(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179225
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】有機物含有水の処理装置及び方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/32 20230101AFI20231212BHJP
C02F 1/72 20230101ALI20231212BHJP
B01D 61/00 20060101ALI20231212BHJP
C02F 1/20 20230101ALI20231212BHJP
【FI】
C02F1/32
C02F1/72 101
B01D61/00
C02F1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092403
(22)【出願日】2022-06-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】松本 千誉
(72)【発明者】
【氏名】宮本 真吾
【テーマコード(参考)】
4D006
4D037
4D050
【Fターム(参考)】
4D006GA32
4D006GA35
4D006HA02
4D006JA56A
4D006JA67A
4D006JA67B
4D006JA67C
4D006KA31
4D006KB04
4D006KE02R
4D006KE07P
4D006MA01
4D006PB08
4D037AA11
4D037AB01
4D037AB11
4D037BA18
4D037BA23
4D037BB03
4D037BB07
4D037CA03
4D037CA12
4D050AA12
4D050AB07
4D050AB11
4D050BB01
4D050BC09
4D050BD06
4D050CA03
4D050CA09
(57)【要約】
【課題】ガス透過膜モジュールの液相側へのガス成分の混入及びガス透過膜モジュール後段での気泡の発生を防止することができる有機物含有水の処理装置及び処理方法を提供する。
【解決手段】タンク1、ガス透過膜モジュール4の液相室4A、紫外線照射装置5、これらを接続する配管及びポンプ3のすべてを被処理水で満水状態とする。この状態で、循環ポンプ3により原水タンク1から被処理水を液相室4Aに送水する。また、負圧発生装置8を起動させ、気相室4Bを大気圧より低い圧力とし、配管9から気相室4Bに空気を流通させ、被処理水に酸素を溶解させる。紫外線照射装置5で紫外線を照射することにより、有機物が二酸化炭素に分解される。液中の余剰二酸化炭素は、ガス透過膜4mを透過し、排気ライン7から排出される。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物含有水を貯留するタンク、有機物含有水が通過する液相室及び該液相室とガス透過膜を介して区画された気相室を有するガス透過膜モジュール、及び、該有機物含有水を紫外線照射処理する紫外線照射装置を含む液循環系と、該液循環系の有機物含有水を循環させる循環ポンプと、を有する有機物含有水の処理装置において、
該気相室に、該タンク内の圧力よりも低い圧力にて酸素含有気体を流通させる酸素含有気体流通手段を備えたことを特徴とする有機物含有水の処理装置。
【請求項2】
前記循環ポンプは、前記タンクから有機物含有水を前記ガス透過膜モジュールの液相室を経て前記紫外線照射装置に供給し、該紫外線照射装置で処理された処理水を該タンクに戻す請求項1の有機物含有水の処理装置。
【請求項3】
前記酸素含有気体流通手段は、前記気相室の一端側に接続された吸引装置と、該気相室の他端から気相室に流入する酸素含有気体の圧力を低下させるための差圧機器とを有する請求項1の有機物含有水の処理装置。
【請求項4】
前記差圧機器は、バルブ又はオリフィスである請求項2の有機物含有水の処理装置。
【請求項5】
前記タンクは密閉式タンクである請求項1の有機物含有水の処理装置。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかの有機物含有水の処理装置を用い、前記タンク内及び液流通部分のすべてを満水状態として前記循環ポンプ、紫外線照射装置及び酸素含有気体流通手段を作動させて有機物含有水を処理する有機物含有水の処理方法。
【請求項7】
前記気相室内の圧力が前記タンク内の圧力よりも2~20kPa低くなるように前記酸素含有気体流通手段を作動させる請求項5の有機物含有水の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物含有水の有機物濃度を低減するための有機物含有水の処理装置及び方法に係り、特に有機物含有水中の有機物を紫外線照射装置により分解する有機物含有水の処理装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機物を含有する排水等の水中の有機物を分解する方法として、紫外線を照射する方法がある。紫外線照射による有機物の分解は、紫外線照射により生成するヒドロキシラジカルにより、有機物中の炭素(C)を二酸化炭素(CO2)に酸化することで進行する。
【0003】
紫外線照射処理では酸素が消費されるため、酸化剤や空気(酸素)を供給する必要がある。酸化剤は取り扱いに注意が必要な危険な薬品が多いため、より安全性の高い方法としてガス透過膜モジュールを利用して空気中の酸素を供給する方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
ガス透過膜は水を透過させず、気体のみを透過させる膜であり、被処理水に効率的に酸素を供給すると共に、発生した二酸化炭素を取り除くことができる。このとき、膜気相側の圧力をわずかに液相側より大きくすることで、酸素をより効率的に供給できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガス透過膜モジュールに大気圧以上で空気を供給すると、ガス透過膜を介して気相側から液相側へ気泡が混入する。直接的に気泡が混入しない場合でも、液相側の溶存酸素、溶存窒素が過飽和状態となる。液相が過飽和状態であると、液相側の圧力低下に伴い気泡が発生する。
【0007】
そのため、有機物含有水の処理装置の循環タンクとして密閉式のタンクを用いると、タンク内部に気泡が蓄積する。気泡は密閉タンク内の内圧上昇や、ポンプでのエア噛み込み、キャビテーションといった不具合の原因となる。
【0008】
通常の重力環境下ではタンクに気泡が溜まってもエアベントによりタンクからのガス抜きが可能であるが、開放系タンクを使用できない微小重力下では、タンクからガスのみを選択的に排出することは難しい。また、追加の脱気のために装置が大型化・複雑化するといった問題点があった。
【0009】
本発明は、ガス透過膜モジュールの液相側へのガス成分の混入及びガス透過膜モジュール後段での気泡の発生を防止することができる有機物含有水の処理装置と、この有機物含有水の処理装置を用いた有機物含有水の処理方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の有機物含有水の処理装置は、有機物含有水を貯留するタンク、有機物含有水が通過する液相室及び該液相室とガス透過膜を介して区画された気相室を有するガス透過膜モジュール、及び、該有機物含有水を紫外線照射処理する紫外線照射装置を含む液循環系と、該液循環系の有機物含有水を循環させる循環ポンプと、を有する有機物含有水の処理装置において、該気相室に、該タンク内の圧力よりも低い圧力にて酸素含有気体を流通させる酸素含有気体流通手段を備えたことを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様では、前記循環ポンプは、前記タンクから有機物含有水を前記ガス透過膜モジュールの液相室を経て前記紫外線照射装置に供給し、該紫外線照射装置で処理された処理水を該タンクに戻す。
【0012】
本発明の一態様では、前記酸素含有気体流通手段は、前記気相室の一端側に接続された吸引装置と、該気相室の他端から気相室に流入する酸素含有気体の圧力を低下させるための差圧機器とを有する。
【0013】
本発明の一態様では、前記差圧機器は、バルブ又はオリフィスである。
【0014】
本発明の一態様では、前記タンクは密閉式タンクである。
【0015】
本発明の有機物含有水の処理方法は、かかる本発明の有機物含有水の処理装置を用い、前記タンク内及び液流通部分のすべてを満水状態として前記循環ポンプ、紫外線照射装置及び酸素含有気体流通手段を作動させて有機物含有水を処理する。
【0016】
本発明の一態様では、前記気相室内の圧力が前記タンク内の圧力よりも2~20kPa低くなるように前記酸素含有気体流通手段を作動させる。
【発明の効果】
【0017】
ガス透過膜モジュールの気相側をタンク内の圧力より低い圧力とすることにより、液相側へのガス成分の混入やガス透過膜モジュール後段での気泡の発生が防止される。そのため、微小重力環境下のようにタンクとして密閉タンクを使用する場合でも、タンク内で気泡が発生しないため、タンクの内圧上昇やポンプのエア噛み込み、キャビテーションといった気泡発生に起因するトラブルを防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施の形態に係る有機物含有水の処理装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、
図1を参照して実施の形態に係る有機物含有水の処理装置及び方法について説明する。
【0020】
この有機物含有水の処理装置は、有機物含有水である被処理水を貯留する密閉式の原水タンク1と、この原水タンク1から、循環ポンプ3を有する配管2によって液相室4Aの一端側に被処理水が導入可能とされたガス透過膜モジュール4と、このガス透過膜モジュール4の液相室4Aの他側に配管を介して接続された紫外線照射装置5と、この紫外線照射装置5で紫外線照射処理した処理水を原水タンク2に戻す配管(循環ライン)6とを有する。
【0021】
なお、配管2の循環ポンプ3よりも液相室4A側に、液相室4Aに供給される被処理水の圧力を検出するための圧力センサP1が設けられている。
【0022】
タンク1としては、充填液量に応じて容積が可変である容量可変タンクが好ましい。具体的には、袋状に成形したポリオレフィンやフッ素樹脂のフィルムにポートを接着したバックタンクや、円筒型容器の内部に流体容量に応じて摺動するピストンを備えたピストン型タンクなどが好適である。
【0023】
ガス透過膜モジュール4は、内部がガス透過膜4mによって液相室4Aと気相室4Bとに区画されている。気相室4Bの一端側に配管(排気ライン)7を介して吸引装置としての負圧発生装置8が接続されている。負圧発生装置8としては、真空ポンプ又はエジェクタなどが好適であるが、これに限定されない。
【0024】
気相室4Bの他端側に配管9の一端が接続されている。配管9の他端は大気に開放している。配管9の途中に、配管9を流れる酸素含有気体としての空気の圧力を低下させる差圧機器としてオリフィス又はバルブ10が設けられている。配管9のオリフィス又はバルブ10よりも気相室4B側に圧力センサP2が設けられている。
【0025】
ガス透過膜モジュール4のガス透過膜4mは、効率的に酸素を液相室4A内の水に溶解させると共に、二酸化炭素を液相室4Aから気相室4Bに排出するために、膜面積が広い方が望ましく、中空糸膜の束で構成されたガス透過膜が好適である。
【0026】
紫外線照射装置5としては、特に制限はないが、例えば、低圧水銀ランプ、高圧水銀灯、水素放電管、キセノン放電管などを用いることができる。この紫外線照射装置5は、200nm以下、特に185nm付近の波長を有する紫外線を照射するものを好適に用いることができる。
【0027】
次に上述した構成を有する有機物含有水の処理装置を用いた有機物含有水の処理方法について説明する。
【0028】
まず、タンク1、液相室4A、紫外線照射装置5、これらを接続する配管及びポンプ3のすべてを被処理水で満水状態とする。ここで、タンク1として容量可変タンクを用いる場合、タンク1の満水状態とは、ガスをほとんど含まず水のみで満たされた状態を意味し、タンク容量の最大限まで水が充填されている意味ではない。この状態で、循環ポンプ3により、原水タンク1から被処理水をガス透過膜モジュール4の液相室4Aに送水する。また、負圧発生装置8を起動させ、圧力センサP2で検出されるガス透過膜モジュール4の気相室4Bを大気圧より低い圧力とする。これにより、配管9から気相室4B側に空気が流入する。
【0029】
気相室4B内の空気中の酸素の一部はガス透過膜4mを気相室4Bから液相室4Aに透過することで、液相中の溶存酸素濃度が上昇する。この溶存酸素濃度の高い有機物含有被処理水に紫外線照射装置5で紫外線を照射することにより、有機物が二酸化炭素に分解される。二酸化炭素を含む液は循環ライン6を通り、密閉タンク1に戻った後、再び循環ポンプ3により液相室4Aに送られる。液中の余剰二酸化炭素は、ガス透過膜4mを液相室4Aから気相室4Bに透過し、排気ライン7を通って系外へ排出される。
【0030】
気相室4B内の圧力は大気圧よりやや低い程度が好適であり、密閉タンク1内の圧力(通常は大気圧)よりも2~20kPa低い範囲が好ましい。なお、圧力を低くし過ぎると、気相室4B内の酸素分圧が低下するため、液相に溶け込む酸素量が低下してしまう。液相室4A内の圧力は大気圧よりも10~100kPa高い範囲が好ましい。
【0031】
上記実施の形態では、圧力センサP1を配管2に設けているが、液相室4Aやその出口側の配管に設けてもよい。また、圧力センサP2は気相室4Bや排気ライン7に設けられてもよい。
【0032】
なお、この実施の形態では、被処理水のTOC濃度は20~1000mg/L特に40~500mg/L程度が好適であるが、これに限定されない。
【実施例0033】
[実施例1]
図1の有機物含有水の処理装置を下記実験条件に記載の構成及び作動条件にて運転した。
<実験条件>
ガス透過膜モジュール4:G420(3M)
循環ポンプ3:NRD-40(イワキ)
紫外線照射装置5:エキシマランプ(ウシオ)
負圧発生装置8:真空エジェクタZH05S-X267(SMC)
原水タンク1:PFA製の袋(収縮バック)。容積1L
原水TOC濃度:180mg/L(アルコール類、有機物が主成分)
循環液量:5L/min
気相室4Bのガス側流量:0.5NL/min
気相室4Bの圧力:大気圧より5kPa低い圧力
【0034】
<結果・考察>
原水タンクを含む液循環系を原水で満水状態とし、上記の条件で実験したところ、7時間でTOCは3mg/Lまで低下した。処理期間を通じてタンク1内に気泡の発生はまったく見られなかった。また、循環ポンプの流量は処理期間を通じて5L/minで安定しており、エア噛み込み等の異常は見られなかった。
【0035】
[比較例1]
<実験条件>
実施例1において、真空エジェクタを取り外し、外部から計装エアを0.5NL/min(気相室4Bの入口圧力:大気圧より約5kPa高い圧力)で送り込むようにしたこと以外は実施例1と同一条件とした。
【0036】
<結果・考察>
比較例1では、9時間でTOCは3mg/Lまで低下した。処理終了後に原水タンクに貯まった空気量を測定したところ、約70mLであった。また、循環ポンプ3の流量は、当初5L/minであったが、途中から3.6L/minまで低下しており、原水タンク内の気泡を吸い込み、エア噛み込みしたものと推定された。
【0037】
実施例1と比較例1とにおけるTOC3mg/Lへの到達時間の差は、循環流量が低下したことで、紫外線照射装置5内の流れが乱流から層流となり、有機物分解効率が低下したためと推定される。