(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178560
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】化学蒸着法によるルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法及びルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜
(51)【国際特許分類】
C23C 16/18 20060101AFI20231211BHJP
H01L 21/285 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
C23C16/18
H01L21/285 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091312
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】509080118
【氏名又は名称】嶺南大學校 産學協力團
(71)【出願人】
【識別番号】509352945
【氏名又は名称】田中貴金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】キム スーヒョン
(72)【発明者】
【氏名】小次 洋平
【テーマコード(参考)】
4K030
4M104
【Fターム(参考)】
4K030AA09
4K030AA11
4K030AA13
4K030AA14
4K030AA17
4K030BA01
4K030FA10
4K030HA01
4K030JA01
4K030LA15
4M104AA01
4M104BB04
4M104DD43
(57)【要約】
【課題】基板の酸化を抑制しつつ高品位のルテニウム薄膜等を成膜する化学蒸着方法を提供する。
【解決手段】本発明は、基板上で有機ルテニウム化合物と反応ガスとを反応させ、ルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を成膜する化学蒸着法によるルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法に関する。本発明の化学蒸着方法は、反応ガスとして非酸化性ガスを適用する第1成膜工程と、第1成膜工程による成膜後に酸化性ガスを反応ガスとして成膜する第2成膜工程とで構成される。そして、プリカーサとなる有機ルテニウム化合物として、カルボニル配位子を含む所定の有機ルテニウム化合物α、β、γのいずれかを適用する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上で有機ルテニウム化合物と反応ガスとを反応させ、ルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を成膜する化学蒸着法によるルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法において、
前記反応ガスとして非酸化性ガスを導入し、基板表面上にルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を成膜する第1成膜工程と、
前記第1成膜工程による成膜後、前記反応ガスとして酸化性ガスを導入し、ルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を成膜する第2成膜工程とを含み、
前記第1成膜工程及び前記第2成膜工程で導入する有機ルテニウム化合物として、下記(1)~(3)の有機ルテニウム化合物α、β、γのいずれかを適用することを特徴とするルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法。
(1)有機ルテニウム化合物α
【化1】
(式中、配位子L
1は、炭素数2以上13以下の直鎖又は分枝鎖の鎖状炭化水素基又は環状炭化水素基である。また、配位子Xは、カルボニル配位子(CO)又は下記の化2~化8の式で示されるイソシアニド配位子(L
2)、ピリジン配位子(L
3)、アミン配位子(L
4)、イミダゾール配位子(L
5)、ピリダジン配位子(L
6)、ピリミジン配位子(L
7)、ピラジン配位子(L
8)のいずれかである。
【化2】
(上記式中、イソシアニド配位子L
2の置換基R
1は、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または炭素数3以上9以下の環状アルキル基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上9以下のアリール基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、のいずれかである。)
【化3】
(上記式中、ピリジン配位子L
3の置換基R
2~R
6は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、のいずれかである。)
【化4】
(上記式中、アミン配位子L
4の置換基R
7~R
9は、それぞれ、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。)
【化5】
(上記式中、イミダゾール配位子L
5の置換基R
10は、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上8以下の環状アルキル基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、のいずれかである。置換基R
11~R
13は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、のいずれかである。)
【化6】
(上記式中、ピリダジン配位子L
6の置換基R
14~R
17は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。)
【化7】
(上記式中、ピリミジン配位子L
7の置換基R
18~R
21は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。)
【化8】
(上記式中、ピラジン配位子L
8の置換基R
22~R
25は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。)
(2)有機ルテニウム化合物β
【化9】
(式中、R
26、R
27は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基のいずれか1種である。)
(3)有機ルテニウム化合物γ
【化10】
(式中、配位子L
9は、次式に示される(L
9-1)又は(L
9-2)のいずれかで示される配位子であり、1つの窒素原子を含む配位子である。)
【化11】
(式中、*は、ルテニウムに橋架け配位する原子の位置である。R
28~R
35は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基のいずれか1種である。)
【請求項2】
第1成膜工程及び前記第2成膜工程で導入する有機ルテニウム化合物は、下記の有機ルテニウム化合物である請求項1記載のルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法。
【化12】
(式中、配位子L
10は、下記化13の式で示される。トリメチレンメタン系配位子である。
【化13】
(上記式中、トリメチレンメタン配位子L
10の置換基Rは、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上9以下の環状アルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上9以下のアリール基、のいずれかである。)
【請求項3】
第1成膜工程の非酸化性ガスは、水素、水蒸気、アンモニア、有機アミン類、ヒドラジン誘導体のいずれかである請求項1又は請求項2記載のルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法。
【請求項4】
第2成膜工程の酸化性ガスは、酸素、オゾンのいずれかである請求項1又は請求項2記載のルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法。
【請求項5】
第2成膜工程の酸化性ガスは、酸素、オゾンのいずれかである請求項3記載のルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法。
【請求項6】
第1成膜工程でルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を2nm以上5nm以下の範囲の膜厚で成膜する請求項1又は請求項2記載のルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法。
【請求項7】
基板上に形成されたルテニウム又はルテニウム化合物からなる薄膜であって、
前記薄膜は、前記基板との界面に酸素を含まないものである薄膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学蒸着法(化学気相蒸着法(CVD法)、原子層蒸着法(ALD法))によりルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を製造する方法に関する。詳しくは、所定の有機ルテニウム化合物を適用する化学蒸着方法であって、薄膜の低抵抗化を図ると共に成膜効率に優れる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ルテニウム又はルテニウム化合物からなる薄膜(以下、「ルテニウム薄膜等」或いは単に「薄膜」と称する)は、DRAM、FERAM等の半導体デバイスの配線・電極材料としての利用が期待されている。この傾向は、最近の半導体デバイスの超小型化に伴う配線の微細化に伴ってより顕著となっている。半導体素子の配線材料は、これまで銅の適用が主であるが、10nm級の微細な半導体素子の配線においては、配線幅が銅の電子の平均自由行程(約38.7nm)より小さい。そのため、かかる微細な配線に銅薄膜を適用すると、平均自由行程に比例する表面散乱及び粒界散乱による抵抗係数が増大し配線の抵抗値(比抵抗)が上昇する。これに対して、ルテニウムの電子の平均自由行程は10.8nmと銅よりも非常に短いため、表面散乱及び粒界散乱による比抵抗の上昇を抑制できる。また、ルテニウムは、銅(融点1085℃)よりも融点が高い(融点2250℃)高融点金属であり、高い耐エレクトロマイグレーション性を有する。これらから配線材料としてのルテニウムは、微細配線の低抵抗化を図ると共に配線の長寿命化が期待でき、多くの利点を有する。
【0003】
ルテニウム薄膜等の製造法としては、CVD法(化学気相蒸着法)、ALD法(原子層蒸着法)といった化学蒸着法が適用されている。そして、微細化が進む半導体デバイスの配線・電極を構成するルテニウム薄膜等には緻密で高いアスペクト比を有する構造が要求されている。こうした薄膜の微細構造の制御に対してはALD法が特に有用である。そして、化学蒸着法によりルテニウム薄膜等を製造するための原料(プリカーサ)として、これまで多くの有機ルテニウム化合物が知られている。
【0004】
プリカーサとなる有機ルテニウム化合物は、ルテニウム薄膜等の特性や成膜の効率等に大きな影響を及ぼすことから、その検討例は多い。そして、有機ルテニウム化合物に求められる特性も多岐にわたる。古くは取扱い性や成膜温度の低温化のため、常温で液体であることや蒸気圧が高いこと等が検討の主題事項となっており、それらの課題に対応した有機ルテニウム化合物が公知となった。例えば、特許文献1に記載の化1に示すビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)がある。
【0005】
【0006】
また、近年ではプリカーサとなる有機ルテニウム化合物について、反応ガスの選択範囲の拡大が要求されている。化学蒸着法においては、気化した有機ルテニウム化合物と共に反応ガスを反応器内に導入するのが一般的である。有機ルテニウム化合物は、加熱のみで分解してルテニウム薄膜等を析出させることも可能であるが、その場合は分解速度に乏しく効率的な成膜が望めない。そこで、有機ルテニウム化合物の分解を促進するために反応ガスが導入される。上記したビス(エチルシクロペンタジエニル)ルテニウム(II)等の古くから知られる有機ルテニウム化合物は、酸素やオゾン等の酸化性ガスを反応ガスとする必要がある。しかし、酸化性ガスは、基板に酸化ダメージを与える要因となる。基板の材質としては様々あるが、特に、Cu、W、TiN等は比較的酸化し易い。そして、基板の酸化によるダメージは、それ自体が好ましいものではないが、生成した酸化物が薄膜の特性を低下させることもある。
【0007】
そのため、プリカーサに対する最近の要求としては、水素やアンモニア等の非酸化性ガスを反応ガスとしても分解可能な有機ルテニウム化合物を適用することが求められている。本願出願人は、こうした要求に応えることができる有機ルテニウム化合物を複数開発している。例えば、特許文献2には下記化2のジカルボニル-ビス(5-メチル-2,4-ヘキサンジケトナト)ルテニウム(II)が、特許文献3には一例として下記化3のヘキサカルボニル[μ-[(1,2-η)-3-メチル-N-(1-メチルプロピル)-1-ブテン-1-アミナト-κC2,κN1:κN1]]ジルテニウム(Ru-Ru)が、更に、特許文献4、5には一例として下記化3の(η4-メチレン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムが記載されている。
【0008】
【0009】
【0010】
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000-281694号公報
【特許文献2】特許第4746141号明細書
【特許文献3】特許第6027657号明細書
【特許文献4】国際公開WO2021/153639号公報
【特許文献5】特開2020-090689号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記で例示した化2~化4の有機ルテニウム化合物は、水素等の非酸化性ガスを反応ガスとしてルテニウムを析出することが可能であり、基板の酸化は抑制される。しかしながら、本発明者等の検討によれば、これらの有機ルテニウム化合物で非酸化性ガスにより形成したルテニウム薄膜等は、比抵抗が十分に低減されていないことがある。この点、これらの有機ルテニウム化合物は、酸化性ガスによる成膜も可能であり、場合によっては酸化性ガスによるルテニウム薄膜等の方が低抵抗となることがある。
【0013】
また、非酸化性ガスを反応ガスとするルテニウム薄膜等の成膜においては、成膜速度が低い傾向がある。これは、水素等による非酸化性雰囲気は本来的に反応性が乏しいことが要因である。上記した化2~化5の有機ルテニウム化合物は、水素等の非酸化性ガスでの成膜を可能としているが、これは従来の有機ルテニウム化合物等との対比における利点である。反応性の高い酸化性ガス雰囲気での成膜と比較すると、非酸化性ガスは成膜速度に劣ることとなる。薄膜形成のハイスループット化を目指すのであれば、成膜速度の改善も重要である。
【0014】
本願発明は、上記のような背景のもとになされたものである。本発明は、基板の酸化を抑制しつつ、高品位のルテニウム薄膜等を成膜する化学蒸着方法に関する。この目的において、本発明は、プリカーサとなる有機ルテニウム化合物として非酸化性ガスによる成膜可能な有機ルテニウム化合物を適用したときの薄膜の比抵抗上昇の要因を明らかにしつつ、これを回避する化学蒸着方法を提案するものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題解決のため、本発明者等は、まず非酸化性ガスにより成膜されたルテニウム薄膜等の比抵抗が高くなる要因について検討し、その結果として炭素(C)等の不純物元素の混入に想到した。上述した非酸化性ガス雰囲気でルテニウム薄膜等の成膜を可能とする有機ルテニウム化合物は、配位子としてカルボニル配位子(CO)を含むものが多い。カルボニル配位子は、ルテニウムとの結合性が高い一方で、有機ルテニウム化合物の分解時にガスとして放出されやすいことから、本来は好適な配位子である。しかし、反応性が低い非酸化性ガス雰囲気においては、反応系からの分解成分の放出に遅延が生じて薄膜に不純物として混入されることがある。これが薄膜の比抵抗上昇の要因となっていると考察される。これに対し、酸化性ガス雰囲気にあっては、その良好な反応性により、有機ルテニウム化合物の分解成分は速やかに系外に放出され不純物の混入は少ない。但し、これまで述べたように、酸化性ガスは基板の酸化の要因にはなり得る。
【0016】
非酸化性ガス及び酸化性ガスが及ぼす基板と薄膜への影響を上記のように捉えると、非酸化性ガスは基板に接触する状態においては適用可能であり、不純物の蓄積が少ない比較的薄い薄膜の成膜には有用であるといえる。一方、酸化性ガスは、不純物の蓄積の懸念が少ないので、基板への接触を避けることができるのであれば、所望の膜厚を得るための成膜速度の確保に好適である。本発明者等は、各反応ガスの適正を前記のように解し、上記課題を解決する化学蒸着法による成膜方法として、成膜初期の段階での反応ガスに非酸化性ガスを適用して基板にルテニウム薄膜等を成膜した後、酸化性ガスを反応ガスにして薄膜を成長させる2段階の成膜プロセスを見出し、本発明に想到した。
【0017】
即ち、本発明は、基板上で有機ルテニウム化合物と反応ガスとを反応させ、ルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を成膜する化学蒸着法によるルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法において、前記反応ガスとして非酸化性ガスを導入し、基板表面上にルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を成膜する第1成膜工程と、前記第1成膜工程による成膜後、前記反応ガスとして酸化性ガスを導入し、ルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜を成膜する第2成膜工程とを含み、前記第1成膜工程及び前記第2成膜工程で導入する有機ルテニウム化合物として、下記(1)~(3)の有機ルテニウム化合物α、β、γのいずれかを適用することを特徴とするルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜の製造方法である。
【0018】
(1)有機ルテニウム化合物α
【化5】
(式中、配位子L
1は、炭素数2以上13以下の直鎖又は分枝鎖の鎖状炭化水素基又は環状炭化水素基である。また、配位子Xは、カルボニル配位子(CO)又は下記の化6~化12の式で示されるイソシアニド配位子(L
2)、ピリジン配位子(L
3)、アミン配位子(L
4)、イミダゾール配位子(L
5)、ピリダジン配位子(L
6)、ピリミジン配位子(L
7)、ピラジン配位子(L
8)のいずれかである。
【0019】
【化6】
(上記式中、イソシアニド配位子L
2の置換基R
1は、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、または炭素数3以上9以下の環状アルキル基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上9以下のアリール基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、のいずれかである。)
【0020】
【化7】
(上記式中、ピリジン配位子L
3の置換基R
2~R
6は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、のいずれかである。)
【0021】
【化8】
(上記式中、アミン配位子L
4の置換基R
7~R
9は、それぞれ、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。)
【0022】
【化9】
(上記式中、イミダゾール配位子L
5の置換基R
10は、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上8以下の環状アルキル基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、のいずれかである。置換基R
11~R
13は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、のいずれかである。)
【0023】
【化10】
(上記式中、ピリダジン配位子L
6の置換基R
14~R
17は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。)
【0024】
【化11】
(上記式中、ピリミジン配位子L
7の置換基R
18~R
21は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。)
【0025】
【化12】
(上記式中、ピラジン配位子L
8の置換基R
22~R
25は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。)
【0026】
(2)有機ルテニウム化合物β
【化13】
(式中、R
26、R
27は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基のいずれか1種である。)
【0027】
(3)有機ルテニウム化合物γ
【化14】
(式中、配位子L
9は、次式に示される(L
9-1)又は(L
9-2)のいずれかで示される配位子であり、1つの窒素原子を含む配位子である。)
【0028】
【化15】
(式中、*は、ルテニウムに橋架け配位する原子の位置である。R
28~R
35は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基のいずれか1種である。)
【0029】
以下、本発明に係る化学蒸着法によるルテニウム薄膜等の製造方法及びルテニウム薄膜等について詳細に説明する。
【0030】
A.本発明に係る化学蒸着法によるルテニウム薄膜等の製造方法
上記のとおり、本発明に係るルテニウム薄膜等の成膜方法は、反応ガスが異なる2段階の成膜工程を有する。以下の説明においては、双方の成膜工程に共通する事項を説明し、その上で第1、第2の各成膜工程について説明する。
【0031】
(a)化学蒸着蒸着法の基本プロセス
本発明は、化学蒸着法によりルテニウム薄膜等を成膜する方法である。化学蒸着法は、有機ルテニウム化合物からなるプリカーサを気化した原料ガスと反応ガスを基板表面に導入し、基板上で有機ルテニウム化合物を分解しルテニウム又はルテニウム化合物を析出・堆積させて薄膜を製造する方法である。化学蒸着法は、原料ガス及び反応ガスの供給等の内容により化学気相蒸着法(CVD法)と原子層蒸着法(ALD法)が知られている。
【0032】
CVD法は、一般的に原料ガスと反応ガスとを同時に基板上に導入し、所望の膜厚の薄膜となるまで反応させる成膜方法である。これに対しALD法は、原料ガスを基板に導入し原料化合物を基板表面に吸着させる工程(吸着工程)、余剰な原料ガスを排気する工程(原料ガスパージ工程)、反応ガスを導入し基板表面に吸着した原料化合物と反応ガスとを表面上で反応させて薄膜を形成する工程(反応工程)、更に、余剰な反応ガスを排気する工程(反応ガスパージ工程)、の一連のステップを1サイクルとし、このサイクルを1回以上繰り返して所望の膜厚とする薄膜形成プロセスである。
【0033】
本発明の化学蒸着法は、CVD法及びALD法の双方に適用可能である。CVD法では、第1成膜工程で原料ガスと非酸化性ガスを導入し、第2成膜工程では原料ガスと酸化性ガスを導入することとなる。また、ALD法では、第1成膜工程で、上記した吸着工程・原料ガスパージ工程・非酸化性ガスによる反応工程・反応ガスパージ工程からなるサイクルを1回以上繰り返し、その後、第2成膜工程で、吸着工程・原料ガスパージ工程・酸化性ガスによる反応工程・反応ガスパージ工程からなるサイクルを1回以上繰り返して所望の膜厚とする。
【0034】
また、化学蒸着法では、原料化合物と反応ガスとの反応を促進するため基板等を加熱する熱CVD法、熱ALD法が適用されることが多く、本発明でも同様である。更に、化学蒸着法では、加熱によるアシストの他、プラズマ(PECVD、PEALD)やレーザー等によるアシストを行うことがあるが、本発明でも第1成膜工程及び/又は第2成膜工程にこれらを適用できる。
【0035】
(b)基板
本発明における基板については特に制限はない。Si基板又はSi/SiO2基板の他、表面にCu、W、TiN等の薄膜を備えた基板等、適用されるデバイスの仕様に応じて任意に材質選択ができる。特に本発明は、基板の酸化抑制を前提とすることから、酸化し易い基板であっても問題はない。
【0036】
(c)有機ルテニウム化合物(プリカーサ)
本発明においては、プリカーサとなる有機ルテニウム化合物は、非酸化性ガスを反応ガスとしたときにルテニウム薄膜等を成膜可能なものが適用される。非酸化性ガスに反応性のないプリカーサでは、第1成膜工程での成膜が困難となり、その後の第2成膜工程を行うことができないからである。そして、本発明では、上記で示した(1)有機ルテニウム化合物α(化5)、(2)有機ルテニウム化合物β(化13)、(3)有機ルテニウム化合物γ(化14)をプリカーサとして適用する。以下、各有機ルテニウム化合物について説明する。
【0037】
(1)有機ルテニウム化合物α
有機ルテニウム化合物αは、上記化5で示される有機ルテニウムである。この有機ルテニウム化合物は、ルテニウム(2価)に、配位子L1として直鎖又は分枝鎖の鎖状炭化水素基又は環状炭化水素基が配位し、更に、配位子X及び2つのカルボニル配位子が配位した化合物である。
【0038】
有機ルテニウム化合物αの配位子L1である炭素数2以上13以下の直鎖又は分枝鎖の鎖状炭化水素基又は環状炭化水素基としては、後述するトリメチレン配位子(配位子L10)や、ブタジエニル配位子、ペンタジエニル配位子、ヘキサジエニル配位子、ヘプタジエニル配位子等が挙げられる。
【0039】
一方、有機ルテニウム化合物αの配位子Xとしては、カルボニル配位子(CO)、イソシアニド配位子(L2)、ピリジン配位子(L3)、アミン配位子(L4)、イミダゾール配位子(L5)、ピリダジン配位子(L6)、ピリミジン配位子(L7)、およびピラジン配位子(L8)のいずれかが適用される。配位子L2~L8の具体的内容は、以下のとおりである。
【0040】
・イソシアニド配位子(L2)
イソシアニド配位子(L2)は、上記化6の式で示される配位子である。配位子L2の置換基R1は、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上9以下の環状アルキル基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上9以下のアリール基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基である。配位子Xがイソシアニド配位子であるとき、配位子L2の置換基R1は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロヘキシル基、トリフルオロメチル基、又はペンタフルオロエチル基のいずれかであることが好ましい。
【0041】
・ピリジン配位子(L3)
ピリジン配位子(L3)は、上記化7の式で示される配位子である。配位子L3の置換基R2~R6は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基若しくはフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、のいずれかである。配位子Xがピリジン配位子であるとき、R2~R6の全てが水素であるか、R2とR4とR6のいずれもがメチル基でR3とR5が水素であるか、R2とR3とR5とR6のいずれもが水素でR4がメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基、メトキシ基、シアノ基、ニトロ基、のいずれかであるか、のいずれかの場合が好ましい。
【0042】
・アミン配位子(L4)
アミン配位子(L4)は、上記化8の式で示される配位子である。配位子L4の置換基R7~R9は、それぞれ、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基である。配位子Xがアミン配位子であるとき、R7~R9の全てがメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基のいずれかであるか、R7、R8がいずれもメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基又はtert-ブチル基のいずれかでありR9が水素であるか、のいずれかの場合が好ましい。
【0043】
・イミダゾール配位子(L5)
イミダゾール配位子(L5)は、上記化9の式で示される配位子である。配位子L5の置換基R10は、水素、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上8以下の環状アルキル基、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、のいずれかである。置換基R11~R13は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、のいずれかである。配位子Xがイミダゾール配位子であるとき、R10~R13の全てが水素であるか、R10がメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基のいずれかで、R11~R13が水素、メチル基又はエチル基のいずれかであるか、R10がメチル基、エチル基、イソプロピル基又はtert-ブチル基、トリフルオロメチル基のいずれかで、R11~R13がいずれも水素、メチル基又はエチル基のいずれかであるか、のいずれかの場合が好ましい。
【0044】
・ピリダジン配位子(L6)
ピリダジン配位子(L6)は、上記化10の式で示される配位子である。配位子L6の置換基R14~R17は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。配位子Xがピリダジン配位子であるとき、R14~R17の全てが水素であるか、R14がメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基、フルオロ基、メトキシ基、シアノ基、又はニトロ基のいずれかで、R15~R17が水素、メチル基又はエチル基のいずれかであるか、R15がメチル基、エチル基、イソプロピル基又はtert-ブチル基のいずれかで、R14とR16とR17がいずれも水素、メチル基又はエチル基のいずれかであるか、R15とR16のいずれもがメチル基でR14とR17のいずれもが水素であるか、のいずれかの場合が好ましい。
【0045】
・ピリミジン配位子(L7)
ピリミジン配位子(L7)は、上記化11の式で示される配位子である。配位子L7の置換基R18~R21は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。配位子Xがピリミジン配位子であるとき、R18~R21の全てが水素であるか、R19とR20とR21のいずれもがメチル基でR18が水素であるか、R18がメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、トリフルオロ基、フルオロ基、メトキシ基、シアノ基、又はニトロ基のいずれかで、R19~R21が水素、メチル基又はエチル基のいずれかであるか、R20がメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、トリフルオロ基、フルオロ基、メトキシ基、シアノ基、又はニトロ基のいずれかで、R18とR19とR21がいずれも水素、メチル基又はエチル基のいずれかであるか、のいずれかの場合が好ましい。
【0046】
・ピラジン配位子(L8)
ピラジン配位子(L8)は、上記化12の式で示される配位子である。配位子L8の置換基R22~R25は、それぞれ、水素、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロアルキル基、炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のフルオロ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルコキシ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のシアノ基、水素又は炭素数1以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のニトロ基のいずれかである。配位子Xがピラジン配位子であるとき、R22~R25の全てが水素であるか、R22がメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基、フルオロ基、メトキシ基、シアノ基、又はニトロ基のいずれかで、R23~R25が水素、メチル基又はエチル基のいずれかであるか、R23がメチル基、エチル基、イソプロピル基、tert-ブチル基、トリフルオロメチル基、フルオロ基、メトキシ基、シアノ基、又はニトロ基のいずれかで、R22とR24とR25がいずれも水素、メチル基又はエチル基のいずれかであるか、のいずれかの場合が好ましい。
【0047】
上述した配位子配位子L1と配位子Xとの組み合わせに関し、本発明が有用な有機ルテニウム化合物αの1例として、配位子L1がトリメチレンメタン配位子であり、配位子Xがカルボニル配位である(つまりカルボニル配位子が3つ配位した)下記の有機ルテニウム化合物が挙げられる。
【0048】
【0049】
【0050】
この有機ルテニウム化合物において、トリメチレンメタン配位子L10の置換基Rは、水素、又は、炭素数1以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数3以上9以下の環状アルキル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基、炭素数2以上8以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上9以下のアリール基、のいずれかである。より好ましくは、置換基Rは、水素、炭素数2以上4以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキル基、炭素数5以上8以下の環状アルキル基、炭素数3以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルケニル基、炭素数3以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアルキニル基、炭素数3以上5以下の直鎖若しくは分岐鎖のアミノ基、炭素数6以上8以下のアリール基のいずれかである。
【0051】
配位子L10の置換基Rは、具体的には、水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基(2-methylpropyl)、sec-ブチル基(1-methylpropyl)、tert-ブチル基(1,1-dimethylethyl)、n-ペンチル基、イソペンチル基(3-methylbutyl)、ネオペンチル基(2,2-dimethylpropyl)、sec-ペンチル基(1-methylbutyl), tert-ペンチル基(1,1-dimethylpropyl)、n-ヘキシル基、イソヘキシル基(4-methylpentyl)、ネオヘキシル基(2,2-dimethylbutyl)、sec-ヘキシル基(1-methylpentyl)、tert-ヘキシル基(1,1-dimethylpentyl)、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメタニル基、フェニル基が好ましい。より好ましくは、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、イソブチル基(2-methylpropyl),n-ペンチル基、イソペンチル基(3-methylbutyl), ネオペンチル基(2,2-dimethylpropyl)である。
【0052】
(2)有機ルテニウム化合物β
有機ルテニウム化合物βは、上記化13で示される有機ルテニウムである。この有機ルテニウム化合物は、ルテニウムに2つのβ-ジケトン配位子及び2つのカルボニル配位子が配位した有機ルテニウム化合物である。
【0053】
β-ジケトン配位子の置換基R26、R27は、水素又は炭素数1以上4以下のアルキル基である。また、R26、R27は、互いに同一でも異なっていてもよいが、相互に異なる非対称型のγ-ジケトン類であることが好ましい。更に、R26の炭素数とR27の炭素数との合計は、2~5とする。
【0054】
(3)有機ルテニウム化合物γ
有機ルテニウム化合物γは、上記化14で示される有機ルテニウムである。この有機ルテニウム化合物は、金属結合した2つのルテニウムを中心金属とし、配位子として、ルテニウムに橋架け配位した配位子L9及びカルボニル配位子を備える復核の有機ルテニウム化合物である。配位子L9は、窒素原子を1つ含むモノイミンであって、上記化16で示した2種の配位子(L9-1)又は(L9-2)のいずれかである。尚、「橋架け配位」とは、2つのルテニウムに対し、1つの配位子が架橋するように立体配位することである。具体的には、上記した配位子(L9-1、L9-2)のうち、*で示された2箇所の位置で各ルテニウムに配位することで、(1つの配位子が2つのルテニウムに)架橋配位する。
【0055】
配位子L9の置換基R28~R35については、L9-1ではR28~R30の各置換基の炭素数の合計が3以上10以下であることが好ましい。また、L9-2ではR31~R35の各置換基の炭素数の合計が2以上10以下であることが好ましい。各置換基R28~R35としてとりうる置換基は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子、炭素数1以上4以下のアルキル基のいずれか1種である。置換基R28~R35がアルキル基である場合、直鎖又は分岐鎖のいずれでも良い。アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、又はブチル基のいずれか1種が好ましい。
【0056】
配位子L9-1の置換基R28~R30は、互いに同一でも異なっていてもよく、少なくとも1つは、エチル基、プロピル基又はブチル基のいずれかであることが好ましい。R1及びR3は、分岐鎖のアルキル基であることも好ましい。具体的には、好適な置換基として、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基等が適用でき、好ましくは、エチル基、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基である。
【0057】
R29は、水素原子又はメチル基のいずれかが好ましく、水素原子が特に好ましい。これらの置換基R29は、配位子L9がルテニウムに橋架け配位した際に、ルテニウムが金属結合している平面上に対し、立体方向に位置しており、この置換基を低炭素数とした場合、安定して気化しやすい錯体が得られやすい。
【0058】
配位子L9-2の置換基R31~R35の好適な置換基としては、R31は、エチル基、プロピル基又はブチル基のいずれか1つが好ましい。R31は、分岐鎖のアルキル基であることも好ましい。具体的には、好適な置換基として、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基等が適用でき、好ましくは、エチル基、iso-プロピル基、iso-ブチル基、sec-ブチル基、又はtert-ブチル基である。また、R32、R33、R34及びR35は、互いに同一でも異なっていてもよく、それぞれ、水素原子又はメチル基のいずれかが好ましく、水素原子が特に好ましい。
【0059】
以上説明したプリカーサとなる(1)~(3)の有機ルテニウム化合物α、β、γは、そのまま或いは適宜の溶媒に溶解した溶液を加熱して原料ガスとすることができる。
【0060】
(I)第1成膜工程
第1成膜工程は、上記した有機ルテニウム化合物α、β、γをプリカーサとし、非酸化性ガスを反応ガスとして基板にルテニウム薄膜等を成膜する工程である。この成膜工程は、基板の酸化を抑制しつつ、製造目的となるルテニウム薄膜等の基礎となる薄膜を成膜する初期段階の工程である。
【0061】
第1成膜工程で反応ガスとなる非酸化性ガスとは、酸化性ガス以外のガスである。ここで、酸化性ガスとは、酸素を供給することによって他の物質の燃焼を引き起こす或いは助燃するおそれが空気よりもある気体物質であり、より具体的には、GHS区分が区分1に該当する気体物質である。本発明において、好ましい非酸化性ガスとしては、水素、水蒸気、アンモニア、アミン化合物、ヒドラジン誘導体等が挙げられる。
【0062】
尚、アミン化合物は、「R-NH2」、「RR’-NH」、「RR’R”-N」で示される化合物であり、式中の置換基R、R’、R”は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基(2-methylpropyl)、sec-ブチル基(1-methylpropyl)、tert-ブチル基(1,1-dimethylethyl)、n-ペンチル基、イソペンチル基(3-methylbutyl)、ネオペンチル基(2,2-dimethylpropyl)、sec-ペンチル基(1-methylbutyl),tert-ペンチル基(1,1-dimethylpropyl)、n-ヘキシル基、イソヘキシル基(4-methylpentyl)、ネオヘキシル基(2,2-dimethylbutyl)、sec-ヘキシル基(1-methylpentyl)、tert-ヘキシル基(1,1-dimethylpentyl)、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、フェニル基、ベンジル基からなる群から選択される。R、R’、R”は、それぞれ同一でも異なっていても良い。R、R’、R”は、より好ましくは、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基(2-methylpropyl)、sec-ブチル基(1-methylpropyl)、tert-ブチル基(1,1-dimethylethyl)、n-ペンチル基、イソペンチル基(3-methylbutyl)、ネオペンチル基(2,2-dimethylpropyl)、sec-ペンチル基(1-methylbutyl),tert-ペンチル基(1,1-dimethylpropyl)からなる群から選択される。
【0063】
また、ヒドラジン誘導体は、「H2N-NRR’」で示される化合物であり、式中の置換基R、R’は、水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基(2-methylpropyl)、sec-ブチル基(1-methylpropyl)、tert-ブチル基(1,1-dimethylethyl)、n-ペンチル基、イソペンチル基(3-methylbutyl)、ネオペンチル基(2,2-dimethylpropyl)、sec-ペンチル基(1-methylbutyl),tert-ペンチル基(1,1-dimethylpropyl)、n-ヘキシル基、イソヘキシル基(4-methylpentyl)、ネオヘキシル基(2,2-dimethylbutyl)、sec-ヘキシル基(1-methylpentyl)、tert-ヘキシル基(1,1-dimethylpentyl)、シクロヘキシル基、シクロヘキシルメチル基、シクロヘキシルエチル基、フェニル基、ベンジル基からなる群から選択される。R、R’は、それぞれ同一でも異なっていても良い。より好ましくは、R、R’は、水素、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基(2-methylpropyl)、sec-ブチル基(1-methylpropyl)、tert-ブチル基(1,1-dimethylethyl)、n-ペンチル基、イソペンチル基(3-methylbutyl)、ネオペンチル基(2,2-dimethylpropyl)、sec-ペンチル基(1-methylbutyl),tert-ペンチル基(1,1-dimethylpropyl)からなる群から選択される。
【0064】
また、第1成膜工程において成膜するルテニウム薄膜等の膜厚は、2nm以上5nm以下とすることが好ましい。非酸化性ガスにより形成されるルテニウム薄膜等は、炭素等の不純物を含む傾向がある。そのため、この段階での膜厚を過度に厚くすると、第2成膜工程を経た薄膜の比抵抗が高くなることがある。また、第1成膜工程によるルテニウム薄膜等が薄すぎると、その後の酸化性ガスによる第2成膜工程で基板が酸化するおそれがある。
【0065】
第1成膜工程における成膜条件は、プリカーサである有機ルテニウム化合物α、β、γの特性に応じて任意に設定される。有機ルテニウム化合物α、β、γは、いずれも蒸気圧が比較的高く容易に気化して原料ガスにすることができる。プリカーサを気化して原料ガスを生成するための加熱温度としては0℃以上80℃以下とするのが好ましい。
【0066】
また、成膜時の成膜温度は、150℃以上400℃以下とするのが好ましい。150℃未満では、有機ルテニウム化合物の分解反応が進行し難く成膜の進行が遅くなる。一方、成膜温度が400℃を超えると均一な成膜が困難となると共に、基板へダメージが懸念される等の問題がある。成膜温度とは、基板の表面温度であり、通常は基板の加熱温度により調節される。
【0067】
尚、ALD法においては、上記のとおり、吸着工程・原料ガスパージ工程・反応工程・反応ガスパージ工程からなるサイクルを複数回繰り返すことを前提とする。このとき、2回目以降のサイクルでは、ルテニウム等は前サイクルのルテニウム薄膜等の上に析出することがある。この場合、当該サイクルでは基板に直接成膜したことにならないが、当該サイクルも当然に第1成膜工程の範囲にある。即ち、反応ガスを非酸化性ガスとする限り、2回目以降のサイクルも第1成膜工程の範囲にある。
【0068】
(II)第2成膜工程
第2成膜工程は、上述した第1成膜工程で形成されたルテニウム薄膜等の上に、酸化性ガスを反応ガスとして成膜する工程である。この成膜工程は、基本的に、反応ガスのみが第1成膜工程と相違する。よって、第2成膜工程は、第1成膜工程後の同一の反応器で実行可能である。
【0069】
第2成膜工程で反応ガスとなる酸化性ガスの意義については、上述したとおりである。本発明において好適な酸化性ガスとしては、酸素、オゾンのいずれか挙げられる。
【0070】
第2成膜工程における成膜条件もプリカーサである有機ルテニウム化合物の特性に応じて任意に設定される。また、プリカーサの気化の加熱温度は、第1成膜工程と同様0℃以上80℃以下とするのが好ましい。そして、成膜時の成膜温度は、反応ガスが酸化性ガスとなっていることを考慮しつつ設定できるが、第1成膜工程と同様の範囲とすることができる。即ち、成膜温度は150℃以上400℃以下とするのが好ましい。
【0071】
第2成膜工程は、目的とする膜厚のルテニウム薄膜等を成膜する工程である。従って、この工程で成膜するルテニウム薄膜等の膜厚が限定されることはない。
【0072】
以上説明した第1成膜工程及び第2成膜工程を経ることで、所望の膜厚のルテニウム薄膜等が成膜される。本発明に係る方法により成膜するルテニウム薄膜等の膜厚に制限はない。例えば、10nm級(20nm以下)の薄いルテニウム膜の形成においては、これまでの酸化性ガスによる成膜に対し、基板の酸化を抑制すると共に薄膜の比抵抗を最適化することができる。酸化性ガスにより基板が酸化されるとき、薄膜の膜厚が薄くなるほどその影響を受けることとなる。本発明により基板の酸化を抑制することで、より低抵抗な薄膜とすることができる。また、膜厚を増大させる場合においては、これまでの非酸化性ガスを反応ガスとする成膜方法よりも、効率的な成膜を行うことができる。第1成膜工程により基礎となる薄膜を形成した後は、反応性に優れる酸化性ガスを反応ガスとするからである。
【0073】
B.本発明に係るルテニウム薄膜等
本発明は、適宜の基板上に形成されたルテニウム薄膜又はルテニウム化合物薄膜も提示する。本発明に係るルテニウム薄膜等は、基板表面において酸素フリーであり、膜厚が薄い場合であっても基板酸化による抵抗上昇が抑制されている。即ち、本発明は、基板上に成膜されたルテニウム又はルテニウム化合物からなる薄膜であって、前記薄膜は前記基板との界面に酸素を含まないものである。
【0074】
また、本発明に係るルテニウム薄膜等は、薄膜中の不純物含有量も低減されている。上述した有機ルテニウム化合物においては、カルボニル配位子等の炭素を構成元素とする配位子を含み、それらの配位子が成膜中に薄膜に混入する可能性がある。本発明に係るルテニウム薄膜等は、不純物の混入も抑制されており、これによる抵抗上昇も抑制される。本発明に係るルテニウム薄膜等では、薄膜最表面付近における平均炭素濃度が低減されている。本発明に係るルテニウム薄膜等の不純物の抑制に関し、具体的に説明すると、薄膜最表面からから10nm以上25nm以下の範囲における平均炭素濃度が0.05原子%以下にまで低減されている。
【0075】
もっとも、基板と薄膜との界面においては、非酸化性ガスによる成膜に起因した微量の炭素が含まれることがある。微量炭素は、基板表面(基板と薄膜との界面)でみられる。具体的には、基板表面から10nmまでの領域における平均炭素濃度が0.2原子%以上0.5原子%以下となっていることがある。この基板表面付近の炭素濃度は、基板表面から5nmまでの領域において0.2原子%以上0.5原子%以下であることがより好ましい。
但し、この炭素は、極めて微量であること及び基板の極表面付近に含まれるものであることから、薄膜全体の抵抗に及ぼす影響は少ない。
【0076】
また、本発明に係るルテニウム薄膜等の構造的な特徴としては、表面のラフネス(表面粗さ)が低減されていることにある。本発明者等によれば、非酸化性ガスによる成膜では核形成の遅延が短く、微細な結晶を形成して表面がスムースな薄膜が形成される傾向がある。本発明で、初期段階でスムースな薄膜を形成し、その上に酸化性ガスで成膜することで、非酸化性ガスのみで形成される薄膜よりも表面粗さが低下する。薄膜の比抵抗に影響を及ぼす因子としては、表面散乱、粒界散乱、表面ラフネス等が相互に関連している。本発明に係るルテニウム薄膜等では、特に表面ラフネスの改善による低抵抗化が図られていると考察されている。こうした薄膜の表面粗さの低減は、特に、膜厚の小さい薄膜の低抵抗化に寄与することができる。
【0077】
本発明に係るルテニウム薄膜等の膜厚に制限はない。但し、本発明のルテニウム薄膜等は、基板の酸化が抑制されていることから、基板酸化の影響を受け得る20nm以下の膜厚の薄膜において特に有用である。
【発明の効果】
【0078】
以上説明したとおり、本発明に係る化学蒸着法によるルテニウム薄膜等の製造方法は、2段階の成膜工程で構成されている。本発明は、非酸化性ガス及び酸化性ガスのそれぞれのメリットを活かして、低抵抗のルテニウム薄膜等を効率的に成膜することができる。
【図面の簡単な説明】
【0079】
【
図1】本願の実施形態のALD法による2段階の成膜工程を含むルテニウム薄膜の製造工程を説明する図。
【
図2】第1実施形態で製造した実施例1及び実施例2のルテニウム薄膜のFE-SEM写真。
【
図3】第1実施形態で製造した実施例1、2及び比較例1のルテニウム薄膜のGI-XRDによる回折パターン。
【
図4】第1実施形態で製造した実施例1及び比較例1、2のルテニウム薄膜の深さ方向の組成分析結果を示す図。
【
図5】第1実施形態で製造した実施例1、2及び比較例1、2のルテニウム薄膜の比抵抗を示すグラフ。
【
図6】第2実施形態で製造した実施例3及び比較例3のルテニウム薄膜の膜厚と比抵抗を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0080】
第1実施形態:以下、本発明における最良の実施形態について説明する。本実施形態では、プリカーサとなる有機ルテニウム化合物として、有機ルテニウム化合物αであり、配位子L1がトリメチレンメタン配位子(L10:R=水素)で配位子Xがカルボニル配位である(η4-メチレン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウム(化4)を用い、第1成膜工程の非酸化性の反応ガスとして水素を、第2成膜工程の酸化性ガスの反応ガスとして酸素を適用し、ALD法にてルテニウム薄膜を成膜した。また、対比のため、反応ガスとして酸素のみ又は水素のみを適用する従来法である単一工程でのルテニウム薄膜の成膜を行った。
【0081】
プリカーサである(η4-メチレン-1,3-プロパンジイル)トリカルボニルルテニウムは、以下のようにして合成した。トリカルボニル-ジクロロルテニウムダイマー50.0g(97.5mmol)をテトラヒドロフラン1700mlに懸濁し、3-クロロ-2-(クロロメチル)-1-プロペン 29.2g(231.6mmol)のテトラヒドロフラン溶液300mlを加えた。削状マグネシウム19.7g(800mmol)をゆっくりと加え、その後室温で3時間反応させた。反応混合物にメタノール5mLを加えクエンチし、溶媒を減圧留去した。得られた残渣をペンタン30mLで3回抽出し、溶媒を減圧留去した。得られたオイルを昇華精製すると、目的物として無色液体16.3g(68.3mmol)を得た(収率35%)。この有機ルテニウム化合物の合成反応は、下記のとおりである。
【0082】
【0083】
[ルテニウム薄膜の成膜]
本実施形態におけるALD法によるルテニウム薄膜の製造工程のフローを
図1に示す。上記で説明したように、ALD法による成膜工程は、(i)原料ガスを基板に導入する吸着工程、(ii)余剰な原料ガスを排気する原料ガスパージ工程、(iii)反応ガスを導入し薄膜を形成する反応工程、(iv)余剰な反応ガスを排気する反応ガスパージ工程で構成される。そして、これらのステップを1サイクルとして、目標の膜厚となるまで繰り返す。
【0084】
本実施形態では、Si基板(2cm×2cm)の表面にTiN膜(厚さ20nm)を有するものを成膜用の基板としてルテニウム薄膜を成膜した。第1、第2成膜工程における成膜条件は以下のようにした。
【0085】
(I)第1成膜工程
(i)原料ガス導入工程
・原料加熱温度:10℃
・キャリアガス:窒素(50sccm)
・導入時間:5秒
(ii)原料ガスパージ工程
・パージガス:窒素(100sccm)
・導入時間:20秒
(iii)反応ガス導入工程
・反応ガス:水素(50sccm)
・導入時間:30秒
(iv)反応ガスパージ工程
・パージガス:窒素(100sccm)
・導入時間:10秒
【0086】
(II)第2成膜工程
(i)原料ガス導入工程
・原料加熱温度:10℃
・キャリアガス:窒素(50sccm)
・導入時間:10秒
(ii)原料ガスパージ工程
・パージガス:窒素(100sccm)
・導入時間:10秒
(iii)反応ガス導入工程
・反応ガス:酸素(50sccm)
・導入時間:10秒
(iv)反応ガスパージ工程
・パージガス:窒素(100sccm)
・導入時間:10秒
【0087】
本実施形態では、第1成膜工程(反応ガス:水素)で成膜するルテニウム薄膜の膜厚を2nm(実施例1)、4nm(実施例2)に設定した。そして、第2成膜工程(反応ガス:酸素)で最終膜厚が40nmとなるようにしてルテニウム薄膜を成膜した(実施例1:38nm成膜、実施例2:36nm成膜)。
【0088】
また、比較例として、酸素のみ(比較例1)又は水素のみ(比較例2)を反応ガスとして1段階のALD法でルテニウム薄膜を成膜した。これらの比較例では、上記の第1、第2成膜工程と同じ条件でサイクル数を制御して40nmのルテニウム薄膜を成膜した。
【0089】
図2に本実施形態の実施例1、2のルテニウム薄膜のFE-SEM(電解放出形走査電子顕微鏡)による断面写真を示す。また、
図3に、実施例1、2と比較例1のルテニウム薄膜のGI-XRD(微小角入社X線回折)によるXRD回折パターンを示す。ルテニウム薄膜の結晶性に関しては、本実施形態の2段階成膜によるルテニウム薄膜は、従来の1段階成膜と同等であるといえる。このGI-XRDの結果から、各ルテニウム薄膜の結晶粒径を算出したところ、実施例1が29.3nm、実施例2が28.5nm、比較例1が32.2nmであった。第1成膜工程で水素で成膜した実施例1、2は、酸素のみで成膜した比較例1に対して粒径が小さいといえる。上述したように、非酸化性ガスによる成膜では核形成の遅延が短いことから、微細な結晶粒が迅速に形成される。実施例1、2は、そのようにして形成された微細なルテニウム結晶の上に薄膜が成長したと考えられる。そして、原子間力顕微鏡にて実施例1と比較例1の表面粗さを観測したところ、比較例1が2.0nmであったのに対し、実施例1では1.8nmに表面粗さが低減されていることが確認された。
【0090】
また、実施例1、比較例1、比較例2のルテニウム薄膜について行った、SIMS(二次イオン質量分析)による深さ方向の組成分析の結果を
図4に示す。比較例2の水素のみで1段階で成膜したルテニウム薄膜は、基板界面及び膜中に炭素(C)が存在するのが確認された。比較例2の酸素のみで1段階で成膜したルテニウム薄膜の場合は、このような膜中の炭素の含有は確認されない。そして、実施例1でも膜中の炭素含有は認められていない。更に、実施例1と比較例1とを対比すると、比較例1には基板との界面における酸素(O)の存在が僅かであるが確認される。これらを参照すると、実施例1の水素と酸素による2段階の成膜によれば、基板界面における酸素の混入(基板酸化)と、膜中の炭素の混入を抑制し、高純度のルテニウム薄膜を製造することができるといえる。
【0091】
次に、実施例1、2及び比較例1、2のルテニウム薄膜の比抵抗を測定した。比抵抗の測定は4探針法にて測定した。この測定の結果を
図5に示す。これらのルテニウム薄膜の中で最も比抵抗が高いのは比較例2であった。上記のとおり、非酸化性ガスである水素による成膜されたルテニウム薄膜は、炭素等の不純物が含まれており、これにより比抵抗が上昇したと考えられる。その結果として比較例1は、比較例1の酸素によるルテニウム薄膜よりも比抵抗が高くなったと考えられる。
【0092】
これらの比較例に対して、実施例1の2段階の成膜工程によるルテニウム薄膜は、比較例1の酸素によるルテニウム薄膜よりも比抵抗が低くなっている。第1成膜工程の水素の適用による基板の酸化の抑制と共に、第2成膜工程の酸素の適用による速やかな成膜反応と不純物放出の結果、薄膜の低抵抗化を図ることができたといえる。また、実施例2については、比較例1より比抵抗が高いが、その差はわずかであり同等レベルのものである。実施例2は、第1成膜工程での非酸化性ガスの適用によって、基板酸化によるダメージの懸念をほぼ完全に払拭できることを考慮すれば、実施例2も実施例1と同様に良好な結果といえる。この実施例2の評価については、この薄膜が比較例2の薄膜に対して明確に低比抵抗であったことからも支持できる評価である。
【0093】
第2実施形態:本実施形態では、2段階の成膜工程を適用しつつ、ルテニウム薄膜の膜厚を増大させたときの比抵抗の変化を検討した。第1実施形態と同じ条件で、第1成膜工程(反応ガス:水素)で2nmのルテニウム薄膜を成膜し、第2成膜工程(反応ガス:酸素)でルテニウム薄膜を成膜した。このとき、第2成膜工程による最終の膜厚を5nm、12nm、18nm、23nmにしてルテニウム薄膜を成膜した(実施例3)。そして、各膜厚のルテニウム薄膜について比抵抗を測定した。
【0094】
また、この実施例3の比較例として、反応ガスを酸素とする1段階の成膜工程で、6nm、10nm、15nm、20nmのルテニウム薄膜を成膜し、比抵抗を測定した(比較例3)。
【0095】
これらのルテニウム薄膜の比抵抗の測定結果を
図6に示す。
図6から、2段階の成膜工程によるルテニウム薄膜(実施例3)は、反応ガスを酸素とする1段階の成膜工程によるルテニウム薄膜(比較例3)に対して比抵抗が同等以下となることが確認される。特に、膜厚の小さい(12nm以下)の薄膜においては、2段階の成膜工程で成膜された薄膜の方が比抵抗は低い。これは、第1成膜工程での非酸化性ガスの適用による基板の酸化抑制と粒径が小さく表面粗さの低下による作用と考えられる。このような極薄のルテニウム薄膜の低抵抗化は、微小化する半導体デバイスの薄膜電極において有用になると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
以上のとおり、本発明に係る2段階の成膜工程によるルテニウム薄膜等の製造方法は、基板の酸化を抑制しながら高品位で低比抵抗なルテニウム薄膜等を形成することができる。本発明は、DRAM等の半導体デバイスの配線・電極材料としての使用に好適である。特に、超小型化される半導体デバイスの配線の微細化にも対応可能である。