(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023178934
(43)【公開日】2023-12-18
(54)【発明の名称】エステルアミドマルチブロック共重合体及びエステルアミドマルチブロック共重合体の製造方法、エステルアミド共重合体及びエステルアミド共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08G 69/44 20060101AFI20231211BHJP
【FI】
C08G69/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022191365
(22)【出願日】2022-11-30
(31)【優先権主張番号】P 2022091265
(32)【優先日】2022-06-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「均一系触媒と不均一系触媒の融合による難分解性樹脂分解触媒の開発および高感度固体NMRによる高次構造解析」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(72)【発明者】
【氏名】田中 慎二
(72)【発明者】
【氏名】小野 英明
(72)【発明者】
【氏名】吉田 勝
(72)【発明者】
【氏名】南川 博之
(72)【発明者】
【氏名】阿多 誠介
(72)【発明者】
【氏名】栗原 一真
(72)【発明者】
【氏名】河合 靖貴
【テーマコード(参考)】
4J001
【Fターム(参考)】
4J001DA03
4J001DB05
4J001DC03
4J001DC05
4J001DC14
4J001DD15
4J001EA02
4J001EA03
4J001EA04
4J001EA06
4J001EA08
4J001EB05
4J001EB06
4J001EB07
4J001EB08
4J001EB09
4J001EB57
4J001EB76
4J001EC84
4J001ED05
4J001ED06
4J001ED07
4J001ED66
4J001EE06E
4J001EE24D
4J001EE47D
4J001EE53F
4J001EE55D
4J001EE65D
4J001FA03
4J001FB06
4J001FC01
4J001FD01
4J001GA02
4J001GA13
4J001GB02
4J001GD02
4J001JA12
4J001JA13
4J001JB06
4J001JB18
4J001JC01
(57)【要約】 (修正有)
【課題】成形性に優れた、新規の共重合体及びその製造方法、特に新規のブロック共重合体及びその製造方法の提供である。
【解決手段】ポリエステルを含むブロックと環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含むブロックとからなるマルチブロック共重合体であって、下記式(1)で表される、エステルアミドマルチブロック共重合体。
(R
1およびR
2は炭素数1―20のアルキル鎖;R
3は炭素数1―10のアルキル鎖;R
4は芳香族炭化水素鎖、脂肪族炭化水素鎖のいずれか一つ;YはNHまたはOまたはS;mは1-60の整数;nは1-120の整数;lは2-100の整数;xは1-11の整数を示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルを含むブロックと環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含むブロックとからなるマルチブロック共重合体であって、下記式(1)で表される、エステルアミドマルチブロック共重合体。
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。R
1およびR
2およびR
3は同一又は異なっていてもよい。また、R
4は炭素数4―5のヘテロ芳香環の芳香族鎖、炭素数6―12の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むもの、炭素数2―20のヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖、炭素数6―12のヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖、炭素数1―10のヘテロ原子を含まない脂肪族炭化水素鎖のいずれか一つを示す。YはNHまたはOまたはSである。さらに、mは1-60の整数を示し、nは1-120の整数を示し、lは2-100の整数を示し、xは1-11の整数を示す。)
【請求項2】
ポリエステルを含むブロックと環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含むブロックとからなるマルチブロック共重合体であって、下記式(2)で表される、エステルアミドマルチブロック共重合体。
【化2】
(式(2)中、mは1-60の整数を示し、nは1-120の整数を示し、lは2-100の整数を示す。)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のエステルアミドマルチブロック共重合体を含む、フィルム。
【請求項4】
請求項1に記載のエステルアミドマルチブロック共重合体の製造方法であって、ポリエステルを含む下記式(3)で示される化合物と
【化3】
(式(3)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。R
1およびR
2およびR
3は同一又は異なっていてもよい。YはNHまたはOまたはSである。さらに、mは1-60の整数を示す。)
環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含む下記式(4)で示される化合物と
【化4】
(式(4)中、R
4は炭素数4―5のヘテロ芳香環の芳香族鎖、炭素数6―12の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むもの、炭素数2―20のヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖、炭素数6―12のヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖、炭素数1―10のヘテロ原子を含まない脂肪族炭化水素鎖のいずれか一つを示す。さらに、nは1-120の整数を示し、xは1-11の整数を示す。)
を、前記式(3)で示される化合物におけるYH基および前記式(4)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、マルチブロック共重合体の製造方法。
【請求項5】
請求項2に記載のエステルアミドマルチブロック共重合体の製造方法であって、ポリエステルを含む下記式(5)で示される化合物と
【化5】
(式(5)中、mは1-60の整数を示す。)
環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含む下記式(6)で示される化合物と
【化6】
(式(6)中、nは1-120の整数を示す。)
を、前記式(5)で示される化合物におけるアミノ基および前記式(6)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、マルチブロック共重合体の製造方法。
【請求項6】
下記式(19)で表されるエステルアミド共重合体。
【化7】
(式(19)中、mは1-60の整数を示し、lは2-100の整数を示す。)
【請求項7】
請求項6に記載のエステルアミド共重合体を含むフィルム。
【請求項8】
請求項6に記載のエステルアミド共重合体の製造方法であって、下記式(5)で示される化合物と
【化8】
(式(5)中、mは1-60の整数を示す。)
下記式(20)で示される化合物と
【化9】
を、前記式(5)で示される化合物におけるアミノ基および前記式(20)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、エステルアミド共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の共重合体及びその製造方法に関し、特に、新規な共重合構造を有するエステルアミドブロック共重合体及びその製造方法、エステルアミド共重合体及びエステルアミド共重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
アミド結合を有するポリアミドは、高耐熱性、高機械強度、及び耐薬品性などの優れた特徴を有するために、エンジニアリングプラスチックの一つとして利用されている。特に、環状ラクタムの開環重合で得られるナイロン6、ナイロン10、ナイロン12などのポリアミドは、代表的な材料であり、繊維素材として使用されるほか、熱可塑性のエンジニアニングプラスチックとしても用いられているものである。また、ナイロン4は、高耐熱性、高機械強度などの特徴を持ちながら、他のポリアミドにはない生分解性を有するため近年注目されている。
【0003】
そして、このようなポリアミドについては、物性を改質する、様々な試みがなされている。例えば、ナイロン4についての改質の例として、特許文献1には、2-ピロリドンの重合の際に、塩基性重合触媒、分岐構造を有する開始剤を使用して、ε-カプロラクタムとの共重合を行うことで、ポリアミド4共重合体を製造することが開示されている。また、特許文献2には、ポリアミド4の高分子鎖中にアゾ基を導入することにより、ポリアミド4を含む種々のブロック共重合体を製造することが開示されている。さらに、特許文献3には、生分解性を有するポリエステルオリゴマーを開始剤として用い、2-ピロリドンを重合させることにより脂肪族ポリエステルアミドを製造することが開示されている。さらに、非特許文献1には、エステル結合を有するポリブチレンサクシネートとポリアミド4とのジブロック共重合体を合成することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-155608号公報
【特許文献2】特開2004-331780号公報
【特許文献3】特許第5207343号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Hideaki Ono et al., European Polymer Journal, Volume 163, 2022, 110961
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記特許文献1-3および非特許文献1に記載の技術においては、ポリアミドのブロック共重合体を製造することが記載されているが、成形性に優れる材料としての実用化が望まれる。
本発明の課題は、成形性に優れた、新規の共重合体及びその製造方法を提供することである。特に、新規な共重合構造を有するブロック共重合体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、脂肪族ポリエステルとポリアミドとのマルチブロック共重合体を作製することで、成形性の面で優れた複合材料となることを見いだし、本発明を完成させるに至った。また、脂肪族ポリエステルとポリアミドとの配合比を調整することで、用途に応じた物性にすることができる。
【0008】
すなわち本発明は以下の態様を含む:
本発明の一態様は
(1)ポリエステルを含むブロックと環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含むブロックとからなるマルチブロック共重合体であって、下記式(1)で表される、エステルアミドマルチブロック共重合体に関する。
【化1】
(式(1)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。R
1およびR
2およびR
3は同一又は異なっていてもよい。また、R
4は炭素数4―5のヘテロ芳香環の芳香族鎖、炭素数6―12の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むもの、炭素数2―20のヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖、炭素数6―12のヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖、炭素数1―10のヘテロ原子を含まない脂肪族炭化水素鎖のいずれか一つを示す。YはNHまたはO(酸素)またはS(硫黄)である。さらに、mは1-60の整数を示し、nは1-120の整数を示し、l(エル)は2-100の整数を示し、xは1-11の整数を示す。)
【0009】
また、本発明は別の態様において、
(2)ポリエステルを含むブロックと環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含むブロックとからなるマルチブロック共重合体であって、下記式(2)で表される、エステルアミドマルチブロック共重合体に関する。
【化2】
(式(2)中、mは1-60の整数を示し、nは1-120の整数を示し、lは2-100の整数を示す。)
また、本発明は別の態様において、
(3)上記(1)または(2)に記載のエステルアミドマルチブロック共重合体を含む、フィルムに関する。
【0010】
また、本発明は別の態様において、
(4)上記(1)に記載のエステルアミドマルチブロック共重合体の製造方法であって、ポリエステルを含む下記式(3)で示される化合物と
【化3】
(式(3)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。R
1およびR
2およびR
3は同一又は異なっていてもよい。YはNHまたはO(酸素)またはS(硫黄)である。さらに、mは1-60の整数を示す。)
環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含む下記式(4)で示される化合物と
【化4】
(式(4)中、R
4は炭素数4―5のヘテロ芳香環の芳香族鎖、炭素数6―12の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むもの、炭素数2―20のヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖、炭素数6―12のヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖、炭素数1―10のヘテロ原子を含まない脂肪族炭化水素鎖のいずれか一つを示す。さらに、nは1-120の整数を示し、xは1-11の整数を示す。)
を、前記式(3)で示される化合物におけるYH基および前記式(4)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、製造方法に関する。
また、本発明は別の態様において、
(5)上記(2)に記載のエステルアミドマルチブロック共重合体の製造方法であって、ポリエステルを含む下記式(5)で示される化合物と
【化5】
(式(5)中、mは1-60の整数を示す。)
環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含む下記式(6)で示される化合物と
【化6】
(式(6)中、nは1-120の整数を示す。)
を、前記式(5)で示される化合物におけるアミノ基および前記式(6)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、エステルアミドマルチブロック共重合体の製造方法に関する。
また、下記エステルとアミドとの共重合体においても、成形性の面で優れた複合材料となる。
本発明は別の態様において、
(6)下記式(19)で表されるエステルアミド共重合体に関する。
【化7】
(式(19)中、mは1-60の整数を示し、lは2-100の整数を示す。)
また、本発明は別の態様において、
(7)上記(6)に記載のエステルアミド共重合体を含むフィルムに関する。
また、本発明は別の態様において、
(8)上記(6)に記載のエステルアミド共重合体の製造方法であって、下記式(5)で示される化合物と
【化8】
(式(5)中、mは1-60の整数を示す。)
下記式(20)で示される化合物と
【化9】
を、前記式(5)で示される化合物におけるアミノ基および前記式(20)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、エステルアミド共重合体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、成形性に優れた、新規の共重合体及びその製造方法を提供することができる。特に、成形性に優れた、新規な共重合構造を有するブロック共重合体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】両末端水酸基-PBSの分子量分布測定結果である(実験例1)。
【
図2】両末端水酸基-PBSの
1H-NMRスペクトルである(実験例1)。
【
図3】両末端NH-Boc-PBSの分子量分布測定結果である(実験例6)。
【
図4】両末端NH-Boc-PBSの
1H-NMRスペクトルである(実験例6)。
【
図5】両末端アミノ基-PBSの
1H-NMRスペクトルである(実験例11)。
【
図6】PA4重合反応開始剤の
1H-NMRスペクトルである(実験例16)。
【
図7】両末端カルボキシ基-PA4の分子量分布測定結果である(実験例17)。
【
図8】両末端カルボキシ基-PA4の
1H-NMRスペクトルである(実験例17)。
【
図9】PBS-PA4マルチブロック共重合体の分子量分布測定結果である(実験例23)。
【
図10】PBS-PA4マルチブロック共重合体の
1H-NMRスペクトルである(実験例23)。
【
図11】本発明の一実施形態のマルチブロック共重合体の熱特性を示した図である。
【
図12】本発明の一実施形態のマルチブロック共重合体のフィルム外観写真である。
【
図13】本発明の一実施形態のマルチブロック共重合体のフィルムの透過率の測定結果である。
【
図14】片末端NH-Bocブタンジオールの
1H-NMRスペクトルである(実験例34)。
【
図15】両末端NH-Boc-PBSの
1H-NMRスペクトルである(実験例35)。
【
図16】両末端アミノ基-PBSの合成の
1H-NMRスペクトルである(実験例36)。
【
図17】エステルアミド共重合体の
1H-NMRスペクトルである(実験例37)。
【
図18】本発明の他の実施形態のエステルアミド共重合体の熱特性を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本実施形態のマルチブロック共重合体は、ポリエステルを含むブロックと環状ラクタムの開環重合で得られるポリアミドを含むブロックとからなるマルチブロック共重合体であって、下記式(1)で表される、新規なエステルアミドマルチブロック共重合体を提供する。
【化10】
(式(1)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。R
1およびR
2およびR
3は同一又は異なっていてもよい。また、R
4は炭素数4―5のヘテロ芳香環の芳香族鎖、炭素数6―12の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むもの、炭素数2―20のヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖、炭素数6―10のヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖、炭素数1―10のヘテロ原子を含まない脂肪族炭化水素鎖のいずれか一つを示す。YはNHまたはO(酸素)またはS(硫黄)である。さらに、mは1-60の整数を示し、nは1-120の整数を示し、lは2-100の整数を示し、xは1-11の整数を示す。)
具体的に、本実施形態のマルチブロック共重合体は、式(1)で表される単位が、複数(l個)結合した構造を有するものである。なお、本明細書中、数値範囲を示す場合は、上限および下限を含むものとする。
【0014】
一実施の形態において、式(1)中、x、m、n、lは以下で示す範囲から選ばれる任意の整数である。xは1-11、好ましくは、反応工程に用いる環状ラクタムの入手容易性の観点から、3-5または11(炭素数3-5または11のアルキル鎖)であって、生分解性を有するという観点から、より好ましくは3である。mは1-60、生成物の精製の簡便さから、好ましくは10-60、より好ましくは15-60の整数を示す。nは1-120、生成物の精製の簡便さから、好ましくは5-80、より好ましくは5-20の整数を示す。lは2-100、生成物の精製の簡便さから、好ましくは2-50、より好ましくは2-30の整数を示す。このようなm、n、lの組み合わせは、得られるブロック共重合体の平均分子量が5000―2000000、好ましくは8000-50000となるような任意の組み合わせの整数にするとよい。分子量が下限未満の場合は、樹脂の強度が低下し、上限を超える場合は、化合物の溶解性が低くなり、上限以下の場合と比べると成型加工性が良好ではなくなる。
また、式(1)中、R1およびR2の「アルキル鎖」としては、直鎖状の炭素数1―20のアルキル鎖を挙げることができる。R1は、反応工程に用いる2価のアルコールの入手容易性の観点から、好ましくは炭素数2-12、さらに好ましくは2-6、さらに好ましくは炭素数2-4のアルキル鎖を挙げることができる。また、R2は、反応工程に用いるジカルボン酸の入手容易性の観点から、好ましくは、炭素数1-6、さらに好ましくは炭素数2-5のアルキル鎖を挙げることができる。そして、R3の「アルキル鎖」としては、合成原料の入手容易性の観点から、直鎖状の炭素数1―10、より好ましくは炭素数3―5のアルキル鎖を挙げることができる。また、R1およびR2およびR3のアルキル鎖の炭素数は同一又は異なっていてもよい。
【0015】
R1、R2、R3が有していてもよい置換基としては、炭素数1―10、より好ましくは1―6の炭化水素基、酸素含有基、窒素含有基、ハロゲン原子などが挙げられる。
炭化水素基として具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基などのアルキル基や、シクロヘキシル基、フェニル基などが挙げられる。
酸素含有基として具体的には、ヒドロキシ基、アルコシキ基、アリールオキシ基、エステル基、アシル基、カルボキシ基、カルボニル基、エポキシ基などが挙げられる。
窒素含有基として具体的には、アミノ基、イミノ基、アミド基、イミド基、ヒドラジノ基、ヒドラゾノ基、ニトロ基、ニトロソ基、シアノ基、イソシアノ基、シアン酸エステル基、アミジノ基、ジアゾ基などがあげられる。
ハロゲン原子としては、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素が挙げられる。
R1、R2およびR3は、安定性の観点から、酸素含有基、窒素含有基、ハロゲン原子を含む置換基を有さないアルキル鎖が好ましく、置換基を有さないアルキル鎖がより好ましい。
【0016】
また、R4が有していてもよいヘテロ原子としては、O、N、S、Si、およびPから選択される。R4がヘテロ原子を含む芳香族炭化水素鎖の場合、芳香族炭化水素の炭素数は、例えば、4―12、より好ましくは12である。さらに、R4がヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖の場合は、炭素数は2―20、より好ましくは4であり、ヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖の場合は、芳香族炭化水素の炭素数が6―12、より好ましくは6であり、ヘテロ原子を含まない脂肪族炭化水素鎖の場合は、炭素数が1―10、より好ましくは2―4である。
【0017】
また、本明細書において「芳香族炭化水素」とは、炭素数6-12の芳香族炭化水素であることが好ましく、以下に限定されないが、例えば1,2-,1,3-,1,4-フェニレン、ビフェニル2,2-イル、ビフェニル3,3-イル、ビフェニル4,4-イルなどのモノ-あるいはジフェニレン類を挙げることができる。これらの中でも、入手容易性の観点から1,2-,1,3-,1,4-フェニレンなどが好ましく、1,4-フェニレンがより好ましい。R4がヘテロ原子を含む芳香族炭化水素鎖の場合、二つの芳香環(各芳香環の炭素数は6-12である)の芳香族鎖間にヘテロ原子を含むものを挙げることができ、以下に限定されないが、例えば、オキシビス(2,1-フェニレン)、オキシビス(3,1-フェニレン)、オキシビス(4,1-フェニレン)、アザジ(1,4-フェニレン)、アザジ(1,3-フェニレン)、アザジ(1,2-フェニレン)、チオビス(4,1-フェニレン)、チオビス(3,1-フェニレン)、チオビス(2,1-フェニレン)、ジメチルシリレンビス(4,1-フェニレン)、フェニルホスファニレンビス(4,1-フェニレン)などのジアリールエーテル鎖、ジアリールアミン鎖、ジアリールスルフィド鎖、ジアリールホスフィン鎖、ジアリールシラン鎖を挙げることができる。この場合、二つの芳香環(芳香族鎖)は、異なるものでも構わない。これらの中でも、入手容易性の観点からオキシビス(2,1-フェニレン)、オキシビス(3,1-フェニレン)、オキシビス(4,1-フェニレン)などが好ましく、オキシビス(4,1-フェニレン)がより好ましい。
また、R4がヘテロ原子を含む芳香族炭化水素鎖の場合、ヘテロ芳香族と呼ばれる芳香環(フラン、チオフェン、ピロール、ピリジンなど)の芳香族鎖(ヘテロ芳香族鎖)も含まれる。これらの芳香環の炭素数は4または5である。また、ヘテロ芳香族鎖としては、フラン-2、3-ジイル、フラン-2、4-ジイル、フラン-2、5-ジイル、ピリジン-2,3-イル、ピリジン-2,4-イル、ピリジン-2,5-イル、ピリジン-2,6-イル、ピリジン-3,4-イル、ピリジン-3,5-イル、ピロロ-2、3-ジイル、ピロロ-2、4-ジイル、ピロロ-2、5-ジイル、ピロロ-3、4-ジイル、チエノ-2、3-ジイル、チエノ-2、4-ジイル、チエノ-2、5-ジイル、チエノ-3、4-ジイルなどが挙げられる。これらの中でも、入手容易性や安定性の観点からフラン-2、3-ジイル、フラン-2、4-ジイル、フラン-2、5-ジイル、チエノ-2、3-ジイル、チエノ-2、4-ジイル、チエノ-2、5-ジイル、チエノ-3、4-ジイルなどが好ましく、フラン-2、5-ジイル、チエノ-2、5-ジイルなどがより好ましい。
【0018】
また、本明細書において「脂肪族炭化水素」とは、炭素数1-10、より好ましくは2-4の直鎖状のアルキル鎖であることが好ましく、以下に限定されないが、例えば、メチレン、1,2-エチレン、1,3-プロピレン、ブタン-1,4-ジイル、ペンタ-1,5-ジイル、ヘキサ-1,6-ジイルなどのアルキレン基を挙げることができる。これらの中でも、入手容易性の観点から1,2-エチレン、1,3-プロピレン、ブタン-1,4-ジイル、などが好ましく、ブタン-1,4-ジイルがより好ましい。R4がヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖の場合、炭素数1-10(好ましくは炭素数2)の二つのアルキル鎖の間にヘテロ原子を含むものを挙げることができ(この場合、炭素数は二つのアルキル鎖の合計であり、2-20(好ましくは炭素数4)となる)、以下に限定されないが、例えば2-オキサプロパン―1,3-ジイル、3-オキサペンタン―1,5-ジイル、4‐オキサヘプタン―1、7-ジイル、2-アザプロパン―1,3-ジイル、3-アザペンタン―1,5-ジイル、4-アザヘプタン―1、7-ジイル、2-チアプロパン―1,3-ジイル、3-チアペンタン―1,5-ジイル、4-チアヘプタン―1、7-ジイル、2-シラプロパン―1,3-ジイル、3-シラペンタン―1,5-ジイル、4-シラヘプタン―1、7-ジイル、2-ホスファプロパン―1,3-ジイル、3-ホスファペンタン―1,5-ジイル、4-ホスファヘプタン―1、7-ジイルなどのヘテロ原子を含むアルキレン基またはジアルキルエーテル鎖、ジアルキルアミン鎖、ジアルキルスルフィド鎖、ジアルキルホスフィン鎖、ジアルキルシラン鎖を挙げることができる。また、二つのアルキル鎖は、異なるものでも構わない。これらの中でも、取り扱いやすさから2-オキサプロパン―1,3-ジイル、3-オキサペンタン―1,5-ジイル、4-オキサヘプタン―1、7-ジイル、などが好ましく、2-オキサプロパン―1,3-ジイルがより好ましい。
そして、 R4は、PA重合開始剤にした際の反応速度を向上させる観点から、炭素数6の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むもの、または炭素数6のヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖が好ましく、開始剤として使用する際の環状ラクタムへの溶解性を向上するために、炭素数6の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むものがより好ましい。
【0019】
本発明に係るマルチブロック共重合体の一実施の形態は、下記式(2)に示される新規な化合物である。
【化11】
(式(2)中、mは1-60の整数を示し、nは1-120の整数を示し、lは2-100の整数を示す。
このようなマルチブロック共重合体の数平均分子量は、例えば、5000-2000000、好ましくは8000-50000である。
【0020】
実施形態のマルチブロック共重合体はポリエステルブロックとポリアミドブロックが1:1で結合し、この結合体が複数連なったマルチブロック共重合体である。例えば、ポリエステル側を、ポリブチレンサクシネート(PBSともいう)、ポリアミド側をポリアミド4(PA4ともいう)とした場合に、上記式(2)に示されるように、ポリブチレンサクシネートを含むブロックとポリアミド4を含むブロックとが1:1で結合し、この結合体が複数連なったマルチブロック共重合体がある。したがって、本明細書において、マルチブロック共重合体とは、繰り返し単位数であるl(エル)が2以上のものである。lが1であるAB型ジブロック共重合体やABA型トリブロック共重合体は、マルチブロック共重合体とはいわない。
【0021】
ポリアミド4は、上記ポリアミドの中でも、生分解性に優れるという点で希少なポリアミドである。しかし、融点(264℃)と分解温度(270-280℃)が近いため、成形性に劣るものである(出典:特許第5988049号)。一方、ポリブチレンサクシネートは高い生分解性を示し、優れた機械特性と高い成形性、安定性を有するものとして利用価値が高い。したがって、ポリアミド4とポリブチレンサクシネートのマルチブロック共重合体により、生分解性と成形性に優れた材料を得ることができる。
【0022】
なお、本明細書において脂肪族ポリエステル樹脂とは脂肪族アルキル鎖(R1とR2)がエステル結合で連結されたポリマーであり、例えばポリブチレンサクシネート、ポリブチレンアジペート、ポリブチレンサクシネートアジペート等が挙げられる。また本明細書においてポリアミド樹脂とは環状ラクタムの開環重合で得られるアミド結合を有するポリマーである。
【0023】
環状ラクタム類としては、具体的には、β-プロピオラクタム、γ-ブチロラクタム、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ラウロラクタム等が挙げられる。そして、例えば、ポリアミド樹脂としては、ポリ(ブチロラクタム)(ナイロン4)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリエナントラクタム(ナイロン7)、ポリカプリルラクタム(ナイロン8)、ポリノナノラクタム(ナイロン9)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリラウリルラクタム(ナイロン12)などがある。
【0024】
本発明の一態様は、式(1)で表されるマルチブロック共重合体の製造方法であって、ポリエステルを含む下記式(3)で示される化合物と
【化12】
(式(3)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。R
1およびR
2およびR
3は同一又は異なっていてもよい。YはNHまたはO(酸素)またはS(硫黄)である。さらに、mは1-60の整数を示す。)
ポリアミドを含む下記式(4)で示される化合物
【化13】
とを、前記式(3)で示される化合物におけるYH基および前記式(4)で示される化合物におけるカルボキシ基間で結合する工程を含む、製造方法を提供する。
(式(4)中、R
4は炭素数4―5のヘテロ芳香環の芳香族鎖、炭素数6―12の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むもの、炭素数2―20のヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖、炭素数6―12のヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖、炭素数1―10のヘテロ原子を含まない脂肪族炭化水素鎖のいずれか一つを示す。さらに、nは1-120の整数を示し、xは1-11の整数を示す。)
【0025】
なお、式(3)で示される化合物の一実施の形態として、YH基がアミノ基の場合、下記式(5)で示される。また、アミノ基は、下記式(7)で示すように、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩などの塩型であってもよい。YはNH(YH基がアミノ基)であると、カルボン酸との反応速度の観点から、好ましい。
【化14】
【化15】
(式(5)、(7)中、mは1-60の整数である。)
【0026】
反応に用いる式(3)で示される化合物と式(4)で示される化合物との割合は、1:1モル比とすることができる。
【0027】
反応は縮合剤存在条件下で行うことが好ましい。当該反応に用いることのできる縮合剤の具体例は、以下に限定されないが、カルボジイミド系の縮合剤を用いることができ、例えば、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDCI)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)などを挙げることができる。また、そのほかにも、カルボニルジイミダゾール(CDI)、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジン-2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリド(DMTMM)、(1-シアノ-2-エトキシ-2-オキソエチリデンアミノオキシ)ジメチルアミノ-モルノリノ-カルベニウムヘキサフルオロリン酸塩(COMU)、1-[ビス(ジメチルアミノ)メチレン]-1H-1,2,3-トリアゾロ[4,5-b]ピリジニウム3-オキシドヘキサフルオロホスファート(HATU)などを挙げることができる。
縮合剤の使用量は、式(3)で示される化合物におけるカルボキシ基に対して1-5モル当量とすることができる。
【0028】
反応に用いる溶媒としては、式(3)に記載のポリエステルと、式(4)に記載のポリアミドの両方を溶解する溶媒を用いることが好ましく、具体的には以下に限定されないが、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルアセトアミドなどを挙げることができる。
【0029】
当該溶媒には、ポリアミドの溶解を促進するために塩類を添加することが好ましく、具体的には、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウムや塩化カルシウムなどを挙げることができる。
塩は溶媒に対して10-200g/Lの濃度で添加することができる。
【0030】
当該反応には、YH基がアミノ基の場合、アミン末端の活性化のために必要に応じて塩基を加えることができる。具体的には、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)などを挙げることができる。
塩基の添加量は、式(3)で示される化合物(例えば、YH基がアミノ基)に対して1-10モル当量とすることができる。
【0031】
当該反応は、0-150℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは80-120℃程度の温度である。反応時間は0.5-6.0時間の条件で行うことができる。
そして、反応後の溶液をアセトンに滴下して反応停止させることで沈殿物を得る。得られた沈殿物をろ過・回収し、純水で洗浄後、真空乾燥することで、目的とするマルチブロック共重合体を得ることができる。
【0032】
なお、式(3)で示される化合物は、YH基がアミノ基の場合、下記式(8)で示される化合物(OH末端ポリエステル)のOH末端にR
3―NH
2を導入することで得られる。例えば、R
3COOH-N-Boc基を導入後、Boc基を取り除くことで得ることができる。YがO、Sの場合、例えばR
3COOH-Y-tert-Bu基を導入後、tert-Bu基を除くことで得ることができる。なお、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。
【化16】
(式(8)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
1およびR
2は同一又は異なっていてもよい。さらに、mは1-60の整数を示す。)
【0033】
R3COOH-N-Boc基の導入は例えば、式(8)の化合物とN-Boc保護アミノ酸とを反応させてN-Boc基を導入することができる。N-Boc保護アミノ酸としては、具体的には4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)酪酸、5-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)ペンタン酸、6-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)ヘキサン酸などを挙げることができる。当該反応において式(8)で示される化合物とN-Boc保護アミノ酸は、1:1-1:5モル比で反応させることが好ましい。
【0034】
当該反応には、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、またはそれらの混合溶媒などの溶媒を用いることができる。縮合剤としては、カルボジイミド系の縮合剤を用いることができ、例えば、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDCI)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)などを挙げることができる。また縮合剤の使用量は、N-Boc保護アミノ酸に対して1-5モル当量とすることができる。
【0035】
当該反応には縮合補助剤として、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾールを必要に応じて添加することができる。縮合補助剤の添加量は、N-Boc保護アミノ酸に対して0-2モル当量程度とすることができる。
【0036】
当該反応は、-20℃から60℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは0-40℃程度の温度である。反応時間は1-4時間の条件で行うことができる。反応後に得られた反応液は、純水を加えて反応を停止させた後、濃縮、洗浄および乾燥工程を経ることで、例えば白色固体として式(9)で示される化合物(両末端NH-Boc-ポリエステル)を得ることができる。なお、YがO、Sの場合は、DIC、CDIなどの縮合剤、トリエチルアミン、N,N-ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、2,6-ルチジン、2,4,6-コリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)などの塩基を用いて同様にして合成できる。
【化17】
(式(9)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。R
1およびR
2およびR
3は同一又は異なっていてもよい。Yは、NHである。さらに、mは1-60の整数を示す。)
【0037】
また両末端NH-Boc-ポリエステルのBoc基の除去は、公知の手法に準じて行うことができ、塩化水素を含有した酢酸エチルや、塩化水素を含有した1,4-ジオキサンなどの強酸を添加することで除去することができ、式(10)に示される、末端アミノ基が中和された塩型の化合物を得ることができる。または、さらに炭酸水素ナトリウムなどによりこれを塩基処理することで式(11)に示される化合物を得ることができる。
【化18】
【化19】
(式(10)および(11)中、R
1およびR
2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖を示し、R
3は水素または置換基をもつ炭素数1―10のアルキル鎖を示す。R
1およびR
2およびR
3は同一又は異なっていてもよい。さらに、mは1-60の整数を示す。)
【0038】
上記式(8)で示される化合物(OH末端ポリエステル)は、2価のアルコール(OH-R1-OH)(R1は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖)と、ジカルボン酸(COOH―R2-COOH)(R2は水素または置換基をもつ炭素数1―20のアルキル鎖)との反応により製造することができる。
【0039】
当該反応工程に用いる2価のアルコールとしては、例えばエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオールなどを用いることができる。また、ジカルボン酸としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、セバシン酸、アジピン酸などを用いることができる。
【0040】
当該反応工程に用いる、2価のアルコールとジカルボン酸との配合割合は、1:1-2:1モル比とすることができる。過剰量加えた2価のアルコールが末端封止剤として作用するため、配合割合を適宜選択することで、ポリエステルブロックの重合度を調整することができる。
【0041】
当該反応工程における溶媒としては、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタンなどのハロゲン系有機溶媒、またはそれらの混合溶媒を用いることができる。
【0042】
当該反応における縮合剤としては、カルボジイミド系の縮合剤を用いることができ、例えば、N,N-ジイソプロピルカルボジイミド(DIC)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド(EDCI)、1-[3-(ジメチルアミノ)プロピル]-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDCI・HCl)などを挙げることができる。
また縮合剤の使用量は、ヒドロキシカルボン酸に対して1-5モル当量程度とすることができる。
【0043】
当該反応には縮合補助剤として、N,N-ジメチルアミノピリジン(DMAP)、1-ヒドロキシベンゾトリアゾール、1-ヒドロキシ-7-アザベンゾトリアゾールを必要に応じて添加することができる。縮合補助剤の添加量は、ヒドロキシカルボン酸に対して0-2モル当量程度とすることができる。
【0044】
当該反応は、-20℃から60℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは0-40℃程度の温度である。反応時間は1-4時間の条件で行うことができる。反応後に得られた反応液は、純水を加えて反応を停止させた後、濃縮および乾燥工程を経ることで、例えば白色固体として式(8)で示される化合物(OH末端ポリエステル)を得ることができる。
【0045】
式(4)で示される化合物は、式(12)で示される化合物(PA重合反応開始剤)と環状ラクタムを塩基の存在下で開環重合させ、次いで末端のラクタムを加水分解することで得られる。
【化20】
(式(12)において、R
4は炭素数4―5のヘテロ芳香環の芳香族鎖、炭素数6―12の二つの芳香族炭化水素鎖間にヘテロ原子を含むもの、炭素数2―20のヘテロ原子を含む脂肪族炭化水素鎖、炭素数6―12のヘテロ原子を含まない芳香族炭化水素鎖、炭素数1―10のヘテロ原子を含まない脂肪族炭化水素鎖のいずれか一つを示す。)
【0046】
環状ラクタムとしては炭素数2-12の環状ラクタムを用いることができ、上述したが、具体的にはβ-プロピオラクタム、γ-ブチロラクタム、ε-カプロラクタム、ω-エナントラクタム、ω-ラウロラクタムを挙げることができる。
【0047】
反応に用いる式(12)で示されるPA重合反応開始剤と環状ラクタムとの配合割合は1:1-1:240モル比とすることができる。式(12)の化合物が開環重合の開始剤として作用するため、配合割合を適宜選択することで、ポリアミドブロックの重合度を調整することができる。
【0048】
塩基としては、ナトリウムtert-ブトキシド、カリウムtert-ブトキシドなどの金属アルコキシドや、2-ピロリドンナトリウム塩などの重合反応に使用する環状ラクタムの金属塩を用いることができる。また塩基の使用量は環状ラクタムに対して0.01-1モル当量とすることができる。
【0049】
反応はアルゴンガスなどの不活性ガス下で行うことが好ましい。
当該反応は、0-60℃程度の条件で行うことができる。より好ましくは0-40℃程度の温度である。反応時間は1-24時間の条件で行うことができる。反応後に得られた固形物は、濃塩酸などに溶解させ末端ラクタム加水分解させたのち、濃縮および乾燥工程を経ることで、例えば白色固体として式(4)で示される化合物(両末端カルボキシ基-PA)を得ることができる。
【0050】
式(12)で示されるPA重合反応開始剤は、対応するラクタムまたはその誘導体と、ジカルボン酸ないしジカルボン酸塩化物またはその誘導体から公知の手法に準じた縮合反応によって合成することができる。
【0051】
下記化学反応式(13)および(14)には、上述した反応に関して、ポリアミド側をPA4、ポリエステル側をPBSとした場合の反応式の例を示す。さらに、下記化学反応式(15)には、化学反応式(13)の生成物であるポリアミド成分(式(6)の化合物)と化学反応式(14)の生成物であるポリエステル成分(式(7)の化合物)とによりマルチブロック共重合体(式(2)の化合物)を生成する反応式の例を示す。ポリアミド4成分とポリエステル成分との配合比を調整することで、用途に応じた物性にすることができる。例えば、耐熱性を高める場合は、平均重合度の高いポリアミドと平均重合度の低いポリエステルを共重合することで、高分子中のポリアミド成分比を増加させると良い。
【化21】
【化22】
【化23】
【0052】
また、他の実施形態として、式(7)の化合物と反応する式(6)で示される化合物を、下記式(20)で示される4,4‘-オキシビス安息香酸に代えてもよい。
【化24】
その場合、式(2)のマルチブロック共重合体において、n=0のエステルアミド共重合体(下記式(19)の化合物)を得ることができる。
【化25】
(式(19)中、mは1-60の整数を示し、lは2-100の整数を示す。)
この場合の化学反応式(21)を下記に示す。
【化26】
【実施例0053】
以下、上記化学反応式(13)-(15)に則した実施例を用いて本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は当該実施の形態に限定されない。
〈実施例1〉
マルチブロック共重合体は、両末端アミノ基-PBSの合成工程(工程1-3)と両末端カルボキシ基-PA4の合成工程(工程4-5)によってそれぞれ合成した両末端アミノ基-PBSと両末端カルボキシ基-PA4との反応工程(工程6)を経て合成した。なお、両末端アミノ基-PBSの合成工程と両末端カルボキシ基-PA4の合成工程はどちらが先でも構わない。
【0054】
[両末端アミノ基-PBSの合成]
工程1(両末端水酸基-PBS(下記式(16)で示される化合物)の合成)(実験例1-5)
【化27】
(実験例1)
500 mLナスフラスコに、1,4-ブタンジオール(富士フィルム和光純薬株式会社製、8.395g、93.15mmol)、コハク酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、10.00g、84.68mmol)、DMAP(富士フィルム和光純薬株式会社製、4.345g、35.57mmol)、ジクロロメタン(富士フィルム和光純薬株式会社製、267 mL)を加え、氷浴で冷却後、EDCI・HCl(株式会社ペプチド研究所製、51.138g、266.75mmol)を添加して30分攪拌した。その後、室温でさらに3時間攪拌後、純水50mLを加えて反応を停止した。得られた混合液を濃縮し、残渣をメタノール200mLで2回、純水200mLで1回洗浄後、45℃で真空乾燥することで、目的物(両末端水酸基-PBS)を白色固体として得た。収量は11.521g、収率は75%であった。GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=4.5kDa,Mw=10.2kDaと計算された(
図1)。また
図2に示す
1H-NMRスペクトルの7と3のピーク面積比より、平均重合度は m=15と算出された。なお、以下の実験例において、特に断りのない限り、実験例1と共通する部分においては、同一の試薬や同一の装置を用いた。
(実験例2)
実験例1に記載の方法で両末端水酸基-PBSを得た。収量は10.674g、収率は70%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=14と算出された。
(実験例3)
実験例1に記載の方法で、1,4-ブタンジオール(8.013g、88.92mmol)、コハク酸(10.00g、84.68mmol)、DMAP(4.242g、34.72mmol)、ジクロロメタン(267 mL)、EDCI・HCl(49.920g、260.40mmol)を用いた以外は同様の方法で両末端水酸基-PBSを得た。収量は11.319g、収率は76%であった。また
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=17と算出された。
(実験例4)
実験例1に記載の方法で、1,4-ブタンジオール(7.886g、87.50mmol)、コハク酸(10.00g、84.68mmol)、DMAP(4.207g、34.44mmol)、ジクロロメタン(267 mL)、EDCI・HCl(49.514g、258.28mmol)を用いた以外は同様の方法で両末端水酸基-PBSを得た。収量は11.735g、収率は79%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=31と算出された。
(実験例5)
実験例1に記載の方法で、1,4-ブタンジオール(7.759g、86.09mmol)、コハク酸(10.00g、84.68mmol)、DMAP(4.173g、34.15mmol)、ジクロロメタン(267 mL)、EDCI・HCl(49.109g、256.16mmol)を用いた以外は同様の方法で両末端水酸基-PBSを得た。収量は12.016g、収率は81%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=50と算出された。
【0055】
工程2(両末端NH-Boc-PBS(下記式(17)で示される化合物)の合成)(実験例6-10)
【化28】
(実験例6)
200mLナスフラスコに、実験例1で得られた両末端水酸基-PBS(11.000g、4.16mmol)、DMAP(0.325g、2.66mmol)、ジクロロメタン(110mL)、4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)酪酸(東京化成工業株式会社製、1.859g、9.15mmol)を加えて溶解させた後、氷冷下でEDCI・HCl(3.827g、19.96mmol)を加えて30分攪拌した。さらに室温で3時間攪拌後、純水50mLを加えて反応を停止した。得られた混合液を濃縮し、残渣をメタノール200mLで2回、純水200 mLで1回洗浄後、45℃で真空乾燥することで、目的物(両末端NH-Boc-PBS)を白色固体として得た。収量は11.878g、収率は95%であった。GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=5.5kDa,Mw=12.0kDaと計算された(
図3)。また、
図4に示す
1H-NMRスペクトルの10と3のピーク面積比より、平均重合度はm=15と算出された。
(実験例7)
実験例2で得られた両末端水酸基-PBS(10.000g、3.94mmol)、DMAP(0.308g、2.52mmol)、ジクロロメタン(100mL)、4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)酪酸(1.764g、8.68mmol)、EDCI・HCl(3.630g、18.93mmol)を用いた以外は実験例6と同様の方法で両末端NH-Boc-PBSを得た。収量は10.860g、収率は87%であった。また、
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=16と算出された。
(実験例8)
実験例3で得られた両末端水酸基-PBS(11.295g、3.80mmol)、DMAP(0.297g、2.43mmol)、ジクロロメタン(120mL)、4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)酪酸(1.699g、8.36mmol)、EDCI・HCl(3.497g、18.24mmol)を用いた以外は実験例6と同様の方法で両末端NH-Boc-PBSを得た。収量は12.106g、収率は96%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=18と算出された。
(実験例9)
実験例4で得られた両末端水酸基-PBS(11.735g、2.16mmol)、DMAP(0.170g、1.39mmol)、ジクロロメタン(117mL)、4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)酪酸(0.966g、4.75mmol)、EDCI・HCl(2.000g、10.43mmol)を用いた以外は実験例6と同様の方法で両末端NH-Boc-PBSを得た。収量は11.881g、収率は87%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=35と算出された。
(実験例10)
実験例5で得られた両末端水酸基-PBS(12.016g、1.39mmol)、DMAP(0.109g、0.89mmol)、ジクロロメタン(120mL)、4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)酪酸(0.623g、3.06mmol)、EDCI・HCl(1.282g、6.686mmol)を用いた以外は実験例6と同様の方法で両末端NH-Boc-PBSを得た。収量は11.986g、収率は95%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=51と算出された。
【0056】
工程3(両末端アミノ基-PBS(下記式(7)で示される化合物)の合成)(実験例11-15)
【化29】
(実験例11)
200mLナスフラスコに、実験例6で得られた両末端NH-Boc-PBS(11.5 00g、3.81mmol)、濃度4Mの塩化水素/酢酸エチル溶液(富士フィルム和光純薬株式会社製、58mL)を加えて、懸濁液を室温で3時間攪拌した。反応溶液はアセトン200mLに滴下、洗浄して不溶部を回収し、45℃で真空乾燥することで目的物(両末端アミノ基-PBS)を白色固体として得た。収量は10.030g、収率は91%であった。両末端アミノ基-PBSは GPCチャートでは、カラムへの吸着によると思われる強いテーリングが見られたため、分子量を算定できなかった。一方、
図5に示す
1H-NMRスペクトルの10と3のピーク面積比より、平均重合度は m=15と算出された。
(実験例12)
実験例7で得られた両末端NH-Boc-PBS(10.800g、3.43mmol)、濃度4Mの塩化水素/酢酸エチル溶液(52mL)、を用いた以外は実験例11と同様の方法で両末端アミノ基-PBSを得た。収量は9.997g、収率は94%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=17と算出された。
(実験例13)
実験例8で得られた両末端NH-Boc-PBS(12.106g、3.66mmol)、濃度4Mの塩化水素/酢酸エチル溶液(60mL)、を用いた以外は実験例11と同様の方法で両末端アミノ基-PBSを得た。収量は11.199g、収率は81%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=21と算出された。
(実験例14)
実験例9で得られた両末端NH-Boc-PBS(11.882g、1.88mmol)、濃度4Mの塩化水素/酢酸エチル溶液(60mL)、を用いた以外は実験例11と同様の方法で両末端アミノ基-PBSを得た。収量は11.339g、収率は97%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=32と算出された。
(実験例15)
実験例10で得られた両末端NH-Boc-PBS(11.986g、1.33mmol)、濃度4Mの塩化水素/酢酸エチル溶液(60mL)、を用いた以外は実験例11と同様の方法で両末端アミノ基-PBSを得た。収量は11.558g、収率は98%であった。
1H-NMRスペクトルより、平均重合度はm=53と算出された。
【0057】
[両末端カルボキシ基-PA4の合成]
工程4(PA4重合反応開始剤(下記式(18)で示される化合物)の合成)(実験例16のみ)
【化30】
(実験例16)
25mLナスフラスコにピリジン(富士フィルム和光純薬株式会社製、1.583g、20.00mmol)、2-ピロリドン(富士フィルム和光純薬株式会社製、2.128g、25.00mmol)、ジクロロメタン(10mL)を加えて、0℃に冷却した。反応混合物に4,4’-オキシビスベンゾイルクロリド(東京化成工業株式会社製、2.951g、10.00 mmol)を一挙に加え、室温で3時間攪拌した。反応液にジクロロメタン30mLを加えて希釈し、純水30mL、1MKHSO
4水溶液30mL、飽和NaHCO
330mLで順次、分液・洗浄した。得られた有機層を回収し、MgSO
4を加えて脱水後、濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開液:酢酸エチル/ジクロロメタン=1/9-4/1のグラジエント)で精製することで、目的物(PA4重合反応開始剤)を白色固体として得た。収量は1.700g、収率は44%であった。
図6には、
1H-NMRスペクトルの測定結果を示す。各ピークが目的構造に帰属できたため、目的物が得られたことを確認した。
【0058】
工程5(両末端カルボキシ基-PA4(下記式(6)で示される化合物)の合成)(実験例17-22)
【化31】
(実験例17)
10mLナスフラスコに実験例16で得られたPA4重合反応開始剤(0.508g、1.30mmol)、2-ピロリドン(2.213g、26.00mmol)を加えて90℃に加熱して溶解させた後、30℃まで放冷した。得られた溶液にt-BuOK(東京化成工業株式会社製、0.058g、0.52mmol)を添加し18時間反応した。なお、反応中に溶液は徐々に固化し、攪拌子は停止した。フラスコ中に、濃塩酸7.5mLを加えて20時間攪拌して固形物を溶解させ、得られた溶液を水20mL、アセトン180mLの混合溶媒中に滴下することで沈殿物を得た。得られた沈殿をろ過・回収し、アセトン100mL、純水100mLで順次洗浄し、45℃で真空乾燥することで、目的物(両末端カルボキシ基-PA4)として白色固体を得た。収量は0.97g、収率は37%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=2.0kDa,Mw=4.7kDaと計算された(
図7)。また、
図8に示す
1H-NMRスペクトルの1と3のピーク面積比より、nの平均重合度は6と算出された。
(実験例18)
実験例16で得られたPA4重合反応開始剤(1.562g、4.00mmol)、2-ピロリドン(3.404g、40.00mmol)、t-BuOK(0.090g、0.80mmol)を用いた以外は実験例17と同様の方法で両末端カルボキシ基-PA4を得た。収量は2.719g、収率は61%であった。
1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、nの平均重合度は5と算出された。
(実験例19)
実験例16で得られたPA4重合反応開始剤(1.100g、2.82mmol)、2-ピロリドン(4.796g、56.35mmol)、t-BuOK(0.126g、1.13mmol)を用いた以外は実験例17と同様の方法で両末端カルボキシ基-PA4を得た。収量は4.10g、収率は68%であった。
1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、nの平均重合度は9と算出された。
(実験例20)
実験例16で得られたPA4重合反応開始剤(1.073g、2.75mmol)、2-ピロリドン(9.362g、110.00mmol)、t-BuOK(0.123g、1.10mmol)を用いた以外は実験例17と同様の方法で両末端カルボキシ基-PA4を得た。収量は1.47g、収率は26%であった。
1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、nの平均重合度は11と算出された。
(実験例21)
実験例16で得られたPA4重合反応開始剤(1.757g、4.50mmol)、2-ピロリドン(7.660g、90.00mmol)、t-BuOK(0.505g、4.50mmol)を用いた以外は実験例17と同様の方法で両末端カルボキシ基-PA4を得た。収量は1.78g、収率は15%であった。
1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、nの平均重合度は14と算出された。
(実験例22)
実験例16で得られたPA4重合反応開始剤(1.400g、3.59mmol)、2-ピロリドン(12.207g、143.43mmol)、t-BuOK(0.322g、2.87mmol)を用いた以外は実験例17と同様の方法で両末端カルボキシ基-PA4を得た。収量は9.40g、収率は68%であった。
1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、nの平均重合度は20と算出された。
【0059】
工程6(PBS-PA4マルチブロック共重合体(下記式(2)で示される化合物)の合成)(実験例23-33)
【化32】
(実験例23)
10mLナスフラスコに実験例11で得られた両末端アミノ基-PBS(0.200g、0.069 mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(富士フィルム和光純薬株式会社製、0.027g、0.21 mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(富士フィルム和光純薬株式会社製、1.4mL)、塩化リチウム(富士フィルム和光純薬株式会社製、0.140g、3.30mmol)を加え、100℃で30分攪拌して溶解させた。その後、実験例17で得られた両末端カルボキシ基-PA4(0.085g、0.07mmol)を加え、さらに30分攪拌して溶解させた。得られた溶液に、HOAt(東京化成工業株式会社製、4.7mg、0.03mmol)、EDCI・HCl(0.029g、0.15mmol)を加えて、100℃で3時間攪拌した。反応溶液をアセトン50 mLに滴下して反応停止させ、沈殿物をろ過・回収し、純水50 mLで洗浄後、45℃で真空乾燥することで白色固体(PBS-PA4マルチブロック共重合体)を得た。収量は0.23g、収率は84%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=12.7kDa,Mw=50.5kDaと計算された(
図9)。また、実験例11に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例17に記載の両末端カルボキシ基-PA4の
1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は3と算出された。また、
図10に示す
1H-NMRスペクトルの11と3のピーク面積比よりm=16、11と10,13のピーク面積比よりn=6と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル1とした。
【0060】
(実験例24)
実験例11で得られた両末端アミノ基-PBS(1.500g、0.51mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.133g、1.03mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例19で得られた両末端カルボキシ基-PA4(0.963g、0.51mmol)、HOAt(35mg、0.26mmol)、EDCI・HCl(0.217g、1.13mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は2.24g、収率は93%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=15.1kDa,Mw=36.6kDaと計算された。また、実験例11に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例19に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は3と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=16、n=9と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル2とした。
(実験例25)
実験例12で得られた両末端アミノ基-PBS(1.545g、0.50mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.129g、1.00mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(13mL)、塩化リチウム(1.261g、29.75mmol)、実験例18で得られた両末端カルボキシ基-PA4(0.556g、0.50mmol)、HOAt(34mg、0.25mmol)、EDCI・HCl(0.422g、2.20mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は2.05g、収率は95%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=28.9kDa,Mw=105.3kDaと計算された。また、実験例12に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例18に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は7と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=17、n=5と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル3とした。
(実験例26)
実験例13で得られた両末端アミノ基-PBS(1.889g、0.50mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.129g、1.00mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例21で得られた両末端カルボキシ基-PA4(1.293g、0.50mmol)、HOAt(136mg、1.00mmol)、EDCI・HCl(0.211g、1.10mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は2.95g、収率は94%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=21.5kDa,Mw=76.3kDaと計算された。また、実験例13に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例21に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は3と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=22、n=16と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル4とした。
【0061】
(実験例27)
実験例12で得られた両末端アミノ基-PBS(1.545g、0.50mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.129g、1.00mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例22で得られた両末端カルボキシ基-PA4(1.831g、0.50mmol)、HOAt(136mg、1.00mmol)、EDCI・HCl(0.211g、1.10mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は3.08g、収率は93%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=21.7kDa,Mw=85.0kDaと計算された。また、実験例12に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例22に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は3と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=18、n=20と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル5とした。
(実験例28)
実験例14で得られた両末端アミノ基-PBS(2.835g、0.50mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.129g、1.00mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例18で得られた両末端カルボキシ基-PA4(0.556g、0.50mmol)、HOAt(136mg、1.00mmol)、EDCI・HCl(0.211g、1.10mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は3.17g、収率は95%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=28.1kDa,Mw=75.7kDaと計算された。また、実験例14に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例18に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は4と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=32、n=5と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル6とした。
(実験例29)
実験例14で得られた両末端アミノ基-PBS(2.268g、0.40mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.103g、0.80mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例20で得られた両末端カルボキシ基-PA4(0.819g、0.40mmol)、HOAt(109mg、0.80mmol)、EDCI・HCl(0.109g、0.88mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は2.88g、収率は95%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=33.0kDa,Mw=87.9kDaと計算された。また、実験例14に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例20に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は4と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=34、n=10と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル7とした。
(実験例30)
実験例14で得られた両末端アミノ基-PBS(2.268g、0.40mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.103g、0.80mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例22で得られた両末端カルボキシ基-PA4(1.465g、0.40mmol)、HOAt(109mg、0.80mmol)、EDCI・HCl(0.169g、0.88mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は3.46g、収率は94%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=39.2kDa,Mw=111.0kDaと計算された。また、実験例14に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例22に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は4と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=35、n=20と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル8とした。
【0062】
(実験例31)
実験例15で得られた両末端アミノ基-PBS(2.776g、0.30mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.078g、0.60mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例18で得られた両末端カルボキシ基-PA4(0.334g、0.30mmol)、HOAt(82mg、0.60mmol)、EDCI・HCl(0.127g、0.66mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は2.99g、収率は97%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=27.6kDa,Mw=73.0kDaと計算された。また、実験例15に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例18に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は3と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=55、n=5と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル9とした。
(実験例32)
実験例15で得られた両末端アミノ基-PBS(2.776g、0.30mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.078g、0.60mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例20で得られた両末端カルボキシ基-PA4(0.614g、0.30mmol)、HOAt(82mg、0.60mmol)、EDCI・HCl(0.127g、0.66mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は3.20g、収率は95%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=28.9kDa,Mw=80.3kDaと計算された。また、実験例15に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例20に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は2と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=59、n=10と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル10とした。
(実験例33)
実験例15で得られた両末端アミノ基-PBS(2.314g、0.25mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.065g、0.50mmol)、N,N-ジメチルホルムアミド(15mL)、塩化リチウム(1.500g、35.39mmol)、実験例22で得られた両末端カルボキシ基-PA4(0.916g、0.25mmol)、HOAt(68mg、0.50mmol)、EDCI・HCl(0.105g、0.55mmol)を用いた以外は実験例23と同様にPBS-PA4マルチブロック共重合体を得た。収量は2.97g、収率は93%であった。また、GPCより分子量分布測定を行ったところ、Mn=29.9kDa,Mw=81.6kDaと計算された。また、実験例15に記載の両末端アミノ基-PBSと実験例22に記載の両末端カルボキシ基-PA4の1H-NMRより算出される分子量とマルチブロック共重合体のMnからl(エル)は2と算出された。また、1H-NMRスペクトルのピーク面積比より、m=53、n=17と算出された。このPBS-PA4マルチブロック共重合体をサンプル11とした。
【0063】
上記サンプル1-11について、各工程における実験例ナンバーを表1にまとめた。
【表1】
【0064】
上記実験例1-33において、GPCは以下に記載の方法で測定した。
0.05Mトリエチルアミンを添加した1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノールを溶離液として使用し、株式会社フロム製脱泡装置FG-32(23.0kPa)、日本分光株式会社製送液ポンプPU-4185(流速0.15mL/min.)、日本分光株式会社製オートサンプラーAS-4150(20μLサンプルループ、サンプル濃度1mg/mL)、日本分光株式会社製カラムオーブンCO-4060(40℃)、日本分光株式会社製RI検出器RI-4035、昭和電工株式会社製カラムLF-404およびLF-Gからなる測定装置を用いて測定した。サンプルの分子量は、昭和電工株式会社製ポリメチルメタクリレート標準サンプル(分子量:3040、7290、20100、72000、224000、539000、1020000)から作成した検量線により算出した。
【0065】
また、上記実験例1-33において、1H-NMRは、日本電子株式会社製の核磁気共鳴分光装置JNM-ECX400を用いて測定した。実験例1-16では、試料10mgを重クロロホルム(アルドリッチ社製、1mL、重水素化率99.8%以上、0.03vol%テトラメチルシラン含有)に溶解させて測定サンプルを調製した。実験例17-33では、試料10mgを重トリフルオロ酢酸(関東化学株式会社製、1mL、重水素化率99.5%)に溶解させて測定サンプルを調製した。
【0066】
(PBS-PA4マルチブロック共重合体の評価)
図11には、PBS-PA4マルチブロック共重合体(サンプル1(m=16、n=6、l=3)、サンプル2(m=16、n=9、l=3))の熱特性を示す。熱特性は、熱重量・示差熱同時測定(TG-DTA)によって評価した。測定は、それぞれのサンプルをアルミパン上に約5mg程度量り取り、株式会社島津製作所製DTG-60を用いて、100mL/min.窒素フロー条件下、昇温速度10℃/minで室温から600℃の条件で行った。なお、
図11には、比較として、PBS(三菱ケミカル株式会社製、品名Bio PBS 品番 FZ91PM)とPA4の熱特性データも載せている。
PA4は、非特許文献1の方法に従って作製した。具体的には、ベンゾイルクロリドと2-ピロリドンの縮合体を開始剤として、実験例17と同様に開環重合を行うことでPA4を合成した。なお、作製したPA4の分子量は、GPC測定よりMn=12.7kDa,Mw=64.6kDaと算出された。PBSとPA4は、サンプル1と同様の方法および条件で熱特性を測定した。また、サンプル3-11についても、サンプル1等と同様の方法および条件で熱特性を測定し、これらサンプル1-11、PA4、PBSの熱特性を表2にまとめた。表2中、Tm1はPBS由来の第1融点、Tm2はPA4由来の第2融点であり、Td10はマルチブロック共重合体の全重量に対して10質量%が分解(消失)する温度である。
【0067】
【0068】
ポリアミド4は、上記したように、融点が分解温度(270-280℃)に近いが、
図11から、PBS-PA4マルチブロック共重合体(サンプル1)(m=16,n=6)の融点は、PBS/PA4が非相溶であるため別個の融点をもち、それぞれPBS単独の融点117℃から107℃、PA4単独の融点267℃から216℃まで低下したことが確認された。すなわち、PBS-PA4マルチブロック共重合体とすることで、PA4の分解温度(270-280℃)よりも融点が大幅に低くなったことから、成形性が良好となったといえる。一方、PBS-PA4マルチブロック共重合体(サンプル2)(m=16,n=9)のPA4単独の融点は237℃に観測されたため、PA4成分を増加させることで耐熱性を向上できることが分かった。また、サンプル3-11においても同様に、PA4成分によって耐熱性が変化した。そして、Tm2とTd10との温度幅がPA4自身よりも広くなっていることで、成形性が良好であると言える。そして、ポリエステルとポリアミドのマルチブロック共重合体とすることで、エステル成分の単一重合体より耐熱性に優れ、またアミド成分の単一重合体よりも低温で成型加工可能な共重合体が得られる。特に、nの値を調整することで、PA4由来の第2融点であるTm2を調整可能であり、nの値が小さければTm2が減少するため、より低温で成型加工が可能である。一方、nの値が大きければTm2が増大するため、耐熱性が向上する。好適にはnが5-20の範囲であり、これよりnの値が小さければ、耐熱性向上の効果が低く、また前駆体の精製が容易とは言えなくなる。一方、nの値が前述の範囲を超えて大きい場合は、成型加工性の向上効果が低くなり、また耐熱性向上の効果も頭打ちになる。
【0069】
次に、PBS-PA4マルチブロック共重合体からフィルムを作成し、その物性について下記方法により測定した。
実験例23で得られたPBS-PA4マルチブロック共重合体(サンプル1)約0.1gをN,N-ジメチルホルムアミド約8mLに加えて100℃で攪拌して溶解させた。得られた溶液を、綿を詰めたシリンジでろ過し、4×4cmのサイズにシリコンゴムで縁取ったガラス板上に流し込み、100℃で溶媒を揮発させることで、フィルム(
図12)を得た。フィルムの厚さは約60μm(マイクロメートル)であった。このように、実施例1におけるPBS-PA4マルチブロック共重合体は、フィルムにも容易に成形できることが確認された。そして、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、SoliedSpec-3700)を用いて、このフィルムに波長260nm-1600nmの光を1nmステップで照射して、光透過率を測定した。
図13には、フィルムの光透過率の測定結果を示す。なお、
図13には、比較のために、同様の方法で得たPBSフィルムの結果も示した。PBSフィルムは、上記市販品のPBS約0.1gを用いて、PBS-PA4マルチブロック共重合体フィルムと同様の方法により作製した。作製したPBSフィルムの厚さは約60μmであった。
図13からも、PBS-PA4マルチブロック共重合体フィルムは、360-830nm の可視光領域で PBSフィルムと比較して高い透過率を示したので、透明性に優れることが分かった。したがって、このマルチブロック共重合体フィルムは食品パッケージ、保護フィルム、包装材など幅広い用途に適用可能である。
【0070】
また、以下、上記化学反応式(21)に則した実施例を用いて本発明の他の実施形態を詳細に説明するが、本発明は当該実施の形態に限定されない。
〈実施例2〉
本実施例のエステルアミド共重合体は、両末端アミノ基-PBSの合成工程(工程1A-3A)によって合成した両末端アミノ基-PBSと4,4‘-オキシビス安息香酸(式(20))との反応により合成したものである。
[両末端アミノ基-PBSの合成]
工程1A(片末端NH-Bocブタンジオール(下記式(22)で示される化合物)の合成)
【化33】
(実験例34)
100mLナスフラスコに、1,4-ブタンジオール(富士フィルム和光純薬株式会社製、15.771g、175.00mmol)、4-(tert-ブトキシカルボニルアミノ)酪酸(東京化成工業株式会社製、7.113g、35.00mmol)、DMAP(富士フィルム和光純薬株式会社製、0.855g、7.00mmol)、テトラヒドロフラン(富士フィルム和光純薬株式会社製、53mL)を加え、氷浴で冷却後、EDCI・HCl(株式会社ペプチド研究所製、10.065g、52.50mmol)を添加して、室温で4時間攪拌した。反応液を濃縮した後、酢酸エチル100mLを加えて希釈し、1MKHSO
4水溶液50mL、飽和NaHCO
350mLで順次、分液・洗浄した。得られた有機層を回収し、MgSO
4を加えて脱水後、濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開液:酢酸エチル/ヘキサン=4/1-100/0のグラジエント)で精製することで、目的物(片末端NH-Bocブタンジオール)を無色透明の液体として得た。収量は5.479g、収率は57%であった。
図14には、
1H-NMRスペクトルの測定結果を示す。各ピークが目的構造に帰属できたため、目的物が得られたことを確認した。
【0071】
工程2A(両末端NH-Boc-PBS(下記式(17)で示される化合物)の合成)
【化34】
(実験例35)
100mLナスフラスコに、実験例34で得られた片末端NH-Bocブタンジオール(5.000g、18.16mmol)、コハク酸(富士フィルム和光純薬株式会社製、1.126g、9.53mmol)、DMAP(富士フィルム和光純薬株式会社製、0.466g、3.81mmol)、ジクロロメタン(富士フィルム和光純薬株式会社製、29mL)を加え、氷浴で冷却後、EDCI・HCl(株式会社ペプチド研究所製、5.483g、28.60mmol)を添加し、室温で3時間攪拌した。反応液をジクロロメタンで50mLまで希釈し、純水50mL、1MKHSO
4水溶液50mL、飽和NaHCO
350mL、飽和食塩水50mLで順次、分液・洗浄した。得られた有機層を回収し、MgSO
4を加えて脱水後、濃縮し、カラムクロマトグラフィー(展開液:酢酸エチル/ジクロロメタン=3/7-5/5のグラジエント)で精製することで、目的物(両末端NH-Boc-PBS)を白色の固体として得た。収量は4.128g、収率は88%であった。
図15には、
1H-NMRスペクトルの測定結果を示す。また
図15に示す
1H-NMRスペクトルの 10と3のピーク面積比より、平均重合度はm=1と算出された。
【0072】
工程3A(両末端アミノ基-PBS(下記式(7)で示される化合物)の合成)
【化35】
(実験例36)
実験例35で得られた両末端NH-Boc-PBS(4.000g、6.32mmol)、濃度4Mの塩化水素/酢酸エチル溶液(16mL)を使用した以外は実験例11に記載の方法と同様の方法で目的物(両末端アミノ基-PBS)を白色固体として得た。収量は3.093g、収率は94%であった。
図16に示す
1H-NMRスペクトルの10と3のピーク面積比より、平均重合度はm=1と算出された。
【0073】
(エステルアミド共重合体(下記式(19)で示される化合物)の合成)
【化36】
(実験例37)
実験例23と同様の方法で、実験例36で得られた両末端アミノ基-PBS(0.500g、0.96mmol)、N,N-ジイソプロピルエチルアミン(0.249g、1.93mmol)N,N-ジメチルホルムアミド(3.7mL)、HOAt(0.262g、1.93mmol)、EDCI・HCl(0.406g、2.12mmol)を使用し、両末端カルボキシ基-PA4に代わって4,4‘-オキシビス安息香酸(東京化成工業株式会社製、0.249g、0.963mmol)を使用し、また塩化リチウムは添加せずに反応を行うことで、エステルアミド共重合体を得た。収量は0.57g、収率は88%であった。また、GPCより分子量は、Mn=17.3kDa,Mw=132.8kDaと計算された。また、
図17に示す
1H-NMRスペクトルの11と3のピーク面積比よりm=1、また、その他のピークがすべて帰属できたことから、式(19)に示される目的構造を有する化合物が得られたことを確認した。
また、繰り返しユニットの分子量656Daから、l(エル)は26と算出された。このエステルアミド共重合体をサンプル12とした。
上記実験例34-37において、
1H-NMRは、日本電子株式会社製の核磁気共鳴分光装置JNM-ECX400を用いて測定した。実験例34-35では、試料10mgを重クロロホルム(アルドリッチ社製、1mL、重水素化率99.8%以上、0.03vol%テトラメチルシラン含有)に溶解させて測定サンプルを調製した。実験例36では、試料10mgを重メタノール(アルドリッチ社製、1mL、重水素化率99.8%以上)に溶解させて測定サンプルを調製した。実験例37では、試料10mgを重トリフルオロ酢酸(関東化学株式会社製、1mL、重水素化率99.5%)に溶解させて測定サンプルを調製した。
【0074】
サンプル12の熱特性を、サンプル1と同様の方法および条件で測定した。
図18および表3にサンプル12の熱特性を示す。なお、Td10はエステルアミド共重合体の全重量に対して10質量%が分解(消失)する温度である。
【表3】
図18のように、実験例37で得られた化合物(サンプル12)は、エステルアミドの繰り返し構造に由来する融点(Tm)が単一に観測された。得られた生成物の融点は市販のPBSより高く、耐熱性が向上したことが分かった。また、この融点は、上記PA4の分解温度(270-280℃)よりも低いため成型性が良好となったといえる。そして、本実施例においても、実施例1と同様に、フィルムにも容易に成形できることがいえる。また、本実施例によれば、実施例1のマルチブロック共重合体と比較すると熱耐性は低下するものの成型加工性が向上する。したがって、食品などの包装フィルムに好適である。
本発明に係るマルチブロック共重合体などのエステルアミド共重合体は、食品パッケージ、保護フィルム、包装材などに用いるフィルムやシートやその他の各種成形品として利用が可能である。