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特開2023-180122マグネシウム合金の鋳造装置および鋳造方法
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  • 特開-マグネシウム合金の鋳造装置および鋳造方法 図1
  • 特開-マグネシウム合金の鋳造装置および鋳造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180122
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】マグネシウム合金の鋳造装置および鋳造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 21/04 20060101AFI20231213BHJP
   C22B 26/22 20060101ALI20231213BHJP
   C22B 9/00 20060101ALI20231213BHJP
   B22D 18/04 20060101ALI20231213BHJP
   B22D 18/06 20060101ALI20231213BHJP
   B22D 23/00 20060101ALI20231213BHJP
   B22D 2/00 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
B22D21/04 B
C22B26/22
C22B9/00
B22D18/04 Z
B22D18/06 509P
B22D18/06 509Q
B22D18/04 M
B22D23/00 B
B22D2/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093248
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】席 特日格楽
(72)【発明者】
【氏名】後藤 崇之
(72)【発明者】
【氏名】山浦 秀樹
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA38
4K001BA23
4K001FA14
4K001GA19
(57)【要約】
【課題】マグネシウム合金の溶解・鋳造において、成分分析や清浄度評価等の評価が可能であるマグネシウム合金の鋳造装置および鋳造方法を提供する。
【解決手段】マグネシウム合金を溶解した溶湯を保持する溶解炉と、分析用の鋳造品を取得するための第1の金型を収容する第1の鋳造チャンバーと、製品製造のための第2の金型を収容する第2の鋳造チャンバーと、前記溶解炉と前記第1の鋳造チャンバーとを繋ぐ第1の溶湯移送管と、前記溶解炉と前記第2の鋳造チャンバーとを繋ぐ第2の溶湯移送管とを有し、前記溶解炉と、前記第1の鋳造チャンバーまたは前記第2の鋳造チャンバーとの間の差圧により前記溶湯を移送することを特徴とする。
【選択図】図1


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム合金を溶解した溶湯を保持する溶解炉と、
分析用の鋳造品を取得するための第1の金型を収容する第1の鋳造チャンバーと、
製品製造のための第2の金型を収容する第2の鋳造チャンバーと、
前記溶解炉と前記第1の鋳造チャンバーとを繋ぐ第1の溶湯移送管と、
前記溶解炉と前記第2の鋳造チャンバーとを繋ぐ第2の溶湯移送管とを有し、
前記溶解炉と、前記第1の鋳造チャンバーまたは前記第2の鋳造チャンバーとの間の差圧により前記溶湯を移送する
ことを特徴とするマグネシウム合金の鋳造装置。
【請求項2】
前記第1の金型の鋳造量は、1~10kgである
ことを特徴とする請求項1に記載のマグネシウム合金の鋳造装置。
【請求項3】
前記第1の金型の鋳造量は、前記第2の金型の鋳造量の1/250~1/25である
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載のマグネシウム合金の鋳造装置。
【請求項4】
溶解炉でマグネシウム合金原料を溶解して溶湯とし、
第1の溶湯移送管を介して分析用の鋳造品を取得するための第1の金型を収容する第1の鋳造チャンバーに前記溶湯を移送し、
前記第1の金型で鋳造された分析用の前記鋳造品を評価し、
前記鋳造品を評価した結果に基づいて、成分調整用の原料を前記溶解炉に投入して前記溶湯の成分を調整した後、
第2の溶湯移送管を介して製品製造ための第2の金型を収容する第2の鋳造チャンバーに前記溶湯を移送して鋳造し製品用の鋳造品を得る
ことを特徴とするマグネシウム合金の鋳造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム合金を溶解・鋳造する鋳造装置および鋳造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム合金の溶解・鋳造では、溶解中に溶湯が酸素に触れると発火する危険性があるため、保護ガス(例えばSF6)中で溶解されることが多い。また溶湯表面の酸化膜の生成を避けるために、容器内を密閉状態にして、不活性ガス雰囲気(例えばArガス)で溶解することもある。鋳造する際には、溶解炉側を加圧して鋳造する(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6-154992号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
密閉容器内で溶解するマグネシウム合金が鋳造後、目的の組成であるか確認するためには、溶湯冷却の後、密閉鋳造チャンバーを開放し大気雰囲気にしてから、鋳造塊を取り出して分析装置で確認する必要がある。しかし全量鋳造後に成分分析し目的組成から外れていることが判明した場合、作製した鋳造塊は不合格品になり、配合量を再調整して再溶解・鋳造することが必要になり工数およびコストを要する。
【0005】
また、密閉容器内の溶解・鋳造では、溶湯の清浄度の評価もできない。一般的な清浄度評価手法としては、鋳造材のX線評価、K-mold法等がある。しかし密閉容器では、真空状態あるいは不活性ガス雰囲気を維持するため、清浄度評価用のテストピースの取り出しが難しい。
【0006】
このように、従来の雰囲気ガス密閉容器内のマグネシウム合金の溶解・鋳造においては、鋳造中に溶湯の取り出しができないため、溶湯の分析ができず、成分調整や清浄度評価ができない。そのため全量鋳造して分析し、次回の溶解の機会にしか成分調整ができず、製造工数が多くなりコストが増大するという課題がある。
【0007】
そこで本発明では、マグネシウム合金の溶解・鋳造において、成分分析や清浄度評価等の評価が可能であるマグネシウム合金の鋳造装置および鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のマグネシウム合金の鋳造装置は、マグネシウム合金を溶解した溶湯を保持する溶解炉と、分析用の鋳造品を取得するための第1の金型を収容する第1の鋳造チャンバーと、製品製造のための第2の金型を収容する第2の鋳造チャンバーと、前記溶解炉と前記第1の鋳造チャンバーとを繋ぐ第1の溶湯移送管と、前記溶解炉と前記第2の鋳造チャンバーとを繋ぐ第2の溶湯移送管とを有し、前記溶解炉と、前記第1の鋳造チャンバーまたは前記第2の鋳造チャンバーとの間の差圧により前記溶湯を移送することを特徴とする。
【0009】
また、前記第1の金型の鋳造量は、1~10kgであることが好ましい。
【0010】
また、前記第1の金型の鋳造量は、前記第2の金型の鋳造量の1/250~1/25であることが好ましい。
【0011】
本発明のマグネシウム合金の鋳造方法は、溶解炉でマグネシウム合金原料を溶解して溶湯とし、第1の溶湯移送管を介して分析用の鋳造品を取得するための第1の金型を収容する第1の鋳造チャンバーに前記溶湯を移送し、前記第1の金型で鋳造された分析用の前記鋳造品を評価し、前記鋳造品を評価した結果に基づいて、成分調整用の原料を前記溶解炉に投入して前記溶湯の成分を調整した後、第2の溶湯移送管を介して製品製造ための第2の金型を収容する第2の鋳造チャンバーに前記溶湯を移送して鋳造し製品用の鋳造品を得ることを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、マグネシウム合金の溶解・鋳造において、成分分析や清浄度評価等の評価が可能であるマグネシウム合金の鋳造装置および鋳造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のマグネシウム合金の鋳造装置の一例を示す模式図である。
図2】本発明のマグネシウム合金の溶解・鋳造方法を示すフローである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図面は、本発明の理解を優先するために構成を模式的に示したものである。また、本発明は、以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0015】
図1は、本発明の一実施形態を示す模式図である。本発明のマグネシウム合金の鋳造装置は、金属原料であるマグネシウム合金が溶解した溶湯Nを保持するための密閉容器である溶解炉M、分析用として少量の鋳造品を取得するための密閉容器である鋳造チャンバーA(第1の鋳造チャンバー)、製品用のマグネシウム合金鋳造品を鋳造するための密閉容器である鋳造チャンバーB(第2の鋳造チャンバー)を備える。さらに、溶解炉Mから鋳造チャンバーAへ溶湯Nを移送するための溶湯移送管3a(第1の溶湯移送管)、および溶解炉Mから鋳造チャンバーBへ溶湯Nを移送するための溶湯移送管3b(第2の溶湯移送管)を具備している。
【0016】
溶解炉Mには、溶解炉M内を減圧/加圧するための真空排気/Arガス加圧配管2cで真空ポンプおよびArガス配管が接続されている。また、溶解炉Mには金属原料を投入用するための投入チャンバー(図示省略)が接続されている。この投入チャンバー自体も独自に減圧/加圧するために溶解炉Mとの接続部にゲート弁を備え真空排気/Arガス加圧ができる。溶解炉Mには、溶湯Nを均質に撹拌するための撹拌羽根6、および脱ガス用Ar導入パイプ(図示省略)が設置されている。さらに、溶解炉ヒータ(図示省略)や溶湯Nの温度制御/監視用の熱電対8等が設置されている。密閉された溶解炉M内で加熱された状態においても溶湯Nの液量を監視用できる液面センサー7が設置されている。溶解炉Mの溶解容量は、例えば50~250kgである。
【0017】
ここで液面センサー7は金属棒であり、溶湯Nの液面と所定位置に設置した金属棒先端が接触することによる導通の有無を感知して、溶湯Nの液面高さを測定することができる。金属棒先端を設置する位置を上下に動かすことで、測定できる液面高さ位置を調整することができる。金属棒と溶解炉Mの上蓋との接続部はセラミック又は樹脂などの絶縁材料を用いることで溶湯N以外との通電をなくしている。液面センサー7は溶解炉M内のほか、鋳造チャンバーA/B内の金型1a/1b内の所定高さに設置することで鋳造量を測定することも可能である。
【0018】
鋳造チャンバーBは製品製造用として設置されており、内部に金型1b(第2の金型)を備えている。金型1bは、例えば25~250kgの鋳造量に対応可能な構造である。鋳造チャンバーBは溶湯移送管3bにより溶解炉Mと接続されている。そして、鋳造チャンバーB内の金型1bに溶湯Nを鋳込むための減圧/加圧を行うため、真空排気/Arガス加圧配管2bで真空ポンプおよびArガス配管と接続されている。鋳造チャンバーBの密閉性の確保および減圧/加圧を可能とするため、溶湯移送管3bにはゲート弁4bが取付けられている。
【0019】
鋳造チャンバーAは分析用の少量鋳造用として設置されており、内部に金型1a(第1の金型)を備えている。金型1aは、溶湯Nを分析・評価するために、例えば1~10kg程度の少量の鋳造量に対応可能な構造としている。つまり、分析用の金型1aの鋳造量は、製品製造用の金型1bの鋳造量の1/250~1/25であることが好ましい。また、金型1aは、評価手段(例えば成分分析、清浄度評価等)に応じて、適切な形状の金型を使用する。鋳造チャンバーAは溶湯移送管3aで溶解炉Mと接続されている。そして、鋳造チャンバーA内の金型1aに溶湯Nを鋳込むための減圧/加圧を行うため、真空排気/Arガス加圧配管2aで真空ポンプおよびArガス配管と接続されている。鋳造チャンバーAの密閉性の確保および減圧/加圧を可能とするため、溶湯移送管3aにはゲート弁4aが取付けられている。そして、鋳造チャンバーAは、金型1aや試料の取り出し作業を簡易にするための開放扉5を備えている。このような構造とすることにより、成分分析等を評価するための少量鋳造品を取り出すことが可能となる。
【0020】
次に、上述の鋳造装置を用いたマグネシウム合金溶解・鋳造方法を図2のフローにより示す。
【0021】
投入チャンバーから溶解炉Mに金属原料であるマグネシウム合金を投入後(手順1)、投入チャンバーと接続されているゲート弁を閉め、真空排気/Arガス加圧配管2cより真空排気およびArガス導入して不活性雰囲気に置換する(手順2)。
【0022】
次に、溶解炉Mを昇温して、金属原料を溶解する(手順3)。溶解し溶湯Nになったら攪拌羽根6を使用して溶湯Nを均一にする。攪拌、脱ガス、静置などを行った後(手順4)、溶解炉Mから鋳造チャンバーBへ全量鋳造する前に、以下の手順により、溶湯事前評価(例えば成分確認、清浄度評価)を行うことができる。
【0023】
具体的には、溶湯Nを鋳造チャンバーBに移送・鋳造することなく、鋳造チャンバーAに移送・鋳造するために、鋳造チャンバーBおよび溶解炉Mを、Arガスで例えば15kPaに加圧するとともに、鋳造チャンバーAを-15kPaに減圧する。鋳造チャンバーBおよび溶解炉Mと、鋳造チャンバーAの間の差圧により、溶湯Nは溶湯移送管3aを通して鋳造チャンバーAへ移送・鋳造される。金型1aは、評価手段(例えば成分分析、清浄度評価等)に応じて、適切な形状の金型を使用する。溶解炉Mの液面センサー7により所定量の溶湯Nを金型1aに移送できたと感知すれば、鋳造チャンバーA/Bおよび溶解炉Mの真空排気/Arガス加圧配管2a/2b/2cを通して全て同圧にして鋳造チャンバーAへの移送・鋳造を終了する(手順5)。
【0024】
金型1aにて少量鋳造した鋳造塊(分析用の鋳造品)の冷却後、ゲート弁4aを閉じ、鋳造チャンバーA内をAr雰囲気から真空排気して大気リークする。鋳造チャンバーAの開放扉5を開放して、金型1aを取り出す(手順6)。その後、取り出した鋳造塊を評価(例えば成分分析:固体発光法、溶湯の清浄度評価:K-mold法など)する(手順7)。
【0025】
成分分析等の評価結果が目的の基準であれば、溶解炉Mの溶湯Nを鋳造チャンバーB内の金型1bに全量、移送・鋳造して、鋳造塊を作製する(手順9)。その際、溶湯Nを鋳造チャンバーAに移送・鋳造することなく鋳造チャンバーBに移送・鋳造するために、鋳造チャンバーAおよび溶解炉MをArガスで例えば20kPaに加圧し、鋳造チャンバーBを-20kPaに減圧する。鋳造チャンバーAおよび溶解炉Mと鋳造チャンバーBの間の差圧により溶湯Nは溶湯移送管3bを通して移送・鋳造される。金型1bは、作製目的(例えば形状、重量)に応じて、適切な形状の金型を使用する。液面センサー7により所定量の溶湯Nを金型1bで鋳造できたと感知すれば、鋳造チャンバーA/Bおよび溶解炉Mの真空排気/Arガス加圧配管2a/2b/2cを通して全て同圧にして移送・鋳造を終了する(手順10)。
【0026】
ここで、評価結果が目的の基準でなければ、溶解炉Mに設置した投入チャンバーから、評価結果に基づいて成分調整用の原料(例えば成分ずれの場合は調整すべき金属原料)を投入し成分調整する(手順8)。そして、基準を満たす評価結果が得られるまで、鋳造チャンバーAで少量鋳造、評価、成分調整する上述の手順1~手順8を繰り返す。
【0027】
金型1bに鋳造した鋳造塊の冷却後、ゲート弁4aを閉じ、鋳造チャンバーB内をAr雰囲気から真空排気して大気リークする(手順9)。その後、鋳造チャンバーBから金型1bを取り出して、金型1bから製品用の鋳造品を取り出す(手順10)。
このようにして、目的の組成に合致した製品用の鋳造品を得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
M 溶解炉
N 溶湯
A 鋳造チャンバー
B 鋳造チャンバー
1a 第1の金型
1b 第2の金型
2a、2b、2c 真空排気/Arガス加圧配管
3a 溶湯移送管(溶解炉M-鋳造チャンバーA間)
3b 溶湯移送管(溶解炉M-鋳造チャンバーB間)
4a ゲート弁(溶解炉M-鋳造チャンバーA間)
4b ゲート弁(溶解炉M-鋳造チャンバーB間)
5 開放扉
6 撹拌羽根
7 液面センサー
8 熱電対



図1
図2