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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180140
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】位相差フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20231213BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20231213BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20231213BHJP
   H05B 33/14 20060101ALI20231213BHJP
   H05B 33/02 20060101ALI20231213BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20231213BHJP
   B29C 55/02 20060101ALI20231213BHJP
   C08F 220/10 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 33/08 20060101ALI20231213BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20231213BHJP
【FI】
G02B5/30
H01L27/32
H05B33/14 A
H05B33/14 Z
H05B33/02
G09F9/30 349E
B29C55/02
C08F220/10
C08L33/08
C08L1/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022093282
(22)【出願日】2022-06-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
(72)【発明者】
【氏名】中西 貞裕
(72)【発明者】
【氏名】東 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】長原 一平
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖芳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正泰
(72)【発明者】
【氏名】小峯 拓也
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
4F210
4J002
4J100
5C094
【Fターム(参考)】
2H149AA13
2H149AA18
2H149AB01
2H149DA02
2H149DA04
2H149DA12
2H149DA18
2H149DA39
2H149DA40
2H149DB26
2H149DB28
2H149DB29
2H149FA02Y
2H149FA12Y
2H149FA12Z
2H149FD04
2H149FD21
3K107AA01
3K107AA05
3K107BB01
3K107CC32
3K107CC33
3K107EE26
3K107FF03
3K107FF06
4F210AA01
4F210AC03
4F210AG01
4F210AH73
4F210AR20
4F210QC03
4F210QD25
4F210QG01
4F210QW12
4J002AB021
4J002GP00
4J100AB00P
4J100AJ03Q
4J100AL08R
4J100BA03Q
4J100BA40Q
4J100BC43Q
4J100CA05
4J100DA01
4J100FA19
4J100FA28
4J100FA30
4J100GC07
4J100JA32
5C094BA27
5C094BA43
5C094ED12
5C094ED14
(57)【要約】
【課題】樹脂フィルムの延伸配向性を向上でき、該樹脂フィルムを延伸して光学特性に優れた位相差フィルムを製造できる位相差フィルムの製造方法を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法は、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程と;樹脂溶液を支持基材上に塗布して支持基材上に塗膜を形成する工程と;塗膜を加熱して樹脂フィルムを形成する工程と;樹脂フィルムを延伸する工程と;を含んでいる。正の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離を11.15以下に調整する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程と、
前記樹脂溶液を支持基材上に塗布して、前記支持基材上に塗膜を形成する工程と、
前記塗膜を加熱して樹脂フィルムを形成する工程と、
前記樹脂フィルムを延伸する工程と、を含み、
前記正の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離が11.15以下である、位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記樹脂溶液が、下記式(I)を満たす、請求項1に記載の位相差フィルムの製造方法:
{HSP距離*正の複屈折樹脂-HSP距離*負の複屈折樹脂<60・・・(I)
(式(I)において、HSP距離*正の複屈折樹脂は、正の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離を示し;HSP距離*負の複屈折樹脂は、負の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離を示す)。
【請求項3】
前記溶媒は、第1溶媒および第2溶媒を含む混合溶媒である、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記混合溶媒は、ジオキソランを含む、請求項3に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項5】
Re(450)/Re(550)が0.8~1.0であり、かつ、Re(650)/Re(550)が1.0~1.2である位相差フィルムを製造する、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記正の複屈折を示す樹脂は、下記式(1)に示す構成単位を有するセルロース系樹脂を含む、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法:
【化1】
(式(1)中、R~Rのそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
【請求項7】
前記負の複屈折を示す樹脂は、下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位と、を有するエステル系樹脂を含む、請求項1または2に記載の位相差フィルムの製造方法:
【化2】
(式(2)中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;Rは、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す。)
【化3】
(式(3)中、Rは、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す)。
【請求項8】
前記エステル系樹脂は、下記式(4)に示す構成単位をさらに有する、請求項7に記載の位相差フィルムの製造方法:
【化4】
(式(4)中、RおよびRのそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置およびエレクトロルミネセンス(EL)表示装置(例えば、有機EL表示装置、無機EL表示装置)に代表される画像表示装置が急速に普及している。有機EL表示装置では、λ/4板を含む円偏光板を有機ELセルの視認側に配置することにより、外光反射や背景の映り込み等の問題を防ぐことが知られている(例えば、特許文献1および2)。
【0003】
上記円偏光板に用いるλ/4板に関しては、広い波長領域にわたって優れた反射防止特性を実現する観点から、長波長域ほど位相差が大きい、いわゆる逆波長分散特性を示す位相差フィルムが求められている。このような要望に対して、正の複屈折を示すセルロース系樹脂および負の複屈折を示すエステル系樹脂を含有し、面内位相差が逆波長分散特性を示す位相差フィルムが提案されている(例えば、特許文献3)。このような特許文献3に記載の位相差フィルムは、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する樹脂フィルムを延伸して製造されるが、延伸による樹脂の配向性が不十分となる場合があり、位相差フィルムの光学特性(特に面内複屈折)には改善の余地が残されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-311239号公報
【特許文献2】特開2002-372622号公報
【特許文献3】特開2021-140095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的とするところは、樹脂フィルムの延伸配向性を向上でき、該樹脂フィルムを延伸して光学特性に優れた位相差フィルムを製造できる位相差フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法は、正の複屈折を示す樹脂と負の複屈折を示す樹脂とを溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程と;該樹脂溶液を支持基材上に塗布して、該支持基材上に塗膜を形成する工程と;該塗膜を加熱して樹脂フィルムを形成する工程と;該樹脂フィルムを延伸する工程と;を含んでいる。正の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離は、11.15以下である。
[2]1つの実施形態は、上記樹脂溶液が下記式(I)を満たす、上記項目[1]に記載の位相差フィルムの製造方法である。
{HSP距離*正の複屈折樹脂-HSP距離*負の複屈折樹脂<60・・・(I)
(式(I)において、HSP距離*正の複屈折樹脂は、正の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離を示す。HSP距離*負の複屈折樹脂は、負の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離を示す。)
[3]1つの実施形態は、上記溶媒が第1溶媒および第2溶媒を含む混合溶媒である、上記項目[1]または[2]に記載の位相差フィルムの製造方法である。
[4]1つの実施形態は、上記混合溶媒がジオキソランを含む、上記項目[3]に記載の位相差フィルムの製造方法である。
[5]1つの実施形態は、Re(450)/Re(550)が0.8~1.0であり、かつ、Re(650)/Re(550)が1.0~1.2である位相差フィルムを製造できる、上記項目[1]または[2]に記載の位相差フィルムの製造方法である。
[6]1つの実施形態は、上記正の複屈折を示す樹脂が下記式(1)に示す構成単位を有するセルロース系樹脂を含んでいる、上記項目[1]または[2]に記載の位相差フィルムの製造方法である。
【化1】
(式(1)中、R~Rのそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
[7]1つの実施形態は、上記負の複屈折を示す樹脂が下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位とを有するエステル系樹脂を含んでいる、上記項目[1]または[2]に記載の位相差フィルムの製造方法である。
【化2】
(式(2)中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;Rは、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す。)
【化3】
(式(3)中、Rは、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
[8]1つの実施形態は、上記エステル系樹脂が下記式(4)に示す構成単位をさらに有している、上記項目[7]に記載の位相差フィルムの製造方法である。
【化4】
(式(4)中、RおよびRのそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施形態によれば、樹脂フィルムの延伸配向性を向上でき、該樹脂フィルムを延伸して光学特性に優れた位相差フィルムを製造できる位相差フィルムの製造方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】正の複屈折樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(HSP*正の複屈折樹脂)と、Δn/延伸倍率との相関を示すグラフである。
図2】負の複屈折樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(HSP*負の複屈折樹脂)と、Δn/延伸倍率との相関を示すグラフである。
図3】{HSP*正の複屈折樹脂-HSP*負の複屈折樹脂と、Δ分散との相関を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の代表的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0010】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)面内複屈折(Δn)
「Δn(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内複屈折である。例えば、「Δn(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内複屈折である。面内複屈折(Δn)は、式:Δn=nx-nyから求められる。
(4)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(5)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
【0011】
A.位相差フィルムの製造方法
本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法は、正の複屈折を示す樹脂(以下、正の複屈折樹脂とする。)と負の複屈折を示す樹脂(以下、負の複屈折樹脂とする。)とを溶媒に溶解して樹脂溶液を調製する工程(溶液調製工程)と;樹脂溶液を支持基材上に塗布して支持基材上に塗膜を形成する工程(塗布工程)と;塗膜を加熱して樹脂フィルムを形成する工程(加熱工程)と;樹脂フィルムを延伸する工程(延伸工程)と;を含んでいる。正の複屈折樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(以下、HSP距離*正の複屈折樹脂とする。)は、11.15以下、好ましくは11.10以下、より好ましくは11.00以下、とりわけ好ましくは10.00以下、特に好ましくは9.00以下である。
本発明者らは、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂を含有する位相差フィルムの製造において、HSP距離*正の複屈折樹脂が樹脂フィルムの延伸配向性に大きく影響することを見出し、本発明を完成させた。本発明の1つの実施形態によれば、HSP*正の複屈折樹脂が上記上限以下であるので、樹脂フィルムの延伸配向性(具体的には面内複屈折Δn/延伸倍率)を顕著に向上させることができ、樹脂フィルムを延伸して製造される位相差フィルムの光学特性を向上できる。なお、HSP距離*正の複屈折樹脂の下限は、代表的には、6.0以上である。
【0012】
1つの実施形態において、上記樹脂溶液は、下記式(I)を満たす。
{HSP距離*正の複屈折樹脂-HSP距離*負の複屈折樹脂<60・・・(I)
(式(I)において、HSP距離*正の複屈折樹脂は、正の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離を示す。HSP距離*負の複屈折樹脂は、負の複屈折を示す樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離を示す。)
{HSP距離*正の複屈折樹脂-HSP距離*負の複屈折樹脂は、好ましくは55以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは45以下、とりわけ好ましくは30以下である。
このような構成によれば、正の複屈折樹脂と負の複屈折樹脂とを含有する樹脂フィルムの延伸により、位相差フィルムに逆分散特性(位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散の波長依存性)を十分に発現することができる。{HSP距離*正の複屈折樹脂-HSP距離*負の複屈折樹脂の下限は、代表的には10以上である。
【0013】
HSP距離*正の複屈折樹脂は、例えば、下記式(II)により算出できる。
式(II):
HSP距離*正の複屈折樹脂=[4(δd2-δd1+(δp2-δp1+(δh2-δh10.5
(式(II)中、δd1は溶媒の分子間の分散力エネルギーを示し;δd2は正の複屈折樹脂の分子間の分散力エネルギーを示し;δp1は溶媒の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δp2は正の複屈折樹脂の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δh1は溶媒の分子間の水素結合エネルギーを示し;δh2は正の複屈折樹脂の分子間の水素結合エネルギーを示す。)
【0014】
HSP距離*負の複屈折樹脂は、例えば、下記式(III)により算出できる。
式(III):
HSP距離*負の複屈折樹脂=[4(δd3-δd1+(δp3-δp1+(δh3-δh10.5
(式(III)中、δd3は負の複屈折樹脂の分子間の分散力エネルギーを示し;δp3は負の複屈折樹脂の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δh3は負の複屈折樹脂樹脂の分子間の水素結合エネルギーを示し;δd1、δp1およびδh1のそれぞれは、上記式(II)と同様の溶媒の分子間のエネルギーを示す。)
HSP距離*負の複屈折樹脂は、例えば6.0以下、好ましくは5.5以下であり、例えば2.0以上である。
【0015】
B.溶液調製工程
溶液調製工程では、正の複屈折を示す樹脂(正の複屈折樹脂)と負の複屈折を示す樹脂(負の複屈折樹脂)とを溶媒に溶解する。
「正の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向と直交する方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向の屈折率が大きくなることをいう。「負の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向と直交する方向の屈折率が大きくなることをいう。
【0016】
B―1.正の複屈折を示す樹脂(正の複屈折樹脂)
正の複屈折樹脂としては、本発明の効果が得られる限りにおいて制限されず、例えば、セルロース、セルロース誘導体等のセルロース系樹脂を用いることができる。セルロース誘導体としては、例えば、セルロースにおける水酸基の少なくとも一部がエーテル化されたセルロースエーテル、同様に水酸基の少なくとも一部がエステル化されたセルロースエーテルエステルが挙げられる。正の複屈折樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0017】
セルロース系樹脂は、代表的には、β-グルコース単位が直鎖状に重合した高分子であって、下記式(1)に示す構成単位を有している。
【化5】
(式(1)中、R~Rのそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
【0018】
上記式(1)においてR~Rで示される炭素数1~12の置換基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デカニル基、ドデカニル基、イソブチル基、t-ブチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基などのアラルキル基;アセチル基、プロピオニル基などのアシル基;シアノエチル基などのシアノアルキル基;アミノエチル基などのアミノアルキル基;2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基などのヒドロキシアルキル基;が挙げられる。
上記式(1)においてR~Rは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(1)のR~Rのそれぞれとして、好ましくは、水素原子、および、炭素数1~12のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、および、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、水素原子、および、エチル基が挙げられる。
【0019】
セルロース系樹脂の置換度(以下、DSという。)は、代表的には1.5以上2.95以下、好ましくは1.8以上2.8以下である。DSとは、セルロース系樹脂において水酸基が置換されている割合であって、100%置換している場合DSは3である。DSは、第十七改正日本薬局方に記載のように、ガスクロマトグラフィーのピーク面積から算出できる。
【0020】
セルロース系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×10以上1×10以下、好ましくは、5×10以上2×10以下である。セルロース系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。セルロース系樹脂のMnが上記の範囲であれば、位相差層の機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0021】
セルロース系樹脂は、相対的にガラス転移温度(Tg)が低く、エステル系樹脂は、相対的にTgが高い。セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば140℃以下、好ましくは135℃以下であり、例えば120℃以上、好ましくは125℃以上である。セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0022】
セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースなどのアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース;ベンジルセルロースなどのアラルキルセルロース;シアノエチルセルロースなどのシアノアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロース;カルボキシメチルメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースなどのカルボキシアルキルアルキルセルロース;アミノエチルセルロースなどのアミノアルキルセルロースが挙げられる。セルロース系樹脂は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
セルロース系樹脂のなかでは、好ましくは、アルキルセルロースが挙げられ、より好ましくはエチルセルロースが挙げられる。
【0023】
正の複屈折樹脂の使用割合は、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂の総和を100質量%としたときに、代表的には50質量%を超過し、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。正の複屈折樹脂の使用割合が上記下限以上であれば、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂から後述するナノ相分離構造を形成できる。なお、正の複屈折樹脂の使用割合の上限は、代表的には90質量%以下である。
【0024】
B―2.負の複屈折を示す樹脂(負の複屈折樹脂)
負の複屈折樹脂としては、本発明の効果が得られる限りにおいて制限されず、例えば、下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位とを有するエステル系樹脂を用いることができる。負の複屈折樹脂は、1種のみを単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【化6】
(式(2)中、Rは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;Rは、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す。)
【化7】
(式(3)中、Rは、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
【0025】
上記式(2)に示す構成単位は、ケイ皮酸エステル残基単位である。上記式(2)においてRで示される炭素数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、エチルヘキシル基が挙げられる。上記式(2)のRのなかでは、好ましくは、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、エチル基、イソブチル基が挙げられる。
上記式(2)のR5aのなかでは、好ましくは、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基が挙げられ、より好ましくは、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基が挙げられ、さらに好ましくはシアノ基が挙げられる。
上記式(2)のR5bのなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。
上記式(2)のRは、ベンゼン環に1つのみ結合してもよく、ベンゼン環に2つ以上結合してもよい。上記式(2)のRのなかでは、好ましくは、カルボン酸基、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0026】
上記式(2)に示す構成単位(ケイ皮酸エステル残基単位)の具体例としては、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-プロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソプロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-ブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸s-ブチル残基単位、α-シアノ-2,4-ジヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位などのα-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸エチル残基単位などのα-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位などのα-シアノ-カルボキシ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの2-シアノ-3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの2-シアノ-3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0027】
エステル系樹脂は、上記式(2)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。上記式(2)に示す構成単位のなかでは、好ましくは、α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位、α-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0028】
エステル系樹脂における上記式(2)の構成単位の含有割合は、例えば21モル%以上であり、例えば70モル%以下、好ましくは60モル%以下、より好ましくは49モル%以下である。エステル系樹脂における各構成単位の含有割合は、例えば、H-NMRにより測定できる。
【0029】
上記式(3)においてRで示される環構造の具体例としては、1-ビニルピロール残基単位、2-ビニルピロール残基単位、1-ビニルインドール残基単位、9-ビニルカルバゾール残基単位、2-ビニルキノリン残基単位、4-ビニルキノリン残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位、N-ビニルスクシンイミド残基単位、2-ビニルフラン残基単位、2-ビニルベンゾフラン残基単位が挙げられ、好ましくは、9-ビニルカルバゾール残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位が挙げられる。
【0030】
エステル系樹脂は、上記式(3)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
エステル系樹脂における上記式(3)の構成単位の含有割合は、例えば21モル%以上、好ましくは35モル%以上であり、例えば70モル%以下、好ましくは60モル%以下である。
【0031】
エステル系樹脂は、好ましくは、上記(2)および(3)に示す構成単位に加えて、下記式(4)に示す構成単位をさらに有する。
【化8】
(式(4)中、RおよびRのそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
上記式(4)において、RおよびRで示される炭素数1~12の直鎖状アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。
上記式(4)において、RおよびRで示される炭素数3~12の分岐状アルキル基として、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。
上記式(4)において、RおよびRで示される炭素数3~6の環状アルキル基として、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
上記式(4)においてRおよびRは、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(4)におけるRのなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、メチル基が挙げられる。
上記式(4)におけるRのなかでは、好ましくは、炭素数3~12の分岐状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、炭素数3~8の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0032】
上記式(4)に示す構成単位は、代表的にはアクリル樹脂残基単位である。上記式(4)に示す構成単位の具体例として、アクリル酸残基単位、メタクリル酸残基単位、2-エチルアクリル酸残基単位、2-プロピルアクリル酸残基単位、2-イソプロピルアクリル酸残基単位、2-ペンチルアクリル酸残基単位、2-ヘキシルアクリル酸残基単位、アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位、アクリル酸n-プロピル残基単位、アクリル酸イソプロピル残基単位、アクリル酸n-ブチル残基単位、アクリル酸イソブチル残基単位、アクリル酸sec-ブチル残基単位、アクリル酸n-ペンチル残基単位、アクリル酸イソペンチル残基単位、アクリル酸sec-ペンチル残基単位、アクリル酸3-ペンチル残基単位、アクリル酸ネオペンチル残基単位、アクリル酸n-へキシル残基単位、アクリル酸イソへキシル残基単位、アクリル酸ネオへキシル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位、メタクリル酸n-ペンチル残基単位、メタクリル酸イソペンチル残基単位、メタクリル酸sec-ペンチル残基単位、メタクリル酸3-ペンチル残基単位、メタクリル酸ネオペンチル残基単位、メタクリル酸n-へキシル残基単位、メタクリル酸イソへキシル残基単位、メタクリル酸ネオへキシル残基単位、2-エチルアクリル酸メチル残基単位、2-エチルアクリル酸エチル残基単位、2-エチルアクリル酸n-プロピル残基単位、2-エチルアクリル酸イソプロピル残基単位、2-エチルアクリル酸n-ブチル残基単位、2-エチルアクリル酸イソブチル残基単位、2-エチルアクリル酸sec-ブチル残基単位などが挙げられ、好ましくはアクリル酸イソブチル残基単位が挙げられる。
【0033】
エステル系樹脂は、上記式(4)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
エステル系樹脂における上記式(4)の構成単位の含有割合は、例えば0モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、例えば30モル%以下である。
【0034】
エステル系樹脂は、上記式(2)から(4)以外の単量体残基単位を含有してもよい。そのような単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基、α-メチルスチレン残基などのスチレン類残基;ビニルナフタレン残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基などのビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基などのビニルエーテル残基;N-メチルマレイミド残基、N-シクロヘキシルマレイミド残基、N-フェニルマレイミド残基などのN-置換マレイミド残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;フマル酸エステル残基;フマル酸残基;エチレン残基、プロピレン残基などのオレフィン類残基が挙げられる。
【0035】
エステル系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×10以上5×10以下、好ましく、5×10以上3×10以下である。エステル系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。エステル系樹脂のMnが上記の範囲であれば、位相差層の機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0036】
エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば220℃以下、好ましくは210℃以下であり、例えば180℃以上、好ましくは190℃以上である。エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0037】
このようなエステル系樹脂の具体例としては、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0038】
B-3.溶媒
溶媒は、正の複屈折樹脂とのハンセン溶解度パラメータ(HSP)距離が上記の範囲であれば特に制限されない。溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;フェノール、クロロフェノールなどのフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、メシチレン、ジメトキシベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン(CPN)、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ブタノール、t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオールなどのアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル系溶媒;1,3-ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセルソルブ、および、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0039】
溶媒の溶解度パラメータ(SP値)は、例えば6.0以上、好ましくは7.0以上であり、例えば13.0以下、好ましくは12.0以下である。SP値は、例えば、樹脂を極性の大きく異なるような指標となる溶媒(例えばヘキサン、メタノール、トリクロロベンゼン、ガンマブチルラクトン、トルエンなど)に溶解する溶解試験(静置24h後に溶媒にどの程度溶解するかを目視確認する)結果に基づいて、HSP-iP(Pirika.com社製)などのハンセン溶解度パラメータを算出可能なシミュレーションソフトを使用することによって算出できる。
【0040】
溶媒のなかでは、好ましくは混合溶媒が挙げられる。混合溶媒は、第1溶媒および第2溶媒を含有している。第1溶媒は、代表的には、第2溶媒よりも低い沸点を有する。溶媒がこのような混合溶媒であると、加熱工程において、正の複屈折樹脂と負の複屈折樹脂とからナノ相分離構造を安定して形成できる。
【0041】
第1溶媒の沸点は、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上であり、例えば95℃以下、好ましくは85℃以下である。第2溶媒の沸点は、例えば70℃以上、好ましくは75℃以上、より好ましくは95℃を超過し、さらに好ましくは100℃以上であり、例えば160℃以下、好ましくは150℃以下である。混合溶媒の沸点は、例えば60℃以上、好ましくは70℃以上であり、例えば130℃以下、好ましくは110℃以下である。溶媒の沸点が上記範囲であれば、加熱工程において、塗膜からの溶媒の揮発を好適に調整でき、ナノ相分離構造を円滑に形成し得る。
【0042】
混合溶媒における第1溶媒の含有割合は、例えば30質量%以上、好ましくは40質量%以上、さらに好ましくは50質量%を超過し、とりわけ好ましくは60質量%以上であり、例えば90質量%以下、好ましくは80質量%以下である。
混合溶媒における第2溶媒の含有割合は、例えば10質量%以上、好ましくは20質量%以上であり、例えば70質量%以下、好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは50質量%以下、とりわけ好ましくは40質量%以下である。
【0043】
第1溶媒および第2溶媒の組み合わせ(第1溶媒/第2溶媒)として、好ましくは、エーテル系溶媒/芳香族炭化水素類、エーテル系溶媒/エステル系溶媒、エステル系溶媒/アルコール系溶媒、エステル系溶媒/ケトン系溶媒、エステル系溶媒/エーテル系溶媒、2種のエステル系溶媒が挙げられ、より好ましくは、エーテル系溶媒/芳香族炭化水素類、エーテル系溶媒/エステル系溶媒が挙げられる。
【0044】
第1溶媒として好適な溶媒(エーテル系溶媒およびエステル系溶媒)のなかでは、好ましくは、ジオキソラン、および、酢酸エチルが挙られる。
第2溶媒として好適な溶媒(芳香族炭化水素類系溶媒、エステル系溶媒、アルコール系溶媒、ケトン系溶媒、エーテル系溶媒)のなかでは、好ましくは、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、CPME、ブタノール、PGMEA、MIBKが挙げられ、より好ましくは、トルエン、ブタノールおよびPGMEAが挙げられる。
【0045】
上記した正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂を上記した溶媒に溶解するには、代表的には、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂を溶媒に添加して所定時間撹拌した後、静置して脱泡する。
撹拌時間としては、例えば5分以上、好ましくは10分以上であり、例えば3時間以下、好ましくは1時間以下である。
脱泡時間(静置時間)としては、例えば、30分以上、好ましくは1時間以上であり、例えば5時間以下、好ましくは3時間以下である。
【0046】
これによって、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂が溶解した樹脂溶液が調製される。樹脂溶液における固形分濃度は、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0047】
樹脂溶液には、上記した樹脂成分に加えて、添加剤を任意の適切な割合で添加してもよい。添加剤として、例えば、ヒンダ-ドフェノ-ル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤、その他酸化防止剤などの酸化防止剤;ヒンダ-ドアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾ-ル、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエ-トなどの紫外線吸収剤;界面活性剤;高分子電解質;導電性錯体;顔料;染料;帯電防止剤;アンチブロッキング剤;滑剤が挙げられる。
【0048】
C.塗布工程
次いで、樹脂溶液を支持基材上に塗布して、塗膜を形成する。
塗布方法は、特に制限されず、任意の適切な法を採用できる。塗布方法としては、例えば、ドクタ-ブレ-ド法、バ-コ-タ-法、スリップコ-タ-法、リバースグラビアコート法、マイクログラビア法、スピンコート法、刷毛塗り法、ロールコート法、フレキソ印刷法が挙げられる。塗布方法は、使用される樹脂溶液の組成や種類、位相差フィルムに所望される特性等に応じて適宜設定され得る。
【0049】
支持基材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリイミド、ポリアリレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、エポキシ系樹脂などの高分子基材、ガラス板、石英基板などのガラス基材、アルミ、ステンレス、フェロタイプなどの金属基材、セラミックス基板などの無機基材が挙げられ、好ましくは、高分子基材、金属基材が挙げられ、より好ましくはPET基材が挙げられる。
【0050】
これによって、塗膜が形成される。塗膜は、所望の位相差フィルムの厚みに応じて、任意の適切なウェット厚みを採用できる。塗膜のウェット厚みは、例えば400μm以上1200μm以下、好ましくは600μm以上1000μ以下である。
【0051】
D.加熱工程
次いで、支持基材上の塗膜を加熱して樹脂フィルムを調製する。加熱温度は、例えば35℃以上165℃以下であり、加熱時間は1分以上30分以下である。より詳しくは、このような加熱工程は、165℃以下で加熱する一次加熱工程(乾燥工程)と、110℃以上で加熱す二次加熱工程(アニール工程)とを含む。
【0052】
乾燥工程は、1段階で実施されてもよく、多段階で実施されてもよい。乾燥工程は、好ましくは多段階で実施される。乾燥工程が多段階で実施される場合、1段目の乾燥工程の加熱温度を、例えば35℃以上65℃以下、好ましくは45℃以上65℃以下に設定し、1段目の乾燥工程の加熱時間を、例えば1分以上30分以下、好ましくは1分以上8分以下に設定する。その後、乾燥工程の段数が増える毎に、加熱温度を、例えば10℃~130℃、好ましくは10℃~40℃上昇させる。2段目以降の各段の加熱時間は、代表的には、1段目の乾燥工程の加熱時間よりも短く、好ましくは20秒以上20分以下、より好ましくは30秒以上5分以下である。乾燥工程の段数は、好ましくは2段以上4段以下であり、より好ましくは3段以下である。乾燥工程における最高温度は、例えば165℃以下、好ましくは130℃未満、より好ましくは120℃未満、さらに好ましくは115℃以下である。
【0053】
その後、必要に応じて、乾燥工程で加熱された塗膜を、例えば30℃以下、好ましくは室温(23℃)に冷却する。次いで、アニール工程において、塗膜を加熱する。アニール工程の加熱温度は、代表的には乾燥工程の最高温度よりも高い。アニール工程の加熱温度は、例えば110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、例えば180℃以下、好ましくは165℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。アニール工程の加熱時間は、例えば1分以上、好ましくは5分以上、さらに好ましくは15分以上であり、例えば60分以下、好ましくは45分以下である。
【0054】
これによって、支持基材上に樹脂フィルムが形成される。樹脂フィルムの厚みは、例えば70μm以上200μm以下である。次いで、樹脂フィルムを支持基材から剥離する。
【0055】
E.延伸工程
次いで、樹脂フィルムを延伸する。延伸方法は、任意の適切な方法が採用され得る。自由端延伸、固定端延伸、自由端収縮、固定端収縮などの様々な延伸方法を、単独で用いることも、同時もしくは逐次で用いることもできる。延伸方向に関しても、長さ方向、幅方向、厚さ方向、斜め方向等、様々な方向や次元に行なうことができる。
【0056】
延伸方法の具体例としては、固定端一軸延伸、自由端一軸延伸、および斜め延伸が挙げられる。固定端一軸延伸は、例えば、テンター式延伸装置を用いて長尺状の樹脂フィルムを長手方向に搬送しながら、長手方向と直交する方向(幅方向)に延伸することによって行われ得る。自由端一軸延伸は、例えば、周速の異なるロール間に長尺状の樹脂フィルムを通して長手方向に延伸することによって行われ得る。斜め延伸は、例えば、長尺状の樹脂フィルムを長手方向に対して角度θの方向に連続的に斜め延伸することによって行われ得る。斜め延伸を採用することにより、フィルムの長手方向に対して角度θの配向角(角度θの方向に遅相軸)を有する長尺状の位相差フィルムが得られ得る。このような延伸方法のなかでは、好ましくは固定端一軸延伸が挙げられる。
【0057】
1つの実施形態において、樹脂フィルムは、延伸前に予熱される。予熱温度は、樹脂フィルムに含まれる材料のTgに関連して変動し、最も低いTgをもつ材料のTg:(Tg1)に着目して設定される。(Tg1)は、例えば、セルロース系樹脂のTgである。予熱温度は、例えば(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-10℃以上であり、例えば(Tg1)+50℃以下、好ましくは(Tg1)+40℃以下である。
延伸温度も予熱温度と同様であり、例えば、(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-10℃以上であり、例えば(Tg1)+50℃以下、好ましくは(Tg1)+40℃以下である。
延伸速度は、例えば、1mm/秒以上、好ましくは2mm/秒以上であり、例えば200mm/秒以下、好ましくは100mm/秒以下である。延伸倍率は、例えば、2.0倍以上、好ましくは2.5倍以上であり、例えば8.0倍以下、好ましくは7.5倍以下である。
【0058】
F.収縮工程
1つの実施形態において、位相差フィルムの製造方法は、延伸工程後の樹脂フィルムを延伸方向に熱収縮させる工程(熱収縮工程)をさらに含んでいる。
熱収縮温度も予熱、延伸温度と同様に(Tg1)に関して設定され、例えば(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-15℃以上であり、例えば(Tg1)+45℃以下、好ましくは(Tg1)+35℃以下である。熱収縮温度は、より好ましくは延伸温度以下である。収縮率は、代表的には1%以上5%以下である。
以上によって、位相差フィルムが製造される。なお、熱収縮工程を実施せずに、延伸工程後の樹脂フィルムを位相差フィルムとすることもできる。
【0059】
G.位相差フィルム
位相差フィルムにおいて、代表的には、ナノ相分離構造が形成されている。
本明細書において、「ナノ相分離構造」とは、電子密度の異なる2成分がナノオーダー(代表的には数十nmレベル)のドメインサイズで相分離した構造を意味する。セルロース系樹脂およびエステル系樹脂は、海島構造であってもよく、共連続構造であってもよい。ナノ相分離構造の確認手段としては、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)および、X線小角散乱(SAXS)が挙げられ、好ましくは、位相差フィルムの断面のTEM観察が挙げられる。位相差フィルムにナノ相分離構造が形成されている場合、位相差フィルムの断面のTEM観察において、電子密度の異なる2種のドメインを確認でき、すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満であることを確認できる。より具体的には、位相差フィルムの厚み方向の中央付近(位相差フィルムの厚みを100%としたときに、位相差フィルムの厚み方向の中央から±20%の領域)をサンプリングし、重金属染色を含む超薄切片法により、位相差フィルムの断面をTEM(例えば、HT7820,日立社製)により観察する(断面TEM観察)。これによって、ナノ相分離構造を確認できる。
【0060】
位相差フィルムは、正の複屈折樹脂(上記セルロース系樹脂)および負の複屈折樹脂(上記エステル系樹脂)を含んでいる。位相差フィルムの厚み方向の位相差の波長分散特性は、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂の各々の厚み方向の位相差の波長分散特性を合成したものとして把握され得る。よって、厚み方向の位相差に関してフラットな波長分散特性を有し、かつ、nx>nzの屈折率特性を示す上記セルロース系樹脂と、正の波長分散特性を有し、かつ、nx<nzの屈折率特性を示す上記エステル系樹脂とを上記割合で含むことにより、厚み方向の位相差に関して逆波長分散特性を有し、かつ、nx>nzの屈折率特性を示す樹脂フィルムが好適に得られ得る。
【0061】
位相差フィルムは、代表的には、nx>ny≧nzの屈折率特性を示す。「ny=nz」とは、nyとnzとが完全に同一である場合だけでなく、nyとnzとが実質的に同一である場合も包含する。屈折率特性がnx>ny=nzである位相差フィルムは、「ポジティブAプレート」等と称される場合がある。屈折率特性がnx>ny>nzである位相差フィルムは、「ネガティブBプレート」等と称される場合がある。
【0062】
位相差フィルムの面内複屈折(Δn(550))は、例えば0.0015~0.01であり、また例えば0.0017~0.008であり、また例えば0.002~0.007である。
位相差フィルムは、代表的にはλ/4板として機能する。位相差フィルムのRe(550)は、例えば100nm~200nmであり、また例えば120nm~160nmであり、また例えば130nm~150nmである。
位相差フィルムのNz係数は、例えば0.9~3であり、また例えば0.9~2.5であり、また例えば0.9~1.5であり、また例えば0.9~1.3である。このような関係を満たすことにより、偏光子と組み合わせて円偏光板として画像表示装置に用いた場合に、非常に優れた反射色相を達成し得る。
【0063】
位相差フィルムは、代表的には、面内位相差に関して、測定光の波長に応じて大きくなる逆分散波長特性を示す。
位相差フィルムのRe(450)/Re(550)は、例えば0.8~1.0であり、また例えば0.60~0.90であり、また例えば0.70~0.88である。
位相差フィルムのRe(650)/Re(550)は、例えば1.0~1.2であり、また例えば1.0~1.15であり、また例えば1.0~1.1である。
このような関係を満たす位相差フィルムを偏光子と組み合わせて円偏光板として画像表示装置に用いた場合、非常に優れた反射防止特性を実現することができる。
【0064】
位相差フィルムの厚みは、例えば10μm以上、好ましくは20μm以上であり、例えば80μm以下、好ましくは60μm以下である。
【0065】
位相差フィルムは、枚葉状であってもよく長尺状であってもよい。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の位相差フィルムは、ロール状に巻回可能である。
【実施例0066】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。
【0067】
(1)厚みの測定
リニアゲージ(尾崎製作所社製、製品名「D-10S」)を用いて測定した。
【0068】
(2)位相差値の測定
実施例および比較例に用いた位相差層の位相差値について、Axoscan(Axometrics社製)を用いて自動計測した。測定波長は、450nm、550nmまたは650nmであり、測定温度は23℃であった。
【0069】
(3)面内複屈折Δn/延伸倍率(延伸配向性)の算出
上記(1)で測定された位相差値に基づいて面内複屈折Δn(550)を算出し、面内複屈折Δn(550)を延伸倍率で割ることにより、面内複屈折Δn/延伸倍率を算出した。その結果を表2に示す。正の複屈折樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(HSP距離*正の複屈折樹脂)と、延伸配向性(面内複屈折Δn/延伸倍率)との相関を図1に示す。負の複屈折樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(HSP距離*負の複屈折樹脂)と、面内複屈折Δn/延伸倍率との相関を図2に示す。
【0070】
(4)Δ分散(逆分散性)の算出
Δ分散を、下記式(A)により算出した。Δ分散は、単位倍率あたりどれだけ逆分散性が発現するかの指標として定義される。つまり、実効倍率を横軸、逆分散値を縦軸に取った場合の傾きの絶対値である。ただし、位相差の分散初期値を1と定義する。その結果を表2に示す。{(HSP距離*正の複屈折樹脂)-(HSP距離*負の複屈折樹脂)}と、Δ分散との相関を図3に示す。
Δ分散=|1-延伸後逆分散値|/実効倍率・・・(A)
(式(A)中、延伸後逆分散値はRe(450)/Re(550)を示し;実効倍率は、(延伸倍率-1)を示す。
【0071】
<<製造例1;負の複屈折性を示すエステル系樹脂(9-ビニルカルバゾール/α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル/アクリル酸イソブチル)の合成>>
容量50mLのガラスアンプルに9-ビニルカルバゾール12.20g、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル7.74g、アクリル酸イソブチル4.05g、重合開始剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン0.453gおよびメチルエチルケトン36.00gを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを54℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン100gを加え、このポリマー溶液を800gのメタノール/水混合溶剤(質量比80/20)中に滴下して析出させ、ろ過した後、ろ過物を110gのメタノール/水混合溶剤(質量比90/10)で5回洗浄、ろ過した。得られた樹脂を80℃で10時間真空乾燥することにより、負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体22.3gを得た。得られた重合体の数平均分子量は50,000であり、残基単位の比率は、9-ビニルカルバゾール残基単位50モル%、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位25モル%、アクリル酸イソブチル残基単位25モル%であった。
【0072】
[実施例1~8および比較例1~5]
エチルセルロース(正の複屈折樹脂、ダウ・ケミカル社製、エトセル スタンダード(ETHOCEL standard)100、数平均分子量Mn=58,000、重量平均分子量Mw=180,000、Mw/Mn=3.2、全置換度DS=2.51)と、製造例1で得られたエステル系樹脂(負の複屈折樹脂)とを、エチルセルロース:エステル系樹脂=80:20(質量比)となるように、表1および表2に示す溶媒に溶解して、固形分濃度16質量%の樹脂溶液を得た。
なお、表1には、混合溶媒の組成と、各溶媒の沸点およびsp値と、混合溶媒、正の複屈折樹脂および負の複屈折樹脂のそれぞれのエネルギー(分子間の分散力エネルギーδ、分子間の双極子相互作用エネルギーδ、分子間の水素結合エネルギーδ)とを示す。表2には、混合溶媒の組成、HSP距離*正の複屈折樹脂、HSP距離*負の複屈折樹脂、および、{HSP距離*正の複屈折樹脂-HSP距離*負の複屈折樹脂を示す。
次いで、樹脂溶液を、ディスパーミキサーによって30分間撹拌した後、2時間静置して脱泡した。脱泡後の樹脂溶液を、アプリケータにより、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(支持基材、東洋紡社製、コスモシャインA4610)上に、ウェット厚みが約810μmとなるように塗布して、塗膜を形成した。
次いで、塗膜を、オーブンにて、65℃/6分間、85℃/1分間、110℃/2分間の条件で3段乾燥した後、室温(23℃)において60分間静置した。その後、乾燥後の塗膜を、再度オーブンにて、130℃/60分間アニールした。これにより、PETフィルム上に樹脂フィルムが形成された。
次いで、PETフィルムから樹脂フィルムを剥離した。剥離後の樹脂フィルムを、165℃/1分間の条件で予熱した後、延伸温度155℃、延伸速度2mm/秒の条件で、表2に示す延伸倍率に固定端横延伸した。その後、延伸した樹脂フィルムを、収縮温度155℃で、幅方向に2%収縮させて、位相差フィルムを得た。位相差フィルムの屈折率特性は、nx>ny>nzを示していた。位相差フィルムを上記した厚みの測定に供した。位相差フィルムの厚みは、46μmであった。
【0073】
【表1】
【0074】
【表2】
【0075】
[評価]
図1および図2から明らかなように、正の複屈折樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(HSP*正の複屈折樹脂)が、負の複屈折樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(HSP*負の複屈折樹脂)よりも、延伸配向性(Δn/延伸倍率)に大きく影響し、HSP*正の複屈折樹脂を11.15以下とすることで、延伸配向性を顕著に向上できることがわかる。
図3から明らかなように、{HSP*正の複屈折樹脂-HSP*負の複屈折樹脂が60以下であると、逆分散性(Δ分散)を向上できることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の実施形態による位相差フィルムの製造方法によって得られる位相差フィルムは、液晶表示装置およびEL表示装置等の画像表示装置、特に、有機EL表示装置において好適に用いられ得る。
図1
図2
図3