(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179136
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】拡散剤組成物、及び半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/225 20060101AFI20231212BHJP
【FI】
H01L21/225 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092245
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】久保 慧輔
(72)【発明者】
【氏名】西澤 彰人
(57)【要約】
【課題】形成される塗布膜における異物の発生を抑制できる拡散剤組成物と、当該拡散剤組成物を用いた半導体基板の製造方法とを提供すること。
【解決手段】不純物拡散成分(A)と溶媒(S)とを含み、不純物拡散成分(A)の含有量が0質量%超1.0質量%以下であり、溶媒(S)が溶媒(S1)と溶媒(S1)とは異なる溶媒である溶媒(S2)とを含み、溶媒(S1)の大気圧下での沸点が180℃以上であり、溶媒(S1)のハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0以上であり、溶媒(S1)の含有量が溶媒(S)の質量に対して0.10質量%超である拡散剤組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板への不純物拡散に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、溶媒(S)とを含み、
前記不純物拡散成分(A)の含有量は、0質量%超1.0質量%以下であり、
前記溶媒(S)は、溶媒(S1)と、前記溶媒(S1)とは異なる溶媒である溶媒(S2)とを含み、
前記溶媒(S1)の大気圧下での沸点が、180℃以上であり、
前記溶媒(S1)の、ハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0以上であり、
前記溶媒(S1)の含有量は、前記溶媒(S)の質量に対して0.10質量%超である、拡散剤組成物。
【請求項2】
前記不純物拡散成分(A)は、前記拡散剤組成物中の固形分全体に対して60質量%以上である、請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項3】
前記溶媒(S1)の含有量は、前記溶媒(S)の質量に対して30質量%未満である、請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項4】
前記溶媒(S1)は、グリコール系溶媒である、請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項5】
前記不純物拡散成分(A)は、ハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが60.0以上である化合物を含む、請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項6】
さらに、アミン化合物(B)を含む、請求項1に記載の拡散剤組成物。
【請求項7】
半導体基板上に請求項1~6のいずれか1項に記載の拡散剤組成物を塗布することによる塗布膜の形成と、
前記拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の、前記半導体基板への拡散と、を含む、半導体基板の製造方法。
【請求項8】
前記塗布膜を加熱して、前記不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる、請求項7に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体基板への不純物拡散成分の拡散に用いられる拡散剤組成物と、当該拡散剤組成物を用いた半導体基板の製造方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
トランジスタ、ダイオード、太陽電池等の半導体素子に用いられる半導体基板は、半導体基板にリン、ホウ素やヒ素等の不純物拡散成分を拡散させて製造されている。
半導体基板に不純物拡散成分を拡散させる方法として、不純物拡散成分を含む拡散剤組成物を半導体基板に塗布する方法がある。例えば、シリコンへのドーピング方法として、シリコン基板の表面に、リン化合物、ホウ素化合物やヒ素化合物等の不純物拡散成分と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートやプロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶媒とを含む拡散剤組成物を塗布して不純物(リン、ホウ素、ヒ素)の拡散を行う方法がある(例えば特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載されるような、リン化合物、ホウ素化合物やヒ素化合物等の不純物拡散成分と、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテートやプロピレングリコールモノメチルエーテル等の溶媒とを含む拡散剤組成物を塗布して不純物の拡散を行う場合、形成される塗布膜に異物(ディフェクト)が多く発生する場合がある。異物が多く存在すると、半導体素子に悪影響を与え得るため、異物の発生を抑制することが望まれる。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、形成される塗布膜における異物の発生を抑制できる拡散剤組成物と、当該拡散剤組成物を用いた半導体基板の製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、不純物拡散成分(A)と溶媒(S)とを含み、不純物拡散成分(A)の含有量が0質量%超1.0質量%以下であり、溶媒(S)が溶媒(S1)と溶媒(S1)とは異なる溶媒である溶媒(S2)とを含み、溶媒(S1)の大気圧下での沸点が180℃以上であり、溶媒(S1)のハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0以上であり、溶媒(S1)の含有量が溶媒(S)の質量に対して0.10質量%超である拡散剤組成物により上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0007】
[1]半導体基板への不純物拡散に用いられる拡散剤組成物であって、
不純物拡散成分(A)と、溶媒(S)とを含み、
前記不純物拡散成分(A)の含有量は、0質量%超1.0質量%以下であり、
前記溶媒(S)は、溶媒(S1)と、前記溶媒(S1)とは異なる溶媒である溶媒(S2)とを含み、
前記溶媒(S1)の大気圧下での沸点が、180℃以上であり、
前記溶媒(S1)の、ハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0以上であり、
前記溶媒(S1)の含有量は、前記溶媒(S)の質量に対して0.10質量%超である、拡散剤組成物。
【0008】
[2]前記不純物拡散成分(A)は、前記拡散剤組成物中の固形分全体に対して60質量%以上である、上記[1]に記載の拡散剤組成物。
【0009】
[3]前記溶媒(S1)の含有量は、前記溶媒(S)の質量に対して30質量%未満である、上記[1]又は[2]に記載の拡散剤組成物。
【0010】
[4]前記溶媒(S1)は、グリコール系溶媒である、上記[1]~[3]のいずれか1つに記載の拡散剤組成物。
【0011】
[5]前記不純物拡散成分(A)は、ハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが60.0以上である化合物を含む、上記[1]~[4]のいずれか1つに記載の拡散剤組成物。
【0012】
[6]さらに、アミン化合物(B)を含む、上記[1]~[5]のいずれか1つに記載の拡散剤組成物。
【0013】
[7]半導体基板上に上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の拡散剤組成物を塗布することによる塗布膜の形成と、
前記拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の、前記半導体基板への拡散と、を含む、半導体基板の製造方法。
【0014】
[8]前記塗布膜を加熱して、前記不純物拡散成分(A)を前記半導体基板に拡散させる、上記[7]に記載の半導体基板の製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、形成される塗布膜における異物の発生を抑制できる拡散剤組成物と、当該拡散剤組成物を用いた半導体基板の製造方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
≪拡散剤組成物≫
拡散剤組成物は、半導体基板への不純物拡散に用いられる拡散剤組成物であって、不純物拡散成分(A)と溶媒(S)とを含む。
不純物拡散成分(A)の含有量は、0質量%超1.0質量%以下である。
溶媒(S)は、溶媒(S1)と、溶媒(S1)とは異なる溶媒である溶媒(S2)とを含む。
溶媒(S1)の大気圧下での沸点は、180℃以上であり、溶媒(S1)のハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHは、14.0以上である。
溶媒(S1)の含有量は、溶媒(S)の質量に対して0.10質量%超である。
かかる拡散剤組成物を用いることにより、異物の発生が抑制された塗布膜を形成することができる。
以下、拡散剤組成物が含む、必須又は任意の成分について説明する。
【0017】
〔不純物拡散成分(A)〕
拡散剤組成物が含有する不純物拡散成分(A)は、従来から半導体基板へのドーピングに用いられている成分であり、n型ドーパントであっても、p型ドーパントであってもよい。n型ドーパントとしては、リン及びヒ素等の単体、並びにこれらの元素を含む化合物が挙げられる。p型ドーパントとしては、ホウ素等の単体、並びにこれらの元素を含む化合物が挙げられる。
また、不純物拡散成分(A)は、ハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが高い化合物、例えばδHが14.0以上である化合物を含むことが好ましく、δHが25.0以上である化合物を含むことがより好ましく、δHが40.0以上である化合物を含むことがさらに好ましく、δHが60.0以上である化合物を含むことが特に好ましい。不純物拡散成分(A)は、δHが90.0以下である化合物を含むことが好ましい。δHが上記範囲であれば、十分に拡散性能を発揮できる。ハンセン溶解度パラメータについての詳細は、後述する。
【0018】
不純物拡散成分(A)としては、入手の容易性や取扱いが容易であることから、リン化合物、ホウ素化合物、又はヒ素化合物が好ましい。
リン化合物としては、リン酸(δH:62.6)及びリン酸エステル等が挙げられる。リン酸エステルとしては、リン酸モノイソプロピル(δH:29.3)及びリン酸ジイソプロピル(δH:14.0)が挙げられる。
ホウ素化合物としては、ホウ酸(δH:60.9)及び三酸化二ホウ素(δH:15.0)が挙げられる。なお、三酸化二ホウ素は水に溶解するとホウ酸になる。
ヒ素化合物としては、ヒ酸及び亜ヒ酸トリアルキルが挙げられる。亜ヒ酸トリアルキルとしては、亜ヒ酸トリブチルが挙げられる。
【0019】
拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の含有量は、0質量%超1.0質量%以下であり、0.01質量%以上0.5質量%以下が好ましく、0.05質量%以上0.1質量%以下がより好ましい。
【0020】
また、不純物拡散成分(A)の含有量は、拡散剤組成物中の固形分全体に対して、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上であり、特に好ましくは95質量%以上である。不純物拡散成分(A)の含有量が上記拡散剤組成物中の固形分全体に対して60質量%未満の場合、同じ膜厚で比較すると、不純物拡散成分(A)の含有量が下がることにより、不純物拡散成分(A)の拡散量が低下するため、必要な拡散量を得ることが難しくなりやすい。
【0021】
〔アミン化合物(B)〕
拡散剤組成物はアミン化合物(B)を含有することが好ましい。
アミン化合物(B)は脂肪族アミンである。ここで芳香族基を有さないアミン化合物を脂肪族アミンとする。
アミン化合物(B)について、アミン化合物(B)が有する第一級アミノ基の数をNAとし、アミン化合物(B)が有する第二級アミノ基の数をNBとし、アミン化合物(B)が有する第三級アミノ基の数をNCとする場合に、NA、NB、及びNCが下記式(1)及び(2):
(NB+NC)≧1・・・(1)
(NA+NB+NC)≧2・・・(2)
を満たすことが好ましい。
拡散剤組成物が不純物拡散成分(A)とともに、前述の所定の条件を満たすアミン化合物(B)を含むことにより、拡散剤組成物を用いて経時的な安定性に優れる薄膜を形成できる。
【0022】
なお、NB+NC<NAである場合、アミン化合物(B)において、第一級アミノ基が炭素原子数2以下の脂肪族炭化水素基に結合している。
比較的鎖長が長い脂肪族炭化水素基に立体障害の小さい第一級アミノ基が結合する場合、第一級アミノ基の立体的な自由度が高い。また、NB+NC<NAである場合、アミン化合物が2以上の第一級アミノ基を有する。詳細な理由は不明であるが、第一級アミノ基についての上記の条件を満たすことにより、立体的な自由度が高い第一級アミノ基の数を制限することで、成膜性や膜の安定性が向上すると思われる。
【0023】
アミン化合物(B)は、直鎖状又は分岐状の脂肪族アミンであってもよく、環式骨格を有する脂肪族アミンであってもよい。アミン化合物(B)の使用による所望する効果を得やすいことから、アミン化合物(B)は、直鎖状又は分岐状の脂肪族アミン化合物であるのが好ましい。
【0024】
アミン化合物(B)は、炭素-炭素不飽和結合を含んでいてもよい。拡散剤組成物の安定性の点等から、アミン化合物(B)は、炭素-炭素不飽和結合を含まないのが好ましい。
【0025】
アミン化合物(B)としては、NA、NB、及びNCに関する上記の条件を満たし、且つ、下記式(B1)で評されるアミン化合物が好ましい。
Rb1Rb2N-(-Rb3-NRb4-)m-Rb5・・・(B1)
【0026】
式(B1)中、Rb1、Rb2、Rb4、及びRb5は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1以上6以下のアルキル基、又は炭素原子数1以上6以下のヒドロキシアルキル基である。Rb3は、炭素原子数1以上6以下のアルキレン基である。mは1以上5以下の整数であり、1以上3以下の整数であるのが好ましい。
mが2以上5以下の整数である場合、複数のRb3は同一であっても異なっていてもよく、複数のRb4は同一であっても異なっていてもよい。
式(B1)において、Rb1、Rb2、Rb4、及びRb5からなる群より選択される任意の2つの基が結合して環を形成してもよい。また、式(B1)で表されるアミン化合物は、2つの環を含んでいてもよい。
【0027】
Rb1、Rb2、Rb4、及びRb5としてのアルキル基の炭素原子数は、1以上6以下であり、1以上4以下が好ましい。
Rb1、Rb2、Rb4、及びRb5としてのアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、及びn-ヘキシル基が挙げられる。これらの中では、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びtert-ブチル基が好ましい。
【0028】
Rb1、Rb2、Rb4、及びRb5としてのヒドロキシアルキル基の炭素原子数は、1以上6以下であり、1以上4以下が好ましい。
Rb1、Rb2、Rb4、及びRb5としてのヒドロキシアルキル基の具体例としては、ヒドロキシメチル基(メチロール基)、2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシ-n-プロピル基、4-ヒドロキシ-n-ブチル基、5-ヒドロキシ-n-ペンチル基、及び6-ヒドロキシ-n-ヘキシル基が挙げられる。これらの中では、2-ヒドロキシエチル基、及び3-ヒドロキシ-n-プロピル基が好ましい。
【0029】
Rb3としてのアルキレン基の炭素原子数は、1以上6以下であり、1以上4以下が好ましい。
Rb3としてのアルキレン基の具体例としては、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、エタン-1,1-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,1-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、及びヘキサン-1,6-ジイル基が挙げられる。これらの中では、メチレン基、エタン-1,2-ジイル基、及びプロパン-1,3-ジイル基が好ましい。
【0030】
アミン化合物(B)の好適な具体例としては、N-メチルエチレンジアミン、N-エチルエチレンジアミン、N-n-プロピルエチレンジアミン、N-イソプロピルエチレンジアミン、N-n-ブチルエチレンジアミン、N-イソブチルエチレンジアミン、N-sec-ブチルエチレンジアミン、N-tert-ブチルエチレンジアミン、N-メチル-1,3-プロパンジアミン、N-エチル-1,3-プロパンジアミン、N-n-プロピル-1,3-プロパンジアミン、N-イソプロピル-1,3-プロパンジアミン、N-n-ブチル-1,3-プロパンジアミン、N-イソブチル-1,3-プロパンジアミン、N-sec-ブチル-1,3-プロパンジアミン、及びN-tert-ブチル-1,3-プロパンジアミン等のN-アルキルアルカンジアミン;
N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジ-n-プロピルエチレンジアミン、N,N-ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N-ジ-n-ブチルエチレンジアミン、N,N-ジイソブチルエチレンジアミン、N,N-ジ-sec-ブチルエチレンジアミン、N,N-ジ-tert-ブチルエチレンジアミン、N,N-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジ-n-プロピル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジイソプロピル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジイソブチル-1,3-プロパンジアミン、N,N-ジ-sec-ブチル-1,3-プロパンジアミン、及びN,N-ジ-tert-ブチル-1,3-プロパンジアミン等のN,N-ジアルキルアルカンジアミン;
N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N’-ジ-n-プロピルエチレンジアミン、N,N’-ジイソプロピルエチレンジアミン、N,N’-ジ-n-ブチルエチレンジアミン、N,N’-ジイソブチルエチレンジアミン、N,N’-ジ-sec-ブチルエチレンジアミン、N,N’-ジ-tert-ブチルエチレンジアミン、N,N’-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジエチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジ-n-プロピル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジイソプロピル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジ-n-ブチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジイソブチル-1,3-プロパンジアミン、N,N’-ジ-sec-ブチル-1,3-プロパンジアミン、及びN,N’-ジ-tert-ブチル-1,3-プロパンジアミン等のN,N’-ジアルキルアルカンジアミン;
ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、3,3-ジアミノジプロピルアミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン、N,N’-ビス(3-アミノプロピル)-1,3-プロパンジアミン、トリス(2-アミノエチル)アミン、及びトリス(3-アミノプロピル)アミン、N-(2-アミノエチル)ピペラジン、及びN-(3-アミノプロピル)ピペラジン等の3以上の窒素原子を有する脂肪族アミン類;
N-(2-アミノエチル)エタノールアミン、N,N-ビス(2-アミノエチル)エタノールアミン、N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N-(3-アミノプロピル)エタノールアミン、N,N-ビス(3-アミノプロピル)エタノールアミン、及びN,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-1,3-プロパンジアミン等のヒドロキシアルキルアミン類;及び
ピペラジン、N-メチルピペラジン、及びN-エチルピペラジン等の環式骨格を有する脂肪族ジアミンが挙げられる。
【0031】
アミン化合物(B)は、1種を単独で用いられてもよく、2種以上を組み合わせて用いられてもよい。
【0032】
拡散剤組成物中のアミン化合物(B)の含有量は、アミン化合物(B)の使用による所望する効果が得られる限り特に限定されない。拡散剤組成物中のアミン化合物(B)の含有量は、0.01質量%以上20質量%以下が好ましく、0.02質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.03質量%以上1質量%以下が特に好ましい。
上記の範囲内の量のアミン化合物(B)を用いる場合、パーティクルの発生等に起因する膜の不均一化、及びアミンの析出による膜質の劣化を抑制しやすい。
【0033】
〔溶媒(S)〕
拡散剤組成物は、溶媒(S)を含む。溶媒(S)は、溶媒(S1)と、溶媒(S1)とは異なる溶媒である溶媒(S2)とを含む。
【0034】
溶媒(S1)は、大気圧下での沸点(1気圧における沸点)が180℃以上であり、且つ、ハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0以上である。
溶媒(S1)は、1種でも2種以上でもよい。
なお、溶媒(S1)は、有機溶媒である。
【0035】
溶媒(S1)の大気圧下での沸点は、180℃以上であり、195℃以上が好ましく、230℃以上がより好ましく、240℃以上がさらに好ましい。溶媒(S1)の大気圧下での沸点は、400℃以下が好ましく、300℃以下がより好ましい。
【0036】
溶媒(S1)のハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHは、14.0以上であり、18.0以上が好ましい。溶媒(S1)のハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHは、40.0以下が好ましく、30.0以下がより好ましく、20.0以下がさらに好ましい。
【0037】
ここで、ハンセン溶解度パラメータとは、物質の溶解性の予測に用いられる値であり、例えば、Charles M.Hansenによる「Hansen Solubility Parameters:A User’s Handbook」(CRC Press、2007)や、Allan F.M.Barton編集の「The CRC Handbook and Solubility Parameters and Cohesion Parameters」(1999)において詳細に説明されている。
ハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δH(以下単に「δH」とも記載する。)は、チャールズハンセンらによって開発されたソフトフェア(ソフト名:Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP))で求めることができる。
【0038】
溶媒(S1)としては、エチレングリコール(沸点198℃、δH:26.0)、1,5-ペンタンジオール(沸点239℃、δH:18.9)、ジエチレングリコール(沸点245℃、δH:19.0)、1,3-ブタンジオール(沸点207℃、δH:20.9)、1,4-ブタンジオール(沸点228℃、δH:20.9)、プロピレングリコール(沸点188℃、δH:21.3)、トリエチレングリコール(沸点244℃、δH:18.6)等のグリコール系溶媒が挙げられる。
上記の沸点は、大気圧下での沸点である。
【0039】
溶媒(S2)は、溶媒(S1)とは異なる溶媒である。
すなわち、溶媒(S2)は、溶媒(S1)に該当しない溶媒であり、大気圧下での沸点が180℃未満であり且つハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0未満である溶媒、大気圧下での沸点が180℃未満であり且つハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0以上である溶媒、又は、大気圧下での沸点が180℃以上であり且つハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0未満である溶媒である。
溶媒(S2)は、1種でも2種以上でもよい。
なお、溶媒(S2)は、有機溶媒又は水である。
【0040】
溶媒(S2)の大気圧下での沸点は、160℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。溶媒(S1)の大気圧下での沸点は、100℃以上が好ましく、110℃以上がより好ましい。
【0041】
溶媒(S2)のハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHは、13.0以下が好ましく、12.0以下がより好ましい。溶媒(S2)のハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHは、7.0以上が好ましく、9.0以上がより好ましい。
【0042】
溶媒(S2)としては、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)(沸点121℃、δH:11.6)等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルや、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(沸点146℃、δH:9.8)等のアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートが挙げられる。
上記の沸点は、大気圧下での沸点である。
【0043】
溶媒(S2)は、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートを含むことが好ましい。アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートは、塗布性や乾燥性に優れ、スピンコート等により均質な塗布膜を形成しやすい。また、アルキレングリコールモノアルキルエーテルは不純物拡散成分(A)を溶解しやすい。
アルキレングリコールモノアルキルエーテルの含有量は、アルキレングリコールモノアルキルエーテル及びアルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートの合計質量に対して、15質量%以上45質量%以下が好ましく、25質量%以上35質量%以下がより好ましい。
【0044】
溶媒(S1)の含有量は、溶媒(S)の質量に対して0.10質量%超である。
拡散剤組成物が、0質量%超1.0質量%以下の不純物拡散成分(A)とともに、上述の特定の沸点及びδHを有する溶媒(S1)及び溶媒(S2)を、溶媒(S1)の含有量が溶媒(S)の質量に対し0.10質量%超となる量で含むことにより、後述する実施例に示されるように、形成される塗布膜の異物(ディフェクト)の発生を抑制することができる。
形成される塗布膜の異物(ディフェクト)の発生を抑制することができる理由は不明であるが、以下の機構によると推測される。
【0045】
溶媒(S1)を含まず、溶媒(S2)のみを溶媒(S)として含む拡散剤組成物を塗布して塗布膜を形成すると、溶媒(S2)の揮発にともない溶媒(S2)に溶解していた不純物拡散成分(A)が凝集する。この凝集物が、塗布膜中に生じる異物(ディフェクト)であると推測される。
このことについて、不純物拡散成分(A)としてホウ酸を含有し、溶媒(S)としてプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)及びプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)を含有する拡散剤組成物を用いた場合を例に説明する。
拡散剤組成物をスピンコート等により半導体基板に塗布して塗布膜を形成すると、PGMEAよりも先にPGMEが揮発する。PGMEの沸点が、PGMEAの沸点よりも低いためである。
PGME中でのホウ酸の溶解度は、PGMEA中でのホウ酸の溶解度よりも高い。このため、揮発したPGMEに溶解していたホウ酸はPGMEAに溶解しきれない。
ホウ酸は、水酸基を3つ有する化合物である。このため、ホウ酸は、高いδHを有し、水素結合しやすく、凝集しやすい。
多量のホウ酸を溶解し得るPGMEの揮発と、ホウ酸同士の凝集しやすさとに起因して、ホウ酸の凝集物が、異物として塗布膜に生じる。
なお、上記では、溶媒(S)としてPGME及びPGMEAの2種類を含有する拡散剤組成物について説明した。溶媒(S)としてPGMEの1種類のみを含有する拡散剤組成物の場合も、同様に、多量のホウ酸を溶解し得るPGMEの揮発と、ホウ酸同士の凝集しやすさとにより、ホウ酸の凝集物が、異物として塗布膜に生じる。
【0046】
拡散剤組成物においては、溶媒(S)として、溶媒(S2)に加えて、溶媒(S1)を0.10質量%超含む。
溶媒(S1)の大気圧下での沸点は180℃以上と高く、且つ、溶媒(S1)のδHは14.0以上と高い。このため、溶媒(S1)は揮発し難く、且つ、ホウ酸等の不純物拡散成分(A)の溶媒(S)に対する溶解度が比較的高い。
その結果、ホウ酸等の不純物拡散成分(A)を溶解した状態を維持しやすい。このような理由により、ホウ酸等の不純物拡散成分(A)の凝集を抑制することができ、形成される塗布膜における異物の発生を抑制できると推測される。
【0047】
一方、拡散剤組成物が、溶媒(S1)を含まないか、溶媒(S)の質量に対して0.10質量%以下の少量の溶媒(S1)を含む場合には、異物が多く発生する。
【0048】
拡散剤組成物において、溶媒(S1)の含有量は、溶媒(S)の質量に対して、0.10質量%超であればよい。異物の発生をより抑制する観点から、0.20質量%以上が好ましく、5.0質量%以上がより好ましい。
拡散剤組成物において、溶媒(S1)の含有量は、溶媒(S)の質量に対して、100質量%未満であればよい。塗布性(膜厚が均一で薄い塗布膜を形成する性能)の観点から、30質量%未満が好ましく、25質量%以下がより好ましい。
【0049】
〔その他の成分〕
拡散剤組成物は、所望する効果が損なわれない範囲で、界面活性剤、消泡剤、pH調整剤、粘度調整剤等の種々の添加剤を含んでいてもよい。
拡散剤組成物は、塗布性を改良すること等を目的として、樹脂や、塗布膜中で樹脂になり得る成分を含有していてもよい。拡散剤組成物は、樹脂や、塗布膜中で樹脂になり得る成分を、含有しなくてもよい。拡散剤組成物が当該樹脂等を含有しなくても、塗布性に優れる拡散剤組成物を調製し得る。樹脂としては、例えば、シロキサン系樹脂や、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂等のバインダー樹脂が挙げられる。塗布膜中で樹脂になり得る成分としては、加水分解性シラン化合物が挙げられる。加水分解性シラン化合物は、加水分解により水酸基を生成させ、且つSi原子に結合する官能基を有する化合物である。加水分解性シラン化合物の例としては、テトラエトキシシランが挙げられる。
【0050】
それぞれ所定量の以上説明した成分を均一に混合することにより、拡散剤組成物が得られる。
【0051】
≪半導体基板の製造方法≫
半導体基板の製造方法は、
半導体基板上に前述の拡散剤組成物を塗布することによる塗布膜の形成と、
拡散剤組成物中の不純物拡散成分(A)の、半導体基板への拡散と、を含む方法が好ましい。
以下、塗布膜の形成について「塗布工程」とも記し、不純物拡散成分(A)の半導体基板への拡散を「拡散工程」とも記す。
また、塗布膜を備える半導体基板を、拡散温度よりも低い温度条件下に所定の時間処理する拡散前加熱処理工程を、塗布工程と拡散工程との間に実施してもよい。
【0052】
<塗布工程>
塗布工程では、半導体基板上に前述の拡散剤組成物を塗布して塗布膜を形成する。拡散剤組成物を塗布する方法は、所望の膜厚の塗布膜を形成できる限り特に限定されない。拡散剤組成物の塗布方法としては、スピンコート法、インクジェット法、及びスプレー法が好ましく、スピンコート法が特に好ましい。
前述の拡散剤組成物を用いて塗布膜を形成することにより、異物の発生を抑制することができるため、異物が少ない塗布膜を形成することができる。
【0053】
拡散剤組成物を用いて形成される塗布膜の膜厚は特に限定されない。塗布膜の膜厚は、0.5nm以上150nm以下が好ましく、1.0nm以上5.0nm以下がより好ましい。
なお、塗布膜の膜厚は、エリプソメーターを用いて測定された5点以上の膜厚の平均値である。
前述の拡散剤組成物であって、溶媒(S1)の含有量が溶媒(S)の質量に対して30質量%未満の拡散剤組成物を用いることにより、膜厚が均一で且つ薄い塗布膜を形成することができる。
【0054】
不純物拡散成分(A)を拡散させる半導体基板としては、従来から不純物拡散成分を拡散させる対象として用いられている種々の基板を特に制限なく用いることができる。半導体基板としては、典型的にはシリコン基板が用いられる。シリコン基板は、拡散剤組成物に含まれる不純物拡散成分(A)の種類に応じて、n型シリコン基板と、p型シリコン基板とから適宜選択される。
シリコン基板等の半導体基板は、表面が自然に酸化されることにより形成される自然酸化膜を備えることが多い。例えばシリコン基板は、主にSiO2からなる自然酸化膜を備えることが多い。
半導体基板に、不純物拡散成分(A)を拡散させる場合、必要に応じて、フッ化水素酸の水溶液等を用いて、半導体基板表面の自然酸化膜が除去される。
【0055】
半導体基板は、凸部と凹部とを有する立体構造を拡散剤組成物が塗布される面上に有していてもよい。前述の拡散剤組成物を用いると、半導体基板がこのような立体構造、特に、ナノスケールの微小なパターンを備える立体構造をその表面に有する場合であっても、例えば30nm以下の薄い塗布膜を、半導体基板の立体構造上に均一に形成しやすい。
【0056】
パターンの形状は特に限定されないが、典型的には、断面の形状が矩形である直線状又は曲線状のライン又は溝や、ホール形状が挙げられる。
【0057】
拡散剤組成物を半導体基板表面にスピンコート法等で塗布した後に、加熱してもよい。加熱(乾燥)することにより、溶媒を除去することができる。
加熱温度は、50℃以上250℃以下の範囲内が好ましく、60℃以上200℃以下の範囲内がより好ましい。
また、加熱処理時間は、5秒以上5分以下が好ましく、10秒以上3分以下がより好ましい。
【0058】
拡散剤組成物を半導体基板表面に塗布した後に、半導体基板の表面を有機溶剤によりリンスするのも好ましい。塗布膜の形成後に、半導体基板の表面をリンスすることにより、塗布膜の膜厚をより均一にすることができる。特に、半導体基板がその表面に立体構造を有するものである場合、立体構造の底部(段差部分)で塗布膜の膜厚が厚くなりやすい。しかし、塗布膜の形成後に半導体基板の表面をリンスすることにより、塗布膜の膜厚を均一化できる。
【0059】
リンスに用いる有機溶剤としては、拡散剤組成物が含有していてもよい前述の有機溶剤を用いることができる。
【0060】
〔拡散前加熱処理工程〕
拡散前加熱処理工程では、塗布膜の形成後から、不純物拡散成分(A)の拡散の開始の間に、半導体基板に対して拡散温度よりも低い温度条件下での加熱処理を行う。
かかる加熱処理の条件は、好ましくは、450℃以上700℃未満、5秒以上1分以下である。拡散前加熱処理は好ましくは一定の温度で行われる。
【0061】
塗布膜を備える半導体基板を、拡散温度よりも低い温度条件下に、所定の時間処理する場合、不純物拡散成分(A)の種類によっては、不純物拡散成分(A)の昇華を抑制し、不純物拡散成分(A)の拡散性(面内均一性や抵抗値)を向上できる場合がある。
拡散前加熱処理工程の実施は、不純物拡散成分(A)がホウ素化合物である場合に特に有効である。不純物拡散成分(A)中の、ホウ素が酸化されてホウ酸ガラス化することにより、ホウ素が膜として固定されやすくなると考えられる。
【0062】
拡散前加熱処理において、好ましい温度は、例えば、450℃以上700℃未満の範囲内が好ましく、500℃以上690℃以下の範囲内がより好ましく、500℃以上670℃以下の範囲内が特に好ましい。
【0063】
拡散前加熱処理工程による不純物拡散性の向上の効果と、半導体基板の製造効率とのバランスの点から、拡散前加熱処理における加熱処理時間は、5秒以上45秒以下が好ましく、10秒以上30秒以下がより好ましい。
【0064】
〔拡散工程〕
拡散工程では、拡散剤組成物を用いて半導体基板上に形成された塗布膜中の不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる。不純物拡散成分(A)を半導体基板に拡散させる方法としては、加熱により拡散剤組成物からなる塗布膜から不純物拡散成分(A)を拡散させる方法が挙げられる。
なお、本願明細書では、「拡散工程」を所定の拡散温度に到達した時点から、拡散時間(拡散温度の保持時間)が経過するまでの間の工程とする。
【0065】
典型的な方法としては、拡散剤組成物からなる塗布膜を備える半導体基板を電気炉等の加熱炉中で加熱する方法が挙げられる。この際、加熱条件は、所望する程度に不純物拡散成分(A)が拡散される限り特に限定されない。
【0066】
不純物拡散成分(A)を拡散させる際の加熱は、好ましくは700℃以上1400℃以下、より好ましくは700℃以上1200℃未満の温度下において、好ましくは1秒以上20分以下の間、より好ましくは1秒以上1分以下の間行われる。
【0067】
また、25℃/秒以上の昇温速度で半導体基板を速やかに所定の拡散温度まで昇温させることができる場合、拡散時間(拡散温度の保持時間)は、30秒以下、10秒以下、5秒以下、3秒以下、2秒以下、又は1秒未満のようなごく短時間であってもよい。拡散時間の下限は、所望する程度に不純物拡散成分を拡散させることができる限り特に限定されない。拡散時間の下限は、例えば、0.05秒以上、0.1秒以上、0.2秒以上、0.3秒以上、又は0.5秒以上であってよい。この場合、半導体基板表面の浅い領域において、高濃度で不純物拡散成分(A)を拡散させやすい。
【0068】
拡散工程において、半導体基板の加熱を行う際の半導体基板の周囲の雰囲気について、酸素濃度が1体積%以下の雰囲気であるのが好ましい。雰囲気の酸素濃度は、0.5体積%以下がより好ましく、0.3体積%以下がさらに好ましく、0.1体積%以下が特に好ましく、酸素が含まれないことが最も好ましい。
雰囲気中の酸素濃度は、拡散工程より前の工程における任意のタイミングにて、所望する濃度に調整される。
酸素濃度の調整方法は特に限定されない。酸素濃度の調整方法としては、半導体基板の加熱を行う装置内に、窒素ガス等の不活性ガスを流通させて、装置内の酸素を不活性ガスとともに装置外に排出する方法が挙げられる。この方法では、不活性ガスを流通させる時間を調整することにより、装置内の酸素濃度を調整出来る。不活性ガスを流通させる時間が長い程、装置内の酸素濃度が低下する。
低酸素濃度の雰囲気で拡散を行う場合、半導体基板表面に酸素により形成される酸化ケイ素が形成しにくいと考えられる。その結果、不純物拡散成分(A)がケイ素を主体とする基板に拡散しやすくなり、不純物拡散成分(A)の拡散の面内均一性が向上する。
【0069】
上記の拡散工程後には、半導体基板の不純物拡散成分(A)が拡散した面や、当該面の近傍に、不純物拡散成分(A)に由来する残渣物が付着したり、不純物拡散成分を過度に高濃度で含む高濃度層が形成されたりする場合がある。
かかる残渣物の付着や、高濃度層の形成は、拡散工程を経て得られた半導体基板を用いて半導体デバイスを製造する場合に、製造される半導体デバイスの性能に悪影響を与える場合がある。
このため、拡散工程後には、残渣物や高濃度層を除去する処理を行うのが好ましい。
【0070】
拡散工程後の好ましい処理としては、半導体基板表面に対して、フッ化水素酸(HF)水溶液を接触させる処理が挙げられる。かかる処理によれば、半導体基板表面に付着する残渣物を除去することができる。
フッ化水素酸の水溶液の濃度は、残渣物を除去できる限り特に限定されない。フッ化水素酸の水溶液の濃度は、例えば、0.05質量%以上5質量%以下が好ましく、0.1質量%以上1質量%以下がより好ましい。
半導体基板表面と、フッ化水素酸の水溶液とを接触させる温度は、残渣物を除去できる限り特に限定されない。半導体基板表面と、フッ化水素酸の水溶液とを接触させる温度は、例えば、20℃以上40℃以下が好ましく、23℃以上30℃以下がより好ましい。
半導体基板表面と、フッ化水素酸の水溶液とを接触させる時間は、残渣物を除去でき、半導体基板に許容できないダメージが生じない限り特に限定されない。半導体基板表面と、フッ化水素酸の水溶液とを接触させる時間は、例えば、15秒以上5分以下が好ましく、30秒以上1分以下がより好ましい。
【0071】
また、上記のフッ化水素酸の水溶液を接触させる処理の前に、半導体基板表面に対して、プラズマアッシングを行うのも好ましい。かかる処理によれば、残渣物に加えて、半導体基板表面又は半導体基板表面の近傍に形成された高濃度層を除去することができる。
プラズマアッシングとしては、酸素含有ガスを用いるプラズマアッシングが好ましく、酸素プラズマアッシングがより好ましい。
酸素プラズマの発生に用いられるガスには、所望する効果が損なわれない範囲で、従来、酸素とともにプラズマ処理に用いられている種々のガスを混合することができる。かかるガスとしては、例えば、窒素ガス、水素ガス等が挙げられる。
プラズマアッシングの条件は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。
【0072】
以上説明した方法によれば、拡散剤組成物を用いて、異物の発生が抑制された塗布膜を形成できる。
このため、異物による半導体素子への悪影響を抑制することができる。したがって、信頼性の高い半導体素子を製造することができる。以上説明した方法は、特に、CMOSイメージセンサー用のCMOS素子や、ロジックLSIデバイス等の半導体素子の製造に好適に適用できる。
【実施例0073】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0074】
〔実施例1~4、及び比較例1~5〕
実施例1~4、及び比較例1~5において、不純物拡散成分(A)として、下記のA1を用いた。
A1:ホウ酸
【0075】
実施例1~4、及び比較例1~5において、アミン化合物(B)として、下記のB1を用いた。
B1:N,N’-ビス(3-アミノプロピル)エチレンジアミン(NA:2、NB:2、NC:0)
【0076】
実施例1~4、及び比較例1~5において、溶媒(S)として、下記のS1、及びS2を用いた。溶媒(S)の下記の沸点は、大気圧下での沸点である。また、溶媒(S)の下記のδHは、ソフトフェア(ソフト名:Hansen Solubility Parameter in Practice(HSPiP))を用いて算出した。
<S1>
S1-1:ジエチレングリコール(沸点245℃、δH:19.0)
S1-2:エチレングリコール(沸点198℃、δH:26.0)
S1-3:1,5-ペンタンジオール(沸点239℃、δH:18.9)
<S2>
S2-1:プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)(沸点146℃、δH:9.8)
S2-2:プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)(沸点121℃、δH:11.6)
S2-3:2-ピロリドン(沸点245℃、δH:9.0)
S2-4:ベンジルアルコール(沸点200℃、δH:13.7)
S2-5:エタノール(沸点78℃、δH:19.4)
【0077】
[拡散剤組成物の製造]
拡散剤組成物中の含有量が0.080質量%となる量のA1と、拡散剤組成物中の含有量が0.045質量%となる量のB1と、拡散剤組成物中の含有量が表1に記載の含有量となる量の表1に記載の種類の溶媒(S1)と、拡散剤組成物中の含有量が表1に記載の含有量となる量のS2-1及びS2-2とを混合して、不純物拡散成分(A)とアミン化合物(B)を溶媒(S)に溶解させて、実施例1~4及び比較例1~2の拡散剤組成物を調製した。
拡散剤組成物中の含有量が0.080質量%となる量のA1と、拡散剤組成物中の含有量が0.045質量%となる量のB1と、拡散剤組成物中の含有量が表1に記載の含有量となる量の表1に記載の種類の溶媒(S1)の比較溶媒と、拡散剤組成物中の含有量が表1に記載の含有量となる量のS2-1及びS2-2とを混合して、不純物拡散成分(A)とアミン化合物(B)を溶媒(S)に溶解させて、比較例3~5の拡散剤組成物を調製した。なお、比較例3~5では、溶媒S1は混合しなかった。
また、溶媒(S)の質量に対する溶媒(S1)の含有量(質量%)を求めた結果を、表1の「S1/(S1+S2)×100」欄に記載する。
【0078】
[塗布膜の異物(ディフェクト)の評価]
平坦な表面を備えるシリコン基板(12インチ、n型)の表面に、スピンコーターを用いて、回転数2000rpmで、実施例1~4及び比較例2~5の拡散剤組成物をそれぞれ塗布して、100℃で60秒間加熱し、塗布膜を形成した。
形成された塗布膜表面を、ウエーハ検査装置(ケーエルエー・テンコール社製、商品名「Surfscan SP2」)を用いて、0.1μm以上の異物の個数(ディフェクトカウント)を求めた。結果を表2に示す。
【0079】
[塗布性の評価]
平坦な表面を備えるシリコン基板(12インチ、n型)の代わりに、平坦な表面を備えるシリコン基板(6インチ、n型)を用いたことの他は、実施例1~4及び比較例1~2の拡散剤組成物を用いて[塗布膜の異物(ディフェクト)の評価]と同様にして、塗布膜を形成した。
形成された塗布膜について、エリプソメーターを用いて、5点の膜厚を測定し、平均膜厚及び標準偏差を求めた。結果を表2に示す。
【0080】
【0081】
【0082】
表1及び表2によれば、不純物拡散成分(A)と溶媒(S)とを含み、不純物拡散成分(A)の含有量が0質量%超1.0質量%以下であり、溶媒(S)が溶媒(S1)と溶媒(S1)とは異なる溶媒である溶媒(S2)とを含み、溶媒(S1)の大気圧下での沸点が180℃以上であり、溶媒(S1)のハンセン溶解度パラメータの水素結合力項δHが14.0以上であり、溶媒(S1)の含有量が溶媒(S)の質量に対して0.10質量%超である拡散剤組成物を用いた場合は、形成される塗布膜における異物の発生を抑制できることがわかる。
また、溶媒(S1)の含有量が溶媒(S)の質量に対して0.10質量%超30質量%未満である実施例1~4は、塗布性に優れており、薄く均一な膜が形成できることが分かる。
【0083】
一方、溶媒(S1)を含まない場合や、溶媒(S1)を含むが、溶媒(S1)の含有量が、溶媒(S)の質量に対して0.10質量%以下の場合は、異物が多く発生することがわかる。
【0084】
[半導体基板の製造]拡散
実施例1~4の拡散剤組成物を用いて[塗布膜の異物(ディフェクト)の評価]と同様にして、塗布膜を形成した後、以下の方法に従って、不純物拡散成分の拡散処理を行った。
ラピッドサーマルアニール装置(ランプアニール装置)を用いて、流量1L/mの窒素雰囲気下において昇温速度15℃/秒の条件で塗布膜を備える半導体基板を1000℃まで加熱し、1000℃を25秒間保持して拡散処理を行った。拡散時間の始点は、基板の温度が1000℃に達した時点である。拡散の終了後、半導体基板を室温まで急速に冷却した。
【0085】
拡散処理後の半導体基板のシート抵抗値を測定した結果を表2に記す。
拡散処理を行った実施例のいずれでも、拡散処理後、半導体基板がn型からp型に反転していた。