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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179298
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】半導体デバイス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/336 20060101AFI20231212BHJP
   H01L 29/786 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20231212BHJP
   H01L 27/146 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
H01L29/78 627D
H01L29/78 626C
H01L29/78 613Z
H01L29/78 613A
H01L21/02 B
H01L27/146 C
H01L27/146 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092548
(22)【出願日】2022-06-07
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1.後藤 正英、為村 成亨らが、2022年2月25日付で、第69回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,25a-E103-9,2022において、出願に係る発明の内容を公開。 2.後藤 正英、為村 成亨らが、2022年3月25日付で、第69回応用物理学会春季学術講演会にて、出願に係る発明の内容を発表。
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100161148
【弁理士】
【氏名又は名称】福尾 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正英
(72)【発明者】
【氏名】為村 成亨
【テーマコード(参考)】
4M118
5F110
【Fターム(参考)】
4M118AA10
4M118AB01
4M118BA05
4M118CA14
4M118CB01
4M118EA01
4M118EA14
4M118HA24
4M118HA27
4M118HA30
5F110AA30
5F110BB04
5F110BB10
5F110DD01
5F110DD05
5F110DD13
5F110GG02
5F110GG25
5F110NN71
5F110QQ16
(57)【要約】
【課題】トランジスタの安定動作が可能な、柔軟性を備えた半導体デバイス及びその製造方法を提供する。
【解決手段】半導体デバイスは、フレキシブル基板上に導電性の接着層を介して半導体デバイスチップが積層された半導体デバイスであって、前記接着層が所定電位に保持されていることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
フレキシブル基板上に導電性の接着層を介して半導体デバイスチップが積層された半導体デバイスであって、
前記接着層が所定電位に保持されている、半導体デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の半導体デバイスにおいて、
前記所定電位は接地電位である、半導体デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の半導体デバイスにおいて、
前記半導体デバイスチップは、CMOS回路が形成され支持基板を除去したSOI基板である、半導体デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の半導体デバイスにおいて、
前記接着層は、導電性の粘着フィルム又は金属層である、半導体デバイス。
【請求項5】
請求項4に記載の半導体デバイスにおいて、
前記半導体デバイスチップにはFPCが接続され、前記半導体デバイスチップの入出力パッドに信号配線が接続され、前記接着層に接地配線が接続されている、半導体デバイス。
【請求項6】
請求項5に記載の半導体デバイスにおいて、
前記半導体デバイスチップ上に光電変換膜を備え、前記半導体デバイスはCMOSイメージセンサである、半導体デバイス。
【請求項7】
SOI基板にCMOS回路を形成し、前記SOI基板の支持基板を除去してなる半導体デバイスチップを形成する工程と、
前記半導体デバイスチップを導電性の接着層を介してフレキシブル基板に接着する工程と、
前記半導体デバイスチップの入出力パッドに信号配線を接続するとともに、前記接着層に接地配線を接続する工程と、
を備える、半導体デバイスの製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の半導体デバイスの製造方法において、
前記接着層は、導電性の粘着フィルム又は金属層である、半導体デバイスの製造方法。
【請求項9】
請求項8に記載の半導体デバイスの製造方法において、
さらに、前記半導体デバイスチップ上に光電変換膜を形成する工程を備える、半導体デバイスの製造方法。
【請求項10】
請求項7乃至9のいずれか一項に記載の半導体デバイスの製造方法において、
少なくとも前記フレキシブル基板に接着する工程までをウェハプロセスで行う、半導体デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス及びその製造方法に関し、特に、フレキシブル基板を用いた半導体デバイス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フレキシブルディスプレイやウェアラブルな電子機器等、半導体デバイスの用途が様々に広がっており、柔軟性を備えた半導体デバイスの開発も進められている。例えば、フレキシブル基板上に、接着層と、有機中間層と、無機中間層と、半導体層とが順次積層され、半導体層によって半導体素子が構成された半導体装置が提案されている(特許文献1)。
【0003】
本発明者らは、高精細・高フレームレートなどCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)イメージセンサ本来の高い性能を有し、かつ自由に曲げることのできる新しいイメージセンサの実現を目指しており、FDSOI(Fully-depleted silicon on insulator)基板上に形成したCMOS回路と光電変換膜を、プラスチック製の柔軟な基板上に積層した、フレキシブルCMOSイメージセンサの研究を進めている。柔軟性を備えたイメージセンサは、レンズの収差をセンサ面で改善することができ、また、ウェアラブルな電子機器への適用が可能である等、多くの利点・用途が期待されている。
【0004】
図9は、本発明者らがこれまでに開発した半導体デバイスの構造の一例である。CMOS回路を形成したFDSOI基板(CMOSデバイスチップ)10が、プラスチック等からなるフレキシブル基板30上に、両面接着性の粘着フィルム40により接着されている。この積層構造は、CMOSデバイスチップ10をフレキシブル基板30に転写して作製する。さらに、CMOSデバイスチップ10上には結晶セレン(c-Se)などからなる光電変換膜50が積層され、CMOS回路の電極にはFPC(Flexible Printed Circuits)等の入出力配線60が接続されている。
【0005】
ここで、粘着フィルム40は、総厚10μmで「アクリル系粘着剤/PET基材/アクリル系粘着剤」で構成されている。また、CMOSデバイスチップ(FDSOI基板)10は支持基板が除去されて薄膜化されており、この半導体デバイスは十分な柔軟性を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008-262955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、この半導体デバイスは、絶縁性の粘着層(粘着フィルム)40を介してプラスチック基板30にFDSOI基板(CMOSデバイスチップ)10の転写を行うため、プラスチック基板30や粘着層40が帯電しているとCMOS回路が正しく動作しないという問題があった。
【0008】
図10は、転写工程前後のp型MOSトランジスタのI-V特性の一例である。図10に示される特性は、FDSOI基板10の転写前と転写後(ただし光電変換膜形成前)について、それぞれ8個ずつのトランジスタを測定した結果である。転写前は、8個のMOSトランジスタの特性が1本の線に重なるように揃っているが、転写後のMOSトランジスタは、特性ずれ及びばらつきが大きいという問題が発生している。この問題は、転写後のチャネル直下にある粘着フィルムの帯電によりI(ドレイン電流)が変調されて発生すると考えられ、信号処理回路やイメージセンサが動作しない原因となっていた。
【0009】
したがって、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、トランジスタの安定動作が可能な、柔軟性を備えた半導体デバイス及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る半導体デバイスは、
(1)フレキシブル基板上に導電性の接着層を介して半導体デバイスチップが積層された半導体デバイスであって、前記接着層が所定電位に保持されている、半導体デバイスである。
【0011】
(2)上記(1)の半導体デバイスは、更に、前記所定電位が接地電位であることが好ましい。
【0012】
(3)上記(1)または(2)の半導体デバイスは、更に、前記半導体デバイスチップが、CMOS回路が形成され支持基板を除去したSOI基板であることが好ましい。
【0013】
(4)上記(1)~(3)のいずれかの半導体デバイスは、更に、前記接着層が、導電性の粘着フィルム又は金属層であることが好ましい。
【0014】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの半導体デバイスは、更に、前記半導体デバイスチップにはFPCが接続され、前記半導体デバイスチップの入出力パッドに信号配線が接続され、前記接着層に接地配線が接続されていることが好ましい。
【0015】
(6)上記(1)~(5)のいずれかの半導体デバイスは、更に、前記半導体デバイスチップ上に光電変換膜を備え、前記半導体デバイスはCMOSイメージセンサであることが好ましい。
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係る半導体デバイスの製造方法は、
(7)SOI基板にCMOS回路を形成し、前記SOI基板の支持基板を除去してなる半導体デバイスチップを形成する工程と、前記半導体デバイスチップを導電性の接着層を介してフレキシブル基板に接着する工程と、前記半導体デバイスチップの入出力パッドに信号配線を接続するとともに、前記接着層に接地配線を接続する工程と、を備えている。
【0017】
(8)上記(7)の半導体デバイスの製造方法は、更に、前記接着層が、導電性の粘着フィルム又は金属層であることが好ましい。
【0018】
(9)上記(7)または(8)の半導体デバイスの製造方法は、更に、前記半導体デバイスチップ上に光電変換膜を形成する工程を備えることが好ましい。
【0019】
(10)上記(7)~(9)のいずれかの半導体デバイスの製造方法は、少なくとも前記フレキシブル基板に接着する工程までをウェハプロセスで行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明における半導体デバイス及びその製造方法によれば、トランジスタの安定動作が可能な、柔軟性を備えた半導体デバイスが実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】実施の形態1の半導体デバイスの構造(断面図)の一例である。
図2】実施の形態1の半導体デバイスの構造(平面図)の一例である。
図3】実施の形態1の半導体デバイスの製造工程を示すフローチャートの一例である。
図4A】実施の形態1の半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図4B】実施の形態1の半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図4C】実施の形態1の半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図4D】実施の形態1の半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図4E】実施の形態1の半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図5】実施の形態2の半導体デバイスの構造(断面図)の一例である。
図6A】実施の形態2の半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図6B】実施の形態2の半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図6C】実施の形態2の半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図7】ウェハプロセスによる半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
図8】本発明の半導体デバイスのMOSトランジスタのI-V特性の一例である。
図9】従来の半導体デバイスの構造の一例である。
図10】従来の半導体デバイスのMOSトランジスタのI-V特性の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0023】
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1の半導体デバイスの構造(断面図)の一例である。また、図2は、実施の形態1の半導体デバイスの平面図の一例である。本発明の実施の形態1に係る半導体デバイスは、フレキシブルCMOSイメージセンサであるが、その構造と製造方法は、他の半導体デバイスにも応用可能である。
【0024】
図1において、CMOS回路を形成したFDSOI基板(CMOSデバイスチップ)10が、プラスチック等からなるフレキシブル基板30上に、両面接着性の粘着層(接着層)70により接着されている。フレキシブル基板30はプラスチックに限らず、可撓性のある材料からなる基板であればよい。また、本実施形態では、CMOSデバイスチップ10を用いているが、CMOS回路に限らず、MOSトランジスタを含む回路を形成した一般的な半導体デバイスチップであってもよい。CMOSデバイスチップ10上には結晶セレン(c-Se)などからなる光電変換膜50が積層され、画素電極17と接続されている。また、CMOS回路の電極(入出力パッド)18には、FPC等の入出力配線60が接続されている。
【0025】
本実施形態において、接着層(粘着層)は、例えば「導電性アクリル系粘着剤/導電メッシュ基材/導電性アクリル系粘着剤」で構成される導電性の粘着フィルム70を用いている。そして、粘着フィルム70は、その一部がFPC60の接地配線とコンタクトし、接地(グランド)電位に保持されている。
【0026】
図2の半導体デバイスの平面図において、フレキシブル基板30上に、導電性の接着層(粘着フィルム)70を介して、CMOSデバイスチップ10が設けられている。接着層(粘着フィルム)70のサイズは、CMOSデバイスチップ10の外形よりも大きく、その一部はCMOSデバイスチップ10の外側にはみ出している。CMOSデバイスチップ10は、その表面に光電変換膜50(図示せず)が形成され、複数の画素(画素アレイ)を備えている。また、CMOSデバイスチップ10の表面には、入出力パッド18が露出しており、FPC60の信号配線61が入出力パッド18に接続して、信号の入出力が行われる。また、CMOSデバイスチップ10の外側の接着層(粘着フィルム)70の一部と、接地配線62が接続されている。これにより、導電性の接着層70全体(チップ10の背面全体)が接地電位に保持される。
【0027】
図3は、実施の形態1の半導体デバイスの製造工程を示すフローチャートの一例である。以下、図3のフローチャートと、図4A図4Eの製造工程を示す図に基づいて、実施の形態1の半導体デバイスの製造工程を順に説明する。
【0028】
ステップS1:CMOS回路形成工程
図4Aは、FDSOI基板上にCMOS回路が形成されたCMOSデバイスチップ10を示している。FDSOI基板は、Siからなる支持基板11上に絶縁膜(SiO膜)12を介してSi層13が設けられている。Si層13の厚さは、通常100nm以下である。このSi層13にp型及びn型のMOSトランジスタ14を形成し、CMOS回路を形成する。FDSOI基板に形成されたMOSトランジスタ14は、チャンネル領域が完全に空乏化するため、ソースとドレインの間の寄生容量値が低減し、また、リーク電流が大幅に低減する。その後、MOSトランジスタ14と接続する配線層15及び絶縁膜(層間絶縁膜又は表面絶縁膜)16を形成し、さらに、画素電極17及び入出力パッド18等、必要な電極を形成して、FDSOI基板に撮像素子のための回路を形成する。
【0029】
ステップS2:支持基板除去工程
ステップS1で作製されたCMOSデバイスチップ10の表面に、仮接着基板20を貼り付ける。仮接着基板20は、紫外線照射で粘着力が低下する機能を持つ基板であることが望ましい。仮接着基板20として、市販のバックグラインドテープ又はダイシングテープを用いることができる。その後、FDSOI基板のSi支持基板11を、研削及び/又はエッチングにより除去する。エッチングはXeFガスを用いることができる。或いは、SF又はCF等のガスを用いてもよい。またエッチングは行わずにCMP(Chemical Mechanical Polishing)を用いてSi支持基板11を除去してもよい。絶縁膜(SiO膜)12をストッパーとして、Si支持基板11を選択的に除去することができる。図4Bは、Si支持基板11が除去されたCMOSデバイスチップ10を示している。Si支持基板11を除去することにより、半導体デバイスチップ10の一層の薄膜化・柔軟化が図られる。
【0030】
ステップS3:フレキシブル基板接着工程
フレキシブル基板30を準備し、その表面に接着層(粘着層)70として両面粘着性の粘着フィルム70を設ける。フレキシブル基板30は、例えば、厚さ50μmのPET(polyethylene terephthalate)からなるプラスチック基板である。また、本実施形態で用いた接着層は、総厚50μmで「導電性アクリル系粘着剤/導電メッシュ基材/導電性アクリル系粘着剤」で構成される導電性の粘着フィルム70である。図4Cに示すように、仮接着基板20とともにCMOSデバイスチップ10の裏面(絶縁膜12)を、粘着フィルム70を介してフレキシブル基板30に接着する。
【0031】
ステップS4:仮接着基板剥離工程
図4Dは、仮接着基板20の剥離工程を示す。仮接着基板20に紫外線を照射して粘着力を低下させ、仮接着基板20を剥離する。なお、仮接着基板20としては、紫外線照射で粘着力が低下するもの以外にも、加熱で粘着力が低下するものを用いてもよい。またSi支持基板11の除去の工程中にデバイスを支持できるものであれば、機械的に固定・剥離をする方法を用いてもよい。本実施形態では、導電性を有する粘着フィルム70を用いた転写デバイスが作製される。
【0032】
ステップS5:光電変換膜形成工程
次いで、CMOSデバイスチップ10の表面に光電変換膜50を形成する。本実施形態では、光電変換膜50は、結晶セレン(c-Se)である。結晶セレン(c-Se)は、例えば、CMOSデバイスチップ10上にスパッタリング又はCVD(Chemical Vapor Deposition)等により非晶質セレン(a-Se)を形成し、これを160℃程度の低温で加熱して結晶化を行うことにより作製される。ここで、必要に応じて光電変換膜50の形成領域を限定し、図4Eに示すように、CMOSデバイスチップ10の画素電極17に接続する光電変換膜50を作製する。なお、実際の光電変換膜50は、その表面に電圧印加のための透明導電膜(図示せず)が形成される。また、光電変換膜50は、結晶セレン層に正孔注入阻止層(酸化ガリウム層)及び/又は電子ブロッキング層(酸化ニッケル層)を設けた多層構造としてもよい。
【0033】
ステップS6:入出力配線形成工程
最後に、入出力信号のための配線を形成する。CMOSデバイスチップ10にFPC等の入出力配線60を圧着し、チップ10の入出力パッド18と信号配線61とを接続する。この際、FPCの接地(グランド)配線62を導電性粘着フィルム70の一部に接続する。CMOSデバイスチップ10の端部(エッジ)に沿ってFPC60を配置することにより、入出力パッド18への接続と導電性粘着フィルム70への接地接続を一つのFPC60により実現できる。こうして、図1及び図2に示すように、本実施形態の半導体デバイス(フレキシブルCMOSイメージセンサ)が完成する。本実施形態では、導電性粘着フィルム70を接地電位としたが、接地電位でなくとも、一定の所定電位に保持することによりMOSトランジスタ回路を安定して動作させることができる。
【0034】
FDSOI基板はSi層の厚さが100nm以下であることから、CMOSデバイスチップ(回路部分)10の厚さは、配線層15(及び絶縁層16)の部分が支配的となって10μm以下に薄くすることができる。また、光電変換膜50部分の厚さは100nm~数100nmと薄い。したがって、半導体デバイスは、十分な柔軟性を有する。
【0035】
なお、FDSOI基板に代えて、一般のSOI基板を用いてもよい。FDSOIではないSOI基板を用いた場合、Si層13が3~5μmであり、CMOS回路部分の厚さがおよそ10μm以上にはなるが、それでも一定の柔軟性は得られ、同様にフレキシブルなCMOSイメージセンサを実現することができる。
【0036】
(実施の形態2)
図5は、実施の形態2の半導体デバイスの構造(断面図)の一例である。実施の形態2に係る半導体デバイスは、接着層(接合層)として金属層(例えば、Au層)80を用いた点が、実施の形態1の半導体デバイスと異なっており、他の構造は、図1と同一である。また、実施の形態2の半導体デバイスの平面図も、図2と実質的に同じである。
【0037】
図5において、CMOS回路を形成したFDSOI基板(CMOSデバイスチップ)10が、プラスチック等からなるフレキシブル基板30上に、金属からなる接着層(接合層)80により接合されている。CMOSデバイスチップ10上には結晶セレン(c-Se)などからなる光電変換膜50が積層され、画素電極17と接続されている。また、CMOS回路の電極(入出力パッド)18には、FPC等の入出力配線60が接続されている。
【0038】
本実施形態において、接着層(接合層)は金属層80であり、例えば、Au層である。金属層80としてはCu、W、Cr、Ni、Ti、Mo、Nb、Ta、Alや、その化合物もしくは複合膜などを用いてもよい。又は透明電極ITOを用いてもよい。そして、金属層80は、その一部がFPC60の接地配線62と接続し、接地(グランド)電位に保持される。
【0039】
次に、製造方法について説明する。実施の形態2の半導体デバイスの製造工程のフローチャートは、図3と基本的に同じである。以下、図3のフローチャートと、図6A図6Cの製造工程を示す図に基づいて、実施の形態2の半導体デバイスの製造工程を説明する。
【0040】
ステップS1のCMOS回路形成工程、及びステップS2の支持基板除去工程は、実施の形態2においても全く同じである。実施の形態1と異なるのは、ステップS3の工程からである。
【0041】
ステップS3:フレキシブル基板接着(接合)工程
例えば、プラスチック等からなるフレキシブル基板30を準備する。CMOSデバイスチップ10の裏面とフレキシブル基板30の表面の両方にAuなどの金属層(膜)80をスパッタや蒸着、メッキなどの方法で形成する。次に、図6Aに示すように、両者を接合する。接合は、常温、もしくはプラスチックやCMOS回路の配線電極の耐熱温度以下(例えば、150度以下など)の温度で、圧力を印加して行う。接合の前に、金属表面をCMPで平坦化してもよい。また、基板表面の清浄化や表面改質のために、接合前にプラズマ、イオンビーム、原子ビーム、紫外線などの照射を行ってもよいし、接合力を高めるために、金属の上にSiの超薄層(数nmの層)を堆積してもよい。ここではチップ(基板)どうしの接合を想定しており、フレキシブル基板30側のAu層80はCMOSデバイスチップ10よりも一回り大きくなるようにパターニングするか、もしくはフレキシブル基板30の全面に形成するようにする。
【0042】
ステップS4:仮接着基板剥離工程
図6Bは、仮接着基板20の剥離工程を示す。図6Bの工程は図4Dと同じであり、仮接着基板20に紫外線を照射して粘着力を低下させ、仮接着基板20を剥離する。なお、仮接着基板20としては、加熱で粘着力が低下するものを用いてもよい。本実施形態では、金属層80を用いた転写デバイスが作製される。
【0043】
ステップS5:光電変換膜形成工程
次いで、CMOSデバイスチップ10の表面に光電変換膜50を形成する。本実施形態において、光電変換膜50は結晶セレン(c-Se)であり、実施の形態1と同様の工程により同様の構造の光電変換膜50を作製することができる。ここで、必要に応じて光電変換膜50の形成領域を限定し、図6Cに示すように、CMOSデバイスチップ10の画素電極17に接続する光電変換膜50を作製する。なお、実際の光電変換膜50は、その表面に電圧印加のための透明導電膜(図示せず)が形成される。
【0044】
ステップS6:入出力配線形成工程
入出力信号のための配線を形成する工程は、基本的に実施の形態1と同じである。CMOSデバイスチップ10にFPC等の入出力配線60を圧着し、チップ10の入出力パッド18と信号配線61とを接続する。さらに、チップ10の外側にはみ出して形成されている金属層(例えばAu膜)80の部分に、FPCの接地配線62をコンタクトさせる。そして、金属層80に0V(グランド電位)を印加することで、トランジスタの安定動作を実現する。こうして、図5及び図2に示すように、本実施形態の半導体デバイス(フレキシブルCMOSイメージセンサ)が完成する。
【0045】
(ウェハでの実施形態)
これまでの実施の形態は、半導体デバイスをチップごとに作製したが、ウェハでのプロセスを用いて、半導体デバイスを量産してもよい。図7は、ウェハプロセスによる半導体デバイスの製造工程を説明する図である。
【0046】
図7において、左上はCMOSデバイスチップ10が形成された半導体ウェハ100であり、左下はウェハと同じ形状のフレキシブル基板30である。本実施形態においては、ウェハ状態でフレキシブル基板30の接合工程(ステップS3)及び仮接着基板の剥離工程(ステップS4)までを行う。半導体ウェハ100とフレキシブル基板30の接着は、導電性粘着フィルム70を用いても可能であるが、ウェハプロセスを有効に利用するためには、金属層80を用いた接合工程が望ましい。なお、光電変換膜形成工程(ステップS4)はウェハ状態で行ってもよいし、チップ化した後で行ってもよい。
【0047】
ウェハプロセスの場合は、グランド電位のコンタクト(導電性粘着フィルム70又は金属層80)を露出させるために、チップ10ごとに一部のエリアをパターニングしてエッチングなどで開口する。エッチングは、たとえばSiOをエッチングできるCHFやCFガス、あるいはそれらとOガスなどとの混合ガスを用いることができる。この時、チップエリアの端と接するような開口として、チップ10のダイシング後には、図1図5と同様にチップ端の段差にコンタクト部を設けてFPC60で配線できる構造にするのが望ましい。開口プロセスは、チップ化してから行うこともできるが、工程の短縮のためにはウェハ状態で行うほうが望ましい。開口プロセス後に、ダイシングによってチップ化する。このウェハプロセスでは、一括して複数の転写したデバイスチップを作製できる。
【0048】
(効果の検証)
本発明のグランド電位印加による動作を検証する実験として、実施の形態1で作製した半導体デバイスの特性を調べた。実施の形態1は、導電性のある粘着フィルム70を用いて転写デバイスを作製したものである。
【0049】
図8は、実施の形態1の半導体デバイスのp型MOSトランジスタのI-V特性の一例である。図8に示される特性は、FDSOI基板10の転写前と転写後(ただし光電変換膜形成前)について、それぞれ8個ずつのトランジスタを測定した結果である。ここではプローブを用いて導電性粘着フィルム70にコンタクトして、その電位を0Vとした。転写前及び転写後の8個のMOSトランジスタの特性が全て1本の線に重なるように揃っており、転写後の特性ずれ及びばらつきを解消できていることが分かる。
【0050】
また、実施の形態1で作成した半導体デバイスにおけるCMOSインバータの入出力特性評価においても、回路が問題なく動作することが確認できた。
【0051】
なお、この実験で用いた導電性の樹脂や導電メッシュに比べて、実施の形態2の接着層(接合層)である金属層80はより抵抗が小さいことから、実施の形態2の半導体デバイスのトランジスタの動作はいっそう安定すると考えられる。
【0052】
このように、本発明の半導体デバイスによれば、帯電の影響を防いで、転写したデバイスを安定動作させることができる。実施の形態1の導電性粘着フィルムによる貼り付けを利用した製造方法は、比較的簡易に半導体デバイスを転写できる。また、実施の形態2の製造方法は、金属層の形成やウェハ/チップ接合という、半導体で確立した工程を用いることができるため、デバイスの量産化や低廉化に寄与する。
【0053】
本発明の半導体デバイスはイメージセンサに限らず、ロジック回路、演算回路、メモリ、通信デバイス、MEMSデバイス、表示デバイスなど、半導体基板(SOI基板)に形成される任意の半導体デバイスであってもよく、それらを転写したデバイスの安定動作を可能とする。
【0054】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態に記載の各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロック、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【符号の説明】
【0055】
10 CMOSデバイスチップ
11 Si支持基板
12 絶縁膜
13 Si層
14 MOSトランジスタ
15 配線層
16 絶縁膜
17 画素電極
18 入出力パッド
20 仮接着基板
30 フレキシブル基板
40 粘着フィルム
50 光電変換膜
60 入出力配線
70 導電性粘着フィルム
80 金属層
100 半導体ウェハ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10