(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179506
(43)【公開日】2023-12-19
(54)【発明の名称】通気路用消音器
(51)【国際特許分類】
G10K 11/16 20060101AFI20231212BHJP
G10K 11/172 20060101ALI20231212BHJP
F24F 13/02 20060101ALI20231212BHJP
F16L 55/033 20060101ALI20231212BHJP
【FI】
G10K11/16 100
G10K11/172
F24F13/02 H
F16L55/033
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151501
(22)【出願日】2023-09-19
(62)【分割の表示】P 2022575784の分割
【原出願日】2022-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2021139628
(32)【優先日】2021-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2022118691
(32)【優先日】2022-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】白田 真也
(72)【発明者】
【氏名】山添 昇吾
(72)【発明者】
【氏名】菅原 美博
(72)【発明者】
【氏名】板井 雄一郎
(57)【要約】 (修正有)
【課題】コンパクトな構造としつつ、広帯域の音を効果的に消音する通気路用消音器を提供する。
【解決手段】筐体12を備え、通気路中の音を消音する通気路用消音器10であって、筐体の内部空間が通気路の一部を構成し、筐体において通気路の一部の一端側に位置する入口開口16Aと、筐体において通気路の一部の他端側に位置する出口開口18Aと、筐体の内部に収容された吸音部材30と、筐体に設けられ、通気路を通過する音を低減するための振動部(壁14の一部分)とを備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体を備え、通気路中の音を消音する通気路用消音器であって、
前記筐体の内部空間が前記通気路の一部を構成し、
前記筐体に形成され、前記通気路の一部の一端側に位置する入口開口と、
前記筐体に形成され、前記通気路の一部の他端側に位置する出口開口と、
前記筐体に設けられ、前記通気路を通過する音を低減するための振動部と、
を備え、
前記筐体の内部空間において、前記通気路の一部を構成する流路部は、前記入口開口から前記出口開口まで延び、
前記流路部は、前記筐体以外の部材には囲まれていない部分を含む、通気路用消音器。
【請求項2】
前記筐体の外壁面の少なくとも一部が平面をなしており、
前記筐体のうち、前記外壁面が平面である部分が、前記振動部を構成している、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項3】
前記入口開口は、前記筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、
前記出口開口は、前記筐体の内壁面のうち、前記第一方向における他端面に形成され、
前記入口開口と前記出口開口との距離をLとし、音速をcとしたときに、前記振動部の第一固有振動数が、c/(2×L)未満である、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項4】
前記第一固有振動数が、c/(4×L)未満である、請求項3に記載の通気路用消音器。
【請求項5】
前記筐体は、前記筐体の内部空間を囲う壁を有し、
前記壁には前記振動部が含まれ、前記壁の各部が同一の材質によって構成されている、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項6】
前記壁において、前記振動部と前記振動部の周辺部分とが一体化しており、且つシームレスに連続している、請求項5に記載の通気路用消音器。
【請求項7】
前記入口開口は、前記筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、
前記出口開口は、前記筐体の内壁面のうち、前記第一方向における他端面に形成され、
前記筐体の断面のうち、前記第一方向を法線方向とする断面の輪郭線において、前記輪郭線中の最短の辺の長さに対する、前記輪郭線中の最長の辺の長さの比率が1.2以上である、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項8】
前記入口開口は、前記筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、
前記出口開口は、前記筐体の内壁面のうち、前記第一方向における他端面に形成され、
前記第一方向と交差する第二方向と、前記第一方向及び前記第二方向の双方と交差する第三方向とにおいて、前記入口開口が存在する範囲が、前記出口開口が存在する範囲と重なる、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項9】
前記入口開口は、前記筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、
前記出口開口は、前記筐体の内壁面のうち、前記第一方向における他端面に形成され、
前記第一方向と交差する第二方向における前記筐体の長さは、前記第一方向及び前記第二方向の双方と交差する第三方向における前記筐体の長さより長く、
前記入口開口及び前記出口開口の各々は、前記第二方向において、前記筐体の中央よりも前記筐体の端に近い位置に設けられている、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項10】
前記入口開口は、前記筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、
前記出口開口は、前記筐体の内壁面のうち、前記第一方向における他端面に形成され、
前記筐体の内部空間において、前記入口開口及び前記出口開口のうち、少なくとも一方の開口には、接続部材が接続されており、
前記接続部材の内側には、前記少なくとも一方の開口と繋がった接続部材側開口部が設けられており、
前記第一方向において前記少なくとも一方の開口から遠ざかるほど、前記接続部材側開口部のサイズが大きくなる、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項11】
前記筐体の内部空間において、前記入口開口及び前記出口開口のそれぞれに、前記接続部材が接続されている、請求項10に記載の通気路用消音器。
【請求項12】
前記振動部に錘が取り付けられている、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項13】
前記筐体の内部に収容された吸音部材をさらに有し、
前記入口開口は、前記筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、
前記出口開口は、前記筐体の内壁面のうち、前記第一方向における他端面に形成され、
前記吸音部材は、前記第一方向と交差する第二方向と、前記第一方向及び前記第二方向の双方と交差する第三方向とにおいて、前記入口開口が存在する範囲、及び、前記出口開口が存在する範囲を避けて配置されている、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項14】
前記筐体の内部空間中、前記筐体中の流路部を除いた空間の体積に対して、前記吸音部材が占める領域の割合は、80%以上である、請求項13に記載の通気路用消音器。
【請求項15】
前記筐体に形成された開口は、前記入口開口及び前記出口開口のみである、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項16】
前記振動部が前記第一固有振動数にて振動することにより、2400Hz以下の音を消音することが可能である、請求項3又は4に記載の通気路用消音器。
【請求項17】
前記振動部が前記第一固有振動数にて振動することにより、1700Hz以下の音を消音することが可能である、請求項3又は4に記載の通気路用消音器。
【請求項18】
前記筐体に、複数の前記振動部が設けられている、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項19】
前記筐体の内部空間の一部が、共鳴によって吸音する共鳴空間を構成している、請求項1に記載の通気路用消音器。
【請求項20】
筐体を備え、通気路中の音を消音する通気路用消音器であって、
前記筐体の内部空間が前記通気路の一部を構成し、
前記筐体に形成され、前記通気路の一部の一端側に位置する入口開口と、
前記筐体に形成され、前記通気路の一部の他端側に位置する出口開口と、
前記筐体に設けられ、前記通気路を通過する音を低減するための振動部と、
を備え、
前記入口開口は、前記筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、
前記出口開口は、前記筐体の内壁面のうち、前記第一方向における他端面に形成され、
前記筐体の内部空間において、前記入口開口及び前記出口開口のうち、少なくとも一方の開口には、接続部材が接続されており、
前記接続部材の内側には、前記少なくとも一方の開口と繋がった接続部材側開口部が設けられており、
前記第一方向において前記少なくとも一方の開口から遠ざかるほど、前記接続部材側開口部のサイズが大きくなる、通気路用消音器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気路中の音を消音する通気路用消音器に関する。
【背景技術】
【0002】
通気路の中には、通気路を通過する音(騒音)を消音する消音器を備えるものがある。このような消音器付き通気路の一例としては、例えば、特許文献1に記載のダクトが挙げられる。
【0003】
特許文献1に記載のダクトは、ダクトの側面に設けられた開口部を持つ共鳴器と、共鳴器を覆う防音カバーとを有する。そして、ダクトの一部、共鳴器、及び防音カバーによって消音構造が構成され、この消音構造によって、ダクト内を伝播する騒音が消音される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示すダクトのように、消音器を通気路の外側に配置する構成では、消音器の設置スペースを確保する必要があるため、通気路のうち、消音器が設けられた部分の構造が大型化する。しかし、設置スペースの制約等を考慮すると、通気路に設けられる消音器は、よりコンパクトな構造であることが求められる。
【0006】
一方、小型の消音器では、低周波帯域の音に対する消音性能が低下する傾向にある。そのため、通気路用消音器については、コンパクトな構造としながらも低周波帯域の音に対する消音性能を確保することが重要となる。さらに、通気路用消音器は、低周波帯域の音とともに、高周波帯域の音を効果的に消音できるものであることが好ましい。
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、上記従来技術の問題点を解決し、具体的には、コンパクトな構造としつつ、広帯域の音を効果的に消音できる通気路用消音器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、以下の構成を有する。
[1] 筐体を備え、通気路中の音を消音する通気路用消音器であって、筐体の内部空間が通気路の一部を構成し、筐体に形成され、通気路の一部の一端側に位置する入口開口と、筐体に形成され、通気路の一部の他端側に位置する出口開口と、筐体に設けられ、通気路を通過する音を低減するための振動部と、を備える通気路用消音器。
[2] 筐体の外壁面の少なくとも一部が平面をなしており、筐体のうち、外壁面が平面である部分が、振動部を構成している、[1]に記載の通気路用消音器。
[3] 入口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、出口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における他端面に形成され、入口開口と出口開口との距離をLとし、音速をcとしたときに、振動部の第一固有振動数が、c/(2×L)未満である、[1]又は[2]に記載の通気路用消音器。
[4] 第一固有振動数が、c/(4×L)未満である、[3]に記載の通気路用消音器。
[5] 筐体は、筐体の内部空間を囲う壁を有し、壁には振動部が含まれ、壁の各部が同一の材質によって構成されている、[1]~[4]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[6] 壁において、振動部と振動部の周辺部分とが連続している、[5]に記載の通気路用消音器。
[7] 入口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、出口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における他端面に形成され、筐体の断面のうち、第一方向を法線方向とする断面の輪郭線において、輪郭線中の最短の辺の長さに対する、輪郭線中の最長の辺の長さの比率が1.2以上である、[1]~[6]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[8] 入口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、出口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における他端面に形成され、第一方向と交差する第二方向と、第一方向及び第二方向の双方と交差する第三方向とにおいて、入口開口が存在する範囲が、出口開口が存在する範囲と重なる、[1]~[7]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[9] 入口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、出口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における他端面に形成され、第一方向と交差する第二方向における筐体の長さは、第一方向及び第二方向の双方と交差する第三方向における筐体の長さより長く、入口開口及び出口開口の各々は、第二方向において、筐体の中央よりも筐体の端に近い位置に設けられている、[1]~[8]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[10] 入口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、出口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における他端面に形成され、筐体の内部空間において、入口開口及び出口開口のうち、少なくとも一方の開口には、接続部材が接続されており、接続部材の内側には、少なくとも一方の開口と繋がった接続部材側開口部が設けられており、第一方向において少なくとも一方の開口から遠ざかるほど、接続部材側開口部のサイズが大きくなる、[1]~[9]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[11] 筐体の内部空間において、入口開口及び出口開口のそれぞれに、接続部材が接続されている、[10]に記載の通気路用消音器。
[12] 振動部に錘が取り付けられている、[1]~[11]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[13] 筐体の内部に収容された吸音部材をさらに備え、入口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における一端面に形成され、出口開口は、筐体の内壁面のうち、第一方向における他端面に形成され、吸音部材は、第一方向と交差する第二方向と、第一方向及び第二方向の双方と交差する第三方向とにおいて、入口開口が存在する範囲、及び、出口開口が存在する範囲を避けて配置されている、[1]~[12]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[14] 筐体の内部空間中、筐体中の流路部を除いた空間の体積に対して、吸音部材が占める領域の割合は、80%以上である、[13]に記載の通気路用消音器。
[15] 筐体に形成された開口は、入口開口及び出口開口のみである、[1]~[14]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[16] 振動部が第一固有振動数にて振動することにより、2400Hz以下の音を消音することが可能である、[3]又は[4]に記載の通気路用消音器。
[17] 振動部が第一固有振動数にて振動することにより、1700Hz以下の音を消音することが可能である、[3]又は[4]に記載の通気路用消音器。
[18] 筐体に、複数の振動部が設けられている、[1]~[17]のいずれかに記載の通気路用消音器。
[19] 筐体の内部空間の一部が、共鳴によって吸音する共鳴空間を構成している、[1]~[18]のいずれかに記載の通気路用消音器。
【発明の効果】
【0009】
本発明の通気路用消音器は、通気路の一部をなす筐体の振動により、低周波帯域の音を消音する。また、筐体内部に配置された吸音部材により、高周波帯域の音を消音することができる。この結果、比較的コンパクトな構造により、低周波帯域から高周波帯域に亘って消音することが可能な通気路用消音器が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係る通気路用消音器の構成を示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る通気路用消音器を示す上面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る通気路用消音器を示す側面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る通気路用消音器の下流側端面を示す図である。
【
図5】本発明の第一の変形例に係る通気路用消音器の側面図である。
【
図6A】接続部材の第一の変形例を示す側面図である。
【
図6B】接続部材の第二の変形例を示す側面図である。
【
図7】λ/4共鳴が発生した際の筐体内における音エネルギーの分布及び音の流れを示す図である。
【
図8】通気路用消音器の消音特性を示すグラフである。
【
図9】接続部材の背面空間での共鳴が発生した場合の筐体内における音圧分布を示す図である。
【
図10】実施例1及び比較例1のそれぞれについて測定した消音特性を示すグラフである。
【
図11】実施例2及び比較例2のそれぞれについて測定した消音特性を示すグラフである。
【
図12】実施例2、3のそれぞれについて測定した消音特性を示すグラフである。
【
図13】実施例4及び比較例3のそれぞれについて測定した消音特性を示すグラフである。
【
図14】実施例2、5のそれぞれについて測定した消音特性を示すグラフである。
【
図15】実施例6及び7について測定した消音特性を示すグラフである。
【
図16】実施例8及び9に係る消音器の外観を示す図である。
【
図17】実施例8及び9について測定した消音特性を示すグラフである。
【
図18】吸音部材の占有率と風切り音の音圧との関係を示す図である。
【
図19A】本発明の第二の変形例に係る通気路用消音器の側面図である。
【
図19B】本発明の第二の変形例に係る通気路用消音器の断面図であり、
図1と対応する図である。
【
図20A】本発明の第三の変形例に係る通気路用消音器の側面図である。
【
図20B】本発明の第三の変形例に係る通気路用消音器の断面図であり、
図1と対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の通気路用消音器について、添付の図面に示す好適な実施形態を参照しながら、以下に詳細に説明する。ただし、以下の実施形態は、本発明の理解を容易にするために挙げた一例にすぎず、本発明を限定するものではない。すなわち、本発明は、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、以下の実施形態から変更又は改良され得る。また、本発明を実施するために用いられる各部材の材質及び形状等は、本発明の用途及び本発明の実施時点での技術水準等に応じて任意に設定できる。また、本発明には、その等価物が含まれる。
【0012】
また、本明細書において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
また、本明細書において、「直交」、「垂直」及び「平行」は、本発明が属する技術分野において許容される誤差の範囲を含むものとする。例えば、本明細書の「直交」、「垂直」及び「平行」は、厳密な直交、垂直又は平行に対して±10°未満の範囲内であること等を意味する。なお、厳密な直交又は平行からの誤差は、5°以下であることが好ましく、3°以下であることがより好ましい。
また、本明細書において、「同じ、「同一」及び「等しい」という意味には、本発明が属する技術分野で一般的に許容される誤差の範囲が含まれ得る。
また、本明細書において、「全部」、「いずれも」及び「すべて」という意味には、100%である場合のほか、本発明が属する技術分野で一般的に許容される誤差の範囲が含まれ、例えば99%以上、95%以上、または90%以上である場合が含まれ得る。
【0013】
また、本発明での「消音」は、遮音及び吸音の両方の意味を含む概念である。遮音は、音を遮蔽すること、換言すれば、音を透過させないことを意味する。吸音は、反射音を少なくすることを意味し、分かり易くは音(音響)を吸収することを意味する。
【0014】
また、以下では、互いに直交する3つの方向を「XYZ方向」と呼ぶこととする。X方向は、本発明の第一方向に相当し、Z方向は、本発明の第二方向に相当し、Y方向は、本発明の第三方向に相当する。
また、以下では、通気路において排気口により近い側を「下流側」と呼び、その反対側、すなわち給気口に近い側を「上流側」と呼ぶこととする。
【0015】
[本発明の通気路用消音器の構成例について]
本発明の一実施形態(以下、本実施形態という)に係る通気路用消音器10の構成について、
図1~
図6Bを参照しながら説明する。なお、
図4は、通気路用消音器10の下流側端面を示す図であり、同図には、下流側端面には現れない入口開口部16を破線にて示している。
【0016】
通気路用消音器10は、例えば機器内又は建物内に設けられた通気路の途中位置に配置される。すなわち、通気路用消音器10は、
図1に示すように、通気路用消音器10の上流側に位置する上流側通気路Tuと、通気路用消音器10の下流側に位置する下流側通気路Tdとの間に挟まれた状態で設置される。上流側通気路Tu及び下流側通気路Tdは、それぞれ、ホース又は配管等によって構成される。
【0017】
通気路用消音器10は、
図1~4に示すように、主な構成要素としての筐体12を備える。また、筐体12の内部空間には、
図1に示すように、吸音部材30と、一対の接続部材40とが配置されている。以下、通気路用消音器10の各構成機器について個々に説明する。
【0018】
(筐体)
筐体12は、箱型の中空体であり、
図1に示すように、筐体12の内部空間を囲う壁14を有する。筐体12は、X方向に全長を有し、Y方向に高さを有し、Z方向に幅を有する。また、本実施形態の筐体12は、Y方向に押し潰れた扁平な直方体形状であり、複数(具体的には6つ)の外壁面12Sを有する。
【0019】
筐体12の形状について説明すると、筐体12の幅(Z方向における長さ)は、筐体12の高さ(Y方向における長さ)よりも長い。詳しく説明すると、筐体12の断面のうち、X方向を法線方向とする断面の輪郭線において、輪郭線中の最短の辺の長さに対する、輪郭線中の最長の辺の長さの比率が1.2以上である。ここで、最短の辺は、筐体12の高さに相当し、その長さは
図4の長さd1に等しい。最長の辺は、筐体12の幅に相当し、その長さは
図4の長さd2に等しい。
【0020】
壁14の各部分は、厚さが比較的薄い板材であり、筐体12のXYZ方向のそれぞれにおける両端部をなしている。壁14の材質は、特に限定されないが、例えば、金属材料、樹脂材料、強化プラスチック材料、及びカーボンファイバ等が壁14の材料として利用可能である。
【0021】
金属材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、マグネシウム、タングステン、鉄、スチール、クロム、クロムモリブデン、ニクロムモリブデン、銅、溶融亜鉛メッキ鋼板(Steel Galvanized Cold Commercial:SGCC)、及びステンレススチール等のような合金等の金属材料が挙げられる。
樹脂材料としては、例えば、アクリル樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、ポリアミドイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンサルファイド、ポリサルフォン、ポリエチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリイミド、ABS樹脂(アクリロニトリル (Acrylonitrile)、難燃ABS樹脂、ブタジエン(Butadiene)、スチレン (Styrene)共重合合成樹脂)、ポリプロピレン、トリアセチルセルロース(TAC:Triacetylcellulose)、ポリプロピレン(PP:Polypropylene)、ポリエチレン(PE:Polyethylene)、ポリスチレン(PS:Polystyrene)、ASA(Acrylate Styrene Acrylonitrile)樹脂、ポリ塩化ビニル(PVC:Polyvinyl Chloride)樹脂、及びPLA(Polylactic Acid)樹脂等が挙げられる。
強化プラスチック材料としては、炭素繊維強化プラスチック(CFRP:Carbon Fiber Reinforced Plastics)、及びガラス繊維強化プラスチック(GFRP:Glass Fiber Reinforced Plastics)が挙げられる。
また、壁14の材料としては、天然ゴム、クロロプレンゴム、ブチルゴム、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエンゴム)、シリコーンゴム、及びこれらの架橋構造体を含むゴム類がさらに利用可能である。
【0022】
壁14は、例えば、複数(具体的には6個)の板材を箱型に配置し、互いに隣接する板材同士を接合することで構成される。あるいは、壁14を二分割して断片化した場合に、各断片を射出成形等によって作成し、断片同士を組み合わせることで壁14を構成してもよい。また、壁14の各部分は、平板をなし、壁14において互いに対向する位置にある2つの部分が平行に並ぶ。また、壁14の外表面によって構成される筐体12の外壁面12Sのうち、Y方向両端に位置する外壁面12S(XZ平面)は、外壁面12Sの中で面積が最大である面であり、以下では、最大外壁面と呼ぶこととする。筐体12の外壁面12Sには、最大外壁面を含め、平面(より詳しくは平坦面)をなす部分が1箇所以上存在する。
【0023】
また、本実施形態において、壁14の各部は、同一の材質によって構成されている。ただし、これに限定されず、壁14の一部分(例えば、後述の振動部20)が、その周辺部分とは異なる材質によって構成されてもよい。あるいは、壁14の一部分、例えば振動部20が、その周辺部分と同種の材質である一方で、周辺部分とは異なる板厚を有するように構成されてもよい。
【0024】
壁14のX方向の一端部には入口開口部16が設けられ、他端部には出口開口部18が設けられている。つまり、筐体12の内部空間は、通気路の一部を構成し、入口開口部16を通じて筐体12内に流入した空気(風)は、出口開口部18を通じて筐体12の外に流出する。かかる観点で見ると、X方向は、筐体12内を空気が流れる方向、すなわち通風方向に相当する。
【0025】
入口開口部16及び出口開口部18は、壁14をX方向に貫通する孔であり、筐体12の内部空間と連通する。また、
図1に示すように、入口開口部16には上流側通気路Tuが繋ぎ込まれており、出口開口部18には下流側通気路Tdが繋ぎ込まれている。なお、入口開口部16及び出口開口部18の各々は、X方向に対して平行に壁14を貫通してもよく、X方向に対して傾斜して壁14を貫通してもよい。
【0026】
ここで、入口開口部16と筐体12の内部空間との境界位置、すなわち、入口開口部16における内側の開口端は、入口開口16Aに相当する。入口開口16Aは、
図1に示すように、筐体12の内壁面のうち、上流側の端面(換言すると、X方向における一端面)に形成されている。換言すると、入口開口16Aは、筐体12の内部空間がなす通気路の一部の上流側(一端側)に位置する。また、出口開口部18と筐体12の内部空間との境界位置、すなわち、出口開口部18における内側の開口端は、出口開口18Aに相当する。出口開口18Aは、
図1に示すように、筐体12の内壁面のうち、下流側の端面(換言すると、X方向における他端面)に形成されている。換言すると、出口開口18Aは、筐体12の内部空間がなす通気路の一部の下流側(他端側)に位置する。
なお、本実施形態において、筐体12、より詳しくは筐体12の内壁面に形成された開口は、入口開口16A及び出口開口18Aのみである。
【0027】
入口開口16A及び出口開口18Aの各々の形状(輪郭形状)は、特に限定されないが、例えば、円形、楕円形、三角形又は四角形等の多角形、若しくは不定形であってもよい。また、入口開口16A及び出口開口18Aの各々のサイズは、同一でもよく、あるいは異なってもよい。
【0028】
また、
図1及び4に示すように、入口開口16Aを含む入口開口部16、及び、出口開口18Aを含む出口開口部18の各々は、Z方向において、筐体12の中央よりも筐体12の端に近い位置に設けられている。つまり、筐体12の長手方向において、入口開口部16及び出口開口部18は、筐体12の中央部にはなく端側に偏った位置にある。
【0029】
なお、筐体12の内壁面のうち、Z方向において入口開口部16及び出口開口部18から最も離れている面(端面)を、以下では「頂面」と呼ぶこととする。また、筐体12の内壁面のうち、Z方向において頂面とは反対側の面(端面)を「背面」と呼ぶこととする。
【0030】
また、本実施形態では、
図1~4から分かるように、Y方向及びZ方向における入口開口16Aの存在範囲及び出口開口18Aの存在範囲が重なっている。ここで、Y方向及びZ方向における各開口の存在範囲とは、X方向を法線方向とする仮想平面(YZ平面)に各開口を投影したときに当該仮想平面において各開口が存在する範囲である。このように入口開口16Aの存在範囲及び出口開口18Aの存在範囲が重なっていることで、通風性が向上し、入口開口16Aから出口開口18Aに向かって空気(風)がスムーズに流れる。
【0031】
なお、通風性を向上させる観点では、入口開口16Aと出口開口18Aとが同一サイズである場合には、入口開口16Aの存在範囲及び出口開口18Aの存在範囲が完全に一致するのが好ましい。また、入口開口16Aと出口開口18Aとが異なるサイズである場合には、
図4に示すように、よりサイズが大きい開口の存在範囲の内側に、よりサイズが小さい開口の存在範囲が収まるのが好ましい。ただし、これに限定されず、入口開口16Aの存在範囲と出口開口18Aの存在範囲とが部分的に重なってもよい。また、通気路の設計上の制約等により、Y方向及びZ方向の少なくとも一方において、入口開口16Aの存在範囲と出口開口18Aの存在範囲とが重ならず、互いに離れてもよい(ずれてもよい)。
【0032】
さらに、本実施形態では、筐体12に、筐体12内に進入する音に対して振動するように構成された振動部20が設けられている。振動部20は、壁14の一部分、具体的には外壁面が平面である部分によって構成されている。本実施形態では、最大外壁面をなす部分が振動部20を構成している。ただし、筐体12において振動部20を構成する部分は、最大外壁面以外の外壁面12Sを構成する部分でもよい。
【0033】
壁14において、振動部20は、振動部20の周辺部分と連続している。振動部20が周辺部分と連続するとは、振動部20と周辺部分とが一体化していることを意味する。なお、振動部20と周辺部分との境には継ぎ目があってもよく、あるいは、継ぎ目がないシームレスな構造でもよい。ただし、振動部20と周辺部分との間に継ぎ目がない場合には、継ぎ目(つまり、溶接部分又は接着部分)がある場合と比較して、筐体12においてより高い強度及び耐久性が得られる。
【0034】
振動部20が容易に振動して固有振動による効果を大きくする観点から、振動部20の周辺部が固定端とみなせる構造であることが好ましい。ここで、筐体12の角部(折り曲げ部分)は、固定端として振動しない部位とみなされるため、筐体12の壁14において角部で囲まれた面全体が振動部20として機能する構造が望ましい。
【0035】
また、振動部20は、容易に振動できるように、周辺部分の厚さに比べて薄い厚さを有してもよく、具体的には、周辺部分の厚さをtとした場合に振動部20の厚さを0.01×t~0.46×tと設定するのが好ましい。周辺部分に比べて振動部20が薄くなり過ぎると、筐体12の構造強度が過度に弱まるため、振動部20の厚さは、小さくしても1/100程度までとすることが望ましい。
また、板の堅さは、その材質が同じ場合(厳密には、ヤング率が同じ場合)、厚さの3乗に比例して変化する。このため、振動部20の厚さを周辺部分の厚さ0.46倍以下とすることで、周辺部分の堅さを振動部20の堅さの約10倍とすることができ、結果として、固有振動が得られ易くなる。
また、振動部20は、筐体12が有する6つの外壁面12Sのうち、少なくとも一つの外壁面12Sをなす部分であればよく、振動部20が2面以上に亘って設けられてもよい。
【0036】
また、本実施形態において、振動部20は、フラットな平板からなるが、これに限定されず、弓状に湾曲した板によって振動部20が構成されてもよい。ただし、湾曲した振動部20は振動しにくいため、フラットな形状の振動部20がより好ましい。
【0037】
また、本実施形態において、筐体12において振動部20を構成する部分は、最大外壁面をなす部分の一つであるが、これに限定されず、筐体12に複数の振動部20が設けられてもよい(
図16、
図19B及び
図20B参照)。
【0038】
振動部20は、その固有振動数にて振動するように構成されている。振動部20の固有振動数は、振動部20の構造(寸法及び外縁の形状等)、材質、筐体12における位置、並びに振動部20の固定方法及び支持方法等に応じて決定される。なお、振動部20の固有振動数は、公知の固有振動数解析又は固有振動数計算によって特定できる。
固有振動数の実測値は、例えば小野測器製「GK-3100」のようなインパルスハンマ等を用いて加振を行い、加速度検出器によって振動を測定し、FFT(Fast Fourier Transform)アナライザによって周波数に変換することにより、周波数応答として求めることができる。この際、多数点の測定を行うことで、振動モードについても実測による解析を行うことができる。また、リオン社製「固有振動数測定システム CAT-SA02 NF」のようなセットで提供されている試験機を用いてもよい。なお、固有振動数の実測手順に関しては、JIS規格も業界ごとに多く定められており、例えばJISG0602、JISB0908、及びJISC60068-2-81等に従って求めることができる。
固有振動数計算は、一般的な構造力学シミュレーションによって行うことができる。具体的には、COMSOL、ANSYS、及びAbaqusなどの様々な商用ソフト又は自作ソフトに対して、材料のサイズ、材質の物性値 (ヤング率、密度、及びポアソン比等)、並びに周辺の拘束条件を入力することで固有振動数を計算することができる。
【0039】
そして、本実施形態では、振動部20の固有振動数のうち、最も低次の第一固有振動数をf1(単位:Hz)としたとき、第一固有振動数f1が以下の式(1)を満たす。
f1<c/(2×L) 式(1)
上記の式(1)において、cは、音速(単位:m/s)である。また、Lは、入口開口16Aと出口開口18Aとの間の距離(単位:m)であり、詳しくは、入口開口16Aの幾何学的中心(geometric center)位置と出口開口18Aの幾何学的中心位置との間の距離である。各開口の幾何学的中心位置は、各開口が円である場合には円の中心の位置である。距離Lは、開口間の距離であり、換言すると、筐体12内において気流が流れる経路の長さである。
【0040】
本発明の発明者は、上記の式(1)を満たす場合に、振動部20の振動を利用して、低周波帯域の音を効率よく消音できることを見出した。ここで、式(1)の右辺、すなわちc/(2×L)とする周波数は、波長λ(単位:m)の1/2倍、すなわちλ/2が距離Lに相当する音の周波数である。また、c/(2×L)とする周波数は、X方向(通風方向)における筐体12の内部での共鳴の周波数に相当し、以下では特定共鳴周波数frとも呼ぶこととする。
【0041】
また、振動部20の第一固有振動数f1が下記の式(2)を満たす場合には、波長λ(単位:m)の1/4倍、つまりλ/4が距離Lに相当する音の周波数よりも低周波側の音を効率よく消音できる。
f1<c/(4×L) 式(2)
【0042】
振動部20は、上記の式(1)又は(2)を満たす第一固有振動数f1にて振動することで消音可能な周波数帯域は、2400Hz以下であり、詳しくは1700Hz以下である(
図8参照)。
【0043】
なお、振動部20の表面には、
図5に示すように、振動部20の第一固有振動数f1を調整するために錘22を取り付けてもよい。このように錘22を取り付けることで第一固有振動数f1をより低周波化することができる。錘22は、振動部20、すなわち壁14を構成する材料と同種の材料でもよく、あるいは、壁14とは異なる材料でもよい。また、錘22の大きさ、錘22の個数、及び振動部20における錘22の取付け位置については、特に限定されるものではない。また、錘22としては、例えば、筐体12に取り付けられた固定用突起(具体的には、ねじ止め用の突起など)、あるいはビス止め用の凸構造等も利用可能である。
【0044】
(吸音部材)
吸音部材30は、
図1に示すように筐体12の内部に収容され、筐体12内に進入した高周波の音を吸収する。吸音部材30は、音エネルギーを熱エネルギーに変換して吸音する吸音材が適宜利用可能である。吸音材の一例としては、例えば、多孔質の吸音材、具体的には発泡体、発泡材料、及び不織布系吸音材が挙げられる。発泡体及び発泡材料の具体例としては、イノアック社のカームフレックスF及び光社製のウレタンフォーム等のような発泡ウレタンフォーム、軟質ウレタンフォーム、セラミックス粒子焼結材、フェノールフォーム、メラミンフォーム、及びポリアミド製フォーム等が挙げられる。不織布系吸音材の具体例としては、3M社のシンサレート等のようなマイクロファイバー不織布、東京防音社のホワイトキューオン及びブリジストンケービージー社のQonPET等のようなポリエステル製不織布(密度の大きな薄い表面側の不織布と、密度の小さい裏面側の不織布とを有する二層構成のものを含む)及びアクリル繊維不織布等のプラスチック製不織布、ウール及びフェルト等の天然繊維不織布、金属製不織布、並びにガラス製不織布等が挙げられる。
【0045】
吸音部材30としての吸音材は、上記の他に、微小な空気を含む材料からなる吸音材、具体的には、グラスウール、ロックウール、及びナノファイバー系繊維からなる吸音材等、種々の吸音材が利用可能である。ナノファイバー系繊維としては、例えば、シリカナノファイバー、及び、三菱ケミカル社製XAIのようなアクリルナノファイバー等が挙げられる。
【0046】
さらに、吸音部材30としては、微細穿孔板のように直径が100μm程度の貫通穴が無数に形成された板又は膜からなる吸音体が利用できる。この場合、吸音体と、吸音体の背側に形成される背面空間とによって音を吸収することができる。微細穿孔板としては、例えば、大建工業社製のスオーノのようなアルミ製微細穿孔板、及び、3M社製のダイノックのような塩化ビニル樹脂製微細穿孔板等が挙げられる。また、これらの背面空間に別の吸音材を配置し、複数の吸音部材30を組み合わせて利用してもよい。
【0047】
吸音部材30は他にも考えられ、例えば、共振周波数に近い周波数の音が入射されることで共振する板状体又は膜状体によって構成され、板又は膜の内部損失により音エネルギーを熱エネルギーに変換して吸音するものでもよい。また、吸音部材30は、孔あき板からなる共鳴器型吸音構造であり、共鳴周波数と同じ周波数の音が当たると、孔部分の空気が振動し、その際の粘性損失によって音エネルギーを熱エネルギーに変換するものでもよい。また、これらの吸音構造と、別の吸音材とをそれぞれ配置して、複数の吸音部材30を組み合わせて利用してもよい。
【0048】
筐体12内において、筐体12内での通気性を確保する理由から、吸音部材30は、Y方向及びZ方向において、入口開口16Aの存在範囲及び出口開口18Aの存在範囲を避けて配置されている。分かり易く説明すると、Y方向及びZ方向において、吸音部材30は、入口開口16Aの存在範囲よりも外側の位置に配置され、且つ、出口開口18Aの存在範囲よりも外側の位置に配置されている。また、吸音部材30は、筒形状をなしてもよく、その場合、吸音部材30の内側に位置する空間、すなわち筒の内部は、通気路の一部を構成してもよい。
【0049】
また、高周波帯域での吸音性能を維持しつつ、筐体12内での通気性を確保する上で、吸音部材30の占有率は、80%以上であるのが好ましく、90%以上であるのがより好ましく、95%であるのが特に好ましい。吸音部材30の占有率は、筐体12の内部空間中、筐体12中の流路部50(
図1参照)を除いた空間の体積に対して、吸音部材30が占める領域の割合(体積比率)のことである。ここで、流路部50は、筐体12の内部空間中、通気路の一部をなす空間であり、X方向において入口開口16Aから出口開口18Aまで直管上に繋いだ空間である。また、筐体12内において流路部50は開いている(吸音部材等によって遮られない)ことが好ましい。ただし、吸音部材30が流路部50の途中に配置された構成であっても、通気路が通っていれば、本発明の通気路用消音器として利用することが可能である。
【0050】
また、吸音部材30として吸音材を利用する場合、吸音材の流れ抵抗率は、1000(Pa×s/m2)~100000(Pa×s/m2)であるのが好ましい。また、吸音部材30の構造が、複数の層を積層させた構造である場合、構造全体の流れ抵抗を測定し、構造全体の厚さから流れ抵抗率を算出することができる。
【0051】
(接続部材)
一対の接続部材40は、
図1に示すように、筐体12の内部空間に配置され、一方の接続部材40(以下、上流側の接続部材42)は、入口開口16Aに接続されており、もう一方の接続部材(以下、下流側の接続部材44)は、出口開口18Aに接続されている。
【0052】
上流側の接続部材42、及び下流側の接続部材44のそれぞれは、円筒型の部材であり、詳しくは、ホーンのように外径及び内径が漸次変化する円錐台形状(つまり、テーパ形状)をなしている。
【0053】
上流側の接続部材42は、より小径である方の端が入口開口16Aと対向した状態で筐体12の内壁面に取り付けられている。同様に、下流側の接続部材44は、より小径である方の端が出口開口18Aと対向した状態で筐体12の内壁面に取り付けられている。換言すると、X方向を法線方向とする各接続部材40の断面の面積(詳しくは、断面の外縁が囲う面積)は、X方向において各接続部材40が接続されている開口から遠ざかるほど大きくなる。
【0054】
上流側の接続部材40の内側には、
図1に示すように、入口開口16Aと繋がった接続部材側開口部46が設けられている。接続部材側開口部46のサイズは、X方向において入口開口16Aから離れるほど大きくなっている。また、下流側の接続部材40の内側には、出口開口18Aと繋がった接続部材側開口部48が設けられている。接続部材側開口部48は、X方向において出口開口18Aから離れるほど大きくなっている。
【0055】
上流側の接続部材42が入口開口16Aと対向する側に有する開口は、入口開口16Aと同じ形状であり、且つ入口開口16Aと略同じ開口面積であるのが好ましい。下流側の接続部材44が出口開口18Aと対向する側に有する開口は、出口開口18Aと同じ形状であり、且つ出口開口18Aと略同じ開口面積であるのが好ましい。
【0056】
各接続部材40は、筐体12の壁14と同じ材料によって構成されてもよく、あるいは、上流側通気路Tu及び下流側通気路Tdと同じ材料によって構成されてもよい。また、各接続部材40の取り付け方については、特に限定されず、例えば、各接続部材40の端面を筐体12の内壁面に接合させて接着剤又はネジ等の締結具によって固定してもよい。あるいは、各接続部材40を上流側通気路Tu又は下流側通気路Tdと繋いで連結させてもよい。
【0057】
なお、各接続部材40の形状は、
図6Aに示すように、周壁が接続部材40の中心軸に向かって凸状に湾曲した形状であってもよい。
【0058】
また、各接続部材40は、
図6Bに示すように、接続部材40の中心軸方向(X方向)における中途部分に、径サイズが変化せずに一定となった同径部40aを備えてもよい。また、各接続部材40の外形形状は、円筒状に限定されず、角筒状でもよい。
【0059】
また、本実施形態では、入口開口16A及び出口開口18Aの両方に接続部材40が接続されているが、これに限定されず、入口開口16A及び出口開口18Aのうちのいずれか一方にのみ接続部材40が接続されてもよい。また、入口開口16A及び出口開口18Aのいずれにも接続部材40が設けられていなくてもよい。
【0060】
[本発明の通気路用消音器による消音効果]
通気路用消音器10は、振動部20による振動、筐体12内部での音響共鳴、接続部材40の背面空間における共鳴、及び吸音部材30による吸音により、通気路内の音を消音する。
【0061】
具体的に説明すると、通気路用消音器10では、(2n+1)×λ/4(nは自然数)が、筐体12の内壁面と開口(具体的には、入口開口16A又は出口開口18A)との距離と一致する場合に、その波長λの周波数において筐体12内部で音響共鳴が生じる。この共鳴を、便宜的に「λ/4共鳴」と呼ぶこととする。λ/4共鳴は、例えば、
図4のZ方向における共鳴である。
図7は、λ/4共鳴時の音響インテンシティベクトルと筐体12内の音エネルギー分布についての有限要素法による計算結果を示す。
図7から分かるように、λ/4共鳴では、流路部(通気路)ではなく、筐体12内部に広がる方向に音エネルギーが良好に伝播することにより筐体12内で消音することができる。
【0062】
なお、本実施形態では、入口開口部16及び出口開口部18が、筐体12の長手方向(Z方向)において筐体12の端側に偏った位置にあり、筐体12の内壁面における頂面からより離れている。このように入口開口部16及び出口開口部18を頂面から遠ざけることで、λ/4共鳴における共鳴周波数を低周波化することができる。
【0063】
また、通気路用消音器10では、振動部20が上述した式(1)を満たす第一固有振動数f1にて振動する。これにより、λ/4が距離Lに相当する音の周波数よりも低周波側の音が、共振によって筐体12の外に放出される。この結果、
図8に示すように、低周波の音を消音することができる。なお、
図8及び
図10~15は、通気路用消音器の消音特性を示すグラフを示し、横軸が周波数(単位:Hz)を、縦軸が透過損失(単位:dB)を、それぞれ表す。また、
図8には、「吸音材なし、及び振動なし」の場合のグラフと、「吸音材なし、及び振動あり」の場合のグラフと、「吸音材あり、及び振動あり」の場合のグラフとが示されている。
【0064】
さらに、通気路用消音器10では、接続部材40(詳しくは、上流側の接続部材42)の背面空間が一種の共鳴器として作用し、背面空間Hで音が共鳴する。背面空間Hは、筐体12の内壁面のうち、接続部材40に近い背面と接続部材40との間に形成される空間であり、X方向における筐体12の中央位置に近付くほど縮んでいる(
図1参照)。これにより、背面空間H(詳しくは、上流側の接続部材42の背面空間H)は、
図9に示すように、ヘルムホルツ共鳴器に近い原理にて共鳴する。こうした背面空間Hでの共鳴により、その共鳴周波数の音を消音することができる。
【0065】
さらにまた、通気路用消音器10では、筐体12内の吸音部材30によって音を吸収する。これにより、
図8に示すように、λ/2が距離Lに相当する音の周波数よりも高周波側で効果的に音を消音(吸音)することができる。なお、
図8から分かるように、λ/4が距離Lに相当する音の周波数よりも低周波側では、吸音部材30の効果が小さくなる。
【0066】
ところで、一般的な通気路用消音器10は、小型化するほど、低周波帯域の音を消音することが難しくなる。一方、距離Lを長くすることで消音対象の周波数帯域を低周波化することができるが、距離Lを長くすると、筐体12が大型化し、通気路用消音器10の設置スペースをより広く確保する必要がある。これに対して、本実施形態の通気路用消音器10では、振動部20の振動による消音を利用し、距離Lを変えずに、消音対象の周波数帯域を低周波化することができる。
【0067】
以上のように、本実施形態の通気路用消音器10によれば、筐体12のサイズが比較的コンパクトでも、低周波帯域の音から高周波帯域の音まで、広範囲に亘って消音することができる。つまり、本実施形態では、筐体12の内部空間のサイズに依存しない共振モードを利用することで、筐体12による消音と吸音部材30による消音部材とを併用して、ブロードな消音が得られる。
【0068】
[通気路用消音器の内部構造の変形例]
本発明の通気路用消音器の内部構造については、
図1に示す例に限定されず、例えば、
図19Aに示す例が挙げられる。同図に示す通気路用消音器10Xでは、筐体12の内部空間のうち、Z方向において接続部材40が設けられている側の領域内に、吸音部材30が配置されている。より詳しく説明すると、筐体12の内壁面のうち、Z方向において接続部材40が設けられた側の端面に沿って、パネル状の吸音部材30が配置されている。上流側及び下流側の各々の接続部材40は、
図19Aに示すように、Z方向において吸音材30と隣り合う配置されている。
なお、
図19Aに示す内部構造では、Y方向及びZ方向における入口開口16Aの存在範囲及び出口開口18Aの存在範囲が重なっている。
【0069】
また、
図19Aに示す内部構造では、筐体12の内部空間のうち、Z方向において吸音部材30とは反対側に、背面空間60が設けられている。そして、背面空間60内には、背面空間60を仕切る仕切部材62が配置されている。
図19Aに示す例では、仕切部材62が、平坦な板状部材であり、背面空間60をZ方向において2つの空間に仕切る。2つの空間のうち、吸音部材30により離れている方の第一空間60aについては、吸音部材30により近い方の第二空間60bに比べて、Z方向における長さが短く、体積がより小さい。
【0070】
また、仕切部材62は、筐体12の内壁面のうち、上流側の端面からX方向に沿って真っ直ぐ延出し、その先端は、筐体12の内壁面のうち、下流側の端面から離れている。つまり、仕切部材の先端62と筐体12の内壁面(詳しくは、下流側の端面)との間には、比較的幅が広い隙間が形成されている。この隙間は、第一空間60aと第二空間60bを連通させる連通部60cに相当する。
【0071】
そして、仕切部材62によって仕切られた2つの空間のうち、体積がより小さい第一空間60aは、共鳴によって吸音する共鳴空間を構成している。具体的に説明すると、第一空間60aは、連通部60c(隙間)を有する空間内に定在波が生じることで気柱共鳴器として機能する。気柱共鳴器は、その共鳴周波数を消音したい音の周波数に合わせることで、その周波数の音を吸音することができる。
【0072】
以上のような内部構成を有する通気路用消音器10Xでは、
図19Bに示すように、筐体12のうち、X及びY方向において背面空間60と隣り合う部分が振動部を構成している。より詳しく説明すると、筐体12の壁14において最大外壁面をなす部分のうち、第一空間60aと隣り合う部分が第一振動部24を構成し、第二空間60bと隣り合う部分が第二振動部26をなしている。
なお、
図19B及び後述の
図20Bでは、各振動部と筐体12内の機器との位置関係を示すため、筐体12内の機器を破線にて図示している。
【0073】
なお、
図19A及び19Bに示す構成では、Y方向及びZ方向における入口開口16Aの存在範囲及び出口開口18Aの存在範囲が重なっているが、これに限定されない。つまり、
図20Aに示すように、入口開口16Aの存在範囲及び出口開口18Aの存在範囲が、Y方向又はZ方向において重ならず、互いに離れてもよい。
【0074】
図20Aに示す通気路用消音器10Yでは、入口開口16Aの存在範囲及び出口開口18Aの存在範囲が、Z方向において離れている。また、筐体12の内部空間のうち、Z方向において吸音部材30とは反対側に位置する背面空間60が、例えばZ方向に延在する仕切部材62によって、X方向に並ぶ2つの空間に仕切られている。仕切部材62は、筐体12の内壁面のうち、Z方向において吸音部材30とは反対側の端から吸音部材30に向かって真っ直ぐ延出し、その先端は、吸音部材30から離れている。また、2つの空間のうち、より上流側に位置する第一空間60aについては、より下流側に位置する第二空間60bに比べて、X方向における長さが短く、体積がより小さい。また、仕切部材の先端62と吸音部材30との間には、比較的幅が広い隙間からなる連通部60cが形成されている。
【0075】
そして、
図20Aに示す通気路用消音器10Yにおいても、仕切部材62によって仕切られた2つの空間のうち、体積がより小さい第一空間60aが、共鳴によって吸音する共鳴空間を構成している。すなわち、第一空間60aが、連通部60c(隙間)を有する空間内に定在波が生じることで気柱共鳴器として機能する。
【0076】
以上のような内部構成を有する通気路用消音器10Yでは、
図20Bに示すように、筐体12の壁14において最大外壁面をなす部分のうち、第一空間60aと隣り合う部分が第一振動部24を構成し、第二空間60bと隣り合う部分が第二振動部26をなしている。
【実施例0077】
以下、本発明を実施例により更に具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、及び処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す実施例により限定的に解釈されるべきものではない。
なお、特に断りのない限り、「部」は質量基準である。
【0078】
(実施例1)
3Dプリンタを用いて、ABS(Acrylonitrile Butadiene Styrene)樹脂製の筐体を作成した。筐体は、直方体形状をなし、厚さ2mmの壁を有し、筐体の全長、高さ及び幅(XYZの各方向における長さ)は、それぞれ、110mm、50mm、130mmである。つまり、X方向を法線方向とする筐体の断面の輪郭線において、最長の辺の長さと最短の辺の長さとの比を2.6:1とした。
また、筐体は、入口開口部及び出口開口部を有し、それぞれの開口部には、内径28mmのホースからなる通気路を接続した。入口開口部及び出口開口部は、Z方向において筐体の中央位置から28mmずれた位置に設けられた。
また、筐体の内部空間には、入口開口及び出口開口のそれぞれの存在領域を避けた位置に、吸音部材であるQonPET(ブリジストンケービージー社製)を配置した。この吸音部材の流れ抵抗率は、約8000Rayls/mである。
【0079】
また、筐体の一面、具体的には最大外壁面(130mm×110mmの面)をなす板状部分を、振動部として振動可能な構成とした。この振動部について、COMSOL Multiphysicsを用いて固有振動計算を行った。計算では、振動部である板状部分の周辺が固定拘束されることを前提条件とした。解析の結果、振動部の第一固有振動数f1(共振周波数)が358Hzであることが判明した。
【0080】
(比較例1)
比較例1では、筐体の壁の厚さを20mmとし、筐体における振動を抑制した。それ以外の点では、比較例1の構成を実施例1と同様の構成とした。
なお、比較例1の筐体のうち、最大外壁面(130mm×110mmの面)をなす板状部分について、上述の固有振動解析を行ったところ、その第一固有振動数f1は、2799Hzであった。
【0081】
<消音特性の測定>
実施例1及び比較例1の各々で作成した通気路用消音器の上流側に音源を配置し、音源から音を入射し、通気路用消音器における入射音の透過率及び反射率を測定した。測定は、公知の音響管測定法(具体的には、ASTM E2611)に従い、径が28mmである音響管を用いたマイク4端子法によって行った。
なお、(1-透過率-反射率)を吸収率と定義し、通気路用消音器での消音量を示す指標として吸音率を求めた。また、10×log
10(1/透過率)の値を透過損失として求めた。透過損失についての測定結果を
図10に示す。
【0082】
実施例1では、
図10から分かるように、低周波帯域に透過損失のピークが現れ、具体的には、355Hzをピークとして高い透過損失が示された。このピーク周波数は、筐体において振動部をなす板状部分の第一固有振動数f1(=358Hz)とほぼ等しい。このことから、実施例1の通気路用消音器において、低周波帯域における透過損失のピークは、筐体の振動部の固有振動に由来することが分かった。また、筐体の全長(X方向における長さ)が110mmであるため、特定共鳴周波数fr(=c/(2×L))が1555Hzとなり、fr/2(=c/(4×L))が780Hzとなる。つまり、振動部の固有振動に由来する透過損失のピークは、fr/2未満で生じている。
【0083】
他方、比較例1では、
図10から分かるように、透過損失の測定結果に関して、低周波帯域において急峻なピークが現れなかった。これは、筐体において最大外壁面をなす板状部分の第一固有振動数f1が、2799Hzであり、特定共鳴周波数frより大きく、低周波側にないためである。
【0084】
(実施例2)
実施例2では、筐体の幅(Z方向における長さ)を90mmとした。つまり、実施例2の筐体の断面のうち、X方向を法線方向とする断面の輪郭線において、最長の辺の長さと最短の辺の長さとの比を1.8:1とした。また、筐体において入口開口部及び出口開口部を設ける位置を、Z方向において筐体の中央位置から18mmずらした。それ以外の点では、実施例2の構成を実施例1と同様の構成とした。
なお、筐体の最大外壁面(90mm×110mmの面)をなす板状部分、すなわち振動部について固有振動解析を行ったところ、その第一固有振動数f1(共振周波数)は、521Hzであった。ちなみに、固有振動解析では、振動部である板状部分の周辺が固定拘束されることを前提条件とした。
【0085】
(比較例2)
比較例2では、筐体の壁の厚さを20mmとし、筐体における振動を抑制した。それ以外の点では、比較例2の構成を実施例2と同様の構成とした。
なお、比較例2の筐体のうち、最大外壁面(90mm×110mmの面)をなす板状部分について、固有振動解析を行ったところ、その第一固有振動数f1は、3760Hzであった。
【0086】
<実施例2及び比較例2についての透過損失の測定>
実施例2及び比較例2について、実施例1及び比較例1と同様の要領にて、通気路用消音器における入射音の透過率及び反射率を測定し、透過損失を測定した。透過損失の測定結果を
図11に示す。
実施例2では、
図11から分かるように、低周波帯域に透過損失のピークが現れ、具体的には、530Hzにて高い透過損失が示された。このピーク周波数は、筐体において振動部をなす板状部分の第一固有振動数f1(=521Hz)とほぼ等しい。このことから、実施例2の通気路用消音器において、低周波帯域における透過損失のピークは、筐体の振動部の固有振動に由来することが分かる。また、振動部の固有振動に由来する透過損失のピークは、fr/2未満(すなわち、780Hz未満)で生じている。
【0087】
他方、比較例2では、
図11から分かるように、透過損失の測定結果に関して、500Hz付近での急峻なピークが現れなかった。これは、筐体において最大外壁面をなす板状部分の第一固有振動数f1が、3760Hzであり、特定共鳴周波数frより大きく、低周波側にないためである。
【0088】
(実施例3)
実施例3では、筐体において入口開口部及び出口開口部を設ける位置を、Z方向において筐体の中央位置とした。それ以外の点では、実施例3の構成を実施例2と同様の構成とした。そのため、筐体にて振動部をなす板状部分の第一固有振動数f1は、実施例2と同値(=521Hz)となる。
そして、実施例3について、実施例1と同様の要領にて、通気路用消音器における入射音の透過率及び反射率を測定し、透過損失を測定した。透過損失の測定結果を
図12に示す。なお、
図12には、実施例2の測定結果を比較のために併せて示している。
【0089】
実施例3では、
図12から分かるように、実施例2と同様、500Hz付近で透過損失のピークが現れた。また、実施例2と実施例3とを比較すると、900~1800の低周波帯域では、実施例2の方で透過損失がより大きくなり、1900Hz以上の帯域では、実施例3の方で透過損失がより大きくなった。これは、筐体において入口開口部及び出口開口部を設ける位置の違いを反映しており、それぞれの開口部を筐体の中央位置からずらした(端側に偏らせた)場合には、低周波帯域での消音効果が向上することが分かった。
【0090】
上記の点に関して詳述すると、実施例2及び3の消音器(すなわち、本発明の通気路用消音器)では、筐体の内部において、入口開口部から筐体の内壁面における頂面までの距離の範囲内でλ/4共鳴が生じる。消音器内には吸音部材が配置されているため、λ/4共鳴の周波数を中心に大きな吸音が起こり、これにより、透過損失が大きくなる。実施例3では、入口開口の中央と頂面との間の距離が31mmであることに対応して、λ/4共鳴における共鳴周波数が2766Hzとなった。これに対して、実施例2では、入口開口部が設けられた位置(つまり、ホースが接続された位置)が筐体の中央位置からずれているために、入口開口の中央と頂面との間の距離が49mmとより長くなる。そして、実施例2でのλ/4共鳴における共鳴周波数は、上記の距離に対応した周波数となり、具体的には1750Hzとなった。この結果、実施例2の消音器では、1700Hzを中心に消音性能が高まり、このことは、低周波帯域で実施例3の消音器を上回る透過損失を得たことと整合する。以上から、入口開口部をZ方向において筐体の中央位置に設けず、端側に偏った位置に設けることで、筐体内でλ/4共鳴により消音できる周波数(共鳴周波数)を調整することができる。この結果、より消音が難しい低周波帯域で高い透過損失を得ることができる。
【0091】
(実施例4)
実施例4では、筐体の幅(Z方向における長さ)を60mmとした。つまり、実施例4の筐体の断面のうち、X方向を法線方向とする断面の輪郭線において、最長の辺の長さと最短の辺の長さとの比を1.2:1とした。また、筐体において入口開口部及び出口開口部を設ける位置を、Z方向において筐体の中央位置とした。それ以外の点では、実施例4の構成を実施例1と同様の構成とした。
なお、筐体の最大外壁面(60mm×110mmの面)をなす板状部分、すなわち振動部について固有振動解析を行ったところ、その第一固有振動数f1(共振周波数)は、956Hzであった。ちなみに、固有振動解析では、振動部である板状部分の周辺が固定拘束されることを前提条件とした。
【0092】
(比較例3)
比較例3では、筐体の壁の厚さを20mmとし、筐体における振動を抑制した。それ以外の点では、比較例3の構成を実施例4と同様の構成とした。なお、比較例3の筐体のうち、最大外壁面(60mm×110mmの面)をなす板状部分について、上述の固有振動解析を行ったところ、その第一固有振動数f1は、5834Hzであった。
【0093】
<実施例4及び比較例3についての透過損失の測定>
実施例4及び比較例3について、実施例1及び比較例1と同様の要領にて、通気路用消音器における入射音の透過率及び反射率を測定し、透過損失を測定した。透過損失の測定結果を
図13に示す。
実施例4では、
図13から分かるように、約950Hzにおいて透過損失のピークが現れ、そのピークでは、比較例3よりも高い透過損失が示された。このピーク周波数は、筐体において振動部をなす板状部分の第一固有振動数f1(=956Hz)とほぼ等しいため、上記のピークは、筐体の振動部の固有振動に由来することが分かった。また、実施例4において、特定共鳴周波数frは、1559Hzであり、振動部の第一固有振動数f1がfrより小さく、且つfr/2より大きい。つまり、実施例4では、振動部の固有振動に由来する透過損失のピークが、fr/2以上の範囲で生じている。
【0094】
他方、比較例3では、
図13から分かるように、実施例4で現れた950Hz付近での高い透過損失のピークが見られなかった。これは、筐体において最大外壁面をなす板状部分の第一固有振動数f1が、5834Hzであり、特定共鳴周波数fr(=1559Hz)より大きいために、低周波側において消音性能が得られないからである。
【0095】
(実施例5)
実施例5では、筐体の内壁面において、入口開口と出口開口のそれぞれに対して接続部材を固定した。実施例5に用いられた接続部材は、X方向において30mmの長さを有し、その基端にて各開口の縁部に固定されている。また、接続部材の開口部(接続部材側開口部)は、接続部材の先端に向かうほど広がり、最大で開口幅が40mmとなる。
それ以外の点では、実施例5の構成を実施例2と同様の構成とした。
【0096】
そして、実施例5について、実施例1と同様の要領にて、通気路用消音器における入射音の透過率及び反射率を測定し、透過損失を測定した。透過損失の測定結果を
図14に示す。なお、
図14には、実施例2の測定結果を比較のために併せて示している。
【0097】
実施例5では、
図14から分かるように、実施例2と同様に530Hzで透過損失のピークが現れた。つまり、低周波側での消音効果は、接続部材の有無によって変化しなかった。一方で、筐体内における頂面までの距離の間で決まるλ/4共鳴の共鳴周波数は、接続部材を筐体内に設けたことにより低周波側にシフトした。これは、接続部材が設けられることで、筐体内において接続部材と筐体の内壁面における背面との間に、入口が狭まった背面空間が形成されたためである。つまり、背面空間によるヘルムホルツ共鳴の効果が、筐体内でのλ/4共鳴に加わることで、λ/4共鳴の共鳴周波数が、λ/4共鳴が完全な気柱共鳴である場合の共鳴周波数よりも低周波側にシフトしたと推察される。
【0098】
(実施例6及び7)
実施例6及び7では、筐体の最大外壁面(すなわち、振動部)の中央部にABS樹脂製の錘を取り付け、それ以外の点では、実施例2と同様の構成とした。実施例6では、錘の半径を20mmとし、錘の高さを10mmとした。実施例7では、錘の半径を20mmとし、錘の高さを20mmとした。なお、実施例6及び7のそれぞれの構造は、3Dプリンタにより筐体と錘とを一括で形成した。
【0099】
そして、実施例6及び7のそれぞれについて、実施例1と同様の要領にて、通気路用消音器における入射音の透過率及び反射率を測定し、透過損失を測定した。透過損失の測定結果を
図15に示す。
図15には、実施例2の測定結果を比較のために併せて示している。
図15に示すように、錘を振動部に取り付けたことで固有振動数が低下し、より低周波側に透過損失のピークが現れることが分かった。
以上のように錘を振動部に設けることにより、透過損失を大きくする周波数をコントロールすることができる。
【0100】
(実施例8及び9)
実施例8では、上記の実施例とは構造が異なる消音器10を3Dプリンタによって作成した。実施例8の消音器10は、
図16に示すように、筐体12の壁14のうち、Y方向における両端部の形状が異なった構造である。詳しくは、一方の端部は、厚み2mmのABS板によって構成され、
図16に示すようにj1×j3の矩形表面を有し、以下、第一振動部24という。もう一方の端部は、第一振動部24と同様に厚み2mmのABS板によって構成されているが、Z方向の途中位置に折れ曲がり部分が設けられている。つまり、もう一つの端部には、第一振動部24よりも小さい二つの振動部(以下、第二振動部26及び第三振動部28)が折れ曲がり部を挟んで設けられている。第二振動部26は、
図16に示すようにj1×j2の矩形表面を有し、第三振動部28は、j1×j4の矩形表面を有する。
なお、
図16の各寸法j1~j6は、以下の通りである。
j1=139mm、j2=55mm、j3=127mm、j4=50mm、
j5=24mm、j6=45mm
【0101】
また、上記の消音器10の筐体12での特定共鳴周波数fr(=c/(2×L))は、1234Hzであり、fr/2(=c/(4×L))は、617Hzであった。また、第一振動部24、第二振動部26及び第三振動部28の各々の第一固有振動数は、それぞれ、286Hz、1078Hz及び1283Hzであった。第一振動部24の第一固有振動数は、fr/2(=c/(4×L))と比較して十分に低周波であった。
さらに、筐体12の内部空間中、入口開口及び出口開口を繋いだ空間(つまり、流路部)以外の空間すべてに、吸音部材であるQonPETを配置した。
【0102】
実施例9では、第一振動部24の厚みを2mmとし、第二振動部26、第三振動部28及びこれらの間に配置される折れ曲がり部の各々の厚みを20mmとした。実施例9では、振動部の振動の効果を検証することを目的とし、実施例8に比べて第二振動部26及び第三振動部28をより堅くし、揺れにくくした。この時の第二振動部26の第一固有振動数は6264HZであり、第三振動部28の第一固有振動数は7046Hzであった。それ以外の点では、実施例9の構成を実施例8と同様の構成とした。
【0103】
そして、実施例8及び9について、実施例1と同様の要領にて、通気路用消音器における入射音の透過率及び反射率を測定し、透過損失を測定した。透過損失の測定結果を
図17に示す。
図17に示すように、実施例8及び9ともに、第一振動部24の第一固有周波数(=286Hz)に起因する透過損失ピークが確認された。実施例8については、第二振動部26及び第三振動部28の第一固有周波数の帯域1078~1283Hz付近で、比較的ブロードな透過損失ピークが得られた。また、第二振動部26及び第三振動部28の第一固有周波数が大きくこれらの振動部が揺れにくい実施例9では、透過損失が実施例8での透過損失を上回った。
以上のように、実施例8のように表面サイズ等を変更することで第一固有振動数を変えた複数の振動部を設けることにより、複数の周波数について、各振動部の第一固有振動数に基づく透過損失ピークを発現させることができる。
【0104】
以上までに説明した実施例1~9は、いずれも、本発明の範囲にあり、各実施例における透過損失の測定結果から、本発明の効果は明らかである。
【0105】
(風切り音に関する計算例)
本発明の消音器の筐体内に風を流す場合、筐体内部に吸音部材を配置することで通気路(詳しくは、筐体内の流路部)の経路が変化し、これに伴って風切り音も変化する。この点について、流体計算により、吸音部材の設置量と風切り音量との関係を求めた。
具体的には、COMSOLのCFD(Computer Fluid Dynamics)モジュールを用いて流体計算を行い、消音器内で発生する風切り音の音圧をProudman Analogy法を用いて求めた。計算対象とする消音器は、実施例2と同様の構造とした。ここで、筐体の入口開口及び出口開口のそれぞれに接続されるホース部、あるいは筐体内の流路部中にまで吸音部材を設置してホース部を埋めてしまうと通風性が失われてしまう。そこで、流体計算では、筐体の内部空間のうち、入口側のホース部と出口側のホース部との間の通気部分を開けた状態(つまり、吸音部材で囲まれる空気部分を設けた状態)とした。そして、筐体の内部空間中、通気部分を除く空間に対して吸音部材が占める割合を変えながら、それぞれの割合の下での風切り音を求めた。計算結果を
図18に示す。
【0106】
図18に示すように、吸音部材を筐体内部に配置することで風切り音が変化し、筐体内の流路部以外の空間の体積に対して吸音部材が占める割合が80%である場合に、吸音部材を配置しない場合よりも風切り音が小さくなることが分かった。なお、このとき、筐体の内部空間全体に対する吸音部材の占有率は55%である。また、
図18に示すように、通気部分以外の空間に吸音部材をより多く配置して吸音部材の占有率を大きくすれば、風切り音をより小さくできることが分かった。