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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023179982
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】強誘電体キャパシタ
(51)【国際特許分類】
   H10B 53/00 20230101AFI20231213BHJP
【FI】
H01L27/11502
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022092987
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100125298
【弁理士】
【氏名又は名称】塩田 伸
(72)【発明者】
【氏名】女屋 崇
(72)【発明者】
【氏名】森田 行則
(72)【発明者】
【氏名】太田 裕之
(72)【発明者】
【氏名】生田目 俊秀
【テーマコード(参考)】
5F083
【Fターム(参考)】
5F083FR01
5F083GA05
5F083GA06
5F083GA11
5F083JA60
5F083PR22
(57)【要約】
【課題】簡単な構造で、抗電界の上昇や書き換え耐性の劣化が抑制された強誘電体キャパシタを提供すること。
【解決手段】本発明の強誘電体キャパシタは、上部電極と、下部電極と、上部電極と下部電極との間にこれら電極と密着して配される強誘電体層と、を有し、上部電極と下部電極との少なくともいずれかの電極が、In、Ga、Zn、Sn、Ru、Ir及びSrの群から選択される少なくとも一つの金属元素を含む導電性の第1酸化物に対し、一つの前記金属元素による金属酸化物としてみたときの酸素かい離エネルギーが前記第1酸化物の中で最も大きい前記金属酸化物と比較して前記酸素かい離エネルギーが200kJ/mol以上大きい第2酸化物が前記第1酸化物よりも小さいモル比で添加された複合金属酸化物を含んで形成される複合金属酸化物電極で構成されることを特徴とする。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部電極と、下部電極と、前記上部電極と前記下部電極との間にこれら電極と密着して配される強誘電体層と、を有し、
前記上部電極と前記下部電極との少なくともいずれかの電極が、In、Ga、Zn、Sn、Ru、Ir及びSrの群から選択される少なくとも一つの金属元素を含む導電性の第1酸化物に対し、一つの前記金属元素による金属酸化物としてみたときの酸素かい離エネルギーが前記第1酸化物の中で最も大きい前記金属酸化物と比較して前記酸素かい離エネルギーが200kJ/mol以上大きい第2酸化物が前記第1酸化物よりも小さいモル比で添加された複合金属酸化物を含んで形成される複合金属酸化物電極で構成されることを特徴とする強誘電体キャパシタ。
【請求項2】
上部電極及び下部電極のそれぞれが複合金属酸化物電極で構成される請求項1に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項3】
複合金属酸化物電極の層に対し、強誘電体層と密着する面と反対側の面上にコンタクト電極が形成される請求項1又は2に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項4】
複合金属酸化物が、1モル部の第1酸化物に対して0.02モル部~0.5モル部の第2酸化物が添加されて形成される請求項1又は2に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項5】
複合金属酸化物が、Sn-O系酸化物、In-Sn-O系酸化物、Ga-Sn-O系酸化物、Zn-Sn-O系酸化物、In-Ga-Sn-O系酸化物、In-Zn-Sn-O系酸化物、Ga-Zn-Sn-O系酸化物及びIn-Ga-Zn-Sn-O系酸化物の群から選択される第1酸化物に対し、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む第2酸化物が添加されて形成される請求項1又は2に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項6】
複合金属酸化物が、In-O系酸化物、Ga-O系酸化物、Zn-O系酸化物、In-Ga-O系酸化物、In-Zn-O系酸化物、Ga-Zn-O系酸化物及びIn-Ga-Zn-O系酸化物の群から選択される第1酸化物に対し、Er、Dy、Ni、V、Ge、Ti、W、Nb、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む第2酸化物が添加されて形成される請求項1又は2に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項7】
複合金属酸化物が、In-O系酸化物に対し、Ti、W、Nb、Zr、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む第2酸化物が添加されて形成される請求項6に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項8】
複合金属酸化物が、In-W-O系酸化物及びIn-Si-O系酸化物の群から選択される酸化物を含む請求項7に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項9】
複合金属酸化物が、Ru-O系酸化物、Ir-O系酸化物、Sr-Ru-O系酸化物及びIn-Sr-Ru-O系酸化物の群から選択される第1酸化物に対し、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む第2酸化物が添加されて形成される請求項1又は2に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項10】
複合金属酸化物が、In-Sr-Ru-Si-O系酸化物を含む請求項9に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項11】
複合金属酸化物電極の膜厚が0.5nm~20nmである請求項1又は2に記載の強誘電体キャパシタ。
【請求項12】
複合金属酸化物電極の膜厚が0.5nm~2nmである請求項2に記載の強誘電体キャパシタ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電極材料の選択に基づき、優れた強誘電体特性を発揮する強誘電体キャパシタに関する。
【背景技術】
【0002】
AIやIoT等の先端技術の急速な発展により、膨大なデータを処理・蓄積できる高性能半導体デバイスの早期実現が要望されている。
こうした要望を適えるキーデバイスとして、2011年にHfOにSiやAl、Zr等を添加したHfO系強誘電体が報告されて以降、低消費電力で高速動作可能な不揮発性メモリである1トランジスタ-1キャパシタ(1T-1C)型で構成される強誘電体メモリ(FeRAM)が注目を浴びている(非特許文献1参照)。
【0003】
前記HfO系強誘電体は、Pb(Zr,Ti)O(PZT)やSrBiTa(SBT)といった既存のペロブスカイト系材料で限界を迎えていた薄膜化(10nm未満)が可能であり、CMOSプロセスとの親和性に優れている上に、原子層堆積(ALD)法の技術進展に伴って3次元構造上へ均質に成膜することも可能である。よって、これまで困難であった超高密度・高性能な強誘電体不揮発性メモリデバイスの実現も期待されている。
【0004】
前記HfO系強誘電体の強誘電相は、常温・常圧で準安定相で非中心対称の直方晶相(空間群:Pca2)であると考えられており、単位格子内の酸素原子が移動することで分極特性を示す。よって、前記HfO系強誘電体の強誘電性は、隣り合う界面材料との酸素原子の授受や界面層の形成に大きく左右されることが報告されている(非特許文献2参照)。
【0005】
これまで、前記HfO系強誘電体の強誘電相である前記直方晶相の形成を目的として、前記HfO系強誘電体と比べて熱膨張係数差が大きな金属や金属窒化物(WやTiN等)といった導電性材料が電極材料に用いられている(特許文献1、非特許文献3,4参照)。
しかし、WやTiNを電極材料として用いた場合、熱処理工程で前記HfO系強誘電体と電極の間で界面層が形成されることや、TiNのスカベンジング効果により熱処理時に前記HfO系強誘電体から酸素が電極側へ移動して、HfO系強誘電体の膜中に酸素欠損を形成することが知られている(非特許文献5参照)。
また、強誘電体トランジスタへの応用を目的としてSi上へ前記HfO系強誘電体の形成が試みられているが、前記HfO系強誘電体の層とSiの層との界面にSiO界面層が容易に形成されることが知られている(非特許文献6参照)。
このように、熱処理、成膜等のプロセス工程及び書き換え等のための電圧印加時に、電極とHfO系強誘電体との間に酸素空孔等の欠陥や界面層が容易に形成されやすく、これに伴う抗電界の上昇や、wake-up及び分極疲労の発生といった書き換え耐性の劣化が問題となっている(非特許文献6参照)。
【0006】
こうした問題を解決するため、上部電極と前記HfO系強誘電体との間にアモルファスの金属酸化物であるIn-Ga-Zn-O系酸化物及びIn-Ga-Zn-Sn-O系酸化物を挿入した強誘電体キャパシタが提案されている(非特許文献7,8参照)。
しかし、抗電界の上昇や書き換え耐性の劣化に対して十分な効果が得られない問題がある。
【0007】
また、TiN以外の導電性電極材料を使用可能とし、熱処理工程の削減、強誘電体材料の性能向上等を実現する目的で、強誘電体層を非強誘電性金属酸化物で挟み込んだ構造も提案されている(特許文献2参照)。
この提案では、2種以上の異なる前記非強誘電性金属酸化物の層を複数積層して複合積層物とし、前記複合積層物が前記強誘電体層とキャパシタ電極との間に配される。また、前記複合積層物の各層を構成する材料は、前記複合積層物全体の導電率が前記キャパシタ電極よりも低い導電率となるように選択される。
しかし、前記複合積層物は、多層構造であるため製造工程が煩雑で製造し難く、また、抗電界の上昇や書き換え耐性の劣化に対して十分な効果が得られない問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2015-015334号公報
【特許文献2】特開2021-073747号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】T. S. Boscke et al., Appl. Phys. Lett. 99, 102903 (2011).
【非特許文献2】M. Pesic et al., Adv. Funct. Mater. 26, 7486 (2016).
【非特許文献3】S. J. Kim et al., Appl. Phys. Lett. 111, 242901 (2017).
【非特許文献4】G. Karbasian et al., Appl. Phys. Lett. 111, 022907 (2017).
【非特許文献5】T. Ando, Materials 5, 478 (2012).
【非特許文献6】S. Oh et al., IEEE Electron Device Lett. 40(7), 1092 (2019).
【非特許文献7】F. Mo et al., Appl. Phys. Express 13, 074005 (2020).
【非特許文献8】J. Wu et al., VLSI Symposium on Technology, T16-2, June (2021).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、簡単な構造で、抗電界の上昇や書き換え耐性の劣化が抑制された強誘電体キャパシタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 上部電極と、下部電極と、前記上部電極と前記下部電極との間にこれら電極と密着して配される強誘電体層と、を有し、前記上部電極と前記下部電極との少なくともいずれかの電極が、In、Ga、Zn、Sn、Ru、Ir及びSrの群から選択される少なくとも一つの金属元素を含む導電性の第1酸化物に対し、一つの前記金属元素による金属酸化物としてみたときの酸素かい離エネルギーが前記第1酸化物の中で最も大きい前記金属酸化物と比較して前記酸素かい離エネルギーが200kJ/mol以上大きい第2酸化物が前記第1酸化物よりも小さいモル比で添加された複合金属酸化物を含んで形成される複合金属酸化物電極で構成されることを特徴とする強誘電体キャパシタ。
<2> 上部電極及び下部電極のそれぞれが複合金属酸化物電極で構成される前記<1>に記載の強誘電体キャパシタ。
<3> 複合金属酸化物電極の層に対し、強誘電体層と密着する面と反対側の面上にコンタクト電極が形成される前記<1>又は<2>のいずれかに記載の強誘電体キャパシタ。
<4> 複合金属酸化物が、1モル部の第1酸化物に対して0.02モル部~0.5モル部の第2酸化物が添加されて形成される前記<1>から<3>のいずれかに記載の強誘電体キャパシタ。
<5> 複合金属酸化物が、Sn-O系酸化物、In-Sn-O系酸化物、Ga-Sn-O系酸化物、Zn-Sn-O系酸化物、In-Ga-Sn-O系酸化物、In-Zn-Sn-O系酸化物、Ga-Zn-Sn-O系酸化物及びIn-Ga-Zn-Sn-O系酸化物の群から選択される第1酸化物に対し、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む第2酸化物が添加されて形成される前記<1>から<3>のいずれかに記載の強誘電体キャパシタ。
<6> 複合金属酸化物が、In-O系酸化物、Ga-O系酸化物、Zn-O系酸化物、In-Ga-O系酸化物、In-Zn-O系酸化物、Ga-Zn-O系酸化物及びIn-Ga-Zn-O系酸化物の群から選択される第1酸化物に対し、Er、Dy、Ni、V、Ge、Ti、W、Nb、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む第2酸化物が添加されて形成される前記<1>から<3>のいずれかに記載の強誘電体キャパシタ。
<7> 複合金属酸化物が、In-O系酸化物に対し、Ti、W、Nb、Zr、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む第2酸化物が添加されて形成される前記<6>に記載の強誘電体キャパシタ。
<8> 複合金属酸化物が、In-W-O系酸化物及びIn-Si-O系酸化物の群から選択される酸化物を含む前記<7>に記載の強誘電体キャパシタ。
<9> 複合金属酸化物が、Ru-O系酸化物、Ir-O系酸化物、Sr-Ru-O系酸化物及びIn-Sr-Ru-O系酸化物の群から選択される第1酸化物に対し、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む第2酸化物が添加されて形成される前記<1>から<3>のいずれかに記載の強誘電体キャパシタ。
<10> 複合金属酸化物が、In-Sr-Ru-Si-O系酸化物を含む前記<9>に記載の強誘電体キャパシタ。
<11> 複合金属酸化物電極の膜厚が0.5nm~20nmである前記<1>から<10>のいずれかに記載の強誘電体キャパシタ。
<12> 複合金属酸化物電極の膜厚が0.5nm~2nmである前記<2>に記載の強誘電体キャパシタ。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来技術における前記諸問題を解決することができ、簡単な構造で、抗電界の上昇や書き換え耐性の劣化が抑制された強誘電体キャパシタを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の第1実施形態に係る強誘電体キャパシタの断面構造図である。
図2】酸化物の酸素かい離エネルギーの一覧を掲載する図である。
図3】本発明の第2実施形態に係る強誘電体キャパシタの断面構造図である。
図4】実施例に係る強誘電体キャパシタの一の構成を示す斜視図である。
図5】実施例1,2及び比較例1に係る各強誘電体キャパシタの分極-電界特性の測定結果を示す図である。
図6】実施例1,2及び比較例1に係る各強誘電体キャパシタのエンデュランス特性(最大残留分極値で規格化した値)の測定結果を示す図である。
図7】実施例に係る強誘電体キャパシタの他の構成を示す斜視図である。
図8】実施例に係る強誘電体キャパシタの更に他の構成を示す斜視図である。
図9】実施例1,2,8,9及び比較例1に係る各強誘電体キャパシタのエンデュランス特性(複合金属酸化物電極を含まないコンタクト電極のみの試料の絶縁破壊書き換え回数で規格化した値)の測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[第1実施形態]
先ず、本発明の第1実施形態に係る強誘電体キャパシタについて、図面を参照しつつ、説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る強誘電体キャパシタの断面構造図である。
【0015】
図1に示すように、強誘電体キャパシタ10は、下部コンタクト電極12、下部電極13、強誘電体層14、上部電極15及び上部コンタクト電極16とを有する。
【0016】
下部電極13及び上部電極15は、強誘電体層14に電圧を印加するための一対の電極である。
第1実施形態における下部電極13及び上部電極15のそれぞれは、以下に説明する複合金属酸化物電極で構成される。
前記複合金属酸化物電極は、第1酸化物に対し、第2酸化物が添加された複合金属酸化物を含んで形成される電極である。
【0017】
前記第1酸化物は、In、Ga、Zn、Sn、Ru、Ir及びSrの群から選択される少なくとも一つの金属元素を含む導電性の酸化物である。
具体的な前記第1酸化物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、In-O系酸化物、Ga-O系酸化物、Zn-O系酸化物、Sn-O系酸化物、In-Ga-O系酸化物(IGO)、In-Zn-O系酸化物(IZO)、In-Sn-O系酸化物(ITO)、Ga-Zn-O系酸化物(GZO)、Ga-Sn-O系酸化物(GTO)、Zn-Sn-O系酸化物(ZTO)、In-Ga-Zn-O系酸化物(IGZO)、In-Ga-Sn-O系酸化物(IGTO)、In-Zn-Sn-O系酸化物(IZTO)、Ga-Zn-Sn-O系酸化物(GZTO)、In-Ga-Zn-Sn-O系酸化物(IGZTO)、Ru-O系酸化物、Ir-O系酸化物及びSr-Ru-O系酸化物等の導電性金属酸化物として好適に用いられる公知の酸化物が挙げられる。また、公知の形成方法に準じて形成される各種酸化物(例えば、In-Sr-Ru-O系酸化物等)が挙げられる。
なお、本明細書において、「導電性」とは、1×10-4Ω・m以下の抵抗率を有することを意味し、また、「系酸化物」とは、この表記の前に表記した元素を全て含む酸化物であるが、各元素の組成比が安定組成に加えてこの酸化物を成し得る全ての幅を有する酸化物であることを意味する。
【0018】
前述の前記第1酸化物の中でも、電極材料としてみたときの導電性の観点から、Inを含む酸化物が好ましい。
特に、Inを含む酸化物は、In単体では、成膜時に低温で容易に結晶化するものの、前記第2酸化物を添加することで結晶化開始温度を高温サイドにシフトすることができ、アモルファス構造が維持され易い。前記アモルファス構造を維持することで、結晶化した場合と比べて表面粗さを抑制することができ、リーク電流を低減することができる。
【0019】
前記第2酸化物は、前記第1酸化物に対し、一つの前記金属元素による金属酸化物としてみたときの酸素かい離エネルギーが前記第1酸化物の中で最も大きい前記金属酸化物と比較して前記酸素かい離エネルギーが200kJ/mol以上大きい酸化物である。
前記酸素かい離エネルギーの大きな前記第2酸化物を添加することで、従来の強誘電体キャパシタにおいて生じていた、抗電界の増加を引き起こす電極と強誘電体層との界面における界面層や酸素欠損等の欠陥形成を抑制でき、また、電圧印加による動作中に酸素原子が移動して生ずる新たな酸素欠損等の欠陥形成をも抑制できる。
こうした欠陥形成の抑制効果は、前記第1酸化物の酸素かい離エネルギーよりも大きな前記第2酸化物により付与され得るが、前記第1酸化物と前記第2酸化物との間の前記第1酸化物の酸素かい離エネルギーの差が大きい程、如実に現れることから、充分な差を与えて前記複合金属酸化物電極を構成する。
【0020】
前記第2酸化物は、導電性の前記第1酸化物に対し、前記第1酸化物よりも小さいモル比で添加される。
即ち、前記第1酸化物と前記第2酸化物とを含んで構成される前記複合金属酸化物電極において、前記第1酸化物の導電性が支配的な性質を示し、前記複合金属酸化物電極に導電性が付与される。
中でも、前記複合金属酸化物が、1モル部の前記第1酸化物に対して0.5モル部以下の割合で前記第2酸化物が添加されて形成されると、好適な導電性が得られる。
一方、前記複合金属酸化物が、1モル部の前記第1酸化物に対して0.02モル部未満の割合で前記第2酸化物が添加されて形成されると、前記酸素欠損等の欠陥形成を効果的に抑制できないことがある。
よって、前記複合金属酸化物としては、1モル部の前記第1酸化物に対して0.02モル部~0.5モル部で前記第2酸化物が添加されて形成されることが特に好ましい。
【0021】
前記第2酸化物ついて、図2を参照しつつ、より具体的に説明する。図2は、酸化物の酸素かい離エネルギーの一覧を掲載する図である。
図2に示す各元素は、図中、左上のCd(236kJ/mol)から右下のC(1,076kJ/mol)に向かって、酸化物としたときの前記酸素かい離エネルギーが大きくなるようにリスティングされ、各元素の右側にある数字が前記酸素かい離エネルギーの大きさ(kJ/mol)を示している。
前記第1酸化物に対する前記第2酸化物の選択は、図2を参照して行うことができる。
例えば、前記第1酸化物として一元酸化物であるIn酸化物を選択したとき、前記第2酸化物としては、図2にしたがって、In酸化物の前記酸素かい離エネルギー(346kJ/mol)よりも前記酸素かい離エネルギーが200kJ/mol以上大きなAm酸化物(553kJ/mol)以降の酸化物を選択することができる。
また、前記第1酸化物として三元酸化物であるIn-Ga-Zn-O系酸化物を選択したときは、図2にしたがって、一つの前記金属元素(In、Ga、Znの単一金属元素)による金属酸化物(In酸化物、Ga酸化物及びZn酸化物)としてみたときの酸素かい離エネルギーを把握し、これらの前記金属酸化物の中で最も大きい前記金属酸化物であるGa酸化物(374kJ/mol)よりも前記酸素かい離エネルギーが200kJ/mol以上大きなOs酸化物(575kJ/mol)以降の酸化物を選択することができる。
なお、前記酸化物の酸素かい離エネルギーの詳細については、下記参考文献1を参照して把握することができる。
参考文献1:Y.-R. Luo, Comprehensive Handbook of Chemical Bond Energies, CRC Press (2007).
【0022】
前記第2酸化物としては、前記第1酸化物に対し、上記の通りに選択することができるが、とりわけ、得られる前記複合金属酸化物電極の導電性の観点から、次の酸化物であることが好ましい。
即ち、前記第1酸化物がSn-O系酸化物、In-Sn-O系酸化物、Ga-Sn-O系酸化物、Zn-Sn-O系酸化物、In-Ga-Sn-O系酸化物、In-Zn-Sn-O系酸化物、Ga-Zn-Sn-O系酸化物及びIn-Ga-Zn-Sn-O系酸化物の群から選択される場合、前記第2酸化物としては、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物であることが好ましい。
また、前記第1酸化物がIn-O系酸化物、Ga-O系酸化物、Zn-O系酸化物、In-Ga-O系酸化物、In-Zn-O系酸化物、Ga-Zn-O系酸化物及びIn-Ga-Zn-O系酸化物の群から選択される場合、前記第2酸化物としては、Er、Dy、Ni、V、Ge、Ti、W、Nb、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物であることが好ましく、これらの中でも、材料の取扱い性及び入手容易性の観点から、前記第1酸化物としてIn-O系酸化物を選択し、前記第2酸化物としてTi、W、Nb、Zr、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物を選択することが特に好ましい。
また、前記第1酸化物がRu-O系酸化物、Ir-O系酸化物、Sr-Ru-O系酸化物及びIn-Sr-Ru-O系酸化物の群から選択される場合、前記第2酸化物としては、Zr、Ce、La、Si、Hf、Ta及びCの群から選択される少なくとも一つの元素を含む酸化物であることが好ましい。
【0023】
また、前記複合金属酸化物としては、上述の通り、前記第1酸化物及び前記第2酸化物の選択により種々の材料構成をとり得るが、前記第1酸化物及び前記第2酸化物の選択について説明した理由に基づき、とりわけ、In-W-O系酸化物及びIn-Si-O系酸化物のいずれかを含むことが好ましく、又は、In-Sr-Ru-Si-O系酸化物を含むことが好ましい。
なお、下部電極13及び上部電極15の双方を前記複合金属酸化物電極で構成する場合、下部電極13を構成する前記複合金属酸化物電極と、上部電極15を構成する前記複合金属酸化物電極とは、同種の前記複合金属酸化物で形成されてもよいし、異種の前記複合金属酸化物で形成されてもよい。
【0024】
また、前記複合金属酸化物としては、結晶状態であってもよいが、デバイス構成時の高性能化の観点から、アモルファス構造を有することが好ましい。前記アモルファス構造であると、結晶化した場合と比べて表面粗さを抑制することができ、リーク電流を低減することができる。
【0025】
前記複合金属酸化物電極の層の厚みとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、単分子膜として構成でき、かつ、電極としての働きが可能な低い抵抗値を得る観点から、薄くとも0.5nm以上が好ましく、また、デバイス構成時の高密度化の観点から、厚くとも100nm以下が好ましい。中でも、上記観点から、0.5nm~20nmが特に好ましい。
また、前記複合金属酸化物電極に対しコンタクト電極(下部コンタクト電極12,上部コンタクト電極16)を並設する場合、より薄膜化することも可能であり、この場合の前記複合金属酸化物電極の層の厚みとしては、0.5nm~2nmが特に好ましい。
なお、本明細書において「厚み」の方向は、下部電極13及び上部電極15の表記で説明した上下方向を意味する。
【0026】
前記複合金属酸化物の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記第1酸化物及び前記第2酸化物をターゲット材に用いた公知のDCスパッタリング法等が挙げられる。
なお、「前記複合金属酸化物が、前記第1酸化物に対し、前記第2酸化物が添加されて形成される」との記載は、前記複合金属酸化物の形成方法を特定するものではなく、最終的に形成される前記複合金属酸化物の組成中に、前記第1酸化物の成分と前記第2酸化物の成分とが含まれることを意味する。
例えば、前記複合金属酸化物としてのIn-Sr-Ru-Si-O系酸化物の幾つかの形成方法のうち、1つの形成方法では、前記第1酸化物を構成し得るSrRuOのターゲット材、及び、組成中に前記第2酸化物であるSiO成分と前記第1酸化物を構成し得るIn成分とを含むIn-Si-O系酸化物のターゲット材の2つのターゲット材を用いた共スパッタリング法によりIn-Sr-Ru-Si-O系酸化物の形成を行うが、このIn-Sr-Ru-Si-O系酸化物は、組成中に前記第1酸化物としてのIn-Sr-Ru-O系酸化物の成分と、前記第2酸化物としてのSiOの成分とを含み、前記第1酸化物に対し、前記第2酸化物が添加されて形成される前記複合金属酸化物に該当する。
【0027】
再び、図1を参照して、強誘電体層14は、上部電極15と下部電極13との間にこれら電極と密着して配される。
強誘電体層14の形成材料としては、特に制限はなく、公知の酸化物で形成される強誘電体材料の中から目的に応じて適宜選択することができる。
即ち、高性能デバイスを得る観点から、ハフニウム系酸化物(HfOにSi,Al,Zr等の異種元素をドーピングした酸化物)、ハフニウム酸化物(HfO)、ジルコニウム酸化物(ZrO)、ジルコニウム・ハフニウム酸化物(HfZr1-x、ただし、xは、0以上1未満の数値を示す)等の高性能強誘電体材料を好適に挙げることができるが、Pb(Zr,Ti)O(PZT)やSrBiTa(SBT)のペロブスカイト系材料等の酸化物で構成された強誘電体材料を選択しても、大きな前記酸素かい離エネルギーを持つ前記第2酸化物による酸素欠損等の欠陥形成の抑制効果が得られる。
また、強誘電体層14としては、こうした強誘電性金属酸化物と、AlOやTiO等の非強誘電性金属酸化物との複合積層構造物で構成されてもよい。なお、前記複合積層構造物としては、公知のものから適宜選択することができる。
【0028】
強誘電体層14の厚みとしては、特に制限はなく、形成材料にも依存するが、デバイス構成時の高密度化の観点から、薄いことが好ましく、前記高性能強誘電体材料を選択したときは、0.5nm~100nm程度が好ましく、前記ペロブスカイト系材料を選択したときは、その薄膜化限界に基づき10nm~100nm程度が好ましい。
【0029】
強誘電体層14の形成方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、公知の原子層堆積法(ALD法)等が挙げられる。
【0030】
下部コンタクト電極12及び上部コンタクト電極16は、下部電極13及び上部電極15の電極作用を補助するために配される。
即ち、これらコンタクト電極は、層状の下部電極13及び上部電極15(いずれも前記複合金属酸化物電極で構成される)に対し、下部電極13及び上部電極15の強誘電体層14と密着する面と反対側の面上に形成され、下部電極13及び上部電極15の電極作用を補助する。
【0031】
下部コンタクト電極12及び上部コンタクト電極16の形成材料としては、前記複合金属酸化物よりも低い抵抗率を有することが好ましく、公知の金属材料(例えば、AuやTi)、金属酸化物(例えば、RuOやIrO)及び金属窒化物(例えば、TiN)等から適宜選択することができる。また、これら下部コンタクト電極12及び上部コンタクト電極16は前記複合金属酸化物よりも低い抵抗率を有する材料の積層構造で形成されていてもよい。これら下部コンタクト電極12及び上部コンタクト電極16としては、選択材料に応じて、公知の方法により形成することができる。また、これら下部コンタクト電極12及び上部コンタクト電極16の厚みとしては、2nm~100nm程度が好ましい。
なお、下部電極13及び上部電極15の導電性が適用デバイスの目的からみて充分に高い場合には、下部コンタクト電極12及び上部コンタクト電極16は、不要である。
よって、下部コンタクト電極12及び上部コンタクト電極16は、任意の構成部材であり、強誘電体キャパシタ10から下部コンタクト電極12及び上部コンタクト電極16を取り除いた変形例も与えられる。
【0032】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態に係る強誘電体キャパシタについて、図3を参照しつつ、説明する。図3は、本発明の第2実施形態に係る強誘電体キャパシタの断面構造図である。
【0033】
図3に示すように、強誘電体キャパシタ20は、下部電極23、強誘電体層24、上部電極25及び上部コンタクト電極26とを有する。
強誘電体層24、上部電極25及び上部コンタクト電極26は、強誘電体キャパシタ10における強誘電体層14、上部電極15及び上部コンタクト電極16と同様に構成される。
また、下部電極23は、強誘電体キャパシタ10における下部コンタクト電極12と同様に構成される。
即ち、強誘電体キャパシタ20では、一対の下部電極23及び上部電極25のうち、上部電極25のみが前記複合金属酸化物電極で構成される。
このような強誘電体キャパシタ20においても、強誘電体層24の上面側において、前記複合金属酸化物電極に含まれる大きな前記酸素かい離エネルギーを持つ前記第2酸化物による酸素欠損等の欠陥形成の抑制効果が得られる。
なお、上部コンタクト電極26は、任意の構成部材であり、強誘電体キャパシタ20から上部コンタクト電極26を取り除いた変形例も与えられる。
【実施例0034】
(実施例1;InにWOが添加された複合金属酸化物電極)
本発明の効果を実証するため、図4に示す構成で、実施例に係る強誘電体キャパシタを製造した。なお、図4は、実施例に係る強誘電体キャパシタの一の構成を示す斜視図である。
【0035】
実施例1に係る強誘電体キャパシタは、次のように製造した。
先ず、バッファードフッ酸(BHF)処理したp型Si基板31上に下部電極33としてのTiN層をDCスパッタリング法により厚み15nmで成膜した。
次に、下部電極33上に強誘電体層34としてのHfZr1-x(HZO)(Hf/Zr=0.43:0.57)層を原子層堆積法(ALD)法により厚み10nmで成膜した。
次に、強誘電体層34上に複合金属酸化物電極である上部電極35を形成した。
ここで、上部電極35は、Inに対し、酸素かい離エネルギーがIn(346kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなWO(720kJ/mol)が添加されたIn-W-O系酸化物(IWO)で形成することとし、ターゲット材の組成調整によりInの1mol%当たりWOが0.11mol%の割合(In:WO=1mol%:0.11mol%)でInとWOとが含まれるIn-W-O系酸化物電極として、DCスパッタリング法(DC power:200W、プロセスガス流量:Ar 6sccm/O 6sccm、基板温度:室温(23℃))により厚み10nmで成膜した。
次に、400℃で1分間、大気中で急速加熱処理した。
次に、上部電極35上にコンタクト電極36としてのTi層(厚み10nm)とAu層(厚み100nm)との積層電極を抵抗加熱蒸着法により成膜した。
なお、上部電極35及びコンタクト電極36は、ステンシルマスクを用いて全体が円柱状の積層体として形成した。
以上により、実施例1に係る強誘電体キャパシタとして、強誘電体キャパシタ30を製造した。
【0036】
(実施例2;InにSiOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、Inに対し、酸素かい離エネルギーがIn(346kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたIn-Si-O系酸化物(ISO)で形成することとし、ターゲット材の組成調整によりInの1mol%当たりSiOが0.26mol%の割合(In:SiO=1mol%:0.26mol%)でInとSiOとが含まれるIn-Si-O系酸化物電極として、前記DCスパッタリング法(DC power:200W、プロセスガス流量:Ar 6sccm/O 6sccm、基板温度:室温(23℃))により厚み10nmで成膜したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0037】
(比較例1;InにGaとZnOとが添加された電極(IGZO電極))
上部電極35を、In-Ga-Zn-O系酸化物(IGZO)で形成することとし、ターゲット材の組成調整によりInとGaとZnOとが等モル量ずつ含まれるIn-Ga-Zn-O系酸化物電極として、前記DCスパッタリング法(DC power:100W、プロセスガス流量:Ar 21.2sccm/O 1.5sccm、基板温度:室温(23℃))により厚み10nmで成膜したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0038】
図5に、実施例1,2及び比較例1に係る各強誘電体キャパシタの分極-電界特性の測定結果を示す。
【0039】
図5に示すように、実施例1,2及び比較例1に係る各強誘電体キャパシタにおいて強誘電性に起因する明瞭なヒステリシスループが確認される。
一方、実施例1に係る強誘電体キャパシタ(In-W-O系酸化物電極を使用)の抗電界は1.30MV/cm、実施例2に係る強誘電体キャパシタ(In-Si-O系酸化物電極を使用)の抗電界は1.29MV/cmであり、Inに対しInと同等又はそれ以下の酸素かい離エネルギーを有するGa及びZnOを添加したIn-Ga-Zn-O系酸化物電極を使用した比較例1に係る強誘電体キャパシタの抗電界1.59MV/cmよりも小さな値を示した。
これは、上部電極35を酸素かい離エネルギーが大きな複合金属酸化物電極で構成したことで、抗電界の増加を引き起こす上部電極35と強誘電体層34との界面における界面層や酸素欠損等の欠陥の形成を抑制できたためであると考えられる。
【0040】
図6に、実施例1,2及び比較例1に係る各強誘電体キャパシタのエンデュランス特性(最大残留分極値で規格化した値)の測定結果を示す。
【0041】
図6に示すように、実施例1に係る強誘電体キャパシタ(In-W-O系酸化物電極を使用)と、実施例2に係る強誘電体キャパシタ(In-Si-O系酸化物電極を使用)とは、Inに対しInと同等又はそれ以下の酸素かい離エネルギーを有するGa及びZnOを添加したIn-Ga-Zn-O系酸化物電極を使用した比較例1に係る強誘電体キャパシタと比べて、小さなwake-up及び分極疲労特性を示した。
【0042】
また、図6に示すように、Inに添加した酸化物の酸素かい離エネルギーが大きくなると共に書き換え可能回数が増加し、比較例1に係る強誘電キャパシタ(In-Ga-Zn-O系酸化物電極を使用)で4.0×10回、実施例1に係る強誘電体キャパシタ(In-W-O系酸化物電極を使用)で1.0×10回、実施例2に係る強誘電体キャパシタ(In-Si-O系酸化物電極を使用)で1.6×10回の書き換え可能回数となった。
【0043】
これら図6に示される結果は、上部電極35を酸素かい離エネルギーが大きな複合金属酸化物電極で構成することで、製造過程で形成される意図しない界面層や酸素欠損等の欠陥だけでなく、電圧印加による動作中に酸素原子が移動して生ずる酸素欠損等の欠陥形成をも抑制できるとの考察を支持し、この抑制効果は、酸素かい離エネルギーの大きさに依存して発揮されると考えられる。
【0044】
(実施例3;In-Sn-O系酸化物にSiOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、In-Sn-O系酸化物(ITO)に対し、酸素かい離エネルギーがSnO(528kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたIn-Sn-Si-O系酸化物で形成することとし、Inの1mol%当たりSnOが0.20mol%の割合で含まれるIn-Sn-O及びSiOターゲットを用いた共スパッタリング法において、In-Sn-OターゲットによるスパッタリングをDC方式で実施し、SiOターゲットによるスパッタリングをRF方式で実施し、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでInの1mol%当たりSiOが0.24mol%の割合(In:SnO:SiO=1mol%:0.20mol%:0.24mol%)でInとSnOとSiOとが含まれるIn-Sn-Si-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このIn-Sn-Si-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0045】
(実施例4;SnOにSiOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、SnOに対し、酸素かい離エネルギーがSnO(528kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたSn-Si-O系酸化物で形成することとし、SnO及びSiOターゲットを用いた共スパッタリング法において、SnOターゲットによるスパッタリングをDC方式で実施し、SiOターゲットによるスパッタリングをRF方式で実施し、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでSnOの1mol%当たりSiOが0.20mol%の割合(SnO:SiO=1mol%:0.20mol%)でSnOとSiOとが含まれるSn-Si-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このSn-Si-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0046】
(実施例5;In-Ga-Zn-O系酸化物にWOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、In-Ga-Zn-O系酸化物(IGZO)に対し、酸素かい離エネルギーがGaO(374kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなWO(720kJ/mol)が添加されたIn-Ga-Zn-W-O系酸化物で形成することとし、InとGaとZnOとが等モル量ずつ含まれるIn-Ga-Zn-O及びWOターゲットを用いた共スパッタリング法において、In-Ga-Zn-OターゲットによるスパッタリングをDC方式で実施し、WOターゲットによるスパッタリングをRF方式で実施し、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでInとGaとZnOの1mol%当たりWOが0.24mol%の割合(In:Ga:ZnO:WO=1mol%:1mol%:1mol%:0.24mol%)でInとGaとZnOとWOとが含まれるIn-Ga-Zn-W-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このIn-Ga-Zn-W-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0047】
(実施例6;GaにSiOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、Gaに対し、酸素かい離エネルギーがGa(374kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたGa-Si-O系酸化物で形成することとし、Ga及びSiOターゲットを用いた共スパッタリング法において、GaターゲットによるスパッタリングをDC方式で実施し、SiOターゲットによるスパッタリングをRF方式で実施し、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでGaの1mol%当たりSiOが0.11mol%の割合(Ga:SiO=1mol%:0.11mol%)でGaとSiOとが含まれるGa-Si-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このGa-Si-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0048】
(実施例7;ZnOにSiOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、ZnOに対し、酸素かい離エネルギーがZnO(250kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたZn-Si-O系酸化物で形成することとし、ZnO及びSiOターゲットを用いた共スパッタリング法において、ZnOターゲットによるスパッタリングをDC方式で実施し、SiOターゲットによるスパッタリングをRF方式で実施し、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでZnOの1mol%当たりSiOが0.12mol%の割合(ZnO:SiO=1mol%:0.12mol%)でZnOとSiOとが含まれるZn-Si-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このZn-Si-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0049】
(実施例8;RuOにSiOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、RuOに対し、酸素かい離エネルギーがRuO(528kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたRu-Si-O系酸化物で形成することとし、RuO及びSiOターゲットを用いたRF方式の共スパッタリング法において、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでRuOの1mol%当たりSiOが0.28mol%の割合(RuO:SiO=1mol%:0.28mol%)でRuOとSiOとが含まれるRu-Si-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このRu-Si-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0050】
(実施例9;IrOにSiOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、IrOに対し、酸素かい離エネルギーがIrO(414kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたIr-Si-O系酸化物で形成することとし、IrO及びSiOターゲットを用いたRF方式の共スパッタリング法において、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでIrOの1mol%当たりSiOが0.23mol%の割合(IrO:SiO=1mol%:0.23mol%)でIrOとSiOとが含まれるIr-Si-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このIr-Si-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0051】
(実施例10;SrRuOにSiOが添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、SrRuOに対し、酸素かい離エネルギーがRuO(528kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたSr-Ru-Si-O系酸化物で形成することとし、SrRuO及びSiOターゲットを用いたRF方式の共スパッタリング法において、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでSrRuOの1mol%当たりSiOが0.16mol%の割合(SrRuO:SiO=1mol%:0.16mol%)でSrRuOとSiOとが含まれるSr-Ru-Si-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このSr-Ru-Si-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0052】
(実施例11;SrRuOにIn-Si-O系酸化物が添加された複合金属酸化物電極)
上部電極35を、SrRuOに対し、酸素かい離エネルギーがRuO(528kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたIn-Si-O系酸化物を含むIn-Sr-Ru-Si-O系酸化物で形成することとし、SrRuOターゲット、及び、組成調整によりInの1mol%当たりSiOが0.26mol%の割合(In:SiO=1mol%:0.26mol%)でInとSiOとが含まれるIn-Si-O系酸化物ターゲットを用いた共スパッタリング法において、SrRuOターゲットによるスパッタリングをRF方式で実施し、In-Si-O系酸化物ターゲットによるスパッタリングをDC方式で実施し、各々のスパッタリングパワーの比率を変えることでSrRuOの1mol%当たりInが0.88mol%、SiOが0.23mol%の割合(SrRuO:In:SiO=1mol%:0.88mol%:0.23mol%)でSrRuOとInとSiOとが含まれるIn-Sr-Ru-Si-O系酸化物電極を厚み10nmで成膜し、このIn-Sr-Ru-Si-O系酸化物電極を上部電極35としたこと以外は、実施例1と同様にして、実施例11に係る強誘電体キャパシタを製造した。
【0053】
実施例3~11に係る各強誘電体キャパシタでは、実施例1,2に係る各強誘電体キャパシタと同様、比較例1に係る強誘電体キャパシタを上回る良好な強誘電性及びエンデュランス特性が得られている。
これらの結果は、前記複合金属酸化物電極の構成材料を変更しても、前記第1酸化物に対して酸素かい離エネルギーが大きい前記第2酸化物を添加するものであれば、優れた強誘電性及びエンデュランス特性を持つ前記強誘電体キャパシタが得られることを意味する。
【0054】
(実施例12:下部電極に適用された複合金属酸化物電極)
また、図7に示す構成で、別の実施例に係る強誘電体キャパシタを製造した。なお、図7は、実施例に係る強誘電体キャパシタの他の構成を示す斜視図である。図7に示す強誘電体キャパシタ40は、図4に示す強誘電体キャパシタ30と異なり、下部電極43が前記複合金属酸化物電極で構成され、かつ、上部側の電極が上部コンタクト電極36と同様に形成される上部電極45のみで構成される。
【0055】
実施例12に係る強誘電体キャパシタは、次のように製造した。
先ず、バッファードフッ酸(BHF)処理したp型Si基板41上にコンタクト電極42としてのTiN層をDCスパッタリング法により厚み15nmで成膜した。
次に、コンタクト電極42上に複合金属酸化物電極である下部電極43を形成した。
ここで、下部電極43は、Inに対し、酸素かい離エネルギーがIn(346kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたIn-Si-O系酸化物(ISO)で形成することとし、ターゲット材の組成調整によりInの1mol%当たりSiOが0.26mol%の割合(In:SiO=1mol%:0.26mol%)でInとSiOとが含まれるIn-Si-O系酸化物電極として、DCスパッタリング法(DC power:200W、プロセスガス流量:Ar 6sccm/O 6sccm、基板温度:室温(23℃))により厚み10nmで成膜した。
次に、下部電極43上に強誘電体層44としてのHfZr1-x(HZO)(Hf/Zr=0.43:0.57)層を原子層堆積法(ALD)法により厚み10nmで成膜した。
次に、400℃で1分間、大気中で急速加熱処理した。
次に、強誘電体層44上に上部電極45としてのTi層(厚み10nm)とAu層(厚み100nm)との積層電極を抵抗加熱蒸着法により成膜した。
以上により、実施例12に係る強誘電体キャパシタとして、強誘電体キャパシタ40を製造した。
【0056】
(実施例13:上部電極及び下部電極の両電極に適用された複合金属酸化物電極)
また、図8に示す構成で、更に別の実施例に係る強誘電体キャパシタを製造した。なお、図8は、実施例に係る強誘電体キャパシタの更に他の構成を示す斜視図である。図8に示す強誘電体キャパシタ50は、図4及び図7に示す強誘電体キャパシタ30及び40と異なり、上部電極55及び下部電極53の両電極が前記複合金属酸化物電極で構成される。
【0057】
実施例13に係る強誘電体キャパシタは、次のように製造した。
先ず、バッファードフッ酸(BHF)処理したp型Si基板51上にコンタクト電極52としてのTiN層をDCスパッタリング法により厚み15nmで成膜した。
次に、コンタクト電極52上に複合金属酸化物電極である下部電極53を形成した。
ここで、下部電極53は、Inに対し、酸素かい離エネルギーがIn(346kJ/mol)よりも200kJ/mol以上大きなSiO(799kJ/mol)が添加されたIn-Si-O系酸化物(ISO)で形成することとし、ターゲット材の組成調整によりInの1mol%当たりSiOが0.26mol%の割合(In:SiO=1mol%:0.26mol%)でInとSiOとが含まれるIn-Si-O系酸化物電極として、DCスパッタリング法(DC power:200W、プロセスガス流量:Ar 6sccm/O 6sccm、基板温度:室温(23℃))により厚み10nmで成膜した。
次に、下部電極53上に強誘電体層54としてのHfZr1-x(HZO)(Hf/Zr=0.43:0.57)層を原子層堆積法(ALD)法により厚み10nmで成膜した。
次に、下部電極53と同様の形成方法により、強誘電体層54上に前記複合金属酸化物電極である上部電極55、つまり、Inの1mol%当たりSiOが0.26mol%の割合(In:SiO=1mol%:0.26mol%)でInとSiOとが含まれるIn-Si-O系酸化物電極の層を厚み10nmで成膜した。
次に、400℃で1分間、大気中で急速加熱処理した。
次に、上部電極55上にコンタクト電極56としてのTi層(厚み10nm)とAu層(厚み100nm)との積層電極を抵抗加熱蒸着法により成膜した。
以上により、実施例13に係る強誘電体キャパシタとして、強誘電体キャパシタ50を製造した。
【0058】
図9に、実施例1,2,12,13及び比較例1に係る各強誘電体キャパシタのエンデュランス特性(複合金属酸化物電極を含まないコンタクト電極のみの試料における絶縁破壊書き換え回数で規格化した値)の測定結果を示す。
【0059】
図9に示すように、Inに添加した酸化物の酸素かい離エネルギーが大きくなると共に、規格化された絶縁破壊書き換え回数が増加することが確認される。これは、規格化前の書き換え可能回数に関する、図6に示した結果と共通する。
【0060】
また、図9に示すように、複合金属酸化物電極としてIn-Si-O系酸化物(ISO)を用いた場合、複合金属酸化物電極が上部電極35のみに適用される実施例2に係る強誘電体キャパシタと、複合金属酸化物電極が下部電極43のみに適用される実施例12に係る強誘電体キャパシタとで、実施例12に係る強誘電体キャパシタの方が書き換え可能回数が増加する結果が得られた。
これは、上部電極35(複合金属酸化物電極)の形成後に400℃で1分間の急速加熱処理を行って製造した実施例2に係る強誘電体キャパシタと、上部電極45の形成前に400℃で1分間の急速加熱処理を行って製造した実施例12に係る強誘電体キャパシタとでは、自身及び周囲の層によって、急速加熱処理時に強誘電体層34と強誘電体層44とが異なる熱膨張の影響を受け、同じHfZr1-x(HZO)の層であっても、実施例12における強誘電体層44の方が、より安定した強誘電相を得るに至ったことが原因として考えられる。
【0061】
また、図9に示すように、実施例13に係る強誘電体キャパシタ50では、実施例2の上部電極35のみの強誘電体キャパシタ30及び実施例12の下部電極43のみの強誘電体キャパシタ40よりも書き換え可能回数が増加しており、実施例1~12に係る各強誘電体キャパシタの中でも、最も良好な強誘電性及びエンデュランス特性が得られている。
即ち、実施例13に係る強誘電体キャパシタでは、上部電極55及び下部電極53の両電極が前記複合金属酸化物電極で構成されることで、強誘電体層54-上部電極55間と、強誘電体層54-下部電極53間との2つの界面で、酸素空孔等の欠陥や意図しない界面層の形成を抑制できているものと考えられる。
【符号の説明】
【0062】
10,20,30,40,50 強誘電体キャパシタ
12,22,32,42,52 下部コンタクト電極
13,43,53 下部電極(複合金属酸化物電極)
14,24,34,44,54 強誘電体層
15,25,35,55 上部電極(複合金属酸化物電極)
16,26,36,56 上部コンタクト電極
23,33 下部電極
31,41,51 基板
45 上部電極

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9