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  • 特開-熱間金型用鋼素材の製造方法 図1
  • 特開-熱間金型用鋼素材の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180123
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】熱間金型用鋼素材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 9/00 20060101AFI20231213BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231213BHJP
   C22C 38/52 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
C21D9/00 M
C22C38/00 301H
C22C38/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093249
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 顕
【テーマコード(参考)】
4K042
【Fターム(参考)】
4K042AA25
4K042BA14
4K042CA04
4K042CA06
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA13
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD05
4K042DE04
(57)【要約】      (修正有)
【課題】鋼塊或いは熱間鍛造の段階で毛割れの発生を防止可能な熱間金型用鋼素材の製造方法を提供する。
【解決手段】熱間金型用鋼の鋼塊または該鋼塊を熱間加工した中間鋼材を準備する素材準備工程と、前記鋼塊または該鋼塊を熱間加工した中間鋼材を熱処理する熱処理工程とを含み、前記熱処理工程は300~550℃で12時間以上である熱間金型用鋼素材の製造方法。好ましくは前記熱処理工程に続いて、熱処理工程後の鋼塊または中間鋼材の中心部温度が600~950℃となるように、鋼塊または中間鋼材を加熱する第2熱処理工程を更に含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱間金型用鋼の鋼塊または該鋼塊を熱間加工した中間鋼材を準備する素材準備工程と、
前記鋼塊または該鋼塊を熱間加工した中間鋼材を熱処理する熱処理工程とを含み、
前記熱処理工程は300~550℃で12時間以上である熱間金型用鋼素材の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理工程に続いて、熱処理工程後の鋼塊または中間鋼材の中心部温度が600~950℃となるように、鋼塊または中間鋼材を加熱する第2熱処理工程を更に含む請求項1に記載の熱間金型用鋼素材の製造方法。
【請求項3】
前記鋼塊は再溶解後の鋼塊である請求項1または2に記載の熱間金型用鋼素材の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱間金型用鋼素材の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SKD61やSKT4等に代表されるJISで規定される熱間金型用鋼は、汎用性の高い材料として知られている。これらの熱間金型用鋼は成分、金属組織、機械的特性を最適化するため、多くの改良材が提案されている。これらの素材は、本鋼の成分組成を有した溶湯を鋳造して鋼塊とし、これに熱間加工と熱処理を行って製造される。
この熱間金型用鋼を製造する場合において、内部欠陥を防止する必要がある。特に熱間で用いる金型が大型化すると、割れに対する欠陥防止が重要になる。
【0003】
上述した欠陥のうち、微小な空洞が形成される内部欠陥として「毛割れ」或いは「白点」と呼ばれるものがある。この毛割れや白点は割れの起点となることから、毛割れや白点抑制の検討が以前よりなされている。なお、前述の「毛割れ」と「白点」は同じ欠陥であることから、以後は単に「毛割れ」と記す。この毛割れを防止する方法としては、例えば、特開2021-30247号公報(特許文献1)にはエレクトロスラグ再溶解(以後、ESR)のプリメルトフラックスを調整する方法、特開2011-99151号公報(特許文献2)にはRH脱ガス処理時の予備工程を制御して鋼塊の毛割れを防止している。
また、特開2000-192192号公報(特許文献3)には成分調整により、毛割れの発生を防止している。更に特開平11-181517(特許文献4)では、鋼製品を常温より加熱し、200~300℃又は400~500℃の間で少なくとも(D・t)1/2=(製品最小厚みの1/2)の関係を満足する時間t以上(ただし、Dはα鉄中の水素の拡散係数)の間、保定して脱水素する発明が有る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-30247号公報
【特許文献2】特開2011-99151号公報
【特許文献3】特開2000-192192号公報
【特許文献4】特開平11-181517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図2に示すものは、ESRを適用したJIS-SKD61改良鋼の断面に見られた毛割れの断面光学顕微鏡写真である。このような毛割れが多く発生したものは、水素含有量がやや高めであって、これを大型の金型として使用した場合、毛割れを起点とする割れの発生が懸念される。このように、溶解工程後に毛割れが残留した場合、前述の特許文献1乃至3の方法では毛割れを無害化することは困難である。
また、特許文献4の脱水素方法は、熱間加工や熱処理を経て機械的性質を付与した素材に対して、その機械的性質を維持しつつ脱水素を行うものであり、比較的厚みが薄い最終形状まで加工した素材に対しての処理を提案するものである。しかしながら、前述のように金型の大型化による鋼塊の大径化、それに伴って鋼片の厚さも厚くなると、鋼塊または熱間鍛造の初期段階での毛割れ防止を行っておかないと、熱間加工やそれに伴う冷却工程での毛割れを起点とする割れを生じる場合がある。
そこで本発明の目的は、鋼塊或いは熱間鍛造の段階で毛割れの発生を防止可能な熱間金型用鋼素材の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上述した課題に鑑みてなされたものである。
すなわち本発明は、熱間金型用鋼の鋼塊または該鋼塊を熱間加工した中間鋼材を準備する素材準備工程と、前記鋼塊または該鋼塊を熱間加工した中間鋼材を熱処理する熱処理工程とを含み、前記熱処理工程は300~550℃で12時間以上である熱間金型用鋼素材の製造方法である。
好ましくは、前記熱処理工程に続いて、熱処理工程後の鋼塊または中間鋼材の中心部温度が600~950℃となるように、鋼塊または中間鋼材を加熱する第2熱処理工程を更に含む。
好ましくは、前記鋼塊は再溶解後の鋼塊である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、溶解後の鋼塊或いは熱間鍛造の段階で毛割れの発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明例の仕上鍛造後の中間鋼材における断面光学顕微鏡写真である。
図2】従来例の仕上鍛造後の中間鋼材における断面光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明が対象とする熱間金型用鋼は、JIS G4404で示される「熱間金型用」の鋼及びその改良成分を有する鋼を指す。具体的な組成の範囲は、質量%で、C:0.25~0.60%、Si:1.2%以下、Mn:0.9%以下、Cr:0.8~5.6%、V:0.05~2.10%を含み、選択的元素として、Ni:1.5~1.8%、Mo:0.3~3.0%、W:1.0~6.0%、Co:4.0~4.5%の一種以上を含み、残部はFe及び不純物の成分を有するものである。
【0010】
<素材準備工程>
前述した成分を有する熱間金型用鋼の鋼塊を準備する。準備する鋼塊は、少なくとも1回以上の溶解工程を経たものとする。例えば、ESRや真空アーク再溶解(VAR)を適用した物であっても良い。熱間金型の大型化に対応するには、成分偏析を軽減可能な再溶解を適用した再溶解後の鋼塊を準備するのが好ましい。なお、本発明においては、後述する熱処理工程で毛割れの発生を防止するため、溶解工程における特別な毛割れ防止対策は必ずしも必要としない。なお、本発明は鋼塊重量が1t以上の大型のものに適用することが好ましい。より好ましい重量は5t以上、さらに好ましい重量は10t以上、よりさらに好ましい重量は15t以上である。
また、本発明においては、前記鋼塊を熱間加工した中間鋼材を熱処理工程用の素材としても良い。ここで言う「中間鋼材」とは、熱間鍛造により分塊した鋼片や、鋼片に対して仕上げ鍛造を施した鋼材を指す。この中間鋼材も前述した鋼塊と同様、重量が1t以上の大型のものに適用する。より好ましい重量は5t以上、さらに好ましい重量は10t以上、よりさらに好ましい重量は15t以上である。なお準備した熱処理工程用素材は、後述する熱処理工程に移行する前に放冷や衝風冷却により冷却してもよい。
【0011】
<熱処理工程>
本発明では、できるだけ上工程の段階で毛割れの発生を防止することが可能な熱処理工程を適用する。大型の鋼塊や中間鋼材に毛割れが発生すると、その加熱冷却時や熱間加工時に毛割れを起点とした割れを生じるおそれがあるため、この熱処理工程(毛割れ発生防止熱処理と記すときがある)をできるだけ上工程で適切に行うことが重要となる。
本発明の熱処理工程の熱処理条件は、300~550℃で12時間以上とする。加熱温度の範囲を300~550℃としたのは、加熱温度の下限が300℃未満であると、鋼塊や中間鋼材の割れにつながる可能性があるためである。また、加熱温度の上限が550℃を超えると水素拡散速度が遅くなることが考えられ、それに起因する毛割れ防止効果の低下が懸念される。加熱温度の好ましい下限は400℃であり、好ましい加熱温度の上限は500℃である。
また、加熱時間の範囲を12時間以上としたのは、加熱時間の下限が12時間未満であると、毛割れの発生に関与する水素を除去することができない傾向にあるためである。また、加熱時間の上限については、特に限定しないが、おおよそ48時間を超えると毛割れの発生を防止する効果は飽和する傾向にあるので、例えば48時間と設定してもよい。
なお、本発明においては、大型の鋼塊または中間鋼材を対象としているため、熱処理工程前に予備加熱を行っても良いし、熱処理工程の温度範囲内で多段の加熱や冷却を行っても良い。また、この熱処理工程のみを実施する場合、処理材を炉内に保持して自然放冷よりも緩やかに冷却する、炉冷を実施してもよい。
【0012】
<第2熱処理工程>
また、前記の熱処理工程(毛割れ発生防止熱処理)に続いて、第2熱処理工程を行っても差し支えない。第2熱処理工程は鋼塊および中間鋼材の割れをより安定して抑制することができる。この第2熱処理工程の熱処理条件は、熱処理工程後の鋼塊または中間鋼材(以下、第2熱処理用素材とも記載する)の中心部温度が600~950℃となるように、第2熱処理用素材を加熱することが好ましい。第2熱処理用素材の温度を600℃以上とすることで、割れの原因となる内部応力を十分に除去することができる傾向にある。また、第2熱処理用素材の温度を950℃以下とすることで、結晶粒の粗大化の抑制や、脱炭または炭素固溶量の増加に起因する冷却時の割れ抑制することができる。第2熱処理用素材の中心部温度の好ましい下限は650℃であり、より好ましい下限は700℃である。また好ましい第2熱処理用素材の中心部温度の上限は900℃であり、より好ましい上限は850℃である。さらに好ましくは800℃である。ここで第2熱処理用素材の「中心部温度」は、例えばSKT4相当の厚み約500mmの直方体状中間鋼材であれば、5時間以上、好ましくは7時間以上加熱すれば中心部温度が600~950℃となる傾向にある。なお、本発明においては、第2熱処理工程を適用する場合、前記熱処理工程(毛割れ発生防止熱処理)に引き続いて(連続して)行うことが好ましい。また、大型の鋼塊または鋼片に対して前記熱処理工程を適用するため、前記の第2熱処理工程前に予備加熱を行っても良い。また、この第2熱処理工程後の冷却速度は処理材を炉内に保持して自然放冷よりも緩やかに冷却する、炉冷を実施してもよい。
【0013】
本発明は必要に応じて第2熱処理工程後の鋼塊および中間鋼材に、300~550℃で12時間以上の熱処理を施す第3熱処理工程を実施することもできる。加熱温度の好ましい下限は400℃であり、好ましい加熱温度の上限は500℃である。
以上、説明する本発明の熱処理を行った鋼塊や鋼片は、その後に所定の形状に成形するための熱間鍛造等の熱間加工、所定の機械的性質を付与するための熱処理を行うことができる。
【実施例0014】
表1に示す成分を有する熱間金型用鋼(JIS SKT4相当鋼)の鋼塊を準備した。前記熱間金型用鋼の成分を表1に示す。なお本実施例で準備した鋼塊の水素含有量は1ppm程度であった。
【0015】
【表1】
【0016】
準備した鋼塊に対して、分塊鍛造および仕上げ鍛造を行って厚さが約430mm、重さ約17tの中間鋼材とした。そして得られた中間鋼材に対して、表2に示すような熱処理工程を実施し、本発明例の熱間金型用鋼素材を得た。ここで分塊鍛造は約1280℃で行い、仕上げ鍛造は約1000℃で行った。また第2熱処理工程後から第3熱処理工程の開始までは、炉冷を実施した。
前記熱間金型用鋼素材から毛割れの有無を確認するため、前記素材を幅方向に切断してサンプルを切り出し、断面を光学顕微鏡にて確認した。図1に観察写真を示す。図1に示すように、本発明例の試料からは、従来例である図2に存在する毛割れは確認されなかった。また、分塊鍛造、仕上げ鍛造を実施中や鍛造温度への加熱冷却中ともに、割れなどの問題もなく所定形状の熱間金型用鋼素材に加工ができた。
以上、説明するとおり、本発明によれば、鋼塊或いは熱間鍛造の段階で毛割れを防止可能なことが確認できた。
【0017】
【表2】

図1
図2