(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178276
(43)【公開日】2023-12-14
(54)【発明の名称】樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物、樹脂金属複合体、車輛用部材、電装部品、筐体用部材、スマ-トフォンの筐体用部材及び車輛用電装部品の筐体用部材
(51)【国際特許分類】
C08L 67/02 20060101AFI20231207BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20231207BHJP
C08L 53/00 20060101ALI20231207BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20231207BHJP
【FI】
C08L67/02
B29C45/14
C08L53/00
C08L69/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】19
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091926
(22)【出願日】2023-06-02
(31)【優先権主張番号】P 2022090082
(32)【優先日】2022-06-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000707
【氏名又は名称】弁理士法人市澤・川田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 莉奈
【テーマコード(参考)】
4F206
4J002
【Fターム(参考)】
4F206AA25
4F206AA45
4F206AD03
4F206AD28
4F206AD29
4F206AH17
4F206AH42
4F206JA07
4F206JB12
4F206JF01
4F206JF05
4J002BP00Z
4J002CF07W
4J002CF07X
4J002CG03Y
4J002FD010
4J002FD030
4J002FD090
4J002FD13Y
4J002GN00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】金属製部材と接合して樹脂金属複合体を形成するのに適したポリブチレンテレフタレ-ト組成物において、耐熱性に優れ、特に耐ヒ-トショック試験後の気密強度に優れたポリブチレンテレフタレ-ト組成物を提供する。
【解決手段】表面に凹凸を有する金属製部材(X)の該表面凹凸を有する表面側と、樹脂組成物からなる樹脂製部材(Y)とが接合してなる構成を備えた樹脂金属複合体形成用の樹脂組成物であって、ポリブチレンテレフタレ-トを主成分樹脂として含み、さらにポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-を含むことを特徴とする、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に凹凸(「表面凹凸」と称する)を有する金属製部材(X)の該表面凹凸を有する表面側と、樹脂組成物からなる樹脂製部材(Y)とが接合してなる構成を備えた樹脂金属複合体形成用の樹脂組成物であって、
ポリブチレンテレフタレ-トを主成分樹脂として含み、さらにポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-を含むことを特徴とする、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項2】
前記ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-はいずれも、ガラス転移温度が50℃以下のポリマ-である、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項3】
前記ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-として、3種類以上のポリマ-を含む、請求項2に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項4】
前記スチレン系エラストマ-が、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)である、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項5】
前記スチレン系エラストマ-のうちの少なくとも1種が、230℃、2.16kgの条件で測定した際のメルトボリュームフロ-レイト(MVR)が50cm3/10min以上である、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項6】
前記ポリエステル系エラストマーのうちの少なくとも1種が、250℃、2.16kgの条件で測定した際のメルトボリュームフローレイト(MVR)が50cm3/10min以上である、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項7】
前記ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-のガラス転移温度の差が30℃以上である、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項8】
さらに臭素化ポリカ-ボネ-トを含む、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項9】
前記金属製部材(X)の表面凹凸は、化学薬液による処理により形成されたものである、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項10】
前記金属製部材(X)の表面凹凸は、レ-ザ-による処理により形成されたものである、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項11】
前記金属製部材(X)の表面凹凸は、化学薬液による被膜を最表面層として備えたものである請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項12】
前記金属製部材(X)の前記表面は、JIS B 0601:2001に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.01~200μmである、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項13】
前記金属製部材(X)の前記表面は、JIS B 0601:2001に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.01~100μmである、請求項1に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物。
【請求項14】
表面凹凸を有する金属製部材(X)と、請求項1~13の何れか一項に記載の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物からなる樹脂製部材(Y)とからなり、金属製部材(X)の表面凹凸を有する表面側と前記樹脂製部材(Y)とが接合してなる構成を備えた樹脂金属複合体。
【請求項15】
請求項14に記載の樹脂金属複合体からなる、車輛用部材。
【請求項16】
請求項14に記載の樹脂金属複合体からなる、電装部品。
【請求項17】
請求項14に記載の樹脂金属複合体からなる、筐体用部材。
【請求項18】
請求項14に記載の樹脂金属複合体からなる、スマ-トフォンの筐体用部材。
【請求項19】
請求項14に記載の樹脂金属複合体からなる、車輛用電装部品の筐体用部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレ-ト(「PBT」とも称する)を主成分樹脂とするポリブチレンテレフタレ-ト組成物であって、金属製部材と接合して樹脂金属複合体を形成するのに適した樹脂金属複合体用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物、及び、これを用いた樹脂金属複合体、車輛用部材、電装部品、筐体用部材、スマ-トフォンの筐体用部材及び車輛用電装部品の筐体用部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車部品や民生部品などの分野では、軽量化やリサイクル等の環境面などを考慮して、金属製品を樹脂製品に変更する方向性で開発が進められている。樹脂製品の中でも、ポリエステル製品は、機械的強度、耐薬品性及び電気絶縁性等に優れており、優れた耐熱性、成形性、リサイクル性も有していることから、各種の機器部品に広く用いられている。特にポリブチレンテレフタレ-トに代表される熱可塑性ポリエステル樹脂は、機械的強度や成形性に優れ、難燃化が可能でもあることから、火災安全性の必要とされる電気電子機器部品等に広く使用されている。
【0003】
しかし、樹脂製品の場合には放熱性が劣るため、電気電子機器部品や自動車部品等の分野では、アルミニウムや鉄などの金属製部材と、樹脂製部材とが接合した樹脂金属複合体の開発が進められている。この種の樹脂金属複合体は一般的に、樹脂製品に比べて、強度、静電防止性、熱伝導性、放熱性及び電磁波シ-ルド性の観点において優れたものとすることができる。
【0004】
このような樹脂金属複合体に関して、例えば特許文献1には、金属製部材などとインサ-ト成形するのに適したポリエステル樹脂組成物として、ポリエステル樹脂100重量部に対して、アクリルゴムを0.5~40重量部、エポキシ化合物を0.1~20重量部、及び有機アルカリ土類金属塩を0.001~1重量部含有するものが開示されている。
【0005】
特許文献2には、金属製部材などのインサ-ト部材と樹脂部材とを備えるインサ-ト成形品であって、上記樹脂部材の原料として、ポリブチレンテレフタレ-トに、特定の分子量を有するハロゲン化エポキシ化合物、酸化アンチモン化合物、及び、カルボジイミド化合物を配合したポリブチレンテレフタレ-ト組成物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、インサ-ト成形品が提供可能なポリブチレンテレフタレ-ト組成物として、ポリブチレンテレフタレ-ト100質量部に対し、非晶性ポリエステル樹脂0.5~15質量部、酸変性されたオレフィン系エラストマ-および酸変性されたスチレン系エラストマ-から選ばれる少なくとも1種の酸変性エラストマ-0.5~20質量部、および充填剤10~100質量部を含むポリブチレンテレフタレ-ト組成物が開示されている。
【0007】
特許文献4には、インサ-ト成形などにより、金属製部材と樹脂からなる金属樹脂複合体であって、金属製部材の表面は凹凸化処理が施されており、前記樹脂が、ポリブチレンテレフタレ-ト100質量部に対し、ポリエステル系エラストマ-を15~50質量部及び臭素系難燃剤(C)を5~40質量部含有するポリブチレンテレフタレ-ト組成物であることを特徴とする金属樹脂複合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2005-240003号公報
【特許文献2】WO2012/147811号公報
【特許文献3】特開2017-197676号公報
【特許文献4】特開2018-58231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来知られている樹脂金属複合体に関しては、金属製部材と樹脂製部材との接合状態が十分に安定していなかったため、その用途を広げることが困難であった。特に自動車用途に用いられるには課題を抱えていた。自動車用途においては、耐熱性が要求されるため、例えば、耐ヒ-トショック試験後の気密強度に優れることが要求されている。
【0010】
そこで本発明の目的は、表面凹凸を有する金属製部材と接合して樹脂金属複合体を形成するのに適したポリブチレンテレフタレ-ト組成物に関し、耐熱性に優れ、特に耐ヒ-トショック試験後の気密強度に優れたポリブチレンテレフタレ-ト組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明が提案するポリブチレンテレフタレ-ト組成物は、上記課題を解決するために、次の構成を有する。
【0012】
[1] 本発明の第1の態様は、表面に凹凸(「表面凹凸」と称する)を有する金属製部材(X)の該表面凹凸を有する表面側と、樹脂組成物からなる樹脂製部材(Y)とが接合してなる構成を備えた樹脂金属複合体形成用の樹脂組成物であって、
ポリブチレンテレフタレ-トを主成分樹脂として含み、さらにポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-を含むことを特徴とする、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0013】
[2] 本発明の第2の態様は、前記第1の態様において、前記ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-はいずれも、ガラス転移温度が50℃以下のポリマ-である、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0014】
[3] 本発明の第3の態様は、前記第1又は第2の態様において、前記ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-として、3種類以上のポリマ-を含む、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0015】
[4] 本発明の第4の態様は、前記第1~第3の何れか一の態様において、前記スチレン系エラストマ-が、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)である、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0016】
[5] 本発明の第5の態様は、前記第1~第4の何れか一の態様において、前記スチレン系エラストマ-のうちの少なくとも1種が、230℃、2.16kgの条件で測定した際のメルトボリュームフロ-レイト(MVR)が50cm3/10min以上である、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0017】
[6] 本発明の第6の態様は、前記第1~第5の何れか一の態様において、前記ポリエステル系エラストマーのうちの少なくとも1種が、250℃、2.16kgの条件で測定した際のメルトボリュームフローレイト(MVR)が50cm3/10min以上である、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0018】
[7] 本発明の第7の態様は、前記第1~第6の何れか一の態様において、前記ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-のガラス転移温度の差が30℃以上である、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0019】
[8] 本発明の第8の態様は、前記第1~第7の何れか一の態様において、さらに臭素化ポリカ-ボネ-トを含む、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0020】
[9] 本発明の第9の態様は、前記第1~第8の何れか一の態様において、前記金属製部材(X)の表面凹凸が、化学薬液による処理により形成されたものである、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
[10] 本発明の第10の態様は、前記第1~第8の何れか一の態様において、前記金属製部材(X)の表面凹凸が、レ-ザ-による処理により形成されたものである、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
[11] 本発明の第11の態様は、前記第1~第10の何れか一の態様において、前記金属製部材(X)の表面凹凸が、化学薬液による被膜を最表面層として備えたものである樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0021】
[12] 本発明の第12の態様は、前記第1~第11の何れか一の態様において、前記金属製部材(X)の前記表面は、JIS B 0601:2001に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.01~200μmである、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
[13] 本発明の第13の態様は、前記第1~第11の何れか一の態様において、前記金属製部材(X)の前記表面は、JIS B 0601:2001に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.01~100μmである、樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物である。
【0022】
[14] 本発明の第14の態様は、表面凹凸を有する金属製部材(X)と、前記第1~第13の何れか一の態様の樹脂金属複合体形成用ポリブチレンテレフタレ-ト組成物からなる樹脂製部材(Y)とからなり、金属製部材(X)の表面凹凸を有する表面側と前記樹脂製部材(Y)とが接合してなる構成を備えた樹脂金属複合体である。
【0023】
[15] 本発明の第15の態様は、前記第14の態様の樹脂金属複合体からなる、車輛用部材である。
[16] 本発明の第16の態様は、前記第14の態様の樹脂金属複合体からなる、電装部品である。
[17] 本発明の第17の態様は、前記第14の態様の樹脂金属複合体からなる、筐体用部材である。
[18] 本発明の第18の態様は、前記第14の態様の樹脂金属複合体からなる、スマ-トフォンの筐体用部材である。
[19] 本発明の第19の態様は、前記第14の態様の樹脂金属複合体からなる、車輛用電装部品の筐体用部材である。
【発明の効果】
【0024】
本発明が提案するポリブチレンテレフタレ-ト組成物は、ポリブチレンテレフタレ-トを主成分樹脂として含み、さらにポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-を含むことにより、表面に凹凸を有する金属製部材(X)と接合して樹脂金属複合体を形成することができ、さらには、当該樹脂金属複合体を、耐ヒ-トショック試験後の気密強度に優れたものとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一例に係る樹脂金属複合体の部分断面斜視図である。
【
図3】(a)~(e)はいずれも、金属製部材(X)と樹脂製部材(Y)との接合様式を例示した断面図である。
【
図4】車輌用電装部品の筐体の一部として本樹脂金属複合体を適用した例を示した断面図である。
【
図5】実施例で作製した金属製部材の斜視図である。
【
図6】実施例で作製した樹脂金属複合体、すなわち気密性評価の試験体としての樹脂金属複合体の図であり、左図がその上面斜視図、右図がその断面図である。
【
図7】上記気密性評価に用いた圧力容器の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
次に、実施の形態例に基づいて本発明を説明する。但し、本発明が次に説明する実施形態に限定されるものではない。
【0027】
<<本PBT組成物>>
本発明の実施形態の一例に係るポリブチレンテレフタレ-ト組成物(「本PBT組成物」と称する)は、ポリブチレンテレフタレ-トを主成分樹脂として含み、さらにポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-を含むことを特徴とする樹脂組成物である。
【0028】
なお、前記「主成分樹脂」とは、本PBT組成物を構成する樹脂の中で最も含有質量の多い樹脂の意味であり、その含有量は、本PBT組成物100質量%に対して50質量%以上、中でも60質量%以上、中でも70質量%以上、中でも80質量%以上が想定される。
【0029】
本PBT組成物は、表面に凹凸(「表面凹凸」と称する)を有する金属製部材(X)の該表面凹凸を有する表面側と、樹脂組成物からなる樹脂製部材(Y)とが接合してなる構成を備えた樹脂金属複合体を形成するのに適した樹脂組成物である。
【0030】
(ポリブチレンテレフタレ-ト)
本PBT組成物が含有するポリブチレンテレフタレ-トは、テレフタル酸単位が全ジカルボン酸単位の80モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましい。
ジオ-ル単位としては、1,4-ブタンジオ-ルのほかに1種または2種以上の他のジオ-ル単位を含んでいてもよい。
【0031】
他のジオ-ル単位の具体例としては、炭素数2~20の脂肪族または脂環族ジオ-ル類、ビスフェノ-ル誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコ-ル、プロピレングリコ-ル、1,5-ペンタンジオ-ル、1,6-へキサンジオ-ル、ネオペンチルグリコ-ル、デカメチレングリコ-ル、シクロヘキサンジメタノ一ル、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノ一ルAのエチレンオキシド付加ジオ-ル等が挙げられる。また、上記のような二官能性モノマ-以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリト-ル、トリメチロ-ルプロパン等の三官能性モノマ-や分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0032】
本実施形態で用いるポリブチレンテレフタレ-トは、1,4-ブタンジオ-ル単位が全ジオ-ル単位の85モル%以上を占めることが好ましく、90モル%以上を占めることがより好ましい。
【0033】
ポリブチレンテレフタレ-トは、上記した通り、テレフタル酸と1,4-ブタンジオ-ルとを重縮合させたポリブチレンテレフタレ-ト単独重合体が好ましい。
【0034】
ポリブチレンテレフタレ-トはまた、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上および/またはジオ-ル単位として、前記1,4-ブタンジオ-ル以外のジオ-ル1種以上を含むポリブチレンテレフタレ-ト共重合体であってもよい。このように、ポリブチレンテレフタレ-トが、共重合により変性したポリブチレンテレフタレ-トである場合、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコ-ル類、特にはポリテトラメチレングリコ-ルを共重合したポリエステルエ-テル樹脂や、ダイマ-酸共重合ポリブチレンテレフタレ-ト、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレ-トが挙げられる。中でも、ポリテトラメチレングリコ-ルを共重合したポリエステルエ-テル樹脂を用いることが好ましい。
なお、これらの共重合体は、共重合成分(;テレフタル酸以外のジカルボン酸及び1,4-ブタンジオ-ル以外のジオ-ル)の量が、ポリブチレンテレフタレ-ト全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合成分量が、好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、さらに好ましくは5~20モル%である。このような共重合成分割合とすることにより、流動性、靱性、耐トラッキング性が向上しやすい傾向にあり、好ましい。
【0035】
ポリブチレンテレフタレ-トは、末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。上記上限値以下とすることにより、耐アルカリ性および耐加水分解性が抗向上する傾向にある。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレ-トの製造の生産性を考慮し、通常、10eq/ton以上である。
【0036】
なお、ポリブチレンテレフタレ-トの末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコ-ル25mLにポリブチレンテレフタレ-ト0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/Lのベンジルアルコ-ル溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0037】
ポリブチレンテレフタレ-トは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分またはこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオ-ルを主成分とするジオ-ル成分を、回分式または連続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレフタレ-トを製造した後、さらに窒素気流下または減圧下固相重合させることにより、重合度(または分子量)を所望の値まで高めることもできる。
ポリブチレンテレフタレ-トは、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオ-ルを主成分とするジオ-ル成分とを、連続式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
【0038】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネ-ト、テトライソプロピルチタネ-ト、テトラブチルチタネ-ト等のチタンアルコラ-ト、テトラフェニルチタネ-ト等のチタンフェノラ-ト等を挙げることができる。
【0039】
ポリブチレンテレフタレ-トの固有粘度は、0.5~2dL/gであるのが好ましい。固有粘度を0.5dL/g以上とすることにより、得られる樹脂組成物の機械強度がより向上する傾向にある。また、2dL/g以下とすることにより、樹脂組成物の流動性がより向上し、成形性が向上する傾向にある。
ポリブチレンテレフタレ-トの固有粘度は、成形性および機械的特性の観点から、0.6~1.5dL/gの範囲の固有粘度を有するものがより好ましい。
なお、ポリブチレンテレフタレ-トの固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノ-ルとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定する値である。
【0040】
ポリブチレンテレフタレ-トのガラス転移温度は、成形性の観点から、30℃以上であるのが好ましく、中でも40℃以上であるのがさらに好ましい。他方、ヒ-トショック性の観点から、70℃以下であるのが好ましく、中でも60℃以下であるのがさらに好ましい。
【0041】
なお、本発明において「ガラス転移温度(Tg)」は、示差走査熱量計(DSC)を用いて測定されるガラス転移温度の意味である。測定条件は、例えば測定温度範囲-90~100℃、温度上昇速度10℃/分である。
【0042】
ポリブチレンテレフタレートの250℃、2.16kgの条件で測定した際のメルトボリュームフローレイト(MVR)は、流動性を高めて凹凸表面に対する初期接合強度や気密性を高め、かつ難燃性も良好になる観点から、1cm3/10min以上であるのが好ましく、中でも2cm3/10min以上、その中でも5cm3/10min以上であるのがさらに好ましい。他方、強度の観点から、250cm3/10min以下であるのが好ましく、中でも200cm3/10min以下、その中でも150cm3/10min以下、その中でも100cm3/10min以下であるのがさらに好ましい。
【0043】
(ポリエステル系エラストマ-)
ポリブチレンテレフタレ-トは結晶性が高く結晶化速度が速すぎるので、単独では金属の凹凸表面への接合性は良くない。このポリブチレンテレフタレ-トにポリエステル系エラストマ-を配合して、結晶化温度を低めにコントロ-ルすることにより、金属凹凸表面への接合性が向上する。
結晶化温度が高いと、ポリブチレンテレフタレ-トは金属凹凸表面内の凹部に注入されると直ちに固化してしまい凹部の奥まで十分に到達できず、接合力の強化には結びつきにくい。一方、結晶化温度が低いと、金属凹凸表面内の凹部に深く入り込むことができ、凹部内部の空間に十分充填された上でゆっくり固化することになり、強固な接合強度を達成できると考えられる。
【0044】
本PBT組成物が含有するポリエステル系エラストマ-は、常温でゴム特性をもつ熱可塑性ポリエステルであればよい。
好ましい一例として、ポリエステル系ブロック共重合体を主成分とした熱可塑性エラストマ-を挙げることができる。中でも、ハ-ドセグメントとして高融点・高結晶性の芳香族ポリエステル、ソフトセグメントとして非晶性ポリエステルや非晶性ポリエ-テルを有するブロック共重合体であるものが好ましい。
ハ-ドセグメントとしては、成形加工性、耐薬品性、耐老化性などの観点から芳香族ポリエステルであることが好ましく、例えば、ポリブチレンテレフタレ-ト、ポリエチレンテレフタレ-ト、ポリエチレンナフタレ-トなどが挙げられ、その中でも、ポリブチレンテレフタレ-トが特に好ましい。
ソフトセグメントとしては、例えば、分子量が200~5000の範囲にある脂肪族ポリエ-テル、例えばポリテトラメチレングリコ-ル、ポリプロピレングリコ-ル又はポリエチレングリコ-ル等と、テレフタル酸(またはテレフタル酸ジメチル)との重縮合にポリエステルや、ポリカプロラクトンやポリブチレンアジペ-トなどの脂肪族ポリエステル等がある。中でも、ポリテトラメチレングリコ-ルが好ましい。
【0045】
ポリエステル系エラストマ-のソフトセグメントの含有量は、好ましくは全セグメント中の10~95wt%である。ポリブチレンテレフタレ-トとポリテトラメチレングリコ-ルのブロック共重合体の場合は好ましくは10~50wt%であり、より好ましくは10~40wt%である。
ポリエステル系エラストマ-は、ポリエステルエ-テルブロック共重合体、特にポリテトラメチレングリコ-ル-ポリブチレンテレフタレ-ト共重合体が特に好ましい。
【0046】
ポリエステル系エラストマ-は、結晶性を有するものが好ましい。例えば、示差走査熱量計(DSC)を用いて-100℃から300℃まで20℃/minの速度で昇温した後、液体窒素により直ちに冷却し、次に-100℃から300℃まで20℃/minの速度で再度昇温したときに、2度の昇温過程の少なくともいずれかで明確な融解ピークを示すものが好ましい。
【0047】
なお、本発明において、ポリエステル系エラストマ-は常温でゴム特性をもつ熱可塑性ポリエステルであり、一方、ポリブチレンテレフタレ-トは高融点・高結晶性のポリエステル樹脂であって、両者は相違しており、両者は重複するものではない。
【0048】
ポリエステル系エラストマ-の固有粘度は、0.3~3.0dL/gであるのが好ましく、中でも0.7dL/g以上或いは2.0dL/g以下、その中でも0.9dL/g以上或いは2.0dL/g以下であるのがさらに好ましい。固有粘度が高すぎると流動性が不足や異材との接合性が悪化することがあり、固有粘度が低すぎると靱性が乏しくなり、かつ耐ヒ-トショック性が悪化することがある。
【0049】
ポリエステル系エラストマ-のガラス転移温度は、成形性の観点から、-50℃以上であるのが好ましく、中でも-10℃以上、その中でも10℃以上であるのがさらに好ましい。他方、耐ヒ-トショック性の観点から、50℃以下であるのが好ましく、中でも40℃以下、その中でも30℃以下であるのがさらに好ましい。
【0050】
ポリエステル系エラストマ-の250℃、2.16kgの条件で測定した際のメルトボリュ-ムフロ-レイト(MVR)は、流動性を高めて凹凸表面に対する初期接着強度、ヒートショック試験後の接合強度や気密性を高め、かつ難燃性を良好にする観点から、20cm3/10min以上であるのが好ましく、中でも30cm3/10min以上、その中でも50cm3/10min以上、その中でも70cm3/10min以上、その中でも80cm3/10min以上、さらにその中でも85cm3/10min以上であるのがさらに好ましい。他方、強度の観点から、100cm3/10min以下であるのが好ましく、中でも95cm3/10min以下、その中でも90cm3/10min以下であるのがさらに好ましい。
【0051】
本PBT組成物において、ポリエステル系エラストマ-の含有量(2種類以上含む場合はその合計量)は、ポリブチレンテレフタレ-ト100質量部に対して3質量部以上であるのが好ましく、中でも5質量部以上、その中でも10質量部以上、その中でも15質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、50質量部以下であるのが好ましく、中でも40質量部以下、その中でも25質量部以下であるのが気密性、接合強度と難燃性、成形性のバランスからさらに好ましい。
【0052】
(スチレン系エラストマ-)
本PBT組成物は、ポリエステル系エラストマ-に加えてスチレン系エラストマ-を含むことにより、金属製部材(X)の表面凹凸に対する良好な接合性を維持することができ、しかも、耐ヒ-トショック試験後の気密強度に優れたものとすることができる。
【0053】
スチレン系エラストマ-は、分子中に少なくとも1個のスチレンブロックと、少なくとも1個の共役ジエンブロックまたはイソブチレンブロックを有していればよく、その構造は特に限定されない。例えば、直鎖状のABA型トリブロック構造、AB型ジブロック構造や、2以上に枝分かれした分岐鎖状または星型のいずれの分子鎖形態を有していてもよい。
【0054】
スチレン系エラストマ-は、スチレンブロックと共役ジエンブロックからなる共重合体、当該共重合体の水素添加物、およびスチレンブロックとイソブチレンブロックからなる共重合体からなる群から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0055】
スチレンブロックを構成するモノマ-の例としては、スチレン、α-メチルスチレン、2-メチルスチレン、4-メチルスチレン、4-プロピルスチレン、4-t-ブチルスチレン、4-シクロヘキシルスチレン、4-ドデシルスチレン、2-エチル-4-ベンジルスチレン、4-(フェニルブチル)スチレン、2,4,6-トリメチルスチレン、モノフルオロスチレン、ジフルオロスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、メトキシスチレン、t-ブトキシスチレン等のスチレン類;1-ビニルナフタレン、2-ビニルナフタレン等のビニルナフタレン類などのビニル基含有芳香族化合物;インデン、アセナフチレン等のビニレン基含有芳香族化合物などを挙げることができる。スチレンブロックを構成するモノマ-単位は1種のみでもよく、2種類以上であってもよいが、中でもスチレンまたはスチレンから誘導される単位からなっているものが特に好ましい。
【0056】
また、スチレンブロックは、芳香族環を水素化したものでもよく、一般には、ブロック共重合体を製造した後に、当該共重合体を水素化して得ることができる。芳香族環の水素化率は、本フィルムのガスバリア性向上の観点から、50モル%以上が好ましく、80モル%以上がより好ましい。芳香族環の水素化方法や反応形態などは特に限定されないが、水素化率を高め、また重合体鎖切断反応の少ない方法が好ましい。
【0057】
共役ジエンブロックを構成するモノマ-の例としては、1,3-ブタジエン、イソプレン、2,3-ジメチル-1,3-ブタジエン、1,3-ペンタジエン、2-メチル-1,3-ペンタジエン、1,3-ヘキサジエン、4,5-ジメチル-1,3-オクタジエン、クロロプレン等が挙げられる。また、共役ジエンブロックは、水素化したものでもよく、一般には、ブロック共重合体を製造した後に、当該共重合体を水素添加反応させ得ることができる。
【0058】
スチレンブロックと共役ジエンブロックとの共重合体および当該共重合体の水素添加物の具体例としては、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重体(SBS)、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン-エチレン-プロピレン共重合体(SEP)、スチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン-エチレン-ブチレン-スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。
【0059】
スチレン系エラストマ-は、酸無水物基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基、イソシアネ-ト基及びエポキシ基から選ばれた少なくとも1種の官能基を含有させてなる官能基変性共重合体でもよい。また、変性共重合体と未変性共重合体との混合物を用いることもできる。
【0060】
スチレン系エラストマ-のスチレン単位は、耐ヒ-トショック試験後の気密性の観点から、10質量%以上であるのが好ましく、中でも20質量%以上、その中でも25質量%以上であるのがさらに好ましい。他方、成形性の観点から、80質量%以下であるのが好ましく、中でも50質量%以下、その中でも40質量%以下であるのがさらに好ましい。
【0061】
スチレン系エラストマ-のガラス転移温度は、成形性の観点から、-100℃以上であるのが好ましく、中でも-80℃以上、その中でも-70℃以上であるのがさらに好ましい。他方、耐ヒ-トショック試験後の気密性の観点から、50℃以下であるのが好ましく、中でも0℃以下、その中でも-30℃以下であるのがさらに好ましい。
中でも、2種類以上のスチレン系エラストマ-を含む場合、そのうちの一つのスチレン系エラストマ-のガラス転移温度は、成形性の観点から、-80℃以上であるのが好ましく、中でも-70℃以上、その中でも-65℃以上であるのがさらに好ましい。他方、耐ヒ-トショック試験後の気密性の観点から、50℃以下であるのが好ましく、中でも-20℃以下、その中でも-30℃以下であるのがさらに好ましい。
【0062】
スチレン系エラストマ-の230℃、2.16kgの条件で測定した際のメルトボリュームフロ-レイト(MVR)は、流動性を高めて凹凸表面に対する初期接合強度を高め、かつ長期試験後の気密性、難燃性とのバランスの観点から、1cm3/10min以上であるのが好ましく、中でも20cm3/10min以上、その中でも50cm3/10min以上、中でも80cm3/10min以上であるのがさらに好ましい。他方、物性の観点から、200cm3/10min以下であるのが好ましく、中でも150cm3/10min以下、その中でも100cm3/10min以下であるのがさらに好ましい。
中でも、2種類以上のスチレン系エラストマ-を含む場合、そのうちの一つのスチレン系エラストマ-の230℃、2.16kgの条件で測定した際のメルトボリュームフロ-レイト(MVR)は、流動性を高めて凹凸表面に対する初期接合強度を高め、かつ長期試験後の気密性、難燃性とのバランスの観点から、50cm3/10min以上であるのが好ましく、中でも70cm3/10min以上、その中でも80cm3/10min以上であるのがさらに好ましい。他方、物性の観点から、200cm3/10min以下であるのが好ましく、中でも150cm3/10min以下、その中でも100cm3/10min以下であるのがさらに好ましい。
【0063】
本PBT組成物において、スチレン系エラストマ-の含有量(2種類以上含む場合はその合計量)は、ポリブチレンテレフタレ-ト100質量部に対して5質量部以上であるのが好ましく、中でも10質量部以上、その中でも15質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、50質量部以下であるのが好ましく、中でも30質量部以下、その中でも20質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0064】
(2種類のエラストマ-)
本PBT組成物は、上述のように、表面凹凸を有する金属製部材(X)の表面凹凸への接合性、気密性を向上させ、難燃性も付与することが出来、さらには、接合して樹脂金属複合体を形成した後、耐ヒ-トショック試験後の気密強度を高める観点から、前記ポリエステル系エラストマ-及び前記スチレン系エラストマ-からなる2種類以上のエラストマ-を含有するのが好ましい。
【0065】
さらに耐ヒ-トショック試験後の気密強度を高める観点から、本PBT組成物において、スチレン系エラストマ-の含有量(2種類以上の場合はその合計含有量)は、ポリエステル系エラストマ-の含有量(2種類以上の場合はその合計含有量)100質量部に対して、30質量部以上であるのが好ましく、中でも50質量部以上、その中でも70質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、150質量部以下であるのが好ましく、中でも100質量部以下、その中でも90質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0066】
前記ポリエステル系エラストマ-及び前記スチレン系エラストマ-はいずれも、耐ヒ-トショック試験後の気密強度を高める観点から、ガラス転移温度が50℃以下のポリマ-であるのが好ましい。
さらに、耐ヒ-トショック試験後の気密強度を高める観点から、ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-のガラス転移温度の差は30℃以上であるのが好ましく、中でも50℃以上、その中でも75℃以上であるのがさらに好ましい。
さらに、耐ヒ-トショック試験後の気密強度を高める観点から、ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-の何れか一つのガラス転移温度は、0℃以下であるのが好ましく、中でも-30℃以下、その中でも-40℃以下であるのがさらに好ましい。
【0067】
また、耐ヒ-トショック試験後の気密強度を高める観点から、前記ポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-として、3種類以上のポリマ-を含むのがさらに好ましい。
この際、前記ポリエステル系エラストマ-を2種類以上含んでも、スチレン系エラストマ-を2種類以上含んでもよい。中でも耐ヒ-トショック試験後の気密性の観点から、スチレン系エラストマ-を2種類以上含むのが好ましい。
その際、2種類以上のスチレン系エラストマ-のうちの少なくとも一種は、スチレン-エチレン-プロピレンブロック共重合体(SEPS)であるものが好ましく、少なくとも一種は、スチレン-エチレン-エチレン-プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEEPS)であるものが好ましい。
【0068】
(その他のエラストマー)
本PBT組成物は、ポリエステル系エラストマー及びスチレン系エラストマーの他に、その他のエラストマーを含ませることができる。
その他のエラストマーとしては、例えば、メチルメタクリレート-アクリレート-メチルメタクリレート(MAM)、酸変性オレフィン系エラストマー、アクリル系コアシェルゴムなどを挙げることができる。
【0069】
(難燃剤)
本PBT組成物は、難燃剤を含むのが好ましい。
難燃剤としては、例えば水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウムなどの水和金属系化合物、臭素や塩素を含有するハロゲン系化合物、単体の赤リンや、リンを含む無機化合物や有機化合物などのリン系化合物、炭酸アンモニウムのような窒素含有無機化合物やメラミンシアヌレ-トのような窒素含有有機化合物などの窒素系化合物、シリコン系化合物などを挙げることができる。
中でも、本PBT組成物においては、熱安定性の良好な点より、臭素を含有する化合物、例えば臭素化ポリアクレ-ト系難燃剤、テトラブロモビスフェノ-ルAのエポキシオリゴマ-等の臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカ-ボネ-トが好ましい。
その中でも特に臭素化ポリカ-ボネ-トは、耐ヒ-トショック試験後の気密強度を高める観点から、特に好ましい。作用機構は不明であるが、本PBT組成物に臭素化ポリカ-ボネ-トを配合すると、耐ヒ-トショック試験後の気密強度がより一層高まることが確認されている。
【0070】
前記臭素化ポリカ-ボネ-ト系難燃剤としては、例えば、臭素化ビスフェノ-ルA、特にテトラブロモビスフェノ-ルAから得られる、臭素化ポリカ-ボネ-トであることが好ましい。その末端構造は、フェニル基、4-t-ブチルフェニル基や2,4,6-トリブロモフェニル基等が挙げられる。特に、末端基構造に2,4,6-トリブロモフェニル基を有するものが好ましい。
【0071】
臭素化ポリカ-ボネ-ト系難燃剤における、カ-ボネ-ト繰り返し単位数の平均は適宜選択して決定すればよく、2~30であるのが好ましい。カ-ボネ-ト繰り返し単位数の平均が小さいと、溶融時に本PBT組成物の主成分樹脂であるPBTの分子量低下を引き起こす場合がある。逆に大きすぎても溶融粘度が高くなり、成形体内の分散不良を引き起こし、成形体外観、特に光沢性が低下する場合がある。よってこの繰り返し単位数の平均は、中でも3~15、特に3~10であることがさらに好ましい。
【0072】
臭素化ポリカ-ボネ-ト系難燃剤の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、好ましくは、粘度平均分子量で1000~20000であるのが好ましく、中でも2000以上或いは10000以下であるのがさらに好ましい。
【0073】
本PBT組成物が難燃剤を含む場合、難燃剤、例えば臭素化ポリカ-ボネ-トの含有量(2種類以上含む場合はその合計量)は、ポリブチレンテレフタレ-ト100質量部に対して10質量部以上であるのが好ましく、中でも20質量部以上、その中でも25質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、50質量部以下であるのが好ましく、中でも40質量部以下、その中でも30質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0074】
(難燃助剤)
本PBT組成物は、難燃助剤を含むのが好ましい。
難燃助剤としては、例えばアンチモンを含む化合物、具体的には、三酸化アンチモン(Sb2O3)、四酸化アンチモン、五酸化アンチモン(Sb2O5)等の酸化アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、燐酸アンチモンなどが挙げられる。そのほか、酸化銅、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、酸化モリブデン、酸化ジルコニウム、酸化スズ、酸化鉄、酸化チタン、酸化アルミニウム、硼酸亜鉛等が挙げられる。
【0075】
難燃助剤の含有量は、難燃剤1質量部に対し、0.3~1.1質量部の割合で含有するのが好ましく、中でも0.3質量部以上或いは1.0質量部以下の割合で含有するのがより好ましい。
具体的な一例として、臭素化ポリカ-ボネ-ト100質量部に対して三酸化アンチモン(Sb2O3)を30~100質量部で含有するのが好ましく、中でも31質量部以上或いは80質量部以下、その中でも32質量部以上或いは50質量部以下の割合で含有するのが好ましい。さらに、難燃助剤はポリブチレンテレフタレート樹脂または、ポリエチレンテレフタレート樹脂とのマスターバッチを作成し、マスターバッチとして組成物中に配合することで、難燃性のばらつきを減らすことが出来る。
【0076】
(安定剤)
本PBT組成物は、さらに安定剤を含有してもよい。
安定剤としては、例えばリン系安定剤、フェノ-ル系安定剤、硫黄系安定剤等、種々の安定剤が挙げられる。特に好ましいのはヒンダ-ドフェノ-ル系安定剤やリン系安定剤である。
【0077】
本PBT組成物が安定剤を含む場合、安定剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレ-ト100質量部に対して0.01質量部以上であるのが好ましく、中でも0.05質量部以上であるのがさらに好ましい。他方、1質量部以下であるのが好ましく、中でも0.8質量部以下、その中でも0.6質量部以下であるのがさらに好ましい。
【0078】
(強化充填材)
本PBT組成物は、さらに、強化充填材を含有してもよい。
強化充填材としては、常用のプラスチック用無機充填材を用いることができる。好ましくはガラス繊維、炭素繊維、玄武岩繊維、ウォラストナイト、チタン酸カリウム繊維などの繊維状の充填材を用いることができる。また炭酸カルシウム、酸化チタン、長石系鉱物、クレ-、有機化クレ-、ガラスビ-ズなどの粒状または無定形の充填材;タルクなどの板状の充填材;ガラスフレ-ク、マイカ、グラファイトなどの鱗片状の充填材を用いることもできる。
中でも、金属樹脂複合体の接合性、機械的強度、剛性および耐熱性の点からガラス繊維を用いるのが好ましい。
【0079】
前記ガラス繊維の種類は、特に制限はなく、例えばEガラス、Cガラス、Aガラス、Sガラス等のガラス繊維を挙げることができる。これらの中で、Eガラスの繊維が本PBT組成物の熱安定性に悪影響を及ぼさない点で好ましい。
ガラス繊維は、要求される特性に応じて2種以上を併用してもよい。
【0080】
ガラス繊維等の強化充填材は、通常はこれらの繊維を多数本集束したものを、所定の長さに切断したチョップドストランド(チョップドガラス繊維等)として用いることが好ましく、このとき強化充填材には収束剤を配合することが好ましい。収束剤を配合することで、本PBT組成物の生産安定性が高まる利点に加え、良好な機械物性を得ることができる。
強化充填材の集束剤としては特に制限はなく、例えば酢酸ビニル樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂などの樹脂エマルジョン等を挙げることができ、好ましくはアクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂である。
【0081】
強化充填材は、カップリング剤等の表面処理剤によって、表面処理されたものを用いることがより好ましい。表面処理剤が付着したガラス繊維は、耐久性、耐湿熱性、耐加水分解性、耐ヒ-トショック性に優れるので好ましい。
【0082】
表面処理剤としては、従来公知の任意のものを使用でき、具体的には、例えば、アミノシラン系、エポキシシラン系、アリルシラン系、ビニルシラン系等のシラン系カップリング剤が好ましく挙げられる。
これらの中では、アミノシラン系表面処理剤が好ましく、具体的には例えば、γ-アミノプロピルトリエトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン及びγ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシランが好ましい例として挙げられる。
【0083】
また、表面処理剤として、ノボラック型等のエポキシ樹脂、ビスフェノ-ルA型のエポキシ樹脂等も好ましく挙げられる。中でもノボラック型エポキシ樹脂が好ましい。
シラン系表面処理剤とエポキシ樹脂は、それぞれ単独で用いても複数種で用いてもよく、両者を併用することも好ましい。
【0084】
強化充填材の平均繊維径(Fd)は、1~100μmの範囲で選ぶことが好ましい。強化充填材の平均繊維径が1μm以上であれば、製造が容易であり、コスト高を抑えることができる。その一方、100μm以下であれば、強化充填材の引張強度を維持することができる。
中でも、接合強度を高める観点から、強化充填材の平均繊維径は、4~18μmであるのがより好ましく、中でも5~15μm、その中でも6~14μmであるのがさらに好ましい。
なお、繊維断面は円形であっても扁平状であっても構わない。
【0085】
強化充填材の含有量は、ポリブチレンテレフタレ-ト100質量部に対して0~100質量部であればよい。含有量が少なすぎると補強効果が十分でない場合があり、また多すぎると外観や耐衝撃性が劣り、流動性が十分でない場合があるから、好ましくは5質量部以上或いは90質量部以下であり、より好ましくは15質量部以上或いは85質量部以下、さらに好ましくは30質量部以上或いは80質量部以下、特には35質量部以上或いは78質量部以下である。
【0086】
(その他の成分)
本PBT組成物は、上記した以外の他の添加剤あるいは他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。その他の添加剤としては、その他の熱可塑性樹脂、着色剤、離型剤、滴下防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、防曇剤、滑剤、アンチブロッキング剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤等が挙げられる。
【0087】
なお、上記のその他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレ-ト樹脂、ポリアミド樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリサルホン樹脂、ポリエ-テルサルホン樹脂、ポリエ-テルイミド樹脂、ポリエ-テルケトン樹脂、フッ素樹脂等が挙げられる。
ポリブチレンテレフタレ-トに対する他の熱可塑性樹脂の割合は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。
【0088】
(本PBT組成物の製造方法)
本PBT組成物の製造方法としては、樹脂組成物調製の常法に従って行うことができる。通常は各成分及び所望により添加される種々の添加剤を一緒にしてよく混合し、次いで一軸又は二軸押出機で溶融混練する。また各成分を予め混合することなく、ないしはその一部のみを予め混合し、フィ-ダ-を用いて押出機に供給して溶融混練し、本PBT組成物を調製することもできる。
なお、ガラス繊維等の繊維状の強化充填材を用いる場合には、押出機のシリンダ-途中のサイドフィ-ダ-から供給することも好ましい。
【0089】
溶融混練に際しての加熱温度は、通常220~300℃の範囲から適宜選ぶことができる。温度が高すぎると分解ガスが発生しやすく、それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュ-構成の選定が望ましい。
【0090】
本PBT組成物は、結晶化温度(Tc)が210℃以下であることが好ましい。前述したように、結晶化温度(Tc)を低めにコントロ-ルすることにより、インサ-ト成形による金属部材との接合性が向上する傾向にある。結晶化温度(Tc)はより好ましくは205℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。また、その下限は、通常160℃、好ましくは165℃以上である。
【0091】
<金属製部材(X)>
前述のように、本PBT組成物は、表面凹凸を有する金属製部材(X)の該表面凹凸を有する表面側と、樹脂組成物からなる樹脂製部材(Y)とが接合してなる構成を備えた樹脂金属複合体を形成するのに適した樹脂組成物である。
そこで次に、金属製部材(X)について説明する。
【0092】
金属製部材(X)は、表面凹凸を有する表面(「凹凸表面」とも称する)を、全面又は一部に備えた金属製部材(X)である。
【0093】
金属製部材(X)を構成する金属としては、アルミニウム、鉄、銅、マグネシウム、錫、ニッケル、亜鉛等の各種金属、およびこれらの金属を含む合金が挙げられる。この中でも、アルミニウム、鉄、銅およびマグネシウム、ならびにこれらの金属を含む合金の少なくとも1種を含むことが好ましく、アルミニウムおよびアルミニウムを含む合金を含むことがより好ましい。
また、金属製部材(X)としては、これらの金属表面を金属、例えばニッケル、クロム、亜鉛、金等によりメッキされた部材であってもよい。
【0094】
金属製部材(X)の形状としては、特に制限はない。例えば平板状、曲板状、板状、棒状、筒状、塊状、シ-ト状、フィルム状等、あるいは所望する特定の形状に製作されたものが好ましく挙げられる。単一の平面や曲面に限定されず、段状部や凹部、凸部等、各種の形状を有していてもよい。
【0095】
金属製部材(X)の厚さとしては、特に制限はない。但し、製品設計の観点から、0.05~100mmの範囲であることが好ましく、中でも0.10mm以上或いは50mm以下、その中でも0.12mm以上或いは10mm以下であることがさらに好ましい。特に、アルミニウム板および鉄板の場合の厚みは、0.10~20mmであるのが好ましく、中でも0.2mm以上或いは10mm以下であるのがさらに好ましい。
なお、この際の「厚さ」は、金属製部材が平板状の場合は厚さが均一であるからその厚さであり、他方、平板状以外の場合、すなわち厚さが不均一である場合は、金属製部材(X)のうち、樹脂製部材(Y)とする接合する部分の中で最も薄い部分の厚さである。
【0096】
(凹凸表面)
金属製部材(X)の前記表面、すなわち樹脂製部材(Y)と接合する表面は、凹凸表面すなわち凹凸を有する表面であるのが好ましい。
【0097】
金属製部材(X)の前記表面、すなわち樹脂製部材(Y)と接合する表面は、初期気密性の観点から、JIS B 0601:2001に準拠して測定される算術平均粗さ(Ra)が0.01μm以上であるのが好ましく、中でも0.1μm以上、その中でも1μm以上、その中でも3μm以上であるのがさらに好ましい。他方、初期気密性の観点から、200μm以下であるのが好ましく、中でも150μm以下、その中でも100μm以下、その中でも60μm以下、その中でも30μm以下であるのがさらに好ましい。
また、同様の観点から、最大高さ(Rz)が0.1μm以上であるのが好ましく、中でも1μm以上、その中でも20μm以上、その中でも30μm以上であるのがさらに好ましい。他方、初期気密性の観点から、500μm以下であるのが好ましく、中でも250μm以下、その中でも180μm以下、その中でも100μm以下、その中でも50μm以下、であるのがさらに好ましい。
【0098】
金属製部材(X)の算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)は、表面処理した金属製部材(X)の凹凸表面を、ハイブリッドレ-ザ-マイクロスコ-プ(LASERTEC製OPTELICS HYBRID)の対物レンズ20倍で観察し、付属の解析ソフト(Lasertec Microscope Solution Software LMeye7)で、対物レンズ20倍で観察し、JIS B 0601:2001に準拠して表面粗さを計測することにより、算術平均粗さ(Ra)及び最大高さ(Rz)を算出することができる。
なお、実施例における具体的な計測は、縦45mm、横12mm、厚さ1.5mmの短冊状の金属板材の中心部における平均的な凹凸表面を計測アルゴリズムFine Peakを使用し、FZ像を得た。計測範囲は縦45mmの方向へ4.2mm長さとした。カットオフ値λcは0.8000mmである。任意の異なる場所で同じ操作を30回繰り返し、その平均値を求めた。
また、本樹脂金属複合体における金属製部材(X)の凹凸表面を計測する場合には、金属製部材(X)表面の凹凸が接合により影響を受けていない箇所を同様に測定する。未接合領域がない場合には、樹脂製部材(Y)と接合した本樹脂金属複合体断面を、光学顕微鏡または、走査型電子顕微鏡により観察し、計測することで算術平均粗さ(Ra)、最大高さ(Rz)の数値に対応する値を得ることが可能である。
【0099】
金属製部材(X)と樹脂製部材(Y)は、金属製部材(X)の凹凸表面の全面で金属製部材(X)と接合していてもよいし、当該凹凸表面の一部で接合していてもよい。
また、樹脂製部材(Y)と金属製部材(X)と接している箇所のすべての箇所において、金属製部材(X)の表面が凹凸を有している必要はない。すなわち、金属製部材(X)と樹脂製部材(Y)とが接合している箇所の一部において、金属製部材(X)の表面が凹凸を有していればよい。
【0100】
(粗面化方法)
金属製部材(X)の表面全面又は一部を粗面化して凹凸を設ける方法は、特に限定するものではなく、公知の方法を採用可能である。例えば、化成処理や化学薬液処理、レ-ザ-エッチング、ブラストエッチング等による加工を挙げることができる。
かかる処理を施すことにより、金属製部材の表面には微細な凹凸が形成され、この微細な凹凸構造の凹部に上記した本PBT組成物が侵入し、その凹部壁の奥まで侵入して、そのまま固化し凹部から抜けなくなって固定されることにより、強固な接合強度を発現させることができると考えられる。
【0101】
凹凸化処理は、エッチング法だけでなく、金属表面状に金属酸化物やセラミックス等の微粒子、例えば酸化チタン、酸化シリコン微粒子を粉体または、各種溶媒に粉体を分散したものを固定化し、物理的に凸部を形成することにより凹凸化してもよい。微粒子の平均粒子径は10nm~1mmが好ましく、20nm~500μmが特に好ましく、30nm~200μmがさらに好ましい。
【0102】
化成処理や化学薬液処理は、金属の種類に応じて種々の方法が知られており、公知の方法を用いることができる。
金属製部材がアルミニウム又はアルミニウム合金である場合、酸性水溶液及び/又は塩基性水溶液によるエッチング、あるいは、表面に酸化被膜を形成した後、酸化被膜を除去し、次いでアンモニア、ヒドラジン、水溶性アミン化合物等により処理する方法等が好ましく挙げられる。また、アルミニウムに対して施す一般的な表面処理法であるアルマイト処理によれば、酸を用いてアルミニウムを陽極で電気分解させることにより、凹凸構造を形成することが可能である。
【0103】
なお、粗面化方法は、単独の方法で実施してもよいし、また、複数の方法を組み合わせて実施することもできる。複数の方法を組み合わせることによって、凹凸構造の最適化やコスト低減などの効果を見出せる場合もある。
【0104】
[化学薬液処理法]
金属製部材(X)の大きさや形状にかかわらず処理できるなどの観点から、化学薬液に浸漬させたり、化学薬液を塗布したりする化学薬液処理法を採用するのが好ましい。
【0105】
化学薬液処理法は、金属の種類に応じて種々の方法が知られており、公知の方法を用いることができる。金属製部材(X)がアルミニウム、アルミニウム合金、鋳造アルミニウムである場合、金属表面に対して凹凸形成前に被膜形成し、次いでそれを除去することで凹凸を形成する処理であることが好ましい。さらに、凹凸形成後に化学薬液による被膜(化成処理被膜)を付与することが、接合強度を高める点で好ましい。なお、化成処理被膜の詳細については後述する。
【0106】
中でも、前記凹凸表面を形成する化学薬液処理法としては、必要に応じて、金属製部材(X)の表面にジンケ-ト被膜を形成した上で、ペルオキソ二硫酸イオン及び塩化物イオンを含むエッチング剤を金属製部材(X)の表面に接触させる方法を挙げることができる。
【0107】
前記エッチング剤は、ペルオキソ二硫酸イオンと塩化物イオンを少なくとも含む水溶液であればよい。前記エッチング剤中には、前記基材由来のアルミニウム、マグネシウム、ケイ素、チタン、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛等の元素が存在していてもよい。また、後述するジンケ-ト工程で形成した被膜が溶解することによって、亜鉛等の元素が混入していてもよい。
【0108】
前記エッチング剤は、ペルオキソ二硫酸イオンを0.02mol/L以上0.90mol/L以下の割合で含むのが好ましく、中でも0.10mol/L以上或いは0.50mol/L以下、その中でも0.15mol/L以上或いは0.40mol/L以下の割合で含むのがさらに好ましい。
前記エッチング剤は、塩化物イオン(Cl-)を0.40mol/L以上2.50mol/L以下の割合で含むのが好ましく、中でも0.80mol/L以上或いは2.00mol/L以下、その中でも1.20mol/L以上或いは1.70mol/L以下の割合で含むのがさらに好ましい。
塩化物イオン源としては、例えば、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化アンモニウム等の塩素化合物から適当なものを1種又は2種以上選択することができる。
【0109】
前記エッチング剤は、リン酸を実質的に含まなくてもよい。実質的に含まないとは、検出限界以下であることをいう。
【0110】
前記エッチング剤のpHは、6.0以下の範囲内であることが好ましく、2.0から4.0の範囲内であることがより好ましい。エッチング剤のpHは、市販のpH計測機器及び電極に制限はなく、これらを用いて測定することができる。また、pH計測機器及び電極が温度補償機能を有する機器を用い、pH電極の内部液と市販のpH標準液とを、エッチング剤等と同一のそれぞれの温度に調整してpH計測機器を校正すれば、前記エッチング剤等の使用する温度におけるpHを計測することもできる。
【0111】
エッチングする際、前記エッチング剤は液温10~70℃として、この中に金属製部材(X)を浸漬すればよい。
【0112】
金属製部材(X)の表面にジンケ-ト被膜を形成する場合、例えば、酸化亜鉛を溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を用い、40.0℃以下に浴温を保ち、金属製部材(X)を1.0秒から5.0分程度浸漬して、自然酸化膜を除去すると同時にジンケ-ト被膜を形成させることができる。また、形成された被膜を前記エッチング剤や硝酸で溶解し、再度被膜を形成させる操作を1回以上行ってもよい。これらのジンケ-ト工程に用いる処理液には、必須の成分以外に前記基材由来のアルミニウム、マグネシウム、ケイ素、チタン、クロム、マンガン、鉄、ニッケル、銅、亜鉛等の金属が存在していてもよい。
ジンケ-ト被膜の形成の際に用いる処理液のpHは、公知の範囲であれば、制限されるものではなく、例えばアルカリ側のpHを示す処理液の場合は10.0以上でもよく、13.0以上であってもよい。好ましくは11.0~13.0の範囲内である。ジンケ-ト液のpHを調整するために、水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムを用いてpHを上昇させることができる。
【0113】
なお、エッチング剤による処理又はジンケ-ト被膜の形成をする前に、予め、金属製部材(X)の表面を清浄化させる処理を行ってもよい。例えば、溶剤系、水系又はエマルジョン系の脱脂剤を用いて脱脂してもよい。また、アルカリ洗処理してもよい。
【0114】
[レ-ザ-エッチング]
レ-ザ-エッチングは、金属製部材表面に対して、レ-ザ-光を照射して、金属表面を溝掘加工及び溶融させ再凝固させる条件にて加工することにより形成される。例えば、ある走査方向についてレ-ザ-スキャニング加工した後、同じ走査方向あるいはクロスする方向にレ-ザ-スキャニングすることを複数回繰り返すことにより形成される。
レ-ザ-スキャニングの条件には、出力、スキャン速度、スキャン周波数、スキャン回数、ハッチング幅(処理ピッチ)、パタ-ニング形状等があり、これらの組み合わせで、所望する凹部と凸部から微細な凹凸表面を形成することができる。
【0115】
加工に使用するレ-ザ-の種類は、固体レ-ザ-、ファイバ-レ-ザ-、半導体レ-ザ-、気体レ-ザ-、液体レ-ザ-の各種波長のものを適宜選択すれば良く、発振形態も連続波、パルス波を期待する凹凸形状に合わせて選択することができる。また連続波を用いた場合には、より複雑な凹凸構造とすることが可能である。
【0116】
[ブラストエッチング]
ブラストエッチングとしては、インペラ-(羽根車)の遠心力を利用してブラスト材を投射するショットブラスト処理、エア-コンプレッサ-を用いて圧縮空気によりブラスト材を投射するエア-ブラスト処理があり、どちらも金属製部材の表面に凹凸形状を付与することが可能である。ブラスト材として、珪砂、アルミナ、アルミカットワイヤ-、スチ-ルグリッド、スチ-ルショットなどの材料が挙げられる。
また、樹脂粒や金属粒などの砥粒を混入した水を金属表面に向けて加工エア-とともに数十~約300m/sec程度の速度で高圧噴射せしめ、エッチング処理するウェットブラストエッチング法等でも可能である。
【0117】
また、他の方法として、例えば亜鉛メッキした上で、メッキ金属である亜鉛の融点よりも高い温度まで加熱し、メッキ層の亜鉛の一部又は殆どを蒸発させることにより、表面が粗面化された金属製部材を得ることも可能である。
【0118】
上記で例示した凹凸化処理(粗面化処理)は、これを単独又はこれら或いはその他の方法を複数組み合わせて用いることも可能である。組み合わせ方法によっては、凹凸構造の最適化やコスト低減などの効果を見出せる場合もある。
【0119】
(最表面層)
金属製部材(X)の凹凸表面は、酸化被膜や化成処理被膜(リン酸塩被膜、クロメ-ト被膜、ケイ酸塩被膜、リチウム化成被膜、カルシウム化成被膜、酸化ジルコニウム被膜等)、アルマイト被膜、その他の被膜で被覆されていてもよいし、メッキ層、シランカップリング剤処理層、プライマ-層、樹脂層、その他の層が形成されていてもよいし、微粒子等が固定化されていてもよい。
次に、金属製部材(X)の凹凸表面の最表面層について詳述する。
【0120】
[酸化被膜]
金属製部材(X)の凹凸表面は、酸化されていなくても、酸化されていてもよい。
【0121】
[化成処理被膜]
金属製部材(X)の凹凸表面は、化成処理が為され、化成処理被膜を備えていてもよい。
かかる処理を施すことにより金属製部材(X)と樹脂製部材(Y)との密着性(接着性または接着強度)をさらに向上させることができる。
化成処理方法としては、リン酸クロメ-ト等による化成処理、リン酸ジルコニウム処理、ベ-マイト処理、ジンケ-ト処理、陽極酸化処理等を挙げることができる。
上記陽極酸化処理としては、例えば、電解液としてリン酸、リン酸-硫酸、リン酸-シュウ酸、リン酸-クロム酸を用いる処理薄膜等を挙げることができる。この中でも、リン酸アルマイト処理によるのが好ましい。
【0122】
化成処理被膜の厚みは、特に限定するものではない。例えば1~300nmが好ましく、中でも加工性を良好に維持できる観点から、5nm以上であるのがさらに好ましい。
なお、陽極酸化処理により化成処理被膜を形成する場合は、密着性をより効果的に向上させる観点から、その厚みは0.05~2μmの範囲が好ましく、中でも0.1μm以上或いは2μm以下であるのがより好ましい。
陽極酸化処理による化成処理層の厚さは、処理条件、特に通電条件と通電時間を調節することによって、上記範囲の厚さに調整することができる。
【0123】
[メッキ層]
金属製部材(X)の凹凸表面は、単層メッキ、複層メッキまたは合金メッキなどのメッキ処理によってメッキ層を形成する処理を施してもよい。これらメッキ処理する前に、浸漬クロム酸処理、リン酸クロム酸処理を施してもよい。
メッキ処理の方法としては、電気メッキ、無電解メッキのいずれでもよい。例えば金属基体が鉄の場合、亜鉛、スズ、ニッケル、銅メッキが好ましく、亜鉛メッキがより好ましい。
【0124】
[シランカップリング剤処理層]
金属製部材(X)の凹凸表面、特に金属製部材(X)がアルミニウムや鉄などからなる場合は、シランカップリング剤による処理を施してシランカップリング剤処理層を形成するのが好ましい。
シランカップリング剤としては、特に限定するものではない。例えばメトキシ基、エトキシ基、シラノ-ル基等を有する化合物を挙げることができ、シランカップリング剤としては、ビニルトリメトキシシラン、クロロプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-(N-スチリルメチル-2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシラン塩酸塩、ウレイドアミノプロピルエトキシシランなどを好ましく挙げることができる。特に、アルミニウム基体又は鉄基体とシランカップリング剤は、Al-O-SiやFe-O-Siの結合を形成して強固に結合し、また、本PBT組成物のPBTとシランカップリング剤の有機官能基が反応して強固に結合し、より強固な結合が達成できる。
【0125】
[プライマ-層]
金属製部材(X)の凹凸表面には、プライマ-層を設けてもよい。
プライマ-層に用いる材料としては、例えばアクリル系材料、エポキシ系材料、ウレタン系材料、ポリアミド系材料等を挙げることができる。
プライマ-層に用いる材料の市販品としては、東亞合成社製のアロンメルトPPETなどを例示することができる。
【0126】
<<本樹脂金属複合体>>
本発明の実施形態の一例に係る樹脂金属複合体(「本樹脂金属複合体」と称する)は、表面凹凸を有する金属製部材(X)と本PBT組成物からなる樹脂製部材(Y)とを備え、金属製部材(X)の該表面凹凸を有する表面側と樹脂製部材(Y)とが接合してなる構成を備えたものである。
【0127】
<本樹脂金属複合体の製造方法>
次に本樹脂金属複合体の製造方法について説明する。
本樹脂金属複合体の製造方法は、特に限定されるものではない。例えばインサ-ト成形、レ-ザ-溶着法や、振動溶着法、超音波溶着法など、金属もしくは樹脂、またはそのいずれも加熱することで複合化する方法を選択することも可能である。複合体の形状やコスト等により最適な方法を選択すればよい。
中でも、次に説明するインサ-ト成形が意匠性や連続成形性、工程削減の点で好ましい。
【0128】
(インサ-ト成形)
上記のようにインサ-ト成形する場合には、凹凸表面を有する金属製部材(X)を成形用金型内に予め装着しておき、溶融状態の本PBT組成物を該金型内に充填し冷却すればよい。
このようにインサ-ト成形すれば、樹脂製部材(Y)の成形と同時に、金属製部材(X)の表面凹凸を有する表面側と、樹脂製部材(Y)とを接合させることができ、強固な接合・溶着が困難であった金属製部材(X)と樹脂製部材(Y)とを強固かつ安定して接合することができる。
【0129】
本PBT組成物の溶融温度、言い換えれば溶融混練に際しての加熱温度は、通常220~300℃の範囲から適宜選択するのが好ましい。この温度が高すぎると、分解ガスが発生しやすく、それ故、剪断発熱等に考慮したスクリュ-構成の選定が望ましい。
【0130】
本PBT組成物を金型内に充填するための成形法としては、例えば射出成形法、押出成形法、圧縮成形法等を挙げることができる。中でも射出成形法が一般的である。
【0131】
他方、金型内に装着する金属製部材(X)の大きさ及び形状は、本樹脂金属複合体の大きさ、構造等によって、適宜決めればよい。
【0132】
本樹脂金属複合体の大きさ、形状、厚み等は特に限定されるものではなく、板状(円板、多角形など)、柱状、箱形状、椀形状、トレイ状などいずれでもよい。これらの形状は、金属製部材(X)を成形用金型内に予め装着する前に、鋳造、プレス成型等より賦形した後に装着してもよく、複合化後に賦形してもよい。または、プレス機能を備えた複合成形機により射出成形と同時もしくは、直前に金型内で賦形してもよい。大型複合体、複雑な複合体の場合は、複合体の全ての部分の厚みが均一である必要はなく、また、複合体に補強リブが設けられていてもよい。
なお、金属製部材(X)は、本樹脂金属複合体の全体にわたる必要はなく、その一部分であってもよい。
【0133】
インサ-ト成形する際、溶融した本PBT組成物の温度と、金属製部材(X)の温度を組み合わせにより最適にすることが、接合強度を向上させる上で有用である。
その方法としては、金型内に装着する金属製部材(X)を予め加熱しておく方法や金型を加熱する方法を挙げることができる。
【0134】
金型内に装着する金属製部材(X)を予め加熱しておく方法としては、金属製部材(X)をインサ-ト成形する前に誘導加熱する方法、IHヒ-タ-、ホットプレ-ト、加熱炉等で加熱する方法、金属製部材(X)を金型にインサ-ト後、本PBT組成物との接合領域付近をハロゲンランプ、ドライヤ-等で外部から加熱する方法、金属製部材(X)を金型にインサ-ト後、金型内部においてカ-トリッジヒ-タ-等で加熱する方法等を挙げることができる。中でも、本PBT組成物との接合領域のみを局所的に加熱することが最も有用である。
なお、「局所的に加熱」とは、加熱手段によっては、接合領域を含んだ周辺まで加熱されるが、金属製部材(X)の接合領域より遠い部分は加熱しないことを含む。
【0135】
金型を加熱する場合、金型の温度が低すぎると、インサ-トした金属製部材(X)が十分に加熱されないため、十分な接合強度が出ない可能性がある。特に本樹脂金属複合体の場合には、金属製部材(X)の表面の凹凸に樹脂が十分に侵入した後に固化する必要があるから、必要に応じて局所的に加熱するなどして、通常よりも高温とするのが好ましい。他方、当該温度が高すぎる場合には、樹脂自体に対する影響により、複合体として良好なものが得られない可能性がある。
かかる観点から本樹脂金属複合体の製造方法においては、金型に装着された状態の金属製部材(X)が接触する金型の表面温度を、本PBT組成物の主成分樹脂であるPBTのガラス転移温度よりも60~140℃高い温度に設定するのが好ましく、中でも65~130℃高い温度、その中でも68~125℃高い温度、その中でも70~120℃高い温度に設定するのがさらに好ましい。
【0136】
<本樹脂金属複合体の形態>
本樹脂金属複合体は任意の形態に形成することが可能である。
本樹脂金属複合体の形態の一例として、
図1及び
図2に示すように、車載部品としての形状を備えた樹脂製部材(Y)は、板状を呈する金属製部材(X)の周縁端部を囲むように、周壁部Y1を設けてなる形態を挙げることができる。
【0137】
金属製部材(X)は、板状を呈する金属基体の接合領域に凹凸化処理を施して凹凸表面としたものであり、
図2に示すように、該金属製部材(X)の周縁端部において、樹脂製部材(Y)が、当該金属製部材(X)の表面側の端縁部から端面を介して裏面側の端縁部を覆い、且つ、金属製部材(X)の表面側の端縁部及び裏面側の端縁部において、金属製部材(X)の前記表面側と樹脂製部材(Y)とが接合している(接合部(J))。
【0138】
なお、
図1及び
図2に示した形態はあくまでも例示である。金属製部材(X)の形状及び樹脂製部材(Y)の形状は任意に変更可能である。また、様々な形態の金属製部材(X)と、様々な形態の樹脂製部材(Y)とを組み合わせて、本樹脂金属複合体を形成することができる。
【0139】
また、
図3(a)~(e)に例示するように、金属製部材(X)と樹脂製部材(Y)の接合状態などについても、任意に変更可能である。
例えば
図3(a)に示すように、金属製部材(X)として、金属基体の片面に粗面化処理を行い、金属表面に凹凸を形成してなるものを使用し、該金属製部材(X)の周縁端部において、樹脂製部材(Y)が、当該金属製部材(X)の表面側の端縁部から端面を介して裏面側の端縁部を覆い、且つ、金属製部材(X)の端縁部の片面側のみにおいて、金属製部材(X)の凹凸表面と樹脂製部材(Y)とが接合するようにしてもよい(接合部(J))。
図3(b)に示すように、金属製部材(X)として、金属基体の片面に凹凸化処理を行い、金属表面に凹凸を形成してなるものを使用し、該金属製部材(X)の周縁端部において、樹脂製部材(Y)が、当該金属製部材(X)の表面側の端縁部から端面までを覆い、且つ、金属製部材(X)の端縁部の片面側のみにおいて、金属製部材(X)の凹凸表面と樹脂製部材(Y)とが接合するようにしてもよい(接合部(J))。
【0140】
図3(c)に示すように、金属製部材(X)として、金属基体の片面に凹凸化処理を行い、金属表面に凹凸を形成してなるものを使用し、該金属製部材(X)の片側表面の端縁部と、樹脂製部材(Y)の片側表面の端縁部とが適宜幅を有するように重なり、この部分で、金属製部材(X)の凹凸表面と樹脂製部材(Y)とが接合するようにしてもよい(接合部(J))。
図3(d)に示すように、金属製部材(X)として、金属基体の両面に凹凸化処理を行い、金属表面に凹凸を形成してなるものを使用し、該金属製部材(X)の周縁端部において、樹脂製部材(Y)が、当該金属製部材(X)の表面側の端縁部から端面までを覆い、且つ、金属製部材(X)の端縁部の片面側のみにおいて、金属製部材(X)の凹凸表面と樹脂製部材(Y)とが接合するようにしてもよい(接合部(J))。
図3(e)に示すように、金属製部材(X)として、金属基体の両面に凹凸化処理を行い、金属表面に凹凸を形成してなるものを使用し、該金属製部材(X)の片側表面の端縁部と、樹脂製部材(Y)の片側表面の端縁部とが適宜幅を有するように重なり、この部分で、金属製部材(X)の凹凸表面と樹脂製部材(Y)とが接合するようにしてもよい(接合部(J))。
【0141】
金属製部材(X)と樹脂製部材(Y)との接合面積(S1)と、樹脂製部材(Y)で覆われずに露出する金属製部材(X)の面積(S2)との比率(S1/S2)は、大きい方が密着性が安定し、気密性を高めることができるので好ましい。具体的には、当該比率(S1/S2)は0.01以上であるのが好ましく、0.1以上であればより好ましく、0.5以上であれば十分な気密性を得ることができるので特に好ましい。
また、金属の露出部分からの放熱性を確保するためにはある程度小さい方が好ましい。具体的には、当該比率(S1/S2)は8以下であるのが好ましく、4以下がより好ましく、2以下がさらに好ましく、1以下であれば十分な放熱性を確保できるので特に好ましい。
【0142】
S1/S2の比率をこのようにして接合することにより、より接合強度や、気密性を高め、また筐体の部材として使用した場合にも筐体中にこもる熱を十分に逃がして、放熱性を確保することができる。
なお、金属表面の凹凸を両面に設ける場合、金属製部材(X)の凹凸表面と樹脂製部材(Y)との接合面積すなわち接合部(J)(J)の面積は、両面で同じである必要はない。
【0143】
<本樹脂金属複合体の用途>
本樹脂金属複合体は、金属製部材と樹脂製部材とを強固かつ安定して接合させることができ、優れた接合強度を得ることができ、しかも耐熱性に優れ、特に耐ヒ-トショック試験後の気密強度に優れているから、各種用途に好適に使用することができる。中でも、接合強度及び耐熱性を特に要求される自動車用途に好適に使用することができる。
【0144】
具体的には、本樹脂金属複合体を用いて容器を形成すれば、このような容器は、気密性、耐熱性などに優れた容器とすることができるから、一般家電製品を始め、OA機器に組み込まれる電気電子部品(ハウジング、ケ-ス、カバ-等)、機械機構部品、車輛用電装部品(各種コントロ-ルユニット、イグニッションコイル部品、センサ-部品、モ-タ-部品、パワ-モジュ-ル、コンデンサ-、インシュレ-タ-、モ-タ-端子台、バッテリ-、電動コンプレッサ-、バッテリ-電流センサ-及びジャンクションブロック等)の筐体の一部又は全部を構成する部材など、機能として接合強度を必要とする用途に、好適に用いることができる。
【0145】
図4に、車輌用電装部品の筐体の一部として本樹脂金属複合体を適用した例を示した。
本樹脂金属複合体が、製品の一部として使われる場合、即ち、他の部材(Z)(樹脂成形体やアルミダイキャスト、金属など)と組み合わせて使われる場合には、他の部材(Z)と本樹脂金属複合体の接合方法、例えば樹脂製部材(Y)と当該他の部材(Z)との接合方法は任意の方法を用いることができる。例えば、レ-ザ-溶着、超音波溶着、振動溶着、熱溶着、ボルトやタッピングネジを用いた機械的接合、接着剤等を挙げることができる。
【0146】
<<語句の説明>>
本発明において、「X~Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」或いは「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
また、「X以上」(Xは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはXより大きい」の意を包含し、「Y以下」(Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「好ましくはYより小さい」の意も包含するものである。
【実施例0147】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。但し、本発明は、その要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。
【0148】
<金属製部材(X1)>
次のように、金属製部材に金属表面処理方法Aを施して、金属製部材(X)としての金属製部材(X1)を得た。
すなわち、
図5に示す、直径55mm、内径20mm、厚み2mmの円盤状を呈するアルミニウム合金(JIS H4000「A5052」)からなる金属板材を、下記ジンケ-ト液(40℃)中に60秒間浸漬した。次に、下記エッチング剤(50℃)中に480秒間浸漬して、金属板材の表面を粗面化して凹凸表面とした。次に、市販のジルコニウム化成処理剤(日本パ-カライジング社製「パルシ-ド(登録商標)」、濃度50g/L、温度45℃、pH4.0)中に金属板材を120秒間浸漬して、表面に酸化ジルコニウム被膜が形成された金属製部材(X1)を得た(この金属表面処理方法を「金属表面処理方法A」と称する)。
【0149】
<ジンケ-ト液成分>
・水
・酸化亜鉛:0.25mol/L
・水酸化ナトリウム:3.80mol/L
・酒石酸:0.07mol/L
・pH:12.5
【0150】
<エッチング剤成分>
・水
・ペルオキソ二硫酸ナトリウム:0.35mol/L
・塩化カリウム:1.40mol/L
・pH:3.0
【0151】
上記のように処理した金属製部材(X1)の凹凸表面を、ハイブリッドレ-ザ-マイクロスコ-プ(LASERTEC製OPTELICS HYBRID)の対物レンズ20倍で観察し、付属の解析ソフト(Lasertec Microscope Solution Software LMeye7)で、JIS B 0601:2001に準拠して表面粗さを計測した。
計測では、
図5に示す、直径55mm、内径20mm、厚み2mmの円盤状を呈するアルミニウム合金(JIS H4000「A5052」)からなる金属板材の中心部における平均的な凹凸表面を、計測アルゴリズムFine Peakを使用してFZ像を得た。計測範囲は直径55mmの方向へ4.2mm長さとした。カットオフ値λcは0.8000mmである。
任意の異なる場所で同じ操作を30回繰り返し、その平均値を求めた結果、算術平均粗さ(Ra)は5μm、最大高さ(Rz)は35μmであった。また、開口径及び/または深さが80~150μmの大きな凹部と、開口径及び/または深さが1~5μmの小さな凹部とが組み合わさったサイズ分布を有していた。当該小さな凹部は、大きな凹部の内及びその周辺に分布していた。
【0152】
<金属製部材(X2)>
次のように、金属製部材に金属表面処理方法Bを施して、金属製部材(X)としての金属製部材(X2)を得た。
すなわち、波長1070nmのIPG-Ybファイバ-(IPG製)を用いて、
図5に示す、直径55mm、内径20mmの、厚み2mmの円盤状を呈するアルミニウム合金(JIS H4000「A5052」)からなる金属板材上にレ-ザ-処理による凹凸を施した(この金属表面処理方法を「金属表面処理方法B」と称する)。
なお、上記レ-ザ-処理は、出力280Wで、ファイバ-径9μm、走行速度10000mm/μm
2、繰り返し回数10回の連続波を双方向に組み合わせて行った。
【0153】
上記のように処理した金属製部材(B)の凹凸表面を、ハイブリッドレ-ザ-マイクロスコ-プ(LASERTEC製OPTELICS HYBRID)の対物レンズ20倍で観察し、付属の解析ソフト(Lasertec Microscope Solution Software LMeye7)で、JIS B 0601:2001に準拠して表面粗さを計測した。
計測では、
図5に示す、直径55mm、内径20mmの、厚み2mmの円盤状を呈するアルミニウム合金(JIS H4000「A5052」)からなる金属板材の中心部における平均的な凹凸表面を計測アルゴリズムFine Peakを使用してFZ像を得た。計測範囲は直径55mmの方向へ4.2mm長さとした。カットオフ値λcは0.8000mmである。
任意の異なる場所で同じ操作を30回繰り返し、その平均値を求めた結果、算術平均粗さ(Ra)は53μm、最大高さ(Rz)は200μmであった。また、電子顕微鏡(日立ハイテク製、S3400)で表面及び、断面観察したところ、開口径20~80μmであり、深さは130~280μmであった。
【0154】
<金属製部材(X3)>
次のように、金属製部材に金属表面処理方法Cを施して、金属製部材(X)としての金属製部材(X3)を得た。
すなわち、波長1064nmのファイバ-レ-ザ-(パナソニック製LP-M500)を用いて、
図5に示す、直径55mm、内径20mmの、厚み2mmの円盤状を呈するアルミニウム合金(JIS H4000「A5052」)からなる金属板材上にレ-ザ-処理による凹凸を施した(この金属表面処理方法を「金属表面処理方法C」と称する)。
なお、上記レ-ザ-処理は、出力40Wで、スキャン速度1500mm/s、パルス周期20μs、0.10mmのハッチング幅と、スキャン速度1000mm/s、パルス周期20μs、0.12mmのハッチング幅を縦横格子状になるように組み合わせて縦横各10回スキャンすることにより行った。
【0155】
上記のように処理した金属製部材(X3)の凹凸表面を、ハイブリッドレ-ザ-マイクロスコ-プ(LASERTEC製OPTELICS HYBRID)の対物レンズ20倍で観察し、付属の解析ソフト(Lasertec Microscope Solution Software LMeye7)で、JIS B 0601:2001に準拠して表面粗さを計測した。
計測では、
図5に示す、直径55mm、内径20mmの、厚み2mmの円盤状を呈するアルミニウム合金(JIS H4000「A5052」)からなる金属板材の中心部における平均的な凹凸表面を計測アルゴリズムFine Peakを使用してFZ像を得た。計測範囲は直径55mmの方向へ4.2mm長さとした。カットオフ値λcは0.8000mmである。
任意の異なる場所で同じ操作を30回繰り返し、その平均値を求めた結果、算術平均粗さ(Ra)は123μm、最大高さ(Rz)は110μmであった。また、電子顕微鏡(日立ハイテク製、S3400)で表面及び、断面観察したところ、開口径60~190μmであり、深さは50~170μmであった。
【0156】
<PBT組成物α1~α17の調製>
表1に示す成分のうち、強化充填材(H)を除いた各成分を、表2に示す割合(全て質量部)にて、タンブラ-ミキサ-で均一に混合した後、噛み合い型同方向二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX-30α」、スクリュ-径32mm、L/D=52)を使用し、強化充填材(H)はサイドフィ-ダ-より、40kg/hrにて供給した。押出機のバレル設定温度を260℃、ダイを250℃、スクリュ-回転数200rpmの条件で溶融混練し、ノズル数4穴(円形(φ4mm)、長さ1.5cm)、せん断速度(γ)211sec-1の条件下でストランドとして押出した。押出した直後のストランド温度は270℃であった。押出されたストランドを、温度30~50℃の範囲に調整した水槽に導入して急冷した。ストランド表面温度(T)は、赤外線温度計で測定される温度で65℃まで冷却され(γ・T=1.4×104)、ペレタイザ-に挿入してカッティングして、PBT組成物α1~α17のペレットを得た。
そして、得られたPBT組成物α1~α17のペレットを、120℃で5時間乾燥した後、射出成形、インサ-ト成形に使用した。
【0157】
(メルトボリュームフローレイトの測定方法)
メルトボリュームフローレイトの値は、JIS K7210に準拠して測定して得られた値とした。
【0158】
(難燃性評価)
PBT組成物α1~α17について、得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットを、120℃で5時間加熱乾燥し、射出成形機(日本製鋼所社製「J85AD」)を用いてシリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、難燃性試験用試験片を射出成形した。UL94の方法に準じ、5本の試験片(厚さ1.5mm)を用いて難燃性テストを行い、UL94記載の評価方法に従い、V-0、V-1、V-2、HBに分類した(V-0が最も難燃性が高いことを示す)。
【0159】
【0160】
【0161】
<実施例1-14、比較例1-6>
上記のように作製した金属製部材X1、X2(以下、まとめて「X」と称する)を金型キャビティ内に装着し、上記で得られたPBT組成物α1~α17のペレットを、以下に示す条件でインサート成形して、
図6に示すように、直径55mm、内径20mm、厚さ2mmからなる金属製部材(X)に対し、直径24mm、厚さ2mmの円盤状を呈し、PBT組成物からなる樹脂製部材(Y)が中心の穴を覆うように接合した樹脂金属複合体(評価サンプル)を得た。この際、金属製部材(X)と樹脂製部材(Y)との接合幅は2mm、接合面積は0.00013816m
2であった。
インサート成形条件:得られた熱可塑性樹脂組成物ペレットを、120℃で5時間加熱乾燥し、射出成形機として日本製鋼所製「J100AD」を用い、シリンダ-温度280℃、金型温度140℃、射出速度60mm/秒、充填時間0.25秒、保圧110MPa、保圧時間10秒、冷却時間30秒の条件で行った。
【0162】
<評価・測定方法>
実施例・比較例で得られた樹脂金属複合体(評価サンプル)について、次の方法で測定及び評価を行った。
【0163】
(初期気密強度)
実施例・比較例・参考例で得られた円盤状の樹脂金属複合体(評価サンプル)について、
図7に示す評価用圧力容器を使用して試験を行った。評価用圧力装置は以下の形状にて作成した。
直径90mmのSUS304製金属を使用し、中心部に直径30mm、深さ20mmの穴をあけ水で満たした。更に周辺部に直径56mm、深さ0.5mmの穴をあけ、バイトン製のOリングを介して、実施例・比較例で得られた円盤状の樹脂金属複合体(評価サンプル)を装着し、SUS304製で直径90mm、厚み8mmの抑え板を用いてボルトで固定し、25℃の水中に浸漬させた。次に、金属樹脂複合体内部にテストポンプ(アサダ株式会社製TP50N)を使用して16mL/5秒で送水を開始し、溶着体内部圧力を徐々に昇圧し、接合部から圧力が抜けた時点(圧力低下した時点)の水の圧力を、圧力センサ(キ-エンス株式会社製GP-M025)を使用して測定した。得られた圧力は、耐久性評価を実施する前の気密性として、表3、表4の「初期気密強度」の欄に記載した。
【0164】
(耐ヒ-トショック試験後気密強度)
実施例・比較例で得られた円盤状の樹脂金属複合体(評価サンプル)について、冷熱衝撃試験機(エスペック株式会社製TSA-103ES-W)を用いて150℃にて1時間加熱後、-40℃に降温して1時間冷却した後、さらに150℃に昇温する過程を1サイクルとする耐ヒ-トショック試験を500、1000サイクル実施した。耐ヒ-トショック試験後の評価サンプルについて、
図7に示す評価用圧力容器を使用して、上記と同様にして気密強度を求める試験を行った。なお、接合部から圧力が抜けた時点の水の最大圧力を測定し、気密強度とした。結果を表3、表4に記載した。なお、表3、表4中の「-」は、サイクル数に達せず測定不能であった。
【0165】
【0166】
【0167】
(考察)
上記実施例及びこれまで本発明者が行ってきた試験結果から、ポリブチレンテレフタレ-トを主成分樹脂として含み、さらにポリエステル系エラストマ-及びスチレン系エラストマ-を含むことにより、表面に凹凸を有する金属製部材(X)と接合して樹脂金属複合体を形成することができ、さらには、当該樹脂金属複合体を、耐ヒ-トショック試験後の気密強度に優れたものとすることができることが分かった。