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特開2023-178265SiC単結晶基板及びSiCエピタキシャルウェハ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178265
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】SiC単結晶基板及びSiCエピタキシャルウェハ
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/36 20060101AFI20231207BHJP
   H01L 21/20 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C30B29/36 A
H01L21/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091081
(22)【出願日】2023-06-01
(62)【分割の表示】P 2022090957の分割
【原出願日】2022-06-03
(71)【出願人】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100163496
【弁理士】
【氏名又は名称】荒 則彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(72)【発明者】
【氏名】山口 拓也
(72)【発明者】
【氏名】亀井 宏二
(72)【発明者】
【氏名】小柳 直樹
【テーマコード(参考)】
4G077
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA02
4G077AB04
4G077AB09
4G077BE08
4G077ED01
4G077ED06
4G077GA02
4G077GA06
4G077GA10
4G077HA06
4G077HA12
5F152LM09
5F152LN03
5F152MM18
5F152NN05
5F152NN30
5F152NQ02
(57)【要約】
【課題】局所的な貫通転位の密集が低減されたSiC単結晶基板を提供することである。
【解決手段】本発明に係るSiC単結晶基板1は、直径が199mm以上であって、基板全面の任意の6mm角の領域ごとにおいて、励起波長313nmのPL発光の黒色度が5.3以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
直径が199mm以上であって、基板全面の任意の6mm角の領域ごとにおいて、励起波長313nmのPL発光の黒色度が5.3以下である、SiC単結晶基板。
【請求項2】
前記黒色度が3.8以下である、請求項1に記載のSiC単結晶基板。
【請求項3】
前記黒色度が2.4以下である、請求項1に記載のSiC単結晶基板。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載のSiC単結晶基板と、
前記SiC単結晶基板の表面に積層されたSiCエピタキシャル層と、を有する、SiCエピタキシャルウェハ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、SiC単結晶基板及びSiCエピタキシャルウェハに関する。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて絶縁破壊電界が1桁大きく、バンドギャップが3倍大きい。また、炭化珪素(SiC)は、シリコン(Si)に比べて熱伝導率が3倍程度高い等の特性を有する。そのため炭化珪素(SiC)は、パワーデバイス、高周波デバイス、高温動作デバイス等への応用が期待されている。このため、近年、上記のような半導体デバイスにSiCエピタキシャルウェハが用いられるようになっている。
【0003】
SiCエピタキシャルウェハは、SiC単結晶基板の表面にSiCエピタキシャル層を積層することで得られる。以下、SiCエピタキシャル層を積層前のSiC単結晶基板をSiC基板と称し、SiCエピタキシャル層を積層後の基板をSiCエピタキシャルウェハと称することがある。SiC基板は、SiCインゴットから切り出される。
【0004】
上記のようなSiCの優れた特性を活かしたSiCデバイスを実現するために、結晶欠陥の密度が低減したSiC基板を用いることが提案されている(例えば、特許文献1~3)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-31049号公報
【特許文献2】特開2016-183108号公報
【特許文献3】特開2021-50112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
代表的な結晶欠陥として、貫通刃状転位(TED)、貫通らせん転位(TSD)、基底面転位(BPD)などの転位が知られている。転位の評価方法として、エッチング法、フォトルミネッセンス法、X線トポグラフィー法、透過電子線回折法などが知られている。
【0007】
本発明者は、鋭意検討の結果、エッチング法とフォトルミネッセンス法とを組み合わせて評価することによって、SiC基板中に局所的に所定密度以上に貫通刃状転位、貫通らせん転位(以下、貫通刃状転位及び貫通らせん転位を纏めて「貫通転位」ということがある。)が密集すると、SiC基板上にSiCエピタキシャル層を形成後、SiCエピタキシャルウェハにおいて、その貫通転位の密集部に対応する箇所に積層欠陥や三角欠陥の密集部が発生することを見出した。この発見に基づいて、このようなエピタキシャル成長後の積層欠陥や三角欠陥の密集部の発生を抑制することが可能な、局所的な貫通転位の密集が低減されたSiC基板を開発した。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、局所的な貫通転位の密集が低減されたSiC単結晶基板及びSiCエピタキシャルウェハを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0010】
本発明の態様1は、基板全面の任意の0.25mm2の領域において、貫通転位密度が5×10/cm以下である、SiC単結晶基板である。
【0011】
本発明の態様2は、態様1のSiC単結晶基板であって、前記貫通転位密度が2.2×10/cm以下である。
【0012】
本発明の態様3は、態様2のSiC単結晶基板であって、前記貫通転位密度が1.0×10/cm以下である。
【0013】
本発明の態様4は、態様1のSiC単結晶基板であって、励起波長313nmのPL発光強度の黒色度が5.3以下である。
【0014】
本発明の態様5は、態様2のSiC単結晶基板であって、励起波長313nmのPL発光強度の黒色度が3.8以下である。
【0015】
本発明の態様6は、態様3のSiC単結晶基板であって、励起波長313nmのPL発光強度の黒色度が2.4以下である。
【0016】
本発明の態様7は、態様1のSiC単結晶基板であって、直径が149mm以上である。
【0017】
本発明の態様8は、態様1のSiC単結晶基板であって、直径が199mm以上である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るSiC単結晶基板によれば、局所的な貫通転位の密集が低減されたSiC単結晶基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係るSiC単結晶基板の平面模式図である。
図2】(a)はエピタキシャル成長前のSiC単結晶基板のPL像であり、(b)はそのSiC単結晶基板上にエピタキシャル膜を成長後のSiCエピタキシャルウェハのPL像であり、6mm角部分の一部を拡大したPL像も示した。
図3】溶融KOHエッチングによってエッチピットが表出された基板の表面において中心を含む1mm角の共焦点微分干渉顕微鏡像を示す。
図4】SiC基板の面方位を示す模式図であり、(a)は主面に対して垂直に切った垂直断面図であり、(b)は主面に対して垂直な方向から視た平面模式図である。
図5】貫通転位密集部を有さない種結晶の作製方法について各工程を模式的に示す図であり、(a)は溶融KOHエッチング及びフォトルミネッセンスを組み合わせて、種結晶の貫通転位密集部の場所を特定する工程であり、(b)は貫通転位密集部の場所を含む箇所を除去加工して作り直す工程であり、(c)は十分なサイズの種結晶がとれるまで結晶成長を行う工程であり、(d)は口径拡大部分から、種結晶11より大きな種結晶10-2を切り出し、この種結晶10-2を用いて単結晶成長させる工程である。
図6図2(a)で示したPL像の拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率等は実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。また、各図において、その図で説明する構成要素以外の当業者に周知の構成要素については省略している場合がある。
【0021】
図1は、本実施形態に係るSiC単結晶基板の平面模式図である。
【0022】
図1に示すSiC単結晶基板1は、基板1A全面の任意の0.25mm2の領域Mにおいて、貫通転位密度が5×10/cm以下である。
SiC単結晶基板1は、基板1A全面の任意の0.25mm2の領域Mにおいて、貫通転位密度が2.2×10/cm以下であることが好ましい。
SiC単結晶基板1は、基板1A全面の任意の0.25mm2の領域Mにおいて、貫通転位密度が1.0×10/cm以下であることがさらに好ましい。
図1において、領域Mについてその一部しか図示していない。
【0023】
図1に示すSiC単結晶基板1は、基板1A全面の任意の0.25mm2の領域Mごとに貫通転位密度が5×10/cm以下である構成を備えることによって、その後のエピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハにおいて積層欠陥及び三角欠陥が局所的に発生することが抑制されたものとなっている。
ここで、「積層欠陥」は、結晶格子の積層構造の乱れの欠陥を意味する。
また、「三角欠陥」は広義には積層欠陥の一種であるが、ステップフロー成長方向に沿って三角形の頂点とその対辺(底辺)が順に並ぶような方向を向いて形成されるものを意味する。すなわち、<11-20>方向に直交する方向に三角欠陥の対辺(底辺)が配置する。三角欠陥は起点を三角形の頂点として、ステップフロー成長と共にほぼ三角形の相似形を維持しながらその面積を大きくするように成長していく。従って、通常、起点がSiCエピタキシャル膜の成長初期に発生した三角欠陥ほどサイズが大きく、三角欠陥のサイズから起点の膜中の深さを推測することができる。図2に示す三角欠陥のPL像がいずれも同程度のサイズであるのは、その起点が基板表面にある貫通転位であることに起因すると考えられる。
【0024】
また、本明細書において「貫通転位密度」における“貫通転位”とは、貫通刃状転位(TED)と貫通らせん転位(TSD)とを合わせたものである。
SiC基板における転位の存在はフォトルミネッセンス(PL)によって可視化することができる。具体的には、試料の表面に励起光を照射した際のPL強度の面内分布をカメラによって撮影し、二次元イメージとして得ることができる。PL像において、転位がない部分は明るく、転位がある部分は暗くなる(黒く見える)ため、そのコントラストに基づいて転位を検知できる。
【0025】
転位の種類は光学顕微鏡、電子顕微鏡(SEM)等を用いて、溶融KOHエッチングによって現れたエッチピットの形状から判別することができる。一般には、中型六角形状を有しかつ芯があるエッチピットは貫通らせん転位(TSD)に相当し、小型六角形状を有しかつ芯があるエッチピットは貫通刃状転位(TED)に相当する。
【0026】
図2に、エピタキシャル成長前後のPL像を示す。(a)はエピタキシャル成長前のSiC基板のPL像であり、(b)はそのSiC基板上に膜厚約10μmのエピタキシャル膜を成長後のSiCエピタキシャルウェハのPL像であり、6mm角部分の一部を拡大したPL像も示した。
図2(a)及び(b)は基板の中心を含む同じ場所のPL像であり、フォトルミネッセンス装置(レーザーテック株式会社製、SICA88)で波長313nmの励起光を用い、近赤外波長(660nm以上の波長)の受光波長を用いて得られた反射像である。
図2(a)及び(b)のPL像を比べることによって、図2(a)に示すPL像において四角で囲んだ箇所の黒く見えている部分(以下、「PL黒色部」ということがある。)に対応する、図2(b)の箇所に、多数の積層欠陥及び/又は三角欠陥が発生していることがわかる。なお、図2(a)に示すPL像におけるPL黒色部は、溶融KOHエッチングによって貫通転位が密集する部分(以下、「貫通転位密集部」ということがある。)であることを確認した。貫通転位密集部は、面内全体の貫通転位密度よりも高い密度で貫通転位が密集した部分である。
【0027】
本発明者は、SiCエピタキシャルウェハにおける積層欠陥及び/又は三角欠陥の発生が、SiC基板における貫通転位の密集の程度すなわち、貫通転位密度に大きく依存していることを見出した。表1に、7枚のSiC基板についてその中心を含む6mm角の範囲において、SiC基板における貫通転位密度と、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハにおける積層欠陥及び/又は三角欠陥の発生との関係を示す。
【0028】
【表1】
【0029】
表1において、SiC基板におけるPL黒色部の有無は目視で判定した。また、SiC基板における貫通転位密度はSiCエピタキシャルウェハのエピタキシャル層を研磨で除去してSiC基板の表面を出した後、溶融KOHエッチングによってエッチピットが表出された基板の表面を光学顕微鏡によって撮影した顕微鏡像をコンピュータに取り込んで画像解析ソフトを用いて算出した。また、SiCエピタキシャルウェハにおける積層欠陥及び三角欠陥の有無は、共焦点微分干渉顕微鏡とフォトルミネッセンス(PL)観察機能を併設した検査装置(レーザーテック株式会社製、SICA88)の共焦点微分干渉顕微鏡を用いて判定した。
【0030】
表1に示す通り、貫通転位密度が1.0×10〔/cm〕の基板ではPL黒色部は現れなかった。これに伴い、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハの中心を含む6mm角の範囲において積層欠陥及び三角欠陥はなかった。貫通転位密度が2.2×10〔/cm〕の基板ではPL黒色部は現れたが、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハの中心を含む6mm角の範囲において積層欠陥及び三角欠陥はなかった。貫通転位密度が2.7×10〔/cm〕の基板、及び、貫通転位密度が5.0×10〔/cm〕の基板ではPL黒色部は現れ、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハの中心を含む6mm角の範囲において積層欠陥はあったが、三角欠陥はなかった。貫通転位密度が6.0×10〔/cm〕の基板、貫通転位密度が1.0×10〔/cm〕の基板、及び、貫通転位密度が2.0×10〔/cm〕の基板ではいずれも、PL黒色部が現れ、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハの中心を含む6mm角の範囲において積層欠陥及び三角欠陥のいずれもあった。
【0031】
図3に、他のSiC基板について、溶融KOHエッチングによってエッチピットが表出された基板の表面において中心を含む1mm角の共焦点微分干渉顕微鏡像を示す。像全体では貫通転位密度は3.3×10〔/cm〕であり、一方、左下1/4(点線枠)の部分だけでは貫通転位密度は6.1×10〔/cm〕であった。表1の結果に基づくと、像全体の貫通転位密度3.3×10〔/cm〕はエピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハにおいて三角欠陥が発生しない貫通転位密度である。左下1/4(点線枠)の部分の貫通転位密度6.1×10〔/cm〕はエピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハにおいて積層欠陥及び三角欠陥のいずれも発生する貫通転位密度である。
【0032】
図3に示すような、1mm角の一部(左下1/4(点線枠)の部分)にのみ、SiC基板の表面に貫通転位密度が6.0×10〔/cm〕以上の部分が局所的に存在すると、その後、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハにおいて、1mm角の一部(左下1/4(点線枠)の部分)に対応して局所的に、その積層欠陥及び三角欠陥が発生することになる。
【0033】
基板全体の平均貫通転位密度が十分に低くても、局所的に所定の貫通転位密度以上の部分(領域)を有するような、不均一な貫通転位密度の分布が発生しているSiC基板を用いてSiCエピタキシャルウェハを作製すると、積層欠陥及び三角欠陥が局所的に発生することになる。このように、SiCエピタキシャルウェハにおいて局所的に発生する積層欠陥及び/又は三角欠陥の密集を抑制するためには、貫通転位密集部を有さないSiC基板を用いることを要する。
【0034】
PL像のコントラストを定量化する。図6図2(a)で示しPL像の拡大図を示す。図6に示したPL像において、PL黒色部の中央(図6中の符号Aで示す部分)、中央と境界との1/2の位置(図6中の符号Bで示す部分)、境界(図6中の符号Cで示す部分)、PL黒色部から離れた位置(図6中の符号Dで示す部分)で、黒色度(=(背景部平均-PL黒色部最小値)/背景部標準偏差)はそれぞれ、7.9、7.0、4.5、1.2であった。なお、「背景部平均」及び「背景部標準偏差」は、PL像(PL発光強度像)において黒く見えない部分(例えば、図6中の符号Dで示す部分の近傍)の0.8mm角を背景部とし、その背景部の発光強度の平均又はその標準偏差を意味する。
また、PL黒色部の中央(符号A)、中央と境界との1/2の位置(符号B)、境界(符号C)、PL黒色部から離れた位置(符号D)の貫通転位密度はそれぞれ、2.5×10〔/cm〕、1.1×10〔/cm〕、3.3×10〔/cm〕、5.4×10〔/cm〕であった。黒色度と貫通転位密度との相関から、黒色度をK、貫通転位密度をD〔/cm〕とすると、黒色度Kは、以下の式で算出できる。
K=1/0.5571xln(D/2663.1)
上記式から、貫通転位密度が、1.0×10〔/cm〕、2.2×10〔/cm〕、2.7×10〔/cm〕、5.0×10〔/cm〕、6.0×10〔/cm〕、1×10〔/cm〕のとき、黒色度は、それぞれ、2.4、3.8、4.2、5.3、5.6、6.5と求められる。
SiC基板1のPL像において、黒色度が2.4の部分では、PL黒色部は現れておらず、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハのその部分において積層欠陥及び三角欠陥はないと考えられる。黒色度が3.8の部分では、PL黒色部は現れているが、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハのその部分において積層欠陥及び三角欠陥はない、と考えられる。黒色度が4.2、および、5.3、の部分では、PL黒色部は現れているが、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハのその部分において積層欠陥はあり、三角欠陥はない、と考えられる。黒色度が5.6、6.5の部分では、PL黒色部が現れ、エピタキシャル成長後のSiCエピタキシャルウェハのその部分において積層欠陥及び三角欠陥のいずれもある、と考えられる。
したがって、SiC基板1のPL像において、黒色度は5.3以下が好ましく、3.8以下がより好ましく、2.4以下がさらに好ましい。
【0035】
SiC基板1の外形に特に制限はないが、種々の平板形状、厚さのものを用いることができるが、典型的には円板状である。SiC基板の厚みは例えば、300~650μmの範囲のものとすることができる。
SiC基板1が円板状の場合、その寸法は例えば、直径6インチ(145mm~155mm)、直径8インチ(190mm~205mm)としてもよい。
また、SiC基板1の直径は149mm以上であってもよく、199mm以上であってもよい。
【0036】
SiC基板1は4H-SiCであることが好ましい。SiCは種々のポリタイプがあるが、実用的なSiCデバイスを作製するために主に使用されているのは4H-SiCだからである。
【0037】
図4は、SiC基板の面方位を示す模式図であり、(a)は主面に対して垂直に切った垂直断面図であり、(b)は主面に対して垂直な方向から視た平面模式図である。
SiC基板1は、主面が(0001)面に対し<11-20>方向に0°~6°の範囲、及び/又は、<1-100>方向に0°~0.5°の範囲でオフ角を有するものとすることができる。
オフ角が大きいほどSiC単結晶インゴットから得られるウエハ枚数が少なくなるため、コスト削減の観点からはオフ角が小さいことが好ましい。
【0038】
図4に示すSiC単結晶基板1は、結晶方位の指標になるノッチ2を有するが、ノッチ2の代わりにOF(オリフラ、オリエーション・フラット)を有していてもよい。
【0039】
(SiC単結晶基板の製造方法)
貫通転位密集部有さないSiC単結晶基板すなわち、基板全面の任意の0.25mm2の領域において貫通転位密度が5×10/cm以下であるSiC単結晶基板を製造するために、貫通転位密集部を有さない種結晶すなわち、基板全面の任意の0.25mm2の領域において貫通転位密度が5×10/cm以下である種結晶を用いて単結晶を成長させる。
従来の種結晶には貫通転位密集部が少なからず存在していた。局所的な貫通転位密集部に注目していなかったので、局所的な貫通転位密集部の存在が認識されていなかった。
【0040】
貫通転位密集部を有さない種結晶の作製方法について図5を参照して説明する。
(1)まず、図5(a)に示すように、SiC基板と同様に、溶融KOHエッチングとフォトルミネッセンス(PL)とを組み合わせて、基板の欠陥測定で行うのと同様な方法で、種結晶10の貫通転位密集部の場所10aを特定する。
(2)次に、図5(b)に示すように、貫通転位密集部の場所10aを含む箇所を除去加工して、貫通転位密集部の場所10aを含まない小さい種結晶11を作り直す。なお、中心部寄りに貫通転位密集部が発生したとしても、それを取り除くように加工してそれを種結晶として、その後、口径拡大することで十分な大きさの単結晶を成長させることができる。
(3)次に、図5(c)に示すように、十分なサイズの種結晶がとれるまで、結晶成長を行い、口径拡大を図る。符号12は口径拡大部分を示す。
(4)次に、図5(d)に示すように、口径拡大部分12から、種結晶11より大きな種結晶10-2を切り出し、この種結晶10-2を用いて単結晶成長させる。
(5)以上の(1)~(4)の工程を、貫通転位密集部を有さない種結晶が得られるまで繰り返す。
【0041】
以上のようにして得られた、貫通転位密集部を有さない種結晶を用いて単結晶を成長させれば、基板全面の任意の0.25mm2の領域において貫通転位密度が5×10/cm以下であるSiC単結晶インゴットを製造することができる。このSiC単結晶インゴットを通常の基板加工(円筒加工、スライス~研磨)を行うことでSiC基板を得ることができる。
【符号の説明】
【0042】
1 SiC単結晶基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6