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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179451
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】細胞シートを転写する方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/07 20100101AFI20231212BHJP
   C12N 5/0775 20100101ALI20231212BHJP
   A61L 27/16 20060101ALI20231212BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20231212BHJP
   C08F 293/00 20060101ALI20231212BHJP
   B32B 27/00 20060101ALI20231212BHJP
   B82Y 5/00 20110101ALI20231212BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20231212BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
C12N5/07
C12N5/0775
A61L27/16
A61L27/40
C08F293/00
B32B27/00 B
B82Y5/00
B82Y40/00
A61L27/38
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023144902
(22)【出願日】2023-09-07
(62)【分割の表示】P 2019145981の分割
【原出願日】2019-08-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】浅越 綾
(72)【発明者】
【氏名】小林 裕美子
(72)【発明者】
【氏名】今富 伸哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博之
(57)【要約】
【課題】細胞シート形状を保持することができ、且つ簡便に転写する方法を提供する。
【解決手段】フィルム上のポリマーから構成される支持層と、前記支持層に積層されたフィルム上の温度応答性ポリマーから構成されるカバー層と、前記カバー層に積層された細胞シートと、を含んでなる積層体の細胞シート面を対象に貼り付ける工程と、積層体が、温度応答性ポリマーの水に対する下限臨界溶解温度(LCST)以下の温度に冷却される工程と、支持層及びカバー層をめくることにより、細胞シートから剥がす工程を含む、細胞シートを対象に転写する方法を開示する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細胞シートを対象に転写する方法であって、
フィルム上のポリマーから構成される支持層と、前記支持層に積層されたフィルム上の温度応答性ポリマーから構成されるカバー層と、前記カバー層に積層された細胞シートと、を含んでなる積層体の細胞シート面を対象に貼り付ける工程と、
積層体が、温度応答性ポリマーの水に対する下限臨界溶解温度(LCST)以下の温度に冷却される工程と、
支持層及びカバー層をめくることにより、細胞シートから剥がす工程を含み、
対象が生体(但し、ヒトを除く)、培養した細胞組織または実験用ゲルである、方法。
【請求項2】
温度応答性ポリマーが、水に対する下限臨界溶解温度(LCST)が0~50℃の範囲を示すセグメントを含むポリマーであることを特徴とする請求項1に記載の方法
【請求項3】
支持層の膜厚が1~400μmであることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法
【請求項4】
カバー層の膜厚が1~1000nmであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の方法
【請求項5】
温度応答性ポリマーがN-イソプロピルアクリルアミドの繰返し単位を含むことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
温度応答性ポリマーが2-メトキシエチルアクリレート、n-ブチルアクリレート、N-イソプロピルアクリルアミドの繰返し単位から構成されるブロック共重合体であることを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
細胞シートが上皮細胞又は間葉系幹細胞からなることを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の方法
【請求項8】
細胞シートの面積がカバー層の面積の50%以上であることを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載の方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞シートを対象に転写する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、インビトロで培養した細胞を患者に移植することで、患者の失われた細胞、組織、器官を再生し機能を回復させる再生医療に大きな注目が寄せられている。その中でも細胞シートを用いた医療法は、単純に細胞を移植するよりも効果が高いと言われており、細胞シートを簡便に得る技術が要求されている。
【0003】
細胞シートを得る方法として、例えば特許文献1では、下限臨界溶解温度を有するポリ-N-イソプロピルアクリルアミドを被覆したディッシュから心筋細胞シートを得る方法が開示されてある。コンフルエントになるまで心筋細胞を培養後、ポリ-N-イソプロピルアクリルアミドの下限臨界温度よりも低温で冷却することで心筋細胞シートを単離でき、単離した細胞シートを患部に移植することで治療できる。一方、細胞シートはディッシュなどの支持体がある場合はシート形状に存在するが、単離した後は収縮し、移植に不適な細胞塊を形成する課題がある。従って、移植を行うまではシート形状を保持できる材料および方法が求められた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003-513132号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、細胞シート形状を保持することができ、かつ簡便に転写する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、以上の点を鑑み、鋭意研究を重ねた結果、本発明を完成した。
【0007】
すなわち本発明の一態様は、細胞シートを対象に転写する方法であって、
フィルム上のポリマーから構成される支持層と、前記支持層に積層されたフィルム上の温度応答性ポリマーから構成されるカバー層と、前記カバー層に積層された細胞シートと、を含んでなる積層体の細胞シート面を対象に貼り付ける工程と、
積層体が、温度応答性ポリマーの水に対する下限臨界溶解温度(LCST)以下の温度に冷却される工程と、
支持層及びカバー層をめくることにより、細胞シートから剥がす工程を含み、
対象が生体(但し、ヒトを除く)、培養した細胞組織または実験用ゲルである、方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、対象に細胞シートを簡便に転写することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一態様について詳細に説明するが、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。本発明は、その趣旨の範囲内で適宜に変形して実施できる。
【0010】
本発明の積層体は、フィルム状のポリマーから構成される支持層と、前記支持層に積層されたフィルム状の温度応答性ポリマーから構成されるカバー層と、前記カバー層に積層された細胞シートと、を含んでなる。
【0011】
支持層となるフィルムの材質に特に限定はなく、合成高分子化合物であっても天然高分子化合物であっても良いが、フィルム形状に成形が容易なことから合成高分子化合物であることが好ましく、具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリオレフィン、およびこれらを含む共重合体などが挙げられる。
【0012】
支持層の膜厚は特に限定はなく、取り扱い易さの観点から、1~400μmが好ましく、10~100μmがより好ましい。
【0013】
カバー層となるフィルムの材質は、水に対する下限臨界溶解温度(Lower Critical Solution Temperature:LCST)を示すセグメント(以下、LCSTセグメントということがある)を含む温度応答性ポリマーであれば特に制限はないが、0~50℃の範囲でLCSTを示すセグメントを含むポリマーであることが好ましい。なお、LCSTとは、この温度よりも低い温度では高分子が水に溶解して透明の溶液になるが、この温度よりも高い温度では不溶化して白濁するか沈殿が生じ、相分離する温度である。
【0014】
LCSTセグメントの繰返し単位とLCSTは、例えば、N-シクロプロピルアクリルアミド(LCST=46℃)、N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=22℃)、N-テトラヒドロフルフリルアクリルアミド(LCST=28℃)、N-エトキシエチルアクリルアミド(LCST=35℃)、N,N-ジエチルアクリルアミド(LCST=32℃)、N-イソプロピルメタクリルアミド(LCST=44℃)、N-n-プロピルメタクリルアミド(LCST=28℃)、N-テトラヒドロフルフリルメタクリルアミド(LCST=35℃)、N-メチル-N-イソプロピルアクリルアミド(LCST=23℃)、N-メチル-N-n-プロピルアクリルアミド(LCST=20℃)、またはN,N-ジメチルアミノエチルメタクリレート(LCST=47℃)等が例示できる。これらの内、重合が容易なことから、N-イソプロピルアクリルアミドの繰返し単位を用いることが好ましい。なお、LCSTセグメントは、1種類の繰返し単位から構成されていても良く、2種類以上の繰返し単位から構成されていても良い。
【0015】
また、温度応答性ポリマーはLCSTセグメントのみのホモポリマーであっても良く、LCSTセグメント以外のセグメントを含んだランダム共重合体やブロック共重合体であっても良い。ブロック共重合体である場合は、疎水性を有するセグメント、親水性を有するセグメントを含んだ特開2018-087316号公報に開示されているようなブロック共重合体であることが好ましく、具体的には2-メトキシエチルアクリレート(親水性セグメント)、n-ブチルアクリレート(疎水性セグメント)、N-イソプロピルアクリルアミド(LCSTセグメント)の繰返し単位から構成されるブロック共重合体が特に好ましい。
【0016】
カバー層の膜厚は特に限定はないが、カバー層の膜厚が薄すぎると冷却しても細胞シートが剥離しにくくなるおそれがあり、カバー層の膜厚が厚すぎると細胞シートが接着されにくくなるおそれがあるため、1~1000nmが好ましく、5~50nmがより好ましい。
【0017】
細胞シートは、細胞間結合で細胞同士が連結されたシート状の細胞集合体であり、単層構造であっても良く、積層構造であっても良い。使用できる細胞は特に限定はなく、動物細胞であっても植物細胞であっても構わないが、動物細胞由来の接着細胞であることが好ましい。さらに好ましくは上皮細胞や間葉系幹細胞である。上皮細胞の一例として、分泌上皮、吸収上皮、導管上皮、被覆上皮など機能的に分類される上皮由来の細胞でも良いし、研究用としてガン化した細胞であっても良い。上皮細胞のガン化した細胞として、一例としてA549(ヒト肺胞基底上皮腺癌細胞)やHCT116(ヒト結腸腺癌細胞)を用いることができる。また間葉系細胞の由来に特に限定はなく、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪由来間葉系幹細胞、歯髄由来間葉系幹細胞などを用いることができる。また間葉系幹細胞は自家細胞でも良く、他家細胞であっても良い。
【0018】
本発明の積層体は、上述したフィルムと細胞シート以外に、他の構成成分を含んでいても良い。一例として積層体の表面に、フィブロネクチンやコラーゲンなどの細胞外マトリックス成分を含んでも良く、アクリノールや塩化ベンザルコニウムなどの殺菌消毒薬を含んでも良く、培地成分や抗生物質を含んでいても良い。
【0019】
本発明の積層体は、以下の製造方法で製造することが可能であり、詳しくは
フィルム状のポリマーに、フィルム状の温度応答性ポリマーを積層する工程(以下、積層工程ということがある)と、
平滑な底面を持つ容器の底面に、積層された前記フィルム状の温度応答性ポリマーが上にくるように固定冶具で固定する工程(以下、固定工程ということがある)と、
固定された前記フィルム状の温度応答性ポリマー上で細胞を培養する工程(以下、培養工程ということがある)と、
を含んでなる。ただし、本発明の積層体の製造方法は上述の方法に限定されるものではない。
【0020】
積層工程は、電子線重合などで支持層表面とカバー層を共有結合で繋ぐ方法や、支持層表面とカバー層とを疎水相互作用により接着する方法が挙げられる。後者の場合はカバー層に疎水部を含んでも良いし、支持層とカバー層の間にエポキシ接着剤などから構成される接着層を含んでも良い。カバー層に疎水部を含む場合、温度応答性ポリマーが疎水相互作用の高い繰返し単位を含んでいることが好ましい。
【0021】
支持層表面にカバー層を疎水相互作用で接着する場合、一例として、任意の温度応答性ポリマー溶液を用い、はけ塗り、ディップコーティング、スピンコーティング、バーコーティング、流し塗り、スプレー塗装、ロール塗装、エアーナイフコーティング、ブレードコーティングなど通常知られている各種の方法を用いることができる。なお、支持層表面にカバー層が積層されていれば問題はないため、支持層をカバー層が被覆している態様であっても問題はない。支持層にカバー層を被覆する場合は、先述の方法に加え、支持層をポリマー溶液に浸漬して被覆することができる。ポリマー溶液に用いる溶媒は支持体を侵食しなければ特に限定はなく、支持層としてポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステルを使用する場合は、一例として2-メトキシエタノールを用いることができる。ポリマー溶液の濃度は特に限定はなく、一例として0.01~20.00wt%の値である。
【0022】
固定工程は、平滑な底面を持つ容器の底面に、積層工程で得られた支持層とカバー層の積層物を、カバー層が上にくるように(支持層が容器の底面と接するように)固定治具で固定すればよい。なお、支持層をカバー層が被覆している積層物であれば、容器の底面と接する面を気にする必要はなく簡便である。容器としては細胞培養ディッシュを用いることができ、固定治具としては、培地よりも比重が高く、細胞毒性の無い材質であり、後述する細胞培養の妨げにならない形状が好ましく、一例としてリング状のPLA樹脂が挙げられる。
【0023】
培養工程は、固定工程で固定された積層物上で細胞を培養する。細胞を培養する方法は、一般に用いられている方法で問題ないが、温度応答性ポリマー上で細胞を培養するため、LCSTを示すセグメントのLCST以上の温度で行う必要がある。細胞シートの面積は、カバー層の面積の50%以上であることが好ましいため、50%以上になる数の細胞を播種しても良いし、播種細胞数が少ない場合であっても、細胞を十分に増加させれば問題はない。細胞の培養に用いる培地は特に限定はなく、D-MEMなどの基礎培地に牛胎児血清を加えた培地、さらに抗生物資を加えた培地、無血清培地、などを例示できる。また、間葉系幹細胞など分化能を有する細胞の場合、分化処理を施し、有用な細胞としても良い。一例として、骨髄由来間葉系幹細胞を播種し培養した後、軟骨細胞分化培地を用いて分化処理を行い、軟骨細胞に分化しても良い。
【0024】
本発明の積層体は、積層体の細胞シート面を対象に貼り付け、冷却することで、細胞シートを対象に転写することができる。貼り付ける対象は特に限定はなく、生体や培養した細胞組織であっても良いし、実験的にはゲルを代用しても良い。ゲルで代用する場合は、一例として(株)セルシードの細胞シート練習キットを用いることができる。冷却は積層体のLCSTを示すセグメントのLCST以下の温度にするのであれば特に限定はなく、積層体を冷却しても良いし、貼り付ける対象を冷却しても良い。
【実施例0025】
以下に本発明の実施例を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら制限されるものではない。なお、断りのない限り、試薬は市販品を用いた。
【0026】
<ブロック共重合体の組成解析>
核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名JNM-ECZ400S/L1)を用いたプロトン核磁気共鳴分光(1H-NMR)スペクトル分析より求めた。
【0027】
<ブロック共重合体の分子量、分子量分布の解析>
重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)及び分子量分布(Mw/Mn)は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置は東ソー(株)製 HLC-8320GPCを用い、カラムは東ソー(株)製 TSKgel SuperAWM-Hを2本用い、カラム温度を40℃に設定し、溶離液は10mMトリフルオロ酢酸ナトリウムを含む2,2,2-トリフルオロエタノールを用いて測定した。測定試料は1.0mg/mLで調製して測定した。分子量の検量線は、分子量既知のポリメタクリル酸メチル(Sigma-Aldrich社製)を用いた。
【0028】
<膜厚の解析>
膜の厚みは、顕微分光膜厚計(大塚電子(株)製、商品名OPTM-F1)を用いて測定した。
【0029】
<播種した細胞数の計測>
播種する細胞の数は血球計算盤を用いて計測した。血球計算盤の四隅の1mm区画内の全細胞を数え、全細胞数を(区画中の全生細胞の平均値)×希釈倍率×培地量(mL)×10000で算出した。
【0030】
<ブロック共重合体MBIの合成>
100mL2口フラスコに2-メトキシエチルアクリレート(MEA)0.650g(5mmol)を加え、さらにシアノメチルドデシルカルボナトを31.8mg(100μmol)とアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)と1,4-ジオキサン10mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で24時間加熱撹拌した。
【0031】
1回目の加熱撹拌後、上記にn-ブチルアクリレート(BA)3.845g(30mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)と1,4-ジオキサン5mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で48時間加熱撹拌した。
【0032】
2回目の加熱撹拌後、上記にN-イソプロピルアクリルアミド(IPAAm,LCST=32℃)7.355g(65mmol)を加え、さらにアゾビスイソブチロニトリル1.6mg(10μmol)と1,4-ジオキサン35mLを加え、アルゴンガス置換後、62℃で48時間加熱撹拌した。
【0033】
3回目の加熱撹拌後、反応液を水で再沈精製し、減圧乾燥することで黄色固体を得た。得られた黄色固体をクロロホルムに溶解し、分液ロートを用いクロロホルム相を回収した。回収したクロロホルム相をエバポレーターで濃縮し、ヘキサンで再沈精製した。沈殿物をろ過で回収し、減圧乾燥することで、ブロック共重合体MBIを5.805g得た。得られたブロック共重合体MBIの組成比はMEA/BA/IPAAm=5/26/69(mol%)であり、数平均分子量Mnは8.5万、分子量分布Mw/Mnは1.78であった。
【0034】
<固定治具の調製>
3Dプリンター(FLASHFOEGE社製)を用いて、内径47.7mm、外径50.00mm、高さ3.00mmからなるリング上部に2カ所の取っ手を設けたPLA樹脂の固定治具を作製した。
【0035】
実施例1
厚さ0.04mmのポリエチレンシートからレーザーカッターを用いて直径51mmのポリエチレン製円形シートを成形した。ポリエチレン製円形シートを0.02wt%のブロック共重合体MBI/2-メトキシエタノール溶液に浸漬した。風乾し、ブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPE2を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は5.9nmであった。
【0036】
フィルムPE2をIWAKI組織培養用ディッシュ(直径60mm)の底面に設置し、固定治具でフィルムPE2をディッシュ底面に固定した。A549細胞を5×10個含む細胞懸濁液4mL(培地としてD-MEM基礎培地にウシ胎児血清10%と抗生物質を加えたものを使用)を播種し、37℃、5%CO条件で6日間培養した。フィルムPE2上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PE2A549を得た。
【0037】
積層体PE2A549をディッシュから取り出し、積層体の細胞面を、表面温度が24℃であるトレイに充填したゲル(細胞シート練習キット_練習用ゲル((株)セルシード))の表面に貼り付け、2分間静置した。フィルムPE2をめくると、しわが寄った細胞シートがフィルムPE2からゲル表面に転写されていた。転写後の細胞シートにPBSを滴下したところ、細胞シートのしわが伸び、ゲル表面に直径46mmの細胞シート(カバー層の面積の90%)を形成できた。
【0038】
実施例2
0.05wt%のブロック共重合体MBI/2-メトキシエタノール溶液を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPE5を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は14.3nmであった。
【0039】
フィルムPE5を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPE5上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PE5A549を得た。
【0040】
積層体PE5A549を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写し、ゲル表面に直径46mmの細胞シート(カバー層の面積の91%)を形成できた。
【0041】
比較例1
厚さ0.04mmのポリエチレンシートからレーザーカッターを用いて直径51mmのポリエチレン製円形シートを成形し、これをPE0とした。
【0042】
フィルムPE0を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPE0上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PE0A549を得た。
【0043】
積層体PE0A549を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写を試みたが転写できず、ゲル表面に細胞シートを形成できなかった。
【0044】
実施例3
厚さ0.08mmのポリプロピレンフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPP2を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は6.3nmであった。
【0045】
フィルムPP2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPP2上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PP2A549を得た。
【0046】
PP2A549を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写し、ゲル表面に直径45mmの細胞シート(カバー層の面積の88%)を形成できた。
【0047】
実施例4
0.05wt%のブロック共重合体MBI/2-メトキシエタノール溶液を用いたこと以外は実施例3と同様の方法でブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPP5を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は14.8nmであった。
【0048】
フィルムPP5を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPP5上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PP5A549を得た。
【0049】
積層体PP5A549を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写し、ゲル表面に直径45mmの細胞シート(カバー層の面積の88%)を形成できた。
【0050】
比較例2
厚さ0.08mmのポリプロピレンシートからレーザーカッターを用いて直径51mmのポリプロピレン製円形シートを成形し、これをPP0とした。
【0051】
フィルムPP0を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPP0上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PP0A549を得た。
【0052】
積層体PP0A549を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写を試みたが転写できず、ゲル表面に細胞シートを形成できなかった。
【0053】
実施例5
厚さ0.01mmのポリエステルフィルムを用いたこと以外は実施例1と同様の方法でブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPET2を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は5.9nmであった。
【0054】
フィルムPET2を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPET2上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PET2A549を得た。
【0055】
PET2A549を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写し、ゲル表面に直径46mmの細胞シート(カバー層の面積の90%)を形成できた。
【0056】
実施例6
0.05wt%のブロック共重合体MBI/2-メトキシエタノール溶液を用いたこと以外は実施例5と同様の方法でブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPET5を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は15.0nmであった。
【0057】
フィルムPET5を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPET5上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PET5A549を得た。
【0058】
積層体PET5A549を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写し、ゲル表面に直径45mmの細胞シート(カバー層の面積の88%)を形成できた。
【0059】
比較例3
厚さ0.01mmのポリエステルシートからレーザーカッターを用いて直径51mmのポリエステル製円形シートを成形し、これをPET0とした。
【0060】
フィルムPET0を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPET0上にA549細胞がコンフルエントな状態にある積層体PET0A549を得た。
【0061】
積層体PET0A549を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写を試みたが転写できず、ゲル表面に細胞シートを形成できなかった。
【0062】
実施例7
実施例1と同様の方法でブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPE2を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は6,1nmであった。
【0063】
細胞にHCT116を用いたこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPE2上にHCT116細胞がコンフルエントな状態にある積層体PE2HCT116を得た。
【0064】
積層体PE2HCT116を用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写し、ゲル表面に直径46mmの細胞シート(カバー層の面積の88%)を形成できた。
【0065】
比較例4
厚さ0.04mmのポリエチレンシートからレーザーカッターを用いて直径51mmのポリエチレン製円形シートを成形し、これをPE0とした。
【0066】
フィルムPE0を用いたこと以外は実施例7と同様の方法でフィルムPE0上にHCT116細胞がコンフルエントな状態にある積層体PE0HCT116を得た。
【0067】
積層体PE0HCT116を用いたこと以外は実施例7と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写を試みたが転写できず、ゲル表面に細胞シートを形成できなかった。
【0068】
実施例8
実施例1と同様の方法でブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPE2を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は6,1nmであった。
【0069】
細胞に骨髄由来間葉系幹細胞(bMSC)を用い、10日間培養したこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPE2上にbMSC細胞がコンフルエントな状態にある積層体PE2bMSCを得た。
【0070】
積層体PE2bMSCを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写し、ゲル表面に直径46mmの細胞シート(カバー層の面積の91%)を形成できた。
【0071】
実施例9
実施例1と同様の方法でブロック共重合体MBIを被覆したフィルムPE2を調製した。カバー層であるブロック共重合体MBIの膜厚は6,1nmであった。
【0072】
細胞に脂肪由来間葉系幹細胞(ACS)を用い、8日間培養したこと以外は実施例1と同様の方法でフィルムPE2上にACS細胞がコンフルエントな状態にある積層体PE2ACSを得た。
【0073】
積層体PE2ACSを用いたこと以外は実施例1と同様の方法で細胞シートをゲル表面に転写し、ゲル表面に直径46mmの細胞シート(カバー層の面積の90%)を形成できた。
【0074】
【表1】