(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179973
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】膨潤組織状植物性蛋白質の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23J 3/14 20060101AFI20231213BHJP
A23J 3/16 20060101ALI20231213BHJP
A23J 3/26 20060101ALI20231213BHJP
A23L 27/00 20160101ALI20231213BHJP
A23L 11/00 20210101ALN20231213BHJP
【FI】
A23J3/14
A23J3/16 501
A23J3/26 501
A23L27/00 D
A23L11/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092967
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】株式会社日清製粉ウェルナ
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野中 真太
(72)【発明者】
【氏名】山口 亮
(72)【発明者】
【氏名】藤井 知之
【テーマコード(参考)】
4B020
4B047
【Fターム(参考)】
4B020LB24
4B020LC02
4B020LG04
4B020LK20
4B020LP04
4B047LB03
4B047LB09
4B047LE04
4B047LF03
4B047LF04
4B047LF08
4B047LG18
4B047LG63
4B047LG65
4B047LP02
4B047LP05
4B047LP06
(57)【要約】
【課題】風味が良好な組織状植物性蛋白質、及びその製造方法の提供。
【解決手段】組織状植物性蛋白質を70℃以上の水性液体Aに接触させ、膨潤度300~400質量%になるまで膨潤させる工程、及び膨潤した該組織状植物性蛋白質を該水性液体Aと分離し、該分離から80経過後かつ400秒経過以前に20℃以下の水性液体Bに接触させる工程、を含む、膨潤組織状植物性蛋白質の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
組織状植物性蛋白質を70℃以上の水性液体Aに接触させ、膨潤度300~400質量%になるまで膨潤させる工程、及び
膨潤した該組織状植物性蛋白質を該水性液体Aと分離し、該分離から80秒経過後かつ400秒経過以前に20℃以下の水性液体Bに接触させる工程、
を含む、膨潤組織状植物性蛋白質の製造方法。
【請求項2】
前記水性液体Aに接触させる前の前記組織状植物性蛋白質が、水分含量2~16質量%である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記水性液体Aに接触させる前の前記組織状植物性蛋白質が、最小差し渡し長さ1~15mm、かつ最大差し渡し長さ5~20mmである、請求項1記載の方法。
【請求項4】
前記水性液体Aに接触させる前の前記組織状植物性蛋白質と、前記水性液体Aの質量比が100:100~2000である、請求項1記載の方法。
【請求項5】
前記水性液体Bに接触させる前の前記膨潤した組織状植物性蛋白質と、前記水性液体Bの質量比が100:100~2000である、請求項1記載の方法。
【請求項6】
前記膨潤した組織状植物性蛋白質と前記水性液体Bとの接触時間が120分間以下である、請求項1記載の方法。
【請求項7】
前記組織状植物性蛋白質が組織状大豆蛋白質である、請求項1記載の方法。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項記載の方法で製造された膨潤組織状植物性蛋白質を用いる膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液の製造方法。
【請求項9】
前記膨潤組織状植物性蛋白質を80℃以上の調味液中で加熱することを含む、請求項8記載の方法。
【請求項10】
前記膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液が、液状部分の体積中10体積%以下の量のアルコールを含有する、請求項8記載の方法。
【請求項11】
前記膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液をさらにレトルト加熱することを含む、請求項8記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膨潤組織状植物性蛋白質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、食事で摂取される蛋白源は主に動物の肉に由来する動物性蛋白質である。一方で近年、資源性等の観点から、植物性蛋白質が蛋白源として注目されている。中でも大豆蛋白質は、生産性、加工性の点から最もよく利用されている植物性蛋白質の一つである。例えば、大豆をエクストルーダー処理により組織状構造に加工した植物性蛋白質は、肉様の食感を有することから、そぼろ、ハンバーグ、ミートボールなどの挽肉料理に肉の代替品として用いられる。さらに植物性蛋白質は、乾燥により長期保存が可能になるという利点も有する。
【0003】
特許文献1には、大豆蛋白、油脂、澱粉を含む原料をエクストルーダー処理した後、40~100℃の熱温水で処理することにより植物性蛋白質の線維性を発現させる方法が記載されている。特許文献2には、乾燥した粒状植物性蛋白を65℃以上の高温で吸水させた後、それより25℃以上低い温度でさらに吸水させることで復元することにより、吸水を短時間で行い、かつ復元の際の粒状植物性蛋白の壊れを抑えることが記載されている。
【0004】
しかしながら、従来の植物性蛋白質は、前述したエクストルーダー処理等により食感の点では肉様の食品になり得るものの、植物に由来する異臭が残存するため、風味は肉と大きく異なる。特に乾燥後に復元した植物性蛋白質ではこの傾向が顕著である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-69952号公報
【特許文献2】特開平4-287646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、風味が良好な組織状植物性蛋白質、及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、以下を提供する。
〔1〕組織状植物性蛋白質を70℃以上の水性液体Aに接触させ、膨潤度300~400質量%になるまで膨潤させる工程、及び
膨潤した該組織状植物性蛋白質を該水性液体Aと分離し、該分離から80秒経過後かつ400秒経過以前に20℃以下の水性液体Bに接触させる工程、
を含む、膨潤組織状植物性蛋白質の製造方法。
〔2〕前記水性液体Aに接触させる前の前記組織状植物性蛋白質が、水分含量2~16質量%である、〔1〕記載の方法。
〔3〕前記水性液体Aに接触させる前の前記組織状植物性蛋白質が、最小差し渡し長さ1~15mm、かつ最大差し渡し長さ5~20mmである、〔1〕又は〔2〕記載の方法。
〔4〕前記水性液体Aに接触させる前の前記組織状植物性蛋白質と、前記水性液体Aの質量比が100:100~2000である、〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法。
〔5〕前記水性液体Bに接触させる前の前記膨潤した組織状植物性蛋白質と、前記水性液体Bの質量比が100:100~2000である、〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法。
〔6〕前記膨潤した組織状植物性蛋白質と前記水性液体Bとの接触時間が120分間以下である、〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の方法。
〔7〕前記組織状植物性蛋白質が組織状大豆蛋白質である、〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の方法。
〔8〕〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法で製造された膨潤組織状植物性蛋白質を用いる膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液の製造方法。
〔9〕前記膨潤組織状植物性蛋白質を80℃以上の調味液中で加熱することを含む、〔8〕記載の方法。
〔10〕前記膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液が、液状部分の体積中10体積%以下の量のアルコールを含有する、〔8〕又は〔9〕記載の方法。
〔11〕前記膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液をさらにレトルト加熱することを含む、〔8〕~〔10〕のいずれか1項記載の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により提供される膨潤組織状植物性蛋白質は、植物に由来する異臭が低減されているため、風味が良好で食材として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
植物性蛋白質からの植物に由来する異臭は、食品の風味に好ましくない影響を及ぼすことがある。植物性蛋白質を食材として使用する場合、水や調味液を用いて該植物性蛋白質を膨潤させることが一般的である。しかし、このような従来の方法で得られた膨潤植物性蛋白質は、植物に由来する異臭が依然として残存していた。特許文献1、2には植物性蛋白質を熱水処理する方法が記載されているが、これらの方法で加工された植物性蛋白質も、風味の点では不充分である。
【0010】
本発明者らは、植物性蛋白質の膨潤の際の温度や工程を調整することにより、植物性蛋白質における植物に由来する異臭を低減することができることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明の膨潤組織状植物性蛋白質の製造方法(以下、単に本発明の方法ともいう)は、組織状植物性蛋白質を70℃以上の水性液体Aに接触させ、膨潤度300~400質量%になるまで膨潤させる工程(膨潤工程)、及び、膨潤した該組織状植物性蛋白質を20℃以下の水性液体Bに接触させる工程(冷却工程)を含む。ここで、該膨潤工程を終えてから冷却工程を行うまでの間には、一定の時間間隔が設けられる。このような順序で膨潤工程及び冷却工程を行うことで、組織状植物性蛋白質を単に膨潤させるだけでなく、植物に由来する異臭を低減させることができる。したがって、本発明の方法によれば、風味が良好な膨潤組織状植物性蛋白質を製造することができる。
【0012】
本明細書における「組織状植物性蛋白質」とは、植物由来の蛋白質を混捏することで組織状の構造を持たせた素材である。詳細には、日本農林規格0838:2019の規定に準じて以下のように規定され得る:大豆等の種実もしくはその脱脂物又は小麦等の穀類の粉末を主原料とし、これに必要に応じて添加物を加え、加熱、加圧等の物理作用により粒状、フレーク状又は繊維状に成形されたものであって、肉様の組織状構造を有し、植物性蛋白質含有率が50質量%を超えるものである。例えば、日本農林規格0838:2019に規定される「植物性たん白」のうち、「粒状植物性たん白」及び「繊維状植物性たん白」は、本明細書における組織状植物性蛋白質に含まれる。本明細書における植物性蛋白質含有率とは、日本農林規格0838:2019に規定されるように、主原料に由来する蛋白質含有率であって、無水物に換算した値をいう。
【0013】
前記組織状植物性蛋白質の典型的な例としては、原料として脱脂大豆粉末、大豆粉、豆乳粉末、脱脂豆乳粉末、濃縮大豆蛋白、分離大豆蛋白、小麦グルテン等の植物性蛋白質素材から選択される一種以上を用い、これをエクストルーダー等によって混捏して肉様の組織状構造を有するように組織化したものを挙げることができる。好適には、該組織状植物性蛋白質は、粒状、フレーク状、繊維状などの形状に成形されている。このような組織状植物性蛋白質は市販されており、本発明の方法に使用することができる。好ましくは、大豆蛋白質素材を原料とする組織状大豆蛋白質が用いられる。
【0014】
本発明の方法に用いる組織状植物性蛋白質は、その大きさは特に制限されないが、大きすぎると、水性液体Aの含浸が不足することで得られた膨潤組織状植物性蛋白質の風味に影響するおそれがあり、小さすぎると、その食感が感じられにくくなるおそれがある。したがって、水性液体Aと混合する前の該組織状植物性蛋白質は、最小差し渡し長さが好ましくは1~15mm、より好ましくは2~12mmであり、最大差し渡し長さが好ましくは5~20mm、より好ましくは7~18mmである。
【0015】
水性液体Aに接触させる前の組織状植物性蛋白質は、その水分含量は特に制限されないが、乾燥していることが好ましく、あるいは水分含量が、好ましくは2~16質量%、より好ましく4~13質量%である。水分含量が少なすぎても多すぎても、本発明の効果が得られにくくなるおそれがある。本明細書において、組織状植物性蛋白質の水分含量は、対象の組織状植物性蛋白質を試料とし、絶乾処理した試料と該絶乾処理前の試料との質量差を水分量として、該絶乾処理前の試料の質量に対する該水分量の百分率として算出することができる。
【0016】
本発明の方法では、まず前記組織状植物性蛋白質を所定温度の水性液体Aに接触させ、膨潤させる(膨潤工程)。該水性液体Aには、食品に適用できる水性液体を制限なく利用することができ、例えば、清水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、及びこれらの混合液等が挙げられる。該組織状植物性蛋白質と接触させる際の水性液体Aの温度は、70℃以上であればよく、好ましくは75~95℃である。また、該水性液体Aとの接触前の組織状植物性蛋白質と水性液体Aの質量比は、組織状植物性蛋白質:水性液体Aが、好ましくは100:100~2000、より好ましくは100:200~1000である。
【0017】
例えば、前記組織状植物性蛋白質と水性液体Aを準備し、前述の温度に調整した水性液体Aと組織状植物性蛋白質とを混合して互いに接触させる。接触のための方法は特に制限されず、例えば、該組織状植物性蛋白質の全体を水性液体Aに浸漬する方法が挙げられる。典型的には、水性液体Aを充填した容器に組織状植物性蛋白質を投入してそれらを接触させる。該接触の間、組織状植物性蛋白質と水性液体Aが効率よく接触できるようにそれらを撹拌することが好ましい。
【0018】
前記組織状植物性蛋白質を水性液体Aと接触させた状態で維持し、該組織状植物性蛋白質を膨潤させる。このとき、該組織状植物性蛋白質は、膨潤度300~400質量%、好ましくは320~380質量%になるまで膨潤される。ここで組織状植物性蛋白質の膨潤度とは、水性液体Aと接触させる前の組織状植物性蛋白質の質量に対する膨潤後の該組織状植物性蛋白質の質量の百分率をいう。
【0019】
前記膨潤度が達成されるまで、水性液体Aの温度は、70℃以上、好ましくは75~90℃に維持される。好ましくは、組織状植物性蛋白質と水性液体Aの混合物の品温が70℃以上、好ましくは75~90℃に維持される。一方、該組織状植物性蛋白質との接触の際に又は接触の間に、水性液体Aの温度が低下して70℃以上の温度を維持できなくなる可能性がある。したがって、該接触の間、水性液体A又は混合物を適宜加熱して前記の温度を維持することが好ましい。例えば、加熱手段を備える容器に水性液体Aを充填して加熱するか、又は、別途準備した加熱手段、例えばガスコンロ、電気コンロ、IHコンロ、ヒーター等により水性液体Aを充填する容器を加熱することができる。
【0020】
前記組織状植物性蛋白質と水性液体Aの接触時間は、前記組織状植物性蛋白質の膨潤度が達成されるまでの時間であればよく、特に制限されないが、好ましくは60分間以下、さらに好ましくは5~40分間である。接触時間が長すぎると、得られた膨潤組織状植物性蛋白質に異味異臭が生じる場合がある。
【0021】
次いで、前記膨潤工程において前記の膨潤度に膨潤した組織状植物性蛋白質を、水性液体Aと分離する。その後、該膨潤組織状植物性蛋白質を、該水性液体Aとの分離から80秒経過後かつ400秒経過以前に、好ましくは100秒経過後かつ300秒経過以前に、水性液体Bに接触させる(冷却工程)。水性液体Aと分離した膨潤組織状植物性蛋白質は、水性液体Bに接触するまでの間は空気に触れた状態になるため、水分蒸発と乾燥が起こり得る。本発明では、この水性液体Aと分離してから水性液体Bに接触するまでの時間を制限することで、該膨潤組織状植物性蛋白質の水分蒸発と乾燥の度合いを制御する。
【0022】
前記膨潤組織状植物性蛋白質質と接触させる際の水性液体Bの温度は、20℃以下であればよく、好ましくは2~18℃である。前記水性液体Bには、水性液体Aと同様に、食品に適用できる水性液体を制限なく利用することができ、例えば、清水、蒸留水、水道水、酸性水、アルカリ水、又はこれらの混合液等が挙げられる。水性液体Bは、水性液体Aと同じ種類のものであってもよく、又は異なっていてもよい。水性液体Bは、前記膨潤工程の終了までに用意しておけばよい。水性液体Bは、膨潤組織状植物性蛋白質と接触させる前に、予め前述の温度に調整しておくことが好ましい。好ましくは、該膨潤組織状植物性蛋白質との接触の間、水性液体Bの温度は、20℃以下、好ましくは2~18℃に維持される。該膨潤組織状植物性蛋白質との接触の間、水性液体B、又は該蛋白質と水性液体Bとの混合物を適宜加熱して前述の温度を維持することが好ましい。水性液体B又は混合物を加熱する手段は、前述した水性液体Aの場合と同様である。
【0023】
水性液体Bとの接触前の膨潤組織状植物性蛋白質と水性液体Bの質量比は、膨潤組織状植物性蛋白質:水性液体Bが、好ましくは100:100~2000、より好ましくは100:200~1000である。接触のための方法は特に制限されず、例えば、膨潤組織状植物性蛋白質の全体を水性液体Bに浸漬する方法が挙げられる。典型的には、水性液体Bを充填した容器に膨潤組織状植物性蛋白質を投入してそれらを混合し、接触させる。該接触の間、膨潤組織状植物性蛋白質と水性液体Bが効率よく接触できるようにそれらを撹拌することが好ましい。膨潤組織状植物性蛋白質と水性液体Bとの接触時間は、特に制限されるものではないが、好ましくは120分間以下、より好ましくは10~30分間である。接触時間が短すぎると、得られた膨潤組織状植物性蛋白質の植物に由来する異臭の低減が不十分となり、接触時間が長すぎると、得られた膨潤組織状植物性蛋白質が軟化しすぎて肉様の食感に乏しくなる場合がある。
【0024】
冷却工程の終了後は、膨潤組織状植物性蛋白質を水性液体Bと分離させる。分離した膨潤組織状植物性蛋白質は、使用するまでに時間を要する場合は、乾燥を防ぐために密閉可能な容器等にいれて保存することが好ましい。
【0025】
以上の膨潤工程及び冷却工程を経て、植物に由来する異臭が低減された、風味の良好な膨潤組織状植物性蛋白質が製造される。製造した膨潤組織状植物性蛋白質は、そのまま喫食可能であり、又は、調理用の食材として使用することができる。該膨潤組織状植物性蛋白質は、肉様の食感を有しており、肉の代替物等、食品の原材料などとして好適に使用することができる。
【0026】
一実施形態において、本発明の膨潤組織状植物性蛋白質は、調味液の原材料として使用される。本発明による膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液の製造方法では、該膨潤組織状植物性蛋白質を原材料に含む調味液を、常法に従って製造すればよい。該調味液の種類は、流動性を有するものであれば特に限定されず、ホワイトソース、クリームソース、カルボナーラソース、ミートソース、オイルソース、トマトソース、カレーソース、バターソース、醤油ソース、ドレッシング、ディップ、スープ、たれ、つゆ、あん等を例示できる。
【0027】
前記調味液の原材料は、前記膨潤組織状植物性蛋白質以外は特に限定されず、例えば、水、出汁、フォン、乳、卵、バター、クリーム、油脂、食材(肉、野菜、豆類、穀類等)のペースト又はピューレ、穀粉、澱粉、糖類、塩、調味料、及び、乳化剤、増粘剤、安定剤、着色料等の添加剤、などが挙げられる。また、該調味液に用いる原材料として、食用のアルコール又はアルコール含有成分を用いると、該膨潤組織状植物性蛋白質の植物に由来する異臭が抑制され、調味液の風味がさらに高まるため好ましい。本発明の膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液におけるアルコールの含有量は、該調味液の液状部分の体積中、好ましくは10体積%以下、より好ましくは0.1~10体積%、さらに好ましくは0.5~7体積%である。
【0028】
調味液の製造の際、前記膨潤組織状植物性蛋白質は、調味液製造の最初から原材料として用いてもよく、予め調製された調味液に後から添加して用いてもよい。好ましくは、該膨潤組織状植物性蛋白質は調味液中で加熱される。これにより、該膨潤組織状植物性蛋白質は、組織構造がより安定化するため弾力が増加して食感が向上する。該調味液中での加熱の温度は、好ましくは80℃以上、より好ましくは80~130℃である。
【0029】
本発明の膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液をレトルト加熱すると、含有される膨潤組織状植物性蛋白質の植物に由来する異臭が抑えられ、調味液の風味がより向上するため好ましい。該調味液のレトルト加熱は常法により行えばよく、例えば、耐熱性容器に膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液を充填して密封し、105~130℃で1~30分程度加熱すればよい。
【0030】
本発明の膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液は、通常の調味液と同様に利用することができる。例えば、麺類、飯類、肉、魚、野菜、液状食品等の各種食品の調味に使用してもよく、スープのような液状食品としてそれ自体を喫食してもよい。あるいは、本発明の膨潤組織状植物性蛋白質含有調味液にさらに具材やトッピング等を加えて喫食してもよい。
【実施例0031】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(製造例1-1)
組織状植物性蛋白質として、粒状大豆たんぱく質製品(脱脂大豆粉末をエクストルーダー処理したもの;蛋白質含量46質量%、水分含量6.8質量%、最小差し渡し長さ3~11mm、最大差し渡し長さ9~18mm)を用いた。
清水1000gを鍋に入れ、80℃に加熱後、組織状植物性蛋白質100gを加え、撹拌しながら80℃を維持して、該組織状植物性蛋白質を膨潤度350質量%になるまで膨潤させた(膨潤工程)。膨潤に要した時間は15分間であった。次いで、膨潤した組織状植物性蛋白質を鍋から出し、150秒後に別途用意した15℃の清水3000gを入れた容器に入れて10分間冷却し(冷却工程)、膨潤組織状植物性蛋白質を製造した。
【0033】
(比較例1-1~4)
比較例1-1:製造例1と同様の膨潤工程で得た膨潤度350質量%の組織状植物性蛋白質を、冷却工程を行わず、25℃の室温で冷却した。
比較例1-2:製造例1と同様に組織状植物性蛋白質を80℃の清水1000gに加えた後、1分後に鍋から出し、冷却工程に供して膨潤度350質量%になるまで膨潤させた。
比較例1-3:製造例1と同様に組織状植物性蛋白質を80℃の清水1000gに加えた後、1分後に鍋から出し、25℃の室温で冷却した。得られた組織状植物性蛋白質の膨潤度は116質量%であった。
比較例1-4:製造例1と同様の組織状植物性蛋白質を15℃の清水1000gを入れた容器に入れて膨潤度350質量%になるまで吸水させた。
【0034】
(試験例1)
製造例及び比較例の膨潤組織状植物性蛋白質の風味を、10名の訓練されたパネラーにより下記評価基準に従って評価し、10名の評価の平均点を求めた。結果を表1に示す。
(風味の評価基準)
5点:植物性蛋白質の臭みが全くなく、非常に良好。
4点:植物性蛋白質の臭みがほぼなく、良好。
3点:植物性蛋白質の臭みがわずかに感じられる。
2点:植物性蛋白質の臭みが感じられ、不良。
1点:植物性蛋白質の臭みが強く感じられ、非常に不良。
【0035】
【0036】
試験例2
膨潤工程の温度を表2のように変更した以外は、製造例1-1と同様の手順で組織状植物性蛋白質を製造し、試験例1と同様の手順で評価した。結果を表2に示す。
【0037】
【0038】
試験例3
膨潤工程後冷却工程までの時間を表3のように変更した以外は、製造例1-1と同様の手順で組織状植物性蛋白質を製造し、試験例1と同様の手順で評価した。結果を表3に示す。
【0039】
【0040】
試験例4
冷却工程の温度を表4のように変更した以外は、製造例1-1と同様の手順で組織状植物性蛋白質を製造し、試験例1と同様の手順で評価した。結果を表4に示す。
【0041】
【0042】
試験例5
組織状植物性蛋白質の膨潤度を表5のように変更した以外は、製造例1-1と同様の手順で組織状植物性蛋白質を製造し、試験例1と同様の手順で評価した。結果を表5に示す。なお表5には、製造例1-1の結果を再掲する。
【0043】
【0044】
試験例6
製造例1-1で得た膨潤組織状植物性蛋白質200gを、具材として市販のホワイトソース(アルコールを含まないもの)1000gに配合し、組織状植物性蛋白質含有調味液(ホワイトソース)を製造した。得られた調味液を表6の品温で5分間加熱した。さらに、加熱後の調味液の一部を耐熱性容器に封入し、130℃で5分間レトルト加熱した。
【0045】
製造した各組織状植物性蛋白質含有調味液の風味を、10名の訓練されたパネラーにより下記評価基準に従って評価し、10名の評価の平均点を求めた。結果を表6に示す。
【0046】
(風味の評価基準)
5点:植物性蛋白質の臭みが全くなく、非常に良好。
4点:植物性蛋白質の臭みがほぼなく、良好。
3点:植物性蛋白質の臭みがわずかに感じられる。
2点:植物性蛋白質の臭みが感じられ、不良。
1点:植物性蛋白質の臭みが強く感じられ、非常に不良。
【0047】
【0048】
試験例7
製造例2-2と同様の手順で、ただしアルコール濃度が表7のとおりとなるようにホワイトワインを配合して、組織状植物性蛋白質含有調味液(ホワイトソース)を製造した。製造した調味液を試験例6と同様の手順で評価した。結果を表7に示す。なお表7には、製造例2-2の結果を再掲する。
【0049】