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  • 特開-位相差フィルムの製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180135
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】位相差フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231213BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231213BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20231213BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20231213BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20231213BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20231213BHJP
   B29C 55/08 20060101ALI20231213BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 1/26 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20231213BHJP
   C08F 226/12 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 39/04 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
G02B5/30
H05B33/14 A
H05B33/14 Z
H01L27/32
H05B33/02
B29C55/02
B29C55/08
C08F220/10
C08L1/26
C08L33/08
C08F226/12
C08L39/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093271
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(74)【代理人】
【識別番号】100150212
【弁理士】
【氏名又は名称】上野山 温子
(72)【発明者】
【氏名】長原 一平
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
(72)【発明者】
【氏名】中西 貞裕
(72)【発明者】
【氏名】東 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖芳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正泰
(72)【発明者】
【氏名】小峯 拓也
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
4F210
4J002
4J100
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149AB01
2H149DA02
2H149DA04
2H149DA12
2H149DA18
2H149DA39
2H149DA40
2H149DB26
2H149DB28
2H149DB29
2H149FA02Y
2H149FA12Y
2H149FA12Z
2H149FD04
2H149FD05
2H149FD06
2H149FD47
3K107AA01
3K107AA05
3K107BB01
3K107CC32
3K107CC33
3K107EE26
3K107FF06
3K107FF15
3K107FF17
4F210AA01
4F210AC03
4F210AG01
4F210AH73
4F210AR20
4F210QA02
4F210QC03
4F210QD25
4F210QG01
4F210QG18
4F210QL16
4F210QW12
4J002AB021
4J002BG022
4J002GP00
4J100AL03R
4J100AL19P
4J100AQ26Q
4J100BA03P
4J100BA40P
4J100BC43P
4J100CA05
4J100DA01
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100GC07
4J100JA32
(57)【要約】
【課題】正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含む樹脂フィルムを用いて、高い面内複屈折を有し、かつ、面内位相差が逆波長分散特性を示す位相差フィルムを好適に製造することが可能な位相差フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】測定波長590nmにおける面内複屈折Δn(590)が0.003を超え、測定波長450nmにおける面内位相差の測定波長550nmにおける面内位相差に対する比(Re(450)/Re(550))が0.90未満である位相差フィルムの製造方法であって、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含み、測定波長590nmにおける厚み方向の複屈折ΔP(590)が0.0005を超え、測定波長450nmにおける厚み方向の位相差の測定波長550nmにおける厚み方向の位相差に対する比(Rth(450)/Rth(550))が0.98未満である樹脂フィルムを作製すること、および、該樹脂フィルムを延伸することを含む、製造方法。
【選択図】なし

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定波長590nmにおける面内複屈折Δn(590)が0.003を超え、測定波長450nmにおける面内位相差の測定波長550nmにおける面内位相差に対する比(Re(450)/Re(550))が0.90未満である位相差フィルムの製造方法であって、
正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含み、測定波長590nmにおける厚み方向の複屈折ΔP(590)が0.0005を超え、測定波長450nmにおける厚み方向の位相差の測定波長550nmにおける厚み方向の位相差に対する比(Rth(450)/Rth(550))が0.98未満である樹脂フィルムを作製すること、および
該樹脂フィルムを延伸すること、を含む、製造方法。
【請求項2】
前記樹脂フィルムの延伸前の厚みが、50μm~200μmであり、
前記樹脂フィルムの延伸後の厚みが、延伸前の厚みに対して12.5%~40%である、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記樹脂フィルムを作製することが、
前記正の複屈折を示す樹脂と前記負の複屈折を示す樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を支持基材上に塗布して塗布層を形成すること、および、
該塗布層を加熱して該溶媒を蒸発させること、
を含む、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記塗布層を50℃~155℃の範囲内で加熱して前記溶媒を蒸発させる、請求項3に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記樹脂フィルムが長尺状の樹脂フィルムであり、
前記樹脂フィルムを延伸することが、該長尺状の樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら該長手方向に直交する方向に延伸することを含む、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記延伸の延伸倍率が、8.0倍以下である、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記樹脂フィルムの延伸前のRth(450)/Rth(550)が0.60を超え、0.98未満であり、前記位相差フィルムのΔn(590)が0.0035を超え、Re(450)/Re(550)が0.88未満である、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記正の複屈折を示す樹脂が、下記式(1)に示す構成単位を有するセルロース系樹脂を含み、
前記負の複屈折を示す樹脂が、下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位と、を有するエステル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法:
【化1】
(式(1)中、R~Rのそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す;)
【化2】
(式(2)中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;Rは、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す;)
【化3】
(式(3)中、Rは、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す)。
【請求項9】
前記エステル系樹脂は、下記式(4)に示す構成単位をさらに有する、請求項8に記載の位相差フィルムの製造方法:
【化4】
(式(4)中、RおよびRのそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。有機EL表示装置では、λ/4板を含む円偏光板を有機ELセルの視認側に配置することにより、外光反射や背景の映り込み等の問題を防ぐことが知られている(例えば、特許文献1および2)。
【0003】
上記円偏光板に用いるλ/4板に関しては、広い波長領域にわたって優れた反射防止特性を実現する観点から、長波長域ほど位相差が大きい、いわゆる逆波長分散特性を示す位相差フィルムが求められている。このような要望に対して、正の複屈折を示すセルロース系樹脂および負の複屈折を示すエステル系樹脂を含有し、面内位相差が逆波長分散特性を示す位相差フィルムが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-311239号公報
【特許文献2】特開2002-372622号公報
【特許文献3】特開2021-140095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の発明者が検討したところ、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含む樹脂フィルムを用いた位相差フィルムの作製においては、延伸対象の樹脂フィルムの配向性が、得られる位相差フィルムの光学特性に大きく影響すること、および、樹脂フィルムの配向性によっては、目的の光学特性を有する位相差フィルムが得られない場合があることが分かった。
【0006】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含む樹脂フィルムを用いて、高い面内複屈折を有し、かつ、面内位相差が逆波長分散特性を示す位相差フィルムを好適に製造することが可能な位相差フィルムの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の1つの局面によれば、測定波長590nmにおける面内複屈折Δn(590)が0.003を超え、測定波長450nmにおける面内位相差の測定波長550nmにおける面内位相差に対する比(Re(450)/Re(550))が0.90未満である位相差フィルムの製造方法であって、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含み、測定波長590nmにおける厚み方向の複屈折ΔP(590)が0.0005を超え、測定波長450nmにおける厚み方向の位相差の測定波長550nmにおける厚み方向の位相差に対する比(Rth(450)/Rth(550))が0.98未満である樹脂フィルムを作製すること、および、該樹脂フィルムを延伸すること、を含む、製造方法が提供される。
1つの実施形態において、上記樹脂フィルムの延伸前の厚みが50μm~200μmであり、上記樹脂フィルムの延伸後の厚みが、延伸前の厚みに対して12.5%~40%である。
1つの実施形態において、上記樹脂フィルムを作製することが、上記正の複屈折を示す樹脂と上記負の複屈折を示す樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を支持基材上に塗布して塗布層を形成すること、および、該塗布層を加熱して該溶媒を蒸発させること、を含む。
1つの実施形態において、上記塗布層を50℃~155℃の範囲内で加熱して上記溶媒を蒸発させる。
1つの実施形態において、上記樹脂フィルムが長尺状の樹脂フィルムであり、上記樹脂フィルムを延伸することが、該長尺状の樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら該長手方向に直交する方向に延伸することを含む。
1つの実施形態において、上記延伸の延伸倍率が、8.0倍以下である。
1つの実施形態において、上記樹脂フィルムの延伸前のRth(450)/Rth(550)が0.60を超え、0.98未満であり、上記位相差フィルムのΔn(590)が0.0035を超え、Re(450)/Re(550)が0.88未満である。
1つの実施形態において、正の複屈折を示す樹脂が、下記式(1)に示す構成単位を有するセルロース系樹脂を含み、上記負の複屈折を示す樹脂が、下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位と、を有するエステル系樹脂を含む:
【化1】
(式(1)中、R~Rのそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す;)
【化2】
(式(2)中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;Rは、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す;)
【化3】
(式(3)中、Rは、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(上記5員環複素環残基および上記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す)。
1つの実施形態において、上記エステル系樹脂は、下記式(4)に示す構成単位をさらに有する:
【化4】
(式(4)中、RおよびRのそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
【発明の効果】
【0008】
本願発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法によれば、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含む樹脂フィルムであって、厚み方向に一定以上の複屈折を有し、かつ、厚み方向の位相差が逆波長分散特性を示す樹脂フィルムを延伸することにより、高い面内複屈折を有し、かつ、面内位相差が逆波長分散特性を示す位相差フィルムを好適に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】樹脂フィルムの厚み方向位相差に関する波長分散特性を説明する概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。なお、本明細書中で、数値範囲を表す「~」は、その上限および下限の数値を含む。また、本明細書において、「重量」とある場合は、重さを意味するSI単位系の「質量」と同義である。
【0011】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内複屈折(Δn)
「Δn(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内複屈折である。面内複屈折(Δn)は、式:Δn=nx-nyから求められる。
(3)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(4)厚み方向の複屈折(ΔP)
「ΔP(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の複屈折である。厚み方向の複屈折(ΔP)は、式:ΔP=nx-nzから求められる。
(5)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(6)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
(7)角度
本明細書において角度に言及するときは、当該角度は基準方向に対して時計回りおよび反時計回りの両方を包含する。したがって、例えば「45°」は時計回りまたは反時計回りの45°を意味する。
【0012】
A.位相差フィルムの製造方法
本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法は、測定波長590nmにおける面内複屈折Δn(590)が0.003を超え、測定波長450nmにおける面内位相差の測定波長550nmにおける面内位相差に対する比(Re(450)/Re(550))が0.90未満である位相差フィルムの製造方法であって、
正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含み、測定波長590nmにおける厚み方向の複屈折ΔP(590)が0.0005を超え、測定波長450nmにおける厚み方向の位相差の測定波長550nmにおける厚み方向の位相差に対する比(Rth(450)/Rth(550))が0.98未満である樹脂フィルムを作製すること(樹脂フィルムの作製工程)、および
該樹脂フィルムを延伸すること(延伸工程)
を含む。ここで、「正の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向と直交する方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向の屈折率が大きくなることをいう。「負の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向と直交する方向の屈折率が大きくなることをいう。
【0013】
A-1.樹脂フィルムの作製工程
樹脂フィルムの作製工程においては、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含み、ΔP(590)が0.0005を超え、Rth(450)/Rth(550)が0.98未満である樹脂フィルムを作製する。このような樹脂フィルムを延伸することにより、目的の光学特性を有する位相差フィルムが好適に得られ得る。樹脂フィルムは、必要に応じて、任意の適切な他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0014】
A-1-1.樹脂フィルム
上記の通り、樹脂フィルムは、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを含み、ΔP(590)が0.0005を超え、Rth(450)/Rth(550)が0.98未満である。
【0015】
樹脂フィルムのΔP(590)は、代表的には0.0005を超え、好ましくは0.0007以上であり、より好ましくは0.001以上である。また、ΔP(590)の上限は、例えば0.004以下、好ましくは0.0035以下である。上記範囲のΔP(590)を有する樹脂フィルムは、延伸により高い面内複屈折を発現し得ることから、所望の面内位相差を有し、かつ、厚みが小さい位相差フィルムが好適に得られ得る。
【0016】
樹脂フィルムの測定波長590nmにおける面内複屈折(Δn(590))は、例えば0.0003以下であり、好ましくは0~0.00005である。上記範囲のΔn(590)を有する樹脂フィルムは、延伸によって安定した面内配向性を示すことができる。1つの実施形態において、樹脂フィルムは、nx=ny>nzの屈折率特性を示す。
【0017】
樹脂フィルムは、厚み方向の位相差に関して逆波長分散特性を示す。樹脂フィルムは、代表的にはRth(450)/Rth(550)<0.98の関係を満たし、好ましくは0.60<Rth(450)/Rth(550)<0.98の関係、より好ましくは0.80<Rth(450)/Rth(550)<0.98の関係を満たす。上記関係を満たす樹脂フィルムによれば、延伸によって面内位相差に関して逆波長分散特性を示す位相差フィルムが好適に得られ得る。
【0018】
1つの実施形態において、樹脂フィルムには、ナノ相分離構造が形成されている。このような樹脂フィルムを延伸して得られる位相差フィルムもまたナノ相分離構造を有し、これにより、高温高湿環境下(例えば、110℃かつ85%RH(相対湿度))における急激な収縮が抑制され得る。
【0019】
本明細書において、「ナノ相分離構造」とは、電子密度の異なる2成分がナノオーダー(代表的には数十nmレベル)のドメインサイズで相分離した構造を意味する。正の複屈折を示す樹脂および負の複屈折を示す樹脂は、海島構造であってもよく、共連続構造であってもよい。ナノ相分離構造の確認手段としては、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)および、X線小角散乱(SAXS)が挙げられ、好ましくは、フィルム断面のTEM観察が挙げられる。観察対象のフィルムにナノ相分離構造が形成されている場合、フィルム断面のTEM観察において、電子密度の異なる2種のドメインを確認でき、すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満であることを確認できる。
【0020】
樹脂フィルムのガラス転移温度(Tg)は、例えば120℃~220℃、好ましくは125℃~220℃、より好ましくは125℃~210℃である。
【0021】
樹脂フィルムの厚みは、例えば50μm~200μm、好ましくは70μm~180μm、より好ましくは100μm~180μmである。
【0022】
樹脂フィルムは、枚葉状であってもよく、長尺状であってもよい。樹脂フィルムは、好ましくは長尺状である。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の樹脂フィルムは、ロール状に巻回可能である。
【0023】
(正の複屈折を示す樹脂)
正の複屈折を示す樹脂としては、本発明の効果が得られる限りにおいて制限されず、例えば、セルロース、セルロース誘導体等のセルロース系樹脂を用いることができる。セルロース誘導体としては、セルロースにおける水酸基の少なくとも一部がエーテル化されたセルロースエーテル、同様に水酸基の少なくとも一部がエステル化されたセルロースエーテルエステル等が挙げられる。なかでも、セルロースエーテルが好ましく用いられ得る。正の複屈折を示す樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0024】
セルロース系樹脂は、代表的には、β-グルコース単位が直鎖状に重合した高分子であって、下記式(1)に示す構成単位を有している。このようなセルロース系樹脂は、厚み方向の位相差に関してフラットな波長分散特性を有し、かつ、nx>nzの屈折率特性を示す。
【化5】
(式(1)中、R~Rのそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
【0025】
上記式(1)においてR~Rで示される炭素数1~12の置換基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デカニル基、ドデカニル基、イソブチル基、t-ブチル基等のアルキル基;シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ベンジル基等のアラルキル基;アセチル基、プロピオニル基等のアシル基;シアノエチル基等のシアノアルキル基;アミノエチル基等のアミノアルキル基;2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基等のヒドロキシアルキル基;が挙げられる。
上記式(1)においてR~Rは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(1)のR~Rのそれぞれとして、好ましくは、水素原子、および、炭素数1~12のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、および、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、水素原子、および、エチル基が挙げられる。
【0026】
セルロース系樹脂の置換度(以下、DSという。)は、代表的には1.5以上2.95以下、好ましくは1.8以上2.8以下である。DSとは、セルロース系樹脂において水酸基が置換されている割合であって、100%置換している場合DSは3である。DSは、第十七改正日本薬局方に記載のように、ガスクロマトグラフィーのピーク面積から算出できる。
【0027】
セルロース系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×10以上1×10以下、好ましくは5×10以上2×10以下である。セルロース系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。セルロース系樹脂のMnが上記の範囲であれば、樹脂フィルムの機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0028】
セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば140℃以下、好ましくは135℃以下であり、例えば120℃以上、好ましくは125℃以上である。セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0029】
セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロース等のアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース等のヒドロキシアルキルセルロース;ベンジルセルロース等のアラルキルセルロース;シアノエチルセルロース等のシアノアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のカルボキシアルキルセルロース;カルボキシメチルメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロース等のカルボキシアルキルアルキルセルロース;アミノエチルセルロース等のアミノアルキルセルロースが挙げられる。セルロース系樹脂は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
セルロース系樹脂のなかでは、好ましくはアルキルセルロースが挙げられ、より好ましくはエチルセルロースが挙げられる。
【0030】
(負の複屈折を示す樹脂)
負の複屈折を示す樹脂としては、本発明の効果が得られる限りにおいて制限されず、例えば、下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位とを有するエステル系樹脂を用いることができる。このようなエステル系樹脂は、厚み方向の位相差に関して正の波長分散特性を有し、かつ、nx<nzの屈折率特性を示す。負の複屈折を示す樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化6】
(式(2)中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;Rは、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す。)
【化7】
(式(3)中、Rは、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(上記5員環複素環残基および上記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
【0031】
上記式(2)に示す構成単位は、ケイ皮酸エステル残基単位である。上記式(2)においてRで示される炭素数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、エチルヘキシル基が挙げられる。上記式(2)のRのなかでは、好ましくは、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、エチル基、イソブチル基が挙げられる。
上記式(2)のR5aのなかでは、好ましくは、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基が挙げられ、より好ましくは、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基が挙げられ、さらに好ましくはシアノ基が挙げられる。
上記式(2)のR5bのなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。
上記式(2)のRは、ベンゼン環に1つのみ結合してもよく、ベンゼン環に2つ以上結合してもよい。上記式(2)のRのなかでは、好ましくは、カルボン酸基、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0032】
上記式(2)に示す構成単位(ケイ皮酸エステル残基単位)の具体例としては、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-プロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソプロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-ブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸s-ブチル残基単位、α-シアノ-2,4-ジヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位等のα-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸エチル残基単位等のα-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位等のα-シアノ-カルボキシ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位等の3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位等の3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位等の2-シアノ-3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位等の2-シアノ-3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0033】
エステル系樹脂は、上記式(2)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。上記式(2)に示す構成単位のなかでは、好ましくは、α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位、α-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0034】
エステル系樹脂における上記式(2)の構成単位の含有割合は、例えば21モル%以上であり、例えば70モル%以下、好ましくは60モル%以下、より好ましくは49モル%以下である。エステル系樹脂における各構成単位の含有割合は、例えば、H-NMRにより測定できる。
【0035】
上記式(3)においてRで示される環構造の具体例としては、1-ビニルピロール残基単位、2-ビニルピロール残基単位、1-ビニルインドール残基単位、9-ビニルカルバゾール残基単位、2-ビニルキノリン残基単位、4-ビニルキノリン残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位、N-ビニルスクシンイミド残基単位、2-ビニルフラン残基単位、2-ビニルベンゾフラン残基単位が挙げられ、好ましくは、9-ビニルカルバゾール残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位が挙げられる。
【0036】
エステル系樹脂は、上記式(3)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
エステル系樹脂における上記式(3)の構成単位の含有割合は、例えば21モル%以上、好ましくは35モル%以上であり、例えば70モル%以下、好ましくは60モル%以下である。
【0037】
エステル系樹脂は、好ましくは、上記(2)および(3)に示す構成単位に加えて、下記式(4)に示す構成単位をさらに有する。
【化8】
(式(4)中、RおよびRのそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
上記式(4)において、RおよびRで示される炭素数1~12の直鎖状アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。
上記式(4)において、RおよびRで示される炭素数3~12の分岐状アルキル基として、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
上記式(4)において、RおよびRで示される炭素数3~6の環状アルキル基として、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
上記式(4)においてRおよびRは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(4)におけるRのなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、メチル基が挙げられる。
上記式(4)におけるRのなかでは、好ましくは、炭素数3~12の分岐状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、炭素数3~8の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0038】
上記式(4)に示す構成単位は、代表的にはアクリル樹脂残基単位である。上記式(4)に示す構成単位の具体例として、アクリル酸残基単位、メタクリル酸残基単位、2-エチルアクリル酸残基単位、2-プロピルアクリル酸残基単位、2-イソプロピルアクリル酸残基単位、2-ペンチルアクリル酸残基単位、2-ヘキシルアクリル酸残基単位、アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位、アクリル酸n-プロピル残基単位、アクリル酸イソプロピル残基単位、アクリル酸n-ブチル残基単位、アクリル酸イソブチル残基単位、アクリル酸sec-ブチル残基単位、アクリル酸n-ペンチル残基単位、アクリル酸イソペンチル残基単位、アクリル酸sec-ペンチル残基単位、アクリル酸3-ペンチル残基単位、アクリル酸ネオペンチル残基単位、アクリル酸n-へキシル残基単位、アクリル酸イソへキシル残基単位、アクリル酸ネオへキシル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位、メタクリル酸n-ペンチル残基単位、メタクリル酸イソペンチル残基単位、メタクリル酸sec-ペンチル残基単位、メタクリル酸3-ペンチル残基単位、メタクリル酸ネオペンチル残基単位、メタクリル酸n-へキシル残基単位、メタクリル酸イソへキシル残基単位、メタクリル酸ネオへキシル残基単位、2-エチルアクリル酸メチル残基単位、2-エチルアクリル酸エチル残基単位、2-エチルアクリル酸n-プロピル残基単位、2-エチルアクリル酸イソプロピル残基単位、2-エチルアクリル酸n-ブチル残基単位、2-エチルアクリル酸イソブチル残基単位、2-エチルアクリル酸sec-ブチル残基単位等が挙げられ、好ましくはアクリル酸イソブチル残基単位が挙げられる。
【0039】
エステル系樹脂は、上記式(4)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
エステル系樹脂における上記式(4)の構成単位の含有割合は、例えば0モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、例えば30モル%以下である。
【0040】
エステル系樹脂は、上記式(2)から(4)以外の単量体残基単位を含有してもよい。そのような単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基、α-メチルスチレン残基等のスチレン類残基;ビニルナフタレン残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基等のビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基等のビニルエーテル残基;N-メチルマレイミド残基、N-シクロヘキシルマレイミド残基、N-フェニルマレイミド残基等のN-置換マレイミド残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;フマル酸エステル残基;フマル酸残基;エチレン残基、プロピレン残基等のオレフィン類残基が挙げられる。
【0041】
エステル系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×10以上5×10以下、好ましくは5×10以上3×10以下である。エステル系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。エステル系樹脂のMnが上記の範囲であれば、樹脂フィルムの機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0042】
エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば220℃以下、好ましくは210℃以下であり、例えば180℃以上、好ましくは190℃以上である。エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0043】
このようなエステル系樹脂の具体例としては、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0044】
(正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂との含有割合)
樹脂フィルムにおける正の複屈折を示す樹脂の含有割合は、正の複屈折を示す樹脂および負の複屈折を示す樹脂の総和を100質量%としたときに、代表的には50質量%を超過し、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。また、正の複屈折を示す樹脂の含有割合の上限は、代表的には90質量%以下である。正の複屈折を示す樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、正の複屈折を示す樹脂および負の複屈折を示す樹脂が安定してナノ相分離構造を形成できる。また、図1に示すように、樹脂フィルムの厚み方向の位相差の波長分散特性は、正の複屈折を示す樹脂および負の複屈折を示す樹脂の各々の厚み方向の位相差の波長分散特性を合成したものとして把握され得る。よって、厚み方向の位相差に関してフラットな波長分散特性を有し、かつ、nx>nzの屈折率特性を示す上記セルロース系樹脂と、正の波長分散特性を有し、かつ、nx<nzの屈折率特性を示す上記エステル系樹脂とを上記割合で含むことにより、厚み方向の位相差に関して逆波長分散特性を有し、かつ、nx>nzの屈折率特性を示す樹脂フィルムが好適に得られ得る。
【0045】
(他の成分)
他の成分は、目的に応じて適切に選択され得る。他の成分としては、例えば、ヒンダ-ドフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤、その他酸化防止剤等の酸化防止剤;ヒンダードアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエート等の紫外線吸収剤;界面活性剤;高分子電解質;導電性錯体;顔料;染料;帯電防止剤;アンチブロッキング剤;滑剤が挙げられる。他の成分の含有割合は、樹脂成分100重量部に対して、例えば0.01重量部~0.3重量部である。
【0046】
A-1-2.樹脂フィルムの作製方法
樹脂フィルムは、A-1-1項に記載の樹脂フィルムを構成する各成分を混合して樹脂組成物を調製し、フィルム状に成形することによって作製される。
【0047】
混合方法としては、溶融混合法および溶液混合法が挙げられる。溶融混合法は、加熱により樹脂等を溶融させて混練することにより混合する方法である。溶液混合法は、樹脂等を溶媒に溶解して混合する方法である。
【0048】
溶液混合法に用いる溶媒としては、製膜工程における溶媒の残留を少なくする観点から、沸点が200℃以下である溶媒が好ましく、170℃以下である溶媒がより好ましい。溶媒の具体例としては、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素類;フェノール、クロロフェノール等のフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、メシチレン、ジメトキシベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン(CPN)、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン等のケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;ブタノール、t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール等のアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリル等のニトリル系溶媒;1,3-ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセルソルブ、および、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0049】
溶媒のなかでは、好ましくは混合溶媒が挙げられる。混合溶媒の組み合わせとしては、エステル系溶媒/芳香族炭化水素類、エーテル系溶媒/芳香族炭化水素類、エステル系溶媒/エーテル系溶媒、エステル系溶媒/アルコール系溶媒、エステル系溶媒/ケトン系溶媒、2種のエーテル系溶媒、2種のエステル系溶媒が挙げられる。
【0050】
混合溶媒として、より好ましくは、エステル系溶媒/芳香族炭化水素類が挙げられ、さらに好ましくは、酢酸エチル/トルエンが挙げられ、とりわけ好ましくは酢酸エチル/トルエン=40質量%/60質量%~60質量%/40質量%の混合溶媒が挙げられる。溶媒がこのような混合溶媒であると、所望の配向性を有する樹脂フィルムを好適に得ることができる。また、位相差フィルムにおいて、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂がより安定してナノ相分離構造を形成できる。
【0051】
樹脂組成物の成形方法としては、任意の適切な方法を用いることができる。具体例としては、圧縮成形法、トランスファー成形法、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、粉末成形法、FRP成形法、キャスト塗工法(例えば、流延法)、カレンダー成形法、熱プレス法等が挙げられる。なかでも、キャスト塗工法が好ましい。キャスト塗工法は、上記樹脂と溶媒とを含む樹脂溶液を支持基材上に塗布(例えば、流延)して塗布層を形成し、該塗布層を加熱して溶媒を蒸発させることによりフィルムを得る方法である。
【0052】
塗工方法は特に制限されず、通常の方法を採用できる。例えば、Tダイ法、ドクタ-ブレ-ド法、バ-コ-タ-法、スロットダイ法、リップコ-タ-法、リバースグラビアコート法、マイクログラビア法、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法、フレキソ印刷法等が挙げられる。成形条件は、使用される樹脂の組成や種類、位相差フィルムに所望される特性等に応じて適宜設定され得る。
【0053】
支持基材としては、例えば、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エポキシ系樹脂等からなる高分子基材、ガラス板、石英基板等のガラス基材、アルミ、ステンレス、フェロタイプ等の金属基材、セラミックス基板等の無機基材等が挙げられる。上記基材として好ましくは、高分子基材または金属基材である。
【0054】
成形時の樹脂組成物(溶融液または溶液)の粘度は、生産性、成形性等の観点から、好ましくは100cps~30000cps、より好ましくは300cps~20000cps、さらに好ましくは500cps~15000cpsである。樹脂組成物の粘度は、各成分の分子量、濃度、溶媒の種類等によって調整可能である。
【0055】
樹脂溶液の固形分濃度は、例えば1重量%~30重量%、好ましくは5重量%~30重量%、より好ましくは10重量%~24重量%である。
【0056】
樹脂溶液の塗工厚み(塗布層の厚み)は、例えば50μm~1000μm、好ましくは50μm~900μm、より好ましくは70μm~800μm、さらに好ましくは100μm~700μm(例えば、300μm~700μm)である。塗工厚みが当該範囲内であれば、厚みあたりの面内配向性を大きく落とさずに延伸後のフィルム厚みを担保でき、例えば、λ/4板に必要な面内の位相差特性を確保できる。
【0057】
塗布層の乾燥における乾燥方法は特に制限されず、通常の加熱手段を採用できる。例えば、熱風器、加熱ロール、遠赤外線ヒーター等が挙げられる。
【0058】
樹脂フィルムが単一層内に複数の種類の樹脂を含む場合、樹脂フィルム内において各樹脂はそれぞれ独立して配向し得る。また、各樹脂の配向性は、乾燥温度、塗工厚み、樹脂の溶液濃度等によって変化し得る。例えば、乾燥温度が高いほど(結果として、溶媒の揮発速度が高いほど)、樹脂フィルム中の樹脂の配向は乱れる傾向にある。よって、例えば、正の複屈折を示す樹脂および負の複屈折を示す樹脂としてそれぞれ、上記セルロース系樹脂および上記エステル系樹脂を用いて樹脂フィルムに成形する場合、セルロース系樹脂がnx=ny>nzの屈折率特性を発現し、また、エステル系樹脂がnx=ny<nzの屈折率特性を発現することから、得られる樹脂フィルムの厚み方向の位相差と乾燥温度との間には下記の表1に示すような関係が成立し得る。
【0059】
【表1】
【0060】
よって、上記セルロース系樹脂と上記エステル系樹脂とを組み合わせて用いる場合、各樹脂に一定レベル以上のΔPを発現させる観点からは、塗布層の乾燥温度は、例えば35℃~160℃、好ましくは50℃~155℃の範囲内であり得る。また、乾燥時間は、例えば60秒~1200秒、好ましくは60秒~900秒、より好ましくは90秒~900秒である。
【0061】
乾燥は、一定の温度で行われてもよく、温度を変化させながら行われてもよい。例えば、乾燥は、徐々にまたは段階的に昇温しながら行われ得る。温度を変化させながら行われる場合、各温度での処理時間を重みとした加重平均温度は、例えば50℃~140℃、好ましくは70℃~140℃、より好ましくは70℃~130℃である。
【0062】
乾燥が段階的に昇温しながら行われる場合、1段目の乾燥温度を、例えば35℃以上65℃以下、好ましくは45℃以上65℃以下に設定し、1段目の乾燥時間を、例えば1分以上30分以下、好ましくは1分以上8分以下に設定する。その後は、段階毎に、乾燥温度を、例えば10℃~60℃、好ましくは10℃~40℃上昇させる。2段目以降の各段の乾燥時間は、代表的には、1段目の乾燥時間よりも短く、好ましくは20秒以上20分以下、より好ましくは30秒以上5分以下である。乾燥の段数は、好ましくは2段以上4段以下であり、より好ましくは3段以下である。このように多段階で乾燥を行うことにより、各樹脂の厚み方向の配向性を確保することができ、また、得られる樹脂フィルム(最終的に、位相差フィルム)において、ナノ相分離構造が好適に形成され得る。
【0063】
1つの実施形態において、多段階の乾燥における最高温度(最終段階の乾燥温度)は、例えば130℃を超え160℃以下、好ましくは130℃を超え155℃以下、より好ましくは135℃~155℃である。最高温度が当該範囲内である場合、得られる樹脂フィルムは比較的低いΔP(例えば、ΔP<0.0015)を示す一方で、比較的高い延伸倍率(例えば、3.0倍以上または3.5倍以上)で延伸することが可能である。そのため、高い延伸倍率を適用することにより、所望の光学特性(面内位相差、逆波長分散特性等)を有し、かつ、広幅な位相差フィルムが得られ、ロール・トゥ・ロールプロセスによる大面積の光学積層体(例えば、円偏光板)の製造に適用することができる。具体的には、例えば3.0倍以上、好ましくは3.5倍以上の延伸倍率での延伸によって、Re(550)が130nm~160nmである位相差フィルムが得られ得る。別の実施形態において、多段階の乾燥における最高温度(最終段階の乾燥温度)は、例えば100℃以上140℃以下、好ましくは100℃~130℃、より好ましくは100℃~120℃、さらに好ましくは110℃~120℃である。最高温度が当該範囲内である場合、得られる樹脂フィルムは比較的高いΔP(例えば、ΔP≧0.0015)を示すことから、比較的低い延伸倍率であっても所望の光学特性を有する位相差フィルムを得ることができる。具体的には、例えば3.5倍未満、好ましくは3.0倍未満の延伸倍率での延伸によって、Re(550)が130nm~160nmである位相差フィルムが得られ得る。以上のように、塗布層の乾燥温度は、樹脂フィルムのΔPに影響を及ぼす因子の1つであり、また、樹脂フィルムのΔPに応じて、延伸倍率や延伸温度等の延伸条件に特徴をもった延伸を行うことにより、逆波長分散λ/4板等の所望の位相差フィルムが得られ得る。
【0064】
樹脂フィルムの作製方法は、上記塗布層の乾燥後に110℃以上の加熱を行う二次乾燥工程(アニール工程)を含んでも良い。二次乾燥工程(アニール工程)の乾燥温度は、例えば110℃以上、好ましくは130℃以上であり、例えば180℃以下、好ましくは165℃以下である。二次乾燥工程(アニール工程)の乾燥時間は、例えば1分以上、好ましくは5分以上であり、例えば60分以下、好ましくは45分以下である。好ましくは、上記乾燥後の塗布層を、例えば50℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは室温(23℃)に冷却してから二次乾燥工程を行う。乾燥後の塗布層を一旦冷却すると、上記乾燥において形成された配向性およびナノ相分離構造を固定化でき、次の二次乾燥工程においても、これらを保持し得る。
【0065】
上記乾燥後(二次乾燥工程を含む場合は二次乾燥工程後)の樹脂フィルムにおける溶媒の含有割合(残存率)は、例えば0重量%~10重量%、好ましくは0重量%~5重量%である。
【0066】
A-2.延伸工程
延伸工程では、上記樹脂フィルムを延伸する。延伸方法は、B項に記載の位相差フィルムが得られる限りにおいて制限されず、任意の適切な延伸方法が採用され得る。具体的には、自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮等の様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることもできる。延伸方向に関しても、長さ方向、幅方向、厚さ方向、斜め方向等、様々な方向や次元に行なうことができる。
【0067】
延伸方法の具体例としては、固定端一軸延伸、自由端一軸延伸、および斜め延伸が挙げられる。固定端一軸延伸は、例えば、テンター式延伸装置を用いて長尺状の樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら、長手方向と直交する方向(幅方向)に延伸することによって行われ得る。自由端一軸延伸は、例えば、周速の異なるロール間に長尺状の樹脂フィルムを通して長手方向に延伸することによって行われ得る。斜め延伸は、例えば、長尺状の樹脂フィルムを長手方向に対して角度θの方向に連続的に斜め延伸することによって行われ得る。斜め延伸を採用することにより、フィルムの長手方向に対して角度θの配向角(角度θの方向に遅相軸)を有する長尺状の位相差フィルムが得られ、例えば、偏光子との積層に際してロールトゥロールが可能となり、製造工程を簡略化することができる。なお、角度θは、位相差層付偏光板において偏光子の吸収軸と位相差フィルムの遅相軸とがなす角度であり得る。角度θは好ましくは40°~50°であり、より好ましくは42°~48°であり、さらに好ましくは約45°である。
【0068】
延伸倍率は、所望の面内位相差等によって適切に選択され得る。延伸倍率は、例えば2.0倍以上、好ましくは2.5倍以上、より好ましくは3.0倍以上であり、また例えば8.0倍以下、好ましくは7.5倍以下、より好ましく5.0倍以下である。
【0069】
延伸後の樹脂フィルムの厚みは、例えば10μm~80μm、好ましくは10μm~70μmであり、より好ましくは10μm~50μmである。また、延伸後の樹脂フィルムの厚みは、延伸前の樹脂フィルム厚みの例えば50%以下、好ましくは12.5%~50%であり、より好ましくは12.5%~40%である。延伸前後のフィルム厚みが当該関係を満たす場合、高い面内複屈折を有する位相差フィルムが得られ得る。
【0070】
延伸温度は、位相差フィルムに所望される面内位相差および厚み、使用される樹脂の種類、樹脂フィルムの厚み、延伸倍率等に応じて変化し得る。延伸温度は、樹脂フィルムに含まれる材料のTgに関連して変動し、配向性を持つ樹脂のうち最も低いTgを持つ樹脂のガラス転移温度(Tg1)に対し、例えばTg1-20℃~Tg1+50℃、好ましくはTg1-20℃~Tg1+40℃、より好ましくはTg1-10℃~Tg1+40℃である。延伸温度が当該範囲であれば、安定に延伸することができる。
【0071】
延伸速度は、例えば、1mm/秒以上、好ましくは2mm/秒以上であり、例えば200mm/秒以下、好ましくは100mm/秒以下である。
【0072】
樹脂フィルムは、好ましくは、延伸前に予熱される。予熱温度も延伸温度と同様にTg1に関して設定される。予熱温度は、例えば、Tg1-20℃以上、好ましくはTg1-10℃以上であり、例えばTg1+50℃以下、好ましくはTg1+40℃以下である。予熱温度は、代表的には延伸温度よりも高く、好ましくは延伸温度よりも5℃以上高い。
【0073】
必要に応じて、延伸した樹脂フィルムを延伸方向に熱収縮させる過程を含んでも良い。熱収縮温度も予熱、延伸温度と同様にTg1に関して設定され、例えばTg1-20℃以上、好ましくはTg1-15℃以上であり、例えばTg1+45℃以下、好ましくはTg1+35℃以下である。熱収縮温度は、より好ましくは延伸温度以下である。収縮率は、代表的には1%以上5%以下である。
【0074】
B.位相差フィルム
A項に記載の位相差フィルムの製造方法によって製造される位相差フィルムは、代表的には、屈折率特性がnx>ny≧nzの関係を示す。ここで、「ny=nz」は、nyとnzが完全に等しい場合だけではなく、実質的に等しい場合を包含する。したがって、本発明の効果を損なわない範囲で、ny<nzとなる場合があり得る。
【0075】
位相差フィルム(換言すれば、延伸後の樹脂フィルム)の測定波長590nmにおける面内複屈折(Δn(590))は、代表的には0.003を超え、好ましくは0.0035を超え、より好ましくは0.0037以上、さらに好ましくは0.0040以上である。位相差フィルムのΔn(590)は、例えば0.007以下であり得る。
【0076】
位相差フィルムの面内位相差は、用途等に応じて任意の適切な値であり得る。1つの実施形態において、位相差フィルムはλ/4板として機能し得る。この場合、位相差フィルムのRe(550)は、好ましくは100nm~190nm、より好ましくは110nm~170nm、さらに好ましくは130nm~160nmである。
【0077】
位相差フィルムのNz係数は、好ましくは0.9~3、より好ましくは0.9~2.5、さらに好ましくは0.9~1.5、特に好ましくは0.9~1.3である。このような関係を満たすことにより、偏光子と組み合わせて円偏光板として画像表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。
【0078】
位相差フィルムは、代表的には、面内位相差に関して、測定光の波長の増大に応じて大きくなる逆分散波長特性を示す。位相差フィルムは、代表的にはRe(450)/Re(550)<0.90の関係を満たし、好ましくはRe(450)/Re(550)<0.88の関係、より好ましくは0.70<Re(450)/Re(550)<0.88の関係を満たす。このような関係を満たす位相差フィルムを偏光子と組み合わせて円偏光板として画像表示装置に用いた場合、非常に優れた反射防止特性を実現することができる。
【0079】
位相差フィルムの厚みは、例えば10μm~80μmであり、好ましくは10μm~50μm、より好ましくは10μm~30μmである。本発明の実施形態の製造方法で得られる位相差フィルムは、高い面内複屈折を有することから、小さい厚みで実用上十分な面内位相差を有し得る。
【実施例0080】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。なお、特に明記しない限り、実施例および比較例における「部」および「%」は重量基準である。
(1)厚み
ダイヤルゲージ(PEACOCK社製、製品名「DG-205 type pds-2」)を用いて測定した。
(2)面内位相差(Re(λ))および厚み方向の位相差(Rth(λ))
測定対象のフィルムを長さ4cmおよび幅4cmに切り出し、測定試料とした。当該測定試料について、Axometrics社製、製品名「Axoscan」を用いて測定波長λnmの面内位相差または厚み方向の位相差を測定した。測定温度は23℃であった。
(3)面内複屈折(Δn(λ))および厚み方向の複屈折(ΔP(λ))
上記(2)で測定した測定試料の測定波長λnmにおける面内位相差を、測定試料の厚みで割ることにより測定波長λnmの面内複屈折を算出した。同様に、上記(2)で測定した測定試料の測定波長λnmにおける厚み方向の位相差を、測定試料の厚みで割ることにより測定波長λnmの厚み方向の複屈折を算出した。
(4)ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて測定した。
【0081】
[合成例1]ケイ皮酸エステル共重合体(9-ビニルカルバゾール/α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル/アクリル酸イソブチル)の合成
容量50mLのガラスアンプルに9-ビニルカルバゾール12.20g、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル7.74g、アクリル酸イソブチル4.05g、重合開始剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン0.453gおよびメチルエチルケトン36.00gを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを54℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン100gを加え、このポリマー溶液を800gのメタノール/水混合溶媒(重量比80/20)中に滴下して析出させ、ろ過した後、ろ過物を110gのメタノール/水混合溶媒(重量比90/10)で5回洗浄、ろ過した。得られた樹脂を80℃で10時間真空乾燥することにより、負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体22.3gを得た。得られたケイ皮酸エステル共重合体の数平均分子量は50,000であり、残基単位の比率は、9-ビニルカルバゾール残基単位50モル%、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位25モル%、アクリル酸イソブチル残基単位25モル%であった。
【0082】
[実施例1]
セルロース系樹脂としてエチルセルロース(ダウ・ケミカル社製「ETHOCEL standard 100」、数平均分子量Mn=58,000、重量平均分子量Mw=180,000、Mw/Mn=3.2、全置換度DS=2.51)80g、エステル系樹脂として合成例1により得られたケイ皮酸エステル系樹脂20g、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン社製、製品名「Irganox 245」)0.1gをトルエン/酢酸エチル=4/6(重量比)溶液に溶解させて樹脂濃度16重量%の樹脂溶液とした。該溶液をコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流涎し、狙い厚み560μmの塗布層を得た。該塗布層を65℃で360秒、85℃で60秒、110℃で120秒の順で乾燥した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥ぎ取って、厚み109μmの樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムを、延伸温度よりも10℃高い温度で予熱した後、テンター延伸機にて155℃で3.0倍に横一軸延伸し、155℃で当該延伸方向に2.4%熱収縮させて位相差フィルムを得た。
【0083】
延伸後の樹脂フィルム(位相差フィルム)の厚み方向の中央付近(具体的には、位相差フィルムの厚みを100%としたときに、位相差フィルムの厚み方向の中央から±20%の領域)をサンプリングし、重金属染色を含む超薄切片法により、位相差フィルムの断面をTEM(HT7820,日立社製)により観察した(断面TEM観察)ところ、すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満であるナノ相分離構造が形成されていることが確認された。
【0084】
[実施例2]
塗布層の厚みを変更したこと、および、熱収縮を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0085】
[実施例3]
延伸温度と熱収縮温度(延伸温度と等温)を変更したこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0086】
[実施例4]
延伸倍率および延伸温度と熱収縮温度(延伸温度と等温)を変更したこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0087】
[実施例5]
塗布層の厚みを変更したこと、および、該塗布層を65℃で360秒、85℃で60秒、155℃で120秒の順で乾燥したこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。
【0088】
[実施例6]
延伸倍率および延伸温度と熱収縮温度(延伸温度と等温)を変更したこと以外は実施例5と同様にして位相差フィルムを得た。
【0089】
[比較例1]
セルロース系樹脂としてエチルセルロース(ダウ・ケミカル社製「ETHOCEL standard 100」、数平均分子量Mn=58,000、重量平均分子量Mw=180,000、Mw/Mn=3.2、全置換度DS=2.51)100g、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン社製、製品名「Irganox 245」)0.1gをトルエン/酢酸エチル=4/6(重量比)溶液に溶解させて樹脂濃度16重量%の樹脂溶液とした。該溶液をコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流涎し、塗布層を得た。該塗布層を80℃で150秒、120℃で150秒、150℃で150秒の順で乾燥した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥ぎ取って、樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムを、延伸温度よりも10℃高い温度で予熱した後、テンター延伸機にて150℃で3.0倍に横一軸延伸して位相差フィルムを得た。
【0090】
[比較例2]
セルロース系樹脂としてエチルセルロース(ダウ・ケミカル社製「ETHOCEL standard 100」、数平均分子量Mn=58,000、重量平均分子量Mw=180,000、Mw/Mn=3.2、全置換度DS=2.51)90g、エステル系樹脂として合成例1により得られたケイ皮酸エステル系樹脂10g、ヒンダードフェノール系酸化防止剤(BASFジャパン社製、製品名「Irganox 245」)0.1gをトルエン/酢酸エチル=4/6(重量比)溶液に溶解させて樹脂濃度16重量%の樹脂溶液とした。該溶液をコーターによりポリエチレンテレフタレートフィルム上に流涎し、塗布層を得た。該塗布層を65℃で360秒、85℃で60秒、110℃で120秒の順で乾燥した後、ポリエチレンテレフタレートフィルムから剥ぎ取って、樹脂フィルムを得た。得られた樹脂フィルムを、延伸温度よりも10℃高い温度で予熱した後、テンター延伸機にて150℃で3.0倍に横一軸延伸して位相差フィルムを得た。
【0091】
[比較例3]
塗布層を65℃で360秒、85℃で60秒、165℃で120秒の順で乾燥したこと、延伸条件を変更したこと、および、熱収縮を行わなかったこと以外は実施例1と同様にして位相差フィルムを得た。

【表2】
【0092】
表2に示す通り、厚み方向の配向性が高く、厚み方向の位相差に関して逆波長分散特性を示す樹脂フィルムを延伸することにより、面内複屈折が高く、面内で逆波長分散特性を示す位相差フィルムが好適に得られ得る。また、このような樹脂フィルムは、樹脂溶液の塗工厚み、乾燥条件等を適切に調整することによって得られ得る。
【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法によって得られる位相差フィルムは、液晶表示装置およびEL表示装置等の画像表示装置、特に、有機EL表示装置において好適に用いられ得る。
図1