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  • 特開-酸化ガリウム膜及び積層体 図1
  • 特開-酸化ガリウム膜及び積層体 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023017874
(43)【公開日】2023-02-07
(54)【発明の名称】酸化ガリウム膜及び積層体
(51)【国際特許分類】
   C30B 29/16 20060101AFI20230131BHJP
   C23C 16/40 20060101ALI20230131BHJP
   H01L 21/365 20060101ALI20230131BHJP
   H01L 21/368 20060101ALI20230131BHJP
   C30B 25/02 20060101ALI20230131BHJP
【FI】
C30B29/16
C23C16/40
H01L21/365
H01L21/368 Z
C30B25/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022175183
(22)【出願日】2022-11-01
(62)【分割の表示】P 2019193265の分割
【原出願日】2019-10-24
(71)【出願人】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】橋上 洋
(57)【要約】
【課題】高品質で生産性の高いガリウム前駆体の製造方法、および高品質なガリウム含有積層体が得られる製造方法を提供する。
【解決手段】ガリウム前駆体を作製する方法であって、酸及び/又はアルカリを含む水溶液からなる溶媒を準備するステップと、前記溶媒にガリウムを浸漬するステップと、前記溶媒に浸漬した前記ガリウムを微細化するステップと、前記微細化した前記ガリウムを溶解するステップと、を含むガリウム前駆体の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コランダム構造を有する酸化ガリウム膜であって、
2次イオン質量分析法(SIMS法)で測定した炭素濃度[atom/cm]が検出限界値未満のものであることを特徴とする酸化ガリウム膜。
【請求項2】
X線回折(XRD)で測定したロッキングカーブ半値幅[秒]が10.5秒以下のものであることを特徴とする請求項1に記載の酸化ガリウム膜。
【請求項3】
コランダム構造を有する結晶を主成分とする基板と、
前記基板上に積層された酸化ガリウム膜と
を含む積層体であって、
前記酸化ガリウム膜が、2次イオン質量分析法(SIMS法)で測定した炭素濃度[atom/cm]が検出限界値未満のものであることを特徴とする積層体。
【請求項4】
前記酸化ガリウム膜のX線回折(XRD)で測定したロッキングカーブ半値幅[秒]が10.5秒以下であることを特徴とする請求項3に記載の積層体。
【請求項5】
前記基板がサファイア基板であることを特徴とする請求項3または4に記載の積層体。
【請求項6】
β-ガリア構造を有する結晶を主成分とする基板と、
前記基板上に積層された酸化ガリウム膜と
を含む積層体であって、
前記酸化ガリウム膜が、2次イオン質量分析法(SIMS法)で測定した炭素濃度[atom/cm]が検出限界値未満のものであることを特徴とする積層体。
【請求項7】
前記酸化ガリウム膜のX線回折(XRD)で測定したロッキングカーブ半値幅[秒]が10.5秒以下であることを特徴とする請求項6に記載の積層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガリウム含有膜積層体の製造に有用なガリウム前駆体の製造方法と、これを用いた積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低温、大気圧でエピタキシャル膜などが形成可能な方法として、ミストCVD法等の水微粒子を用いた成膜手法が知られている。
【0003】
特許文献1では、ガリウムアセチルアセトナートを塩酸などの酸に溶解して前駆体とし、この前駆体を霧化することによって原料微粒子を生成し、この原料微粒子とキャリアガスを混合した混合気をサファイアなどコランダム構造の基板の表面に供給し、原料ミストを反応させることで基板上に単一配向した酸化ガリウム薄膜をエピタキシャル成長させている。
【0004】
また特許文献2には、ガリウムを塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、ヨウ化水素酸などで、1から2週間程度かけて溶解することで得られたハロゲン化ガリウム水溶液を用いる方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5793732号公報
【特許文献2】特開2018-070422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献1の方法は、前駆体に有機錯体を用いるため、得られる膜の炭素濃度が高く、高品質な膜が得られなかった。
【0007】
また特許文献2に記載の方法は、ガリウムの溶解に長時間を要するため、実用には向かないものであった。
【0008】
本発明は上記のような問題を鑑みてなされたもので、前駆体製造に有機錯体を用いないことで、得られる膜中の炭素濃度を抑制し高品質な膜の製造を可能にし、また前記前駆体製造におけるガリウムの溶解に要する時間を短縮することで、ガリウム前駆体を高い生産性で製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は、ガリウム前駆体を作製する方法であって、酸及び/又はアルカリを含む水溶液からなる溶媒を準備するステップと、前記溶媒にガリウムを浸漬するステップと、前記溶媒に浸漬した前記ガリウムを微細化するステップと、前記微細化した前記ガリウムを溶解するステップと、を含むガリウム前駆体の製造方法を提供する。
【0010】
このようなガリウム前駆体製造方法であれば、短時間で前記ガリウムを溶解でき、有機錯体を用いないガリウム前駆体を高い生産性で製造することができる。
【0011】
このとき、前記ガリウムを微細化するステップは、超音波振動により行われると良い。
【0012】
このようにすれば、前記ガリウムの微細化を容易にできるとともに、前記ガリウムの溶解をさらに促進することができる。
【0013】
このとき、前記ガリウムを微細化するステップ以前に、さらに前記ガリウムを液化することができる。
【0014】
このようにすれば、ガリウムの溶解時間をさらに短縮することができる。
【0015】
このとき、前記ガリウムを溶解するステップにおいて前記溶媒の温度は、30℃以上100℃未満の温度に保たれると良い。
【0016】
このようにすれば、ガリウムの溶解をさらに促進することができる。
【0017】
このとき、前記酸としては、ハロゲン化水素を用いることができ、また前記アルカリとしては、アンモニアを用いることができる。
【0018】
このようにすれば、ガリウム前駆体を高純度なものとすることができる。
【0019】
また本発明は、ガリウムを含有する膜を含む積層体の製膜方法であって、基体を加熱するステップと、上記の方法で作製したガリウム前駆体を、さらに水で希釈してガリウム前駆体溶液を作製するステップと、前記ガリウム前駆体溶液を霧化するステップと、前記霧化された前記ガリウム前駆体溶液をキャリアガスで前記基体に供給するステップと、前記基体上で前記霧化された前記ガリウム前駆体溶液を反応させ、前記ガリウムを含有する膜を形成するステップと、を含む積層体の製造方法を提供する。
【0020】
このようにすれば、不純物の少ない高品質な積層体を高い生産性で得ることができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明のガリウム前駆体製造方法によれば、高品質なガリウム前駆体を高い生産性で製造することができる。
【0022】
また、本発明のガリウム前駆体製造方法を用いた製膜方法によれば、不純物の少ない高品質なガリウム含有膜の積層体を容易且つ低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明に係るガリウム前駆体の製造方法の一形態を示す図である。
図2】本発明に係る製膜方法の一形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
上述した通り、炭素濃度を抑制した高品質な膜の製造方法と、膜の製造に使用するガリウム前駆体を高い生産性で製造する方法が求められていた。
【0025】
そして、本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、前駆体製造に有機錯体を用いないことで、得られる膜中の炭素濃度を抑制し高品質な膜の製造を可能にし、また前記前駆体製造時におけるガリウムの溶解に要する時間を短縮することで、ガリウム前駆体を高い生産性で製造する方法を見出し、本発明に到達した。
【0026】
即ち、本発明は、ガリウム前駆体を作製する方法であって、酸及び/又はアルカリを含む水溶液からなる溶媒を準備するステップと、前記溶媒にガリウムを浸漬するステップと、前記溶媒に浸漬した前記ガリウムを微細化するステップと、前記微細化した前記ガリウムを溶解するステップと、を含むことを特徴とするガリウム前駆体の製造方法を提供する。
【0027】
本発明のガリウム前駆体製造方法によれば、高品質なガリウム前駆体を高い生産性で製造することができる。また、本発明のガリウム前駆体製造方法を用いた製膜方法によれば、不純物の少ない高品質なガリウム含有膜の積層体を容易且つ低コストで製造することができる。
【0028】
以下、本発明について図1および図2を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0029】
本発明に係るガリウム前駆体は、酸及び/又はアルカリを含む水溶液からなる溶媒にガリウムを溶解させた溶液である。
【0030】
本発明のガリウム前駆体製造方法は、溶媒に浸漬したガリウムを微細化するステップと、前記微細化した前記ガリウムを溶解するステップに特徴を有する製造方法である。なお、微細化する方法は特に限定されないが、超音波振動により微細化することが好ましい。
【0031】
図1に示すように、まずガリウム101と酸またはアルカリのいずれかを少なくとも含む溶媒102の入った容器103を超音波発生器104に設置する。超音波発生器104は、例えば、水槽105、振動子106、媒体107および加熱手段108を備えている。なお、ガリウム101と溶媒102はどちらを先に容器103へ入れてもよい。
【0032】
ガリウム101は、微細化するステップ以前に液化しておくのが好ましい。これによりガリウム101の微細化がさらに容易になる。
【0033】
ただし、ガリウムを秤量する際、液化ガリウムを使用する場合は、ガリウムの濡れ性が非常に強いため、別容器などでは行わず、溶媒102を入れる前の容器103に直接ガリウムを入れて行うのが好ましい。
【0034】
振動子106から発する超音波の周波数は、ガリウム101を微細化可能であれば限定はされないが、例えば、20kHz以上1000kHz以下とするのが好ましい。これによりガリウム101はミリメートル単位からマイクロメートル単位の径に微細化されて表面積が増加するので、ガリウム表面での化学反応が促進されて効率よく溶解される。
【0035】
また媒体107は振動子106から発振された超音波を伝搬し、容器103内の溶媒102及びガリウム101に伝えるもので、水を用いるのが好ましく、これを加熱手段108により30℃から100℃、より好ましくは30℃から60℃に保つことで、溶媒102とガリウム101の化学反応がさらに促進されて、より効率的にガリウム101を溶解できる。
【0036】
溶媒102に酸を用いる場合は、ハロゲン化水素酸を使用するのが好ましく、塩化水素酸、臭化水素酸またはヨウ化水素酸であることがより好ましく、ヨウ化水素酸であるのが最も好ましい。ヨウ化水素酸を使用する場合、例えば1~12N(濃度55~58%)のヨウ化水素酸が使用でき、これをそのまま、あるいは純水で希釈して用いて良い。
【0037】
溶媒にアルカリを用いる場合は、アンモニアを用いることが好ましく、例えば、水酸化アンモニウムを使用できる。この場合、例えば1~12N(濃度28~40%)の水酸化アンモニウムが使用でき、これをそのまま、あるいは純水で希釈して用いて良い。
【0038】
また、上記酸とアルカリを混合し、溶媒102のpHを適宜調整して用いることもできる。
【0039】
このようにしてガリウム101を完全に溶解することで、ガリウム前駆体が得られる。
【0040】
ガリウム前駆体のガリウム濃度は、目的に応じて調整することができるが、生産性の観点から0.1mol/Lから5mol/Lとするのが好ましく、1mol/Lから3.5mol/L程度とするのがより好ましい。
【0041】
次に、上記製造方法により製造したガリウム前駆体を用いた、ガリウム含有膜積層体の製造方法の一例について図2を参照しながら説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
図2に、本発明に係る積層体の製造方法に用いる装置の一例を示す。本発明に係る積層体の製造方法においては、ミストCVD装置200を用いる。ミストCVD装置200は、キャリアガス201、霧化器202a、霧化器202b、搬送配管203、バルブ204、バルブ205、搬送配管206、基体207、サセプタ208、製膜室209、加熱手段210、を備えている。
【0043】
まず、霧化器202a、202b内には、原料として、それぞれ、第1前駆体溶液212a、第2前駆体溶液212bが収納されており、公知の手段を用いて霧化(「ミスト化」とも言う)され、ミストが形成される。なお、本発明でいうミストとは、気体中に分散した液体の微粒子を指し、霧、液滴と呼ばれるものを含み、霧、液滴ということもある。
【0044】
第1前駆体溶液212aと第2前駆体溶液212bの少なくとも片方には、上記記載のガリウム前駆体製造方法で得られたガリウム前駆体を純水で適宜濃度調整をした前駆体溶液が用いられる。
【0045】
前駆体溶液212a、212b中のガリウム濃度は、特に限定されず、目的や仕様に応じて適宜設定できる。好ましくは、0.001mol/L以上から2mol/Lであり、より好ましくは0.01mol/L以上0.7mol/L以下である。
【0046】
また、第1前駆体溶液212aと第2前駆体溶液212bの成分は、同一でもよいし異なっていてもよい。例えばガリウムとアルミニウムからなる2元系の酸化物を形成する場合などは、ガリウム前駆体溶液を第1前駆体溶液212aとし、アルミニウム前駆体溶液を第2前駆体溶液212bとして用いることができる。
【0047】
また前駆体溶液212a、212bへは、不純物を添加しても良い。例えば酸化ガリウムを形成する場合には、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム又はニオブ等のn型ドーパント、又は、銅、銀、スズ、イリジウム、ロジウム等のp型ドーパントなどが挙げられる。これらを含む錯体や化合物は好適に使用でき、特にハロゲン化スズを用いるのが好ましい。
【0048】
これらの不純物原料を、前駆体溶液のガリウム濃度に対して0.0001%~20%、より好ましくは0.001%~10%の割合で用いることができる。またこれら不純物はガリウム前駆体溶液に混合して用いても良いし、ガリウム前駆体溶液を第1前駆体溶液212aとし、不純物溶液を第2前駆体溶液212bとして別々に用意し、ミスト状で混合しても良い。
【0049】
前駆体溶液212a、212bの霧化手段は、霧化または液滴化できさえすれば特に限定されず、公知の手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段が好ましい。
【0050】
超音波を用いて得られた霧または液滴は、初速度がゼロであり、空中に浮遊するので好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮遊してガスとして搬送することが可能であるので、衝突エネルギーによる損傷がないため非常に好適である。
【0051】
液滴サイズは特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは0.1~10μmである。
【0052】
キャリアガス201は、霧化器202a、202b内で形成された霧化した原料(前駆体溶液)と混合され、それぞれ第1混合気213、第2混合気223となり、製膜室209へと搬送される。
【0053】
製膜室209に供給された混合気は、製膜室209内で加熱手段210により加熱された基体207上で反応し、膜が形成される。
【0054】
図2に示す例では、霧化器202bと製膜室209とが搬送配管206で接続され、霧化器202aからの搬送配管203が搬送配管206の途中に合流する構造が示されているが、搬送配管203と搬送配管206が独立して製膜室209へ接続されていてもよい。またこれに限らず、第1混合気213と第2混合気223を単一のバッファタンク(不図示)に導入し、バッファタンクで混合されたミストを製膜室209へ搬送しても良い。
【0055】
キャリアガス201は、特に限定されず、例えば、空気、酸素、オゾンの他、窒素やアルゴン等の不活性ガス、又は水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスが好適に用いられる。キャリアガスの種類は1種類であっても、2種類以上であってもよい。
【0056】
キャリアガスの流量は、基体サイズや製膜室の大きさにより適宜設定すればよく、0.01~100L/min程度とすることができる。
【0057】
また製膜は、大気圧下、加圧下及び減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、装置コストや生産性の面で、大気圧下で行われるのが好ましい。
【0058】
また、図示していないが、希釈ガスを添加して、霧化された前駆体溶液とキャリアガスの割合を調節することも可能である。希釈ガスの流量は適宜設定すればよく、例えばキャリアガスの0.1~10倍/分とすることができる。
【0059】
希釈ガスを、例えば霧化器202a、202bの下流側へ供給しても良い。また、希釈ガスはキャリアガスと同じものを用いても良いし、異なるものを用いても良い。
【0060】
搬送配管203、206は、前駆体の溶媒や反応器と搬送配管の取り合いにおける温度などに対して十分な安定性を持つものであれば特に限定されず、石英やポリエチレン、ポリプロピレン、塩化ビニル、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂などといった一般的な樹脂製の配管を広く用いることができる。
【0061】
製膜室209の構造等は特に限定されるものではなく、アルミニウムやステンレスなどの金属を用いて良いし、これらの金属の耐熱温度を超える、より高温で製膜を行う場合には石英や炭化シリコンを用いても良い。製膜室209の内部又は外部には、基体207を加熱するための加熱手段210が設けられている。また、基体207は製膜室209内に設置されたサセプタ208上に載置されてよい。
【0062】
なお上記基体は、形成する膜を支持できるものであれば特に限定されない。基体の材料は、公知のものであってよく、有機化合物であってもよいし、無機化合物であってもよい。例えば、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、フッ素樹脂、鉄やアルミニウム、ステンレス鋼、金等の金属、シリコン、サファイア、石英、ガラス、炭酸カルシウム、酸化ガリウム、SiC、ZnO、GaN等が挙げられるが、これに限られるものではない。
【0063】
基体の形状としては、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられいずれでも構わない。特に基体が板状体の場合、その厚さは、本発明においては特に限定されないが、好ましくは、50~2000μmであり、より好ましくは200~800μmである。
【0064】
本発明においては、上記基体が、コランダム構造を有する結晶物を主成分として含む基体、またはβ-ガリア構造を有する結晶物を主成分として含む基体であるのも好ましい。ここで、主成分とは、当該成分を50%以上含有する物を指す。
【0065】
コランダム構造を有する結晶を主成分とする基板としては、例えば、サファイア(例:c面サファイア基板)や、α型酸化ガリウムなどが挙げられる。
【0066】
また、β-ガリア構造を有する結晶物を主成分とする基体としては、例えばβ-Ga基板、又はGaとAlとを含みAlが0質量%より多くかつ60質量%以下である混晶体基板、公知の基板上にβ-Gaを成膜した基板、などが挙げられる。
【0067】
その他の基体の例としては、六方晶構造を有する基体(例:SiC、ZnO、GaN、LiTaO)などが挙げられる。六方晶構造を有する基体上には、直接または別の層(例:緩衝層)を介して、膜を形成してもよい。
【実施例0068】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0069】
(実施例1)
硼珪酸ガラス製ビーカーに液化したガリウムを20g秤量し、これに濃度56.3%のヨウ化水素酸145mLを加えた。これを水温40℃に保った超音波発生器に設置し、周波数38kHzの超音波でガリウムを振動、微細化した。この状態でガリウムが完全に溶解するまで放置し、2mol/Lのガリウム前駆体を作製した。
【0070】
溶解に要した時間を測定したところ、2時間40分であった。
【0071】
(比較例1)
ガリウムに超音波振動を加えなかった以外は、実施例1と同様にガリウム前駆体を作製した。溶解に要した時間を測定したところ、276時間であった。
【0072】
実施例1の結果は比較例1にくらべ、ガリウム前駆体の製造所要時間が大幅に短縮された。
【0073】
(実施例2)
ミストCVD装置により、以下の条件で酸化ガリウムの製膜を行った。まず実施例1で作製したガリウム前駆体を純水で希釈して0.05mol/Lの前駆体溶液を原料溶液とし、前記原料溶液を霧化器に充填した。
【0074】
次に、直径4インチ(100mm)、厚さ0.6mmのc面サファイア基板を、石英製サセプタに載せて石英製管状型製膜室内に設置し、ヒーターにより前記c面サファイア基板温度を450℃に保った。
【0075】
次に2.4MHzの超音波振動子で霧化器内の前記原料溶液を霧化した。この後、霧化器にキャリアガスの窒素を1.5L/minで、さらに希釈ガスの窒素を5L/minでそれぞれ導入して混合気を形成し、製膜室へ供給して製膜を行った。
【0076】
得られた膜の結晶性と炭素濃度をXRD法およびSIMS法によりそれぞれ評価した。
【0077】
(比較例2)
ガリウムアセチルアセトナートを希塩酸水溶液(塩酸濃度2%)で溶解して0.05mol/Lの前駆体溶液を用意したこと以外は、実施例2と同様に製膜と評価を行った。
【0078】
表1は実施例2と比較例2の評価結果である。いずれの場合も、形成された膜はα―Gaであったが、実施例2の結果は比較例2に比べ、ロッキングカーブ半値幅が改善され、不純物濃度が大幅に低減されていることが示された。
【表1】
【0079】
上記の結果から、本発明によれば従来技術よりもガリウム前駆体の生産性を格段に改善することができ、また本発明の方法で得られたガリウム前駆体を用いれば、従来技術よりも高品質な膜が得られることがわかった。
【0080】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0081】
101…ガリウム、 102…溶媒、 103…容器、
104…超音波発生器、 105…水槽、 106…振動子、 107…媒体、
108…加熱手段
200…ミストCVD、 201…キャリアガス、 202a、202b…霧化器、
203…搬送配管、 204…バルブ、 205…バルブ、 206…搬送配管、
207…基体、 208…サセプタ、 209…製膜室、 210…加熱手段、
212a…第1前駆体溶液、 212b…第2前駆体溶液、 213…第1混合気、
223…第2混合気。
図1
図2