(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023180201
(43)【公開日】2023-12-20
(54)【発明の名称】位相差層付偏光板
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20231213BHJP
C08L 1/26 20060101ALI20231213BHJP
C08L 35/00 20060101ALI20231213BHJP
C08L 39/04 20060101ALI20231213BHJP
G02F 1/13363 20060101ALN20231213BHJP
G02F 1/1335 20060101ALN20231213BHJP
【FI】
G02B5/30
C08L1/26
C08L35/00
C08L39/04
G02F1/13363
G02F1/1335 510
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022168678
(22)【出願日】2022-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2022093281
(32)【優先日】2022-06-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100122471
【弁理士】
【氏名又は名称】籾井 孝文
(72)【発明者】
【氏名】柳沼 寛教
(72)【発明者】
【氏名】中西 貞裕
(72)【発明者】
【氏名】東 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】長原 一平
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】藤井 靖芳
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 正泰
(72)【発明者】
【氏名】小峯 拓也
【テーマコード(参考)】
2H149
2H291
4J002
【Fターム(参考)】
2H149AA02
2H149AA18
2H149AB02
2H149AB12
2H149AB13
2H149AB15
2H149BA02
2H149DA01
2H149DA02
2H149DA12
2H149DA18
2H149DB28
2H149EA02
2H149EA19
2H149FA02X
2H149FA02Y
2H149FA03W
2H149FA12X
2H149FA12Y
2H149FD05
2H149FD25
2H291FA22X
2H291FA22Z
2H291FA30X
2H291FA30Z
2H291FA94X
2H291FA94Z
2H291FA95X
2H291FA95Z
2H291FB03
2H291FB04
2H291FB05
2H291FC08
2H291FC33
2H291FC42
2H291FD12
2H291GA08
2H291GA23
2H291LA04
2H291PA04
2H291PA53
2H291PA84
4J002AB03W
4J002BH02Y
4J002BJ00X
4J002GP00
(57)【要約】
【課題】逆分散特性を有する位相差層を備える位相差層付偏光板であって、高温高湿環境下での外観不良の発生を抑制できる位相差層付偏光板を提供すること。
【解決手段】本発明の実施形態による位相差層付偏光板は、偏光子と;セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する位相差層と;をこの順に備えている。位相差層のRe(450)/Re(550)は、0~1であり、位相差層のRe(550)は、100nm~200nmであり、偏光子の吸収軸方向と位相差層の遅相軸方向とがなす角度は、40°~50°、または、130°~140°である。位相差層において、ナノ相分離構造が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光子と、
セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する位相差層と、をこの順に備え、
前記位相差層のRe(450)/Re(550)は、0~1であり、
前記位相差層のRe(550)は、100nm~200nmであり、
前記偏光子の吸収軸方向と前記位相差層の遅相軸方向とがなす角度は、40°~50°、または、130°~140°であり、
前記位相差層において、ナノ相分離構造が形成されている、位相差層付偏光板。
【請求項2】
前記セルロース系樹脂は、下記式(1)に示す構成単位を有する、請求項1に記載の位相差層付偏光板:
【化1】
(式(1)中、R
1~R
3のそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
【請求項3】
前記エステル系樹脂は、下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位と、を有する、請求項1または2に記載の位相差層付偏光板:
【化2】
(式(2)中、R
4は、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R
5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
6は、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す。)
【化3】
(式(3)中、R
7は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す)。
【請求項4】
前記エステル系樹脂は、下記式(4)に示す構成単位をさらに有する、請求項3に記載の位相差層付偏光板:
【化4】
(式(4)中、R
8およびR
9のそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
【請求項5】
前記セルロース系樹脂の含有割合は、前記セルロース系樹脂および前記エステル系樹脂の総和を100質量%としたときに、50質量%を超過する、請求項1または2に記載の位相差層付偏光板。
【請求項6】
前記位相差層は、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する樹脂フィルムを延伸した延伸フィルムであり、
前記延伸フィルムの延伸方向と直交する方向におけるMIT回数が300回以上である、請求項1または2に記載の位相差層付偏光板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差層付偏光板に関する。
【背景技術】
【0002】
画像表示装置には、一般に、用途に適した光学特性を補償するために、偏光子と光学補償フィルムとを組み合わせた様々な光学積層体が使用されている。そのような光学積層体として、例えば、偏光子と、λ/4板である位相差層であって、変性ポリエステルカーボネート樹脂から形成される位相差層とを、この順に備える位相差層付偏光板が提案されている(例えば、特許文献1参照)。近年、画像表示装置の使用環境が多様化しており、高温高湿環境下での耐久性が要求される場合がある。このような高温高湿環境下での耐久性に関して、特許文献1に記載の位相差層付偏光板には改善の余地が残されており、特許文献1に記載の位相差層付偏光板では、特に高温高湿環境下で位相差層のクラック、剥がれなどの外観不良が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記従来の課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的とするところは、逆分散特性を有する位相差層を備える位相差層付偏光板であって、高温高湿環境下での外観不良の発生を抑制できる位相差層付偏光板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
[1]本発明の実施形態による位相差層付偏光板は、偏光子と;セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する位相差層と;をこの順に備えている。該位相差層のRe(450)/Re(550)は、0~1であり、該位相差層のRe(550)は、100nm~200nmである。該偏光子の吸収軸方向と該位相差層の遅相軸方向とがなす角度は、40°~50°、または、130°~140°である。上記位相差層において、ナノ相分離構造が形成されている。
[2]1つの実施形態は、上記セルロース系樹脂が下記式(1)に示す構成単位を有している、上記項目[1]に記載の位相差層付偏光板である。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
3のそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
[3]1つの実施形態は、上記エステル系樹脂が下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位と、を有している、上記項目[1]または[2]に記載の位相差層付偏光板である。
【化2】
(式(2)中、R
4は、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R
5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
6は、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す。)
【化3】
(式(3)中、R
7は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
[4]1つの実施形態は、上記エステル系樹脂が下記式(4)に示す構成単位をさらに有している、上記項目[3]に記載の位相差層付偏光板である。
【化4】
(式(4)中、R
8およびR
9のそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す。)
[5]1つの実施形態は、上記セルロース系樹脂の含有割合が、上記セルロース系樹脂および上記エステル系樹脂の総和を100質量%としたときに、50質量%を超過する、上記項目[1]から[4]のいずれかに記載の位相差層付偏光板である。
[6]1つの実施形態は、上記位相差層が、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する樹脂フィルムを延伸した延伸フィルムであり、該延伸フィルムの延伸方向と直交する方向におけるMIT回数が、300回以上である、上記項目[1]から[5]のいずれかに記載の位相差層付偏光板である。
【発明の効果】
【0006】
本発明の実施形態によれば、逆分散特性を有する位相差層を備える位相差層付偏光板であって、高温高湿環境下での外観不良の発生が抑制される位相差層付偏光板を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の代表的な実施形態について説明するが、本発明はこれらの実施形態には限定されない。
【0009】
(用語および記号の定義)
本明細書における用語および記号の定義は下記の通りである。
(1)屈折率(nx、ny、nz)
「nx」は面内の屈折率が最大になる方向(すなわち、遅相軸方向)の屈折率であり、「ny」は面内で遅相軸と直交する方向(すなわち、進相軸方向)の屈折率であり、「nz」は厚み方向の屈折率である。
(2)面内位相差(Re)
「Re(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内位相差である。例えば、「Re(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内位相差である。Re(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Re(λ)=(nx-ny)×dによって求められる。
(3)角度
本明細書において角度に言及するときは、特に明記しない限り、当該角度は時計回りおよび反時計回りの両方の方向の角度を包含する。
(4)面内複屈折(Δn)
「Δn(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した面内複屈折である。例えば、「Δn(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した面内複屈折である。面内複屈折(Δn)は、式:Δn=nx-nyから求められる。
(5)厚み方向の位相差(Rth)
「Rth(λ)」は、23℃における波長λnmの光で測定した厚み方向の位相差である。例えば、「Rth(550)」は、23℃における波長550nmの光で測定した厚み方向の位相差である。Rth(λ)は、層(フィルム)の厚みをd(nm)としたとき、式:Rth(λ)=(nx-nz)×dによって求められる。
(6)Nz係数
Nz係数は、Nz=Rth/Reによって求められる。
【0010】
A.位相差層付偏光板の全体構成
図1は、本発明の1つの実施形態による位相差層付偏光板の概略断面図である。図示例の位相差層付偏光板100は、偏光子11を含む偏光板10と;セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する位相差層20と;をこの順に備えている。位相差層20のRe(450)/Re(550)は、0~1であり、また例えば0.60~0.99であり、また例えば0.70~0.95であり、また例えば0.70~0.90である。位相差層20のRe(550)は、100nm~200nmであり、また例えば120nm~160nmであり、また例えば130nm~150nmである。位相差層20は、代表的には、λ/4板として機能する。偏光子11の吸収軸方向と位相差層20の遅相軸方向とがなす角度は、40°~50°、好ましくは42°~48°、より好ましくは44°~46°、さらに好ましくは約45°であり;あるいは、130°~140°、好ましく132°~138°、より好ましくは134°~136°、さらに好ましくは約135°である。位相差層20において、ナノ相分離構造が形成されている。詳しくは後述するが、セルロース系樹脂は、相対的にガラス転移温度(Tg)が低く、エステル系樹脂は、相対的にTgが高い。
本発明の1つの実施形態によれば、Re(450)/Re(550)が上記範囲である逆分散特性(位相差値が測定光の波長に応じて大きくなる逆分散の波長依存性)を有する位相差層20は、相対的にTgが低いセルロース系樹脂と、相対的にTgが高いエステル系樹脂とを含んでいる。そのため、位相差層20に、セルロース系樹脂による残存応力低減効果と、エステル系樹脂による収縮量低減効果とをバランスよく付与することができる。このような位相差層20においてナノ相分離構造が形成されているので、高温高湿環境下(例えば、110℃かつ85%RH(相対湿度))において、位相差層20が急激に収縮することを抑制でき、位相差層20にクラックが生じること、および/または、位相差層20が偏光子11から剥がれることを抑制できる。これによって、高温高湿環境下での位相差層付偏光板100の外観不良の発生を抑制できる。また、位相差層20においてナノ相分離構造が形成されていると、逆分散位相差層としての機能を安定して確保できる。
【0011】
本明細書において、「ナノ相分離構造」とは、電子密度の異なる2成分がナノオーダー(代表的には数十nmレベル)のドメインサイズで相分離した構造を意味する。セルロース系樹脂およびエステル系樹脂は、海島構造であってもよく、共連続構造であってもよい。ナノ相分離構造の確認手段としては、例えば、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)、原子間力顕微鏡(AFM)および、X線小角散乱(SAXS)が挙げられ、好ましくは、位相差層20の断面のTEM観察が挙げられる。TEM観察については実施例において詳述する。位相差層20にナノ相分離構造が形成されている場合、位相差層20の断面のTEM観察において、電子密度の異なる2種のドメインを確認でき、すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満であることを確認できる。
【0012】
位相差層20の面内複屈折Δn(550)は、例えば0.0020以上、好ましくは0.0030以上、より好ましくは0.0040以上であり、例えば0.0070以下、好ましくは0.0060以下、より好ましくは0.0055以下である。
位相差層20のNz係数は、例えば0.9以上3以下であり、好ましくは1.0以上1.5以下である。
【0013】
1つの実施形態において、セルロース系樹脂の含有割合は、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂の総和を100質量%としたときに、代表的には50質量%を超過し、好ましくは60質量%以上、より好ましくは70質量%以上である。セルロース系樹脂の含有割合が上記下限以上であれば、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂が安定してナノ相分離構造を形成できる。なお、セルロース系樹脂の含有割合の上限は、代表的には90質量%以下である。
【0014】
1つの実施形態において、位相差層20は、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する樹脂フィルムを延伸した延伸フィルムである。詳しくは後述するが、延伸フィルム(位相差フィルム)は、代表的には、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含有する樹脂フィルムを、所定方向に一軸延伸することにより調製される。このような位相差フィルムには、上記のように、ナノ相分離構造が形成されている。位相差フィルム単体、および、位相差フィルム(位相差層)を備える位相差層付偏光板は、延伸方向および延伸方向と直交する方向において、優れた屈曲性を有している。
特に、ナノ相分離構造を有する位相差フィルムは、ナノ相分離構造を有しない位相差フィルム(例えば、樹脂延伸フィルム、液晶ポリマーフィルム)と比較して、延伸方向と直交する方向の屈曲性が顕著に優れており、ナノ相分離構造を有する位相差フィルム(位相差層)を備える位相差層付偏光板も同様の傾向を示す。
【0015】
延伸方向における位相差フィルムのMIT回数は、例えば800回以上、好ましくは1000回以上、より好ましくは1500回以上であり、例えば、2500回以下である。なお、MIT回数は、JIS P 8115に準拠して測定できる(以下同様)。
延伸方向と直交する方向における位相差フィルムのMIT回数は、例えば400回以上、好ましくは500回以上、より好ましくは600回以上、さらに好ましくは1000回以上、とりわけ好ましくは1300回以上であり、例えば、2000回以下である。
延伸方向における位相差層付偏光板100のMIT回数は、例えば300回以上、好ましくは500回以上、より好ましくは600回以上であり、例えば、1000回以下である。
延伸方向と直交する方向における位相差層付偏光板100のMIT回数は、例えば300回以上、好ましくは400回以上、より好ましくは450回以上、さらに好ましくは500回以上、とりわけ好ましくは550回以上であり、例えば、900回以下である。
【0016】
1つの実施形態において、位相差層20は、接着層30を介して偏光板10に貼り付けられている。図示例では、位相差層20は、接着層30を介して偏光子11に貼り付けられている。なお、接着層30は、偏光子11上に直接形成されてもよく、偏光板10が偏光子11の視認側と反対側の面に保護層を備える場合、保護層上に形成されてもよい。接着層30は、粘着剤層であってもよく、接着剤層であってもよい。接着層30は、好ましくは粘着剤層である。接着層30が粘着剤層である場合、粘着剤層を構成する粘着剤として、例えば、(メタ)アクリル系の粘着剤が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系」とは、アクリル系および/またはメタクリル系をいう。粘着剤層の厚みは、例えば3.5μm以上35μm以下である。
接着層30が接着剤層である場合、接着剤層を構成する接着剤として、例えば、熱硬化型接着剤、紫外線硬化型接着剤が挙げられ、より好ましくは、(メタ)アクリル系の紫外線硬化型接着剤が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル系」とは、アクリル系および/またはメタクリル系をいう。接着剤層の厚みは、例えば0.4μm以上3.0μm以下である。
【0017】
1つの実施形態において、位相差層付偏光板100は、位相差層20の偏光子11と反対側に設けられる粘着剤層40をさらに備えている。これによって、位相差層付偏光板100は、後述する画像表示セルに貼り付け可能である。粘着剤層40を構成する粘着剤として、例えば、(メタ)アクリル系粘着剤が挙げられる。粘着剤層40の厚みは、例えば3.5μm以上35μm以下である。
さらに、粘着剤層40の表面には、位相差層付偏光板100が使用に供されるまで、はく離ライナー50が仮着されていることが好ましい。はく離ライナーを仮着することにより、粘着剤層を保護するとともに、ロール形成が可能となる。
【0018】
位相差層付偏光板は、枚葉状であってもよく長尺状であってもよい。本明細書において「長尺状」とは、幅に対して長さが十分に長い細長形状を意味し、例えば、幅に対して長さが10倍以上、好ましくは20倍以上の細長形状を含む。長尺状の位相差層付偏光板は、ロール状に巻回可能である。
【0019】
以下、位相差層付偏光板100を構成する各部材について説明する。
【0020】
B.偏光板
B-1.偏光子
偏光子11としては、任意の適切な偏光子が採用され得る。例えば、偏光子を形成する樹脂フィルムは、単層の樹脂フィルムであってもよく、二層以上の積層体であってもよい。
【0021】
単層の樹脂フィルムから構成される偏光子の具体例としては、ポリビニルアルコール(PVA)系フィルム、部分ホルマール化PVA系フィルム、エチレン・酢酸ビニル共重合体系部分ケン化フィルム等の親水性高分子フィルムに、ヨウ素や二色性染料等の二色性物質による染色処理および延伸処理が施されたもの、PVAの脱水処理物やポリ塩化ビニルの脱塩酸処理物等ポリエン系配向フィルム等が挙げられる。好ましくは、光学特性に優れることから、PVA系フィルムをヨウ素で染色し一軸延伸して得られた偏光子が用いられる。
【0022】
上記ヨウ素による染色は、例えば、PVA系フィルムをヨウ素水溶液に浸漬することにより行われる。上記一軸延伸の延伸倍率は、好ましくは3倍以上7倍以下である。延伸は、染色処理後に行ってもよいし、染色しながら行ってもよい。また、延伸してから染色してもよい。必要に応じて、PVA系フィルムに、膨潤処理、架橋処理、洗浄処理、乾燥処理等が施される。例えば、染色の前にPVA系フィルムを水に浸漬して水洗することで、PVA系フィルム表面の汚れやブロッキング防止剤を洗浄することができるだけでなく、PVA系フィルムを膨潤させて染色ムラなどを防止することができる。
【0023】
積層体を用いて得られる偏光子の具体例としては、樹脂基材と当該樹脂基材に積層されたPVA系樹脂層(PVA系樹脂フィルム)との積層体、あるいは、樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子が挙げられる。樹脂基材と当該樹脂基材に塗布形成されたPVA系樹脂層との積層体を用いて得られる偏光子は、例えば、PVA系樹脂溶液を樹脂基材に塗布し、乾燥させて樹脂基材上にPVA系樹脂層を形成して、樹脂基材とPVA系樹脂層との積層体を得ること;当該積層体を延伸および染色してPVA系樹脂層を偏光子とすること;により作製され得る。本発明の1つの実施形態においては、好ましくは、樹脂基材の片側に、ハロゲン化物とポリビニルアルコール系樹脂とを含むポリビニルアルコール系樹脂層を形成する。延伸は、代表的には積層体をホウ酸水溶液中に浸漬させて延伸することを含む。さらに、延伸は、必要に応じて、ホウ酸水溶液中での延伸の前に積層体を高温(例えば、95℃以上)で空中延伸することをさらに含み得る。加えて、本発明の1つの実施形態においては、好ましくは、積層体は、長手方向に搬送しながら加熱することにより幅方向に2%以上収縮させる乾燥収縮処理に供される。代表的には、本実施形態の製造方法は、積層体に、空中補助延伸処理と染色処理と水中延伸処理と乾燥収縮処理とをこの順に施すことを含む。補助延伸を導入することにより、熱可塑性樹脂上にPVAを塗布する場合でも、PVAの結晶性を高めることが可能となり、高い光学特性を達成することが可能となる。また、同時にPVAの配向性を事前に高めることで、後の染色工程や延伸工程で水に浸漬された時に、PVAの配向性の低下や溶解などの問題を防止することができ、高い光学特性を達成することが可能になる。さらに、PVA系樹脂層を液体に浸漬した場合において、PVA系樹脂層がハロゲン化物を含まない場合に比べて、ポリビニルアルコール分子の配向の乱れ、および配向性の低下が抑制され得る。これにより、染色処理および水中延伸処理など、積層体を液体に浸漬して行う処理工程を経て得られる偏光子の光学特性を向上し得る。さらに、乾燥収縮処理により積層体を幅方向に収縮させることにより、光学特性を向上させることができる。得られた樹脂基材/偏光子の積層体はそのまま用いてもよく(すなわち、樹脂基材を偏光子の保護層としてもよく)、樹脂基材/偏光子の積層体から樹脂基材を剥離し、当該剥離面に目的に応じた任意の適切な保護層を積層して用いてもよい。このような偏光子の製造方法の詳細は、例えば特開2012-73580号公報、特許第6470455号に記載されている。これらの公報は、その全体の記載が本明細書に参考として援用される。
【0024】
偏光子の厚みは、例えば1μm以上80μm以下、好ましくは1μm以上15μm以下、より好ましくは1μm以上12μm以下、さらに好ましくは3μm以上12μm以下、とりわけ好ましくは3μm以上8μm以下である。偏光子の厚みがこのような範囲であれば、加熱時のカールを良好に抑制することができ、および、良好な加熱時の外観耐久性が得られる。
【0025】
偏光子は、好ましくは、波長380nm~780nmのいずれかの波長で吸収二色性を示す。偏光子の単体透過率は、例えば41.5%以上46.0%以下、好ましくは43.0%以上46.0%以下、より好ましくは44.5%以上46.0%以下である。偏光子の偏光度は、好ましくは97.0%以上、より好ましくは99.0%以上、さらに好ましくは99.9%以上である。
【0026】
B-2.保護層
偏光板10は、保護層をさらに備えてもよい。保護層は、偏光子の少なくとも一方の面に設けられている。図示例では、偏光板10は、偏光子11の視認側の面に設けられる保護層12を備えている。
【0027】
保護層は、偏光子の保護層として使用できる任意の適切なフィルムで形成される。当該フィルムの主成分となる材料の具体例としては、トリアセチルセルロース(TAC)等のセルロース系樹脂や、ポリエステル系、ポリビニルアルコール系、ポリカーボネート系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリエーテルスルホン系、ポリスルホン系、ポリスチレン系、ポリノルボルネン系、ポリオレフィン系、(メタ)アクリル系、アセテート系等の透明樹脂が挙げられる。また、(メタ)アクリル系、ウレタン系、(メタ)アクリルウレタン系、エポキシ系、シリコーン系等の熱硬化型樹脂または紫外線硬化型樹脂等も挙げられる。この他にも、例えば、シロキサン系ポリマー等のガラス質系ポリマーも挙げられる。また、特開2001-343529号公報(WO01/37007)に記載のポリマーフィルムも使用できる。
【0028】
偏光板10が、後述する画像表示装置の最表面に位置する保護層を備える場合、当該保護層には、必要に応じて、ハードコート処理、反射防止処理、スティッキング防止処理、アンチグレア処理等の表面処理が施されていてもよい。
【0029】
保護層の厚みは、代表的には5mm以下、好ましくは1mm以下、より好ましくは1μm以上500μm以下、さらに好ましくは5μm以上150μm以下である。なお、表面処理が施されている場合、保護層の厚みは、表面処理層の厚みを含めた厚みである。
【0030】
C.位相差層
位相差層20は、代表的には、nx>ny≧nzの屈折率特性を示す。「ny=nz」とは、nyとnzとが完全に同一である場合だけでなく、nyとnzとが実質的に同一である場合も包含する。屈折率特性がnx>ny=nzである位相差層20は、「ポジティブAプレート」等と称される場合がある。屈折率特性がnx>ny>nzである位相差層20は、「ネガティブBプレート」等と称される場合がある。
位相差層20の厚みは、例えば10μm以上、好ましくは20μm以上であり、例えば80μm以下、好ましくは60μm以下である。位相差層20の厚みは、位相差層付偏光板の用途に応じて任意かつ適切に調整でき、上記範囲に制限されない。位相差層20の厚みは、例えば50μm以下、好ましくは40μm以下、より好ましくは30μm以下、さらに好ましくは20μm以下であってもよい。位相差層の厚みが上記上限以下であれば、位相差層付偏光板の屈曲性のさらなる向上を図ることができ、位相差層付偏光板のMIT回数の向上を図り得る。この場合、位相差層の厚みの下限は、代表的には5μm以上である。
【0031】
位相差層20は、上記した通り、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含んでいる。セルロース系樹脂は、正の複屈折を示す。エステル系樹脂は、負の複屈折を示す。ここで、「正の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向と直交する方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向の屈折率が大きくなることをいう。「負の複屈折を示す」とは、ポリマーを延伸等により配向させた場合に、その延伸方向の屈折率が相対的に小さくなることをいう。換言すると、延伸方向と直交する方向の屈折率が大きくなることをいう。
【0032】
C-1.セルロース系樹脂
セルロース系樹脂は、代表的には、β-グルコース単位が直鎖状に重合した高分子であって、下記式(1)に示す構成単位を有している。
【化5】
(式(1)中、R
1~R
3のそれぞれは、水素原子または炭素数1~12の置換基を示す)。
【0033】
上記式(1)においてR1~R3で示される炭素数1~12の置換基として、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、デカニル基、ドデカニル基、イソブチル基、t-ブチル基などのアルキル基;シクロヘキシル基などのシクロアルキル基;フェニル基、ナフチル基などのアリール基;ベンジル基などのアラルキル基;アセチル基、プロピオニル基などのアシル基;シアノエチル基などのシアノアルキル基;アミノエチル基などのアミノアルキル基;2-ヒドロキシエチル基、3-ヒドロキシプロピル基などのヒドロキシアルキル基;が挙げられる。
上記式(1)においてR1~R3は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(1)のR1~R3のそれぞれとして、好ましくは、水素原子、および、炭素数1~12のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、および、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、さらに好ましくは、水素原子、および、エチル基が挙げられる。
【0034】
セルロース系樹脂の置換度(以下、DSという。)は、代表的には1.5以上2.95以下、好ましくは1.8以上2.8以下である。DSとは、セルロース系樹脂において水酸基が置換されている割合であって、100%置換している場合DSは3である。DSは、第十七改正日本薬局方に記載のように、ガスクロマトグラフィーのピーク面積から算出できる。
【0035】
セルロース系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×103以上1×106以下、好ましくは、5×103以上2×105以下である。セルロース系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。セルロース系樹脂のMnが上記の範囲であれば、位相差層の機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0036】
セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば140℃以下、好ましくは135℃以下であり、例えば120℃以上、好ましくは125℃以上である。セルロース系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0037】
セルロース系樹脂の具体例としては、メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースなどのアルキルセルロース;ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロースなどのヒドロキシアルキルセルロース;ベンジルセルロースなどのアラルキルセルロース;シアノエチルセルロースなどのシアノアルキルセルロース;カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロースなどのカルボキシアルキルセルロース;カルボキシメチルメチルセルロース、カルボキシメチルエチルセルロースなどのカルボキシアルキルアルキルセルロース;アミノエチルセルロースなどのアミノアルキルセルロースが挙げられる。セルロース系樹脂は、単独でまたは組み合わせて使用できる。
セルロース系樹脂のなかでは、好ましくは、アルキルセルロースが挙げられ、より好ましくはエチルセルロースが挙げられる。
【0038】
C-2.エステル系樹脂
エステル系樹脂は、代表的には、下記式(2)に示す構成単位と、下記式(3)に示す構成単位とを有している。
【化6】
(式(2)中、R
4は、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
5aは、炭素数1~12のアルキル基、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、または、チオール基から選択される1種を示し;R
5bは、水素原子または炭素数1~12のアルキル基を示し;R
6は、水素原子、ニトロ基、ブロモ基、ヨード基、シアノ基、クロロ基、スルホン酸基、カルボン酸基、フルオロ基、フェニル基、チオール基、アミド基、アミノ基、ヒドロキシ基、炭素数1~12のアルコキシ基、または、炭素数1~12のアルキル基から選択される種を示す。)
【化7】
(式(3)中、R
7は、ヘテロ原子として窒素原子もしくは酸素原子を1つ以上含む5員環複素環残基または6員環複素環残基(前記5員環複素環残基および前記6員環複素環残基は他の環状構造と縮合環構造を形成してもよい)を示す。)
【0039】
上記式(2)に示す構成単位は、ケイ皮酸エステル残基単位である。上記式(2)においてR4で示される炭素数1~12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、イソプロピル基、n-プロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、イソブチル基、エチルヘキシル基が挙げられる。上記式(2)のR4のなかでは、好ましくは、炭素数1~4のアルキル基が挙げられ、より好ましくは、エチル基、イソブチル基が挙げられる。
上記式(2)のR5aのなかでは、好ましくは、炭素数1~12のアルキル基、シアノ基が挙げられ、より好ましくは、炭素数1~4のアルキル基、シアノ基が挙げられ、さらに好ましくはシアノ基が挙げられる。
上記式(2)のR5bのなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~4のアルキル基が挙げられる。
上記式(2)のR6は、ベンゼン環に1つのみ結合してもよく、ベンゼン環に2つ以上結合してもよい。上記式(2)のR6のなかでは、好ましくは、カルボン酸基、ヒドロキシ基が挙げられる。
【0040】
上記式(2)に示す構成単位(ケイ皮酸エステル残基単位)の具体例としては、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-プロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソプロピル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸n-ブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸s-ブチル残基単位、α-シアノ-2,4-ジヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位などのα-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-4-カルボキシケイ皮酸エチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2,3-ジカルボキシケイ皮酸エチル残基単位などのα-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位;α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸メチル残基単位、α-シアノ-2-カルボキシ-3-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位などのα-シアノ-カルボキシ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位;3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの2-シアノ-3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位;2-シアノ-3-メチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸メチル残基単位、2-シアノ-3-エチル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エチル残基単位などの2-シアノ-3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0041】
エステル系樹脂は、上記式(2)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。上記式(2)に示す構成単位のなかでは、好ましくは、α-シアノ-ヒドロキシケイ皮酸エステル残基単位、α-シアノ-カルボキシケイ皮酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(ヒドロキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位、3-アルキル-3-(カルボキシフェニル)-プロパ-2-エン酸エステル残基単位が挙げられる。
【0042】
エステル系樹脂における上記式(2)の構成単位の含有割合は、例えば21モル%以上であり、例えば70モル%以下、好ましくは60モル%以下、より好ましくは49モル%以下である。エステル系樹脂における各構成単位の含有割合は、例えば、1H-NMRにより測定できる。
【0043】
上記式(3)においてR7で示される環構造の具体例としては、1-ビニルピロール残基単位、2-ビニルピロール残基単位、1-ビニルインドール残基単位、9-ビニルカルバゾール残基単位、2-ビニルキノリン残基単位、4-ビニルキノリン残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位、N-ビニルスクシンイミド残基単位、2-ビニルフラン残基単位、2-ビニルベンゾフラン残基単位が挙げられ、好ましくは、9-ビニルカルバゾール残基単位、N-ビニルフタルイミド残基単位が挙げられる。
【0044】
エステル系樹脂は、上記式(3)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
エステル系樹脂における上記式(3)の構成単位の含有割合は、例えば21モル%以上、好ましくは35モル%以上であり、例えば70モル%以下、好ましくは60モル%以下である。
【0045】
エステル系樹脂は、好ましくは、上記(2)および(3)に示す構成単位に加えて、下記式(4)に示す構成単位をさらに有する。
【化8】
(式(4)中、R
8およびR
9のそれぞれは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または、炭素数3~6の環状アルキル基から選択される1種を示す)。
上記式(4)において、R
8およびR
9で示される炭素数1~12の直鎖状アルキル基として、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、n-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などが挙げられる。
上記式(4)において、R
8およびR
9で示される炭素数3~12の分岐状アルキル基として、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられる。
上記式(4)において、R
8およびR
9で示される炭素数3~6の環状アルキル基として、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
上記式(4)においてR
8およびR
9は、互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
上記式(4)におけるR
8のなかでは、好ましくは、水素原子、炭素数1~12の直鎖状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、水素原子、メチル基が挙げられる。
上記式(4)におけるR
9のなかでは、好ましくは、炭素数3~12の分岐状アルキル基が挙げられ、より好ましくは、炭素数3~8の分岐状アルキル基が挙げられる。
【0046】
上記式(4)に示す構成単位は、代表的にはアクリル樹脂残基単位である。上記式(4)に示す構成単位の具体例として、アクリル酸残基単位、メタクリル酸残基単位、2-エチルアクリル酸残基単位、2-プロピルアクリル酸残基単位、2-イソプロピルアクリル酸残基単位、2-ペンチルアクリル酸残基単位、2-ヘキシルアクリル酸残基単位、アクリル酸メチル残基単位、アクリル酸エチル残基単位、アクリル酸n-プロピル残基単位、アクリル酸イソプロピル残基単位、アクリル酸n-ブチル残基単位、アクリル酸イソブチル残基単位、アクリル酸sec-ブチル残基単位、アクリル酸n-ペンチル残基単位、アクリル酸イソペンチル残基単位、アクリル酸sec-ペンチル残基単位、アクリル酸3-ペンチル残基単位、アクリル酸ネオペンチル残基単位、アクリル酸n-へキシル残基単位、アクリル酸イソへキシル残基単位、アクリル酸ネオへキシル残基単位、メタクリル酸メチル残基単位、メタクリル酸エチル残基単位、メタクリル酸n-プロピル残基単位、メタクリル酸イソプロピル残基単位、メタクリル酸n-ブチル残基単位、メタクリル酸イソブチル残基単位、メタクリル酸sec-ブチル残基単位、メタクリル酸n-ペンチル残基単位、メタクリル酸イソペンチル残基単位、メタクリル酸sec-ペンチル残基単位、メタクリル酸3-ペンチル残基単位、メタクリル酸ネオペンチル残基単位、メタクリル酸n-へキシル残基単位、メタクリル酸イソへキシル残基単位、メタクリル酸ネオへキシル残基単位、2-エチルアクリル酸メチル残基単位、2-エチルアクリル酸エチル残基単位、2-エチルアクリル酸n-プロピル残基単位、2-エチルアクリル酸イソプロピル残基単位、2-エチルアクリル酸n-ブチル残基単位、2-エチルアクリル酸イソブチル残基単位、2-エチルアクリル酸sec-ブチル残基単位などが挙げられ、好ましくはアクリル酸イソブチル残基単位が挙げられる。
【0047】
エステル系樹脂は、上記式(4)に示す構成単位を、1種のみ含んでいてもよく、2種以上含んでいてもよい。
エステル系樹脂における上記式(4)の構成単位の含有割合は、例えば0モル%以上、好ましくは1モル%以上であり、例えば30モル%以下である。
【0048】
エステル系樹脂は、上記式(2)から(4)以外の単量体残基単位を含有してもよい。そのような単量体残基単位としては、例えば、スチレン残基、α-メチルスチレン残基などのスチレン類残基;ビニルナフタレン残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基などのビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基などのビニルエーテル残基;N-メチルマレイミド残基、N-シクロヘキシルマレイミド残基、N-フェニルマレイミド残基などのN-置換マレイミド残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;フマル酸エステル残基;フマル酸残基;エチレン残基、プロピレン残基などのオレフィン類残基が挙げられる。
【0049】
エステル系樹脂の標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は、例えば、1×103以上5×106以下、好ましく、5×103以上3×105以下である。エステル系樹脂のMnは、ゲル・パ-ミエイション・クロマトグラフィ-(GPC)により測定した溶出曲線より算出できる。エステル系樹脂のMnが上記の範囲であれば、位相差層の機械特性および/または成形加工性の向上を図ることができる。
【0050】
エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、例えば220℃以下、好ましくは210℃以下であり、例えば180℃以上、好ましくは190℃以上である。エステル系樹脂のガラス転移温度(Tg)は、DSC(Differential Scanning Calorimetry)等の熱分析装置によって測定できる。
【0051】
このようなエステル系樹脂の具体例としては、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-アクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-2-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-3-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-スチレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-2-ビニルナフタレン-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-1-ビニルインドール-メタクリル酸エステル共重合体、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エステル-9-ビニルカルバゾール-メタクリル酸エステル共重合体が挙げられる。
【0052】
C-3.その他の添加剤
位相差層20は、上記した樹脂成分に加えて、添加剤を任意の適切な割合で含有してもよい。添加剤として、例えば、ヒンダ-ドフェノ-ル系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、ラクトン系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、ヒドロキシルアミン系酸化防止剤、ビタミンE系酸化防止剤、その他酸化防止剤などの酸化防止剤;ヒンダ-ドアミン系光安定剤;ベンゾトリアゾ-ル、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエ-トなどの紫外線吸収剤;界面活性剤;高分子電解質;導電性錯体;顔料;染料;帯電防止剤;アンチブロッキング剤;滑剤が挙げられる。
【0053】
C-4.位相差層の製造方法
次に、位相差層の製造方法の1つの実施形態について説明する。
1つの実施形態において、位相差層の製造方法は、上記セルロース系樹脂および上記エステル系樹脂を溶媒に溶解して、樹脂溶液を調製する工程と;該樹脂溶液を基材上に塗工する工程と;基材上の塗膜を加熱して樹脂フィルムを調製する工程と;樹脂フィルムを延伸する工程と;樹脂フィルムを延伸方向に熱収縮させる工程と;を含んでいる。
【0054】
まず、上記セルロース系樹脂および上記エステル系樹脂を、A項で説明したセルロース系樹脂の含有割合となるように、溶媒に溶解する。
溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタン、テトラクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;フェノール、クロロフェノールなどのフェノール類;ベンゼン、トルエン、キシレン、メトキシベンゼン、メシチレン、ジメトキシベンゼンなどの芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、シクロペンタノン(CPN)、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドンなどのケトン系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶媒;ブタノール、t-ブチルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、2-メチル-2,4-ペンタンジオールなどのアルコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒;アセトニトリル、ブチロニトリルなどのニトリル系溶媒;1,3-ジオキソラン、シクロペンチルメチルエーテル(CPME)、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート(PGMEA)、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;二硫化炭素、エチルセロソルブ、ブチルセルソルブ、および、これらの混合溶媒が挙げられる。
【0055】
溶媒のなかでは、好ましくは混合溶媒が挙げられる。混合溶媒の組み合わせとしては、エステル系溶媒/芳香族炭化水素類、エーテル系溶媒/芳香族炭化水素類、エステル系溶媒/エーテル系溶媒、エステル系溶媒/アルコール系溶媒、エステル系溶媒/ケトン系溶媒、2種のエーテル系溶媒、2種のエステル系溶媒が挙げられる。
【0056】
セルロース系樹脂と溶媒とのハンセン溶解度パラメータ距離(以下、HSP距離*セルロース系と称する場合がある。)は、例えば12.00以下、好ましくは11.30以下、より好ましくは11.20以下である。HSP距離*セルロース系が上記上限以下であれば、位相差層における延伸配向性の向上を図ることができる。HSP距離*セルロース系は、例えば、下記式(I)により算出できる。なお、HSP距離*セルロース系の下限は、代表的には、6.0以上である。
式(I):
HSP距離*セルロース系=[4(δd2-δd1)2+(δp2-δp1)2+(δh2-δh1)2]0.5
(式(I)中、δd1は溶媒の分子間の分散力エネルギーを示し;δd2はセルロース系樹脂の分子間の分散力エネルギーを示し;δp1は溶媒の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δp2はセルロース系樹脂の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δh1は溶媒の分子間の水素結合エネルギーを示し;δh2はセルロース系樹脂の分子間の水素結合エネルギーを示す。)
【0057】
エステル系樹脂と溶媒とのHSP距離(以下、HSP距離*エステル系と称する場合がある。)は、例えば6.5以下、好ましくは6.0以下であり、例えば2.0以上である。HSP距離*エステル系は、例えば、下記式(II)により算出できる。
式(II):
HSP距離*エステル系=[4(δd3-δd1)2+(δp3-δp1)2+(δh3-δh1)2]0.5
(式(II)中、δd3はエステル系樹脂の分子間の分散力エネルギーを示し;δp3はエステル系樹脂の分子間の双極子相互作用エネルギーを示し;δh3はエステル系樹脂の分子間の水素結合エネルギーを示し;δd1、δp1およびδh1のそれぞれは、上記式(I)と同様の溶媒の分子間のエネルギーを示す。)
【0058】
(HSP距離*セルロース系-HSP距離*エステル系)2は、例えば60以下、好ましくは55以下、より好ましくは50以下、さらに好ましくは45以下、とりわけ好ましくは30以下である。(HSP距離*セルロース系-HSP距離*エステル系)2が上記上限以下であれば、位相差層の逆分散性を安定して確保することができる。(HSP距離*セルロース系-HSP距離*エステル系)2の下限は、例えば10以上である。
【0059】
混合溶媒として、より好ましくは、エステル系溶媒/芳香族炭化水素類が挙げられ、さらに好ましくは、酢酸エチル/トルエンが挙げられ、とりわけ好ましくは酢酸エチル60質量%/トルエン40質量%が挙げられる。溶媒がこのような混合溶媒であると、位相差層において、セルロース系樹脂およびエステル系樹脂がより安定してナノ相分離構造を形成できる。
【0060】
樹脂溶液における固形分濃度は、例えば1質量%以上、好ましくは5質量%以上であり、例えば30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0061】
樹脂溶液は、好ましくは、所定時間撹拌された後に、静置されて脱泡される。
撹拌時間としては、例えば5分以上、好ましくは10分以上であり、例えば3時間以下、好ましくは1時間以下である。脱泡時間(静置時間)としては、例えば、30分以上、好ましくは1時間以上であり、例えば5時間以下、好ましくは3時間以下である。
【0062】
次いで、樹脂溶液を基材(代表的には樹脂フィルム)上に塗工する。塗工方法としては、任意の適切な手段が採用され得る。塗工方法として例えばアプリケータが挙げられる。これによって、基材上に、樹脂溶液の塗膜が形成される。
【0063】
次いで、基材上の塗膜を加熱して樹脂フィルムを調製する。加熱温度は、例えば35℃以上165℃以下であり、加熱時間は1分以上30分以下である。より詳しくは、このような加熱工程は、165℃以下で加熱する一次加熱工程(乾燥工程)と、110℃以上で加熱する二次加熱工程(アニール工程)とを含む。
【0064】
乾燥工程は、1段階で実施されてもよく、多段階で実施されてもよい。乾燥工程は、好ましくは多段階で実施される。乾燥工程が多段階で実施される場合、1段目の乾燥工程の加熱温度を、例えば35℃以上65℃以下、好ましくは45℃以上65℃以下に設定し、1段目の乾燥工程の加熱時間を、例えば1分以上30分以下、好ましくは1分以上8分以下に設定する。その後、乾燥工程の段数が増える毎に、加熱温度を、例えば10℃~130℃、好ましくは10℃~40℃上昇させる。2段目以降の各段の加熱時間は、代表的には、1段目の乾燥工程の加熱時間よりも短く、好ましくは20秒以上20分以下、より好ましくは30秒以上5分以下である。乾燥工程の段数は、好ましくは2段以上4段以下であり、より好ましくは3段以下である。乾燥工程における最高温度は、例えば165℃以下、好ましくは130℃未満、より好ましくは120℃未満、さらに好ましくは115℃以下である。
【0065】
その後、必要に応じて、乾燥工程で加熱された塗膜を、例えば30℃以下、好ましくは室温(23℃)に冷却する。乾燥後の塗膜を一旦冷却すると、上記の乾燥工程により形成されたナノ相分離構造を固定化でき、次のアニール工程においてナノ相分離構造を変えることなく保持し得る。次いで、アニール工程において、塗膜を加熱する。アニール工程の加熱温度は、代表的には乾燥工程の最高温度よりも高い。アニール工程の加熱温度は、例えば110℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、例えば180℃以下、好ましくは165℃以下、より好ましくは150℃以下、さらに好ましくは140℃以下である。アニール工程の加熱時間は、例えば1分以上、好ましくは5分以上、さらに好ましくは15分以上であり、例えば60分以下、好ましくは45分以下である。
【0066】
これによって、基材上に樹脂フィルムが形成される。樹脂フィルムの厚みは、例えば70μm以上200μm以下である。次いで、樹脂フィルムを基材から剥離する。
【0067】
次いで、樹脂フィルムを延伸する。1つの実施形態において、樹脂フィルムを、長手方向に搬送しながら、搬送方向と直交する幅方向に延伸(固定端横延伸)する。樹脂フィルムは、1段階又は2段階以上で延伸されてもよく、特に2段階で延伸されることが好ましい。2段階延伸による位相差層の製造方法は、樹脂フィルムを幅方向に延伸する第1延伸工程と;第1延伸工程後の樹脂フィルムを、第1延伸工程と同じ方向に延伸する第2延伸工程と;を含む製造方法が挙げられる。
樹脂フィルムは、好ましくは、延伸前に予熱される。予熱温度は、樹脂フィルムに含まれる材料のTgに関連して変動し、最も低いTgをもつ材料のTg:(Tg1)に着目して設定される。(Tg1)は、例えば、セルロース系樹脂のTgである。予熱温度は、例えば(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-10℃以上であり、例えば(Tg1)+50℃以下、好ましくは(Tg1)+40℃以下である。
延伸温度も予熱温度と同様であり、例えば、(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-10℃以上であり、例えば(Tg1)+50℃以下、好ましくは(Tg1)+40℃以下である。
延伸速度は、例えば、1mm/秒以上、好ましくは2mm/秒以上であり、例えば200mm/秒以下、好ましくは100mm/秒以下である。延伸倍率(樹脂フィルムが2段階で延伸される場合、第1延伸工程の延伸倍率と第2延伸工程の延伸倍率との積)は、例えば、2.0倍以上、好ましくは2.5倍以上であり、例えば8.0倍以下、好ましくは7.5倍以下である。
【0068】
次いで、延伸した樹脂フィルムを延伸方向に熱収縮させる。熱収縮温度も予熱、延伸温度と同様に(Tg1)に関して設定され、例えば(Tg1)-20℃以上、好ましくは(Tg1)-15℃以上であり、例えば(Tg1)+45℃以下、好ましくは(Tg1)+35℃以下である。熱収縮温度は、より好ましくは延伸温度以下である。収縮率は、代表的には1%以上5%以下である。
以上によって、位相差層20が製造される。
【0069】
D.画像表示装置
上記A項~C項に記載の位相差層付偏光板は、画像表示装置に適用され得る。したがって、本発明の1つの実施形態は、そのような位相差層付偏光板を用いた画像表示装置も包含する。画像表示装置の代表例としては、液晶表示装置、有機EL表示装置が挙げられる。本発明の実施形態による画像表示装置は、画像表示セルと、上記A項~C項に記載の位相差層付偏光板とを備える。代表的には、画像表示装置は、画像表示セルを含む画像表示パネルと、その視認側に配置される上記位相差層付偏光板とを備える。なお、画像表示装置を光学表示装置と称する場合があり、画像表示パネルを光学表示パネルと称する場合があり、画像表示セルを光学表示セルと称する場合がある。
【実施例0070】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によって限定されるものではない。各特性の測定方法は以下の通りである。
【0071】
(1)位相差値の測定
実施例および比較例に用いた位相差層の位相差値について、Axoscan(Axometrics社製)を用いて自動計測した。測定波長は、450nmまたは550nmであり、測定温度は23℃であった。
【0072】
(2)ナノ相分離構造の観察
実施例および比較例に用いた位相差フィルムの厚み方向の中央付近(具体的には、位相差フィルムの厚みを100%としたときに、位相差フィルムの厚み方向の中央から±20%の領域)をサンプリングし、重金属染色を含む超薄切片法により、位相差フィルムの断面をTEM(HT7820,日立社製)により観察した(断面TEM観察)。
分析された写真から目視にて、下記の基準で評価した。
〇:すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm未満。
△:100nm未満のドメインと、100nmを超えるドメインとが混在。
×:すべてのドメインのサイズ(最大長さ)が100nm以上。
【0073】
(3)HAST(High Accelerated Stress Test)試験
実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板を、粘着剤層によってガラス板に貼り付けて、サンプルを準備した。次いで、サンプルを加圧式加湿オーブンに投入し、110℃/85%RHの条件下で36時間保持した後、外観を目視にて下記基準で評価した。
〇:クラックおよび/または剥がれなし。
×:クラックおよび/または剥がれあり。
【0074】
(4)MIT試験
実施例および比較例に用いた位相差フィルム、および、実施例および比較例で得られた位相差層付偏光板のそれぞれに対して、MIT試験を実施した。MIT試験は、JIS P 8115に準拠して行った。具体的には、位相差フィルムおよび位相差層付偏光板のそれぞれを、延伸方向が幅方向(TD方向)、延伸方向と直交する方向が長手方向(MD方向)となるように、長さ15cmおよび幅1.5cmに切り出して、測定試料とした。測定試料をMIT耐折疲労試験機BE-202型(テスター産業社製)に取り付け(荷重1.0kgf、クランプのR:0.38mm)、幅方向(TD方向)および長手方向(MD方向)のそれぞれについて、試験速度90cpmおよび折り曲げ角度90°で繰り返し折り曲げを行い、測定試料が破断した時の折り曲げ回数を試験値とした。試験値を下記基準で評価した。
〇:位相差層付偏光板において、TD方向の試験値が500回以上、MD方向の試験値が300回以上。
×:位相差層付偏光板において、TD方向の試験値が500回未満、および/または、MD方向の試験値が300回未満。
【0075】
<<製造例1;負の複屈折性を示すエステル系樹脂A(9-ビニルカルバゾール/α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル/アクリル酸イソブチル)の合成>>
容量50mLのガラスアンプルに9-ビニルカルバゾール12.20g、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル7.74g、アクリル酸イソブチル4.05g、重合開始剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン0.453gおよびメチルエチルケトン36.00gを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを54℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン100gを加え、このポリマー溶液を800gのメタノール/水混合溶剤(質量比80/20)中に滴下して析出させ、ろ過した後、ろ過物を110gのメタノール/水混合溶剤(質量比90/10)で5回洗浄、ろ過した。得られた樹脂を80℃で10時間真空乾燥することにより、負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体22.3gを得た。得られた重合体の数平均分子量は50,000であり、残基単位の比率は、9-ビニルカルバゾール残基単位50モル%、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸イソブチル残基単位25モル%、アクリル酸イソブチル残基単位25モル%であった。
【0076】
<<製造例2;エステル系樹脂B(α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル/9-ビニルカルバゾール共重合体)の合成>>
容量50mLのガラスアンプルに、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル5.0gと、9-ビニルカルバゾール4.4gと、重合開始剤である2,5-ジメチル-2,5-ジ(2-エチルヘキサノイルパーオキシ)ヘキサン0.17gと、テトラヒドロフラン8.5gとを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを62℃の恒温槽に入れ、48時間保持することによりラジカル重合を行った。重合反応終了後、アンプルから重合物を取り出し、テトラヒドロフラン25gで溶解させた。このポリマー溶液を500mLのメタノール中に滴下して析出させた後、60℃で10時間真空乾燥することにより、負の複屈折性を示すケイ皮酸エステル共重合体(エステル系樹脂B)7.7gを得た(収率:82%)。得られたケイ皮酸エステル共重合体の数平均分子量は22,000であり、構成単位の比率は9-ビニルカルバゾール残基単位58モル%、α-シアノ-4-ヒドロキシケイ皮酸エチル残基単位42モル%であった。
【0077】
<<製造例3;偏光板の作製>>
熱可塑性樹脂基材として、長尺状で、Tg約75℃である、非晶質のイソフタル共重合ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚み:100μm)を用い、樹脂基材の片面に、コロナ処理を施した。
ポリビニルアルコール(重合度4200、ケン化度99.2モル%)およびアセトアセチル変性PVA(日本合成化学工業社製、商品名「ゴーセファイマー」)を9:1で混合したPVA系樹脂100質量部に、ヨウ化カリウム13質量部を添加したものを水に溶かし、PVA水溶液(塗布液)を調製した。
樹脂基材のコロナ処理面に、上記PVA水溶液を塗布して60℃で乾燥することにより、厚み13μmのPVA系樹脂層を形成し、積層体を作製した。
得られた積層体を、130℃のオーブン内で縦方向(長手方向)に2.4倍に一軸延伸した(空中補助延伸処理)。
次いで、積層体を、液温40℃の不溶化浴(水100質量部に対して、ホウ酸を4質量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(不溶化処理)。
次いで、液温30℃の染色浴(水100質量部に対して、ヨウ素とヨウ化カリウムを1:7の重量比で配合して得られたヨウ素水溶液)に、最終的に得られる偏光子の単体透過率(Ts)が所望の値となるように濃度を調整しながら60秒間浸漬させた(染色処理)。
次いで、液温40℃の架橋浴(水100質量部に対して、ヨウ化カリウムを3質量部配合し、ホウ酸を5質量部配合して得られたホウ酸水溶液)に30秒間浸漬させた(架橋処理)。
その後、積層体を、液温70℃のホウ酸水溶液(ホウ酸濃度4重量%、ヨウ化カリウム濃度5重量%)に浸漬させながら、周速の異なるロール間で縦方向(長手方向)に総延伸倍率が5.5倍となるように一軸延伸を行った(水中延伸処理)。
その後、積層体を液温20℃の洗浄浴(水100質量部に対して、ヨウ化カリウムを4質量部配合して得られた水溶液)に浸漬させた(洗浄処理)。
その後、約90℃に保たれたオーブン中で乾燥しながら、表面温度が約75℃に保たれたSUS製の加熱ロールに接触させた(乾燥収縮処理)。
このようにして、樹脂基材上に厚み約5μmの偏光子を形成し、樹脂基材/偏光子の構成を有する積層体を得た。
得られた積層体の偏光子表面(樹脂基材とは反対側の面)に、保護層としてHC-TACフィルム(厚み20μm)を貼り合わせた。次いで、樹脂基材を剥離し、保護層/偏光子/の構成を有する偏光板を得た。
【0078】
[実施例1および2]
<<位相差フィルムの作製>>
エチルセルロース(ダウ・ケミカル社製、エトセル スタンダード(ETHOCEL standard)100、数平均分子量Mn=58,000、重量平均分子量Mw=180,000、Mw/Mn=3.2、全置換度DS=2.51)と、製造例1で得られたエステル系樹脂Aとを、表1に示す質量割合となるように、酢酸エチル/トルエン=60/40(質量比)の混合溶媒に溶解して、固形分濃度16質量%の樹脂溶液を得た。
次いで、樹脂溶液を、ディスパーミキサーによって30分間撹拌した後、2時間静置して脱泡した。脱泡後の樹脂溶液を、アプリケータにより、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4610)上に、ウェット厚みが約810μmとなるように塗工した。
次いで、塗膜を、オーブンにて、65℃/6分間、85℃/1分間、110℃/2分間の条件で3段乾燥した後、室温(23℃)において60分間静置した。その後、乾燥後の塗膜を、再度オーブンにて、130℃/60分間アニールした。これにより、PETフィルム上に、樹脂フィルムが形成された。
次いで、PETフィルムから樹脂フィルムを剥離した。剥離後の樹脂フィルムを、165℃/1分間の条件で予熱した後、延伸温度155℃、延伸速度2mm/秒の条件で、2.4倍に固定端横延伸した。その後、延伸した樹脂フィルムを、収縮温度155℃で、幅方向に2%収縮させて、厚み46μmの位相差フィルムを得た。位相差フィルムの屈折率特性は、nx>ny>nzを示していた。
位相差フィルムを上記した位相差値の測定およびナノ相分離構造の観察に供した。その結果を表1に示す。
<<位相差層付偏光板の作製>>
次いで、製造例3で得られた偏光板の偏光子に、位相差フィルムを、(メタ)アクリル系の粘着剤により貼り付けた。粘着剤層の厚みは、5μmであった。貼り合わせは、偏光子の吸収軸方向と、位相差フィルムの遅相軸方向とがなす角度が、表1の値となるようにして行った。
その後、位相差フィルムに、(メタ)アクリル系粘着剤を塗布して、粘着剤層を形成した。粘着剤層の厚みは、15μmであった。
以上によって、位相差層付偏光板を得た。位相差層付偏光板を上記したHAST試験に供した。その結果を表1に示す。
【0079】
[実施例3]
製造例1のエステル系樹脂Aを、製造例2のエステル系樹脂Bに変更したこと以外は、実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。また、位相差フィルムを上記した位相差値の測定およびナノ相分離構造の観察に供し、位相差層付偏光板を上記したHAST試験に供した。その結果を表1に示す。
【0080】
[実施例4]
予熱温度を162℃に変更し、延伸温度を162℃に変更し、延伸倍率を3.0倍に変更したこと以外は、実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。なお、位相差フィルムの厚みは、36μmであった。また、位相差フィルムを上記した位相差値の測定、ナノ相分離構造の観察およびMIT試験に供し、位相差層付偏光板を上記したHAST試験およびMIT試験に供した。その結果を表2に示す。
【0081】
[実施例5]
樹脂溶液のウェット膜厚を1050μmに変更したこと以外は、実施例3と同様にして、樹脂フィルム(延伸前)を調製した。次いで、樹脂フィルムを、162℃/1分間の条件で予熱した後、延伸温度162℃、延伸速度2mm/秒の条件で、3.4倍に固定端横延伸し、その後、167℃/1分間の条件で予熱し、延伸温度167℃、延伸速度2mm/秒の条件で、2.1倍に固定端横延伸した。
その後、延伸した樹脂フィルムを、収縮温度155℃で、幅方向に2%収縮させて、厚み20μmの位相差フィルムを得た。得られた位相差フィルムを上記した位相差値の測定、ナノ相分離構造の観察およびMIT試験に供した。
その後、実施例3と同様にして、位相差層付偏光板を調製した。得られた位相差層付偏光板を上記したHAST試験およびMIT試験に供した。その結果を表2に示す。
【0082】
[比較例1]
位相差フィルムを、下記のように作製した位相差フィルムに変更したこと以外は、実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。また、位相差フィルムを上記した位相差値の測定、ナノ相分離構造の観察およびMIT試験に供し、位相差層付偏光板を上記したHAST試験およびMIT試験に供した。その結果を表1および表2に示す。
<<位相差フィルムの作製>>
撹拌翼および100℃に制御された還流冷却器を具備した縦型反応器2器からなるバッチ重合装置に、ビス[9-(2-フェノキシカルボニルエチル)フルオレン-9-イル]メタン29.60質量部(0.046mol)と、イソソルビド(ISB)29.21質量部(0.200mol)と、スピログリコール(SPG)42.28質量部(0.139mol)と、ジフェニルカーボネート(DPC)63.77質量部(0.298mol)と、触媒として酢酸カルシウム1水和物1.19×10-2質量部(6.78×10-5mol)とを仕込んだ。反応器内を減圧窒素置換した後、熱媒で加温を行い、内温が100℃になった時点で撹拌を開始した。昇温開始40分後に内温を220℃に到達させ、この温度を保持するように制御すると同時に減圧を開始し、220℃に到達してから90分で13.3kPaにした。重合反応とともに副生するフェノール蒸気を100℃の還流冷却器に導き、フェノール蒸気中に若干量含まれるモノマー成分を反応器に戻し、凝縮しないフェノール蒸気は45℃の凝縮器に導いて回収した。第1反応器に窒素を導入して一旦大気圧まで復圧させた後、第1反応器内のオリゴマー化された反応液を第2反応器に移した。次いで、第2反応器内の昇温および減圧を開始して、50分で内温240℃、圧力0.2kPaにした。その後、所定の攪拌動力となるまで重合を進行させた。所定動力に到達した時点で反応器に窒素を導入して復圧し、生成したポリエステルカーボネート系樹脂を水中に押し出し、ストランドをカッティングしてペレットを得た。
得られたポリエステルカーボネート系樹脂(ペレット)を80℃で5時間真空乾燥をした後、単軸押出機(東芝機械社製、シリンダー設定温度:250℃)、Tダイ(幅200mm、設定温度:250℃)、チルロール(設定温度:120~130℃)および巻取機を備えたフィルム製膜装置を用いて、厚み130μmの長尺状の樹脂フィルムを作製した。得られた長尺状の樹脂フィルムを、140℃で1.4倍に自由端縦延伸し、厚み110μmの位相差フィルムを得た。
【0083】
[比較例2]
樹脂材料として、製造例1のエステル系樹脂Aを用いずに、エチルセルロースのみを、用いて、位相差フィルムを作製したこと以外は、実施例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。また、位相差フィルムを上記した位相差値の測定およびナノ相分離構造の観察に供し、位相差層付偏光板を上記したHAST試験に供した。その結果を表1に示す。
【0084】
[比較例3]
樹脂材料として、エチルセルロースを用いずに、製造例2のエステル系樹脂Bのみを、用いて、位相差フィルムを作製したこと以外は、実施例3と同様にして位相差層付偏光板を得た。また、位相差フィルムを上記した位相差値の測定およびナノ相分離構造の観察に供し、位相差層付偏光板を上記したHAST試験に供した。その結果を表1に示す。
【0085】
[比較例4]
酢酸エチル/トルエンを6:4で配合した混合溶媒に、エチルセルロースと製造例1で得られたエステル系樹脂Aとを、80:20の質量割合となるように溶解して、固形分濃度16質量%の樹脂溶液を得た。
次いで、樹脂溶液を、ディスパーミキサーによって30分間撹拌した後、2時間静置して脱泡した。脱泡後の樹脂溶液を、アプリケータにより、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4610)上に、ウェット厚みが約810μmとなるように塗工した。
次いで、塗膜を、オーブンにて、40℃/4分間、85℃/4分間、135℃/4分間、155℃/6分間の条件で4段乾燥して、PETフィルム上に、厚み110μmの樹脂フィルムを形成した。
次いで、PETフィルムから樹脂フィルムを剥離した。剥離後の樹脂フィルムを、165℃/1分間の条件で予熱した後、延伸温度155℃、延伸速度2mm/秒の条件で、2.4倍に固定端横延伸した。その後、延伸した樹脂フィルムを、延伸温度と同温(収縮温度155℃)で、幅方向に2%収縮させて、厚み46μmの位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを上記した位相差値の測定およびナノ相分離構造の観察に供した。その結果を表1に示す。比較例4では、上記ナノ相分離構造の観察において得られるTEM断面像では、相分離の各ドメインは100nm以上の大きいものであり、十分な相分離状態が得られていないことがわかった。
<<位相差層付偏光板の作製>>
次いで、製造例3で得られた偏光板の偏光子に、位相差フィルムを、(メタ)アクリル系の粘着剤により貼り付けた。粘着剤層の厚みは、5μmであった。貼り合わせは、偏光子の吸収軸方向と、位相差フィルムの遅相軸方向とがなす角度が、表1の値となるようにして行った。
その後、位相差フィルムに、(メタ)アクリル系粘着剤を塗布して、粘着剤層を形成した。粘着剤層の厚みは、15μmであった。
以上によって、位相差層付偏光板を得た。位相差層付偏光板を上記したHAST試験に供した。その結果を表1に示す。比較例4の位相差層付偏光板は、HAST試験後にクラックが生じていた。
【0086】
[比較例5]
酢酸エチル/トルエンを6:4で配合した混合溶媒に、エチルセルロースと製造例1で得られたエステル系樹脂Aとを、80:20の質量割合となるように溶解して、固形分濃度16質量%の樹脂溶液を得た。
次いで、樹脂溶液を、ディスパーミキサーによって30分間撹拌した後、2時間静置して脱泡した。脱泡後の樹脂溶液を、アプリケータにより、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東洋紡社製、コスモシャインA4610)上に、ウェット厚みが約810μmとなるように塗工した。
次いで、塗膜を、オーブンにて、40℃/10分間、85℃/4分間、135℃/4分間、155℃/10分間の条件で4段乾燥して、PETフィルム上に、厚み110μmの樹脂フィルムを形成した。
次いで、PETフィルムから樹脂フィルムを剥離した。剥離後の樹脂フィルムを、165℃/1分間の条件で予熱した後、延伸温度155℃、延伸速度2mm/秒の条件で、2.4倍に固定端横延伸した。その後、延伸した樹脂フィルムを、延伸温度と同温(収縮温度155℃)で、幅方向に2%収縮させて、厚み46μmの位相差フィルムを得た。この位相差フィルムを上記した位相差値の測定およびナノ相分離構造の観察に供した。その結果を表1に示す。比較例5では、λ/4板として十分な特性が確保できなかった。上記ナノ相分離構造の観察において得られるTEM断面像では、相分離の各ドメインは100nm前後であり、100nm未満のドメインと、100nmを超えるドメインとが混在していた。そのため、好適なナノ相分離構造が形成されていないことがわかった。
<<位相差層付偏光板の作製>>
次いで、製造例3で得られた偏光板の偏光子に、位相差フィルムを、(メタ)アクリル系の粘着剤により貼り付けた。粘着剤層の厚みは、5μmであった。貼り合わせは、偏光子の吸収軸方向と、位相差フィルムの遅相軸方向とがなす角度が、表1の値となるようにして行った。
その後、位相差フィルムに、(メタ)アクリル系粘着剤を塗布して、粘着剤層を形成した。粘着剤層の厚みは、15μmであった。
以上によって、位相差層付偏光板を得た。比較例5の位相差層付偏光板は、円偏光板として十分な特性が得られていないため、通常はHAST試験を実施しないが、念のため上記したHAST試験に供した。その結果を表1に示す。比較例5の位相差層付偏光板は、HAST試験後の外観に問題はなかった。
【0087】
[比較例6]
延伸後のフィルム膜厚が異なること以外は、比較例1と同様にして位相差層付偏光板を得た。なお、位相差フィルムの厚みは、37μmであった。また、位相差フィルムを上記した位相差値の測定、ナノ相分離構造の観察およびMIT試験に供し、位相差層付偏光板を上記したHAST試験およびMIT試験に供した。その結果を表2に示す。
【0088】
[比較例7]
<<位相差フィルムの作製>>
ネマチック液晶相を示す重合性液晶(BASF社製:商品名「Paliocolor LC242」、下記式で表される)10gと、当該重合性液晶化合物に対する光重合開始剤(BASF社製:商品名「イルガキュア907」)3gとを、トルエン40gに溶解して、液晶組成物(塗工液)を調製した。
【化9】
ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(厚み38μm)表面を、ラビング布を用いてラビングし、配向処理を施した。配向処理の方向は、偏光板に貼り合わせる際に偏光子の吸収軸の方向に対して視認側から見て15°方向となるようにした。この配向処理表面に、上記液晶塗工液をバーコーターにより塗工し、90℃で2分間加熱乾燥することによって液晶化合物を配向させた。このようにして形成された液晶層に、メタルハライドランプを用いて1mJ/cm
2の光を照射し、当該液晶層を硬化させることによって、PETフィルム上に液晶配向固化層を形成した。液晶配向固化層は、nx>ny=nzの屈折率特性を有していた。液晶配向固化層の厚みは1μm、面内位相差Re(550)は140nmであった。液晶配向固化層を位相差フィルムとし、その位相差フィルムを、位相差値の測定、ナノ相分離構造の観察およびMIT試験に供した。その結果を表2に示す。
<<位相差層付偏光板の作製>>
次いで、製造例3で得られた偏光板の偏光子に、位相差フィルムを、(メタ)アクリル系の粘着剤により貼り付けた。粘着剤層の厚みは、5μmであった。貼り合わせは、偏光子の吸収軸方向と、位相差フィルムの遅相軸方向とがなす角度が45°となるようにして行った。
その後、位相差フィルムに、(メタ)アクリル系粘着剤を塗布して、粘着剤層を形成した。粘着剤層の厚みは、15μmであった。
以上によって、位相差層付偏光板を得た。位相差層付偏光板を上記したHAST試験およびMIT試験に供した。その結果を表2に示す。
【0089】
【0090】
【0091】
[評価]
表1および表2から明らかなように、位相差層がセルロース系樹脂およびエステル系樹脂を含み、それらが好適なナノ相分離構造を構成していると、位相差層の逆分散特性を維持できながら、高温高湿環境下での外観不良の発生が抑制された位相差層付偏光板を実現できることがわかる。さらに、位相差層(位相差フィルム)にナノ相分離構造が形成されていると、位相差フィルムおよび位相差層付偏光板において、延伸方向(MD方向)、および、延伸方向と直交する方向(TD方向)における屈曲性を向上できることがわかる。