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  • 特開-細胞培養基材 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178108
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】細胞培養基材
(51)【国際特許分類】
   C12M 3/00 20060101AFI20231207BHJP
【FI】
C12M3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091177
(22)【出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】久野 豪士
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA01
4B029BB11
4B029CC02
4B029DF10
4B029GA03
(57)【要約】
【課題】細胞凝集塊を形成可能であるとともに、紫外線による細胞へのダメージを低減可能であり、細胞の視認性に優れる細胞培養基材及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を被覆する高分子層とを備える細胞培養基材であって、前記高分子は細胞接着性又は細胞増殖性を有しないものであり、前記細胞培養基材は下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、JIS K 7373:2006で規定される黄色度が10~100である、細胞培養基材。
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mmの島状の領域
(B)前記(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を被覆する高分子層とを備える細胞培養基材であって、前記高分子は細胞接着性又は細胞増殖性を有しないものであり、前記細胞培養基材は下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、JIS K 7373:2006で規定される黄色度が10~100である、細胞培養基材。
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mmの島状の領域
(B)前記(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
【請求項2】
前記(A)領域と前記(B)領域の境界における凹凸高さは1~50000nmである、請求項1に記載の細胞培養基材。
【請求項3】
前記高分子が、下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、又は下記一般式(3)で表される化合物のいずれかを含む、請求項1又は2に記載の細胞培養基材。
【化1】
[一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は任意の有機基を示し、m及びnはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【化2】
[一般式(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は任意の有機基を示し、x、y及びzはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【化3】
[一般式(3)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R10は水素原子又は任意の有機基を示し、a及びbはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【請求項4】
前記(A)領域の面積が、0.005~0.2mmであり、
前記(A)領域の数が、前記(A)領域及び前記(B)領域の合計面積を基準として、200~1000個/cmである、請求項1~3のいずれか一項に記載の細胞培養基材。
【請求項5】
前記(A)領域の面積が、0.2~2mmであり、
前記(A)領域の数が、前記(A)領域及び前記(B)領域の合計面積を基準として、3~15個/cmである、請求項1~4のいずれか一項に記載の細胞培養基材。
【請求項6】
前記(A)領域同士の最小距離が、500~10000μmである、請求項1~5のいずれか一項に記載の細胞培養基材。
【請求項7】
前記基材の屈折率が1.5~1.6、厚みが0.5mm以下、励起波長350nm、488nm、647nmにおける前記基材の蛍光強度が、同励起波長における厚み1.2mmのポリスチレンの蛍光強度よりも小さなものであることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項に記載の細胞培養基材。
【請求項8】
(1)黄色度が10未満の基材の表面に、黄色度が10以上の物質を塗布する工程、
(2)前記基材の表面の一部に細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を被覆することで、前記(A)領域及び前記(B)領域を形成する工程、
(3)基材面内方向の断面積が0.05~100cmの貫通孔を有する容器を、前記基材と貼り合わせる工程
を備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の細胞培養基材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞塊形成用の細胞培養基材及び該細胞培養基材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
胚性幹細胞(ES細胞)や人工多能性幹細胞(iPS細胞)などの多能性幹細胞は、生体の様々な組織に分化する能力(分化万能性)を持つ細胞であり、再生医療分野や創薬スクリーニングのための細胞ソースとして大きな注目が寄せられている。多能性幹細胞を再生医療や創薬スクリーニングに応用するには、多能性幹細胞から目的の細胞へと分化させる必要があるが、その際、多能性幹細胞の細胞凝集塊を形成する必要がある。また、多能性幹細胞は様々な細胞へと分化することができるが、分化後の細胞の種類によって最適な細胞凝集塊のサイズが異なることが知られており、サイズを制御し、更にサイズの均一な細胞凝集塊を作成することが望ましい。
【0003】
細胞凝集塊を形成する方法として従来、多能性幹細胞が接着しない基材を用いることで多能性幹細胞に自発的に凝集体を形成させる方法が知られている(例えば、特許文献1参照。)。この方法は細胞凝集塊の量産性に優れるものの、均一なサイズの細胞凝集塊を得ることができないという問題があった。サイズの均一な細胞凝集塊を形成する方法として、表面に微細な凹凸を設けた細胞培養基材を使用する方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、細胞塊を培養する際、クリーンベンチと呼ばれる無菌空間を形成可能な装置を使用する。クリーンベンチはその内部を紫外線照射して滅菌する機能を備えている。細胞も紫外線に対する耐性は低く、クリーンベンチの誤操作で細胞が紫外線にさらされると、培養した細胞塊が死滅してしまう。また、培養した細胞塊を評価する際、位相差顕微鏡や蛍光顕微鏡で細胞塊を観察するが、顕微鏡の光源に水銀灯が使用されている場合は紫外線を含むため、長時間の細胞塊の観察によって細胞がダメージを受ける場合がある。紫外線を防ぐためには一般には、酸化チタン等のフィラーを樹脂に混合するが、このようなフィラーを混合した白色の容器の場合、位相差顕微鏡での細胞観察が困難になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8-140673号公報
【特許文献2】特開2015-073520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に開示されるような微細な凹凸を設けた細胞培養基材は量産性に乏しく、大量の細胞凝集塊を形成する用途には不向きであるという問題があった。また、特許文献2に開示されるような細胞培養基材は一般に無色透明なものであり、紫外線を吸収する能力に乏しく、細胞を紫外線から保護することができないという問題があった。
【0007】
本発明の課題は、細胞凝集塊を形成可能であるとともに、紫外線による細胞へのダメージを低減可能であり、細胞の視認性に優れる細胞培養基材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を被覆する高分子層とを備える細胞培養基材であって、前記高分子は細胞接着性又は細胞増殖性を有しないものであり、前記細胞培養基材は下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、JIS K 7373:2006で規定される黄色度が10~100である、細胞培養基材に関する。
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mmの島状の領域
(B)前記(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない領域
【0009】
本発明はまた、(1)黄色度が10未満の基材の表面に、黄色度が10以上の物質を塗布する工程、(2)前記基材の表面の一部に細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を被覆することで、前記(A)領域及び前記(B)領域を形成する工程、(3)基材面内方向の断面積が0.05~100cmの貫通孔を有する容器を、前記基材と貼り合わせる工程を備える、細胞培養基材の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、細胞凝集塊を形成可能であるとともに、紫外線による細胞へのダメージを低減可能な細胞培養基材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態に係る細胞培養基材の模式図(断面図)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、上述した効果が得られる範囲内で以下の実施形態を変形して実施することができる。
【0013】
本明細書において、「細胞凝集塊」とは、複数の細胞が集まって形成される細胞の三次元凝集塊を意味する。三次元凝集塊の形状は、球状等の楕円体の形状であってもよく、半球状等の形状であってもよい。これらの形状は、シート状の細胞が折りたたまれることで形成される隙間のある形状であってもよく、中空の形状であってもよい。
【0014】
本明細書において、「生体由来物質」とは、生物の体内に存在する物質、及び当該物質と同等の物質であって、化学的に合成した物質を意味する。生物の体内に存在する物質は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよい。生体由来物質に特に限定はないが、例えば、生体を構成する基本材料である核酸、タンパク質及び多糖、及びこれらの構成要素であるヌクレオチド、ヌクレオシド、アミノ酸、及び各種の糖、並びに脂質、ビタミン及びホルモンが挙げられる。
【0015】
本明細書において、「細胞接着性」とは、培養温度における基材又は細胞培養基材への接着しやすさを示し、「細胞接着性を有する」とは、細胞が培養温度において基材又は細胞培養基材に直接又は生体由来物質を介して接着可能であることを示す。また、「細胞接着性を有しない」とは、培養温度において細胞が基材又は細胞培養基材に接着できないことを示す。
【0016】
本明細書において、「細胞増殖性」とは、培養温度における細胞の増殖しやすさを示し、「細胞増殖性を有する」とは、培養温度において細胞が増殖可能であることを示す。また、「細胞増殖性を有しない」とは、培養温度において細胞が増殖できないことを示す。「細胞増殖性が高い」とは、同一の培養期間で比較した際により多くの細胞へと増殖することを示す。
【0017】
本実施形態に係る細胞培養基材は、基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を被覆する高分子層と、を備える。ここで、前記高分子は細胞接着性又は細胞増殖性を有しないものである。また、本実施形態に係る細胞培養基材は、下記(A)領域及び下記(B)領域を有し、かつJIS K 7373:2006で規定される黄色度が10以上である。
(A)細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mmの島状の領域
(B)(A)領域に隣接し、細胞増殖性を有しない領域
【0018】
図1は、一実施形態に係る細胞培養基材の模式図(断面図)である。図1に示す細胞培養基材10は、基材1と、基材1の表面を被覆する細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層2を備える。図1中、A及びBは、それぞれ(A)領域及び(B)領域を示す。また、図1中、Hは(A)領域と(B)領域の境界における凹凸高さを示す。なお、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層2の層厚とは、基材1と細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層2が接する面から、(B)領域(図1中、Bで示す領域)の面までの距離を意味する。また、図1に示す細胞培養基材10は、(A)領域の表面が細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層となっているが、これに限られるものではなく、例えば、(A)領域の表面が基材1となっていてもよい。また、層2が複数の物質から構成される場合、層2は表面が細胞接着性又は細胞増殖性を有しないものとなっていればよく、層2の内面の状態は任意に選択可能である。
【0019】
本実施形態に係る細胞培養基材に用いられる基材としては、特に限定はないが、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、セルロースアセテート、ニトロセルロース及びポリフッ化ビニリデンからなる群から選択される少なくとも1種類から形成されるものであることが好ましく、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネートからなる群から選択される少なくとも1種類から形成されるものであることがより好ましく、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート及びポリカーボネートから選択される少なくとも1種類から形成されるものであることが更に好ましく、ポリスチレンから形成されるものであることが最も好ましい。
細胞培養基材上で培養した細胞を高倍率の位相差顕微鏡で観察するのに好適であることから、D線(波長589nm)で測定した基材の屈折率が1.4~1.6が好ましく、1.45~1.6がさらに好ましく、1.5~1.6が特に好ましい。基材の屈折率が前記範囲にあることで細胞の位相差顕微鏡観察における球面収差を小さくすることができ、明瞭な位相差像を得ることができる。また、球面収差を小さくするため、基材の厚みは0.5mm以下が好ましく、0.4mm以下がさらに好ましく、0.3mm以下が特に好ましく、0.2mm以下が最も好ましい。一方、顕微鏡観察時に基材がたわむことで観察範囲全体にピントが合わなくなることを抑制するのに好適であることから、基材の厚みは0.01mm以上が好ましく、0.05mm以上がさらに好ましく、0.1mm以上が特に好ましく、0.15mm以上が最も好ましい。
細胞培養基材上で培養した細胞を高倍率の蛍光顕微鏡で観察するのに好適であることから、励起波長350nm、488nm、647nmにおける前記基材の蛍光強度が、同励起波長における厚み1.2mmのポリスチレンの蛍光強度よりも小さなものであることが好ましく、厚み1.2mmのポリスチレンの蛍光強度の80%以下がさらに好ましく、厚み1.2mmのポリスチレンの蛍光強度の50%以下が特に好ましく、厚み1.2mmのポリスチレンの蛍光強度の10%以下が最も好ましい。励起波長350nm、488nm、647nmの蛍光色素は細胞の蛍光観察において頻用されることから、これらの波長における基材の自家蛍光強度が一定値以下であることで、細胞の明瞭な蛍光像を得ることができる。
【0020】
基材の形状としては、特に制限はなく、板、フィルムのような平面形状であってもよいし、ファイバー、多孔質粒子、多孔質膜、中空糸等の形状であってもよい。また、基材の形状は、一般に細胞培養等に用いられる容器(ペトリ皿等の細胞培養皿、フラスコ、プレート、バッグ等)の形状であってもよい。培養操作の容易性から、基材の形状は、板、フィルムのような平面形状、又は平膜の多孔質膜の形状であることが好ましい。
【0021】
細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層の層厚は、5~20000nmが好ましい。細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子による層の層厚が5~20000nmであることにより、(A)領域のみに細胞を接着及び増殖させることが可能であり、また、細胞の遊走により(A)領域に細胞を集めやすく、細胞凝集塊の細胞生存率を高めることができる。ここで、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子による層の「層厚」とは、基材と細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子による層の界面から、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子による層の基材とは逆側の界面((A)領域を除く。)までの面外方向の長さを示す。層厚が10nmを超える範囲ではミクロトームにより作製した細胞培養基材の超薄切片を用いて断面像を透過型電子顕微鏡によって測定し、無作為に選んだ10点の該距離を測定し、平均することで算出することができる。また、層厚が10nm以下の範囲ではエリプソメーターを用いて測定することができる。(B)領域に細胞が接着するのを抑制するのに好適であるため、層厚が10nm以上であることがより好ましく、50nm以上であることが更に好ましく、100nm以上であることが最も好ましい。また、細胞の遊走により(A)領域に細胞を集めることで細胞凝集塊の細胞生存率を高めるのに好適であることから、層厚が10000nm以下であることがより好ましく、5000nm以下であることが更に好ましく、2000nm以下であることが最も好ましい。
【0022】
細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子は、ホスホリルコリン基又は水酸基を含むことが好ましい。細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子がホスホリルコリン基又は水酸基を含むことにより、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子が被覆された領域を様々な種類の細胞に対して、細胞が接着しない領域とすることが可能である。細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子の種類に特に限定はないが、ホスホリルコリン基又は水酸基を含む市販品としては例えば、Lipidure(R)CM5206(日油(株)製)、Lipidure(R)CM2001(日油(株)製)、BIOSURFINE(R)-AWP(東洋合成工業(株)製)等を挙げることができる。
【0023】
細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子は下記一般式(1)で表される化合物、下記一般式(2)で表される化合物、又は下記一般式(3)で表される化合物を含むことが好ましい。
【0024】
【化1】

[一般式(1)中、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は任意の有機基を示し、m及びnはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【0025】
【化2】

[一般式(2)中、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、Rは水素原子又は任意の有機基を示し、x、y及びzはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【0026】
【化3】
[一般式(3)中、R、Rはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を示し、R10は水素原子又は任意の有機基を示し、a及びbはそれぞれ独立に正の整数を示す。]
【0027】
細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子が上記一般式(1)で表される化合物、上記一般式(2)で表される化合物、又は上記一般式(3)で表される化合物を含むことで、細胞を接着及び増殖させやすくなり、(A)領域において均一な形状の細胞凝集塊を形成させるのに好適である。上記一般式(1)、上記一般式(2)、又は上記一般式(3)において、R及びR、R10は、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を基材に固定化するのに好適であることから、疎水性基又はUV反応性の官能基であることが好ましい。疎水性基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、シクロヘキシル基等の直鎖又は環状アルキル基等を好適に用いることができる。また、UV反応性の官能基としては、アジド基、アクリレート基、メタクリレート基、エポキシ基等が挙げられ、アジド基を好適に用いることができる。
【0028】
(A)領域は、細胞接着性及び細胞増殖性を有する面積0.001~5mmの島状の領域である。面積0.001~5mmの島状の領域であることにより、細胞を培養した際に、均一粒径の細胞凝集塊を形成可能である。また、多能性幹細胞の分化誘導等の用途に適した細胞凝集塊を形成するのに好適であることから、面積0.005~1mmが好ましく、面積0.01~0.5mmがより好ましく、面積0.015~0.25mmが更に好ましく、面積0.02~0.2mmが最も好ましい。
【0029】
(A)領域が島状の領域であるとは、(A)領域が(A)領域以外の領域から独立した状態で存在していることを示す。(A)領域が細胞接着性及び細胞増殖性を有する島状であることにより、(A)領域に生細胞が集中して存在するようになるため、細胞凝集塊を製造することができる。(A)領域が島状ではない場合、例えば、ストライプ構造等の場合、細胞凝集塊が製造できない。島状の形状としては特に限定はなく、目的とする細胞凝集塊の形状に応じて適宜設定可能であるが、例えば、円、楕円、多角形、又は直線及び曲線で形成される閉じた形状等を挙げることができる。また、球に近い形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、島状の形状として、円、楕円又は多角形が好ましく、円、楕円又は長方形がより好ましく、円、楕円又は正方形が更に好ましく、円又は楕円が最も好ましい。
【0030】
均一なサイズ及び形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、(A)領域の面積の標準偏差/平均面積が80%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましく、20%以下であることが更に好ましく、5%以下であることが最も好ましい。
【0031】
球に近い形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、島状の形状のアスペクト比としては5以下が好ましく、2以下がより好ましく、1.5以下が更に好ましく、1.1以下が最も好ましい。ここで、「アスペクト比」とは、形状の最大径(長径)と最小径(短径)の比である長径/短径を示す。
【0032】
また、多能性幹細胞を培養して内胚葉細胞又は外胚葉細胞へと分化誘導するのに適した細胞凝集塊の形成に好適であるため、(A)領域の面積が0.005~0.2mmであり、かつ(A)領域の数が、(A)領域及び(B)領域の合計面積を基準として、200~1000個/cmであることが好ましく、(A)領域の面積が0.01~0.15mmであり、かつ(A)領域の数が、(A)領域及び(B)領域の合計面積を基準として、250~800個/cmであることがより好ましく、(A)領域の面積が0.02~0.1mmであり、かつ(A)領域の数が、(A)領域及び(B)領域の合計面積を基準として、300~600個/cmであることが更に好ましく、(A)領域の面積が0.03~0.05mmであり、かつ(A)領域の数が、(A)領域及び(B)領域の合計面積を基準として、300~400個/cmであることが最も好ましい。
【0033】
多能性幹細胞を培養して中胚葉細胞へと分化誘導するのに適した細胞凝集塊の形成に好適であるため、(A)領域の面積が、0.2~2mmであり、かつ(A)領域の数が、(A)領域及び(B)領域の合計面積を基準として、3~15個/cmであることが好ましく、(A)領域の面積が0.3~1.5mmであり、かつ(A)領域の数が、(A)領域及び(B)領域の合計面積を基準として、4~12個/cmであることがより好ましく、(A)領域の面積が0.4~1mmであり、かつ(A)領域の数が、(A)領域及び(B)領域の合計面積を基準として、5~10個/cmであることが更に好ましく、(A)領域の面積が0.5~0.7mmであり、かつ(A)領域の数が、(A)領域及び(B)領域の合計面積を基準として、6~8個/cmであることが最も好ましい。
【0034】
また、細胞の周囲の酸素濃度を高め、細胞凝集塊の生存率を高めるのに好適であることから、(A)領域同士の最小距離が、500~10000μmであることが好ましく、1000~8000μmであることがより好ましく、2000~5000μmであることが更に好ましく、3000~4000μmであることが最も好ましい。
【0035】
(A)領域は、例えば、基材表面に細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層を形成した後、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層の表面の一部をコロナ処理、UV処理又はプラズマ処理により改質することで形成することができる。当該改質は、プラズマ処理により行うことが好ましい。また、細胞接着性及び細胞増殖性を有する基材の表面の一部に、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を被覆することで(A)領域を形成することも可能である。
【0036】
また、(A)領域についてのXPS(X線光電子分光法)を測定した際の、C1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比が、(B)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比よりも0.05以上大きなものであることが好ましい。この場合、(A)領域と(B)領域との細胞増殖性の差を大きくすることができるため、(A)領域で多くの細胞を増殖させることが可能であり、(A)領域において均一な細胞凝集塊を形成しやすくなる。均一な細胞凝集塊を形成するのにより好適であることから、(A)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比が、(B)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比よりも、0.07以上大きいことがより好ましく、0.1以上大きいことが更に好ましく、0.15以上大きいことが最も好ましい。
【0037】
XPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比を上述した範囲に調整する方法としては、特に限定はないが、基材表面に形成された細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層の一部((A)領域となる予定の部分)のみに、プラズマ処理、コロナ処理、UV処理等を施す方法が好ましく、プラズマ処理又はコロナ処理を施す方法が更に好ましく、プラズマ処理を施す方法が特に好ましい。(A)領域となる予定の部分のみにプラズマ処理等を施す方法としては、レーザー加工で作製したマスクで、基材表面に形成された細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層を被覆して、マスクの上からプラズマ処理等を施す方法が挙げられる。(A)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比と、(B)領域についてのXPS測定のC1sスペクトルにおける287eVのピーク強度/285eVのピーク強度の比との差が上述した範囲に収まるように、プラズマ強度、プラズマ照射時間等の条件を適宜調整することが可能であるが、プラズマ処理の場合、導入ガスとして酸素及び窒素を含む気体を使用することで、上述した範囲に収まりやすくなる。
【0038】
(B)領域は、(A)領域に隣接し、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない。(B)領域が、(A)領域に隣接し、細胞増殖性を有しない領域であると、細胞を培養した際に、(A)領域のみに細胞凝集塊を形成し、(A)領域の一部又は全部の周囲に細胞が存在しない状態を形成することが可能である。また、製造される細胞凝集塊のサイズ及び形状を均一化するのに好適であることから、(B)領域が細胞増殖性だけでなく細胞接着性も有しないものであることが好ましい。
【0039】
(B)領域の形状としては、(A)領域に隣接すること以外に限定はないが、均一なサイズ及び形状の細胞凝集塊を製造するのに好適であることから、(A)領域の境界線の20%以上の長さに(B)領域が隣接していることが好ましく、50%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、(A)領域の周囲が全て(B)領域であることが最も好ましい。また、細胞培養基材の量産性を高めるのに好適であることから、(A)領域が島状で(B)領域が海状の海島構造であることが好ましい。
【0040】
(A)領域及び(B)領域の面積比としては、特に限定はないが、細胞培養基材の単位面積当たりに製造可能な細胞凝集塊の数量を高めるのに好適であることから、(A)領域の面積が、(A)領域及び(B)領域の面積の合計に対して、10%以上であることが好ましく、30%以上がより好ましく、50%以上が更に好ましく、70%以上が最も好ましい。また、複数の(A)領域の間に十分な距離を設け、複数の(A)領域の細胞凝集塊が融合して不均一な形状となることを抑制するのに好適であることから、(B)領域の面積が、(A)領域及び(B)領域の面積の合計に対して、20%以上であることが好ましく、40%以上がより好ましく、60%以上が更に好ましく、80%以上が最も好ましい。
【0041】
(A)領域と(B)領域の境界における凹凸高さ((A)領域の面と(B)領域の面の面外方向の距離)は、1~50000nmが好ましい。凹凸高さが50000nm以下であることで、凹凸によって捕捉される死細胞の数を抑制し、細胞凝集塊に混入する死細胞の数を低減させることができる。これにより、細胞凝集塊の細胞生存率を高めることが可能である。また、凹凸高さが50000nm以下であれば、凹凸部分に気泡が付着しにくい。これにより、気泡を除去するために脱気を行ったりピペッターを用いて培地の吐出と吸引を繰り返したりする必要がなくなり、操作性が向上する。凹凸高さが1nm以上であることで、細胞培養基材上で自発的に移動(遊走)した生細胞が(A)領域に集まるため、細胞凝集塊の細胞生存率を高めることが可能である。形成される細胞凝集塊の細胞生存率を高めるのに好適であることから、凹凸高さ10000nm以下がより好ましく、2000nm以下が更に好ましく、500nm以下が最も好ましい。また、凹凸高さ50nm以上がさらに好ましく、100nm以上が特に好ましく、200nm以上が最も好ましい。
【0042】
本実施形態に係る細胞培養基材は、JIS K 7373:2006で規定される黄色度が10~100である。黄色度が10以上であることで、クリーンベンチ内で照射される紫外線を細胞培養基材が吸収するため、細胞へのダメージを抑制し、細胞塊の生存率を高めることができる。また、顕微鏡の光源に含まれる紫外線も同様に吸収するため、細胞にダメージを与えることなく長時間の細胞観察が可能である。さらに、黄色度が100以下であることで、位相差顕微鏡を用いた細胞の観察が容易となる。黄色度が10未満の場合、紫外線の吸収能に乏しく、細胞へのダメージを抑制することができない。黄色度が100を超える場合、位相差顕微鏡による細胞観察が困難となる。紫外線による細胞へのダメージを抑制するのに好適であることから、黄色度が20以上であることがさらに好ましく、30以上が特に好ましく、40以上が最も好ましい。また、顕微鏡での細胞観察を容易にするため、黄色度は90以下がさらに好ましく、80以下が特に好ましく、70以下が最も好ましい。
【0043】
細胞培養基材は、必要に応じて生体由来物質を含有する層を表面に備えていてもよい。生体由来物質を含有する層は、細胞培養基材の表面全体に存在していてもよく、(A)領域の表面のみに存在していてもよい。生体由来物質としては特に限定はないが、例えば、マトリゲル、ラミニン、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン等を挙げることができる。
【0044】
これら生体由来物質は、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、制限酵素等で切断した断片や、これら生体由来物質と同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチド等であってもよい。
【0045】
マトリゲルとしては、入手容易性から、市販品の、Matrigel(Corning Incorporated製)、Geltrex(Thermo Fisher Scientific製)等を好適に用いることができる。
【0046】
ラミニンの種類は特に限定されるものではないが、例えば、ヒトiPS細胞の表面に発現しているα6β1インテグリンに対して高活性を示すことが報告されているラミニン511、ラミニン521、ラミニン511-E8フラグメント等を用いることができる。ラミニンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、ラミニンと同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチドであってもよい。入手容易性から、市販品であるiMatrix-511((株)ニッピ製)等を好適に用いることができる。
【0047】
ビトロネクチンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、ビトロネクチンと同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチドであってもよい。入手容易性から、市販品である、ビトロネクチン,ヒト血漿由来(和光純薬工業(株)製)、synthemax(Corning Incorporated製)、Vitronectin(VTN-N)(Thermo Fisher Scientific製)等を好適に用いることができる。
【0048】
フィブロネクチンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、フィブロネクチンと同等の物質を化学的に合成した合成タンパク質又は合成ペプチドであってもよい。入手容易性から、市販品である、フィブロネクチン溶液、ヒト血漿由来(和光純薬工業(株)製)、Retronectin(タカラバイオ(株)製)等を好適に用いることができる。
【0049】
コラーゲンの種類は特に限定されるものではないが、例えば、typeIコラーゲンやtypeIVコラーゲン等を用いることができる。コラーゲンは、天然物であってもよく、遺伝子組み換え技術等で人工的に合成したものであってもよく、また、コラーゲンと同等の物質を化学的に合成した合成ペプチドであってもよい。入手容易性から、市販品である、コラーゲンI,ヒト(Corning Incorporated製)、コラーゲンIV,ヒト(Corning Incorporated製)等を好適に用いることができる。
【0050】
生体由来物質の変性を抑制することができ、細胞増殖性を高めることができる観点から、生体由来物質は非共有結合により細胞培養基材上に固定化されていることが好ましい。ここで、「非共有結合」とは、静電相互作用、水不溶性相互作用、水素結合、π-π相互作用、双極子-双極子相互作用、ロンドン分散力、その他のファンデルワールス相互作用等、分子間力に由来する共有結合以外の結合力を示す。生体由来物質のブロック共重合体への固定化は、単一の結合力によるものであっても、複数の組み合わせであってもよい。
【0051】
生体由来物質の固定化方法は特に限定されるものではないが、例えば、細胞培養基材に生体由来物質の溶液を所定時間塗布することで固定化させる方法や、細胞を培養する際に培養液中に生体由来物質を添加することで生体由来物質を細胞培養基材に吸着させ固定化する方法を好適に用いることができる。
【0052】
本実施形態に係る細胞培養基材は、必要に応じて、基材上に仕切り板(例えば、面内方向の断面積が0.05~100cmの貫通孔を有する容器)を設ける等により、各細胞凝集塊を区分するための構造を設けてもよい。
【0053】
本実施形態に係る細胞培養基材は、滅菌を施してあってもよい。滅菌の方法に特に限定はないが、高圧蒸気滅菌、UV滅菌、γ線滅菌、エチレンオキシドガス滅菌等を用いることができる。細胞培養基材の変性を抑制する観点からは、高圧蒸気滅菌、UV滅菌、エチレンオキシドガス滅菌が好ましい。基材の変形を抑制する観点からは、UV滅菌又はエチレンオキシドガス滅菌が更に好ましい。量産性に優れるという観点からは、エチレンオキシドガス滅菌が好ましい。
【0054】
本実施形態に係る細胞培養基材を用いて培養される細胞としては、特に限定されるものではない。例えばチャイニーズハムスター卵巣由来CHO細胞やマウス結合組織L929、ヒト胎児腎臓由来HEK293細胞やヒト子宮頸部癌由来HeLa細胞等の種々の株化細胞に加え、例えば生体内の各組織、臓器を構成する上皮細胞や内皮細胞、収縮性を示す骨格筋細胞、平滑筋細胞、心筋細胞、神経系を構成するニューロン細胞、グリア細胞、繊維芽細胞、生体の代謝に関与する肝実質細胞、肝非実質細胞や脂肪細胞、分化能を有する細胞として、間葉系幹細胞、骨髄細胞、Muse細胞のように種々の組織に存在する幹細胞、更にはES細胞、iPS細胞等の分化多能性を有する幹細胞(多能性幹細胞)、それらから分化誘導した細胞等が挙げられる。一実施形態に係る細胞培養基材における細胞の増殖性及び剥離性の観点から、幹細胞又は多能性幹細胞が好ましく、間葉系幹細胞又は多能性幹細胞がより好ましく、多能性幹細胞が更に好ましく、iPS細胞が最も好ましい。
【0055】
本実施形態に係る細胞培養基材は、例えば、下記工程(1)、工程(2)及び工程(3)を備える製造方法により製造することができる。この製造方法は、量産性に優れる。
工程(1)黄色度が10未満の基材の表面に、黄色度が10以上の物質を塗布する工程。
工程(2)前記基材の表面の一部に細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を被覆することで、前記(A)領域及び前記(B)領域を形成する工程。
工程(3)基材面内方向の断面積が0.05~100cmの貫通孔を有する容器を、前記基材と貼り合わせる工程。
【0056】
工程(1)では、黄色度が10未満の基材の表面に、黄色度が10以上の物質を塗布する。一般に入手可能な安価な無色透明の基材を用い、その表面に黄色度が10以上の物質を被覆することで、紫外線を吸収して細胞へのダメージを抑制可能な基材とすることができる。黄色度が10以上の物質を塗布する方法としては、特に限定はないが、例えば、はけ塗り、ディップコーティング、スピンコーティング、バーコーディング、流し塗り、スプレー塗装、ロール塗装、エアーナイフコーティング、ブレードコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、スロットダイコーティングなど通常知られている各種の方法を用いることができる。黄色度が10以上の物質としては、黄色度以外に特に限定はないが、カロテン等の色素を所望の範囲で混合したコーティング剤、黄色透明の高分子等を挙げることができる。
【0057】
工程(2)では、前記基材の表面の一部に細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を被覆することで、前記(A)領域及び前記(B)領域を形成する。細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を基材の表面の一部に被覆する方法としては、貫通孔を有する高分子フィルムを基材と貼り合わせる方法、インクジェット印刷、凸版印刷、凹版印刷、フォトリソグラフィー法等により基材表面の一部の領域に高分子を被覆する方法、基材表面の全面に高分子を被覆した後、コロナ処理やプラズマ処理により高分子の一部を除去する方法等を挙げることができる。
【0058】
工程(3)では、面内方向の断面積が0.05~100cmの貫通孔を有する容器を、基材と貼り合わせる。面内方向の断面積が0.05~100cmの貫通孔を有する板を基材と貼り合わせることにより、培地を入れるための空間を有するプレートを高い量産性で作製可能である。
【実施例0059】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
【0060】
<(A)領域の面積の測定>
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、製品名VK-X200)を用いて、細胞培養基材の表面の画像を取得した。得られた画像を使用して、解析ソフトVK-X Viewer上で20点の(A)領域の面積を求め、それらの面積を平均して(A)領域の面積とした。
【0061】
<(A)領域と(B)領域の境界における凹凸高さの測定>
レーザー顕微鏡(キーエンス(株)製、製品名VK-X200)を用いてレーザー走査モードにより、細胞培養基材の面外方向の厚みを測定することで、境界における凹凸高さを測定した。
【0062】
<黄色度の測定>
分光色彩計(日本電色工業(株)製、SD500)を用いて、JIS K 7373:2006で規定される黄色度を細胞培養基材の底面(細胞培養位置)で測定した。
【0063】
<気泡付着評価>
細胞培養基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を加え、顕微鏡で観察することにより気泡の付着の有無を確認した。
【0064】
<細胞凝集塊の評価>
(細胞凝集塊の培養)
細胞培養基材に培地StemFitAK02N(味の素(株)製)を0.2mL/cm加え、iMatrix-511溶液((株)ニッピ製)を2.5μL/mLの濃度で加えた。死細胞を混合することで全細胞に対する生存細胞の割合(細胞生存率)が50%となるように調整したヒトiPS細胞201B7株を用い、15000個(生細胞及び死細胞の合計細胞数)/cmとなるように播種し、37℃、CO濃度5%の環境下で培養した。また、細胞を播種してから24時間後までは、培地にY-27632(和光純薬工業(株)製)(濃度10μM)を添加した。培養開始から3日後に細胞凝集塊の形成の有無を確認した。
【0065】
(紫外線照射後の細胞生存率の評価)
細胞凝集塊の形成を確認後、培地を除去してクリーンベンチ内で細胞培養基材の細胞が存在する面とは逆側の方向から、1時間紫外線照射を行った。再び培地を添加し、37℃、CO濃度5%の環境下で24時間細胞培養を行った。24時間後、培地に浮遊している細胞を回収した後、基材に接着している細胞をトリプシン処理した後、セルスクレーパーを用いて剥離することで、シングルセルで剥離回収した。これらの細胞を全て混合した後、トリパンブルーにより細胞を染色し、自動細胞計測機Luna-FL(LogosBiosystems製)でカウントすることで細胞生存率を測定した。
【0066】
[実施例1]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡(株)製、コスモシャインA4300)に高圧水銀灯を用いてUV照射を行い、PETフィルムを黄変させた。このPETフィルムの表面に細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子としてアジド基を有するポリビニルアルコール(BIOSURFINE(R)-AWP、東洋合成工業(株)製)を固形分濃度0.8wt%で含有する水/エタノール溶液を2000rpmでスピンコートし、室温で乾燥した後、UV照射することで細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を硬化させた。直径0.2mmの円形の穴を複数有するメタルマスクを、細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子の層上に置き、プラズマ照射装置((株)真空デバイス製、商品名プラズマイオンボンバーダPIB-20)を用いてメタルマスクの上からプラズマ処理(20Paガス圧下、導電電流20mA、照射時間30秒間)を行うことで、プラズマ処理した部分に細胞接着性及び細胞増殖性を有する領域((A)領域)を形成した。また、メタルマスクでマスクした部分に(B)領域を形成した。このPETフィルムと貫通孔を有するウェルプレートとを貼り合わせた。
【0067】
作製した細胞培養基材の構成及び評価結果を表1に示す。作製した細胞培養基材は(A)領域の面積が0.03mm、(A)領域と(B)領域の境界における凹凸高さが38nm、黄色度が13であった。
【0068】
この細胞培養基材上でヒトiPS細胞の培養評価を行い、培養開始から3日後に細胞凝集塊の形成を確認した。目視判定では、形成された細胞凝集塊のサイズは均一であった。また、紫外線照射後の細胞凝集塊に含まれる細胞の生存率は82%であり、高い細胞生存率であった。また、培地添加時に気泡は細胞培養基材に付着していなかった。
【0069】
[実施例2]
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡(株)製、コスモシャインA4300)の裏面(細胞培養面とは逆の面)に黄色セロファンを被覆した。このPETフィルムの表面にプラズマ照射装置((株)真空デバイス製、商品名プラズマイオンボンバーダPIB-20)を用いてプラズマ処理(20Paガス圧下、導電電流20mA、照射時間30秒間)した。細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子としてアジド基を有するポリビニルアルコール(BIOSURFINE(R)-AWP、東洋合成工業(株)製)を固形分濃度0.8wt%で含有する水/エタノール溶液を2000rpmでスピンコートし、室温で乾燥した後、直径0.2mmの円形の穴を複数有するクロムマスクを用いて高圧水銀灯で10秒間露光することで、ポリビニルアルコールの一部を硬化させた。水/エタノール混合溶媒で基材を洗浄することで未硬化のポリビニルアルコールを除去することで、細胞接着性及び細胞増殖性を有する領域((A)領域)を形成した。室温で乾燥させた後、このPETフィルムと貫通孔を有するウェルプレートとを貼り合わせた。
【0070】
作製した細胞培養基材の構成及び評価結果を表1に示す。作製した細胞培養基材は(A)領域の面積が0.03mm、(A)領域と(B)領域の境界における凹凸高さが40nm、黄色度が38であった。
【0071】
この細胞培養基材上でヒトiPS細胞の培養評価を行い、培養開始から3日後に細胞凝集塊の形成を確認した。目視判定では、形成された細胞凝集塊のサイズは均一であった。細胞凝集塊の高さ/直径の比は0.5と推定された。また、紫外線照射後の細胞凝集塊に含まれる細胞の生存率は90%であり、高い細胞生存率であった。また、培地添加時に気泡は細胞培養基材に付着していなかった。
【0072】
[実施例3]
直径3.5cmのポリスチレン(PS)ディッシュの裏面(細胞培養面とは逆の面)に黄色セロファンを被覆した。PSディッシュの内面をプラズマ照射装置((株)真空デバイス製、商品名プラズマイオンボンバーダPIB-20)を用いてプラズマ処理(20Paガス圧下、導電電流20mA、照射時間30秒間)した。表面保護フィルム(日東電工(株)製、E-MASK)にレーザー加工により直径0.2mmの円形の穴を複数形成し、この表面保護フィルムをプラズマ処理したPSディッシュの内面に貼り付けた。
【0073】
作製した細胞培養基材の構成及び評価結果を表1に示す。作製した細胞培養基材は(A)領域の面積が0.03mm、(A)領域と(B)領域の境界における凹凸高さが約58μm、黄色度が55であった。
【0074】
この細胞培養基材では、この細胞培養基材上でヒトiPS細胞の培養評価を行い、培養開始から2日後に細胞凝集塊の形成を確認した。目視判定では、形成された細胞凝集塊のサイズは均一であった。細胞凝集塊の高さ/直径の比は0.5と推定された。また、紫外線照射後の細胞凝集塊に含まれる細胞の生存率は89%であり、高い細胞生存率であった。培地添加時に細胞培養基材に気泡が付着していた。
【0075】
[比較例1]
高圧水銀灯を用いてUV照射を行うことでフィルムを黄変させる工程を行わず、その他は実施例1と同様にして細胞培養基材を作製した。
【0076】
作製した細胞培養基材の構成及び評価結果を表1に示す。作製した細胞培養基材は黄色度が2であった。
【0077】
この細胞培養基材上でヒトiPS細胞の培養評価を行い、培養開始から3日後に細胞凝集塊の形成を確認した。紫外線照射後の細胞凝集塊に含まれる細胞の生存率は72%であり、低い細胞生存率であった。
【0078】
[比較例2]
黄色セロファンを被覆する工程を行わず、その他は実施例3と同様にして細胞培養基材を作製した。
【0079】
作製した細胞培養基材の構成及び評価結果を表1に示す。作製した細胞培養基材は黄色度が3であった。
【0080】
この細胞培養基材上でヒトiPS細胞の培養評価を行い、培養開始から3日後に細胞凝集塊の形成を確認した。紫外線照射後の細胞凝集塊に含まれる細胞の生存率は64%であり、低い細胞生存率であった。
【0081】
[比較例3]
直径0.2mmの円形の穴を複数有するメタルマスクの代わりに、直径3mmの円形の穴を複数有するメタルマスクを用い、その他は実施例1と同様にして細胞培養基材を作製した。
【0082】
作製した細胞培養基材の構成及び評価結果を表1に示す。
この細胞培養基材上でヒトiPS細胞の培養評価を行ったが、細胞凝集塊は形成できなかった。
【0083】
【表1】
【符号の説明】
【0084】
A…(A)領域、B…(B)領域、H…(A)領域と(B)領域の境界における凹凸高さ、1…基材、2…細胞接着性又は細胞増殖性を有しない高分子を含有する層、10,11…細胞培養基材、20…仕切り板。
図1