし、ニッケルアルミニウム複合酸化物(着色スピネル化合物)を含む焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
【0112】
Al : 0.5質量%
NiO : 1.0質量%
Tb : 2.0質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
本実施例の焼結体は、アルミニウム含有量が0.5質量%、ニッケル含有量が1.0質量%であり、なおかつ、ジルコニアのテルビウム含有量は1.4mol%、及び、イットリア含有量は3.0mol%であった。
【0113】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、鮮明な緑色を呈していることを確認した。
【0114】
実施例7
以下の組成を有する混合粉末を得たこと、及び、焼結温度を1500℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、テルビウム及びイットリウム固溶ジルコニア(着色ジルコニア相)をマトリックスとし、ニッケルアルミニウム複合酸化物(着色スピネル化合物)を含む焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
【0115】
Al : 20質量%
NiO : 3.0質量%
Tb : 2.5質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
本実施例の焼結体は、アルミニウム含有量が20質量%、ニッケル含有量が3.0質量%であり、なおかつ、ジルコニアのテルビウム含有量は1.7mol%、及び、イットリア含有量は3.0mol%であった。
【0116】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、鮮明な緑色を呈していることを確認した。
【0117】
実施例8
以下の組成を有する混合粉末を得たこと、及び、焼結温度を1500℃としたこと以外は実施例1と同様な方法で、テルビウム及びイットリウム固溶ジルコニア(着色ジルコニア相)をマトリックスとし、ニッケルアルミニウム複合酸化物(着色スピネル化合物)を含む焼結体を得、これを本実施例の焼結体とした。
【0118】
Al : 20質量%
NiO : 2.0質量%
Tb : 2.0質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
本実施例の焼結体は、アルミニウム含有量が20質量%、ニッケル含有量が2.0質量%であり、なおかつ、ジルコニアのテルビウム含有量は1.4mol%、及び、イットリア含有量は3.0mol%であった。
【0119】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、鮮明な緑色を呈していることを確認した。
【0120】
比較例1
3mol%イットリウム含有ジルコニア粉末(BET比表面積:6.8m/g、東ソー社製)、及び酸化ニッケル(NiO)粉末(和光純薬製)を混合し、以下の組成を有する混合粉末を得た。混合はボールミルによる湿式混合とした。混合後した後、大気中、115±15℃で、乾燥して混合粉末を得た。
【0121】
NiO : 3.0質量%
3mol%Y含有ZrO : 残部
混合粉末を一軸成形圧1000kg/cmで圧縮成形し成形体とし、当該成形体を焼結することで本実施例の焼結体を得た。焼結は、電気炉を使用し、大気中、昇温速度100℃/時間、焼結温度1500℃、焼結時間2時間で行った。これにより、ニッケル及びイットリウム固溶ジルコニアの焼結体を得、これを本比較例の焼結体とした。
【0122】
本比較例の焼結体は、ニッケル含有量が5.0質量%であり、なおかつ、イットリア含有量は3.0mol%であった。
【0123】
得られた焼結体の研磨面を目視にて観察した結果、緑色を呈していたが、水熱処理後のサンプルは単斜晶率69%となり表面性状は悪くなっており、色調も劣化前と変動している事が確認できた。
【0124】
これらの実施例及び比較例の評価結果を表1及び2に示す。
【0125】
【表1】
表1より、本実施例の焼結体は、水熱処理後の単斜晶率が25%以下であることが確認できる。
【0126】
【表2】
表2より、本実施例の焼結体は、水熱処理前後の色調差△Eは1.0以下であり、目視による色調変化は確認できなかった。これより、本実施例の焼結体は、過酷な環境下においても審美性を損なわず鮮明な緑色を呈することが確認できる。
【産業上の利用可能性】
【0127】
本実施形態のジルコニア焼結体は、高密度でなおかつ耐久性を有し、使用により劣化した場合であっても安定した色相を呈する審美性に優れた焼結体であり、傷のつかない高級感のある宝飾品、装飾部材等の部材、例えば、時計部品、携帯用電子機器の外装部品等の様々な部材へ利用することができる。