(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178591
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】塗抹装置
(51)【国際特許分類】
G01N 1/28 20060101AFI20231211BHJP
C12M 1/32 20060101ALI20231211BHJP
【FI】
G01N1/28 V
C12M1/32
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022091365
(22)【出願日】2022-06-06
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】竹中 啓
(72)【発明者】
【氏名】梶原 ゆり
(72)【発明者】
【氏名】安居 晃啓
(72)【発明者】
【氏名】上野 沙季
(72)【発明者】
【氏名】前嶋 宗郎
【テーマコード(参考)】
2G052
4B029
【Fターム(参考)】
2G052AA33
2G052CA19
2G052CA23
2G052CA32
2G052DA07
4B029AA09
4B029BB11
4B029CC08
4B029DG10
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB01
4B029GB05
4B029HA10
(57)【要約】
【課題】検体を含む液体を平板上に均一塗抹し得る信頼性の高い塗抹装置を提供する。
【解決手段】本発明は、検体を含む液体を検体容器から吸引して平板上に吐出するノズルと、前記ノズルが前記液体を吸引及び吐出する動力を与えるポンプと、前記ノズルと前記ポンプを接続する配管と、前記平板を保持するステージと、前記ノズル又は前記ステージを前記平板の平面と垂直な方向又は平行な方向に移動させて、前記ノズルの先端と前記平板の相対位置を制御する位置制御部と、を備えた塗抹装置において、前記ノズルの先端の断面形状が、長円形、楕円形若しくは卵形を含むオーバル型、又は、直交する長短2本の対称軸を有し、かつ、nを自然数としたときのn角形、であることを特徴としている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体を含む液体を検体容器から吸引して平板上に吐出するノズルと、
前記ノズルが前記液体を吸引及び吐出する動力を与えるポンプと、
前記ノズルと前記ポンプを接続する配管と、
前記平板を保持するステージと、
前記ノズル又は前記ステージを前記平板の平面と垂直な方向又は平行な方向に移動させて、前記ノズルの先端と前記平板の相対位置を制御する位置制御部と、
を備えた塗抹装置において、
前記ノズルの先端の断面形状が、長円形、楕円形若しくは卵形を含むオーバル型、又は、直交する長短2本の対称軸を有し、かつ、nを自然数としたときのn角形、であることを特徴とする塗抹装置。
【請求項2】
請求項1に記載の塗抹装置において、
前記ノズルの先端の断面形状が、直交する長短2本の対称軸を有する、長円形、楕円形又はnを自然数としたときのn角形であって、
前記ノズルが前記液体を前記平板上に吐出するときに相対移動する方向は、前記対称軸のうち短い方と平行な方向、又は当該平行な方向に対して10度以内の傾きを持った方向、であることを特徴とする塗抹装置。
【請求項3】
請求項2に記載の塗抹装置において、
前記対称軸のうち長い方の長さをa、短い方の長さをbとしたとき、2≦a/b≦10となることを特徴とする塗抹装置。
【請求項4】
請求項1に記載の塗抹装置において、
前記ノズルの先端の断面形状が、1本の対称軸を有する卵形であって、
前記ノズルが前記液体を前記平板上に吐出するときに相対移動する方向は、前記対称軸の寸法と、前記対称軸と垂直な方向の最大寸法のうち、短い方の方向と平行な方向、又は当該平行な方向に対して10度以内の傾きを持った方向、であることを特徴とする塗抹装置。
【請求項5】
請求項4に記載の塗抹装置において、
前記対称軸の寸法と、前記対称軸と垂直な方向の最大寸法のうち、長い方の長さをa、短い方の長さをbとしたとき、2≦a/b≦10となることを特徴とする塗抹装置。
【請求項6】
請求項3又は5に記載の塗抹装置において、
前記ノズルの先端の相当直径が、0.1mm以上かつ1mm以下であることを特徴とする塗抹装置。
【請求項7】
請求項3又は5に記載の塗抹装置において、
前記平板上の液体塗抹跡の間隔は、長さaに対して0.8倍以上かつ1.2倍以下であることを特徴とする塗抹装置。
【請求項8】
請求項1に記載の塗抹装置において、
前記位置制御部は、前記ステージを、前記平板の平面と平行な方向に移動させることを特徴とする塗抹装置。
【請求項9】
請求項1に記載の塗抹装置において、
前記位置制御部は、前記ノズルを、前記平板の平面と平行な方向に移動させることを特徴とする塗抹装置。
【請求項10】
請求項1に記載の塗抹装置において、
前記ノズルと、前記配管に設けられた連結用部材と、の対向面には、回転防止用の凹凸が形成されていることを特徴とする塗抹装置。
【請求項11】
検体を含む液体を検体容器から吸引して平板上に吐出するノズルと、
前記ノズルが前記液体を吸引及び吐出する動力を与えるポンプと、
前記ノズルと前記ポンプを接続する配管と、
前記平板を保持するステージと、
前記ノズル又は前記ステージを鉛直方向又は水平方向に移動させて、前記ノズルの先端と前記平板の相対位置を制御する位置制御部と、
を備えた塗抹装置において、
前記ノズルの先端の水平断面は、前記ノズルが前記液体を前記平板上に吐出するときに相対移動する方向の最大寸法が、当該方向と直交する方向の最大寸法よりも短いことを特徴とする塗抹装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗抹装置に関する。
【背景技術】
【0002】
被験者から採取した細胞を観察し、細胞の状態や異常細胞の有無を判断する細胞検査が、がんの診断等に広く用いられている。細胞検査は、被験者から採取した細胞を含有する液体(以下、細胞含有液体とする)を、スライドガラス等の平板上に塗抹し、染色や抗原抗体反応等の処理を加えた後、光学顕微鏡等で細胞像を取得し、個々の細胞像の情報を分析する検査方法である。
【0003】
細胞検査では、細胞像の取得・分析に先立ち、平板上に細胞含有液体が塗抹される。このときの塗抹方法として、すりガラス法や引きガラス法が知られている。すりガラス法は、細胞含有液体をスライドガラス上に吐出した後、もう一枚のスライドガラスを重ね合わせ、前後に動かすことで、塗抹面に細胞含有液体を行き渡らせる塗抹方法である。引きガラス法は、細胞含有液体をスライドガラスに吐出した後、もう一枚のスライドガラスのエッジを利用して、塗抹面に細胞含有液体を引き伸ばす塗抹方法である。
【0004】
また、他の塗抹方法として、特許文献1には、先端が円形のノズルから細胞含有液体を平板上に吐出し、平板を動かすことで細胞を平板上に塗抹する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、前述した従来の塗抹方法では、平板上に吐出された細胞含有液体の塗抹跡における細胞の均一性が高くない。また、発明者らは、特許文献1に記載されているような、先端が円形のノズルを有する塗抹装置を用いて、実際に細胞含有液体を平板上に塗抹し、その塗抹跡内における細胞分布を評価した。その結果、塗抹跡の両端付近に細胞が密集し、塗抹跡の中心付近は細胞が少ないことが判明した。したがって、先端が円形のノズルの場合、塗抹跡の両端付近において細胞の重なりが増えることになり、細胞数計測の精度や細胞判別の正確性が低下することが予想される。
【0007】
本発明は、前述した従来技術の課題に鑑みて、様々な試行錯誤を重ねた結果、達成されたものであり、その目的は、検体を含む液体を平板上に均一塗抹し得る信頼性の高い塗抹装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、検体を含む液体を検体容器から吸引して平板上に吐出するノズルと、前記ノズルが前記液体を吸引及び吐出する動力を与えるポンプと、前記ノズルと前記ポンプを接続する配管と、前記平板を保持するステージと、前記ノズル又は前記ステージを前記平板の平面と垂直な方向又は平行な方向に移動させて、前記ノズルの先端と前記平板の相対位置を制御する位置制御部と、を備えた塗抹装置において、前記ノズルの先端の断面形状が、長円形、楕円形若しくは卵形を含むオーバル型、又は、直交する長短2本の対称軸を有し、かつ、nを自然数としたときのn角形、であることを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、検体を含む液体を平板上に均一塗抹し得る信頼性の高い塗抹装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】比較例として、円形ノズルから平板に細胞含有液体が塗抹されるときの液体部分と細胞の挙動を示す図。
【
図3】本実施形態として、オーバル型ノズルから平板に細胞含有液体が塗抹されるときの液体部分と細胞の挙動を示す図。
【
図4】オーバル型ノズルを塗抹装置に取り付ける部分の構造を示す図。
【
図5】ノズル先端の断面形状のバリエーションについて示した図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。
【0012】
まず、
図1を用い、本実施形態における塗抹装置の基本構成について説明する。
図1は、塗抹装置の基本構成図である。
図1に示すように、塗抹装置1は、検体供給部2と、平板保持ステージ14と、位置制御部3と、洗浄部4と、制御部5と、を備える。
【0013】
検体供給部2は、検体である細胞を含有する細胞含有液体15を、検体容器161から吸引するとともに、スライドガラス等の平板13上に吐出するものである。具体的には、検体供給部2は、オーバル型ノズル10と、検体用ポンプ12と、検体送液用チューブ120と、検体送液用バルブ121と、で構成される。オーバル型ノズル10は、細胞含有液体15を吸引及び吐出するものであり、その構成の詳細については後述する。検体用ポンプ12は、オーバル型ノズル10が細胞含有液体15を吸引及び吐出する動力を与えるものである。検体送液用チューブ120は、オーバル型ノズル10と検体用ポンプ12を接続する配管である。検体送液用バルブ121は、検体送液用チューブ120の流路の開閉するものである。なお、本実施形態における細胞含有液体15は、粘膜、粘液、痰の懸濁液や胸水、腹水、胃液、尿、血液、骨髄液、精液等の体液だけでなく、微生物やウイルスを含む液体であっても良い。
【0014】
平板保持ステージ14は、平板13を保持するものであり、図示しない留め具等により平板13の位置が固定される。また、平板保持ステージ14には、前述した検体容器161の他、後述する洗浄槽163等も設置される。
【0015】
位置制御部3は、オーバル型ノズル10の先端と平板13の相対位置を制御するものであり、ノズル上下移動機構11と、ステージ水平移動機構(図示せず)と、で構成される。ノズル上下移動機構11は、オーバル型ノズル10を平板13の平面と垂直な方向(
図1のz方向)に移動させる。ステージ水平移動機構は、平板保持ステージ14を平板13の平面と平行な方向(
図1のx-y方向)に移動させる。
【0016】
洗浄部4は、オーバル型ノズル10の洗浄を行うものであり、洗浄槽163と、洗浄液保持容器164と、廃液容器166と、洗浄用ポンプ17と、洗浄液送液用チューブ170と、洗浄用ポンプ側バルブ171と、洗浄槽側バルブ173と、洗浄液保持容器側バルブ174と、廃液容器側バルブ176と、を備える。洗浄槽163は、塗抹後のオーバル型ノズル10を洗浄するための洗浄液162を貯蔵する。洗浄液保持容器164は、洗浄液162を保管する容器である。廃液容器166は、洗浄後の洗浄液162の廃液165を保管する容器である。洗浄用ポンプ17は、洗浄液162を洗浄液保持容器164から洗浄槽163に送液したり、洗浄後の廃液165を洗浄槽163から廃液容器166に送液したりするときに、液体に動力を与える。洗浄液送液用チューブ170は、洗浄用ポンプ17と洗浄液保持容器164と洗浄槽163と廃液容器166を接続する配管である。洗浄用ポンプ側バルブ171は、洗浄用ポンプ17に接続された洗浄液送液用チューブ170を開閉する。洗浄槽側バルブ173は、洗浄槽163に接続された洗浄液送液用チューブ170を開閉する。洗浄液保持容器側バルブ174は、洗浄液保持容器164に接続された洗浄液送液用チューブ170を開閉する。廃液容器側バルブ176は、廃液容器166に接続された洗浄液送液用チューブ170を開閉する。
【0017】
制御部5は、制御装置18及び表示装置180の他、キーボードやマウス等の図示しない入力部を含む。制御装置18は、検体供給部2、位置制御部3及び洗浄部4等の動作を制御する。表示装置180は、動作状態や各種設定等を出力するものであり、例えばディスプレイである。
【0018】
次に、塗抹装置1による細胞含有液体15の平板13への塗抹方法について説明する。塗抹装置1による細胞含有液体15の塗抹の工程は、塗抹の準備(工程1)、細胞含有液体の塗抹(工程2)、塗抹後の洗浄(工程3)、の3つの工程に分かれている。以下ではこれらの工程に加え、メンテナンス(工程4)ついても説明する。
【0019】
(塗抹の準備:工程1)
塗抹の準備は、以下のように行われる。
【0020】
まず、オペレータが、洗浄液保持容器164に洗浄液162が十分量入っていることを目視確認する(工程1-1)。目視確認の結果、洗浄液162の量が不十分の場合は、洗浄液162を追加する。
【0021】
次に、オペレータが、制御部5の入力部を用いて、洗浄を指示する(工程1-2)。すると、制御装置18は、検体用ポンプ12及び洗浄用ポンプ17の動作や、検体送液用バルブ121、洗浄用ポンプ側バルブ171、洗浄槽側バルブ173、洗浄液保持容器側バルブ174及び廃液容器側バルブ176の開閉を制御し、オーバル型ノズル10、検体送液用チューブ120、洗浄槽163及び洗浄液送液用チューブ170を洗浄する。
【0022】
その後、オペレータは、制御部5の入力部を用いて、塗抹の条件を入力する(工程1-3)。塗抹の条件とは、細胞含有液体15の塗抹量、吐出の流速、平板13の移動速度、平板13上の塗抹対象領域130、塗抹を開始する平板13上の座標(塗抹開始点150)等である。
【0023】
さらに、オペレータは、塗抹する細胞含有液体15を収容する検体容器161を、平板保持ステージ14上に載置する(工程1-4)。
【0024】
最後に、オペレータは、平板13を平板保持ステージ14の留め具等を用いて固定する(工程1-5)。
【0025】
(細胞含有液体の塗抹:工程2)
細胞含有液体の塗抹は、以下のように行われる。
【0026】
まず、オペレータが、制御部5の入力部を用いて、塗抹の開始を指示する(工程2-1)。
【0027】
すると、ステージ水平移動機構は、平板保持ステージ14を水平方向に移動させることで、平板保持ステージ14上の検体容器161が、オーバル型ノズル10の直下に位置するように制御する(工程2-2)。
【0028】
ノズル上下移動機構11は、オーバル型ノズル10を下降させることで、オーバル型ノズル10の先端が、検体容器161内の細胞含有液体15の液面より下に位置するように制御する(工程2-3)。
【0029】
次に、検体用ポンプ12が駆動するとともに検体送液用バルブ121が開くことで、オーバル型ノズル10内に所定量(0.1~10μL)の細胞含有液体15を吸引する(工程2-4)。
【0030】
その後、ノズル上下移動機構11は、オーバル型ノズル10を上昇させることで、オーバル型ノズル10の先端を検体容器161から離間させる(工程2-5)。
【0031】
ステージ水平移動機構は、平板保持ステージ14を水平方向に移動させることで、平板13の塗抹開始点150が、オーバル型ノズル10の直下に位置するように制御する(工程2-6)。
【0032】
次に、ノズル上下移動機構11は、オーバル型ノズル10を下降させることで、オーバル型ノズル10の先端が、平板13の表面から所定の高さ(1~30μm)に位置するように制御する(工程2-7)。
【0033】
その後、制御装置18は、検体用ポンプ12及び検体送液用バルブ121を制御することで、オーバル型ノズル10内に吸引されていた細胞含有液体15を平板13上に吐出する(工程2-8)。制御装置18は、細胞含有液体15の吐出と同時に、ステージ水平移動機構を制御して平板13を水平方向に移動させることにより、細胞含有液体15が平板13の表面上に薄く塗抹される。
【0034】
ここで、細胞含有液体15の吐出を開始してから吐出を完了するまでの間に、ステージ水平移動機構が平板13をどのように移動させるかについて具体的に説明する。本実施形態におけるオーバル型ノズル10の先端は、
図1の(b)で示すように、水平断面形状が、直交する長短2本の対称軸を有する長円形となっている。ステージ水平移動機構は、この2本の対称軸のうち、短い方と平行な方向(
図1のx方向)に、平板保持ステージ14とともに平板13を移動させる。そして、平板13上で予め定められた塗抹領域(面積1~2,000mm2の長方形)の縁がオーバル型ノズル10の直下に接近すると、塗抹対象領域130の縁ステージ水平移動機構は、平板保持ステージ14及び平板13をx-y平面上で180度回転させる。これにより、細胞含有液体15の塗抹跡151は、塗抹対象領域130の縁において、その領域外にはみ出すことなく、平板保持ステージ14の回転半径の2倍に相当する分だけy方向に移動しつつ、x方向から-x方向に反転する。その後、ステージ水平移動機構は、-x方向に、平板保持ステージ14とともに平板13を移動させる。以上の動作が繰り返されることで、平板13上の塗抹対象領域130内に、x方向又は-x方向の直線部分を複数含む蛇行する塗抹跡151が形成される。
【0035】
なお、隣り合う塗抹跡151の間隔が大き過ぎると、塗抹された部分と塗抹されていない部分とで細胞の数密度のばらつきが大きくなる。一方、隣り合う塗抹跡151の間隔が小さ過ぎると、塗抹跡151どうしが重なるようになり、重なった部分と重なっていない部分とで細胞の数密度のばらつきが大きくなる。したがって、隣り合う塗抹跡151の間隔は、オーバル型ノズル10の長い方の対称軸の長さaと同等程度、すなわち、長さaに対して0.8倍以上かつ1.2倍以下であることが望ましい。
【0036】
細胞含有液15の吐出が完了すると、ステージ水平移動機構による平板保持ステージ14及び平板13の移動も停止する(工程2-9)。
【0037】
最後に、ノズル上下移動機構11が、オーバル型ノズル10を上昇させることで、オーバル型ノズル10の先端を平板13から離間させる(工程2-10)。
【0038】
(塗抹後の洗浄:工程3)
塗抹後の洗浄は、以下のように行われる。
【0039】
まず、オペレータが、制御部5の入力部を用いて、塗抹後の洗浄を指示する(工程3-1)。
【0040】
すると、制御装置18は、洗浄用ポンプ17、洗浄用ポンプ側バルブ171、洗浄槽側バルブ173、洗浄液保持容器側バルブ174及び廃液容器側バルブ176を制御することで、洗浄槽163内に洗浄液162を供給する(工程3-2)。
【0041】
ステージ水平移動機構は、平板保持ステージ14とともに洗浄槽163を水平方向に移動させることで、洗浄槽163が、オーバル型ノズル10の直下に位置するように制御する(工程3-3)。
【0042】
次に、ノズル上下移動機構11は、オーバル型ノズル10を下降させることで、オーバル型ノズル10の先端が、洗浄槽163内の洗浄液162の液面より下に位置するように制御する(工程3-4)。
【0043】
その後、制御装置18は、検体用ポンプ12及び検体送液用バルブ121を制御し、オーバル型ノズル10内への洗浄液162の吸引と吐出を繰り返すことで、オーバル型ノズル10を洗浄する(工程3-5)。
【0044】
オーバル型ノズル10の洗浄が完了すると、ノズル上下移動機構11は、オーバル型ノズル10を上昇させることで、オーバル型ノズル10の先端が、洗浄槽163内の洗浄液162の液面から離間させる(工程3-6)。
【0045】
最後に、制御装置18が、洗浄用ポンプ17、洗浄用ポンプ側バルブ171、洗浄槽側バルブ173、洗浄液保持容器側バルブ174及び廃液容器側バルブ176を制御することで、洗浄槽163内の洗浄液162を廃液容器166へ排出する(工程3-7)。
【0046】
(メンテナンス:工程4)
検体容器161は、検体のコンタミネーションを防止するため、検体を変える度に交換することが好ましい。一方、洗浄槽163は、塗抹の度に洗浄液162によって洗浄されるため、頻繁に交換する必要はなく、定期的なメンテナンス時や異常が発生した時に交換する。同様に、オーバル型ノズル10、検体送液用チューブ120、洗浄液送液用チューブ170等の部品についても、定期メンテナンス時や異常発生時に交換する。
【0047】
なお、本実施形態は、オーバル型ノズル10でなく平板保持ステージ14を、平板13の平面(x-y平面)と平行な方向に移動させる構造であるため、塗抹装置1全体の構成を観点にできる利点がある。しかし、平板13がオーバル型ノズル10に対して相対移動できれば、平板保持ステージ14でなくオーバル型ノズル10を、x-y平面と平行な方向に移動させる構造であっても良い。このような構造の場合、平板保持ステージ14上に設置される洗浄槽163等の要素のレイアウト自由度が高くなる利点がある。
【0048】
次に、ノズル先端の断面形状と、塗抹跡151内における細胞分布の均一性と、の関係について説明する。
【0049】
図2は、比較例として、円形ノズルから平板に細胞含有液体が塗抹されるときの液体部分と細胞の挙動を示す図であり、(a)は側方から見た断面図、(b)は上方から見た平面図である。ノズルの先端の断面形状が円形である円形ノズル20の場合、
図2の(b)に示すように、吐出された細胞含有液体15に含まれる細胞153は、塗抹跡151の幅方向の両端に集まった。発明者らは、その理由について、次のように考察した。
【0050】
細胞含有液体15は、円形ノズル20内を矢印191の方向に流れて先端から吐出されると、円形ノズル20の中心から外径側へ広がる力を受ける。一方、平板13は、矢印193の方向に移動するため、吐出された細胞含有液体15には、矢印193の方向の力が加わる。その結果、細胞含有液体15には、これら2つの力の合力が矢印192の方向に作用することになり、細胞含有液体15が塗抹跡151の幅方向の両端に向かうものと推測される。塗抹後、細胞含有液体15の液体部分152の一部は、表面張力により希薄となった塗抹跡151の幅方向中心に戻るが、細胞153は、平板13の表面に吸着するため、塗抹跡151の幅方向両端に残ると考えられる。
【0051】
この考察結果に基づき、発明者らは、塗抹跡151内での細胞153の分布を均一にするためには、細胞含有液体15の流れを、平板13の移動方向である矢印193と平行になるようにして、流速を塗抹跡151の幅方向で均一にすることが重要と考えた。そこで、本実施形態では、ノズルの先端の断面形状がオーバルであるオーバル型ノズル10を用い、その直交する2本の対称軸のうち短い方と平行な方向に平板13を移動させた。
【0052】
図3は、本実施形態として、オーバル型ノズルから平板に細胞含有液体が塗抹されるときの液体部分と細胞の挙動を示す図であり、(a)は側方から見た断面図、(b)は上方から見た平面図である。本実施形態の場合、
図3の(b)に示すように、オーバル型ノズル10の先端から吐出された細胞含有液体15には、平板13の移動方向である矢印193と平行な、矢印194で示す力が作用し、塗抹跡151内での細胞153の分布が均一になると考えられる。
【0053】
そして、発明者らは、先端が長円形(内側の長円の直交する2本の対称軸の長さは0.41mmと0.1mm)のオーバル型ノズル10を実際に作製し、塗抹装置1で平板13上に細胞含有液体15を塗抹した。その結果、円形ノズル20の場合と比べ、細胞分布の均一性の高い塗抹跡になることが確認された。
【0054】
なお、平板13を移動させる方向は、オーバル型ノズル10の対称軸のうち短い方と、必ずしも厳密な平行でなくても良い。すなわち、当該平行な方向に対して10度以内の傾きを持った方向に、平板13を移動させても、細胞分布を均一化する効果がある程度期待できる。
【0055】
図4は、オーバル型ノズルを塗抹装置に取り付ける部分の構造を示す図である。オーバル型ノズル10の上端面には、ノズルの軸中心に対して同心状にOリング105が設けられるとともに、ノズルの軸中心に対して周方向の一部に上方へ突出する凸部101が設けられる。一方、塗抹装置1の配管(検体送液用チューブ120)の先端に設けられた連結用部材102の下端面には、配管の軸中心に対して周方向の一部に凹部103が形成されている。
【0056】
オーバル型ノズル10を塗抹装置1に取り付ける際には、まず、連結用部材102の凹部103に凸部101が嵌るように、オーバル型ノズル10の水平方向位置を合わせる。その後、ロックアダプター104が、オーバル型ノズル10の上端を覆うように装着され、ロックアダプター104の雌ネジ構造が、連結用部材102の雄ネジ構造と螺合することで、オーバル型ノズル10が連結用部材102に押し付けられる。このとき、Oリング105が連結用部材102の下端面と接触して変形することで、オーバル型ノズル10と連結用部材102が密着する。以上のような構造により、オーバル型ノズル10と連結用部材102との対向面には、回転防止用の凹凸が形成されるので、オーバル型ノズル10の対称軸のうち短い方の方向と、平板13の移動方向と、の位置関係を保つことが可能となる。
【0057】
図5は、ノズル先端の断面形状のバリエーションについて示した図である。矢印194は、塗抹するときの平板13の移動方向である。
図5には、オーバル型の例として、長円形、楕円形及び卵形、オーバル型ではないがその変形例として、nを自然数としたときのn角形(四角形、六角形及び八角形)の例が示されている。直交する長短2本の対称軸を有する長円形、楕円形及びn角形の場合、対称軸のうち長い方の長さをaとし、短い方の長さをbとする。一方、1本の対称軸を有する卵型の場合、対称軸の寸法と、対称軸と垂直な方向の最大寸法のうち、長い方の長さをaとし、短い方の長さをbとする。
【0058】
前述したような方法で平板13上に細胞含有液体15を塗抹する場合、ノズル先端の断面形状は、
図5の(1-1)に示す長円形であることが最も好ましい。さらに、ノズル内の細胞含有液体15の流れを阻害しない限り、直交する2本の対称軸の長さの比a/bは大きいほうが好ましく、例えば2≦a/b≦10の範囲となることが好ましい。
【0059】
また、ノズル先端の断面形状が
図5の(1-2)に示す楕円形の場合でも、直交する2本の対称軸の長さの比a/bを大きくすることで、均一性の高い塗抹を実現することは可能である。この場合も、ノズル内の細胞含有液体15の流れへの影響を考慮すると、2≦a/b≦10の範囲となることが好ましい。
【0060】
さらに、ノズル先端の断面形状が
図5の(1-3a)及び(1-3b)に示す卵形の場合でも、長さの比a/bを大きくすることで、均一性の高い塗抹を実現することは可能である。この場合も、ノズル内の細胞含有液体15の流れへの影響を考慮すると、2≦a/b≦10の範囲となることが好ましい。
【0061】
そして、ノズル先端の断面形状が
図5の(2-1)、(2-2)及び(2-3)に示すn角形の場合でも、直交する2本の対称軸の長さの比a/bを大きくすることで、均一性の高い塗抹を実現することは可能である。
【0062】
ノズルの材料としては、金属でも樹脂でも良いが、加工精度が高くなる金属であることが好ましく、さらにはステンレスとすることが好ましい。ノズルの加工方法としては、専用の治具で円形ノズルの先端をオーバル状又はn角形状に加工して作製するか、オーバル状又はn角形状のチューブを切断して作製する。いずれの加工方法の場合も、断面形状は厳密なオーバル状又はn角形状になっていなくても良く、少なくとも加工の過程で必然的に生じ得る非対称性等については許容される。
【0063】
次に、ノズル先端の断面の好ましい寸法について説明する。塗抹装置1は、前述のとおり、細胞等の生体由来物質を含んだ少量の検体(液量:0.1~10μL)を、平板13上の塗抹対象領域130(面積:1~2,000mm2)に薄く塗抹するものであり、少量の液体を安定して吐出する必要がある。従って、ノズル先端の断面の相当直径(任意断面形状の配管に対する等価円管の直径)は、吐出時の圧力損失や生体由来物質へのダメージが許容できる範囲で小さくすることが好ましく、具体的には0.1mm以上かつ1mm以下であることが好ましい。さらに、塗抹装置1は検体毎にノズルを洗浄する必要があるため、ノズルの相当直径が小さいと、洗浄時の洗い残しが少なくなる利点もある。
【0064】
以上述べた本実施形態の塗抹装置によれば、平板に塗抹した細胞の数密度のばらつきが低減され、細胞の重なりが少なくなるため、細胞数計測の精度や細胞判別の正確性が高くなる効果が得られる。
【0065】
なお、前述の実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、前述の実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1:塗抹装置、2:検体供給部、3:位置制御部、4:洗浄部、5:制御部、10:オーバル型ノズル、11:ノズル上下移動機構、12:検体用ポンプ、13:平板、14:平板保持ステージ、15:細胞含有液体、17:洗浄用ポンプ、18:制御装置、100:ケース、101:凸部、102:連結用部材、103:凹部、104:ロックアダプター、105:Oリング、120:検体送液用チューブ、130:塗抹対象領域、150:塗抹開始点、151:塗抹跡、152:液体部分、153:細胞、161:検体容器、162:洗浄液、163:洗浄槽、164:洗浄液保持容器、165:廃液、166:廃液容器、170:洗浄液送液用チューブ、171:洗浄用ポンプ側バルブ、173:洗浄槽側バルブ、174:洗浄液保持容器側バルブ、176:廃液容器側バルブ、180:表示装置