(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178209
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】石英ガラスクロスの加熱方法及び低誘電化石英ガラスクロスの製造方法
(51)【国際特許分類】
D06C 7/00 20060101AFI20231207BHJP
C03C 25/002 20180101ALI20231207BHJP
C03C 25/64 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
D06C7/00 Z
C03C25/002
C03C25/64
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062124
(22)【出願日】2023-04-06
(62)【分割の表示】P 2022090028の分割
【原出願日】2022-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】糸川 肇
(72)【発明者】
【氏名】田口 雄亮
(72)【発明者】
【氏名】野村 龍之介
(72)【発明者】
【氏名】浦中 宗聖
【テーマコード(参考)】
3B154
4G060
【Fターム(参考)】
3B154AA13
3B154AB20
3B154AB27
3B154BA19
3B154BB12
3B154BE01
3B154BF01
3B154DA11
4G060BA05
4G060BB02
(57)【要約】
【課題】誘電正接を低くすることができる石英ガラスクロスの加熱方法、加熱処理後に特別な後処理をすることなく、低誘電化石英ガラスクロスを製造できる、製造方法を提供する。
【解決手段】SiO
2を95質量%以上含む石英ガラスクロスを加熱炉に入れ、真空又は露点15℃以下の気体中で、最高加熱温度が100~600℃、かつ100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件で加熱する、上記石英ガラスクロスの加熱方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
SiO2を95質量%以上含む石英ガラスクロスを加熱炉に入れ、真空又は露点15℃以下の気体中で、最高加熱温度が100~600℃、かつ100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件で加熱する、上記石英ガラスクロスの加熱方法。
【請求項2】
気体が、空気及び不活性ガスから選ばれ、露点15℃以下の気体である請求項1記載の石英ガラスクロスの加熱方法。
【請求項3】
露点が0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する請求項1記載の石英ガラスクロスの加熱方法。
【請求項4】
加熱前、昇温中、温度保持中及び降温中のいずれか1つ以上に、露点が0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する請求項3記載の石英ガラスクロスの加熱方法。
【請求項5】
降温中に、露点が0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する請求項4記載の石英ガラスクロスの加熱方法。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項記載の加熱方法を工程として含む、40GHzにおける誘電正接が0.0015以下である低誘電化石英ガラスクロスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電正接を低くすることができる石英ガラスクロスの加熱方法、及び低誘電化石英ガラスクロスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現在、スマートフォン等の情報端末の高性能化、高速通信化に伴い、使用されるプリント配線板において、高密度化、極薄化とともに、低誘電化、低誘電正接化が著しく進行している。このプリント配線板の絶縁材料としては、ガラスクロスをエポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂(以下、「マトリックス樹脂」という。)に含浸させて得られるプリプレグを積層して加熱加圧硬化させた積層板が広く使用されている。基板における信号の伝送ロスは、Ed wardA.Wolff式:伝送損失∝√ε×tanδ、が示すように、誘電率(ε)及び誘電正接(tanδ)が小さい材料ほど改善されることが知られており、特に上記の式より、伝送損失に対しては誘電正接の寄与が大きいことが知られている。そのため、ガラスクロスにおいては低い誘電正接が求められ、Dガラス、NEガラス、Lガラス、Qガラス等の誘電特性が向上されたガラスクロスが提案されている(特許文献1~4)。しかしながら、今後の5G通信用用途等において十分な伝送速度性能を達成する観点から、これら低誘電率・低誘電正接に優れる低誘電特性ガラスクロスでもなお改善の必要性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5-170483号公報
【特許文献2】特開2009-263569号公報
【特許文献3】特開2009-19150号公報
【特許文献4】特開2006-282401号公報
【特許文献5】特開2021-195689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
石英ガラスはSiO2が95質量%以上のガラスであり、非常に優れた電気特性を持っている。しかしながら、石英ガラスはその高い純度によりSiOH基が生じやすく、全く同じ組成の石英ガラスであっても、石英ガラス中に含まれるSiOH基の量によって誘電正接が大きく変動する。特許文献5では石英ガラスを高温で処理している。しかしながら高温加熱によるガラス表面への歪が発生し、強度が低下し、歪除去目的に、加熱後24時間以上のエッチング処理を行う必要があるという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、誘電正接を低くすることができる石英ガラスクロスの加熱方法、加熱処理後に特別な後処理をすることなく、低誘電化石英ガラスクロスを製造できる、製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
石英ガラスは95質量%以上がSiO2であり、表面のSi-OH基は活性が強く、特に高温雰囲気では水分を水素結合で取り込み、Si-O-Si結合を開裂させることでさらにSi-OH基が生じると考えられる(SiO2+H2O⇔Si-OH)。ここで生じるSi-OH基がガラスクロスの誘電正接を悪化させる。ガラスクロスの量産においてガラスクロスを加熱する加熱炉はガス炉が一般的に用いられており、都市ガス等の燃焼を熱源としていることから、生成物として大量の二酸化炭素と水が生じる。結果として加熱機構に水分を発生させる加熱炉を用いることで上記反応をSi-OH基が生成する方向に平衡が傾くことを見出した。本発明者らは、石英ガラスクロスを加熱炉に入れ、炉内を真空又は露点15℃以下の気体中で、100~600℃、かつ100~600℃の温度温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件で加熱することで、加熱炉内の水分量をさらに低下させ、さらに平衡反応を左へ傾けることができ、加熱のみで誘電正接を低下させることができ、この加熱工程を含むことで、40GHzにおける誘電正接が0.0015以下である低誘電化石英ガラスクロスが得られることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0007】
従って、本発明は下記、石英ガラスクロスの加熱方法及び低誘電化石英ガラスクロスの製造方法を提供する。
1.SiO2を95質量%以上含む石英ガラスクロスを加熱炉に入れ、真空又は露点15℃以下の気体中で、最高加熱温度が100~600℃、かつ100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件で加熱する、上記石英ガラスクロスの加熱方法。
2.気体が、空気及び不活性ガスから選択される露点15℃以下の気体である1又は2記載の石英ガラスクロスの加熱方法。
3.露点が0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する1~3のいずれかに記載の石英ガラスクロスの加熱方法。
4.加熱前、昇温中、温度保持中及び降温中のいずれか1つ以上に、露点が0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する3記載の石英ガラスクロスの加熱方法。
5.降温中に、露点が0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する4記載の石英ガラスクロスの加熱方法。
6.1~5のいずれかに記載の加熱方法を工程として含む、40GHzにおける誘電正接が0.0015以下である低誘電化石英ガラスクロスの製造方法
【発明の効果】
【0008】
誘電正接を低くすることができる石英ガラスクロスの加熱方法、加熱処理後に特別な後処理をすることなく、低誘電化石英ガラスクロスを製造できる、製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細に説明する。
[石英ガラスクロス]
本発明の石英ガラスクロスはSiO2組成量が95質量%以上であり、誘電正接等の電気特性や熱膨張等の物理特性の点から、で99.9質量%以上が好ましい。石英ガラスクロスの製造方法としては、例えば、下記の方法が挙げられる。
【0011】
直径50~500mmの石英ガラスを1,700~2,300℃にて溶融させ、糸状になったものを巻き取ることで、直径200±100μmの石英糸を得ることができる。溶融温度がこの範囲であれば安定的延伸化可能である。
【0012】
石英糸は強度が非常に弱いため、巻き取るためにコーティング剤のコーティングを行うことが好ましい。コーティング剤としては、UV硬化可能な硬化性に優れたアクリレート系樹脂が好ましい。コーティング膜厚みとしては、十分な補強効果が得られることから5μm以上が好ましい。石英フィラメントは前記石英糸を酸素と水素の混合火炎にて1700~2,300℃で直径2~15μmへ再延伸することで得ることができる。
【0013】
石英ストランドは石英フィラメントを20~400本集束して製造でき、ストランドを集束させるために、集束剤を用いる。集束剤は澱粉を主原料とし、機能性付与のため、柔軟剤や潤滑剤を配合することができ、集束剤組成物は一般にサイズ剤と呼称される。石英ヤーンは上記で作成したストランドに撚りをかけることで得られる。撚りの頻度としては、25mmあたり0.1~5.0回が好ましい。
【0014】
石英ガラスクロスは石英ヤーンを製織することで得られる。本発明の石英ガラスクロスとしては特に限定されないが、目付量が10~100g/m2のものが好適に用いられる。製織方法は、特に限定はされないが、例えば、エアージェット織機、ウォータージェット織機、レピア織機、シャトル織機等による製織方法が挙げられる。エアージェット織機などで製織を行う場合は、更なる潤滑性を得るためにPVAや澱粉を二次サイズ剤として付着させることができる。
【0015】
製織された後の石英ガラスクロスの表面には、上記のサイズ剤が表面に付着したままであり、残存したサイズ剤によって誘電特性が悪化する。また、石英ガラスクロスへのシランカップリング剤処理が不十分になり、樹脂との接着不良が発生する。そこで、付着したサイズ剤を除去するために製織後、脱油工程を用いてもよい。脱油工程は水や有機溶剤による洗浄の方法や有機物を燃焼させて除去する処理と呼ばれる方法があり、より確実に脱油を行える点で加熱処理が一般的である。この処理はフロー式やバッチ式の加熱炉を用いて行う方法が挙げられるが、フロー式は高温で一気にサイズ剤を焼き飛ばすため、ガラスクロスの強度低下やサイズ剤の焼け残りの問題があり、300~400℃で有機物をゆっくり燃焼させて除去するバッチ式が一般的である
【0016】
本発明で使用する石英ガラスクロスとしては、サイジング剤の付着したものでも、あらかじめ水洗処理やヒートクリーニング処理によってサイズ剤を予め除去したものでもよい。また、本発明で使用する石英ガラスクロスは開繊処理した石英ガラスクロスであっても未開繊の石英ガラスクロスであってもよい。本発明の加熱方法を、ヒートクリーニング方法(サイズ剤除去)とする場合、使用する乾燥気体としては乾燥空気が望ましい。サイズ剤の成分によっては高温で一度に燃焼させると着色のしやすいものもあるため、常に一定の温度ではなく、予備焼成した後に、本発明の加熱方法を、ヒートクリーニング方法としてもよい。その場合、予備焼成に関しては特に限定されるものではなく、温度等は特に限定されず、100℃以下でもよい。また、本発明の前にサイジング剤を除去した石英ガラスクロスを用いる場合は、真空乾燥炉、電気炉等、不活性ガス等も使用可能である。
【0017】
脱油後のガラスクロスはそのまま使用することもできるが、シラン処理をしたシラン処理石英ガラスクロスとすることもできる。シラン処理については後述する。
【0018】
[石英ガラスクロスの加熱方法]
本発明の加熱方法は、最高加熱温度が100~600℃、かつ100℃以上の加熱温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上となる条件で加熱するものです。
(加熱炉)
加熱に用いる加熱炉は、100~600℃に加熱することができ、炉内を真空又は露点15℃以下の乾燥気体雰囲気下にすることができるものを用いることができ、このような加熱炉であれば特に限定されず、加熱炉としては、ガス炉、電気炉、マッフル炉、レーザー加熱等が挙げられる。
【0019】
中でも、単位発熱量(1,000kcal)当たりに生じる水の量が0.12L以下となるような発熱機構を有する加熱炉を用いることが好ましい。このような発熱機構を有していれば、特に限定されず、電気炉、マッフル炉、レーザー加熱等で、上記が可能な発熱機構を有する加熱炉を含む装置が挙げられる。特に、電気炉は燃焼を伴わないため、気体中の水の量を0.12L以下、0.10L未満とすることができる。
【0020】
加熱炉には、乾燥気体を炉内に送り込む装置を有することが好ましい。この装置としては、コンプレッサー又はエアドライヤー等の乾燥気体を生成する機構、乾燥気体を充填又は導入する、乾燥気体を生成する機構と炉内を結合する配管、炉内から排気を行う排出機構を有しているものが挙げられる。
【0021】
(加熱雰囲気)
本発明においては、真空又は露点15℃以下の気体中で、石英ガラスクロスを加熱する。気体としては、空気、窒素及びアルゴン等の不活性ガスが好ましい。炉内を真空にする場合は、島津製作所製 真空加熱焼成炉VASTA等の、真空加熱焼成炉を用いる。
【0022】
炉内を露点15℃以下の気体中にする方法としては、炉内が露点15℃以下の気体中であれば特に限定されないが、加熱前に、露点15℃以下の乾燥気体で炉内を充填、又は露点15℃以下の乾燥気体を、炉内に導入する方法が挙げられる。導入は、加熱前、昇温中、温度保持中及び降温中のいずれでもよく、この中から複数を選んで導入してもよい。中でも、露点15℃以下、好ましくは0℃以下の乾燥気体を、炉内に導入することが好ましく、降温中に、炉内に導入することが好ましい。乾燥気体としては、空気、窒素及びアルゴン等の不活性ガスから選択される露点15℃以下の乾燥気体が挙げられる。中でも、生産効率の面で乾燥空気が好ましい。上記の乾燥空気を生成する装置としてはコンプレッサーやエアドライヤー等が挙げられる。なお、本発明における露点とは大気圧露点を指す。充填又は導入する乾燥気体の露点は、15℃以下(水分含有量;12.8g/m3)が好ましく、0℃(水分含有量;4.85g/m3)以下がより好ましく、-20℃以下(水分含有量;1.07g/m3)がさらに好ましく、-60℃(水分含有量;0.0193g/m3)以下が特に好ましい。気体中での加熱工程では、SiO2+H2O⇔Si-OHの反応は、露点が低ければ低いほど平衡が左に傾き、石英ガラスクロスの誘電正接を低下させる。
【0023】
加熱前に、炉内に予め充填・導入する乾燥気体は露点15℃以下であり、0℃以下が好ましく、生産効率、経済性の点から、-20℃以下の乾燥空気がより好ましい。
加熱炉に導入する乾燥気体の露点は15℃以下であり、さらに石英ガラスクロスを低誘電正接化させるために、昇温から降温に至る加熱工程における乾燥気体の露点は0℃以下が好ましく、-20℃がより好ましく、-60℃以下がさらに好ましい。
【0024】
乾燥気体の導入量については特には限定されないが、炉内の露点を十分に低下させ、かつ炉内の温度を一定に保てる範囲として一時間当たり乾燥炉の体積に対して0.5~20倍が好ましい。
【0025】
(加熱温度)
SiO2+H2O⇔Si-OHの反応は100℃以上で活性化し、温度が高くなればなるほど平衡が左に傾いてSi-OH基は再度結合してSi-O-Si結合を形成する。すなわち露点が低く、加熱温度が高いほどSi-OH基は減少し、石英ガラスクロスの誘電正接が低下する。そのため、本発明における石英ガラスクロスの最高加熱温度は100~600℃であり、300~550℃が好ましく、350~450℃がより好ましい。100℃未満では上述のようにSi-OH基同士の反応における活性化エネルギーが足りないためにSi-OH基の量が低下せず誘電正接も低下しない。また、サイズ剤が付着したままの石英ガラスクロスであれば、サイズ剤が燃焼するためのエネルギーが不足するため加熱時間を長くしてもサイズ剤が残存してしまい、残存サイズ剤による誘電正接の悪化や後工程のシランカップリング処理で不良が起こってしまう。
【0026】
一方、最高加熱温度が600℃を超えて加熱を行うと石英ガラスクロスのフィラメント同士が一部固着して柔軟性がなくなる。また、熱膨張による伸縮が大きくなりガラスクロス中のフィラメント同士が擦れてマイクロクラックとなり強度が著しく低下したり柔軟性が低下する等の欠陥が発生する。このため、シラン処理工程や樹脂を塗工してプリプレグを作製する際に、ガラスクロスの折れや柔軟性不足でガラスクロスが破れたりシワになる。
【0027】
(加熱量)
乾燥気体中での100~600℃の温度温度(℃)×加熱時間(h)で表される加熱量が450(℃・h)以上である。
図1にこの加熱量の算出法を示す。塗りつぶし部分が加熱量であり、昇温中、温度保持中及び降温中には影響されない。熱量が450(℃・h)以下だとSiO
2+H
2O⇔Si-OHの平衡反応を十分に左に傾ける時間が足りなく、石英ガラスクロスの誘電正接が低下しきらないために不適である。加熱量が450(℃・h)以上であれば特には限定されないが、生産効率の点で450~50,000(℃・h)が好ましく、3,000~50,000(℃・h)がより好ましい。
【0028】
加熱は、昇温中、温度保持中及び降温中に関しては数ステップに分けてもよく、温度保持も複数の温度で保持してもよい。また上記の加熱量が満たせれば保持時間がなくてもよい。昇温及び降温レートに関しては特に限定されないが、生産性の点から、10℃/h以上が好ましく、サイズ剤の黒変防止、石英ガラスクロスの強度の点から、200℃/h未満が好ましい。
【0029】
特に、100~300℃の雰囲気は、活性化エネルギーは超えるものの低温領域のためSiO2+H2O⇔Si-OHの平衡が右に傾きやすく、最もSi-O-Si結合が開裂しやすいため、特に露点を低く保つ必要がある。乾燥気体の導入タイミングについては昇温中、降温中、温度保持中のいずれのタイミングでもよい。炉内の露点を低く保ち続ける点から、昇温中、温度保持中、降温中の100~600℃の全加熱中で、乾燥気体を炉内に導入し続けることが好ましい。特に、加熱最高温度から100℃まで降温中に、乾燥気体を炉内に導入することが、誘電正接の改善に有効である。
【0030】
本発明の加熱方法によれば、SiO2を95質量%以上含む石英ガラスクロス誘電正接を低くすることができる。加熱工程後の石英ガラスクロスの誘電正接としては、40GHzにおける誘電正接は、0.0015以下が好ましく、0.0012以下がより好ましい。また、10GHzにおける誘電正接は、0.0010以下が好ましく、0.0008以下がより好ましい。誘電正接の測定方法は共振法に基づくものであり、具体的には、後述する実施例の記載に基づくものである。また、加熱工程前後において、10GHz及び40GHzでの誘電正接の変化比は、0.1~0.9が好ましく、0.1~0.7がより好ましい。なお、10GHz及び40GHzでの誘電正接の変化比は後述する実施例の記載に基づくものである。
【0031】
[低誘電化石英ガラスクロスの製造方法]
本発明の低誘電化石英ガラスクロスの製造方法は、上記加熱工程を含むものであり、好適な成分、範囲等も同じである。本発明の加熱工程を含むことで、加熱処理後に特別な後処理をすることなく、低誘電化石英ガラスクロスを製造することが可能である。
【0032】
[低誘電化石英ガラスクロス]
本発明の加熱工程を有する製造方法で得られた石英ガラスクロスの誘電正接は、40GHzにおける誘電正接は、0.0015以下が好ましく、0.0012以下がより好ましい。また、10GHzにおける誘電正接は、0.0010以下が好ましく、0.0008以下がより好ましい。
【0033】
低誘電化石英ガラスクロスの製造方法においては、本発明の加熱工程を、サイズ剤を除去するヒートクリーニング工程としても、ヒートクリーニング工程とは別の工程としてもよい。さらに、上記シラン処理を有してもよい。シラン処理工程をさらに有する場合、シラン処理工程の効果をより発揮する点からは、加熱工程後にシラン処理工程を有することが好ましい。
【0034】
[シラン処理工程]
ガラスクロスを処理するシラン処理液に関しては特に限定はされないが、生産性や環境負荷の観点からシランカップリング剤を0.05~1質量%に分散させた水溶液が好適である。シランカップリング剤にpH調整剤を添加して水溶液とすることができる。pH調整剤としては特に限定されないが使用するシランカップリング剤に合わせて酢酸やアンモニアによる調整が好ましい。シラン処理としては特に限定されず、シラン処理するガラスクロスを上記水溶液に浸漬すればよい。温度や時間は、50~200℃で、30秒~1時間等から適宜選定される。
【0035】
シランカップリング剤としては、トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、メチルフェニルジメトキシシラン、メチルフェニルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、フェニルメチルビニルエトキシシラン、ナフチルトリメトキシシラン、ナフチルトリエトキシシラン、1,4-ビス(メトキシジメチルシリル)ベンゼン、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、1,6-ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、p-スチリルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルジエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン及びその塩酸塩、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン及びその塩酸塩、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、トリス-(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、ビス(トリスエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のアルコキシシラン化合物が挙げられ、1種あるいは2種以上混合して使用してもよい。その中でも、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が好ましい。シランカップリング剤はこれらに限定されるものではなく、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0036】
本発明においては、上記加熱工程を含むことで、シランカップリング処理しても、同様に低誘電化石英ガラスクロスを得ることができる。つまり、本発明の加熱工程後に、シランカップリング処理された石英ガラスクロスの誘電正接は、40GHzにおける誘電正接は、0.0015以下が好ましく、0.0012以下がより好ましい。また、10GHzにおける誘電正接は、0.0010以下が好ましく、0.0008以下がより好ましい。
【0037】
また、ガラスクロスは一般的に後工程での樹脂の含侵性を上げるために、例えば、脱サイズ処理前、又はシラン処理時に開繊処理が施される。開繊処理の方法としては特には限定されないが、超音波を利用する開繊処理方法、高圧柱状水位流による方法、気水体積比を調整した気液混合ミストを利用する方法が挙げられ、ガラスクロスの種類によって適宜使い分けられる。開繊の有無にかかわらず、本発明の加熱方法による低誘電正接化の効果を得ることができる。
【0038】
[プリプレグ]
本発明の製造方法で得られた低誘電化石英ガラスクロスは、樹脂、フィラー等を用いて、プリプレグとすることができる。本発明の低誘電化石英ガラスクロスを用いることで、プリプレグ化も問題なく行うことができる。
【実施例0039】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
[石英ガラスクロスの調製例(SQ1~SQ3)]
SiO2が99.9%質量%以上の石英ガラスインゴットを加熱延伸して、直径5.3μmの石英ガラスフィラメントからなる石英ガラス繊維を作製した。この石英ガラス繊維に、上記の石英ガラス繊維集束剤(澱粉3.0質量%、牛脂0.5質量%、乳化剤0.1質量%、残部水)を、アプリケーターにて塗布した後に集束機により集束し、巻き取って石英ガラスフィラメント本数200本の石英ガラスストランドを作製した。巻き取った石英ガラスストランドに24T/mの撚りを掛け、石英ガラスヤーンを作製した。
得られた石英ガラスヤーンに二次集束剤としてポリビニルアルコール(PVA)1.5質量%、澱粉1.5質量%からなる水溶液を塗布した後に、エアージェット織機を用いて、IPC規格1078石英ガラスクロスを製造し、気水混合ミストによって開繊処理を行った(SQ1)。
【0040】
同様にして、直径4.0μmのフィラメントを100本束ねて製織を行い、IPC規格1027石英ガラスクロス(SQ2)を製造した。直径7.3μmのフィラメントを200本束ねて製織を行い、IPC規格2116石英ガラスクロス(SQ3)を製造した。
なお、上記で得られた石英ガラスクロスSQ1~SQ3には約2質量%のサイズ剤が付着している。
【0041】
[サイズ剤が付着した石英ガラスを加熱処理する場合]
[実施例1]
1078石英ガラスクロス(SQ1)を、ネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用い、100℃/hで400℃まで昇温し24時間保持後、30℃/hで降温した。その際、昇温から降温時までHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
【0042】
[実施例2]
昇温から降温時までCKD株式会社製 スーパーヒートレスドライヤー SHD3025で作製した露点-70℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行う以外は、実施例1と同様にSQ1を加熱処理した。
【0043】
[実施例3]
降温時にのみHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を、1時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行う以外は、実施例1と同様にSQ1を加熱処理した。
外気の露点は20℃であったため、露点15℃以下の加熱量は降温時のみの以下のようになる。
((400-100)×(400-100)/30)÷2=1,500℃・h
【0044】
[実施例4]
温度保持時にのみHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を、1時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行う以外は、実施例1と同様にSQ1を加熱処理した。外気の露点は20℃であったため、露点15℃以下の加熱量は保持時のみの以下のようになる。
400×24=9,600℃・h
【0045】
[実施例5]
昇温時にのみHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を、1時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行う以外は、実施例1と同様にSQ1を加熱処理した。
外気の露点は20℃であったため、露点15℃以下の加熱量は昇温時のみの以下のようになる。
((400-100)×(400-100)/100)÷2=450℃・hとなる。
【0046】
[実施例6]
SQ1をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用い、100℃/hで600℃まで昇温し10時間保持後、30℃/hで降温した。その際、昇温から降温時までHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
【0047】
[実施例7]
1078石英ガラスクロス(SQ1)を、1027石英ガラスクロス(SQ2)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、加熱処理を行った。
【0048】
[実施例8]
1078石英ガラスクロス(SQ1)を、2116石英ガラスクロス(SQ3)に変更した以外は、実施例1と同様の方法で、加熱処理を行った。
【0049】
[サイズ剤除去後の石英ガラスを加熱処理する場合]
SQ1のガラスクロスを美濃窯業株式会社製ガス炉 7m3ファイバースーペリオキルンで400℃・72時間でヒートクリーニング処理し、サイズ剤を除去しヒートクリーニング処理ガラス繊維SQ1’を得た。SQ1’の10GHzの誘電正接は0.0017、40GHzの誘電正接は0.0023であった。
【0050】
[実施例9]
SQ1’を実施例1と同様に加熱処理した。
【0051】
[実施例10]
SQ1’をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用い、100℃/hで150℃まで昇温し24時間保持後、30℃/hで降温した。その際、昇温から降温時までHITATHI社製インバーターパッケージオイルフリーベビコン POD-15VNPを用いて作製した露点-20℃の乾燥空気を、1時間当たり、電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
【0052】
[実施例11]
SQ1’を実施例1の電気炉の代わりに島津製作所製 真空加熱焼成炉VASTAを用いて昇温から降温まで真空状態で100℃/hで400℃まで昇温し、12時間保持後、30℃/hで降温した。
【0053】
[実施例12]
実施例11で炉内を真空の代わりに、昇温から降温まで巴商会社製 窒素ガス(露点-70℃)で置換して加熱処理を行った。
【0054】
[比較例1]
実施例8と同様に、SQ1をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用いて加熱処理を行った。その際、外気の露点は露点20℃であったため、炉内の露点は昇温から降温時まで20℃であった。
【0055】
[比較例2]
SQ1をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用いて100℃/hで700℃まで昇温し、24時間保持後、30℃/hで降温した。その際、昇温から降温時まで露点-20℃の乾燥空気を1時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
【0056】
[比較例3]
SQ1’をネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を用いて100℃/hで80℃まで昇温し、24時間保持後、30℃/hで降温した。その際、昇温から降温時まで露点-20℃の乾燥空気を1時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んで加熱処理を行った。
【0057】
[比較例4]
ネムス社製電気炉B80×85×200-3Z12-10を400℃まで昇温し、400℃の状態で炉内にSQ1’を入れて1時間保持後、降温を待たずに取り出した。その際、昇温から降温時まで露点-20℃の乾燥空気を1時間当たり電気炉の体積の5倍量送り込んだ。
【0058】
1.露点の測定
露点はオリオン社製露点モニタ-MG-40を用いて測定した。
【0059】
上記で得られた加熱工程後のガラスクロスについて、下記方法で評価を行った。結果を表中に記載する。
2.誘電正接の測定
ガラスクロスの10GHz及び40GHzの誘電正接はエーイーティー社製空洞共振器(TE011モード)を用いて測定した。なおガラスクロスの厚みは理論膜厚を用いて測定しており、ガラスクロスの理論膜厚は
理論膜厚t(μm)=目付量(g/m2)/比重(g/cm3)
から算出した。
【0060】
3.誘電正接低下度
加熱処理前後の誘電正接の倍率を求めた
〈サイズ剤が付着したガラスクロスを加熱処理に使用した場合〉
SQ1~SQ3を鈴木油脂工業社製 アルカリ電解水 S-2665で60℃・2時間洗浄し、付着したサイズ剤を除去した後にガラスクロスを100℃・30分乾燥させてサイズ剤洗浄ガラスクロスSQ”~SQ3”の誘電正接を加熱処理前の誘電正接とした
SQ1”の10GHzの誘電正接は0.0008、40GHzの誘電正接は0.0012
SQ2”の10GHzの誘電正接は0.0009、40GHzの誘電正接は0.0013
SQ3”の10GHzの誘電正接は0.0007、40GHzの誘電正接は0.0010
であった。
誘電正接比=加熱処理後のSQ1~3/SQ1”~SQ3”
〈サイズ剤除去後のSQ1’~SQ3’が加熱処理前に当たる場合〉
誘電正接比=加熱処理後のSQ1’~3’/SQ1’~SQ3’
【0061】
4.シランカップリング処理性及びプリプレグ化
加熱工程後のガラスクロスに対して、KBM-503(3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、信越化学株式会社製 商品名)を0.2質量%分散した水溶液に浸漬し、110℃、10分乾燥させてシラン処理をおこなった。得られたシラン処理済みクロスをSLK-3000(信越化学株式会社製 商品名)55質量%トルエン溶液に浸漬し110℃、10分乾燥させてプリプレグ化した。問題なくシラン処理及びプリプレグ化できたものを「〇」、ガラスクロスの折れや柔軟性不足でガラスクロスが破れたりシワになったものは「×」とした。
【0062】
5.シランカップリング処理後の10GHz及び40GHzの誘電正接を上記と同様の方法で測定した。
【0063】
【0064】
【0065】